説明

高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライト

【課題】 1MHz〜5MHzの励磁条件下において、温度変化に伴うコアロスの上昇が少ない高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライトを提供する。
【解決手段】 主成分として、Fe2345〜50.5mol%、ZnO14〜24mol%、NiO19.4〜39mol%、CuO2〜18.6mol%からなり、副成分としてV250.01〜0.6重量%を含み、且つNiO/CuO比が1.2〜19であるNi−Cu−Zn系フェライトであって、焼結体に1〜5MHzの交流磁界を印加したときのコアロスの温度変化が25℃から60℃にかけて連続的に+0.1%/℃以下(負も含む)であることを特徴とするNi−Cu−Zn系フェライトである。さらに、C含有量が450ppm以下であり、焼結密度が5.30g/cc以下であり、平均結晶粒径が0.3〜5μmのNi−Cu−Zn系フェライトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波パワーデバイス用低損失スピネル型フェライトに関し、特に1〜5MHzで駆動するトランス、パワー用チョークコイルに適した高周波パワーデバイス用低損失スピネル型フェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やPDA等の電子機器は高周波化、小型化の傾向にあり、近年では、1MHz以上で駆動するチョークコイルが電源回路素子として使用されている。さらに、電源回路全体の高効率化は環境的側面から考慮しても重要であり、チョークコイルのコア材であるフェライトの低損失化が求められる。
【0003】
従来のパワー用Ni−Cu−Zn系フェライトは、500kHz以下の比較的周波数の低い励磁条件下における使用が主であったため、500kHz以下における低損失化が行われてきた(例えば特許文献1〜5)。上記の低周波用低損失Ni−Cu−Zn系フェライトを高周波励磁条件下で使用した場合、低損失とならないばかりか、温度上昇とともに損失が増加する傾向となる。従って、新たな高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライトの開発が必要である。
【0004】
【特許文献1】特開2004−224634号公報
【特許文献2】特開2004−064057号公報
【特許文献3】特開2001−015322号公報
【特許文献4】特開平10−007454号公報
【特許文献5】特開平07−307212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェライト焼結体は金属系の圧粉体に比べて大きなμの値を有するため、電源回路上のトランスやインダクタ等に多く用いられている。特にNi−Cu−Zn系フェライトはMn−Zn系フェライトに比べて、大きな比抵抗を有することから、直巻線構造や積層構造によるパワー用小型インダクタや信号系の高周波用チョークコイルとして用いられている。従って、Ni−Cu−Zn系フェライト材料開発はパワーデバイス用途においては低周波領域における低ロス化、信号用では、高周波領域における高μ化が行われてきた。
【0006】
しかし、近年の電子機器の高周波化、小型化により、これまでの低周波パワーデバイス用途向けではなく、高周波パワーデバイス用途向けに開発されたNi−Cu−Zn系フェライトが有用となっている。また、従来の低周波パワーデバイス用途向けのNi−Cu−Zn系フェライト低ロス材を高周波励磁条件下において使用した場合、コアロスの値が高く、且つ、その値は温度上昇とともに増加してしまうという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、1MHz〜5MHzの励磁条件下において、温度変化に伴うコアロスの上昇が少ない高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題に対して、スピネル型Ni−Cu−Zn系フェライトにおいて、特定の主成分配合比及び添加物からなる原料粉末を、特定の平均結晶粒径、磁区構造を有する焼結体に焼成し、その焼結体のC含有量を抑えることで、その焼結体は1MHz〜5MHzの高周波励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて連続的に+0.1%/℃以下と小さいことを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
詳述すれば、x(NiO(1−a)・CuOa)O・yZnO・zFe23、x+y+z=100と表されるNi−Cu−Zn系フェライトにおいて、Fe23含有量が45mol%以下の場合、飽和磁束密度が明らかに減少するので、パワーデバイス用途として望ましくない。また、Fe23含有量が50.5mol%を超えた場合、比抵抗の値が明らかに減少する傾向となるため望ましくない。ZnO含有量が14mol%未満の場合、1MHz〜5MHzにおけるコアロスの値が明らかに増加する傾向にあるため望ましくない。また、ZnO含有量が24mol%を超えた場合、1MHz〜5MHzの励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃を超える上昇傾向を示すため望ましくない。NiO/CuO比に関しては、NiO/CuO比が19を超えると、焼結温度が上昇し、1MHz〜5MHzの励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃を超えるため望ましくない。また、NiO/CuO比が1.2未満の場合、1MHz〜5MHzの励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃を超えるため望ましくない。
【0010】
添加物において、V25は、0.01wt%以上添加することにより、1〜5MHzの励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃以下となる。また、V25添加量が0.6wt%を超える場合、1〜5MHzの励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃を超える上昇傾向を示すため望ましくない。
【0011】
以上の組成を選択し、焼結密度が5.30g/cc以下であり、平均結晶粒径が0.3〜5μm以下、さらには、1つの結晶粒内に存在する磁壁の数が3以下、Cの含有量が450ppm以下となる焼結体を形成することにより、1〜5MHzの励磁条件下におけるコアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃以下であるNi−Cu−Zn系フェライト焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、組成の選択、C含有量、焼結密度及び平均結晶粒径の調整によりコアロスの温度変化の小さなNi−Cu−Zn系フェライトを得ることが出来る。また、かかるNi−Cu−Zn系フェライトを用いることにより、高周波パワーデバイス用途向けの電子部品の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係わるNi−Cu−Zn系フェライト焼結体は例えば次のような粉末冶金的方法により製造することができる。主成分として、Fe2345〜50.5mol%、ZnO14〜24mol%、NiO19.4〜39mol%、CuO2〜18.6mol%からなり、副成分としてV250.01〜0.6重量%を含み、且つNiO/CuO比が1.2〜19となるようにNi−Cu−Zn系フェライト原料粉末を湿式混合し、800℃〜1000℃で2〜8hの仮焼を行う。その後、粉砕造粒し、所要形状に成形し、900℃〜1040℃の大気中で焼結する。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明を実施例で具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0015】
主成分がFe2348.9mol%、ZnO20mol%、残部がNiOとCuOからなり、その成分比が表1で表され、さらに主成分総重量に対してV25を0.20wt%配合し、湿式混合後、大気中で800〜1000℃、2h〜8hの仮焼を行ったのち粉砕した。その後、バインダーを加え、2ton/cmで成型し、外径19mm、内径13mm、高さ5mmのトロイダル状圧粉体を得た。得られた圧粉体を脱バインダー処理の後、大気雰囲気中900℃〜1040℃にて焼成した。
【0016】
得られた焼結体に1次側及び2次側にそれぞれ3ターンの巻線を施し、3MHz、 20mTで励磁し25℃〜140℃におけるコアロスを測定した。NiO/CuO比に対するコアロス温度変化を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果より、NiO/CuO比が2〜16の範囲において、コアロスの温度変化は25℃から60℃にかけて負の傾向を示している。また、NiO/CuO比が1.2〜19のとき、コアロスの温度変化が、25℃から60℃にかけて+0.1%/℃以下である。従って、NiO/CuO比が1.2〜19の範囲が有用となる。
【実施例2】
【0019】
主成分がFe2348.9mol%、ZnO20mol%、残部がNiOとCuOからなり、その成分比がNiO/CuO比=2.34となるように秤量し、この主成分総重量に対してV25を0.20wt%配合し、実施例1と同様の工程により焼結体を得た。
【0020】
得られた焼結体を鏡面研磨の後、130℃のリン酸中でエッチング処理した焼結体表面を光学顕微鏡により観察し、その光学顕微鏡写真上に任意の直線を引き、結晶粒30個分の切片長を平均したものを平均結晶粒径とした。得られた平均結晶粒径とコアロス温度変化の関係を図1に示す。
【0021】
図1より、平均結晶粒径が小さくなるほど、コアロス温度変化は負の傾向が強くなっている。また、平均結晶粒径が0.3μm以下の焼結体は工業的には困難であり、平均結晶粒径が5μm以下であれば、+0.1%/℃以下に収まっていることから、平均結晶粒径0.3〜5μmの範囲が有用である。
【0022】
さらに、焼結体を50μmの厚みになるように加工し、ローレンツ顕微鏡法を用いて結晶粒を観察し、その結晶粒内で最も長くなるように対角線を引き、その長さを結晶粒径とした。また、結晶粒のUnder focus像及びOver focus像を観察し、粒内に存在する磁壁の数を測定した。この結果を用いて、1つの粒内に存在する磁壁数とコアロス温度変化の関係を図2に示す。
【0023】
図2より、結晶粒1個あたりの磁壁数が2以下であればコアロスの温度変化が25℃から60℃にかけて、負の傾向である。また、結晶粒1個あたりの磁壁数が3以下であれば、コアロスの温度変化が25℃から60℃にかけて+0.1%/℃以下となる。従って、焼結体の1つの結晶粒内に存在する磁壁の数が3以下の範囲が有用である。
【0024】
また、焼結体のガス分析を行うことによりCの含有量を調査し、得られたCの含有量とコアロスの温度変化の関係について図3に示す。
【0025】
図3より、Cの含有量を下げることで、25℃から60℃におけるコアロスの温度変化が改善されていることがわかる。また、Cの含有量が450ppm以下であれば、+0.1%/℃以下の傾向であることがわかる。従って、Cの含有量450ppm以下の範囲が有用である。
【実施例3】
【0026】
主成分がFe2348.9mol%、ZnO14〜24mol%、残部がNiOとCuOからなり、その成分比がNiO/CuO比=2.34となるように秤量し、この主成分総重量に対してV25を0.20wt%配合し、実施例2と同様の工程により焼結体を得た。得られたトロイダル状の焼結体に1次側、2次側にそれぞれ3ターンの巻線を施し、3MHz、80A/mの交流磁界を印加したとき、印加磁界を横軸、焼結体に生じる磁束密度を縦軸とした直交座標系において、最大印加磁界(A/m)に対応する磁束密度(T)で表される点と原点とを結んだ直線の傾きを測定し、得られた値と25℃から60℃にかけてのコアロスの温度変化との関係を図4に示す。
【0027】
図4より、傾きの値が減少すると、コアロス温度変化が負の傾向に向かって改善されている。また、傾きが0.0005以下であれば、+0.1%/℃以下である。従って、焼結体に3MHz、80A/mの交流磁界を印加したとき、印加磁界を横軸、焼結体に生じる磁束密度を縦軸とした直交座標系において、最大印加磁界(A/m)に対応する磁束密度(T)で表される点と原点とを結んだ直線の傾きが0.0001以上、且つ0.0005以下の範囲が有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例2における平均結晶粒径とコアロス温度変化関係を示す図。
【図2】実施例2における1つの粒内に存在する磁壁数とコアロス温度変化の関係を示す図。
【図3】実施例2におけるC含有量とコアロスの温度変化の関係を示す図。
【図4】実施例3における最大印加磁界(A/m)に対応する磁束密度(T)で表される点と原点とを結んだ直線の傾きとコアロスの温度変化の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、Fe2345〜50.5mol%、ZnO14〜24mol%、NiO19.4〜39mol%、CuO2〜18.6mol%からなり、副成分としてV250.01〜0.6重量%を含み、且つNiO/CuO比が1.2〜19であるNi−Cu−Zn系フェライトであって、焼結体に1〜5MHzの交流磁界を印加したときのコアロスの温度変化が25℃から60℃にかけて連続的に+0.1%/℃以下(負も含む)であることを特徴とする高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライト。
【請求項2】
焼結体の密度が5.30g/cc以下であり、且つ焼結体の平均結晶粒径が0.3〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライト。
【請求項3】
焼結体に磁場を印加したとき、焼結体の1つの結晶粒内に存在する磁壁の数が3以下であることを特徴とする請求項1に記載の高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライト。
【請求項4】
不純物成分であるCの含有量が450ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライト。
【請求項5】
空隙の無いトロイダル形状の焼結体に3MHz、80A/mの交流磁界を印加したとき、印加磁界を横軸、焼結体に生じる磁束密度を縦軸とした直交座標系において、最大印加磁界(A/m)に対応する磁束密度(T)で表される点と原点とを結んだ直線の傾きが0.0001以上、且つ0.0005以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高周波パワーデバイス用低損失Ni−Cu−Zn系フェライト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−230941(P2008−230941A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76532(P2007−76532)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】