説明

高分子感熱検知体

【課題】局部過熱検出のための温度対インピーダンス特性の傾き(サーミスタB定数)が大きく、且つ熱劣化耐久性に優れ、温度対インピーダンス特性の経時変化が少なく、長期間安定した高い信頼性を有する高分子感熱検知体を提供する。
【解決手段】本発明による高分子感熱検知体1は、高分子感熱層4を有し、この高分子感熱層4はポリ塩化ビニル樹脂および/または樹脂族ポリアミド樹脂からなる第一ポリマーと、エピハロヒドリン系重合体からなる第二ポリマーとを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気毛布、電気カーペット等の面状採暖具に用いられる高分子感熱検知体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に電気毛布、電気カーペット等の面状採暖具の発熱構造は、面状採暖具の生地上に布線された発熱線とそれに併設された感熱検知線とから成る所謂2線式、或いは前記生地上に感熱発熱線のみが布線された所謂1線式と云う構造となっている。何れの発熱構造体の場合も、感熱部から得られる電気信号により発熱線に流れる電流を制御する温度コントローラーとの組み合わせによって構成されている。前記2線式に於ける感熱検知線1の構造は、図1に示すように、ガラス繊維或いはポリエステル繊維等の繊維束の巻芯2と、巻芯2の外周に銅或いは銅合金の導体を螺旋状に捻回した内側電極3と、内側電極3の外周に高分子感熱樹脂を押出成形してなる高分子感熱層4と、高分子感熱層4の外周に銅或いは銅合金の導体を螺旋状に捻回した外側電極5と、最外層にポリ塩化ビニル樹脂等を押出成形した絶縁被覆層7とから構成されている。
【0003】
なお、必要に応じて外側電極5と絶縁被覆層7との間にポリエステルテープを縦添え形成したバリア層6が設けられる場合がある。このような構成の感熱検知線1に於いて、高分子感熱層4の温度変化による交流インピーダンスの変化を内側電極3と外側電極5の間から電気信号として取り出し温度コントローラーに入力し、発熱線に流れる電流を制御することにより所定の温度に制御される。
【0004】
1線式の構造は、図1に示す2線式の感熱検知線と同様な構造と材質であるが、内側電極3の抵抗値を消費電力に見合うまで低くして発熱素線3' としている。このような1線式の感熱検知は、発熱素線3' と外側電極5との間の交流インピーダンスを電気信号として取り出し、温度コントローラーで所定の温度に制御される。
【0005】
なお、高分子感熱層の温度・交流インピーダンス特性は、温度上昇に伴いインピーダンスが減少する、所謂負特性サーミスタ(NTC)の形を示す(特許文献1,2)。
【0006】
上記感熱検知線の感熱層には、従来から種々の高分子感熱樹脂が提案されている。
例えば、ポリ塩化ビニル樹脂或いはポリ塩化ビニル樹脂混和物等からなる基材や脂肪族ポリアミド樹脂からなる基材に、導電性付与剤として第4級アンモニウム塩を添加した高分子感熱層が古くから多用されてきた。
【0007】
一方、最近新しい素材を用いた構成として、共重合ポリエステル樹脂からなる基材に導電付与剤としてイミダゾリウム塩を添加した感熱検知線の高分子感熱層が提案され近代化の胎動も出て来た(特許文献4)。
【特許文献1】特許第2630892号公報
【特許文献2】特開平5−182804号公報
【特許文献3】特開平7−216174号公報
【特許文献4】特開平2004−221443号公報
【0008】
上記のような伝統的な高分子感熱検知体に対し、近年まったく別の製品分野であり要求される特性も異なるが、高分子導電体として、コピー機やプリンター等に搭載され、電子写真用の現像、帯電、転写などの各プロセス処理を目的とする半導電性ローラー又はベルトに用いられる半導電性加硫ゴム材料が開発されており注目に値する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、電気毛布や電気カーペットに於いては、大面積化とともに見栄えや感触の面から生地やカバー材が厚手になる一方、コストの面からは単位面積当たりのヒーター線や検知線の布線密度は少な目にすると云う要求が強く、その結果単位面積当たりの発熱温度の上昇要求に伴う局部過熱の問題が発生している。
このような状況の下、上記高分子感熱層に要求される特性は、第一に局部過熱検出のために温度対インピーダンス特性の傾き(サーミスタB定数)が大きいこと、第二に熱劣化耐久性に優れていること、及び湿度等環境変動によるサーミスタ特性の経時変化が少なく、長期間安定した高い信頼性を有することである。
【0010】
先ず、従来の高分子感熱層の基材がポリ塩化ビニル樹脂、導電付与剤が第4級アンモニウム塩の組み合わせの場合の課題について説明する。この場合のインピーダンス特性については、ポリ塩化ビニル樹脂に添加する可塑剤と、導電性付与剤の配合量により温度対インピーダンス特性が決まり、前記特性の傾きを大きくするため導電性付与剤を増やすと前記可塑剤のブリードアウトが多くなると云う相反関係にあり、温度対インピーダンス特性と塩化ビニル樹脂の可塑性を両立させることが困難であった(特許文献1,2)。
【0011】
また、前記第4級アンモニウム塩自身の耐熱性を高めるためにはアルキル基の分子量の大きいものを用いる必要があるが、それはイオン半径の拡大になり導電性を上げ難く、傾きの大きい温度対インピーダンス特性を得ることが困難であった。
【0012】
次に耐熱性については、感熱検知線の使用環境によって100°Cを超えるような高温雰囲気に曝されることがある。このような高温雰囲気に曝されたとき、従来の高分子感熱層は、高温雰囲気の影響を受けて高分子感熱層のサーミスタB定数の値が大きく低下し、温度検知能力に低下をきたすという問題点があった(特許文献3)。
【0013】
これは、上記従来の高分子感熱層の基材として用いているポリ塩化ビニル樹脂等の基材樹脂が100°Cを超えるような高温に曝されると樹脂の脱塩化水素による劣化を生ずることに加え、高温下で第4級アンモニウム塩のアンモニウムカチオンにも熱劣化が生じて導電率を下げるとともに、更にアンモニウムカチオンが内側電極導体及び外側電極導体の銅イオンと接触反応して熱劣化を促進し、高分子感熱層中の導電キャリアを消失させてしまうことに起因していることが明らかにされている。
【0014】
次に、高分子感熱層の基材が脂肪族ポリアミド樹脂、導電付与剤が第4級アンモニウムの組み合わせの場合の課題について説明する。高分子感熱層の基材として脂肪族ポリアミド樹脂が使われる理由は、何らかの理由で高分子感熱層が過熱状態になった場合、ポリ塩化ビニル樹脂に比べ温度上昇に対する溶融特性が急峻なので、内側巻線と外側巻線が短絡し電気的な最終保護機能を働かせるのに有利なことによるものであり、面積の大きい電気カーペットの場合、捨てがたい性質である。又、基材が脂肪族ポリアミドの場合、可塑剤は添加しないので、第4級アンモニウム塩のブリードアウトは少なく、温度対インピーダンス特性に与える影響も少ない。
【0015】
また、耐熱性については、100℃を超えるような高温に曝されても樹脂自身の熱劣化は少ないが、高温下で第4級アンモニウム塩のアンモニウムカチオンに熱劣化が生じるのは、基材がポリ塩化ビニル樹脂の場合と同様の問題点として残る。
更に、脂肪族ポリアミド樹脂は、樹脂の中でも極めて吸湿性に富んだ性質を有するのは公知であり、高分子感熱検知体を長期間保管すると吸湿により温度対インピ−ダンス特性が大幅に変動し、温度制御を不安定なものにする。そして、一度吸湿したものは、加熱脱湿しても初期の温度対インピーダンス特性に戻すことは、極めて困難と云う大きな問題点がある(特許文献3)。
【0016】
次に、従来の高分子感熱層の基材が共重合ポリエステル樹脂、導電付与剤がイミダゾリウム塩の組み合わせの場合の課題について説明する。基材が共重合ポリエステル樹脂の場合、可塑剤は添加しないので、イミダゾリウム塩のブリードアウトは少なく、温度対インピーダンス特性に与える影響も少ない。
耐熱性については、100℃を超えるような高温に長時間曝されても樹脂自身の熱劣化は少ない上に、高温下でイミダゾリウム塩に熱劣化が生じることも少ないので、温度対インピーダンス特性の劣化は少なく安定である。
【0017】
しかしながら、高分子感熱検知体が何らかの理由で過熱状態になった場合、ポリエステル樹脂はポリ塩化ビニル樹脂や脂肪族ポリアミド樹脂に比べ溶融温度が高いので、内側巻線と外側巻線が短絡し電気的な最終保護機能が働く前に発煙や発火が起こり易いと云う重大な問題点がある。更に、ポリエステル樹脂の難燃度をポリ塩化ビニル樹脂の難燃度まで引き上げるのも経済的な問題点がある(特許文献4)。
【0018】
次に、半導電性ローラー又はベルトに用いられる半導電性加硫ゴム材料について説明する。この半導電性加硫ゴム材料としては、例えばエピクロロヒドリンゴムが挙げられ、それ自身が半導電性を持ち、且つ導電率の僅かな温度依存性を有するものである。又、前記導電性加硫ゴム材料は単独で使われる場合もあるし、各種のゴムや樹脂を配合して使われる場合もある。
この用途に於いては、前記ゴムの導電率を上げるためにカーボンや第4級アンモニウム塩が使われているが、従来の用途では環境変動に対する安定性が求められ、その結果導電率の温度依存性や湿度依存性を少なくするよう各種の工夫が成されており、温度依存性を積極的に大きくして利用する技術は見当たらない。
また、前記半導電性加硫ゴム材料は加硫して使用するのでポリ塩化ビニル樹脂より固めになり、電気毛布に敷線された場合、ポリ塩化ビニル樹脂のようにしなやかに曲がらず、毛布表面が波打つ状態になり使い勝手が悪いと云う問題が発生する。
【0019】
更に、電気毛布や電気カーペット用としてコード状の高分子感熱検知体を製造する場合、加硫ゴムによる感熱層と塩化ビニルによる被覆層とで物性が異なる構成のため、押出し装置の違いや加硫装置の有無、また押出し温度や加硫温度及び所要時間が異なり連続的で合理的な製造ができず、経済的に不利なものとなる。
【0020】
本発明の目的は、局部過熱検出のための温度対インピーダンス特性の傾き(サーミスタB定数)が大きく、且つ熱劣化耐久性に優れ、温度対インピーダンス特性の経時変化が少なく、長期間安定した高い信頼性を有する高分子感熱検知体を提供することにある。
ここで、サーミスタB定数とは、周知の通り絶対温度T1,T2(°K)に於けるインピーダンスが各々R1,R2の場合、〔数式1〕で表される定数Bの値である。
〔数式1〕R2=R1×EXP[B×(1/T2−1/T1)]
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明による請求項1記載の高分子感熱検知体は、高分子感熱層を有し、この高分子感熱層はポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂からなる第一ポリマーと、エピハロヒドリン系重合体からなる第二ポリマーとを含有することを特徴としている。
【0022】
本発明による請求項2記載の高分子感熱検知体は、請求項1記載の第二ポリマーがエピハロヒドリン単独重合体であることを特徴とする。
【0023】
本発明による請求項3記載の高分子感熱検知体は、請求項1記載の高分子感熱層に、更に導電付与剤として第4級アンモニウム塩,イミダゾリウム塩あるいはリチウム塩を含有し、第二ポリマー100重量部に対する含有量が0.1〜3.0重量部であることを特徴としている。
【0024】
本発明による請求項4記載の高分子感熱検知体は、請求項1記載の第一ポリマーと第二ポリマーの合計量に対する第二ポリマーの含有割合が5〜60wt%であることを特徴としている。
【0025】
本発明による請求項5記載の高分子感熱検知体は、請求項1に記載の高分子感熱層を介して一対の電極を配置して成ることを特徴としている。
【0026】
本発明による請求項6記載の高分子感熱検知体は、請求項1に記載の高分子感熱層を介して一対の電極を配置するとともに、一対の電極のうち少なくとも一方を発熱抵抗体としたことを特徴としている。
【0027】
本発明による請求項7記載の高分子感熱検知体は、請求項1に記載の脂肪族ポリアミド樹脂がナイロンであることを特徴としている。
【0028】
本発明による請求項8記載の高分子感熱検知体は、請求項1〜7に記載の高分子感熱検知体は、面状発熱体用部品であることを特徴としている。
【0029】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。
本発明の高分子感熱検知体は、第一ポリマーであるポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂と、第二ポリマーであるエピハロヒドリン系重合体を少なくとも含有する高分子感熱層を有することを特徴とする。
【0030】
(第一ポリマー)本発明で用いられる第一ポリマーはポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂である。
ポリ塩化ビニル樹脂は単独重合体でもよいし、EVAやエチレンオキサイド或いはアクリル系樹脂等との共重合体でもよい。またポリ塩化ビニル樹脂は可塑剤や熱安定化剤及び難燃剤などを予め配合した混和物でもよい。
【0031】
ポリアミド樹脂には、脂肪族骨格を含むポリアミドで通称ナイロンと呼ばれているものと、芳香族骨格のみで構成されるポリアミドで通称アラミド樹脂と呼ばれるものがあるが、本発明の高分子感熱検知体では融点の面からナイロンが選ばれる。ナイロンには、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66があり、本用途では低密度で吸水性の低いナイロン12が好適である。
【0032】
(第二ポリマー)本発明に用いられる第二ポリマーは、エピハロヒドリン系重合体であり、すなわちエピハロヒドリンをコモノマーとして含むポリアルキレンオキサイドおよび/またはエピハロヒドリン単独重合体である。
【0033】
具体的に、エピハロヒドリン系重合体を例示すると、エピクロロヒドリン,エピブロモヒドリン,エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリン単独重合体や、エピハロヒドリンとエチレンオキサイド,プロピレンオキサイド,イソブチレンオキサイド,n−ブチレンオキサイド,アリルグリシジルエーテルといった化合物との2元あるいは3元共重合体、若しくはエピハロヒドリン単独重合体とエピハロヒドリンをコモノマーとして含む共重合体のブレンドであっても良い。
【0034】
特に、本用途では、良好なサーミスタB定数を示す点で、エピハロヒドリン単独重合体、特にエピクロロヒドリンの単独重合体が好ましいので、第二ポリマーとしてこれらの単独重合体のみを用いる、又はこれらの単独重合体とエピハロヒドリンをコモノマーとして含む共重合体とのブレンドが特に好ましい。
【0035】
(導電付与剤)本発明で用いる導電付与剤は、第四級アンモニウム塩,イミダゾリウム塩,リチウム塩を例示することができ、これらの化合物群から任意に組み合わせて使用して良い。
【0036】
第四級アンモニウム塩は、塩素イオン,臭素イオン,ヨウ素イオン,酢酸イオン,硫酸イオン,過塩素酸イオン,チオシアン酸イオン,テトラフルオロホウ素酸イオン,硝酸イオン,AsF6 - ,PF6 - ,ステアリルスルホン酸イオン,オクチルスルホン酸イオン,ドデシルベンゼンスルホン酸イオン,TFSi- 等のアニオン種と、下記〔化1〕〔化2〕〔化3〕の一般式で表されるカチオン種の第四級アンモニウムイオン等との任意の組み合わせから選ばれた第4級アンモニウム塩を例示することができる。
【化1】

(R1 は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基またはR5 −CO−N(R6)−R7 −を示し、R2 およびR3 は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基またはヒドロキシエチル基を示し、R4 は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基またはヒドロキシエチル基もしくは(CH2 CH2 O)n H(nは自然数)、R5 は炭素原子数1〜18のアルキル基またはアルケニル基を示し、R6 は水素原子または炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基を示し、R7 は炭素原子数1〜6のアルキレン基を示す。)
【化2】

(R1 およびR2 は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。)
【化3】

(R1 およびR2 は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。)
【0037】
イミダゾリウム塩は、塩素イオン,臭素イオン,ヨウ素イオン,酢酸イオン,硫酸イオン,過塩素酸イオン,チオシアン酸イオン,テトラフルオロホウ素酸イオン,硝酸イオン,AsF6 - ,PF6 - 、ステアリルスルホン酸イオン, オクチルスルホン酸イオン, ドデシルベンゼンスルホン酸イオン, TFSi- 等のアニオン種と、下記の〔化4〕の一般式で表されるカチオン種のイミダゾリウムイオン等との任意の組み合わせから選ばれたイミダゾリウム塩を例示することができる。
【化4】

(R1 およびR2 は炭素原子数1〜18のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。)
【0038】
リチウム塩は、塩素イオン,臭素イオン,ヨウ素イオン,酢酸イオン,硫酸イオン,過塩素酸イオン,チオシアン酸イオン,テトラフルオロホウ素酸イオン,硝酸イオン,AsF6 - ,PF6 - 、ステアリルスルホン酸イオン,オクチルスルホン酸イオン,ドデシルベンゼンスルホン酸イオン,TFSi- 等のアニオン種と、下記〔化5〕の一般式で表されるカチオン種のリチウムイオン等との任意の組み合わせから選ばれたリチウム塩を例示することができる。
【化5】

【発明の効果】
【0039】
(請求項1および2記載の発明の効果)本発明の高分子感熱検知体は、基材であるポリ塩化ビニル系樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂に、エピハロヒドリン系重合体を含有させることにより得られる高分子感熱層を有するため、電気毛布,電気カーペット等の面状発熱体の感温検知体に要求される良好なサーミスタB定数を示し、更に、銅,銅合金からなる巻線電極からの溶出による銅イオンの存在下で高温に長時間さらされても熱劣化を受けにくく、更に耐環境性に優れる。
【0040】
(請求項3記載の発明の効果)エピハロヒドリン系重合体は単独でイオン導電性を有すること、及び導電付与剤の第4級アンモニウム塩,イミダゾリウム塩或いはリチウム塩は塩化ビニル樹脂の安定化剤としての作用を有することを考慮して、添加できる前記導電付与剤はエピハロヒドリン系重合体100重量部に対して添加量を0.1〜3.0重量部にすることにより、幅広い温度対インピーダンス特性に対応可能な第二ポリマーを提供することができる。導電剤の添加量が0.1重量部未満の場合は、温度対インピーダンス特性の傾きを大きくできず、3.0重量部を超える場合は、100℃以上でのインピーダンスが低くなり精度の高い制御回路の設計が難しくなる。
【0041】
エピハロヒドリン系重合体は主鎖に二重結合を有しないエーテル結合で構成され、単独でイオン導電性を示すので、同じイオン導電性の導電付与剤との相性がよい。これは、第4級アンモニウム塩及びイミダゾリウム塩が導電剤の作用とともに、塩化ビニル樹脂の安定化に寄与する作用を有していることにも関係し、第4級アンモニウム塩或いはイミダゾリウム塩をポリ塩化ビニル樹脂のみに直接添加した場合に比べ、高温領域に於ける導電性劣化の程度を緩和し、高分子感熱体としての熱安定性にとって有効な点である。
【0042】
また、エピハロヒドリン系重合体はポリ塩化ビニル樹脂や脂肪族ポリアミド樹脂より耐熱性が高い。従って、本発明により構成された高分子感熱検知体が100℃を超えるような高温に曝された場合、ポリ塩化ビニル樹脂や脂肪族ポリアミド樹脂自身に熱劣化が生じても、親和性の高いエピハロヒドリンゴム中に多く分散された前記導電付与剤の熱劣化は大幅に抑制され、更に内側電極導体及び外側電極導体の銅イオンとの接触反応による熱劣化の進行も大幅に抑制される。
【0043】
ここで、エピハロヒドリン系重合体は未加硫状態でポリ塩化ビニル樹脂に添加されるので、ポリ塩化ビニル樹脂に対する可塑剤の代替としての作用があり、導電性付与剤を増やして温度対インピーダンス特性の傾きを大きくしたい場合は可塑剤を減量することが可能となり、導電性付与剤を増やすと可塑剤のブリードアウトが多くなると云う従来の相反関係を大幅に改善できる。
【0044】
また、制御装置が誘導雷等により破損しヒーターが連続通電となり過熱状態になった場合は、耐湿性には劣るが温度に対する溶融特性が急峻な脂肪族ポリアミド樹脂を高分子感熱層に使うことにより、内側巻線と外側巻線が短絡し電気的な最終保護機能の動作を容易にし、安全性を高めることができる。
【0045】
(請求項4記載の発明の効果)本発明による高分子感熱検知体は、主にコード状発熱体用の感熱検知体として利用されるので、第一、第二ポリマー全量に対する第二ポリマーの割合を5wt%〜60wt%にすることにより幅広い温度対インピーダンス特性と良好な加工性及び柔軟な仕上がりを有する高分子感熱検知体を得ることができる。第二ポリマーの割合が5wt%未満の場合は、温度対インピーダンス特性の傾きを大きくできず、60wt%を超える場合は粘度が低すぎ、例えば押出し成形後に原形を維持することが困難となる。
【0046】
(請求項5および6記載の発明の効果)本発明による高分子感熱検知体は、高分子感熱層を介して一対の電極を配置するとともに、一対の電極のうち少なくとも一方を発熱抵抗体にできるとしており、〔従来の技術〕の項で述べた所謂1線式及び2線式の双方に対応することができる。
【0047】
即ち、第4級アンモニウム塩或いはイミダゾリウム塩の導電剤を添加されたエピハロヒドリンゴムはポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂に添加されるので、エピハロヒドリンゴムの通常の加硫温度約170℃程度まで加熱することはできないが、ポリ塩化ビニル樹脂の加熱老化試験温度136℃までは加熱することができ、これにより塩化ビニル樹脂の安定化に寄与することができる。
【0048】
前記ポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂の耐熱温度付近での加熱で一定時間経過すると、導電剤の一部は安定化のために消費されて当該温度に於ける緩い安定化作用は飽和状態になるが、残った導電剤はエピハロヒドリンゴムと十分に親和した状態で、温度対インピーダンス特性が実現される。このように、ポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂の耐熱温度付近の温度で安定加熱すれば、それ以下の温度に長時間曝されても前記導電剤はエピハロヒドリン系重合体から離脱し難く、又ポリ塩化ビニル樹脂の可塑剤もブリードアウトし難くなり、安定な温度対インピーダンス特性を維持することが可能となる。
【0049】
なお、エピハロヒドリンゴムに添加されるイミダゾリウム塩は高価なので、上記の緩い安定化作用の部分を担うため、第4級アンモニウム塩を適量添加し、前記イミダゾリウム塩を減量することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、図面などを参照して本発明による高分子感熱検知体の実施の形態をさらに詳しく説明する。なお、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の内容に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施形態にかかる2線式発熱構造に於ける感熱検知線1を示す構造図である。この感熱検知線1は、ガラス繊維或いはポリエステル繊維等の繊維束の巻芯2と、巻芯2の外周に銅或いは銅合金の平角導体を螺旋状に捻回した内側電極3と、内側電極3の外周に本発明による高分子感熱樹脂を押出成形してなる高分子感熱層4と、高分子感熱層4の外周に銅或いは銅合金の平角導体を螺旋状に捻回した外側電極5と、最外層に例えば厚さ0.4mmのポリ塩化ビニル樹脂等を押出成形した絶縁被覆層7とから構成されている。
【0051】
ここで、高分子感熱層は、第一ポリマーであるポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂、第二ポリマーであるエピハロヒドリン系重合体と、場合によってはアンモニウム塩或いはイミダゾリウム塩等の導電付与剤をニーダー或いはオープンロールで混練して得られる。なお、前記本発明による高分子感熱樹脂であるポリ塩化ビニル樹脂は、電気絶縁物被覆材としての特性を有する混和物であっても良い。
また、アンモニウム塩或いはイミダゾリウム塩等の導電付与剤を高分子感熱層に含有させる場合には、導電付与剤とエピハロヒドリン系重合体との親和性を考慮して、先に導電付与剤とエピハロヒドリン系重合体をニーダー或いはオープンロールを用いて混練した後、塩化ビニル樹脂,或いは脂肪族ポリアミド樹脂と前記混練物を、再度ニーダー或いはオープンロールで混練することにより、高分子感熱層を得てもよい。
また、高分子感熱層4と絶縁被覆層7に含まれるポリ塩化ビニル樹脂からの可塑剤の移行を防止するため、外側電極5と絶縁被覆層7との間にポリエステルテープを縦添え形成したバリア層6を設けてもよい。
【0052】
このような構成の感熱検知線1に於いて、高分子感熱層4の温度変化による交流インピーダンスの変化を内側電極3と外側電極5の間から電気信号として取り出し測定するための電気的接続図を図2に示す。これによれば、内側電極3の両端と外側電極5の両端は各々短絡され、これらの端末の一端はAC100Vに、他端は制限抵抗8、例えば510KΩを介してAC100Vに接続される。
感熱検知線1は、恒温槽に投入され槽内温度の上下に対し感熱検知線1の両端電圧と制限抵抗8の両端電圧が測定され、計算により感熱検知線1の交流インピーダンスが得られる。
【0053】
図1および図2に示した実施形態についてのデータは次の通りである。
巻芯2の材質 :ポリエステル繊維束
内側電極3の材質 :銅合金
内側電極3部の寸法:断面0.06×0.42mm、ピッチ0.86mm
高分子感熱層の材質:ポリ塩化ビニル樹脂混和物、或いはポリアミド樹脂と導電剤を添加されたエピクロロヒドリン重合体との混和物
高分子感熱層の寸法:厚さ0.4mm
外側電極5の材質 :銅合金
外側電極5部の寸法:断面0.06×0.42mm、ピッチ0.86mm
絶縁被覆層7の材質:ポリ塩化ビニル樹脂混和物
絶縁被覆層7の寸法:厚さ0.4mm
【0054】
なお、前記のポリ塩化ビニル樹脂混和物は、耐熱グレードのポリ塩化ビニル樹脂を用いた電源電線用の市販の混和物である(VM−163、アプコ(株)製)。
ポリアミド樹脂は、市販のナイロン12(3020X15、UBE製)を使用した。
測定回路の制限抵抗は、510KΩを用いた。
【0055】
表1に示す各材料をニーダー或いはオープンロールで混練し、図1に示す構造のコード状の高分子感熱検知体とし、最後に136℃、24時間の加熱処理を行った。得られた高分子感熱検知体について、実用上重要な50℃と100℃の交流インピーダンスを測定し、又その温度間のサーミスタB定数を計算してそれらを表2に示す。但し、実施例4のポリ塩化ビニル樹脂混和物については、前記市販の混和物の中から可塑剤を除いた成分のものをラボレベルで用意した。
また、図1に示す構造のコード状の高分子感熱検知体に対し、UL1581(UL VW−1)相当の垂直燃焼試験を行い、その結果を表2に併記する。
【表1】

【表2】

【0056】
各実施例及び比較例について、コード状高分子感熱検知体形成後、図2に示す測定回路で制限抵抗を510KΩとし、雰囲気温度を80℃とした通電加熱処理に於ける、インピーダンス特性の時間的変化を表3及び図3に示す。測定温度は80℃とした。
ここで、比較例1は従来例で説明したポリ塩化ビニル樹脂混和物に第4級アンモニウム塩を添加したものであり、比較例2は同じく従来例で説明した共重合ポリエステル樹脂にイミダゾリウム塩を添加したものである。
【表3】

【0057】
導電付与剤が第4級アンモニウム塩である実施例1〜実施例4と実施例8とを見ると、インピーダンス及びB定数とも近い値を示し、第一ポリマーがポリ塩化ビニル樹脂であっても、ナイロン樹脂であっても、インピーダンス及びB定数に大きな違いは見られず、用途によって適切なものを提供することができる。
【0058】
実施例1〜実施例4及び実施例8と導電付与剤が同じく第4級アンモニウム塩である比較例1とを見ると、インピーダンスとB定数とも近い値を示し、従来の温度制御器に対しそのまま置き換え可能なものを提供することができる。
実施例1〜実施例4及び実施例8と比較例1の大きな違いは、通電加熱処理によるインピーダンスの変化であり、その代表例として実施例2と比較例1について表3及び図3に示す。このように本実施例によれば、通電加熱処理に対し非常に安定したインピーダンス特性を有するものを提供できることが分かる。
【0059】
一方、導電付与剤がイミダゾリウム塩或いはリチウム塩である実施例5〜実施例7と比較例2とを見ると、本発明によるものはインピーダンスもB定数もやや小さいが、インピーダンスは感熱層の厚さで容易に同程度にすることが可能であり、比較例2と同等に近い温度検知性能を得ることができるとともに、感熱層の溶断温度が高過ぎて実用的でないと云う比較例2の重大欠点を改善したものを提供することができる。ここで、各樹脂の一般的に言われている融点或いは実用上の軟化点は、ポリエステル樹脂の融点が約260℃、ナイロン12の融点が約180℃、可塑剤を含む塩化ビニル樹脂混和物の溶融状態に近い軟化点は約170℃である。
また、通電加熱処理によるインピーダンスの変化に関しては、代表例として実施例6と比較例2を表3及び図3に示すが、どちらも安定で有意差は見られない。
しかし、表2の垂直燃焼試験の結果を見ると、自己消炎性でない比較例2は簡単に燃え尽きるのに対し、第一ポリマーとして塩化ビニル或いはナイロン樹脂を使用した実施例1〜7及び実施例8はすべて自己消炎性を示し、安全性の極めて高いものを提供できることが明確になった。
【0060】
以上説明したように本発明によれば、従来の課題であった「局部過熱防止のため大きな温度対インピーダンス特性を有し、長期間安全な動作を確保するため通電加熱処理に於ける変化が安定であり、過熱時には電気的な最終保護機能を働かせるために溶融特性を有し、難燃性が確保されている」と云う、すべての要求を満たす高分子感熱検知体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態にかかる2線式発熱構造に於ける感熱検知線を示す構造図である。
【図2】感熱検知線に於いて、高分子感熱層の温度変化による交流インピーダンスの変化を内側電極と外側電極の間から電気信号として取り出し測定するための電気的接続図である。
【図3】通電加熱処理に於ける、インピーダンス特性の時間的変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 感熱検知線
2 巻芯
3 内側電極
4 高分子感熱層
5 外側電極
6 バリア層
7 絶縁被覆層
8 制限抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子感熱層を有し、この高分子感熱層はポリ塩化ビニル樹脂および/または脂肪族ポリアミド樹脂からなる第一ポリマーと、エピハロヒドリン系重合体からなる第二ポリマーとを含有することを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項2】
請求項1記載の高分子感熱検知体は、前記第二ポリマーがエピハロヒドリン単独重合体であることを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項3】
請求項1記載の高分子感熱検知体は、前記高分子感熱層に、更に導電付与剤として第4級アンモニウム塩,イミダゾリウム塩あるいはリチウム塩を含有し、第二ポリマー100重量部に対する含有量が0.1〜3.0重量部であることを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項4】
請求項1記載の高分子感熱検知体は、前記第一ポリマーと前記第二ポリマーの合計量に対する第二ポリマーの含有割合が5〜60wt%であることを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項5】
請求項1記載の高分子感熱検知体は、前記高分子感熱層を介して一対の電極を配置して成ることを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項6】
請求項1記載の高分子感熱検知体は、前記高分子感熱層を介して一対の電極を配置すると共に一対の電極のうち少なくとも一方を発熱抵抗体としたことを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項7】
請求項1記載の高分子感熱検知体は、前記脂肪族ポリアミド樹脂がナイロンであることを特徴とする高分子感熱検知体。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の高分子感熱検知体は、面状発熱体用部品であることを特徴とする高分子感熱検知体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−135575(P2010−135575A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310513(P2008−310513)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(507089528)香港塔祈巴那電器有限公司 (5)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】