説明

高い太陽光透過性能を有するガラス

【課題】太陽電池モジュール表面を保護する目的で、該モジュールの前面にカバーガラスを設置しているが、当該カバーガラスが太陽光を反射するため、太陽電池セル表面への光透過量が低下し、発電量が低下する課題があった。
【解決手段】当該カバーガラスの表裏両面若しくは表面のみに高屈折率と低屈折率から成る組合せ薄膜層を積層する手段により、太陽電池セルが有効に光電変換する波長域の反射を抑制し、光透過量を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール表面を保護する目的で、該モジュールの前面に設置している保護用ガラス(以降、「カバーガラス」と記す)並びに基板ガラスとして好適な高い太陽光透過性能を有するガラスを作成する方法に関する。
【0002】
近年、地球温暖化の要因である炭酸ガス排出の削減、さらには化石燃料枯渇問題に対処すべく、太陽光発電が脚光を浴びており、その発電効率を上げる技術開発が活発に行われている。
【0003】
発電効率を上げるために、発電素子自体の光電変換率の向上は不可欠であるが、当該発電素子を保護する目的で使われる太陽電池パネルのカバーガラスの光透過性能の向上策も重要である。
【0004】
また基板ガラスとしても、太陽光における高いエネルギー変換感度を有する波長域での光の透過率が高いガラスが求められている。
【背景技術】
【0005】
カバーガラスの光透過特性は電池セルの発電効率を大きく左右する。具体的には、前記カバーガラスの表面や裏面で太陽光波長の一部が反射されることにより、当該部分の波長を有する光が電池セルに到達出来なくなり、発電量低下を招くことになる。
【0006】
この課題に対処するために、例えば、特許文献1には、ガラス板表面に凹凸を設けることにより、光入射側面の防眩効果が得られとしている。しかしながら、空間層を保持する必要があり、モジュール構造が複雑であると考えられる。
【0007】
さらに、特許文献2には、ガラス製造時に酸化鉄ならびに酸化セリウムを添加することにより光透過性能の向上を図っている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−124491
【特許文献2】特開2000−143284
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、太陽電池パネルにあって、光を反射させ、太陽電池セルの光/電変換効率を低下させる課題があった。本発明は、前記した光の反射を低減し、可視光線域における透過性が高いカバーガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
カバーガラスの表面の片面若しくは表裏両面に、屈折率の異なる二種類の誘電体酸化物を薄膜状に形成することにより、反射光を抑制し太陽光の透過量を増大させる手段を提供する
【発明の効果】
【0011】
本発明を適用すれば、太陽光が有する広範囲の波長から、太陽電池セルが有効に電気に変換する波長領域の反射を低減するために、当該領域の光エネルギーを高い透過率で透過できる。
【0012】
したがって、本発明から成る高い太陽光透過性能を有するガラスを太陽電池のカバーガラスならびに基板に適用することで、発電量を増大する効果がある。
【0013】
さらに本発明から成る高い太陽光透過性能を有するガラスを太陽電池のカバーガラスに適用することで、当該表面からの反射光を防眩する効果もあり、太陽電池パネルを設置したことによる近隣住民への迷惑を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図を用いて詳述する。
図1は太陽光のスペクトルの一般的な状況を示したグラフで、波長300〜1100nmの範囲を示してある。波長300nm程度の紫外線領域から強度は急激に増大し、450nm付近でピークを示し以降漸次減少している。
【0015】
図1から分かるように、太陽電池パネルにおいては、その殆どが可視光領域におけるエネルギーにより発電されている。従って、当該領域における反射を極力低減することにより、発電量が増大できる。
【0016】
本発明は係る観点から成されたもので、屈折率の異なる複数の薄膜を形成することにより、前記した可視光領域の波長の反射を低減するものである。
【0017】
以下、本発明の実施例を酸化物系誘電体の代表例として、五酸化ニオブ(Nb)と二酸化珪素(SiO)を用いて詳述する。
【0018】
図2に本発明から成る高い太陽光透過性能を有するガラスの実施例1を示す。ガラス面に、先ず屈折率の高い五酸化ニオブ(Nb)薄膜20を形成し、次に屈折率の低い二酸化珪素(SiO)薄膜10を形成して、高屈折率と低屈折率から成る一対の薄膜層を形成している。
【0019】
屈折率の異なる誘電体薄膜を積層することにより、界面での反射波を入射波に干渉させて減衰させる現象が起こり、結果として光の反射が抑制され、光透過率が向上する。
【0020】
前記した一対の薄膜層は、ガラス表面と裏面の両面に一対若しくは複数対形成しており、当該薄膜層の対数は一対で十分に効果が発揮できるが、図3に示すように、前記した薄膜層の対数を複数にすることで、さらに効果が増大する。
【0021】
前記した高屈折率と低屈折率から成る一対の薄膜層の数は、表面と裏面で異なっても、効果が十分に発揮できる。
【0022】
さらに、図4には本発明から成る高い太陽光透過性能を有するガラスの実施例2を示す。当該実施例では、ガラスの表片面のみに、高屈折率と低屈折率から成る一対の薄膜層を複数層形成している。
【0023】
前記した各薄膜は高周波スパッタリング法によって形成されている。図5は表1に示す条件下で、薄膜を形成する際のスパッタリング時間と、二酸化珪素(SiO)と五酸化ニオブ(Nb)の膜厚との関係を示している。
【0024】
【表1】

sccm:1分間当たりのガス体積を標準状態における立法センチメートルで表示

【0025】
図5から、スパッタリング時間を操作することにより、所望の厚さの薄膜を形成することができる。
【0026】
図6には、本発明の実施例1から成る高い太陽光透過性能を有するガラス201の各波長に対する透過率特性を、シミュレーション結果200および未処理ガラス202における特性と合わせて示した。
【0027】
図6から分かるように、波長350〜1000nmの範囲において、未処理ガラス202は93〜95%程度の光透過率であるが、本発明の実施例1による高い太陽光透過性能を有するガラス201は最高98%の透過率となっている。
【0028】
本発明の実施例1による高い太陽光透過性能を有するガラス201は、太陽光スペクトルの中で光/電変換に有用な波長の範囲である可視光領域では、未処理ガラス202よりもはるかに高い光透過率を示している。
【0029】
図7には、本発明の実施例2から成る高い太陽光透過性能を有するガラス201の各波長に対する透過率特性を、シミュレーション結果200および未処理ガラス202における特性と合わせて示した。
【0030】
図7から分かるように、波長460〜650nmの範囲において、未処理ガラス202は93〜95%程度の光透過率であるが、本発明の実施例2による高い太陽光透過性能を有するガラス201は前記した波長範囲に亘って98%程度の透過率となっている。
【0031】
以上の実施例で具体的に述べたように、本発明による薄膜を形成したカバーガラスを太陽電池セルに適用することにより、従来のカバーガラスに対して大幅に光透過量が増加することから、発電効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】太陽電池の発電量と波長の関係を示すグラフ。
【図2】本発明の実施例1から成る高い太陽光透過性能を有するガラスの断面を示す図で、ガラスの両面に高屈折率と低屈折率から成る一対の薄膜層を積層した状況を示す。
【図3】本発明の実施例1から成る高い太陽光透過性能を有するガラスの断面を示す図で、ガラスの両面に高屈折率と低屈折率から成る一対の薄膜層を複数積層した状況を示す。
【図4】本発明の実施例2から成る高い太陽光透過性能を有するガラスの断面を示す図で、ガラスの片面に高屈折率と低屈折率から成る一対の薄膜層を複数積層した状況を示す。
【図5】薄膜厚さを定量的に形成するに当たり、スパッタリング時間と膜厚との関係を把握するためのグラフ。
【図6】本発明の実施例1から成る両面に反射低減薄膜を形成した高い太陽光透過性能を有するガラスとシミュレーション結果および未処理ガラスにおける各波長に対する透過率を示したグラフ。
【図7】本発明の実施例2から成る片面に反射低減薄膜を形成した高い太陽光透過性能を有するガラスとシミュレーション結果および未処理ガラスにおける各波長に対する透過率を示したグラフ。
【符号の説明】
【0033】
10:二酸化珪素(SiO)薄膜、20:五酸化ニオブ(Nb)薄膜、
50:ガラス、200:シュミレーションによる特性、
201:実施例1により形成した薄膜による特性、202:未処理ガラスの特性、
203:実施例2により形成した薄膜による特性



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス等の太陽光透過性を有する固体表面の表片面又は表裏両面に、屈折率の異なる二種類以上の誘電体薄膜を積層して形成し、該固体表面での太陽光反射を低減することにより、太陽光透過量の減少を抑止することを特徴とする高い太陽光透過性能を有するガラス。
【請求項2】
屈折率の異なる二種類以上の誘電体の内、太陽光透過性を有する固体表面に屈折率の高い誘電体薄膜と、屈折率の低い誘電体薄膜とを交互に積層して一対の薄膜層を形成し、当該対の薄膜層を少なくとも一対乃至複数対形成して成ることを特徴とする請求項1に示した高い太陽光透過性能を有するガラス。
【請求項3】
請求項1に示した複数の誘電体として、少なくとも一つの誘電体が二酸化珪素(SiO)であることを特徴とする請求項1に示した高い太陽光透過性能を有するガラス。
【請求項4】
請求項1に示した複数の誘電体として、少なくとも一つの誘電体が五酸化ニオブ(Nb)であることを特徴とする請求項1に示した高い太陽光透過性能を有するガラス。
【請求項5】
請求項1に示した複数の誘電体として、少なくとも一つの誘電体がフッ化マグネシウム(MgF)であることを特徴とする請求項1に示した高い太陽光透過性能を有するガラス。
【請求項6】
請求項1に示した複数の誘電体として、少なくとも一つの誘電体が酸化チタン(TiO)であることを特徴とする請求項1に示した高い太陽光透過性能を有するガラス。
【請求項7】
請求項1に示した薄膜の形成に、スパッタ法を用い、且つ薄膜厚さをナノメータ(nm)単位で制御することを特徴とする請求項1に記載した高い太陽光透過性能を有するガラス。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−260654(P2008−260654A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104377(P2007−104377)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(303002930)財団法人青森県工業技術教育振興会 (17)
【Fターム(参考)】