高周波加熱装置
【課題】幅広形状の加熱室に対する電波分布を均一化し、被加熱物を均一に加熱できる使い勝手のよい高周波加熱装置を提供することを目的とする。
【解決手段】被加熱物収納空間の載置手段の下方にあって、加熱室10を形成する底壁面13の略中央部に導波管15の管軸32上に複数の放射口14a、14bを配置し、この放射口14a、14bを挟んで略対称に高周波攪拌手段17a、17bを設けている。これによって、複数の放射口14a、14bから放射される高周波は、放射口周辺の全域に高周波を放射するとともに、高周波攪拌手段17a、17bが放射された高周波をきめ細かく攪拌するので、加熱室10全体に高周波を分散させることができ、単品の被加熱物にあっては載置場所の影響は無く、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる。
【解決手段】被加熱物収納空間の載置手段の下方にあって、加熱室10を形成する底壁面13の略中央部に導波管15の管軸32上に複数の放射口14a、14bを配置し、この放射口14a、14bを挟んで略対称に高周波攪拌手段17a、17bを設けている。これによって、複数の放射口14a、14bから放射される高周波は、放射口周辺の全域に高周波を放射するとともに、高周波攪拌手段17a、17bが放射された高周波をきめ細かく攪拌するので、加熱室10全体に高周波を分散させることができ、単品の被加熱物にあっては載置場所の影響は無く、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を誘電加熱する高周波加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波加熱装置の代表である電子レンジは、被加熱物を直接的に加熱できるので鍋、釜を準備する必要がない簡便さでもって生活上の不可欠な機器になっている。
【0003】
電子レンジは、被加熱物を収納する加熱室の大きさが大概、幅方向寸法および奥行き方向寸法がそれぞれ30〜40cm、高さ方向寸法が20cm前後である。近年、食材を収納する空間の底面をフラットにし、さらに奥行き寸法に対して幅寸法を40cm以上に大きくし、幅方向に食器を二つ並べて収納できる利便性を高めた加熱室形状を持った製品が実用化されている。
【0004】
ところで、電子レンジが使用する周波数の波長は約12cmであり、加熱室内には強弱の電界分布(以下、電波分布と称す)が必ず生じ、さらには被加熱物の形状やその物理特性の影響が相乗されて局所加熱が発生することがある。上述した幅方向寸法が大きい加熱室にあっては、複数の食器に載置された食品を同時に加熱するために加熱の均一性をより一層高める必要がある。
【0005】
従来、この種の高周波加熱装置は、一つの放射アンテナを備え、そのアンテナを回転駆動させるものであったが、加熱の均一性を高める方策として複数の放射アンテナを備えるもの、あるいは複数の高周波攪拌手段を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−259646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、加熱の均一化のために複数の放射アンテナの回転速度を互いに異ならして加熱室内に生じる電波分布のパターンを増加させたものであり、この構成を幅広の加熱室に適用した場合、電波分布パターンが食材の置かれる位置の影響を受け、食材が不均一な加熱になる課題がある。具体的には、食材を一方の放射アンテナの上方に置いた場合、他のアンテナに近い側の食材の部位が強く加熱されることになる。
【0007】
また、放射アンテナを加熱室の側面に配し、加熱室底面に2つの電波攪拌手段を設けたものでは、食材が固定状態であるために、放射アンテナに面する側の食材部位が強く加熱される課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、幅広形状の加熱室に対する電波分布を均一化し、単品の被加熱物にあっては載置位置に拘わらず、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる使い勝手のよい高周波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高周波加熱装置は、被加熱物を載置する非回転の載置手段の下方における加熱室にあって、加熱室に供給する高周波を伝送する導波管の終端側に設けた複数の放射口と、放射口を挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段とを備えたものである。
【0010】
これによって、複数の放射口から全周方向にくまなく高周波を放射するとともに、略対称に設けた高周波攪拌手段が放射された高周波をきめ細かく攪拌するので、加熱室全体に高周波を分散させることができ、単品の被加熱物にあっては載置場所の影響は無く、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高周波加熱装置は、単品の被加熱物にあっては載置位置に拘わらず、また複数の被加熱物にあってはそれぞれの被加熱物を均一に加熱することができる使い勝手のよいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、幅方向寸法が奥行き方向寸法より大きい形状の加熱室と、前記加熱室に形成した被加熱物収納空間の底部に設け被加熱物を載置する非回転の載置手段と、前記加熱室に供給する高周波を伝送する導波管と、前記載置手段の下方の加熱室にあって前記導波管の終端側に設けた複数の放射口と、前記放射口を挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段とを備えた高周波加熱装置としたことにより、複数の放射口から全周方向にくまなく高周波を放射するとともに、略対称に設けた高周波攪拌手段が放射された高周波をきめ細かく攪拌するので、加熱室全体に高周波を分散させることができ、単品の被加熱物にあっては載置場所の影響は無く、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる。
【0013】
第2の発明は、特に、第1の発明において、複数の放射口は、加熱室の底壁面の略中央部に配置したことにより、幅広形状の加熱室にあって中央に収納された被加熱物を均一性よく加熱することができる。
【0014】
第3の発明は、特に、第1の発明において、複数の放射口は、導波管の管軸を横切らない構成としたことにより、高周波の伝送の上流側に位置する放射口からの放射エネルギを抑制し各放射口全域での高周波励振を保証するとともに、放射される高周波を導波管の管軸方向および管軸に垂直方向に拡散して放射することができる。
【0015】
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、複数の放射口は、導波管の管軸上の点に対して点対称に配設したL字状の開口としたことにより、導波管の管軸方向に放射される高周波と管軸に垂直方向に放射される高周波とを結合させて複数の放射口の周囲に高周波を拡散することができ、放射口の上方に置かれる誘電損失体である被加熱物の影響を受けずに放射分布を形成できる。
【0016】
第5の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、複数の放射口は、導波管の管軸方向に長い長方形状の開口としたことにより、導波管の管軸方向に垂直な方向の電波放射を大きくできるので、幅広の加熱室にあって導波管の管軸を加熱室の前後方向に配置することができる。
【0017】
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、複数の放射口の導波管における管軸方向の最大間隔は、この導波管を伝送する高周波の伝送波長の略1/2の長さとしたことにより、各放射口を横切る高周波電界の方向を相反する方向に規定させることができ放射方向の全方向化を確実に図ることができる。
【0018】
第7の発明は、特に、第1の発明において、高周波攪拌手段は、長方形状の板としたことにより、複数の放射口から放射された高周波を周期的にチョップして放射方向を攪拌するので、被加熱物を移動させることなく高周波による加熱の均一性を促進させることができる。
【0019】
第8の発明は、特に、第7の発明において、高周波攪拌手段の長方形状の板は、その向きを略同一方向として回転駆動したことにより、複数の放射口の周辺に形成される電波分布を攪拌する作用機会を多くでき、中央載置の被加熱物はもとより周辺載置の被加熱物へも効果的に分散させた高周波を供給することができ、被加熱物を移動させることなく加熱の均一性をさらに促進させることができる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1〜図5は、本発明の実施の形態1における高周波加熱装置を示すものである。
【0022】
図1〜図3に示すように、本実施の形態における高周波加熱装置は、幅方向寸法が奥行き方向寸法より大きい形状の加熱室10と、前記加熱室10に形成した被加熱物収納空間11の底部に設け被加熱物を載置する非回転の載置手段12と、前記加熱室10に供給する高周波を伝送する導波管15と、前記載置手段12の下方の加熱室にあって前記導波管15の終端側に設けた複数の放射口14a、14bと、前記放射口14a、14bを挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段17a、17bとを備えている。
【0023】
前記加熱室10は金属材料で形成された各壁面および扉10aによって電波的に閉じられており、この加熱室10内に被加熱物収納空間11を形成している。被加熱物収納空間11の底部に設けた載置手段12は、非導電性の材料からなる。載置手段12の下方にあって、複数の放射口14a、14bは、加熱室10の底壁面13の略中央部に配している。この複数の放射口14a、14bは、その詳細については後述するが、高周波を伝送する導波管15の終端31側に配置させ、導波管15の他端側には高周波を発生する高周波発生手段であるマグネトロン16を設けている。
【0024】
また、高周波攪拌手段17a、17bは、加熱室10の底壁面13と載置手段12との隙間空間に設けており、複数の放射口14a、14bを挟んで略対称としている。この高周波攪拌手段17a、17bは、その向きを略同一方向とした略同一形状からなり、長方形状の金属材料の板で構成している。この高周波攪拌手段17a、17bは、それぞれ加熱室10の底壁面13から所定の隙間でもって絶縁支持し、この絶縁支持部18a、18bの根元には歯車19a、19bを配置し、双方の歯車をベルト20で連結させている。高周波攪拌手段17aには、絶縁支持部18aの一部を出力シャフトに兼用したモータ21を設けている。モータ21の出力シャフトは歯車19aに嵌合組み立てされる構成からなり、出力シャフトの回転と連動して歯車19aおよび歯車19bが回転し、高周波攪拌手段17a、17bはその長手方向が同一方向になるように同期して回転する。
【0025】
高周波攪拌手段17a、17bの長方形状の長手方向寸法は、使用している高周波の波長の略1/2以上としている。幅寸法は、特に限定するものではないが、実用寸法としては、20〜40mmの寸法から選択している。また、絶縁支持部18a、18bの長さも特に限定するものではないが、少なくとも5mm以上の寸法を選択している。
【0026】
次に、図4および図5を用いて高周波の放射口14a、14bまわりの構成および作用について説明する。
【0027】
高周波の放射口14a、14bは、導波管15のマグネトロン16を装着する側30から遠い側の導波管15の終端31とこの終端31から導波管15を伝送する高周波周波数の伝送波長の略1/2の距離だけ離れた位置との間の壁面に配置している。高周波の放射口14a、14bは、それぞれL字状の開口から構成し、点対称に配置している。点対称の位置は導波管15の管軸32上であり、図において点33である。各放射口14a、14bは導波管15の管軸32に対して平行な部分と垂直な部分とを有し、かつ各放射口14a、14bは管軸32を横切らないように配置している。
【0028】
また、導波管15内の伝送波長34を定在波分布として一例を示しているが、図示したように導波管15内で共振するような導波管15の長さに限定する必要はない。
【0029】
次に、放射口14a、14bの主要動作について説明する。
【0030】
導波管15を伝送した高周波により、導波管15壁面には図4において矢印35〜38で示すような高周波電流が流れ、L字状の放射口14a、14bには同様に矢印35〜38で示す方向の高周波電界が生じる。この高周波電界は相互に結合し回転電界となって放射口14a、14bから放射する。これにより放射口14a、14b周辺に幅広い放射分布を形成している。
【0031】
図5(a)は、このL字状の放射口14a、14bの構成による放射口周辺を含む加熱室10の底壁面13の電波分布を、高周波電界分布を用いて示したものである。一方、図5(b)は、比較例として導波管15の管軸を横切って配置された一つの放射口39構成による放射口周辺を含む加熱室10の底壁面13の電波分布を、高周波電界分布を用いて示したものである。両者の電波分布特性には図示したように顕著な相違がある。すなわち、一つの放射口39の構成では、導波管15の管軸方向に電波分布の強い領域が存在する。一方、L字状の放射口14a、14bの構成では、導波管15の管軸方向およびその管軸に垂直方向の放射成分が存在し、両者の放射成分の結合によって、L字状の放射口14a、14bの周辺全周に高周波電界を存在させることができている。
【0032】
このような電波分布を発生させる放射口14a、14bの構成により、以下の作用と効果を呈することができる。
【0033】
まず、複数の放射口14a、14bを導波管15の管軸32を横切らない構成としたことにより、高周波の伝送の上流側に位置する放射口からの放射エネルギを抑制し各放射口14a、14b全域での高周波励振を保証するとともに、放射される高周波を導波管15の管軸32方向および管軸32に垂直方向に拡散して放射することができる。
【0034】
導波管15の管軸32上の点33に対して点対称に配設したL字状の放射口14a、14bを配設したことにより、導波管15の管軸32方向に放射される高周波と管軸32に垂直方向に放射される高周波とを結合させて複数の放射口14a、14bの周囲に高周波を拡散することができ、放射口14a、14bの上方に置かれる誘電損失体である被加熱物の影響を受けずに放射分布を形成できる。
【0035】
また、この放射口14a、14b近傍での振る舞いにより、被加熱物の量や形状の違いによるマグネトロン16への影響が緩和され様々な種類の被加熱物に対してマグネトロン16を安定に動作させることができ、発生した高周波エネルギの利用効率を高めることができる。
【0036】
このL字状の放射口14a、14bから放射された高周波は、回転電界を生じながら加熱室10内に放射される。そして、放射された高周波は高周波攪拌手段17a、17bによってかき乱され、加熱室10内全体に万遍なく高周波が放射されて、被加熱物の加熱の均一化を促進する。なお、高周波攪拌手段17a、17bは、例えば、幅20mm、長さ90mmの長方形状の板としている。
【0037】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における高周波加熱装置について図6、図7を用いて説明する。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本実施の形態における高周波加熱装置は、導波管15の配設構成において実施の形態1と相違するものである。
【0039】
図6、図7において、導波管40は、その管軸41を加熱室10の前後方向として配設している。そして、導波管40の終端に設けた複数の放射口42a、42bは、導波管40の管軸41方向に長い長方形状の開口としている。
【0040】
放射口42a、42bの形状を導波管40の管軸41方向のみとすることにより、導波管40の管軸41方向に放射される高周波成分が抑制され、管軸41に垂直方向に放射される高周波成分が増大する。この放射口42a、42bを、幅方向に広い加熱室10の底壁面13の略中央部に配することで、加熱室10の幅方向に高周波を強い電界強度でもって放射することができ、加熱室10の幅広形状に対応した電波分布の均一性を実現させることができる。
【0041】
また、実施の形態1と同様、放射口42a、42bを挟んで略対称に配置した高周波攪拌手段43a、43bの存在により、電波分布を適度に攪拌することで、単品の被加熱物にあっては、その収納位置に拘わること無くその被加熱物を均一に加熱できるとともに、複数の被加熱物に対しても分散化した電波分布により、それぞれを均一に加熱することができる。
【0042】
また、このような導波管40の配設構成においては、高周波攪拌手段43a、43bに対してそれぞれ独立したモータ44a、44bを装備し、モータ回転制御を採り入れることも可能である。ただし、モータ44a、44bの回転速度は、可能な限り高速に回転させるのが加熱の均一化には有効である。
【0043】
なお、実施の形態1、2において、各放射口の開口のコーナ部は適当に丸く加工するのが加工上およびエッジ部によるスパーク発生抑止の観点で望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかる高周波加熱装置は、単品の被加熱物にあっては載置位置に拘わらず、また複数の被加熱物にあってはそれぞれの被加熱物を均一に加熱することができる使い勝手のよいものであるので、食品加熱はもとより、半導体装置、乾燥装置などの工業分野での高周波加熱装置にも展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1における高周波加熱装置の斜視図
【図2】同高周波加熱装置の主要部の正面断面図
【図3】同高周波加熱装置の主要部の平面断面図
【図4】同高周波加熱装置の放射口周りの作用を説明する図
【図5】(a)同高周波加熱装置の放射口構成にかかわる電波分布図(b)比較例の放射口構成にかかわる電波分布図
【図6】本発明の実施の形態2における高周波加熱装置の主要部の正面断面図
【図7】同高周波加熱装置の主要部の平面断面図
【符号の説明】
【0046】
10 加熱室
11 被加熱物収納空間
12 載置手段
13 底壁面
14a、14b、42a、42b 放射口
15、40 導波管
17a、17b、43a、43b 高周波攪拌手段
31 導波管の終端
32、41 導波管の管軸
33 点対称の点
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を誘電加熱する高周波加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波加熱装置の代表である電子レンジは、被加熱物を直接的に加熱できるので鍋、釜を準備する必要がない簡便さでもって生活上の不可欠な機器になっている。
【0003】
電子レンジは、被加熱物を収納する加熱室の大きさが大概、幅方向寸法および奥行き方向寸法がそれぞれ30〜40cm、高さ方向寸法が20cm前後である。近年、食材を収納する空間の底面をフラットにし、さらに奥行き寸法に対して幅寸法を40cm以上に大きくし、幅方向に食器を二つ並べて収納できる利便性を高めた加熱室形状を持った製品が実用化されている。
【0004】
ところで、電子レンジが使用する周波数の波長は約12cmであり、加熱室内には強弱の電界分布(以下、電波分布と称す)が必ず生じ、さらには被加熱物の形状やその物理特性の影響が相乗されて局所加熱が発生することがある。上述した幅方向寸法が大きい加熱室にあっては、複数の食器に載置された食品を同時に加熱するために加熱の均一性をより一層高める必要がある。
【0005】
従来、この種の高周波加熱装置は、一つの放射アンテナを備え、そのアンテナを回転駆動させるものであったが、加熱の均一性を高める方策として複数の放射アンテナを備えるもの、あるいは複数の高周波攪拌手段を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−259646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、加熱の均一化のために複数の放射アンテナの回転速度を互いに異ならして加熱室内に生じる電波分布のパターンを増加させたものであり、この構成を幅広の加熱室に適用した場合、電波分布パターンが食材の置かれる位置の影響を受け、食材が不均一な加熱になる課題がある。具体的には、食材を一方の放射アンテナの上方に置いた場合、他のアンテナに近い側の食材の部位が強く加熱されることになる。
【0007】
また、放射アンテナを加熱室の側面に配し、加熱室底面に2つの電波攪拌手段を設けたものでは、食材が固定状態であるために、放射アンテナに面する側の食材部位が強く加熱される課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、幅広形状の加熱室に対する電波分布を均一化し、単品の被加熱物にあっては載置位置に拘わらず、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる使い勝手のよい高周波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高周波加熱装置は、被加熱物を載置する非回転の載置手段の下方における加熱室にあって、加熱室に供給する高周波を伝送する導波管の終端側に設けた複数の放射口と、放射口を挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段とを備えたものである。
【0010】
これによって、複数の放射口から全周方向にくまなく高周波を放射するとともに、略対称に設けた高周波攪拌手段が放射された高周波をきめ細かく攪拌するので、加熱室全体に高周波を分散させることができ、単品の被加熱物にあっては載置場所の影響は無く、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高周波加熱装置は、単品の被加熱物にあっては載置位置に拘わらず、また複数の被加熱物にあってはそれぞれの被加熱物を均一に加熱することができる使い勝手のよいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、幅方向寸法が奥行き方向寸法より大きい形状の加熱室と、前記加熱室に形成した被加熱物収納空間の底部に設け被加熱物を載置する非回転の載置手段と、前記加熱室に供給する高周波を伝送する導波管と、前記載置手段の下方の加熱室にあって前記導波管の終端側に設けた複数の放射口と、前記放射口を挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段とを備えた高周波加熱装置としたことにより、複数の放射口から全周方向にくまなく高周波を放射するとともに、略対称に設けた高周波攪拌手段が放射された高周波をきめ細かく攪拌するので、加熱室全体に高周波を分散させることができ、単品の被加熱物にあっては載置場所の影響は無く、また複数の被加熱物にあってはそれぞれを均一に加熱することができる。
【0013】
第2の発明は、特に、第1の発明において、複数の放射口は、加熱室の底壁面の略中央部に配置したことにより、幅広形状の加熱室にあって中央に収納された被加熱物を均一性よく加熱することができる。
【0014】
第3の発明は、特に、第1の発明において、複数の放射口は、導波管の管軸を横切らない構成としたことにより、高周波の伝送の上流側に位置する放射口からの放射エネルギを抑制し各放射口全域での高周波励振を保証するとともに、放射される高周波を導波管の管軸方向および管軸に垂直方向に拡散して放射することができる。
【0015】
第4の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、複数の放射口は、導波管の管軸上の点に対して点対称に配設したL字状の開口としたことにより、導波管の管軸方向に放射される高周波と管軸に垂直方向に放射される高周波とを結合させて複数の放射口の周囲に高周波を拡散することができ、放射口の上方に置かれる誘電損失体である被加熱物の影響を受けずに放射分布を形成できる。
【0016】
第5の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明において、複数の放射口は、導波管の管軸方向に長い長方形状の開口としたことにより、導波管の管軸方向に垂直な方向の電波放射を大きくできるので、幅広の加熱室にあって導波管の管軸を加熱室の前後方向に配置することができる。
【0017】
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、複数の放射口の導波管における管軸方向の最大間隔は、この導波管を伝送する高周波の伝送波長の略1/2の長さとしたことにより、各放射口を横切る高周波電界の方向を相反する方向に規定させることができ放射方向の全方向化を確実に図ることができる。
【0018】
第7の発明は、特に、第1の発明において、高周波攪拌手段は、長方形状の板としたことにより、複数の放射口から放射された高周波を周期的にチョップして放射方向を攪拌するので、被加熱物を移動させることなく高周波による加熱の均一性を促進させることができる。
【0019】
第8の発明は、特に、第7の発明において、高周波攪拌手段の長方形状の板は、その向きを略同一方向として回転駆動したことにより、複数の放射口の周辺に形成される電波分布を攪拌する作用機会を多くでき、中央載置の被加熱物はもとより周辺載置の被加熱物へも効果的に分散させた高周波を供給することができ、被加熱物を移動させることなく加熱の均一性をさらに促進させることができる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1〜図5は、本発明の実施の形態1における高周波加熱装置を示すものである。
【0022】
図1〜図3に示すように、本実施の形態における高周波加熱装置は、幅方向寸法が奥行き方向寸法より大きい形状の加熱室10と、前記加熱室10に形成した被加熱物収納空間11の底部に設け被加熱物を載置する非回転の載置手段12と、前記加熱室10に供給する高周波を伝送する導波管15と、前記載置手段12の下方の加熱室にあって前記導波管15の終端側に設けた複数の放射口14a、14bと、前記放射口14a、14bを挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段17a、17bとを備えている。
【0023】
前記加熱室10は金属材料で形成された各壁面および扉10aによって電波的に閉じられており、この加熱室10内に被加熱物収納空間11を形成している。被加熱物収納空間11の底部に設けた載置手段12は、非導電性の材料からなる。載置手段12の下方にあって、複数の放射口14a、14bは、加熱室10の底壁面13の略中央部に配している。この複数の放射口14a、14bは、その詳細については後述するが、高周波を伝送する導波管15の終端31側に配置させ、導波管15の他端側には高周波を発生する高周波発生手段であるマグネトロン16を設けている。
【0024】
また、高周波攪拌手段17a、17bは、加熱室10の底壁面13と載置手段12との隙間空間に設けており、複数の放射口14a、14bを挟んで略対称としている。この高周波攪拌手段17a、17bは、その向きを略同一方向とした略同一形状からなり、長方形状の金属材料の板で構成している。この高周波攪拌手段17a、17bは、それぞれ加熱室10の底壁面13から所定の隙間でもって絶縁支持し、この絶縁支持部18a、18bの根元には歯車19a、19bを配置し、双方の歯車をベルト20で連結させている。高周波攪拌手段17aには、絶縁支持部18aの一部を出力シャフトに兼用したモータ21を設けている。モータ21の出力シャフトは歯車19aに嵌合組み立てされる構成からなり、出力シャフトの回転と連動して歯車19aおよび歯車19bが回転し、高周波攪拌手段17a、17bはその長手方向が同一方向になるように同期して回転する。
【0025】
高周波攪拌手段17a、17bの長方形状の長手方向寸法は、使用している高周波の波長の略1/2以上としている。幅寸法は、特に限定するものではないが、実用寸法としては、20〜40mmの寸法から選択している。また、絶縁支持部18a、18bの長さも特に限定するものではないが、少なくとも5mm以上の寸法を選択している。
【0026】
次に、図4および図5を用いて高周波の放射口14a、14bまわりの構成および作用について説明する。
【0027】
高周波の放射口14a、14bは、導波管15のマグネトロン16を装着する側30から遠い側の導波管15の終端31とこの終端31から導波管15を伝送する高周波周波数の伝送波長の略1/2の距離だけ離れた位置との間の壁面に配置している。高周波の放射口14a、14bは、それぞれL字状の開口から構成し、点対称に配置している。点対称の位置は導波管15の管軸32上であり、図において点33である。各放射口14a、14bは導波管15の管軸32に対して平行な部分と垂直な部分とを有し、かつ各放射口14a、14bは管軸32を横切らないように配置している。
【0028】
また、導波管15内の伝送波長34を定在波分布として一例を示しているが、図示したように導波管15内で共振するような導波管15の長さに限定する必要はない。
【0029】
次に、放射口14a、14bの主要動作について説明する。
【0030】
導波管15を伝送した高周波により、導波管15壁面には図4において矢印35〜38で示すような高周波電流が流れ、L字状の放射口14a、14bには同様に矢印35〜38で示す方向の高周波電界が生じる。この高周波電界は相互に結合し回転電界となって放射口14a、14bから放射する。これにより放射口14a、14b周辺に幅広い放射分布を形成している。
【0031】
図5(a)は、このL字状の放射口14a、14bの構成による放射口周辺を含む加熱室10の底壁面13の電波分布を、高周波電界分布を用いて示したものである。一方、図5(b)は、比較例として導波管15の管軸を横切って配置された一つの放射口39構成による放射口周辺を含む加熱室10の底壁面13の電波分布を、高周波電界分布を用いて示したものである。両者の電波分布特性には図示したように顕著な相違がある。すなわち、一つの放射口39の構成では、導波管15の管軸方向に電波分布の強い領域が存在する。一方、L字状の放射口14a、14bの構成では、導波管15の管軸方向およびその管軸に垂直方向の放射成分が存在し、両者の放射成分の結合によって、L字状の放射口14a、14bの周辺全周に高周波電界を存在させることができている。
【0032】
このような電波分布を発生させる放射口14a、14bの構成により、以下の作用と効果を呈することができる。
【0033】
まず、複数の放射口14a、14bを導波管15の管軸32を横切らない構成としたことにより、高周波の伝送の上流側に位置する放射口からの放射エネルギを抑制し各放射口14a、14b全域での高周波励振を保証するとともに、放射される高周波を導波管15の管軸32方向および管軸32に垂直方向に拡散して放射することができる。
【0034】
導波管15の管軸32上の点33に対して点対称に配設したL字状の放射口14a、14bを配設したことにより、導波管15の管軸32方向に放射される高周波と管軸32に垂直方向に放射される高周波とを結合させて複数の放射口14a、14bの周囲に高周波を拡散することができ、放射口14a、14bの上方に置かれる誘電損失体である被加熱物の影響を受けずに放射分布を形成できる。
【0035】
また、この放射口14a、14b近傍での振る舞いにより、被加熱物の量や形状の違いによるマグネトロン16への影響が緩和され様々な種類の被加熱物に対してマグネトロン16を安定に動作させることができ、発生した高周波エネルギの利用効率を高めることができる。
【0036】
このL字状の放射口14a、14bから放射された高周波は、回転電界を生じながら加熱室10内に放射される。そして、放射された高周波は高周波攪拌手段17a、17bによってかき乱され、加熱室10内全体に万遍なく高周波が放射されて、被加熱物の加熱の均一化を促進する。なお、高周波攪拌手段17a、17bは、例えば、幅20mm、長さ90mmの長方形状の板としている。
【0037】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における高周波加熱装置について図6、図7を用いて説明する。実施の形態1と同一要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本実施の形態における高周波加熱装置は、導波管15の配設構成において実施の形態1と相違するものである。
【0039】
図6、図7において、導波管40は、その管軸41を加熱室10の前後方向として配設している。そして、導波管40の終端に設けた複数の放射口42a、42bは、導波管40の管軸41方向に長い長方形状の開口としている。
【0040】
放射口42a、42bの形状を導波管40の管軸41方向のみとすることにより、導波管40の管軸41方向に放射される高周波成分が抑制され、管軸41に垂直方向に放射される高周波成分が増大する。この放射口42a、42bを、幅方向に広い加熱室10の底壁面13の略中央部に配することで、加熱室10の幅方向に高周波を強い電界強度でもって放射することができ、加熱室10の幅広形状に対応した電波分布の均一性を実現させることができる。
【0041】
また、実施の形態1と同様、放射口42a、42bを挟んで略対称に配置した高周波攪拌手段43a、43bの存在により、電波分布を適度に攪拌することで、単品の被加熱物にあっては、その収納位置に拘わること無くその被加熱物を均一に加熱できるとともに、複数の被加熱物に対しても分散化した電波分布により、それぞれを均一に加熱することができる。
【0042】
また、このような導波管40の配設構成においては、高周波攪拌手段43a、43bに対してそれぞれ独立したモータ44a、44bを装備し、モータ回転制御を採り入れることも可能である。ただし、モータ44a、44bの回転速度は、可能な限り高速に回転させるのが加熱の均一化には有効である。
【0043】
なお、実施の形態1、2において、各放射口の開口のコーナ部は適当に丸く加工するのが加工上およびエッジ部によるスパーク発生抑止の観点で望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかる高周波加熱装置は、単品の被加熱物にあっては載置位置に拘わらず、また複数の被加熱物にあってはそれぞれの被加熱物を均一に加熱することができる使い勝手のよいものであるので、食品加熱はもとより、半導体装置、乾燥装置などの工業分野での高周波加熱装置にも展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1における高周波加熱装置の斜視図
【図2】同高周波加熱装置の主要部の正面断面図
【図3】同高周波加熱装置の主要部の平面断面図
【図4】同高周波加熱装置の放射口周りの作用を説明する図
【図5】(a)同高周波加熱装置の放射口構成にかかわる電波分布図(b)比較例の放射口構成にかかわる電波分布図
【図6】本発明の実施の形態2における高周波加熱装置の主要部の正面断面図
【図7】同高周波加熱装置の主要部の平面断面図
【符号の説明】
【0046】
10 加熱室
11 被加熱物収納空間
12 載置手段
13 底壁面
14a、14b、42a、42b 放射口
15、40 導波管
17a、17b、43a、43b 高周波攪拌手段
31 導波管の終端
32、41 導波管の管軸
33 点対称の点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向寸法が奥行き方向寸法より大きい形状の加熱室と、前記加熱室に形成した被加熱物収納空間の底部に設け被加熱物を載置する非回転の載置手段と、前記加熱室に供給する高周波を伝送する導波管と、前記載置手段の下方の加熱室にあって前記導波管の終端側に設けた複数の放射口と、前記放射口を挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段とを備えた高周波加熱装置。
【請求項2】
複数の放射口は、加熱室の底壁面の略中央部に配置した請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
複数の放射口は、導波管の管軸を横切らない構成とした請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
複数の放射口は、導波管の管軸上の点に対して点対称に配設したL字状の開口とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
複数の放射口は、導波管の管軸方向に長い長方形状の開口とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項6】
複数の放射口の導波管における管軸方向の最大間隔は、この導波管を伝送する高周波の伝送波長の略1/2の長さとした請求項1〜5のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項7】
高周波攪拌手段は、長方形状の板とした請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項8】
高周波攪拌手段の長方形状の板は、その向きを略同一方向として回転駆動した請求項7に記載の高周波加熱装置。
【請求項1】
幅方向寸法が奥行き方向寸法より大きい形状の加熱室と、前記加熱室に形成した被加熱物収納空間の底部に設け被加熱物を載置する非回転の載置手段と、前記加熱室に供給する高周波を伝送する導波管と、前記載置手段の下方の加熱室にあって前記導波管の終端側に設けた複数の放射口と、前記放射口を挟んで略対称に設けた高周波攪拌手段とを備えた高周波加熱装置。
【請求項2】
複数の放射口は、加熱室の底壁面の略中央部に配置した請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
複数の放射口は、導波管の管軸を横切らない構成とした請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
複数の放射口は、導波管の管軸上の点に対して点対称に配設したL字状の開口とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
複数の放射口は、導波管の管軸方向に長い長方形状の開口とした請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項6】
複数の放射口の導波管における管軸方向の最大間隔は、この導波管を伝送する高周波の伝送波長の略1/2の長さとした請求項1〜5のいずれか1項に記載の高周波加熱装置。
【請求項7】
高周波攪拌手段は、長方形状の板とした請求項1に記載の高周波加熱装置。
【請求項8】
高周波攪拌手段の長方形状の板は、その向きを略同一方向として回転駆動した請求項7に記載の高周波加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2006−216428(P2006−216428A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28740(P2005−28740)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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