説明

高出力電界効果トランジスタ増幅器

【目的】 マイクロ波領域で広帯域にわたって高利得が得られる高出力電界効果トランジスタ増幅器を構成する。
【構成】 ソース接地形式の電界効果トランジスタ24が構成された第1の基板22上に、上記電界効果トランジスタのゲートと接地点との間に接続されるインダクタ36とキャパシタ40との直列回路を構成し、上記電界効果トランジスタ24のゲートを上記第1の基板22とは別の第2の基板上に構成された入力インピーダンス整合回路33に接続し、さらに上記電界効果トランジスタ24のドレインを上記第1の基板とは別の第3の基板上に構成された出力インピーダンス整合回路43に接続して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マイクロ波領域で広い周波数帯域にわたって高利得が得られる高出力電界効果トランジスタ増幅器(以下高出力FET増幅器と称す)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図6は従来の高出力FET増幅器、特に高出力GaAsFET増幅器の主要部の回路を概略的に示した図である。同図において、GaAs基板2上にGaAsFET4が形成されており、そのソース電極Sは接地されている。FET4のゲート電極Gはインダクタンスで表されたボンディングワイヤ6を経て1/4波長分布定数回路81に接続され、該1/4波長分布定数回路81は他の1/4波長分布定数回路82を経て入力端子10に接続されている。これら2段の分布定数回路81、82により入力インピーダンス整合回路13を構成している。FET4のドレイン電極Dは同様にボンディングワイヤ12を経て1/4波長分布定数回路91に接続され、該1/4波長分布定数回路91は他の1/4波長分布定数回路92を経て出力端子14に接続されている。これら2段の分布定数回路91、92により出力インピーダンス整合回路23を構成している。図6の例では、入出力の各インピーダンス整合回路として、1/4波長分布定数回路を2段使用しているが、その段数は2段に限らず、所定の電気長、インピーダンスをもった分布定数回路を、所望のインピーダンスが得られるように任意の段数設けられる。
【0003】図6に示すような高出力GaAsFET増幅器では、大きな出力を得るために総ゲート幅の非常に大きなGaAsFETを使用するため、GaAsFET4自体の入力インピーダンスが非常に小さくなる。また、ハイブリッドに高出力GaAsFET増幅器を構成しようとすると、FET4とボンディングワイヤ6、12とを含めた総合のSパラメータについてインピーダンス整合をとる必要があり、動作周波数が高くなると、この総合Sパラメータは容量性の領域から誘導性の領域に移行する。上記のように、図6の高出力GaAsFET増幅器ではFET4とボンディングワイヤ6、12とを含めた回路を入力側の2段1/4波長分布定数回路81、82、出力側の2段1/4波長分布定数回路91、92でそれぞれインピーダンス整合をとっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、従来の高出力GaAsFET増幅器では、GaAsFETは非常に低インピーダンスになり、またGaAsFET4のSパラメータの周波数特性の変化が大きい状態の下で分布定数回路によりインピーダンス整合をとらなければならず、利得を実質的に一定と看做し得る状態で整合のとれる周波数範囲が狭くなるという欠点があった。また、入力側あるいは出力側のリターンロスが大きく、結果として負荷に供給し得る有効出力も小さくなるという欠点があった。
【0005】図7は図6の従来の高出力GaAsFET増幅器の小信号Sパラメータによる入出力リターンロスの周波数特性の計算結果を示すグラフで、入力側リターンロスS11、出力側リターンロスS22を示す。一例として、5.0GHz〜9.6GHzの動作周波数範囲で出力側リターンロスS22は6dBより小さく、一応満足できる値であるが、入力側リターンロスS11は上記動作周波数範囲にわたって6dBより大きく、最大3dBにも達する。また、図8は図6に示す従来の高出力GaAsFET増幅器の利得の周波数特性の計算結果を示すグラフで、同図から明らかなように、利得S21は8dBより小さく、特に7GHz以上の周波数範囲では5dB以下に低下し、充分ではなかった。
【0006】本発明は上記のような従来の高出力GaAsFET増幅器の問題点を解消するためになされたもので、1オクターブ以上の周波数範囲にわたって高い利得が得られる高出力FET増幅器を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本願の第1の発明に係る高出力GaAsFET増幅器は、第1の基板上にソース接地形式で構成された電界効果トランジスタと、上記第1の基板とは異なる第2の基板上に構成され、上記電界効果トランジスタのゲートが接続される入力インピーダンス整合回路と、上記第1の基板とは異なる第3の基板上に構成され、上記電界効果トランジスタのドレインが接続される出力インピーダンス整合回路と、上記電界効果トランジスタのゲートと接地点との間に接続されたインダクタとキャパシタとの直列回路とからなり、上記直列回路は上記電界効果トランジスタと共に第1の基板上に構成されている。本願の第2の発明に係る高出力GaAsFET増幅器は、GaAsからなる第1の基板上にソース接地形式でGaAs電界効果トランジスタ(GaAsFET)が構成され、該GaAsFETのゲートパッドは上記第1の基板とは別の第2の基板上に構成された入力インピーダンス整合回路に接続され、上記第1の基板上に金属−絶縁物−金属キャパシタ(以下MIMキャパシタと称す)が形成され、上記GaAsFETのゲートパッドは空気を介して上記第1の基板に対向した金属体により上記MIMキャパシタと接続され、上記金属体と上記MIMキャパシタとの直列回路が上記GaAsFETのゲートと接地点との間に接続されるインダクタとキャパシタとの直列回路を構成している。
【0008】
【作用】本願の第1の発明に係る高出力FET増幅器では、そのFETが形成された同一基板上に該FETのゲートと接地点との間に接続される上記直列回路を設けたことにより、FETと直列回路とを総合した入力インピーダンス、出力インピーダンスが共に高くなり、また、周波数の変化に対する高出力FET増幅器のSパラメータの周波数特性の変化が小さくなり、広い周波数帯域にわたって高出力が得られるように容易にインピーダンス整合をとることができる。本願の第2の発明に係る高出力FET増幅器では、GaAs基板上に構成されたMIMキャパシタの一方の電極となる基板側電極がバイアホールを経て接地され、それによってインダクタとキャパシタとを含む直列回路がFETのゲート電極と接地間に接続される。
【0009】
【実施例】以下、本発明の高出力FET増幅器を図1に示す実施例によって説明する。図1は本発明の高出力FET増幅器の主要部の回路を概略的に示す図で、GaAs基板22上にGaAsFET24が形成されており、そのソース電極Sは接地されている。FET24のゲート電極Gはインダクタンスで表されたボンディングワイヤ26を経て1/4波長分布定数回路31に接続されている。1/4波長分布定数回路31はさらに他の1/4波長分布定数回路32を経て入力端子20に接続されている。これら2段の分布定数回路31、32により入力インピーダンス整合回路33を構成している。FET24のドレイン電極Dは同様にボンディングワイヤ28を経て1/4波長分布定数回路41に接続され、該1/4波長分布定数回路41は他の1/4波長分布定数回路42を経て出力端子34に接続されている。これら2段の分布定数回路41、42により出力インピーダンス整合回路43を構成している。GaAsFET24のゲート電極Gと接地点との間にはインダクタ36、抵抗38、キャパシタ40からなる直列回路が接続されている。インダクタ36、抵抗38、キャパシタ40の各値は基板22上に設けられるFET24のトータルゲート幅にも関係して設定されるが、インダクタ36は例えば0.1nH(ナノヘンリ)乃至0.01nHの範囲の値に設定され、抵抗38は0オーム乃至0.1オームの範囲の値に設定され、キャパシタ40は数10pF(ピコファラッド)乃至1000pFの範囲の値に設定される。図示の実施例では入出力の各インピーダンス整合回路として、1/4波長分布定数回路を2段使用しているが、所定の電気長、インピーダンスをもった分布定数回路を、所望のインピーダンスが得られるように任意の段数設けてもよい。
【0010】図4は本発明の高出力GaAsFET増幅器の一実施例の主要部の平面図、図5は図4のGaAs基板22上に形成されたGaAsFET24、図1のキャパシタ40に対応するMIMキャパシタ50等を含む回路構成を示す一部断面斜視図である。図4に示すように、本発明の高出力FET増幅器におけるFET24のゲートパッド44はボンディングワイヤ26を介して入力インピーダンス整合回路33に接続され、FET24のドレインパッド46はボンディングワイヤ28を介して出力インピーダンス整合回路43に接続されている。ゲートパッド44はまた空気を介してGaAs基板22と対向して設けられた金属膜からなるインダクタ48を介してMIMキャパシタ50に接続されている。インダクタ48は図1のインダクタ36に対応し、該インダクタ48を構成する上記金属膜の幅、長さ、GaAs基板22からの距離は所望のインダクタンス値が得られるように適宜設定される。
【0011】図4に示す本発明の高出力GaAsFET増幅器の構造を図5の斜視図によってさらに詳細に説明する。図5で、GaAs基板22上にFET24が構成され、該FET24のドレイン電極を構成するドレイン・フインガー53はドレインパッド46に接続され、線状に示されたゲート電極55はゲートパッド44に接続され、ソース電極を構成するソース・フインガー57は、ゲート電極55とゲートパッド44とを接続するための導体を跨いで形成されたエアブリッジ59を介してソース接地パッド61に接続されている。ゲートパッド44は、GaAs基板と対向して設けられた金属体、つまりエアブリッジからなるインダクタ48を介してMIMキャパシタ50の上側電極63に接続されている。MIMキャパシタ50は例えばAuからなる上記上側電極63と、例えばSiNからなる絶縁物64と、バイアホール65を経てGaAs基板22の裏面に形成された例えばAuからなる接地ヒートシンク67に接続された下側電極(図示せず)とからなる。また、ソース接地パッド61はバイアホール65を経て接地ヒートシンク67に接続されている。高出力GaAsFET増幅器は、大きな出力を発生するためにトータルゲート幅の非常に大きなGaAsFETを使用する必要があるが、図5に示す構造はこのようなFETを実現することができる。
【0012】図1に示すような高出力GaAsFET増幅器のGaAsFETは本来非常に低いインピーダンスであり、それに対応してSパラメータはインダクタンスの影響を受けて周波数の影響を受け易い。しかし、本発明によれば、低インピーダンスFET増幅器のSパラメータがボンディングワイヤ26、28の影響で誘導性の領域に入る前にGaAs基板22上に形成されたインダクタ36とキャパシタ40との直列回路の作用により、FET増幅器が高インピーダンスになると共にFETのSパラメータの周波数特性の変化が小さくなる。このように、インピーダンスが高くなり、またSパラメータの周波数特性の変化が小さくなったFETを別の基板に設けられたインピーダンス整合回路33、43によりインピーダンス整合をとることにより、入出力インピーダンスが共に大きく、周波数特性の変化が小さく、しかも動作帯域の広い高出力GaAsFET増幅器を得ることができる。
【0013】この発明の高出力GaAsFET増幅器で使用される入出力の各インピーダンス整合用の分布定数回路としては、実際にはリターンロスの大きさと必要とする利得との妥協によって決定されるが、この発明の高出力GaAsFET増幅器の入力リターンロスS11、出力リターンロスS22、および利得をつぎのような具体例について測定した。すなわち、総ゲート幅が50.4mmのFETチップについて、FET24のゲート電極Gと接地点との間の直列回路のインダクタ36が0.019nH、抵抗38が0.001オーム、キャパシタ40が900pFで、FET24のゲート電極G、ドレイン電極Dをそれぞれ0.03nHのインダクタンスをもったボンディングワイヤ26、28でそれぞれインピーダンス整合回路33、43に接続した。また、入力インピーダンス整合回路33として、FET24側から入力端子20に向かってインピーダンスが3.89オーム、電気長が11.00mmの第1の分布定数回路、インピーダンスが16.06オーム、電気長が10.67mmの第2の分布定数回路、およびインピーダンスが37.51オーム、電気長が10.27mmの第3の分布定数回路をこの順序で接続したものを使用し、出力インピーダンス整合回路43としてFET24側から出力端子34に向かってインピーダンスが2.51オーム、電気長が10.74mmの第1の分布定数回路、インピーダンスが8.94オーム、電気長が10.67mmの第2の分布定数回路、インピーダンスが30.25オーム、電気長が10.66mmの第3の分布定数回路をこの順序で接続したものを使用した。
【0014】図2は上記のような各値をもった本発明による高出力GaAsFET増幅器の一例について計算された入出力のリターンロスの周波数特性をグラフで示した図、図3は同じ高出力GaAsFET増幅器について計算された利得の周波数特性をグラフで示した図である。図2から明らかなように、入力側リターンロスS11、出力側リターンロスS22は5.0GHz乃至9.6GHzの動作周波数範囲にわたって共に6dBより小さく、充分に満足できる結果が得られた。また、図3に示すように、利得は上記の動作周波数範囲にわたって6dBより大きく、また広帯域にわたってなだらかに変化し、従来の高出力GaAsFET増幅器に比して利得の特性は改善されることが確認された。
【0015】
【発明の効果】以上、説明したように、本発明の高出力FET増幅器では、そのFETのゲートと接地点との間に、そのFETが構成された基板上に形成されたインダクタとキャパシタとの直列回路を接続したので、FETと上記直列回路とを総合した入力インピーダンス、出力インピーダンスが共に高くなり、また周波数の変化に対する高出力FET増幅器のSパラメータの周波数特性の変化が小さくなり、入出力のリターンロスが改善され、広い動作周波数範囲にわたって高利得が得られるように容易にインピーダンス整合をとることができるという効果がある。また、第2の発明によれば、GaAs基板上にFETと、上記インダクタとキャパシタとの直列回路を構成すると共に、この直列回路を上記FETのゲートと接地との間に接続するのに適した構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高出力電界効果トランジスタ増幅器の一実施例の回路構成を示す図である。
【図2】図1に示す本発明の高出力電界効果トランジスタ増幅器の入出力のリターンロス(S11、S22)対周波数特性の計算結果をグラフで示す図である。
【図3】図1に示す本発明の高出力電界効果トランジスタ増幅器の利得(S21)対周波数特性の計算結果をグラフで示す図である。
【図4】図1に示す本発明の高出力電界効果トランジスタ増幅器を基板上に構成した一例を示す平面図である。
【図5】図4に示す本発明の高出力GaAsFET増幅器の一例の構造を示す一部断面斜視図である。
【図6】従来の高出力電界効果トランジスタ増幅器の一例の回路構成を示す図である。
【図7】図6に示す従来の高出力電界効果トランジスタ増幅器の入出力リターンロス(S11、S22)対周波数特性の計算結果をグラフで示す図である。
【図8】図6に示す従来の高出力電界効果トランジスタ増幅器の利得(S21)対周波数特性の計算結果をグラフで示す図である。
【符号の説明】
20 入力端子
22 基板
24 FET
26、28 ボンディングワイヤ
31、32 分布定数回路
33 入力インピーダンス整合回路
34 出力端子
36 インダクタ
40 キャパシタ
41 分布定数回路
42 分布定数回路
43 出力インピーダンス整合回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1の基板上にソース接地形式で構成された電界効果トランジスタと、上記第1の基板とは異なる第2の基板上に構成され、上記電界効果トランジスタのゲートが接続される入力インピーダンス整合回路と、上記第1の基板とは異なる第3の基板上に構成され、上記電界効果トランジスタのドレインが接続される出力インピーダンス整合回路と、上記電界効果トランジスタのゲートと接地点との間に接続されたインダクタとキャパシタとの直列回路とからなり、上記直列回路は上記電界効果トランジスタと共に第1の基板上に構成されている高出力電界効果トランジスタ増幅器。
【請求項2】 GaAsからなる第1の基板上にソース接地形式でGaAs電界効果トランジスタ(GaAsFET)が構成され、該GaAsFETのゲートパッドは上記第1の基板とは別の第2の基板上に構成された入力インピーダンス整合回路に接続され、上記第1の基板上に金属−絶縁物−金属キャパシタ(MIMキャパシタ)が形成され、上記GaAsFETのゲートパッドは空気を介して上記第1の基板に対向した金属体により上記MIMキャパシタと接続され、上記金属体と上記MIMキャパシタとの直列回路が上記GaAsFETのゲートと接地点との間に接続されるインダクタとキャパシタとの直列回路を構成している高出力電界効果トランジスタ増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平5−14069
【公開日】平成5年(1993)1月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−166797
【出願日】平成3年(1991)7月8日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)