説明

骨盤クッション

【課題】構造が複雑化することなく、利用者の体形にとらわれず簡便に使用できて、臀部から腰部にかけての補整とこれに伴う血行促進を効果的に図ることのできる骨盤クッションを提供する。
【解決手段】着座者の着座部に位置するクッション部材4の上面における両側部と後部とが中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されるとともに、これら傾斜面に沿う位置にそれぞれ空気袋11,12,13が配され、これら空気袋11,12,13に空気を注入することで表層クッション部材6の一部が膨出されて着座者の臀部が側方および後方から締め付けられるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰椎や骨盤部の補整機能を発揮する骨盤クッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、人は椅子に着座して作業等を行う場合、着座姿勢が悪いと腰部や骨盤部に変則的な力が働いて疲労感を高めることになり、この状態が長期にわたると腰部や骨盤部に異常を来たし腰痛などの障害が発生することがある。
【0003】
このようなことから、特許文献1においては、椅子の着座部両脇に流体で膨らませることができるクッションを配置し、ポンプなどの加圧手段によってそのクッションを膨らませ、椅子に着座した人(利用者)の腰部から臀部を両側からクッションで挟み付けるようにして、骨盤部の広がりを抑え、腰痛や骨盤、脊髄等のズレを防ぐようにした骨盤サポート椅子が提案されている。また、特許文献2においては、椅子の着座部を着座した人の身体中心位置を軸として、側方に設けた位置調整要素を左右方向に交互に傾動させるようにして人体の骨盤部を運動させ、血行を促進させるようにした座席が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−360376号公報
【特許文献2】特表2002−507900号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1によって提案された骨盤サポート椅子では、背もたれ部、腰掛部、肘当て部等で構成される椅子において、肘当て部の内側面にクッションを配し、このクッションによって着座した利用者の臀部から腰部を左右から包み込んで挟み付ける構造にされているので、その効果を得るには利用者の体形にマッチしていることが要求される。このため、体格が大きい人の場合には窮屈な姿勢を強いられることになり、逆に体格が細身である人の場合には、挟み付けの効果が乏しくて有効でないという問題点がある。また、装置構成が全体として大型化し、構造的に複雑化することから高価になるという問題点がある。
【0006】
一方、特許文献2によって提案された傾動する座席については、その傾動のために少なくとも二個の位置調整要素(上下動を起こさせる装置)が必要で、その位置調整要素を交互に上下変動させるための動力を要するので、このものも構造的に複雑になり高価なものとなってしまう。しかも、着座している利用者が位置調整要素の作動によって着座部が左右交互に傾動するものであるから、どうしても違和感が生じて緊張をほぐすには問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、構造が複雑化することなく、利用者の体形にとらわれず簡便に使用できて、臀部から腰部にかけての補整とこれに伴う血行促進を効果的に図ることのできる骨盤クッションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明による骨盤クッションは、
座部フレームと、前記座部フレームに対して俯仰可能な背部フレームと、前記座部フレームおよび前記背部フレームを覆うように配されるクッション部材と、前記クッション部材を包む表層クッション部材とを備える骨盤クッションであって、
着座者の着座部に位置するクッション部材の上面における両側部と後部とが中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されるとともに、これら傾斜面に沿う位置にそれぞれ空気袋が配され、これら空気袋に空気を注入することで前記表層クッション部材の一部が膨出されて着座者の臀部が側方および後方から締め付けられるように構成されていることを特徴とするものである(第1発明)。
【0009】
本発明において、前記座部フレームは、着座者の着座部に位置する第1フレーム部と、この第1フレーム部の基端部に屈曲部を介して着座者の背部に沿うように立設される第2フレーム部とを備え、この第2フレーム部の上端部に連結具を介して前記背部フレームが俯仰可能に取り付けられるのが好ましい(第2発明)。
【0010】
ここで、前記背部フレームは、起立位置と折畳位置とで前記座部フレームに対して位置保持可能とされ、前記折畳位置において当該骨盤クッションが枕として利用されるのが良い(第3発明)。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、座部フレームを覆うクッション部材上に利用者(着座者)が自身の臀部をあてがうように座ると、クッション部材の上面における両側部と後部とが中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されているので、着座者の臀部は左右が両側部の傾斜面により受止められ、後部が背部フレーム側の傾斜面に受止められる。この際、着座者の臀部(尾骨部側を含む)は三点支持されるが、左右両側部および後部の傾斜面に接触することで、鉛直に作用する体重の分力により各傾斜面に沿って中央部に向かって滑り込むことになる。この状態で、空気袋に空気を注入すると、両側部と後部における表層クッション部材が膨出されて着座者の臀部が側方および後方から締め付けられ、臀部から大腿部上半にかけては、特に左右方向から挟み付けられる作用力を受けることになる。この際、尾骨部側では後部の空気袋の膨張による働きで臀部を中央部に押し下げる作用力が生じて着座姿勢を正常に安定維持させるように機能する。なお、各空気袋はすべてクッション性を備えているので、臀部はソフトに受止められて着座者に違和感を与えることがない。
【0012】
本発明によれば、着座者が着座することで、自身の体重をそのまま利用して臀部から大腿部上半が両側方および後方から挟み込まれるので、無理なく骨盤周りの筋肉を引き締めることができて血行を促進する機能を発揮させ、疲労感の解消を図ることができる。併せて腰部の姿勢を補整するのに役立てることができる。また、着座者が着座することで、臀部を受止めるように構成されているので、着座者の体格に関係なく使用することができ、したがって、一機種でもって体格の異なる人が利用できるという利点がある。しかも、構造が複雑化することなく極めてシンプルな構造にすることができる。
【0013】
第2、第3発明のような構成によれば、背部フレームを折り畳んだ状態において、この骨盤クッションを枕としても利用するこができ、より利便性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明による骨盤クッションの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1には、本発明の一実施形態に係る骨盤クッションの全体斜視図が示されている。図2には、骨盤クッションのフレーム構成図が、図3には、着座部の一部破断平面図(a)とそのA−A線断面図(b)およびB−B線断面図(c)が、それぞれ示されている。
【0016】
本実施形態の骨盤クッション1は、金属製のパイプ材を曲げ加工して枠状に形成された座部フレーム2および背部フレーム3を骨格として、これらフレーム2,3をそれぞれクッション部材(たとえばウレタンフォームなど柔軟性を有する樹脂製発泡材)4,5で覆うとともに、さらにそれらクッション部材4,5の外周面を表層クッション部材(スポンジ等の樹脂性発泡材)6で包み、この表層クッション部材6の外周面をメッシュ状のカバー部材7により被覆して形成されている。
【0017】
図2に示されるように、座部フレーム2は、着座者の着座部に位置する略コ字状の第1フレーム部2aと、この第1フレーム部2aの基端部に屈曲部2bを介して着座者の背部に沿うように一体に立設される第2フレーム部2cと、着座部に位置するように第1フレーム部2aの基端部に溶接接合される略コ字状の補強フレーム部2dとより構成されている。第2フレーム部2cの上端部には角度調整用の連結具8が取り付けられ、この連結具8に枢軸9によって略コ字状の背部フレーム3の基端部が回動可能(俯仰可能)に連結されている。ここで、連結具8は、互いに対向する2枚の板体からなり、各板体の上端部および下端部の間隙を狭く形成することによって、背部フレーム3の起立位置と折畳位置の2位置で該背部フレーム3が座部フレーム2に対して位置保持できるように構成されている。なお、この連結具8としては、上記構成のものに限らず、周知構造のラチエットギアを用いて、背部フレーム3を所定の傾斜角度で停止させるようにしたものを用いても良い。
【0018】
図3に示されるように、座部フレーム2の第1フレーム部2aと補強フレーム部2dとを覆うクッション部材4は、比較的軟質の樹脂製発泡材よりなる方形の下部クッション部材4aと、この下部クッション部材4aの上面における両側部と後部とに固着され、その下部クッション部材4aよりも硬質の樹脂製発泡材よりなる上部クッション部材4bとにより構成されている。ここで、上部クッション部材4bは、その上面における両側部と後部とが着座部の中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されている。また、下部クッション部材4aには底面に凹部10が形成され、この凹部10に埋設されるように座部フレーム2の第1フレーム部2aと補強フレーム部2dとが配されている。
【0019】
一方、座部フレーム2の第2フレーム部2cと背部フレーム3とを覆うクッション部材5は、比較的軟質の樹脂製発泡材にて形成され、同形同大の2枚の方形の樹脂製発泡材で第2フレーム部2cおよび背部フレーム3を挟み込むように配されている。
【0020】
着座部においては、上部クッション部材4bの両側部および後部の傾斜面に沿う位置にそれぞれ空気袋11,12,13が配されている。左右の空気袋11,12は下面に連結部11a,12aをそれぞれ有し、後部の空気袋13は下面に2個の連結部13a,13bを有し、これら連結部11a,12a,13a,13bを除いた部分が密閉されて袋状に形成されている。各連結部11a,12a,13a,13bには空気を送るための合成樹脂製の接続チューブ14が接続されている。この接続チューブ14は、第1のチューブ部材14a,第2のチューブ部材14b,第3のチューブ部材14cおよび第4のチューブ部材14dよりなり、第1のチューブ部材14aの一端部にはバルーンタイプのエアポンプ15が接続されている。また、第1のチューブ部材14aの他端部、第2のチューブ部材14bおよび第3のチューブ部材14cの各一端部はT字型ジョイント16の各接続口に接続されており、第2のチューブ部材14bの他端部は空気袋11の連結部11aに、第3のチューブ部材14cの他端部は空気袋13の連結部13aにそれぞれ接続されている。さらに、第4のチューブ部材14dの一端部は空気袋13の連結部13bに、他端部は空気袋12の連結部12aにそれぞれ接続されている。なお、第1のチューブ部材14aのエアポンプ15との接続部には空気放出バルブ17が設けられ、エアポンプ15の一端部にはチェックバルブを有する空気導入口18が設けられている。
【0021】
次に、本実施形態の骨盤クッション1の使用態様について図4を参照しつつ説明する。この骨盤クッション1は、着座部(座部フレーム2およびクッション部材4)を平坦な床面などに置き、背部フレーム3が座部フレーム2に対して起立状態になるように設定する。この背部フレーム3の起立状態は、背部フレーム3を覆うクッション部材5の上部を外部から手で掴むようにして外向きに倒す方向に移動させると、連結具8の箇所で背部フレーム3が回動して傾動する。
【0022】
こうして、背部フレーム3を起立位置に設定した後、着座者(利用者)Aは座部フレーム2を覆うクッション部材4上に腰を下ろす。すると、着座者Aの臀部Bは、その側部が上部クッション部材4bの両側部の傾斜面に受け止められ、後部が上部クッション部材4bの後部の傾斜面に受け止められ、着座者Aの背部が背部フレーム3を覆うクッション部材5に受け止められて着座することになる。
【0023】
この状態で、着座者Aがエアポンプ15を手に持って操作すると、3つの空気袋11,12,13に空気が注入されてそれら空気袋11,12,13が膨らみ、表層クッション部材6を介してカバー部材7の一部が膨出することになる。
【0024】
このとき、膨出した部分に受け止められた臀部Bは、特に両側部の空気袋11,12の支持部である上部クッション部材4bの上面が座部の中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されているので、クッション性を保ちながら臀部Bを座部中央部に移動させようとする作用力が働くことになる。この結果、受け止められている臀部Bが空気袋11,12の弾性変形による反発力で挟み付けられる状態となり、臀部Bから腰部にかけての筋肉が骨盤に向かって引き寄せられるように機能し、併せて刺激を受けて血行が促進され、着座することによって骨盤部とその周辺を引き締め調整する効果が得られることになる。また、臀部Bの後部も空気袋13の弾性変形による反発力で、受け止めた臀部Bの筋肉を身体の前方へ押出すような働きをして、着座時の支持安定と同時に尾骨部を持上げるように作用して着座姿勢(腰椎)を矯正するような機能を発揮し、腰部を引き締めるような効果が得られる。
【0025】
また、本実施形態では、臀部Bが両側部と後部に配された各空気袋11,12,13によって三点支持されるとともに、クッション部材4の両側部および後部の上面が座部の中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されているので、着座者の体格が異なっても幅方向に束縛されることはなく、前述の機能を発揮させることができる。したがって、体格に応じた寸法形状のものを選択的に使用する必要がない。しかも、極めてシンプルな構造の骨盤クッションとすることができる。
【0026】
また、本実施形態の骨盤クッション1によれば、図5に示されるように、背部フレーム3を前方へ折り畳み、この折畳位置にて位置保持するようにすれば、背部フレーム3を覆うクッション部材5の部分(背凭れ部)の背面に頭を載せることで、この骨盤クッション1を枕として利用することができる。この場合、クッション部材5の上端中央部5aを凹状に形成しておけば、この凹状の中央部5aに利用者の首を載せることができて快適である。
【0027】
以上の実施形態では、平坦な着座部に背部を俯仰可能に配置したものについて説明したが、着座部を通常のチェアの座部に代えて構成することも可能であり、このような構成についても本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨盤クッションの全体斜視図
【図2】骨盤クッションのフレーム構成図
【図3】着座部の一部破断平面図(a)とそのA−A線断面図(b)およびB−B線断面図(c)
【図4】使用態様を表わす図で、(a)は背面から見た態様、(b)は側面から見た態様を表わす図
【図5】骨盤クッションを折畳位置で表す斜視図(a)およびフレーム構成図
【符号の説明】
【0029】
1 骨盤クッション
2 座部フレーム
3 背部フレーム
4,5 クッション部材
6 表層クッション部材
7 カバー部材
8 連結具
11,12,13 空気袋
14 接続チューブ
15 エアポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部フレームと、前記座部フレームに対して俯仰可能な背部フレームと、前記座部フレームおよび前記背部フレームを覆うように配されるクッション部材と、前記クッション部材を包む表層クッション部材とを備える骨盤クッションであって、
着座者の着座部に位置するクッション部材の上面における両側部と後部とが中央部に向かって下り勾配の傾斜面に形成されるとともに、これら傾斜面に沿う位置にそれぞれ空気袋が配され、これら空気袋に空気を注入することで前記表層クッション部材の一部が膨出されて着座者の臀部が側方および後方から締め付けられるように構成されていることを特徴とする骨盤クッション。
【請求項2】
前記座部フレームは、着座者の着座部に位置する第1フレーム部と、この第1フレーム部の基端部に屈曲部を介して着座者の背部に沿うように立設される第2フレーム部とを備え、この第2フレーム部の上端部に連結具を介して前記背部フレームが俯仰可能に取り付けられる請求項1に記載の骨盤クッション。
【請求項3】
前記背部フレームは、起立位置と折畳位置とで前記座部フレームに対して位置保持可能とされ、前記折畳位置において当該骨盤クッションが枕として利用される請求項2に記載の骨盤クッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−4967(P2010−4967A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165205(P2008−165205)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(506320369)
【Fターム(参考)】