説明

骨再生用自己組織化ペプチドハイドロゲル

【課題】骨形成因子(BMP)の有効濃度を局所的に維持することができ、かつ、骨形成の足場となることができる自己組織化ペプチドハイドロゲルからなる骨形成促進組成物の提供。
【解決手段】BMPおよび特定の配列からなる群から選択される自己組織化ペプチドを含有する骨形成促進組成物。該自己組織化ペプチドの濃度は、0.5〜5.0%(w/v)であることが好ましい。該BMPは、組換え型の骨形成因子であることが好ましい。該BMPの最終濃度は、2.5〜500μg/mlであることが好ましい。該自己組織化ペプチドハイドロゲルにBMPを含ませることにより、BMP単独および自己組織化ペプチドハイドロゲル単独の場合と比較して、骨の形成量や成熟速度を顕著に増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BMPと自己組織化ペプチドを含む骨形成促進組成物、特に、骨再生用自己組織化ペプチドハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学に必要な足場材料として様々な材料が用いられてきたが、化学合成品の持つ安全性と3次元的環境を提供する細胞外マトリックスの特徴を併せ持った足場材料はこれまで実用化されていない。
【0003】
自己組織化ペプチドは、そのアミノ酸配列により、多数のペプチド分子が規則正しく並んだ自己会合体を形成する特性を有する。近年、その物理的、化学的、生物学的性質から、新規マテリアルとして注目を浴びている(特許文献1〜3)。
【0004】
自己組織化ペプチドを含むハイドロゲル(自己組織化ペプチドハイドロゲル)は、生分解性であり、分解産物が組織に悪影響を与えず、生体吸収性が高いことから、細胞の生着や増殖に適している。
【0005】
特許文献4は、自己組織化ペプチドを用いた再生医療骨組成物を開示している。ここでは、犬の下顎歯槽骨に孔をあけ、その孔に自己組織化ペプチドハイドロゲル(PMハイドロゲル)、間葉系幹細胞(MSC)と自己組織化ペプチドハイドロゲルの混合物(PMハイドロゲル/MSC)、または多血小板血漿(PRP)ゲルおよび間葉系幹細胞(MSC)と自己組織化ペプチドハイドロゲルの混合物(PMハイドロゲル/MSC/PRPゲル)を充填し、新生骨の形成量および骨の成熟速度が、PMハイドロゲル、PMハイドロゲル/MSC、PMハイドロゲル/MSC/PRPゲルに順に増加することを開示している。しかし、PMハイドロゲル単独では、新生骨の形成が認められても骨が未成熟であったことを開示している。
【0006】
骨形成を誘導する作用を有する蛋白質として、骨形成因子(BMP:Bone morphogenetic protein、非特許文献1)が知られており、組換え型ヒトBMPを用いた、骨または軟骨の欠損の修復および治療への臨床応用が研究されている。
【0007】
一般に、BMPは、大量投与では、異所性の骨形成を誘導するなどの予期できない副作用の危険性があるため、BMPを用いた骨形成には、BMPを投与部位において安定かつ有効濃度に保持する必要がある。
【0008】
特許文献5は、BMPの有効濃度を長時間にわたり維持するため、および骨形成の足場を提供するために、BMPをゼラチンハイドロゲルに含浸させて投与する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許US5,955,343
【特許文献2】米国特許US5,670,483
【特許文献3】特表2005−515796号公報
【特許文献4】特開2007−105186号公報
【特許文献5】特開2004−203829号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wozney, et al., Science 1988 Dec 16;242(4885):1528-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、BMPの有効濃度を局所的に維持することができ、かつ、骨形成の足場を提供することができる、自己組織化ペプチドハイドロゲルからなる骨形成促進組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、細胞培養の足場として利用されている自己組織化ペプチドハイドロゲルにBMPを含ませることにより、BMP単独および自己組織化ペプチドハイドロゲル単独の場合と比較して、骨の形成量や成熟速度を顕著に増加させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]骨形成因子(BMP)および配列番号1〜20からなる群から選択される自己組織化ペプチドを含む、骨形成促進組成物。
[2]該自己組織化ペプチドの濃度が、0.5〜5.0%(w/v)である、上記[1]記載の骨形成促進組成物。
[3]骨形成因子が、組換え型の骨形成因子である、上記[1]〜[2]のいずれか一に記載の骨形成促進組成物。
[4]骨形成因子の濃度が、最終濃度2.5〜500μg/mlである、上記[1]〜[3]のいずれか一に記載の骨形成促進組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の骨形成促進組成物は、BMPを骨欠損部位などの体内で一定に放出することができ、かつ、骨形成の足場を提供することができるので、BMP単独および自己組織化ペプチドハイドロゲル単独の場合と比較して、骨の形成量や成熟速度を顕著に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】動物実験モデルの図。家兎頭頂骨を用いた骨造成モデル。A:家兎頭頂骨を横から見た図。家兎頭頂骨上の黒四角形は、純チタン製円筒を示す。B:家兎頭頂骨を上から見た図。4個の黒丸は、家兎頭頂骨に設置された純チタン製円筒を示す。(1): 骨膜を除去した頭頂骨と頭頂骨に空けた4箇所の溝(丸)とその中の5個の骨孔を示す。(2):4箇所の溝(丸)の上に純チタン製円筒を設置した。(3): 設置した純チタン製円筒に移植材料を充填した。または、空のままにした。(4): 移植材料を充填後または空のまま、純チタン製円筒の上を遮蔽材(チタン板遮蔽)で封入した。
【図2】純チタン製円筒を示す。
【図3】組織図。(a) ピュアマトリックスとBMP併用群の組織像 (b) (a)中の丸で囲まれた上方部組織拡大像。 (c) (a)中の丸で囲まれた下方部組織拡大像。NB : 新生骨。CT : 結合組織。OB : 骨芽細胞様細胞。BV:血管
【図4】各実験群の組織像。Empty(コントロール):移植材料なし、BMP:hrBMP−2(25μg/ml)、PM:ピュアマトリックス、PM+BMP:ピュアマトリックス+hrBMP-2(25μg/ml)。
【図5A】円筒内増生組織量、円筒内最大骨高さ、円筒内新生骨量の比較
【図5B】円筒内増生組織量。図5Aに示す表1中の増生組織量の値をグラフ化した。頭頂骨面、円筒内面、上面遮蔽材で囲まれた全体の面積に対する、新生骨、結合組織を含む増生組織の面積比(%)を測定して円筒内増生組織量とした。
【図5C】円筒内最大骨高さ。図5Aに示す表1中の最大骨高さの値をグラフ化した。円筒を基準とし、頭頂骨面に対する垂直方向への新生骨の最大到達距離(mm)を測定して円筒内最大骨高さとした。
【図5D】円筒内新生骨量。図5Aに示す表1中の新生骨量の値をグラフ化した。頭頂骨面、円筒内面、上面遮蔽材で囲まれた全体の面積に対する、新生骨の面積比(%)を測定して円筒内新生骨量とした。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で用いる骨形成因子(BMP:Bone morphogenetic protein)とは、未分化の間葉系細胞を軟骨細胞や骨芽細胞へ分化させる活性あるいは軟骨または骨を形成させる活性を有するタンパク質を意味する。
【0017】
BMPは、396個のアミノ酸からなる前駆体タンパク質がSCPs(subtilisin-like-conversion)によりArg−X−X−Argの部位で切断された後、そのクラスターである114個のアミノ酸のサブユニットで構成された2量体タンパク質(2つの同一のタンパク質の二量体または2つの関連する骨形成タンパク質のヘテロ二量体)である。
【0018】
ヒトでは、例えば、BMP−1〜BMP−9がクローニングされている。また、これらの機能的等価改変体(すなわち天然に存在するBMPのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、しかも、天然に存在するBMPと同じ活性を有するタンパク質)も挙げられる。骨形成因子としては、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7(OP−1)およびBMP−8(OP−2)が好ましく、BMP−2がより好ましい。
【0019】
ヒトBMP−2のmRNAの塩基配列は、GenBank Accession NM_001200に、preproproteinのアミノ酸配列は、GenPept Accession NP_001191に開示されている。ヒトBMP−2の成熟タンパク質はpreproprotein(全396アミノ酸)の第283位〜第396位に該当する。本発明のBMPは、活性を有する限り限定されない。
【0020】
BMPは、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。例えば、遺伝子工学的手法によりBMPをコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に導入して形質転換し、この形質転換体の培養上清から目的とする組換えBMPを得ることができる。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母、昆虫、かいこ、または動物細胞などを用いることができる。
【0021】
BMPの濃度は、限定されないが、最終濃度2.5〜500μg/ml、好ましくは 10〜250μg/ml、より好ましくは、20〜100μg/mlである。
【0022】
本発明で使用する自己組織化ペプチドは、疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基とが一定周期で交互に配置されて疎水性側鎖の非極性の面と親水性側鎖の極性の面とを備える。そして、前記自己組織化ペプチドは、適当な陽イオン存在下において、自己組織化的にナノファイバーを形成し、その結果、ペプチドナノファイバーからなるペプチドハイドロゲルを形成する。
【0023】
前記自己組織化ペプチドにおいて、前記親水性アミノ酸残基は、その側鎖のチャージが正のものと負のものとが一定周期で交互に配置され、前記極性の面が、イオン的に相補的であることが好ましい。前記自己組織化ペプチドは、陽イオンが存在する水溶液中で、ペプチド間に生じる多数の相互作用によって自己組織化する。前記相互作用には、例えば、隣接しているペプチドにおける正チャージのアミノ酸(リジン:K)側鎖と負チャージのアミノ酸(アスパラギン酸:D)側鎖とが形成する相補的なイオン対が含まれる。また、アスパラギンやグルタミン等の親水性アミノ酸残基の非チャージ側鎖があれば、水素結合総合作用に関与する。隣接しているペプチドにおける疎水性側鎖は、ファンデルワールス相互作用に関与する。ペプチド骨格上のアミノ基及びカルボニル基もまた分子間水素結合相互作用に関与しうる。前記正チャージ側鎖のアミノ酸残基としては、アルギニン:R、リジン:K、ヒスチジン:Hがあげられ、前記負チャージ側鎖のアミノ酸残基としては、アスパラギン酸:D、グルタミン酸:Eがあげられ、非チャージ親水性側鎖のアミノ酸残基としては、アスパラギン:N、グルタミン:Q、セリン:S、トレオニン:T、チロシン:Yがあげられ、疎水性側鎖のアミノ酸残基としては、アラニン:A、グリシン:G、バリン:V、ロイシン:L、イソロイシン:I、プロリン:P、フェニルアラニン:F、メチオニン:M、トリプトファン:W、システイン:Cがあげられる。
【0024】
前記自己組織化ペプチドにおいて、疎水性アミノ酸残基と親水性アミノ酸残基との配置の一定周期は、例えば、1残基、2残基、3残基、4残基の交互配置であってよく、好ましくは、1個のアミノ酸残基の交互配置である。
【0025】
自己組織化ペプチドの長さは、例えば、8〜200アミノ酸残基であって、好ましくは、8〜36アミノ酸残基であり、より好ましくは、12〜16アミノ酸残基である。また、前記自己組織化ペプチドのN末端側は、アセチル化されていてもよい。また、C末端はアミド化されていてもよい。前記自己組織化ペプチドの製造方法は、特に制限されず、例えば、従来公知の化学合成方法により合成する方法があげられる。
【0026】
本発明の骨形成促進組成物に含まれる前記自己組織化ペプチドは、一種類でもよく、複数種類でもよい。
【0027】
これらの自己組織化ペプチドの中でも、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニン(RADA)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドを好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac−(RADA)p−CONH2(p=2〜50)で表される。またイソロイシン、グルタミン酸、イソロイシンおよびリジン(IEIK)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドも好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac−(IEIK)pI−CONH2(p=2〜50)で表される。さらにリジン、ロイシン、アスパラギン酸およびロイシン(KLDL)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドも好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac−(KLDL)p−CONH2(p=2〜50)で表される。
【0028】
本発明における自己組織化ペプチドの好ましい具体例としては、(Ac−(RADA)4−CONH2)配列(配列番号:1)を有するペプチドRAD16−I、(Ac−(IEIK)I−CONH2)配列(配列番号:2)を有するペプチドIEIK13、(Ac−(KLDL)−CONH2)配列(配列番号:3)を有するペプチドKLDが挙げられ、RAD16−Iは、PuraMatrix(登録商標)としてその1%水溶液が、株式会社スリー・ディー・マトリックスから製品化されている。PuraMatrix(登録商標)には、1%の(Ac−(RADA)4−CONH2)配列(配列番号:1)を有するペプチドの他、水素イオン、塩化物イオンが含まれる。
【0029】
さらに、自己組織化ペプチドは、例えば、米国特許US5,955,343、米国特許US5,670,483、特表2005−515796号公報(国際公開WO2002/062961号パンフレット)に開示されており、その一例を下記に示す。
【0030】
IEIK9:IEIKIEIKI(配列番号:4)
RAD16−II:RARADADARARADADA(配列番号:5)
EAK16−I:AEAKAEAKAEAKAEAK(配列番号:6)
RAE−16−I:RAEARAEARAEARAEA(配列番号:7)
KAD16−I:KADAKADAKADAKADA(配列番号:8)
EAH16−I:AEAEAHAHAEAEAHAH(配列番号:9)
EFK−16−II:FEFEFKFKFEFEFKFK(配列番号:10)
EFK8−I:FEFKFEFK(配列番号:11)
ELK16−II:LELELKLKLELELKLK(配列番号:12)
EAK16−II:AEAEAKAKAEAEAKAK(配列番号:13)
EAK12:AEAEAEAEAKAK(配列番号:14)
KAE16−IV:KAKAKAKAEAEAEAEA(配列番号:15)
EAK16−IV:EAEAEAEAKAKAKAKA(配列番号:16)
RAD16−IV:RARARARADADADADA(配列番号:17)
DAR16−IV:ADADADADARARARAR(配列番号:18)
DAR16−IV*:DADADADARARARARA(配列番号:19)
DAR32−IV:ADADADADARARARARADADADADARARARAR(配列番号:20)
【0031】
好ましい自己組織化ペプチドは、配列番号:1〜20、より好ましくは、配列番号:1〜3のアミノ酸配列を有するペプチドから選択される少なくとも1つである。
【0032】
本発明において、自己組織化ペプチドハイドロゲルは、前記ペプチドが自己組織化によりナノファイバーを形成した結果として得らるものである。この自己組織化ペプチドハイドロゲルは、骨形成のスカフォールド(足場)として機能しうる。前記ナノファイバーとは、前記自己組織化ペプチドが、例えば、らせん状のβ−シート構造をとったものである。前記ナノファイバーの直径は、例えば、500nm以下、100nm未満、50nm未満、20nm未満、10nm〜20nm、5nm〜10nm、5nm未満である。
【0033】
本発明に用いる自己組織化ペプチドの自己組織化条件には、生理的条件のpHおよび陽イオンがあげられる。
【0034】
本発明において、生理的pHは、pH6からpH8、好ましくは、pH6.5からpH7.5、さらに好ましくは、pH7.3からpH7.5である。また、本発明において陽イオンとは、たとえば、5mM〜5Mのナトリウムイオンまたはカリウムイオンである。特に1価のアルカリ金属イオンの存在が重要である。つまり、生体内に多量に存在するナトリウムイオンおよびカリウムイオンがゲル化の促進に寄与する。一度ゲル化すると通常のタンパク質の変性条件、例えば高温、酸、アルカリ、タンパク質分解酵素、尿素、グアニジン塩酸塩等の変性剤を用いても、ゲルは分解しない。
【0035】
前記自己組織化ペプチドハイドロゲルを形成する方法としては、例えば、最終濃度を、0.5wt%〜5.0wt%、好ましくは、0.5wt%〜3.0%、より好ましくは、0.5wt%〜1.0wt%の前記自己組織化ペプチドの水溶液とし、前記水溶液の塩濃度(例えば、NaCl)を、5mM〜5Mとする方法があげられる。よって、自己組織化ペプチドは、生理食塩水、PBS等でハイドロゲル化する。
【0036】
本発明の、BMPおよび自己組織化ペプチドを含む骨形成促進組成物は、溶液、ゲルまたは固体(粉末も含む)であっても良い。骨形成促進組成物が溶液の場合、自己組織化ペプチドとBMPを含む溶液を調製し、該溶液を目的の部位に充填しin situでゲル化させる。自己組織化ペプチドは、生体と接触させることによりゲル化する。
【0037】
骨形成促進組成物がゲルの場合、BMPを含む自己組織化ペプチドハイドロゲルを目的の部位に充填する。BMPを含む自己組織化ペプチドハイドロゲルを調製方法は限定されない。例えば、自己組織化ペプチドとBMPを含む溶液を調製しゲル化させてもよい。また、自己組織化ペプチドハイドロゲルを作成後に、該ゲルにBMPを含ませることによって調製してもよい。自己組織化ペプチドハイドロゲルにBMPを含ませることは、該ゲルをBMPの溶液に浸漬したり、該ゲルにBMPの溶液を注入することによっても良い。さらに、自己組織化ペプチドハイドロゲルを目的の部位に充填後、該ゲルにBMPを注入しても良い。
【0038】
固体の骨形成促進組成物は、BMPを含む自己組織化ペプチドハイドロゲルを凍結乾燥することによって調製できる。骨形成促進組成物が固体の場合、該凍結乾燥物を目的の部位に充填する。また、自己組織化ペプチドハイドロゲルの凍結乾燥物にBMPの溶液を注入後、目的の部位に充填しても良い。また、自己組織化ペプチドハイドロゲルの凍結乾燥物を目的の部位に充填後、該凍結乾燥物にBMPの溶液を注入しても良い。
【0039】
使用の態様としては、BMPと自己組織化ペプチドを含む溶液を注射器、カテーテルやピペットで目的部位に適用する。注射器、カテーテルやピペットは2つ以上から構成されていてもよい。
【0040】
また、注入可能な程度の流動性を備えている骨形成促進組成物を注射器、カテーテルやピペットで目的部位に注入してもよい。
【0041】
また、この分野で通常用いられるガーゼ、包帯、インプラントなどの支持体や裏打ちの上に骨形成促進組成物を固定することも可能である。
【0042】
その他、骨形成促進組成物の粉末もしくは溶液を充填した噴霧式スプレーを作製することができる。
【0043】
骨形成促進組成物は、さらに、等浸透圧性溶質を含むことが好ましい。前記等浸透圧性溶質とは、前記水溶液中に溶解された非イオン性化合物をいう。前記等浸透圧性溶質としては、例えば、単糖類や二糖類等の糖類があげられ、そのなかでも、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、リボース、マンノース、アラビノース、キシロース等が好ましい。前記等浸透圧性溶質の濃度は、例えば、50mM、150mM、300mM、200〜250mM、250〜270mM、270〜300mM、300〜400mM、400〜500mM、500〜600mM、600〜700mM、700〜800mM、800〜900mMである。その他の等浸透圧性溶質としては、例えば、5〜20%(v/v)のグリセロールがあげられる。
【0044】
前記自己組織化ペプチドハイドロゲルの水分含有量は、例えば、99%を超え、好ましくは、99.5%〜99.9%である。前記ペプチドハイドロゲルの孔サイズは、例えば、50nm〜400nmである。前記ペプチドハイドロゲルは、生体内分解性があり、骨形成とともに吸収される。その分解期間は、例えば、2〜8週間である。前記分解期間は、前記自己組織化ペプチドに、例えば、プロテアーゼによる切断部位を導入するなどして調整可能である。また、完全人工合成が可能であるから、他の動物由来材料と異なり病原菌の感染のおそれを排除できる。
【0045】
本発明の骨形成促進組成物は、コラーゲンやフィブリン糊等の細胞外マトリクス(ECM)タンパク質を含んでもよい。また、ゲル化材料を含んでも良い。例えば、トロンビンや塩化カルシウムを含んでもよい。トロンビンは血漿中のフィブリノーゲンに作用し、フィブリンが生ずる。そして、フィブリンの凝集作用により粘性が増加する。また、増粘剤を含んでも良い。例えば、アルギン酸ナトリウム等の増粘多糖類、グリセリン、ワセリン等があげられる。粘度が増すことにより適用部位における定着性が向上し、骨形成が効果的となる。
【0046】
本発明の骨形成促進組成物は、骨組織又は歯周組織における欠損部位や損傷部位の、修復、復元又は再生の用途に使用できる。また、デンタルインプラント治療においても、デンタルインプラントを挿入するための骨移植が必要になる場合あり、そのような場合にも、本発明の骨形成促進組成物を使用して、骨移植の治癒時間の短縮をすることができる。なお、本発明の骨形成促進組成物の適用分野は、特に制限されず、例えば、頭蓋、顎、顔面の復元外科、美容外科、形成外科、整形外科、口腔外科、耳鼻咽喉科、歯科等の分野に適用できる。
【0047】
したがって、本発明は、骨組織又は歯周組織の再生医療方法若しくは再生法であって、本発明の骨形成促進組成物を使用して、例えば、ヒト及び非ヒト動物の骨形成する工程を含む方法を含む。さらに、本発明は、デンタルインプラント治療方法であって、本発明の骨形成促進組成物を使用して、例えば、ヒト及び非ヒト動物の骨組織又は歯周組織の形成又は再生をする工程を含む治療方法を含む。また、本発明は、骨組織又は歯周組織の再生医療方法若しくは再生法、又は、デンタルインプラント治療方法における本発明の骨形成促進組成物の使用を含む。
【0048】
さらに、本発明は、骨組織又は歯周組織の再生医療方法若しくは再生法、又は、デンタルインプラント治療方法のためのキットであって、前記自己組織化ペプチド、凍結乾燥又は凍結した前記BMPや、試薬等を含むキットを含む。
【0049】
以下、実施例によって、本発明の骨形成促進組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨と適用範囲に逸脱しない限りこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
[材料および方法]
(ウサギ動物実験モデル)
New Zealand White rabbit(8カ月齢、3〜4kg、日本エスエルシー株式会社)5匹を用いた。頭頂部皮膚を切開し、頭頂骨部の骨膜を除去した後、頭頂骨面にトレフィンバー(株式会社デンテック、ボーントレフィン6.0)を用いて、直径6mm、深さ1mmの溝を1匹につき4個形成し、溝の内部骨面に骨孔を各5個作製した(図1(1))後、内径6mm、外径7mm、高さ7mmの純チタン製円筒(株式会社SPF、特注品、チタン>99.5%)を溝にはめ込み固定した(図1(2))。円筒は1匹につき各4個設置し、下記(1)〜(4)の各移植材料を円筒内に移植した。
【0051】
(移植材料の処理)
rhBMP-2(ペプロテック社、Reconbinant Human BMP−2)は20%スクロース水溶液に溶解した(rhBMP-2の20% スクロース水溶液)。1%ピュアマトリックス(登録商標)(株式会社スリー・ディー・マトリックス)は超音波処理(ヤマト科学株式会社、8510J−DTH、37℃、30分間)した後、0.22μmフィルターを通し、20%スクロース水溶液またはrhBMP-2の20% スクロース水溶液に溶解した。移植直前に、PBSを添加することでペプチドハイドロゲル化した。
【0052】
(移植材料の移植)
(1)コントロール(Empty、移植物なし)
(2)rhBMP-2のみ(BMP)
rhBMP-2(円筒内最終濃度25μg/ml)の20% スクロース水溶液:50μl
生理食塩水:50μl
リン酸バッファー(PBS):100μl、
(合計200μl)
(3)ピュアマトリックスのみ(PM)
1% ピュアマトリックス(登録商標):50μl
20% スクロース水溶液:50μl
リン酸バッファー(PBS):100μl、
(合計200μl)
(4)ピュアマトリックスおよびrhBMP-2(PM+BMP)
1% ピュアマトリックス(登録商標):50μl
rhBMP-2(円筒内最終濃度25μg/ml)の20% スクロース水溶液:50μl
リン酸バッファー(PBS):100μl
(合計200μl)
【0053】
rhBMP-2の溶液、ピュアマトリックスのゲル、またはrhBMP-2含有ピュアマトリックスゲル各200μlを頭頂骨部に予め設置してある各純チタン製円筒に、1ml注射用シリンジ(テルモ株式会社、テルモ1mlシリンジ)と18ゲージ針(テルモ株式会社、テルモ注射針18G)を用いて注入した(図1(3))。
【0054】
注入後は直径7mm、厚さ0.3mmの純チタン板(株式会社東京チタニウム、チタン薄板)で円筒上部を閉鎖(図1(4))し、頭頂部皮膚のフラップを閉じて手術終了とした。注入後8週において屠殺し、非脱灰研磨切片を作製し、0.1%トルイジンブルー染色にて円筒内部の組織量、最大骨高さ、骨量について顕微鏡(株式会社キーエンス、BZ−8000)、画像解析ソフト(アメリカ国立衛生研究所、Image J)を用いて計測し、実験群間で比較評価した。
【0055】
[結果]
全ての実験群の円筒内増生組織中に新生骨および結合組織の増生が認められ、組織中には血管構造や骨芽細胞様細胞の存在が認められた(図3)。組織像(図4)に示す通り、4群の中ではピュアマトリックスとBMP併用群で最も多くの増生組織が認められた。
【0056】
画像解析ソフトで定量化したグラフでは、ピュアマトリックスとBMPの併用群は円筒内増生組織量で、コントロール群に比べ有意に増加が認められた(図5A、B)。次に、円筒内最大骨高さでは、ピュアマトリックスとBMP併用群は他のすべての群に比べて有意に増加が認められた(図5A、C)。同様に円筒内骨量においても、ピュアマトリックスとBMP併用群は、コントロール群に比べ有意に増加が認められた(図5A、D)。
【0057】
[考察]
本実験において、ピュアマトリックスとBMPの併用は、コントロールまたはピュアマトリックスやBMPの単独使用群と比べて、骨形成に有用であることが認められた。
【0058】
ピュアマトリックスによる骨形成作用のみでは、骨誘導効果が小さく、骨増生量としては不十分であった。また、BMP単独では空間内での維持が困難なため骨増生量が得られにくかった。そこで、ピュアマトリックスとBMPを混合することで、ピュアマトリックス内にBMPが蓄積・保持されることで、空間内全体の適切な濃度維持が可能になり骨誘導効果が発揮されたため、骨形成作用が増加したと考えられる。
【0059】
ピュアマトリックスは骨形成における細胞の足場や、BMPのキャリアーとして機能しうることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の骨形成促進組成物は、例えば、頭蓋、顎、顔面の復元外科、美容外科、形成外科、整形外科、口腔外科、耳鼻咽喉科、歯科等の分野において、骨組織や歯周組織の欠損・損傷部位の修復、復元、再生のための使用に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨形成因子(BMP)および配列番号1〜20からなる群から選択される自己組織化ペプチドを含む、骨形成促進組成物。
【請求項2】
該自己組織化ペプチドの濃度が、0.5〜5.0%(w/v)である、請求項1記載の骨形成促進組成物。
【請求項3】
骨形成因子が、組換え型の骨形成因子である、請求項1〜2のいずれか一に記載の骨形成促進組成物。
【請求項4】
骨形成因子の最終濃度が、2.5〜500μg/mlである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の骨形成促進組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公開番号】特開2012−82180(P2012−82180A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231554(P2010−231554)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年9月20日 日本口腔外科学会雑誌 第56巻 総会特別号に発表
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】