骨インプラントのための医療機器およびその機器の製造方法
好ましくは、チタニアまたはジルコニアを備える生体適合性材料製の骨に埋入可能な医療機器は、骨をより統合し易くするように改変された表面を少なくとも一部分備えている。埋入可能な機器は、骨形成誘発剤を注入した表面を組み込むことができ、および/または治療薬を装填された穴を組み込むことができる。注入面および/または穴は、取り込まれる骨形成誘発剤および/または治療薬の分布および量を決定するようにパターン成形することができる。治療薬の放出または溶出速度プロファイルは制御することができる。このような骨に埋入可能な医療機器の製造方法も開示され、骨統合を向上させるためにイオンビーム照射、好ましくはガスクラスタイオンビーム照射の使用を採用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)本願は、2008年8月7日に提出された米国仮特許出願第61/086,986号から優先権を主張し、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)本発明は概して、哺乳動物の骨内または骨上への移植(骨内または骨上への埋入、骨インプラント)用の移植型医療機器、およびその移植型医療機器の製造方法に関する。特に、本発明は、好ましくは、チタン(チタニアの表面を有する)またはジルコニアであり、その表面の少なくとも一部分が骨とより統合され易いように改変された生体適合性材料製の埋入可能な医療機器に関する。さらに、本発明は、イオンビーム技術、好ましくは、ガスクラスタイオンビーム技術の使用を含むインプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書で使用される際、「チタニア」という用語は、チタンの酸化物、およびチタン元素を備える天然酸化物またはその他の酸化物(TiO2および または不完全な化学量論組成のTiO2を制限なく含む)の表面被覆を伴うチタン金属自体(またはチタン合金)を含むことを意図する。
【0004】
本明細書で使用される際、「ジルコニア」という用語は、(骨インプラントで使用するために強靭化される際に処理済みの、あるいは未処理の)様々な形態のいずれかにおける二酸化ジルコニウム(不完全な化学量論的組成であっても)、および少なくとも50%の二酸化ジルコニウムである材料またはセラミックを意味することを意図する。
【0005】
本明細書で使用される際、「リン酸三カルシウム」という用語は、βリン酸三カルシウムを制限なく含むことを意図する。
【0006】
本明細書で使用される際、「栄養材料」という用語は、局所的栄養源を提供することによって、骨芽細胞が成長し、表面に骨成分を生成するのを促す任意の材料を含むことを意図する。栄養材料はたとえば、ヒドロキシアパタイト[Ca5(PO4)3(OH)]x(HA)もしくはリン酸三カルシウムCa3(PO4)2(TCP)などのリン酸カルシウム含有材料、またはその他のバイオガラス45S5およびバイオガラス58Sを含む天然骨成分に類似する組成の鉱物もしくは化合物、または上記に関連するが不完全な化学量論組成を有する化合物、その他のCa、Ca++、P、O、PO4、もしくはP2O5のその他の源、またはCa、P、O、およびH原子、並びにより大きなHAもしくはTCP分子の断片を含む分子解離生成物などを含むがそれらに限定されない。
【0007】
本明細書で使用される際、「BMP」という用語は、骨に埋入可能な医療機器と接触して、あるいは近接して塗布される際に新たな骨の成長の形成および/または付着を促進するのに役立つ任意の骨形態形成タンパク質を含むことを意図する。
【0008】
本明細書で使用される際、「骨成長刺激剤」という用語は、成熟した骨芽細胞の発育および機能維持を誘導し促進する任意の材料を含むことを意図する。骨成長刺激剤は、あらゆる骨形態形成タンパク質(BMP)を含む形質転換成長因子β(TGF−β)のタンパク質スーパーファミリーのメンバーや反発誘導分子(RGM)タンパク質ファミリーのメンバーを含むグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー(GPIアンカー)シグナルタンパク質のメンバーなどの、成長因子やサイトカインなど、およびその他の増殖調整タンパク質を含むがそれらに限定されない。
【0009】
本明細書で使用される際、「骨形成誘発剤」という用語は、栄養材料および/または骨成長刺激剤を意味することを意図する。
【0010】
本明細書で使用される際、「穴」という用語は、骨に埋入可能な医療機器の表面を貫通するあらゆる穴、空洞、窪み、凹所、深い溝、または凹みを意味することを意図し、機器の一部分を貫通してもよいし(貫通穴)、または機器の一部のみを通ってもよく(止まり穴または空洞)、略円柱状、矩形、もしくはその他の任意の形状を取ることができる。
【0011】
本明細書で使用される際、「骨に埋入可能な(移植可能な)医療機器」という用語は、骨に装着する歯科用インプラント、骨ネジ、インターフェアランススクリュー(人工人体の固定器具)、ボタン、人工関節プロテーゼ(たとえば、大腿骨のボールプロテーゼまたは寛骨臼カッププロテーゼ)、および骨内のインプラント、プロテーゼおよび支持材または骨とインプラントとの統合を要するあらゆるインプラント、および靭帯、腱、回旋筋腱板などの軟骨組織を骨組織に固着させるセラミック、ポリマー、金属、または混成材料を限定なく含むことを意図する。
【0012】
本明細書で使用される際、「治療薬」という用語は、薬物、薬剤、抗生物質、抗炎症剤、骨形成誘発剤、BMP、または概して有益に生理活性であるその他の物質を意味することを意図する。
【0013】
哺乳動物(ヒトを含む)の骨内または骨上に移植する(埋入する)ことを意図する骨に埋入可能な医療機器は、歯の再建用アンカー、締め具、および/または骨折修復、関節置換、および骨への装着を必要とするその他の用途用のプロテーゼとして採用される。チタニアとジルコニアとは、その材料の生体適合性と新たに成長した骨の付着を受け入れられる能力とから、中でも好ましい骨に埋入可能な医療機器用の材料であることが既知であるが、ステンレス鋼合金、コバルト−クロム合金、コバルト−クロム−モリブデン合金、ジルコニアに加えてその他のセラミック、およびその他の材料を含むその他の材料も利用可能である。骨に埋入可能な医療機器は、チタニア表面(天然酸化物またはそれ以外のいずれか)を典型的には有するチタン金属(または合金)から作製されることが多い。骨に埋入可能な医療機器は、(A)一または複数の栄養材料、または(B)一または複数の骨成長刺激剤で被覆する(あるいは部分的に被覆する)ことができる。このような材料は、様々な技術によって被膜として塗布することができる。骨成長刺激剤は、埋入可能型医療機器用の被膜として外科的植込み部位に導入することができ、新たな骨成長と、その骨を機器に統合させる付着とを容易にする役目も果たすことができる。骨成長刺激剤は、栄養材料被覆の代替として、または栄養材料被膜と組み合わせて使用することができる。栄養材料は部分的に被覆されてもよく、もし表面全体に連続して被覆されたならば、消費される際に表面に露出した間隙を残すことによって、実際には細胞の接着と骨の統合を妨げる場合がある。
【0014】
さらに、このような医療機器が骨内に埋入される間、機器の表面が元からある骨にぴったりと密着して、相当の機械的摩耗および/または骨による摺擦がしばしば生じるという問題もある。たとえば、歯科用インプラント用のアンカーは、骨に開けられた穴にねじ込まれたねじ込みネジ部から成ることが多く、このネジ部は植込み中に有効にセルフタッピングネジとなって、開けられた穴内に自身のネジ山を切る。同様に、骨折を修復する、あるいは骨折を固定するプロテーゼを装着するための整形骨ネジも、外科的配置中にねじ込み面に相当の摩擦力を印加する。人工股関節プロテーゼは大腿骨の穴に挿入するためのステムを有し、外科的植込み中に開口部に強制的に打ち込まれて、挿入されたステムに摩擦力を印加する場合がある。このような手順では、植込み中の医療機器表面の攻撃的な摩擦は、摩耗を引き起こす、あるいはその他の形で、付着した骨形成誘発剤の早期除去または剥離を招きがちである。この結果、骨形成誘発被覆から得られる恩恵が低下し、インプラントと骨とが完全に統合するのに長い時間がかかることになる。統合時間が長くなると、治癒が遅れ、コストがかさみ、インプラントを受ける哺乳動物の苦痛が増す場合が多い。
【0015】
骨形成誘発剤を定着させ送達する穴または溝を有する骨に埋入可能な医療機器が既知である。この医療機器は、上述の問題のうちいくつかを解決する。しかしながら、概して、そのように送達される薬剤は十分には定着されず、最大効果を上げるために望まれるよりもずっと迅速に穴から移動または溶出することがある。この問題に対する一つの対策として、穴に薬剤を装填する前に薬剤とポリマーとを混合させていた。これにより、ポリマーが生分解する、および/または腐食されるので、薬剤の放出を遅れさせることができる。もう一つの対策としては、薬剤を装填した後に、それをポリマー層で覆う。これにより、放出を遅延または減速させることができる。いずれの場合も、意図と効果は、穴からの薬剤の溶出を遅延および/または制御して、薬剤の治療存続期間と効果を延長させることである。このポリマー技術と関連する問題はまだ数多く残っている。骨に埋入可能な医療機器の植込みに関連する機械力により、ポリマー材料は亀裂が入り易く、時には層状に剥離する。これにより、薬剤の放出速度が意図されている速度から変更され、さらに、ポリマー剥片が骨外科手術部位を通って移動し、意図せざる副作用を招く可能性がある。ポリマー自体が、適切な治癒と長期間にわたる成功を阻害しかねない有害な反応を引き起こすことを示唆する証拠がある。加えて、薬剤を十分含有するために必要なポリマーの容積により、装填可能な薬剤の全量が不所望に低減される可能性がある。
【0016】
たとえば、公開されたカークパトリックらによる米国特許出願第2009/0074834A1号(特許文献1)において、例として教示されるような既知な技術により、加工物に照射する目的でガスクラスタイオンビーム(GCIB)が生成され伝達される。この出願は、参照により本明細書中に全文が組み込まれる。
【0017】
GCIBは、ステント、人工関節(関節プロテーゼ)、およびその他の埋入可能な医療機器などの埋入可能な医療機器の表面を平滑化する、あるいは別の方法で改変するために採用されてきた。たとえば、カークパトリックらに発行された米国特許第6,676,989C1号(特許文献2)は、管状または円柱状加工物を処理するのに適したホルダまたはマニュピレータを有するGCIB処理システムを教示している。別の例では、カークパトリックらに発行された米国特許第6,491,800B2号(特許文献3)は、たとえば人工股関節などを含むその他の種類の非平面である医療機器を処理するための加工物ホルダおよびマニュピレータを有するGCIB処理システムを教示している。外科インプラントの骨内または骨上への使用の増加、骨形成誘発剤の使用の価値、および現状技術の実施に関わる問題に鑑み、骨形成誘発剤を装填することができ、植込み過程で遭遇する力と摩擦に耐性があることによって、植込み後の効果を高めるより優れた定着を提供する骨に埋入可能な医療機器を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0074834号公報
【特許文献2】米国特許公報第6,676、989号
【特許文献3】米国特許公報第6,491,800号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、骨形成誘発剤の定着が向上した表面を有する骨に埋入可能な医療機器を提供することである。
【0020】
本発明の更なる目的は、骨に埋入可能な医療機器の表面に骨形成誘発剤を付着させる、および/または定着させる方法を提供することである。
【0021】
本発明の更なる別の目的は、ガスクラスタイオンビーム技術を採用することによって、制御された放出速度または溶出速度で、ポリマーの使用に関連する不所望の効果なしに、薬剤またはその他の治療薬を穴内に定着させる骨に埋入可能な医療機器とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の概要)上述の目的、並びに更なるおよびその他の本発明の目的と利点は、後述の本発明によって達成される。
【0023】
本発明は、骨に埋入可能な医療機器上に一または複数の表面領域を形成するガスクラスタイオンビーム処理の使用に関し、その表面領域は骨の成長と接着の促進因子である材料を含む浅い層(表面に近い層、浅層)を有する。さらに、本発明は、医療機器内にたとえばBMPなどの治療薬を含有する穴を使用することにも関する。浅い表面層と穴は、骨への植込み中の摩擦および損傷に対する耐性を有する。
【0024】
高電圧により加速される電荷原子または分子である高エネルギーの従来のイオンのビームは、半導体素子の接合部をドープし、スパッタリングにより表面を平滑化し、あるいは粗くし、薄膜の特性を強化するために広く利用される。従来のイオンとは異なり、ガスクラスタイオンは、標準的な温度および圧力条件下で気体であり(ガスクラスタイオンを生成するには、たとえば、ふつうは酸素、窒素、またはアルゴンやキセノンなどの希ガスだが、任意の凝縮性ガスを使用することもできる)、共通の電荷を共有し、高い総エネルギーを有するために高電圧(およそ約3kVから70kVまたはそれ以上)により共に加速される材料の、多量の(典型的には数百から数千の分布であり、平均値は二、三千の)弱く結合された原子または分子のクラスタから形成される。ゆるく結合されるため、ガスクラスタイオンは表面への衝突時に分解し、加速されたガスクラスタイオンの総エネルギーは構成原子の間で分配される。このエネルギー分配のために、原子は個々に、ともにクラスタ化されていない従来のイオンの場合ほどのエネルギーを持たず、その結果、加速されたガスクラスタイオンの高エネルギーにもかかわらず、原子はずっと短い奥行きまでしか貫通しない。
【0025】
ガスクラスタイオン内の個々の原子のエネルギーは非常に小さく、典型的には数eVから数十eVであるため、衝突時、原子は多くともターゲットとなる面の数原子層にしか貫通しない。衝突イオンのこの浅い貫通(典型的には、ビームの加速度に応じて数ナノメートル以下から約10ナノメートル)は、クラスタイオン全体によって搬送される全エネルギーが、1マイクロ秒未満の間に極浅い表面層においてごく少量だけ消費されることを意味する。これは材料への貫通がずっと大きく、時には数百ナノメートルであり、(イオンビームエネルギーに応じて)材料の表面下深く材料を改変させる従来のイオンビームの使用とは異なる。ガスクラスタイオンの高い総エネルギーと浅い貫通による極めて少量の干渉量とにより、衝突部位での堆積エネルギー密度は、従来のイオンによる衝撃時よりもずっと大きい。したがって、金属、酸化物、またはセラミックなどの基板上のガスクラスタイオンの衝突地点では、瞬間的な(1マイクロ秒未満)高温高圧の過渡状態が生じる結果、ガスクラスタが解離し、金属、酸化物、またはセラミックの表面にあり得るたとえばHAまたはその他の骨形成誘発剤などの分子も解離する可能性がある。過渡的な極限状態は、分子解離生成物、およびおそらくは分子全体を、「注入」または「注入する」と称される工程において、分子の表面上の位置から金属、酸化物、またはセラミック基板の表面内へと追いやることができる。それにより、骨形成誘発剤の分子および/または骨形成誘発剤の分子の解離生成物は、基板の表面および浅い表面下位層の中に埋め込まれ、組み込まれるようになる。揮発性が比較的高く、化学的反応性が比較的低い解離生成物と、ガスクラスタイオンの揮発性および非反応性成分とが相当程度漏出しがちであるのに対して、揮発性が比較的低い、および/または反応性が比較的高い解離生成物は基板の非常に浅い表面層(約1から約10ナノメートルの厚さ)内に注入され(したがって、埋め込まれる、あるいは部分的に埋め込まれる)ようになる、この解離生成物の多くは、外科手術部位から基板表面と周囲材料の両方との化学反応に利用される表面において露出することによって、新たな骨成長および基板との付着を促進することができるように配置される。このような表面層は「注入面層」または「GCIB注入面層」と称される。HA(1例として)の場合、解離生成物はCa、P、O、およびH原子、並びにHA分子のより大きな断片を含むことができる。注入面はまた、GCIBクラスタの衝突作用によって最初の注入前の基板表面から改変された結晶性を有することによって、典型的にはより非結晶性の高い、または結晶性の低い構造とすることができる。
【0026】
このため、GCIBは、骨形成誘発剤の薄い被膜を有するチタニアまたはジルコニアの表面を、主にチタニアまたはジルコニアであるが、たとえばCa、P、O、およびH原子(および/またはイオン)並びにより大きな骨形成誘発剤分子の断片、およびおそらくは埋め込まれたおよび/または部分的に埋め込まれた骨形成誘発剤分子を含有する非常に薄い注入層を有する表面へと変えることができる。これらの注入生成物は、金属、酸化物、またはセラミックの基板表面下位層に最大約10ナノメートルの奥行きまで(全部および/または一部)密着して埋め込まれ、多くは表面に露出して、新たな骨成長の促進とその付着のために利用することができる。このような表面は、骨形成誘発剤を注入されたと言われる。骨形成誘発剤が注入されたチタニアまたはジルコニア表面は、特に栄養材料の場合、表面に注入される骨形成誘発剤の有益な特徴を引き継ぐ。たとえばチタニアまたはジルコニア製の外科インプラントの骨形成誘発剤が注入される面の独自の特徴とは、表面での注入生成物の可用性に加えて、相当量の最初の基板材料(たとえば、チタニアまたはジルコニア)も注入領域の表面に露出することによって、植込み部位は骨形成誘発剤およびその断片の可用性とチタニアまたはジルコニアの生体適合性の特徴の両方を享受することである。被覆されるインプラント部分を制御することによって、表面をより多くまたはより少なく処理することができる。一実施形態では、最初のチタニアまたはジルコニアの方が、骨形成誘発剤よりも多く表面に露出する。
【0027】
金属、酸化物、またはセラミック表面には任意で、BMPや抗生物質などの薬剤、または骨インプラントの効果を促進するその他の薬剤が装填される小穴を設けることもできる。
【0028】
骨形成誘発剤被膜は、たとえば超微細粒子の懸濁液の噴霧、溶液の噴霧、溶液の沈殿、浸漬、静電蒸着、超音波噴射、プラズマ噴霧、およびスパッタ被覆などを含むいくつかの方法のうちいずれかによって骨に埋入可能な医療機器に塗布することができる。被覆の際、蒸着を選択位置に限定するために、従来の遮蔽手法(マスキングスキーム)を採用することができる。約0.01から約5マイクロメートルの塗布厚さを利用することができる。
【0029】
一実施形態では、骨に埋入可能な医療機器(または骨に埋入可能な医療機器の一部)を、骨形成誘発剤被膜の塗布前にGCIB照射によって清掃することができる。
チタニアまたはジルコニアは、骨形成誘発剤で塗布された後、イオンビーム(好ましくはGCIB)照射によって処理されて骨形成誘発剤が注入される面を形成する。
【0030】
必須ではないが、チタニアまたはジルコニア表面は穴を有することができ、さらに穴に治療薬を装填することができる。穴は、二酸化チタンまたはジルコニア表面への薬剤の投与量および分布を制御するために、選択されたサイズおよびパターンを有することができる。
【0031】
本発明、並びに本発明の他のおよび更なる特徴の理解を深めるために、以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】歯科用インプラント機器の従来技術の骨に埋入可能な医療機器を示す図である。
【図2A】本発明の実施形態で採用可能な、骨形成誘発剤またはその他の薬剤を装填するための穴付きの歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2B】本発明の一実施形態に係る、表面の選択部分が骨形成誘発剤で被覆された歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2C】本発明の一実施形態に係る、歯科用インプラント機器の表面の部分にGCIB注入層を形成する際のイオンビーム照射ステップを示す図である。
【図2D】本発明の一実施形態に係る、骨形成誘発剤が注入された表面を有する歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2E】本発明の一実施形態に係る、骨形成誘発剤が一部に注入され、薬剤および/または骨形成誘発剤を装填した穴をさらに有する歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2F】本発明の一実施形態に係る、歯科用インプラント機器の穴に装填された治療薬の表面に薄い障壁層を形成する際のGCIB照射ステップを示す図である。
【図3A】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図3B】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図3C】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図3D】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を採用する骨に埋入可能な股関節プロテーゼを示す図である。
【図5】本発明に係る、様々な治療薬装填済みの穴を有する骨に埋入可能な医療機器の表面の断面図であり、本発明の多様性と柔軟性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(図面の詳細な説明)図1を参照すると、従来技術の歯科用インプラント102の形状の従来技術の骨に埋入可能な医療機器100が示されている。従来技術の歯科用インプラント102は、顎骨内の穴に挿入し移植することで、たとえば人工歯または歯科修復用の歯科補綴を装着するベースを形成するために使用される。顎骨穴を形成するには、穿孔またはその他の外科技術が典型的に採用される。従来技術の歯科用インプラント102は、歯科補綴(図示せず)の装着用の支柱110を有する。インプラント102は、ネジ部104と非ネジ部106から成る植込み部を有する。首部108は植込み部と支柱110を接続する。従来技術の歯科用インプラント102は一体であってもよいし、既知の様々な固定技術のうちのいずれかを用いて接合される二つまたはそれ以上の部材の合成物であってもよい。一般的に、植込み部の外面の材料は、大抵は金属、酸化物、またはセラミック、好ましくはチタニア(天然またはそれ以外)表面を有するチタンまたはジルコニア、の生体適合性材料である。従来技術の歯科用インプラントは多数の異なる構造で製造されるが、一般的にはどれも、穴に埋入される、あるいは別なやり方で骨に装着されることを意図した植込み部を有する。従来技術の歯科用インプラント102は、骨内の穴と密着して係合することを意図するネジ部104を有し、植込みが成功した場合は、新たな骨材の再成長によって最終的には骨と統合される。
【0034】
図2Aは、本発明の一実施形態で採用可能な歯科用インプラント202の形状の骨に埋入可能な医療機器を示す図200Aである。歯科用インプラント202は、従来技術の歯科用インプラント102(図1に示す)の改良形である。図2Aを再度参照すると、歯科用インプラント202の植込み部は好ましくはチタニアの表面を有し、複数の穴(符号204で示してあるが、すべての穴に符号を付しているわけではない)を有する。本発明を説明するために特定のパターンで示しているが、この特定パターンは本発明に必須ではなく、多くの様々なパターンが本発明の各種実施形態で採用可能であると理解される。歯科用インプラント202と穴204との相対的サイズは、必ずしも一律の縮尺に従っていない。穴は広範なサイズまたは形状を取ることができる。穴204は様々な技術によって形成可能であるが、高精度で制御可能で小さく深い穴を生成することができるため、レーザ加工や集束イオンビームの方法が好ましい。穴204はたとえば直径(または幅)が約50マイクロメートルから約500マイクロメートルとし、約0.5から約10またはさらにそれ以上のアスペクト比(奥行きに対する直径または幅)を取ることができる。穴204の形状は図2に示されるように円形であっても、溝、深い溝、その他の形状、または組み合わせであってもよい。穴204は、異なる容積を持つように、様々な異なる直径(または幅)とアスペクト比、および(溝の場合)長さと形状を有することができる。穴204はこの工程ステップでは空であり、BMPおよび/または抗生物質、抗炎症剤などの一または複数の治療薬を保持するために設けられる。
【0035】
図2Bは、本発明の一実施形態に係る追加処理後の歯科用インプラント202を示す図200Bである。歯科用インプラントの表面の一部が、たとえばHAなどの骨形成誘発剤で被覆されて示されている。被覆された面部210(図では粗い点描で示される)はこの場合、歯科用インプラント202の植込み部の表面に相当するが、代替的に歯科用インプラント202の植込み部の一または複数の小さな領域が被覆され、その他の領域が未被覆であってもよい。骨形成誘発剤被膜は、たとえば超微細粒子の噴霧または懸濁、溶液からの沈殿、浸漬、静電蒸着、超音波噴射、プラズマ噴霧、およびスパッタ被覆などを含むいくつかの方法のうちいずれかにより塗布することができる。被覆中、蒸着を選択位置に限定するために従来の遮蔽手法を採用することができる。好ましくは約0.01から約5マイクロメートルの被覆厚さを利用することができる。工程中のこのステップでは、骨形成誘発剤の被膜はまだ上述した問題に影響され易い。つまり、植込みによって骨へ機械的応力が印加される間、摩擦で除去される、あるいは別の方法で不所望に除去される可能性がある。
【0036】
図2Cは、表面の一部を骨形成誘発剤で被覆した後の歯科用インプラント202を示す図200Cである。歯科用インプラント202の被覆された面部210を照射して、被覆された面部210が予めどこに存在していようと、歯科用インプラント202の植込み部の好ましくはチタニアまたはジルコニア表面に薄い骨形成誘発剤が注入される層を形成するため、イオンビーム、好ましくはGCIB220が現在採用されている。しかしながら、何らかの理由で、骨形成誘発剤が被覆された面の任意の部分に骨形成誘発剤が注入された層を形成するのが望ましくない場合、照射を選択位置に限定するように、従来のマスキングスキームまたはGCIB220の制御方向を採用することができる。注入層はたとえばHA注入層として説明したが、被覆された面部210の形成に異なる骨形成誘発剤が使用される場合、注入層は異なる薬剤の注入層となることが容易に理解される。骨形成誘発剤を歯科用インプラント202の表面に注入する際、好ましくはアルゴンクラスタイオンまたは酸素クラスタイオンを備えるGCIB220を採用することができる。GCIB220は、5kVから70kVまたはそれ以上の加速電位で加速させることができる。被膜には、1平方センチメートル当たり少なくとも約1×1014のガスクラスタイオンのGCIB線量を被曝させることができる。GCIB照射ステップは、およそ約1から約10ナノメートルの厚さのチタニアまたはジルコニアの近接した表面の中に骨形成誘発剤が注入された層を生成する。イオンビーム照射を実行する間、所望のイオン線量が被覆された面部210全体で確実に達成されるように、歯科用インプラント202を照射中の回転運動222で歯科用インプラント202の軸を中心に回転させることが好ましい。カークパトリックらに発行された米国特許第6,676,989C1号は、血管ステントなどの環状または円柱状加工物の回転処理に適した保持具およびマニピュレータを有するGCIB処理システムを教示しており、ルーチンの適応で、このシステムは本発明に必要な回転照射を実行することができる。場合によっては、従来のGCIB照射の単独塗布で実行されるよりも大量の骨形成誘発剤を注入することが望ましいかもしれない。このような場合、(a)歯科用インプラント202の所望領域を骨形成誘発剤で被覆するステップと、(b)図2Bおよび2Cの記載において(本明細書で説明される技術を用いて)被覆領域にGCIBを照射して追加の骨形成誘発剤を注入するステップと、を(1回またはそれ以上の回数)繰り返すことが本発明の範囲に含まれる。
【0037】
図2Dは、HA注入ステップ後の歯科用インプラント202を示す図200Dである。本発明の一実施形態によると、骨形成誘発剤が被覆された部分は骨形成誘発剤が注入された表面領域230に完全に変換されている。
【0038】
図2Eは、骨形成誘発剤が注入された表面領域を有する歯科用インプラント202を示す図200Eである。このステップで、穴204(図2Aに示す)には既に治療材料が装填されており、装填済みの穴240(再度図2Eを参照)を形成している。治療材料の装填は、噴霧、浸漬、ワイピング、静電蒸着、超音波噴射、蒸気溶着、または要求に応じた個別の液滴噴射技術などの多数の方法のうちいずれかによって実行することができる。噴霧、浸漬、ワイピング、静電蒸着、超音波噴射、蒸気溶着、または類似の技術が採用される際、歯科用インプラント202の一つの穴あるいはいくつかまたはすべての穴に蒸着を制限するために、従来の遮蔽手法を有効に採用することができる。液体や溶液の場合、正確な容積の液体材料または溶液を正確にプログラムされた位置に導入することができるので、要求に応じた個別の液滴噴射が好ましい蒸着方法である。要求に応じた個別の液滴噴射は、(たとえば、限定的でなく)テキサス州プレーノーのMicroFab Technologies社製の市販の液体噴射プリントヘッド噴射装置を用いて達成することができる。治療材料が液体、懸濁液、または溶液である場合、好ましくは次のステップに進む前に乾燥させるか、あるいは別な方法で硬化させる。乾燥または硬化ステップは、例として焼成、低温焼成、または真空蒸発などを備えることができる。
【0039】
図2Fは、歯科用インプラント202の穴に装填された治療薬の表面に薄い障壁層を形成する際のイオン照射ステップを示す図200Fである。イオンビーム、好ましくはGCIB250は、現在、歯科用インプラント202の装填済みの穴240(図2Eを参照)の治療薬の表面に照射して、治療薬の表面に薄い障壁層を形成し、露出面に薄い障壁層254を有する装填済みの穴を形成するために採用されている。GCIB250は、治療薬の薄い上部領域を改変させることによって、穴内の治療薬の表面に薄い障壁層を形成する。薄い障壁層は、治療材料の薄い最上層における治療材料の分子を高密度化する、炭化する、もしくは部分的に炭化する、変性させる、架橋する、または重合するように改変された治療薬から成る。薄い障壁層は、およそ約10ナノメートルまたはそれ未満の厚さを有していてもよい。薄い障壁層およびその形成工程の更なる詳細は、図3Cおよび3Dを参照して以下説明する。
【0040】
図3A、3B、3C、および3Dは、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、GCIB照射を用いて治療薬の定着および溶出を制御する薄い障壁層をこの穴の上に形成するステップの詳細を示す。
【0041】
図3Aは、歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300A(図2Dに示される段階、すなわち、本発明に係る骨形成誘発剤が注入された表面領域を有する段階を示す)であり、表面302は骨形成誘発剤が注入された表面領域の一部を表す。再度図3Aを参照すると、歯科用インプラント202の表面302の部分304は、直径306と奥行き308の穴204を有する。この例では、穴204は略円柱状の穴を表すことを意図するが、上述したように、穴の他の構造も本発明の範囲にあると予測され、穴の円柱形状は本発明を限定することを意図しておらず、本発明を明確に説明することを目的とする。穴204は治療薬を装填するための準備段階にある。
【0042】
図3Bは、骨形成誘発剤が注入された表面領域を有する歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300Bである。この段階で、穴204には治療薬310が装填されており、図2Eの装填済みの穴に相当する装填済みの穴240を形成する。
【0043】
図3Cは、骨形成誘発剤が注入された表面領域と治療薬310を装填された装填済みの穴240とを有する歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300Cである。イオンビーム、好ましくはGCIB250が、治療薬310の表面の最上部を改変させて障壁層を形成するために治療薬310の表面に向けられる。治療薬310はGCIB250によって照射されて、治療薬310の表面の薄い上部領域を改変させる。表面を改変する際、好ましくはアルゴンクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを備えるGCIB250を採用することもできる。GCIB250は、5kVから50kVまたはそれ以上の加速電位で加速させることができる。治療薬310の上面は、1平方センチメートル当たり少なくとも約1×1013のガスクラスタイオンのGCIB線量を被曝させることができる。
【0044】
図3Dは、骨形成誘発剤が注入された表面領域と治療薬310を装填された穴254とを有し、治療薬310の最も上部の面のイオン照射によって穴254の上に薄い障壁層320が形成された歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300Dである。薄い障壁層320は治療薬310の薄い最上層における治療薬の分子を高密度化、炭化若しくは部分的な炭化、変性、架橋、または重合するように改変された治療薬310からなる。薄い障壁層320は、およそ約10ナノメートルまたはそれ未満の厚さを有することができる。GCIB250(図2Fおよび3C)の線量および/または加速電位を選択することによって、歯科用インプラント202が骨に埋入される際の水および/またはその他の生体液の溶出速度および/または内部への拡散速度を制御できるように、薄い障壁層320の特性を調節することができる。概して、加速電位が上昇すると、形成される薄い障壁層の厚さが増加し、GCIBの線量を変化させると、その結果生じる架橋、高密度化、炭化、変性、および/または重合の変化の程度によって薄い障壁層の性質が変化する。これは、その後、治療薬310が障壁を通じて放出または溶出する速度、および/または、水および/または生体液が歯科用インプラント202の外部から薬物内に拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0045】
図4は、大腿骨球の置換用の人工股関節プロテーゼ400の形状の骨に埋入可能な医療機器を示す。プロテーゼ400は、天然関節の球部と置換する球402を有し、大腿骨に挿入し統合させるステム404を有する。本発明によると、ステム404の表面の部分408は、骨形成誘発剤被覆によって骨形成誘発剤が注入された後、イオン照射(好ましくはGCIB照射)されており、イオン照射された(好ましくはGCIB照射された)治療薬を充填されて治療薬の溶出速度の制御のために薄い障壁層を形成する穴406のパターンを有する。
【0046】
図5は、本発明の多様性と柔軟性を指摘するために示された様々な治療薬装填済みの穴706、708、710、712、および714を有する骨に埋入可能な医療機器の部分702の表面704の断面図700である。骨に埋入可能な医療機器は、たとえば歯科用インプラント、骨ネジ、人工関節プロテーゼ、またはその他の骨に埋入可能な医療機器のうちいずれであってもよい。すべての穴は、各穴内の治療薬の一または複数の層上に本発明によって形成される薄い障壁層740を有する。簡潔にするため、図5の薄い障壁層のすべてに参照符号を付しているわけではなく、薄い障壁層740で覆われる第一の治療薬736を含有する穴714が図示されている(穴714内の薄い障壁層740のみに参照符号が付されているが、図5の斜線の引かれた領域はそれぞれ薄い障壁層を示し、すべてが以後参照符号740で称される)。穴706は、薄い障壁層740に覆われる第二の治療薬716を含有する。穴708は、薄い障壁層740に覆われる第三の治療薬720を含有する。穴710は、薄い障壁層740に覆われる第四の治療薬738を含有する。穴712は、それぞれが薄い障壁層740に覆われる第五、第六、および第七の治療薬728、726、および724を含有する。各治療薬716、720、724、726、728、736、および738はそれぞれ、異なるまたは同一の各種組み合わせにおいて、異なる治療薬材料であってもよいし、同一の治療薬材料であってもよい。薄い障壁層740はそれぞれ、上述のイオンビーム処理(好ましくはGCIB処理)原則に従い、水またはその他の生体液の溶出速度または放出速度を制御する、および/または内部への拡散速度を制御するための同一または異なる特性を有することができる。穴706および708は同一の幅および充填奥行き718を有するため、同じ容積の治療薬を保持するが、治療薬716および720は異なる治療モードのために異なる治療薬であってもよい。穴706および708にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴706および708に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性のいずれかを有することができる。穴708および710は同じ幅を有するが、充填奥行き718および722がそれぞれ異なるので、異なる用量に対応する異なる装填量の治療薬を含有する。穴708および710にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および710に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性のいずれかを有することができる。穴710および712は同じ幅730を有し、同じ充填奥行き722を有するので、同じ総装填量の治療薬を含有するが、穴710が単層の治療薬738を充填されている一方、穴712は複数層の治療薬724、726、および728を充填されており、それらの治療薬はそれぞれ同一または異なる用量を表す同一または異なる容積の治療薬であってもよく、さらには異なる治療モードそれぞれのために異なる治療薬材料であってもよい。穴710および712に関する各薄い障壁層740は、穴に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性を有することができる。穴708および714は同じ充填奥行き718を有するが、異なる幅を有するので、異なる容積および用量の治療薬720および736を含有する。穴708および714にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および714に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性のいずれかを有することができる。埋入可能な医療機器の表面704上の穴全体のパターン(サイズ、形状、および位置)および穴732間の間隔はさらに、埋入可能な医療機器の表面全体にわたる治療薬用量の分布を制御するように選択することができる。よって、本発明の適用において、本発明の骨に埋入可能な医療機器に含有される治療薬の種類と用量、用量の分布、放出の順序、および放出速度を制御するうえで柔軟な選択肢が多数ある。
【0047】
本発明は例示のHA注入層の形成に関して説明してきたが、その他の骨形成誘発剤も同様に、本発明の範囲内において注入層を形成する際に十分採用することができると理解される。本発明は(チタニア表面を有する)チタンとジルコニアの歯科用インプラントへの適用に関して特に説明してきたが、本発明の範囲は、幅広い様々なその他の材料で構成される骨に埋入可能な医療機器を含むと理解される。本発明は各種実施形態と骨に埋入可能な医療機器(歯科用インプラント、人工関節など)の分野における用途に関して説明してきたが、その用途はその分野に限定されず、表面被覆材料を、それらが存在する表面へGCIB注入するというコンセプトは、当業者にとって自明なより広い分野に適用されると本発明者によって理解される。本発明はまた、本発明および添付の特許請求の範囲の精神および範囲に属する広範な追加のおよびその他の実施形態を可能とすると理解すべきである。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)本願は、2008年8月7日に提出された米国仮特許出願第61/086,986号から優先権を主張し、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)本発明は概して、哺乳動物の骨内または骨上への移植(骨内または骨上への埋入、骨インプラント)用の移植型医療機器、およびその移植型医療機器の製造方法に関する。特に、本発明は、好ましくは、チタン(チタニアの表面を有する)またはジルコニアであり、その表面の少なくとも一部分が骨とより統合され易いように改変された生体適合性材料製の埋入可能な医療機器に関する。さらに、本発明は、イオンビーム技術、好ましくは、ガスクラスタイオンビーム技術の使用を含むインプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書で使用される際、「チタニア」という用語は、チタンの酸化物、およびチタン元素を備える天然酸化物またはその他の酸化物(TiO2および または不完全な化学量論組成のTiO2を制限なく含む)の表面被覆を伴うチタン金属自体(またはチタン合金)を含むことを意図する。
【0004】
本明細書で使用される際、「ジルコニア」という用語は、(骨インプラントで使用するために強靭化される際に処理済みの、あるいは未処理の)様々な形態のいずれかにおける二酸化ジルコニウム(不完全な化学量論的組成であっても)、および少なくとも50%の二酸化ジルコニウムである材料またはセラミックを意味することを意図する。
【0005】
本明細書で使用される際、「リン酸三カルシウム」という用語は、βリン酸三カルシウムを制限なく含むことを意図する。
【0006】
本明細書で使用される際、「栄養材料」という用語は、局所的栄養源を提供することによって、骨芽細胞が成長し、表面に骨成分を生成するのを促す任意の材料を含むことを意図する。栄養材料はたとえば、ヒドロキシアパタイト[Ca5(PO4)3(OH)]x(HA)もしくはリン酸三カルシウムCa3(PO4)2(TCP)などのリン酸カルシウム含有材料、またはその他のバイオガラス45S5およびバイオガラス58Sを含む天然骨成分に類似する組成の鉱物もしくは化合物、または上記に関連するが不完全な化学量論組成を有する化合物、その他のCa、Ca++、P、O、PO4、もしくはP2O5のその他の源、またはCa、P、O、およびH原子、並びにより大きなHAもしくはTCP分子の断片を含む分子解離生成物などを含むがそれらに限定されない。
【0007】
本明細書で使用される際、「BMP」という用語は、骨に埋入可能な医療機器と接触して、あるいは近接して塗布される際に新たな骨の成長の形成および/または付着を促進するのに役立つ任意の骨形態形成タンパク質を含むことを意図する。
【0008】
本明細書で使用される際、「骨成長刺激剤」という用語は、成熟した骨芽細胞の発育および機能維持を誘導し促進する任意の材料を含むことを意図する。骨成長刺激剤は、あらゆる骨形態形成タンパク質(BMP)を含む形質転換成長因子β(TGF−β)のタンパク質スーパーファミリーのメンバーや反発誘導分子(RGM)タンパク質ファミリーのメンバーを含むグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー(GPIアンカー)シグナルタンパク質のメンバーなどの、成長因子やサイトカインなど、およびその他の増殖調整タンパク質を含むがそれらに限定されない。
【0009】
本明細書で使用される際、「骨形成誘発剤」という用語は、栄養材料および/または骨成長刺激剤を意味することを意図する。
【0010】
本明細書で使用される際、「穴」という用語は、骨に埋入可能な医療機器の表面を貫通するあらゆる穴、空洞、窪み、凹所、深い溝、または凹みを意味することを意図し、機器の一部分を貫通してもよいし(貫通穴)、または機器の一部のみを通ってもよく(止まり穴または空洞)、略円柱状、矩形、もしくはその他の任意の形状を取ることができる。
【0011】
本明細書で使用される際、「骨に埋入可能な(移植可能な)医療機器」という用語は、骨に装着する歯科用インプラント、骨ネジ、インターフェアランススクリュー(人工人体の固定器具)、ボタン、人工関節プロテーゼ(たとえば、大腿骨のボールプロテーゼまたは寛骨臼カッププロテーゼ)、および骨内のインプラント、プロテーゼおよび支持材または骨とインプラントとの統合を要するあらゆるインプラント、および靭帯、腱、回旋筋腱板などの軟骨組織を骨組織に固着させるセラミック、ポリマー、金属、または混成材料を限定なく含むことを意図する。
【0012】
本明細書で使用される際、「治療薬」という用語は、薬物、薬剤、抗生物質、抗炎症剤、骨形成誘発剤、BMP、または概して有益に生理活性であるその他の物質を意味することを意図する。
【0013】
哺乳動物(ヒトを含む)の骨内または骨上に移植する(埋入する)ことを意図する骨に埋入可能な医療機器は、歯の再建用アンカー、締め具、および/または骨折修復、関節置換、および骨への装着を必要とするその他の用途用のプロテーゼとして採用される。チタニアとジルコニアとは、その材料の生体適合性と新たに成長した骨の付着を受け入れられる能力とから、中でも好ましい骨に埋入可能な医療機器用の材料であることが既知であるが、ステンレス鋼合金、コバルト−クロム合金、コバルト−クロム−モリブデン合金、ジルコニアに加えてその他のセラミック、およびその他の材料を含むその他の材料も利用可能である。骨に埋入可能な医療機器は、チタニア表面(天然酸化物またはそれ以外のいずれか)を典型的には有するチタン金属(または合金)から作製されることが多い。骨に埋入可能な医療機器は、(A)一または複数の栄養材料、または(B)一または複数の骨成長刺激剤で被覆する(あるいは部分的に被覆する)ことができる。このような材料は、様々な技術によって被膜として塗布することができる。骨成長刺激剤は、埋入可能型医療機器用の被膜として外科的植込み部位に導入することができ、新たな骨成長と、その骨を機器に統合させる付着とを容易にする役目も果たすことができる。骨成長刺激剤は、栄養材料被覆の代替として、または栄養材料被膜と組み合わせて使用することができる。栄養材料は部分的に被覆されてもよく、もし表面全体に連続して被覆されたならば、消費される際に表面に露出した間隙を残すことによって、実際には細胞の接着と骨の統合を妨げる場合がある。
【0014】
さらに、このような医療機器が骨内に埋入される間、機器の表面が元からある骨にぴったりと密着して、相当の機械的摩耗および/または骨による摺擦がしばしば生じるという問題もある。たとえば、歯科用インプラント用のアンカーは、骨に開けられた穴にねじ込まれたねじ込みネジ部から成ることが多く、このネジ部は植込み中に有効にセルフタッピングネジとなって、開けられた穴内に自身のネジ山を切る。同様に、骨折を修復する、あるいは骨折を固定するプロテーゼを装着するための整形骨ネジも、外科的配置中にねじ込み面に相当の摩擦力を印加する。人工股関節プロテーゼは大腿骨の穴に挿入するためのステムを有し、外科的植込み中に開口部に強制的に打ち込まれて、挿入されたステムに摩擦力を印加する場合がある。このような手順では、植込み中の医療機器表面の攻撃的な摩擦は、摩耗を引き起こす、あるいはその他の形で、付着した骨形成誘発剤の早期除去または剥離を招きがちである。この結果、骨形成誘発被覆から得られる恩恵が低下し、インプラントと骨とが完全に統合するのに長い時間がかかることになる。統合時間が長くなると、治癒が遅れ、コストがかさみ、インプラントを受ける哺乳動物の苦痛が増す場合が多い。
【0015】
骨形成誘発剤を定着させ送達する穴または溝を有する骨に埋入可能な医療機器が既知である。この医療機器は、上述の問題のうちいくつかを解決する。しかしながら、概して、そのように送達される薬剤は十分には定着されず、最大効果を上げるために望まれるよりもずっと迅速に穴から移動または溶出することがある。この問題に対する一つの対策として、穴に薬剤を装填する前に薬剤とポリマーとを混合させていた。これにより、ポリマーが生分解する、および/または腐食されるので、薬剤の放出を遅れさせることができる。もう一つの対策としては、薬剤を装填した後に、それをポリマー層で覆う。これにより、放出を遅延または減速させることができる。いずれの場合も、意図と効果は、穴からの薬剤の溶出を遅延および/または制御して、薬剤の治療存続期間と効果を延長させることである。このポリマー技術と関連する問題はまだ数多く残っている。骨に埋入可能な医療機器の植込みに関連する機械力により、ポリマー材料は亀裂が入り易く、時には層状に剥離する。これにより、薬剤の放出速度が意図されている速度から変更され、さらに、ポリマー剥片が骨外科手術部位を通って移動し、意図せざる副作用を招く可能性がある。ポリマー自体が、適切な治癒と長期間にわたる成功を阻害しかねない有害な反応を引き起こすことを示唆する証拠がある。加えて、薬剤を十分含有するために必要なポリマーの容積により、装填可能な薬剤の全量が不所望に低減される可能性がある。
【0016】
たとえば、公開されたカークパトリックらによる米国特許出願第2009/0074834A1号(特許文献1)において、例として教示されるような既知な技術により、加工物に照射する目的でガスクラスタイオンビーム(GCIB)が生成され伝達される。この出願は、参照により本明細書中に全文が組み込まれる。
【0017】
GCIBは、ステント、人工関節(関節プロテーゼ)、およびその他の埋入可能な医療機器などの埋入可能な医療機器の表面を平滑化する、あるいは別の方法で改変するために採用されてきた。たとえば、カークパトリックらに発行された米国特許第6,676,989C1号(特許文献2)は、管状または円柱状加工物を処理するのに適したホルダまたはマニュピレータを有するGCIB処理システムを教示している。別の例では、カークパトリックらに発行された米国特許第6,491,800B2号(特許文献3)は、たとえば人工股関節などを含むその他の種類の非平面である医療機器を処理するための加工物ホルダおよびマニュピレータを有するGCIB処理システムを教示している。外科インプラントの骨内または骨上への使用の増加、骨形成誘発剤の使用の価値、および現状技術の実施に関わる問題に鑑み、骨形成誘発剤を装填することができ、植込み過程で遭遇する力と摩擦に耐性があることによって、植込み後の効果を高めるより優れた定着を提供する骨に埋入可能な医療機器を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0074834号公報
【特許文献2】米国特許公報第6,676、989号
【特許文献3】米国特許公報第6,491,800号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、骨形成誘発剤の定着が向上した表面を有する骨に埋入可能な医療機器を提供することである。
【0020】
本発明の更なる目的は、骨に埋入可能な医療機器の表面に骨形成誘発剤を付着させる、および/または定着させる方法を提供することである。
【0021】
本発明の更なる別の目的は、ガスクラスタイオンビーム技術を採用することによって、制御された放出速度または溶出速度で、ポリマーの使用に関連する不所望の効果なしに、薬剤またはその他の治療薬を穴内に定着させる骨に埋入可能な医療機器とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の概要)上述の目的、並びに更なるおよびその他の本発明の目的と利点は、後述の本発明によって達成される。
【0023】
本発明は、骨に埋入可能な医療機器上に一または複数の表面領域を形成するガスクラスタイオンビーム処理の使用に関し、その表面領域は骨の成長と接着の促進因子である材料を含む浅い層(表面に近い層、浅層)を有する。さらに、本発明は、医療機器内にたとえばBMPなどの治療薬を含有する穴を使用することにも関する。浅い表面層と穴は、骨への植込み中の摩擦および損傷に対する耐性を有する。
【0024】
高電圧により加速される電荷原子または分子である高エネルギーの従来のイオンのビームは、半導体素子の接合部をドープし、スパッタリングにより表面を平滑化し、あるいは粗くし、薄膜の特性を強化するために広く利用される。従来のイオンとは異なり、ガスクラスタイオンは、標準的な温度および圧力条件下で気体であり(ガスクラスタイオンを生成するには、たとえば、ふつうは酸素、窒素、またはアルゴンやキセノンなどの希ガスだが、任意の凝縮性ガスを使用することもできる)、共通の電荷を共有し、高い総エネルギーを有するために高電圧(およそ約3kVから70kVまたはそれ以上)により共に加速される材料の、多量の(典型的には数百から数千の分布であり、平均値は二、三千の)弱く結合された原子または分子のクラスタから形成される。ゆるく結合されるため、ガスクラスタイオンは表面への衝突時に分解し、加速されたガスクラスタイオンの総エネルギーは構成原子の間で分配される。このエネルギー分配のために、原子は個々に、ともにクラスタ化されていない従来のイオンの場合ほどのエネルギーを持たず、その結果、加速されたガスクラスタイオンの高エネルギーにもかかわらず、原子はずっと短い奥行きまでしか貫通しない。
【0025】
ガスクラスタイオン内の個々の原子のエネルギーは非常に小さく、典型的には数eVから数十eVであるため、衝突時、原子は多くともターゲットとなる面の数原子層にしか貫通しない。衝突イオンのこの浅い貫通(典型的には、ビームの加速度に応じて数ナノメートル以下から約10ナノメートル)は、クラスタイオン全体によって搬送される全エネルギーが、1マイクロ秒未満の間に極浅い表面層においてごく少量だけ消費されることを意味する。これは材料への貫通がずっと大きく、時には数百ナノメートルであり、(イオンビームエネルギーに応じて)材料の表面下深く材料を改変させる従来のイオンビームの使用とは異なる。ガスクラスタイオンの高い総エネルギーと浅い貫通による極めて少量の干渉量とにより、衝突部位での堆積エネルギー密度は、従来のイオンによる衝撃時よりもずっと大きい。したがって、金属、酸化物、またはセラミックなどの基板上のガスクラスタイオンの衝突地点では、瞬間的な(1マイクロ秒未満)高温高圧の過渡状態が生じる結果、ガスクラスタが解離し、金属、酸化物、またはセラミックの表面にあり得るたとえばHAまたはその他の骨形成誘発剤などの分子も解離する可能性がある。過渡的な極限状態は、分子解離生成物、およびおそらくは分子全体を、「注入」または「注入する」と称される工程において、分子の表面上の位置から金属、酸化物、またはセラミック基板の表面内へと追いやることができる。それにより、骨形成誘発剤の分子および/または骨形成誘発剤の分子の解離生成物は、基板の表面および浅い表面下位層の中に埋め込まれ、組み込まれるようになる。揮発性が比較的高く、化学的反応性が比較的低い解離生成物と、ガスクラスタイオンの揮発性および非反応性成分とが相当程度漏出しがちであるのに対して、揮発性が比較的低い、および/または反応性が比較的高い解離生成物は基板の非常に浅い表面層(約1から約10ナノメートルの厚さ)内に注入され(したがって、埋め込まれる、あるいは部分的に埋め込まれる)ようになる、この解離生成物の多くは、外科手術部位から基板表面と周囲材料の両方との化学反応に利用される表面において露出することによって、新たな骨成長および基板との付着を促進することができるように配置される。このような表面層は「注入面層」または「GCIB注入面層」と称される。HA(1例として)の場合、解離生成物はCa、P、O、およびH原子、並びにHA分子のより大きな断片を含むことができる。注入面はまた、GCIBクラスタの衝突作用によって最初の注入前の基板表面から改変された結晶性を有することによって、典型的にはより非結晶性の高い、または結晶性の低い構造とすることができる。
【0026】
このため、GCIBは、骨形成誘発剤の薄い被膜を有するチタニアまたはジルコニアの表面を、主にチタニアまたはジルコニアであるが、たとえばCa、P、O、およびH原子(および/またはイオン)並びにより大きな骨形成誘発剤分子の断片、およびおそらくは埋め込まれたおよび/または部分的に埋め込まれた骨形成誘発剤分子を含有する非常に薄い注入層を有する表面へと変えることができる。これらの注入生成物は、金属、酸化物、またはセラミックの基板表面下位層に最大約10ナノメートルの奥行きまで(全部および/または一部)密着して埋め込まれ、多くは表面に露出して、新たな骨成長の促進とその付着のために利用することができる。このような表面は、骨形成誘発剤を注入されたと言われる。骨形成誘発剤が注入されたチタニアまたはジルコニア表面は、特に栄養材料の場合、表面に注入される骨形成誘発剤の有益な特徴を引き継ぐ。たとえばチタニアまたはジルコニア製の外科インプラントの骨形成誘発剤が注入される面の独自の特徴とは、表面での注入生成物の可用性に加えて、相当量の最初の基板材料(たとえば、チタニアまたはジルコニア)も注入領域の表面に露出することによって、植込み部位は骨形成誘発剤およびその断片の可用性とチタニアまたはジルコニアの生体適合性の特徴の両方を享受することである。被覆されるインプラント部分を制御することによって、表面をより多くまたはより少なく処理することができる。一実施形態では、最初のチタニアまたはジルコニアの方が、骨形成誘発剤よりも多く表面に露出する。
【0027】
金属、酸化物、またはセラミック表面には任意で、BMPや抗生物質などの薬剤、または骨インプラントの効果を促進するその他の薬剤が装填される小穴を設けることもできる。
【0028】
骨形成誘発剤被膜は、たとえば超微細粒子の懸濁液の噴霧、溶液の噴霧、溶液の沈殿、浸漬、静電蒸着、超音波噴射、プラズマ噴霧、およびスパッタ被覆などを含むいくつかの方法のうちいずれかによって骨に埋入可能な医療機器に塗布することができる。被覆の際、蒸着を選択位置に限定するために、従来の遮蔽手法(マスキングスキーム)を採用することができる。約0.01から約5マイクロメートルの塗布厚さを利用することができる。
【0029】
一実施形態では、骨に埋入可能な医療機器(または骨に埋入可能な医療機器の一部)を、骨形成誘発剤被膜の塗布前にGCIB照射によって清掃することができる。
チタニアまたはジルコニアは、骨形成誘発剤で塗布された後、イオンビーム(好ましくはGCIB)照射によって処理されて骨形成誘発剤が注入される面を形成する。
【0030】
必須ではないが、チタニアまたはジルコニア表面は穴を有することができ、さらに穴に治療薬を装填することができる。穴は、二酸化チタンまたはジルコニア表面への薬剤の投与量および分布を制御するために、選択されたサイズおよびパターンを有することができる。
【0031】
本発明、並びに本発明の他のおよび更なる特徴の理解を深めるために、以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】歯科用インプラント機器の従来技術の骨に埋入可能な医療機器を示す図である。
【図2A】本発明の実施形態で採用可能な、骨形成誘発剤またはその他の薬剤を装填するための穴付きの歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2B】本発明の一実施形態に係る、表面の選択部分が骨形成誘発剤で被覆された歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2C】本発明の一実施形態に係る、歯科用インプラント機器の表面の部分にGCIB注入層を形成する際のイオンビーム照射ステップを示す図である。
【図2D】本発明の一実施形態に係る、骨形成誘発剤が注入された表面を有する歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2E】本発明の一実施形態に係る、骨形成誘発剤が一部に注入され、薬剤および/または骨形成誘発剤を装填した穴をさらに有する歯科用インプラント機器を示す図である。
【図2F】本発明の一実施形態に係る、歯科用インプラント機器の穴に装填された治療薬の表面に薄い障壁層を形成する際のGCIB照射ステップを示す図である。
【図3A】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図3B】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図3C】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図3D】本発明の実施形態に係る、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、イオンビーム照射を用いて骨に埋入可能な医療機器の穴上に薄い障壁層を形成するステップの詳細を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を採用する骨に埋入可能な股関節プロテーゼを示す図である。
【図5】本発明に係る、様々な治療薬装填済みの穴を有する骨に埋入可能な医療機器の表面の断面図であり、本発明の多様性と柔軟性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(図面の詳細な説明)図1を参照すると、従来技術の歯科用インプラント102の形状の従来技術の骨に埋入可能な医療機器100が示されている。従来技術の歯科用インプラント102は、顎骨内の穴に挿入し移植することで、たとえば人工歯または歯科修復用の歯科補綴を装着するベースを形成するために使用される。顎骨穴を形成するには、穿孔またはその他の外科技術が典型的に採用される。従来技術の歯科用インプラント102は、歯科補綴(図示せず)の装着用の支柱110を有する。インプラント102は、ネジ部104と非ネジ部106から成る植込み部を有する。首部108は植込み部と支柱110を接続する。従来技術の歯科用インプラント102は一体であってもよいし、既知の様々な固定技術のうちのいずれかを用いて接合される二つまたはそれ以上の部材の合成物であってもよい。一般的に、植込み部の外面の材料は、大抵は金属、酸化物、またはセラミック、好ましくはチタニア(天然またはそれ以外)表面を有するチタンまたはジルコニア、の生体適合性材料である。従来技術の歯科用インプラントは多数の異なる構造で製造されるが、一般的にはどれも、穴に埋入される、あるいは別なやり方で骨に装着されることを意図した植込み部を有する。従来技術の歯科用インプラント102は、骨内の穴と密着して係合することを意図するネジ部104を有し、植込みが成功した場合は、新たな骨材の再成長によって最終的には骨と統合される。
【0034】
図2Aは、本発明の一実施形態で採用可能な歯科用インプラント202の形状の骨に埋入可能な医療機器を示す図200Aである。歯科用インプラント202は、従来技術の歯科用インプラント102(図1に示す)の改良形である。図2Aを再度参照すると、歯科用インプラント202の植込み部は好ましくはチタニアの表面を有し、複数の穴(符号204で示してあるが、すべての穴に符号を付しているわけではない)を有する。本発明を説明するために特定のパターンで示しているが、この特定パターンは本発明に必須ではなく、多くの様々なパターンが本発明の各種実施形態で採用可能であると理解される。歯科用インプラント202と穴204との相対的サイズは、必ずしも一律の縮尺に従っていない。穴は広範なサイズまたは形状を取ることができる。穴204は様々な技術によって形成可能であるが、高精度で制御可能で小さく深い穴を生成することができるため、レーザ加工や集束イオンビームの方法が好ましい。穴204はたとえば直径(または幅)が約50マイクロメートルから約500マイクロメートルとし、約0.5から約10またはさらにそれ以上のアスペクト比(奥行きに対する直径または幅)を取ることができる。穴204の形状は図2に示されるように円形であっても、溝、深い溝、その他の形状、または組み合わせであってもよい。穴204は、異なる容積を持つように、様々な異なる直径(または幅)とアスペクト比、および(溝の場合)長さと形状を有することができる。穴204はこの工程ステップでは空であり、BMPおよび/または抗生物質、抗炎症剤などの一または複数の治療薬を保持するために設けられる。
【0035】
図2Bは、本発明の一実施形態に係る追加処理後の歯科用インプラント202を示す図200Bである。歯科用インプラントの表面の一部が、たとえばHAなどの骨形成誘発剤で被覆されて示されている。被覆された面部210(図では粗い点描で示される)はこの場合、歯科用インプラント202の植込み部の表面に相当するが、代替的に歯科用インプラント202の植込み部の一または複数の小さな領域が被覆され、その他の領域が未被覆であってもよい。骨形成誘発剤被膜は、たとえば超微細粒子の噴霧または懸濁、溶液からの沈殿、浸漬、静電蒸着、超音波噴射、プラズマ噴霧、およびスパッタ被覆などを含むいくつかの方法のうちいずれかにより塗布することができる。被覆中、蒸着を選択位置に限定するために従来の遮蔽手法を採用することができる。好ましくは約0.01から約5マイクロメートルの被覆厚さを利用することができる。工程中のこのステップでは、骨形成誘発剤の被膜はまだ上述した問題に影響され易い。つまり、植込みによって骨へ機械的応力が印加される間、摩擦で除去される、あるいは別の方法で不所望に除去される可能性がある。
【0036】
図2Cは、表面の一部を骨形成誘発剤で被覆した後の歯科用インプラント202を示す図200Cである。歯科用インプラント202の被覆された面部210を照射して、被覆された面部210が予めどこに存在していようと、歯科用インプラント202の植込み部の好ましくはチタニアまたはジルコニア表面に薄い骨形成誘発剤が注入される層を形成するため、イオンビーム、好ましくはGCIB220が現在採用されている。しかしながら、何らかの理由で、骨形成誘発剤が被覆された面の任意の部分に骨形成誘発剤が注入された層を形成するのが望ましくない場合、照射を選択位置に限定するように、従来のマスキングスキームまたはGCIB220の制御方向を採用することができる。注入層はたとえばHA注入層として説明したが、被覆された面部210の形成に異なる骨形成誘発剤が使用される場合、注入層は異なる薬剤の注入層となることが容易に理解される。骨形成誘発剤を歯科用インプラント202の表面に注入する際、好ましくはアルゴンクラスタイオンまたは酸素クラスタイオンを備えるGCIB220を採用することができる。GCIB220は、5kVから70kVまたはそれ以上の加速電位で加速させることができる。被膜には、1平方センチメートル当たり少なくとも約1×1014のガスクラスタイオンのGCIB線量を被曝させることができる。GCIB照射ステップは、およそ約1から約10ナノメートルの厚さのチタニアまたはジルコニアの近接した表面の中に骨形成誘発剤が注入された層を生成する。イオンビーム照射を実行する間、所望のイオン線量が被覆された面部210全体で確実に達成されるように、歯科用インプラント202を照射中の回転運動222で歯科用インプラント202の軸を中心に回転させることが好ましい。カークパトリックらに発行された米国特許第6,676,989C1号は、血管ステントなどの環状または円柱状加工物の回転処理に適した保持具およびマニピュレータを有するGCIB処理システムを教示しており、ルーチンの適応で、このシステムは本発明に必要な回転照射を実行することができる。場合によっては、従来のGCIB照射の単独塗布で実行されるよりも大量の骨形成誘発剤を注入することが望ましいかもしれない。このような場合、(a)歯科用インプラント202の所望領域を骨形成誘発剤で被覆するステップと、(b)図2Bおよび2Cの記載において(本明細書で説明される技術を用いて)被覆領域にGCIBを照射して追加の骨形成誘発剤を注入するステップと、を(1回またはそれ以上の回数)繰り返すことが本発明の範囲に含まれる。
【0037】
図2Dは、HA注入ステップ後の歯科用インプラント202を示す図200Dである。本発明の一実施形態によると、骨形成誘発剤が被覆された部分は骨形成誘発剤が注入された表面領域230に完全に変換されている。
【0038】
図2Eは、骨形成誘発剤が注入された表面領域を有する歯科用インプラント202を示す図200Eである。このステップで、穴204(図2Aに示す)には既に治療材料が装填されており、装填済みの穴240(再度図2Eを参照)を形成している。治療材料の装填は、噴霧、浸漬、ワイピング、静電蒸着、超音波噴射、蒸気溶着、または要求に応じた個別の液滴噴射技術などの多数の方法のうちいずれかによって実行することができる。噴霧、浸漬、ワイピング、静電蒸着、超音波噴射、蒸気溶着、または類似の技術が採用される際、歯科用インプラント202の一つの穴あるいはいくつかまたはすべての穴に蒸着を制限するために、従来の遮蔽手法を有効に採用することができる。液体や溶液の場合、正確な容積の液体材料または溶液を正確にプログラムされた位置に導入することができるので、要求に応じた個別の液滴噴射が好ましい蒸着方法である。要求に応じた個別の液滴噴射は、(たとえば、限定的でなく)テキサス州プレーノーのMicroFab Technologies社製の市販の液体噴射プリントヘッド噴射装置を用いて達成することができる。治療材料が液体、懸濁液、または溶液である場合、好ましくは次のステップに進む前に乾燥させるか、あるいは別な方法で硬化させる。乾燥または硬化ステップは、例として焼成、低温焼成、または真空蒸発などを備えることができる。
【0039】
図2Fは、歯科用インプラント202の穴に装填された治療薬の表面に薄い障壁層を形成する際のイオン照射ステップを示す図200Fである。イオンビーム、好ましくはGCIB250は、現在、歯科用インプラント202の装填済みの穴240(図2Eを参照)の治療薬の表面に照射して、治療薬の表面に薄い障壁層を形成し、露出面に薄い障壁層254を有する装填済みの穴を形成するために採用されている。GCIB250は、治療薬の薄い上部領域を改変させることによって、穴内の治療薬の表面に薄い障壁層を形成する。薄い障壁層は、治療材料の薄い最上層における治療材料の分子を高密度化する、炭化する、もしくは部分的に炭化する、変性させる、架橋する、または重合するように改変された治療薬から成る。薄い障壁層は、およそ約10ナノメートルまたはそれ未満の厚さを有していてもよい。薄い障壁層およびその形成工程の更なる詳細は、図3Cおよび3Dを参照して以下説明する。
【0040】
図3A、3B、3C、および3Dは、骨に埋入可能な医療機器の穴に治療薬を装填するステップと、GCIB照射を用いて治療薬の定着および溶出を制御する薄い障壁層をこの穴の上に形成するステップの詳細を示す。
【0041】
図3Aは、歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300A(図2Dに示される段階、すなわち、本発明に係る骨形成誘発剤が注入された表面領域を有する段階を示す)であり、表面302は骨形成誘発剤が注入された表面領域の一部を表す。再度図3Aを参照すると、歯科用インプラント202の表面302の部分304は、直径306と奥行き308の穴204を有する。この例では、穴204は略円柱状の穴を表すことを意図するが、上述したように、穴の他の構造も本発明の範囲にあると予測され、穴の円柱形状は本発明を限定することを意図しておらず、本発明を明確に説明することを目的とする。穴204は治療薬を装填するための準備段階にある。
【0042】
図3Bは、骨形成誘発剤が注入された表面領域を有する歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300Bである。この段階で、穴204には治療薬310が装填されており、図2Eの装填済みの穴に相当する装填済みの穴240を形成する。
【0043】
図3Cは、骨形成誘発剤が注入された表面領域と治療薬310を装填された装填済みの穴240とを有する歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300Cである。イオンビーム、好ましくはGCIB250が、治療薬310の表面の最上部を改変させて障壁層を形成するために治療薬310の表面に向けられる。治療薬310はGCIB250によって照射されて、治療薬310の表面の薄い上部領域を改変させる。表面を改変する際、好ましくはアルゴンクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを備えるGCIB250を採用することもできる。GCIB250は、5kVから50kVまたはそれ以上の加速電位で加速させることができる。治療薬310の上面は、1平方センチメートル当たり少なくとも約1×1013のガスクラスタイオンのGCIB線量を被曝させることができる。
【0044】
図3Dは、骨形成誘発剤が注入された表面領域と治療薬310を装填された穴254とを有し、治療薬310の最も上部の面のイオン照射によって穴254の上に薄い障壁層320が形成された歯科用インプラント202の表面302の部分304を示す図300Dである。薄い障壁層320は治療薬310の薄い最上層における治療薬の分子を高密度化、炭化若しくは部分的な炭化、変性、架橋、または重合するように改変された治療薬310からなる。薄い障壁層320は、およそ約10ナノメートルまたはそれ未満の厚さを有することができる。GCIB250(図2Fおよび3C)の線量および/または加速電位を選択することによって、歯科用インプラント202が骨に埋入される際の水および/またはその他の生体液の溶出速度および/または内部への拡散速度を制御できるように、薄い障壁層320の特性を調節することができる。概して、加速電位が上昇すると、形成される薄い障壁層の厚さが増加し、GCIBの線量を変化させると、その結果生じる架橋、高密度化、炭化、変性、および/または重合の変化の程度によって薄い障壁層の性質が変化する。これは、その後、治療薬310が障壁を通じて放出または溶出する速度、および/または、水および/または生体液が歯科用インプラント202の外部から薬物内に拡散する速度を制御する手段を提供する。
【0045】
図4は、大腿骨球の置換用の人工股関節プロテーゼ400の形状の骨に埋入可能な医療機器を示す。プロテーゼ400は、天然関節の球部と置換する球402を有し、大腿骨に挿入し統合させるステム404を有する。本発明によると、ステム404の表面の部分408は、骨形成誘発剤被覆によって骨形成誘発剤が注入された後、イオン照射(好ましくはGCIB照射)されており、イオン照射された(好ましくはGCIB照射された)治療薬を充填されて治療薬の溶出速度の制御のために薄い障壁層を形成する穴406のパターンを有する。
【0046】
図5は、本発明の多様性と柔軟性を指摘するために示された様々な治療薬装填済みの穴706、708、710、712、および714を有する骨に埋入可能な医療機器の部分702の表面704の断面図700である。骨に埋入可能な医療機器は、たとえば歯科用インプラント、骨ネジ、人工関節プロテーゼ、またはその他の骨に埋入可能な医療機器のうちいずれであってもよい。すべての穴は、各穴内の治療薬の一または複数の層上に本発明によって形成される薄い障壁層740を有する。簡潔にするため、図5の薄い障壁層のすべてに参照符号を付しているわけではなく、薄い障壁層740で覆われる第一の治療薬736を含有する穴714が図示されている(穴714内の薄い障壁層740のみに参照符号が付されているが、図5の斜線の引かれた領域はそれぞれ薄い障壁層を示し、すべてが以後参照符号740で称される)。穴706は、薄い障壁層740に覆われる第二の治療薬716を含有する。穴708は、薄い障壁層740に覆われる第三の治療薬720を含有する。穴710は、薄い障壁層740に覆われる第四の治療薬738を含有する。穴712は、それぞれが薄い障壁層740に覆われる第五、第六、および第七の治療薬728、726、および724を含有する。各治療薬716、720、724、726、728、736、および738はそれぞれ、異なるまたは同一の各種組み合わせにおいて、異なる治療薬材料であってもよいし、同一の治療薬材料であってもよい。薄い障壁層740はそれぞれ、上述のイオンビーム処理(好ましくはGCIB処理)原則に従い、水またはその他の生体液の溶出速度または放出速度を制御する、および/または内部への拡散速度を制御するための同一または異なる特性を有することができる。穴706および708は同一の幅および充填奥行き718を有するため、同じ容積の治療薬を保持するが、治療薬716および720は異なる治療モードのために異なる治療薬であってもよい。穴706および708にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴706および708に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性のいずれかを有することができる。穴708および710は同じ幅を有するが、充填奥行き718および722がそれぞれ異なるので、異なる用量に対応する異なる装填量の治療薬を含有する。穴708および710にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および710に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性のいずれかを有することができる。穴710および712は同じ幅730を有し、同じ充填奥行き722を有するので、同じ総装填量の治療薬を含有するが、穴710が単層の治療薬738を充填されている一方、穴712は複数層の治療薬724、726、および728を充填されており、それらの治療薬はそれぞれ同一または異なる用量を表す同一または異なる容積の治療薬であってもよく、さらには異なる治療モードそれぞれのために異なる治療薬材料であってもよい。穴710および712に関する各薄い障壁層740は、穴に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性を有することができる。穴708および714は同じ充填奥行き718を有するが、異なる幅を有するので、異なる容積および用量の治療薬720および736を含有する。穴708および714にそれぞれ対応する薄い障壁層740は、穴708および714に含有される治療薬に関して同一または異なる溶出速度、放出速度、または内部への拡散速度を提供する同一または異なる特性のいずれかを有することができる。埋入可能な医療機器の表面704上の穴全体のパターン(サイズ、形状、および位置)および穴732間の間隔はさらに、埋入可能な医療機器の表面全体にわたる治療薬用量の分布を制御するように選択することができる。よって、本発明の適用において、本発明の骨に埋入可能な医療機器に含有される治療薬の種類と用量、用量の分布、放出の順序、および放出速度を制御するうえで柔軟な選択肢が多数ある。
【0047】
本発明は例示のHA注入層の形成に関して説明してきたが、その他の骨形成誘発剤も同様に、本発明の範囲内において注入層を形成する際に十分採用することができると理解される。本発明は(チタニア表面を有する)チタンとジルコニアの歯科用インプラントへの適用に関して特に説明してきたが、本発明の範囲は、幅広い様々なその他の材料で構成される骨に埋入可能な医療機器を含むと理解される。本発明は各種実施形態と骨に埋入可能な医療機器(歯科用インプラント、人工関節など)の分野における用途に関して説明してきたが、その用途はその分野に限定されず、表面被覆材料を、それらが存在する表面へGCIB注入するというコンセプトは、当業者にとって自明なより広い分野に適用されると本発明者によって理解される。本発明はまた、本発明および添付の特許請求の範囲の精神および範囲に属する広範な追加のおよびその他の実施形態を可能とすると理解すべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に埋入可能な医療機器の表面を改変する方法であって、
前記医療機器の前記表面の少なくとも第一の部分を骨形成誘発剤で被覆して被覆面領域を形成するステップと、
前記被覆面領域の少なくとも一部分に第一のイオンビームを照射する第一の照射ステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の照射ステップは、前記骨形成誘発剤の埋込み分子および/または解離生成物を備える浅面および内面層を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであり、さらに前記浅面および内面層が注入面層であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記骨形成誘発剤は、栄養材料、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、バイオガラス45S5、バイオガラス58S、骨成長刺激剤、成長因子、サイトカイン、TGF−βタンパク質、BMP、GPIアンカーシグナルタンパク質、RGM、および増殖調整タンパク質から成る群からの材料のいずれかを個々に、または組み合わせて含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記骨に埋入可能な医療機器の前記表面は、金属、酸化物、またはセラミックのいずれかを個々にまたは組み合わせて含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面はチタン、チタニア、またはジルコニアを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被覆ステップの前に、
ガスクラスタイオンビームである第二のイオンビームを形成するステップと、
前記医療機器の前記表面の少なくとも第二の部分を照射して、前記表面の少なくとも前記第二の部分を清掃する第二の照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の照射ステップは、照射される前記被覆面領域の前記少なくとも一部分を制御するために遮蔽手段を採用することをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の照射ステップは、照射される前記被覆面領域の前記少なくとも一部分を制御するために前記第一のイオンビームを向けることをさらに備えるを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記医療機器の前記表面に一または複数の穴を形成するステップと、
前記一または複数の穴のうち少なくとも一つの穴に治療薬を装填するステップと、
一以上の前記装填済みの穴の中の前記治療薬の露出面に第三のイオンビームを照射して、前記露出面に障壁層を形成する第三の照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第三のイオンビームはガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記障壁層は治療薬の溶出速度を制御することを特徴とする請求項10または11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記障壁層は前記穴への、流体の内部への拡散速度を制御することを特徴とする請求項10または11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
骨に埋入可能な医療機器の表面を改変する方法であって、
前記医療機器の前記表面に一以上の穴を形成するステップと、
前記一以上の穴のうち少なくとも一つの穴に、第一の治療薬を装填する第一の装填ステップと、
一以上の装填済みの穴の中の前記第一の治療薬の露出面に、第一のイオンビームを照射して、前記一以上の装填済みの穴の中の前記治療薬の前記露出面に第一の障壁層を形成する第一の照射ステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記一以上の穴は、所定の分布計画に従い前記表面上に前記第一の治療薬を分布させるために所定のパターンで前記表面に配置されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
二以上の穴があり、前記穴のうち一以上の穴に第一の治療薬が装填され、一以上の穴に前記第一の治療薬とは異なる第二の治療薬が装填されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記一以上の穴のうち少なくとも一つの穴は第一の量の前記第一の治療薬を装填されており、この第一の量は前記一以上の穴のうち少なくとも別の穴に装填される前記第一の治療薬の第二の量とは異なっていることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の装填ステップは前記少なくとも一つの穴を完全には充填せず、前記第一の照射ステップの後に、
前記少なくとも一つの不完全に充填された穴に、前記第一の障壁層を覆う追加の治療薬を装填する第二の装填ステップと、
少なくとも一つの第二の装填済みの穴内の前記追加の治療薬の露出面に第二のイオンビームを照射して、前記少なくとも一つの装填済みの穴の前記露出面に追加の障壁層を形成する第二の照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項14乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第一の障壁層および前記追加の障壁層は、前記第一の治療薬および第二の治療薬の溶出速度を制御する異なる特性を有することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであり、さらに前記第二のイオンビームが第二のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項22】
表面を有している、骨に埋入可能な医療機器であって、前記表面の少なくとも一部分が、前記表面の前記少なくとも一部分に埋め込まれた骨形成誘発剤の分子および/または解離生成物を含む浅い層を備えることを特徴とする骨に埋入可能な医療機器。
【請求項23】
前記浅い層がGCIB注入面層であることを特徴とする請求項22に記載の医療機器。
【請求項24】
前記医療機器の前記表面は、チタン、チタニア、およびジルコニアからなる群から選択される材料を含むことを特徴とする請求項23に記載の医療機器。
【請求項25】
前記医療機器の前記表面に治療薬を含有する一以上の穴と、
前記一以上の穴に含まれる前記治療薬の一以上の表面の、少なくとも一以上の障壁層と、
をさらに備えており、
前記少なくとも一以上の障壁層が治療薬の少なくとも一つの溶出速度を制御するように構成されていることを特徴とする請求項22または23に記載の医療機器。
【請求項26】
表面を有している、骨に埋入可能な医療機器であって、前記表面の少なくとも一部分が、
前記医療機器の前記表面に治療薬を含有する一以上の穴と、
前記一以上の穴に含まれる前記治療薬の一以上の表面の、少なくとも一以上の障壁層と、
を備えており、
少なくとも一以上の障壁層が治療薬の少なくとも一つの溶出速度を制御するように構成されていることを特徴とする骨に埋入可能な医療機器。
【請求項27】
前記医療機器の前記表面は、チタン、チタニア、およびジルコニアから成る群から選択される材料を含んでいることを特徴とする請求項26に記載の医療機器。
【請求項28】
前記一以上の穴は、所定の分布計画に従って前記表面上に前記治療薬を分布させるために、所定のパターンで前記表面に配置されていることを特徴とする請求項26または27に記載の医療機器。
【請求項1】
骨に埋入可能な医療機器の表面を改変する方法であって、
前記医療機器の前記表面の少なくとも第一の部分を骨形成誘発剤で被覆して被覆面領域を形成するステップと、
前記被覆面領域の少なくとも一部分に第一のイオンビームを照射する第一の照射ステップと、
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の照射ステップは、前記骨形成誘発剤の埋込み分子および/または解離生成物を備える浅面および内面層を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであり、さらに前記浅面および内面層が注入面層であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記骨形成誘発剤は、栄養材料、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、バイオガラス45S5、バイオガラス58S、骨成長刺激剤、成長因子、サイトカイン、TGF−βタンパク質、BMP、GPIアンカーシグナルタンパク質、RGM、および増殖調整タンパク質から成る群からの材料のいずれかを個々に、または組み合わせて含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記骨に埋入可能な医療機器の前記表面は、金属、酸化物、またはセラミックのいずれかを個々にまたは組み合わせて含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面はチタン、チタニア、またはジルコニアを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被覆ステップの前に、
ガスクラスタイオンビームである第二のイオンビームを形成するステップと、
前記医療機器の前記表面の少なくとも第二の部分を照射して、前記表面の少なくとも前記第二の部分を清掃する第二の照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の照射ステップは、照射される前記被覆面領域の前記少なくとも一部分を制御するために遮蔽手段を採用することをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の照射ステップは、照射される前記被覆面領域の前記少なくとも一部分を制御するために前記第一のイオンビームを向けることをさらに備えるを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記医療機器の前記表面に一または複数の穴を形成するステップと、
前記一または複数の穴のうち少なくとも一つの穴に治療薬を装填するステップと、
一以上の前記装填済みの穴の中の前記治療薬の露出面に第三のイオンビームを照射して、前記露出面に障壁層を形成する第三の照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第三のイオンビームはガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記障壁層は治療薬の溶出速度を制御することを特徴とする請求項10または11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記障壁層は前記穴への、流体の内部への拡散速度を制御することを特徴とする請求項10または11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
骨に埋入可能な医療機器の表面を改変する方法であって、
前記医療機器の前記表面に一以上の穴を形成するステップと、
前記一以上の穴のうち少なくとも一つの穴に、第一の治療薬を装填する第一の装填ステップと、
一以上の装填済みの穴の中の前記第一の治療薬の露出面に、第一のイオンビームを照射して、前記一以上の装填済みの穴の中の前記治療薬の前記露出面に第一の障壁層を形成する第一の照射ステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記一以上の穴は、所定の分布計画に従い前記表面上に前記第一の治療薬を分布させるために所定のパターンで前記表面に配置されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
二以上の穴があり、前記穴のうち一以上の穴に第一の治療薬が装填され、一以上の穴に前記第一の治療薬とは異なる第二の治療薬が装填されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記一以上の穴のうち少なくとも一つの穴は第一の量の前記第一の治療薬を装填されており、この第一の量は前記一以上の穴のうち少なくとも別の穴に装填される前記第一の治療薬の第二の量とは異なっていることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の装填ステップは前記少なくとも一つの穴を完全には充填せず、前記第一の照射ステップの後に、
前記少なくとも一つの不完全に充填された穴に、前記第一の障壁層を覆う追加の治療薬を装填する第二の装填ステップと、
少なくとも一つの第二の装填済みの穴内の前記追加の治療薬の露出面に第二のイオンビームを照射して、前記少なくとも一つの装填済みの穴の前記露出面に追加の障壁層を形成する第二の照射ステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項14乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第一の障壁層および前記追加の障壁層は、前記第一の治療薬および第二の治療薬の溶出速度を制御する異なる特性を有することを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記第一のイオンビームは第一のガスクラスタイオンビームであり、さらに前記第二のイオンビームが第二のガスクラスタイオンビームであることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項22】
表面を有している、骨に埋入可能な医療機器であって、前記表面の少なくとも一部分が、前記表面の前記少なくとも一部分に埋め込まれた骨形成誘発剤の分子および/または解離生成物を含む浅い層を備えることを特徴とする骨に埋入可能な医療機器。
【請求項23】
前記浅い層がGCIB注入面層であることを特徴とする請求項22に記載の医療機器。
【請求項24】
前記医療機器の前記表面は、チタン、チタニア、およびジルコニアからなる群から選択される材料を含むことを特徴とする請求項23に記載の医療機器。
【請求項25】
前記医療機器の前記表面に治療薬を含有する一以上の穴と、
前記一以上の穴に含まれる前記治療薬の一以上の表面の、少なくとも一以上の障壁層と、
をさらに備えており、
前記少なくとも一以上の障壁層が治療薬の少なくとも一つの溶出速度を制御するように構成されていることを特徴とする請求項22または23に記載の医療機器。
【請求項26】
表面を有している、骨に埋入可能な医療機器であって、前記表面の少なくとも一部分が、
前記医療機器の前記表面に治療薬を含有する一以上の穴と、
前記一以上の穴に含まれる前記治療薬の一以上の表面の、少なくとも一以上の障壁層と、
を備えており、
少なくとも一以上の障壁層が治療薬の少なくとも一つの溶出速度を制御するように構成されていることを特徴とする骨に埋入可能な医療機器。
【請求項27】
前記医療機器の前記表面は、チタン、チタニア、およびジルコニアから成る群から選択される材料を含んでいることを特徴とする請求項26に記載の医療機器。
【請求項28】
前記一以上の穴は、所定の分布計画に従って前記表面上に前記治療薬を分布させるために、所定のパターンで前記表面に配置されていることを特徴とする請求項26または27に記載の医療機器。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【公表番号】特表2011−530346(P2011−530346A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522265(P2011−522265)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053108
【国際公開番号】WO2010/017451
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508216552)エクソジェネシス コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/053108
【国際公開番号】WO2010/017451
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508216552)エクソジェネシス コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】
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