説明

高周波帯域用絶縁基板材料

【課題】本発明は、誘電特性に悪影響を及ぼすことなく基板の強度を高めることにより、誘電特性に優れた絶縁基板及び該基板を使用してなるアンテナ基板を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る高周波帯域用絶縁基板材料11は、PTFE粒子により作成した多孔質PTFEシートa1,a2,a3と熱溶融性のフッ素樹脂フィルムb1,b2との積層体をフッ素樹脂フィルムの融点以上で加熱加圧することにより接着一体化した複合多孔性フッ素樹脂シートの下面に金属板dを貼着したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路やアンテナなどの絶縁基板材料に関し、特に高周波帯域において誘電率や誘電正接の誘電特性に優れた高周波帯域用絶縁基板材料(以下、単に「絶縁基板材料」という。)に関する。なお、本発明においてはポリテトラフルオロエチレンをPTFE、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体をFEP、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体をPFA、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体をETFE、ポリクロロトリフルオロエチレンをPCTFE、ポリビニリデンフルオライドをPVDFとそれぞれ略記する。
【背景技術】
【0002】
PTFE多孔質体の製法には、従来より、A.延伸法、B.造孔剤を使用した製法、C.造粒粒子又はゲル化粒子を圧縮成形する方法、D.抄紙する方法などがある。
【特許文献1】特開2005−200542号公報
【特許文献2】特開2004−364192号公報
【特許文献3】特開2007−118528号公報
【特許文献4】特開平3−218690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、Aの方法では厚みが100μm程度のものしか作成できず、目的の厚みが2mmとすると200枚以上重ねなければならず、皺が入るなどのハンドリング性が悪い。Bの方法では造孔剤として機能する物質を含有させることは、その結果として得られた絶縁層の誘電特性に悪影響を及ぼす要因となり、誘電特性を向上させるためにPTFEを使用することと相反する結果となり、高価なPTFEの良さが発揮できないという欠点がある。そのため誘電特性を低下させる造孔剤の抽出に大変な手間が掛かる。Cの方法では目的の厚み1枚のものを製法することが難しく、ブロックを成形し、これを桂剥きしてシート状にすることが必要であるため精度の高いものを得ることは困難であった。Dの方法では基板としての強度が劣るという欠点があった。
【0004】
本発明は、上記Dの方法において、誘電特性に悪影響を及ぼすことなく基板の強度を高めることにより、誘電特性に優れた絶縁基板材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る絶縁基板材料は、1又は複数枚の多孔質PTFEシートと1又は複数枚の熱溶融性のフッ素樹脂フィルムとの積層体をフッ素樹脂フィルムの融点以上で加熱加圧することにより接着一体化した複合多孔性フッ素樹脂シートを用いてなることを特徴とする。すなわち前記複合多孔性フッ素樹脂シートは、複数枚の多孔質PTFEシートの各層間にフッ素樹脂フィルムが積層されてなる構成も含まれる。なお、前記多孔質PTFEシートはフィルム状、ペーパー状、シート状のものを含むものとする。
【0006】
上記多孔質PTFEシートは、乳化重合によって得られるPTFE粒子を粉砕した後に界面活性剤を介して水中に分散させ、これをスクリーンでシート状に漉いて乾燥加熱して作成したものを使用してもよい。前記界面活性剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールが使用される。これらの低級アルコールは通常の乾燥方法で完全に揮発気化する。
【0007】
上記複合多孔性フッ素樹脂シートの上下面又は片面にフッ素樹脂フィルムが積層されてなるように構成してもよい。
【0008】
上記複合多孔性フッ素樹脂シートの空孔率が35%〜70%であることが望ましい。
【0009】
上記複合多孔性フッ素樹脂シートの上下面又は片面に銅板などの金属板を接合してなるようにしてもよい。
【0010】
上記フッ素樹脂フィルムとしてFEP、PFA、ETFE、PCTFE、PVDFのいずれかにより形成されたフィルムを使用してもよい。なお、末端フッ素化されたFEP、PFA、ETFE、PCTFE、PVDFのいずれかよりなるフィルムを用いることも好ましい。
【0011】
上記ふっ素樹脂フィルムの厚みとしては10μm〜100μmの範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は12.5〜25μm、表層に使用するフィルムは25μm〜100μmが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、誘電特性が優れると共に基板としての十分な強度を獲得でき、かつ、安価で安定した高周波絶縁特性を有する絶縁基板材料を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施例を添付の図面に基づいて詳述する。
【実施例】
【0014】
図1〜図4は本実施例に係る複合多孔性フッ素樹脂シートよりなる絶縁基板材料を製造する手順を示す概略図であって、図1は多孔質PTFEシートとフッ素樹脂フィルムとを積層体の加圧前の状態を示す概略断面図であり、図2は多孔質PTFEシートとフッ素樹脂フィルムとを積層体の加圧及び加熱中にある状態を示す概略断面図であり、図3は複合多孔性フッ素樹脂シートに銅板を貼着する状態を示す概略断面図であり、図4は絶縁基板材料の完成状態を示す概略断面図である。
【0015】
本実施例においては3枚の多孔質PTFEシートのそれぞれの間にFEPフィルムを1枚ずつ挟み込んで積層したものであり、図1において、A1は上部金型、A2は下部金型、B1,B2はスペーサーである。この金型間A1,A2の間に多孔質PTFEシートa1,a2,a3とその間に挟んだFEPフィルムb1,b2が配置される。該多孔質PTFEシートa1,a2,a3は、乳化重合によって得られるPTFE粒子を粉砕した後に界面活性剤を介して水中に分散させ、これをスクリーンでシート状に漉いて乾燥加熱して作成したものであり、ポリフロンペーパー10L(ダイキン工業株式会社製)を用いた。図1に示す状態から上部金型A1からスペーサーB1,B2を貫通して下部金型A2に突き出るボルトC1,C2を差し込み、図2に示すようにナットD1,D2により強力に締め込んで加圧する。この状態において、電気炉にてFEPフィルムの融点260〜275℃以上であって、多孔質PTFEシートの融点以下327℃の温度で加熱し、FEPフィルムを溶融して、多孔質PTFEシートを接着することにより、複合多孔性フッ素樹脂シート10が完成する。なお、多孔質PTFEシートの融点に近い320℃位で加熱するのが接着性が良好である。本実施例において、320℃で120分加熱し、十分に溶着させた。なお、320℃で30分加熱した場合には溶着しなかった。また、本実施例においては多孔質PTFEシートを3枚使用したが、これに限られるものではないけれども、多孔質PTFEシートを3枚使用した方が再現性があり、生産に好適である利点がある。さらに、本実施例においてはFEPフィルムを多孔質PTFEシートの間に挟み込んでいるが、最上部の多孔質PTFEシートの表層にFEPフィルムを貼着すると油や塵芥による汚れを防止でき、かつノイズの防止対策となる。
【0016】
PFAフィルムを使用する場合には、その融点は302〜310℃であるから、302〜310℃以上であって、多孔質PTFEシートの融点以下327℃の温度で加熱し、PFAフィルムを溶融して、多孔質PTFEシートを接着することにより、複合多孔性フッ素樹脂シートが完成する。なお、多孔質PTFEシートの融点に近い320℃位で加熱するのが接着性が良好である。
【0017】
ETFEフィルムを使用する場合には、その融点は260〜270℃であるから、260〜270℃以上であって、多孔質PTFEシートの融点以下327℃の温度で加熱し、ETFEフィルムを溶融して、多孔質PTFEシートを接着することにより、複合多孔性フッ素樹脂シートが完成する。なお、多孔質PTFEシートの融点に近い320℃位で加熱するのが接着性が良好である。
【0018】
PCTFEフィルムを使用する場合には、その融点は210〜212℃であるから、210〜212℃以上であって、多孔質PTFEシートの融点以下327℃の温度で加熱し、PCTFEフィルムを溶融して、多孔質PTFEシートを接着することにより、複合多孔性フッ素樹脂シートが完成する。
【0019】
PVDFフィルムを使用する場合には、その融点は160〜180℃であるから、160〜180℃以上であって、多孔質PTFEシートの融点以下327℃の温度で加熱し、PVDFフィルムを溶融して、多孔質PTFEシートを接着することにより、複合多孔性フッ素樹脂シートが完成する。
【0020】
このようにして得られた複合多孔性フッ素樹脂シート10について、誘電特性を測定し、比較したところを下記の表1及び表2に示す。測定器は、E8361A PNAシリーズ・ネットワーク・アナライザ、10MHz−67GHz(Agilent Technologies, Inc.社製)である。表中の他社製品とは、ビスコース、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコールから選ばれる結着剤をマトリックスとして構成された未延伸のPTFE繊維が水分散液をともなって湿式抄造されたPTFEシートである。
【表1】

【表2】

【0021】
上記の測定結果により、誘電率は樹脂の多孔度によるところが大きいため大差はないが、高周波(GHz帯)での使用時に重要な要素となる誘電正接tanδは多孔質PTFEシートを使用した方がよい結果が得られた。これは多孔質PTFEシートはフッ素のみを使用しているが、他社製品は結着剤を使用しているため減衰が大きくなっていると考えられる。これによりFEPフィルムを積層したシートについても同様の結果となり、多孔質PTFEシートを使用した複合多孔性フッ素樹脂シート10の方が電気特性に優れていると考えられる。
【0022】
また、複合多孔性フッ素樹脂シート10について、強度測定試験を行った。試験サンプルはJISK−6897によりダンベル片を作成し、試験機オートグラフAGS−100N(島津製作所製)を使用して、引っ張り速度50mm/minで強度を測定した。その結果を下表に示す。
【表3】

【0023】
これにより、積層することで、強度と伸びが向上したことが確認できた。
【0024】
上記のようにして作成した複合多孔性フッ素樹脂シート10の下面に、図3に示すように、接着剤として絶縁特性が落ちないエポキシ樹脂cを塗布し、銅板dを貼着して、図4に示すように、絶縁基板材料11を作成する。なお、本実施例においては、銅板dを貼着したものを絶縁基板材料としているが、金属板を貼着しない複合多孔性フッ素樹脂シート10を絶縁基板材料としてもよい。
【0025】
以下、前記絶縁基板材料11を使用した例としてアンテナ基板について詳述する。図5〜図7は前記絶縁基板材料を使用したアンテナ基板の製造方法を示す概略図であって、図5はアンテナの設置状態を示す概略断面図であり、図6はアンテナの設置状態の変更例を示す概略断面図であり、図7はアンテナ基板の変更例を示す概略断面図である。
【0026】
上記のようにして得られた絶縁基板材料11に、図5に示すように、棒状アンテナ素子Eを立設し、下面に誘電体fを貼着して、棒状アンテナ素子Eと誘電体fとを配線Fにより電気接続するとアンテナ基板12が完成する。また、図6に示すように、棒状アンテナ素子E’を絶縁基板材料11に埋設したアンテナ基板12’を作成してもよい。なお、アンテナ素子の形状はこれに限られるものではなく、鉤型やT字型などの種々の形状のものを使用してもよい。アンテナ基板の形状はこれに限られるものではなく、ハニカム複合アンテナなどの種々の形態のものに応用することができる。さらに、図7に示すものは、アンテナ基板の変更例であって、表層部にFEPフィルムb3を積層した複合多孔性フッ素樹脂シート10’の下面に銅板dを貼着して絶縁基板材料11’を作成し、この絶縁基板材料11’に棒状アンテナE’を埋設したアンテナ基板12’’である。このように構成するとアンテナ基板12’’の表面が油や塵芥により汚れるのを防止でき、かつノイズの防止対策となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る絶縁基板材料は、上気した実用例であるアンテナ基板のみならず、自動車、携帯電話、医療設備や機器、パーソナルコンピューター、航空機、ロボットなどの電装品における絶縁基板及びその他の高周波帯域に使用される電気製品における絶縁基板について幅広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施例に係る複合多孔性フッ素樹脂シートよりなる絶縁基板材料を製造する手順を示す概略図であって、多孔質PTFEシートとフッ素樹脂フィルムとを積層体の加圧前の状態を示す概略断面図である。
【図2】本実施例に係る複合多孔性フッ素樹脂シートよりなる絶縁基板材料を製造する手順を示す概略図であって、多孔質PTFEシートとフッ素樹脂フィルムとを積層体の加圧及び加熱中にある状態を示す概略断面図である。
【図3】本実施例に係る複合多孔性フッ素樹脂シートよりなる絶縁基板材料を製造する手順を示す概略図であって、複合多孔性フッ素樹脂シートに銅板を貼着する状態を示す概略断面図である。
【図4】本実施例に係る複合多孔性フッ素樹脂シートよりなる絶縁基板材料を製造する手順を示す概略図であって、絶縁基板材料の完成状態を示す概略断面図である。
【図5】前記絶縁基板材料を使用したアンテナ基板の製造方法を示す概略図であって、アンテナの設置状態を示す概略断面図である。
【図6】前記絶縁基板材料を使用したアンテナ基板の製造方法を示す概略図であって、アンテナの設置状態の変更例を示す概略断面図である。
【図7】アンテナ基板の変更例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0029】
a1・・・多孔質PTFEシート
a2・・・多孔質PTFEシート
a3・・・多孔質PTFEシート
b1・・・FEPフィルム
b2・・・FEPフィルム
b3・・・FEPフィルム
c・・・・エポキシ樹脂
d・・・・銅板
f・・・・配線
10・・・複合多孔性フッ素樹脂シート
11・・・絶縁基板材料
12・・・アンテナ基板
12’・・アンテナ基板
12’’・アンテナ基板
A1・・・上部金型
A2・・・下部金型
B1・・・スペーサー
B2・・・スペーサー
C1・・・ボルト
C2・・・ボルト
D1・・・ナット
D2・・・ナット
E・・・・棒状アンテナ
E’・・・棒状アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数枚の多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートと1又は複数枚の熱溶融性のフッ素樹脂フィルムとの積層体をフッ素樹脂フィルムの融点以上で加熱加圧することにより接着一体化した複合多孔性フッ素樹脂シートを用いてなることを特徴とする高周波帯域用絶縁基板材料。
【請求項2】
多孔質ポリテトラフルオロエチレンシートが、乳化重合によって得られるポリテトラフルオロエチレン粒子を粉砕した後に界面活性剤を介して水中に分散させ、これをスクリーンでシート状に漉いて乾燥加熱して作成したことを特徴とする請求項1に記載の高周波帯域用絶縁基板材料。
【請求項3】
複合多孔性フッ素樹脂シートの上下面又は片面にフッ素樹脂フィルムが積層されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波帯域用絶縁基板材料。
【請求項4】
複合多孔性フッ素樹脂シートの空孔率が35%〜70%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波帯域用絶縁基板材料。
【請求項5】
複合多孔性フッ素樹脂シートの上下面又は片面に金属板を接合してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高周波帯域用絶縁基板材料。
【請求項6】
フッ素樹脂フィルムが、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン又はポリビニリデンフルオライドのいずれかよりなるフィルムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高周波帯域用絶縁基板材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−190212(P2009−190212A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31327(P2008−31327)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(390005050)東邦化成株式会社 (14)
【Fターム(参考)】