説明

骨密度減少抑制組成物

【課題】 日常生活の中で、カルシウムの摂取量が不足しても、摂取することで骨の弱体化または骨粗鬆症を予防、あるいは進行を遅延することが可能な骨密度減少抑制組成物を提供する。
【解決手段】 重合度が11以上のリン酸化糖類を含有する骨密度減少抑制組成物。重合度が11以上のリン酸化糖類が、リン酸化デキストリン、リン酸化多糖、リン酸化澱粉、還元リン酸化デキストリンから選ばれる1又は2以上の物質である前記骨密度減少抑制組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症の予防、及びその進行の遅延、骨の弱体化の予防、及びその弱体化の進行の遅延に有効な骨密度減少抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急激な高齢化社会が進む中で、高齢者が元気に暮らせる社会が望まれている。高齢者が生活の質を高く保ち元気に暮らすためには寝たきりにならないことが大切である。寝たきりに移行する原因の一つとして、骨粗鬆症による骨折が挙げられる。
また、年齢を問わず、偏食やダイエット等によるバランスが取れていない食生活により骨の弱体化現象の増加が問題になっている。
カルシウムは骨を構成する大切な元素の一つであり、カルシウムの摂取不足は、骨粗鬆症や骨の弱体化の主な原因とされている。その一方、厚生労働省の国民栄養調査によれば、日本国民の摂取する全ての栄養素の中、カルシウムのみが所要量に達していないとされている。カルシウムは各種食品に満遍なく存在するわけではなく、かなり偏在しているので、所要量を満足するためには、カルシウムの摂取を意識した食事を心がける必要がある。このようなカルシウム不足を解消するために、各種カルシウム強化食品やサプリメントなどが開発されているが、意識的なカルシウム摂取を心がける必要があることには変わりがない。
【0003】
そこで、カルシウム不足を補うために、より体内で吸収されやすいカルシウムとして、乳酸カルシウム、D−グルコン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム(特許文献1)、L−トレオン酸カルシウム(特許文献2)、L−アラボン酸カルシウム(特許文献3)など有機酸カルシウム塩が見出されている。
また、カルシウム吸収を助ける物質や、骨量を向上させるとされる物質がいくつか見出されている。例えば小腸管内でカルシウムを可溶化状態に維持することにより吸収率を高めるとされているカゼインホスホペプチド(およびゲニステインを併用するもの:特許文献4)、腸内細菌により資化され有機酸が生成することにより腸内pHが酸性側に傾くことによりカルシウムが可溶化し吸収されやすくなるとされている難消化性オリゴ糖(ガラクトオリゴ糖:特許文献5、フラクトオリゴ糖:特許文献6など)、その他β−グルコオリゴ糖(特許文献7)、コンドロイチンおよびイソフラボンを併用するもの(特許文献8)、ダイフラクトースアンハイドライド(特許文献9)、コンドロイチン類、コラーゲン、グルコサミン、ビタミンCの4種を併用するもの(特許文献10)などである。
また、本発明者らは、特許文献11により、リン酸オリゴ糖、リン酸デキストリンの多価金属塩類組成物が、カルシウム吸収促進に効果があることを示唆している。
【0004】
【特許文献1】特開平9−157174号公報
【特許文献2】特許第3315947号公報
【特許文献3】特開2006−45137号公報
【特許文献4】特開2001−302539号公報
【特許文献5】特許第3179090号公報
【特許文献6】特開平7−252156号公報
【特許文献7】特開平11−299453号公報
【特許文献8】特開2002−58452号公報
【特許文献9】特開2004−161619号公報
【特許文献10】特開2005−232089号公報
【特許文献11】特開2002−145893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
だが、上記したとおり、日々の生活の中で意識せずにカルシウムを十分摂取することは困難である。従って、その前提の下で骨密度の低下を抑制する物質、即ち、カルシウムの摂取量不足の条件下でも、骨の弱体化や骨粗鬆症を予防、また進行を遅らせることが可能な骨密度減少抑制組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。
即ち、本発明の第1は、重合度が11以上のリン酸化糖類を含有する骨密度減少抑制組成物である。
【0007】
本発明の第2は、重合度が11以上のリン酸化糖類が、リン酸化デキストリン、リン酸化多糖、リン酸化澱粉、還元リン酸化デキストリンから選ばれる1又は2以上の物質である本発明の第1記載の骨密度減少抑制組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、カルシウムの摂取量不足の条件下においても、骨の弱体化や骨粗鬆症を予防、また進行を遅らせることが可能な骨密度減少抑制組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における骨密度減少抑制作用とは、骨密度を維持するのに必要なカルシウム摂取量を下回る低カルシウム摂取量が続いた時の骨密度低下を抑制する作用である。
本発明は重合度が11以上のリン酸化糖類が、比較的少量で骨密度減少抑制作用を顕著に発現することを見出し、本発明の完成に至った。
なお、本発明においては、その構成する糖の重合度が10以下の糖類をオリゴ糖、重合度11以上の糖類を、重合度が低い順にデキストリン、多糖、澱粉(ほとんど未分解)と称する。
【0010】
本発明における骨密度減少抑制組成物は、リン酸化デキストリン、リン酸化多糖、リン酸化澱粉、リン酸化還元デキストリンなど、重合度11以上のリン酸化糖類を含むものであれば、その純度及び製法は問われない。
重合度11以上のリン酸化デキストリン、リン酸化多糖、リン酸化澱粉、リン酸化還元デキストリンとしては、デキストリン、多糖、澱粉、還元デキストリン(以下総称して多糖類と呼称する)にリン酸基が結合したものすべてが挙げられる。
本発明で使用するリン酸化多糖類は、リン酸化澱粉、リン酸化多糖、リン酸化デキストリンを、酵素、酸、熱で低分子化するか、多糖類を直接リン酸化することで得られる。還元物の場合は、リン酸化多糖類を還元するか、還元物を直接リン酸化することで得られる。多糖類としてはコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などの穀物類の澱粉、馬鈴薯澱粉やタピオカ澱粉などの根系類の澱粉など広く一般に使用されている澱粉、及びその分解物である多糖、デキストリンが使用できる。また、多糖類はその構成糖としてグルコース以外の糖、例えば、果糖、マンノース、ガラクトースなどの六炭糖、キシロース、アラビノース、リボースなどの五炭糖、砂糖、ラクト−ス、トレハロース、キシロビオ−ス、メリビオ−ス、キトビオ−ス、ラクチュロ−ス、ゲンチオビオ−ス、パラチノ−ス、トレハルロ−ス、コウジビオ−ス、ニゲロ−ス、ラミナリビオ−ス、カップリングシュガ−、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖などのオリゴ糖やデキストリンのほか、グルコースを構成糖とするものの結合状態の異なるセロビオ−ス、ラミナリビオース、ゲンチオビオースなどのオリゴ糖や、デキストランやセルロースなどの多糖を含むこともできる。
なお、本発明の骨密度減少抑制組成物には、上記のリン酸化デキストリン以外にも、リン酸化単糖、リン酸化オリゴ糖や、または、リン酸化糖アルコール、リン酸化還元オリゴ糖等のリン酸化糖、及びリン酸化されていない単糖、オリゴ糖、デキストリン、多糖、澱粉などが含まれていてもよい。
【0011】
糖類のリン酸化方法は、公知の方法から任意に選択できるが、澱粉や糖類にリン酸塩を混合し、加熱反応させることが一般的に行われる。またフォスファターゼやホスホリラーゼなどの酵素を用いてリン酸化する方法も可能である。
リン酸化に引き続き、低分子化を行う場合も公知の方法から任意に選択できるが、アミラーゼなどの酵素を用いて低分子化する方法、または酸による方法が一般的である。
また、必要に応じて脱色、脱塩、未反応物の除去等精製を行うこともできる。
【0012】
以上述べたとおり、本発明の骨密度減少抑制組成物は、骨の弱体化、骨粗鬆症の予防、進行の遅延等の効果を有するため、医薬品素材、食品素材、あるいは飼料素材として有用である。
【0013】
本発明の骨密度減少抑制組成物を医薬として用いる場合には、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、液剤、カプセル剤等の任意の薬剤形態に加工して用いることが可能である。また、加工時には薬学的に許容される製剤用添加剤を更に添加することが可能である。
【0014】
本発明の骨密度減少抑制組成物を食品として用いる場合には、一般の加工食品、飲料等の任意の食品に添加して用いることができる。
このような食品は、有効成分として本発明の骨密度減少抑制組成物を含有するので、摂取することで、カルシウム不足の状況において、骨の弱体化、骨粗鬆症を予防し、進行の遅延を図る上で有利である。
【0015】
本発明の骨密度抑制剤を動物用の飼料として用いる場合には、養豚用飼料、養牛用飼料、養鶏用飼料等の任意の家畜飼料、ペットフード、各種配合飼料に添加して用いることができる。
なお、動物に骨密度減少抑制組成物を投与する方法としては、飼料等に配合して経口的に摂取させる方法が一般的である。また、水溶性であることから水などの飲料に加えて摂取させる方法も選択できる。
【0016】
本発明の骨密度減少抑制組成物を、食品、医薬品、飼料に配合する場合、対象の体重1kg当たり10〜2000mg摂取できるように配合することが望ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0018】
[リン酸化糖の製造]
コーンスターチ(王子コーンスターチ製、水分13質量%)1200kgを一定の流速でタービュライザに導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩25kgと無水第二リン酸ナトリウム4.6kgを水に溶解して全量477kgのリン酸溶液(pH6.0)を一定の流速で添加して均一に混合した。このリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量0.5質量%、pH5.6)500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で175℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、175℃で120分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸化澱粉(結合リン含量0.4質量%、リン酸化率81%)は450kgであった。
次に、得られたリン酸化澱粉の低分子化を進めた。70℃の水71Lに塩化カルシウム二水和物34gを溶解した後、攪拌しながら前述のリン酸化澱粉8kgを徐々に添加しながら溶解した。水酸化ナトリウムでpH6.0とした後、ターマミル(Termamyl Classic、ノボザイムズ社製)を対澱粉0.05質量%添加し、5分間保持した。粘度が下がり始めると同じリン酸化澱粉4.5kgを徐々に追加添加した。水酸化ナトリウムでpH6.0に再調整後、追加した澱粉に対してターマミルを0.05質量%添加して10分保持した。次に、調製したリン酸化澱粉分散液をジェットクッカーにて温度110℃、滞留時間5分の条件で処理した。この操作を4回繰り返して、50kgのリン酸化澱粉を処理した。ジェットクッカー処理した液をタンクに集め、60℃まで冷却後、ターマミルを対澱粉0.05質量%追加添加し、60℃、3時間反応させた。酵素反応は塩酸でpH3.5に調整し、終了させた。
得られた酵素分解液に粉末活性炭(PM−KIとPM−SXの等量混合物、三倉化成社製)を対固形分10質量%添加し、60℃、2時間攪拌保持した。その後、セラミック濾過機(0.2μm、トライテック社製)で残渣と活性炭を除去した。濾液には無機リンが多く含まれているので、NF膜(日東電工社製、NTR−7450)で脱塩・濃縮処理を行い、無機リン比率を10%まで減少させた。更に、水酸化ナトリウムでpH6.2(1質量%溶液で測定)に調整してから、0.45μmのポリスルフォンのメンブレンフィルター(ロキテクノ社製)で濾過後、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した。
得られたリン酸化糖類組成物Aは36kgであり、重合度が11以上のリン酸化糖類の含有率は40%であった。
以上で得たリン酸化糖組成物Aを、以下の動物実験により評価した。
【0019】
<動物実験>
試験動物として4週齢、雄のCrl:CDラット(日本チャールズリバー(株))を用い、1週間の環境馴化飼育後、5週齢において試験を開始した。
ラットを4群(各群10匹)に分け、内1群を対照群としカルシウムを所要量の40%に減じて配合した飼料(基本飼料はAIN−93M:オリエンタル酵母工業(株))で自由摂取させ、3週間飼育し、カルシウム不足モデル群とした。残り3群は実施例1で得たリン酸化糖類組成物Aを1日に体重1kg当たりそれぞれ10mg、100mg、1000mg摂取するように対照群同様にカルシウムを所要量の40%に減じて配合した混餌飼料を作製し、対称群と同条件で3週間飼育した。飼育期間中、各群の餌の摂取量、ラットの体重に有意な差はなかった。
3週間後、エーテル麻酔下で放血安楽死させ、左脛骨を採取し、70%エタノールに5日間保存後、骨密度をDXA法(Dual-Energy X-ray Absorptiometry)にて測定した。その結果を表1に示す。また対照群に対してそれぞれt−検定を行った。
【0020】
【表1】

【0021】
<実験の評価>
表1に示されるように、リン酸化糖類組成物A100mg摂取群、1000mg摂取群においてp<0.01で有意に骨密度の減少抑制効果が認められた。また10mg摂取群においてもp<0.1で有意に骨密度の減少抑制効果が認められた。
以上、本発明の重合度11以上のリン酸化糖類は、骨密度減少抑制作用を有することが確かめられた。従って、これを含有する骨密度減少抑制組成物は、比較的少量で骨の弱体化、骨粗鬆症の予防および進行の遅延に有効に寄与することは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が11以上のリン酸化糖類を含有することを特徴とする骨密度減少抑制組成物。
【請求項2】
重合度が11以上のリン酸化糖類が、リン酸化デキストリン、リン酸化多糖、リン酸化澱粉、還元リン酸化デキストリンから選ばれる1又は2以上の物質であることを特徴とする請求項1記載の骨密度減少抑制組成物。

【公開番号】特開2009−7263(P2009−7263A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168315(P2007−168315)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】