説明

高分子電解質用シリコーンゴム組成物、高分子電解質膜及びその製造方法

【課題】製造が容易で低コストであり、強度に優れ、耐熱性が高く、プロトン伝導性が高く、かつ高温動作に対応し得る燃料電池を実現することができる高分子電解質膜(イオン伝導性膜)を与える高分子電解質用シリコーンゴム組成物、該高分子電解質膜、およびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ビニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、(B)スルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方:5〜100質量部、ならびに(C)一分子中にメルカプト基を少なくとも2個含有するメルカプト基含有オルガノポリシロキサン:0.1〜10質量部を含有し、前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の混合物を得、該第二の混合物に前記(C)成分を混合することにより得られる高分子電解質用シリコーンゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質用シリコーンゴム組成物、高分子電解質膜、およびこれらの製造方法に関する。更に詳しくは、燃料電池、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等に用いられるイオン伝導膜等に好適な、強度とイオン伝導性を兼ね備えた高分子電解質膜を与える高分子電解質用シリコーンゴム組成物、該高分子電解質膜、およびこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性材料等の固体高分子電解質は、高分子鎖中にスルホン酸基等の電解質基を有する固体高分子材料であり、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過したりする性質を有していることから、粒子、繊維、あるいは膜状に成形し、電気透析、拡散透析、電池隔膜等、各種の用途に利用されているものである。
【0003】
例えば、燃料電池は、電池内で水素やメタノール等の燃料を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換して取り出すものであり、近年、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。特にプロトン伝導膜を電解質として用いる固体高分子型燃料電池は、高出力密度が得られ、低温作動が可能なことから電気自動車用電源として期待されている。
【0004】
このような固体高分子型燃料電池の基本構造は、電解質膜と、その両面に接合された一対の、触媒層を有するガス拡散電極とで構成され、更にその両側に集電体を配する構造からなっている。そして、一方のガス拡散電極(アノード)に燃料である水素やメタノールを、もう一方のガス拡散電極(カソード)に酸化剤である酸素や空気をそれぞれ供給し、両方のガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより、燃料電池として作動する。このとき、アノードで生成したプロトンは電解質膜を通ってカソード側に移動し、カソードで酸素と反応して水を生成する。ここで電解質膜はプロトンの移動媒体、及び水素ガスや酸素ガスの隔膜として機能している。従ってこの電解質膜としては高いプロトン伝導性、強度、化学的安定性が要求される。
【0005】
燃料電池や水電解の場合、固体高分子電解質膜と電極の界面に形成された触媒層において過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって劣化反応を起こすので、耐酸化性に乏しい炭化水素系電解質膜は使用することが困難である。そのため、燃料電池においては、一般に、高いプロトン伝導性を有し、高い耐酸化性を有するパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0006】
一方、ガス拡散電極の触媒としては、一般に白金等の貴金属をカーボン等の電子伝導性を有する担体に担持したものが用いられている。このガス拡散電極に担持されている触媒上へのプロトン移動を媒介し、該触媒の利用効率を高める目的で、電極触媒結合剤としてやはりプロトン伝導性高分子電解質が用いられているが、この材料としても電解質膜と同じパーフルオロスルホン酸ポリマー等のスルホン酸基を有する含フッ素ポリマーを使用することができる。ここでは電極触媒結合剤であるスルホン酸基を有する含フッ素ポリマーはガス拡散電極の触媒のバインダーとして、あるいは電解質膜とガス拡散電極との密着性を向上させるための接合剤としての役割も担わせることもできる。
【0007】
また、食塩電解は、固体高分子電解質膜を用いて塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより、水酸化ナトリウムと、塩素と、水素を製造する方法である。この場合、固体高分子電解質膜は、塩素と高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液にさらされるので、これらに対する耐性の乏しい炭化水素系電解質膜は使用することができない。そのため、食塩電解用の固体高分子電解質膜には、一般に、塩素及び高温、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液に対して耐性があり、更に、発生するイオンの逆拡散を防ぐために表面に部分的にカルボン酸基を導入したパーフルオロスルホン酸膜が用いられている。
【0008】
ところで、パーフルオロスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質は、C−F結合を有しているために化学的安定性が非常に高く、上述した燃料電池用、水電解用、あるいは食塩電解用の固体高分子電解質膜の他、ハロゲン化水素酸電解用の固体高分子電解質膜としても用いられ、更にはプロトン伝導性を利用して、湿度センサ、ガスセンサ、酸素濃縮器等にも広く応用されているものである。
【0009】
燃料電池の電解質膜としては、パーフルオロアルキレンを主骨格とし、一部にパーフルオロビニルエーテル側鎖の末端にスルホン酸基、カルボン酸基等のイオン交換基を有するフッ素系膜が主として用いられている。このようなフッ素系電解質膜としては、Nafion膜(登録商標)(Du Pont社)、Dow膜(Dow Chemical社)、Aciplex膜(登録商標)(旭化成工業(株)社)、Flemion膜(登録商標)(旭硝子(株)社)等が知られている。
【0010】
現状の固体高分子型燃料電池は、室温から80℃程度の比較的低い温度領域で運転される。この運転温度の制限は以下のような要因による。(1)用いられているフッ素系膜が130℃近辺にTgを有し、これよりも高温領域ではプロトン伝導に寄与しているイオンチャネル構造が破壊されてしまう。実質的には100℃以下でしか使用できない。(2)水をプロトン伝導媒体として使用するため、水の沸点である100℃を超えると加圧が必要となり、装置が大がかりとなる。
【0011】
運転温度が低いことは、燃料電池にとっては発電効率が低くなるというデメリットを生じる。仮に、運転温度を100℃以上とすると発電効率は向上し、更に廃熱利用が可能となるためにより効率的にエネルギーを活用できる。また、運転温度を120℃まで上昇させることができれば、効率の向上、廃熱利用だけではなく、触媒材料選択の幅が広がり、安価な燃料電池を実現することができる。
【0012】
一方、現在のプロトン伝導性膜ではプロトン伝達の役割を担う物質として、水の存在が必須であることも高温作動を困難にしている原因の一つである。Nafionに代表されるプロトン伝導性膜は、その膜中の水の含有量によりプロトン伝導性能が大きく左右され、水が存在しない場合にはプロトン伝導性を示さない。このため、100℃を超える高温では加圧が必要となり、装置への負担が大きくなる。特に150℃を超える場合にはかなりの高圧が必要となるため、燃料電池のコストアップになるだけでなく、安全性の面からも好ましくない。
【0013】
また、現在のように室温から80℃程度で運転する場合においても、水が必須であるという点は大きな課題の一つである。常時水を存在させるためには、例えば水素等の燃料を加湿状態にして送り込む必要がある。燃料加湿による膜中の厳密かつ複雑な水分量管理が必要なこと自体が燃料電池の構造を複雑化させることや、故障等の原因となる。
【0014】
このように、フッ素系電解質は製造が困難で、非常に高価であるという欠点があるとともに、フッ素系電解質は燃料電池等の高温動作に十分対応できない等の問題がある。
【0015】
そのため、フッ素系電解質に代わるイオン伝導性・イオン交換性材料の開発が望まれていた。それらの例が、下記特許文献1に開示される、ポリテトラメチレンオキシドを主骨格に有する有機重合体と、金属−酸素結合による3次元架橋構造体とを有し、膜内にプロトン性付与物質、及び水を有するプロトン伝導性膜と、特許文献2に開示される、ポリシロキサンを主骨格に有するプロトン伝導性膜である。
【特許文献1】特開2001−307545号公報
【特許文献2】特開2004−55165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献1、2に開示されるプロトン伝導性膜は、無機材料成分やポリシロキサンによって耐熱性は向上するものの、反面強度が十分でなく、脆くなってしまうため、加工時に応力がかかると破損する。特に、燃料電池として運転する際に、ガス圧力や衝撃により膜が破壊されてしまう。これは、上記膜材料に、引っ張り強度や可撓性が不足していることが原因である。しかも、上記3次元架橋構造体は、プロトン伝導性が十分でなく、特に高温低湿度時にはプロトン伝導性が低いという問題がある。
【0017】
本発明は上記従来のプロトン伝導性膜が有する課題を解決することを目的とする。特に、製造が容易で低コストであり、強度に優れ、耐熱性が高く、プロトン伝導性が高く、かつ高温動作に対応し得る燃料電池を実現することができる高分子電解質膜(イオン伝導性膜)を与える高分子電解質用シリコーンゴム組成物、該高分子電解質膜、およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は鋭意研究した結果、特定のポリシロキサンとスルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方との複合系材料をメルカプト基含有オルガノポリシロキサンで架橋することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0019】
即ち、本発明は、
(A)下記平均組成式(1):
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは独立に水酸基あるいは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基であり、ただし、全Rの少なくとも2個はビニル基であり、aは1.95〜2.05の正数を表す。)
で示されるビニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)スルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方:5〜100質量部、ならびに
(C)一分子中にメルカプト基を少なくとも2個含有するメルカプト基含有オルガノポリシロキサン:0.1〜10質量部
を含有し、
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の混合物を得、
該第二の混合物に前記(C)成分を混合する
ことにより得られる高分子電解質用シリコーンゴム組成物を提供する。
【0020】
本発明は、
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の組成物を得、
該第二の組成物に前記(C)成分を混合する
ことを特徴とする上記高分子電解質用シリコーンゴム組成物の製造方法も提供する。
【0021】
また、本発明は、上記シリコーンゴム組成物の硬化物を含む高分子電解質膜を提供する。
【0022】
更に、本発明は、
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の組成物を得、
該第二の組成物に前記(C)成分を混合してシリコーンゴム組成物を得、
該シリコーンゴム組成物を可視光線よりも波長の短い電磁波により硬化させて膜を得、
該膜を酸性溶液中に浸漬する
ことを特徴とする上記高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特定のオルガノポリシロキサンとスルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方との複合系材料をメルカプト基含有オルガノポリシロキサンで架橋することによって、イオン伝導性に優れ、製造が容易で低コストであり、強度に優れ、耐熱性が高い高分子電解質膜(イオン伝導性膜)を与える高分子電解質用シリコーンゴム組成物、及び該高分子電解質膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、室温とは25℃を意味するものである。
【0025】
[(A)成分]
(A)下記平均組成式(1):
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは独立に水酸基あるいは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基であり、ただし、全Rの少なくとも2個はビニル基であり、aは1.95〜2.05の正数を表す。)
で示されるビニル基含有オルガノポリシロキサンである。(A)成分は、本発明組成物のベースポリマーであり、該組成物の強度に大きな影響を与えるものである。
【0026】
Rは、独立に水酸基あるいは同一または異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8の一価炭化水素基であるが、このような一価炭化水素基としては、例えば、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基,トリル基,キシリル基等のアリール基;ベンジル基,フェネチル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基,3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基等の一価炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基,フェニル基である。
【0027】
全Rの少なくとも2個はビニル基である。全R中のビニル基の含有量は、0.01-10モル%であることが好ましく、特に0.05-5モル%であることが好ましい。該ビニル基の結合位置は特に限定されず、例えば、分子鎖末端、分子鎖非末端、または分子鎖末端と分子鎖非末端の両方が挙げられる。また、全Rに対する水酸基の割合は0〜10モル%である。即ち、該割合が0モル%である場合、(A)成分は水酸基を含まない。
【0028】
(A)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルポリシロキサン,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体が挙げられる。
【0029】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、又は一部分岐を有する直鎖状が好ましい。なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種を単独で、又は重合度や分子構造の異なる2種以上を混合して用いてよい。
【0030】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの重合度は、RSiO(4-a)/2単位として、好ましくは100以上であり、より好ましくは200〜100,000である。重合度が100以上であると、得られる組成物のゴム強度特性が良好となりやすく、本発明の目的を達しやすい。
【0031】
(A)成分の粘度としては、例えば、通常、シリコーン生ゴムと呼ばれる形態のオルガノポリシロキサンが有する粘度が挙げられ、具体的には2,000mPa・s以上が好ましく、特に10,000mPa・s以上が好ましい。
【0032】
[(B)成分]
(B)成分は、スルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方である。(B)成分は、スルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基を有するシランカップリング剤(以下、単にシランカップリング剤という)と酸化剤とを接触させることによって、または酸化剤との接触と同時にシランカップリング剤を縮合させることによって得られる。
【0033】
(B)成分の分子構造は特に限定されず、その具体例としては、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐状、網状が挙げられ、好ましくは直鎖状、一部分岐を有する直鎖状である。
【0034】
また、(B)成分の粘度は特に限定されず、例えば、25℃における粘度の値が1〜50,000mPa・sの範囲であることが好ましく、さらに5〜1,000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0035】
(B)成分において、スルホン酸基は、炭化水素基等の、酸化剤や溶媒に対する反応性の低い基を介して、ケイ素原子に化学的に結合している。したがって、(B)成分を水等の溶媒に均一に溶解させた場合でも、スルホン酸基が硫酸として遊離しない。
【0036】
上記シランカップリング剤は、通常、一般式(2):
Y-(R')-SiXnR3-n (2)
(式中、Xは加水分解性の置換基、Yは酸化によりスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基、R'は二価の炭化水素基、Rは一価の炭化水素基、nは1〜3の整数を表し、XおよびYのおのおのは同一でも異なっていてもよい。)
で表される有機ケイ素化合物、またはその有機ケイ素化合物のオリゴマーである。
Xは、加水分解性の置換基である。Xの例としては、通常、アルコキシ基、アリーロキシ基またはハロゲンが挙げられる。アルコキシ基の炭素原子数は通常1以上であって、通常10以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。アリーロキシ基の炭素原子数は通常6以上12以下である。アルコキシ基、アリーロキシ基の炭素原子数がこの範囲内だと、加水分解生成物の分子量が大きくなりにくく、加水分解生成物の除去が容易となりやすい。また、溶媒として水を用いた場合には、シランカップリング剤と水との相溶性が悪くなりにくい。よって、炭素原子数は少ない方が好ましい。また、両者のうち、アルコキシ基の方が好ましい。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロパノキシ基、ブトキシ基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基が挙げられ、アリーロキシ基の具体例としては、フェノキシ基等が挙げられるが、中でもメトキシ基、エトキシ基等が好ましい。
【0037】
Yは、酸化によりスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基である。Yは、通常、硫黄の酸化数が5以下の硫黄原子を含む官能基を含む置換基であり、具体的には、例えば、メルカプト基、亜硫酸基等を含む置換基が挙げられ、このうちメルカプト基を含む置換基が好ましい。好ましい基としては、例えば、メルカプトアルキル基やメルカプトアリール基やメルカプト基が挙げられ、メルカプトアルキル基が特に好ましい。メルカプトアルキル基としては、例えば、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、3−メルカプトプロピル基等が挙げられる。メルカプトアリール基としては、例えば、メルカプトフェニル基や、ベンゼン環の水素原子がメチル基、エチル基等のアルキル基で置換されたアルキルメルカプトフェニル基等が挙げられる。この硫黄原子の数は何個でもよいが、通常1個である。
【0038】
nは1〜3の整数であるが、より好ましくは2又は3である。nは大きいほど、得られるプロトン伝導性膜の強度が上がりやすいので、nは大きい方がよい。nが複数の場合、加水分解性の置換基Xは、同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
R'は、上述のメルカプト基、亜硫酸基等の官能基を含む置換基Yとケイ素原子とを繋ぐ二価の炭化水素基であり、酸化剤や溶媒に対する反応性の低い基であることが好ましい。該炭化水素基の炭素原子数は、通常12以下、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、最も好ましくは3以下であり、通常1以上である。R'としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基が挙げられ、好ましくは、アルキレン基およびアリーレン基であって、アルキレン基が最も好ましい。これらの基は硫黄原子の酸化反応に影響を及ばさない置換基を含んでいてもよい。アルキレン基としては炭素原子数4以下が好ましく、その例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基およびブチレン基等が好ましく挙げられる。アリーレン基としては炭素原子数9以下が好ましく、その例としては、フェニレン基、メチルフェニレン基およびジメチルフェニレン基等が好ましく挙げられる。
【0040】
Rは、一価の炭化水素基であり、該炭化水素基の炭素原子数は、通常1〜6、好ましくは1〜3、最も好ましくは1である。Rとしては、例えば、アルキル基が挙げられ、メチル基が最も好ましい。
【0041】
またシランカップリング剤として、XやYの種類及び数が異なる有機ケイ素化合物の混合物を用いてもよい。さらに、シランカップリング剤は、上述の有機ケイ素化合物が2以上縮合したオリゴマーであっても構わないが、オリゴマーに含まれるケイ素原子の数は、通常2〜20個であり、2〜10個が好ましく、2〜5個がより好ましい。一般にオリゴマーが大きい方が最終的に得られる膜のプロトン伝導度が上がるが、シランカップリング剤の溶媒に対する溶解性、酸化剤の処理の収率等を勘案し、これらのバランスを考えてオリゴマーの種類を検討する。
【0042】
こうしたオリゴマーは、通常、加水分解性の置換基を有する有機ケイ素化合物に、この置換基の10モル%以上1000モル%以下の水を作用させることによって得ることができる。
【0043】
シランカップリング剤の分子量は、全体として、通常100以上、好ましくは150以上、通常2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下である。分子量がこの範囲内にあると、シランカップリング剤は溶媒に溶解しやすい。
【0044】
最も好ましい具体例としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-803(商品名、信越化学工業株式会社製))や、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBM-802(商品名、同社製))が挙げられる。
【0045】
(B)成分の製造の具体的方法としては、従来、(1)シロキサンに対して、シランカップリング剤を縮合させて、スルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基を有するシロキサンを得た後、該硫黄原子含有基を酸化してスルホン酸基含有シロキサンを製造する方法、(2)シランカップリング剤とケイ素アルコキシドとを縮合させて、スルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有基を有するシロキサンを得た後、該硫黄原子含有基を酸化してスルホン酸基含有シロキサンを製造する方法、(3)シランカップリング剤の該硫黄原子含有基を酸化してスルホン酸基を有するシランカップリング剤を得た後、該スルホン酸基を有するシランカップリング剤を縮合させてスルホン酸基含有シロキサンを製造する方法が知られており、適時これらを組み合わせればよい。
【0046】
本願ではシランカップリング剤と酸化剤とを接触させ、硫黄原子含有基をスルホン酸基に酸化する。そして、酸化剤添加の後、または酸化剤添加と同時に水を接触させて、シランカップリング剤を縮合させる。
【0047】
酸化剤としては硫黄原子含有基をスルホン酸基に酸化できるものであれば特に限定されないが、溶媒に可溶な酸化剤が好ましく、特には過酸化水素水が好ましい。
【0048】
シランカップリング剤と接触させる酸化剤の量は、シランカップリング剤中の硫黄原子1モルに対して、酸化当量として0.5モル当量以上、好ましくは1モル当量以上、さらに好ましくは3モル当量以上である。酸化剤の量がこの範囲内だと、酸化が進行しやすく、得られる硬化性組成物が均一な溶液となりやすい。酸化剤の量の上限には特に制限はないが、シランカップリング剤中のメルカプト基1モルに対して酸化当量として、通常20モル当量以下、好ましくは10モル当量以下である。酸化剤の量がこの上限以下であると、経済性を確保しやすく、また、該硫黄原子含有基が硫酸にまで酸化されるといった好ましくない酸化反応がおこるのを防ぎやすい。
【0049】
溶媒中に溶解した酸化剤の濃度が高いと、溶媒の量が相対的に減るので、後で溶媒を除去する際の負荷が下がるため好ましい。よって、安全性が確保しやすく、かつ溶液の粘度が上がりにくいためシランカップリング剤との混合がしやすい範囲内で酸化剤の濃度をできるだけ高くすることが好ましい。例えば過酸化水素の濃度であれば、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であって、通常50質量%以下である。
【0050】
酸化剤として過酸化水素を、溶媒として水またはアルコールを含む溶媒を、そしてシランカップリング剤として上述のアルコキシシラン類を用いた場合は、シランカップリング剤中のチオール基がスルホン酸基に酸化されると同時に、アルコキシシラン類の加水分解縮合反応も進行する。このとき、過酸化水素の溶媒中に炭素原子数1〜5の低級アルコール等、水以外の溶媒が溶媒全体の50質量%以下含まれていても構わない。
【0051】
本反応において、シランカップリング剤と酸化剤とを接触させる温度・時間は、特に制限されないが、通常0〜100℃、2時間から3日で行う。シランカップリング剤と酸化剤とを接触させる条件によっては、接触後に発生する強酸が周辺の腐食や劣化を引き起こすことがあるので、アンモニア水や水酸化カリウムの水溶液、ナトリウムメトキシドのアルコール溶液等の塩基性化合物により中和しておいてもよい。均一な溶液になるまでの時間、保持又は攪拌することが好ましいが、条件によっては、接触させるべき所定量の塩基性化合物の全部もしくはその一部分を接触させた段階で、溶液の固化、ゲル化により固体が析出する場合がある。そのような場合でも所定量の塩基性化合物を全て接触させた上で、溶媒が蒸発しないような状況下で保持することにより均一な溶液を得ることができる。
【0052】
本反応で用いられる溶媒は、溶質に対して不活性であれば特に限定されない。通常、水および/または有機溶媒が用いられ、シランカップリング剤および酸化剤の種類によって、各々適宜選択することができる。各々の溶媒は、異なっていてもよいが、異なる溶媒を用いる場合は、どちらの溶媒もシランカップリング剤および酸化剤を溶解する溶媒であるのが好ましい。
【0053】
有機溶媒としては、アルコール類、グリコール誘導体、炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類等のうちの1種を単独で、または2種以上を混合して使用する。有機溶媒の炭素原子数は、通常1〜10であって、1〜8が好ましく、1〜6がより好ましい。
【0054】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、オクタノール、n−プロピルアルコール、アセチルアセトンアルコール等が挙げられる。グリコール誘導体としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。炭化水素類としてはベンゼン、ケロシン、トルエン、キシレン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン酢酸メチル、アセト酢酸エチル等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等が挙げられる。エーテル類としては、エチルエーテル、ブチルエーテル、2−α−メトキシエタノール、2−α−エトキシエタノール、ジオキサン、フラン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0055】
これらの有機溶媒のうち、スルホン酸含有基に対する溶解性が高く、また水と相分離しづらいため、アルコール類が好ましい。アルコール類の炭素原子数は、水との相溶性や、後の溶媒の除去のしやすさの観点から、1以上6以下が好ましく、4以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール又はブタノールが好ましく、中でもメタノールやエタノールが好ましい。
【0056】
(B)成分は、メルカプト基含有アルコキシシランのメルカプト基を酸化してスルホン酸基に変化させることにより得られるスルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方であることが好ましい。塩としては、例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
【0057】
本組成物において、(B)成分の配合量は(A)成分100質量部に対して、5〜100質量部の範囲であり、好ましくは10〜80質量部の範囲である。これは、(B)成分の配合量が、(A)成分100質量部に対して5質量部未満であると、得られたシリコーンゴムの導電性が著しく低下しやすいためであり、また100質量部をこえると、得られた組成物の流動性が著しく低下しやすく、その組成物の取り扱い作業が著しく困難となりやすいためである。
【0058】
[(C)成分]
(C)成分は、一分子中に少なくとも2個のメルカプト基を有するメルカプト基含有オルガノポリシロキサンであり、本組成物を硬化させるための架橋剤である。なお、(C)成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてよい。
【0059】
(C)成分中のメルカプト基を有するケイ素原子の結合位置は特に限定されず、例えば、分子鎖末端、分子鎖非末端、または分子鎖末端と分子鎖非末端の両方が挙げられる。また、(C)成分中のその他のケイ素原子に結合した有機基は特に限定されず、具体的には、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基,トリル基,キシリル基等のアリール基;ベンジル基,フェネチル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基,3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基等の一価炭化水素基が例示され、好ましくはメチル基,フェニル基である。
【0060】
(C)成分のメルカプト基含有オルガノポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルメルカプトプロピルポリシロキサン,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルメルカプトプロピルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルメルカプトプロピルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルメルカプトプロピルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルメルカプトプロピルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルメルカプトプロピルシロキシ基封鎖メチルメルカプトプロピルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルメルカプトプロピルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルメルカプトプロピルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルメルカプトプロピルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルメルカプトプロピルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン,分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルメルカプトプロピルポリシロキサン,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルメルカプトプロピルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルメルカプトプロピルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルメルカプトプロピルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体が挙げられる。
【0061】
これらの製造方法は、一般式(2)で表される有機ケイ素化合物の部分加水分解縮合等により容易に得ることができる。最も好ましい原料の具体例として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM-803(商品名、信越化学工業株式会社製))、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-802(商品名、同社製))またはこれらの部分縮合物が挙げられる。
【0062】
本組成物において、(C)成分のメルカプト基の個数は、(A)成分のビニル基1個に対して0.5〜10個である。これは、(C)成分のメルカプト基の個数が(A)成分のビニル基1個に対して0.5個未満であると、得られる組成物が十分には硬化しにくくなるためであり、また、この個数が10個をこえると、得られる組成物が硬化して得られるプロトン伝導性シリコーンゴムの耐熱性が著しく低下しやすくなるからである。このような個数を実現する(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部の範囲であり、好ましくは0.2〜5質量部の範囲である。
【0063】
[任意成分]
本発明に係るシリコーンゴム組成物には、上記必須成分に加え、任意成分として本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じ、他の導電剤、補強剤、発泡剤、難燃剤、耐熱性向上剤などの各種添加剤や反応制御剤、離型剤あるいは充填剤用分散剤を加えることができる。
【0064】
通常、高分子電解質用シリコーンゴム組成物及び高分子電解質膜の内部をイオンが通過するためには、これら内部にイオン伝達助剤として水分が存在することが望ましい。これまでのプロトン伝導性材料及びプロトン伝導性材料膜においては、イオン伝達助剤として水を用いている場合がほとんどであるが、本発明のように高温作動性を高めた場合、100℃以上では水の蒸発が起こり、充分なイオン伝達助剤としての性能を発揮することができないことがある。又、100℃未満であっても水の水蒸気圧が充分高い温度では、適度な加湿を必要とし、これが燃料電池装置自体を複雑にする要因となっている。
【0065】
一方、本発明ではイオン伝達助剤として水以外のものを用いることができる。例えば、比誘電率が20以上であり、かつ沸点が150℃以上のものを使用することができる。ここで、比誘電率が高いとイオン伝達助剤とイオンとのクーロン力が弱くなりイオン解離が可能となりやすい。また、イオンがイオン伝達助剤に対して適度な親和性を有するようになり、イオン伝達性能が向上しやすい。水以外のイオン伝達助剤の具体例としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、グリセリン等が挙げられる。これらのイオン伝達助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、安定性等を増すために、沸点が充分に高ければ他の溶剤を併用してもよく、場合によってはプロトン伝導性向上の為、少量の水を併用してもよい。
【0066】
また、無機固体酸を複合化させることができる。ここで、無機固体酸とは、無機オキソ酸を指し、その中でも珪タングステン酸、モリブドリン酸等のケギン構造、ドーソン構造を有するポリヘテロ酸が好ましく用いられる。これらの無機固体酸は、分子サイズが充分に大きく、水等の存在下でも膜からの酸の溶出がかなり抑制される。さらに、無機固体酸は、イオン極性を持ち、珪素−酸素結合との極性相互作用により膜中に保持されるばかりでなく、酸の溶出を防ぐことも可能となるため、長期にわたって高温で使用されるプロトン伝導性膜においては特に好ましく用いることができる。固体酸又はその誘導体を2種以上併用してもよい。これらの中でも無機固体酸を用いることが好ましい。無機固体酸を用いることで、プロトン伝導性膜からのブリードアウトが起き難くする効果がある。無機固体酸の中でも、酸性度が大きく、分子サイズや珪素−酸素結合との極性相互作用の大きさを勘案すると、珪タングステン酸が特に好ましく用いられる。
【0067】
他の導電剤としては、従来から知られている導電性カーボンブラック、導電性亜鉛華、導電性酸化チタン等の導電剤を添加してもよい。
【0068】
補強剤は、補強性シリカ粉末を好適に用いうる。このシリカ粉末は、機械的強度の優れたシリコーンゴムを得るために添加されるものであるが、この目的のためには、比表面積が好ましくは50m2/g以上、より好ましくは100〜300m2/gである。比表面積が50m2/g以上であると硬化物の機械的強度が高くなりやすい。このような補強性シリカとしては、例えば煙霧質シリカ、沈降シリカ等が挙げられ、またこれらの表面をクロロシランやヘキサメチルジシラザンなどで疎水化したものも好適に用いられる。補強性シリカ粉末の添加量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0〜70質量部とすることが好ましく、特に3〜50質量部とすることが好ましい。
【0069】
また、ベンガラ等の着色剤、粉砕石英、炭酸カルシウムなどの増量剤を添加してもよい。
【0070】
難燃剤としては、本発明のシリコーンゴム組成物およびそれから得られる高分子電解質膜を難燃性、耐火性にするために、白金含有材料、白金化合物と二酸化チタン、白金と炭酸マンガン、白金とγ−Fe23、フェライト、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレークなどの公知の添加剤を添加してもよい。
【0071】
分散剤としては、ジフェニルシランジオール、各種アルコキシシラン、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子量シロキサンなど、通常のものが用いうるが、その添加量は本発明の効果を損なわないように最小限の量に止めることが好ましい。
【0072】
[組成物の製造方法]
本発明の高分子電解質用シリコーンゴム組成物は、まず(A)成分と、(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得た後に、該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の混合物を得、該第二の混合物に(C)成分を混合することにより得ることができる。これらの混合は、(A)成分と(B)成分とを、または該第二の混合物と(C)成分とを2本ロールミル、バンバリーミキサー、ドウミキサー(ニーダー)などのゴム混練り機を用いて均一に混合することにより行うことができる。必要に応じ加熱処理を施しながら混合を行ってもよい。溶剤の除去は、自然乾燥、加熱乾燥、オートクレーブによる加圧加熱等、公知の方法により行うことができる。加熱する場合の温度は、好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは80℃以上180℃以下である。(B)成分を溶液の状態で(A)成分と混合することで、(A)成分中に(B)成分を均一に分散させることができる。その結果、本発明のシリコーンゴム組成物を硬化させることで、機械的強度と導電特性とが両立したシリコーンゴムが得られる。
【0073】
上記溶液中の(B)成分の濃度は、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更により好ましくは80質量%以下である。(B)成分が溶解する範囲でできるだけ高濃度であることが好ましい。また、上記溶剤としては、例えば、水ならびに前述のシランカップリング剤および酸化剤に関する説明において例示したものと同様の有機溶媒が挙げられる。
【0074】
上記溶液中の(B)成分の濃度や(B)成分由来のケイ素濃度は、必要に応じて、水および/または上記有機溶媒を加えたり、減圧蒸留等により溶剤のみを除去することによって所定の濃度に調節できる。
【0075】
[硬化方法]
本発明のシリコーンゴム組成物は、適宜成型した上で、可視光線よりも波長の短い紫外線、電子線、X線、γ線などの電磁波を照射することで硬化させることができる。成型は公知の方法で行うことができる。例えば、膜状(シート状)に成型する場合には、プレス成型を用いることができる。紫外線を照射する場合は、高圧水銀灯を用いることができ、照射エネルギーは、365nmの波長の紫外線量で、20−20,000mJ/cm、より望ましくは、50−5,000mJ/cmとすることができる。あるいは、紫外線等の照射と熱処理を併用することもでき、このようにすると、被膜形成成分の硬化が促進され、得られる透明被膜の硬度が高くなることがある。紫外線架橋促進剤は、適宜に加えることができる。
【0076】
[高分子電解質膜およびその製造方法]
本発明の高分子電解質膜は、本発明のシリコーンゴム組成物の硬化物を含むものである。該硬化物は、好ましくは前記シリコーンゴム組成物を上記の硬化方法により硬化させることにより得られる硬化物である。本発明の高分子電解質膜は、好ましくは、
工程(1)前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
工程(2)該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の混合物を得、
工程(3)該第二の組成物に前記(C)成分を混合してシリコーンゴム組成物を得、
工程(4)該シリコーンゴム組成物を可視光線よりも波長の短い電磁波により硬化させて膜を得、
工程(5)該膜を酸性溶液中に浸漬する
ことにより得られる。
【0077】
工程(1)〜(3)は、上述の組成物製造方法により実行することができる。工程(4)は、上述の硬化方法により、膜状に成型した本発明組成物を硬化させることにより実行することができる。工程(5)は、工程(4)で得られた膜内でスルホン酸基を再生する工程である。酸性溶液としては、例えば、リン酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液が挙げられる。酸性溶液の濃度は好ましくは0.05〜5Nである。浸漬温度は好ましくは15〜35℃であり、浸漬時間は好ましくは1〜60分である。
【0078】
本発明の高分子電解質膜の厚さは、特に制限されないが、好ましくは0.001〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmである。
【0079】
[用途]
本発明の高分子電解質用シリコーンゴム組成物は、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過したりする性質を有していることから、粒子、繊維、あるいは膜状に成形することができる。また、本発明の高分子電解質膜は、燃料電池、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等に広く用いることができる。本発明の高分子電解質膜は、イオン伝導性に優れ、製造が容易で低コストであり、高温作動性に優れ、機械的強度に優れているので、燃料電池に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例、および比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0081】
(合成例1)
(1)(A)ポリシロキサンの製造
(CH3)2SiO 単位99.50 モル%、(CH3)(CH2=CH)SiO単位0.475 モル%および(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2単位0.025 モル%からなるジオルガノポリシロキサン生ゴム100質量部、アエロジル(登録商標)R-972(商品名、フュームドシリカ、日本アエロジル社製)40質量部、ならびに末端水酸基ジメチルシリコーンオイル(重合度10、分散助剤)5質量部をニーダーにて混合し、160 ℃で2時間熱処理してシリコーンゴム用コンパウンド(以下、単に(A)ポリシロキサンと略記する。)を調製した。これは、シリカ含有量が、ポリシロキサンを含む全不揮発成分中27.5%であるシリカを含むシリコーンゴム用コンパウンドである。
【0082】
(合成例2)
(2)(B)ポリシロキサンの製造(スルホン酸基含有シロキサン)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学製、商品名:KBM-803)37質量部に対して、エタノール63質量部を室温で加えて溶解させた。ここに、蒸留水10質量部を加え、得られた混合物を70℃のオイルバスで3時間攪拌した。得られた溶液を室温まで冷却した後に、該溶液に31%過酸化水素水溶液75質量部を一定速度で3時間かけて攪拌しながら滴下した。得られた混合物を70℃のオイルバスで10時間保持することによって均一な溶液を得た。この溶液中に室温下で白金片を入れて攪拌することにより残留した過酸化水素を除去して、無色透明の均一溶液175gを得た。この溶液は、本発明のスルホン酸基含有シロキサンが溶解した溶液である。得られた溶液中の不揮発分を熱重量分析によって定量したところ、21%であった。この溶液1gを水25gに溶解し、0.1N KOHによる滴定でスルホン酸基の含有量を求めると、1.17 mmol/gであり、メルカプト基はほぼ定量的にスルホン酸基に変換されていることがわかった。この均一溶液を(B)ポリシロキサン中間体とする。
【0083】
(B)ポリシロキサン中間体100質量部に、水冷下にアンモニア水(28%)8質量部を滴下し、酸を中和した。エステルコンデンサーを取り付けた反応容器にこの溶液を入れ、窒素気流下に70℃で5時間加熱撹拌することによってエタノールの一部を除き、得られた溶液中の不揮発分が60質量%になるまで濃縮した。この均一な溶液を(B)ポリシロキサンNH3とする。
【0084】
この均一な溶液をさらに濃縮し続け、乾固させたところ、硬いレジン状の固体が得られた。この固体を乳鉢中で粉砕し粉体とした。この粉体を(B)ポリシロキサンNH3 solidとする。
【0085】
(B)ポリシロキサン中間体100質量部に、水冷下にナトリウムメトキシドのメタノール溶液(28%)22.6質量部を滴下し、酸を中和した。エステルコンデンサーを取り付けた反応容器にこの溶液を入れ、窒素気流下に70℃で5時間加熱撹拌することによってエタノールの一部を除き、得られた溶液中の不揮発分が60質量%になるまで濃縮した。この均一な溶液を(B)ポリシロキサンNaとする。
【0086】
エステルコンデンサーを取り付けた反応容器に(B)ポリシロキサン中間体100質量部を入れ、窒素気流下に70℃で5時間加熱撹拌することによってエタノールの一部を除き、得られた溶液中の不揮発分が60質量%になるまで濃縮した。この均一な溶液を(B)ポリシロキサンHとする。
【0087】
この均一な溶液をさらに濃縮し続け、乾固させたところ、硬いレジン状の固体が得られた。この固体を乳鉢中で粉砕し粉体とした。この粉体を(B)ポリシロキサンH solidとする。
【0088】
(合成例3)
(3)(C)ポリシロキサン(メルカプト基含有オルガノポリシロキサン)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン19.6質量部に対して、水5.4質量部(3倍当量)を室温で加えて溶解させた。得られた混合物の温度を5℃に冷却し、該混合物に3.6%塩酸1.0質量部を滴下して加水分解を行った。得られた混合物の温度を15℃に上げ1時間撹拌後、さらに70℃で3時間撹拌した。得られた生成物に4.25%水酸化カリウム水溶液1.3質量部を滴下して中和を行った。得られた混合物に酢酸ブチル20質量部を加え、酢酸ブチル層を水層と分離した後に、該酢酸ブチル層に無水硫酸マグネシウムを加え脱水した。その後、該酢酸ブチル層を60℃、2mmHgの条件でストリップして、粘度930mm2/s、比重1.175、屈折率1.4935、不揮発分99.2%のオイルとしてメルカプト基含有オルガノポリシロキサン13.4質量部を得た。このオイルを(C)ポリシロキサンとする。
【0089】
(実施例及び比較例)
(4)組成物の製造とシリコーンゴム物性
(A)ポリシロキサン100質量部に、上記の方法で合成した種種の(B)ポリシロキサン溶液33-100質量部(不揮発成分として20-60質量部)あるいは固体の(B)ポリシロキサンsolid 60質量部と、アエロジル(登録商標)R-972(商品名、フュームドシリカ、日本アエロジル社製)5質量部とを、二本ロールミルで混練して混合物を調製した。この混合物を120℃の熱オーブン中で4時間熱処理し、溶媒を除いた。実施例4ではケイタングステン酸30質量部も添加した。
【0090】
この混合物を二本ロールミルで混練した後、該混合物に(C)ポリシロキサン1.2質量部、増感剤としてダロキュア(登録商標)1173(ケトンアルコール、チバガイギ社製)0.6 質量部を添加し、得られた混合物を二本ロールミルで混練してコンパウンドを調製した。次いで、このコンパウンドを室温でプレス成型(圧力50kg/cm2)し、0.2-0.3mm厚のシートを得た。
【0091】
該シートにアイグラフィック社製紫外線照射装置(高圧水銀灯)を用いて紫外線を照射し(照射条件:波長365nm、照射エネルギー200mJ/cm2、表・裏に1回ずつ照射、計400mJ/cm2)、厚さ0.15mmの薄膜状のシリコーンゴムシートを得た。得られたシリコーンゴムシートに対して、130℃、2時間の条件でポストキュアーを施した。
【0092】
このゴムシートを0.5Nリン酸水溶液に、室温で30分間浸漬した後、水洗することによって、シート中の−SOA(Aはアルカリイオン)で表わされる基中のアルカリイオンをプロトンと交換させて、該基をスルホン酸基に変換した。
【0093】
得られた薄膜状のゴムシートを、金メッキを施したステンレス電極に挟むことにより評価用セルを作製し、10kΩ以下の低抵抗の場合は交流インピーダンス法(日置電機製LCRハイテスタを使用、測定周波数0.1Hz〜5MHz)で、10kΩ以上の高抵抗の場合は電圧印加時の直流電流の測定による抵抗測定法で、プロトン伝導度を測定した。膜物性として、外観(目視により膜の色を評価)、膜厚、膜強度を評価した。膜強度は、JIS K 6301に準拠した引張強さ(kgf/cm2)として測定した。結果を表1に示す。
【0094】
比較例1では(B)ポリシロキサン溶液を用いないことを除いて、比較例2では(C)シロキサンの代わりにベンゾイルパーオキサイド0.5質量部を用いたことを除いて、実施例1と同様にして、ゴムシートの調製、物性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0095】
表1、2の結果より、比較例と実施例を対比することにより、本発明の高分子電解質膜は、高温かつ高湿度の環境下においても膜強度の低下が少なく、優れたイオン伝導性を示すことがわかる。また、130℃の環境下においても膜強度の有意な低下はない。よって、さまざまな高分子電解質膜としての適性がある材料を作製することができた。
【0096】
【表1】


注)(B)NH3(NV60%):(B)ポリシロキサンNH3、(B)Na(NV60%):(B)ポリシロキサンNa、(B)NH3 solid:(B)ポリシロキサンNH3 solid、(B)H solid:(B)ポリシロキサンH solid。表2においても同じ。
【0097】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1):
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、Rは独立に水酸基あるいは同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素原子数1〜10の一価炭化水素基であり、ただし、全Rの少なくとも2個はビニル基であり、aは1.95〜2.05の正数を表す。)
で示されるビニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)スルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方:5〜100質量部、ならびに
(C)一分子中にメルカプト基を少なくとも2個含有するメルカプト基含有オルガノポリシロキサン:0.1〜10質量部
を含有し、
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の混合物を得、
該第二の混合物に前記(C)成分を混合する
ことにより得られる高分子電解質用シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の組成物を得、
該第二の組成物に前記(C)成分を混合する
ことを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質用シリコーンゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のシリコーンゴム組成物の硬化物を含む高分子電解質膜。
【請求項4】
前記硬化物が前記シリコーンゴム組成物を可視光線よりも波長の短い電磁波により硬化させることにより得られる硬化物である請求項3に係る高分子電解質膜。
【請求項5】
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の組成物を得、
該第二の組成物に前記(C)成分を混合してシリコーンゴム組成物を得、
該シリコーンゴム組成物を可視光線よりも波長の短い電磁波により硬化させて膜を得、
該膜を酸性溶液中に浸漬する
ことにより得られる請求項3に係る高分子電解質膜。
【請求項6】
(B)成分がメルカプト基含有アルコキシシランのメルカプト基を酸化してスルホン酸基に変化させることにより得られるスルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方である請求項3〜5のいずれか一項に係る高分子電解質膜。
【請求項7】
前記(A)成分と、前記(B)成分および溶剤を含む溶液とを混合して第一の混合物を得、
該第一の混合物から該溶剤を除去して第二の組成物を得、
該第二の組成物に前記(C)成分を混合してシリコーンゴム組成物を得、
該シリコーンゴム組成物を可視光線よりも波長の短い電磁波により硬化させて膜を得、
該膜を酸性溶液中に浸漬する
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
(B)成分がメルカプト基含有アルコキシシランのメルカプト基を酸化してスルホン酸基に変化させることにより得られるスルホン酸基含有シロキサンおよびその塩のいずれか一方または両方である請求項7に係る製造方法。

【公開番号】特開2007−176968(P2007−176968A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373693(P2005−373693)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】