説明

高周波帯域フィルタ及び通信装置並びにその調整方法

【課題】通過信号の中心周波数と減衰極周波数を調整できる高周波帯域フィルタと、それを備えた通信装置を提供する。
【解決手段】高周波を入出力する入出力線路を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、通過信号の中心周波数の略1/4波長となるヘアピン状のマイクロストリップ線路を2つ備え、高周波を入力する入力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さと、高周波を出力する出力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さとの関係が相補的であり、高周波の入力線路との接続位置から高周波の出力線路との接続位置までの2つのマイクロストリップ線路の長さが等しいと共に、それらの開放端同士が所定の間隙を介して対向し、開放端同士に共振周波数で電界結合を生じる電気結合が形成され、各マイクロストリップ線路の開放端近傍にリアクタンスを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号の周波数成分の中で特定の周波数帯域の高周波信号を通過させ、それ以外の高周波信号を減衰させる帯域通過フィルタ(Band Pass Filter)と、同様に特定の周波数帯域の高周波信号を阻止し、それ以外の高周波信号を通過させる帯域阻止フィルタ(Band Stop Filter)、並びに、それら帯域通過フィルタまたは帯域阻止フィルタを備えた通信装置、また、その通過特性または阻止特性を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される移動体通信の普及は目覚しく、携帯電話契約数も1億件を越えた。この移動体通信の急速な発展により、有限資源である周波数の枯渇が叫ばれている。
また、1〜5GHz帯の移動通信システムが展開されるようになり、その帯域に対応可能な高周波回路のマイクロ波集積回路化やモノシリックマイクロ波集積回路化が要求されている。しかし、周波数がGHzの領域に対応可能であり、一般にQ値(主に振動の状態を表す無次元数)の大きなインダクタ素子を作ることは難しい。
更に、近年の急速な通信機器の小型化に伴い、通信機器に用いる各種フィルタも小型のものが要求されている。また、高速の無線通信を実現するには、干渉波を除去する無線伝送方式が必要である。特に、コグニティブ無線通信では、通過帯域や阻止帯域を調整するフィルタは不可欠である。
【0003】
無線システムにおける帯域通過フィルタ及び帯域阻止フィルタは、受信電波の周波数や送信電波の周波数を選別する不可欠の部品である。 有限資源である周波数を有効に使うためには、急峻なスカート特性をもつフィルタが必要である。すなわち、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において信号の通過率変化が急峻になることが望まれる。 しかし、帯域通過フィルタも帯域阻止フィルタも、通過帯域を狭くすると挿入損失が増大してしまう難がある。
【0004】
従来、帯域通過フィルタや帯域阻止フィルタには、誘電体共振器を用いたフィルタが使用されていた。誘電体共振器フィルタによると、通過帯域が狭く、挿入損失が少なく、負荷Q値が高いフィルタ特性が得られる。しかし、仮に誘電率を大きくして装置を小型化したとすると、誘電体共振器の温度特性が敏感になり共振周波数が温度によって変化してしまう難点がある。また、圧力によっても共振周波数が変動するため、その調整は経験と勘に頼らざるを得ず、製造の困難性や高コスト化の原因となっていた。
【0005】
また、マイクロストリップ線路を用いた半波長共振器で形成されるフィルタも使用されている。マイクロストリップ線路の形状により、ヘアピン型フィルタ、コムライン型フィルタ、クロスカップル型フィルタ等に分類され、結合構造によっては、電気結合構造、磁気結合構造、混合結合構造に分類される。
【0006】
マイクロストリップ線路を用いた共振器などで形成されるフィルタに関する技術には、特許文献1〜9が挙げられる。 しかしながら、従来のフィルタは、十分な小型化が達成されていないか、または、小型化は図られているものの損失が大きく実用的な無線システムに対応できないという問題があった。また、急峻なスカート特性をもつ実用的なものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−306251
【特許文献2】特開2008−199076
【特許文献3】特開2008−172455
【特許文献4】特開2007−68123
【特許文献5】特開2006−173792
【特許文献6】特開2005−117176
【特許文献7】特開2004−349960
【特許文献8】特開2004−135102
【特許文献9】特開2004−134894
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Ishida and K.Araki, “A Study ofGap-Coupled Microstrip Narrow-Bandpass Filter with Tapped”,IEICE TechnicalReport, MW2008-155
【非特許文献2】H.Ishida and K.Araki, “Analysis ofCoupled-Line Sharp Notch Filter,” IEICE Technical Report MW2006-97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、通過帯域幅が狭く、通過帯域と阻止帯域との境界付近における信号の通過率変化が急峻である特性を備え、無線システムに対応可能な小型で低損失でもあり、しかも、通過信号の中心周波数と減衰極周波数を調整できる高周波帯域フィルタと、それを備えた通信装置、また、その通過特性または阻止特性を調整する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の高周波帯域通過フィルタは次の構成を備える。すなわち、誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、通過信号の中心周波数の略1/4波長となるヘアピン状のマイクロストリップ線路を2つ備え、高周波を入力する入力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さと、高周波を出力する出力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さとの関係が相補的であり、高周波の入力線路との接続位置から高周波の出力線路との接続位置までの2つのマイクロストリップ線路の長さが等しいと共に、それらの開放端同士が所定の間隙を介して対向し、開放端同士に共振周波数で電界結合を生じる電気結合が形成され、各マイクロストリップ線路の開放端近傍にリアクタンスが備わることを特徴とする。
【0011】
ここで、リアクタンスの配置を、回路的に点対称にしてもよい。
【0012】
リアクタンスとしては、キャパシタを備えた回路が有用である。
【0013】
通過信号の中心周波数としては、2GHzなど、1〜70GHzの範囲で選択される値のものが好適である。
【0014】
信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である特性を特に設けてもよい。
【0015】
本発明の通信装置は、高周波信号を伝送する通信装置であって、前記の高周波帯域通過フィルタを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の高周波帯域通過フィルタの調整方法は、次の構成を備える。すなわち、誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、通過信号の中心周波数の略1/4波長となるヘアピン状のマイクロストリップ線路を2つ用い、高周波を入力する入力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さと、高周波を出力する出力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さとの関係を相補的にして、高周波の入力線路との接続位置から高周波の出力線路との接続位置までの2つのマイクロストリップ線路の長さを等しくすると共に、それらの開放端同士を所定の間隙を介して対向させ、開放端同士に共振周波数で電界結合を生じる電気結合を形成し、各マイクロストリップ線路の開放端近傍にリアクタンスを設け、そのいずれかのリアクタンスを変化させて、高域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数、または、低域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数をシフトさせ、信号の通過帯域を調整することを特徴とする。
【0017】
ここで、少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、高域周波数帯における減衰極周波数と、低域周波数帯における減衰極周波数とを接近させ、信号の通過帯域の幅を調整してもよい。
【0018】
また、少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、通過信号の中心周波数を調整してもよい。
【0019】
本発明の高周波帯域阻止フィルタは次の構成を備える。すなわち、誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、高周波信号を伝送する主マイクロストリップ線路の側部に所定の間隙を介して、通過信号の中心周波数の略1/8波長または略1/16波長となる副マイクロストリップ線路を備え、その主マイクロストリップ線路と副マイクロストリップ線路との間に共振周波数で電界結合を生じる電気結合が形成され、副マイクロストリップ線路にリアクタンスが備わることを特徴とする。
【0020】
ここで、リアクタンスを、副マイクロストリップ線路の両側部に1つずつ配置してもよい。
【0021】
リアクタンスとしては、容量性負荷が有用である。
【0022】
通過信号の中心周波数としては、2GHzなど、1〜70GHzの範囲で選択される値のものが好適である。
【0023】
信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である特性を特に設けてもよい。
【0024】
本発明の通信装置は、高周波信号を伝送する通信装置であって、前記の高周波帯域阻止フィルタを有することを特徴とする。
【0025】
本発明の高周波帯域通過フィルタの調整方法は、次の構成を備える。すなわち、誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、高周波信号を伝送する主マイクロストリップ線路の側部に所定の間隙を介して、通過信号の中心周波数の略1/8波長または略1/16波長となる副マイクロストリップ線路を設け、その主マイクロストリップ線路と副マイクロストリップ線路との間に共振周波数で電界結合を生じる電気結合を形成し、副マイクロストリップ線路にリアクタンスを設け、そのリアクタンスを変化させて、減衰極周波数をシフトさせ、信号の阻止帯域を調整することを特徴とする。
【0026】
ここで、少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、阻止する減衰極周波数の幅を調整して、信号の阻止帯域の幅を調整してもよい。
【0027】
また、少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、阻止する減衰量は略一定のまま、阻止帯域を調整してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、リアクタンスを調整することにより、高周波のあらゆる通過周波数に対応可能で、通過信号の中心周波数と減衰極周波数を調整でき、小型な高周波帯域フィルタを提供することができる。特に、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において通過率変化が急峻になる特性を備えた高性能で低損失なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による高周波帯域通過フィルタの要部を示す説明図
【図2】本発明による高周波帯域通過フィルタの周波数特性を示すグラフ
【図3】リアクタンス(C1)のみを変化させた場合における周波数特性の変化を示すグラフ
【図4】同、減衰極周波数の変化を示すグラフ
【図5】リアクタンス(C2)のみを変化させた場合における周波数特性の変化を示すグラフ
【図6】同、減衰極周波数の変化を示すグラフ
【図7】図1に示した回路の等価回路図
【図8】同、F行列を示した回路図
【図9】同、妥当性確認用の等価回路図
【図10】同、回路シミュレーション結果を示すグラフ
【図11】実証実験に用いた回路図
【図12】同、実測結果による周波数特性を示すグラフ
【図13】本発明による高周波帯域阻止フィルタの要部を示す説明図
【図14】図13に示した回路の等価回路図
【図15】同、妥当性確認用の等価回路図
【図16】同、高周波帯域阻止フィルタの周波数特性を示すグラフ
【図17】リアクタンスを変化させた場合における周波数特性の変化を示すグラフ
【図18】リアクタンスの容量(C)と阻止する減衰極周波数の減衰量S21との関係を示すグラフ
【図19】本発明による高周波帯域阻止フィルタの実測結果を示すグラフ
【図20】減衰極周波数の回路シミュレーション結果と実測値の比較を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を、図面に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は、前記特許文献など従来公知の技術を援用して適宜設計変更可能である。
本発明者は、非特許文献1において、一波長の電気長ではあるが狭い帯域の高周波通過フィルタを開示し、非特許文献2において、急峻なスカート特性を有するマイクロ波帯域阻止フィルタを開示した。それらの開発の延長として、本発明に至り、小型・狭帯域・低損失であり、急峻なスカート特性を有し、しかも、通過信号の中心周波数と減衰極周波数を調整できる高周波帯域フィルタを実現した。
【0031】
図1は、本発明による高周波帯域通過フィルタの要部を示す説明図である。
図示の電気結合ヘアピン共振器タップ給電による高周波通過フィルタは、通過信号の中心周波数の略1/4波長共振器となる2つのマイクロストリップ線路を、その開放端同士を所定の間隙を介して対向させ、開放端同士に共振周波数で電界結合を生じる電気結合を形成し、高周波を入出力する入出力線路をマイクロストリップ線路に電気的に接続させた構造である。
【0032】
高周波を入力する入力線路との接続位置から2つのマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さと、高周波を出力する出力線路との接続位置から2つのマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さとは、いずれも通過信号の中心周波数の略1/8波長で等しい。
また、高周波を入力する入力線路と出力する出力線路とを、それぞれ、通過信号の中心周波数の略1/8波長のマイクロストリップ線路で構成してもよい。
【0033】
高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路は、高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、その誘電体の下面にはグランド層が形成される。
【0034】
各マイクロストリップ線路の開放端近傍には、リアクタンス(C1、C2)が設けられる。 リアクタンスの配置は、回路的に点対称である。すなわち、高周波を入力する入力線路に接続された2つのマイクロストリップ線路のうち、一方のマイクロストリップ線路の開放端の近傍には、リアクタンス(C1)が設けられ、その開放端に対向し高周波を出力する出力線路に接続されたマイクロストリップ線路の開放端には、リアクタンス(C2)が設けられ、また、高周波を入力する入力線路に接続された2つのマイクロストリップ線路のうち、他方のマイクロストリップ線路の開放端の近傍には、リアクタンス(C2)が設けられ、その開放端に対向し高周波を出力する出力線路に接続されたマイクロストリップ線路の開放端には、リアクタンス(C1)が設けられる。
【0035】
リアクタンスとしては、キャパシタを備えた回路などが使用できる。リアクタンスの容量(C1、C2)は可変のものが好ましい。
【0036】
回路基板としては、PTFEや、ガラスエポキシ、アルミナなど従来公知のものが使用できる。例えば、比誘電率2.2のテフロン(登録商標)基板を誘電体厚1.6mmで用い、0.3μmの厚みに無電解金メッキを施し、裏面に全面ベタ電極を設けたものなどが利用できる。
【0037】
本構成によると、高周波信号が入力線路を介してマイクロストリップ線路に入力されると、高周波信号の周波数成分の中で特定の通過中心周波数の高周波信号に入力側マイクロストリップ線路が共振し、出力側マイクロストリップ線路が励振されて特定の通過中心周波数の高周波信号が出力線路に出力される。この際、通過中心周波数の近傍の高域側と低域側にそれぞれ減衰極周波数がそれぞれ発生する。これにより、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である特性が得られる。
【0038】
2つのマイクロストリップ線路の両開放端の間隙を狭くして、これらのマイクロストリップ線路の結合度を高めて、低損失に構成してもよい。その間隙としては、1〜20mmのものが好適に利用できる。 また、対向する2つの開放端の側面同士の間隙の大きさや、対向させた側面の長さによって、減衰極周波数等を調整してもよい。
【0039】
リアクタンス(C1、C2)の存在によって、電気長が短縮するので、マイクロストリップ線路長も短縮され、装置全体の小型化が図られる。従来構成の半分程度になる。
また、マイクロストリップ線路を斜め方向に配置して、フィルタの形状が直線状に伸びることを避け、小型化に寄与させてもよい。
【0040】
ここで、いずれかのリアクタンス(C1、C2)を変化させると、高域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数、または、低域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数が変化するので、信号の通過帯域を調整することができる。 また、少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、高域周波数帯における減衰極周波数と、低域周波数帯における減衰極周波数とを接近させ、信号の通過帯域を狭く調整してもよい。 また、少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、通過信号の中心周波数を調整してもよい。
【0041】
図2は、本発明による高周波帯域通過フィルタの周波数特性を示すグラフである。
通過信号の中心周波数は2GHzを想定し、縦軸は伝達特性を表し、通過特性S21を示している。通過中心周波数の近傍の高域側と低域側に、それぞれ減衰極周波数がそれぞれ発生し、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である。
なお、通過信号の中心周波数としては、1〜70GHzの範囲で選択される値が、適宜適用可能である。
【0042】
図3は、リアクタンス(C1)のみを変化させた場合における周波数特性の変化を示すグラフであり、図4は、減衰極周波数の変化を示すグラフである。
回路構造は変えずにリアクタンス(C1)のみを変化させた場合、低域周波数帯における減衰極周波数は変化しないが、高域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数は変化する。リアクタンス(C1)の増加に伴い、高域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数は低下する。
【0043】
図5は、リアクタンス(C2)のみを変化させた場合における周波数特性の変化を示すグラフであり、図6は、減衰極周波数の変化を示すグラフである。
回路構造は変えずにリアクタンス(C2)のみを変化させた場合、高域周波数帯における減衰極周波数は変化しないが、低域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数は変化する。リアクタンス(C2)の増加に伴い、低域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数は低下する。
【0044】
従って、リアクタンス(C1)を増加させリアクタンス(C2)を減少させることによって、高域周波数帯における減衰極周波数と低域周波数帯における減衰極周波数とを接近させ、信号の通過帯域を狭く調整できる。
【0045】
図7は、図1に示した回路の等価回路図であり、図8は、そのF行列を示した回路図である(Z=伝送線路の特性インピーダンス、θ=電気長)。
行列要素は次の通りである。
【0046】
【数1】

【0047】
【数2】

【0048】
【数3】

【0049】
【数4】

【0050】
【数5】

【0051】
伝達係数及び反射係数は、次の通りである。
【0052】
【数6】

【0053】
【数7】

【0054】
21=0の条件から、高域周波数帯における減衰極周波数(f)と低域周波数帯における減衰極周波数(f)とは、次の通りである(f=通過中心周波数)。
【0055】
【数8】

【0056】
【数9】

【0057】
この回路解析で求めた減衰極周波数の妥当性を、次の通りに確認した。
図9は、その妥当性確認用の等価回路図であり、図10は、その回路シミュレーション結果のグラフである。
通過信号の中心周波数を1.965GHzとし、電気長θ=44.05°、θ’=38.4°、伝送線路の特性インピーダンスZ=47.7Ωとした。
図10の回路シミュレーション結果グラフにおいて、上の周波数表示は回路シミュレーション結果であり、下の周波数表示は解析値であり、一致している。
これから、通過信号の中心周波数1.965GHzの近傍の高域側と低域側に、それぞれ減衰極周波数がそれぞれ発生し、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻であることがわかる。
【0058】
また、S11=0の条件から、整合周波数(f)すなわち通過中心周波数は、次の通りである。
【0059】
【数10】

【0060】
図9の等価回路に、上式を当てはめると、f=1.96501GHzとなり、回路シミュレーション結果と一致する。
【0061】
図11は、実証実験に用いた回路図であり、図12は、その実測結果による周波数特性を示すグラフである。
回路基板は、比誘電率2.2、誘電正接0.0009、誘電体厚1.57mm、導体は導体厚18μmの電解銅箔とした。マイクロストリップ線路は、幅5.1mm、特性インピーダンス47.7Ω、線路長は17.5mm及び15mm、電気長は通過中心周波数2GHzで44°及び38°である。なお、接合部や折れ曲がり部で、長さは補正した。マイクロストリップ線路の開放端同士の間隔は2mmとし、これは直列容量2.2fFを与えると見積もられる。
【0062】
リアクタンスC1=0.8pFを固定し、リアクタンスC2を2pFから2.2pFへ増大させた時、図12に示すように、通過中心周波数が低下した。
同様に、リアクタンスの変化によって、減衰極周波数もシフトさせられる。
【0063】
本発明による高周波帯域通過フィルタは、携帯基地局、地上デジタル放送基地局、地上デジタル放送中継器、無線通信機器、携帯電話端末などの通信装置に組み込んで使用できる。また、狭帯域無通信システムは距離計測に優れた特性を有することから、各種測定装置に組み入れて用いることもできる。
【0064】
例えば、送信データに送信処理を施して送信信号を得る信号処理回路と、その送信信号を増幅する電力増幅器と、増幅された送信信号をフィルタ処理する高周波帯域通過フィルタと、そのフィルタ回路から出力される信号を電波として放射するアンテナとを備えた無線通信装置などに適用可能である。他の通信装置についても同様である。
【0065】
本発明による高周波帯域阻止フィルタも、前記の高周波帯域通過フィルタと同様に、マイクロストリップ線路にリアクタンスを付設することによって実現される。
図13は、本発明による高周波帯域阻止フィルタの要部を示す説明図である。
前記の高周波帯域通過フィルタとは、次の差異を有する。
すなわち、本高周波帯域阻止フィルタにおいては、高周波信号を伝送する主マイクロストリップ線路の側部に所定の間隙を介して、通過信号の中心周波数の略1/8波長または略1/16波長となる副マイクロストリップ線路が備わり、その主マイクロストリップ線路と副マイクロストリップ線路との間に共振周波数で電界結合を生じる電気結合が形成され、そして、副マイクロストリップ線路にリアクタンスが備わる。リアクタンスとしては、容量性負荷を用い、副マイクロストリップ線路の両側部に1つずつ配置してもよい。
前記の高周波帯域通過フィルタと同様に、リアクタンスを設け容量を調整することによって、阻止する減衰極周波数を変化させられ、信号の阻止帯域を調整することができる。
【0066】
図示の例では、主マイクロストリップ線路及び副マイクロストリップ線路の線路幅を3.15mm、主マイクロストリップ線路と副マイクロストリップ線路との間隔を0.1mm、副マイクロストリップ線路の線路長を6.45mm、 小型化のために通過信号の中心周波数の1/16波長のサイズにした。高周波回路基板は、比誘電率 2.2、誘電正接
0.0009、誘電体厚1.57mm、導体厚18μm、コンデンサのサイズは1608である。
【0067】
図14は、図13に示した回路の等価回路図であり、図15は、その妥当性確認用の等価回路図、図16は、高周波帯域阻止フィルタの周波数特性を示すグラフである。
コンデンサによるリアクタンスによって、阻止する減衰極周波数2GHzが発生し、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である。
【0068】
図17は、リアクタンスを変化させた場合における周波数特性の変化を示すグラフであり、図18は、リアクタンスの容量(C)と阻止する減衰極周波数の減衰量S21との関係を示すグラフである。
回路シミュレーションの結果、リアクタンス(C)を変化させた時、減衰極周波数がシフトすることが確認された。また、その減衰量S21はほぼ一定であった。
つまり、リアクタンス(C)を変化させることによって、減衰量をほぼ一定に保ったまま、減衰極周波数のみを調整することが可能である。
【0069】
図19は、本発明による高周波帯域阻止フィルタの実測結果を示すグラフであり、 図20は、減衰極周波数の回路シミュレーション結果と実測値の比較を示すグラフである。
回路のパラメータは、Z=82.3Ω、Z=36.4Ω、θ
=36°、θ=34.8°である。
図20から、回路シミュレーションの値と実測値が一致していることがわかる。実測結果を曲線近似すると、次の実験式が得られた。
【0070】
【数11】

【0071】
本発明による高周波帯域阻止フィルタも、携帯基地局、地上デジタル放送基地局、地上デジタル放送中継器、無線通信機器、携帯電話端末などの通信装置に組み込んで使用できる。また、狭帯域無通信システムは距離計測に優れた特性を有することから、各種測定装置に組み入れて用いることもできる。
【0072】
例えば、送信データに送信処理を施して送信信号を得る信号処理回路と、その送信信号を増幅する電力増幅器と、増幅された送信信号をフィルタ処理する高周波帯域阻止フィルタと、そのフィルタ回路から出力される信号を電波として放射するアンテナとを備えた無線通信装置などに適用可能である。他の通信装置についても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の高周波帯域フィルタによると、製造容易で小型安価でありながらも安定した性能を有し、狭帯域かつ低損失な帯域通過特性を備え、信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において信号の通過率変化が急峻になることが望まれるUWB規格などにも対応でき、周波数割り当ての多い携帯無線通信システムや、隣接チャンネルへの干渉が問題となる航空機等の交通システム用無線機器など諸々の場面に活用でき、産業上利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、
通過信号の中心周波数の略1/4波長となるヘアピン状のマイクロストリップ線路を2つ備え、
高周波を入力する入力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さと、高周波を出力する出力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さとの関係が相補的であり、高周波の入力線路との接続位置から高周波の出力線路との接続位置までの2つのマイクロストリップ線路の長さが等しいと共に、
それらの開放端同士が所定の間隙を介して対向し、開放端同士に共振周波数で電界結合を生じる電気結合が形成され、
各マイクロストリップ線路の開放端近傍にリアクタンスが備わる
ことを特徴とする高周波帯域通過フィルタ。
【請求項2】
リアクタンスの配置が、回路的に点対称である
請求項1に記載の高周波帯域通過フィルタ。
【請求項3】
リアクタンスが、キャパシタを備えた回路である
請求項1または2に記載の高周波帯域通過フィルタ。
【請求項4】
通過信号の中心周波数が1〜70GHzの範囲で選択される値である
請求項1ないし3のいずれかに記載の高周波帯域通過フィルタ。
【請求項5】
信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である特性を備えている
請求項1ないし4のいずれかに記載の高周波帯域通過フィルタ。
【請求項6】
高周波信号を伝送する通信装置であって、請求項1ないし5のいずれかに記載の高周波帯域通過フィルタを有する
ことを特徴とする通信装置。
【請求項7】
誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、
通過信号の中心周波数の略1/4波長となるヘアピン状のマイクロストリップ線路を2つ用い、
高周波を入力する入力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さと、高周波を出力する出力線路との接続位置からマイクロストリップ線路の両開放端までの2つの長さとの関係を相補的にして、高周波の入力線路との接続位置から高周波の出力線路との接続位置までの2つのマイクロストリップ線路の長さを等しくすると共に、
それらの開放端同士を所定の間隙を介して対向させ、開放端同士に共振周波数で電界結合を生じる電気結合を形成し、
各マイクロストリップ線路の開放端近傍にリアクタンスを設け、
そのいずれかのリアクタンスを変化させて、高域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数、または、低域周波数帯における減衰極周波数及び通過中心周波数をシフトさせ、信号の通過帯域を調整する
ことを特徴とする高周波帯域通過フィルタの調整方法。
【請求項8】
少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、高域周波数帯における減衰極周波数と、低域周波数帯における減衰極周波数とを接近させ、信号の通過帯域の幅を調整する
請求項7に記載の高周波帯域通過フィルタの調整方法。
【請求項9】
少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、通過信号の中心周波数を調整する
請求項7または8に記載の高周波帯域通過フィルタの調整方法。
【請求項10】
誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、
高周波信号を伝送する主マイクロストリップ線路の側部に所定の間隙を介して、通過信号の中心周波数の略1/8波長または略1/16波長となる副マイクロストリップ線路を備え、その主マイクロストリップ線路と副マイクロストリップ線路との間に共振周波数で電界結合を生じる電気結合が形成され、
副マイクロストリップ線路にリアクタンスが備わる
ことを特徴とする高周波帯域阻止フィルタ。
【請求項11】
リアクタンスが、副マイクロストリップ線路の両側部に1つずつ配置される
請求項10に記載の高周波帯域阻止フィルタ。
【請求項12】
リアクタンスが、容量性負荷である
請求項10または11に記載の高周波帯域阻止フィルタ。
【請求項13】
通過信号の中心周波数が1〜70GHzの範囲で選択される値である
請求項10ないし12のいずれかに記載の高周波帯域阻止フィルタ。
【請求項14】
信号の通過帯域と阻止帯域との境界付近において、信号の通過率変化が急峻である特性を備えている
請求項10ないし13のいずれかに記載の高周波帯域阻止フィルタ。
【請求項15】
高周波信号を伝送する通信装置であって、請求項10ないし14のいずれかに記載の高周波帯域阻止フィルタを有する
ことを特徴とする通信装置。
【請求項16】
誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の誘電体上面に設けられ、高周波信号を伝送するマイクロストリップ線路を有する共振器と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域通過フィルタにおいて、
高周波信号を伝送する主マイクロストリップ線路の側部に所定の間隙を介して、通過信号の中心周波数の略1/8波長または略1/16波長となる副マイクロストリップ線路を設け、その主マイクロストリップ線路と副マイクロストリップ線路との間に共振周波数で電界結合を生じる電気結合を形成し、
副マイクロストリップ線路にリアクタンスを設け、
そのリアクタンスを変化させて、減衰極周波数をシフトさせ、信号の阻止帯域を調整する
ことを特徴とする高周波帯域阻止フィルタの調整方法。
【請求項17】
少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、阻止する減衰極周波数の幅を調整して、信号の阻止帯域の幅を調整する
請求項16に記載の高周波帯域阻止フィルタの調整方法。
【請求項18】
少なくとも1つのリアクタンスを変化させて、阻止する減衰量は略一定のまま、阻止帯域を調整する
請求項16または17に記載の高周波帯域阻止フィルタの調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−124660(P2011−124660A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278927(P2009−278927)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:EiC2009年電子情報通信学会ソサイエティ大会 主催者名:社団法人 電子情報通信学会 開催日 :平成21年9月15日〜18日 発行日 :平成21年9月1日
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】