説明

飽和環状炭化水素を酸素によって酸化する方法

本発明は、飽和環状炭化水素を酸素によって酸化してヒドロペルオキシド、アルコール及びケトンの混合物を得るための連続式方法に関する。より特定的には、本発明は、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを生成させるための、気泡反応器を形成するカラム中でのシクロヘキサンの酸化方法に関する。本発明に従えば、爆発の危険性を回避するための反応器のヘッドスペース中の最大酸素濃度要件を満たしながら、カラムに酸素富化空気を供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和環状炭化水素を酸素によって酸化してヒドロペルオキシド、アルコール及びケトンの混合物を得るための連続式方法に関する。
【0002】
より特定的には、本発明は、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを生成させるための、気泡反応器を形成する塔中でのシクロヘキサンの酸化方法に関する。
【0003】
この酸化工程は、例えばアジピン酸を製造するための方法の第1工程である。
【背景技術】
【0004】
アジピン酸を製造するために最も一般的に用いられている方法の1つは、シクロヘキサンを分子状酸素によって酸化してシクロヘキシルヒドロペルオキシドにし、次いでこのヒドロペルオキシドを接触分解してシクロヘキサノンとシクロヘキサノールとの混合物にすることから成る。次いでこの混合物を硝酸酸化によって酸化してアジピン酸にする。
【0005】
この第1工程のシクロヘキサンの酸化は一般的に、液体/気体2相媒体中で実施され、酸化性気体は気泡の形で気泡反応器と称される管形反応器中で液状媒体中に導入される。
【0006】
これまでに提案されているいくつかの方法では、酸化性気体流及び液体流は反応器中において並流又は向流であることができる。
【0007】
本発明の方法は、液体流及び気体流が管形反応器中で並流である具体例に関する。
【0008】
このタイプの方法においては、塔の頂部において液相が脱ガスされて、オーバーヘッド気体(ciel gazeux)(塔頂ヘッドスペース中の気体)が形成される一方で、気体を(実質的に)含有しない液相が回収される。このオーバーヘッド気体は、未反応気体供給物、特に未消費酸素並びに炭化水素及びその他の有機物質の蒸気から成る。炭化水素及びその他の有機物質の濃度は、採用した温度及び圧力条件下におけるこれらの化合物の蒸気圧によって決定される。
【0009】
この気体及び蒸気の混合物の爆発を防止するためには、チャンバー中の炭化水素以外の気体の容量に対する酸素の容量濃度を所定の限界値(上限)より低くすることが必要である。かくして、酸素、窒素及びシクロヘキサンの混合物の場合には、この上限は酸素及び窒素の容量に対して酸素8.5%である。この酸素濃度範囲においては、気体混合物は、炭化水素(例えばシクロヘキサン)の蒸気及びその他の有機化合物の蒸気の濃度に拘らず、非爆発性状態にとどまっている。これらの酸素濃度限界は、酸素/窒素/シクロヘキサン系のようなすでに用いられているある種の系については公表されていて当業者に周知であり、また、気体混合物の爆発限界を測定するための既知の公表されている方法を利用することによって当業者が容易に決定することができる。かくして、当業者であれば、それぞれの特定の系について炭化水素を酸化する前に慣用の技術によって上限酸素濃度を決定することができる。より明確にするために、本明細書においてはこの濃度限界を上限酸素濃度と称する。
【0010】
目下のところ、この安全性の基準は、例えば反応器に供給される酸素の量を調節することによって守られている。
【0011】
従って、これまでは、反応器に多量の酸素を供給することはできず、一方では管形反応器中の気相の経路に沿って酸素濃度が低下してしまっていた。
【0012】
反応器に供給される酸素の量及び特にその気相濃度についてのこの仕様は、速い酸化反応速度が達成されるのを妨げる。この低い酸素濃度はまた、酸化反応のヒドロペルオキシド選択性にも影響を及ぼす。
【0013】
さらに、反応器のヘッドスペース中の容量酸素濃度の効率的な制御を達成するために、全ての酸素を塔の底部において供給することが知られている。従って、酸素濃度又は分圧は反応器に沿って低下してしまい、反応器全体で速い反応速度が達成されるのが妨げられる。
【特許文献1】国際公開WO03/031051号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、反応器のヘッドスペース中の容量酸素濃度を反応器中に存在する液相中の酸素濃度又は分圧に拘らず8.5%より低くする方法を提供することによって、これらの欠点を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的で、本発明は、管形気泡反応器中で飽和環状炭化水素を酸素によってヒドロペルオキシド、アルコール及びケトンの混合物へと連続的に酸化する方法を提供する。この方法は、
・酸化されるべき炭化水素の液体流及び酸素を含有する気体流を前記反応器にその塔の底部から供給し、前記気体流は気泡の形で導入され、
・この気泡を含有する液体流を前記塔中に通し(循環させ)、
・塔の頂部において前記液相を脱ガスすると共に、塔の上方部分にオーバーヘッド気体を形成させ、
・反応生成物を含有する液相を脱ガス帯域において取り出す
ことから成る。
【0016】
本発明の方法は、反応器中に非酸化性気体を脱ガス帯域若しくはそのすぐ上流の液相において及び/又は反応器のオーバーヘッド気体において、反応器のヘッドスペース中の容量酸素濃度を上限酸素濃度を超えない値に保つのに足りる流量で、供給することを特徴とする。炭化水素がシクロヘキサンであり且つ酸化性気体が窒素と酸素との混合物である場合には、この上限は8.5%である。有利には、非酸化性気体の流量は、反応器のヘッドスペース中の酸素濃度が上限酸素濃度より約30%低くなるように決定される。かくして、炭化水素がシクロヘキサンである場合、酸化性気体の流量は、反応器のヘッドスペース中の酸素濃度が5%を超えない値になるように決定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
前記の非酸化性気体は、窒素、不活性気体及び酸素欠乏空気から選択されるのが有利である。
【0018】
本発明の別の特徴に従えば、前記飽和環状炭化水素は、シクロヘキサン、デカリン及びシクロドデカンから選択される。
【0019】
本発明に従えば、反応器のヘッドスペースに所定量の非酸化性気体を供給することによって、オーバーヘッド気体の容量酸素濃度が常に所定値(即ち、酸化されるべき炭化水素がシクロヘキサンであり且つ気体が酸素及び窒素である場合には8.5%)より低くなるように調節することができる。
【0020】
このヘッドスペースに供給される非酸化性気体の量は、管形反応器に供給される酸素の量に応じて決定される。
【0021】
かくして、注入すべき非酸化性気体の最大量は、塔に注入した全ての酸素が反応器のヘッドスペースにある場合、即ち酸化反応が起こらなかった場合に(ヘッドスペース中の)酸素濃度が8.5%より低くなるように、決定することができる。この量はもちろん、導入することができる非酸化性気体の最大量である。塔内の酸素消費を考慮に入れると、供給量をもっと少なくすることができる。
【0022】
本発明の方法においてはまた、特に例えば酸素富化空気又はさらには純粋な酸素のような酸素含有率が高い気体を供給することによって、塔に多量の酸素を供給することが可能である。そのため、液体中に分散される気泡中の酸素分圧が高くなり、酸化反応速度が高められる。このように反応速度が高められることに伴って、シクロヘキシルヒドロペルオキシドへの酸化の選択性がより高くなる。
【0023】
本発明の方法においてはまた、塔の長手方向に沿って様々な地点で酸素又は酸素含有気体を供給することも可能であり、従って実質的に塔の反応帯域全体に沿って気泡中の酸素分圧を最大限可能なものに保つことができる。実際、反応器のオーバーヘッド気体に到達する酸素は本発明に従って供給される非酸化性気体中に希釈されるので、ヘッドスペースに到達する気泡中の酸素濃度はそれほど低くなくてもよい。
【0024】
従って、本発明の方法により、塔の反応帯域を通じて速い酸化反応速度を達成することができる。
【0025】
本発明の特定的な具体例に従えば、管形反応器には、反応器をいくつかの段に分ける棚板(plateaux)が設けられる。これらの棚板は、液体及び気泡がそれぞれの棚に蓄積したりオーバーヘッド気体を形成したりすることなく流れることができるようにするために、多孔にされている。かかる反応器はすでに知られており、多孔棚板を含む反応器の具体例は国際公開WO03/031051号パンフレットに記載されている。
【0026】
酸素含有気体は、全部を塔の底部において供給してもよく、塔のいくつかの地点(有利には棚板によって隔てられた各段)において、供給してもよい。
【0027】
酸素含有気体を塔のいくつかの地点において供給する具体例において、供給される気体中の酸素濃度は、それぞれの供給地点において同じであっても異なっていてもよい。同様に、気体及び酸素の量も、それぞれの供給地点において同じであっても異なっていてもよい。有利には、塔の底部において供給される酸化性気体中の酸素含有率は高くし、塔の底部から上方(酸化性気体の別の供給地点)にかけて低下していくようにする。
【0028】
本発明の1つの具体例に従えば、前記非酸化性気体は、脱ガス帯域(脱ガス手段)のすぐ上流の液相に供給するのが有利である。実際、この気体の供給(態様)により、酸素を含有する気泡と非酸化性気体との間の混合が促進される。かくして、気体がヘッドスペースに到達する前に酸素含有率の均一性が保証される。
【0029】
本発明のその他の詳細及び利点は、以下にもっぱら情報のために与えた実施例からより一層明らかになるであるだろう。以下の実施例においては、本発明の方法に従う気泡反応器の1つの具体例を示す添付図面を参照して説明を行う。
【0030】
本発明の方法を、管形気泡反応器(1)中で実施する。この管形気泡反応器(1)においては、酸化されるべき炭化水素の供給口(2)が塔の底部に設けられている。
【0031】
この反応器にはさらに、酸化性気体供給口(3)がこれもまた塔の底部に設けられている。この酸化性気体供給口には、液相中に分散した気泡の形で気体を供給するための装置(図示せず)が設けられる。
【0032】
示した具体例において、反応器(1)又は塔には、塔をいくつかの段に分ける多孔棚板(又は水平仕切り)(4)が設けられる。
【0033】
示した反応器(1)にはさらに、棚板(4)で画定された所定の段に、別の酸化性気体供給口(5)が設けられる。これらの供給地点(5)は、供給地点(3)と同様であるのが有利である。
【0034】
反応器(1)には、塔の頂部において気体出口(6)が設けられ、塔の頂部(7)において形成されたオーバーヘッド気体を排出させることができるようになっている。
【0035】
示した具体例に従えば、この反応器には、液相の上方液面の真下に浸漬された容器によって形成される脱ガス帯域(8)が設けられる。
【0036】
液相はオーバーフローによってこのチャンバーに入る。このチャンバーには、塔の外に向けた排液口(9)が設けられる。この排出管(9)からこうして回収された液体は、分散した気泡が存在しない酸化化合物を含む。
【0037】
本発明に従えば、この反応器には、示した具体例においては脱ガス帯域の上流の最後の段に、非酸化性気体供給口(10)が設けられる。
【0038】
この供給口から非酸化性気体が供給され、これにより、反応器のヘッドスペース(7)中の酸素濃度を保って調節することができる。
【実施例】
【0039】
本発明のその他の詳細及び利点は、以下にもっぱら例示のために与えたものであって本発明を限定することのない実施例並びに本発明の方法を実施するために用いられる反応器の具体例の概略図を示す唯一の添付図面から、より一層明らかになるであるだろう。
【0040】
図に示した反応器(1)中で、シクロヘキサンのシクロヘキシルヒドロペルオキシド(HPOCH)、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの混合物への酸化の試験を実施した。
【0041】
この反応器は、直径0.1m、高さ8mで、5個の多孔棚板(4)を有するものである。
【0042】
反応器中の温度は184℃とし、絶対圧は22.6バールとした。
【0043】
塔又は反応器(1)には、塔の底部に酸化性気体供給口(3)が設けられ、上方の気液界面(即ち塔中の液面)の約10cm下に非酸化性(不活性)気体供給口(10)が設けられる。
【0044】
供給口(2)から、シクロヘキシルヒドロペルオキシド0.2重量%を含むシクロヘキサン流を供給した。
【0045】
反応器中のシクロヘキサン転化率は4.5%だった。この転化率を得るために、反応器中のシクロヘキサン供給速度を調節した。供給口(10)から供給される非酸化性(不活性)気体の流量は、反応器のヘッドスペース(7)においてN2+O2の合計に対するO2の容量比が2%を超えないように決定した。
【0046】
各種試験についての条件及び得られた結果を下記の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
生産性は、反応器容量1m3に対して単位時間当たりに回収される酸化生成物の量を表わす。
【0049】
これらの試験から、本発明の方法によってアップグレード可能な物質(即ち例えばアジピン酸に転化可能な物質)の選択性を高めることができるということが示された。「選択性」とは、アップグレード可能な物質の収率をアップグレードされるべき物質の転化率で割った商を意味する。
【0050】
また、これらの結果から、所定の反応器において生産性が有意に増大することも示された。
【0051】
これらの結果は、安全性の基準を厳密に守って得られたものである。
【0052】
実際、本発明の方法は、同じ寸法の反応器中でより多い量のシクロヘキサンを転化させることができる。実際、試験1〜3で供給したシクロヘキサンの流量は比較試験のものよりはるかに高い。従って、反応の生産性が高められ、選択性も改善される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の方法を実施するために用いられる反応器の具体例の概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1・・・塔形反応器
2・・・酸化されるべき炭化水素の供給口
3、5・・・酸化性ガス供給口
4・・・多孔棚板
6・・・気体出口
7・・・ヘッドスペース
8・・・脱ガス帯域
9・・・排液口
10・・・非酸化性気体供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和環状炭化水素を酸素によってヒドロペルオキシド、アルコール及びケトンの混合物へと連続的に酸化する方法であって、
酸化されるべき炭化水素の液体流及び酸素を含有する気体流を塔の底部から並流で供給し、塔の頂部においてオーバーヘッド気体を形成させて、液相を脱ガスし、且つ脱ガスされた液相を取り出すことから成り、
非酸化性気体流を前記オーバーヘッド気体に及び/又は脱ガス帯域若しくはそのすぐ上流の液相に、オーバーヘッド気体の酸素濃度を上限酸素濃度を超えない容量濃度に保つのに足りる流量で、供給することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記非酸化性気体が窒素、不活性気体又は酸素欠乏空気であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記飽和炭化水素がシクロヘキサン、デカリン及びシクロドデカンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記上限酸素濃度が炭化水素がシクロヘキサンである場合に8.5%であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記塔が多孔棚板を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記塔の様々な段に酸素含有気体を供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記塔の各段に供給する酸素の量を等しくすることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記塔の各段に供給する酸素の量を塔中の液相が流れる方向に沿って減らしていくことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
様々な段に供給される酸化性気体が可変濃度の酸素を含有するものであることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記酸素含有気体が酸素、酸素富化空気及び酸素欠乏空気より成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−515957(P2008−515957A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536209(P2007−536209)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002461
【国際公開番号】WO2006/040442
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【Fターム(参考)】