説明

高いトラッキング電流抵抗を有するポリエステル成形品の製造

【課題】 カルシウムまたはアルミニウムホスフィン酸塩を含む難燃性ポリエステル成形材料からの成形品を提供することである。
【解決手段】 ホスフィン酸もしくはジホスフィン酸の少なくとも1種のカルシウムもしくはアルミニウム塩またはそれらのポリマー類を含むポリマー成形材料からの成形品は、電子または電気コンポーネント、特に、巻型、変圧器、リレー、スイッチ、プラグコネクタ、モータおよびモータ部品、成形回路部品、ベース;電気および家庭用品の機械的コンポーネント、特に、歯車、レバー、カムシャフト、スペーサ、ヒンジ、滑り軸受け;電気コンポーネントおよび装置のハウジング、カバリングおよび外装、特に、コンデンサのハウジング、リレーハウジング、コンデンサカバー、ケーブル外装を製造するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムまたはアルミニウムホスフィン酸塩を含む難燃性ポリエステル成形材料からの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル成形材料は、多くの用途に使用されているが、例えば、安全性の理由により、点火源を除去した後の燃焼抵抗性または自消性に関して特別の要件に見合う必要がある。Underwriters Laboratories standard for Test for Flammability of Plastic Materials for Parts in Devices and Appliances(UL94)が、国際的な標準となり、世界中で使用されている。その94V−0分類は、特に要求の厳しい用途に必要とされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリエステル成形材料について、この要件は、通常、臭素含有有機化合物および重金属酸化物類の添加によって満たされる。このような成形材料の1つの欠点は、比較的低いトラッキング電流抵抗である。これは、また、UL94、例えば、(Comparative Tracking Index, CTI, defined in the “Standard for Polymeric Materials-Short Term Properties Evaluation, UL746A")によって試験される安全性の特徴である。CTIが高いほど、トラッキング電流形成の抵抗が大きい。
【0004】
さて、驚くべきことに、ホスフィン酸もしくはジホスフィン酸のカルシウムもしくはアルミニウム塩がポリエステルプラスチック中で優れた難燃性を示し、これらポリエステルプラスチックより成形される部品が高いトラッキング電流抵抗を有することが見いだされた。以降の記載において、“ホスフィン酸塩”という用語は、ホスフィン酸およびジホスフィン酸のカルシウムおよびアルミニウム塩ならびにそれらのポリマー類を表すこととする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、ホスフィン酸もしくはジホスフィン酸の少なくとも1種のカルシウムもしくはアルミニウム塩またはそれらのポリマー類を含むポリエステル成形材料より成形される部品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
好ましいホスフィン酸塩類は、1種の式(I)で表されるホスフィン酸の塩もしくは式(II)で表されるジホスフィン酸の塩:
【0007】
【化2】

【0008】
[式中、R1およびR2は、各々、C1〜C16アルキル、好ましくは、C1〜C8アルキルであり、直鎖であっても分岐であってもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、フェニルであり;
3は、C1〜C10アルキレンであり、直鎖であっても分岐であってもよく、例えば、メチレン、エチレン、n−プロピレン、iso−プロピレン、n−ブチレン、t−ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、n−ドデシレンであるか、アリーレン、例えば、フェニレン、ナフチレンであるか;アルキルアリーレン、例えば、メチルフェニレン、エチルフェニレン、t−ブチルフェニレン、メチルナフチレン、エチルナフチレン、t−ブチルナフチレンであるか;アリールアルキレン、例えば、フェニルメチレン、フェニルエチレン、フェニルプロピレン、フェニルブチレンであり;
Mは、カルシウムまたはアルミニウムイオンであり;
mは、2または3であり;
nは、1または3であり;
xは、1または2である。]
および/またそれらのポリマー類である。
【0009】
ポリエステル類は、ポリマー鎖の構成部分として繰り返しエステル基を含有するポリマー類である。本発明の目的に対して使用することのできるポリエステル類は、例えば、“Ullmann's encyclopedia of industirial chemistry, ed. Barbara Elvers, Vol. 21A, Chapter 'Polyester'(p. 227-251), VCH, Welheim-Basel-Cambridge-New York 1992"に記載されており、本明細書では、参考のためにこれを引用する。以降の記載において、ポリエステル類は、また、ポリマー類とも称す。
【0010】
成形された部品は、良好なトラッキング電流抵抗(高CTI)を示し、したがって、以下の用途に特に適している。
電気コンポーネント、特に、巻型、変圧器、リレー、スイッチ、プラグコネクタ、モータおよびモータ部品(ロータ、軸受け板等)、成形回路部品(MID)、ベース(例えば、SIMMベース);電気および家庭用品の機械的コンポーネント、特に、歯車、レバー、カムシャフト、スペーサ、ヒンジ、滑り軸受け;電気コンポーネントおよび装置のハウジング、カバリングおよび外装、特に、コンデンサハウジング、リレーハウジング、コンデンサカバー、ケーブル外装。
【0011】
成形品は、好ましくは、射出成形によって製造されるが、場合によっては、それらは、また、押出またはプレス成形によって製造することもできる。
ホスフィン酸塩類は、水性媒体中で製造され、本質的には、モノマー性化合物である。反応条件に応じ、ポリマー性ホスフィン酸塩類も、また、ある状況においては、形成することもできる。
【0012】
本発明のホスフィン酸塩類の部分を形成するための適当なホスフィン酸は、例えば、イソブチルメチルホスフィン酸、オクチルメチルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタン−1,2−ジ(メチルホスフィン酸)、エタン−1,2−(ジメチルホスフィン酸)、ヘキサン−1,6−ジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸である。
【0013】
ホスフィン酸塩類は、公知の方法、ホスフィン酸を当該金属の水溶液中の金属炭酸塩類、金属水酸化物類または金属酸化物類と反応させることによって製造することができる。
ポリマー類に添加されるホスフィン酸塩の量は、広い制限範囲内で変化させることができる。概して、ポリマー基準で5〜35重量%、好ましくは、10〜25重量%、特に、15〜20重量%のホスフィン酸塩が使用される。ホスフィン酸塩の最も適した量は、ポリマーの種類および使用されるホスフィン酸塩の種類に応じて、実験によって容易に確認することができる。
【0014】
ホスフィン酸塩類は、使用されるポリマーの種類および所望される性質に応じて、種々の物理的形態で使用することができる。例えば、ホスフィン酸塩類は、例えば、ポリマーの良好な分散液を得るために、微細な形態に粉砕することができる。必要に応じて、種々のホスフィン酸塩類の混合物を使用することも可能である。
【0015】
ホスフィン酸塩類は、一般に、熱的に安定であり、加工の間、ポリマーを分解することはなく、ポリエステル成形材料の製造プロセスに悪影響を及ぼさない。ホスフィン酸塩類は、ポリマー類の製造および加工条件下で揮発性ではない。
【0016】
ホスフィン酸塩は、2つを混合し、ついで、配合機(例えば、2軸スクリュー押出機)内でポリマーを溶融し、ホスフィン酸塩をポリマー溶融物中で均質化することによってポリマーに配合することができる。溶融物は、押出され、冷却され、顆粒化することができる。ホスフィン酸塩は、また、配合機に直接計量することもできる。
【0017】
同様に、ホスフィン酸塩類を最終顆粒ポリエステルに混合し、その混合物を射出成形機で直接加工するか、または、押出機内で混合物を、最初に、溶融し、顆粒化し、乾燥後、加工することも可能である。
【0018】
ホスフィン酸塩類は、また、ポリエステル製造プロセスの間に、添加することもできる。
ホスフィン酸塩類以外に、ポリエステル成形材料は、充填剤(例えば、タルク、雲母、ケイ灰石、チョーク、ガラス球)、強化材(例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、無機繊維、炭素繊維)、カーボンブラック、染料、顔料、安定剤、UV安定剤、離型剤および離型助剤、核形成剤、帯電防止剤、可塑剤またはその他の添加剤を含んでもよい。
【0019】
ポリエステル、ホスフィン酸塩およびガラス繊維を含む成形材料より成形された部品が特に好ましい。このような成形材料より成形される部品は、特に好ましい難燃性を示す。
【実施例】
【0020】
1. ホスフィン酸塩類の製造
1.1 エチルメチルホスフィン酸のカルシウム塩の製造
1630g(15.1mol)のエチルメチルホスフィン酸を3リットルの水に溶解し、激しく撹拌しつつ、422.8g(7.55mol)の酸化カルシウム(生石灰)を1.5時間かけて少しずつ加え、温度を75℃に上昇させる。ついで、溶液に導入したpH電極がpH=7を指示するまで、さらなる酸化カルシウムを加える。ついで、少量の活性炭を加え、混合物を、還流下、1.5時間撹拌し、ついで、濾過する。濾液を蒸発乾固し、減圧乾燥キャビネット中、120℃で乾燥し、恒量とする。これは、300℃以下の融点を有しない1920gの白色粉末を与える。収率:理論量の100%。
【0021】
1.2 エチルメチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造
2106g(19.5mol)のエチルメチルホスフィン酸を6.5リットルの水に溶解し、激しく撹拌しつつ、85℃に加熱し、507g(6.5mol)の水酸化アルミニウムを加える。合計において、混合物は、80〜90℃で、65時間撹拌し、ついで、60℃に冷却し、吸引濾過する。減圧乾燥キャビネット中120℃で、恒量に乾燥すると、300℃以下の融点を有しない微細な顆粒粉末2140gが残る。収率:理論量の95%。
【0022】
1.3 エタン−1,2−ビスメチルホスフィン酸のカルシウム塩の製造
325.5g(1.75mol)のエタン−1,2−ビスメチルホスフィン酸を500ミリリットルの水に溶解し、激しく撹拌しつつ、129.5g(1.75mol)の水酸化カルシウムを少しずつ1時間かけて加える。ついで、混合物は、90〜95℃で、数時間撹拌し、冷却し、吸引濾過する。乾燥キャビネット中、150℃に乾燥すると、380℃以下の融点を有しない製品335gが残る。収率:理論量の85%。
【0023】
1.4 エタン−1,2−ビスメチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造
334.8g(1.8mol)のエタン1,2−ビスメチルホスフィン酸を600ミリリットルの水に溶解し、激しく撹拌し、93.6g(1.2mol)の水酸化アルミニウムを少しずつ1時間かけて加える。ついで、混合物は、24時間還流し、ついで、温吸引濾過し、濾過残渣は、水で洗浄する。乾燥すると、380℃以下の融点を有しない白色粉末364gが残る。収率:理論量の100%。
【0024】
1.5 メチルプロピルホスフィン酸のカルシウム塩の製造
366g(3.0mol)のメチルプロピルホスフィン酸を600ミリリットルの水に溶解し、激しく撹拌しつつ、84g(1.5mol)の酸化カルシウムを少しずつ加え、温度を65℃に上昇させる。ついで、透明な溶液が形成されるまで、この温度を維持する。ついでに、溶液を減圧下で蒸発乾固させる。減圧乾燥キャビネット中、120℃で乾燥させた後、残渣は、364gである。収率:理論量の85%。
【0025】
1.6 メチルプロピルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造
115g(0.943mol)のメチルプロピルホスフィン酸を310gの水に溶解し、24.5g(0.314mol)の水酸化アルミニウムを加える。ついで、混合物は、23時間、撹拌しつつ、98℃に維持する。ついで、それを吸引濾過し、濾過残渣を減圧乾燥キャビネットで乾燥すると、380℃以下の融点を有しない白色粉末113gが残る。収率:理論量の90%。
【0026】
1.7 メチルオクチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造
115.2g(0.6mol)のメチルオクチルホスフィン酸を250ミリリットルの水と60℃に加熱する。ついで、15.6g(0.2mol)の水酸化アルミニウムを加え、絶えず撹拌しつつ、混合物を80℃に加熱する。合わせて、バッチは、80〜90℃で15時間撹拌し、その時点で、それを吸引濾過する。乾燥すると、360℃以下の融点を有しない白色粉末115gが残る。収率:理論量の96%。
【0027】
2. 成形材料の比較トラッキング指数(CTI)
2.1 配合物および試験標品の製造
リン化合物をポリマーと混合し、市販されている2軸スクリュー配合機で配合した。ガラス繊維強化製品の場合、市販されているガラス繊維をポリエステル溶融物に計量した。比較標品3および4は、臭素含有難燃剤を使用して、同様に、製造した。
【0028】
配合の間の溶融温度は、約250℃であった。
試験標品は、射出成形機上でISO7795−2に製造される。多目的試験標品ISO3167を使用した。
2.2 実験結果
以下の標品を製造し、試験した:
1. ポリブチレンテレフタレート、未強化、15%のMEP−Al塩を含む。
2. ポリブチレンテレフタレート、30%のガラス繊維で強化、20%のMEP−Al塩を含む。
3. ポリブチレンテレフタレート、未強化、18%の臭素含有難燃剤を含む(比較実施例)
4. ポリブチレンテレフタレート、30%のガラス繊維で強化、13%の臭素含有難燃剤を含む(比較実施例)
ここで、MEP−Al塩は、エチルメチルホスフィン酸のアルミニウム塩であり、臭素含有難燃剤は、比2:1の臭素化されたポリカーボネート(Great Lakes BC 58)と三酸化アンチモンとである。
【0029】
結果は、以下の表1に示す:
【0030】
【表1】

【0031】
表1は、MEP−Al塩を含む製品の優秀性を明らかに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高いトラッキング電流抵抗を有するポリエステル成形品の製造のための、ホスフィン酸もしくはジホスフィン酸の少なくとも1種のカルシウムもしくはアルミニウム塩またはそれらのポリマー類を含むポリエステル成形材料の使用。
【請求項2】
ポリエステル成形材料及び該材料から成形された部品のトラッキング電流抵抗を増大させるための、ホスフィン酸もしくはジホスフィン酸の少なくとも1種のカルシウムもしくはアルミニウム塩又はそれらのポリマー類の使用。
【請求項3】
式(I)で表されるホスフィン酸の塩もしくは式(II)で表されるジホスフィン酸の塩:
【化1】

[式中、R1およびR2は、各々、C1〜C16アルキル、好ましくは、C1〜C8アルキルであり、直鎖であっても分岐であってもよく、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、フェニルであり;
3は、C1〜C10アルキレンであり、直鎖であっても分岐であってもよく、例えば、メチレン、エチレン、n−プロピレン、iso−プロピレン、n−ブチレン、t−ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、n−ドデシレンであるか、アリーレン、例えば、フェニレン、ナフチレンであるか;アルキルアリーレン、例えば、メチルフェニレン、エチルフェニレン、t−ブチルフェニレン、メチルナフチレン、エチルナフチレン、t−ブチルナフチレンであるか;アリールアルキレン、例えば、フェニルメチレン、フェニルエチレン、フェニルプロピレン、フェニルブチレンであり;
Mは、カルシウムまたはアルミニウムイオンであり;
mは、2または3であり;
nは、1または3であり;
xは、1または2である。]
および/またそれらのポリマー類が使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリエステルがガラス繊維もまた含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用
【請求項5】
電気コンポーネント、電気および家庭用品の機械的コンポーネント、又は電気コンポーネントおよび装置のハウジング、カバリングおよび外装の形状をとっている成形品のトラッキング電流抵抗を増大させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
巻型、変圧器、リレー、スイッチ、プラグコネクタ、モータおよびモータ部品、成形回路部品、ベース、歯車、レバー、カムシャフト、スペーサ、ヒンジ、滑り軸受け、コンデンサハウジング、リレーハウジング、コンデンサカバー又はケーブル外装の形状をとっている成形品のトラッキング電流抵抗を増大させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。

【公開番号】特開2007−113015(P2007−113015A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318562(P2006−318562)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【分割の表示】特願平9−47536の分割
【原出願日】平成9年3月3日(1997.3.3)
【出願人】(598029656)ティコナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】Ticona GmbH
【Fターム(参考)】