説明

香辛野菜類の乾燥方法、乾燥香辛野菜類、乾燥香辛野菜類を含む食品

【課題】根茎を利用する香辛野菜類を従来の乾燥法により加工する場合には含まれる香辛成分・生理活性成分・酵素類等が乾燥中に揮散・分解・失活したり、あるいは乾燥工程中に分解物が生じて良好な風味を保持し、また高い生理活性を保持する乾燥製品を得ることは困難であった。
【解決手段】香辛野菜類を3mm以下に切断し、糖処理を実施、あるいは実施せずして雰囲気条件を温度50℃以下・相対湿度50%以下として10時間以内に水分率10%以下にまで乾燥し、さらに60℃以下で20時間以内に水分率5%以下に乾燥する。また、サプリメント・機能性食品・健康食品として利用する場合には、かくして得られる乾燥香辛野菜類を単独、ないしは複合して粉末化・打錠・カプセル充填等して服用に供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品乾燥ないしは乾燥食品に関する技術分野に属し、より正確にはオニオン・ニンニク・ワサビ・生姜・ホースラディシュ等の、根茎を香辛料として使用する野菜類の乾燥製品・乾燥方法・およびその機能性食品としての利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オニオン・ニンニク・ワサビ・生姜・ホースラディシュ等は根茎を磨り下ろす、砕く、細切する等して食べ物の加工、ないしは調理に添加して風味・香味の向上、あるいは食べ物の不快な風味・臭いを矯正に利用される。また、ウイキョウ・胡麻・胡椒・ナツメグ・クロ−ブ等は香辛料の代表的なものであるが、主として乾燥した種子が香辛料として使用されるのに対し、前述のものは野菜類が原料であって根茎を生鮮状態で使用する。このような使用形態に着目して、これらの野菜類を香辛野菜類と呼ぶことも多い。
【0003】
また、この種の野菜類の中には生理作用のあるものも知られている。例えば、生姜は漢方薬の処方にしばしば用いられることはよく知られている。ニンニクはビタミンB1の吸収を促進する効果のあることも周知である。
【0004】
香辛野菜類は前述のものの他に葉・茎等を使用するものがあるが、本発明は根茎類を細切・磨砕・破砕する等して使用するものに対して適用されるものである。
【0005】
オニオン・ニンニクの香辛成分はスルフィド・ジスルフィドのような揮発性有機硫黄化合物であり、これらは野菜類の根茎が傷害されると前駆体が野菜に含有される酵素により分解されて香辛成分が短時間のうちに生成する。
【0006】
生姜の香辛成分は含有される5−(3−メトキシ−4−ヒジロキシフェニル)−3−オキソ−1−ペンテノ−ルおよび、この物質の1位に低級アルキル鎖が付加されたポリフェノ−ルアラルキルケトンアルコ−ル類であり、傷害された根茎組織から滲出することにより香辛作用を発揮する。また、辛味成分のジンゲロ−ルは空気酸化や加熱によりショウガオ−ルに変化する。
【0007】
また、ニンニクの香辛成分の一つは含硫黄有機物であるアリシンで、この化合物もニンニク組織の傷害後に前駆体であるアリインからアリイナ−ゼにより酵素的分解により生じることは周知である。
【0008】
ワサビの香辛成分は6−メチルスルフィニルヘキシールイソチオシアネイトであり、ワサビ組織の傷害により前駆体である6−メチルスルフィニルヘキシールグルコシノレイトがらミロシナ−ゼ酵素の加水分解により生成することも周知である。ホースラディシュの場合も組織傷害によりアリルグルコシノレイト(シニグリン)からミロシナ−ゼの加水分解により刺激性の強いアリルイソチオシアネイト(芥子油)が発生することも周知である。
【0009】
前述のとおり、本来はこれらの香辛野菜類は生鮮のものを使用直前に細切・磨砕・破砕して使用していたのであるが、食生活の簡便化、および食品加工工場での節水・調理屑の発生抑制、あるいは生鮮の野菜類を扱うことによる衛生管理上の困難を回避するため、そのままを添加すれば直ちに香辛作用を発揮できる状態に加工した製品のニーズが高まっていた。ニーズに対応するものとしては乾燥製品・冷凍品・冷蔵品が考えられる。
【0010】
香辛野菜類のこのような加工品には種々あるが、各々長所と短所があり万能の製品はない現状にある。すなわち、冷凍品は風味劣化、変質が少ないが、貯蔵・輸送に冷凍庫が不可欠で、使用前の予備解凍が必要になり、案外に使用の利便性はよくない。例えば特許文献1は香辛野菜類の磨砕冷凍品の取り扱い性・使用性の向上を目的とするものである。冷蔵品について解凍は不要だが、コ−ルドチェインを前提とした輸送・保管が必要であることに変わりはないし、何よりも品質劣化・香辛活性の低下が著しく、また腐敗の問題もあって最大限でも数週間程度の賞味期限に限定される。例えば特許文献2はおろし生姜の加工に関するものであり、得られる製品の取り扱い条件・賞味期限についての明言はないが、食品加工の常識に照らせば冷凍ないしは冷蔵を前提として、冷蔵の場合には最大限で数週間程度と推察される。さらには、特許文献3にはこの種のおろし生姜製品の品質劣化を防止するためにロ−レル他の香辛野菜類のエキスを添加する特異な技術の付加を提案している。
【0011】
乾燥製品は前述の加工品とは異なり常温保管・常温流通が可能で取り扱い性・使用性は抜群であるが、乾燥中の香辛活性の低下、場合によっては品質劣化・風味の質の変化が起こり易く常温保管中の品質劣化が著しいという問題がある。[特許文献5〜9]
【0012】
本発明は以上の加工分野中の乾燥を選択するものであるが、前述のような乾燥加工に特有の、乾燥中の品質・香辛活性の低下と乾燥後の品質劣化の防止の著しい改良を実現せんとするものである。本発明によれば乾燥条件の工夫により、例え添加物を一切使用しなくても風味がよく、香辛活性の高い香辛野菜類の根茎の乾燥製品を提供することが可能になる。特許文献5はこの技術分野では最新のものに属するが、乾燥した香辛野菜類の活性[力価]を向上させるために香辛野菜類からエタノ−ル抽出エキスを調製し、これに賦形剤[揮発性香辛成分の揮散防止剤ないしは保持剤]として種々の糖類を添加して製剤化するという煩雑な加工方法を提唱している。この場合には得られる乾燥製品は野菜類の乾燥製品ではなくエキス製剤であり、本発明の食品素材そのものの乾燥製品、ないしは調理への適用という技術思想からは大いに逸脱するものである。本発明者等はあくまでも素材そのものの乾燥製品の自然な商品形態、風味・香辛活性の向上を意図するものである。
【特許文献1】特開2000−41618
【特許文献2】特開平8−116912
【特許文献3】特開平10−52236
【特許文献4】特開2006−288367
【特許文献5】特開平10−309161
【特許文献6】特開2000−189047
【特許文献7】特公昭48−28065
【特許文献8】特開昭59−205932
【特許文献9】特開平2−135069
【発明の開示】

【発明が解決しようとする問題点】
【0013】
本発明者等は香辛野菜類の根茎乾燥品の現状の製造方法を検討し二つの加工工程に大きな問題のあることに気付いた。すなわち、a)乾燥工程における香辛成分の揮散ないしは香辛成分の前駆体、および/あるいは、それを香辛成分に変換すべき酵素類の破壊、および/あるいは、原料中の諸成分の変性、異臭の発生等の変性、b)製品を粉末ないしは細片とし室温下に保管する場合の香辛活性の急激な低下、および/あるいは、乾燥製品に特有の異臭の付加である。問題点a)を解決するためには乾燥工程の条件設定の改良ないしは工夫が必要となるが、本発明者等は鋭意研究の結果、香辛活性と品質の保持に適切で、かつ量産に可能な条件を見出すことに成功した。b)の問題点の解決には粉砕または破砕条件、および/あるいは、製剤方法・形態の改良が必要となるが、本発明等は乾燥方法・条件によってはa)とb)の両法の問題が不可分に連携しており、本発明の乾燥条件下で製造し、粉砕・破砕すれば粉砕・破砕製品の保存性・香辛活性は良好に維持されることを見出だし本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては従来のこの分野の加工技術における、a)乾燥工程における香辛成分の揮散ないしは香辛成分の前駆体、および/あるいは、それを香辛成分に変換すべき酵素類の破壊ないしは変性による香辛活性の低下、および/あるいは、異臭の発生、b)製品を粉末ないしは細片として室温下に保管する場合の香辛活性の急激な低下、および/あるいは、異臭の付加を防止して、香辛料としての品質・機能が秀逸で、常温下に保存しても性能の劣化と変質の少ない香辛野菜類の乾燥製品を製造する場合に、低温下・低相対湿度下で恒率乾燥期を速やかに経過させる乾燥方法を適用することが極めて有効であることを見出だした。
【0015】
さらに、かくして得られる乾燥品は従来の一般的な乾燥法、例えば凍結乾燥法、熱風乾燥法で得られる乾燥品に比較して香辛活性。保存性がはるかに優れていること、および、本発明の製造方法の乾燥品は従来の乾燥品に比べて生理・代謝・生体機能性においてもはるかに優れており、機能性食品素材として有望であることを確認し、本発明を完成した。
【0016】
ここに言う生理・代謝・生体機能性には、例えば脂肪肝抑制作用・体脂肪蓄積抑制作用・血清脂質上昇抑制作用・血糖低下作用・疲労抑制作用・血流促進作用・体温上昇作用・エネルギ−代謝促進作用・抗鬱作用等が例示される。
【0017】
一般的に乾燥過程についての二相的理解がこの技術分野での常識となっている。乾燥の第一相は恒率乾燥期のうえ一定比率で水分が円滑に被乾燥物から蒸発する。この相では被乾燥物中の自由水[被乾燥物中の成分と物理・化学的相互作用のない、もしくは相互作用が著しく微弱な水]が蒸発する段階と理解されている。自由水が蒸発し終わると結合水の蒸発する第二相[減率乾燥期]に移行する。あるいは、自由水の蒸発段階であっても乾燥により原料の萎縮による組織の緻密化や、原料表面に緻密な水蒸気透過抵抗層が生成した場合でも第二層に移行する。第二相では時間の経過とともに蒸発する水分の比率は徐々に低下する。ここに、結合水とは被乾燥物中の種々の物質、特に糖類や蛋白質のような水と水素結合・ダイポ−ル/ダイポ−ル結合・イオン結合する能力のある成分と化学的・物理的に結合する水分である。本発明者等の研究・経験から乾燥の第一相、すなわち恒率乾燥期においてこの相からの離脱が長引いたり、この相の実施の温度が比較的高い場合には乾燥製品における香辛成分含量の低下・異臭の発生・着色・乾燥製品の保存性不良等の好ましくない結果が頻発することを認識した。この理由として、恒率乾燥期では化学反応・酵素反応の反応場となる自由水が豊富に存在するために、従来の熱風乾燥法の適用の場合には比較的高温度条件であるために、水溶性成分間の化学反応、酵素反応が活発に起こるとともに、多糖類・蛋白質・核酸・脂質等からなる被乾燥物の細胞器官や構造が細胞内酵素類の作用により分断・溶解・破壊される等して、細胞内で高度の制御下に体系的に営まれていた代謝反応が無秩序に行なわれ、および/あるいは、細胞の死滅時や緊急時に発動される代謝系が活性化されて異常な種々の反応が起こり、香辛成分ないしはその前駆体の分解や異臭の原因となる物質やその前駆体が生成・蓄積される結果であると推察される。
【0018】
逆に恒率乾燥期を速やかに、かつ比較的低温度で通過させると乾燥製品の香辛料としての品質は優秀で、粉砕・破砕しても常温下に安定して保管できることを本発明者等は見出だした。恒率乾燥期を速やかに、かつ比較的低温で通過させると前述のような細胞構造の破壊・撹乱が軽度に納まり、香辛成分ないしはその前駆体の消耗や異臭成分とその前駆体の生成・蓄積も軽度で済み、自由水が消耗される結果、以後の変化・劣化が大幅に緩和ないしは停止するからであると推察される。また、細胞内の構造も比較的無傷のまま乾燥・固定化されるために異常な反応が起こり難いことも加味されている可能性もある。さらに、本発明の乾燥条件を適用すると酵素類の活性も乾燥製品に良好に保持されることも見出だされた。
【0019】
一般的に植物原料を乾燥加工する場合には前処理段階で種々の糖類等で処理し、糖類を浸透、ないしは表面に付着させてから乾燥する技術が汎用されている。しばしば用いられる糖類には、ブドウ糖・乳糖。麦芽糖等の単糖類や二糖類、水飴・デキストリン類等のデンプン加水分解物、デンプン類・可溶性デンプン・寒天・アラビアガム等の多糖類、さらにはゼラチン・卵白およびその加工品等の蛋白質も用いられる。これらの添加物は乾燥品のボディを強化して包装・輸送・取り扱い中の壊れ防止、水注加して水戻りさせる場合の復元性の向上、保存中の変色・吸湿の防止等の効果を期待するものである。一般に乾燥品重量中、数%〜数十%程度の糖類を含浸させるが、多くを含ませる場合には単なる糖類の振り掛け、水溶液への浸漬の他、振り掛け・浸漬してから真空/常圧の圧力処理を単回ないしは複数回反復して大気圧により強制浸透させる技術もこの分野ではよく用いられている。さらに、植物性乾燥食品の安定性[室温下での包装状態での色彩・風味の安定維持]に必要な、乾燥上がり時の水分率はかねがね5%以下、好ましくは3%以下であると言われている。この仕上がり水分率については糖類を添加した場合には多少緩和できるとも言われているが、本発明においては従来の数値を採用する。
【0020】
本発明者等は本発明の実施において前述の糖処理技術の適用を検討したが、特定の糖類を選択する場合には糖処理の既知の効果の他に、本発明の実施にさらに有利な効果の得られる場合のあることを知った。ここに言う特定の糖類とはトレハロ−ス・デキストリン・マルトデキストリン・マルトシールトレハロ−ス・ショ糖・シクロデキストリン・エリスリトール・パラチノース・オリゴ糖・還元麦芽糖・クラスターデキストリン等である。本発明では前述のように乾燥工程を明確に二相に分け、後述するように第一相の乾燥工程では従来の乾燥方法よりもはるかに厳密に温度・湿度を管理しなければならない。しかし、大規模に本発明を実施する場合には乾燥条件の軽度の逸脱はしばしば起こりうる。このような逸脱のあった場合でも、これらの糖類で処理しておくと条件逸脱による乾燥品の品質劣化を防止ないしは軽減できることが認められた。
【0021】
従来の凍結乾燥の場合には香辛野菜類の細胞や含まれる諸成分は急速凍結によって固定化され、凍結状態のまま乾燥が進行するので細胞構造・酵素類・諸成分は乾燥後も良好に保持され、秀逸な香辛活性・品質を有する乾燥製品となるはずであるが、必ずしもそうではない。その理由の一つは凍結乾燥が高度の減圧[真空]条件下[通常、1Torr以下、場合によっては0.1〜0.3Torrにまで達する]で長時間[16〜24時間程度]実施されるためにその多くが揮発性である香辛成分が乾燥中に揮散してしまうこと、凍結により細胞内に氷晶が生成して物理的に構造が破壊・撹乱されること、および、工業的な凍結乾燥方法では一般的に凍結乾燥後期に減率乾燥期の乾燥時間節約のために乾燥棚を常時加熱して被乾燥物を加熱し[一般的に50〜60℃程度に被乾燥物の温度は上昇する]必ずしも凍結・低温状態が維持されているとは限らないということがあげられる。
【0022】
本発明において恒率乾燥期を速やかに、かつ比較的低温度で通過させる具体的技術手段として、a)被乾燥物を薄くスライスすること、b)冷風乾燥方法に除湿技術を組み合わせた冷風除湿乾燥法を採用して所望の乾燥製品を得んとする。ここに「薄くスライスする」とは厚さ3mm以下を言う。「低温乾燥法」とは「熱風乾燥法」に対置される技術用語であり、ここにに「熱風」とは60℃以上を、「低温」とは50℃以下を指すものと定義される。
【0023】
また、「除湿」とは乾燥により発生する水蒸気を乾燥雰囲気から人為的・強制的に捕捉ないしは排除する手段を併用して乾燥することであり、具体的には乾燥雰囲気を相対湿度50%以下に維持する手段を乾燥工程に適用することを言う。より具体的には機械的な除湿と物理化学的な除湿方法が適用できる。
【0024】
機械的除湿とは乾燥雰囲気を循環させるか、乾燥雰囲気に供給する空気を局所的に低温部に接触させるか通過させて空気中に含まれる水蒸気を結露ないしは結氷させて捕捉する手段を言う。乾燥装置中の通風ないしは空気循環経路中にフィン・パイプライン・プレ−ト等を設置し、これらの手段中に冷媒を循環させて結露ないしは結氷させて水分を除去し乾燥雰囲気の相対湿度を低度に保持することが一般的に行なわれる。
【0025】
物理化学的除湿とは水と強く結合する物質に空気を通過ないしは接触させて水分を除去する方法であって、除湿するために用いる物質は吸湿剤・吸水剤・乾燥剤等と呼ばれる。濃度の濃い硫酸・リン酸等の鉱酸類溶液、五酸化燐・シリカゲル・生石灰・ライム類・モレキュラーシーブ類・ゼオライト類・セライト類・無水アルミナ・乾燥粘土類・セメント等の乾燥した、あるいは水と反応性を有する無機物類、塩化カルシウム・硫酸ソ−ダ・硫酸マグネシウム・塩化リチウム等の吸水性塩類の固体や濃厚水溶液等がしばしば用いられる。装置的にはこれらの乾燥剤・吸水剤を適宜の容器に入れてこの中を空気を通過させるか、開放表面積が大きくなるようにこれらの乾燥資材を満たした開放容器を乾燥装置内に保持して除湿に供する。また、これらの乾燥資材を満たした乾燥装置に乾燥雰囲気を循環させ、乾燥資材を外部系において加熱する等して強制的に含有水分を蒸発させて乾燥剤・吸水剤を再生する機構も当然に採用されうる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によればオニオン・ニンニク・ワサビ・生姜・ホースラディシュ等の根茎を利用する香辛野菜類を、香辛成分ないしはその前駆体の保持が良好で、異臭が少ない乾燥製品を製造することができる。また、本発明の乾燥品は粉砕・破砕した場合にも常温下で保存性の良好な乾燥製品とすることができる。また、本発明により製造される乾燥製品は食品加工・調理において、生鮮の根茎を利用する香辛野菜類を現場で水洗・裁断・磨砕、および廃棄物を処理する等の困難を回避して、現場で加水して簡便・衛生的・即時的に利用することが可能となる。
【0027】
さらに、本発明により得られる乾燥製品は従来の乾燥製品よりも優れた生理・代謝・生体機能性を示す。ここに言う生理・代謝・生体機能性には、例えば脂肪肝抑制作用・体脂肪蓄積抑制作用・血清脂質上昇抑制作用・血糖低下作用・疲労抑制・血流促進作用・体温上昇作用・エネルギ−代謝促進作用・抗鬱作用等が例示される。よって、本発明の乾燥製品をそのまま、あるいはチップ・粉末として、さらには所望によりカプセル化・錠剤化する等すれば健康の維持・向上を目的とする健康食品・機能性食品・サプリメントとして利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明においては先ず被乾燥物である香辛野菜類の根茎を前処理する。前処理とは土泥の除去、水洗、不要部・悪変部の除去、殺菌等の処理であるが、これらは一般的技術の適用で目的を十分に達することができる。本発明の本質的な技術構成はこの部分にはない。
【0029】
次に本発明の必須の技術構成の一つとして被乾燥物を薄くスライスする。すなわち厚さ3mm以下、より好ましくは1〜2mm程度にスライスする。市販のスライサ−を用いればこの工程は特に困難なく実施しうる。
【0030】
所望によりスライス片を糖処理することもできる。一般的に乾燥野菜製品の製造においては乾燥後の製品品質の安定化、壊れ防止、乾燥重量歩留まり向上、乾燥後の吸湿防止、外観向上等の目的で賦形剤を添加することは広く行なわれる。本発明においても賦形剤添加を排除するものではない。乾燥製品において85%以下程度の賦形剤の含有は乾燥工程においても、乾燥後の製品品質においても本発明の目的を妨げない。賦形剤を含有する乾燥製品を製造する場合にはスライスした被乾燥物を糖処理してから乾燥することが一般的に行なわれる。実施態様としては賦形剤と直接混合(振り掛け)、糖類溶液との混合ないしは浸漬等があげられる。
【0031】
賦形剤としては糖類[デキストリン類、シクロデキストリン類・水溶性多糖類[可溶性デンプン類、寒天、カラギナン、各種のガム類[トラガント・グァー・アカシア・キサンタン・ローコストビーン・ジェラン等のガム類]、可溶性の化工セルローズ類[メチル・エチル・ヒドロキシメチル・ヒドロキシエチル・ヒドロキシプロピル等の側鎖を付加したセルローズ類]、単糖類[ブドウ糖・ソルビトール・マニト−ル・キシリトール等]、二糖ないしは少糖類[麦芽糖・ショ糖・パラチノース・トレハロース・エリスリトール・ラクチュロース等]等が広く用いられる。また、卵白・ゼラチン等の無色・無味・無臭の蛋白質類も広く使用される。これらの賦形剤は単用の他、適宜配合して用いることも広く行なわれる。トレハロース・デキストリン・マルトデキストリン・マルトシールトレハロース・ショ糖・シクロデキストリン・エリスリトール・パラチノース・オリゴ糖・還元麦芽糖・クラスターデキストリン等は特に好ましい糖類としてあげられる。すなわち、これらの糖を前処理で使用した場合には第一相での乾燥温度の上方への逸脱、あるいは湿度の上方への逸脱等の乾燥条件の多少の逸脱のあった場合でも乾燥品の香辛活性は良好に維持される場合の多いことが明らかとなった。
【0032】
また、所望によっては賦形剤とともに他の食品添加物を適宜併用することも広く行なわれる。具体的には抗酸化剤[アスコルビン酸およびその塩類、トコフェノール類、ポリフェノール類[茶カテキン、グアヤク脂製品等]]、キレート剤[EDTA、有機酸類[クエン酸・林檎酸・酒石酸・乳酸等]およびそれらの塩類]、pH調整剤[有機酸類、鉱酸類[リン酸、重合リン酸類、重曹、炭酸ソーダ]等の塩類]等が一般的に添加され、これらの乾燥製品中での含有量は通常数千〜数百ppm程度である。これらは乾燥製品の保存性を向上させる目的で添加されるが、本発明においても添加を排除するものではない。
【0033】
本発明では乾燥工程において比較的低温の50℃以下かつ相対湿度(RH)50%以下、より好ましくは40℃以下・RH40%以下で10時間以内、より好ましくは5時間以内に水分率10%以下とし、さらに、60℃以下、好ましくは50℃以下で20時間以内、より好ましくは10時間以内に水分率5%以下、より好ましくは3%以下にまで乾燥する。特に第一段階の乾燥条件(恒率乾燥期の乾燥に相当)での温度・相対湿度の維持は必須の要件として認識された。本発明者等の経験では概ね水分率10%程度が恒率乾燥期と減率乾燥期との境界であると推測される。ここにおいて乾燥途中で被乾燥物の状態を観察しながら、より短時間で乾燥するために雰囲気温度を変化させることも当業者にとっては汎用の技術である。よって、乾燥開始時の余剰の自由水存在下での被乾燥物の品温上昇による品質劣化[蒸れ]を極力最小限化するために室温〜30℃の比較的低温から乾燥を開始し数時間〜10時間程度経過後に40〜50℃の比較的低温に上昇させることは本発明の技術構成の範囲内である。もちろん多段階の温度変化設定も本発明の温度・時間制約条件範囲内であれば随意である。現在の乾燥装置の作動は多くはコンピューター制御化されているので、多段階温度設定制御は必ずしも困難な操作方法ではない。
【0034】
本発明において上述のような比較的低温における急速な乾燥を実現するためには乾燥雰囲気の相対湿度を50%以下、より好ましくは40%以下に維持しうる除湿乾燥機能を有する乾燥装置を使用する。ここにおいて乾燥装置の除湿能力と仕込み量との関係も雰囲気相対湿度の維持に大いに影響することは当業者には周知である。すなわち、乾燥能力を越えて乾燥機に原料を仕込む場合にはいわゆるオーバーロード状態となり、所望の乾燥条件を維持することが不可能となる。乾燥開始直後は前処理で付加された水分が蒸発することもあり、往々にして雰囲気相対湿度が50%を越える現象が観察されるが、断続的で、逸脱時間の総計が全体の乾燥時間に比べて比較的短期間であれば乾燥製品の品質に大幅な影響は与えないことの多いことが経験された。ここに言う「比較的短時間」とは概ね乾燥全体所要時間の20%程度以内の範囲を言う。
【0035】
トレハロース・デキストリン・マルトデキストリン・マルトシールトレハロース・ショ糖・シクロデキストリン・エリスリトール・パラチノース・オリゴ糖・還元麦芽糖・クラスターデキストリン等は特に好ましい糖類としてあげられる。すなわち、これら糖類を使用する場合には、各乾燥段階での温度を各々約10℃程度、湿度条件を約10%程度、短時間[すなわち、設定条件を維持すべき時間の20%以内]逸脱した場合でも香辛活性の低下は全く見られないか、あるいは軽微の範囲に抑制される。よって、大量生産においてこれらの糖類での前処理を併用する場合には乾燥条件制御の精度をある程度緩和することが可能になる。
【0036】
本発明に適用可能な乾燥装置ないしは設備の仕様については前述したとおり、局所冷却による結露・結氷方式の湿度低下、あるいは吸水剤・除湿剤・乾燥剤を併用する冷風乾燥装置が本発明の目的に適している。この両様の手段を併用することはもちろん許容されうる。あるいは仕込み負荷率が軽度の場合には冷風・除湿併用乾燥方法に代えて単純な除湿乾燥方法だけを採用することも可能である。具体的には密閉雰囲気、あるいは温度制御のない単純な循環雰囲気中に前述のような吸水剤・吸湿剤・乾燥剤を作用させて乾燥させる方法等が適用可能である。
【0037】
もっとも、恒率乾燥期を脱した後には被乾燥物の物理的・化学的状態は比較的安定しているので、以後は他の乾燥方法により所定の時間内の減率乾燥期を経過させることもできる。援用できる乾燥法には通風乾燥法・天日乾燥法・真空乾燥法・熱風乾燥法・凍結乾燥法・乾燥剤による乾燥法等があげられる。熱風乾燥法を援用する場合では雰囲気温度60℃以下で実施することが好ましい。もちろん、引き続いて除湿冷風乾燥法を続行して仕上げ乾燥を完遂することも可能である。
【0038】
以上、本発明の乾燥製品の製造方法について解説したが、以下に実施例を示して本発明をより具体的・多面的に記述する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本明細書全体、および別紙の特許請求の範囲の記載により描出される本発明の技術的思想の範疇に留まるものは本発明の範囲に包含されるものであることは言を俟たない。
【実施例1】
【0039】
市販の生姜を水洗し剥皮してから2mm厚にスライスした。雰囲気温度50℃、相対湿度30%で通風乾燥した。乾燥開始後10時間で水分率は10%以下となった。半乾燥製品を生石灰を充填した通風手段を設けた乾燥装置中で50℃に保温してさらに10時間を掛けて水分率約4%とした。これを乳鉢で砕いて60メッシュパス程度の粉末とし、8倍量の水を加えて水戻しして試食すると新鮮な生姜のフレ−バ−と辛味が強く感じられた。対照として生姜の凍結乾燥製品[水分率約3%;同様にスライスして−30℃で凍結乾燥し1Torr以下、最終加熱棚温度60℃で20時間乾燥し同様に粉砕したもの]、熱風乾燥品[水分率約5%;同様にスライスし80℃、15時間乾燥後シリカゲルで10時間追乾燥したものを同様に粉砕したもの]を同様に試食すると、凍結乾燥品はフレッシュ感のある風味を有するものの生姜特有の辛味風味は本発明の製品に比べてやや劣り、熱風乾燥品はややひなびた風味を帯び生姜特有の辛味風味は凍結乾燥品よりもさらに劣っていた。本発明の生姜粉末を0.6mm厚のポリエチレン袋に市販の生石灰乾燥剤とともに封入し室温下に2ケ月間放置し同様に試食すると生姜特有の辛味はやや低下したものの異臭・変色等は観察されず、冷やしうどんのつゆに適量添加してうどんを食すると充分に薬味の機能を果たした。
【0040】
雰囲気温度を60℃・相対湿度30%に設定して同様に乾燥すると10%以下の水分率に達するのに24時間を要するが、製品の香辛活性は著しく減じ、特有の蒸れ臭が付加された。雰囲気温度50℃・相対湿度60%に設定して同様にすると水分率10%以下に達するのに24時間以上を要するが、製品の品質は同様に著しく損なわれた。
【実施例2】
【0041】
通販で購入したワサビの根茎を2mm厚にスライスし実施例と同様に乾燥・粉砕した。対照として実施例1と同様に凍結乾燥品・熱風乾燥品の粉末を調製した。4倍量の水を加えて水戻しし5分間放置してから試食した。本発明の乾燥品に比較して凍結乾燥品・熱風乾燥品のワサビ特有の辛味風味はやや劣っていた。しかし、他のフレーバー特性に着目すると本発明の乾燥品には凍結乾燥品・熱風乾燥品には全く感じられない生鮮感のある、生鮮のワサビ根茎を磨り下ろして試食した場合に感じられる新鮮感のある特有な甘味が感じられたが、他の二つの乾燥法による製品には全く感じられなかった。本発明の乾燥品と熱風乾燥品を実施例1と同様に包装し室温に保管し2ケ月経過後に水戻ししてから冷やしうどんのつゆに添加して試食した。凍結乾燥品・熱風乾燥品ではワサビ特有の辛味はかなり減少し農産物乾燥品に特有のひなびた臭いが感じられたが、本発明の乾燥品では異臭は全くなく試食に耐えうる程度の辛味をなおも保持していた。
【実施例3】
【0042】
市販のニンニクを2mm厚にスライスし実施例1と同様に乾燥・粉砕した。同様に凍結乾燥品と熱風乾燥品を製造し粉末とした。水戻しして官能検査すると本発明の乾燥品は生鮮のニンニク様の強いフレ−バ−とフレッシュ感のある味・風味を呈した。凍結乾燥品は味は本発明の製品に匹敵するが、ニンニク様フレ−バ−は一段劣っていた。熱風乾燥品にはフレ−バ−は相当量残留しているが、日乾し野菜に頻発する特異な乾燥臭が付加されていた。実施例1と同様に包装し保管してから水戻し、官能すると本発明の乾燥品は充分な香辛料としての性能を維持していた。
【0043】
除湿・冷風併用乾燥途中で水分率約25%に達した半乾燥製品を取出し通風乾燥でさらに20時間追乾燥し、室温下でのシリカゲル乾燥でさらに6時間で水分率10%に乾燥し、そのままシリカゲル乾燥を一昼夜継続して水分率約4%とする場合には乾燥製品の品質は本発明の乾燥方法で実施した製品に比べて香辛活性は著しく低下するとともに蒸れ臭が付加された。
【実施例4】
【0044】
実施例1において生姜スライス片をヒタヒタのトレハロース10%水溶液に浸漬し、真空/大気圧処理を3回行なった後、軽く遠心分離して水切りした。相対湿度30%、50℃の設定で乾燥したが、3時間経過後に故意に30分間だけ相対湿度40%、温度60℃とし10時間後に相対湿度40%、温度60℃でさらに15時間通風乾燥して水分率約5%とした。粉砕した後、実施例1と同様に官能検査[ただし、糖による重量増加を勘案して20%増しを使用]すると、実施例1の製品と同様の生鮮感のある生姜の辛味と風味が再現された。
【実施例5】
【0045】
実施例1の本発明の生姜乾燥品、対照としての熱風乾燥品・凍結乾燥品中のジンゲロ−ル含量を定量し生鮮生姜中のジンゲロ−ル含量に対する残存率を求めた。分析法はGingerolcontent of diploid and terapoid clones of ginger[Zingiber officinale Roscoe] J. Agric.Food Chem.,Vol.53(14),5772〜5778(2005)に拠った。
分析結果は本発明の乾燥品99%、凍結乾燥品38%、熱風乾燥品1%であった。以上のように本発明の方法で恒率乾燥期を低温・低湿度に維持して迅速に脱水することにより(9)
ジンゲロ−ル等の酸化し易い、植物性の機能性成分を有効に保持して乾燥できることが確認された。
【実施例6】
【0046】
5週齢のSD系雄ラットに本発明の生姜乾燥品粉末を餌に混合して投与した。対照として無添加・熱風乾燥品添加・凍結乾燥品添加の混合餌を同様に投与した。各群を10匹ずつとし30日間飼育した。飼料は毎日調製して投与した。血清の分析は(株)エスア−ルエルに依頼した。呼気分析にはOxymax[バイオリサーチセンター(株)/愛知県名古屋市]を使用した。血流測定には動物実験用レーザー血流計[MODELFLO−C1/室町機械/東京都日本橋]を使用した。自発運動量はSmart[バイオリサーチセンター/前出]を用いて測定した。体温測定にはデジタル温度計TH−5[バイオリサーチセンター(株)/前出]を使用した。各乾燥品の投与群間の体重の比較検定にはTukeyの方法を適用した。有意性は5%水準で判定した。餌の基本配合比は、コーンスターチ49.6486・ミルクカゼイン20.0000、精製大豆油10.0000、ラ−ド10.0000、コレステロ−ル0.3000、セルロ−ズ粉末5.0000、ミネラルミックス3.5000、ビタミンミックス1.0000、L−シスチン0.3000、重酒石酸コリン0.2500、第三ブチルヒドロキノン0.0014(合計100)としたものを無添加の対照餌とし、生姜の本発明品・凍結乾燥品・熱風乾燥品はコーンスターチを減じて49.1486として各々5.0000を添加し残余は同配合とした。(合計100)
【0047】
投与前後の体重変化(前/後)は、対照群(130±3/320±21)、本発明品投与群(129±3/315±20)、凍結乾燥品投与群(131±2/310±19)、熱風乾燥投与品群(131±3/322±23)であった。
【0048】
実験終了後諸臓器を摘出し重量(単位g)を測定した。a,bは有意差あり。肝臓/腎臓/脾臓/副睾丸脂肪重量は各々、対照群(8.49±0.71a/2.31±0.15/0.74±0.23/5.60±0.45a)、本発明品投与群(7.00±0.51b/2.21±0.20/0.68±0.32/3.60±0.21b)、凍結乾燥品投与群(8.52±0.40a、2.22±0.18/0.71±0.18/5.42±0.23a)、熱風乾燥品投与群(8.25±0.61a/2.12±0.19/0.75±0.22/5.19±0.34a)であった。副睾丸脂肪重量は本発明品投与群で有意に低下が認められた。
【0049】
さらに、肝臓から有機溶媒によって脂質を抽出し、総脂質質量は対照群平均値を100として、本発明品投与群75±10、凍結乾燥品投与群99±9、熱風乾燥品投与群101±12であった。群間差の有意差検定は本発明品/凍結乾燥品:p<0.05、本発明品/熱風乾燥品:p<0.05で各々有意であり、本発明品投与群での低下効果が認められた。
【0050】
試験終了時に血清分析も実施し、中性脂肪(mg/dl)・総コレステロ−ル(mg/dl)・グルコ−ス(mg/dl)・遊離脂肪酸(μEq/L)・乳酸(mmol/L)は、各々、対照群(130±25a/185±31a/210±15a/1150±121a/3.9±0.5a)、本発明品投与群(75±16b/145±23b/166±12b/752±98b/2.1±0.2b)、凍結乾燥品投与群(129±25a/195±21a/220±23a/1148±10a/3.7±0.6a)、熱風乾燥品投与群(136±21a/184±21a/214±25a/1132±98a/3.8±0.5a)であり、総コレステロ−ル・遊離脂肪酸血清濃度は本発明品投与群で有意の低下が認められた。また、本発明品投与群での血清グルコースと血清乳酸の有意の低下が認められ、血糖低下作用と疲労抑制作用も確認された。
【0051】
飼育27・28日目のラット糞中の総胆汁酸量と中性ステロ−ル量の測定結果は対照群を各100aとして、各々、本発明品投与群(128±5b/131±8b)、凍結乾燥品投与群(99±3a/101±3a)、熱風乾燥投与群(101±4a/99±3a)において本発明品投与群で有意の増加が認められた。このことから、血清コレステロ−ル低下作用はコレステロ−ル類の体外排泄促進量の増加と関係していることが示された。さらに、肝臓を用いてコレステロ−ル合成酵素[ヒドロキシメチルグルタリル−CoAレダクタ−ゼ]活性を調べると、対照群を100aとして、本発明品投与群74±9、凍結乾燥品投与群99±10、熱風乾燥品102±8で、本発明品投与群/凍結乾燥品投与群で群間差p<0.05、本発明品投与群/熱風乾燥品でp<0.05となり有意と検定され、本発明品投与群で体内のコレステロ−ル生合成が抑制されており、前述の胆汁へのコレステロ−ル類の排泄促進作用とともに血清脂質低下作用に寄与していることが示された。
【0052】
飼育27・28日目のラット尾部の血流量の測定結果は対照群を100aとして本発明品投与群120±5b、凍結乾燥品投与群99±4a、熱風乾燥品投与群98±5aで本発明品投与群で有意の増加が認められ、本発明品の血流促進作用が確認された。
【0053】
飼育27・28日目のラット直腸温の測定結果は対照群を100aとして本発明品投与群101.9±0.50b、凍結乾燥品投与群100.01±0.35a、熱風乾燥品投与群99.8±0.33aとなり本発明品投与群で有意に上昇した。この結果から本発明品にはエネルギ−代謝促進作用があることが確認された。
【0054】
飼育29・30日目のラットの自発運動量は対照群を100aとして本発明品投与群125±5b、凍結乾燥品投与群99±4a、熱風乾燥品98±5aで、自発運動量の有意な増加が認められ、ヒトに対する抗欝作用の強化が期待される。
【0055】
以上の他にラットの酸素消費量を測定し対照群を100aとして本発明品投与群124±7b、凍結乾燥品投与群98±5a、熱風乾燥品98±9aで、本発明品投与群で有意の上昇が認められ、本発明品にはエネルギ−代謝促進効果が認められた。
【実施例7】
【0056】
健常な成人男性80名[年齢45±8歳、BMI26.5±5、胸囲周り長さ93±10cm]を各20名ずつ4群に分けた。各人に本発明品・凍結乾燥品・熱風乾燥品のいずれかを0.05gを30日間服用してもらった。30日目に採血するとともに、上腕血流量・体温・血圧・酸素消費量、および各種の体指標を測定し、また問診を実施した。対照群の試験前と比較した試験終了時の各値平均値を100とした場合の、各投与群の試験前と比較した試験終了時の各値について群間の差をTurkey法にて有意差を検定し5%水準で有意と判定した。各群の体指標測定値は、体重・血圧・上腕血流量・酸素消費量・体温・体脂肪率の順に、本発明品投与群96.3±1.1a/85±5a/83±6a/121±10a/103.0±0.5a/94.3±0.9a/、凍結乾燥品投与群99.9±0.8b/99±3b/101±4b/99±6/b99.5±0.2b/99.5±0.7、熱風乾燥品投与群100.4±1.0/97±4/99±7/101±5/99.7b±0.4/101.5±0.8bであった。これらの測定結果から、本発明投与群に体重・血圧・体脂肪率の低下効果が確認され、血流量・酸素消費量・体温の上昇効果が認められた。
【0057】
また、問診の結果では本発明品の摂取群では「体が軽くなった」、「体温が高まった」、「体が動かしやすくなった」との印象が聞かれた。さらに、「疲れが残りにくくなった」、「気分が明るくなった」との印象も聞かれた。よって、前述のラットでの各種試験結果から推測された生理効果がヒトで確認された。[体調変化についてのアンケ−ト調査集計結果(変わらない/体が軽くなった/体が温まった/身体を動かしやすくなった/気分が明るくなった/疲れが残らなくなった、の順で):対照群19/1/1/1/1/1、本発明品投与群0/19/19/19/19/19、凍結乾燥品投与群18/2/2/2/2/2、熱風乾燥品投与群19/1/1/1/11]
【0058】
一方、同時に行なった採血試験では、対照群の試験前と比較した試験終了時の各値の平均値を100として、各投与群の試験前と比較した試験終了時の各値の平均値について相対比率で示し群間の有意差を検定した。中性脂肪・コレステロ−ル・遊離脂肪酸・乳酸・血糖値・HbAlcの各順に、本発明品投与群71±12a/84±6a/82±7a/75±12a/72±9a/85±3a、凍結乾燥品投与群99±12b/99±7b/101±5b/98±6b/99±6b/99±4b、熱風乾燥品投与群96±8b/95±3b/98±8b/102±7b/95±8b/100±3bの結果となった。
【実施例8】
【0059】
鶏肉・豚肉・牛肉・羊肉のいずれかを300gを約3cm厚に各4毎ずつを切り出し、生鮮の生姜の磨り下ろし品30g、または本発明品・凍結乾燥品・熱風乾燥品のいずれかを0.3gを肉片の片面に均一に塗り付けるか、振り掛ける等して均一に塗布し5分間室温下に放置後、オ−ブンで180℃、15分間でグリルした。約30gに切り分け10名の成人男性に摂食してもらって食感の印象を聞いた。結果を(肉の種類、食感[柔らかい/やや柔らかい/普通/やや硬い/硬い の順])に集計した。本発明品添加区(鶏肉、[7/2/1/0/0])、(豚肉、[8/2/0/0/0])、(牛肉、[7/2/1/0/0])、(羊肉、「7/1/2/0/0])、凍結乾燥品添加区(鶏肉、[0/4/4/2/0])、(豚肉、[0/3/4/2/1])、(牛肉、[0/4/4/2/0])、(羊肉、[0/2/4/2/2])、熱風乾燥品添加区(鶏肉、[0/4/4/2/0])、(豚肉、[0/2/5/2/1])、(牛肉、[0/4/4/2/0])、(羊肉、[0/2/4/2/2])、生鮮生姜磨り下ろし物添加区(鶏肉、[8/2/0/0/0])、(豚肉、[6/3/1/0/0])、(牛肉、[6/4/0/0/0])、(羊肉、[3/5/2/0/0])となり、本発明品は各種の肉に対して生鮮の生姜磨り下ろし品を上回る軟化作用を示し、他の方法で調製した乾燥物には軟化効果は認められなかった。本発明の乾燥方法で生姜を乾燥する場合にはプロテア−ゼ他の酵素の変性が抑制され、活性を保持したままで乾燥品に保持されることの例証の一つと考えられる。また、生鮮生姜磨り下ろし品よりも軟化効果が高かったのは、磨り下ろしの段階で酵素が一部失活することによると考えられる。
【実施例9】
【0060】
Stimulaneous determination of allin andakkicin in Allium plants and their products byliquid chromatography,J AOAC Int.,Vol.80(5),1052〜1056(1997)の方法によりアリイン量を測定した。側定値は水分含量で補正し、生鮮ニンニクの含量を100とした相対比率を算出した。本発明品99、凍結乾燥品31、熱風乾燥品5であり本発明品にはアリインが高濃度に保持されていた。また、本発明品に加水すると5分後に生鮮様のニンニク臭が強く発生し1時間後にはアリイン含量は3%以下となった。
すなわち、本発明品中では生鮮品と同様の酵素反応の起こっていることが確認された。
【実施例10】
【0061】
実施例6のラットの混合餌の配合において乾燥生姜粉末に代えて乾燥ニンニク粉末を加えたものを調製し、同様のラットを同様に群分けし同様にラットに与えた。また、同様の諸指標について同様に測定した。
【0062】
実験前後の体重変化(g)は対照群135±6/336±29、本発明品投与群134±3/310±21、凍結乾燥品投与群135±8/334±18、熱風乾燥品投与群134±7/321±21であった。肝臓・腎臓・脾臓・副睾丸脂肪重量(g)は先の順に(8.39±0.81a/2.48±0.17/0.73±0.17/5.59±0.67a)、(7.26±0.41b/2.36±0.27/0.70±0.32/3.54±0.36b)、(8.62±0.39a/2.36±0.17/0.72±0.34/5.54±0.78a)、(8.24±0.71a/2.24±0.20/0.74±0.28/5.48±0.76a)であった。副睾丸脂肪重量測定値について本発明品投与群で有意な低減効果が認められた。また、摘出肝臓から有機溶媒で脂質を抽出すると対照群の脂質抽出量を100として、本発明品投与群78±9、凍結乾燥品投与群96±12、熱風乾燥品投与群103±14で、本発明品/凍結乾燥品および本発明品/熱風乾燥品の比較で各々p<0.05で有意と判定され、脂肪肝抑制作用が確認された。
【0063】
また、実施例6と同様に実験終了時に採血し血清成分分析を実施した。中性脂肪(mg/dl)/総コレステロ−ル(mg/dl)/グルコ−ス(mg/dl)/遊離脂肪酸(μEq/L)/乳酸(mmol/L)の順に、対照群128±24a/189±37a/226±20a/1178±136a/4.1±0.4a、本発明品投与群73±18b/136±24b/165±11b/736±87b/2.2±0.3b、凍結乾燥品投与群131±23a/199±23a/225±24a/1269±111a/3.9±0.8a、熱風乾燥品投与群134±19a/176±18a/213±27a/1162±88a/3.9±0.8aであった。血清中性脂肪・総コレステロ−ル・遊離脂肪酸は本発明品投与群で有意に低下した。
【0064】
飼育27、28日目の糞中総胆汁酸量と中性ステロ−ル量を測定した。対照群の測定値平均値を100とした相対比率で示すと、本発明品投与群(74±8a/71±7a)、凍結乾燥品投与群(99±6b/100±8b)、熱風乾燥品(100±5b/99±4a)であった。本発明品投与群で糞中への総胆汁酸・中性コレステロ−ルの排泄量は有意に増加し、前述の血清コレステロ−ル低下は糞中へのステロ−ル類の排泄増加が機序の一つであることが示された。さらに、肝臓を用いたコレステロ−ル合成酵素(ヒドロキシメチルグルタリル−CoAレダクタ−ゼ)活性は対照品投与群平均値を100とした相対比率で、本発明品投与群74±9、凍結乾燥品投与群99±10、熱風乾燥品102±8で本発明品投与群/凍結乾燥品投与群、本発明品投与群/熱風乾燥品投与群の群間比較で有意に抑制が認められ、本発明品投与群の血清コレステロ−ル低下効果にはコレステロ−ル合成抑制も寄与していることが確認された。
【0065】
前述の測定値から血清グルコースは本発明品投与群で有意に低下していることが確認された。
また、血清乳酸濃度の低下も確認され、疲労物質指標である乳酸の血清濃度低下により本発明品投与による疲労抑制作用が示された。
【0066】
飼育27・28日目のラット尾部血流測定値、直腸温測定値、29・30日目の自発運動量は対照群平均値を100とした相対比率で示すと、本発明品投与群(119±8a/101.44±0.61a/129±8a)、凍結乾燥品投与群(99±7b/100.01±0.12b/100±5b)、熱風乾燥品投与群(99±4b/99.4±0.27b/98±4b)であった。本発明品投与群で尾部血流量増加、体温上昇の各効果が有意に確認された。また、本発明品投与群では自発運動量の増加が有意に認められ、本発明の乾燥ニンニク製品摂取の場合のヒトでの抗欝作用が期待された。
【0067】
さらに、ラットの酸素消費量を測定し、本発明品投与群での有意な上昇が確認され、本発明品のエネルギ−代謝促進効果が認められた。
【実施例11】
【0068】
実施例7と同様に健常成人男性80名[年齢55±9、BMI26.0±6、胸囲88±8]を同様に4群とし0.05gの乾燥ニンニク製品を30日間投与し、同様の検査を行ない同様に検定した。体重・血圧・上腕血流量・酸素消費量・体温・体脂肪率の対照群(ニンニク乾燥品非投与群)の試験前と比較した試験終了時の各値の平均値を100とした場合に、各群の試験前と比較した試験終了時の各値について群間の有意差を検定した。本発明品投与群(97.1±1.6a/84±9a/85±7a/123±11a/103.1±0.3a/94.3±0.6a)、凍結乾燥品投与群(100.0±0.9b/100±3b/103±5b/98±9b/99.4±0.5b/99.4±0.7b)、熱風乾燥品投与群(100.2±0.7b/99±5b/100±8b/97±9b/99.0±0.4b/102.2±0.9b)となった。
【0069】
また、試験終了時に採血して血液成分分析し、対照群の試験前と比較した試験終了時の各値の平均値を100とした場合の、各投与群の試験前と比較した試験終了時の各値について群間の有意差を検定した。中性脂肪・コレステロ−ル・遊離脂肪酸・乳酸・血糖値・HbAlcの順に、本発明品投与群(68±12a/85±9a/81±5a/74±9a/74±10a/86±4a)、凍結乾燥品投与群(100±14b/101±8b/102±4b/99±10b/100±8b/100±5b)、熱風乾燥品投与群(100±11b/96±4b/99±5b/101±6b/96±8b/101±5b)となった。
【0070】
さらに、実施例7と同様に試験終了時に問診を実施しアンケ−トで体調変化についての印象を集計した。「変わらない」、「体が軽くなった」、「体が温まった」、「身体を動かしやすくなった」、「気分が明るくなった」、「疲れが残らなくなった」の順に、対照群(19/1/1/1/1/1)、本発明品投与群(0/20/20/20/20/20)、凍結乾燥品投与群(17/3/2/3/3/3)、熱風乾燥品投与群(19/1/1/1/1/1)となった。
【実施例12】
【0071】
実施例1の本発明の乾燥生姜粉末0.1gを硬質カプセルに充填し、成人一人一日あたり、三食毎に各2カプセルずつ服用する目的で調製されたサプリメント。
【実施例13】
【0072】
実施例3の本発明のニンニク乾燥品を粉末化したものを0.1gずつ軟質カプセルに充填し、三食毎に各2カプセルずつ服用する目的で調製されたサプリメント。
【実施例14】
【0073】
実施例2の本発明の乾燥ワサビを粉末化し、各0.3ずつをプラスチック製のカップに充填し、上部を防湿性のプラスチックフィルムでシールシールした包装製品であって、使用時にシール剥ぎ取り、5〜10倍量の水を加えて練り、数分間放置すれば生鮮ワサビに変えて調理、あるいは食卓用香辛料として使用する目的で調製された即席乾燥ワサビ食品。
【実施例15】
【0074】
本発明になる実施例1の乾燥生姜、実施例2の乾燥ワサビ、実施例3の乾燥ニンニクの粉末を各同量ずつ混合し、混合粉末0.05gを乳糖・セルローズ粉末等の賦形剤と混合して打錠し、各食事毎、あるいは随時に、日々5〜10錠を目処に、全般的な健康状態の維持・増進の目的で摂取するように調製された健康食品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
根茎を利用部位とする香辛野菜類を厚さ3mm以下に切断し、糖処理を実施、もしくは実施せずして、雰囲気温度50℃以下、雰囲気相対湿度50%以下の条件で10時間以内に水分率10%以下とし、さらに60℃以下で20時間以内に水分率5%とすることを特徴とする香辛料野菜類の乾燥方法。
【請求項2】
香辛野菜類がオニオン、ニンニク、ワサビ、生姜、ホースラディシュのいずれか一つより選択されることを特徴とする請求項1に記載の香辛野菜類の乾燥方法。
【請求項3】
乾燥工程に除湿機を使用することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の香辛野菜類の乾燥方法。
【請求項4】
乾燥工程に吸湿能力を有する資材を使用することを特徴とする請求項1,2,3のいずれか1項に記載の香辛野菜類の乾燥方法。
【請求項5】
香辛野菜類を厚さ3mm以下に切断し、糖処理を実施、もしくは実施せずして、雰囲気温度50℃以下、雰囲気相対湿度50%以下の条件で10時間以内に水分率10%以下とし、さらに60℃以下で20時間以内に水分率5%以下として乾燥され良好な風味を有することを特徴とする乾燥香辛野菜類。
【請求項6】
粉末であることを特徴とする請求項5に記載の乾燥香辛野菜類。
【請求項7】
香辛野菜類を厚さ3mm以下に切断し、糖処理を実施、もしくは実施せずして、雰囲気温度50℃以下、雰囲気相対湿度50%以下の条件で10時間以内に水分率10%以下とし、さらに60℃以下で20時間以内に水分率5%以下として乾燥された、生理活性を有することを特徴とする乾燥香辛野菜類。
【請求項8】
その生理活性が脂肪肝抑制作用、体脂肪蓄積抑制作用、血清脂質低下作用、血糖低下作用、疲労抑制作用、血流促進作用、体温上昇作用、エネルギ−代謝促進作用、抗欝作用から選択される単数、もしくは任意の複数の組合せであることを特徴とする乾燥香辛野菜類。
【請求項9】
香辛野菜類がオニオン、ニンニク、ワサビ、生姜、ホースラディシュのいずれか一つより選択されることを特徴とする請求項7,8のいずれか1項に記載の乾燥香辛野菜類。
【請求項10】
その服用の形態が粉末、錠剤、カプセルのいずれがであり、香辛野菜類がオニオン、ニンニク、ワサビ、生姜、ホースラディシュのいずれか一つ、あるいは複数の任意の組合せであることを特徴とする乾燥香辛野菜類を含む食品。

【公開番号】特開2009−89703(P2009−89703A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286718(P2007−286718)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(594117526)こだま食品株式会社 (8)
【Fターム(参考)】