説明

駆動車輪用軸受装置

【課題】駆動車輪用軸受装置の外径寸法を大きくすることなく軸方向寸法を短縮して一層のコンパクト化、軽量化を図る。
【解決手段】駆動車輪用軸受装置は、ハブ10と、複列転がり軸受20と、アウトボード側等速ジョイント30とからなり、複列転がり軸受20のアウトボード側転動体列26aの接触角αをインボード側転動体列26bの接触角αと等しくし、かつ、アウトボード側転動体列26aのピッチ円径PCDoをインボード側転動体列26bのピッチ円径PCDiよりも大きくし、アウトボード側等速ジョイント30を複列転がり軸受20よりもアウトボード側に配置し、かつ、アウトボード側等速ジョイント30の中心Oを複列転がり軸受20の軸受スパンの内側に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動車輪を車体に回転自在に支持するための複列転がり軸受と等速ジョイントを一体化した駆動車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に駆動車輪用の車輪軸受装置が記載してある。すなわち、ディスクホイールを取り付けるためのハブを複列転がり軸受を介して車体に回転自在に支持するとともに、ハブに設けた貫通孔に駆動軸を挿入して、ジョイント内輪を駆動軸の端部に固定し、ジョイント外輪相当部分をハブの内部に形成し、両者間にボールを介在させることにより、複列転がり軸受よりもアウトボード側で、ボールタイプの等速ジョイントを構成している。
【0003】
図5を参照して説明すると、車輪用軸受装置110は、ハブ112の軸部114の外周に内輪122を取り付けて、軸部114の外周面と内輪122の外周面を複列転がり軸受120の内輪軌道面としている。複列転がり軸受120の外輪軌道面を有する外方部材125は車体のナックル128に取り付ける。軸部114と内輪122に形成した内輪軌道面と外方部材125に形成した外輪軌道面との間に複列の転動体として玉126、127を配置して、外方部材125に対して軸部114、内輪122を回転可能に支持している。軸部114と内輪122は、軸部114の端部116をかしめて複列転がり軸受120の内輪122の側端部124に当てることにより一体化してある。このように複列転がり軸受120を介して車輪用軸受装置110を車体に取り付ける。
【0004】
軸部114の中心には貫通孔118が形成してあり、その貫通孔118に駆動軸140が挿入してある。そして、複列転がり軸受120よりもアウトボード側に、軸部114と駆動軸140とを揺動可能に連結する等速ジョイント130が配設してある。等速ジョイント130を構成する内側継手部材としての内輪134は駆動軸140の端部に固定してあり、外側継手部材としての外輪相当部分132は軸部114の貫通孔118の内周面に形成してある。すなわち、貫通孔118のアウトボード側の端部を部分球面状の内周面とし、その内周面に軸方向に延びるボール溝136を円周方向に等間隔に形成してある。
【0005】
特許文献1に記載された車輪用軸受装置には次のような利点がある。すなわち、ハブ112の貫通孔118の内部に等速ジョイント130が形成されているため、等速ジョイント130から直接、ハブ112に駆動軸140のトルクを伝えることができる。その結果、ハブの軸部と等速ジョイント外輪の軸部とのスプライン結合を廃止することができる。したがって、当該スプライン結合部で発生していた異音の問題も解消する。また、等速ジョイント130からその外周にあるハブ112の軸部114へ直接トルクを伝達できるため、等速ジョイント外輪の小型化が可能となり、等速ジョイント130の、ひいては車輪用軸受装置110の小型化および軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−241617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された車輪用軸受装置では、複列転がり軸受120よりもアウトボード側に等速ジョイント130が配置してあるため、複列転がり軸受120のアウトボード側の内輪軌道と外輪相当部分132との間の肉厚を確保すると、軸方向に長くなり、重量も増大する。また、軸方向長さを短くするために複列転がり軸受120の玉PCD(pitch circle diameter:以下、ピッチ円径という)を大きくすることが考えられるが、そうすると複列転がり軸受120の外方部材125の外径を大きくせざるをえず、結局前者と同様に重量増となる。
【0008】
この発明の主要な目的は、駆動車輪用軸受装置の外径寸法を大きくすることなく軸方向寸法をさらに短縮して一層のコンパクト化、軽量化を図ることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、複列転がり軸受の転動体列のうち、アウトボード側の転動体列のピッチ円径をインボード側の転動体列のピッチ円径よりも大きくして、複列転がり軸受のアウトボード側転動体列の内側に等速ジョイントをもぐり込ませることにより、課題を解決したものである。
すなわち、この発明の駆動車輪用軸受装置は、複列の内輪軌道と複列の外輪軌道と複列の転動体と各列の転動体を保持するための保持器とからなる複列転がり軸受と、
軸心部に貫通孔を有し、外周に車輪を取り付けるためのフランジを有し、前記複列転がり軸受により回転自在に支持されたハブと、
前記ハブに一体的に形成した外側継手部材に相当する部分と、前記ハブの貫通孔に挿入した駆動軸の端部に固定した内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に介在して両者間のトルク伝達を担うボールとを有するアウトボード側等速ジョイントと
からなり、前記複列転がり軸受のアウトボード側転動体列のピッチ円径をインボード側転動体列のピッチ円径よりも大きくし、
前記アウトボード側等速ジョイントを前記複列転がり軸受よりもアウトボード側に配置し、かつ、前記アウトボード側等速ジョイントの中心を前記複列転がり軸受の軸受スパンの内側に配置したことを特徴とするものである。
従来、アウトボード側等速ジョイントを複列転がり軸受よりもアウトボード側に配置する場合、アウトボード側等速ジョイントの中心は複列転がり軸受の軸受スパンの外側に位置していたものであるところ、アウトボード側等速ジョイントの中心を複列転がり軸受の軸受スパンの内側に配置する、言い換えればアウトボード側等速ジョイントの中心をインボード側に寄せることにより、軸方向寸法が短縮できる。
その際、単にアウトボード側等速ジョイントの中心が複列転がり軸受の軸受スパンの内側に来るようにアウトボード側等速ジョイントをインボード側に寄せただけでは、アウトボード側等速ジョイントの外輪ボール溝とアウトボード側転動体列の軌道との間の肉厚を確保するのが困難になる。そこで、アウトボード側転動体列のピッチ円径を大きく、具体的にはインボード側転動体列のピッチ円径よりも大きくすることにより、当該肉厚を確保することができる。ここでも、単に同じ軸方向位置でアウトボード側転動体列のピッチ円径を大きくするのでなく、複列転がり軸受の軸受スパンと接触角を変えることなくピッチ円径を大きくすることで、アウトボード側転動体列の軌道の位置が半径方向だけでなく軸方向へも移動することになるため、より多くの肉厚を確保することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、複列転がり軸受の転動体列のうちアウトボード側転動体列(以下、単にアウタ列という)のピッチ円径をインボード側転動体列(以下、単にインナ列という)のピッチ円径よりも大きくすることで、アウタ列の内側に等速ジョイント外輪相当部分をもぐり込ませて軸方向寸法を短縮することが可能となり、駆動車輪用軸受装置のコンパクト化、軽量化が実現する。
アウタ列とインナ列の転動体サイズは同じでもよいが、異ならせることもできる。アウタ列とインナ列の転動体サイズを同じにすることにより、転動体の誤組み、すなわちサイズの異なる転動体を組み込む心配がなくなる。また、部品種類(サイズの異なる転動体)を増やすことなく、生産できる。転動体サイズは同じでも、ピッチ円径を大きくしたことに伴い、アウタ列の転動体数を増やすことも可能であり、その結果、軸受剛性が高まる。
一方、アウタ列の転動体サイズを小さくして転動体数を増やすことも可能で、それによって、更に軸受剛性を高めることができる。すなわち、ピッチ円径を大きくしたアウタ列は軸受寿命に余裕ができるので、その分、転動体サイズを小さくして転動体数を増やし、軸受剛性に振り分けることが可能である。ピッチ円径を大きくしたうえで、さらに転動体サイズを小さくすることで、アウタ列用内輪軌道の外径が大きくなる。したがって、その分だけ、外輪相当部分との間の肉厚が増えることになり、肉厚を一定とするならば、外輪相当部分を複列転がり軸受側に寄せることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第一の実施例を示す縦断面図である。
【図2】軸受スパンを説明するための図1と類似の図である。
【図3】第二の実施例を示す縦断面図である。
【図4】第三の実施例を示す縦断面図である。
【図5】従来の技術を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、第一の実施例を示す図1を参照すると、駆動車輪用軸受装置は、ハブ10と、複列転がり軸受20と、等速ジョイント30とで構成されている。
【0013】
ハブ10は、図1の左側から順にホイールパイロット12とフランジ14と軸部16とを備えた回転体で、軸心部に貫通孔18を有している。フランジ14はハブ10の外周に一体的に形成してあり、このフランジ14に図示しないディスクホイールを取り付け、ハブボルト15にホイールナット(図示せず)を締め付けて締結するようになっている。このとき、ホイールパイロット12によってディスクホイールの心出しがなされる。軸部16の外周面には、フランジ14の付け根側から軸端部に向かって、第一の内輪軌道16a、肩16b、小径部16c、かしめ部16dが順に形成してある。ハブ10の貫通孔18は、図1の左側から順に、外端部18a、ジョイント外輪相当部分18b、中間部18c、内端部18dとなっている。
【0014】
ハブ10の軸部16の小径部16cにハブ10とは別体の軌道輪22が取り付けてある。軌道輪22の外周面には肩面22aと第二の内輪軌道22bが形成してある。軌道輪22を小径部16cにはめ合わせて、軌道輪22の端面を肩16bに当てた状態で、小径部16cの軸端部分を外径側に曲げ拡げる、つまり、かしめることによって、軌道輪22を固定する。なお、図1はかしめ後の状態を示している。ハブ10に直接形成した第一の内輪軌道16aと軌道輪22に形成した第二の内輪軌道22bとで複列転がり軸受20の内輪軌道を構成する。つまり、ハブ10と軌道輪22は複列転がり軸受20の軸受内輪に相当する。
【0015】
複列転がり軸受20の軸受外輪に相当する外方部材24は、内周に複列の外輪軌道24a、24bを有し、外周には車体のナックル(図示せず)にボルトで締結するためのねじ孔付きフランジ24cが一体的に形成してある。外方部材24の一方の端面にはナックルの孔とはめ合わせるための円筒形状の突部(ナックルパイロット)24dが設けてある。
外方部材24の両端部にはシール28a、28bが装着してある。一方のシール28aは、ハブ10のフランジ14の根元に形成したシール面16eにシールリップを弾性的に接触させた状態で、外方部材の端部内周面24eに取り付けてある。もう一方のシール28bは、軌道輪22の肩面22aと外方部材24の端部内周面24fとの間に取り付けてある。
【0016】
内輪軌道16a、22bと外輪軌道24a、24bとの間に複列の転動体すなわち玉26a、26bが介在させてある。符号26aはアウトボード側の玉列すなわちアウタ列を指し、符号26bはインボード側の玉列すなわちインナ列を指している。図2に示すように、アウタ列26aのピッチ円径PCDoはインナ列26bのピッチ円径PCDiよりも大きい。図2に接触角を符号αで示してあり、アウタ列26aもインナ列26bも接触角は同じである。ここで、接触角は、軸受中心軸に垂直な平面(ラジアル平面)と、軌道輪によって転動体へ伝えられる力の合力の作用線とがなす角度と定義される。また、軌道輪によって一列の転動体へ伝えられる力の合力が軸受中心軸と交わる点を作用点といい、図2に符号Po、作用点Piで示してある。アウトボード側の作用点Poとインボード側の作用点Piとの間隔を軸受スパンという。ここでは軸受スパンを(Po〜Pi)と表すこととする。
上述のように構成された複列転がり軸受20の外方部材24を車体に固定すると、ハブ10が複列転がり軸受20によって回転自在に支持される。
【0017】
等速ジョイント30は、内側継手部材としての内輪32と、外側継手部材としての上記ジョイント外輪相当部分18bと、トルク伝達部材としてのボール36と、ボール36を保持するためのケージ38とで構成される。
【0018】
内輪32は、ハブ10の貫通孔18に挿入した駆動軸90の端部に固定してある。内輪32と駆動軸90とは、たとえばスプラインまたはセレーションにより、トルク伝達可能にはめ合わせて、止め輪92で抜け止めがしてある。内輪32は部分球面状の外周面32aを有し、その外周面32aに軸方向に延びるボール溝32bが円周方向に等間隔に形成してある。
【0019】
ジョイント外輪相当部分18bは、部分球面状の内周面34aを有し、その外周面34aに軸方向に延びるボール溝34bが円周方向に等間隔に形成してある。
内輪32のボール溝32bとジョイント外輪相当部分18bのボール溝34bとは対をなし、各対のボール溝32b、34b間に1個ずつボール36が介在させてある。
【0020】
ボール36はケージ38のポケット38a内に収容されている。ポケット38aはケージ38の円周方向に所定の間隔で配置してあり、各ポケット38aはケージ38を半径方向に貫通している。ケージ38の内周面および外周面は部分球面状で、内周面は内輪32の外周面32aと球面接触し、外周面はジョイント外輪相当部分18bの内周面34aと球面接触する。
【0021】
内輪32のボール溝32bの曲率中心と、外輪相当部分18bのボール溝34bの曲率中心とは、ジョイント中心に対して、軸線方向に互いに反対側に等距離だけオフセットしている。すなわち、内輪32のボール溝32bの曲率中心は、ジョイント中心から図1の右側へある距離(仮にF1とする)だけオフセットさせてあり、外輪相当部分18bのボール溝34bの曲率中心は、ジョイント中心から図1の左側へ等距離(F1)だけオフセットさせてある。その結果、対をなすボール溝32b、34bで形成されるボールトラックは、軸線方向の一方から他方へ、図1に即していうならば左側から右側へ向けて、漸次縮小したくさび形状を呈する。したがって、そのボールトラック内に収容されたボール36は、等速ジョイント30が作動角をとって回転するとき、言い換えれば内輪32とジョイント外輪相当部分18bとが角度をなした状態で回転すると、くさび形状の広がる方向に向かう力を受ける。すべてのボール36はケージ38によって同一平面に保持されるため、上記の力を受けるボール36と180度反対位相にあるボール36は逆向きの力を受けることとなる。このようにして、ボール中心から内輪32の回転軸線までの距離と、ボール中心からジョイント外輪相当部分18bの回転軸線までの距離とが常に等しく、したがって作動角に関係なく角速度が一定となる。
【0022】
等速ジョイント30は複列転がり軸受20よりもアウトボード側(図1の左側)に位置している。具体的には、等速ジョイント30のボール36の軸方向位置が、複列転がり軸受20のアウタ列26aよりもアウトボード側(図1の左側)に位置している。より具体的に述べるならば、図2に示すように、等速ジョイント30の中心Oが複列転がり軸受20の軸受スパン(Po〜Pi)の内側に配置してある。なお、図1は等速ジョイント30が作動角をとっていない状態、つまり内輪32とジョイント外輪相当部分18bが同軸状態にある場合を示しているが、最大作動角をとったときでもボール36がアウタ列26aよりもアウトボード側に位置することは明らかである。
【0023】
等速ジョイント30のボール36の数は任意であるが、たとえば6個または8個のボールを用いたものが知られている。8個のボールを用いた場合、6個のボールを用いた場合に比べて、ボール数が増える分だけボール1個あたりの負荷容量が少なくてすむため、ボール径を小さくすることができる。その結果、ピッチ円径を小さくすることが可能となり、それに伴い外径も小さくなる。したがって、等速ジョイントの小型化、コンパクト化が実現し、ひいては駆動車輪用軸受装置全体のコンパクト化が可能となる。
【0024】
等速ジョイント30のボール36は複列転がり軸受20の玉26a、26bよりも大径である。図2に示すように、ボール36のピッチ円径をPCDj、インナ列のピッチ円直径をPCDi、アウタ列のピッチ円直径をPCDoとすると、等速ジョイント30が作動角をとっていない状態では、PCDj<PCDi<PCDoの関係にある。また、インナ列の内輪軌道22bの外径がボール36のPCDjと同程度であるのに対してアウタ列22aの内輪軌道16aの外径はボール36の外接円と同程度である。
【0025】
等速ジョイント30の内部に充填したグリースの漏れを防止し、かつ、外部から異物が侵入するのを防止するための手段として、ブーツ40とキャップ48が取り付けてある。
ブーツ40はハブ18の内端部18dの開口部分を密閉するためのもので、ブーツ本体42とブーツアダプタ44とからなる。ブーツ本体42はゴムやエラストマーといった可撓性材料を図示するような円すい台形状に成形したものである。ブーツアダプタ44は金属製の二段円筒状で、小径部44aと大径部44bと両者をつなぐフランジ部44cとを含んでいる。小径部44aをハブ10の貫通孔18の内端部18dに圧入するとともに、フランジ部44をハブ10のかしめ部16dに当てて位置決めをする。小径部44aに環状溝を設けてOリングを装着するようにしてもよい。大径部44bの端縁を内側に折り曲げてブーツ本体42の大径部42aを巻き締めることにより両者を一体化してある。ブーツ本体42の小径部42bは駆動軸90に形成したブーツ溝94にはめ込み、ブーツバンド46で締め付けて固定する。
キャップ48は金属薄板を盆状にプレス成形したもので、ハブ10の貫通孔18の外端部18aに圧入する。
【0026】
述べたように、複列転がり軸受20の転動体列26a、26bのうちアウタ列26aのピッチ円径をインナ列26bのピッチ円径よりも大きくすることで、アウタ列26aの内側にジョイント外輪相当部分18bをもぐり込ませるだけの余裕ができる。したがって、アウタ列26aと等速ジョイント30との軸方向寸法を短縮することが可能となり、その結果、駆動車輪用軸受装置全体のコンパクト化、軽量化が実現する。このことを図2に即して述べるならば、アウトボード側等速ジョイント30の中心Oを複列転がり軸受20の軸受スパン(Po〜Pi)の内側に配置する、言い換えればアウトボード側等速ジョイント30の中心Oをインボード側に寄せることにより、軸方向寸法が短縮できる。また、単にアウトボード側等速ジョイント30の中心Oが複列転がり軸受20の軸受スパン(Po〜Pi)の内側に来るようにアウトボード側等速ジョイント30をインボード側に寄せただけでは、アウトボード側等速ジョイント30の外輪ボール溝34bとアウタ列26a用の内輪軌道16aとの間の肉厚を確保するのが困難になる。そこで、アウタ列26aのピッチ円径PCDoを大きく、具体的にはインナ列26bのピッチ円径PCDiよりも大きくすることにより、当該肉厚を確保することができる。ここでも、単に同じ軸方向位置でアウタ列26aのピッチ円径PCDoを大きくするだけでなく、複列転がり軸受20の軸受スパン(Po〜Pi)と接触角αを変えることなくピッチ円径PCDoを大きくすることで、アウタ列26aの内輪軌道16aの位置が半径方向だけでなく軸方向へも移動することになるため、より多くの肉厚を確保することができる。このことを説明するため、図2のアウタ列26aの転動体を表す実線円の近くに、二点鎖線で二つの円が示してある。一つはインナ列26bと同じピッチ円径PCDi上にあり、もう一つはアウタ列26aと同じピッチ円径PCDo上にある。前者は、ピッチ円径を変えないとアウトボード側等速ジョイント30の外輪ボール溝34bとの間にほとんど肉厚が確保できないことを示している。後者は、単にピッチ円径を大きくしただけでは、あまり大きな肉厚の確保は望めないことを示している。
【0027】
アウタ列26aとインナ列26bの転動体サイズは目的に応じて種々の組み合わせが可能である。アウタ列26aとインナ列26bとで転動体サイズを同じにしてもよく、あるいは異ならせてもよい。アウタ列26aとインナ列26bの転動体サイズを同じにした場合、転動体の誤組み、すなわちサイズの異なる転動体を組み込む心配がなくなる。また、部品種類(サイズの異なる転動体)を増やすことなく、生産できる。一方、アウタ列の転動体サイズを小さくして転動体数を増やすことにより、軸受剛性を高めることができる。すなわち、ピッチ円径を大きくしたアウタ列は軸受寿命に余裕ができるので、その分、転動体サイズを小さくすることが可能になり転動体数を増やし、軸受剛性に振り分けることが可能である。
【0028】
次に、第二の実施例を示す図3を参照すると、この実施例では、駆動軸90の、等速ジョイント30とは反対側の端部に、別の等速ジョイント50が設けてある。この場合、前者の等速ジョイント30をアウトボードジョイント、後者の等速ジョイント50をインボードジョイントと呼ぶことができる。アウトボードジョイント30が角度変位のみ可能な固定式ジョイントであるのに対し、インボードジョイント50は角度変位のみならず軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動式ジョイントである。ハブ10、複列転がり軸受20、アウトボードジョイント30については図1の実施例と同じであるため説明を省略する。
【0029】
インボードジョイント50はトリポード型で、内側継手部材としてのトリポード52と、外側継手部材としてのハウジング54と、トルク伝達部材としてのローラアセンブリ56とからなり、ブーツ60を装着した状態で使用するのが一般的である。
トリポード52はボス52aとトラニオンジャーナル52bとからなり、ボス52aを駆動軸90の端部に固定してある。ボス52aと駆動軸90とは、たとえばスプラインまたはセレーションにより、トルク伝達可能にはめ合わせて、止め輪98で抜け止めがしてある。3本のトラニオンジャーナル52bがボス52aの円周方向に等間隔に配置してあり、それぞれボス52aの半径方向に突出している。各トラニオンジャーナル52bは円筒形状で、軸端側に環状溝52cが形成してある。
【0030】
各トラニオンジャーナル52bにローラアセンブリ56が取り付けてある。ローラアセンブリ56はローラ56aと複数の針状ころ56bとワッシャ56cとサークリップ56dを含む。ローラ56aは円筒形状の内周面と球面状の外周面を有し、ローラ56aの円筒形状内周面とトラニオンジャーナル52bの円筒形状外周面との間に針状ころ56bが介在させてある。ワッシャ56cは針状ころ56bの端部よりもトラニオンジャーナル52bの軸端側に位置している。ワッシャ56cは横断面がL字形状のリング状で、円筒部とその円筒部の内端に位置する内向きフランジとからなる。また、ワッシャ56cの円筒部の外径はローラ56aの内径よりも小さく、かつ、円筒部は外端部にて拡径してローラ56aの内径より大径となっている。サークリップ56dはトラニオンジャーナル52bの環状溝52cに装着してあり、トラニオンジャーナル52bの軸端からワッシャ56cが抜けるのを防止する。
【0031】
ハウジング54は一端にて開口したカップ状で、内部に円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝を有し、各トラック溝の側壁面はローラ案内面とされる。ローラ案内面は部分円筒形状で、ハウジング54の軸線に垂直な断面におけるローラ案内面54bの輪郭はローラ56aの外周面形状と適合する形状、たとえばここでは円弧形状である。ハウジング54は接続用の軸部54cを一体的に有している。
【0032】
インボードジョイント50を組み立てるにあたっては、トリポード52とローラアセンブリ56とを含むサブアセンブリをハウジング54の内部に挿入し、ローラ56aをトラック溝内に収容させる。なお、図示は省略したが、上記サブアセンブリ52、56がハウジング54から抜け出すのを防止するための抜け止め手段を設けるのが一般的である。一例としては、ハウジング54の開口端部に抜け止め用のクリップを装着する(図3参照)。
【0033】
ブーツ60は、ゴムやエラストマーといった可撓性材料で成形し、ここでは蛇腹状をした中間部64と、その両端に大径端部62と小径端部66を設けたものが例示してある。大径端部62をハウジング54に取り付け、小径端部66を駆動軸90に形成したブーツ溝96に取り付け、それぞれブーツバンド68で締め付けて固定する。ブーツ60を装着することにより、等速ジョイント内部に充填したグリースの漏れを防止し、かつ、外部から異物が侵入するのを防止することができる。
【0034】
次に、第三の実施例を示す図4を参照すると、駆動軸90Aを短軸とし、ハブ10の軸端部からインボードジョイント70の外輪74にかけて単一のブーツ80で密閉してある。ここではアウトボードジョイント30とインボードジョイント70はいずれもトルク伝達部材としてボールを用いた等速ボールジョイントである点で共通している。また、インボードジョイント70はしゅう動式である点では図3の実施例と共通しているが、図3のものがトリポード型であるのに対してダブルオフセット型である点で相違している。ハブ10、複列転がり軸受20、アウトボードジョイント30については図1を参照してすでに述べたとおりであるため説明を省略する。
【0035】
インボードジョイント70は、内輪72と、外輪74と、ボール76と、ケージ78とからなり、ブーツ80を装着した状態で使用される。
内輪72は駆動軸90Aの端部に固定してある。内輪72と駆動軸90Aとは、たとえばスプラインまたはセレーションにより、トルク伝達可能にはめ合わせて、止め輪98Aで抜け止めがしてある。内輪72は部分球面状の外周面72aを有し、その外周面72aに直線状のボール溝72bが円周方向に等間隔に形成してある。
外輪74は円筒面状の内周面74aを有し、その外周面74aに直線状のボール溝74bが円周方向に等間隔に形成してある。
内輪72のボール溝72bと外輪74のボール溝74bとは対をなし、各対のボール溝72b、74b間に1個ずつボール76が介在させてある。
【0036】
各ボール76はケージ78のポケット78a内に収容されている。ポケット78aはケージ78の円周方向に所定の間隔で配置してあり、各ポケット78aはケージ78を半径方向に貫通している。ケージ78は円環状で、その内周面には内輪72の部分球面状外周面72aと球面接触する部分球面状の部分78bが形成してある。ケージ78の外周面には外輪74の部分円筒形状内周面74aと線接触する部分球面状の部分78cが形成してある。
【0037】
ケージ78の内周面の部分球面状部分78bの曲率中心と、外周面の部分球面状部分78cの曲率中心とは、ジョイント中心に対して、軸線方向に互いに反対側に等距離だけオフセットしている。すなわち、内周面の部分球面状部分78bの曲率中心は、ジョイント中心から図4の右側へある距離(仮にF2とする)だけオフセットさせてあり、外周面の部分球面状部分78cの曲率中心は、ジョイント中心から図4の左側へ等距離(F2)だけオフセットさせてある。
【0038】
図4は、内輪72が外輪74から抜け出すのを防止するための抜け止め手段として外輪74の開口端部に抜け止め用のクリップ75を装着した例である。クリップ75は円周方向の一部で分断してあり、外輪74に形成した周方向溝74cに弾性変形を利用して装着してある。装着した状態のクリップ75の内径はボール76の外接円径よりも小さく設定してあるため、内輪72が外輪74の開口からスライドアウトしようとするとボール76がクリップ75と干渉して抜け止めがなされる。
【0039】
ブーツ80は、ハブ10の内端部18dの開口部分を密閉するためのもので、ブーツ本体82とブーツアダプタ84とからなる。ブーツ本体82はゴムやエラストマーといった可撓性材料を図示するような断面形状に成形したものである。ブーツアダプタ84は金属製の二段円筒状で、小径部84aと大径部84bと両者をつなぐフランジ部84cとを含んでいる。小径部84aをハブ18の貫通孔18の内端部18dに圧入するとともに、フランジ部84cをハブ10のかしめ部16dに当てて位置決めをする。小径部84aに環状溝を設けてOリングを装着するようにしてもよい。大径部84bの端縁を外側に折り曲げてブーツ本体82の小径部82bを巻き締めることにより両者を一体化してある。ブーツ本体82の大径部82aはインボードジョイント70の外輪74に取り付け、ブーツバンド86で締め付けて固定する。
【0040】
以上、図面に例示した実施例に基づいてこの発明の実施の形態を説明したが、この発明の実施をするにあたっては種々の改変が可能である。たとえば、以上の説明では、複列転がり軸受20の内輪軌道の一方(第一の内輪軌道16a)をハブ10に直接形成し、もう一方(第二の内輪軌道22b)をそのハブ10とは別体の軌道輪22に形成する場合を例にとったが、両方ともハブとは別体の軌道輪に形成するようにしてもよい。
また、複列転がり軸受としては転動体として玉を使用する玉軸受の場合を例にとったが、転動体として円すいころを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 ハブ
12 ホイールパイロット
14 フランジ
15 ハブボルト
16 軸部
16a 第一の内輪軌道
18 貫通孔
20 複列転がり軸受
22 軌道輪
22b 第二の内輪軌道
24 外方部材
24a、24b 外輪軌道
25 保持器
26a アウタ列
26b インナ列
28a、28b シール
30 アウトボードジョイント(固定式等速ジョイント)
32 内輪(内側継手部材)
34 外輪(外側継手部材)
36 ボール(トルク伝達部材)
38 ケージ
40 ブーツ
42 ブーツ本体
44 ブーツアダプタ
46 ブーツバンド
48 キャップ
50 インボードジョイント(トリポード型等速ジョイント)
60 ブーツ
70 インボードジョイント(ダブルオフセット型等速ジョイント)
80 ブーツ
90、90A 駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の内輪軌道と複列の外輪軌道と複列の転動体と各列の転動体を保持するための保持器とからなる複列転がり軸受と、
軸心部に貫通孔を有し、外周に車輪を取り付けるためのフランジを有し、前記複列転がり軸受により回転自在に支持されたハブと、
前記ハブに一体的に形成した外側継手部材に相当する部分と、前記ハブの貫通孔に挿入した駆動軸の端部に固定した内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に介在して両者間のトルク伝達を担うボールとを有するアウトボード側等速ジョイントと
からなり、前記複列転がり軸受のアウトボード側転動体列のピッチ円径をインボード側転動体列のピッチ円径よりも大きくし、
前記アウトボード側等速ジョイントを前記複列転がり軸受よりもアウトボード側に配置し、かつ、前記アウトボード側等速ジョイントの中心を前記複列転がり軸受の軸受スパンの内側に配置したことを特徴とする駆動車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記複列転がり軸受のアウトボード側転動体列の接触角をインボード側転動体列の接触角と等しくしたことを特徴とする請求項1の駆動車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記複列の内輪軌道は、前記ハブの軸部の外周面に形成した第一の内輪軌道と、前記ハブの軸部に取り付けた軌道輪に形成した第二の内輪軌道とからなり、前記複列の外輪軌道は車体に取り付けるための外方部材に形成した請求項1または2の駆動車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記複列転がり軸受のアウトボード側転動体列とインボード側転動体列が同径の玉である請求項1、2または3の駆動車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記複列転がり軸受のアウトボード側転動体列の転動体数がインボード側転動体列の転動体数よりも多い請求項1ないし4のいずれか1項の駆動車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記複列転がり軸受のアウトボード側転動体列の転動体サイズをインボード側転動体列の転動体サイズよりも小さくし、かつ、アウトボード側転動体列の転動体数をインボード側転動体列の転動体数よりも多くした請求項1、2または3の駆動車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記アウトボード側等速ジョイントは、外周に8本のボール溝を形成した内側継手部材と、内周に8本のボール溝を形成した外側継手部材と、対をなす内側継手部材のボール溝と外側継手部材のボール溝との間に介在させたボールと、内側継手部材の外周面と外側継手部材の内周面との間に介在して前記ボールを同一平面に保持するケージとからなり、前記外側継手部材は前記ハブに一体的に形成されている請求項1ないし6のいずれか1項の駆動車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記アウトボード側等速ジョイントのボールは前記複列転がり軸受の転動体より大径である請求項4ないし7のいずれか1項の駆動車輪用軸受装置。
【請求項9】
前記ハブの軸部と前記駆動軸との間にブーツを取り付けた請求項1ないし8のいずれか1項の駆動車輪用軸受装置。
【請求項10】
前記駆動軸の、前記アウトボード側等速ジョイントとは反対側の端部に、インボード側等速ジョイントを設けた請求項1ないし9のいずれか1項の駆動車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記駆動軸の、前記アウトボード側等速ジョイントとは反対側の端部に、インボード側等速ジョイントを設け、かつ、前記ハブの軸部から前記インボード側等速ジョイントの外側継手部材にかけて単一のブーツで密閉した請求項1ないし8のいずれか1項の駆動車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35368(P2013−35368A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172063(P2011−172063)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】