説明

高分子組成物、成形体、電子写真用転写ベルト、および画像形成装置

【課題】靭性に優れ、かつ添加剤、特にカーボン等の導電剤の均一分散性に優れたポリフェニレンスルフィド含有高分子組成物、成形体および電子写真用転写ベルトを提供すること。
【解決手段】ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子を含有する高分子組成物であって、該高分子組成物を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させる熱処理を行ったとき、該熱処理前後の高分子組成物のガラス転移温度の差が3℃以下であることを特徴とする高分子組成物、および該高分子組成物からなる成形体。ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子を含有する成形体であって、該成形体を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させる熱処理を行ったとき、該熱処理前後の成形体のガラス転移温度の差が3℃以下であることを特徴とする成形体、特に電子写真用転写ベルト、および該転写ベルトを備えた画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃強度、引張伸びなどに代表される靭性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂含有高分子組成物および該高分子組成物からなる成形体に関するものであり、電気、電子部品、自動車部品、一般機械部品など種々の広範な分野に適用できる。
本発明はまた電子写真用転写ベルト、ならびに該転写ベルトを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、「PPS樹脂」と略す)は、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性など、エンジニアリングプラスチックとしては好適な性質を有しており、射出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などに使用されている。しかしPPS樹脂はポリアミド樹脂等の他のエンジニアリングプラスチックに比べ、靭性面で十分に優れているとは言い難い。そのため、従来よりPPS樹脂は、多くの場合、ガラス繊維などの強化剤を併用し、強度を向上させて用いられてきた。
【0003】
しかし、近年、軽量性や表面平滑性などの要求から、PPS樹脂においても、ガラス繊維などを用いない非強化材料としての需要が高まり、靭性の優れた非強化PPS材料が求められている。
【0004】
非強化PPS材料の靭性を向上させる方法として、ポリアミド樹脂を含有せしめたPPS樹脂組成物が知られている。例えば、特許文献1〜3に開示されているような靭性に優れる材料とのブレンドによりPPSの靭性を向上させる試みが多々検討されている。もしPPSとポリアミドが水に砂糖を溶かすがごとく均一になるならば、開示されている技術で課題は解決できる。しかしながら、非特許文献1に記載されているように、PPSとポリアミドとのブレンドは相溶しにくく、唯一4,6ナイロンが300℃以上の高温度で相溶するが、冷却すると相分離することが確認されている。よく知られているように、ポリマーとエラストマーとのブレンドは相溶したときに驚くべき物性改善がなされるが、非特許文献1に記載されているようにPPSではそのような組み合わせは見つかっていない。ゆえに他のエラストマーとのブレンドは、有効な強度物性改善手段とならず、PPSが有する高弾性率だけでなく、燃焼性などの優れた特性を損なう問題がある。
【0005】
一方、特許文献4〜5には、ウェルドクラック発生の抑制された機械的強度に優れた酸化架橋PPS樹脂が開示されているが、引張伸びや衝撃強度などの靭性面では必ずしも十分優れているとは言い難い。さらに酸化架橋処理では押出し成形のような連続生産で成形体を得る用途には活用しにくい問題点がある。
【0006】
さらにPPS樹脂組成物を電子写真用途の転写ベルトに適用する場合、カーボンなどの導電剤を添加し、樹脂の導電性を均一な半導体領域にする必要があるが、PPS樹脂はカーボンの分散性が必ずしも優れているとは言えず、押出し成形時にカーボンの分散状態が変化し、導電性が不均一となる問題を抱えている。転写ベルトにおいて導電性が不均一であると、耐刷時においてフィルミングが発生する。
【0007】
しかも従来のPPS樹脂組成物は、各種成分が十分に均一に相溶/分散されないため、そのような組成物を用いて成形体を製造すると、成形処理の前後でガラス転移温度が比較的大きく変化した。そのため、成形体の廃棄品や製造過程で生じた廃棄物を、原料として再利用することはできなかった。
【特許文献1】特公昭59−1422号公報
【特許文献2】特開昭53−69255号公報
【特許文献3】特開平6−49356号公報
【特許文献4】特開平9−291213公報
【特許文献5】特開昭62−197422号公報
【非特許文献1】J.MACROMOL.SCI.PHYS.,B41(3),407−418(2002), Jung−Bum An, Takeshi Suzuki, Toshiaki Ougizawa, Takeshi Inoue, Kenji Mitamura and Kazuo Kawanishi
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、靭性に優れたポリフェニレンスルフィド含有高分子組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明はまた、靭性に優れ、かつ添加剤、特にカーボン等の導電剤の均一分散性に優れたポリフェニレンスルフィド含有高分子組成物、成形体および電子写真用転写ベルトを提供することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、靭性に優れ、かつ導電性が均一な電子写真用転写ベルトを提供することを目的とする。
【0011】
本発明はまた、フィルミングを抑制する画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子を含有する高分子組成物であって、該高分子組成物を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させる熱処理を行ったとき、該熱処理前後の高分子組成物のガラス転移温度の差が3℃以下であることを特徴とする高分子組成物、および該高分子組成物からなる成形体に関する。
【0013】
本発明はまた、ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子を含有する成形体であって、該成形体を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させる熱処理を行ったとき、該熱処理前後の成形体のガラス転移温度の差が3℃以下であることを特徴とする成形体、特に電子写真用転写ベルト、および該転写ベルトを備えた画像形成装置に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る高分子組成物は、各種成分の十分に均一な相溶/分散が達成されているため、所定の熱処理を行っても、当該熱処理前後でガラス転移温度がほとんど変化しない。そのため、当該高分子組成物を用いた成形体の廃棄品や製造過程で生じた廃棄物を、原料として有効に再利用できる。しかも、本発明の高分子組成物および当該高分子組成物からなる成形体は、高靭性を有効に発揮し、しかも、ポリフェニレンスルフィド樹脂が本来的に有する良好な耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、弾性および電気絶縁性も発揮する。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂含有高分子組成物に添加剤を含有させると、当該高分子組成物および当該高分子組成物からなる成形体において、添加剤の均一な分散を達成できる。その結果、成形体が特に電子写真方式の画像形成装置において使用される転写ベルトであって、添加剤がカーボン等の導電剤である場合、当該転写ベルトにおいて均一な導電性を達成できるので、そのような転写ベルトを用いるとフィルミングを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(高分子組成物)
本発明に係る高分子組成物は少なくともポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂という)を含有し、所定の熱処理を行っても、当該熱処理前後でガラス転移温度がほとんど変化しないものである。詳しくは熱処理前の高分子組成物のガラス転移温度をTg1、熱処理後の高分子組成物のガラス転移温度をTg2としたとき、それらの差、特にTg1−Tg2は3℃以下、特に0〜3℃、好ましくは0〜2℃である。当該Tg差が3℃を超える高分子組成物は、各種成分の相溶/分散が十分ではないために、当該高分子組成物を用いて製造された成形体の廃棄品や製造過程で生じた廃棄物は原料として再利用できない。たとえ、添加剤が含有されていても、当該高分子組成物および当該高分子組成物からなる成形体において、添加剤の均一な分散は十分に達成できない。そのため、成形体が特に電子写真方式の画像形成装置において使用される転写ベルトであって、添加剤がカーボン等の導電剤である場合、当該転写ベルトにおいて均一な導電性は十分に達成できない。
【0016】
熱処理は、溶融状態の高分子組成物に対して、平行な2つの面の間隙を通過させる処理であり、本発明においては特に、平行な2つの平面の間隙を2回以上通過させる処理を行う。本発明においてそのような熱処理を行っても、当該熱処理前後でガラス転移温度がほとんど変化しないのは、本発明の高分子組成物は各種成分の相溶/分散が十分に均一に達成されているためである。各種成分の相溶/分散が十分に均一に達成されていない高分子組成物に対して上記熱処理を行うと、当該熱処理によって十分に均一な相溶/分散が達成されるので、熱処理前後で比較的大きなガラス転移温度変化を示し、通常は熱処理によってガラス転移温度は低減される。
【0017】
熱処理は、高分子組成物を押出混練機により溶融・混練し、混練後に押し出された溶融状態の高分子組成物に対して、例えば図1に示す間隙通過処理装置を用いて、平行な2つの平面の間隙を通過させることにより行うことができる。図1(A)は、間隙通過処理を3回行う装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図1(B)は、図1(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図1の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図1の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子組成物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子組成物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2b、2cを通過させることができる。このように図1の装置は押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0018】
図1の装置は、本発明の効果を示す1例であり、押出成形装置の金型もしくは射出成形の金型でも、平行な平面の間隙が存在すれば同様の効果を発現する。具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面からなる間隙を3ヶ所(2a、2b、2c)で有する。通常はさらに、間隙2a、2b、2cそれぞれの直前に、断面積が直後の間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1b、1cを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子組成物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図1の装置10Aにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。次いで、高分子組成物は移動方向MDおよび幅方向WDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過し、吐出口6から吐出される。
本明細書中、断面積とは、移動方向MDに対する垂直断面における面積を意味するものとする。特に溜まり部の断面積は、移動方向MDに対する垂直断面における当該溜まり部の最大の断面積を意味する。
【0019】
図1において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xはそれぞれ独立して0.01mm以上10mm未満mmであってよく、例えば、x、x、xは共通して2mmとすればよい。
【0020】
図1において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yはそれぞれ独立して1〜300mmであってよく、例えば、y、y、yは共通して30mmとすればよい。
【0021】
図1において間隙2a、2bにおける幅方向WDの距離zは特に制限されず、それぞれ独立して100〜1000mmであってよく、例えば、zは300mmとすればよい。
【0022】
図1において溜まり部1a、1b、1cにおける最大高さh、h、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2b、2cの面間距離x、x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して3〜100mmであってよく、例えば、h、h、hは共通して10mmとすればよい。
本明細書中、溜まり部の最大高さは、直方体形状の装置の場合、幅方向WDに対する垂直断面における最大高さを意味するものとする。
【0023】
図1において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2a、間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して2〜100であってよく、例えば、それらの比率は共通して5とすればよい。
【0024】
図1において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mは特に制限されず、通常はそれぞれ独立して1〜300mmであってよく、例えば、間隙2a、2b、2cの間の溜まり部1b、1cに対応するm、mは共通して20mmとすればよい。mは通常2mmとすればよい。
【0025】
高分子組成物が溶融状態で間隙を通過するときの流速は、間隙の断面積1cmあたりの値で1〜5000g/分の範囲内であればよく、例えば、流速は83.3g/分とすればよい。
流速は吐出口から吐出される高分子組成物の吐出量(g/分)を間隙の断面積(cm)で除することによって測定できる。
【0026】
間隙通過時の高分子組成物の粘度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、通常は1〜10000Pa・sであってよく、例えば、当該粘度は10〜8000Pa・sとすればよい。
高分子組成物の粘度は粘弾性測定装置MARS(ハーケー社製)によって測定された値を用いている。
【0027】
溶融状態の高分子組成物を移動方向MDに移動させるための圧力および熱処理時の高分子組成物の温度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されない。
【0028】
図1の装置の流入口5が吐出口に連結される押出混練機は、成形加工で用いられる公知の押出混練機が使用でき、例えば、PG・PEX(プラ技研社製)、GT・UT(プラスチック工学研究所社製)、DHT(日立造船社製)、GS・MS・TS(池貝社製)、二軸押出混練機KTX46(神戸製鋼社製)、等のような単軸あるいは2軸の押出混練機が使用できる。
【0029】
押出混練機の溶融・混練条件は、間隙通過時における高分子組成物の上記流速が達成される限り特に制限されず、例えばスクリュー回転数は100〜1000rpmが採用可能である。混練時の発熱による高分子の分解が心配されるならば好ましくは200〜500rpmとすることができる。
【0030】
熱処理後は通常、熱処理された高分子組成物を急冷し、急冷された高分子組成物に対してガラス転移温度の測定を行う。
【0031】
急冷は、溶融状態の高分子組成物をそのまま0〜60℃の水に浸漬することによって達成できる。−40℃〜60℃の気体で冷却するか、−40℃〜60℃の金属に接触させることによって、急冷を達成してもよい。
【0032】
本発明の高分子組成物は、上記した熱処理の前後において、一つのガラス転移温度を持つものであり、それらの差が上記範囲内であればよい。
【0033】
「一つのガラス転移温度を持つ」とは、ガラス転移温度を一つだけ持つという意味であり、詳しくは高分子組成物を示唆走査熱分析(以下、DSCという)法に供したとき、50℃から200℃の領域でガラス転移を一回しか起こさない。図2は、本発明のPPS樹脂含有高分子組成物をDSC法で測定したときの熱量変化を示したグラフの一例であって、横軸は温度変化を、縦軸は熱量変化を示し、基準線から上方が発熱、基準線から下方が吸熱を示す。例えば、図2に示すようなグラフにおいて、82℃付近で基準線が略平行に吸熱側へ変化しているところが、ガラス転移が起こっていることを示す。本発明においては、そのようなガラス転移を示す基準線の変化が50℃から200℃の領域で一つしか現れない。図2において100℃から150℃の領域に観察される鋭いピークはPPSの結晶化を示している。DSC法による測定装置については特に限定されるものではない。測定条件については昇温スピードが重要であり、5℃/minで測定する必要がある。昇温スピードが速すぎたり遅すぎたりすると、Tgの形がくずれたり、測定できない場合があるためである。上記測定条件で測定されるTgが一つであれば、当該高分子組成物はガラス転移温度を一つだけ持つものである。
【0034】
本発明の高分子組成物が、特に熱処理前において、一つだけ有するガラス転移温度は25℃以上150℃以下が好ましく、88℃以下、特に80〜88℃が好ましく、より好ましくは83〜87℃であり、熱処理後において前記した範囲内の変化しか示さない。
【0035】
図2の要部拡大図を示す図3において、低温側の基準線と平行に高温側の基準線と重なるように平行線を引き、さらにこれらの平行線の距離(L)の1/2の高さ(L/2)のところに直線を引いたとき、当該L/2直線と吸熱曲線との交点からガラス転移温度(Tg)を求めることができる。
【0036】
図4は、Tgが2つ(例えば、PPS樹脂とナイロン樹脂)観察された例であり、基準線が略平行に吸熱側へ変化するガラス転移が2つ観察されるので、当該測定に供された高分子組成物は本発明の範囲外のものである。そのような高分子組成物は、PPS樹脂とナイロン樹脂とが有効に相溶していないので、前記熱処理によってTgが比較的大きく変化し、十分な靭性が得られない。そのような高分子組成物にカーボン等の添加剤を予め配合していたところで、添加剤は均一に分散されないか、あるいは成形加工の工程で分散状態が変化する。
【0037】
本発明においては、図5に示すように、PPS樹脂とともに含有される樹脂、例えば、ナイロン樹脂の結晶化ピークがTgより低い温度領域で観察されることがある。この場合においても、基準線が略平行に吸熱側へ変化するガラス転移は一つしか観察されていないので、当該測定に供された高分子組成物はガラス転移温度を一つだけ持つものである。
【0038】
(高分子組成物の製造方法および製造装置)
本発明に係る高分子組成物は、溶融状態の高分子混合物に対して間隙通過処理を行うことによって製造できる。
【0039】
高分子混合物は少なくともPPS樹脂を含む2種類以上の高分子の混合物である。高分子混合物に含まれるPPS樹脂以外の他の高分子としては、特に制限されず、公知の高分子が使用可能である。他の高分子としては、PPS樹脂に対していわゆる相溶性が低い高分子が好ましく使用され、例えば、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリエーテルサルホン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリアミドイミド,ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。2種類以上組み合わせて、PPS樹脂とともに使用可能である。
【0040】
本発明で使用されるPPS樹脂は、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして有用なポリフェニレンスルフィドである。PPS樹脂の分子量は特に制限されないが、溶融流動性の向上の観点から、ゲル浸透クロマトグラフ法で求められた分子量分布のピーク分子量が5000〜1000000、特に45000〜90000のものを使用するのが好ましい。
【0041】
PPS樹脂の製造方法は特に制限されず、例えば、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載された方法等のような公知の方法によって製造可能である。
PPS樹脂はまた、市販のポリフェニレンサルファイドとして東レ(株)、大日本インキ化学工業(株)等より入手することもできる。
【0042】
PPS樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲内で、種々の処理を施した上で使用することができる。そのような処理として、例えば、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、熱水などによる洗浄処理、および酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などが挙げられる。
【0043】
ナイロン樹脂は、本発明ではポリアミドとも呼ばれている樹脂である。ナイロン樹脂は、特に制限されず、各種ポリアミドが使用可能である。具体例として、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ドデカラクタムなどラクタム類の開環重合によって得られるポリアミド;6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのアミノ酸から導かれるポリアミド;エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−および1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4,4´−アミノシクロヘキシル)メタン、メタおよびパラキシリレンジアミンなどの脂肪族、脂環族または芳香族ジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびダイマー酸などの脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸、またはそれらの酸ハロゲン化物(例えば酸クロリド)などの酸誘導体とから導かれるポリアミドおよびこれらの共重合ポリアミド;ならびにそれらの混合ポリアミド等が挙げられる。本発明においてはこれらのうち通常は、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とのポリアミド、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)およびこれらのポリアミド原料を主成分とする共重合ポリアミドが有用である。
【0044】
ナイロン樹脂の重合度は特に制限されず、例えば、相対粘度(ポリマー1gを98%濃硫酸100mlに溶解し、25℃で測定)が2.0〜5.0の範囲内にあるポリアミドを目的に応じて任意に選択できる。
【0045】
ナイロン樹脂の重合方法は特に制限されず、通常は公知の溶融重合法、溶液重合法およびこれらを組合せた方法を採用することができる。
ナイロン樹脂はまた、市販のMXD6(三菱ガス化学社製)、4,6ナイロン(DSMジャパンエンプラ社製)、ザイテル(デュポン社製)等として入手することもできる。
【0046】
エポキシ樹脂は、分子中に2個以上のエポキシ基を有する低〜高分子量の化合物、もしくはエポキシ基が他の反応性有機化合物で反応し不活性となっている低〜高分子量の化合物であり、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂およびイソシアヌラート型エポキシ樹脂;それらの水素添加物およびハロゲン化物;ならびに前記樹脂から選ばれた2種以上の混合物などが挙げられる。脂環式エポキシ樹脂としては、ビス(ジシクロペンタジエン)型をはじめとするジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、シクロヘキセンオキシド型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのうち、分子骨格の対称性に優れ、誘電特性に優れた樹脂硬化物が得られることから、ビス(ジシクロペンタジエン)型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などが好ましい。
【0047】
高分子混合物におけるPPS樹脂の含有比率は、組成物全量に対して、50重量%以上、特に70重量%以上、好ましくは70〜98重量%、より好ましくは85〜97重量%である。PPS樹脂の含有比率が高いほど、各種成分の相溶/分散が十分に均一に達成され難いためである。
【0048】
高分子混合物には、得られる高分子組成物の用途に応じて、各種添加剤が含まれてよい。添加剤が含まれても、当該添加剤は十分に均一に混合・分散され得る。添加剤は各種用途で公知のものが使用可能であり、例えば、導電剤、強化剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤などが挙げられる。
【0049】
導電剤としては、含有されることによって導電性を付与できるものであれば特に制限されない。例えば、電子写真用転写ベルトの分野で従来から使用されている公知の導電剤が使用可能である。そのような導電剤の具体例として、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、低温焼成カーボンなどの易黒鉛化性カーボンや有機物を炭化させた難黒鉛化性カーボン;金属の複合酸化物例えばペロブスカイト群などの化合物や、亜鉛、スズ、インジウム、アンチモンなどの結晶性あるいは非晶性の酸化物、あるいはこれらの元素の組合せから成る酸化物等の金属酸化物微粒子;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、スルフォン酸もしくはカルボン酸を側鎖に有するポリマーなどの導電性もしくは半導電性高分子等が挙げられる。カーボンが好ましく使用される。カーボンは一般に樹脂中において分散され難いが、本発明においてはカーボンを十分に均一に分散させ得るためである。)
【0050】
導電剤の含有量は特に制限されず、通常はポリマー成分合計量100重量部に対して2〜40重量部であり、特に高分子組成物の表面抵抗を1010Ω/□程度にする観点からは、2〜25重量部が好ましい。2種類以上の導電剤が含有される場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0051】
強化剤は強度、剛性、耐熱性、寸法安定性などのさらなる向上を達成するものである。強化剤としては繊維状および/または粒状の強化剤が使用できる。
【0052】
繊維状強化剤としては、ガラス繊維、シラスガラス繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの無機繊維および炭素繊維等が挙げられる。
粒状の強化剤としては、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、塩化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどが挙げられ、これらは中空であってもよい。
【0053】
強化剤の含有量は特に制限されず、通常はポリマー成分合計量100重量部に対して1〜20重量部であり、分散性のさらなる向上の観点からは、1〜10重量部が好ましい。2種類以上の強化剤が含有される場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。
【0054】
添加剤の総含有量は、分散性のさらなる向上の観点から、ポリマー成分合計量100重量部に対して6〜50重量部、特に6〜30重量部が好ましい。
【0055】
本発明においては上記した高分子混合物を溶融状態で間隙通過処理すると好ましいが、カオス混合や、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール混練り、ニーダー部あるいはローター部を有するスクリュー構成の二軸混練機、石臼式混練機などの剪断流動を採用した混練システムでも本発明を達成できる。
【0056】
間隙通過処理とは、高分子混合物を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させる処理であり、本発明において当該間隙通過処理を2回以上、好ましくは3〜5回行う。これによって、高分子混合物に含まれる各成分の十分に均一な混合・分散が達成される。
【0057】
本発明の効果が得られるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のメカニズムに基づくものと考えられる。溶融状態の高分子混合物が間隙に入るとき、高分子混合物が受ける圧力および高分子混合物の移動速度が大きく変化する。このとき、溶融物に対して剪断作用、伸長作用および折りたたみ作用が有効に働くものと考えられる。そのため、そのような変化を高分子混合物が2回以上受けることにより、結果として各成分の十分に均一な混合・分散が有効に達成されるものと考えられる。
【0058】
間隙通過処理は、間隙を2ヶ所以上で有する装置において当該間隙を1回ずつ通過させることによって達成されてもよいし、または間隙を1ヶ所だけ有する装置を用いて2回以上処理を繰り返すことによって達成されてもよい。連続運転を行う観点からは、間隙通過処理は、間隙を2ヶ所以上で有する装置において当該間隙を1回ずつ通過させることによって達成されることが好ましい。
【0059】
2以上の間隙における平行な2つの面間距離xはそれぞれ独立して7mm以下、特に0.05〜7mmであり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは、0.5〜5mmが好ましく、より好ましくは0.5〜3mmである。面間距離が大きすぎる間隙を通過させても、十分に均一な混合・分散は達成できない。
【0060】
2以上の間隙における高分子混合物の移動方向MDの距離yはそれぞれ独立して2mm以上であればよく、処理の効果のさらなる向上の観点からは、3mm以上が好ましく、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。距離yの上限値は特に制限されるものではないが、長すぎると、効率が悪いだけでなく、高分子混合物を移動方向MDで移動させるための圧力を大きくする必要があり経済的ではない。よって距離yはそれぞれ独立して1〜100mmが好ましく、より好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは1〜20mmである。
【0061】
2以上の間隙における幅方向WDの距離zは特に制限されず、例えば、20mm以上であり、通常は100〜1000mmである。
【0062】
高分子混合物が溶融状態で間隙を通過するときの流速は間隙の断面積1cmあたりの値で1g/分以上であればよく、本発明の効果において上限は特に制限はないが、あまり大きくなると装置の設置面積が大きくなり経済的ではない。好ましくは10〜5000g/分、より好ましくは10〜500g/分である。
【0063】
流速は吐出口から吐出される高分子混合物の吐出量(g/分)を間隙の断面積(cm)で除することによって測定できる。
【0064】
間隙通過処理時の高分子混合物の粘度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、加熱温度によって制御できる。当該粘度は例えば、1〜10000Pa・sであり、好ましくは10〜8000Pa・sである。
高分子混合物の粘度は粘弾性測定装置MARS(ハーケー社製)によって測定された値を用いている。
【0065】
溶融状態の高分子混合物を移動方向MDに移動させるための圧力は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されず、大気圧力との差圧で示される樹脂圧力で0.1MPa以上が好ましい。樹脂圧力は間隙における樹脂の吐出口から1mm以上内側で計測した高分子混合物の圧力であり、圧力計で直接計測することによって測定できる。圧力は高いほど効果的であるが樹脂圧力が高すぎると著しい剪断発熱が生じ、高分子の分解に至る場合があるので、樹脂圧力は500MPa以下が好ましく、より好ましくは50MPa以下である。この樹脂圧力については、良好な物性を示す高分子組成物を製造するための目安を示したもので、記載した樹脂圧力以外で本発明の目的を達成できるならばこれに制限を加えるものではない。
【0066】
間隙通過処理時の高分子混合物の温度は、上記間隙通過時の流速が達成される限り特に制限されないが、400℃を超える高温度では高分子の分解が生じるので400℃以下が推奨される。また当該高分子混合物温度は、高分子のTg以上の温度であると樹脂圧力が著しく高くならないので好ましい。2種類以上の高分子を使用する場合、それらの割合と各Tgから加重平均により算出される値をTgとする。例えば、高分子AのTgがTg(℃)、使用割合がR(%)であり、高分子BのTgがTg(℃)、使用割合がR(%)であるとき(R+R=100)、「(Tg×R/100)+(Tg×R/100)」をTgとする。
間隙通過処理時の高分子混合物温度は、当該処理を行う装置の加熱温度を調整することによって制御できる。
【0067】
本発明において通常は、間隙通過処理の直前に、高分子混合物を押出混練機により溶融・混練し、混練後に押し出された溶融状態の高分子混合物に対して間隙通過処理を所定回数で行う。溶融・混練方法は特に制限されず、例えば、前記した公知の単軸あるいは2軸の押出混練機が使用できる。
溶融・混練条件は、特に制限されず、例えばスクリュー回転数は50〜1000rpmが採用可能であり、溶融混練温度は上記した間隙通過処理時の高分子混合物の温度と同様の温度が採用可能である。
【0068】
以下、間隙通過処理を行う高分子組成物の製造装置を示す図面を用いて、間隙通過処理方法について具体的に説明する。そのような高分子組成物の製造装置は、被処理物を流入させるための流入口および処理された物を吐出させるための吐出口を備え、当該流入口と吐出口との間の被処理物の流路において、平行な2つの面の間隙を2ヶ所以上で有するものである。
【0069】
例えば、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置の一例を図6に示す。図6(A)は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図6(B)は、図6(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図6の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図6の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2bを通過させることができる。このように図6の装置は押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶこともできる。
【0070】
図6の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの平面からなる間隙を2ヶ所(2a、2b)で有する。通常はさらに、間隙2a、2bそれぞれの直前に断面積が当該間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1bを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図6の装置10Aにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、幅方向WDに広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび幅方向WDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過し、吐出口6から吐出される。
【0071】
図6において間隙2a、2bにおける平行な2つの面間距離x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0072】
図6において間隙2aにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2bにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0073】
図6において間隙2a、2bにおける幅方向WDの距離zは前記距離zに相当し、それぞれ独立して前記距離zと同様の範囲内であればよく、通常は共通の値である。
【0074】
図6において溜まり部1a、1bにおける最大高さh、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2bの面間距離x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して3〜100mm、好ましくは3〜50mmである。
【0075】
図6において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aおよび間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bはそれぞれ独立して1.1以上、特に1.1〜1000であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは2〜100が好ましく、より好ましくは3〜15である。それらの断面積比率が小さすぎると、十分に均一な混合・分散は達成できない。
【0076】
図6において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して1mm以上であればよく、連続運転の効率の観点からは、2mm以上が好ましい。距離mおよびmの上限値は特に制限されるものではないが、長すぎると、効率が悪いだけでなく、流入口5に連結される押出混練機の押出力を大きくする必要があり経済的ではない。よって距離mおよびmはそれぞれ独立して1〜300mmが好ましく、より好ましくは1〜100mm、さらに好ましくは1〜50mmである。
【0077】
また例えば、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置の一例を図1に示す。図1の装置は、高分子組成物を製造するとき、被処理物として高分子混合物を用いること、および寸法が以下に示す範囲で特に制限されないこと以外、前記熱処理を行うための装置と同様であるため、構造についての説明を省略する。
【0078】
高分子組成物の製造時に使用される図1の装置は以下に示す寸法を有する。
図1において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0079】
図1において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0080】
図1において間隙2a、2b、2cにおける幅方向WDの距離zは前記距離zに相当し、それぞれ独立して前記距離zと同様の範囲内であればよく、通常は共通の値である。
【0081】
図1において溜まり部1a、1b、1cにおける最大高さh、h、hはそれぞれ、直後の間隙2a、2b、2cの面間距離x、x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して、図6における最大高さh、hと同様の範囲内である。
【0082】
図1において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2a、間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して、図6における比率S1a/S2aおよび比率S1b/S2bと同様の範囲内である。
【0083】
図1において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して、図6における距離mおよび距離mと同様の範囲内である。
【0084】
本明細書中、「平行」は、2つの平面の間で達成される平行関係だけでなく、2つの曲面の間で達成される平行関係も含む概念で用いるものとする。すなわち、図6および図1において間隙2a、2b、2cは平行な2つの平面からなっているが、これに制限されるものではなく、例えば、図7に示す間隙2aや図8に示す間隙2a、2b、2cのように、平行な2つの曲面からなっていてもよい。「平行」は、2つの面の関係において、それらの間の距離が一定であることを意味し、装置製造時の精度を考慮して、厳密に「一定」であることを要さず、実質的に「一定」であればよい。従って、「平行」は本発明の目的が達成される範囲内で「略平行」であってよい。略直方体形状の装置において、幅方向WDに対する垂直断面における間隙の形状および位置は幅方向において変わらないものとする。略円柱体形状の装置において、軸を通る断面における間隙の形状および位置は装置の軸を軸とした周方向において変わらないものとする。
【0085】
図7は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置の一例を示す。図7(A)は、間隙通過処理を2回行う高分子組成物の製造装置について上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、図7(B)は、図7(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。図7の装置は全体として略直方体形状を有するものである。図7の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2bを通過させることができる。このように図7の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0086】
図7の装置は、間隙2aが平行な2つの曲面からなること以外、図6の装置と同様であるため、図7の装置の詳しい説明を省略する。
【0087】
図8は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置の一例を示す。図8(A)は、間隙通過処理を3回行う高分子組成物の製造装置の概略見取り図であり、図8(B)は、図8(A)の装置の軸を通るP−Q断面における概略断面図である。図8の装置は全体として略円柱体形状を有し、装置の小型化を可能にする。図8の装置は流入口5を押出混練機(図示しない)の吐出口に連結させておくことによって、当該押出混練機の押出力を、高分子混合物の移動の推進力として利用し、溶融状態の高分子混合物を全体として移動方向MDに移動させ、間隙2a、2b、2cを通過させることができる。このように図8の装置もまた押出混練機の吐出口に連結させて使用されるため、ダイと呼ぶことができる。
【0088】
図8の装置は、具体的には、被処理物を流入させるための流入口5および処理された物を吐出させるための吐出口6を備え、流入口5と吐出口6との間の被処理物の流路において、平行な2つの曲面からなる間隙を3ヶ所(2a、2b、2c)で有する。通常はさらに、間隙2a、2b、2cそれぞれの直前に、断面積が直後の間隙の断面積よりも大きい溜まり部1a、1b、1cを有する。処理時において押出混練機から押し出された高分子混合物は溶融状態で、当該押出混練機の押出力に基づいて、図8の装置10Dにおける流入口5から溜まり部1aに流入し、半径方向に広がる。次いで、高分子混合物は移動方向MDおよび周方向PDで連続的に、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動し、その後、さらに間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過し、吐出口6から吐出される。
【0089】
図8において間隙2a、2b、2cにおける平行な2つの面間距離x、x、xは前記距離xに相当し、それぞれ独立して前記距離xと同様の範囲内であればよい。
【0090】
図8において間隙2aにおける移動方向MDの距離y、間隙2bにおける移動方向MDの距離yおよび間隙2cにおける移動方向MDの距離yは前記距離yに相当し、それぞれ独立して前記距離yと同様の範囲内であればよい。
【0091】
図8において溜まり部1aにおける最大高さhは特に制限されるものではなく、通常は1〜100)mm、好ましくは1〜50mmである。
図8において溜まり部1b、1cにおける最大高さh、hはそれぞれ、直後の間隙2b、2cの面間距離x、xより大きい値であり、通常はそれぞれ独立して、図6における最大高さh、hと同様の範囲内である。
本明細書中、溜まり部の最大高さは、略円柱体形状の装置の場合、装置の軸を通る断面における直径方向の最大高さを意味するものとする。
【0092】
図8において間隙2aの断面積S2aとその直前の溜まり部1aの最大断面積S1aとの比率S1a/S2aは1.2以上、特に1.2〜10であり、より均一な混合・分散、装置の小型化、およびベントアップの防止の観点からは1.2〜7が好ましく、より好ましくは1.2〜5である。それらの断面積比率が小さすぎると、十分に均一な混合・分散は達成できない。
【0093】
図8において間隙2bの断面積S2bとその直前の溜まり部1bの最大断面積S1bとの比率S1b/S2bおよび間隙2cの断面積S2cとその直前の溜まり部1cの最大断面積S1cとの比率S1c/S2cはそれぞれ独立して、図6における比率S1a/S2aおよび比率S1b/S2bと同様の範囲内である。
【0094】
図8において溜まり部1aにおける移動方向MDの距離m、溜まり部1bにおける移動方向MDの距離mおよび溜まり部1cにおける移動方向MDの距離mはそれぞれ独立して、図6における距離mおよび距離mと同様の範囲内である。
【0095】
図1および図6〜図8に記載の装置は、通常、樹脂の混練装置および押出装置の分野で従来から吐出口に取り付けて使用されるダイの製造に使用される材料から製造される。
【0096】
間隙通過処理後は、間隙通過処理された高分子混合物を急冷する。間隙通過処理によって達成された各種成分の十分に均一な混合・分散形態が急冷によって、有効に維持される。
【0097】
急冷は、間隙通過処理によって得られた溶融状態の高分子組成物をそのまま0〜60℃の水に浸漬することによって達成できる。−40℃〜60℃の気体で冷却するか、−40℃〜60℃の金属に接触させることによって、急冷を達成してもよい。急冷は必ずしも行わなければならないというわけではなく、例えば放置冷却するだけでも、各種成分の十分に均一な混合・分散形態は維持できる。
【0098】
冷却された高分子組成物は、次工程での処理を容易にするために、通常、粉砕によってペレタイズされる。
【0099】
本発明においては、高分子混合物を間隙通過処理する直前に行われる溶融・混練処理のさらに前に、高分子混合物を構成する少なくとも一部の成分を予め混合処理してもよい。例えば、2種類以上の高分子および添加剤を含む高分子組成物を製造する場合、まず、少なくとも1種類の高分子および添加剤を予め混合処理した後で、少なくとも1種類の高分子をさらに添加する。次いで、間隙通過処理直前の溶融・混練処理を行い、さらにその後で間隙通過処理を所定回数で行う。また例えば、全成分を予め混合処理した後で、間隙通過処理直前の溶融・混練処理を行い、さらにその後で間隙通過処理を所定回数で行う。これによって、各種成分の混合・分散がより一層有効に達成される。
【0100】
混合方法としては、所定の成分を単に乾式で混合するドライブレンド法を採用してもよいし、または所定の成分を従来の溶融混練方法によって溶融混練、冷却および粉砕する溶融混練法を採用してもよい。溶融混練法を採用する場合、前記と同様の押出混練機が使用可能で、このとき押出混練機は吐出口に従来から公知のダイが取り付けられて使用されてよい。
【0101】
(成形体)
本発明の高分子組成物は、各種成分の十分に均一な相溶/分散が達成されているため、当該高分子組成物を用いて製造された本発明の成形体もまた、各種成分の十分に均一な相溶/分散が達成されている。よって、本発明の成形体は、前記と同様の熱処理を行っても、当該熱処理前後でガラス転移温度がほとんど変化しない。詳しくは熱処理前の成形体のガラス転移温度をTg11、熱処理後の成形体のガラス転移温度をTg12としたとき、それらの差、特にTg11−Tg12は3℃以下、特に−3〜3℃、好ましくは0〜3℃である。当該Tg差が3℃を超える成形体は、各種成分の相溶/分散が十分ではないために、成形体の廃棄品や製造過程で生じた廃棄物は原料として再利用できない。しかも、熱処理前後のTg差が所定範囲外の成形体は、十分な靭性が得られない。たとえ、添加剤が含有されていても、成形体において、添加剤の均一な分散は十分に達成できない。そのため、成形体が特に電子写真方式の画像形成装置において使用される転写ベルトであって、添加剤がカーボン等の導電剤である場合、当該転写ベルトにおいて均一な導電性は十分に達成できない。
【0102】
本発明の成形体は、前記した本発明の高分子組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、吹込成形法、射出圧縮成形法などの公知の各種成形法に適用することによって、任意の形状で製造できる。例えば、ベルト(特にシームレス環状ベルト)、フィルム、パイプ、繊維などの形状を有する成形体を製造できる。成形法は、特に射出成形法、押出成形法が好適である。
【0103】
特に、本発明の高分子組成物が電子写真用転写ベルトの製造に使用される場合、高分子組成物には通常、導電剤が含有される。本発明の高分子組成物および当該組成物を用いて製造された成形体は添加剤の均一分散性が向上するので、導電剤が配合されると、導電剤の均一な分散が達成される。その結果、成形体は全体にわたって均一な導電性を有する。特に成形体が電子写真用シームレス環状転写ベルトである場合は、当該転写ベルトの周方向において比較的均一な電気抵抗値を有し得る。
【0104】
本発明の成形体は各種用途に適用できる。そのような用途の一例を以下に示す。例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品等々。
【0105】
本発明の高分子組成物に導電剤、特にカーボンを配合させ、当該組成物を電子写真用転写ベルトの製造に用いると、本発明の効果をさらに有効に得ることができる。電子写真用転写ベルトにおいて導電剤は均一に分散させることが困難であったが、本発明においては簡便に均一に分散させることができるためである。電子写真用転写ベルトは、感光体上に形成されたトナー像を自己の表面に一旦、転写させた後、転写されたトナー像を紙等の記録材にさらに転写させるための中間転写ベルトであってもよいし、または紙を自己の表面に静電気により吸着し、感光体上に形成されたトナー像をその紙に転写する直接転写ベルトであってもよい。
【0106】
転写ベルトはシームレス環状形状を有することが好ましい。そのような形状を有する転写ベルトは、成形の際に環状金型ダイの内部において溶融樹脂が合流する領域が他の領域と比較して導電剤含有割合が高くなり、電気抵抗値が低くな)る傾向があるが、本発明の転写ベルトはそのような合流領域においても、他の領域と略同程度の電気抵抗値を達成できるためである。
【0107】
転写ベルトは、前記高分子組成物からなるベルトをそのまま用いても良いが、転写効率を高めるために、表面だけを硬くすると、本発明の効果をさらに有効に得ることができる。表面だけを硬くする方法として無機材料をコーティングする方法がよいが、その方法は特に限定されるものではない。例えば、「ゾル−ゲル法応用技術の新展開」(CMC出版)に記載されているような塗布による方法、「薄膜材料入門」(裳華房)に記載されたCVD,PVD,プラズマコーティングなどの物理化学的方法など、公知の方法を採用できる。表面にコーティングされる無機材料は、本発明の目的を達成できる限り特に制限されず、物性と経済性を考慮すると、Si、Al、Cを含む酸化物系材料が特に好ましい。例えば、アモルファスシリカ薄膜、アモルファスアルミナ薄膜、アモルファスシリカアルミナ薄膜、アモルファスダイヤモンド薄膜などが推奨される。このように硬度が比較的高い無機薄膜をベルトにコーティングすることにより、ブレードとの摩擦磨耗寿命が改善されたり、転写性が向上する。
【0108】
転写ベルトは、中間転写方式の画像形成装置に用いられる転写ベルトであり、特に継ぎ目のないシームレスベルトであることが好ましい。転写ベルトは、現像装置に単色トナーのみを持つモノカラー画像形成装置、1つの潜像担持体に対してY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、B(ブラック)の現像器が備わり、各色の現像器ごとに潜像担持体上での現像およびトナー像の転写ベルトへの一次転写を行うサイクル方式フルカラー画像形成装置、1つの潜像担持体に対して1つの現像器が備わった各色の画像形成ユニットが直列に配置され、各色の画像形成ユニットごとに潜像担持体上での現像およびトナー像の転写ベルトへの一次転写を行うタンデム方式フルカラー画像形成装置などに適用することができる。本発明の転写ベルトを適用することにより文字の中抜けやトナーの飛び散りを抑制できる画像形成装置とすることができる。
【0109】
例えば、図9に示すようなタンデム方式フルカラー画像形成装置において、転写ベルト1は数本のローラー52、53、54等に張架され、当該転写ベルト51に沿って直列に、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)およびB(ブラック)の画像形成ユニット55,56,57,58が配置されている。転写ベルト51は矢印の方向に回転され、各画像形成ユニットで潜像担持体(感光体)(59,60,61,62)上に形成されたトナー像が一次転写ローラ(63,64,65,66)により転写ベルト51上に順次、一次転写される。その後、転写ベルト51上に形成された4色トナー像は二次転写ローラ67と押圧ローラ52との間で記録材(記録紙)68に二次転写されるようになっている。
【0110】
各画像形成ユニット(55、56、57、58)では、潜像担持体(59、60、61、62)は表面を帯電器(例えば、69)により一様に帯電され、露光器(例えば、70)により画像に対応する静電潜像を形成される。形成された静電潜像は現像器(例えば、71)で現像され、トナー像が一次転写ローラ(例えば、63)によって転写ベルトに転写された後は、図示しないクリーナ等により残留トナーを除去されるようになっている。
【実施例】
【0111】
(実施例1)
PPS(ポリフェニレンサルファイド;東レ社製、Tg=97℃)84kgおよび酸性カーボン(デグサ社製)10kgの混合物を二軸押出混練機で(内部温度270)℃および吐出量30kg/時の条件にて溶融混練した(予備混合工程)。上記押出混練機のダイは直径5mmの棒状に押し出すストランドダイであった。その後、混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレット化して、高分子組成物を得た。この高分子組成物94kgと6ナイロン(東レ社製、Tg=48℃)6kgの混合物を、図1に示すダイを吐出口に取り付けた二軸押出混練機(KTX46;神戸製鋼社製)で内部温度270℃、吐出量30kg/時および樹脂圧力4MPaの条件にて溶融混練した(混練工程および間隙通過工程)。詳しくは二軸押出混練機から吐出された高分子組成物は溶融状態で、図1のダイ10における流入口5から溜まり部1aに流入した後、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動した。その後、間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過した。間隙2cを通過するときの流速は間隙断面積1cmあたりの値で83.3g/分であった。間隙2cから吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕して、高分子組成物を得た。この高分子組成物のTgを測定した。
【0112】
図1に示すダイは以下に示す寸法を有するもので、二軸押出混練機の内部温度と同様の温度に加熱して用いた。
【0113】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=2mm;
間隙2a;面間距離x=2mm、断面積S2a=6cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2b;面間距離x=2mm、断面積S2b=6cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2c;面間距離x=2mm、断面積S2c6cm、移動方向距離y=30mm。
【0114】
得られた高分子組成物を、290℃に加温した環状金型ダイ及び75℃に設定した冷却用サイジングダイを取り付けた急冷可能な成形機によって290℃にて押出成形して、シームレス環状形状の中間転写ベルト(厚み0.1mm)を得た(成形工程)。この中間転写ベルトの表面抵抗を周方向において20mm間隔にて24点で、抵抗計(ハイレスタ;三菱油化電子社製)により測定したところ、平均値は2×1010Ω/□であり、周方向の抵抗ばらつきは100.2であった。周方向の抵抗ばらつきとは、測定値について最大値/最小値を算出した値である。表面抵抗の測定電圧は500V、測定時間は10秒間であった。
【0115】
MIT値を測定した。MIT値はMIT揉疲労試験機(MIT−D;東洋精機製)を用いて、加重250g、振り角90°、回数175回/分にて計測した。数値は破断したときの振り回数で示し、5サンプルの平均値である。
【0116】
(実施例2)
以下に示す寸法を有する図1のダイを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、中間転写ベルトの製造および評価を行った。ここで得られた成形前の高分子組成物のTgを測定した。間隙2cを通過するときの流速は間隙断面積1cmあたりの値で166.7g/分であった。
【0117】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2a;面間距離x=1mm、断面積S2a=3cm、移動方向距離y=2mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2b;面間距離x=1mm、断面積S2b=3cm、移動方向距離y=2mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2c;面間距離x=1mm、断面積S2c=3cm、移動方向距離y=2mm、幅方向距離z=300mm。
【0118】
(実施例3)
以下に示す寸法を有する図1のダイを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、中間転写ベルトの製造および評価を行った。ここで得られた成形前の高分子組成物のTgを測定した。間隙2cを通過するときの流速は間隙断面積1cmあたりの値で166.7g/分であった。
【0119】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=10mm;
間隙2a;面間距離x=1mm、断面積S2a=3cm、移動方向距離y=2mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=10mm;
間隙2b;面間距離x=1mm、断面積S2b=3cm、移動方向距離y=2mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm、移動方向距離m=10mm;
間隙2c;面間距離x=1mm、断面積S2c=3cm、移動方向距離y=2mm、幅方向距離z=300mm。
【0120】
(実施例4)
以下に示す寸法を有する図6のダイを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、中間転写ベルトの製造および評価を行った。ここで得られた成形前の高分子組成物のTgを測定した。
【0121】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=50mm;
間隙2a;面間距離x=2mm、断面積S2a=6cm、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=50mm;
間隙2b;面間距離x=2mm、断面積S2b=6cm、移動方向距離y=10mm、幅方向距離z=300mm。
【0122】
(比較例1)
図1に示すダイを吐出口に取り付けた二軸押出混練機の代わりに、吐出口にダイを有さない二軸押出混練機を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、中間転写ベルトの製造および評価を行った。ここで得られた成形前の高分子組成物のTgを測定した。
【0123】
(実施例5)
6ナイロンの代わりに、エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1256;ジャパンエポキシレジン株式会社社製)を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により、中間転写ベルトの製造および評価を行った。なお、ここで得られた成形前の高分子組成物のTgを測定した。
【0124】
(比較例2)
図1に示すダイを吐出口に取り付けた二軸押出混練機の代わりに、吐出口にダイを有さない二軸押出混練機を用いたこと以外、実施例5と同様の方法により、中間転写ベルトの製造および評価を行った。なお、ここで得られた成形前の高分子組成物のTgを測定した。
【0125】
(熱処理)
各実施例/比較例で得られた中間転写ベルト(高分子組成物)に対して以下に示す熱処理を行い、熱処理前後のTgを前記した方法により測定した。
試料を粉砕し、粉砕物を、以下に示す寸法を有する図1のダイを吐出口に取り付けた二軸押出混練機(KTX46;神戸製鋼社製)で内部温度270℃、吐出量30kg/時および樹脂圧力4MPaの条件にて溶融混練した。詳しくは二軸押出混練機から吐出された混練物は溶融状態で、図1のダイ10における流入口5から溜まり部1aに流入した後、間隙2aを通過して溜まり部1bに移動した。その後、間隙2bを通過して溜まり部1cに移動し、最後に間隙2cを通過した。間隙2cを通過するときの流速は間隙断面積1cmあたりの値で83.3g/分であった。間隙2cから吐出した混練物を30℃の水に浸漬することによって急冷し、ペレタイザーによりペレット状に粉砕した。
【0126】
図1に示すダイは以下に示す寸法を有するもので、二軸押出混練機の内部温度と同様の温度に加熱して用いた。
【0127】
溜まり部1a;最大高さh=10mm、最大断面積S1a=30cm、移動方向距離m=2mm;
間隙2a;面間距離x=2mm、断面積S2a=6cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1b;最大高さh=10mm、最大断面積S1b=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2b;面間距離x=2mm、断面積S2b=6cm、移動方向距離y=30mm、幅方向距離z=300mm;
溜まり部1c;最大高さh=10mm、最大断面積S1c=30cm、移動方向距離m=20mm;
間隙2c;面間距離x=2mm、断面積S2c=6cm、移動方向距離y=30mm。
【0128】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の高分子組成物の製造方法および製造装置は、電気、電子部品、自動車部品、一般機械部品など種々の広い分野に適用できる。特に、本発明の方法により製造された高分子組成物を用いて得られた転写ベルトは、電子写真式画像形成装置に用いられる直接転写ベルトもしくは中間転写ベルトに応用した場合にベルトの周方向の抵抗安定性と強度に優れたベルトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】(A)は、熱処理を行う装置について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。
【図2】本発明のPPS樹脂含有高分子組成物をDSCで測定したときの熱量変化を示したグラフの一例である。
【図3】図2のグラフの要部拡大図であって、ガラス転移温度の決定方法を説明するため図である。
【図4】従来技術のPPS樹脂含有高分子組成物をDSCで測定したときの熱量変化を示したグラフの一例である。
【図5】本発明のPPS樹脂含有高分子組成物をDSCで測定したときの熱量変化を示したグラフの一例である。
【図6】(A)は、本発明の高分子組成物の製造方法を採用した製造装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。
【図7】(A)は、本発明の高分子組成物の製造方法を採用した製造装置の一例について、上面から装置内部を透視したときの概略透視図であり、(B)は、(A)の装置のP−Q断面における概略断面図である。
【図8】(A)は、本発明の高分子組成物の製造方法を採用した製造装置の一例の概略見取り図であり、(B)は、(A)の装置の軸を通るP−Q断面における概略断面図である。
【図9】本発明の高分子組成物の用途を説明するための画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0131】
1a:1b:1c:溜まり部、2a:2b:2c:間隙、5:流入口、6:吐出口、10A:10B:10C:10D:本発明の高分子組成物の製造装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子を含有する高分子組成物であって、該高分子組成物を溶融状態で、平行な2つの面の間隙を通過させる熱処理を行ったとき、該熱処理前後の高分子組成物のガラス転移温度の差が3℃以下であることを特徴とする高分子組成物。
【請求項2】
前記高分子組成物が、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリアミドイミド,ポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される1種類以上の高分子を含有する請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
前記高分子組成物が添加剤をさらに含有する請求項1または2に記載の高分子組成物。
【請求項4】
添加剤が導電剤である請求項3に記載の高分子組成物。
【請求項5】
導電剤がカーボンである請求項4に記載の高分子組成物。
【請求項6】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子の高分子混合物を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させることによって製造されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の高分子組成物からなる成形体。
【請求項8】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を70重量%以上含む2種類以上の高分子を含有する成形体であって、該成形体を溶融状態で、平行な2つの面の間隙に通過させる熱処理を行ったとき、該熱処理前後の成形体のガラス転移温度の差が3℃以下であることを特徴とする成形体。
【請求項9】
前記成形体が、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン,ポリエーテルエーテルケトン,ポリアミドイミド,ポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される1種類以上の高分子を含有する請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
前記成形体が添加剤をさらに含有する請求項8または9に記載の成形体。
【請求項11】
添加剤が導電剤である請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
導電剤がカーボンである請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
成形体が電子写真用転写ベルトである請求項7〜12のいずれかに記載の成形体。
【請求項14】
請求項13に記載の転写ベルトを備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−143970(P2010−143970A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319915(P2008−319915)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】