説明

骨形成因子BMPの機能を調整するDullard分子の用途

【課題】骨形成因子(bone morphogenesis proteins, BMP)の受容体のひとつであるBMPRIIに結合してその分解等を促進する分子を発見し、その分解の仕組みを明らかにすること。
【解決手段】Dullard分子を活性成分とするBMPRIIの分解促進剤、ユビキチン化促進剤、及び、BMPシグナル経路阻害剤、Dullard分子によるBMPRIIの分解促進又はユビキチン化促進作用における変化に基づく、Dullard分子とBMPRIIとの結合を調節する物質のスクリーニング方法、及び、該スクリーニング方法に使用する検出キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Dullard分子を活性成分とする、BMPRIIの分解促進、BMPRIIのユビキチン化促進、及びBMPシグナル経路阻害等の各種活性を有する剤、並びに、Dullard分子によるBMPRIIの分解促進又はユビキチン化促進作用における変化に基づく、Dullard分子とBMPRIIとの結合を調節する物質のスクリーニング方法及び検出キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物の初期発生で、骨の発生、成長、再生、修復を担う因子として同定された骨形成因子(bone morphogenesis proteins, BMP)は、その後の研究から、出生前と出生後の眼、心臓、じん臓、皮膚、その他の臓器の発生と成長も担うことが分かっている (Zhao, 2003)。先天的にある種のBMP分子を欠いた、あるいは、BMP分子に異常がある個体は、受精後に正常な発生(初期発生)を行なうことができず、その結果、眼の発生不全やじん臓の発生不全など、重篤な疾患や、場合によっては死に至る (Waite and Eng, 2003)。したがって、BMP分子の機能をうまく活用することで、例えば、眼の不全やじん臓の不全を治療できる薬物を開発できる可能性がある。
【0003】
BMPは20種類を超える一群の分子であり、その機能は多岐を極める。BMP分子は標的細胞の表面にある2種類の受容体(I型または、BMPRI、およびII型またはBMPRII)にBMPが結合し、その結合情報が細胞内部に送られて、上記に示したような色々な機能が生まれる (Chen et al., 2006; Derynck and Zhang, 2003; Massague and Chen, 2000)。このことは、BMP分子自体に異常が無い個体でも、受容体に異常があれば、やはり、その個体に異常が起こることを示している。
【0004】
このような異常を持った患者を治療するために、BMP受容体を調節する分子の探索がなされてきており、現在のところ、BMPRIを阻害する分子や、BMPRIの分解を促進する分子が幾つか知られている(非特許文献1:Miyazono et al, 2005)。一方、BMPRIIについては、これまで、その機能を特異的に阻害する分子や、その分解を促進する分子は同定されてこなかった。
【0005】
Dullardは、本発明者らが、世界に先駆けて分離した遺伝子で、その転写産物Dullard分子の機能は、神経の初期発生に必須であるが、神経の発生を促進する仕組みは不明だった(非特許文献2:Satow et al., 2002)。
【0006】
【非特許文献1】Miyazono, K., Maeda, S. and Imamura, T. (2005) Cytokine Growth Factor Rev. 16, 251-263
【非特許文献2】Satow, R., Chan, T.C. and Asashima, M. (2002) Biochem. Biophys. Res. Commun. 295, 85-91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の主な目的は、BMPRIIに結合してその分解等を促進する分子を発見し、その分解の仕組みを明らかにすること等である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、発明者は、Dullard 分子がBMP分子が結合する2種類の受容体の機能を共に調節することができる機能を有することを同定した。即ち、Dullard分子は、BMPRIIに特異的に結合して、そのユビキチン化を促進し、その結果、BMPRIIの分解を特異的に促進することを初めて見出した。本発明は、係る知見に基づき完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は以下の各態様に係るものである。
[態様1]Dullard分子を活性成分とするBMPRIIの分解促進剤、ユビキチン化促進剤、及び、BMPシグナル経路阻害剤。
[態様2]Dullard分子によるBMPRIIの分解促進又はユビキチン化促進作用における変化に基づく、Dullard分子とBMPRIIとの結合を調節する物質のスクリーニング方法。
[態様3]上記スクリーニング方法に使用する検出キット。
【発明の効果】
【0010】
Dullard分子はBMPRIIに特異的に結合して、そのユビキチン化を促進し、その結果、BMPRIIの分解を特異的に促進する分子であること、及び、この効果がヒトにおいても有効であることが判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明第一の態様である、BMPRIIの分解促進剤、BMPRIIのユビキチン化促進剤、及びBMPシグナル経路阻害剤は、BMPRIIの分解促進作用、BMPRIIのユビキチン化促進作用、及び、その結果としてのBMPシグナル経路阻害作用(Dullard分子の生理的作用)を有するDullard分子を活性成分として含有するものである。尚、Dullard分子が有するこれら作用は本明細書中の実施例に具体的に記載されている。従って、本発明は、BMPRIIの分解促進、BMPRIIのユビキチン化促進、また、BMPシグナル経路阻害をするための、Dullard分子の使用(方法)にも係るものである。
【0012】
本発明におけるDullard及び/又は BMPRII分子の生物種に特に制限はなく、例えば、哺乳動物、ゼブラフィッシュ等の魚類、及びカエル等の両性類に由来する当業者に公知の任意のものを使用することができる。又、内因性又は外来性のいずれでも良い。
【0013】
好適例としては、図6にアミノ酸配列(一文字表記)が示されるような、ヒト、サル、マウス、ウシ、イヌ、ゼブラフィッシュ及びカエルから成る群から選ばれる動物種に由来するもの、又は、該Dullard分子と85%以上、好ましくは90%以上の相同性及び同等の生理的活性を有するポリペプチドを挙げることが出来る。
【0014】
ここで、「相同性」とは、ポリペプチド配列(あるいはアミノ酸配列)又はポリヌクレオチド配列(あるいは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同志の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものである。相同性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、「相同性」(「同一性」とも言われる)なる用語は、当業者には周知である (例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994);von Heinje, G., Sequence Analysis in Molecular Biology, Academic Press,New York, (1987); Gribskov, M. & Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991) 等) 。二つの配列の相同性を測定するのに用いる一般的な方法には、Martin, J. Bishop (Ed.), Guide to Huge Computers, Academic Press, San Diego, (1994);Carillo, H. & Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988) 等に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
相同性を測定するための好ましい方法としては、試験する二つの配列間の最も大きな適合関係部分を得るように設計したものが挙げられる。このような方法は、コンピュータープログラムとして組み立てられているものが挙げられる。二つの配列間の相同性を測定するための好ましいコンピュータープログラム法としては、GCG プログラムパッケージ (Devereux, J. et al., Nucleic Acids Research, 12(1): 387 (1984)) 、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215: 403 (1990)) 等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、当該分野で公知の方法を使用することができる。
【0016】
BMPRII自体は公知であり、当業者に公知の任意のタンパク質精製方法で調製することが出来る。上記の各種剤には、活性成分と組合せて、薬学上許容できる、当業者に公知の任意の医薬キャリア−又は希釈剤等のその他の成分を含むことが出来る。
【0017】
本発明の有効成分の薬学的な有効量及び投与方法又は投与手段は、有効成分の種類、病状の重さ、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の(遺伝的)人種的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。例えば、活性成分の投与量は0.01〜1000mg/日/成人、より一般的には0.1〜100mg/日/成人である。
【0018】
本発明の各種剤は投与方法・投与経路等に応じて当業者に公知の任意の形状とすることが出来る。それらは適当な方法で投与することが出来る。例えば、形状としては、液体状、粉末状、及びコロイド状等があり、上記のキャリア−又は希釈剤を伴った形で、静脈内、腹腔内、皮下に注射するか、又は、経口投与等が挙げられる。
【0019】
本発明の第二の態様は、Dullard分子によるBMPRIIの分解促進又はユビキチン化促進作用における変化に基づく、Dullard分子とBMPRIIとの結合を調節する物質のスクリーニング方法に係る。このスクリーニング方法は、本発明者が新たに見出した、Dullard分子による生理的作用を利用することを特徴とするもので、被検物質による該作用を変化が検出することができるものであれば、その検出原理・手段・方法等に特に制限はない。
【0020】
例えば、内因性のDullard分子及びBMPRIIを適当量発現している細胞があれば、それを使用して該スクリーニング方法を実施することが出来る。或いは、外来性Dullard遺伝子及び/又は外来性BMPRI遺伝子で形質転換した組織又は細胞を使用する方法を挙げることが出来る。より具体的には、例えば、以下の各工程を含むスクリーニング方法を挙げることができる:
(a)被検物質の存在下に外来性Dullard遺伝子及び/又は外来性BMPRI遺伝子で形質転換した組織又は細胞を培養する工程、
(b)形質転換した組織又は細胞におけるDullard分子によるBMPRIIの分解促進作用又はユビキチン化促進作用における変化を検出する工程、及び
(c)変化をもたらす物質を選択する工程。
【0021】
ここで、形質転換される組織又は細胞に特に制限はなく、スクリーニングの目的、被検物質の種類及び用途・対象等に応じて、各種の市販品を含めて、当業者に公知の任意のものを使用することが出来る。例えば、本明細書に実施例に記載されているような、カエル胚、及び、ヒト又はサル等の哺乳動物の腎臓由来の各種細胞株を挙げることが出来る。
【0022】
形質転換された組織又は細胞内における外来性Dullard遺伝子及び外来性BMPRI遺伝子の発現は、一過性の系又はゲノム内に組み込まれた安定的に発現する系の何れであっても良い。一過性の系の場合には、通常、遺伝子導入から半日から数日程度経過した後(例えば、40−60時間後)に各作用の検出を行う。又、上記遺伝子が安定的に発現するような形質転換組織又は細胞を使用する系では、数ヶ月に亘ってスクリーニングすることも可能である。
【0023】
外来性Dullard遺伝子及び外来性BMPRI遺伝子自体は各遺伝子のゲノムDNAに対応するmRNA又はcDNA等の任意の形態の核酸分子を含むものである。これら遺伝子の塩基配列は当業者に公知であり、上記の公知文献等の記載に基づき任意の方法で調製することが出来る。例えば、PCR、並びに、その他のNASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法及びSDA(Strand Displacement Amplification)法等の当業者に公知の任意DNA増幅技術を用いることにより、該遺伝子のcDNAとして容易に得ることが可能である。
【0024】
或いは、上記遺伝子は当業者に周知の方法により上記cDNAライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。更に、該遺伝子のcDNAに、当業者に公知の部位特異的突然変異誘発に基づき、市販のミューテーションシステム等を用いて塩基変異を導入して調製することも可能である。
【0025】
又、上記遺伝子は、公知の方法(例えば、Carruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 47:411-418;Adams(1983)J. Am. Chem. Soc. 105:661; Belousov(1997)Nucleic Acid Res. 25:3440-3444; Frenkel(1995)Free Radic. Biol. Med. 19:373-380; Blommers(1994)Biochemistry 33:7886-7896; Narang(1979)Meth. Enzymol. 68:90; Brown(1979)Meth. Enzymol. 68:109; Beaucage(1981)Tetra. Lett. 22:1859; 米国特許第4,458,066号)に記載されているような周知の化学合成技術により、in vitroにおいて合成することもできる。また、本発明のポリヌクレオチドを適当な制限酵素で切断する等の方法によって作製することもできる。
【0026】
外来遺伝子は、当業者に公知の任意の方法で組織又は細胞に導入することが出来る。例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、トランスフェリン受容体を使用する方法、ペネトラチン等の膜透過性ペプチドを使用する方法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション及びパーティクルガン等の物理的方法、更には、レトロウイルス及びアデノウイルス等の適当なウイルスを用いる方法を挙げることが出来る。
【0027】
上記の各種形質転換法に応じて、各遺伝子は、そのまま単独の形態(例えば、mRNA分子)、又は適当なベクター(同じベクター又は別のベクター)に組み込まれた形態で導入される。例えば、このようなベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びアデノ随伴ウイルスベクター等の各種ウィルスベクター、非ウィルス型ベクター又は混成型ベクター等を挙げることが出来る。このようなベクターには各種の遺伝子発現調節配列、クローニング部位、薬剤耐性遺伝子等の各種要素が適宜含まれており、当業者に公知の任意の方法で作製することができる。
【0028】
被検物質の存在下に外来性Dullard遺伝子及び/又は外来性BMPRI遺伝子で形質転換した組織又は細胞を培養するには、被検物質を当業者に公知の適当な方法で培養系に添加すればよい。人工リポソーム内にこれら遺伝子と共に被検物質を包み込んで組織又は細胞内に導入することが出来る。又は、形質転換組織又は細胞の培養液に適当量添加する方法もある。これらの方法は、被検物質及び形質転換組織又は細胞の種類等に応じて当業者が適宜選択することが可能である。
【0029】
本発明のスクリーニング方法において、Dullard分子によるBMPRIIの分解促進及びユビキチン化促進作用並びにそれらの変化は、当業者の公知の任意の方法、例えば、免疫組織化学及びウェスタンブロット(イムノブロット)法等の抗原抗体反応を利用した方法等により、組織又は細胞内に存在するBMPRII又は(ポリ)ユビキチン化BMPRIIタンパク質を測定することにより検出することが可能である。
【0030】
このような抗原抗体反応を利用する場合には、BMPRIIをHA(haemagglutinin)、FLAG及びMyc等の適当なタグ物質(抗体ペプチド)との融合タンパク質として発現させ、該タグ物質に対する抗体(一次抗体)を使用することが好ましい。このような一次抗体及び該一次抗体に対する二次抗体(酵素、蛍光物質等による標識されているものも含む)は市販されており容易に入手することが出来る。
【0031】
或いは、上記のBMPRII若しくはその適当な部分ポリペプチド(ペプチド断片)又はそれらの各種誘導体又は複合体等を抗原物質又は免疫原として用いる当業者に公知の適当な方法で、BMPRII又は(ポリ)ユビキチン化BMPRIIタンパク質に対する抗体を調製することが可能である。例えば、ポリクローナル抗体の場合には、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリ等の適当な動物に投与し、その抗血清から調製することが可能である。或いは、モノクローナル抗体作成法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年; "Monoclonal Antibody" James W. Goding, third edition, Academic Press, 1996)等に記載の公知の細胞融合を用いる方法でモノクローナル抗体として調製することも可能である。
【0032】
組織又は細胞におけるDullard分子によるBMPRIIの分解促進作用又はユビキチン化促進作用における変化を検出する工程は、必ずしも定量的な測定である必要はなく、具体的な測定法・手段に応じて、目視などによる定性的又は半定量的な測定であっても本発明の効果は十分に得ることが出来る。
【0033】
本発明のスクリーニング方法において、Dullard分子によるBMPRIIの分解促進作用又はユビキチン化促進作用を更に促進する変化をもたらす物質として選択されたものは、BMPRIIに対するアゴニスト活性を有する物質である可能性がある。即ち、このような物質には、Dullard分子と同様に、BMPRIIの分解促進、ユビキチン化促進、又は、BMPシグナル経路阻害作用を有する物質、又は、Dullard分子のこのような作用を促進する物質が含まれる。
【0034】
これに対して、Dullard分子によるBMPRIIの分解促進作用又はユビキチン化促進作用を阻害又は抑制する変化をもたらす物質として選択されたものは、BMPRIIに対するアンタゴニスト活性を有する物質である可能性がある。
【0035】
本発明の第三の態様は、上記スクリーニング方法に使用する検出キットに係る。該キットは、測定原理等に応じて、適当な構成をとることが出来る。該キットは、例えば、上記の各種抗体、及び形質転換細胞等を含む。既に記載したように、上記キットに構成要素として含まれる、各種のプライマー、プローブ、又は、抗体は、当業者に公知の任意の放射性物質、蛍光物質、色素等の適当な標識物質によって標識されていても良い。更に、上記キットには、その構成・使用目的などに応じて、当業者に公知の他の要素又は成分、例えば、各種試薬、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等が含まれる。
【0036】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。又、特に記載のない場合には、以下の実施例は、当該技術分野における常法及び当業者に公知の標準的な方法、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている遺伝子工学及び分子生物学的技術に従い実施した。又、本明細書中に参考文献などとして引用された文献の記載内容は本明細書の開示内容の一部を構成するものである。
【0037】
以下、実施例に則して本発明を更に詳しく説明する。尚、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、本明細書中で引用される技術文献の内容は、本明細書の開示内容の一部と見なされる。
【実施例1】
【0038】
はじめにカエル由来のDullard分子が、カエル(Xenopus laevis)由来のBMPRIIを特異的に分解するか否かを、カエルの胚を用いて、Dullardと血球凝集素であるheamagglutininの抗体ペプチド (HA) でタグ標識したBMPRII (BMPRII-HA) と 同じくタグ標識したアクチビン受容体 (ActRII-HA) を用いて検討した。尚、ActRIIは、Dullardと結合しないので、この試験が特異的な否かが検証できる。尚、カエル胚は、メスカエルに塩化ゴナドトロピン(ゲストロン:デンカ製薬)を注射し試験管内で受精させ調製した。
【0039】
具体的には、上記の各分子(ポリペプチド)をコードする遺伝子を含むプラスミドを適当な制限酵素を用いて直鎖状にした後、インビトロで転写してキャップ化mRNAを合成した(mMESSAGE mMACHINE kit Ambion)。その後、4細胞ステージ(Niewkoop 及びFaberの基準による)にあるカエル初期胚の動物極領域にマイクロインジェクション法でキャップ化mRNAを導入した(非特許文献2)。その後、8.5-9 ステージで切り裂き、検出するまで0.1% BSA含有シュタインバーグ溶液中でインキュベートした。その後、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)含有溶解緩衝液(1% Tritonx-100, 250mM NaCl, 50 mM Hepes, pH 7.0)で胚を溶解して、常法のウェスタンブロットにより胚中に存在する各タンパク質を測定した。抗HA抗体としては12CA5及び 3F10(Roche)を使用した。
【0040】
その結果、Dullard遺伝子を共注入しない試料ではBMPRII-HAとActRII-HAの双方の蛋白質が検出されたが、Dullard遺伝子を入れた試料ではBMPRII-HAだけが消失した。すなわち、Dullardの存在下で、BMPRII-HAが特異的に分解されたことが示唆された(図1)。
【実施例2】
【0041】
更に、実施例1と同様な方法で、対照試料としてMyc標識したDullard (Myc-Dullard)を用いて特異的分解を検証した。
【0042】
その結果、Myc-DullardがBMPRII-HAを特異的に分解することが分かった(図2)。Dullardにはphosphatase活性があることを確認しており(結果省略)、その活性中心であるD67とD69をそれぞれE67とE69に変異したDullard変異体 (Myc-Dullard(D69E), Myc-Dullard(D67E)) を用いたところ、BMPRIIの分解が阻害された。なお、actinは、添加量を確認するためのcontrolである。尚、抗Myc抗体(9E10, Santa Cruz)及び抗Actin抗体(AC-40, Sigma)を使用した。
【実施例3】
【0043】
以上の結果から、in vivoでDullardがBMPRIIと結合して、特異的にBMPRIIを分解することが分かった。そこで、次に、サルのじん臓に由来する細胞株(COS7細胞:CRL-1651, ATCC)を使って、カエルDullardがカエルBMPRIIの分解をどのように促進するかを検討した。
【0044】
COS7細胞は、10%ウシ胎児血清(FCS)及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)で37℃、5%COで培養した。リポフェクタミン2000(Invitorgen)を用いたリポフェクション法により、該系の指示に従い、該培養細胞にBMPRII-HA及びFLAGペプチドでタグ標識したDullard分子 (F-Dullard)をコードするcDNAが挿入された適当なベクターを導入した。このようにしてCOS7細胞にカエルBMPRII-HAを発現させて数日後に細胞を固定し、抗HA抗体(3F10, Roche)で免疫染色(赤色)した。
【0045】
その結果、BMPRIIが主に細胞表面に発現することが示された(図3、2段目中央のパネル、赤色)。この細胞に、F-Dullardを発現させて数日後に抗FLAG抗体(M2, Sigma)で免疫染色し、蛍光顕微鏡で観察すると、細胞全体にドット状にDullardが発現することが確認された(図3、1段目左のパネル、緑色)。同じ細胞に、F-DullardとBMPRII-HAを同時に発現させると、DullardとBMPRIIの双方が、核膜周辺に局在し、かつ、その発現量も減ることが確認された(図3下段左と中央)。なお、右のパネルは、左(F-Dullard)と中央(BMPRII)のマージイメージ。このように、サルの細胞で、DullardがBMPRIIと特異的に結合し、かつ、BMPRIIの分解を促進することが分かった。尚、核はDAPIで染色した。
【実施例4】
【0046】
次に、同じくカエルDullard分子が、哺乳類細胞において、カエルBMPRIIを特異的に分解するか否かを、また、その分解が蛋白質分解系であるユビキチン-プロテオソーム系を使ったものかを検証するために、COS7細胞を実施例3と同様のリポフェクション法によりF-DullardとBMPRII-HAを発現させ、形質転換した細胞の培地にプロテオソーム阻害薬であるMG132を添加(15μM)して15時間培養し、その後、実施例1と同様に処理して、常法のウェスタンブロットで検討した。その結果、BMPRIIはF-Dullardにより分解されるが、MG132を加えると分解が阻害されることが判明した。従って、DullardによるBMPRIIの分解が、ユビキチン-プロテオソーム系によることが検証された(図4)。尚、α-tubulinは図2のactinと同様にcontrolとして用いたものである。尚、抗HA抗体(3F10, Roche)、抗FLAG抗体(M2, Sigma)、及び、抗Tubulin抗体(T9026, Sigma)使用した。

【実施例5】
【0047】
次に、以上の結果がヒト細胞を使用した系にも適用できること検証するために、ヒトじん臓由来の細胞(293T細胞:CRL-11268, ATCC)を使い、蛋白質分解系であるユビキチン系が活性化されているか否かをFlagタグ標識したユビキチン (Flag-Ub)を使い検討した。
【0048】
具体的には、293T細胞にBMPRII-HA、Flag-Ub及びMyc- Dullard遺伝子を実施例3と同様のリポフェクション法で導入し、42時間培養した後、抗FLAG抗体(M2, Sigma)を用いた常法の免疫沈降(IP)、並びに、抗FLAG抗体(M2, Sigma)及び抗HA抗体(3F10, Roche)を用いた常法のウェスタンブロット(IB)で検出した。
【0049】
その結果、Dullardが無い試料ではBMPRII-HAは殆どユビキチン化されないが、一方、Dullardを加えた試料ではBMPRII-HAが有意にユビキチン化され、プロテオソームにより認識・分解されるポリユビキチン化されたBMPRII-HAのラダーバンドが明瞭に見られた。一方、Dullardの変異蛋白質であるD67Eを使った時には、ユビキチン化が抑制され、かつ、ユビキチン化されたラダーバンドが不明瞭になった(図5)。従って、Dullard分子はBMPRIIの分解を、ユビキチン化を介して促進することが確認された。
【0050】
以上のように、本発明者は、Dullard分子がBMPRIIに結合し、その分解を促進して、II型受容体を介して発揮されるBMP分子の作用を抑制すること、及び、この分解促進がサルやヒトの細胞においても効果的であることを実験により示した。
【0051】
尚、図6において、ヒト(Homo sapience)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マウス(Mus Musculus)、ウシ(Bos taurus)、イヌ(Canis familiaris)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、カエル(Xenopus laevis)のDullard分子のアミノ酸配列(一文字表記)を比較した。これら全ての動物種で、アミノ酸配列がよく保存されており、ホモロジーは、カエルとヒト間で92%、カエルとアカゲザル間で92%、カエルとマウス間で92%、カエルとウシ間で93%、カエルとイヌ間で92%、カエルとゼブラフィッシュ間で89%だった。このように、ヒトを含めた哺乳類のDullardとカエルのDullardが大変よく似ており、かつ、以上の実施例において、COS7細胞や293T細胞でカエルDullardがBMPRIIと特異的に結合し、且つ、分解を促進することが実際に確認された。従って、本発明はヒトを含めた哺乳類の系にも有効である。
【0052】
参考文献
1. Zhao, G.Q. (2003) Genesis 35, 43-56.
2. Waite, K.A. and Eng. C. (2003) Nat. Rev. Genet. 4, 763-773.
3. Chen, H.B., Shen, J., Ip, Y.T., and Xu, L. (2006) Genes Dev. 20, 648-753.
4. Derynck, R. and Zhang, Y.E. (2003) J. Biol. Chem. 279, 33567-33574.
5. Massague, J. and Chen, Y.G. (2000) Genes Dev. 14, 627-644.
6. Miyazono, K., Maeda, S. and Imamura, T. (2005) Cytokine Growth Factor Rev. 16, 251-263.
7. Satow, R., Chan, T.C. and Asashima, M. (2002) Biochem. Biophys. Res. Commun. 295, 85-91.
【産業上の利用可能性】
【0053】
Dullard分子の細胞における機能を解明することで、BMP分子やBMPRIIに関わる機能不全患者の早期診断や、更には、治療の手がかりを得ることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】Dullard分子の存在下で、BMPRII-HAが特異的に分解されたことを示すウェスタンブロットの写真である。
【図2】Dullard分子の存在下で、BMPRII-HAが特異的に分解されたことを示すウェスタンブロットの写真である。
【図3】DullardがBMPRIIと特異的に結合し、且つ、BMPRIIの分解を促進することを示す、免疫染色の写真である(倍率:200倍)。
【図4】DullardによるBMPRIIの分解がユビキチン-プロテオソーム系によることを示すウェスタンブロットの写真である。
【図5】Dullard分子がBMPRIIの分解をユビキチン化を介して促進することを示すウェスタンブロットの写真である。
【図6】各種生物種におけるDullard分子のアミノ酸配列を比較したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Dullard分子を活性成分とするBMPRIIの分解促進剤。
【請求項2】
Dullard分子を活性成分とするBMPRIIのユビキチン化促進剤。
【請求項3】
Dullard分子を活性成分とするBMPシグナル経路阻害剤。
【請求項4】
Dullard及び/又は BMPRIIが、ヒト、サル、マウス、ウシ、イヌ、ゼブラフィッシュ及びカエルから成る群から選ばれる動物種に由来するもの、又は、該Dullard分子と85%以上の相同性及び同等の生理的活性を有するポリペプチドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
Dullard分子によるBMPRIIの分解促進又はユビキチン化促進作用における変化に基づく、Dullard分子とBMPRIIとの結合を調節する物質のスクリーニング方法。
【請求項6】
外来性Dullard遺伝子及び/又は外来性BMPRI遺伝子で形質転換した組織又は細胞を使用する、請求項5記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項6記載のスクリーニング方法であって、
(a)被検物質の存在下に外来性Dullard遺伝子及び/又は外来性BMPRI遺伝子で形質転換した組織又は細胞を培養する工程、
(b)形質転換した組織又は細胞におけるDullard分子によるBMPRIIの分解促進作用又はユビキチン化促進作用における変化を検出する工程、及び
(c)変化をもたらす物質を選択する工程、を含む前記方法。
【請求項8】
形質転換組織又は細胞における外来性Dullard遺伝子及び外来性BMPRI遺伝子の発現が一過性である、請求項6又は7記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
外来性Dullard遺伝子及び/又は外来性BMPRI遺伝子を、各遺伝子に対応するmRNA又はcDNAの形態で組織又は細胞に導入する、請求項6ないし8のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
Dullard分子によるBMPRIIの分解促進作用を、BMPRIIとそれに対する抗体との抗原抗体反応を用いて検出する、請求項5ないし9のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
Dullard分子によるBMPRIIのユビキチン化促進作用を、ポリユビキチン化されたBMPRII量を測定することにより検出する、請求項5ないし9のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
組織がカエル胚である、請求項6ないし10項のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
細胞が哺乳類の細胞である、請求項6ないし10項のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
Dullard分子及び/又は BMPRIIが、ヒト、サル、マウス、ウシ、イヌ、ゼブラフィッシュ及びカエルから成る群から選ばれる動物種に由来するもの、又は、該Dullard分子と85%以上の相同性及び同等の生理的活性を有するポリペプチドである、請求項5〜13のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
被検物質がBMPRIIに対するアゴニスト活性を有する物質である、請求項5〜14のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
被検物質がBMPRIIの分解促進、ユビキチン化促進、又は、BMPシグナル経路阻害作用を有する物質、又は、Dullard分子によるそれらの作用を促進する物質である、請求項13記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
被検物質がBMPRIIに対するアンタゴニスト活性を有する物質である、請求項5〜14のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
被検物質がDullard分子によるBMPRIIの分解促進、ユビキチン化促進、又は、BMPシグナル経路阻害作用を阻害する物質である、請求項17記載のスクリーニング方法。
【請求項19】
請求項5〜18のいずれか一項に記載のスクリーニング方法に使用する検出キット。

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−133226(P2008−133226A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321043(P2006−321043)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】