説明

飼育水浄化方法および飼育水浄化装置

【課題】生分解性プラスチックを利用せず、簡単な操作で安全・安定的・継続的に硝酸態窒素を除去することが可能な飼育水浄化方法を提供することを課題とする。
【解決手段】飼育水槽Tから取得した飼育水W2に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素過程と、飼育水W2に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解過程と、濾材の集合体からなる微生物担体32を充填した窒素固定槽3Aに脱酸素過程および前記二酸化炭素溶解過程を経た飼育水W2を通水する窒素固定過程と、窒素固定過程を経た飼育水W3を飼育水槽Tに戻す飼育水供給過程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼育水槽中の飼育水に含まれる硝酸態窒素を除去する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飼育水槽中の飼育水に含まれる硝酸態窒素(硝酸イオン)を除去(脱窒)する方法として、例えば、連続多孔質材料で覆われた生分解性プラスチック(炭素源)を飼育水に投入し、生分解性プラスチックの表面に通性嫌気性細菌である脱窒菌を着床・増殖させる方法(特許文献1参照)や、飼育水を循環させる循環ラインに硝化槽と脱窒槽とを並列に設け、硝化槽中の硝化菌(独立栄養細菌)を利用してアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素を硝酸態窒素にまで還元(硝化)するとともに、脱窒槽中の脱窒菌(従属栄養細菌)を利用して硝化で発生した硝酸態窒素を窒素にまで還元(脱窒)する方法(特許文献2参照)が知られている。
【特許文献1】特開平10−85782号公報
【特許文献2】特開2000−126794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の飼育水浄化方法では、微生物の働きにより分解された生分解性プラスチックの成分が飼育水槽中に拡散する場合があるので、脱窒菌以外の従属栄養細菌(例えば、病原菌)が増殖する虞がある。また、特許文献1の飼育水浄化方法では、脱窒量の制御が難しいことから、飼育水槽中の硝酸濃度が安定するまでに時間を要する場合がある。さらに、不測の事態により、アンモニア、亜硝酸、硫化水素が、飼育生物に害を生ずる程度まで高まる虞もある。
【0004】
特許文献2の飼育水浄化方法では、飼育水を脱窒槽に間歇通水することにより、脱窒槽内を脱窒の起こりやすい嫌気性雰囲気を創出しているが、間歇通水するための機構を具備させると、その制御が煩雑になるとともに、脱窒槽に導入される飼育水の量が制限される虞がある。
【0005】
このような観点から、本発明は、生分解性プラスチックを利用せず、危険性が少なく簡単な操作で安定的・連続的に硝酸態窒素を除去することが可能な飼育水浄化方法および飼育水浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明に係る飼育水浄化方法は、飼育水槽から取得した飼育水に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素過程と、飼育水に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解過程と、濾材の集合体からなる微生物担体を充填した窒素固定槽に前記脱酸素過程および前記二酸化炭素溶解過程を経た飼育水を通水する窒素固定過程と、前記窒素固定過程を経た飼育水を前記飼育水槽に戻す飼育水供給過程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る飼育水浄化方法によれば、窒素固定槽内に二酸化炭素を含んだ低溶存酸素雰囲気の飼育水が供給されるようになるので、窒素固定槽内の窒素固定菌(二酸化炭素を炭素源とする通性嫌気性細菌に分類される菌の一部)の活動・増殖が活発になり、硝酸体窒素が窒素固定菌の増殖に消費され、硝酸態窒素が菌体として固定されるので、飼育水中の硝酸態窒素濃度を減少させることが可能になる。しかも、本発明によれば、二酸化炭素を含んだ低溶存酸素雰囲気の飼育水が連続的に窒素固定槽内に供給されるようになるので、安定的・連続的に硝酸態窒素を除去することが可能となり、間歇通水するための装置等も不要になる。
【0008】
なお、前記脱酸素過程では、飼育水槽から取得した飼育水に飽和溶存二酸化炭素量以上の二酸化炭素を供給することで、前記飼育水に含まれる溶存酸素量を減少させることもできる。このようにすると、脱酸素過程および二酸化炭素溶解過程が同時並行的に行われることになるので、簡略化した装置で溶存酸素を減少させることが可能となる。
【0009】
前記飼育水供給過程では、前記窒素固定過程を経た飼育水に酸素を供給してもよい。このようにすると、飼育水槽に戻される飼育水中の溶存酸素量を増やすことができるので、飼育水槽中の飼育水の水質を良好な状態に維持することが可能になる。なお、酸素を含む混合気体(例えば、大気等)を供給することで飼育水に酸素を供給してもよい。
【0010】
なお、窒素固定菌は、硝酸態窒素を体内に取り込んで同化するので、飼育水槽中の飼育水から除去された硝酸態窒素の大部分は、窒素固定菌に同化された状態で系内に残留することになる。したがって、何らかの要因によって窒素固定槽内のバランスが崩れると、窒素固定菌に同化されていた窒素化合物が再び飼育水槽内に供給され、飼育水の水質を悪化させる虞がある。このような問題が懸念される場合には、窒素固定槽を逆洗するか、あるいは、前記窒素固定槽から前記微生物担体を取り出し、前記微生物担体に坦持されている窒素固定菌を洗い流すとよい。このようにすると、窒素固定菌に同化された硝酸態窒素が窒素固定菌とともに系外に取り出されることになるので、アンモニアや亜硝酸イオンが再発生するリスクを低減することが可能となる。
【0011】
前記した課題を解決する本発明に係る飼育水浄化装置は、飼育水槽中の飼育水を循環させる循環ラインと、前記飼育水槽から取得した飼育水に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素手段と、前記飼育水に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解手段と、濾材の集合体からなる微生物担体を充填して形成した窒素固定槽と、を備える飼育水浄化装置であって、前記脱酸素手段を、前記窒素固定槽の上流側に設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る飼育水浄化装置によれば、窒素固定槽内に低溶存酸素雰囲気の飼育水が供給されるようになるので、窒素固定槽内の窒素固定菌の活動・増殖が活発になる。つまり、硝酸態窒素が窒素固定菌に同化されるようになるので、飼育水中の硝酸態窒素濃度を減少させることが可能になる。しかも、本発明によれば、低溶存酸素雰囲気の飼育水が連続的に窒素固定槽内に供給されるようになるので、安定的・連続的に硝酸態窒素を除去することが可能となり、間歇通水するための装置等も不要になる。また、本発明において、微生物担体を砂とし、公知の逆洗装置と組み合わせれば、その洗浄作業を自動的に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生分解性プラスチックや嫌気槽を必要とせず、また、複雑な過程を経ることなく、簡単な操作で安全・安定的・継続的に硝酸態窒素を除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
添付した図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態の一例を詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る飼育水浄化装置Aは、飼育水槽T中の飼育水W1を循環させる循環ライン1と、この循環ライン1に設けられた水質調整手段2、窒素固定手段3および酸素供給手段4とを備えている。
【0016】
なお、飼育水槽Tには、硝化菌による硝化を行うための硝化手段(循環ラインB1、循環ポンプB2、底面濾過層B3)、タンパク質を除去するタンパク質除去手段(循環ラインC1、循環ポンプC2、プロテインスキマーC3)、飼育水W1の温度調節を行う温度調節手段(温度センサD1、サーモコントローラD2、ヒータD3、クーラーD4)などが付設されている。
【0017】
循環ライン1は、飼育水槽Tに設けられた取水口11から出水口12に至る流路(配管)であって、水質調整手段2、窒素固定手段3および酸素供給手段4を直列に繋いでいる。なお、循環ライン1には、飼育水W1〜W5を循環させるための循環ポンプ13や流量調節を行うためのバルブ14が介設されている。
【0018】
水質調整手段2は、窒素固定手段3の上流側に設けられるものであって、飼育水槽Tから取得した飼育水W2に含まれる溶存酸素量を減少させる機能と、飼育水W2に二酸化炭素を溶解させる機能(すなわち、飼育水W2中の溶存二酸化炭素量を増加させる機能)とを兼ね備えている。すなわち、本実施形態の水質調整手段2は、飼育水W2に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素手段として機能するとともに、飼育水W2に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解手段として機能する。
【0019】
水質調整手段2の構成に制限はないが、本実施形態のものは、上面が開口した開放容器21と、二酸化炭素を供給する炭酸ガスボンベ(二酸化炭素供給源)22と、この炭酸ガスボンベ22から開放容器21に至る配管23とを備えている。
【0020】
なお、本実施形態では、開放容器21内における飼育水W2の流れが下向きとなるように、開放容器21の上部に流入口を設け、下部に流出口を設けているが、飼育水W2の流れの向きを限定する趣旨ではない。
【0021】
窒素固定手段3は、水質調整手段2の下流側に設けられるものであって、水質調整手段2を通過した飼育水W3に含まれる硝酸態窒素(硝酸イオン)を固定する機能を備えている。本実施形態の窒素固定手段3は、直列に設けられた二つの窒素固定槽3A,3Aからなる。窒素固定槽3Aは、密閉容器31と、この密閉容器31内に充填された微生物担体32とを備えている。
【0022】
密閉容器31内における飼育水W3の流れの向きを限定する趣旨ではないが、本実施形態では、上流側の窒素固定槽3Aにおいては下向きになっており、下流側の窒素固定槽3Aにおいては上向きになっている。すなわち、上流側の窒素固定槽3Aにおいては、密閉容器31の上部に流入口を設けるとともに下部に流出口を設けており、下流側の窒素固定槽3Aにおいては、密閉容器31の下部に流入口を設けるとともに上部に流出口を設けている。
【0023】
微生物担体32は、濾材の集合体からなる。濾材の材質に制限はなく、多孔質ガラス、多孔質セラミック、サンゴ砂、天然樹脂製または合成樹脂製のスポンジ、活性炭などの多孔質材料や、天然岩石やガラスなどの無孔質材料を使用することができる。また、濾材の寸法・形状にも制限はなく、例えば、球状、多面体状、柱状、筒状、リング状、平板状、砂状、砂利状、礫状等の形態に成形されたものを使用することができるが、その内部が嫌気性状態(溶存酸素や結合性酸素がほとんど存在しない状態)にならないように、粒径または肉厚が5mm以下のものを使用することが望ましい。このようにすると、水生生物に対して毒性の強いアンモニア、亜硝酸イオン、硫化水素等の発生を抑制することが可能となる。
【0024】
酸素供給手段4は、窒素固定手段3の下流側に設けられるものであって、窒素固定手段3を通過した飼育水W4に酸素を溶解させる機能(すなわち、飼育水W4中の溶存酸素量を増加させる機能)を備えている。
【0025】
酸素供給手段4の構成に制限はないが、本実施形態のものは、上面が開口した開放容器41,41と、大気を送り出すエアブロア(酸素供給源)42と、このエアブロア42から開放容器41,41に至る配管43,43とを備えている。
【0026】
なお、本実施形態では、開放容器41内における飼育水W4の流れが下向きとなるように、開放容器41の上部に流入口を設けるとともに下部に流出口を設けているが、飼育水W4の流れの向きを限定する趣旨ではない。
【0027】
エアブロア42は、配管43,43を介して開放容器41,41に大気を供給するものであるが、本実施形態のものは、配管44を介して飼育水槽T中の飼育水Wにも大気(酸素)を供給する。
【0028】
次に、本実施形態に係る飼育水浄化方法を説明する。本実施形態に係る飼育水浄化方法は、脱酸素過程と、二酸化炭素溶解過程と、窒素固定過程と、飼育水供給過程とを備えるものである。なお、飼育水槽T内の飼育水Wは、溶存酸素量が7mg/リットル程度、pHが8〜8.5に維持されているものとする。
【0029】
脱酸素過程は、飼育水槽Tから取得した飼育水W2に含まれる溶存酸素量を減少させる過程である。本実施形態では、水質調整手段2を利用して脱酸素過程を行っていて、開放容器21中の飼育水W2に飽和溶存二酸化炭素量以上の二酸化炭素を供給することで、飼育水W2に含まれる溶存酸素量を減少させている。なお、本実施形態の脱酸素過程では、開放容器21の流出口から流出する飼育水W3(脱酸素過程を経た飼育水W3)の溶存酸素量が、3.0mg/リットル程度となるように炭酸ガスボンベ22の放出量を設定している。なお、脱酸素過程を経た飼育水W3の溶存酸素量が脱酸素過程前の飼育水W2の飽和溶存酸素量が少なくなり過ぎると、窒素固定槽3A内の一部分が嫌気性状態になる虞がある(偏性嫌気性細菌が繁殖する虞がある)ので、脱酸素過程を経た飼育水W3の溶存酸素量は、所定値以上であることが望ましい。この所定値は、濾材の種類、充填度合、送水量、水質等によって変化するので、亜硝酸等の発生量を測定しながら下限値を決めることになるが、2.5〜3mg/リットル程度が好ましい。
【0030】
二酸化炭素溶解過程は、飼育水槽Tから取得した飼育水W2に二酸化炭素を溶解させる過程である。すなわち、二酸化炭素溶解過程は、飼育水槽Tから取得した飼育水W2の溶存二酸化炭素量を増加させる過程である。本実施形態では、脱酸素過程において二酸化炭素を供給しているので、二酸化炭素溶解過程は、脱酸素過程と同時並行的に行われることになる。二酸化炭素がほぼ飽和状態にある飼育水のpHは、6程度になっている。
【0031】
窒素固定過程は、脱酸素過程および二酸化炭素溶解過程を経た飼育水W3を窒素固定槽3Aに通水する過程である。すなわち、窒素固定過程は、二酸化炭素を多く含んだ低溶存酸素雰囲気の飼育水W3を窒素固定槽3A内に供給する過程である。飼育水W3を窒素固定槽3A内に供給すると、窒素固定槽3A内の窒素固定菌(二酸化炭素を炭素源とする通性嫌気性細菌に分類される菌の一部)の活動・増殖(同化型硝酸還元)が活発になる。つまり、硝酸イオンが窒素固定菌の増殖に消費され、硝酸イオンが菌体として固定されるので、飼育水W3中の硝酸イオン濃度が減少することになる。
【0032】
飼育水供給過程は、窒素固定過程を経た飼育水W4を飼育水槽Tに戻す過程であるが、本実施形態では、窒素固定過程を経た飼育水W4に大気を供給した後に、飼育水槽Tに戻している。本実施形態では、酸素供給手段4を利用して大気の供給を行っていて、開放容器41中の飼育水W4にエアブロア42から大気を供給することで、飼育水W4の溶存酸素量を増加させるとともに、溶存二酸化炭素量を減少させている。なお、本実施形態では、下流側の開放容器41の流出口から流出する飼育水W5の溶存酸素量およびpHが飼育水槽T中の水生生物に適したものとなるようにエアブロア42の放出量や開放容器41の個数等を設定している。
【0033】
以上説明した本実施形態に係る飼育水浄化装置Aおよび飼育水浄化方法によれば、二酸化炭素を含んだ低溶存酸素雰囲気の飼育水W3が連続的に窒素固定槽3A内に供給されるようになるので、安全・安定的・連続的に硝酸態窒素を除去することが可能となり、間歇通水するための装置等も不要になる。
【0034】
また、飼育水浄化装置Aを硝化手段やタンパク質除去手段と併用すれば、水換えや水補給の回数を少なくした場合であっても、飼育水槽T中の飼育水W1の硝酸イオン濃度を10ppm程度に維持することが可能になる。
【0035】
また、本実施形態に係る飼育水浄化装置Aによれば、脱酸素過程と二酸化炭素溶解過程とが同時並行的に行われることになるので、簡略化した装置で溶存酸素量を減少させ、さらに、溶存二酸化炭素量を増加させることが可能となる。
【0036】
なお、窒素固定槽3A内に生息する窒素固定菌は、硝酸イオンを体内に取り込んで同化するので、飼育水W3から除去された硝酸イオンの大部分は、窒素固定菌に同化された状態で系内に残留することになる。したがって、何らかの要因によって窒素固定槽3A内のバランスが崩れると、窒素固定菌に同化されていた窒素化合物が再び飼育水槽T内に供給され、飼育水W1の水質を悪化させる虞がある。このような問題が懸念される場合には、窒素固定槽3Aを定期的に逆洗するか、あるいは、窒素固定槽3Aから微生物担体32を取り出し、微生物担体32に坦持されている窒素固定菌を定期的に洗い流すとよい。このようにすると、窒素固定菌に同化された硝酸イオンが窒素固定菌とともに系外に取り出されることになるので、アンモニアや亜硝酸イオンが再発生するリスクを低減することが可能となる。
【0037】
また、本実施形態では、窒素固定過程を経た飼育水W4の溶存酸素量を増加させているので、飼育水槽T中の飼育水W1の水質を良好な状態に維持することが可能になる。
【0038】
図1に示す飼育水槽Tの総飼育水量を720リットル、窒素固定槽3Aの容量を30リットル(合計60リットル)、酸素供給手段4の開放容器41の容量を30リットル(合計60リットル)、水生生物を2.5kg(0.5kgの真鯛を5匹)として、本実施形態に係る飼育水浄化方法の効果を確認する実験を行った。表1に、実験条件および実験結果を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、窒素固定槽3A及び酸素供給手段4における流量を2.0リットル/分として水質調整手段2に二酸化炭素を供給することなく60日間(1〜60日目)、餌を与え続けながら水生生物を飼育したところ、飼育開始時に9ppmであった硝酸イオン濃度が60ppmまで増加したが、61日目以降、窒素固定槽3A及び酸素供給手段4における流量を1.0リットル/分に下げたところ、硝酸イオン濃度は60ppm前後の値で推移した。68日目に、窒素固定槽3A及び酸素供給手段4における流量を0.5リットル/分に下げるとともに、本実施形態に係る飼育水浄化方法となるように水質調整手段2に二酸化炭素を供給し、二酸化炭素を含んだ低溶存酸素雰囲気の飼育水W3を窒素固定槽3A内に供給したところ、二酸化炭素の供給開始直後から窒素固定槽3A内の溶存酸素濃度が3mg/リットル程度になり、その後、硝酸イオン濃度は徐々に低下した。二酸化炭素の供給を開始してから5日後(72日目)には、硝酸イオン濃度が7〜8ppm程度の一定の範囲にとどまるようになり、その後30日間(73〜102日目)維持された。なお、68日目から102日目までの間、窒素固定槽3Aの入口と出口とで溶存酸素量に差は認められず、2.5〜3mg/リットルであった。上記現象は、(1)窒素固定槽3A及び酸素供給手段4の流量を1.0リットル/分に下げたことにより、密閉容器31に充填されている一部の濾材又は濾材間の隙間で溶存酸素が低下し、通性嫌気性細菌が繁殖し始め、(2)この状態で二酸化炭素を供給したことにより、通性嫌気性細菌に分類される菌のうち、二酸化炭素を炭素源に利用できる菌が急速に繁殖した、とすると説明することができる。
【0041】
なお、この後、二酸化炭素の供給を止め、替わりに窒素ガスを供給し、窒素固定槽3A内の溶存酸素濃度を2.5〜3mg/リットルに保持したところ、飼育水槽T内の硝酸イオン濃度が徐々に上がり始め、窒素ガスに替えてから23日目に30ppmに達し、翌24目には160ppmとなった。この値は本件発明を適用しないで126日間飼育をした場合に達すると予想される濃度(飼育開始から60日間の傾向から推定)とほぼ一致する。この現象は、(1)二酸化炭素が供給されなくなったことにより、通性嫌気性細菌が増殖できなくなり、硝酸イオンが固定化されなくなった、(2)繁殖していた通性嫌気性細菌が栄養不足から死滅し、分解された、とすると説明することができる。
【0042】
なお、前記した飼育水浄化方法の手順等は、適宜変更してもよい。
例えば、前記した実施形態においては、脱酸素過程と二酸化炭素溶解過程を同時並行的に行う場合(水質調整手段2が脱酸素手段と二酸化炭素溶解手段とを兼ねている場合)を例示したが、別々に行ってもよい。すなわち、飼育水槽Tから取得した飼育水W2に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素手段と、飼育水W2に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解手段とを別々に設けてもよい。この場合、二酸化炭素溶解手段は、脱酸素手段の下流側に設け、脱酸素過程を行った後に、二酸化炭素溶解過程を行うことが望ましい。なお、脱酸素過程と二酸化炭素溶解過程を別々に行う場合には、二酸化炭素以外の不活性ガス(例えば、窒素ガス)によるバブリングや真空脱気装置を利用して脱酸素過程を行ってもよい。
【0043】
また、前記した飼育水浄化装置の構成を変更してもよい。
例えば、前記した実施形態では、窒素固定槽3Aを二つ備える形態を例示したが、窒素固定槽3Aの個数を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、窒素固定槽3Aを一つとしてもよいし、三つ以上としてもよい。なお、前記した実施形態では、複数の窒素固定槽3Aを直列に設けた場合を例示したが、並列に設けても差し支えない。
【0044】
また、前記した実施形態では、開放容器41を二つ備える酸素供給手段4を例示したが、開放容器41の個数を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、開放容器41を一つとしてもよいし、三つ以上としてもよい。なお、前記した実施形態では、複数の開放容器41を直列に設けた場合を例示したが、並列に設けても差し支えない。
【0045】
また、飼育水槽T内で行うエアレーションだけで飼育水W1の溶存酸素量を適切な状態に維持できる場合には、酸素供給手段4を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る飼育水浄化装置の構成を説明するための循環ろ過系統図である。
【符号の説明】
【0047】
1 循環ライン
2 水質調整手段(脱酸素手段、二酸化炭素溶解手段)
3 窒素固定手段
3A 窒素固定槽
4 酸素供給手段
T 飼育水槽
1〜W5 飼育水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼育水槽から取得した飼育水に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素過程と、
飼育水に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解過程と、
濾材の集合体からなる微生物担体を充填した窒素固定槽に前記脱酸素過程および前記二酸化炭素溶解過程を経た飼育水を通水する窒素固定過程と、
前記窒素固定過程を経た飼育水を前記飼育水槽に戻す飼育水供給過程と、を含むことを特徴とする飼育水浄化方法。
【請求項2】
前記脱酸素過程では、飼育水槽から取得した飼育水に飽和溶存二酸化炭素量以上の二酸化炭素を供給することで、前記飼育水に含まれる溶存酸素量を減少させることを特徴とする請求項1に記載の飼育水浄化方法。
【請求項3】
前記飼育水供給過程において、前記窒素固定過程を経た飼育水に酸素を供給することを特徴とする請求項2に記載の飼育水浄化方法。
【請求項4】
前記窒素固定槽を逆洗する洗浄過程を含むことを特徴とする請求項3に記載の飼育水浄化方法。
【請求項5】
前記窒素固定槽から前記微生物担体を取り出し、前記微生物担体に坦持されている窒素固定菌を洗い流す洗浄過程を含むことを特徴とする請求項3に記載の飼育水浄化方法。
【請求項6】
飼育水槽中の飼育水を循環させる循環ラインと、
前記飼育水槽から取得した飼育水に含まれる溶存酸素量を減少させる脱酸素手段と、
前記飼育水に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素溶解手段と、
濾材の集合体からなる微生物担体を充填して形成した窒素固定槽と、を備える飼育水浄化装置であって、
前記脱酸素手段を、前記窒素固定槽の上流側に設けたことを特徴とする飼育水浄化装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−247255(P2009−247255A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97791(P2008−97791)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】