説明

飲酒検知装置

【課題】精度良く運転者の飲酒を検知することができると共に、飲酒検知時における運転者の負担を低減させることができる飲酒検知装置を提供する。
【解決手段】ステアリングアクチュエータ12によってステアリングホイール16に付与された所定の操舵トルクに対して、運転者が操作した操作量を検出する。飲酒状態の運転者は、飲酒をしているという意識から先行車や周辺の障害物の存在に対して集中するため、外乱に対する反応が低くなる傾向にある。そのため、操舵トルク(外乱)に対する運転者の操作量(反応)を検出し、検出された操作量に基づいて飲酒状態の判定を行うことで、飲酒時の運転者の挙動を確実に捉えることができ、精度良く運転者の飲酒を検知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲酒検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲酒運転を防止するために、飲酒を検知した場合に遠隔操作によってエンジンを停止させる技術が知られている。例えば、特許文献1に記載の遠隔管理制御システムは、運転者の呼気のアルコール濃度をチェックし、アルコール濃度が一定値を越えている場合には運転者に対して警告を行う。そして、運転者が警告に応じない場合には、遠隔操作によってエンジンを停止させている。
【特許文献1】特開2004−148950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来技術のように、検知センサに呼気を吹き付ける、或いはマウスピース等に息を吹き込むといった動作が必要な飲酒の検知方法は、衛生的に好ましいものではなく、且つ運転者にとって精神的に負担がかかるものであった。また、生体信号等を解析して飲酒を検知する技術も知られているが、非接触式又は軽微な接触式の検知方法は検知精度が不十分であり、誤検出のおそれがある。
【0004】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、精度良く運転者の飲酒を検知することができると共に、飲酒検知時における運転者の負担を低減させることができる飲酒検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による飲酒検知装置は、所定の制御量を付与しステアリングホイールの回動を制御する制御量付与手段と、制御量に対して運転者が行った操作を検出する操作検出手段と、操作検出手段によって検出された運転者の操作に基づいて、運転者が飲酒状態であるか否かを判定する飲酒状態判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0006】
このような飲酒検知装置においては、制御量付与手段によってステアリングホイールに付与された所定の制御量に対して、運転者が操作した操作量を検出する。ここで、飲酒状態の運転者は、飲酒をしているという意識から先行車や周辺の障害物の存在に対して集中するため、外乱に対する反応が低くなる傾向にあるという知見が得られている。そのため、制御量(外乱)に対する運転者の操作量(反応)を検出し、検出された操作量に基づいて飲酒状態の判定を行うことで、飲酒時の運転者の挙動を確実に捉えることができ、精度良く運転者の飲酒を検知することができる。また、運転者に対して、定期的に息を吹きかけるといった負担をかけることなく飲酒を検知することができる。さらに、従来の装置に必要であった運転者の成り済ましに関する対策も不要となる。
【0007】
また、飲酒状態判定手段は、操作検出手段によって検出された操作の操作量が所定の閾値以下である場合に、運転者が飲酒状態であると判定することが好ましい。これにより、所定の制御量に対する運転者の操作量が所定の閾値以下である場合には飲酒状態であると判定されるので、好適に運転者の飲酒を検知することができる。
【0008】
また、操作検出手段は、制御量に対する運転者のステアリング操作量を取得するステアリング操作量取得手段を有し、飲酒状態判定手段は、ステアリング操作量取得手段によって取得されたステアリング操作量に基づいて、運転者が飲酒状態であるか否かを判定することが好ましい。これにより、所定の制御量に対する運転者のステアリング操作量に基づいて飲酒状態の判定を行うので、好適に運転者の飲酒を検知することができる。
【0009】
また、操作検出手段は、制御量に対する運転者のブレーキ操作量を取得するブレーキ操作量取得手段を有し、飲酒状態判定手段は、ブレーキ操作量取得手段によって取得されたブレーキ操作量に基づいて、運転者が飲酒状態であるか否かを判定することが好ましい。これにより、所定の制御量に対する運転者のブレーキ操作量に基づいて飲酒状態の判定を行うので、好適に運転者の飲酒を検知することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、精度良く運転者の飲酒を検知することができると共に、飲酒検知時における運転者の負担を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による飲酒検知装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図1は、本発明の実施形態に係る飲酒検知装置を示すブロック構成図である。
【0012】
図1に示す飲酒検知装置1は、車両に搭載され、外乱に対する運転者の反応を検出して、運転者の飲酒状態を検知するものである。具体的には、この飲酒検知装置1では、所定の制御量を付与してステアリングを回動させ、このステアリングの回動に対する運転者の操作に基づいて、運転者の飲酒状態を検出する。
【0013】
飲酒検知装置1は、本装置の動作制御を司るECU2を備え、ECU2には、操舵角センサ4、ブレーキセンサ6、アルコール検知センサ8、車速センサ10、ステアリングアクチュエータ12、アクチュエーション部14が電気的に接続されている。
【0014】
操舵角センサ4は、運転者によって入力されるステアリングホイール16の操舵角θを検出するセンサである。操舵角センサ4は、例えばステアリングシャフトの回転角(操舵角)を検出することによって操舵角θを検出する。操舵角センサ4は、検出した操舵角θを操舵角情報としてECU2へ送信する。
【0015】
そして、操舵角センサ4は、運転者のステアリング操作量を取得する本発明のステアリング操作量取得手段(操作検出手段)として機能するものである。なお、ステアリング操作手段は、運転者のステアリング操作量を検出可能であれば良く、例えば、実舵角センサ、操舵力センサ、ステアリングセンサ、ブレーキECUからの信号に基づいて、運転者のステアリング操作量を検出してもよい。
【0016】
ブレーキセンサ6は、ブレーキペダル18のブレーキ操作量Dを検出するセンサである。ブレーキセンサ6は、検出したブレーキ操作量Dをブレーキ操作量情報としてECU2へ送信する。
【0017】
そして、ブレーキセンサ6は、運転者のブレーキ操作量を取得する本発明のブレーキ操作量取得手段(操作検出手段)として機能するものである。なお、ブレーキ操作量取得手段は、運転者のブレーキ操作量を検出可能であれば良く、例えば、マスタシリンダ圧センサ、ホイルシリンダ圧センサ、ブレーキECUからの信号に基づいて、運転者のブレーキ操作量を検出してもよい。ブレーキセンサ6は、取得したブレーキ操作量をブレーキ操作量情報としてECU2に送信する。
【0018】
アルコール検知センサ8は、運転者のアルコール濃度を検出するセンサである。アルコール検知センサ8は、例えば半導体式のセンサであり、ドライバの掌に接触することで、掌から発汗された汗に含まれるアルコール成分を検出し、そのアルコール成分の濃度に応じた検出信号を出力する。アルコール検知センサ8は、アルコール濃度検出信号をECU2に送信する。
【0019】
車速センサ10は、車両速度を検出するセンサであり、例えば、車輪の回転速度を検出することによって車両速度を検出する。車速センサ10は、検出した車速信号をECU2に送信する。
【0020】
ステアリングアクチュエータ12は、ECU2からの制御量信号に応じて作動することにより、所定の操舵トルクをシャフトを介してステアリングホイール16に付与するものである。なお、所定の操舵トルクとは、例えば運転者がステアリングホイール16の回動を認識できる程度であり、安全走行に影響を与えない程度である。そして、ステアリングアクチュエータ12及びECU2が、ステアリングホイール16の回動を制御する本発明の制御量付与手段として機能する。
【0021】
アクチュエーション部14は、ECU2からの指示に基づき、飲酒運転防止処理を実行する処理部である。アクチュエーション部14は、飲酒運転防止処理として、音声又は映像により運転者に警告・注意喚起する警告・注意喚起処理、車両を走行できないようにするインターロック処理、エンジン出力制御処理、緊急停止処理等の処理を行う。本実施形態では、飲酒運転防止処理として、警告・注意喚起処理を行うこととする。
【0022】
ECU2は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、記憶部となるROM(ReadOnly Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成されている。
【0023】
ECU2では、記憶部に記憶されているプログラムを実行することで、アルコール濃度判定部20、車速判定部22、制御量付与指示部24、飲酒状態判定部26、アクチュエーション指示部28が構成される。
【0024】
アルコール濃度判定部20は、アルコール検知センサ8において検知された運転者のアルコール濃度情報と、飲酒の可能性があることを検出可能な所定の閾値とを比較することにより、運転者に飲酒の可能性があるか否かの判定をする。アルコール濃度判定部20は、アルコール濃度が閾値を越えていると判定した場合に、車速判定部22に運転者に飲酒の可能性があることを示す飲酒情報を出力する。
【0025】
車速判定部22は、車速センサ10において検出された車速信号に基づいて、車両が所定の速度で走行しているか否かを判定する。車速判定部22は、アルコール濃度判定部20から飲酒情報を受け取ると、車両が一定の車速VをT秒間持続しているか否かを判定する。又は、車速判定部22は、所定の車速VL1,VL2の範囲内の車速V(VL1<V<VL2)であるか否かを判定する。つまり、車両が走行状態にあるか否かを判定する。車速判定部22は、上記条件のどちらか一方を満たしている場合に、制御量付与指示部24に制御指示開始を示す制御開始情報を出力する。なお、所定の車速VL1,VL2とは、例えば実験、経験等に基づいて予め設定された値であり、発進直後又は停止直前であることを判定可能な値である。
【0026】
制御量付与指示部24は、車速判定部22から制御開始情報を受け取ると、ステアリングアクチュエータ12に所定の制御量(操舵トルク)を付与する制御量情報を送信する。
【0027】
飲酒状態判定部26は、ステアリングアクチュエータ12によって付与された操舵トルクに対して、操舵角センサ4において検出された操作角情報、又はブレーキセンサ6において検出されたブレーキ操作量情報に基づいて、運転者の飲酒状態を判定する。飲酒状態判定部26は、付与された操舵トルクに対して操舵角θが所定の操舵角θ以下(θ<θ)である場合に、操舵トルクに対する反応が無いとみなし、飲酒状態であると判定する。或いは、飲酒状態判定部26は、付与された操舵トルクに対してブレーキ操作量Dが所定のブレーキ操作量D以下(D<D)である場合に、操舵トルクに対する反応が無いとみなし、飲酒状態であると判定する。飲酒状態判定部26は、上記条件のどちらか一方を満たしている場合に、動作指示情報をアクチュエーション指示部28に出力する。なお、飲酒状態判定部26は、本発明の飲酒状態判定手段として機能するものである。また、所定の操舵角θ及びブレーキ操作量Dとは、例えば実験、経験等に基づいて予め設定された値であり、運転者が飲酒状態であることを判定可能な値である。
【0028】
アクチュエーション指示部28は、動作指示情報を飲酒状態判定部26から受け取ると、アクチュエーション部14に対して、例えば警告・注意喚起を実施するようにアクチュエーション指示を送信する。
【0029】
次に、このように構成された飲酒検知装置1の動作について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る飲酒検知装置1で実行される動作手順を示すフローチャートである。
【0030】
まず、アルコール検知センサ8において運転者のアルコール濃度が測定される(S1)。そして、検知されたアルコール濃度と飲酒の可能性があることを検出可能な閾値とが比較され(S2)、アルコール濃度が閾値以上であればステップS3に進む。一方、アルコール濃度が、飲酒の可能性があることを検出可能な閾値以下であれば、処理を終了する。
【0031】
次に、車両が車速VをT秒間持続しているか、又は、車速VがVL1<V<VL2の範囲内であるか否かが判定される(S3)。車速VをT秒間持続している、又は車速VがVL1<V<VL2の範囲内である場合には、ステップS4に進む。一方、車速VをT秒間持続していない、或いは、車速VがVL1<V<VL2の範囲内ではない場合には、処理を終了する。
【0032】
続いて、ステアリングホイール16に対して操舵トルク(制御量)が付与される(S4)。そして、付与された操舵トルクに対しての操舵角θ、又は、ブレーキ操作量Dが検出される(S5)。その後、検出された操舵角θが所定の操舵角θ以下(θ<θ)、又は、ブレーキ操作量Dが所定のブレーキ操作量D以下(D<D)であるか否かが判断され(S6)、検出された操舵角θが所定の操舵角θ以下(θ<θ)、又は、ブレーキ操作量Dが所定のブレーキ操作量D以下(D<D)である場合には、アクチュエーションが実施される(S7)。一方、検出された操舵角θが所定の操舵角θ以下(θ<θ)、又は、ブレーキ操作量Dが所定のブレーキ操作量D以下(D<D)でないと判断された場合には、処理を終了する。
【0033】
このような飲酒検知装置1では、アルコール検知センサ8によって運転者のアルコール濃度を検知し、飲酒の状態の可能性があると判定された場合には、スレアリングホイール16に操舵トルクが付与される。そして、ステアリングホイール16に付与された操舵トルクに対して、運転者がステアリングホイール16を操作した操舵角θ、或いはブレーキペダル18のブレーキ操作量Dを検出し、飲酒状態を更に判定する。飲酒状態の運転者は、飲酒をしているという意識から先行車や周辺の障害物の存在に対して集中するため、外乱に対する反応が低くなる傾向にある。そのため、操舵トルクに対する運転者の操舵角θ、或いは、ブレーキ操作量Dを検出し、検出されたそれぞれの操作量に基づいて飲酒状態の判定を行うことで、飲酒時の運転者の挙動を確実に捉えることができる。従って、アルコール検知センサ8の判定結果が飲酒検知装置の判定結果によってサポートされることにより、精度良く運転者の飲酒を検知することができる。
【0034】
また、飲酒の検知は、通常の運転行動によって判定されるので、運転者に対して定期的に息を吹きかけるといった負担をかけることなく飲酒を検知することができる。さらに、従来の装置に必要だった運転者の成り済ましに関する対策も不要となる。
【0035】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、操作検出手段として操舵角センサ4、及びブレーキセンサ6を例示したが、制御量に対して運転者が行った操作を検出可能であれば良く、例えば、アクセル開度センサのアクセル開度の減衰量に基づいて飲酒状態を判定してもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、アルコール検知センサ8用いて飲酒の可能性を検出した後に、操舵トルクを与えて飲酒状態を判定しているが、アルコール検知センサ8を用いた判定が行われなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る飲酒検知装置を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る飲酒検知装置で実行される動作手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
1…飲酒検知装置、2…ECU(制御量付与手段)、4…操舵角センサ(ステアリング操作量取得手段、操作検出手段)、6…ブレーキセンサ(ブレーキ操作量取得手段、操作検出手段)、12…ステアリングアクチュエータ(制御量付与手段)、16…ステアリングホイール、26…飲酒状態判定部(飲酒状態判定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の制御量を付与し前記ステアリングホイールの回動を制御する制御量付与手段と、
前記制御量に対して運転者が行った操作を検出する操作検出手段と、
前記操作検出手段によって検出された前記運転者の操作に基づいて、前記運転者が飲酒状態であるか否かを判定する飲酒状態判定手段と、
を備えることを特徴とする飲酒検知装置。
【請求項2】
前記飲酒状態判定手段は、前記操作検出手段によって検出された前記操作の操作量が所定の閾値以下である場合に、前記運転者が飲酒状態であると判定することを特徴とする請求項1記載の飲酒検知装置。
【請求項3】
前記操作検出手段は、前記制御量に対する前記運転者のステアリング操作量を取得するステアリング操作量取得手段を有し、
前記飲酒状態判定手段は、ステアリング操作量取得手段によって取得されたステアリング操作量に基づいて、前記運転者が飲酒状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2記載の飲酒検知装置。
【請求項4】
前記操作検出手段は、前記制御量に対する前記運転者のブレーキ操作量を取得するブレーキ操作量取得手段を有し、
前記飲酒状態判定手段は、前記ブレーキ操作量取得手段によって取得されたブレーキ操作量に基づいて、前記運転者が飲酒状態であるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の飲酒検知装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−193353(P2009−193353A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33551(P2008−33551)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】