説明

駆動力配分装置

【課題】副変速機の切替えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とに対する応答性を改良した駆動力配分装置を提供する。
【解決手段】駆動力配分装置は、アクチュエータ出力軸72に固定された回転駆動部材81がシフトカム37と板カム60との間に相対回転可能に同軸配置されている。回転駆動部材81には、ラチェットレバー87が回転駆動部材81の回転方向と直交する方向に回転可能に設けられている。回転駆動部材81は、所定の位置から一方側に回転駆動したときシフトカム37から離脱して回転するとともに、一方側とは逆方向に回転駆動したときシフトカム37と連動して回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前後輪間又は車両の左右輪間に駆動力を配分制御する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、副変速機の切替えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とを単一のアクチュエータで制御する4輪駆動車用の駆動力配分装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された駆動力配分装置は、入力軸からの回転駆動力を高速と低速の2段に切り替えて主出力軸へ伝達する副変速機と、その主出力軸の回転駆動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、アクチュエータによる回転駆動に応じて摩擦クラッチのクラッチ押付力を変化させるボールカムプレートとを備えている。
【0004】
この駆動力配分装置は、アクチュエータの出力軸と同軸に回転駆動部材が固定されている。この回転駆動部材の軸方向両側には、副変速機に連結されるシフトフォークを移動するシフト用円筒カム、及びボールカムプレートの駆動ギヤと噛み合うピニオンギヤが相対回転可能にそれぞれ配置されている。
【0005】
アクチュエータによる回転駆動部材の右回転はピニオンギヤに伝達され、そのピニオンギヤの回転に応じて駆動ギヤを介してボールカムプレートによる摩擦クラッチのクラッチ押付力が変化する。この回転駆動部材の左回転によるシフト用円筒カムの回転運動をシフトフォークにより直線運動に変換することで副変速機がシフトされる。
【0006】
この回転駆動部材に回転軸方向移動可能に装着されたスライド型のラチェットが、シフト用円筒カムの端面に形成されたラチェット溝に出没自在に設けられている。そのラチェットがラチェット溝に嵌着すると、回転駆動部材の左回転駆動がシフト用円筒カムに伝達され、シフト用円筒カムの往復回転毎にシフトフォークによる副変速機の高速と低速との切替えが交互に繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−176329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1記載の駆動力配分装置は、回転駆動部材の回転駆動に伴い回転駆動部材のラチェットをシフト用円筒カムのラチェット溝にならって移動させることで、そのラチェットをラチェット溝から離脱させるものである。このような構成によると、ラチェットがラチェット溝から離脱するのに必要な回転駆動部材の周方向の回転角度範囲が大きくなり、アクチュエータを多く回転駆動する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、副変速機の切替えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とに対する応答性を改良した駆動力配分装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明は、入力軸への動力を少なくとも高速と低速の2段に切り替えて主出力軸へ伝達する副変速機と、前記主出力軸の動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、アクチュエータの出力軸に固定された回転駆動部材と、前記回転駆動部材の一端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記摩擦クラッチの押付力を変化させる摩擦クラッチ駆動用カムと、前記回転駆動部材の他端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記アクチュエータの回転運動を直線運動に変換して前記副変速機をシフトさせるシフトカムと、前記回転駆動部材の外面の法線方向の軸線を回転中心として設けられたラチェットレバーとを備え、前記ラチェットレバーは、前記回転駆動部材が前記シフトカムの制御原点を起点とした所定の位置から一方側に回転駆動したとき前記シフトカムから離脱して回転し、前記回転駆動部材が前記一方側とは逆方向に回転駆動したとき前記シフトカムと連動して回転することを特徴とする駆動力配分装置にある。
【0011】
[2]上記[1]記載の発明にあって、前記ラチェットレバーは、前記シフトカムに形成されたラチェット溝と噛み合って前記シフトカムを回転させる駆動爪と、前記摩擦クラッチ駆動用カムに設けられた駆動ピンに当接することで、前記駆動爪を前記ラチェット溝と噛み合わない開放位置に回転して退避させる腕部とを一体に形成したことを特徴とする。
【0012】
[3]上記[1]記載の発明にあって、前記回転駆動部材には、前記回転駆動部材が前記一方側に回転駆動したとき前記摩擦クラッチ駆動用カムに形成された被駆動突起に当接して回転し、前記摩擦クラッチの押付力を調整する第1の駆動突起と、前記回転駆動部材が前記一方側とは逆方向に回転駆動したとき前記被駆動突起に当接して停止する第2の駆動突起とが設けられ、前記第2の駆動突起が停止するとともに、前記副変速機のポジションを切替えた後、前記シフトカムを停止したままの状態で、前記回転駆動部材が前記制御原点の位置に戻ることを特徴とする。
【0013】
[4]上記[2]記載の発明にあって、前記腕部が前記駆動ピンに当接することで、前記駆動爪を前記ラチェット溝と噛み合わない開放位置に回転して退避させたとき、前記駆動爪と前記ラチェット溝との間に介在して前記駆動爪と前記ラチェット溝との噛み合いを抑止するシャッター部材を備えてなることを特徴とする。
【0014】
[5]上記[1]記載の発明にあって、前記シフトカムには、前記シフトカムのシフト位置となる2箇所に対応して前記シフト位置を決めるチェック機構が同軸に支持されてなることを特徴とする。
【0015】
[6]上記[5]記載の発明にあって、前記チェック機構には、前記シフトカムに対する回り止めとなる保持片が形成され、前記保持片は、前記摩擦クラッチ駆動用カムの逆回転を阻止する位置決めロッドに貫通して支持されてなることを特徴とする。
【0016】
[7]上記[1]記載の発明にあって、前記摩擦クラッチに軸方向変位を付与するボールカム機構を備え、前記ボールカム機構は、前記摩擦クラッチと同一軸上に互いに相対回転可能に配され、互いに相対する面に挟持されるボールを有する一対のボールカムを有し、前記ボールカムの一方が前記摩擦クラッチ駆動用カムの逆回転を阻止する位置決めロッドに固定支持されるとともに、前記ボールカムの他方が前記摩擦クラッチ駆動用カムのカム面に沿って移動するカムフォロアを介して駆動されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、副変速機の切替えと摩擦クラッチのクラッチ押付力とに対する優れた応答性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係わる典型的な実施の形態であるトランスファの一構造例を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明のトランスファに好適に用いられるシフト・クラッチ制御機構を示す分解斜視図である。
【図3】本発明のシフト・クラッチ制御機構に好適に用いられる回転駆動部材及び摩擦クラッチ駆動用カムの分解斜視図である。
【図4】(a)は本発明のシフト・クラッチ制御機構の組立状態を示す説明図であり、(b)〜(d)はシフト制御の説明図である。
【図5】(a)は本発明のシフト・クラッチ制御機構の組立状態の説明図であり、(b)はクラッチ制御の説明図である。である。
【図6】本発明のシフト・クラッチ制御機構に好適に用いられるチェック機構の断面図である。
【図7】本発明のシフト・クラッチ制御機構に好適に用いられるシャッター機構を示す上面図である。
【図8】本発明のシャッター機構のシャッター部材を示す斜視図である。
【図9】(a)〜(d)は本発明のシャッター機構の動きを説明するための説明図である。
【図10】本発明の他のシフト・クラッチ制御機構の組立状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0020】
(トランスファの全体構成)
図1において、全体を示す符号1は、この実施の形態に係る典型的なトランスファの全体構成を概略的に示している。図示例によるトランスファ1は、例えばFR(フロントエンジン、リヤドライブ)方式をベースにした四輪駆動(4WD)車に適用されるものである。
【0021】
このトランスファ1は、図1に示すように、フロントケース2及びリアケース3からなるトランスファケースを有している。このフロントケース2の前側部位には、図示しないエンジンからの回転を同じく図示を省略した自動変速機あるいは手動変速機を介して入力する入力軸4がベアリング5を介して回転可能に固定支持されている。この入力軸4には、フロントケース2内に同軸的に配された副変速機20を介してリアケース3内に同軸的に配された主出力軸である後輪出力軸6が直結されている。
【0022】
このトランスファケースの後輪出力軸6と平行な部位には、図1に示すように、主出力軸に対する副出力軸となる前輪出力軸7が設けられている。この後輪出力軸6の同一軸上には、駆動スプロケットギヤ8が設けられている。一方の前輪出力軸7の同一軸上には、駆動スプロケットギヤ8に対する従動スプロケットギヤ9が設けられている。この駆動スプロケットギヤ8、及び従動スプロケットギヤ9の間には、環状のチェーン10が掛け回されている。
【0023】
この副変速機20は、図1に示すように、入力軸4に入力するエンジンの駆動力をシフト機構30により高速段Hと低速段Lとの走行変速切換を行う。このシフト機構30は、副変速機20の遊星歯車機構に同軸的に配されたH−L切換え用のクラッチスリーブ31を備えている。
【0024】
この遊星歯車機構は、図1に示すように、入力軸4の外周に形成された高速用ギヤ(サンギヤ)21と、フロントケース2に固定されたリングギヤ22と、このサンギヤ21の外周に噛み合うとともに、リングギヤ22の内周に噛み合う複数のピニオンギヤ(プラネタリギヤ)23,…,23とを備えている。複数のピニオンギヤ23は、同一の位相差をもって配された支軸24を介して円形のキャリアケース25に自転可能に固定支持されている。このキャリアケース25は、サンギヤ21と相対回転可能に入力軸4の軸回りに固定支持されている。このキャリアケース25の後端部には、内スプライン(歯部)26aを有する円形のリング体26が一体に固定されており、支軸24の両端がキャリアケース25と円形のリング体26とに支持固定されている。
【0025】
低速状態においては、クラッチスリーブ31のスプラインが高速用ギヤ21から脱することで、リング体26の内スプライン26aにクラッチスリーブ31のスプラインをスプライン係合させ、ピニオンギヤ23から伝達された回転動力が、低速回転駆動力として後輪出力軸6に伝達される。
【0026】
一方、図1に示す高速状態においては、クラッチスリーブ31のスプラインと高速用ギヤ21とが互いに噛合して連結されており、入力軸4の回転駆動力が、高速回転駆動力として入力軸4から後輪出力軸6に伝達される。
【0027】
後輪出力軸6の同一軸上には、図1に示すように、4WDモードにおける前後輪駆動力の配分制御を行う駆動力配分装置の一部を構成する摩擦クラッチ装置40が設けられている。トランスファケースには、副変速機20のシフト機構30の作動、及び摩擦クラッチ装置40の作動を制御する駆動源となるアクチュエータ70が設けられている。このアクチュエータ70には、モータのトルクを増幅する減速機71が内蔵されている。その減速機71による回転駆動は、アクチュエータ出力軸72を介してシフト機構30及び摩擦クラッチ装置40に伝達される。
【0028】
(シフト機構の構成)
このシフト機構30は、図1に示すように、フォーク本体32及び摺動ホルダ33がコイルバネ34を介して相対移動可能な二部材により主に構成されている。このフォーク本体32の一側は、シフトロッド35に移動可能に挿通支持されている。このフォーク本体32の他側には、H−L切換え用のクラッチスリーブ31に係合した二股状のフォークが延出されている。フォーク本体32の幅方向両側に相対する立設側壁の内面には、内方に膨出した細長い柱状の一対のバネ荷重受部32a,32aがシフトロッド軸方向両側にそれぞれ形成されている。
【0029】
一方の摺動ホルダ33は、図1に示すように、シフトロッド35と同軸上に挿通支持される一対の摺動脚部33a,33aを介してフォーク本体32に相対移動可能に設けられている。この摺動脚部33aは、フォーク本体32のバネ荷重受部32a間の間隔より小さく設定されるとともに、この一対の摺動脚部33aの間の間隔は、フォーク本体32の長さ方向両側一対のバネ荷重受部32a間の間隔に略等しく設定されている。
【0030】
この一対の摺動脚部33aの対向内面には、図1に示すように、一対の円形のワッシャ36,36がシフトロッド35と同軸上に配されている。このワッシャ36には、フォーク本体32の幅方向両側一対のバネ荷重受部33a間の間隔より大径に形成されている。この一対の摺動脚部33a及びワッシャ36は、コイルバネ34の両端を保持するバネ保持機能と、コイルバネ34を作動させるバネ作動機能とを兼ね備えている。フォーク本体32のバネ荷重受部32aと摺動ホルダ33の摺動脚部33aとの相対移動で生じるコイルバネ34の圧縮力及び復元力によってシフト操作力を蓄積する待ち機構が構成される。
【0031】
この摺動ホルダ33の長さ方向一端部には、図1に示すように、シフトロッド35に沿って延びるアーム部33bが一体に形成されている。このアーム部33bの先端部には円柱状のシフターピン33cが突出して支持されている。このシフターピン33cは、シフトカム37の回転運動をシフト機構30の直線運動に変換するカム溝37a内に摺動自在に所定の間隙をもって遊嵌されている。シフターピン33cは、アーム部33bを介してフォーク本体32よりもシフトカム37側に配置される構成となっており、装置内の狭小な設置空間を合理的に使用することができる。
【0032】
シフトカム37の回転運動は、図1に示すように、カム溝37aの傾斜部に沿って移動するシフターピン33cを介して摺動ホルダ33へと伝達され、摺動ホルダ33の直線運動に変換される。この直線運動は、コイルバネ34を介してシフトロッド35に沿ってフォーク本体32を直線運動させる。図示例では、シフトカム37の左方向180°の回転で、シフターピン33cを副変速機20の高速段H位置及び低速段L位置の切替えに必要な軸方向のシフト量だけ移動させる。このフォーク本体32の直線運動により、フォーク本体32を介して副変速機20のサンギヤ21とピニオンギヤ23との間で駆動力の連結・切断を行うクラッチスリーブ31をシフトさせ、高速と低速の切替えが行われる。
【0033】
(摩擦クラッチ装置の構成)
この摩擦クラッチ装置40は、図1に示すように、環状をなす多板式の摩擦クラッチ41の接断動作を制御する。この摩擦クラッチ41は、環状のクラッチハブ42を後輪出力軸6に固定するとともに、環状のクラッチドラム43を後輪出力軸6に回転可能に支持した駆動スプロケットギヤ8に連結している。
【0034】
2輪駆動(2WD)の際には摩擦クラッチ41の締結が解除され、入力軸4の回転は、副変速機20を介して後輪出力軸6に伝達される。一方、4WDの際には、摩擦クラッチ41が締結状態となり、入力軸4からの駆動力が後輪出力軸6、摩擦クラッチ41、駆動スプロケットギヤ8、前輪駆動用チェーン10、及び従動スプロケットギヤ9を介して前輪出力軸7へと伝達される。
【0035】
この摩擦クラッチ装置40は、図1に示すように、後輪出力軸6と同一軸上に移動可能な環状のクラッチ押付部材44と、アクチュエータ70の回転運動を直線運動に変換し、クラッチ押付部材44に軸方向変位を付与するボールカム機構50とを備えている。
【0036】
このボールカム機構50は、図1及び図2に示すように、摩擦クラッチ41のクラッチ締結力を無段階に制御する。ボールカム機構50には、後輪出力軸6と同一軸上に反力側のカムプレート(反力カムプレート)51、及び駆動側のカムプレート(駆動カムプレート)52により構成された一対のボールカムが設けられている。この反力カムプレート51は、スラスト軸受53を介して環状の固定部材54に固定されている。一方の駆動カムプレート52は、スラスト軸受55を介してクラッチ押付部材44に当接して連結されている。
【0037】
この反力カムプレート51は、図2に示すように、アクチュエータ出力軸側に向けて延在する自由端部を位置決めロッド11に支持されている。この位置決めロッド11は、アクチュエータ出力軸72と同軸上に回転可能に支持された摩擦クラッチ駆動用の板カム60の逆回転を阻止するストッパとしての機能をも有している。一方の駆動カムプレート52は、反力カムプレート51とは所定角度の位相差をもってアクチュエータ出力軸側に向けて延在する先細り状のアーム部52aが一体形成されている。そのアーム部52aの先端部分にはカムフォロア56が回転自在に軸支されている。そのカムフォロア56は、板カム60のカム面に常時接触されており、アクチュエータ70の回転をボールカム機構50に伝達するようになっている。
【0038】
この摩擦クラッチ41を締結する場合は、板カム60がアクチュエータ出力軸72の軸心回りに正回転方向に右回転することで、駆動カムプレート52が反力カムプレート51に対して一定方向に回転駆動される。この駆動カムプレート52が回転駆動すると、駆動カムプレート52は、ボールカム溝内のボール57による押圧を受けながら、後輪出力軸6の軸方向に移動する。駆動カムプレート52が移動すると、クラッチ押付部材44は、後輪出力軸6の軸方向前方に押されて摩擦クラッチ41を押圧することで、アクチュエータ70の回転量に応じてクラッチ押付力を増加させる。
【0039】
一方、摩擦クラッチ41の締結を解除する場合は、上記操作とは逆に板カム60が回転することで、上記操作と逆の操作を行うこととなる。これにより、板カム60の外面に形成されたカム面の形状に対応する変化パターンで、摩擦クラッチ41のクラッチ押付部材44を移動させることができる。
【0040】
上記実施の形態に係るトランスファ1の構成によると、以下の効果が得られる。
【0041】
(1)ボールカム機構50の駆動カムプレート52は、カムフォロア56が板カム60のカム面にならって回転駆動するので、ピニオンギヤにより駆動カムプレートを回転駆動する構成と比べて、摩擦クラッチ41のクラッチプレート間が離間しているクラッチ締結解除状態からクラッチ締結状態へ移る際の長い移動距離をアクチュエータ70による小さい回転角度で移動させることが可能となる。
(2)摺動ホルダ33の摺動脚部33aに、ワッシャ36を介してコイルバネ34の両端を保持する機能と、コイルバネ34を作動する機能とを集約化して配置させることにより、フォーク本体32に対する摺動ホルダ33のシフトロッド軸方向への移動ストロークに余裕をもたせることができる。摺動ホルダ33に必要な移動ストロークが確保され、フォーク本体32の長さ方向が不必要に長くなることもない。
(3)この摺動ホルダ33の摺動脚部33aにバネ保持機能とバネ作動機能とを備えることにより、フォーク本体32のシフトロッド軸方向の長さは、少なくとも摺動脚部33aがフォーク本体32のバネ荷重受部32aを通過する移動ストローク分の長さを確保するとともに、摺動ホルダ33及びコイルバネ34の組み付けに必要な最小限の内部空間を確保すれば、フォーク本体32の小型化と短縮化という二つの利点を併せ持つシフト機構30が得られる。
【0042】
(シフト・クラッチ制御機構の全体構成)
この実施の形態の主要な基本構成は、図2に示すように、シフト機構30及び摩擦クラッチ装置40を制御するシフト・クラッチ制御機構80にある。上記のように構成されたトランスファ1の構成部分は、シフト機構30、及びボールカム機構50の構成を除いて、従来のものと基本的な構成において変わるところはない。従って、トランスファ1の基本構成は、図示例に限定されるものではない。
【0043】
この実施の形態に係る典型的なシフト・クラッチ制御機構80は、単一のアクチュエータ70により副変速機20の切替え動作と摩擦クラッチ装置40の接断動作とを個別に制御することを可能とする。図示例によると、この制御は、シフトカム37のシフト位置(高速段H位置)を制御原点とした一方側(右回転)でクラッチ制御を行い、シフト位置(高速段H位置)を制御原点とした一方側とは逆の他方側(左回転)で副変速機20の切替え制御を行っている。
【0044】
このシフト・クラッチ制御機構80は、図1及び図2に示すように、シフト機構30をシフトロッド35に沿って直線移動させるシフトカム37と、摩擦クラッチ41のクラッチ押付力を変化させる板カム60と、シフトカム37及び板カム60を個別に回転駆動させる回転駆動部材81とにより主に構成されている。このシフトカム37、板カム60、及び回転駆動部材81は、アクチュエータ出力軸72と同軸上に配されており、アクチュエータ70の回転量に応じて動作する。
【0045】
(回転駆動部材の構成)
この回転駆動部材81は、図2及び図3に示すように、周面が中心線O方向にシフトカム対向側の大径部分82と板カム対向側の小径部分83とが段差を介して一体形成された円筒体からなる。この大径部分82は、図1及び図2に示すように、シフトカム37の端面と対向してシフトロッド35に相対回転可能に支持されている。この回転駆動部材81は、小径部分83の板カム側の内周部をスプラインによる固定状態で、アクチュエータ出力軸72に支持されている。この小径部分83の外周には、板カム60が相対回転可能に支持されている。
【0046】
この回転駆動部材81の大径部分82には、図2及び図3に示すように、矩形状を有する一対のクラッチ制御機構用の駆動突起84とシフト制御機構用の駆動突起85とが板カム60側に突出して形成されている。この駆動突起84,85は、所定の位相差をもって大径部分82の同一円周上に配されている。この駆動突起84は、回転駆動部材81の右回転駆動により、板カム60に形成された被駆動突起63に当接して板カム60を同期回転させる駆動面84aを有している。一方の駆動突起85は、回転駆動部材81の左回転駆動により、板カム60の被駆動突起63に当接して回転駆動部材81の動作を停止させるストッパ面85aを有している。
【0047】
この一対の駆動突起84,85の間に切欠して形成された平坦状の大径部分82の外面には、図2及び図3に示すように、外面の法線方向に延びる回転軸86を介してラチェットレバー87が双方向回転可能に支持されている。このラチェットレバー87は、バネ89によりシフトカム37の端面側に向けて付勢されており、回転駆動部材81の回転方向と直交する方向に回転する。
【0048】
このラチェットレバー87の回転基部には、図2及び図3に示すように、回転軸86を中心として設けられたラチェット部90が一体に形成されている。このラチェット部90の駆動爪であるラチェット爪91は、シフトカム37の端面をシフト方向(左方向)、及びシフト方向とは反対側の戻し方向(右方向)の両方向に駆動可能な外形形態に形成されている。このラチェット爪91は、シフトカム37の端面に形成されたラチェット溝38にバネ89の弾力に抗して係脱可能とされている。このラチェット爪91の外面には、シフト完了の戻り時にラチェット溝38との係合を阻止する突部92が突出して形成されている。
【0049】
このラチェットレバー87には、図2及び図3に示すように、回転軸86と直交する一対のシフトカム37側の腕部88と板カム60側の腕部88とが一体に形成されている。この一対の腕部88は、回転駆動部材81の回転中心線から右回り方向に傾斜している。この一対の腕部88の右回り方向の側面は、回転軸86を対称に形成されたカム面88a,88aを有している。この一対のカム面88aは、回転駆動部材81がシフト方向とは逆側の戻り方向へ回転駆動するとき、ラチェット爪91をシフトカム37のラチェット溝38から離脱させ、回転駆動部材81とシフトカム37との同期回転を阻止する機能を有している。
【0050】
(シフト制御機構の構成)
一方の板カム60は、図2及び図3に示すように、回転駆動部材81側の対向面に円柱状の長短一対の駆動ピン61,62が突出して形成されている。この長尺の駆動ピン61は、ラチェットレバー87のシフトカム37側の腕部88の回転軌跡内に配されている。一方の短尺の駆動ピン62は、ラチェットレバー87の板カム60側の腕部88の回転軌跡内に配されている。
【0051】
この長尺の駆動ピン61は、図2及び図3に示すように、シフトカム37側の腕部88のカム面88aに当接して押圧することでラチェット爪91をシフトカム37のラチェット溝38の回転軌跡外に作動させ、ラチェット爪91を開放する。一方の短尺の駆動ピン62は、ラチェットレバー87の板カム60側の腕部88のカム面88aに当接して押圧することでラチェット爪91を開放する。
【0052】
このシフトカム37のラチェット溝38と、板カム60の駆動ピン61,62と、回転駆動部材81の駆動突起85及びラチェットレバー87とによりシフト制御機構が主に構成される。回転駆動部材81の回転中心線の法線方向の軸線を中心としてラチェットレバー87が双方向回転可能に固定支持された構成となっているので、ラチェット爪91がラチェット溝38から離脱するのに必要となるラチェット爪91の作動回転角を小さくすることが可能となる。
【0053】
図4を参照すると、図4は、シフトカム37、板カム60、及び回転駆動部材81を組み付けた状態を展開して示している。同図において、チェックボール104の両側に位置する2つのチェック溝39、ラチェット溝38、駆動ピン62、及び被駆動突起63は同一のものであるが、展開図としては別々に表している。
【0054】
図4(a)において、アクチュエータ出力軸72及びシフトカム37は制御原点にあり、シフトカム37のシフト位置は高速段H位置(Hポジション)となっている。回転駆動部材81の駆動突起85のストッパ面85aが板カム60の被駆動突起63から離れた位置で、シフトカム37のカム溝37a内を移動するシフト機構30のシフターピン33cの制御開始位置となる。
【0055】
図4(b)は、回転駆動部材81を左方向に回転駆動(展開図では、回転駆動部材81を左方向に移動)させることで、シフトカム37が回転駆動部材81と一緒に左方向に回転駆動するシフト切替えの往路回転であり、回転駆動部材81のラチェット爪91がシフトカム37のラチェット溝38に引っ掛かった係合状態で、シフトカム37と回転駆動部材81とが一体に回転している。板カム60は、制御開始位置に残ったままの状態で停止している。
【0056】
この回転駆動部材81の回転角が180°に達すると、図4(c)に示すように、チェックボール104が次のチェック溝38に嵌合して低速段L位置(Lポジション)となるシフト位置に位置決めする。シフト機構30のシフターピン33cは、シフトカム37のカム溝37aに沿って軸方向に案内移動され、Lポジションへの移動を完了している。
【0057】
図4(c)において、回転駆動部材81における駆動突起85のストッパ面85aが板カム60の被駆動突起63に当接して停止するとともに、板カム60の短尺の駆動ピン62がラチェットレバー87の板カム60側の腕部88に当接して押圧する。ラチェットレバー87のラチェット爪91は、弾力に抗して回転軸86を中心とする左方向に回転して開放する。
【0058】
このラチェット爪91が板カム60のラチェット溝38から離脱すると、図4(d)に示すように、シフトカム37をシフト位置に残したままの状態で、回転駆動部材81だけが右方向に復路(戻り)回転する(展開図では、回転駆動部材81を右方向に移動)。ラチェット爪91は、シフトカム37の端面に沿って右方向に回転し、次のラチェット溝38に係合することになる。
【0059】
ところで、トランスファの切替え操作後にトランスミッションをあまり早く操作すると、シフトの途中でエンジン駆動力が入力され、シフトフォークが動かなくなってシフト完了前で停止する場合がある。そのような場合は、シフトフォークを元の位置に戻すことで、車両が走り始めてから突然にシフトするような動作を回避することが望ましい。このシフト・クラッチ制御機構80においては、シフトフォークがシフト完了前に停止した場合は、シフトフォークを元の位置に戻すことができるため、車両が走り始めてからの突然のシフト動作を回避することができる。
【0060】
以上のシフト操作によりHポジションからLポジションへの切替えが完了する。なお、上記シフト操作とは逆にLポジションからHポジションへ切替える際は、上記シフト操作とは逆のシフト操作となる。このため、LポジションからHポジションへ切替える作動の説明は省略する。
【0061】
(クラッチ制御機構の構成)
この板カム60の外周に形成されるカム面64は、図2及び図3に示すように、カム立ち上がり部分65をシフトロッド35及びカム面間の距離の変化率が二次曲線的に変化する非線形に形成するとともに、そのカム立ち上がり部分65から駆動回転方向にわたって線形形状に形成されている。この板カム60の作用により、摩擦クラッチ41の遊び部分を少ない回転角で、摩擦クラッチ41の初期位置からクラッチプレート間の隙間を縮めてクラッチ押付力が作用する。従って、摩擦クラッチ41の初期位置からクラッチプレート間の隙間を縮めてクラッチ押付力が作用する位置までのストロークが長い区間を短時間でクラッチ接断動作を行うことが可能になる。
【0062】
この板カム60には、図2及び図3に示すように、回転駆動部材81のクラッチ制御機構用の駆動突起84の駆動面84aとシフト制御機構用の駆動突起85のストッパ面85aとの間の同一円周上に被駆動突起63が突出形成されている。この板カム60の被駆動突起63と回転駆動部材81の駆動突起84とによりクラッチ制御機構が主に構成される。
【0063】
図5を参照すると、図5は、図4と同様に、シフトカム37、板カム60、及び回転駆動部材81を組み付けた状態を展開して示している。図5(a)において、回転駆動部材81を右方向に回転駆動(展開図では、回転駆動部材81を右方向に移動)させることで、回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aが板カム60の被駆動突起63に当接する位置が、摩擦クラッチ機構50における制御開始位置となる。
【0064】
この摩擦クラッチ機構50は、図5(b)に示すように、回転駆動部材81を右方向に回転駆動させると、回転駆動部材81のラチェットレバー87のシフトカム37側の腕部88は、板カム60の長尺の駆動ピン61に当接して押圧される。ラチェットレバー87のラチェット爪91は、弾力に抗して回転軸86を中心に左方向に回転して開放する。
【0065】
この板カム60の被駆動突起63は、図5(b)に示すように、回転駆動部材81の駆動突起84の駆動面84aにより押圧荷重を受ける。この回転駆動部材81は、シフトカム37をHポジション又はLポジションに残したままの状態で、板カム60を右方向に回転駆動させることになる。このとき、ラチェット爪91は、駆動ピン61の作用により開放状態に保持される。
【0066】
この板カム60は、回転駆動部材81と一緒に右方向に回転駆動し、回転駆動部材81による板カム60の回転に伴い、駆動カムプレート52が反力カムプレート51に対して一定方向に回転駆動される。駆動カムプレート52は、ボールカム溝内のボール57による押圧を受けながら、カムフォロア56を介して摩擦クラッチ41を押圧することで、クラッチ押付力を増加させる。一方、この回転駆動部材81が左回転すると、上記操作とは逆に板カム60の回転に応じてクラッチ押付力を減少させる。
【0067】
上記実施の形態に係るシフト・クラッチ制御機構80によると、以下の効果が得られる。
【0068】
(1)回転駆動部材81の回転方向と直交する方向に回転するラチェットレバー87を装着した構成となっているため、ラチェット溝38から離脱するのに必要となるラチェット爪91の作動回転角を小さくすることが可能となり、シフト時間を短縮することができる。
(2)シフト機構30の切替え時間が短くなるので、回転駆動部材81がシフト途中で停止することはない。回転駆動部材81がシフト途中で停止したとしても、元の位置に戻すことができる。
(3)回転駆動部材81の駆動突起85と、板カム60の被駆動突起63が、シフトカム37のシフトエンドに対応して設定されているので、回転駆動部材81がシフトエンドでオーバーランすることがなくなり、制御バラツキがあったとしても確実にシフトを完了することができる。
【0069】
(チェック機構の構成)
このシフトカム37の回転駆動部材寄りの端部には、図1、図2、及び図6に示すように、シフト・クラッチ制御機構80のもう一つの主要部を構成するチェック機構100が同軸に支持されている。このチェック機構100は、シフトカム37のシフト位置を決めるものであり、シフトカム37と相対回転する円形筐体状のチェック部101と、そのチェック部101と一体形成された細長い円筒状の一対のチェックブロック102,102とを備えている。
【0070】
このチェックブロック102は、図2及び図6に示すように、チェック部101の外周に同一の位相差をもって外側に放射状に延在されている。このチェックブロック102の内部には、コイルスプリング103の弾性反発力(付勢力)によりシフトカム37のチェック溝39に押付けられるチェックボール104が設けられている。チェックブロック102の先端部開口は、プラグ105により閉鎖されている。
【0071】
このチェックボール104が嵌め入れられて係合するチェック溝39は、図2及び図6に示すように、シフトカム37の端部に形成されている。このシフトカム37のチェック溝39は、シフトカム37のラチェット溝38で決まるシフト位置となる2箇所のシフトエンドに対応して形成されている。このチェックボール104のチェック溝39に対する係合で、副変速機20のHポジション及びLポジションのシフト位置を位置決めしている。
【0072】
一対のチェックブロック102のうち、一方のチェックブロック102とチェック部101との間には、図2及び図6に示すように、チェック機構100の回り止めとなる扁平状の保持片106が一体に形成されている。この保持片106は、板カム60の逆回転を阻止するとともに、反力カムプレート51を支持する位置決めロッド11に貫通して支持されている。
【0073】
ところで、摩擦クラッチ41を押付けた状態でアクチュエータ70が駆動力を失うと、摩擦クラッチ装置50の反発力によりアクチュエータ70が逆転駆動する場合がある。
【0074】
この実施の形態のもう一つの基本の構成は、チェック機構100の吸収エネルギーが摩擦クラッチ41の反発力によりアクチュエータ70を逆転駆動させるときに放出するエネルギーよりも大きくなるように、チェック機構100のチェックトルクと回転角とを設定することにある。
【0075】
ここで、チェック機構100の吸収エネルギーは、チェック機構100のチェックトルクとシフトカム37の回転角とにより計算される。このチェックトルクは、コイルスプリング103の弾力によりチェック溝39に付勢された状態で係合するチェックボール104が、このコイルスプリング103の付勢力に抗してチェックボール104とチェック溝39との係合を解除する抵抗トルクである。チェック機構100の吸収エネルギーは、次式(1)により計算される。
【0076】
チェック機構100の吸収エネルギー=チェック機構100の抵抗トルク×シフトカム37の回転角……(1)
【0077】
上記実施の形態に係るチェック機構100の構成によると、以下の効果が得られる。
【0078】
(1)このチェック機構100の吸収エネルギーを上記式(1)の関係に設定することで、クラッチ制御とシフト制御とを単一のアクチュエータ70で行うトランスファ1の構成であっても、例えばアクチュエータ70の駆動を失うような故障に対してシフトカム37をシフト方向に回転駆動させることなく、車両走行中の副変速機20の切替えを未然に防止することができる。
(2)チェック部101の円形外周の対角位置に一対のチェックボール104を設けた構成となっているため、安価なチェックボール104及びコイルスプリング103により強いチェックトルクを発生することができる。
【0079】
(シャッター機構の構成)
この回転駆動部材81が、図4(c)及び図4(d)に示すように、シフトカム37のLポジションとなるシフト位置(カム溝端部)から戻り方向へ回転駆動するとき、ラチェットレバー87のラチェット爪91がシフトカム37のラチェット溝38に嵌まり込むと、シフトカム37は、回転駆動部材81と一緒に回転してしまうことになる。
【0080】
この実施の形態では、図7及び図8に示すように、シフト・クラッチ制御機構80のもう一つの主要部を構成するシャッター部材110が、板カム60を介して回転駆動部材81に相対回転可能に取り付けられている。このシャッター部材110により、ラチェットレバー87におけるラチェット爪91のラチェット溝38に対する嵌まり込みを阻止することができる。
【0081】
このシャッター部材110は、図7及び図8に示すように、挿入孔111を有する円形の薄板材からなる。その薄板材の外周辺から回転駆動部材側へ直交する方向に第1突出片112が屈曲して突出されており、この第1突出片112の先端から円周方向に第2突出片113が延びている。この突出片112,113の形状は、円形の薄板材と同一曲率に設定されている。このシャッター部材110は、捻りバネ114により第2突出片113がラチェットレバー87の突部92と当接する方向に付勢されている。
【0082】
図9を参照すると、図9には、回転駆動部材81がシフトカム37のシフト(カム溝端部)方向への回転駆動から戻り方向へ回転駆動するまでの間のシャッター部材110の動きが模式的に示されている。このシャッター部材110は、図9(d)に示すように、捻りバネ114により第2突出片113がシフトカム37のラチェット溝38を閉鎖した状態で配されている。
【0083】
この回転駆動部材81が、図9(a)に示すように、シフトカム37のカム溝端部方向に回転駆動する動きで、回転駆動部材81のラチェットレバー87の突部92は、捻りバネ114の弾力に抗してシャッター部材110の第2突出片113に当接して押圧荷重を加える。このラチェットレバー87の脚部88は、図9(b)に示すように、回転駆動部材81の回転駆動に伴って板カム60の短尺の駆動ピン62に当接する。ラチェットレバー87は、図9(c)に示すように、回転駆動部材81の回転駆動に伴い板カム60の短尺の駆動ピン62の押圧荷重により回転軸86を中心として左方向に回転する。このラチェットレバー87のラチェット爪91は、シフトカム37のラチェット溝38から離脱して開放される。
【0084】
このラチェット爪91が開放されると、ラチェットレバー87の突部92が弾力に抗してシャッター部材110の第2突出片113を乗り越えて、シャッター部材110の内側にラチェット爪91を押し込む。このとき、このシャッター部材110は、図9(c)に示すように、ラチェットレバー87の突部92による押圧から外れて捻りバネ114の弾性反発力により初期の位置に復帰し、シフトカム37のラチェット溝38を閉鎖する。このラチェットレバー87の突部92が、図9(c)及び図9(d)に示すように、シャッター部材110から外れるまで、ラチェットレバー87の開放状態が維持される。
【0085】
上記実施の形態に係るシャッター機構の構成によると、以下の効果が得られる。
【0086】
(1)このシャッター部材110により、回転駆動部材81がシフトを完了して制御原点に戻るとき、ラチェット爪91がシフトカム37のラチェット溝38内に嵌まり込むのを阻止するので、ラチェット爪91とラチェット溝38との間の引っ掛かりを防止することができるとともに、シフトカム37の回転を阻止することができるようになる。
【0087】
以上の説明からも明らかなように、本発明の駆動力配分装置を上記実施の形態、及び図示例に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態、及び図示例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。本発明にあっては、次に示すような変形例も可能である。
【0088】
[変形例]
上記実施の形態では、一対の腕部88を有する回転駆動部材81を例示したが、これに限定されるものではない。回転駆動部材81の変形例の一例としては、図10に示すように、ラチェット爪91をシフト方向(図中左方向)には駆動可能であるが、シフト完了からの戻り時には駆動不能となる、所謂一方向駆動形とするとともに、シフトカム37のシフト方向(展開図では、シフトカム37の左方向)側の腕部88を排除している。
【0089】
この構成は、シフト時間を充分に短くすることで、シフト途中でシフトフォークが停止した場合にシフトフォークを元の位置に戻せないという問題の発生を防止するとともに、製作コストの低減を図るものである。この構成を採用することで、上記短尺の駆動ピン62、及びシャッター部材110を必要としないため、製作コストを低減させることができる。なお、同図において上記実施の形態と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。従って、これらの部材に関する詳細な説明は省略する。
【0090】
上記実施の形態にあっては、FRタイプの四輪駆動車のトランスファに本発明の駆動力配分装置を適用した場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではないことは勿論であり、例えばFFタイプの四輪駆動車などのトランスファに本発明の駆動力配分装置を効果的に使用することができる。また、上記実施の形態では、HポジションとLポジションとの走行変速切換を行う副変速機20を説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、例えば副変速機における切替えポジションとして、ニュートラルや4WDロックなどの各種のポジションを増加させて設定することができる。
【0091】
なお、自動二輪車あるいは農業機械、建設土木機械、運搬機械等の作業用車両などの各種車両に本発明の駆動力配分装置を効果的に使用することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0092】
1 トランスファ
2 フロントケース
3 リアケース
4 入力軸
5 ベアリング
6 後輪出力軸
7 前輪出力軸
8 駆動スプロケットギヤ
9 従動スプロケットギヤ
10 チェーン
11 位置決めロッド
20 副変速機
21 サンギヤ
22 リングギヤ
23 プラネタリギヤ
24 支軸
25 キャリアケース
26 リング体
26a 内スプライン
30 シフト機構
31 クラッチスリーブ
32 フォーク本体
32a バネ荷重受部
33 摺動ホルダ
33a 摺動脚部
33b アーム部
33c シフターピン
34 コイルバネ
35 シフトロッド
36 ワッシャ
37 シフトカム
37a カム溝
38 ラチェット溝
39 チェック溝
40 摩擦クラッチ装置
41 摩擦クラッチ
42 クラッチハブ
43 クラッチドラム
44 クラッチ押付部材
50 ボールカム機構
51 反力カムプレート
52 駆動カムプレート
52a アーム部
53,55 スラスト軸受
54 固定部材
56 カムフォロア
57 ボール
60 板カム
61,62 駆動ピン
63 被駆動突起
64 カム面
65 カム立ち上がり部分
70 アクチュエータ
71 減速機
72 アクチュエータ出力軸
80 シフト・クラッチ制御機構
81 回転駆動部材
82 大径部分
83 小径部分
84,85 駆動突起
84a 駆動面
85a ストッパ面
86 回転軸
87 ラチェットレバー
88 腕部
88a カム面
89 バネ
90 ラチェット部
91 ラチェット爪
92 突部
100 チェック機構
101 チェック部
102 チェックブロック
103 コイルスプリング
104 チェックボール
105 プラグ
106 保持片
110 シャッター部材
111 挿入孔
112 第1突出片
113 第2突出片
114 捻りバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸への動力を少なくとも高速と低速の2段に切り替えて主出力軸へ伝達する副変速機と、
前記主出力軸の動力を副出力軸に伝達する摩擦クラッチと、
アクチュエータの出力軸に固定された回転駆動部材と、
前記回転駆動部材の一端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記摩擦クラッチの押付力を変化させる摩擦クラッチ駆動用カムと、
前記回転駆動部材の他端部に相対回転可能に同軸に配置され、前記アクチュエータの回転運動を直線運動に変換して前記副変速機をシフトさせるシフトカムと、
前記回転駆動部材の外面の法線方向の軸線を回転中心として設けられたラチェットレバーとを備え、
前記ラチェットレバーは、前記回転駆動部材が前記シフトカムの制御原点を起点とした所定の位置から一方側に回転駆動したとき前記シフトカムから離脱して回転し、前記回転駆動部材が前記一方側とは逆方向に回転駆動したとき前記シフトカムと連動して回転することを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
前記ラチェットレバーは、前記シフトカムに形成されたラチェット溝と噛み合って前記シフトカムを回転させる駆動爪と、前記摩擦クラッチ駆動用カムに設けられた駆動ピンに当接することで、前記駆動爪を前記ラチェット溝と噛み合わない開放位置に回転して退避させる腕部とを一体に形成したことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項3】
前記回転駆動部材には、前記回転駆動部材が前記一方側に回転駆動したとき前記摩擦クラッチ駆動用カムに形成された被駆動突起に当接して回転し、前記摩擦クラッチの押付力を調整する第1の駆動突起と、前記回転駆動部材が前記一方側とは逆方向に回転駆動したとき前記被駆動突起に当接して停止する第2の駆動突起とが設けられ、
前記第2の駆動突起が停止するとともに、前記副変速機のポジションを切替えた後、前記シフトカムを停止したままの状態で、前記回転駆動部材が前記制御原点の位置に戻ることを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項4】
前記腕部が前記駆動ピンに当接することで、前記駆動爪を前記ラチェット溝と噛み合わない開放位置に回転して退避させたとき、前記駆動爪と前記ラチェット溝との間に介在して前記駆動爪と前記ラチェット溝との噛み合いを抑止するシャッター部材を備えてなることを特徴とする請求項2記載の駆動力配分装置。
【請求項5】
前記シフトカムには、前記シフトカムのシフト位置となる2箇所に対応して前記シフト位置を決めるチェック機構が同軸に支持されてなることを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項6】
前記チェック機構には、前記シフトカムに対する回り止めとなる保持片が形成され、
前記保持片は、前記摩擦クラッチ駆動用カムの逆回転を阻止する位置決めロッドに貫通して支持されてなることを特徴とする請求項5記載の駆動力配分装置。
【請求項7】
前記摩擦クラッチに軸方向変位を付与するボールカム機構を備え、
前記ボールカム機構は、前記摩擦クラッチと同一軸上に互いに相対回転可能に配され、互いに相対する面に挟持されるボールを有する一対のボールカムを有し、
前記ボールカムの一方が前記摩擦クラッチ駆動用カムの逆回転を阻止する位置決めロッドに固定支持されるとともに、前記ボールカムの他方が前記摩擦クラッチ駆動用カムのカム面に沿って移動するカムフォロアを介して駆動されてなることを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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