説明

高メタセシス活性のルテニウムおよびオスミウム金属カルベン錯体

【課題】メタセシス反応活性が高く、開始速度が速いルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体を提供する。
【解決手段】ジシクロペンタジエンを除く環状オレフィンを、式:


〔式中、Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;R9およびR10は、水素、アルキル、およびアリールから成る群より選ばれ;XおよびX1は、アニオン配位子から選ばれ;LおよびL1は、中性電子供与体から選ばれ、R9およびR10が置換アルキル、R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕で表される化合物と接触させる工程を含む環状オレフィンの重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1995年8月3日出願の米国特許仮出願第60/001,862号および1995年9月19日出願の米国特許仮出願第60/003,973号(いずれの出願も引用により本明細書中に含まれるものとする)の恩典に対して特許請求するものである。
【0002】
米国政府は、National Science Foundationにより認可された助成金No.CHE-8922072に基づいて、本発明に対する所定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、高い活性および安定性を有するルテニウムおよびオスミウム金属カルベン錯体化合物、それらの合成、およびオレフィンのメタセシス(または複分解)反応に対する触媒としての利用に関する。
【0004】
オレフィンのメタセシスを介した遷移金属触媒によるC-C結合の生成は、非常に興味深く、合成上有用である。この分野の初期の研究は、遷移金属の塩化物、酸化物、またはオキシ塩化物;EtAlCl2またはR4Snなどの助触媒;およびO2、EtOH、またはPhOHなどの促進剤;から成る触媒活性混合物に基づくものであった。例えば、WCl6/EtAlCl2/EtOH 1:4:1。これらの系は、オレフィンのメタセシス反応を触媒するが、これらの触媒中心は明確化されておらず、触媒活性の系統的制御は不可能である。
【0005】
近年、遷移金属錯体を基剤とする明確に規定されたメタセシス活性触媒の開発に力が注がれてきた。過去20年間にわたる研究の結果、周期表の低い族に含まれる遷移金属の錯体を触媒とするオレフィンのメタセシス反応について、十分な解明がなされた。これとは対照的に、第VIII族遷移金属触媒に対する反応中間体および反応機構については、未解明のままである。特に、ルテニウムおよびオスミウムのメタセシス反応中間体の酸化状態および結合形態については分かっていない。
【0006】
第VIII族遷移金属オレフィンメタセシス触媒(特に、ルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体)は、米国特許第5,312,940号および同第5,342,909号ならびに米国特許出願第08/282,826号および同第08/282,827号(いずれも引用により本明細書中に含まれるものとする)に記載されている。これらの特許および特許出願で開示されたルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体は、次の一般式で表される。
【化1】

【0007】
〔式中、Mはルテニウムまたはオスミウムであり、XおよびX1はアニオン配位子であり、LおよびL1は中性の電子供与体である〕
米国特許第5,312,940号および同第5,342,909号には、特定のビニルアルキリデンルテニウムおよびオスミウム錯体が開示されているとともに、歪みのあるオレフィンの開環メタセシス重合(「ROMP」)の触媒として該錯体を利用することが開示されている。これらの特許に開示されている特定のアルキリデン錯体はいずれも、R1が水素であり、Rが置換または未置換のビニル基である。例えば、これらの特許に開示されている好ましいビニルアルキリデン錯体は、次の通りである。
【0008】
錯体A
【化2】

【0009】
〔式中、Phはフェニルである〕
米国特許出願第08/282,826号および同第08/282,827号には、特定のビニルアルキリデンルテニウムおよびオスミウム錯体が開示されているとともに、種々のメタセシス反応の触媒として該錯体を利用することが開示されている。これらの特許出願に開示されている触媒は、特定の中性電子供与体配位子LおよびL1(すなわち、少なくとも1つの置換基が第二級アルキル基またはシクロアルキル基であるホスフィン)を有する。上記の米国特許の場合と同様に、これらの特許出願で開示されている特定のアルキリデン錯体はいずれも、R1が水素であり、Rが置換または未置換のビニル基である。例えば、これらの特許出願に開示されている好ましいビニルアルキリデン錯体は、次の通りである。
【0010】
錯体B
【化3】

【0011】
〔式中、Cyはシクロヘキシルである〕
これらの特許および特許出願に開示されているビニルアルキリデン錯体は高いメタセシス活性を呈するとともに官能基に対する顕著な安定性を呈するが、これらの錯体にはメタセシス触媒として少なくとも2つの欠点がある。第1の欠点は、ビニルアルキリデン錯体を調製するために多段階合成が必要なことであり、第2の欠点は、ビニルアルキリデン錯体の開始速度が比較的遅いことである。ビニルアルキリデン錯体のこれらの欠点はいずれも、メタセシス触媒として使用するうえで不都合である。多段階合成は時間と費用がかかる恐れがあり、更に、生成物の収率が低下する恐れもある。開始速度が遅いと、得られるROMPポリマーの分子量分布が広がったり、閉環メタセシス(「RCM」)反応の反応時間が長くなる可能性がある。
【0012】
上述した理由により、次のような特徴を有する明確に規定されたメタセシス活性触媒が必要である。すなわち、第1の特徴は、多種多様な官能基の存在下で安定であること、第2の特徴は、種々のメタセシス反応(例えば、アクリル系物質および歪なしの(unstrained)環状オレフィンのメタセシス反応)の触媒として機能すること、第3の特徴は、開始速度が速いこと、第4の特徴は、調製が容易なことである。更に、歪のある(strained)環状オレフィンおよび歪みのない環状オレフィンのROMPを触媒して、非常に低い多分散度(すなわち、PDI≒1.0)を有するポリマーを与えるとともに、更に、短い反応時間でアクリル系ジエンのRCMを触媒することのできるオレフィンメタセシス触媒が必要である。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、上記の必要性を満たすものである。本発明は更に、種々の官能基の存在下で安定であり、かつ歪なしの環状および非環状のオレフィンに対するオレフィンメタセシス反応の触媒として使用できる明確に規定されたルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体を提供する。本発明の化合物は、メタセシス反応に対する活性が高く、しかも開始速度が速い。
【0014】
本発明の1実施態様において、ルテニウムおよびオスミウムカルベン化合物は、次の一般式を有する:
【化4】

【0015】
〔式中、MはOsまたはRuであり;R1は水素であり;XおよびX1は異なっていても同じであってもよく、かついずれのアニオン配位子であってもよく;LおよびL1は異なっていても同じであってもよく、かついずれの中性電子供与体であってもよく;Rは水素、置換もしくは未置換アルキル、または置換もしくは未置換アリールである〕。
【0016】
本発明のルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体は、種々の官能基の存在下で安定である。この結果、アルキルおよびアリールのR基には、1つ以上の官能基(例えば、アルコール基、チオール基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、エーテル基、アミン基、イミン基、アミド基、ニトロ基、カルボン酸基、ジスルフィド基、カーボネート基、イソシアネート基、カルボジイミド基、カルボアルコキシ基、およびハロゲン基)が含まれていてもよい。
【0017】
Rは、好ましくは水素、C1〜C20アルキル、またはアリールである。C1〜C20アルキルは、場合により、1つ以上のアリール基、ハリド基、ヒドロキシ基、C1〜C20アルコキシ基、またはC2〜C20アルコキシカルボニル基で置換されていてもよい。アリールは、場合により、1つ以上のC1〜C20アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、C1〜C5アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、またはハリド基で置換されていてもよい。
【0018】
LおよびL1は、好ましくは、式PR3R4R5〔式中、R3は、第二級アルキルまたはシクロアルキルであり、R4およびR5は、アリール、C1〜C10第一級アルキル、第二級アルキル、またはシクロアルキルである〕で表されるホスフィンである。R4およびR5は、同じであっても異なっていてもよい。
【0019】
LおよびL1は、最も好ましくは同じであり、かつ-P(シクロヘキシル)3、-P(シクロペンチル)3、または-P(イソプロピル)3である。
【0020】
XおよびX1は、最も好ましくは同じであり、かつ塩素である。
【0021】
本発明のもう1つの実施態様において、ルテニウムおよびオスミウムカルベン化合物は、次の一般式を有する:
【化5】

【0022】
〔式中、MはOsまたはRuであり;XおよびX1は異なっていても同じであってもよく、かついずれのアニオン配位子であってもよく;LおよびL1は異なっていても同じであってもよく、かついずれの中性電子供与体であってもよく;R9およびR10は異なっていても同じであってもよく、かつ水素、置換もしくは未置換アルキル、または置換もしくは未置換アリールであってもよい〕。R9基およびR10基には、場合により、以下の官能基:すなわち、アルコール基、チオール基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、エーテル基、アミン基、イミン基、アミド基、ニトロ基、カルボン酸基、ジスルフィド基、カーボネート基、イソシアネート基、カルボジイミド基、カルボアルコキシ基、およびハロゲン基のうちの1つ以上のが含まれていてもよい。
【0023】
本発明のルテニウムおよびオスミウムカルベン化合物は、ROMP、RCM、不飽和ポリマーの解重合、テレケリックポリマーの合成、およびオレフィン合成(ただし、これらに限定されるものではない)などのオレフィンメタセシス反応の触媒として使用することができる。
【0024】
ROMP反応において、本発明の化合物を環状オレフィンに接触させると、ROMPポリマー生成物が得られる。RCM反応において、本発明の化合物をジエンと接触させると、閉環生成物が得られる。解重合において、本発明の化合物を非環状オレフィンの存在下で不飽和ポリマーに接触させると、解重合生成物が得られる。テレケリックポリマーの合成において、本発明の化合物をα,ω-二官能性オレフィンの存在下で環状オレフィンに接触させると、テレケリックポリマーが得られる。オレフィン合成反応において、本発明の化合物を1つまたは2つの非環状オレフィンに接触させると、セルフメタセシスまたはクロスメタセシスオレフィン生成物が得られる。
【0025】
本発明のルテニウムおよびオスミウムカルベン化合物は、種々の官能基の存在下で安定であるので、上記の反応に関与するオレフィンは、場合により、1つ以上の官能基(アルコール基、チオール基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、エーテル基、アミン基、イミン基、アミド基、ニトロ基、カルボン酸基、ジスルフィド基、カーボネート基、イソシアネート基、カルボジイミド基、カルボアルコキシ基、およびハロゲン基)で置換されていてもよい。
【0026】
上記の反応は、水性溶剤、プロトン性溶剤、もしくは有機溶剤、またはこれらの溶剤の混合物の中で行うことができる。溶剤の不存在下で反応を行ってもよい。ガス相中または液体相中で反応を行ってよい。
【0027】
本発明のルテニウムおよびオスミウムカルベン化合物は、ジアゾ化合物を使用して、中性電子供与体配位子交換によって、クロスメタセシスによって、アセチレンを使用して、累積オレフィンを使用して、およびジアゾ化合物および中性電子供与体を用いたワンポット法によって、合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
略号Me、Ph、iPrまたはi-Pr、Cy、Cp、n-Bu、およびTHFは、それぞれメチル、フェニル、イソプロピル、シクロヘキシル、シクロペンチル、n-ブチル、およびテトラヒドロフランを指す。
【0029】
従来の研究では、中性電子供与体およびアニオン配位子(すなわち、L、L1、X、およびX1)がルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体の安定性および有用性に及ぼす影響について調べられたが、アルキリデン部分(RおよびR1)の変化の影響については研究されなかった。これらの置換基の影響を調べることによって、本発明の特定のアルキリデン部分を含有するルテニウムおよびオスミウム錯体が、先に記載したビニルアルキリデン錯体と比べて予想外に大きな開始速度を呈することを見出した。定量的データを以下に示すが、このデータから、本発明の錯体の開始速度が対応するビニルアルキリデン錯体の開始速度よりも約1000倍大きいことが分かる。予想外に高い開始速度を呈することに加えて、本発明の錯体は、種々の官能基の存在下で安定であり、しかも高いメタセシス活性を有するため、種々のメタセシス反応(例えば、非環状オレフィンおよび歪みなしの環状オレフィンが関与するメタセシス反応など)の触媒として機能できる。
【0030】
本発明の化合物は、次の一般式で表されるルテニウムおよびオスミウムアルキリデン錯体である:
【化6】

【0031】
〔式中、R1は水素であり;Rは以下の記載の特定の基から選ばれる〕。一般的には、XおよびX1はいかなるアニオン配位子であってもよく、またLおよびL1はいかなる電子供与体であってもよい。X、X1、L、およびL1の特定の実施態様については、米国特許第5,312,940号および同第5,342,909号、ならびに米国特許出願第08/282,826号および同第08/282,827号に詳細な説明がある。
【0032】
Rは、水素、置換もしくは未置換アルキル、または置換もしくは未置換アリールである。本発明のルテニウムおよびオスミウムカルベン錯体は、種々の官能基の存在下で安定である。この結果、アルキルおよびアリールのR基には、種々の官能基(例えば、アルコール基、チオール基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、エーテル基、アミン基、イミン基、アミド基、ニトロ基、カルボン酸基、ジスルフィド基、カーボネート基、イソシアネート基、カルボジイミド基、カルボアルコキシ基、およびハロゲン基)が含まれていてもよい。
【0033】
好ましい実施態様において、Rは水素、C1〜C20アルキル、またはアリールである。C1〜C20アルキルは、場合により、1つ以上のアリール基、ハリド基、ヒドロキシ基、C1〜C20アルコキシ基、またはC2〜C20アルコキシカルボニル基で置換されていてもよい。アリールは、場合により、1つ以上のC1〜C20アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、C1〜C5アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、またはハリド基で置換されていてもよい。
【0034】
更に好ましい実施態様において、Rは、水素;C1〜C4アルキル;フェニル;ハリド、ヒドロキシ、C2〜C5アルコキシカルボニルから成る群より選ばれる1つ以上の基で置換されたC1〜C4アルキル;またはC1〜C5アルキル、C1〜C5アルコキシ、アミノ、ニトロ、およびハリドから成る群より選ばれる1つ以上の基で置換されたフェニルである。
【0035】
更に好ましい実施態様において、Rは、水素、メチル、エチル、n-ブチル、イソプロピル、-CH2Cl、-CH2CH2CH2OH、-CH2OAc、フェニルであってもよい。フェニルは、場合により、クロリド基、ブロミド基、ヨージド基、フルオリド基、-NO2基、-NMe2基、メトキシ基、またはメチル基で置換されていてもよい。より好ましい実施態様において、フェニルはパラ置換フェニルである。
【0036】
最も好ましい実施態様において、Rはフェニルである。
【0037】
本発明の好ましい錯体としては、次の錯体が挙げられる:
【化7】

【0038】
〔式中、Rは、シクロヘキシル、シクロペンチル、イソ-プロピル、またはフェニルである〕。
【0039】
本発明の最も好ましい錯体は、次の錯体である:
【化8】

【0040】
本発明のルテニウムおよびオスミウムアルキリデン錯体は、P. Schwab et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 34, 2039-2041 (1995)およびP. Scwab et al., J. Am. Chem. Soc.118, 100-110 (1996)(いずれも引用により本明細書中に含まれるものとする)に教示されている方法などの多種多様な方法で合成することができる。
【0041】
本発明のルテニウムおよびオスミウム錯体は、ジアゾアルカンからのアルキリデン移動により合成することができる。この合成方法は、一般的には、次のように記述される:
【化9】

【0042】
〔式中、M、X、X1、L、L1、R、およびR1は、先に記載した通りであり;mおよびnは、独立に0-3であり(ただし、m+n=3である);pは、正の整数である〕。ジアゾ型合成において、式(XX1MLnL1m)pで表される化合物を式RC(N2)R1で表されるジアゾ化合物と接触させると、本発明のアルキリデンが得られる。
【0043】
本発明のルテニウムおよびオスミウム錯体は、米国特許第5,312,940号および同第5,342,909号、ならびに米国特許出願第08/282,826号および同第08/282,827号に開示されているように、中性電子供与体配位子交換により合成することもできる。
【0044】
本発明のルテニウムおよびオスミウム錯体はまた、クロスメタセシスにより合成することもできる。この方法は、一般的には、次のように記述される:
【化10】

【0045】
〔式中、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、かつ水素、置換もしくは未置換アルキル、または置換もしくは未置換アリールである〕。
【0046】
本発明のルテニウムおよびオスミウム錯体はまた、アセチレン反応体を用いて合成することもできる。この方法は、一般的には、次のように記述される:
【化11】

【0047】
アセチレン型合成において、式(XX1MLnL1m)pで表される化合物を式R9CCR10で表されるアセチレン化合物と反応させると、本発明のアルキリデンが得られる。R9およびR10は、同じであっても異なっていてもよく、かつ水素、置換もしくは未置換アルキル、または置換もしくは未置換アリールである。
【0048】
本発明のルテニウムおよびオスミウム錯体はまた、累積オレフィンを用いて合成することもできる。この方法は、一般的には、次のように記述される:
【化12】

【0049】
本発明のルテニウムおよびオスミウム錯体はまた、一般に次のように記述できる「ワンポット」法により合成してもよい:
【化13】

【0050】
この方法において、中性電子供与体L2の存在下で式(XX1MLnL1m)pで表される化合物を式RC(N2)R1で表されるジアゾ化合物と接触させると、本発明のアルキリデンが得られる。
【0051】
本発明の触媒は、メタセシス反応に対する活性が高く、歪ありまたは歪なしの環状オレフィンのROMP、非環状ジエンのRCM、少なくとも1つの非環状オレフィンまたは歪なしの環状オレフィンが関与するセルフメタセシスおよびクロスメタセシス、オレフィンポリマーの解重合、非環状ジエンメタセシス重合(「ADMET」)、アルキン重合、カルボニルオレフィン化、およびテレケリックポリマーの調製(ただし、これらに限定されるものではない)などの種々のメタセシス反応の触媒として使用することができる。
【0052】
ROMP、RCM、クロスメタセシス、解重合、およびテレケリックポリマー反応については、米国特許出願第08/282,827号に詳細な説明がある。当業者は、本発明の錯体を使用してこれらの反応を実施するための適切な条件を容易に決めることができる。米国特許出願第08/282,827号に開示されている反応と本発明の反応との特別な違いについてはいずれも、以下で詳細に説明する。
アルキン重合については、R. Schlund et al., J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 8004-8006およびL.Y. Park et al., Macromolecules 1991, 24 3489-3495(いずれも引用により本明細書中に含まれるものとする)に記載がある。カルボニルオレフィン化については、K.A. brown-Wensley et al., Pure Appl. Chem. 1983, 55, 1733-1744、A. Aguero et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1986, 531-533、およびG.C. Bazan et al., Organometallics 1991, 10, 1062-1067(いずれも引用により本明細書中に含まれるものとする)に記載がある。ADMETについては、K.B. Wagener et al., Macromolecules 1991, 24, 2649-2657(引用により本明細書中に含まれるものとする)に記載がある。当業者は、本発明の錯体を使用してこれらの反応を実施するための適切な条件を容易に決めることができる。
【0053】
次に、上述の合成およびオレフィンメタセシス反応の特定の実施例について説明する。はっきりさせるために、詳細な反応条件および手順については、最後の「実験手順」のセクションで説明する。
【0054】
アルキリデン錯体の合成
ジアゾアルカンからのアルキリデン移動を介したRuCl2(=CHR)(PPh3)2の合成(錯体1〜9)
本発明のアルキリデン錯体は、RuCl2(PPh3)3と、アルキル、アリール、およびジアリールジアゾアルカンとの反応により合成することができる。一般的には、この合成反応は、-78℃において自発的なN2の発生を伴うが、このことは、RuCl2(PPh3)3と、ジアゾエタン、ジアゾプロパン、または式p-C6H4XCHN2で表されるパラ置換アリールジアゾアルカンとの迅速反応により、それぞれ、RuCl2(=CHR)(PPh3)2(R=Me[錯体1]、Et[錯体2])およびRuCl2(=CH-p-C6H4X)(PPh3)2(X=H[錯体3]、NMe2[錯体4]、OMe[錯体5]、Me[錯体6]、F[錯体7]、Cl[錯体8]、NO2[錯体9])が得られること示している(式1)。しかしながら、室温においてジフェニルジアゾメタンまたは9-ジアゾフルオレンとの反応は観測されず、更に、ジアゾメタンとの反応では、未同定生成物の複雑な混合物を生じた。
【0055】
式1
【化14】

【0056】
錯体1〜9は、空気中で安定な緑色固体として収率80%〜90%で単離された。これらの反応のいずれにおいても、アルキリデン部分のHαおよびCαの特徴的な低磁場共鳴(downfield-resonance)により、ジアゾ化合物からルテニウムへアルキリデン部分が移動することがはっきりと示された。以下の表Iには錯体3〜9に対する所定のNMRデータが示されている。
【表1】

【0057】
特に記載のないかぎり、CD2Cl2中で測定したスペクトル(ppm単位)。
【0058】
a C6D6中(ppm単位)。
【0059】
特徴的な構造を有するビニルアルキリデンRuCl2(=CH-CH-CPh2)(PPh3)2(錯体A)と同様に、これらの共鳴は31Pカップリングにより三重線となって現れる。これらのスペクトルデータから、ホスフィンが互いにトランス位にあり、かつアルキリデン単位がP-Ru-P平面内に存在することが示唆される。この他、錯体3〜9中のHαおよびCαの化学シフトは、RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PPh3)2(錯体A)(δHα=17.94、Cα=288.9ppm)と比べて低磁場側にあるが、これは恐らく錯体3〜9中のアルキリデン単位の共役が比較的弱くなったためであろう。この現象はまた、錯体1〜9が溶液中で比較的不安定であることと関係すると考えられる。これらの錯体は二分子経路を介して数時間以内に分解するが、このことは対応する二置換オレフィンRCH=CHR(R=Me、Et、p-C6H4X)の生成によって確認できる。
【0060】
ホスフィン交換を介したRuCl2(=CH-p-C6H4X)(PCy3)2の合成(錯体10〜16)
トリフェニルホスフィン触媒の合成上の有用性を広げるべく、ホスフィン交換により錯体3〜9と類似したトリアルキルホスフィン誘導体を調製した。室温において2.2当量のトリシクロヘキシルホスフィンを用いて錯体3〜9を処理することにより、処理完了後、RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PCy3)2(X=H[錯体10]、NMe2[錯体11]、OMe[錯体12]、Me[錯体13]、F[錯体14]、Cl[錯体15]、NO2[錯体16])が、紫色(錯体11は緑色)の微結晶質固体として高収率で得られた。この反応は次のように記述される:
式2
【化15】

【0061】
極めて特徴的なこれらの化合物は、固体状態において空気中で安定であり、60℃まで加熱してもあるいはアルコール、アミン、または水の存在下でも溶液(CH2Cl2またはC6H6)中において分解する徴候は見られない。錯体10〜16に対する所定の溶液NMRデータは、表IIに列挙されている。このデータから分かるように、PPh3錯体3〜9とは対照的に、1H NMRにおいて錯体10〜16のHα共鳴には31Pカップリングが観測されなかった。これらの共鳴の化学シフトは、置換基Xの電子的性質に依存する。
【表2】

【0062】
CD2Cl2中で測定したスペクトル(ppm単位)。
【0063】
a 幅の広いシグナル。
【0064】
31Pカップリングが観測されないことから、アルキリデン部分は、RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)の場合と同様にP-Ru-P平面に対して垂直であることが示唆される。また、置換基Xの電子的性質に対する共鳴シフトの依存性から、カルベン炭素とベンジリデン部分の芳香環とが強く共役していることが示唆される。
【0065】
RuCl2(=CHPh)(PR3)2のワンポット合成(錯体10、17、および18)
中間体RuCl2(=CHPh)(PPh3)2(錯体3)が溶液中で比較的不安定であるため、RuCl2(PPh3)3から合成できるRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10)の収率は75%〜80%である。しかしながら、錯体3の単離を行わずに、フェニルジアゾメタンでRuCl2(PPh3)3を処理した後すぐに約-50℃でトリシクロヘキシルホスフィンの添加を行うと、いわゆる「ワンポット合成」により1時間未満でほぼ定量的な収率で錯体10が得られる。これと同じ手順を、RuCl2(=CHPh)(PR3)2〔ただし、RはCp(錯体17)であるか、またはRはiPr(錯体18)であり、これらは同程度のメタセシス活性を呈する〕などのより溶解性の高い誘導体の合成に応用することができる。これらの反応は次のように記述される:
式3
【化16】

【0066】
メチリデン錯体 RuCl2(=CH2)(PCy3)2 の合成(錯体19)
RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)は、圧力100psi、50℃、CD2Cl2中において数時間以内にエチレンと反応して80:20の比でRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)とRuCl2(=CH2)(PCy3)2(錯体19)との平衡に達するが、ベンジリデンRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10)は、室温、14psiのエチレン下で数分以内に定量的にメチリデン錯体19に転化する(式7)。
【0067】
式7
【化17】

【0068】
錯体19は、赤紫色の空気中で安定な固体として単離される。五配位ルテニウム中心を有することは、分析データおよび分光学的データから推定できる。メチリデン錯体19は、ベンジリデン錯体10よりも溶液中での安定性が低く、溶液(CH2Cl2、C6H6)中において12時間後に分解が観測された。触媒溶液を加熱すると分解速度は増大する。RuCl(NO)(CH2)(PPh3)2およびIr=CH2(N(SiMe2-CH2PPh2(2)を含めて単離されたすべてのメチリデン錯体のうちで、錯体19が最初に単離可能なメタセシス活性メチリデン錯体である。シクロオクテンおよび1,5-シクロオクタジエンのROMP、ならびにジエチルジアリルマロネートの閉環メタセシスに見られるように、錯体19は高い活性を有するとともに、官能基に対してベンジリデン錯体10と類似した安定性を呈する。
【0069】
クロスメタセシスを介した置換アルキリデン錯体の合成
RuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10)とエチレンとの迅速な反応によりRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体19)が得られることから、本発明者らは、これらのメタセシス研究を末端および二置換のオレフィンにまで拡張した。オレフィンメタセシスは平衡過程であるので、こうした速度論的生成物は特定の条件下で単離される。実際に、錯体10は、それぞれ10倍過剰のプロペン、1-ブテン、または1-ヘキセンと反応させた場合、式RuCl2(=CHR)(PCy3)2[R=Me(錯体20)、R=Et(錯体21)、R=n-Bu(錯体22)]で表されるアルキリデンに定量的に転化される。いずれの場合においも、等モル量のスチレンが生成し、分光学的に同定された(式4)。
【0070】
式4
【化18】

【0071】
単離された化合物20〜22は、安定性および溶解性に関して前駆錯体10と同等であり、大過剰(30当量〜50当量)のスチレンの存在下で前駆錯体10に再転化される。二置換オレフィンcis-2-ブテンおよびcis-3-ヘキセンのメタセシスにより、ベンジリデン錯体10からRuCl2(=CHR)(PCy3)2 が生成する。しかしながら、これらのオレフィンは立体的に嵩高いため、対応する末端オレフィンを用いた場合よりも反応はかなりゆっくりと進行する。前駆錯体10と3,3-ジメチル-1-ブテンとの間では反応が起こらなかった。従って、20当量の3-メチル-1-ブテンとの反応が遅いことも、金属フラグメントと侵入するオレフインとの立体的相互作用に起因するものと考えられる。予想されたアルキリデンRuCl2(=CHiPr)(PCy3)2は、NMRにより同定されたが、反応全体にわたりその濃度は低い一定値に保たれた。6時間後、開始反応が完了し、メチリデン錯体19が単独反応生成物として単離された。アルキリデン型RuCl2(=CHR)(PCy3)2錯体20〜22を生成後すぐに単離しない場合、過剰のオレフィンを用いた遅い反応を行えば、10時間〜15時間以内にRuCl2(=CH2)(PCy3)2(錯体19)が得られる(式8)。
【0072】
式8
【化19】

【0073】
以下の反応スキームIに提示されているように、錯体10は恐らく末端オレフィンと反応して素早くメタロシクロブタン中間体I〔ただし、2つの置換基(PhおよびR)は立体障害により1,3-位をとる〕を形成するであろう。中間体金属環化合物の生成物形成開裂により、速度論的生成物としてアルキリデン錯体20〜22が得られる。
【0074】
反応スキームI
【化20】

【0075】
反応時間を長くすると、アルキリデン錯体RuCl2(=CHR)(PCy3)2(錯体20〜22)は、過剰のオレフィンとゆっくりと反応し、恐らく中間体メタロシクロブタンIIを介してメチリデン錯体19を生成する。RuCl2(=CH2)(PCy3)2(錯体19)は熱力学的生成物であると考えられる。なぜなら、この錯体は希釈条件下でα-オレフィンのメタセシスを起こさないからである。
【0076】
共役および累積オレフィンのメタセシス
RuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10)を10倍過剰の1,3-ブタジエンおよび1,2-プロパジエンで処理すると、それぞれビニルアルキリデンRuCl2(=CH-CH=CH2)(PCy3)2(錯体23)およびビニリデンRuCl2(=C=CH2)(PCy3)2(錯体24)が高収率で得られる(式5)。前者の錯体はシクロプロペンの開環を介して合成することはできない。
【0077】
式5
【化21】

【0078】
これらの錯体の分光学データは、関連化合物RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)およびRuCl2(=C=CH-t-Bu)(PPh3)2のデータと類似している。RuCl2(=CHR)(PCy3)2[R=Me(錯体20)、Et(錯体21)、n-Bu(錯体22)]の合成時における観測とは対照的に、反応時間を長くしてもメチリデンRuCl2(=CH2)(PCy3)2(錯体19)が生成しなかったことは、オレフィン前駆物質に対する錯体23および24の活性が低いことにより説明できる。しかしながら、錯体23および24はいずれも、ROMP活性を呈する。前者の場合には、シクロオクテンの比較的遅い重合(PDI=2.0)を引き起こすことにより実証された。ビニリデン錯体24は、ノルボルネンの迅速な重合を引き起こしたが、特徴的な色の変化を生じないことから比較的開始が遅いと考えられる。更に、これらの錯体はいずれも、非環状オレフィンのメタセシスに対しては不活性である。
【0079】
メタセシスを介した官能基の導入
ルテニウムアルキリデンは、周期表の低い族に含まれる遷移金属の対応化合物よりも活性は低いが、官能基およびプロトン性媒体に対して耐性を示すために、合成上の利用範囲は広い。本発明者らは、ビニルアルキリデンRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PR3)2(R=Ph、錯体A;またはR=Cy、錯体B)がビニルエーテルH2C=CH-OR'などの電子に富んだオレフィンと容易に反応して、メタセシス不活性RuCl2(=CH-OR')(PR3)2を生成することを明らかにした。この不可逆的反応は、本発明者らによって、成長ポリマー鎖の末端保護に応用された。電子の不足したオレフィンは、トリフェニルホスフィン触媒RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PPh3)2(錯体A)によるメタセシスを起こさない。更に、トリシクロヘキシルホスフィン触媒RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2 (錯体B)は、これらの基質に対してわずかな活性を呈するにすぎない。しかしながら、ベンジリデン触媒の錯体10の活性は強いので、この反応について更に検討を行った。式6に示されるように、ベンジリデン錯体10により触媒される官能化オレフィンのメタセシスは、アリルアセテートなどの電子に富んだオレフィンに限定されるものではなく、アリルクロリドなどの電子の不足したアルケンも対象となる。ベンジリデン錯体10はまた、4-ペンテン-1-オールの場合について示したように、保護されていないエン-オールの効率的なメタセシスを起こして、対応するヒドロキシアルキリデンRuCl2(=CH(CH2)3OH)(PCy3)2 (錯体27)を生成する(式6)。
【0080】
式6
【化22】

【0081】
化合物25〜27は、容易に単離され、完全な特性決定がなされた。いずれの場合においても、アルキリデンのHα共鳴は、近接CH2基とのカップリングのために三重線として観測された。アルキリデン25〜27は、歪みの少ないオレフィンのROMPに対して活性を有するため、テレケリックポリマーおよび他の官能化ポリマーの合成に対する魅力的な触媒となる。
【0082】
メタセシス触媒としてのアルキリデン錯体の使用
RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PPh3)2(錯体3〜9)によって触媒されたノルボルネンの重合の速度論的研究
錯体3〜9によってノルボルネンをCH2Cl2中で室温(RT)にておよそ 150当量/時の速度で重合して定量的収率でポリノルボルネンを得る。全ての反応は、完全開始反応を示す緑茶色から橙色への特徴的な色変化を伴っていた。得られたポリマーは1H-NMRによって測定したところ約90%がトランス形である。しかしながら、本発明の触媒はほぼ単分散のポリマーを生じさせ(RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PPh3)2(錯体A)についての1.25と比べると、PDI =1.04〜1.10)、測定された開始反応速度と一致する。RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PPh3)2 (錯体A)について観察されたように、錯体3〜9は、成長しているアルキリデン(1H-NMR:δ17.79ppm(dt)) が反応中に安定であることからリビング系に対する一般的な基準を満たしており、このポリマーの分子量は[触媒]/[モノマー]比に線形依存性を示す。
【0083】
メタセシス活性におけるアルキリデン部分のパラ置換基の影響を定性的に評価した。錯体3〜9(RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PPh3)2、[Ru]=0.022M)を主成分とする触媒をCH2Cl2溶液中でノルボルネン([モノマー]= 0.435M)で処理した。開始反応及び成長反応についての擬一次速度定数はそれぞれ、錯体3〜9のHα共鳴を対応する成長しているアルキリデン種の共鳴に対し積分し、内部標準フェロセンに対して減少するモノマーの濃度を監視することによって得られた。ki 及びkp の推定値を表IIIに示す。
【表3】


【0084】
表IIIからわかるように、開始反応速度に対するRuCl2(=CH-p-C6H4X)(PPh3)2のXの電子的影響は比較的小さいよう見える:最も速い場合(X=H(錯体3))の速度は最も遅い場合(X=Cl(錯体8))の速度の約10倍であった。置換基Xの電子的影響に関する一般的な傾向は観察されなかった。触媒としてRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PPh3)2(錯体A)を用いた同様の反応条件下では、観察された開始反応は<50%であった。ノルボルネン消費が完了したとき、開始反応を行わなかったカルベンを分光光学的に同定した。その外挿比ki /kp =6×10-3は錯体3〜9について観察されたものの約1000分の1である。これらの結果は、共役が、おそらく可能なメタロシクロブタン中間体に対して錯体3〜9についての出発物質であるアリーリデン類の基底状態のエネルギーを低下させることによって、ki を低減させていることを示唆するものである。ベンジリデン形の錯体3〜9はRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PPh3)2(錯体A)よりも優れた開始剤であるが、メタセシス触媒としての前者の使用は、ノルボルネン及びシクロブテン誘導体(それらの歪みエネルギーは10〜15kcal/molを超えるものと計算されている)などの比較的高度に歪んだ環状オレフィンであるROMPに同様に限定されている。
【0085】
RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PCy3)2(錯体10〜16)のROMP活性
ベンジリデンRuCl2(=CH-p-C6H4X)(PCy3)2(錯体10〜16)は、それらのPPh3類似体である錯体3〜9と比べて非常に活性なROMP触媒である。ノルボルネンを除いて、官能化ノルボルネン、7-オキサノルボルネン及び種々に置換されたシクロブテンを含む高歪みモノマーのROMPはリビングであり、非常に狭い分子量分布(PDI<1.1)を有するポリマーをもたらすことが証明された。RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)に類似して、錯体10〜16もシクロオクテン及び1,5-シクロオクタジエンのような低歪みシクロオレフィンを重合することができる。対応するポリマーは単分散ではない(PDIおよそ1.50〜1.60) が、これらの重合は触媒としてRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)(PDIおよそ2.50) を用いた場合よりもより急速にかつ有意により低度の多分散性の状態で進行する。しかしながら、これらの反応における「後部喰付き(back-biting) 」の発生はより広幅のPDI を引き起こす。したがって、これらの重合は、たとえ成長しているアルキリデンがシクロオクタジエンのROMPに対して 1H-NMR(δ18.88(t)) によって錯体10とともに観察されたとしても、リビングであるとみなすことはできない。
【0086】
錯体10もCD2Cl2中でシクロオクタテトラエンと完全開始反応で反応するが、成長は生じず、容易な後部喰付きによってベンゼンの生成がもたらされる。RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)に比べて増大した錯体10〜16の活性はより速い開始反応速度をもたらす。[(シメン)RuCl2]2、嵩高い第三ホスフィン及びトリメチルシリルジアゾメタンを含有する最近開発された触媒混合物はシクロオクテンのROMPを触媒することが見出された。
【0087】
非環状オレフィンのメタセシス
本発明者らは、最近、ビニルアルキリデンRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)が非環状オレフィン(例えばシス-2-ペンテン)に対してメタセシス活性を示すということを示した。そのターンオーバー数は、タングステン及びモリブデンを基材とする触媒の最良のものと比べて高いものではないが、ビニルアルキリデンRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)はルテニウムカルベン錯体によって誘導される非環状メタセシスの最初の例であった。しかしながら、遅い開始反応が触媒としてのその一般的な使用に対する目下の制約であった。ROMPにおけるそれらの非常に高い活性のために、ベンジリデンRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10) を用いて代表的に示したように(下記で論議)、錯体10〜16は効果的な非環状メタセシス触媒であることが見出された。
【0088】
RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PCy3)2(錯体10〜16)を用いた速度論的研究
RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PCy3)2(錯体10〜16)の開始反応速度に対するXの電子的影響は、それらの1-ヘキセンとの反応を調べることによって証明された。ペンチリデンRuCl2(=CH-n-Bu)(PCy3)2錯体22への完全で定量的な転化が全ての場合において観察された。擬一次反応速度定数をベンジリデン錯体10〜16対ペンチリデン錯体22のHα共鳴の積分によって測定した。代表的なプロットを図1A及び1Bに示し、開始反応速度定数(ki)を表IVに示す。
【表4】


【0089】
触媒RuCl2(=CH-p-C6H4X)(PPh3)2(錯体3〜9)を用いたノルボルネンのリビング-ROMPについて観察されたように、置換されたベンジリデン類の中のki・sの範囲は、ほぼ同程度の大きさである。一般的な傾向は認められないが、芳香族π系(すなわちX≠H)へのあらゆる摂動が開始反応速度を低下させる。RuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10) は、完全に反応しないビニリデンRuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2(錯体B)よりも約1000倍速く開始反応を行って上記の条件下でペンチリデン錯体22を生じさせる。
【0090】
代表的な錯体の構造
RuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PCy3)2(錯体15)のX線回折研究
錯体10〜16の代表例であるCl置換ベンジリデンRuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PCy3)2の構造を単結晶X線回折研究によってさらに確認した。この錯体のORTEP図を図2に示し、選択した結合長及び結合角を下記の表Vに示す。この分析によってほぼ直線形のCl(1)-Ru-Cl(2)角(167.61°)を有するゆがんだ四角錐形の配位であることが明らかになった。カルベン単位はP1-Ru-P2平面に対して直角であり、アリール配位子はほんのわずかにCl1-Ru-Cl2平面に対してねじれている。Ru-Cl結合距離は、関連した化合物RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2[d(Ru-C)=1.851(21)]又はRuCl(=C(OMe)-CH=CPh2)(CO)(Pi-Pr3)2[RuCl2(=CH-CH=CPh2)(PCy3)2F4][d-(Ru-C)=1.874(3)]それぞれよりも短い(1.838(3)Å)。
【表5】

【0091】
実験の部
一般的な実験手順
全ての操作はアルゴン雰囲気下で標準シュレンク(Schlenk)技術を用いて行った。アルゴンはBASF R3-11触媒(Chemalog)及び4Åモレキュラーシーブ(Linde)のカラムを通すことによって精製した。固体状の有機金属化合物は、窒素を充填した減圧雰囲気のドライボックス中又はアルゴン雰囲気下に移して保存した。NMR スペクトルはQE-300 Plus(300.1MHz 1H; 75.5MHz 13C) 、JEOL GX-400(399.7MHz 1H; 161.9MHz 31P)、又はBruker AM 500(500.1MHz 1H; 125.8MHz 13C; 202.5MHz 31P; 470.5MHz 19F)分光計で記録した。
【0092】
塩化メチレン及びベンゼンは活性アルミナのカラムに通し、アルゴン下で保存した。ベンゼン-d6 及び塩化メチレン-d2 は三連続凍結-ポンプ-融解サイクルによって脱気した。RuCl2(PPh3)3、トリシクロヘキシルホスフィン、並びにジアゾアルカン類H2CN2、MeCHN2、EtCHN2、PhCHN2、p-C6H4NMe2CHN2、p-C6H4OMeCHN2、p-C6H4MeCHN2、p-C6H4FCHN2 、p-C6H4ClCHN2及びp-C6H4NO2CHN2を文献の手順にしたがって調製した。ノルボルネンはナトリウム上で乾燥し、減圧移送してアルゴン下で保存した。シクロオクテン、1,5-シクロオクタジエン、及び1,3,5,7-シクロオクタテトラエンをCaH2上で乾燥し、蒸留してアルゴン下で保存した。以下の化学薬品は市販品を入手してそのままの状態で使用した:エチレン、プロピレン、1-ブテン、シス-2-ブテン、1-ヘキセン、シス-3-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1,3-ブタジエン、1,2-プロパジエン、酢酸アリル、塩化アリル、4-ペンテン-2-オール、ジアリルマロン酸ジエチル、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ペンタン、エーテル、アセトン及びメタノール。
【0093】
RuCl2(=CHMe)(PPh3)2 及びRuCl2(=CHEt)(PPh3)2(錯体1及び2)の合成
CH2Cl2(10ml)にRuCl2(PPh3)3(417mg, 0.43mmol) を溶かした溶液を、エーテルにジアゾエタン(1.90ml, 0.93mmol, 2.2当量)を溶かした-50℃、0.50Mの溶液で-78℃にて処理した。ジアゾエタンの添加によって橙褐色から緑褐色への色の変化及びわずかな泡立ちが観察された。冷却浴を取り去り、溶液を3分間攪拌し、次いで蒸発乾固した。油状の残留物を数回少量の氷冷したエーテル(各3ml)で洗浄し、残った黄緑色の固体RuCl2(=CHMe)(PPh3)2 を数時間減圧乾燥した。収量=246mg(78%)。1H NMR(CD2Cl2): δ18.47 (tq, JPH =10.2Hz, 3JHH =5.1Hz, Ru=CH), 7.68〜7.56及び7.49〜7.36(両方ともm, P(C6H5)3), 2.59(d, 3JHH=5.1Hz, CH3)。13C NMR(CD2Cl2):δ320.65 (t, JPC=9.9Hz, Ru=CH), 134.76(m, P(C6H5)3のo-C), 132.06(m, P(C6H5)3のipso-C), 130.38(s, P(C6H5)3 のp-C), 128.44(m, P(C6H5)3のm-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ29.99(s, PPh3)。元素分析:C38H34Cl2P2Ru についての計算値:C, 62.99; H, 4.73 ;実測値:C, 63.12; H, 4.61。
【0094】
類似の手順にて、RuCl2(PPh3)3(502mg, 0.52mmol) 及び、エーテルにジアゾプロパン(2.56ml, 1.15mmol, 2.2当量)を溶かした0.45M溶液から出発してRuCl2(=CHEt)(PPh3)2 を調製した。橙褐色の微結晶性固体が得られた。収量=311mg(81%)。1H NMR(C6D6): δ18.21 (tt, JPH =10.8, 3JHH =6.6Hz, Ru=CH), 7.91〜7.86及び6.97〜6.80(両方ともm, P(C6H5)3), 3.11 (dq, 3JHH =3JHH' =6.6Hz, CH2CH3), 0.79 (t,3J HH =6.6Hz, CH2CH3)。13C NMR(CD2Cl2):δ320.88 (t, JPC=10.0Hz, Ru=CH), 134.36(m, P(C6H5)3 のo-C), 132.27(m, P(C6H5)3のipso-C), 129.89(s, P(C6H5)3 のp-C), 128.14(m, P(C6H5)3のm-C), 53.20(s, CH2CH3), 29.74(s, CH2CH3)。31P NMR(CD2Cl2):δ30.02(s, PPh3)。元素分析:C39H36Cl2P2Ru についての計算値:C, 63.42; H, 4.91 ;実測値:C, 62.85; H, 4.81 。
【0095】
RuCl2(=CHPh)(PPh3)2 (錯体3)の合成
CH2Cl2(20ml)にRuCl2(PPh3)3(2.37g, 2.47mmol) を溶かした溶液を、CH2Cl2又はペンタン(3ml)にフェニルジアゾメタン(584mg, 4.94mmol, 2.0 当量)を溶かした-50℃の溶液で-78℃にて処理した。自然発生的な橙褐色から茶緑色への色の変化及び勢いのある泡立ちが観察された。冷却浴を取り去った後、溶液を5分間攪拌し、次いで約3mlまで濃縮した。ペンタン(20ml)を添加することによって緑色の固体を沈殿させ、その褐色の母液からカニューレ濾過によって分離し、CH2Cl2(3ml) に溶解し、ペンタンを用いて再沈殿させた。この操作を母液がほぼ無色になるまで繰り返した。残った灰緑色の微結晶性の固体を数時間減圧乾燥した。収量=1.67g(89%)。1H NMR(C6D6): δ19.56(t, JPH =10.2Hz, Ru=CH), 7.80〜7.64及び6.99〜6.66(両方ともm, C6H5 及びP(C6H5)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ310.12 (t, JPC=11.4Hz, Ru=CH), 155.36(s, C6H5 のipso-C), 134.91(m, P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 133.97 (d, JPC=19.6Hz, P(C6H5)3 のipso-C), 130.44(s, P(C6H5)3 のp-C), 130.03, 128,71及び127.09 (全てs, C6H5), 128.37(s(br.), P(C6H5)3 のm-C 又はo-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ30.63(s, PPh3)。元素分析:C43H36Cl2P2Ru についての計算値:C, 65.65; H, 4.61; P, 7.87;実測値:C, 65.83; H, 4.95; P, 7.93。
【0096】
RuCl2(=CH-p-C6H4NMe2)(PPh3)2(錯体4)の合成
CH2Cl2(10ml)にRuCl2(PPh3)3(466mg, 0.49mmol) を溶かした溶液を、CH2Cl2(3ml)にp-C6H4NMe2CHN2(160mg, 0.98mmol, 2.0 当量)を溶かした-50℃の溶液で-78℃にて処理した。自然発生的な橙褐色から茶緑色への色の変化及び勢いのある泡立ちが観察された。冷却浴を取り去った後、溶液を10分間攪拌し、次いで溶媒を減圧除去した。褐色の残留物を最小量のCH2Cl2(3ml)に溶解し、ペンタン(20ml)を添加して緑色の固体を沈殿させた。カニューレ濾過後、濾液が無色になるまでこの操作を繰り返した。残った黄緑色の微結晶性の固体を数時間減圧乾燥した。収量=317mg(78%)。1H NMR(CD2Cl2): δ18.30(t, JPH =6.1Hz, Ru=CH), 7.64 (d, 3JHH =8.7Hz, C6H4NMe2 のo-H), 7.52〜7.49(m, P(C6H5)3 のo-H),7.42(t, 3JHH =7.5Hz, P(C6H5)3 のp-H), 7.33(t, 3JHH =7.5Hz, P(C6H5)3 のm-H), 6.32(d, 3JHH =8.7Hz, C6H4NMe2 のm-H), 2.96(s, N(CH3)2)。13C NMR(CD2Cl2):δ309.68 (t, JPC=11.4Hz, Ru=CH), 152.72(s, C6H4NMe2 のipso-C), 135.01(m, P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 133.57(s, C6H4NMe2のo-C 又はm-C), 131.86(s, P(C6H5)3のC), 130.20(s, C6H4NMe2のo-C 又はm-C), 128.27(m, P(C6H5)3のm-C 又はo-C), 127.54(s(br.), C6H4NMe2 のp-C), 110.61 (d, JPC =21.5Hz, P(C6H5)3のipso-C), 40.30(s, N(CH3)2)。31P NMR(CD2Cl2):δ34.84(s, PPh3)。元素分析:C45H41Cl2NP2Ruについての計算値:C, 65.14; H, 4.98; N, 1.69;実測値:C, 65.28; H, 4.97; N, 1.80。
【0097】
RuCl2(=CH-p-C6H4OMe)(PPh3)2 (錯体5)の合成
CH2Cl2(12ml)にRuCl2(PPh3)3(561mg, 0.59mmol) を溶かした溶液を、CH2Cl2(3ml)にp-C6H4OMeCHN2(87mg, 0.59mmol, 1.0 当量)を溶かした-40℃の溶液で-78℃にて処理した。自然発生的な橙褐色から茶緑色への色の変化及び勢いのある泡立ちが観察された。冷却浴を取り去った後、溶液を5分間攪拌し、次いで溶媒を減圧除去した。茶緑色の残留物を最小量のCH2Cl2(2ml)に溶解し、ペンタン(20ml)を添加して褐色の固体を沈殿させた。その茶緑色の溶液をカニューレ濾過によって分離し、減圧乾燥した。残った黄緑色の固体(錯体5)を繰り返しエーテル(各10ml)で洗浄し、数時間減圧乾燥した。収量=400mg(83%)。1H NMR(C6D6): δ19.39(t, JPH =8.7Hz, Ru=CH),7.85〜7.72及び7.03〜6.80(両方ともm, C6H4OMe及びP(C6H5)3 ), 6.41(d, 3JHH =8.7Hz, C6H4OMeのm-H), 3.22(s, OCH3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ309.20 (t, JPC=10.7Hz, Ru=CH), 147.42(s, C6H4OMeのipso-C), 135.56(擬t, P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 133.98(s, C6H4OMe のo-C 又はm-C), 131.46(s, P(C6H5)3のp-C), 130.43(s, C6H4OMe のo-C 又はm-C), 128.40(擬t, P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 126.82(s, C6H4OMe のp-C), 113.95 (d, JPC =21.4Hz, P(C6H5)3のipso-C), 55.77(s, OCH3) 。31P NMR(CD2Cl2):δ32.50(s, PPh3)。元素分析:C44H38Cl2OP2Ruについての計算値:C, 64.71; H, 4.69 ;実測値:C, 65.23; H, 4.78 。
【0098】
RuCl2(=CH-p-C6H4Me)(PPh3)2(錯体6)の合成
錯体5の合成に用いたものと類似の方法にて、RuCl2(PPh3)3(350mg, 0.37mmol) 及びp-C6H4MeCHN2(48mg, 0.37mmol, 1.0当量)からRuCl2(=CH-p-C6H4Me)(PPh3)2を調製した。褐色の微結晶性固体が得られた。収量=258mg(87%)。1H NMR(C6D6): δ19.55(t, JPH=9.6Hz, Ru=CH), 7.84 〜7.63及び7.02〜6.80(両方ともm, C6H4Me 及びP(C6H5)3 ), 6.53(d, 3JHH =7.8Hz,C6H4Meのm-H), 1.68(s, CH3)。13C NMR(CD2Cl2):δ309.17 (t, JPC=10.9Hz, Ru=CH), 153.34(s, C6H4Me のipso-C), 135.50(s, C6H4OMeのo-C 又はm-C), 134.96(m, P(C6H5)3のm-C 又はo-C), 132.13(s, P(C6H5)3のp-C), 130.39(s, C6H4Meのo-C 又はm-C), 128.34(m, P(C6H5)3のm-C 又はo-C), 126.76(s, C6H4Meのp-C), 115.23 (d, JPC =21.4Hz, P(C6H5)3のipso-C), 40.92(s, CH3)。31P NMR(CD2Cl2):δ31.29(s, PPh3)。元素分析:C44H38Cl2P2Ru についての計算値:C, 66.00; H, 4.78 ;実測値:C,65.90;H,4.75。
【0099】
RuCl2(=CH-p-C6H4F)(PPh3)2 (錯体7)の合成
錯体3の合成に用いたものと類似の方法にて、RuCl2(PPh3)3(960mg, 1.00mmol) 及びp-C6H4FCHN2(272mg, 2.00mmol, 2.0当量)からRuCl2(=CH-p-C6H4F)(PPh3)2 を調製した。錯体7は錯体3と似たようにして合成された。黄緑色の微結晶性固体が得られた。収量=716mg(89%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.24(t, JPH = 9.0Hz, Ru=CH), 7.65〜7.62(m, C6H4F のo-H), 7.50〜7.44及び7.35〜7.32(両方ともm, P(C6H5)3), 6.62(t, 3JHH =3JHF =8.9Hz, C6H4Fのm-H), 152.21(s, C6H4F のipso-C), 134.95(m, P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 134.04 (d, JCF=19.5Hz, C6H4Fのm-C), 130.56(s, P(C6H5)3のp-C), 130.08 (d, JCF=8.7Hz, C6H4F のo-C), 128.47(m, P(C6H5)3のm-C 又はo-C), 115.67 (d, JPC =21.8Hz, P(C6H5)3のipso-C) 。31P NMR(CD2Cl2):δ31.03(s, PPh3)。19F NMR(CD2Cl2):δ45.63(s, C6H4F)。元素分析:C43H35Cl2FP2Ruについての計算値:C, 64.18; H, 4.38 ;実測値:C, 64.42; H, 4.42 。
【0100】
RuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PPh3)2(錯体8)の合成
実施例2で用いたものと類似の方法にて、RuCl2(PPh3)3(350mg, 0.37mmol) 及びp-C6H4ClCHN2(111mg, 0.73mmol, 2.0 当量)からRuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PPh3)2を調製した。緑色の微結晶性固体が得られた。収量=246mg(82%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.27(t, JPH = 9.2Hz, Ru=CH), 7.51〜7.44, 7.35〜7.32及び6.67〜6.63 (全てm, C6H4Cl 及びP(C6H5)3), 6.86(d, 3J HH =8.8Hz, C6H4Cl のm-H)。13C NMR(CD2Cl2):δ307.34 (t, JPC=10.6Hz, Ru=CH), 153.82(s, C6H4Cl のipso-C), 134.91(m, P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 130.58(s, P(C6H5)3のp-C), 128.87, 128.81及び127.85 (全てs, C6H4Cl), 128.48(s(br.), P(C6H5)3 のm-C 又はo-C), 115.90 (d, JPC =21.7Hz, P(C6H5)3のipso-C) 。31P NMR(CD2Cl2):δ30.47(s, PPh3)。元素分析:C43H35Cl3P2Ru についての計算値:C, 62.90; H, 4.30 ;実測値:C, 62.87; H, 4.40 。
【0101】
RuCl2(=CH-p-C6H4NO2)(PPh3)2 (錯体9)の合成
錯体3の合成に用いたものと類似の方法にて、RuCl2(PPh3)3(604mg, 0.63mmol) 及びp-C6H4NO2CHN2(206mg, 1.25mmol, 2.0当量)からRuCl2(=CH-p-C6H4NO2)(PPh3)2 (錯体9)を調製した。黄褐色の微結晶性固体が得られた。収量=398mg(76%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.47(t, JPH =10.8Hz, Ru=CH), 7.88〜7.67, 7.38〜7.33及び7.02〜6.71 (全てm, C6H4NO2及びP(C6H5)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ313.43 (t, JPC=11.2Hz, Ru=CH), 158.40(s, C6H4NO2のipso-C), 148.11(s, C6H4NO2のp-C), 135.49(m, P(C6H5)3のm-C 又はo-C), 132.21(s, C6H4NO2 のm-C), 130.91(s, P(C6H5)3のp-C), 130.72(s, C6H4NO2 のo-C), 128.86(m, P(C6H5)3のm-C又はo-C), 116.03 (d, JPC =21.6Hz, P(C6H5)3のipso-C) 。31P NMR(CD2Cl2):δ32.27(s, PPh3)。元素分析:C43H35Cl2NO2P2Ruについての計算値:C, 62.10; H, 4.24; N, 1.68;実測値:C, 62.31; H, 4.66; N, 1.84。
【0102】
RuCl2(=CHPh)(PCy3)2 (錯体10)の合成
CH2Cl2(10ml)にRuCl2(=CHPh)(PPh3)3(242mg, 0.31mmol)を溶かした溶液を、CH2Cl2(3ml)にトリシクロヘキシルホスフィン(190mg, 0.68mmol, 2.2 当量)を溶かした溶液で処理し、室温で30分間攪拌した。溶液を濾過し、溶媒を減圧除去した。残留物を繰り返しアセトン又はメタノール(各5ml)で洗浄し、減圧乾燥した。紫色の微結晶性固体が得られた。収量=290mg(89%)。1H NMR(CD2Cl2): δ20.02(s. Ru=CH)(s, Ru=CH), 8.44 (d, 3JHH =7.6Hz, C6H5 のo-H), 7.56(t, 3J HH =7.6Hz, C6H5のp-H), 7.33(t, 3JHH =7.6Hz, C6H5 のm-H), 2.62〜2.58, 1.77〜1.67, 1.46〜1.39及び1.25〜1.16 (全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ294.72 (s, Ru=CH), 153.17(s, C6H5 のipso-C), 131.21, 129.49 及び129.27 (全てs, C6H5), 32.49(擬t, Japp =9.1Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.04(s, P(C6H11)3 のm-C), 28,24(擬t, Japp =4.5Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26,96(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ36.61(s, PCy3)。元素分析:C43H72Cl2P2Ru についての計算値:C, 62.76; H, 8.82 ;実測値:C, 62.84; H, 8.71 。
【0103】
RuCl2(=CHPh)(PCy3)2 (錯体10)のワンポット合成
CH2Cl2(40ml)にRuCl2(PPh3)3(4.0g, 4.17mmol)を溶かした溶液を、ペンタン(10ml)にフェニルジアゾメタン(986mg, 8.35mmol, 2.0 当量)を溶かした-50℃の溶液で-78℃にて処理した。ジアゾ化合物を添加すると、橙褐色から緑褐色への瞬間的な色の変化及び勢いのある泡立ちが観察された。反応混合物を-70℃から-60℃にて5〜10分間攪拌した後、CH2Cl2にトリシクロヘキシルホスフィン(2.57g, 9.18mmol, 2.2 当量)を溶かした氷冷溶液をシリンジで添加した。茶緑色から赤への色の変化が生じた後、溶液を室温まで温めて30分間攪拌した。溶液を濾過し、容量が半分になるまで濃縮し、濾過した。メタノール(100ml) を添加して紫色の微結晶性固体である錯体10を沈殿させ、濾取し、数回アセトン及びメタノール(各10ml)で洗浄して数時間減圧乾燥した。収量3.40g(99%)。
【0104】
RuCl2(=CH-p-C6H4NMe2)(PCy3)2(錯体11)の合成
RuCl2(=CH-p-C6H4NMe2)(PPh3)2(316mg, 0.38mmol) 及びトリシクロヘキシルホスフィン(235mg, 0.84mmol, 2.0 当量) から出発して、錯体10を合成するのに用いた手順と類似の手順にて緑色微結晶性固体としてRuCl2(=CH-p-C6H4NMe2)(PCy3)2を得た。収量284mg(86%)。1H NMR(CD2Cl2): δ18.77(s, Ru=CH), 8.25 〜8.14(s(vbr.), C6H4NMe2のo-H), 6.55(d, 3JHH =7.2Hz, C6H4NMe2 のm-H), 2.97(s, N(CH3)2), 2.63〜2.61, 1.80〜1.67, 1.43〜1.41及び1.21〜1.17(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ286.13(s(br.), Ru=CH), 151.28(s, C6H4NMe2 のipso-C), 144.80, 134.85 及び110.50 (全てs, C6H4NMe2), 40.30(s, N(CH3)2), 32.54 (擬t, Japp =8.2Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.10(s, P(C6H11)3 のm-C),28.36(m, P(C6H11)3のo-C), 27.07(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ34.94(s, PCy3)。元素分析:C45H77Cl2NP2Ruについての計算値:C, 62.41; H, 8.96; N, 1.62;実測値:C, 62.87; H, 9.04; N, 1.50。
【0105】
RuCl2(=CH-p-C6H4OMe)(PCy3)2 (錯体12)の合成
RuCl2(=CH-p-C6H4OMe)(PPh3)2(171mg, 0.21mmol)及びトリシクロヘキシルホスフィン(130mg, 0.46mmol, 2.2 当量) から出発して、錯体10を合成するのに用いたものと類似の方法にて暗紫色の微結晶性固体としてRuCl2(=CH-p-C6H4OMe)(PCy3)2 を得た。収量152mg(85%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.48(s, Ru=CH), 8.43 (s(br.), C6H4OMeのo-H), 6.82(d, 3JHH =8.6Hz, C6H4OMeのm-H), 3.82(s, OCH3), 2.64 〜2.59, 1.78〜1.68, 1.46〜1.39及び1.26〜1.15(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ290.90(s(br.), Ru=CH), 148.34(s, C6H4OMeのipso-C), 134.91, 132.30 及び128.83 (全てs, C6H4OMe), 55.81(s, OCH3), 32.51 (擬t, Japp=9.1Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.06(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.28(擬t, Japp=5.2Hz, P(C6H11)3 のo-C), 27.00(s, P(C6H11)3のp-C)。31P MR(CD2Cl2):δ35.83(s, PCy3)。元素分析:C44H74Cl2OP2Ruについての計算値:C, 61.96; H, 8.74 ;実測値:C, 62.36; H, 8.71 。
【0106】
RuCl2(=CH-p-C6H4Me)(PCy3)2(錯体13)の合成
RuCl2(=CH-p-C6H4Me)(PPh3)2(416mg, 0.52mmol) 及びトリシクロヘキシルホスフィン(321mg, 1.14mmol, 2.2 当量) から出発して、錯体10を合成するのに用いたものと類似の方法にて明紫色の微結晶性固体としてRuCl2(=CH-p-C6H4Me)(PCy3)2を得た。収量385mg(88%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.80(s, Ru=CH), d, 3JHH =7.6Hz, C6H4Me のo-H), 7.13(d, 3JHH =7.6Hz, C6H4Me のm-H), 2.08(s, CH3), 2.62〜2.58, 1.77〜1.67, 1.43〜1.40及び1.22〜1.17(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ293.86 (t, JPC=8.3Hz, Ru=CH), 141.48(s, C6H4Meのipso-C), 131.56 及び129.85 (両方ともs, C6H4Me), 32.52 ( 擬t, Japp =9.2Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.07(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.26(擬t, Japp =4.1Hz, P(C6H11)3 のo-C), 27.00(s, P(C6H11)3のp-C), 22.39(s, CH3) 。31P NMR(CD2Cl2):δ36.09(s, PCy3)。元素分析:C44H74Cl2P2Ru についての計算値:C, 63.14; H, 8.91 ;実測値:C, 63.29; H, 8.99 。
【0107】
RuCl2(=CH-p-C6H4F)(PCy3)2 (錯体14)の合成
RuCl2(=CH-p-C6H4F)(PPh3)2(672mg, 0.84mmol)及びトリシクロヘキシルホスフィン(515mg, 1.84mmol, 2.2 当量) から出発して、錯体10を合成するのに用いたものと類似の方法にて紫色の微結晶性固体としてRuCl2(=CH-p-C6H4F)(PCy3)2 を得た。収量583mg(83%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.86(s, Ru=CH), 8.52 〜8.50(s(br.), C6H4Fのo-H), 7.00 (dd, 3JHH =3JHF =8.8Hz, C6H4Fのm-H), 2.63〜2.59, 1.77〜1.68, 1.47〜1.40及び1.26〜1.17(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ291.52 (t, JPC=8.6Hz, Ru=CH), 162.10 (d, JCF =254.3Hz, C6H4Fのp-C), 150.57(s, C6H4F のipso-C), 134.10(d, JCF =8.9Hz, C6H4Fのo-C), 116.00 (d, JCF =21.3Hz, C6H4F のm-C), 32.49 ( 擬t, Japp =9.3Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.05(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.22(擬t, Japp =5.2Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.94(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ36.60(s, PCy3)。19F NMR(CD2Cl2):δ45.47(s, C6H4F) 。元素分析:C43H71Cl2FP2Ruについての計算値:C, 61.41; H, 8.51 ;実測値:C, 61.32; H, 8.59 。
【0108】
RuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PCy3)2(錯体15)の合成
RuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PPh3)2(543mg, 0.66mmol) 及びトリシクロヘキシルホスフィン(408mg, 1.45mmol, 2.2 当量) から出発して、錯体10を合成するのに用いたものと類似の方法にて紫色の微結晶性固体としてRuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PCy3)2を得た。収量493mg(87%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.98(s, Ru=CH), 8.43 (d, 3JHH =8.7Hz, C4H4Cl のo-H), 7.29(d, 3JHH =8.7Hz, C6H4Cl のm-H), 2.63〜2.58, 1.76〜1.68, 1.46〜1.41及び1.25〜1.17(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ291.52 (t, JPC=8.0Hz, Ru=CH), 151.81 (s, C6H4Cl のipso-C), 134.64(s, C6H4Cl のp-C), 132.56及び129.51 (両方ともs, C6H4Cl のo-C 及びm-C), 32.51(擬t, Japp =8.9Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.06(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.22(擬t, Japp =5.2Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.96(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ36.81(s, PCy3)。元素分析:C43H71Cl2FP2Ruについての計算値:C, 60.24; H, 8.35 ;実測値:C, 60.22; H, 8.45 。
【0109】
RuCl2(=CH-p-C6H4NO2)(PCy3)2 (錯体16)の合成
RuCl2(=CH-p-C6H4NO2)(PPh3)2(609mg, 0.73mmol)及びトリシクロヘキシルホスフィン(452mg, 1.61mmol, 2.2 当量) から出発して、実施例11における手順と類似の手順にて赤紫色の微結晶性固体としてRuCl2(=CH-p-C6H4NO2)(PCy3)2 を得た。収量527mg(83%)。1H NMR(CD2Cl2): δ20.71(s, Ru=CH), 8.64 (d, 3JHH =8.4Hz, C6H4NO2のo-H), 8.13(d, 3JHH =8.4Hz, C6H4NO2のm-H), 2.63〜2.58, 1.73〜1.68, 1.47〜1.40及び1.26〜1.17(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ289.07 (t, JPC=7.6Hz, Ru=CH), 155.93 (s, C6H4NO2のipso-C), 145.34(s, C6H4NO2のp-C), 131.22及び125.06 (両方ともs, C6H4NO2のo-C 及びm-C), 32.57(擬t, Japp =9.2Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.05(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.16(擬t, Japp =4.1Hz, P(C6H11)3 のo-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ38.11(s, PCy3)。元素分析:C43H71Cl2NO2P2Ruについての計算値:C, 59.50; H, 8.25;N, 1.61 ;実測値:C, 59.18; H, 8.25; N, 1.49。
【0110】
RuCl2(=CHPh)(PCp3)2 (錯体17)のワンポット合成
錯体17は、RuCl2(PPh3)3(4.00g, 4.17mmol) 、フェニルジアゾメタン(986mg, 8.35mmol, 2.0 当量)及びトリシクロペンチルホスフィン(2.19g, 9.18mmol, 2.2 当量)を用いて、錯体10と似たようにして紫色の微結晶性固体として得られた。錯体17の優れた溶解性のために、洗浄にはメタノールのみが用いられる。収量2.83g(92%)。1H NMR(CD2Cl2): δ20.20(s, Ru=CH), 8.47 (d, 3JHH =7.5Hz, C6H5 のo-H), 7.63(t, 3JHH =7.5Hz, C6H5 のp-H), 7.36(t, 3JHH =7.5Hz, C6H5 のm-H), 2.68〜2.62, 1.81〜1.77, 1.62〜1.52及び1.49〜1.44(全てm, P(C5H9)3)。13C NMR(CD2Cl2):δ300.52 (t, JPC=7.6Hz, Ru=CH), 153.38 (s, C6H5 のipso-C), 130.99, 129.80 及び129.53 (全てs, C6H5), 35.54(擬t, Japp =11.2Hz, P(C5H9)3 のipso-C), 29.99及び26.39(両方ともs, P(C5H9)3)。31P NMR(CD2Cl2):δ29.96(s, PCp3)。元素分析:C37H60Cl2P2Ru についての計算値:C, 60.15; H, 8.19 ;実測値:C, 60.39; H, 8.21 。
【0111】
RuCl2(=CHPh)(PiPr3)2(錯体18)のワンポット合成
錯体18は、RuCl2(PPh3)3(4.00g, 4.17mmol) 、フェニルジアゾメタン(986mg, 8.35mmol, 2.0 当量)及びトリイソプロピルホスフィン(1.79ml, 9.18mmol, 2.2当量)を用いて、錯体17と似たようにして紫色の微結晶性固体として得られた。収量2.26g(93%)。1H NMR(CD2Cl2): δ20.10(s, Ru=CH), 8.52 (d, 3JHH =7.6Hz, C6H5 のo-H), 7.36(t, 3JHH =7.6Hz, C6H5 のp-H), 7.17(t, 3JHH =7.6Hz, C6H5 のm-H), 2.88〜2.85(m, PCHCH3), 1.19(dvt, N=13.6Hz, PCH CH3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ296.84 (s(br.), Ru=CH), 152.81 (s, C6H5 のipso-C), 131.37, 129.54 及び129.20 (全てs, C6H5), 22.99(vt, N=2JPC +4JPC=18.9Hz, PC HCH3),19.71(s, PCHCH3)。31P NMR(CD2Cl2):δ45.63(s, PiPr3) 。元素分析:C25H48Cl2P2Ru についての計算値:C, 51.54; H, 8.31 ;実測値:C, 51.69; H, 8.19 。
【0112】
RuCl2(=CH2)(PCy3)2(錯体19)の合成
CH2Cl2(15ml)にRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(821mg, 1.00mmol)を溶かした溶液をエチレン雰囲気下、室温で15分間攪拌した。溶媒を減圧除去し、残留物を繰り返しアセトン又はペンタン(5ml)で洗浄して数時間減圧乾燥した。暗紅色の微結晶性固体が得られた。収量745mg(定量的) 。1H NMR(CD2Cl2): δ18.94(s, Ru=CH2), 2.50〜2.44, 1.81〜1.70, 1.49〜1.43及び1.25〜1.23(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ294.71 (t, JPC=7.6Hz,JCH=164.0Hz(ゲートデカップリング(gated decoupled)), Ru=CH), 31.05 ( 擬t, Japp =9.6Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.58(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.20(擬t, Japp =5.3Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.94(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ43.74(s, PCy3)。元素分析:C37H68Cl2P2Ru についての計算値:C, 59.50; H, 9.18 ;実測値:C, 59.42; H, 9.29 。
【0113】
RuCl2(=CHMe)(PCy3)2 (錯体20)の合成
錯体19の合成に用いた手順と類似の手順にて、出発物質としてRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(763mg, 0.93mmol)及びプロピレン(又は2-ブテン)を用いて、RuCl2(=CHMe)(PCy3)2 を赤紫色の微結晶性固体として得た。収量691mg(98%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.26 (q, 3JHH =5.1Hz, Ru=CH), 2.57 (d, 3JHH =5.1Hz, CH3), 2.59 〜2.53, 1.87〜1.79, 1.57〜1.50及び1.28〜1.23(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ316.32 (t, JPC=7.6Hz, Ru=CH), 49.14(s, CH3), 32.37 ( 擬t, Japp =9.4Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.87(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.22(擬t, Japp =5.0Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.94(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ35.54(s, PCy3)。元素分析C38H70Cl2P2Ru についての計算値:C, 59.58; H, 9.27 ;実測値:C, 59.91; H, 9.33 。
【0114】
RuCl2(=CHEt)(PCy3)2 (錯体21)の合成
錯体19の合成に用いた手順と類似の手順にて、出発物質としてRuCl2(=CHPh)(PCy3)2 及び10倍過剰の1-ブテン(又はシス-3-ヘキセン)を用いて、RuCl2(=CHEt)(PCy3)2 を赤紫色の微結晶性固体として得た。収量616mg(97%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.12 (t, 3JHH =5.0Hz, Ru=CH), 2.79(dq, 3JHH =5.0Hz,3JHH' =7.1Hz, CH2CH3), 2.55 〜2.49, 1.84〜1.81, 1.54〜1.47及び1.26〜1.23(全てm, P(C6H11)3), 1.35(t, 3J HH' =7.1Hz, CH2CH3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ322.59 (t, JPC=9.3Hz, Ru=CH), 53.48(s, CH2CH3), 32.20(擬t, Japp =8.9Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.85(s, P(C6H11)3 のm-C), 29.57(s, CH2CH3), 28.22(擬t, Japp =4.6Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.88(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ36.39(s, PCy3)。元素分析:C39H72Cl2P2Ru についての計算値:C, 60.45; H, 9.37 ;実測値:C, 60.56; H, 9.30 。
【0115】
RuCl2(=CH-n-Bu)(PCy3)2(錯体22)の合成
錯体19の合成に用いた手順と類似の手順にて、出発物質としてRuCl2(=CHPh)(PCy3)2 (354mg, 0.43mmol) 及び1-ヘキセン(538μl, 4.30mmol, 10 当量)を用いて、RuCl2(=CH-n-Bu)(PCy3)2を赤紫色の微結晶性固体として得た。収量328mg(95%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.24 (t, 3JHH =5.1Hz, Ru=CH), 2.74(dt, 3JHH =5.1,3JHH' =5.2Hz, CHCH2), 2.56〜2.47, 1.82〜1.78, 1.70〜1.68, 1.54〜1.43, 1.26〜1.22及び0.95〜0.86(全てm, CH2CH2CH3及びP(C6H11)3)。13C NMR(CD2Cl2):δ321.13 (t, JPC=7.6Hz, Ru=CH), 58.85(s, CHCH2), 32.25( 擬t, Japp =9.4Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.90(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.23(擬t, Japp =5.3Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.91(s, P(C6H11)3のp-C), 30.53, 22.94及び14.06(全てs, CH2CH2CH3) 。31P NMR(CD2Cl2):δ36.05(s, PCy3)。元素分析:C41H76Cl2P2Ru についての計算値:C, 61.32; H, 9.54 ;実測値:C, 61.51; H, 9.71 。
【0116】
RuCl2(=CHCH=CH2)(PCy3)2 (錯体23)の合成
1,3-ブタジエンを、CH2Cl2(15ml)に錯体10(703mg, 0.85mmol) を溶かした溶液に-20℃にて20秒間ゆっくりとバブリングする。溶液を10分以内で室温まで温めると、紫色から橙褐色への色の変化が観察される。溶媒を減圧除去し、残留物を繰り返しアセトン又はペンタン(5ml)で洗浄して数時間減圧乾燥した。赤紫色微結晶性固体が得られた。収量627mg(95%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.06 (d, 3JHH =10.5Hz, Ru=CH), 8.11(ddd, 3JHH =10.5,3J HHシス=9.3, 3JHHトランス=16.8Hz, CH=CH2), 6.25(d, 3J HH シス=9.3, CH=CH2の Hcis ), 6.01(d, 3J HHトランス=9.3, CH=CH2の Htrans ), 2.59 〜2.53, 1.83〜1.78, 1.52〜1.47及び1.25〜1.21(全てm, P(C6H11)313C NMR(CD2Cl2):δ296.00 (t, JPC=7.6Hz, Ru=CH),153.61(s, CH=CH2), 115.93(s, CH=CH2), 32.32(擬t, Japp =8.9Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.82(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.15(擬t, Japp =5.1Hz, P(C6H11)3のo-C), 26.91(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ36.17(s, PCy3)。元素分析:C39H70Cl2P2Ru についての計算値:C, 60.61; H, 9.13 ;実測値:C, 60.79; H, 9.30 。
【0117】
RuCl2(=C=CH2)(PCy3)2(錯体24)の合成
錯体23の合成に用いた手順と類似の手順にて、出発物質として錯体10(413mg, 0.50mmol) 及び1,2-プロパジエンを用いて、RuCl2(=C=CH2)(PCy3)2を褐色の微結晶性固体として得た。収量373mg(98%)。1H NMR(CD2Cl2): δ3.63 (s, Ru=C=CH2), 2.71〜2.64, 2.05〜2.01, 1.81〜1.53及び1.32〜1.23(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ327.41 (t, JPC=17.2Hz, Ru=C=CH2), 99.34(s, Ru=C=CH2), 33.30(擬t, Japp =8.9Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 30.41(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.32(擬t, Japp =5.0Hz, P(C6H11)3 のo-C), 27.02(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ35.36(s, PCy3)。元素分析:C38H68Cl2P2Ru についての計算値:C, 60.14; H, 9.03 ;実測値:C, 60.29; H, 8.91 。
【0118】
RuCl2(=CHCH2OAc)(PCy3)2 (錯体25)の合成
CH2Cl2(10ml)に錯体10(423mg, 0.51mmol) を溶かした溶液を、酢酸アリル(555μl, 5.10mmol, 10 当量)で-20℃にて処理した。溶液を10分以内に室温まで温めたところ、紫色から橙褐色への色の変化が観察された。溶媒を減圧除去し、残留物を繰り返し氷冷メタノール(各5ml)で洗浄して数時間減圧乾燥した。紫色の微結晶性固体RuCl2(=CHCH2OAc)(PCy3)2 が得られた。収量342mg(83%)。1H NMR(CD2Cl2): δ18.90 (t, 3JHH =4.2Hz, Ru=CH), 4.77 (d, 3JHH =3.6Hz, CH2OAc), 2.09(s, C(O)CH3), 2.53〜2.47, 1.81〜1.70, 1.59〜1.53及び1.26〜1.22(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ305.76 (t, JPC=7.6Hz, Ru=C), 170.41(s, C(O)CH3), 83.19(s, CH2OAc), 32.59( 擬t, Japp =8.6Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.94(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.23(m, P(C6H11)3のo-C), 26.91(s, P(C6H11)3のp-C), 20.91(s, C(O)CH3) 。31P NMR(CD2Cl2):δ36.66(s, PCy3)。元素分析:C39H72Cl2O2P2Ru についての計算値:C, 58.05; H, 8.99 ;実測値:C, 58.13; H, 9.07 。
【0119】
RuCl2(=CHCH2Cl)(PCy3)2(錯体26)の合成
錯体25の合成に用いた手順と類似の手順にて、出発物質として錯体10(583mg, 0.71mmol) 及び塩化アリル(577μl, 7.08mmol, 10 当量)を用いて、RuCl2(=CHCH2Cl)(PCy3)2を紫色の微結晶性固体として得た。収量552mg(80%)。1H NMR(CD2Cl2): δ18.74 (t, 3JHH =4.5Hz, Ru=CH), 4.43 (d, 3JHH =4.8Hz, CH2Cl), 2.55〜2.50, 1.81〜1.70, 1.59〜1.52及び1.27〜1.23(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ303.00 (t, JPC=7.8Hz, Ru=C), 63.23(s, CH2Cl), 32.05(擬t, Japp =8.8Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.50(s, P(C6H11)3 のm-C), 27.81(擬t, Japp =5.2Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.56(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ37.36(s, PCy3)。元素分析:C38H69Cl3P2Ru についての計算値:C, 57.39; H, 8.74 ;実測値:C, 57.55; H, 8.81 。
【0120】
RuCl2(=CH(CH2)3OH)(PCy3)2 (錯体27)の合成
錯体25の合成に用いた手順と類似の手順にて、出発物質として錯体10(617mg, 0.82mmol) 及び4-ペンテン-1-オール(823μl, 8.2mmol, 10当量)を用いて、RuCl2(=CH(CH2)3OH)(PCy3)2 を紫色の微結晶性固体として得た。収量459mg(76%)。1H NMR(CD2Cl2): δ19.20 (t, 3JHH =4.6Hz, Ru=CH), 5.46(s(br.), OH), 2.82〜2.78, 2.06〜2.01及び1.62〜1.58(全てm, CH2 CH2 CH2OH), 2.55 〜2.51,1.84 〜1.81, 1.55〜1.52及び1.26〜1.23(全てm, P(C6H11)3) 。13C NMR(CD2Cl2):δ305.66 (5, JPC=7.3Hz, Ru=C), 62.66(s, CH2OH), 33.01 及び30.08 (両方ともs, CH2CH2), 32.32(擬t, Japp =8.5Hz, P(C6H11)3 のipso-C), 29.94(s, P(C6H11)3 のm-C), 28.28(擬t, Japp =5.3Hz, P(C6H11)3 のo-C), 26.91(s, P(C6H11)3のp-C)。31P NMR(CD2Cl2):δ37.06(s, PCy3)。元素分析:C40H74Cl2P2ORuについての計算値:C, 59.69; H, 9.27 ;実測値:C, 59.51; H, 9.09 。
【0121】
触媒として錯体3〜9を用いたノルボルネンのROMP
ノルボルネン(59mg, 0.63mmol)をCH2Cl2(0.7ml) に溶解し、室温にてCH2Cl2(0.3ml) に錯体3〜9(6.25μmol)を溶かした溶液で処理した。反応混合物は3〜5分以内に粘稠になり、茶緑色から橙色に色が変化した。溶液を室温で1時間攪拌し、次いで空気に曝して微量の2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール及びエチルビニルエーテルを含有するCH2Cl2(2ml)で処理した。得られた緑色の溶液を20分間攪拌し、短いシリカゲルカラムを通して濾過し、勢いよく攪拌したメタノール中に沈殿させた。単離し、数回メタノールで洗浄し、減圧乾燥して白色の粘着性のポリマーを得た。収率95〜99%、およそ90%がトランス、Mn =31.5〜42.3kg/mol、PDI(トルエン):1.04〜1.10。
【0122】
錯体3〜9を用いたノルボルネンのROMPにおける開始反応速度及び成長反応速度の測定
錯体3〜9を主成分とする触媒1.25×10-5mol をNMR チューブ内に秤り取り、ベンゼン-d6(0.3ml)に溶解した。ベンゼン-d6(20μl)に溶かしたフェロセン保存溶液を内標準として添加した。これらの混合物を、ベンゼン-d6(250 μl)にノルボルネン(23.5mg, 0.25mmol, 20 当量)を溶かした溶液で処理した。1H NMRルーチンをすぐに開始して40分以内に60スペクトルを取り、次いで5時間以内に 200スペクトルを取った。開始反応速度定数(ki ) を開始種及び成長種のHα共鳴の積分によって決定した。成長反応速度定数(kp ) をモノマー濃度の減少対内標準を監視することによって決定した。その結果を表III (上記)に示す。
【0123】
錯体10と3-メチル-1-ブテン及び3,3-ジメチル-1-ブテンとの反応
各NMR チューブ中で、塩化メチレン-d2(0.5ml)に錯体10(5.0mg, 6.1 μmol)を溶かした溶液を、10当量の3-メチル-1-ブテン及び3,3-ジメチル-1-ブテン(61.0 μmol)でそれぞれ処理した。後者の反応物については12時間以内には反応は観察されなかったのに対して、赤紫色から橙色への漸進的な(5分以内)色の変化は錯体10が3-メチル-1-ブテンと反応していることを示すものである。1H NMRのδ18.96 (d, 3JHH=7.5Hz, Ru=CHiPr) 、2.27(m, CHCH3)及び1.01(d, 3JHH= 7.2Hz, CHCH3) における共鳴はRuCl2(=CH-i-Pr)(PCy3)2の生成に帰属するものであり得る。しかしながら、これらのシグナルの強度は反応の進行中に増大せず、10分後、錯体19に対応する共鳴が優勢になった。
【0124】
触媒として錯体10〜16を用いたシクロオクテン及び1,5-シクロオクタジエンのROMP錯体10〜16(6.0μmol)をそれぞれCH2Cl2(0.5ml) に溶解し、そのままのシクロオクテン又は1,5-シクロオクタジエン(3.0mmol, 500 当量)で室温にて処理した。紫色から橙色に色が変わって、反応混合物は3〜5分以内に粘稠になった。溶液を室温で 2.5時間攪拌し、空気に曝して微量の2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール及びエチルビニルエーテルを含有するCH2Cl2(5ml)で処理した。20分後、この粘稠な溶液を短いシリカゲルカラムを通して濾過し、勢いよく攪拌したメタノール中で沈殿させた。得られたポリマーを単離し、数回メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。シクロオクテネマー(cycloocteneamer) (白色の粘着性のポリマー):収率95〜100 %、Mn =111〜211kg/mol 、 PDI(トルエン):1.51〜1.63;ポリブタジエン:(白色のグルー様ポリマー):収率96〜99%、56〜68%がシス、Mn 57.9〜63.2kg/mol、 PDI(トルエン):1.56〜1.67。
【0125】
触媒として錯体10〜16を用いた1-ヘキセンの非環状メタセシスにおける開始反応速度定数の測定
錯体10〜16を主成分とする触媒6.05μmol を NMRチューブに入れ、塩化メチレン-d2(550 μl)に溶解した。0℃にて1-ヘキセン(22.7 μl, 0.18mmol, 30 当量)を添加し、1H NMRルーチン(0℃)を開始し、40分以内に60スペクトルを取った。開始反応速度定数は錯体10〜16及び22のH共鳴の積分によって決定した。その結果を表IV(上記)に示す。
【0126】
RuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PCy3)2(錯体15)のX線回折研究
塩化メチレン(0.5ml) に錯体15を溶かした濃厚溶液にヘキサンを24時間以内にゆっくりと拡散させることによって錯体15のマロンプリズム(maroon prism)を得た。 0.2mm× 0.3mm× 0.5mmの大きさの結晶を選択し、ガラス繊維の上にオイルで固定し、改良LT-1低温システムを備えたSiemens P4回折計に移した。ラウエ(Laue)対称、結晶クラス、単位セルパラメーター及び結晶の配向マトリックスの測定を標準技術にしたがって行った。低温(158K) の強度データをMok 照射を用いた2θ-θスキャン技術によって集めた。
【0127】
7782の全てのデータを吸収並びにローレンツ及び分極作用について補正し、おおよその絶対スケールに置いた。I(正味)<0のすべての反射に値|F0|=0を割り当てた。フリーデル(Friedel) 条件以外では系統吸光度も回折対称も存在しなかった。このモデルの改良によって中心対称三斜晶系空間群P1が正しい選択であることが証明された。
【0128】
全ての結晶学的計算はUCLA Crystallographic Computing Package 又はSHELXTL PLUSプログラムを用いて行った。中性原子についての分析散乱係数を分析全体を通じて用いた;異常分散の実数成分(Δf')及び虚数成分(iΔf'')の両方が含まれる。最小二乗法解析中の最小化された量はΣx(|F0|-| Fc |2(ここでw -1= σ2(|F0|) +0.0002(|F0|)2である)であった。その構造は直接法(SHELXTL)によって解析され、全(full)マトリックス最小二乗法技術によって正確にした。水素原子は、示差フーリエマップ(difference-Fourier map)から位置決めされ等方性温度パラメーターに含められた。このモデルの改良によって、|F0|> 3.0σ( |F0|) を有するそれらの6411のデータに対して正確にされた726 の変数について RF =3.5%, RwF=3.6%,及びGOF=1.42を有する収れんがもたらされた。最終的な示差フーリエマップによりρmax =0.52eÅ-3を得た。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1Aおよび1Bは、0℃におけるRuCl2(=CHPh)(PCy3)2(錯体10)を用いた1-ヘキセンの非環状メタセシスの代表的な速度論的プロットであり;
【図2】図2は、RuCl2(=CH-p-C6H4Cl)(PCy3)2(錯体15)のORTEPプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンタジエンを除く環状オレフィンを、式:
【化1】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含む環状オレフィンの重合方法。
【請求項2】
不飽和ポリマーを、式:
【化2】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含む不飽和ポリマーの解重合方法。
【請求項3】
ジエンを、式:
【化3】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含む環状オレフィンの合成方法。
【請求項4】
ジエンを、式:
【化4】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含む不飽和ポリマーの合成方法。
【請求項5】
環状オレフィンを、式:
【化5】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含むメタセシス重合によるテレケリックポリマーの合成方法。
【請求項6】
非環状オレフィンを、式:
【化6】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含むメタセシスによるオレフィンの合成方法。
【請求項7】
第1の非環状オレフィンを、式:
【化7】

〔式中、
Mは、OsおよびRuから成る群より選ばれ;
R9およびR10は、独立して、水素、置換または未置換アルキル、および置換または未置換アリールから成る群より選ばれ;
XおよびX1は、独立して、アニオン配位子から選ばれ;
LおよびL1は、独立して、中性電子供与体から選ばれるが;
ただし、R9およびR10の一方が水素であって他方がt-ブチルであり、かつLおよびL1が両方とも-P(フェニル)3であることはなく、
R9およびR10が置換アルキルである場合、置換基は、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれ、
R9およびR10が置換アリールである場合、置換基は、アルキル、アリール、アルコール、チオール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、およびハロゲンから成る群より選ばれる〕
で表される化合物と接触させる工程を含むクロスメタセシスによるオレフィンの合成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1585(P2009−1585A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202768(P2008−202768)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【分割の表示】特願2004−137844(P2004−137844)の分割
【原出願日】平成8年8月1日(1996.8.1)
【出願人】(598128421)カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー (26)
【Fターム(参考)】