説明

飲料および飲料の製造方法

【課題】高価な容器を必要とせずに、高温殺菌のための再加熱や、長期保管による品質劣化を防止できる飲料と、該飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄濃度100ppb以下の水が、飲料の抽出または希釈に用いられていることからなり、さらにカルシウムイオン濃度が500ppb以下であることが好ましい。また、飲料中の溶存水素が0.1ppm以上であることが好ましく、溶存酸素が1ppm以下であることがさらに好ましく、ビタミンCの含有量が10〜300ppmであることが好ましい。鉄濃度を100ppb以下に除鉄した水を用いた飲料の製造方法であって、除鉄された水が接触する接液部には、鉄溶出防止処理が施されていることからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飲料および飲料の製造方法であって、さらに詳細には、褐変を防止して、優れた外観と、優れた風香味とを長期間保持する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料中の成分が酸化されることにより、飲料の色調劣化(褐変等)や、風香味の劣化が引き起こされることが知られている。この劣化は、経時的に進行する他、加熱によって著しく進行する。PET(ポリエチレンテレフタレート)製のボトルや、缶等の密封容器に充填されて、常温で流通される飲料においては、抽出時等に加熱される他、高温殺菌が行われるため、褐変や風香味の劣化が著しい。特に、不発酵茶ではその製法上、酸化を抑制して製造されるため、抽出液として保管した場合や、高温殺菌による再加熱時に酸化を受けやすく、褐変、風香味の劣化が著しい。その他の茶抽出成分含有飲料等においても、カテキン等の抽出成分が加熱や保管中に酸化されて、外観、風香味が損なわれる。
飲料の保管中における酸化、褐変、風香味劣化を防止する方法としては、飲料の容器にガスバリア性や酸素除去能を持たせて、酸化進行の原因となる大気中の酸素の、容器内への進入を防止する方法がある。飲料の流通で一般的に使用されている容器に、PETボトルがある。酸化による影響を受けやすい飲料では、ガスバリア性の乏しいPETに、ガスバリア性に優れた素材をコーティングすることが行われている。コーティングに用いる素材としては、メタキシレンジアミンとエピクロルヒドリンとを反応させたエポキシ化合物と、アミンとの2成分系熱硬化型樹脂、10〜20nm程度のシリカ(SiO)やアルミナ(Al)、100nm程度のアモルファスカーボンや、ダイヤモンドライクカーボン、EVOH(エチレン−ビニルアルコール)共重合体、MXD6ナイロン(メタキシリレンジアミンとアジピン酸とから得られる結晶性の熱可塑性樹脂)等が挙げられる。また、自身が酸素と反応してボトル内への酸素の侵入を防ぐ物質、例えば還元鉄系の酸素吸収剤や、ナフテン酸コバルト等のコバルト塩をはじめとする遷移金属塩、ポリブタジエンやポリイソプレン等の共役2重結合を持つモノマーの重合体、および他種モノマーとの共重合体等をPETにコーティングしたり、これらの酸素反応物質をPETや、PETにコーティングするMXD6ナイロン等にブレンドする方法、およびこれらを組み合わせた複合法が広く行われている。
【0003】
また、飲料の酸化、褐変、風香味劣化を防止する別の方法としては、飲料に200〜500ppm程度のビタミンC(アスコルビン酸)を還元剤として添加する方法があり、上述のガスバリア性ボトルによる酸化防止方法と組み合わせる等して用いられている(例えば、特許文献1)。
さらにこれらの酸化防止法に加えて、近年、抽出からボトル充填までの、いずれかの工程における溶存ガスコントロールを主な手段とする、飲料の酸化防止方法が開示されている。例えば、特許文献2には、茶葉→抽出→固液分離→抽出液→窒素ガスバブリング→脱酸素抽出液→ろ過→高圧処理(脱酸素条件下)→ろ過(又は遠心分離)→調合液→殺菌→PETボトル充填の工程の少なくとも1つを脱酸素条件下(二酸化炭素、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス条件下、あるいは脱気、またはこれらの組み合わせ)で実施し、かつ少なくとも1の工程で高圧処理することによって、茶飲料の酸化防止、オリの発生を防止する方法が報告されている。また、特許文献3では、−180 ℃〜90 ℃の水素ガスを0.1気圧〜500気圧で溶解せしめ、その後常圧に戻すことにより還元性の茶を得る方法が報告されている。特許文献4には、水素分子を溶存させた被処理水と、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウムおよび白金から選ばれる、少なくとも1つの金属元素を含む触媒との接触作用により生成する水素原子を用い、被処理水中に含まれる活性酸素を除去することにより飲料水等の酸化防止を行う方法が開示されている。さらに、特許文献5には、前記特許文献4の方法において、水素分子供給源および被処理水と触媒との接触手段として、前記金属類を含む陰極を配設した電解槽に被処理水を通水する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−198531号公報
【特許文献2】特開2003−284494号公報
【特許文献3】特開2004−329188号公報
【特許文献4】特開2005−296939号公報
【特許文献5】特開2005−323561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでの飲料の酸化劣化防止方法には、以下に示す問題があった。
すなわち、PETボトル等の飲料の容器に、数ヶ月程度の長期保管に耐えうるに十分なガスバリア性と酸素除去能を付与するためには、多種類の材質の効果を複合させる必要があり、最近行われている5層コーティング等では、容器のコストが嵩む。容器コストの削減のために、コーティング層を少なくした場合には、長期保管に対する酸化防止能が充分とは言えない。また、この方法は飲料の保管時の酸化を防止するが、飲料製造工程中の高温殺菌による再加熱時の褐変には効果がない。
飲料に300〜500ppm程度のビタミンCを還元剤として添加する方法では、特に茶飲料のような飲料では、ビタミンC添加による茶抽出成分含有飲料の味、風香味の変化が避けられない。
さらに、溶存ガスコントロールを主な手段とする酸化防止方法では、工程が複雑となって、飲料の製造コストが嵩む。
本発明は、高価な容器を必要とせずに、高温殺菌のための再加熱や、長期保管による品質劣化を防止できる飲料と、該飲料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の問題を鑑みて、本発明者らは鋭意検討を行った結果、飲料の製造工程で用いられる水中の鉄やカルシウムの存在が、飲料中の成分の酸化を著しく促進していることを見い出して、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明の飲料は、鉄濃度100ppb以下の水が、抽出または希釈に用いられていることを特徴とし、カルシウムイオン濃度が500ppb以下であることが好ましい。さらに、溶存水素が0.1ppm以上であることが好ましく、溶存酸素が1ppm以下であることがさらに好ましく、ビタミンCの含有量が10〜300ppmであることが好ましい。そして、前記飲料は、茶抽出成分を含有するものであることが好ましい。
【0007】
本発明の飲料の製造方法は、鉄濃度を100ppb以下に除鉄した水を用いた飲料の製造方法であって、除鉄された水が接触する接液部には、鉄溶出防止処理が施されていることを特徴とし、前記除鉄された水を直ちに、抽出または希釈に用いることが好ましい。
前記鉄溶出防止処理は、前記接液部を非鉄金属または有機系材質で形成しても良く、前記接液部を非鉄物質で被覆しても良く、前記接液部を研磨されていない、鉄を含む部材で形成しても良い。
本発明の飲料の製造方法は、カルシウムイオンを除去する工程を有することが好ましく、水素を添加する工程を有することが好ましく、溶存酸素を除去する工程を有することが好ましい。そして、本発明の飲料の製造方法は、茶抽出成分を含有する飲料に適用することが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高価な容器を必要とせずに、高温殺菌のための再加熱や、長期保管による品質劣化を防止できる飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(飲料)
本発明の飲料は、鉄濃度100ppb以下の水が、抽出または希釈に用いられている飲料である。
本発明における飲料とは、茶抽出物含有飲料、果汁飲料、清涼飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料等、還元性成分を含む飲料、ならびにその中間品の全てを言う。中間品とは、飲料を製造する過程の各段階で得られるものであって、原水である食品用水以外のものを全て含む。本発明の飲料は、茶抽出物含有飲料であることが好ましい。茶抽出物含有飲料には、カテキンをはじめとして、酸化による品質劣化が著しい物質が含まれ、かつ、その影響が飲料の外観等に顕著に現れやすいためである。
茶抽出物含有飲料とは、煎茶、番茶、ほうじ茶、玉露、かぶせ茶、抹茶、玉緑茶、中国緑茶等の不発酵茶(緑茶)、ウーロン茶、包種茶等の半発酵茶、紅茶、中国黒茶、碁石茶、阿波番茶等の発酵茶、および前記各種茶と穀物、雑穀、その他原料からの抽出物と混合して得られる飲料、さらには茶抽出液、または茶抽出液から得られるカテキン類等の単独、または複数の抽出成分を添加して得られるスポーツドリンク等の清涼飲料水等の飲料類を総称する。
【0010】
本発明における抽出水、抽出液希釈水(以下、抽出水等ということがある)とは、最終製品に残留し得る水、温水の一切を含む。例えば、茶葉→抽出→固液分離→抽出液→ろ過→希釈→殺菌→PETボトル充填に例示されるような茶抽出成分含有飲料製造工程において、抽出に用いられる水、希釈に用いられる温水等が挙げられる。
【0011】
<鉄>
本発明における鉄とは、2価、3価のイオン状鉄、金属鉄、各種酸化鉄や各種水酸化鉄等よりなるコロイド状鉄、または各種有機物等と共有結合、または錯形成してなる有機鉄等、水中での全ての存在形態の鉄を含む。抽出水等中の鉄濃度は、100ppb以下であり、より好ましくは10ppb以下である。抽出水等中の鉄濃度が、100ppbを超えていると、飲料中の成分に対する酸化が促進され、飲料に、褐変や風香味劣化等の品質劣化が生じるためである。また、鉄濃度100ppb以下とするのは、抽出水または抽出液希釈水の一方であっても良いし、両方であっても良い。
【0012】
<カルシウムイオン>
前記抽出水等中のカルシウムイオン濃度は、500ppb以下であることが好ましく、100ppb以下であることがさらに好ましい。抽出水等中のカルシウムイオン濃度が、500ppb以下であれば、飲料の褐変防止、風香味劣化防止の効果向上が図れるためである。また、抽出水および抽出液希釈水の両方が、カルシウムイオン濃度500ppb以下であることが好ましい。
【0013】
<溶存水素>
前記抽出水等中の溶存水素は、0.1ppm以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましい。抽出水等中の溶存水素が0.1ppm以上であれば、飲料の褐変防止、風香味劣化防止の効果向上が図れるためである。
また、溶存水素が0.1ppm以上の抽出水等を用いる工程は、特に限定されず、飲料の製造工程の一部であっても良く、または製造工程の全てであっても良い。飲料中の溶存水素濃度は、容器充填時において前記溶存水素濃度であることが好ましい。
【0014】
<溶存酸素>
前記抽出水等中の溶存酸素は、1ppm以下であることが好ましく、0.1ppm以下であることがより好ましい。抽出水、抽出液希釈水中の溶存酸素が1ppm以下であれば、飲料の褐変防止、風香味劣化防止の効果向上が図れるためである。
また、溶存酸素が1ppm以下の抽出水等を用いる工程は、特に限定されず、飲料の製造工程の一部であっても良く、または製造工程の全てであっても良い。飲料中の溶存水素濃度は、容器充填時において前記溶存酸素濃度であることが好ましい。
【0015】
<ビタミンC>
飲料中のビタミンCの含有量は、10〜300ppmであることが好ましく、10〜50ppmであることがさらに好ましい。飲料中のビタミンC含有量が10ppm未満であると、飲料の褐変防止、風香味劣化防止の効果向上が図れず、300ppmを超えると飲料の風香味への影響が大きいためである。
【0016】
本発明の飲料は、鉄含有量100ppb以下の水が、抽出水等として用いられることにより、製造工程中の抽出液の保管や高温殺菌中の、飲料成分の酸化に起因する褐変等品質劣化が防止される。また、本発明の飲料は、飲料製品の流通・保管中における、前記褐変等品質劣化が防止される。さらに、抽出水、抽出液希釈水のカルシウムイオン濃度を500ppb以下にすることで、前記褐変等品質劣化の防止効果が向上する。加えて、飲料中の溶存水素濃度を0.1ppm以上とすることで、飲料中の活性酸素を除去することができる。この結果、飲料の褐変等品質劣化の防止効果をさらに向上させることができる。飲料中の溶存酸素濃度を1ppm以下とすることで、前記褐変等品質劣化の防止効果を向上させることができる。また、飲料へのビタミンCの添加量は、少量であっても飲料中成分の酸化防止効果向上が図れるため、ビタミンCの添加による飲料の風香味の変化を大幅に軽減することができる。
本発明の飲料は、前述のガスバリア性や酸素除去能を有するボトルに充填されることで、水素濃度・酸素濃度を長期間保持され、その結果、褐変等品質劣化をより長期間防止することができる。
そして、上記の効果は、茶抽出物含有飲料において、顕著に現れる。
【0017】
(製造方法)
<除鉄方法>
抽出水等の原水となる、通常の水道水、地下水等には、0.1〜2ppm程度の鉄が含まれている。本発明における除鉄とは、水道水や地下水等を鉄濃度100ppb以下の抽出水等に調製する(除鉄工程)ことを言う。
本発明における除鉄方法は、前記原水中の鉄濃度を100ppb以下、好ましくは10ppb以下に低減できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリ塩化アルミニウムや硫酸バンド、高分子凝集助剤を添加して水中の懸濁物質を除去する凝集沈殿法や、活性炭(粉炭、粒状炭等)、アンスラサイト、砂、石等の単独または複合充填層に通水するろ過法、または、曝気または塩素等の酸化剤によって水中の鉄を酸化鉄として凝集沈殿ろ過やろ過を行う除鉄法、ろ過精度0.01〜10μm程度のプリーツ型や中空糸型のマイクロフィルターに通水する精密ろ過法、およびこれらを適宜組み合わせた方法を例示することができる。さらに安定して、抽出水等の鉄濃度を100ppb以下とするには、イオン交換樹脂や逆浸透膜に通水する高度な浄水法を用いることが好ましい。
【0018】
また、除鉄は、飲料の製造工程中のいずれの段階で行っても良く、抽出水または抽出液希釈水として使用される時点で、鉄濃度が100ppm以下となっていれば良い。
例えば、飲料製造に使用される用水の全てについて除鉄を行って貯水した後、各製造工程に供給しても良いし、抽出水または抽出液希釈水として使用する工程(以下、ユースポイントという)の直前に除鉄工程を設けても良く、これらを組み合わせても良い。より確実に所定の鉄濃度とするためには、除鉄後直ちに抽出水または抽出液希釈水として使用できるように、ユースポイント直前に、除鉄工程を設けることが好ましい。かかる対応により、塔槽類、配管類、ポンプのケーシングやインペラ、バルブ等の基材から、抽出水等に鉄が溶出した場合でも、使用直前に、抽出水等中の鉄濃度を所定の濃度に調製できるためである。
【0019】
抽出水または抽出液希釈水のユースポイント直前で除鉄する方法は、特に限定されないが、精密ろ過、限外ろ過、イオン交換等により除鉄することが好ましい。
前述の凝集沈殿法、ろ過法等による除鉄方法では、タンク等への一時的な貯蔵が発生する。このため、タンク等からの鉄等の金属、その他の物質の溶出や、蓄積が懸念されるためである。
精密ろ過としては、セルロース、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ナイロン等の高分子多孔質体よりなる、ろ過精度0.01〜10μm程度のプリーツ型や中空糸型等のマイクロフィルター、セラミック焼結体やガラス繊維等の無機膜への通水によるろ過等を例示することができる。
【0020】
限外ろ過としては、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド等の分画分子量3000〜100万程度の限外ろ過膜よりなる、中空糸型、チューブラー型、プリーツ型等の限外ろ過モジュールへの通水を例示することが出来る。
【0021】
イオン交換による除鉄方法としては、H形の強酸性陽イオン交換樹脂充填層や、キレート樹脂充填層への通水を例示することができる。原水中に鉄錯体等が形成され、該錯体が負電荷を帯びる場合等には、樹脂充填層は、前記強酸性陽イオン交換樹脂に代えて、強酸性陽イオン交換樹脂やキレート樹脂に、強塩基性陰イオン交換樹脂を混合したものを用いることが好ましい。また、イオン交換による除鉄方法は、前記強酸性陽イオン交換樹脂の上流側あるいは下流側へ、強塩基性陰イオン交換樹脂を積層した充填層を用いたり、強酸性陽イオン交換樹脂充填層と、強塩基性陰イオン交換樹脂充填層とを、直列に通水して行っても良い。
また、別のイオン交換の例としては、イオン吸着膜を充填したイオン吸着モジュールへの通水を例示することができる。イオン吸着膜は、特に限定されないが、例えばオレフィン系多孔性膜や多孔質焼結体に、ラジカル重合や放射線重合によりイオン交換基等を導入したアニオン吸着膜、カチオン吸着膜、キレート膜等が挙げられる。アニオン吸着膜としては、例えば、4級アミン基をアニオン交換基として持つ多孔膜や、焼結多孔体が挙げられる。カチオン吸着膜としては、例えば、スルホン基、りん酸基またはカルボキシル基等をカチオン交換基として持つ多孔膜や焼結多孔体が挙げられる。キレート膜としては、水中の金属イオンと、キレートを形成することができるエチレンジアミン等を持つ多孔膜や、焼結多孔体が挙げられる。イオン吸着膜の形状は、特に限定されることはなく、中空糸状、平膜状、プリーツ状、チューブ状、繊維状等が挙げられる。
【0022】
なお、飲料の製造工程では、80℃以上の熱水殺菌が繰り返して行われることを考慮すると、ユースポイント直前での除鉄処理は、上述の除鉄処理の中でも、耐熱性に優れるフッ素樹脂膜や無機膜を用いた精密ろ過を用いることが好ましい。
【0023】
<鉄溶出防止処理>
飲料の製造工程において、抽出水等は、貯水タンクに貯留され、配管をポンプ圧送されて、所定の工程を行う塔槽類に供給される。前記塔槽類や配管、ポンプ等製造機器において、抽出水等が接触する接液部の材質に鉄が含まれる場合、抽出水等が加温、貯留、移送される間に、前記接液部から鉄が溶出し、抽出水等の鉄濃度が増加する場合がある。特に飲料製造等の食品工場では、滅菌処理を容易にするため、内面を研磨したサニタリー仕様のステンレス配管が用いられている。該ステンレス配管は、特にその使用初期において、鉄の溶出が多い。
本発明の鉄溶出防止処理とは、上述の接液部からの鉄溶出を防止する処理を言う。例えば、塔槽類、配管類等に非鉄金属や有機系材質を用いる方法や、前記接液部を非鉄物質でライニングまたはコーティングにより被覆する方法、あるいは接液部が研磨されてないものを用いる方法が挙げられる。
【0024】
前記非鉄金属としては、銅、チタン等が挙げられる。また有機系材質としてはPVC(ポリ塩化ビニル)、耐熱性PVC、PVDF(ポリ二フッ化ビニリデン)、PFA(ペルフルオロアルコキシルビニルエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等が挙げられる。有機系材質の中でも、特にPVDF、PFA、PEEKは、耐熱性に優れ、配管等とした場合に、80℃以上の熱水殺菌が行える点で好適である。
前記接液部の被覆に用いる非鉄物質としては、PE(ポリエチレン)、PVC、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ガラス繊維、天然ゴム、合成ゴム等を挙げることができ、これらは単独または複数材質を組み合わせて用いることができる。
前記接液部が研磨されてない配管類としては、接液部に鉄が含まれていても良く、例えば無研磨のステンレス鋼を挙げることができる。
【0025】
<カルシウムイオン除去>
抽出水等の原水となる、通常の水道水、地下水等には、10〜200ppm程度のカルシウムイオンが含まれている。本発明におけるカルシウムイオン除去とは、水道水や地下水等をカルシウムイオン濃度500ppb以下の抽出水等に調製する(カルシウムイオン除去工程)ことを言う。
本発明におけるカルシウムイオン除去方法は、前記原水中のカルシウムイオン濃度を500ppb以下、好ましくは100ppb以下に低減できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、イオン交換樹脂や逆浸透膜による脱塩、Na形陽イオン交換樹脂への通水による軟化処理等を例示することが出来る。
【0026】
<水素添加>
水素を添加する方法は特に限定されず、抽出水等あるいは飲料中の溶存水素濃度を0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上に調製できれば良い。例えば、マイクロバブル、ナノバブルを含む水素ガスのバブリング、エゼクタによる気液混合、またはシリコン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等よりなる中空糸型、スパイラル型等の膜溶解モジュールを用いる溶解等を例示することができる。
上述の溶存水素の添加方法に用いられる水素は、水素ガスボンベ等の水素貯蔵容器や、水素貯蔵設備から供給しても良い。また、水電解により陰極側から発生する水素を用いても良い。
水素を発生させる水電解方法は、所定の水素発生量を得られる方法であれば特に限定されるものではなく、既知の方法を用いることができる。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を母体高分子とし、スルホン酸をイオン交換基とするデュポン社製Nafion(登録商標)等のフッ素樹脂系イオン交換膜に、白金電極を直接配設したSPE(固体高分子電解質)電極を用いる方法が好ましい。SPEは、飲料のように比較的イオン濃度の低いものを対象とした水電解であっても、低電圧で高電流密度を得ることができ、効率的な水素発生を達成できるためである。
水素添加は、いずれの段階で行っても良く、抽出水等に対して溶存水素が0.1ppm以上となるように添加しても良いし、抽出液に対して添加しても良く、容器充填の直前の飲料に対して添加しても良い。容器充填時の飲料中の溶存水素が、0.1ppm以上となるように水素添加を行うことが好ましい。
【0027】
<酸素除去>
本発明における酸素除去とは、抽出水等あるいは飲料中の溶存酸素濃度を1ppm以下に低減させることを言う。酸素を除去する方法は特に限定されず、抽出水等あるいは飲料中の溶存酸素濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下に低減できれば良い。
抽出水等あるいは飲料中の溶存酸素を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下に低減させる方法としては、例えば、酸素以外のガスによるバブリング、脱気膜法、真空脱気法による脱気、パラジウム担持イオン交換樹脂等の酸素除去剤による処理を例示することが出来る。
前記バブリングに用いられる酸素以外のガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、炭酸等の不活性ガス、または水素ガスを例示することができる。特に水素ガスによるバブリングは、酸素低減と水素溶解を同時に達成できるので好適である。また、脱気膜法、真空脱気法等による脱気処理を行う場合は、上述の水素添加以前に行う必要がある。水素添加後に脱気処理を行うと、抽出水等に溶存する水素をも除去してしまい、好ましくないためである。加えて、水素添加前の脱気処理は、その後の水素添加が効率的に行えるため好適である。
【0028】
本発明の飲料の製造方法によれば、原水から鉄を除去して、鉄濃度100ppb以下の抽出水等を調製することができる。また、除鉄された抽出水等が、塔槽類、配管類等からの鉄溶出によって、汚染されることを防止できる。そして、製造工程中における抽出液の保管、高温殺菌、製品の流通・保管において、飲料成分の酸化に起因する飲料の褐変等品質劣化を防止できる。
さらに、本発明の飲料の製造方法によれば、カルシウムイオン濃度500ppb以下の抽出水等を調製でき、飲料中の溶存水素濃度0.1ppm以上、溶存酸素濃度1ppm以下とすることができる。この結果、得られる飲料の褐変等品質劣化の防止効果を向上させることができる。
そして、上記の効果は、茶抽出物含有飲料において、顕著に現れる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
(品質評価)
<色調・風香味評価>
実施例ならびに比較例、参考例の品質評価は、色調・風香味を5人のパネラーによって、官能試験で行った。
80℃の脱イオン水500mlに緑茶葉25gを加えて、攪拌しながら3分間抽出した。抽出液を遠心分離(10000rpm)し、オリ等の固形分を除いて、上澄抽出液を得た。この上澄抽出液を50mlずつ分取し、脱イオン水150mlを加えて希釈した後、室温まで放置冷却したものを緑茶の基準品質とした。各実施例、比較例、参考例について、前記基準品質との比較により、以下の評価基準に従って、5段階評価を行った。色調および風香味の評価点は、5人の評価点の平均値を四捨五入して整数で示した。
「同等」=5
「わずかに劣る」=4
「やや劣るが許容できる」=3
「やや悪い」=2
「悪い」=1
【0030】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
80℃の脱イオン水500mlに緑茶葉25gを加え攪拌しながら3分間抽出した。抽出液を遠心分離(10000rpm)し、オリ等の固形分を除いて、上澄抽出液を得た。この上澄抽出液を50mlずつ分取し、脱イオン水150mlを加えて希釈した後、鉄濃度が表1の濃度となるように塩化鉄(II)を添加して、120℃で5分間加熱した。
得られた緑茶を室温まで放置冷却し、品質評価を行った。品質評価の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すとおり、緑茶中の鉄濃度が100ppb以下である実施例1〜4は、色調・風香味の両面において、品質劣化が少ないことがわかった。特に鉄濃度を10ppb以下とした実施例1、2は、緑茶を120℃で加熱した後も、ほぼ同等の品質を保っていた。
【0033】
(実施例5〜7)
緑茶中の鉄濃度を100ppbとし、緑茶中のカルシウム濃度が表2の濃度となるように、塩化カルシウムを添加した以外は、実施例1と同様に行い、品質評価を行った。品質評価の結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すとおり、鉄濃度を100ppb以下とし、緑茶中のカルシウムイオン濃度を500ppb以下とした実施例5〜7では、色調・風香味の両面において、品質劣化が少ないことがわかった。特に、カルシウムイオン濃度を100ppb以下とした実施例5、6は、緑茶を120℃で加熱した後も、ほぼ同等の品質を保っていた。
【0036】
(実施例8〜12)
緑茶中の鉄濃度を100ppb、カルシウム濃度を500ppbとし、希釈用脱イオン水に水素ガスをバブリングして、緑茶中の水素濃度が表3の濃度となる様にした以外は、実施例1と同様に行い、品質評価を行った。品質評価の結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示す実施例8〜11と、表2に示す実施例7との比較において、緑茶中に0.1ppm以上の水素を溶存させることで、品質劣化の度合いが小さくなることがわかった。特に、水素濃度を1ppm以上とした実施例8、9は、その効果が顕著であり、緑茶を120℃で加熱した後も、ほぼ同等の品質を保っていた。
【0039】
(実施例13〜17)
希釈用脱イオン水を真空脱気した後に水素ガスをバブリングして、緑茶中の水素濃度が0.1ppmとなるように調製した。この希釈用脱イオン水に酸素をバブリングして、緑茶中の酸素濃度が表4の濃度となるように希釈用水を調製した。
80℃の脱イオン水500mlに緑茶葉25gを加え攪拌しながら3分間抽出した。抽出液を遠心分離(10000rpm)し、オリ等の固形分を除いて、上澄抽出液を得た。この上澄抽出液を50mlずつ分取し、前記希釈用水150mlを加えて希釈した後、鉄濃度を100ppb、カルシウム濃度を500ppbとなるように塩化鉄(II)ならびに塩化カルシウムを添加して、120℃で5分間加熱した。得られた緑茶を室温まで放置冷却し、品質評価を行った。品質評価の結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4の実施例13〜16の結果から、緑茶中の鉄濃度を100ppb以下、カルシウムイオン濃度を500ppb以下、水素濃度を0.1ppmとすれば、酸素濃度を1.0ppm以下にした場合に、緑茶の品質劣化をより低減できることがわかった。また、酸素濃度を0.1ppm以下とした実施例13、14では、その効果はより顕著であり、緑茶を120℃で加熱した後も、ほぼ同等の品質を保っていた。
【0042】
(実施例18〜22、参考例1)
緑茶中の鉄濃度を100ppb、カルシウム濃度を500ppbとして、緑茶中のビタミンCを表5に示す濃度となるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、品質評価を行った。品質評価の結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
表5に示すとおり、緑茶中の鉄濃度を100ppb以下、カルシウムイオン濃度を500ppb以下とすれば、ビタミンCの添加量を従来に比べて低減して、10〜300ppmとしても緑茶の品質劣化を防ぐことができた。なお、参考例1の風香味の評価が低いのは、緑茶成分の酸化に起因する劣化ではなく、ビタミンCを多く添加したことによる風香味への影響である。このことから、実施例18〜21は、緑茶の風香味に与える影響が少なく、かつ品質劣化防止ができることがわかった。さらに、ビタミンCの添加量は、10〜50ppmであっても、充分に品質劣化を防止していることがわかった。
【0045】
(水質評価)
<鉄濃度の測定>
鉄濃度の測定は、JIS B8224 TPTZ法により行った。
【0046】
<カルシウムイオン濃度の測定>
カルシウムイオン濃度の測定は、JIS K0101キレート滴定法により行った。
【0047】
(実施例23)
H型強酸性陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120B、ローム・アンド・ハース社製)5Lと、OH形強塩基性陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400、ローム・アンド・ハース社製)5Lとの混床充填層とした。この混床充填層に、神奈川県相模原市水道水を原水として、体積流速40h−1で通水し、原水中の鉄とカルシウムイオンを除去して、希釈用水Aを1000L得た。得られた希釈用水Aについて、鉄濃度と、カルシウムイオン濃度を測定し、その結果を表6に示す。
【0048】
(実施例24)
実施例23と同様にして得られた希釈用水A1000Lを、内径1000mmの円筒形のFRP製タンクに7日間、室温で貯留して、希釈用水Bを得た。得られた希釈用水Bについて、鉄濃度と、カルシウムイオン濃度を測定し、その結果を表6に示す。
【0049】
(実施例25)
内面研磨をしてないSUS304製のタンクを用いた以外は、実施例24と同様にして、希釈用水Cを得た。得られた希釈用水Cについて、鉄濃度と、カルシウムイオン濃度を測定し、その結果を表6に示す。
【0050】
(比較例4)
脱イオン処理をしていない原水について、鉄濃度と、カルシウムイオン濃度を測定し、その結果を表6に示す。
【0051】
(比較例5)
内面をバフ研磨#400で研磨されたSUS304製のタンクを用いた以外は、実施例24と同様にして、希釈用水Dを得た。得られた希釈用水Dについて、鉄濃度と、カルシウムイオン濃度を測定し、その結果を表6に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
表6の実施例23の結果から、使用した混床充填層によって、原水中の鉄は0.1ppb、カルシウムイオンは0.5ppbという、高い水質を得ることができた。また、実施例24、25の結果から、イオン交換処理後に、FRP製タンク、内面研磨してないSUS304製タンクに貯留しても、目的とする水質(鉄濃度100ppb以下)を維持していた。
一方、比較例5のように、内面研磨をしたSUS304製タンクに貯留した場合には、希釈用水D中の鉄濃度が100ppbを超えてしまい、本発明における抽出水等には適さないことがわかった。比較例4から、水道水では、本発明における抽出水等には適してないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄濃度100ppb以下の水が、抽出または希釈に用いられていることを特徴とする、飲料。
【請求項2】
前記鉄濃度100ppb以下の水は、カルシウムイオン濃度が500ppb以下であることを特徴とする、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
溶存水素が0.1ppm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の飲料。
【請求項4】
溶存酸素が1ppm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
ビタミンCの含有量が10〜300ppmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項6】
茶抽出成分を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項7】
鉄濃度を100ppb以下に除鉄した水を用いた飲料の製造方法であって、除鉄された水が接触する接液部には、鉄溶出防止処理が施されていることを特徴とする、飲料の製造方法。
【請求項8】
前記除鉄された水を直ちに、抽出または希釈に用いることを特徴とする、請求項7に記載の飲料の製造方法。
【請求項9】
前記鉄溶出防止処理は、前記接液部を非鉄金属または有機系材質で形成するものであることを特徴とする、請求項7に記載の飲料の製造方法。
【請求項10】
前記鉄溶出防止処理は、前記接液部を非鉄物質で被覆するものであることを特徴とする、請求項7に記載の飲料の製造方法。
【請求項11】
前記鉄溶出防止処理は、前記接液部を研磨されていない、鉄を含む部材で形成するものであることを特徴とする、請求項7に記載の飲料の製造方法。
【請求項12】
カルシウムイオンを除去する工程を有することを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の飲料の製造方法。
【請求項13】
水素を添加する工程を有することを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項に記載の飲料の製造方法。
【請求項14】
溶存酸素を除去する工程を有することを特徴とする、請求項7〜13のいずれか1項に記載の飲料の製造方法。
【請求項15】
前記飲料が、茶抽出成分を含有していることを特徴とする、請求項7〜14のいずれか1項に記載の飲料の製造方法。

【公開番号】特開2009−106164(P2009−106164A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279155(P2007−279155)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】