説明

高周波増幅器

【課題】高周波増幅器において、サイズが大きくならないようにしながら、確実にループ発振を抑制できるようにする。
【解決手段】高周波増幅器を、分配回路12と、複数のトランジスタ15と、合成回路16と、分配回路12に接続され、各トランジスタ15に入力される信号を同相にする入力側位相調整線路6と、合成回路12に接続され、ループ回路に生じた不平衡モードを平衡モードにする出力側位相調整線路7とを備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーダーや衛星通信などの用途において高周波増幅器の高出力化が望まれている。
このため、複数のトランジスタを並列に接続して高出力化を実現した高周波増幅器がある。
このような高周波増幅器では、入力ポートから入力された信号を分配回路によって複数のトランジスタに分配し、複数のトランジスタのそれぞれによって増幅された信号を合成回路によって合成して出力ポートから出力するようになっている。
【0003】
しかし、このような高周波増幅器では、トランジスタの逆方向の伝達特性(アイソレーション)が十分でない。
また、各トランジスタの特性(特に位相特性)や伝送線路(整合回路)の特性にはばらつきがある。
このため、複数のトランジスタを介して分配回路と合成回路とを接続することによって形成されるループ回路に不平衡モード(奇モード)が生じ、ループ回路における発振条件によってループ発振が生じてしまう。なお、ループ発振は、奇モード発振(ループ上のトランジスタ同士が逆相で動作している発振)ともいう。
【0004】
そこで、トランジスタと伝送線路との間にアイソレータを設け、アイソレーションを良くして、ループ発振を抑えるようにしたものがある。
また、ループ内に並列に抵抗を設け、ループ発振電力が抵抗で吸収されるようにして、ループ発振を抑え、増幅器の動作の安定化を図るようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−185273号公報
【特許文献2】特許第3214245号公報
【特許文献3】特開2001−148616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のアイソレータを用いるものでは、増幅器のサイズが大きくなってしまう。なお、アイソレータは、例えばフェライトなどの磁性体及び磁石を用いたサーキュレータの3ポートのうち1ポートを終端する構造であるため、マイクロストリップ伝送線路型であっても基本的にサイズが大きい。また、広帯域で高いアイソレーションを得ることは難しい。この場合、低周波側に合わせるとよりサイズが大きくなってしまう。
【0007】
また、上述のループ内に抵抗を設けるものでは、ループ回路のサイズが大きくなると、伝送線路などのインダクタによって、ループ発振電力を効果的に吸収することができない。
そこで、サイズが大きくならないようにしながら、確実にループ発振を抑制することができるようにしたい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本高周波増幅器は、入力信号を分配する分配回路と、分配回路によって分配された信号を増幅する複数のトランジスタと、複数のトランジスタによって増幅された信号を合成する合成回路と、分配回路に接続され、複数のトランジスタのそれぞれに入力される信号が同相になるように位相を調整する入力側位相調整線路と、合成回路に接続され、複数のトランジスタを介して分配回路と合成回路とを接続することによって形成されるループ回路に生じた不平衡モードが平衡モードになるように位相を調整する出力側位相調整線路とを備えることを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
したがって、本高周波増幅器によれば、サイズが大きくならないようにしながら、確実にループ発振を抑制することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態にかかる高周波増幅器の構成を示す模式的平面図である。
【図2】第1実施形態にかかる高周波増幅器の構成を示す図である。
【図3】(A)、(B)は、第1実施形態にかかる高周波増幅器に設けられる位相調整線路の作用を説明するための図である。
【図4】(A)、(B)は、第1実施形態にかかる高周波増幅器に設けられる位相調整線路の作用を説明するための図である。
【図5】第1実施形態にかかる高周波増幅器に設けられる位相調整線路の作用・効果を説明するための図である。
【図6】第1実施形態の変形例にかかる高周波増幅器の構成を示す模式的平面図である。
【図7】第2実施形態にかかる高周波増幅器の構成を示す模式的平面図である。
【図8】第3実施形態にかかる高周波増幅器の構成を示す模式的平面図である。
【図9】第4実施形態にかかる高周波増幅器の構成を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面により、本実施形態にかかる高周波増幅器について説明する。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態にかかる高周波増幅器について、図1〜図5を参照しながら説明する。
本実施形態にかかる高周波増幅器は、複数のトランジスタ(増幅器)を並列に設け、これらのトランジスタからの出力を合成することによって高出力化を実現する高出力増幅器である。
【0012】
本高周波増幅器は、図1に示すように、入力信号(高周波信号;高周波電力)を分配する分配回路12と、分配回路12によって分配された信号を増幅する複数のトランジスタ15と、複数のトランジスタ15によって増幅された信号を合成する合成回路16とを備える。なお、図1では、2つのトランジスタ15を備え、これらのトランジスタ15からの出力を合成(2合成)する場合の回路構成(平面回路パターン)を例示している。
【0013】
ここでは、トランジスタ15は、例えばGaN−HEMTなどの電界効果トランジスタ(FET;Field Effect Transistor)である。
本実施形態では、トランジスタ15は、4つのFET(セル)を備えるFETチップ(4セル合成チップ)である。
そして、各FETチップ15は、分配回路12に接続された入力側の導体パッド18、及び、合成回路16に接続された出力側の導体パッド19にワイヤボンディングされている。つまり、各FETチップ15は、入力側の導体パッド18を介して分配回路12に接続されており、出力側の導体パッド19を介して合成回路16に接続されている。
【0014】
具体的には、各FETセル15のゲートは、それぞれ、ワイヤ13Aによって入力側の導体パッド18に接続されている。また、各FETセル15のソースは、それぞれ、ワイヤ13Bによってグランド端子14に接続されている。さらに、各FETセル15のドレインは、それぞれ、ワイヤ13Cによって出力側の導体パッド19に接続されている。
また、分配回路12及び合成回路16の回路パターン、及び、入力側及び出力側導体パッド18、19は、例えばアルミナなどの低損失の誘電体基板10上に、Au,Ag,Cuなどの良導体によって形成されている。
【0015】
なお、ここでは、各FETセル15のソースをグランド端子14に接続するようにしているが、これに限られるものではなく、例えば、グランド端子14の代わりに、FETチップ15のソースパターン内にチップの裏面側の導体(グランド)と接続するビアホールを設けても良い。
このような高周波増幅器では、入力側の端子(入力ポート;Port1)11から信号が入力され、分配回路12によって2つのFETチップ15に分配され、2つのFETチップ15のそれぞれに入力される。そして、2つのFETチップ15のそれぞれによって増幅され、それぞれのFETチップ15から出力される信号を合成回路16によって合成し、出力側の端子(出力ポート;Port2)17から出力するようになっている。
【0016】
また、通常、このような高周波増幅器に接続される入出力回路の特性インピーダンスZ(図2参照)は50Ωに規格化されている。
このため、FETチップ15の入出力インピーダンスに整合するように、入力側の導体パッド18、出力側の導体パッド19、分配回路12、合成回路16を用いてインピーダンス変換が行なわれるようにしている。
【0017】
つまり、入力側の導体パッド18、出力側の導体パッド19、分配回路12、合成回路16によって、インピーダンス整合回路が構成される。このため、図2に示すように、分配回路12及び入力側の導体パッド18からなる各伝送線路1の特性インピーダンスZは70.71Ωであり、合成回路16及び出力側の導体パッド19からなる各伝送線路2の特性インピーダンスZは70.71Ωである。また、分配回路12及び入力側の導体パッド18からなる各伝送線路1の長さはλ/4であり、位相が90度ずれるようになっている。同様に、合成回路16及び出力側の導体パッド19からなる各伝送線路2の長さもλ/4であり、位相が90度ずれるようになっている。なお、λは入力信号の波長(動作波長)である。
【0018】
なお、ここでは、各伝送線路1、2の特性インピーダンスZを70.71Ωとしているが、これは、入出力回路の特性インピーダンス(入出力ポートのインピーダンス)Zを50Ωとし、トランジスタの入出力インピーダンス(あるいは図2中、A点、B点、C点、D点におけるインピーダンス)を50Ωとした場合の最適な特性インピーダンス値である。但し、高出力増幅器の場合、トランジスタの入出力インピーダンスは50Ωよりも低いため、トランジスタの入出力インピーダンスをZtrとして、各伝送線路1、2の特性インピーダンスZを√(2×Ztr×50)とするのが望ましい。また、図2中、A点、B点、C点、D点の各点とトランジスタとの間にインピーダンス変換器を設けても良い。
【0019】
ところで、このような高周波増幅器では、各トランジスタ15の特性(特に位相特性)や伝送線路1,2の特性(特に位相特性)にはばらつきがある。このため、2つのトランジスタ15を介して分配回路12と合成回路16とを接続することによって形成されるループ回路(閉ループ回路)に不平衡モードが生じ、ループ回路における発振条件によってループ発振が生じてしまう(図5参照)。
【0020】
そこで、本実施形態では、図1、図2に示すように、分配回路12に入力側位相調整線路6を接続するとともに、合成回路16に出力側位相調整線路7を接続するようにしている。
ここで、入力側位相調整線路6は、2つのトランジスタ15のそれぞれに入力される信号が同相になるように位相を調整するものである。つまり、入力側位相調整線路6は、各トランジスタ15に入力される信号の位相ズレが0になるように位相を調整するものである。
【0021】
また、出力側位相調整線路7は、2つのトランジスタ15を介して分配回路12と合成回路16とを接続することによって形成されるループ回路に生じた不平衡モードが平衡モードになるように位相を調整するものである。つまり、出力側位相調整線路7は、ループ回路に生じた不平衡モードの位相をずらして平衡モードにするものである。
このような入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を設けることによって、ループ発振を抑えることができ、過剰増幅を防止することができる。また、増幅したい周波数fにおいて、トランジスタ15の特性(特に位相特性)のバラツキなどを調整することができ、分配・合成損失を減らすことができる。
【0022】
次に、位相調整線路による作用について、図3、図4を参照しながら説明する。
ここでは、入力ポート(Port1)及び出力ポート(Port2)に接続される入出力回路の特性インピーダンス(50Ω)に整合する50Ωの特性インピーダンスを持ち、10GHzで入力信号の位相に対して出力信号の位相が−90度ずれる伝送線路を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0023】
上述のような伝送線路を形成しようとしたにもかかわらず、伝送線路の位相ずれ量が設計通りにならず、図3(A),(B)に示すように、位相が−80度しかずれないときがある。このような場合にループ発振が生じてしまうことになる。
ここで、図3(B)中、実線Aは、周波数を100.0MHzから20.00GHzまで変化させた場合の入力ポート(Port1)と出力ポート(Port2)との間の伝送特性を示すSパラメータ[S(2,1)=通過特性の振幅/位相特性]を示している。そして、周波数が10GHzの場合のSパラメータは、図3(B)中、m7の地点であり、S(2,1)=1.000/−80.000である。これは、10GHzでロスはないが、位相が−80度ずれていることを示している。
【0024】
この場合、図4(A)に示すように、50Ωの特性インピーダンスを持ち、10GHzで入力信号の位相に対して出力信号の位相が−20度ずれる位相調整線路を接続する。
これにより、10GHzで入力信号の位相に対して出力信号の位相が−90度ずれるようにすることができる。
ここで、図4(B)中、実線Aは、周波数を100.0MHzから20.00GHzまで変化させた場合の入力ポート(Port1)と出力ポート(Port2)との間の伝送特性を示すSパラメータ[S(2,1)=通過特性の振幅/位相特性]を示している。そして、周波数が10GHzの場合のSパラメータは、図4(B)中、m7の地点であり、S(2,1)=0.984/−90.314である。つまり、10GHzでわずかにロスがあるものの、位相が−90度ずれていることを示している。
【0025】
このように、伝送線路が設計通りにならず、ループ発振が生じてしまうような場合に、位相調整線路を設けることで、入力信号の位相に対する出力信号の位相の位相ずれ量を設計通りに設定することができる。
また、本実施形態では、図1、図2に示すように、入力側位相調整線路6と出力側位相調整線路7とは、ループ回路の一の対角線上に位置するように設けられている。つまり、入力側位相調整線路6と出力側位相調整線路7とは、入力端子(Port1)11と出力端子(Port2)17とを結ぶ線に対して非対称な位置に設けられており、入出力側から見て非対称構造になっている。このため、基板の向きを考慮しなくて良くなるため、実装が容易になる。
【0026】
なお、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を設ける位置は、これに限られるものではない。例えば、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7は、図2中、点線で示すように、ループ回路の他の対角線上に位置するように設けても良い。また、例えば、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7は、図2中、実線と点線で示すように、ループ回路の両対角線上の4箇所に位置するように設けても良い。さらに、例えば、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7は、図2中、実線と点線で示すように、ループ回路の一方の側(図2中、下側)の2箇所に位置するように設けても良いし、ループ回路の他方の側(図2中、上側)の2箇所に位置するように設けても良い。これらの場合も上述の実施形態の場合と同様の作用・効果が得られる。
【0027】
さらに、本実施形態では、図1、図2に示すように、各トランジスタ15の近傍に抵抗回路3A,3Bを接続し、電流が抵抗4A,4B(抵抗値R)へ流れ込んで吸収されるようにして、ループ発振をより確実に抑制できるようにしている。
具体的には、各トランジスタ15の入力側に、分配回路12との接続点(図2中、A点、C点)がショートになるように伝送線路5Aを介して入力側抵抗4Aを接続する。また、複数のトランジスタ15の出力側に、合成回路16との接続点(図2中、B点、D点)がショートになるように伝送線路5Bを介して出力側抵抗4Bを接続する。これにより、ループ回路に生じた不平衡モードを抵抗4A,4Bによって吸収することができ、ループ発振を抑制することができる。
【0028】
一方、上述の入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を設けずに、図5に示すように、各トランジスタ15の近傍に抵抗回路3A,3Bを接続し、電流が伝送線路5A,5Bを介して抵抗4A,4B(抵抗値R)へ流れ込んで吸収されるようにして、ループ発振を抑制することも考えられる。
しかしながら、抵抗4A,4Bを接続するための伝送線路5A,5Bが設計通りにならない場合、A−C間やB−D間の距離が大きい場合など、A点、B点、C点、D点がショート点にならない場合がある。この場合、ループ発振を抑制することができない。
【0029】
このような場合も、上述の入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を設けることで、ループ発振を抑制することができる。
なお、本実施形態では、分配回路12及び合成回路16のそれぞれに伝送線路5A,5Bを介して抵抗4A,4Bを接続するようにしているが、これに限られるものではなく、抵抗4A,4Bは接続しなくても良い。この場合も、各トランジスタ15の特性や伝送線路1,2の特性のばらつきによって生じるループ発振を抑制することができる。
【0030】
ところで、本実施形態では、図1に示すように、入力側位相調整線路6は、複数の導体パッド20と、分配回路12との間及び複数の導体パッド20の全部又は一部の導体パッド20の相互間を接続する導体21,22とによって構成される。つまり、複数の導体パッド20のうち分配回路12に最も近い導体パッド20と分配回路12との間及び複数の導体パッド20の全部又は一部の導体パッド20の相互間を導体21,22によって接続することによって、入力側位相調整線路6を形成している。
【0031】
具体的には、複数の導体パッド20として、3つの長方形状の導体パッド20が並列に設けられている。つまり、分配回路12を構成する一方の伝送線路(図1中、下側)に連なるように、3つの長方形状の導体パッド20が互いに長辺が対向するように一列に並べられている。なお、導体パッド20は、例えばアルミナなどの低損失の誘電体基板10上に、Au,Ag,Cuなどの良導体によって形成されている。
【0032】
そして、分配回路12を構成する一方の伝送線路とこれに最も近い導体パッド20との間、及び、3つの導体パッド20の一部(ここでは分配回路12側の2つ)の導体パッド20の相互間を、ワイヤ21によって接続している(ワイヤボンディング)。
また、3つの導体パッド20の一部(ここでは分配回路12から遠い側の2つ)の導体パッド20の相互間を、導体ペースト22(例えばAgなどの導電ペースト;電気良導体ペースト)によって接続している。
【0033】
なお、ここでは、3つの導体パッド20の全部の導体パッド20の相互間を導体21,22によって接続することによって、入力側位相調整線路6を形成しているが、これに限られるものではない。どの導体パッド20までを分配回路12に接続するかによって入力側位相調整線路6の長さを任意に設定することができ、この長さを調整することで、複数(ここでは2つ)のトランジスタ15のそれぞれに入力される信号が同相になるように位相を調整することができる。このため、位相調整を行ないやすい。なお、分配回路12に接続されている導体パッド20が入力側位相調整線路(スタブ)6として機能し、接続されていない導体パッド20は入力側位相調整線路6としては機能しない。
【0034】
同様に、出力側位相調整線路7は、複数の導体パッド20と、合成回路16との間及び複数の導体パッド20の全部又は一部の導体パッド20の相互間を接続する導体21とによって構成される。つまり、複数の導体パッド20のうち合成回路16に最も近い導体パッド20と合成回路16との間及び複数の導体パッド20の全部又は一部の導体パッド20の相互間を導体21によって接続することによって、出力側位相調整線路7を形成している。
【0035】
具体的には、複数の導体パッド20として、3つの長方形状の導体パッド20が並列に設けられている。つまり、合成回路16を構成する一方の伝送線路(図1中、上側)に連なるように、3つの長方形状の導体パッド20が互いに長辺が対向するように一列に並べられている。なお、導体パッド20は、例えばアルミナなどの低損失の誘電体基板10上に、Au,Ag,Cuなどの良導体によって形成されている。
【0036】
そして、合成回路16を構成する一方の伝送線路とこれに最も近い導体パッド20との間、及び、3つの導体パッド20の一部(ここでは合成回路16側の2つ)の導体パッド20の相互間を、ワイヤ21によって接続している(ワイヤボンディング)。
なお、ここでは、3つの導体パッド20の一部の導体パッド20の相互間を導体21によって接続することによって、出力側位相調整線路7を形成しているが、これに限られるものではない。どの導体パッド20までを合成回路16に接続するかによって出力側位相調整線路7の長さを任意に設定することができ、この長さを調整することで、複数(ここでは2つ)のトランジスタ15を介して分配回路12と合成回路16とを接続することによって形成されるループ回路に生じた不平衡モードが平衡モードになるように位相を調整することができる。このため、位相調整を行ないやすい。なお、合成回路16に接続されている導体パッド20が出力側位相調整線路(スタブ)7として機能し、接続されていない導体パッド20は出力側位相調整線路7としては機能しない。
【0037】
なお、分配回路12又は合成回路16との間及び複数の導体パッド20の全部又は一部の導体パッド20の相互間は導体によって接続されていれば良く、例えば、ワイヤボンディングのみによって接続しても良いし、導体ペーストのみを用いて接続しても良いし、これらを任意に組み合わせて接続しても良い。また、例えば、ワイヤボンディングや導体ペーストに代えて、導体からなる抵抗体(シート抵抗体)を用いても良い。これにより、ループ発振電力を効果的に吸収することができる。
【0038】
したがって、本実施形態にかかる高周波増幅器によれば、サイズが大きくならないようにしながら、確実にループ発振を抑制することができるという利点がある。
また、例えばアイソレータを用いないで、分配回路12や合成回路16が形成されている基板10と同一の基板上に入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を形成すれば良いため、低コスト化、小型化を図りながら、高出力増幅器を実現することができる。
【0039】
なお、上述の実施形態及び変形例では、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を構成する導体パッド20が、ループ回路の一の及び他の対角線上のいずれか一方に位置するように設けられているが、これに限られるものではない。
例えば図6に示すように、ループ回路の両対角線上に導体パッド20を設けておき、いずれか一方の対角線上の導体パッド20のみを導体21,22によって接続することで、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を構成するようにしても良い。この場合、導体パッド20は、入力端子11と出力端子17とを結ぶ線に対して対称な位置に設けられており、対称構造になっている。これに対し、導体パッド20を導体21,22によって接続することによって形成された入力側位相調整線路6と出力側位相調整線路7とは、入力端子11と出力端子17とを結ぶ線に対して非対称な位置に設けられており、非対称構造になる。なお、この場合、導体21,22によって接続されない導体パッド20は、伝送線路(スタブ)としては機能しない。また、図6では、上述の実施形態(図1参照)と同一のものには同一の符号を付している。さらに、図6では、伝送線路5A,5B及び抵抗4A,4Bを含む抵抗回路3A,3Bを設けない場合の構成例を示している。
【0040】
また、上述の実施形態及び変形例のものにおいて、例えば図1,図6中、点線で示すように、入力側位相調整線路6(又は出力側位相調整線路7)の先端に連なるように抵抗体(例えば薄膜抵抗体;シート抵抗体)8を設け、ループ共振電力が吸収されるようにしても良い。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態にかかる高周波増幅器について、図7を参照しながら説明する。
【0041】
本実施形態にかかる高周波増幅器は、上述の第1実施形態のものに対し、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7の構成が異なる。
つまり、本高周波増幅器では、図7に示すように、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7は、ループ回路の共振波長λの1/4の長さLを有するオープンスタブ(λ/4オープンスタブ)23である。なお、図7では、上述の第1実施形態[図1参照]と同一のものには同一の符号を付している。
【0042】
この場合、ループ回路の共振波長λを予め求めておく必要がある。そして、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を、ループ回路の共振波長λの1/4の長さLを有し、先端開放の伝送線路(スタブ)とする。これにより、ループ回路の共振波長に対応するループ発振の発振周波数に対して、入力位相調整線路6と分配回路12との接続点及び出力位相調整線路7と合成回路16との接続点において、グランドへのショートと等価となるため、ループ発振をより抑えることができる。
【0043】
なお、その他の詳細は、上述の第1実施形態と同様であるから、ここではその説明を省略する。なお、図7では、伝送線路5A,5B及び抵抗4A,4Bを含む抵抗回路3A,3Bを設けない場合の構成例を示している。
したがって、本実施形態にかかる高周波増幅器によれば、上述の第1実施形態の場合と同様に、サイズが大きくならないようにしながら、確実にループ発振を抑制することができるという利点がある。
【0044】
なお、上述の実施形態のものにおいて、例えば図7中、点線で示すように、入力側位相調整線路6(又は出力側位相調整線路7)の先端に連なるように抵抗体8(例えば薄膜抵抗体;シート抵抗体)を設け、ループ共振電力が吸収されるようにしても良い。
また、上述の実施形態では、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7をλ/4オープンスタブ23としているが、これに限られるものではない。
【0045】
例えば、図8に示すように、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を、ループ回路の共振波長λの1/2の長さL1を有するショートスタブ(λ/2ショートスタブ)24としても良い。なお、図8では、上述の実施形態[図7参照]と同一のものには同一の符号を付している。
この場合、上述の実施形態の場合と同様に、ループ回路の共振波長λを予め求めておく必要がある。そして、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7を、ループ回路の共振波長λの1/2の長さL1を有し、先端がグランドに接続された先端短絡の伝送線路(スタブ)とする。これにより、ループ発振をより抑えることができる。
【0046】
また、図8に示すように、λ/2ショートスタブ24とグランド(基板裏面側)との間に、λ/2ショートスタブ24とグランドとの間の容量を決めるキャパシタ(チップコンデンサ)25を設けるのが好ましい。この場合、λ/2ショートスタブ24とグランドとの間(例えばキャパシタ25とグランドとの間)に抵抗体(シート抵抗体;図示せず)を設けて、ループ共振電力が吸収されるようにするのが好ましい。これにより、例えばグランドが細長い形状になっているような場合であってもグランドを通したループ発振を抑制することができる。さらに、λ/2ショートスタブ24は長さが長くなる傾向があるため、ミアンダ状やスパイラル状にして、小型化を図るのが好ましい。
【0047】
また、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7は、上述のようにλ/4オープンスタブ23やλ/2ショートスタブ24としなくても良い。例えば、入力側位相調整線路6としては、複数のトランジスタ15のそれぞれに入力される信号が同相になるように位相を調整しうる長さを有する伝送線路(スタブ)を形成すれば良い。また、出力側位相調整線路7としては、複数のトランジスタ15を介して分配回路12と合成回路16とを接続することによって形成されるループ回路に生じた不平衡モードが平衡モードになるように位相を調整しうる長さを有する伝送線路(スタブ)を形成すれば良い。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態にかかる高周波増幅器について、図9を参照しながら説明する。
【0048】
上述の第1実施形態の高周波増幅器は、2つのトランジスタ15を備え、これらのトランジスタ15に信号を分配(2分配)し、これらのトランジスタ15からの出力を合成(2合成)する場合である。これに対し、本実施形態にかかる高周波増幅器は、複数(ここでは4つ)のトランジスタ15を備え、これらのトランジスタ15に信号を分配(多分配;ここでは4分配)し、これらのトランジスタ15からの出力を合成(多合成;ここでは4合成)する場合である点で異なる。
【0049】
つまり、本高周波増幅器は、図9に示すように、上述の第1実施形態の構成(図1参照)を2つ備え、それらを他の分配回路26及び他の合成回路27によって並列に接続するようにしている。これにより、より高出力化を図ることができる。なお、図9では、上述の第1実施形態(図1参照)と同一のものには同一の符号を付している。
このため、本高周波増幅器では、上述の第1実施形態の高周波増幅器を構成する分配回路12の入力端子11に他の分配回路26(入力端子28を含む)が接続されている。また、上述の第1実施形態の高周波増幅器を構成する合成回路16の出力端子17に他の合成回路27(出力端子29を含む)が接続されている。つまり、本高周波増幅器は、分配回路として複数の分配回路12,26を備え、合成回路として複数の合成回路16,27を備える。
【0050】
そして、入力側位相調整線路6が、複数の分配回路12,26のそれぞれに設けられている。また、出力側位相調整線路7が、複数の合成回路16,27のそれぞれに設けられている。
この場合、複数(ここでは4つ)のトランジスタ15を介して分配回路12,26と合成回路16,27とを接続することによって形成されるループ回路として、3つのループ回路が形成されることになる。このため、各ループ回路の対角線上に位置するように、それぞれのループ回路に入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7が設けられることになる。これにより、各ループ回路におけるループ発振を抑制することができる。
【0051】
ここで、外側の大きいループ回路は、内側の小さいループ回路よりも、ループ発振の発振周波数が低くなる。一般に高周波増幅器に用いられるトランジスタ(増幅器)は、低い周波数でのゲインが大きいため、外側の大きいループ回路の方が、ループ発振が起こりやすい。
このため、先に、外側の大きいループ回路でループ発振が起こらないように、他の分配回路26及び他の合成回路27に設けられる入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7の長さの調整を行なうことになる。その後、内側の小さいループ回路の分配回路12及び合成回路16に設けられる入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7の長さの調整を行なうことになる。このような調整段階において、どのループ回路においてループ発振が起こっているかを特定することができる。これにより、例えばトランジスタの特性にばらつきがあることがわかり、トランジスタを取り替える等の対応をとることが可能となる。
【0052】
なお、その他の詳細は、上述の第1実施形態と同様であるから、ここではその説明を省略する。
したがって、本実施形態にかかる高周波増幅器によれば、上述の第1実施形態の場合と同様に、サイズが大きくならないようにしながら、確実にループ発振を抑制することができるという利点がある。
【0053】
なお、上述の実施形態では、高周波増幅器を、4つのトランジスタ15を備え、これらのトランジスタ15に信号を分配(4分配)し、これらのトランジスタ15からの出力を合成(4合成)する場合を例示して説明しているが、これに限られるものではない。例えば、本発明は、複数のトランジスタを備え、これらのトランジスタに信号を分配(多分配)し、これらのトランジスタからの出力を合成(多合成)する高周波増幅器に広く適用することができる。
【0054】
なお、上述の実施形態では、上述の第1実施形態の変形例として説明しているが、これに限られるものではなく、例えば、上述の第2実施形態の変形例や上述の第3実施形態の変形例として構成することもできる。
[その他]
なお、上述の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態では、それぞれ独立に説明しているが、これらの実施形態の構成を任意に組み合わせても良い。つまり、例えば、上述の第1実施形態の構成において、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7のいずれか一方の構成を、上述の第2実施形態の構成又は上述の第3実施形態の構成に代えても良い。また、例えば、上述の第2実施形態の構成において、入力側位相調整線路6及び出力側位相調整線路7のいずれか一方の構成を、上述の第3実施形態の構成に代えても良い。
【0055】
また、上述の各実施形態では、トランジスタ15としてFETを用いる場合を例に挙げて説明しているが、これに限られるものではなく、例えば、ヘテロジャンクションバイポーラトランジスタ(HBT;Hetero junction Bipolar Transistor)などの他のトランジスタを用いる場合であっても本発明を適用することができる。つまり、FETチップに代えてHBTチップ(半導体チップ)を用いる場合であっても本発明を適用することができる。
【0056】
なお、本発明は、上述した各実施形態及び変形例に記載した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1,2 伝送線路
3A,3B 抵抗回路
4A,4B 抵抗
5A,5B 伝送線路
6 入力側位相調整線路
7 出力側位相調整線路
8 抵抗体
10 誘電体基板
11 入力端子(入力ポート)
12 分配回路
13A,13B,13C ワイヤ
14 グランド端子
15 トランジスタ
16 合成回路
17 出力端子(出力ポート)
18 入力側の導体パッド
19 出力側の導体パッド
20 導体パッド
21 ワイヤ(導体)
22 導体ペースト(導体)
23 オープンスタブ(λ/4オープンスタブ)
24 ショートスタブ(λ/2ショートスタブ)
25 キャパシタ(チップコンデンサ)
26 他の分配回路
27 他の合成回路
28 入力端子
29 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を分配する分配回路と、
前記分配回路によって分配された信号を増幅する複数のトランジスタと、
前記複数のトランジスタによって増幅された信号を合成する合成回路と、
前記分配回路に接続され、前記複数のトランジスタのそれぞれに入力される信号が同相になるように位相を調整する入力側位相調整線路と、
前記合成回路に接続され、前記複数のトランジスタを介して前記分配回路と前記合成回路とを接続することによって形成されるループ回路に生じた不平衡モードが平衡モードになるように位相を調整する出力側位相調整線路とを備えることを特徴とする高周波増幅器。
【請求項2】
前記入力側位相調整線路又は前記出力側位相調整線路は、複数の導体パッドと、前記分配回路又は前記合成回路との間及び前記複数の導体パッドの全部又は一部の導体パッドの相互間を接続する導体とによって構成されることを特徴とする、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項3】
前記入力側位相調整線路又は前記出力側位相調整線路は、前記ループ回路の共振波長の1/4の長さを有するオープンスタブ、又は、前記ループ回路の共振波長の1/2の長さを有するショートスタブであることを特徴とする、請求項1記載の高周波増幅器。
【請求項4】
前記複数のトランジスタの入力側に、前記分配回路との接続点がショートになるように伝送線路を介して接続された入力側抵抗と、
前記複数のトランジスタの出力側に、前記合成回路との接続点がショートになるように伝送線路を介して接続された出力側抵抗とを備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波増幅器。
【請求項5】
前記分配回路が、複数の分配回路であり、
前記合成回路が、複数の合成回路であり、
前記入力側位相調整線路は、前記複数の分配回路のそれぞれに設けられ、
前記出力側位相調整線路は、前記複数の合成回路のそれぞれに設けられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高周波増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−177904(P2010−177904A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16954(P2009−16954)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】