説明

骨再生用治療キット

【課題】十分な骨誘導能を発揮すると共に、微細な形状であっても所望の形状に正確に骨を再生することができ、あらゆる箇所の骨再生に適用可能な骨再生用治療キットを提供すること。
【解決手段】リン酸カルシウム系セラミックス等の生体適合性材料及び/又は骨等の生体由来の硬組織からなる骨誘導物と、該骨誘導物を内部に収容するための、骨再生域の形状に適合した形状に成形された骨再生用ケーシングとを備えた骨再生用治療キットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨の再生治療に用いられる骨再生用治療キット、並びに骨再生用ケーシング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外傷、腫瘍、外科的侵襲等による骨欠損部や、抜歯、義歯の長期装用などによる顎骨萎縮部の骨回復治療としては、これまでは、自家骨移植が最善の方法とされてきた。しかしながら、この自家骨移植は骨採取という二次的侵襲に伴う大きな負担を強いるわりには、移植骨が生着し生きた骨に置換されるころには、回復した骨の量は移植した骨の量よりかなり目減りするという問題があった。
【0003】
また、骨を用いない方法として、リン酸カルシウム系セラミックスによる人工骨の利用がある。本発明者は、リン酸カルシウム系セラミックスからなる骨誘導能を有する多孔質構造体にわずかな量の微細骨粉を含浸させることでその骨誘導能を飛躍的に強化させることができることを明らかにしている(特許文献1参照。)。
【0004】
また、上述のような骨や人工骨を用いることなく、骨を再生しようとする考え方もある。組織再生治療において、目的部位をある種の機械的バリアーを用いて物理的に密封し、その部位の組織再生(治癒)を促進しようとするもので、1950年代半ばから様々な組織の再建外科治療に検討されている。骨の欠損部の再生や骨の増幅に対しても検討され、その基本的概念は骨形成を期待する解剖学的部位をバリアーメンブレン(遮蔽膜)で封鎖し、他の組織、特に繊維性結合組織細胞がスペース内に侵入形成するのを阻止することで、そのスペース内に骨由来の骨生成細胞を増殖させその結果スペース内に骨形成を誘導させようとするものである(GBR:guided bone regeneration)。この種の研究は主として歯科で行われ、かかる遮蔽膜の材質としては、expanded polytetrafluoroethylene(e−PTFE)が最も多く用いられている。
【0005】
このe−PTFE膜は、GORE−TEX(登録商標)として製品化されている。この臨床応用では、3壁性骨欠損など狭い範囲の骨再生には膜のみで有効であるが、比較的広い範囲の骨再生には膜のみでは有効ではなく、膜と骨面の間にブロック状の自家骨又は生体適合性材料を添入する必要がある。この自家骨又は生体適合性材料は膜のスペースリテーナーの役割とともに、より良好な骨再生を期待し用いられている。
【0006】
さらに、e−PTFE膜と同様な概念で、レーザー照射による小孔を有するチタン薄膜(0.02mm厚)が製品化されている(FRIOS Bone Shield)。膜を覆う口腔粘膜が破れた際の膜のコンタミがe−PTFE膜に比べ少ないことが利点として挙げられている。
【0007】
しかしながら、いずれの膜も、望まれる骨再生部位に自家骨又は生体適合性材料を添加後、術中に、それらを十分に覆う程度の大きさ・形態にトリミングし、膜の端部を数箇所ビスで骨面に固定して用いられるものであり、術中に、煩雑かつ正確な作業が要求される。また、いずれの膜の使用も、骨壁のない欠損での垂直方向への大きな骨増大、つまり絶対的挙上に際してはその確実性が低い。さらには、外圧に対しても弱く、付与した形態の術後維持が困難という問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2003−320014号公報(特許第3820396号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、十分な骨誘導能を発揮すると共に、微細な形状であっても所望の形状に正確に骨を再生することができ、あらゆる箇所の骨再生に適用可能となる骨再生用治療キット、並びに骨再生用ケーシング及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、まず、アパタイト等の生体適合性材料からなる多孔質構造体やこれに微細骨粉を含浸させた多孔質構造体の骨誘導能が、そのブロックサイズを小さくすることにより低下するという所見を得た。大きなブロックの塊だけの用途は少ない。この所見は、微細な形状を正確に再生する必要がある部位への適用が困難であり、その用途が制限されることを意味する。本発明者は、さらに鋭意研究した結果、この現象は、多孔質構造体の骨誘導は多核細胞が構造体の気孔壁を構成するアパタイト等の生体適合性材料を貪食する過程で骨芽細胞分化因子を産生し、その濃度が気孔内において一定の閾値に達することで、未分化間葉細胞から骨芽細胞への分化が生ずることによりその端を発するが、小さなブロックや粉砕された顆粒等の場合、産生される骨芽細胞分化因子がブロックや顆粒外に離散しやすく相当域が骨形成の起点になりにくいのが原因ではないかという考えに至った。そこで、本発明者は、骨芽細胞分化因子の離散防止が重要であると考え、細かく粉砕した顆粒状の多孔質構造体を、所望の形状に成形したケーシングに収容し、これを用いて骨再生を試みてみたところ、十分な骨誘導能を発揮することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)生体適合性材料及び/又は生体由来の硬組織からなる骨誘導物と、該骨誘導物を内部に収容するための、骨再生域の形状に適合した形状に成形された骨再生用ケーシングと、を備えたことを特徴とする骨再生用治療キットや、(2)生体適合性材料が、リン酸カルシウム系セラミックスの多孔質構造体であることを特徴とする上記(1)に記載の骨再生用治療キットや、(3)多孔質構造体の気孔率が3〜95%であることを特徴とする上記(2)に記載の骨再生用治療キットや、(4)生体由来の硬組織が、骨又は歯であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の骨再生用治療キットや、(5)骨又は歯が、生のもの又は脱灰物であることを特徴とする上記(4)に記載の骨再生用治療キットに関する。
【0012】
また本発明は、(6)骨誘導物が、粒径0.1〜3mmの顆粒又は粉末であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の骨再生用治療キットや、(7)骨誘導物が、ブロック状であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の骨再生用治療キットや、(8)骨再生用ケーシングが、樹脂製であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の骨再生用治療キットや、(9)骨再生用ケーシングが、剛性を有していることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の骨再生用治療キットや、(10)骨再生用ケーシングが、骨誘導物導入口及び該骨誘導物導入口を覆う蓋を備えていることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の骨再生用治療キットに関する。
【0013】
さらに本発明は、(11)顎骨再建術に用いられることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の骨再生用治療キットや、(12)生体適合性材料及び/又は生体由来の硬組織からなる骨誘導物を収容するためのケーシングを製造する方法であって、予め測定又は印象された骨形状に基づいて決定された骨再生域の形状に適合するよう成形することを特徴とする骨再生用ケーシングの製造方法や、(13)骨誘導物導入口を形成すると共に、該骨誘導物導入口を覆う蓋を作製することを特徴とする上記(12)に記載の骨再生用ケーシングの製造方法や、(14)樹脂を用いて成形することを特徴とする上記(12)又は(13)に記載の骨再生用ケーシングの製造方法や、(15)上記(12)〜(14)のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする骨再生用ケーシングや、(16)剛性を有していることを特徴とする上記(15)に記載の骨再生用ケーシングに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の骨再生用治療キット及び骨再生用ケーシングは、あらゆる箇所の骨再生に適用可能であり、これを用いることにより、十分な骨誘導能を発揮すると共に微細な形状であっても所望の形状に正確に骨を再生することができる。また、本発明の骨再生用治療キット及び骨再生用ケーシングを用いることにより、簡易かつ確実に治療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の骨再生用治療キットとしては、生体適合性材料及び/又は生体由来の硬組織からなる骨誘導物と、該骨誘導物を内部に収容するための、骨再生域の形状に適合した形状に成形された骨再生用ケーシングとを備えた治療キットであれば特に制限されるものではなく、本発明の骨再生用治療キットを用いて骨再生治療を行うことにより、骨再生用ケーシングにより骨誘導因子の離散を阻止できるので、比較的小径の顆粒状又は粉末状の骨誘導物を用いる場合にも十分な骨誘導能を発揮することができ、また、微細な形状であっても所望の形状に正確に骨を再生することができる。したがって、あらゆる箇所の骨再生に適用することができる。また、比較的大きなブロック状の骨誘導物の場合には、その骨誘導能をより向上させることができ、機械的強度の低い高気孔率のものを用いることも可能となる。本発明の骨再生用治療キットは、具体的には、インプラントのための顎骨の再生の他、外傷、腫瘍、外科的侵襲等による骨欠損部の再生のために使用することができる。
【0016】
本発明における骨誘導物とは、生体適合性材料からなる骨誘導物、生体由来の硬組織からなる骨誘導物、及びこれらの混合物をいう。本発明における骨誘導物は、ブロック状であっても、顆粒状又は粉末状であってもよく、これらを混合して用いてもよい。顆粒状又は粉末状の骨誘導物の粒径としては、0.1〜3mm程度であり、0.5〜2.5mmであることが好ましい。なお、粒径は、ふるい分け法によって測定したものをいう。また、ブロック状の骨誘導物とは、径が3mmを超えるものをいう。
【0017】
骨誘導物における生体適合性材料としては、セラミックス、金属を挙げることができる。セラミックスとしては、例えば、アパタイト、三リン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系セラミックス、炭酸カルシウム系セラミックス、動物の焼成骨を挙げることができ、アパタイトが好ましく、ヒドロキシアパタイトがより好ましい。また、金属としては、例えば、チタン合金を挙げることができる。
【0018】
生体適合性材料からなる骨誘導物は、骨誘導能を有する多孔質のもの(多孔質構造体)が好ましい。多孔質構造体の気孔率は、3〜95%程度である。また、多孔質構造体は、表面のみに多孔質構造を有するものであってもよい。本発明の骨再生用治療キットによれば、骨再生用ケーシングによって外圧から保護されるので、機械的強度の低い高気孔率の多孔質構造体を用いることが可能となり、これらの多孔質構造体は骨誘導能が高いことから、骨再生をより促進させ、大量の骨形成量を促すことが可能となる。
【0019】
ブロック状の多孔質構造体の具体的な構造としては、構造体の外部表面とつながる平均孔径50〜1000μm、好ましくは100〜500μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体にマクロな気孔と連続する平均孔径0.005〜50μmのミクロな連続気孔を有し、該マクロな連続気孔は構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在し、かつ該ミクロな連続気孔はマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面50μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在している多孔質構造体や、構造体の外部表面とつながる平均孔径50〜1000μmのマクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有するとともに、マクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の表面に大きさおよび深さがそれぞれ平均0.005〜50μmのミクロな陥凹部を表面の50μm平方の範囲内に少なくとも一つ以上有し、該マクロな連続気孔は多孔質構造体の外部表面1000μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在している多孔質構造体を挙げることができる。このブロック状の多孔質構造体の気孔率としては、30〜95%程度であり、40〜90%であることが好ましい。本発明におけるケーシングは、ブロック状の多孔質構造体の骨誘導能の発現に対しても有効に作用する。
【0020】
また、顆粒状又は粉末状の多孔質構造体としては、上記焼成したブロック状の多孔質構造体を粉砕したもの、ブロック焼成前のグリーンボデイの段階で細片化し焼成したものを挙げることができる。高気孔率ブロックから作製した顆粒の構造は、基本的にブロックの構造と同様である。しかし、低気孔率ブロックから作製した顆粒では、もともとブロック内にマクロ気孔が少ないこととも関連し、顆粒のほとんどの部分が、平均孔径0.005〜50μmのミクロな連続気孔を構造体の全体にわたって有し、該微細な連続気孔は、構造体の外部表面の50μm平方の範囲内に少なくとも1つ以上存在している多孔質構造である。このような顆粒状又は粉末状の多孔質構造体の気孔率は、3〜40%程度となる。顆粒状又は粉末状の多孔質構造体がケーシングに収容された場合、顆粒や粉末の相互間隙が比較的広く分布し相当域が骨形成の場となり得るので、気孔率の低い多孔質構造体であっても、効果的な骨誘導物になると考えられる。
【0021】
また、本発明の多孔質構造体は、骨又は歯を微細に粉砕したもの(以下、単に、微細骨粉という。)を含浸していてもよい。微細骨粉のサイズとしては、広範囲にかつ分布密度が高い状態で分散することができ、さらに多孔質構造体の内部にまで容易に含浸させられるサイズであることが好ましい。また、多孔質構造体のマクロな気孔内に含浸された微細骨粉が、破骨細胞やマクロファージによって速やかに吸収されるサイズであり、かつ微細骨粉の一部はマクロな気孔相互間に存在する生体適合性材料の全体もしくは表面に分布するミクロな気孔あるいは陥凹部に入り込み細胞攻撃を避けることができるようなサイズであることが好ましい。具体的には、微細骨粉の粒径は、50μm以下であることが好ましく、サブミクロンサイズを含む20μm以下であることがより好ましい。なお、この粒径は、レーザー回折で測定したものをいう。微細骨粉の調製方法及び多孔質構造体への含浸方法等については、特開2003−320014号公報に記載の通りである。また、多孔質構造体の骨誘導能の向上を目的に上記微細骨粉の他、適切な細胞増殖・分化因子を添加して用いても良い。
【0022】
骨誘導物における生体由来の硬組織としては、例えば、骨、歯を挙げることができる。骨とは、石灰化している部分の骨のみならず骨髄をも含み、また、生体から直接採取した骨のみならず、幹細胞から組織工学的手法を用いて培養下で作製した骨又は骨様組織をも含む。
【0023】
骨としては、ヒトの骨以外にも、ウシなどの哺乳類はもとより魚なども含め脊椎動物全般の広範囲な動物の骨も抗原性の減弱化処理により利用することができるが、ヒトの骨が好ましく、自己由来の骨(自家骨)が最も好ましい。骨の採取部位としては、腸骨、顎骨、脛骨、大腿骨等を挙げることができる。なお、ヒトの骨は、米国等より商業的に入手することができる。自家骨の移植には、活性の高い骨髄を含む海綿骨若しくは海綿骨を含む骨が好ましく、一般的に皮質骨は細胞成分が少ないため移植に適さないが、本発明に用いる骨としては、海綿骨に限られず、皮質骨を用いることもできる。
【0024】
また、歯も骨と同様に、ヒト以外の歯を用いることが可能であり、ヒトの歯が好ましく、自己由来の歯が最も好ましい。
【0025】
また、生体由来の硬組織としての骨及び歯は、生の状態に限られず、脱灰処理(酸処理)を施した脱灰物であってもよい。脱灰処理をすることにより、抗原性を減弱化し、また、基質中の分化増殖因子が活性化すると考えられる。
【0026】
本発明における骨誘導物を内部に収容するための、骨再生域の形状に適合した形状に成形された骨再生用ケーシングとしては、樹脂製又は金属製のものを挙げることができる。樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、酢酸セルロース樹脂、フタル酸樹脂等やこれらの共重合体を挙げることができる。また、ポリグリコール酸、ポリ乳酸やこれらの共重合体等の生分解性樹脂を使用することもできる。金属としては、例えば、チタン、チタン合金、ステンレスを挙げることができる。
【0027】
本発明における骨再生用ケーシングの形状としては、術前に予め骨再生域の形状に適合するよう成形されたものであり、術中に骨再生域の形状に合わせて調製し被覆する従来のe-PTFE膜又はチタン薄膜とは異なる。また、e−PTFE膜やチタン薄膜を用いたGBRの概念は、膜によって確保されたスペ−スを骨再生を阻害するとされる軟組織(粘膜組織)から隔絶することによってスペ−ス内に骨から増殖してくるであろう骨形成を得ようとするものであるのに対し、本発明の骨再生用ケーシングは、本来的に異所性骨形成能(骨誘導能)を有する骨誘導物の充填域内若しくはブロック内で産生される骨誘導因子が軟組織内へ拡散することを阻止することで充填域内若しくはブロック内での骨形成を獲得しようとするものであり、従来のGBRとはその基本的な概念が異なる。また、GBRは傍骨での利用に限定されるのに対し、本発明は必ずしも傍骨での利用にその用途が制限されず、望まれる解剖学的形態の骨再生を異所性に獲得し、その骨を必要部位に移植することも可能である。また、傍骨においても、本発明の骨再生用ケーシングを用いることにより、e−PTFE膜やチタン薄膜と異なり、骨(顎骨)の絶対的挙上が可能となる。
【0028】
また、e−PTFE膜やチタン薄膜で自家骨や生体適合性材料を併用する場合、骨再生が必要な部位に自家骨若しくは生体適合性材料を添加・充填した後、その形状に合わせて膜を調製して被覆し、膜の端部を数箇所ビスで骨面に固定する術式であるため、術中に、適切な再生形状を考慮し、また、それに必要な移植骨や生体適合性材料の量を確保しなければならない。さらに、膜の固定時に充填域の形態が崩れないようにする配慮が求められる。これに対し、本発明の骨再生用ケーシングは、上記のように、術前に適切な形状に成形しており、術時においては、その良好な適合性や機械的強度の高さから、骨面への固定は1〜2箇所のビス固定で十分であり、場合によっては被覆粘膜の縫合閉鎖のみの固定でも可能である。固定後は、決められた形状の骨再生用ケーシング内に骨誘導物を添入するだけでよい。また、骨再生用ケーシング内に骨誘導物を添入した後に固定してもよい。本発明の骨再生用治療キットでは、骨誘導物の量を予め調整しておくことができるので、過剰な骨誘導物の添加、不十分な添入のリスクは少なく、移植手術をスムーズに行うことができる。また、術者に負担の少ないこの術式は、感染のリスクを低減させるとともに患者への負担を軽減する。
【0029】
また、顎骨再建術に際しての骨誘導物の充填域には、術後、口腔機能に伴う様々な外圧の加わることが想定されるが、本発明の骨再生用ケーシングは用途に応じた機械的強度とすることが可能であるため、骨誘導物の充填域を物理的外圧から保護することができる。すなわち、術時に形態を付与するe−PTFE膜やチタン薄膜では、その術時に、添加・充填域に沿って被覆できるようなしなやかさや、人の手で変形できるような柔軟性が求められるため、材質やその厚み等が制限され、骨誘導物の充填域を物理的外圧から保護することができないが、本発明の骨再生用ケーシングは、術前に、予め所望の形状に成形されているので、人の手で変形できないような機械的強度(剛性)を付与することが可能となり、骨誘導物の充填域を物理的外圧から保護することができる。
【0030】
また、例えば、頭蓋骨や顎骨などで比較的大型の架橋的骨再生が求められる際には、骨欠損部形態に一致したブロック状の高気孔率の骨誘導物を用いることが好ましく、このような高気孔率のものは一般に機械的強度が低いという問題があるが、本発明の骨再生用ケーシングを用いることにより、機械的強度を補填することができる。
【0031】
本発明の骨再生用治療キットにおける骨再生用ケーシングとしては、全面が包囲されたケーシングや、骨と直接接触する一方又は両方の側を開口としたケーシングを挙げることができる。全面が包囲されたケーシングの場合はもちろん、一方又は両方の側を開口としたケーシングにおいても、必要に応じて、ケーシング内への栄養血管進入通路を確保のための小孔を設けることができる。
【0032】
骨と直接接触する一方の側を開口としたケーシングは、骨欠損部や骨陥凹部等の骨面への添加的傍骨移植に用いることができ、特に顎骨再建術に好ましく用いることができる。骨面への添加的傍骨移植では、骨側からの栄養血管や骨原性細胞をケーシング内に取り込むと共に、骨側への分化因子の離散は少ないと考えられ、また、骨形成後の撤去が困難等の理由から、骨面側は開口として移植域の軟組織側のみを遮断することが好ましい。骨と直接接触する両方の側を開口としたケーシングは、架橋的骨再生に用いることができる。なお、骨と直接接触する側を開口としたケーシングは、後述する顆粒状又は粉末状の骨誘導物の導入口及び該導入口を覆う蓋を備えたケーシングであってもよいが、骨と直接接触する側に設けられた開口から骨誘導物を導入することができるので、骨誘導物導入口を必ずしも設ける必要はない。また、単体のブロック状の骨誘導物を使用する際には、適切な形態に成型したブロック状の骨誘導物に密接させたケーシングを作製することで、導入口を必ずしも必要としない。
【0033】
全面が包囲されたケーシングは異所性に骨再生を要する際に使用される。このケーシングを用い、顆粒状又は粉末状の骨誘導物を使用する場合、骨誘導物導入口及び該導入口を覆う蓋を備えることが好ましい。ブロック状の骨誘導物を使用する際には、上述と同様、導入口を必ずしも必要としない。また、このケーシングでは、栄養血管通路の確保のための小孔を多数設けなければならない。
【0034】
具体的に、上記骨誘導物導入口は、骨誘導物が導入しやすい大きさ及び形状であることが好ましく、例えば、4〜150mm、好ましくは4〜100mmとすることができる。骨誘導物導入口及び該導入口を覆う蓋を備えたケーシングの場合、ケーシングを適切な位置に固定した後、骨誘導物導入口からケーシング内に顆粒状の骨誘導物を添入し、蓋でケーシングを閉塞することができる。
【0035】
また、栄養血管通路の確保のための小孔は、栄養血管が容易に進入可能なように、例えば、直径100μm〜1.0mmとすることができ、これを1cm当たり1つ以上設けることが好ましい。
【0036】
本発明の骨再生用ケーシングの製造方法としては、予め測定又は印象された骨形状に基づいて決定された骨再生域の形状に適合するよう成形する方法であれば特に制限されるものではなく、具体的には、CTX線、MRI等を用いて測定された各患者の3Dモデル(三次元画像若しくは実模型)から必要な解剖学的骨再生形態(骨再生域の形状)を構築し、これに合わせて骨再生用ケーシングを成形することができる。また、顎骨再建術等においては、骨面を直接印象採得し、これに合わせて骨再生用ケーシングを成形することができる。所望の形状への成形方法としては特に制限されるものではなく、樹脂シートを用いる場合は、例えば、加熱圧迫や加熱吸引等により成形することができ、金属シートを用いる場合は、例えば、圧迫成形等により成形することができる。また、成形時又は成形後に骨誘導物導入口を形成してもよく、この場合、骨誘導物導入口を覆う蓋を別途作製する。また、成形前又は成形後に、栄養血管通路の確保のための小孔を形成することができる。
【0037】
上記のような骨再生用ケーシングを用いた治療方法としては、骨再生用ケーシングに、骨誘導物を収容した後、骨再生域に装着する方法や、骨再生用ケーシングを骨再生域に装着した後、該骨再生用ケーシング内に骨誘導物を添入する方法を挙げることができる。
【0038】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
ポリエチレンテレフタレートからなる肉厚0.5mmのレジンプレートを用い、加熱真空成型器で、7mm×7mm×5mmサイズの気孔率約85%の多孔質アパタイトブロックをその一面を残し被覆した。このケーシングには、0.5mm程度の小孔を2.5mm間隔で設けた。この多孔質アパタイトブロックに微細骨粉を血漿で混ぜた骨濃度約1/200の懸濁液を含浸後、成犬の背部皮下脂肪組織に埋入した。なお、この多孔質アパタイトブロックは、数十μmの連通孔を介して連続する約200μmのマクロ気孔をブロックの全体に有するとともに、マクロ気孔壁にもマクロ気孔につながるサブμmから数μmのミクロ気孔を有する多孔質構造体である。
【0040】
移植8週後のケーシング(C)内の骨形成状態を示す顕微鏡写真を図1に示す。図1に示されるように、多孔質アパタイトブロックがケーシングに囲まれていない領域ではブロックの辺縁部に沿って骨が形成されていないが(No N.B)、ケーシング(C)に被覆されている領域ではブロックの辺縁に至るまで良好な骨形成が見られる(N.B)。この所見は、本発明の骨再生用ケーシングを用いることにより、微細骨粉含浸多孔質アパタイトブロックの骨誘導能を十分に発揮させることができることを示している。なお、図1中、「N.H」は栄養血管通路のための小孔を表す。
【実施例2】
【0041】
ポリエチレンテレフタレートからなる肉厚0.5mmのレジンプレートを用い、加熱真空成型器で、10mm×10mm×6mmのボックス状ケーシングを作製した。また、0.5mm程度の小孔を2.5mm程度間隔で全面に設けた。かかるボックス状ケーシングに、1mm程度の微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒(骨誘導物)を添入し、成犬の背部皮下脂肪組織に移植した。なお、この多孔質アパタイト顆粒の微細構造は、実施例1で用いたブロックのものと同様であり、微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒は以下のようにして調製した。
【0042】
歯科用電気エンジンに取り付けたトレパンバーを用い同一成犬の脛骨から摘出し、フリーザー内で−80℃にて保存してあった骨小片を適宜取り出し、これを無菌的環境下、粉砕機を用いて一定時間粉砕した。この行程により作成される骨粉のサイズは、レーザー回折により、分布頻度の最高が4μm程度であることを確認している。生理的食塩水中で撹拌した骨粉入り生理的食塩水14ccを15ccコニカルチューブに入れ、これを遠心分離機で3000回転(約1000g)、30秒間維持した後ブレーキをかけ、生理的食塩水を除去した。この条件で沈殿した骨粉に骨粉体積の20倍(骨粉作製以前の緻密骨の体積に対し約200倍)になるまでクエン酸ナトリウム混合全血から分離した血漿を加え、さらに100W、28khzの超音波および撹拌機を併用し骨粉を十分に拡散させ、微細骨粉懸濁液を調製した。この骨粉懸濁液を多孔質構造体の入った容器にバイブレーター使用下で滴下し、含浸操作を行った。骨粉含浸後、塩化カルシウムを添加し凝血させた。
【0043】
移植8週後のケーシング(C)内の骨形成状態を示す顕微鏡写真を図2に示す。また、図2におけるケーシング内の顆粒充填域の良好な骨形成が生じている部分の顕微鏡写真を図3に示し、図2におけるケーシング内の顆粒充填域の骨形成が遅れている部分の顕微鏡写真を図4に示す。図2に示されるように、顆粒充填域ではその一部で骨形成が遅れているものの、良好な骨形成が生じていることがわかる。図3に示されるように、良好な骨形成が生じている部分は、新生骨(N.B)が顆粒のマクロ気孔壁(M.P.W)に沿って形成されると共に、顆粒相互間にも形成されている。新生骨相互間の骨髄(B.M)には、毛細血管(N.C)や洞様血管(S.C)の形成も見られる。また、図4に示されるように、骨形成が遅れている部分でも、その一部で石灰化している新生骨(N.B)が形成されると共に、骨形成が生じていない部でも気孔壁に沿って骨前質(P.O)が形成され、また、多核細胞(M.N.G.C)が出現している。この所見は、本発明の骨再生用ケーシングを用いることにより、微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒の骨誘導能を異所性において発揮させることが可能であることを示している。なお、図2中、「N.H」は栄養血管通路のための小孔を表す。
【0044】
他方、実施例2のコントロ−ルとして、上記微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒のみを実施例2と同一の成犬の背部皮下脂肪組織に移植した。移植8週後、顆粒が一部崩れているとともに充填域に骨形成が全く認められなかった。その顕微鏡写真を図5に示す。
【実施例3】
【0045】
酢酸セルロース及びフタル酸ジオクチルの共重合体からなる肉厚0.5mmのレジンプレートを用い、加熱真空成型器で、内側10mm×10mm×6mmのボックス状ケーシングを作製した。ただし、一つの面は開口とし、小孔を設けない無孔のものと実施例1と同様の小孔を設けたものの2種を作製した。ボックス状ケーシング内に、実施例2と同様の微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒を添入し、犬の下顎骨頬側面に特に固定することなく、ボックス状ケーシングの開口面が骨に接触するように、傍骨移植した。この際、移植相当部緻密骨面に内部海綿骨域に達する孔の穿孔は行わなかった。
【0046】
無孔性のケーシング(C)を用いて微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒を下顎骨頬側面に12週間傍骨移植した下顎骨前頭断の全体像の顕微鏡写真を図6に示す。また、図6における顆粒移植域の拡大顕微鏡写真を図7に示す。図6及び図7に示されるように、ケーシング(C)内の顆粒充填域の顆粒内及び顆粒間には多量の新生骨(N.B)が形成されている。なお、図6中、「T.R」は歯根を表し、「B.C.B」は頬側緻密骨を表し、図7中、「P.A.G」は多孔質アパタイト顆粒を表し、「B.C.B」は頬側緻密骨を表す。
【0047】
図8は、有孔性のケーシング(C)を用いて微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒を下顎骨頬側面に12週間傍骨移植した下顎骨前頭断の全体像の顕微鏡写真である。図8に示すように、無孔性のケーシングの場合と同様、有孔性のケーシングを用いた場合にも、ケーシング(C)内の顆粒充填域には良好な骨形成が生じている。なお、図8中、「N.H」は栄養血管通路のための小孔を表す。
【実施例4】
【0048】
成犬の下顎骨下面を印象し、その石膏模型上で、下顎骨下面を前後20mm程度に渡って肉厚4mm程度増幅・挙上させる形態を、即時重合レジンでモウルドし、その形態を覆い、骨と直接接触する一方の側を開口としたケーシングを、実施例3と同様に、酢酸セルロース及びフタル酸ジオクチルの共重合体からなる肉厚0.5mmのレジンプレートを用い、加熱吸引成型器で作製した。このケーシングの一部に、5mm×5mmの窓を開けるとともに同寸の蓋を用意した。また、このケーシングには、実施例1と同様の小孔を設けた。移植に際しては、移植相当部緻密骨面に内部海綿骨域に達する小孔の穿孔を数箇所行った後、ケーシングを適切な位置で2箇所ネジ止めし、窓部から微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒を添入し、蓋で充填域を閉鎖した。用いた多孔質アパタイト顆粒は実施例2,3と異なり、気孔率約40%の低気孔率多孔質アパタイトのブロックを粉砕した大きさ1.5mm前後のもので、顆粒内の一部に散在するマクロ気孔を除く大半の部分はサブμmから数μmのミクロ気孔のみを有する気孔率約20%の多孔質構造体である。
【0049】
移植11週後のケーシング(C)内の骨形成状態を示す顕微鏡写真を図9に示す。図9に示されるように、ケーシング内(C)には、既存骨面に一致して連続する多量の新生骨(N.B)が密に形成されている。なお、図9中、「C.B」は緻密骨を表し、「P.A.G」は多孔質アパタイト顆粒を表し、「C」はケーシングの蓋部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1における移植8週後のケーシング(C)内の骨形成状態を示す顕微鏡写真である。
【図2】実施例2における移植8週後のケーシング(C)内の骨形成状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】図2におけるケーシング内の顆粒充填域の良好な骨形成が生じている部分の顕微鏡写真である。
【図4】図2におけるケーシング内の顆粒充填域の骨形成が遅れている部分の顕微鏡写真である。
【図5】実施例2の比較例に係る骨形成状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例3における移植12週後の無孔性のケーシング(C)を用いて微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒を下顎骨頬側面に傍骨移植した下顎骨前頭断の全体像の顕微鏡写真である。
【図7】図6における顆粒移植域の拡大顕微鏡写真である。
【図8】実施例3における移植12週後の有孔性のケーシング(C)を用いて微細骨粉含浸多孔質アパタイト顆粒を下顎骨頬側面に傍骨移植した下顎骨前頭断の全体像の顕微鏡写真である。
【図9】実施例4における移植11週後のケーシング(C)内の骨形成状態を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性材料及び/又は生体由来の硬組織からなる骨誘導物と、該骨誘導物を内部に収容するための、骨再生域の形状に適合した形状に成形された骨再生用ケーシングと、を備えたことを特徴とする骨再生用治療キット。
【請求項2】
生体適合性材料が、リン酸カルシウム系セラミックスの多孔質構造体であることを特徴とする請求項1に記載の骨再生用治療キット。
【請求項3】
多孔質構造体の気孔率が3〜95%であることを特徴とする請求項2に記載の骨再生用治療キット。
【請求項4】
生体由来の硬組織が、骨又は歯であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項5】
骨又は歯が、生のもの又は脱灰物であることを特徴とする請求項4に記載の骨再生用治療キット。
【請求項6】
骨誘導物が、粒径0.1〜3mmの顆粒又は粉末であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項7】
骨誘導物が、ブロック状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項8】
骨再生用ケーシングが、樹脂製であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項9】
骨再生用ケーシングが、剛性を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項10】
骨再生用ケーシングが、骨誘導物導入口及び該骨誘導物導入口を覆う蓋を備えていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項11】
顎骨再建術に用いられることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の骨再生用治療キット。
【請求項12】
生体適合性材料及び/又は生体由来の硬組織からなる骨誘導物を収容するためのケーシングを製造する方法であって、
予め測定又は印象された骨形状に基づいて決定された骨再生域の形状に適合するよう成形することを特徴とする骨再生用ケーシングの製造方法。
【請求項13】
骨誘導物導入口を形成すると共に、該骨誘導物導入口を覆う蓋を作製することを特徴とする請求項12に記載の骨再生用ケーシングの製造方法。
【請求項14】
樹脂を用いて成形することを特徴とする請求項12又は13に記載の骨再生用ケーシングの製造方法。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする骨再生用ケーシング。
【請求項16】
剛性を有していることを特徴とする請求項15に記載の骨再生用ケーシング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−142201(P2008−142201A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331186(P2006−331186)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【特許番号】特許第3965204号(P3965204)
【特許公報発行日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(502072525)
【Fターム(参考)】