駆動力伝達装置
【課題】引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置1は、四輪駆動車の駆動源によって回転するハウジング2と、連結部材35の移動によって断続するシャフトエレメント30,31を有するインナシャフト3と、ハウジング2からの回転力をパイロットクラッチ5から受けて回転するコントロールカム70を有する第1のカム機構7と、コントロールカム70から回転力を受けて回転するメインカム80を有する第2のカム機構8とを備え、第2のカム機構8のメインカム80が第2のカム推力P2を受けて一方のシャフトエレメント30及び他方のシャフトエレメント31を互いに接続する方向に連結部材35を移動させる位置に配置されている。
【解決手段】駆動力伝達装置1は、四輪駆動車の駆動源によって回転するハウジング2と、連結部材35の移動によって断続するシャフトエレメント30,31を有するインナシャフト3と、ハウジング2からの回転力をパイロットクラッチ5から受けて回転するコントロールカム70を有する第1のカム機構7と、コントロールカム70から回転力を受けて回転するメインカム80を有する第2のカム機構8とを備え、第2のカム機構8のメインカム80が第2のカム推力P2を受けて一方のシャフトエレメント30及び他方のシャフトエレメント31を互いに接続する方向に連結部材35を移動させる位置に配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車における入力軸からの駆動力を出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、一対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この駆動力伝達装置は、入力軸と共に回転する第1の回転部材と、この第1の回転部材の軸線上で回転可能な第2の回転部材と、この第2の回転部材と第1の回転部材とをトルク伝達可能に連結する摩擦式の第1のクラッチと、この第1のクラッチに第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線に沿って並列する電磁クラッチと、この電磁クラッチの電磁力を受けて動作する摩擦式の第2のクラッチと、この第2のクラッチのクラッチ動作によって第1の回転部材からの回転力を第1のクラッチ側への押付力に変換するカム機構とから構成されている。
【0004】
第1の回転部材は、一方に開口する有底円筒状のフロントハウジング、及びこのハウジングの開口部に装着された円環状のリヤハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、第1の回転部材は、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転するように構成されている。
【0005】
第2の回転部材は、第1の回転部材に回転軸線上で相対回転可能に配置され、かつ出力軸に連結されている。
【0006】
第1のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。そして、第1のクラッチは、メインクラッチとして機能し、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが摩擦係合して第1の回転部材と第2の回転部材とをトルク伝達可能に連結するように構成されている。
【0007】
電磁クラッチは、第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線上に配置されている。そして、電磁クラッチは、電磁力を発生させて第2のクラッチを動作させるように構成されている。
【0008】
第2のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、メインクラッチの電磁クラッチ側に配置されている。そして、第2のクラッチは、電磁クラッチの電磁力を受けて動作するパイロットクラッチとして機能し、第1の回転部材の回転力をカム機構に付与するように構成されている。
【0009】
カム機構は、第1の回転部材からの回転力によるカム作用によって第1のクラッチに押付力を付与する押付部を有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。
【0010】
以上の構成により、エンジン側からの駆動力が入力軸を介して第1の回転部材に入力されると、第1の回転部材がその軸線回りに回転する。ここで、電磁クラッチに通電すると、電磁クラッチの電磁力によって第2のクラッチが動作する。
【0011】
次に、第2のクラッチの動作時に第1の回転部材からの回転力をカム機構が受けると、この回転力がカム機構によって押付力に変換され、この押付力が第1のクラッチに付与される。
【0012】
そして、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって第1の回転部材と第2の回転部材とがトルク伝達可能に連結される。これにより、エンジン側の駆動力が入力軸から駆動力伝達装置を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−14001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1の駆動力伝達装置によると、電磁クラッチの非通電時に例えば四輪駆動車が後輪を接地させて車両前方に二輪牽引される場合、カム機構が第2の回転部材からの回転力のみならず、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間に及び第2のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクによって第1の回転部材からの回転力も受け、この回転力によるカム推力の発生によってカム機構の押付部が第1のクラッチを押し付ける。このため、第1のクラッチがカム機構によって増幅された押付力を受け、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに摩擦係合して旋回性や燃費に悪影響を及ぼす。
【0015】
従って、本発明の目的は、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(7)の駆動力伝達装置を提供する。
【0017】
(1)四輪駆動車の駆動源によって回転する第1の回転部材と、前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置され、前記回転軸線に沿う連結部材の移動によって断続する2つのエレメントを有する第2の回転部材と、前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを押付部材の押付力によるクラッチ動作によって連結する第1のクラッチと、前記第1のクラッチに前記回転軸線上で並列して配置された第2のクラッチと、前記第2のクラッチのクラッチ動作による作動によって前記第1の回転部材からの回転力をカム推力に変換するカム機構とを備え、前記カム機構は、前記第1の回転部材の回転力を前記第2のクラッチから受けて回転するコントロールカム、及び前記コントロールカムから回転力を受けて回転する前記押付部材としてのメインカムを有し、前記メインカムが前記カム推力を受けて前記2つのエレメントを互いに接続する方向に前記連結部材を移動させる位置に配置されている駆動力伝達装置。
【0018】
(2)上記(1)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記2つのエレメントのうち一方のエレメントが前記第1の回転部材の内周部に前記第1のクラッチを介して対向する外周部を有する外筒によって、また他方のエレメントが前記一方のエレメントの内周部に対向する外周部を有する内筒によってそれぞれ形成されている。
【0019】
(3)上記(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の回転部材は、その回転によって発生する遠心力の作用状態において前記一方のエレメントの内周部と前記他方のエレメントの外周部との間に介在しない油量の潤滑油が内部に貯溜されている。
【0020】
(4)上記(2)又は(3)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記他方のエレメントが前記連結部材に補助エレメントを介して連結する位置に配置されている。
【0021】
(5)上記(4)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、その初期状態において前記連結部材が前記補助エレメントにキー部材によって前記回転軸線の方向に移動不能に配置されている。
【0022】
(6)上記(5)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記補助エレメントが前記連結部材との間に介在するスプライン嵌合部を形成する複数のスプライン歯を外周部に有する円筒部材からなり、前記複数のスプライン歯のうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に前記キー部材を介在させている。
【0023】
(7)上記(4)乃至(6)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記メインカムが前記第1のクラッチ側への移動に伴い前記一方のエレメントに前記補助エレメントを当接させて前記第1のクラッチ側と反対の側へのばね力をスプリングから受ける。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の非動作状態(初期状態)を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の動作状態を説明するために示す断面図。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置における連結部材とキー部材との嵌合状態及び非嵌合状態を示す断面図。(a)は嵌合状態を、また(b)は非嵌合状態をそれぞれ示す。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置におけるキー部材の配置状態を示す断面図と正面図。(a)は断面図を、また(b)は正面図をそれぞれ示す。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム溝を説明するために示す断面図。(a)は中間カム及びコントロールカムのカム溝を、また(b)は中間カム及びメインカムのカム溝をそれぞれ示す。
【図8】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のコントロールカムをパイロットクラッチ側から見た状態を示す。
【図9】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の復帰用スプリングを説明するために示す断面図。(a)は第2のカム機構の非作動状態を、また(b)は第2のカム機構の作動状態をそれぞれ示す。
【図10】(a)及び(b)は、第2のカム機構の動作時におけるカムフォロアの移動位置を示す断面図。(a)は中間カム及びコントロールカムのカム溝のカムフォロアを、また(b)は中間カム及びメインカムのカム溝のカムフォロアをそれぞれ示す。
【図11】(a)及び(b)は、第1のカム機構の動作時におけるカムフォロアの移動位置を示す断面図。(a)はメインカム及び中間カムのカム溝のカムフォロアを、また(b)は中間カム及びコントロールカムのカム溝のカムフォロアをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車101は、駆動力伝達装置1,エンジン102,トランスアクスル103,一対の前輪104及び一対の後輪105を備えている。
【0027】
駆動力伝達装置1は、四輪駆動車101における前輪側から後輪側に至る駆動力伝達経路に配置され、かつ四輪駆動車101の車体(図示せず)にディファレンシャルキャリア106を介して支持されている。
【0028】
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト(入力軸)107とドライブピニオンシャフト(出力軸)108とをトルク伝達可能に連結し、この連結状態においてエンジン102の駆動力を後輪105に伝達し得るように構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
【0029】
エンジン102は、その駆動力をトランスアクスル103を介してフロントアクスルシャフト109に出力することにより、一対の前輪104を駆動する。
【0030】
また、エンジン102は、その駆動力をトランスアクスル103を介してプロペラシャフト107,駆動力伝達装置1,ドライブピニオンシャフト108,リヤディファレンシャル110及びリヤアクスルシャフト111に出力することにより、一対の後輪105を駆動する。
【0031】
〔駆動力伝達装置1の全体構成〕
図2は駆動力伝達装置の全体を示す。図2に示すように、駆動力伝達装置1は、ディファレンシャルキャリア106(図1に示す)のカップリングケース106aに対して回転可能な第1の回転部材としてのハウジング2と、ハウジング2に対して回転可能な第2の回転部材としてのインナシャフト3と、このインナシャフト3とハウジング2とを断続可能に連結する第1のクラッチとしてのメインクラッチ4と、メインクラッチ4にその軸線に沿って並列する第2のクラッチとしてのパイロットクラッチ5と、パイロットクラッチ5を動作させる駆動機構6と、駆動機構6の駆動時にハウジング2の回転力を第1のカム推力P1に変換する第1のカム機構7と、第1のカム機構7によって作動する第2のカム機構8とから大略構成されている。
【0032】
(ハウジング2の構成)
ハウジング2は、フロントハウジング9及びリヤハウジング10からなり、カップリングケース106a内に回転軸線O上で回転可能に収容されている。そして、ハウジング2は、エンジン102(図1に示す)の駆動トルクを継手113から受けて回転するように構成されている。ハウジング2内には、メインクラッチ4,パイロットクラッチ5,第1のカム機構7及び第2のカム機構8等を収容する収容空間2aが設けられている。収容空間2aには、メインクラッチ4,玉軸受20及び針状ころ軸受22等を潤滑する潤滑油が貯溜されている。油量は、ハウジング2の回転によって発生する遠心力の作用状態において一方のシャフトエレメント30(後述)の内周面と他方のシャフトエレメント31(後述)の外周面との間に潤滑油が介在しない量(例えば収容空間2aの容積の50%以下の油量)に、すなわち一方のシャフトエレメント30の内周面と他方のシャフトエレメント31の外周面との間に形成される空隙g(図3に示す)にハウジング2の回転によって発生する遠心力の作用状態において潤滑油が充満しない量に設定されている。これにより、四輪駆動車101の牽引時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによる一方のシャフトエレメント30と他方のシャフトエレメント31との間のトルク伝達を抑えることができる。
【0033】
フロントハウジング9は、収容空間2aに露出するストレートスプライン嵌合部9aを有し、エンジン102(図1に示す)にトランスアクスル103及びプロペラシャフト107(共に図1に示す)を介して連結され、かつカップリングケース106a内に玉軸受112を介して支持され、全体がリヤハウジング側に開口するアルミニウムなど非磁性の金属材料からなる有底円筒状の部材によって形成されている。そして、フロントハウジング9は、エンジン102の駆動力をプロペラシャフト107から受けてリヤハウジング10と共に回転軸線Oの回りに回転するように構成されている。フロントハウジング9とプロペラシャフト107との連結は継手113によって行われる。
【0034】
リヤハウジング10は、第1〜第3のリヤハウジングエレメント11〜13(第1のリヤハウジングエレメント11,第2のリヤハウジングエレメント12,第3のリヤハウジングエレメント13)からなり、フロントハウジング9の開口内周面に螺着(ねじ結合)されている。リヤハウジング10には、メインクラッチ4側とは反対側に開口する円環状の収容空間10aが設けられている。
【0035】
第1のリヤハウジングエレメント11は、リヤハウジング10の内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第1のリヤハウジングエレメント11の内周面は、インナシャフト3における小径の円筒部3bの外周面との間にシール部材16が介在して配置されている。また、第1のリヤハウジングエレメント11の内周面は、ドライブピニオンシャフト108の外周面との間に玉軸受19が介在して配置されている。ドライブピニオンシャフト108の外周面は、カップリングケース106aの内周面との間に円すいころ軸受15が介在して配置されている。
【0036】
第2のリヤハウジングエレメント12は、リヤハウジング10の外周側に配置され、全体が第1のリヤハウジングエレメント11と同様に軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第2のリヤハウジングエレメント12の外周面は、フロントハウジング9の内周面との間にシール部材17が介在して配置されている。
【0037】
第3のリヤハウジングエレメント13は、第1のリヤハウジングエレメント11と第2のリヤハウジングエレメンと12との間に介在して配置され、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるリヤハウジングエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
【0038】
(インナシャフト3の構成)
インナシャフト3は、内外2つのシャフトエレメント30,31を有し、ハウジング2に回転軸線Oに沿って相対回転可能に配置されている。そして、インナシャフト3は、エンジン102(図1に示す)の駆動トルクをメインクラッチ4から受けてドライブピニオンシャフト108に伝達するように構成されている。
【0039】
内外2つのシャフトエレメント30,31は、回転軸線Oに沿う連結部材35(後述)の移動によって断続(遮断・接続)するように構成されている。内外2つのシャフトエレメント30,31の接続時には、連結部材35の一方端部が一方のシャフトエレメント30に、また他方端部が他方のシャフトエレメント31に補助シャフトエレメント36(後述)を介してそれぞれ連結される。内外2つのシャフトエレメント30,31の遮断時には、連結部材35が一方のシャフトエレメント30に連結されず、他方のシャフトエレメント31に補助シャフトエレメント36を介して連結される。
【0040】
一方のシャフトエレメント(外筒)30は、フロントハウジング9の内周部にメインクラッチ4を介して対向する外周部を有し、ハウジング2に回転軸線O上でメインクラッチ4を介して断続可能に連結され、全体が回転軸線Oの両方向に開口する無底円筒部材によって形成されている。一方のシャフトエレメント30には、ハウジング2の収容空間2aに露出するストレートスプライン嵌合部30aが設けられている。
【0041】
他方のシャフトエレメント31は、各外径が互いに異なる大中小3つの円筒部31a,31b,31c(大径の円筒部31a,小径の円筒部31b,中間径の円筒部31c)、及びこれら円筒部31a〜31cのうち互いに隣り合う2つの円筒部間に介在する段差面31d,31eを有し、ハウジング2にその内部で玉軸受20を介して相対回転可能に支持され、全体が一方のシャフトエレメント30を挿通する無底円筒状の部材によって形成されている。そして、他方のシャフトエレメント31は、その補助シャフトエレメント36を介して連結部材35に連結するように構成されている。
【0042】
大径の円筒部31aは、一方のシャフトエレメント30の内周部に空隙gを介して対向する外周部を有し、インナシャフト3の軸線方向中央部に配置されている。大径の円筒部31aの外径は、小径の円筒部31b及び中間径の円筒部31cの各外径よりも大きい寸法に設定されている。空隙gは、一方のシャフトエレメント30と他方のシャフトエレメント31とが相対回転可能な寸法に設定されている。大径の円筒部31aには、ハウジング2の収容空間2aに露出するストレートスプライン嵌合部310aが設けられている。また、大径の円筒部31aには、そのプロペラシャフト側開口を閉塞する栓体21が装着されている。
【0043】
小径の円筒部31bは、インナシャフト3の軸線方向一方側(ドライブピニオンシャフト108側)に配置されている。小径の円筒部31bには、ドライブピニオンシャフト108のストレートスプライン嵌合部108aに相対回転不能に嵌合するストレートスプライン嵌合部310bが大径の円筒部31aに跨って設けられている。小径の円筒部31bの外径は、大径の円筒部31a及び中間径の円筒部31cの各外径よりも小さい寸法に設定されている。
【0044】
中間径の円筒部31cは、インナシャフト3の軸線方向他方側(プロペラシャフト107側)に配置されている。中間径の円筒部31cの外径は、大径の円筒部31aの外径よりも小さく、かつ小径の円筒部31bの外径よりも大きい寸法に設定されている。
【0045】
図3はシャフトエレメントの非連結状態を示す。図4はシャフトエレメントの連結状態を示す。図3及び図4に示すように、連結部材35は、胴部35a及び鍔部35bを有し、メインクラッチ4と第2のカム機構8(第1のカム機構7)の中間カム71との間に介在して回転軸線O(図2に示す)上で移動可能に配置され、かつ止め輪(スナップリング)38によってメインクラッチ4側への移動が規制され、全体が補助シャフトエレメント36を介して他方のシャフトエレメント31を挿通させる円筒部材によって形成されている。また、連結部材35は、インナシャフト3の初期状態において補助シャフトエレメント36にキー部材としてのスプラインキー37(図5に示す)によって回転軸線Oの方向に移動不能に配置されている。そして、連結部材35は、第2のカム機構8のメインカム80から押付力を受けてメインクラッチ4側に、また第1のスプリング29のばね力を受けてリヤハウジング10側にメインカム80と共に移動するように構成されている。連結部材35には、その内周面に開口し、かつ円周方向に等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では3個)の凹部35c(図5に示す)が設けられている。
【0046】
胴部35aは、メインカム80の内周部と補助シャフトエレメント36の外周部との間に介在して配置されている。胴部35aには、その内部に露出するストレートスプライン嵌合部350aが設けられている。
【0047】
鍔部35bは、スプリング受け350bを外周縁に有し、連結部材35のメインクラッチ4側に配置され、かつ胴部35aの外周面に一体に形成されている。
【0048】
補助シャフトエレメント36は、一方のシャフトエレメント30と第2のカム機構8の中間カム71との間に介在して配置され、全体が一方のシャフトエレメント30の内外径と略同一の内外径をもつ円筒部材によって形成されている。補助シャフトエレメント36の内周部には、他方のシャフトエレメント31の外周部との間に介在してストレートスプライン嵌合部310aに嵌合するストレートスプライン嵌合部36aが設けられている。また、補助シャフトエレメント36の外周部には、連結部材35の内周部との間に介在してストレートスプライン嵌合部350aに嵌合するストレートスプライン嵌合部36bが設けられている。補助シャフトエレメント36のカム側端部(ドライブピニオンシャフト108側の端部)には、円周方向に等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では3個)のキー収容部36c(図5に示す)が設けられている。キー収容部36cは、ストレートスプライン嵌合部36bを形成する複数のスプライン歯360b(図6に示す)の一部を欠くことにより形成されている。
【0049】
図5(a)及び(b)は連結部材とキー部材との嵌合状態と非嵌合状態を示す。図6(a)及び(b)はキー部材の取付状態を示す。図5(a),(b)及び図6(a),(b)に示すように、スプラインキー37は、連結部材35の内周部と補助シャフトエレメント36の外周部との間に配置され、かつ補助シャフトエレメント36のキー収容部36cに収容されている。そして、スプラインキー37は、止め輪(スナップリング)39によって一方のシャフトエレメント30側への移動が規制されている。スプラインキー37には、連結部材35の回転軸線O(図2に示す)に沿う移動によって凹部35cに出没可能に嵌合する凸部37aが設けられている。
【0050】
(メインクラッチ4の構成)
メインクラッチ4は、図2に示すように、複数のインナクラッチプレート40及び複数のアウタクラッチプレート41を有する摩擦式のメインクラッチからなり、フロントハウジング9(ハウジング2)とインナシャフト3との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、メインクラッチ4は、インナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング2とインナシャフト3とを断続(トルク伝達)可能に連結するように構成されている。
【0051】
インナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスは、第2のカム機構8の作動によるカム作用の発生によってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0052】
インナクラッチプレート40は、その内周部にストレートスプライン嵌合部40aを有し、ストレートスプライン嵌合部40aをストレートスプライン嵌合部30aに嵌合させて一方のシャフトエレメント30(インナシャフト3)に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。インナクラッチプレート40のうちパイロットクラッチ側最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ4の入力部として機能し、第1のカム機構7の作動時に第2のカム機構8のメインカム80(後述)からメインクラッチ4側に押付力を受けると、この押付方向への移動によって他のインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とを摩擦係合させるように構成されている。
【0053】
アウタクラッチプレート41は、その外周部にストレートスプライン嵌合部41aを有し、ストレートスプライン嵌合部41aをストレートスプライン嵌合部9aに嵌合させてフロントハウジング9(ハウジング2)に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0054】
(パイロットクラッチ5の構成)
パイロットクラッチ5は、駆動機構6の駆動によるアーマチャ61の電磁コイル60側への移動によって互いに摩擦係合可能な円環状の摩擦板からなるインナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51を有し、アーマチャ61とリヤハウジング10との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、パイロットクラッチ5は、インナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング2と第1のカム機構7(コントロールカム70)とを断続(トルク伝達)可能に連結するように構成されている。
【0055】
インナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスは、車両の牽引時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0056】
インナクラッチプレート50は、その内周部にストレートスプライン嵌合部50aを有し、ストレートスプライン嵌合部50aをストレートスプライン嵌合部70bに嵌合させてコントロールカム70に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0057】
アウタクラッチプレート51は、その外周部にストレートスプライン嵌合部51aを有し、ストレートスプライン嵌合部51aをストレートスプライン嵌合部9aに嵌合させてフロントハウジング9に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0058】
(駆動機構6の構成)
駆動機構6は、電磁コイル60及びアーマチャ61を有し、ハウジング2の回転軸線O上に配置されている。そして、駆動機構6は、電磁コイル60の電磁力の発生によるアーマチャ61の電磁コイル60側への移動によってパイロットクラッチ5のインナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させるように構成されている。
【0059】
電磁コイル60は、リヤハウジング10の収容空間10aに収容され、かつカップリングケース106aに取り付けられている。そして、電磁コイル60は、図2に破線で示すように、通電によってカップリングケース106a,リヤハウジング10,パイロットクラッチ5及びアーマチャ61等に跨って磁気回路Mを形成し、アーマチャ61にリヤハウジング10側への移動力を付与するための電磁力を発生させるように構成されている。
【0060】
アーマチャ61は、第2のカム機構8(中間カム71)とパイロットクラッチ5との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容され、全体が鉄等の磁性材料からなる環状板によって形成されている。そして、アーマチャ61は、電磁コイル60の電磁力を受け、パイロットクラッチ5側にハウジング2の回転軸線Oに沿って移動するように構成されている。また、アーマチャ61は、その外周部に回転軸線Oに沿ったストレートスプライン嵌合部61aを有し、ストレートスプライン嵌合部61aをストレートスプライン嵌合部9aに嵌合させてフロントハウジング9に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0061】
(第1のカム機構7の構成)
図7(a)及び(b)はカム溝及びカムフォロアを示す。図8はコントロールカム及び回転力伝達部材を示す。図9(a)及び(b)は復帰用スプリングの取付状態を示す。図2に示すように、第1のカム機構7は、ハウジング2の回転力をパイロットクラッチ5から受けて回転するコントロールカム70、このコントロールカム70にハウジング2の回転軸線Oに沿って並列する中間カム71、及びこの中間カム71とコントロールカム70との間に介在するカムフォロア72を有し、第2のカム機構8(メインカム80)とリヤハウジング10との間に介在して配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、第1のカム機構7は、パイロットクラッチ5のクラッチ動作によってハウジング2からの回転力を受けてメインクラッチ4のクラッチ力(摩擦係合力)となる第1のカム推力P1に変換し、メインクラッチ4に第1のカム推力P1を押付力として付与するように構成されている。
【0062】
コントロールカム70は、そのリヤハウジング側端面がリヤハウジング10(第1のリヤハウジングエレメント11)のコントロールカム側端面との間に針状ころ軸受22を介在させ、インナシャフト3(小径の円筒部3b)に相対回転可能に配置されている。コントロールカム70には、円周方向に並列し、かつカムフォロア72側に開口する複数(実施の形態では3個)のカム溝70a(図7(a)に示す)が設けられている。
【0063】
複数のカム溝70aは、図7(a)に示すように、その溝底がカムフォロア72の初期位置(カム溝70aの中立位置)700aからコントロールカム70の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝、すなわち中立位置700aに連続して第1の推力P1を発生させるための傾斜面701aからなる凹溝によって形成されている。
【0064】
コントロールカム70の外周部には、パイロットクラッチ5におけるインナクラッチプレート50のストレートスプライン嵌合部50aに嵌合するストレートスプライン嵌合部70b(図2に示す)が設けられている。ストレートスプライン嵌合部70bは、パイロットクラッチ5(インナクラッチプレート50)に対するコントロールカム70の連結部として構成され、他のストレートスプライン嵌合部と同様に複数のスプライン歯によって形成されている。ストレートスプライン嵌合部70bには、図8に示すように、複数のスプライン歯のうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に第2のカム機構8における回転力伝達部材82(後述)を介在させる複数(実施の形態では3個)の空間部700bが設けられている。複数の空間部700bは、スプライン歯の一部を欠くことによりコントロールカム70の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0065】
中間カム71は、図7(a)及び(b)に示すように、内外2種のカム溝71a,71b(内周側のカム溝71a及び外周側のカム溝71b)及びスプリング収容空間71c(図9(a)及び(b)に示す)を有し、第1のカム機構7(図2に示す)のメインクラッチ4(図2に示す)側でインナシャフト3(大径の円筒部31a)に相対回転不能かつ相対移動可能に配置され、全体がインナシャフト3を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0066】
内周側のカム溝71aは、カムフォロア72側に開口し、中間カム71の円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、内周側のカム溝71aは、その溝底がカムフォロア72の初期位置(カム溝71aの中立位置)710aから中間カム71の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝、すなわち中立位置710aに連続して第1のカム推力P1を発生させるための傾斜面711aからなる凹溝によって形成されている。
【0067】
外周側のカム溝71bは、カムフォロア81側に開口し、中間カム71の円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、外周側のカム溝71bは、その溝底がカムフォロア72の初期位置(カム溝71bの中立位置)710bに連続して第2のカム推力P2を発生させるための傾斜面711b、及びこの傾斜面711bに連続してカム力を発生させない平面712bからなる凹溝によって形成されている。傾斜面711b(傾斜面801a)の傾斜角(カム角)θ2は、傾斜面711a(傾斜面701a)の傾斜角(カム角)θ1よりも大きい角度に設定されている。本実施の形態では、例えばカム角θ1がθ1=8°に、カム角θ2がθ2=30°にそれぞれ設定されている。また、内周側のカム溝71a(カム溝70a)の中心径D1がD1=42mmに、外周側のカム溝71b(カム溝80a)の中心径D2がD2=95mmにそれぞれ設定されている。
【0068】
スプリング収容空間71cは、図9(a)及び(b)に示すように、中間カム71にその円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、スプリング収容空間71cは、中間カム71の円周方向に延び、かつ中間カム71のメインクラッチ4(図2に示す)側及びリヤハウジング10(図2に示す)側に開口する貫通孔によって形成されている。スプリング収容空間71cには、中間カム71に円周方向の初期位置への復帰力を付与する復帰用スプリング23,24が収容されている。復帰用スプリング23,24としては例えば圧縮コイルスプリングが用いられる。
【0069】
一方の復帰用スプリング23は、スプリング収容空間71cの円周方向一方側で一方側のスプリング受け25と共通のスプリング受け26との間に介在して配置されている。他方の復帰用スプリング24は、スプリング収容空間71cの円周方向他方側で他方側のスプリング受け27と共通のスプリング受け26との間に介在して配置されている。
【0070】
一方側のスプリング受け25は、円板状の基部25a及び円柱状の凸部25bを有し、スプリング収容空間71cの一方側端に固定されている。
【0071】
共通のスプリング受け26は、円筒状の基部26a及び円柱状の凸部26b,26cを有し、スプリング収容空間71cの円周方向略中央位置に配置されている。
【0072】
他方側のスプリング受け27は、円板状の基部27a及び円柱状の凸部27bを有し、スプリング収容空間71cの他方側端に固定されている。
【0073】
中間カム71には、図3(a)及び(b)に示すように、内周側のカム溝71aと外周側のカム溝71bとの間に介在してメインクラッチ4側及びパイロットクラッチ5側に開口し、かつ回転力伝達部材82を挿通させる複数(実施の形態では3個)の挿通孔71dが設けられている。複数の挿通孔71dは、中間カム71の円周方向に延びる長孔によって形成されている。中間カム71には、メインクラッチ4に接近する方向のばね力a1が第1のスプリング29によって付与されている。第1のスプリング29としては例えば組み合わせ皿ばねが用いられる。また、中間カム71には、インナシャフト3(大径の円筒部31a)のストレートスプライン嵌合部310aに嵌合するストレートスプライン嵌合部71eが設けられている。
【0074】
中間カム71の内周部には、インナシャフト3の段差面31eとの間に第2のスプリング34が介在して配置されている。第2のスプリング34により、中間カム71にメインクラッチ4から離間する方向のばね力bが付与される。第2のスプリング34としては例えば皿ばねが用いられる。中間カム71の外周部には、第1のスプリング29のばね力a1を受ける外フランジ71fが設けられている。
【0075】
カムフォロア72は、コントロールカム70と中間カム71との間に転動可能に配置され、全体が球体(ボール)によって形成されている。
【0076】
(第2のカム機構8の構成)
第2のカム機構8は、図2に示すように、中間カム71及び複数の回転力伝達部材82を含み、コントロールカム70及び中間カム71の回転によって回転するメインカム80、及びメインカム80と中間カム71との間に介在するカムフォロア81を有し、メインクラッチ4とアーマチャ61との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、第2のカム機構8は、第1のカム機構7による第1のカム推力P1の変換に先行して作動し、この作動によってメインクラッチ4にメインカム80を接近させるための第2のカム推力P2を発生させ、この第2のカム推力P2をメインクラッチ4に付与して例えば互いに隣り合うインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41との間のクリアランスCをC=0に短縮するように構成されている。これにより、メインクラッチ4においては、第2のカム機構8の作動によるカム作用によって第2のカム推力P2を受け、インナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とが接近し、その後に第1のカム機構7の作動によるカム作用によって第1のカム推力P1を受け、インナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とが摩擦係合する。
【0077】
また、第2のカム機構8は、メインカム80がメインクラッチ4側への移動に伴い一方のシャフトエレメント30の軸線方向端面に補助シャフトエレメント36の軸線方向端面を当接させてメインクラッチ4側と反対の側へのばね力cを第3のスプリング83から受けるように構成されている。第3のスプリング83は、連結部材35(鍔部35b)のスプリング受け350bとメインカム80のメインクラッチ4側端面との間に介在して配置されている。第3のスプリング83としては例えば皿ばねが用いられる。
【0078】
メインカム80は、カム溝80a(図7(b)に示す)を有し、メインクラッチ4と中間カム71との間に介在して配置され、かつ連結部材35(図5(a)及び(b)に示す)の鍔部35bに針状ころ軸受84を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト3(他方のシャフトエレメント31)を挿通させる円環部材によって形成されている。また、メインカム80は、コントロールカム70に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。そして、メインカム80は、第2のカム機構8の作動による第2のカム推力P2の発生によって、また第1のカム機構7の作動による第1のカム推力P1の発生によってそれぞれメインクラッチ4に押付力を付与する押付部材として機能するように構成されている。これにより、メインカム80が第2のカム機構8の作動による第2のカム推力P2を受けると、一方のシャフトエレメント30及び他方のシャフトエレメント31を互いに接続する方向に連結部材35を移動させる。
【0079】
メインカム80には、中間カム71の挿通孔71dに対応する複数(実施の形態では3個)の第1の取付孔80bが設けられている。複数の第1の取付孔80bは、メインカム80の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0080】
図7(b)に示すように、カム溝80aは、カムフォロア81側に開口し、第2のメインカム80の円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、カム溝80aは、その溝底がカムフォロア81の初期位置(カム溝80aの中立位置)800aに連続して第2のカム推力P2を発生させるための傾斜面801a、及びこの傾斜面801aに連続してカム推力を発生させない平面802aからなる凹溝によって形成されている。
【0081】
また、メインカム80には、図9(a)及び(b)に示すように、共通のスプリング受け26を支持する支持ピン28を圧入して取り付ける複数(実施の形態では3個)の第2の取付孔80cが設けられている。複数の第2の取付孔80cは、第2のメインカム80の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0082】
複数の回転力伝達部材82は、それぞれが対応する第1の取付孔80bに圧入して取り付けられている。そして、複数の回転力伝達部材82は、コントロールカム70の回転力をメインカム80に伝達するように構成されている。
【0083】
さらに、メインカム80には、コントロールカム70側で中間カム71を収容可能な円環状の凸部80dが設けられている。凸部80dには、その内部に突出し、かつ中間カム71の外フランジ71fに対向して第1のスプリング29のばね力a2を受ける止め輪85が取り付けられている。
【0084】
カムフォロア81は、中間カム71とメインカム80との間に転動可能に配置され、全体が球体(ボール)によって形成されている。
【0085】
〔駆動力伝達装置1の動作〕
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1〜図5,図10及び図11を用いて説明する。図10(a)及び(b)は第2のカム機構におけるカムフォロアの動作状態を示す。図11(a)及び(b)は第1のカム機構におけるカムフォロアの動作状態を示す。
【0086】
本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作は、「エンジンの駆動による動作」及び「車両の牽引による動作」の各動作が実施されるため、これら各動作について説明する。
【0087】
「エンジンの駆動による動作」
図1及び図2において、四輪駆動車101のエンジン102を始動すると、エンジン102の回転駆動力がトランスアクスル103及びプロペラシャフト107を介してハウジング2に伝達され、ハウジング2が回転駆動される。
【0088】
通常、四輪駆動車101の停止時や定常走行時には駆動機構6の電磁コイル60が非通電状態にあるため、電磁コイル60を基点とした磁気回路Mが形成されず、パイロットクラッチ5におけるクラッチプレート同士が摩擦係合することはない。
【0089】
このため、第1のカム機構7及び第2のカム機構8が作動せず、メインクラッチ4のインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とが互いに摩擦係合せず、エンジン102の回転駆動力はハウジング2からインナシャフト3に伝達されない。
【0090】
これに対して例えば四輪駆動車101の発進時(ハウジング2の回転時)に電磁コイル60が通電されると、磁気回路Mが形成され、アーマチャ61がパイロットクラッチ5のクラッチプレート同士を摩擦係合させる方向に移動する。
【0091】
このため、アーマチャ61の移動による押し付けによってパイロットクラッチ5のクラッチプレート同士が摩擦係合し、ハウジング2の回転力がパイロットクラッチ5を介して第1のカム機構7のコントロールカム70に伝達される。
【0092】
これに伴い、コントロールカム70が回転し、この回転力がカムフォロア72を介して中間カム71に、また回転力伝達部材82を介してメインカム80にそれぞれ伝達される。
【0093】
この際、第1のカム機構7(カム溝70a及び内周側のカム溝71a)及び第2のカム機構8(カム溝80a及び外周側のカム溝71b)のうちカム角の大きい第2のカム機構8がカム角の小さい第1のカム機構7に先行して作動し、図10(b)に示すようにカムフォロア81がカム溝80aの中立位置800aから傾斜面801aに変位して傾斜面801aを、また外周側のカム溝71bの中立位置710bから傾斜面711bに変位して傾斜面711bをそれぞれ転動する。この場合、図10(a)に示すように、カムフォロア72がカム溝70aの中立位置700a及び内周側のカム溝71aの中立位置710aに配置されたままである。
【0094】
このため、コントロールカム70の回転力を回転力伝達部材82から受けてメインカム80が中間カム71よりも先に回転し、メインカム80が中間カム71との間で相対回転する。
【0095】
これに伴い、中間カム71が第1のスプリング29のばね力a1に抗してメインクラッチ4から離間する方向に移動するとともに、メインカム80が第1のスプリング29のばね力a2に抗して中間カム71から離間する方向に、すなわち図3に示す状態から図4に示すようにメインクラッチ4側に連結部材35及び補助シャフトエレメント36と共に移動する。この場合、メインカム80がメインクラッチ4側に移動すると、連結部材35が一方のシャフトエレメント30に補助シャフトエレメント36を当接させた後に第3のスプリング83のばね力c(図5(b)に示す)に抗して一方のシャフトエレメント30側に移動する。
【0096】
この際、連結部材35の凹部35cとスプラインキー37の凸部37aとの嵌合状態(図5(a)に示す状態)が図5(b)に示すように解除され、連結部材35の一部が一方のシャフトエレメント30に補助シャフトエレメント36から移行する。
【0097】
このため、補助シャフトエレメント36と一方のシャフトエレメント30とが連結部材35にスプライン嵌合によって連結され、一方のシャフトエレメント30と他方のシャフトエレメント31とが連結部材35及び補助シャフトエレメント36を介してスプライン嵌合によって連結される。
【0098】
そして、メインカム80がメインクラッチ4側にさらに移動すると、メインカム80からメインクラッチ4に第2のカム推力P2が押付力として付与される。
【0099】
これにより、メインクラッチ4のインナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士が接近する。
【0100】
この後、図11(a)に示すようにカムフォロア81がカム溝80aの傾斜面801aから平面802aに乗り上げて平面802aを、また外周側のカム溝71bの傾斜面711bから平面712bに乗り上げて平面712bをそれぞれ転動する。一方、第1のカム機構7が第2のカム機構8に遅延して作動し、図11(b)に示すようにカムフォロア72がカム溝70aの中立位置700aから傾斜面701aに変位して傾斜面701aを、また内周側のカム溝71aの中立位置710aから傾斜面711aに変位して傾斜面711aをそれぞれ転動する。
【0101】
これに伴い、中間カム71がコントロールカム70から離間する方向に、すなわち第2のスプリング34のばね力bに抗してメインカム80,カムフォロア81及び回転力伝達部材82等と共にメインクラッチ4側に移動し、メインカム80がメインクラッチ4に第1のカム推力P1を押付力として付与する。
【0102】
これにより、メインクラッチ4のインナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士が摩擦係合し、エンジン102の回転駆動力がハウジング2からインナシャフト3に伝達され、さらにインナシャフト3からドライブピニオンシャフト108を介してリヤディファレンシャル110に伝達される。そして、リヤディファレンシャル110からリヤアクスルシャフト111を介して後輪105に伝達され、後輪105が回転駆動される。
【0103】
「車両の牽引による動作」
例えば、四輪駆動車101が後輪105を接地させて一方向(例えば車両前方)に二輪牽引されるとする。この場合、ハウジング2が回転せず、インナシャフト3のみが回転する状態となり、インナシャフト3の回転力が中間カム71に、また補助シャフトエレメント36を介して及び連結部材35にそれぞれ伝達され、中間カム71がインナシャフト3(他方のシャフトエレメント31)及び連結部材35,補助シャフトエレメント36と共に回転する。また、中間カム71が第1のスプリング29のばね力a1をカムフォロア81側に、第2のスプリング34のばね力bをカムフォロア72側にそれぞれ受ける。
【0104】
このため、メインカム80,コントロールカム70及びカムフォロア72,81等が中間カム71と共に回転軸線Oの回りに回転する。
【0105】
これにより、中間カム71とメインカム80とが、また中間カム71とコントロールカム70とがそれぞれ相対回転せず、第1のカム機構7及び第2のカム機構8が作動することはない。
【0106】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0107】
引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができるとともに、メインクラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0108】
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0109】
(1)上記実施の形態では、第2のカム機構8の作動によってインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するための第2のカム推力P2を発生させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、メインクラッチ4とメインカム80との間に形成されるクリアランスC(C≠0)を短縮するための第2のカム推力P2を第2のカム機構8に発生させてもよい。
【0110】
(2)上記実施の形態では、ハウジング2が入力軸側に、またインナシャフト3が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0111】
1…駆動力伝達装置、2…ハウジング、2a…収容空間、3…インナシャフト、30…一方のシャフトエレメント、30a…ストレートスプライン嵌合部、31…他方のシャフトエレメント、31a…大径の円筒部、310a…ストレートスプライン嵌合部、31b…小径の円筒部、310b…ストレートスプライン嵌合部、31c…中間径の円筒部、31d,31e…段差面、4…メインクラッチ、40…インナクラッチプレート、40a…ストレートスプライン嵌合部、41…アウタクラッチプレート、41a…ストレートスプライン嵌合部、5…パイロットクラッチ、50…インナクラッチプレート、50a…ストレートスプライン嵌合部、51…アウタクラッチプレート、51a…ストレートスプライン嵌合部、6…駆動機構、60…電磁コイル、61…アーマチャ、61a…ストレートスプライン嵌合部、7…第1のカム機構、70…コントロールカム、70a…カム溝、700a…中立位置、701a…傾斜面、70b…ストレートスプライン嵌合部、700b…空間部、71…中間カム、71a…内周側のカム溝、710a…中立位置、711a…傾斜面、71b…外周側のカム溝、710b…中立位置、711b…傾斜面、712b…平面、71c…スプリング収容空間、71d…挿通孔、71e…ストレートスプライン嵌合部、71f…外フランジ、72…カムフォロア、8…第2のカム機構、80…メインカム、80a…カム溝、800a…中立位置、801a…傾斜面、802a…平面、80b…第1の取付孔、80c…第2の取付孔、80d…凸部、81…カムフォロア、82…回転力伝達部材、9…フロントハウジング、9a…ストレートスプライン嵌合部、10…リヤハウジング、10a…収容空間、11…第1のリヤハウジングエレメント、12…第2のリヤハウジングエレメント、13…第3のリヤハウジングエレメント、15…円すいころ軸受、16,17…シール部材、19,20…玉軸受、21…栓体、22…針状ころ軸受、23…一方の復帰用スプリング、24…他方の復帰用スプリング、25…一方側のスプリング受け、25a…基部、25b…凸部、26…共通のスプリング受け、26a…基部、26b,26c…凸部、27…他方側のスプリング受け、27a…基部、27b…凸部、28…支持ピン、29…第1のスプリング、34…第2のスプリング、35…連結部材、35a…胴部、350a…ストレートスプライン嵌合部、35b…鍔部、350b…スプリング受け、35c…凹部、36…補助シャフトエレメント、36a,36b…ストレートスプライン嵌合部、360b…スプライン歯、36c…キー収容部、37…スプラインキー、37a…凸部、38,39…止め輪、83…第3のスプリング、84…針状ころ軸受、85…止め輪、101…四輪駆動車、102…エンジン、103…トランスアクスル、104…前輪、105…後輪、106…ディファレンシャルキャリア、106a…カップリングケース、107…プロペラシャフト、108…ドライブピニオンシャフト、108a…ストレートスプライン嵌合部、109…フロントアクスルシャフト、110…リヤディファレンシャル、111…リヤアクスルシャフト、112…玉軸受、113…継手、M…磁気回路、O…回転軸線、P1…第1のカム推力、P2…第2のカム推力、a1,a2,b,c…ばね力、D1,D2…中心径、θ1,θ2…カム角
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車における入力軸からの駆動力を出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、一対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この駆動力伝達装置は、入力軸と共に回転する第1の回転部材と、この第1の回転部材の軸線上で回転可能な第2の回転部材と、この第2の回転部材と第1の回転部材とをトルク伝達可能に連結する摩擦式の第1のクラッチと、この第1のクラッチに第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線に沿って並列する電磁クラッチと、この電磁クラッチの電磁力を受けて動作する摩擦式の第2のクラッチと、この第2のクラッチのクラッチ動作によって第1の回転部材からの回転力を第1のクラッチ側への押付力に変換するカム機構とから構成されている。
【0004】
第1の回転部材は、一方に開口する有底円筒状のフロントハウジング、及びこのハウジングの開口部に装着された円環状のリヤハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、第1の回転部材は、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転するように構成されている。
【0005】
第2の回転部材は、第1の回転部材に回転軸線上で相対回転可能に配置され、かつ出力軸に連結されている。
【0006】
第1のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。そして、第1のクラッチは、メインクラッチとして機能し、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが摩擦係合して第1の回転部材と第2の回転部材とをトルク伝達可能に連結するように構成されている。
【0007】
電磁クラッチは、第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線上に配置されている。そして、電磁クラッチは、電磁力を発生させて第2のクラッチを動作させるように構成されている。
【0008】
第2のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、メインクラッチの電磁クラッチ側に配置されている。そして、第2のクラッチは、電磁クラッチの電磁力を受けて動作するパイロットクラッチとして機能し、第1の回転部材の回転力をカム機構に付与するように構成されている。
【0009】
カム機構は、第1の回転部材からの回転力によるカム作用によって第1のクラッチに押付力を付与する押付部を有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。
【0010】
以上の構成により、エンジン側からの駆動力が入力軸を介して第1の回転部材に入力されると、第1の回転部材がその軸線回りに回転する。ここで、電磁クラッチに通電すると、電磁クラッチの電磁力によって第2のクラッチが動作する。
【0011】
次に、第2のクラッチの動作時に第1の回転部材からの回転力をカム機構が受けると、この回転力がカム機構によって押付力に変換され、この押付力が第1のクラッチに付与される。
【0012】
そして、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって第1の回転部材と第2の回転部材とがトルク伝達可能に連結される。これにより、エンジン側の駆動力が入力軸から駆動力伝達装置を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−14001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1の駆動力伝達装置によると、電磁クラッチの非通電時に例えば四輪駆動車が後輪を接地させて車両前方に二輪牽引される場合、カム機構が第2の回転部材からの回転力のみならず、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間に及び第2のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクによって第1の回転部材からの回転力も受け、この回転力によるカム推力の発生によってカム機構の押付部が第1のクラッチを押し付ける。このため、第1のクラッチがカム機構によって増幅された押付力を受け、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに摩擦係合して旋回性や燃費に悪影響を及ぼす。
【0015】
従って、本発明の目的は、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(7)の駆動力伝達装置を提供する。
【0017】
(1)四輪駆動車の駆動源によって回転する第1の回転部材と、前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置され、前記回転軸線に沿う連結部材の移動によって断続する2つのエレメントを有する第2の回転部材と、前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを押付部材の押付力によるクラッチ動作によって連結する第1のクラッチと、前記第1のクラッチに前記回転軸線上で並列して配置された第2のクラッチと、前記第2のクラッチのクラッチ動作による作動によって前記第1の回転部材からの回転力をカム推力に変換するカム機構とを備え、前記カム機構は、前記第1の回転部材の回転力を前記第2のクラッチから受けて回転するコントロールカム、及び前記コントロールカムから回転力を受けて回転する前記押付部材としてのメインカムを有し、前記メインカムが前記カム推力を受けて前記2つのエレメントを互いに接続する方向に前記連結部材を移動させる位置に配置されている駆動力伝達装置。
【0018】
(2)上記(1)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記2つのエレメントのうち一方のエレメントが前記第1の回転部材の内周部に前記第1のクラッチを介して対向する外周部を有する外筒によって、また他方のエレメントが前記一方のエレメントの内周部に対向する外周部を有する内筒によってそれぞれ形成されている。
【0019】
(3)上記(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の回転部材は、その回転によって発生する遠心力の作用状態において前記一方のエレメントの内周部と前記他方のエレメントの外周部との間に介在しない油量の潤滑油が内部に貯溜されている。
【0020】
(4)上記(2)又は(3)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記他方のエレメントが前記連結部材に補助エレメントを介して連結する位置に配置されている。
【0021】
(5)上記(4)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、その初期状態において前記連結部材が前記補助エレメントにキー部材によって前記回転軸線の方向に移動不能に配置されている。
【0022】
(6)上記(5)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記補助エレメントが前記連結部材との間に介在するスプライン嵌合部を形成する複数のスプライン歯を外周部に有する円筒部材からなり、前記複数のスプライン歯のうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に前記キー部材を介在させている。
【0023】
(7)上記(4)乃至(6)のいずれかに記載の駆動力伝達装置において、前記カム機構は、前記メインカムが前記第1のクラッチ側への移動に伴い前記一方のエレメントに前記補助エレメントを当接させて前記第1のクラッチ側と反対の側へのばね力をスプリングから受ける。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の非動作状態(初期状態)を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の動作状態を説明するために示す断面図。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置における連結部材とキー部材との嵌合状態及び非嵌合状態を示す断面図。(a)は嵌合状態を、また(b)は非嵌合状態をそれぞれ示す。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置におけるキー部材の配置状態を示す断面図と正面図。(a)は断面図を、また(b)は正面図をそれぞれ示す。
【図7】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のカム溝を説明するために示す断面図。(a)は中間カム及びコントロールカムのカム溝を、また(b)は中間カム及びメインカムのカム溝をそれぞれ示す。
【図8】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のコントロールカムをパイロットクラッチ側から見た状態を示す。
【図9】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の復帰用スプリングを説明するために示す断面図。(a)は第2のカム機構の非作動状態を、また(b)は第2のカム機構の作動状態をそれぞれ示す。
【図10】(a)及び(b)は、第2のカム機構の動作時におけるカムフォロアの移動位置を示す断面図。(a)は中間カム及びコントロールカムのカム溝のカムフォロアを、また(b)は中間カム及びメインカムのカム溝のカムフォロアをそれぞれ示す。
【図11】(a)及び(b)は、第1のカム機構の動作時におけるカムフォロアの移動位置を示す断面図。(a)はメインカム及び中間カムのカム溝のカムフォロアを、また(b)は中間カム及びコントロールカムのカム溝のカムフォロアをそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車101は、駆動力伝達装置1,エンジン102,トランスアクスル103,一対の前輪104及び一対の後輪105を備えている。
【0027】
駆動力伝達装置1は、四輪駆動車101における前輪側から後輪側に至る駆動力伝達経路に配置され、かつ四輪駆動車101の車体(図示せず)にディファレンシャルキャリア106を介して支持されている。
【0028】
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト(入力軸)107とドライブピニオンシャフト(出力軸)108とをトルク伝達可能に連結し、この連結状態においてエンジン102の駆動力を後輪105に伝達し得るように構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
【0029】
エンジン102は、その駆動力をトランスアクスル103を介してフロントアクスルシャフト109に出力することにより、一対の前輪104を駆動する。
【0030】
また、エンジン102は、その駆動力をトランスアクスル103を介してプロペラシャフト107,駆動力伝達装置1,ドライブピニオンシャフト108,リヤディファレンシャル110及びリヤアクスルシャフト111に出力することにより、一対の後輪105を駆動する。
【0031】
〔駆動力伝達装置1の全体構成〕
図2は駆動力伝達装置の全体を示す。図2に示すように、駆動力伝達装置1は、ディファレンシャルキャリア106(図1に示す)のカップリングケース106aに対して回転可能な第1の回転部材としてのハウジング2と、ハウジング2に対して回転可能な第2の回転部材としてのインナシャフト3と、このインナシャフト3とハウジング2とを断続可能に連結する第1のクラッチとしてのメインクラッチ4と、メインクラッチ4にその軸線に沿って並列する第2のクラッチとしてのパイロットクラッチ5と、パイロットクラッチ5を動作させる駆動機構6と、駆動機構6の駆動時にハウジング2の回転力を第1のカム推力P1に変換する第1のカム機構7と、第1のカム機構7によって作動する第2のカム機構8とから大略構成されている。
【0032】
(ハウジング2の構成)
ハウジング2は、フロントハウジング9及びリヤハウジング10からなり、カップリングケース106a内に回転軸線O上で回転可能に収容されている。そして、ハウジング2は、エンジン102(図1に示す)の駆動トルクを継手113から受けて回転するように構成されている。ハウジング2内には、メインクラッチ4,パイロットクラッチ5,第1のカム機構7及び第2のカム機構8等を収容する収容空間2aが設けられている。収容空間2aには、メインクラッチ4,玉軸受20及び針状ころ軸受22等を潤滑する潤滑油が貯溜されている。油量は、ハウジング2の回転によって発生する遠心力の作用状態において一方のシャフトエレメント30(後述)の内周面と他方のシャフトエレメント31(後述)の外周面との間に潤滑油が介在しない量(例えば収容空間2aの容積の50%以下の油量)に、すなわち一方のシャフトエレメント30の内周面と他方のシャフトエレメント31の外周面との間に形成される空隙g(図3に示す)にハウジング2の回転によって発生する遠心力の作用状態において潤滑油が充満しない量に設定されている。これにより、四輪駆動車101の牽引時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによる一方のシャフトエレメント30と他方のシャフトエレメント31との間のトルク伝達を抑えることができる。
【0033】
フロントハウジング9は、収容空間2aに露出するストレートスプライン嵌合部9aを有し、エンジン102(図1に示す)にトランスアクスル103及びプロペラシャフト107(共に図1に示す)を介して連結され、かつカップリングケース106a内に玉軸受112を介して支持され、全体がリヤハウジング側に開口するアルミニウムなど非磁性の金属材料からなる有底円筒状の部材によって形成されている。そして、フロントハウジング9は、エンジン102の駆動力をプロペラシャフト107から受けてリヤハウジング10と共に回転軸線Oの回りに回転するように構成されている。フロントハウジング9とプロペラシャフト107との連結は継手113によって行われる。
【0034】
リヤハウジング10は、第1〜第3のリヤハウジングエレメント11〜13(第1のリヤハウジングエレメント11,第2のリヤハウジングエレメント12,第3のリヤハウジングエレメント13)からなり、フロントハウジング9の開口内周面に螺着(ねじ結合)されている。リヤハウジング10には、メインクラッチ4側とは反対側に開口する円環状の収容空間10aが設けられている。
【0035】
第1のリヤハウジングエレメント11は、リヤハウジング10の内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第1のリヤハウジングエレメント11の内周面は、インナシャフト3における小径の円筒部3bの外周面との間にシール部材16が介在して配置されている。また、第1のリヤハウジングエレメント11の内周面は、ドライブピニオンシャフト108の外周面との間に玉軸受19が介在して配置されている。ドライブピニオンシャフト108の外周面は、カップリングケース106aの内周面との間に円すいころ軸受15が介在して配置されている。
【0036】
第2のリヤハウジングエレメント12は、リヤハウジング10の外周側に配置され、全体が第1のリヤハウジングエレメント11と同様に軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第2のリヤハウジングエレメント12の外周面は、フロントハウジング9の内周面との間にシール部材17が介在して配置されている。
【0037】
第3のリヤハウジングエレメント13は、第1のリヤハウジングエレメント11と第2のリヤハウジングエレメンと12との間に介在して配置され、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるリヤハウジングエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
【0038】
(インナシャフト3の構成)
インナシャフト3は、内外2つのシャフトエレメント30,31を有し、ハウジング2に回転軸線Oに沿って相対回転可能に配置されている。そして、インナシャフト3は、エンジン102(図1に示す)の駆動トルクをメインクラッチ4から受けてドライブピニオンシャフト108に伝達するように構成されている。
【0039】
内外2つのシャフトエレメント30,31は、回転軸線Oに沿う連結部材35(後述)の移動によって断続(遮断・接続)するように構成されている。内外2つのシャフトエレメント30,31の接続時には、連結部材35の一方端部が一方のシャフトエレメント30に、また他方端部が他方のシャフトエレメント31に補助シャフトエレメント36(後述)を介してそれぞれ連結される。内外2つのシャフトエレメント30,31の遮断時には、連結部材35が一方のシャフトエレメント30に連結されず、他方のシャフトエレメント31に補助シャフトエレメント36を介して連結される。
【0040】
一方のシャフトエレメント(外筒)30は、フロントハウジング9の内周部にメインクラッチ4を介して対向する外周部を有し、ハウジング2に回転軸線O上でメインクラッチ4を介して断続可能に連結され、全体が回転軸線Oの両方向に開口する無底円筒部材によって形成されている。一方のシャフトエレメント30には、ハウジング2の収容空間2aに露出するストレートスプライン嵌合部30aが設けられている。
【0041】
他方のシャフトエレメント31は、各外径が互いに異なる大中小3つの円筒部31a,31b,31c(大径の円筒部31a,小径の円筒部31b,中間径の円筒部31c)、及びこれら円筒部31a〜31cのうち互いに隣り合う2つの円筒部間に介在する段差面31d,31eを有し、ハウジング2にその内部で玉軸受20を介して相対回転可能に支持され、全体が一方のシャフトエレメント30を挿通する無底円筒状の部材によって形成されている。そして、他方のシャフトエレメント31は、その補助シャフトエレメント36を介して連結部材35に連結するように構成されている。
【0042】
大径の円筒部31aは、一方のシャフトエレメント30の内周部に空隙gを介して対向する外周部を有し、インナシャフト3の軸線方向中央部に配置されている。大径の円筒部31aの外径は、小径の円筒部31b及び中間径の円筒部31cの各外径よりも大きい寸法に設定されている。空隙gは、一方のシャフトエレメント30と他方のシャフトエレメント31とが相対回転可能な寸法に設定されている。大径の円筒部31aには、ハウジング2の収容空間2aに露出するストレートスプライン嵌合部310aが設けられている。また、大径の円筒部31aには、そのプロペラシャフト側開口を閉塞する栓体21が装着されている。
【0043】
小径の円筒部31bは、インナシャフト3の軸線方向一方側(ドライブピニオンシャフト108側)に配置されている。小径の円筒部31bには、ドライブピニオンシャフト108のストレートスプライン嵌合部108aに相対回転不能に嵌合するストレートスプライン嵌合部310bが大径の円筒部31aに跨って設けられている。小径の円筒部31bの外径は、大径の円筒部31a及び中間径の円筒部31cの各外径よりも小さい寸法に設定されている。
【0044】
中間径の円筒部31cは、インナシャフト3の軸線方向他方側(プロペラシャフト107側)に配置されている。中間径の円筒部31cの外径は、大径の円筒部31aの外径よりも小さく、かつ小径の円筒部31bの外径よりも大きい寸法に設定されている。
【0045】
図3はシャフトエレメントの非連結状態を示す。図4はシャフトエレメントの連結状態を示す。図3及び図4に示すように、連結部材35は、胴部35a及び鍔部35bを有し、メインクラッチ4と第2のカム機構8(第1のカム機構7)の中間カム71との間に介在して回転軸線O(図2に示す)上で移動可能に配置され、かつ止め輪(スナップリング)38によってメインクラッチ4側への移動が規制され、全体が補助シャフトエレメント36を介して他方のシャフトエレメント31を挿通させる円筒部材によって形成されている。また、連結部材35は、インナシャフト3の初期状態において補助シャフトエレメント36にキー部材としてのスプラインキー37(図5に示す)によって回転軸線Oの方向に移動不能に配置されている。そして、連結部材35は、第2のカム機構8のメインカム80から押付力を受けてメインクラッチ4側に、また第1のスプリング29のばね力を受けてリヤハウジング10側にメインカム80と共に移動するように構成されている。連結部材35には、その内周面に開口し、かつ円周方向に等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では3個)の凹部35c(図5に示す)が設けられている。
【0046】
胴部35aは、メインカム80の内周部と補助シャフトエレメント36の外周部との間に介在して配置されている。胴部35aには、その内部に露出するストレートスプライン嵌合部350aが設けられている。
【0047】
鍔部35bは、スプリング受け350bを外周縁に有し、連結部材35のメインクラッチ4側に配置され、かつ胴部35aの外周面に一体に形成されている。
【0048】
補助シャフトエレメント36は、一方のシャフトエレメント30と第2のカム機構8の中間カム71との間に介在して配置され、全体が一方のシャフトエレメント30の内外径と略同一の内外径をもつ円筒部材によって形成されている。補助シャフトエレメント36の内周部には、他方のシャフトエレメント31の外周部との間に介在してストレートスプライン嵌合部310aに嵌合するストレートスプライン嵌合部36aが設けられている。また、補助シャフトエレメント36の外周部には、連結部材35の内周部との間に介在してストレートスプライン嵌合部350aに嵌合するストレートスプライン嵌合部36bが設けられている。補助シャフトエレメント36のカム側端部(ドライブピニオンシャフト108側の端部)には、円周方向に等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では3個)のキー収容部36c(図5に示す)が設けられている。キー収容部36cは、ストレートスプライン嵌合部36bを形成する複数のスプライン歯360b(図6に示す)の一部を欠くことにより形成されている。
【0049】
図5(a)及び(b)は連結部材とキー部材との嵌合状態と非嵌合状態を示す。図6(a)及び(b)はキー部材の取付状態を示す。図5(a),(b)及び図6(a),(b)に示すように、スプラインキー37は、連結部材35の内周部と補助シャフトエレメント36の外周部との間に配置され、かつ補助シャフトエレメント36のキー収容部36cに収容されている。そして、スプラインキー37は、止め輪(スナップリング)39によって一方のシャフトエレメント30側への移動が規制されている。スプラインキー37には、連結部材35の回転軸線O(図2に示す)に沿う移動によって凹部35cに出没可能に嵌合する凸部37aが設けられている。
【0050】
(メインクラッチ4の構成)
メインクラッチ4は、図2に示すように、複数のインナクラッチプレート40及び複数のアウタクラッチプレート41を有する摩擦式のメインクラッチからなり、フロントハウジング9(ハウジング2)とインナシャフト3との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、メインクラッチ4は、インナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング2とインナシャフト3とを断続(トルク伝達)可能に連結するように構成されている。
【0051】
インナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスは、第2のカム機構8の作動によるカム作用の発生によってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0052】
インナクラッチプレート40は、その内周部にストレートスプライン嵌合部40aを有し、ストレートスプライン嵌合部40aをストレートスプライン嵌合部30aに嵌合させて一方のシャフトエレメント30(インナシャフト3)に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。インナクラッチプレート40のうちパイロットクラッチ側最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ4の入力部として機能し、第1のカム機構7の作動時に第2のカム機構8のメインカム80(後述)からメインクラッチ4側に押付力を受けると、この押付方向への移動によって他のインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とを摩擦係合させるように構成されている。
【0053】
アウタクラッチプレート41は、その外周部にストレートスプライン嵌合部41aを有し、ストレートスプライン嵌合部41aをストレートスプライン嵌合部9aに嵌合させてフロントハウジング9(ハウジング2)に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0054】
(パイロットクラッチ5の構成)
パイロットクラッチ5は、駆動機構6の駆動によるアーマチャ61の電磁コイル60側への移動によって互いに摩擦係合可能な円環状の摩擦板からなるインナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51を有し、アーマチャ61とリヤハウジング10との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、パイロットクラッチ5は、インナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング2と第1のカム機構7(コントロールカム70)とを断続(トルク伝達)可能に連結するように構成されている。
【0055】
インナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスは、車両の牽引時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0056】
インナクラッチプレート50は、その内周部にストレートスプライン嵌合部50aを有し、ストレートスプライン嵌合部50aをストレートスプライン嵌合部70bに嵌合させてコントロールカム70に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0057】
アウタクラッチプレート51は、その外周部にストレートスプライン嵌合部51aを有し、ストレートスプライン嵌合部51aをストレートスプライン嵌合部9aに嵌合させてフロントハウジング9に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0058】
(駆動機構6の構成)
駆動機構6は、電磁コイル60及びアーマチャ61を有し、ハウジング2の回転軸線O上に配置されている。そして、駆動機構6は、電磁コイル60の電磁力の発生によるアーマチャ61の電磁コイル60側への移動によってパイロットクラッチ5のインナクラッチプレート50及びアウタクラッチプレート51のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させるように構成されている。
【0059】
電磁コイル60は、リヤハウジング10の収容空間10aに収容され、かつカップリングケース106aに取り付けられている。そして、電磁コイル60は、図2に破線で示すように、通電によってカップリングケース106a,リヤハウジング10,パイロットクラッチ5及びアーマチャ61等に跨って磁気回路Mを形成し、アーマチャ61にリヤハウジング10側への移動力を付与するための電磁力を発生させるように構成されている。
【0060】
アーマチャ61は、第2のカム機構8(中間カム71)とパイロットクラッチ5との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容され、全体が鉄等の磁性材料からなる環状板によって形成されている。そして、アーマチャ61は、電磁コイル60の電磁力を受け、パイロットクラッチ5側にハウジング2の回転軸線Oに沿って移動するように構成されている。また、アーマチャ61は、その外周部に回転軸線Oに沿ったストレートスプライン嵌合部61aを有し、ストレートスプライン嵌合部61aをストレートスプライン嵌合部9aに嵌合させてフロントハウジング9に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0061】
(第1のカム機構7の構成)
図7(a)及び(b)はカム溝及びカムフォロアを示す。図8はコントロールカム及び回転力伝達部材を示す。図9(a)及び(b)は復帰用スプリングの取付状態を示す。図2に示すように、第1のカム機構7は、ハウジング2の回転力をパイロットクラッチ5から受けて回転するコントロールカム70、このコントロールカム70にハウジング2の回転軸線Oに沿って並列する中間カム71、及びこの中間カム71とコントロールカム70との間に介在するカムフォロア72を有し、第2のカム機構8(メインカム80)とリヤハウジング10との間に介在して配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、第1のカム機構7は、パイロットクラッチ5のクラッチ動作によってハウジング2からの回転力を受けてメインクラッチ4のクラッチ力(摩擦係合力)となる第1のカム推力P1に変換し、メインクラッチ4に第1のカム推力P1を押付力として付与するように構成されている。
【0062】
コントロールカム70は、そのリヤハウジング側端面がリヤハウジング10(第1のリヤハウジングエレメント11)のコントロールカム側端面との間に針状ころ軸受22を介在させ、インナシャフト3(小径の円筒部3b)に相対回転可能に配置されている。コントロールカム70には、円周方向に並列し、かつカムフォロア72側に開口する複数(実施の形態では3個)のカム溝70a(図7(a)に示す)が設けられている。
【0063】
複数のカム溝70aは、図7(a)に示すように、その溝底がカムフォロア72の初期位置(カム溝70aの中立位置)700aからコントロールカム70の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝、すなわち中立位置700aに連続して第1の推力P1を発生させるための傾斜面701aからなる凹溝によって形成されている。
【0064】
コントロールカム70の外周部には、パイロットクラッチ5におけるインナクラッチプレート50のストレートスプライン嵌合部50aに嵌合するストレートスプライン嵌合部70b(図2に示す)が設けられている。ストレートスプライン嵌合部70bは、パイロットクラッチ5(インナクラッチプレート50)に対するコントロールカム70の連結部として構成され、他のストレートスプライン嵌合部と同様に複数のスプライン歯によって形成されている。ストレートスプライン嵌合部70bには、図8に示すように、複数のスプライン歯のうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に第2のカム機構8における回転力伝達部材82(後述)を介在させる複数(実施の形態では3個)の空間部700bが設けられている。複数の空間部700bは、スプライン歯の一部を欠くことによりコントロールカム70の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0065】
中間カム71は、図7(a)及び(b)に示すように、内外2種のカム溝71a,71b(内周側のカム溝71a及び外周側のカム溝71b)及びスプリング収容空間71c(図9(a)及び(b)に示す)を有し、第1のカム機構7(図2に示す)のメインクラッチ4(図2に示す)側でインナシャフト3(大径の円筒部31a)に相対回転不能かつ相対移動可能に配置され、全体がインナシャフト3を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0066】
内周側のカム溝71aは、カムフォロア72側に開口し、中間カム71の円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、内周側のカム溝71aは、その溝底がカムフォロア72の初期位置(カム溝71aの中立位置)710aから中間カム71の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝、すなわち中立位置710aに連続して第1のカム推力P1を発生させるための傾斜面711aからなる凹溝によって形成されている。
【0067】
外周側のカム溝71bは、カムフォロア81側に開口し、中間カム71の円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、外周側のカム溝71bは、その溝底がカムフォロア72の初期位置(カム溝71bの中立位置)710bに連続して第2のカム推力P2を発生させるための傾斜面711b、及びこの傾斜面711bに連続してカム力を発生させない平面712bからなる凹溝によって形成されている。傾斜面711b(傾斜面801a)の傾斜角(カム角)θ2は、傾斜面711a(傾斜面701a)の傾斜角(カム角)θ1よりも大きい角度に設定されている。本実施の形態では、例えばカム角θ1がθ1=8°に、カム角θ2がθ2=30°にそれぞれ設定されている。また、内周側のカム溝71a(カム溝70a)の中心径D1がD1=42mmに、外周側のカム溝71b(カム溝80a)の中心径D2がD2=95mmにそれぞれ設定されている。
【0068】
スプリング収容空間71cは、図9(a)及び(b)に示すように、中間カム71にその円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、スプリング収容空間71cは、中間カム71の円周方向に延び、かつ中間カム71のメインクラッチ4(図2に示す)側及びリヤハウジング10(図2に示す)側に開口する貫通孔によって形成されている。スプリング収容空間71cには、中間カム71に円周方向の初期位置への復帰力を付与する復帰用スプリング23,24が収容されている。復帰用スプリング23,24としては例えば圧縮コイルスプリングが用いられる。
【0069】
一方の復帰用スプリング23は、スプリング収容空間71cの円周方向一方側で一方側のスプリング受け25と共通のスプリング受け26との間に介在して配置されている。他方の復帰用スプリング24は、スプリング収容空間71cの円周方向他方側で他方側のスプリング受け27と共通のスプリング受け26との間に介在して配置されている。
【0070】
一方側のスプリング受け25は、円板状の基部25a及び円柱状の凸部25bを有し、スプリング収容空間71cの一方側端に固定されている。
【0071】
共通のスプリング受け26は、円筒状の基部26a及び円柱状の凸部26b,26cを有し、スプリング収容空間71cの円周方向略中央位置に配置されている。
【0072】
他方側のスプリング受け27は、円板状の基部27a及び円柱状の凸部27bを有し、スプリング収容空間71cの他方側端に固定されている。
【0073】
中間カム71には、図3(a)及び(b)に示すように、内周側のカム溝71aと外周側のカム溝71bとの間に介在してメインクラッチ4側及びパイロットクラッチ5側に開口し、かつ回転力伝達部材82を挿通させる複数(実施の形態では3個)の挿通孔71dが設けられている。複数の挿通孔71dは、中間カム71の円周方向に延びる長孔によって形成されている。中間カム71には、メインクラッチ4に接近する方向のばね力a1が第1のスプリング29によって付与されている。第1のスプリング29としては例えば組み合わせ皿ばねが用いられる。また、中間カム71には、インナシャフト3(大径の円筒部31a)のストレートスプライン嵌合部310aに嵌合するストレートスプライン嵌合部71eが設けられている。
【0074】
中間カム71の内周部には、インナシャフト3の段差面31eとの間に第2のスプリング34が介在して配置されている。第2のスプリング34により、中間カム71にメインクラッチ4から離間する方向のばね力bが付与される。第2のスプリング34としては例えば皿ばねが用いられる。中間カム71の外周部には、第1のスプリング29のばね力a1を受ける外フランジ71fが設けられている。
【0075】
カムフォロア72は、コントロールカム70と中間カム71との間に転動可能に配置され、全体が球体(ボール)によって形成されている。
【0076】
(第2のカム機構8の構成)
第2のカム機構8は、図2に示すように、中間カム71及び複数の回転力伝達部材82を含み、コントロールカム70及び中間カム71の回転によって回転するメインカム80、及びメインカム80と中間カム71との間に介在するカムフォロア81を有し、メインクラッチ4とアーマチャ61との間に配置され、かつハウジング2の収容空間2aに収容されている。そして、第2のカム機構8は、第1のカム機構7による第1のカム推力P1の変換に先行して作動し、この作動によってメインクラッチ4にメインカム80を接近させるための第2のカム推力P2を発生させ、この第2のカム推力P2をメインクラッチ4に付与して例えば互いに隣り合うインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41との間のクリアランスCをC=0に短縮するように構成されている。これにより、メインクラッチ4においては、第2のカム機構8の作動によるカム作用によって第2のカム推力P2を受け、インナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とが接近し、その後に第1のカム機構7の作動によるカム作用によって第1のカム推力P1を受け、インナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とが摩擦係合する。
【0077】
また、第2のカム機構8は、メインカム80がメインクラッチ4側への移動に伴い一方のシャフトエレメント30の軸線方向端面に補助シャフトエレメント36の軸線方向端面を当接させてメインクラッチ4側と反対の側へのばね力cを第3のスプリング83から受けるように構成されている。第3のスプリング83は、連結部材35(鍔部35b)のスプリング受け350bとメインカム80のメインクラッチ4側端面との間に介在して配置されている。第3のスプリング83としては例えば皿ばねが用いられる。
【0078】
メインカム80は、カム溝80a(図7(b)に示す)を有し、メインクラッチ4と中間カム71との間に介在して配置され、かつ連結部材35(図5(a)及び(b)に示す)の鍔部35bに針状ころ軸受84を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト3(他方のシャフトエレメント31)を挿通させる円環部材によって形成されている。また、メインカム80は、コントロールカム70に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。そして、メインカム80は、第2のカム機構8の作動による第2のカム推力P2の発生によって、また第1のカム機構7の作動による第1のカム推力P1の発生によってそれぞれメインクラッチ4に押付力を付与する押付部材として機能するように構成されている。これにより、メインカム80が第2のカム機構8の作動による第2のカム推力P2を受けると、一方のシャフトエレメント30及び他方のシャフトエレメント31を互いに接続する方向に連結部材35を移動させる。
【0079】
メインカム80には、中間カム71の挿通孔71dに対応する複数(実施の形態では3個)の第1の取付孔80bが設けられている。複数の第1の取付孔80bは、メインカム80の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0080】
図7(b)に示すように、カム溝80aは、カムフォロア81側に開口し、第2のメインカム80の円周方向に等間隔をもって複数個(実施の形態では3個)配置されている。そして、カム溝80aは、その溝底がカムフォロア81の初期位置(カム溝80aの中立位置)800aに連続して第2のカム推力P2を発生させるための傾斜面801a、及びこの傾斜面801aに連続してカム推力を発生させない平面802aからなる凹溝によって形成されている。
【0081】
また、メインカム80には、図9(a)及び(b)に示すように、共通のスプリング受け26を支持する支持ピン28を圧入して取り付ける複数(実施の形態では3個)の第2の取付孔80cが設けられている。複数の第2の取付孔80cは、第2のメインカム80の円周方向に等間隔をもって配置されている。
【0082】
複数の回転力伝達部材82は、それぞれが対応する第1の取付孔80bに圧入して取り付けられている。そして、複数の回転力伝達部材82は、コントロールカム70の回転力をメインカム80に伝達するように構成されている。
【0083】
さらに、メインカム80には、コントロールカム70側で中間カム71を収容可能な円環状の凸部80dが設けられている。凸部80dには、その内部に突出し、かつ中間カム71の外フランジ71fに対向して第1のスプリング29のばね力a2を受ける止め輪85が取り付けられている。
【0084】
カムフォロア81は、中間カム71とメインカム80との間に転動可能に配置され、全体が球体(ボール)によって形成されている。
【0085】
〔駆動力伝達装置1の動作〕
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1〜図5,図10及び図11を用いて説明する。図10(a)及び(b)は第2のカム機構におけるカムフォロアの動作状態を示す。図11(a)及び(b)は第1のカム機構におけるカムフォロアの動作状態を示す。
【0086】
本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作は、「エンジンの駆動による動作」及び「車両の牽引による動作」の各動作が実施されるため、これら各動作について説明する。
【0087】
「エンジンの駆動による動作」
図1及び図2において、四輪駆動車101のエンジン102を始動すると、エンジン102の回転駆動力がトランスアクスル103及びプロペラシャフト107を介してハウジング2に伝達され、ハウジング2が回転駆動される。
【0088】
通常、四輪駆動車101の停止時や定常走行時には駆動機構6の電磁コイル60が非通電状態にあるため、電磁コイル60を基点とした磁気回路Mが形成されず、パイロットクラッチ5におけるクラッチプレート同士が摩擦係合することはない。
【0089】
このため、第1のカム機構7及び第2のカム機構8が作動せず、メインクラッチ4のインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41とが互いに摩擦係合せず、エンジン102の回転駆動力はハウジング2からインナシャフト3に伝達されない。
【0090】
これに対して例えば四輪駆動車101の発進時(ハウジング2の回転時)に電磁コイル60が通電されると、磁気回路Mが形成され、アーマチャ61がパイロットクラッチ5のクラッチプレート同士を摩擦係合させる方向に移動する。
【0091】
このため、アーマチャ61の移動による押し付けによってパイロットクラッチ5のクラッチプレート同士が摩擦係合し、ハウジング2の回転力がパイロットクラッチ5を介して第1のカム機構7のコントロールカム70に伝達される。
【0092】
これに伴い、コントロールカム70が回転し、この回転力がカムフォロア72を介して中間カム71に、また回転力伝達部材82を介してメインカム80にそれぞれ伝達される。
【0093】
この際、第1のカム機構7(カム溝70a及び内周側のカム溝71a)及び第2のカム機構8(カム溝80a及び外周側のカム溝71b)のうちカム角の大きい第2のカム機構8がカム角の小さい第1のカム機構7に先行して作動し、図10(b)に示すようにカムフォロア81がカム溝80aの中立位置800aから傾斜面801aに変位して傾斜面801aを、また外周側のカム溝71bの中立位置710bから傾斜面711bに変位して傾斜面711bをそれぞれ転動する。この場合、図10(a)に示すように、カムフォロア72がカム溝70aの中立位置700a及び内周側のカム溝71aの中立位置710aに配置されたままである。
【0094】
このため、コントロールカム70の回転力を回転力伝達部材82から受けてメインカム80が中間カム71よりも先に回転し、メインカム80が中間カム71との間で相対回転する。
【0095】
これに伴い、中間カム71が第1のスプリング29のばね力a1に抗してメインクラッチ4から離間する方向に移動するとともに、メインカム80が第1のスプリング29のばね力a2に抗して中間カム71から離間する方向に、すなわち図3に示す状態から図4に示すようにメインクラッチ4側に連結部材35及び補助シャフトエレメント36と共に移動する。この場合、メインカム80がメインクラッチ4側に移動すると、連結部材35が一方のシャフトエレメント30に補助シャフトエレメント36を当接させた後に第3のスプリング83のばね力c(図5(b)に示す)に抗して一方のシャフトエレメント30側に移動する。
【0096】
この際、連結部材35の凹部35cとスプラインキー37の凸部37aとの嵌合状態(図5(a)に示す状態)が図5(b)に示すように解除され、連結部材35の一部が一方のシャフトエレメント30に補助シャフトエレメント36から移行する。
【0097】
このため、補助シャフトエレメント36と一方のシャフトエレメント30とが連結部材35にスプライン嵌合によって連結され、一方のシャフトエレメント30と他方のシャフトエレメント31とが連結部材35及び補助シャフトエレメント36を介してスプライン嵌合によって連結される。
【0098】
そして、メインカム80がメインクラッチ4側にさらに移動すると、メインカム80からメインクラッチ4に第2のカム推力P2が押付力として付与される。
【0099】
これにより、メインクラッチ4のインナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士が接近する。
【0100】
この後、図11(a)に示すようにカムフォロア81がカム溝80aの傾斜面801aから平面802aに乗り上げて平面802aを、また外周側のカム溝71bの傾斜面711bから平面712bに乗り上げて平面712bをそれぞれ転動する。一方、第1のカム機構7が第2のカム機構8に遅延して作動し、図11(b)に示すようにカムフォロア72がカム溝70aの中立位置700aから傾斜面701aに変位して傾斜面701aを、また内周側のカム溝71aの中立位置710aから傾斜面711aに変位して傾斜面711aをそれぞれ転動する。
【0101】
これに伴い、中間カム71がコントロールカム70から離間する方向に、すなわち第2のスプリング34のばね力bに抗してメインカム80,カムフォロア81及び回転力伝達部材82等と共にメインクラッチ4側に移動し、メインカム80がメインクラッチ4に第1のカム推力P1を押付力として付与する。
【0102】
これにより、メインクラッチ4のインナクラッチプレート40及びアウタクラッチプレート41のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士が摩擦係合し、エンジン102の回転駆動力がハウジング2からインナシャフト3に伝達され、さらにインナシャフト3からドライブピニオンシャフト108を介してリヤディファレンシャル110に伝達される。そして、リヤディファレンシャル110からリヤアクスルシャフト111を介して後輪105に伝達され、後輪105が回転駆動される。
【0103】
「車両の牽引による動作」
例えば、四輪駆動車101が後輪105を接地させて一方向(例えば車両前方)に二輪牽引されるとする。この場合、ハウジング2が回転せず、インナシャフト3のみが回転する状態となり、インナシャフト3の回転力が中間カム71に、また補助シャフトエレメント36を介して及び連結部材35にそれぞれ伝達され、中間カム71がインナシャフト3(他方のシャフトエレメント31)及び連結部材35,補助シャフトエレメント36と共に回転する。また、中間カム71が第1のスプリング29のばね力a1をカムフォロア81側に、第2のスプリング34のばね力bをカムフォロア72側にそれぞれ受ける。
【0104】
このため、メインカム80,コントロールカム70及びカムフォロア72,81等が中間カム71と共に回転軸線Oの回りに回転する。
【0105】
これにより、中間カム71とメインカム80とが、また中間カム71とコントロールカム70とがそれぞれ相対回転せず、第1のカム機構7及び第2のカム機構8が作動することはない。
【0106】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0107】
引き摺りトルクによる悪影響を抑制することができるとともに、メインクラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0108】
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0109】
(1)上記実施の形態では、第2のカム機構8の作動によってインナクラッチプレート40とアウタクラッチプレート41との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するための第2のカム推力P2を発生させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、メインクラッチ4とメインカム80との間に形成されるクリアランスC(C≠0)を短縮するための第2のカム推力P2を第2のカム機構8に発生させてもよい。
【0110】
(2)上記実施の形態では、ハウジング2が入力軸側に、またインナシャフト3が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0111】
1…駆動力伝達装置、2…ハウジング、2a…収容空間、3…インナシャフト、30…一方のシャフトエレメント、30a…ストレートスプライン嵌合部、31…他方のシャフトエレメント、31a…大径の円筒部、310a…ストレートスプライン嵌合部、31b…小径の円筒部、310b…ストレートスプライン嵌合部、31c…中間径の円筒部、31d,31e…段差面、4…メインクラッチ、40…インナクラッチプレート、40a…ストレートスプライン嵌合部、41…アウタクラッチプレート、41a…ストレートスプライン嵌合部、5…パイロットクラッチ、50…インナクラッチプレート、50a…ストレートスプライン嵌合部、51…アウタクラッチプレート、51a…ストレートスプライン嵌合部、6…駆動機構、60…電磁コイル、61…アーマチャ、61a…ストレートスプライン嵌合部、7…第1のカム機構、70…コントロールカム、70a…カム溝、700a…中立位置、701a…傾斜面、70b…ストレートスプライン嵌合部、700b…空間部、71…中間カム、71a…内周側のカム溝、710a…中立位置、711a…傾斜面、71b…外周側のカム溝、710b…中立位置、711b…傾斜面、712b…平面、71c…スプリング収容空間、71d…挿通孔、71e…ストレートスプライン嵌合部、71f…外フランジ、72…カムフォロア、8…第2のカム機構、80…メインカム、80a…カム溝、800a…中立位置、801a…傾斜面、802a…平面、80b…第1の取付孔、80c…第2の取付孔、80d…凸部、81…カムフォロア、82…回転力伝達部材、9…フロントハウジング、9a…ストレートスプライン嵌合部、10…リヤハウジング、10a…収容空間、11…第1のリヤハウジングエレメント、12…第2のリヤハウジングエレメント、13…第3のリヤハウジングエレメント、15…円すいころ軸受、16,17…シール部材、19,20…玉軸受、21…栓体、22…針状ころ軸受、23…一方の復帰用スプリング、24…他方の復帰用スプリング、25…一方側のスプリング受け、25a…基部、25b…凸部、26…共通のスプリング受け、26a…基部、26b,26c…凸部、27…他方側のスプリング受け、27a…基部、27b…凸部、28…支持ピン、29…第1のスプリング、34…第2のスプリング、35…連結部材、35a…胴部、350a…ストレートスプライン嵌合部、35b…鍔部、350b…スプリング受け、35c…凹部、36…補助シャフトエレメント、36a,36b…ストレートスプライン嵌合部、360b…スプライン歯、36c…キー収容部、37…スプラインキー、37a…凸部、38,39…止め輪、83…第3のスプリング、84…針状ころ軸受、85…止め輪、101…四輪駆動車、102…エンジン、103…トランスアクスル、104…前輪、105…後輪、106…ディファレンシャルキャリア、106a…カップリングケース、107…プロペラシャフト、108…ドライブピニオンシャフト、108a…ストレートスプライン嵌合部、109…フロントアクスルシャフト、110…リヤディファレンシャル、111…リヤアクスルシャフト、112…玉軸受、113…継手、M…磁気回路、O…回転軸線、P1…第1のカム推力、P2…第2のカム推力、a1,a2,b,c…ばね力、D1,D2…中心径、θ1,θ2…カム角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四輪駆動車の駆動源によって回転する第1の回転部材と、
前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置され、前記回転軸線に沿う連結部材の移動によって断続する2つのエレメントを有する第2の回転部材と、
前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを押付部材の押付力によるクラッチ動作によって連結する第1のクラッチと、
前記第1のクラッチに前記回転軸線上で並列して配置された第2のクラッチと、
前記第2のクラッチのクラッチ動作による作動によって前記第1の回転部材からの回転力をカム推力に変換するカム機構とを備え、
前記カム機構は、前記第1の回転部材の回転力を前記第2のクラッチから受けて回転するコントロールカム、及び前記コントロールカムから回転力を受けて回転する前記押付部材としてのメインカムを有し、前記メインカムが前記カム推力を受けて前記2つのエレメントを互いに接続する方向に前記連結部材を移動させる位置に配置されている
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2の回転部材は、前記2つのエレメントのうち一方のエレメントが前記第1の回転部材の内周部に前記第1のクラッチを介して対向する外周部を有する外筒によって、また他方のエレメントが前記一方のエレメントの内周部に対向する外周部を有する内筒によってそれぞれ形成されている請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の回転部材は、その回転によって発生する遠心力の作用状態において前記一方のエレメントの内周部と前記他方のエレメントの外周部との間に介在しない油量の潤滑油が内部に貯溜されている請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記第2の回転部材は、前記他方のエレメントが前記連結部材に補助エレメントを介して連結する位置に配置されている請求項2又は3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2の回転部材は、その初期状態において前記連結部材が前記補助エレメントにキー部材によって前記回転軸線の方向に移動不能に配置されている請求項4に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記第2の回転部材は、前記補助エレメントが前記連結部材との間に介在するスプライン嵌合部を形成する複数のスプライン歯を外周部に有する円筒部材からなり、前記複数のスプライン歯のうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に前記キー部材を介在させている請求項5に記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記カム機構は、前記メインカムが前記第1のクラッチ側への移動に伴い前記一方のエレメントに前記補助エレメントを当接させて前記第1のクラッチ側と反対の側へのばね力をスプリングから受ける請求項4乃至6のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【請求項1】
四輪駆動車の駆動源によって回転する第1の回転部材と、
前記第1の回転部材にその回転軸線に沿って相対回転可能に配置され、前記回転軸線に沿う連結部材の移動によって断続する2つのエレメントを有する第2の回転部材と、
前記第2の回転部材と前記第1の回転部材との間に介在して配置され、前記第1の回転部材と前記第2の回転部材とを押付部材の押付力によるクラッチ動作によって連結する第1のクラッチと、
前記第1のクラッチに前記回転軸線上で並列して配置された第2のクラッチと、
前記第2のクラッチのクラッチ動作による作動によって前記第1の回転部材からの回転力をカム推力に変換するカム機構とを備え、
前記カム機構は、前記第1の回転部材の回転力を前記第2のクラッチから受けて回転するコントロールカム、及び前記コントロールカムから回転力を受けて回転する前記押付部材としてのメインカムを有し、前記メインカムが前記カム推力を受けて前記2つのエレメントを互いに接続する方向に前記連結部材を移動させる位置に配置されている
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2の回転部材は、前記2つのエレメントのうち一方のエレメントが前記第1の回転部材の内周部に前記第1のクラッチを介して対向する外周部を有する外筒によって、また他方のエレメントが前記一方のエレメントの内周部に対向する外周部を有する内筒によってそれぞれ形成されている請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の回転部材は、その回転によって発生する遠心力の作用状態において前記一方のエレメントの内周部と前記他方のエレメントの外周部との間に介在しない油量の潤滑油が内部に貯溜されている請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記第2の回転部材は、前記他方のエレメントが前記連結部材に補助エレメントを介して連結する位置に配置されている請求項2又は3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2の回転部材は、その初期状態において前記連結部材が前記補助エレメントにキー部材によって前記回転軸線の方向に移動不能に配置されている請求項4に記載の駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記第2の回転部材は、前記補助エレメントが前記連結部材との間に介在するスプライン嵌合部を形成する複数のスプライン歯を外周部に有する円筒部材からなり、前記複数のスプライン歯のうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に前記キー部材を介在させている請求項5に記載の駆動力伝達装置。
【請求項7】
前記カム機構は、前記メインカムが前記第1のクラッチ側への移動に伴い前記一方のエレメントに前記補助エレメントを当接させて前記第1のクラッチ側と反対の側へのばね力をスプリングから受ける請求項4乃至6のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−86585(P2013−86585A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226918(P2011−226918)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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