説明

高周波構成部品

本発明は、複数の誘電体層と、それらの間の、導電トラック構造を有する電極層とで構成された基板を含み、その基板内に少なくとも1つの容量性素子と少なくとも1つの誘導性素子とが形成されている高周波構成部品に関し、対向した導電トラック構造のうちの少なくとも1つの構成が提供され、これらによって容量性素子と誘導性素子とが同時に実現され、それによって、対向している導電トラック構造間のコモン・モード・インピーダンスとプッシュプル・インピーダンスとが少なくとも2倍異なるように調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の誘電体層と、それらの間の、導電トラックを有する電極層とで構成された基板を含み、その基板内に少なくとも1つの容量性素子と少なくとも1つの誘導性素子とが形成されている高周波構成部品に関する。このタイプの高周波構成部品は無線回路で使用される。
【背景技術】
【0002】
たとえば移動通信装置で使用される無線回路がますます小型化することにより、含まれるあらゆる機能について絶え間ない小型化が必要になる。現代の高周波モジュールでは、集積度をあげるために多層基板を使用する。基板上に作られた各構成部品間の電気的接続だけでなく、たとえばフィルタなどの不可欠な電気的機能が、基板内の導電トラックの適当な構成によって作成される。多くのチップ面積を要し、適度な精度が要求される構造は、しばしば、より経済的に回路板に置き換えることができる。部分的に分布素子が、また部分的に集中素子が使用される。ステップ・インピーダンスを有する配線が、これら述べた2つの両極端なものの間にある。昨今の2つの設計は、回路のサイズが4分の1波長を下回るとき、常に魅力的である。
【0003】
コンデンサを用いてくし形フィルタ内の共振器導体を短くすることが知られている。コンデンサは基板内の平行な平板または外部の構成部品として設計することができる。フィルタ特性は、実質上各共振器間の磁気結合によって決定される。しかし、製造上の理由で各共振器導体が最小距離を維持しなければならない場合、伝導損を小さく保つため導電トラックの幅が大きくなるように選択される場合、または回路サイズを最小限にするために導電トラックが極度に短くされる場合に、結合強度は制限される。知られている平面構成では、多層基板での3次元設計について、新規の可能性を利用することはできない。
【0004】
経済的な生産プロセスは、通常、金属被膜化寸法または2つの金属層間のミスアライメントでの不確実性などの高い許容度に関連している。このことが、高精度を必要とする回路の集積化または小型化を制限する。G.Passiopolous等、“The RF Impact of Coupled Component Tolerances and Gridded Ground Plates in LTCC Technology and their Design Counter Measures”、Advancing Microelectronics、2003年3月/4月、p.6−10に、コンデンサとコイルとについてのいくつかの対策が記載されている。しかし、インターデジタル・コンデンサを用いても得ることができない高い容量密度を達成しなければならない場合、導電トラック幅のばらつきに対して、これらの手段は無効である。
【0005】
ほとんどすべてのマイクロウェーブ用途で帯域通過フィルタが必要とされる。特に、移動無線システムで使用されている狭帯域の送信回路と受信回路とは、使用周波数帯の外側に見つかるあらゆる干渉信号を抑制するために帯域通過フィルタを必要とする。多くのこうした受動帯域通過フィルタは前述のくし形フィルタと同様の原理に基づき、これらのように、結合された共振器を含む。したがって、各共振器またはそれらの結合において改良を達成することができる場合、それらによって各共振器自体を非常に多くのフィルタ・タイプに変形することができる。
【0006】
送信機または受信機の典型的な回路構成は、アダプタ回路網(adaptor network)と平衡トランスとフィルタとを含み、最後に信号をアンテナに引き渡す。このチェーン回路(chain circuit)の1つの不利な点は、多くの個別構成部品が必要になることである。さらに、各機能は個別に最適化されるので、配線には特に阻止帯領域におけるフィードバックによる望ましくない共振が生じることがある。これらの機能をよりコンパクトな回路に集積化するために、いくつかの提案がなされてきた。国際公開第02/093741号パンフレットには、わずかな構成部品で、フィルタと平衡トランスとアダプタ回路網とを同時に含む回路網をどのように構築できるかが記載されている。各共振器は誘導性素子によって結合されるが、それら素子は、基板への集積化の際に多くのスペースを占めるはずである。米国特許第5697088号明細書には、合計4つの4分の1波長共振導体を有する2つの4分の1波長カプラを用いて、フィルタ特性を有する平衡トランスが実現されている。アダプタ回路網は含まれていない。しかし、より少ない共振器を使用することができ、提案された単一層構造では、多層基板を小型化する可能性を利用することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
受動電子機能を最小サイズで多層基板に集積化することができる道筋であって、電気的な仕様を要求することも実現でき、製造許容度への鋭敏性を可能な限り低減することができる道筋を定義することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1による高周波構成部品を用いて実現される。有利な諸実施形態が各従属項の主題である。
【0009】
本発明によれば、対向した導体構造の少なくとも1つの構成が提供され、これらは、対向する導電トラック構造のコモン・モード・インピーダンスとプッシュプル・インピーダンスとが少なくとも2倍異なるように調整されるという点で、共振器回路の容量性素子と誘導性素子とを同時に実現する。好ましくは、各導体構造は、特定のポイントでまたは固定された電位で互いにリンクする。導電トラック構造を繰り返すことによって多層構造が提供されることは明らかである。対向した金属表面への電流の分布によって、単一層構造の場合よりも低い抵抗損を実現することができる。導体構造は互いに完全にオーバーラップすることがあるが、オーバーラップする必要はない。製造上の見地からは、一般的に層オフセットが生じ、以下でさらに説明する共振周波数へのその影響を低減することができる。また各導体構造のうちの少なくとも1つは、たとえば、給電路、コネクタまたは結合を形成するために、またはより大きいインピーダンス範囲にわたって適合することができるように、他方の構造を超えて延ばすことができる。後者の場合、追加の誘導性素子として延長または接続を使用し、導電トラック幅を削減することなしに、このようにゲートでのより大きい入力インピーダンスを可能にする。特に、分布キャパシタンスを用いると、薄膜技術ではよくあることであるが、結果としてより大きいレベルの設計自由度がもたらされる。
【0010】
導電トラックまたは電流方向への導体構造横断の寸法は「導電トラックの幅」として以下に示すことになる。
【0011】
本発明を用いると、対向する導体構造のうちの少なくとも1つの構成において、導体構造の始点が、対向する導電トラック構造の終点と同じ電位に置かれる場合、共振器を実現することができる。第1の導体構造、たとえば電流経路上で方向が指定され、次いでこれが対向する導電トラック上で採用される場合、始点と終点とが見つかる。電位は特にアースに等しく固定することができる。この場合、この構成は短絡されたコンデンサに似ている。あるいは、この構成は浮いており、開放コイルに似ている。コイルに似た構成において、依然として自由な終点がアースまたは固定電位に接続される場合、共振周波数をさらに低減することができる。このようにして、4分の1波長(λ/4)より大幅に小さく、同じ導体構造によってインダクタンスとキャパシタンスとが提供される共振器を実現することができる。様々なコモン・モード・インピーダンスおよびプッシュプル・インピーダンスによって、エッジ状態とともに、様々な振幅と各ラインの終点での反射におけるコモン・モード動作およびプッシュプル動作の混在とが確実になる。2つの反射の後に、最低共振周波数での位相ジャンプはπよりも大きい。したがって、1サイクルでの総合的な位相シフトを共振状態2πにするために、導体の長さはλ/4よりも短い。放射を避けるため、対向する導電トラック構造の少なくとも1つの側に接地された表面を提供しなければならない。2つの接地された表面によってさらによりよい遮断が得られる。共振器が接地された各表面間の中心に配置される場合、対称な一連の誘電体について損失がもっとも低くなる。共振器がフェライトなどの磁気材料で囲まれる場合、磁気エネルギーの蓄積がさらに改善される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、対向するトラック構造の間に配置された誘電体層の厚さは導電トラックの幅よりも小さく、さらに好ましくは導電トラックの幅の半分よりも小さい。
【0013】
対向する導電トラック構造間の誘電体層が、周りを取り囲む誘電体層に比べて増大した比誘電率を有することもある。比誘電率を高めた非常に薄い層によって、強く異なるコモン・モードとプッシュプルとのインピーダンスが生成されることがある。比誘電率は5よりも大きいことが好ましく、10よりも大きければさらによく、17よりも大きければさらに好ましい。比誘電率が70よりはるかに大きい誘電体さえも知られている。これらは、たとえば、バリウム希土類チタニウム灰チタン石、チタン酸バリウム・ストロンチウム、ビスマス・パイロクロア構造、タンタル酸化物、マグネシウム・アルミニウム・カルシウム珪酸塩、(カルシウム、ストロンチウム)ジルコン酸塩、またはマグネシウム・チタン酸塩を含むセラミックであり、ホウ素または鉛の珪酸塩ガラスとも組み合わされる。これらが製造プロセスと両立し得る限り、これらのタイプの材料も本発明で首尾よく利用することができる。次いで、層の厚さの選択は、あらかじめ決められた用途および比誘電率の大きさに依存することになる。前述の共振器の正確な寸法は、たとえば、電磁界についての通常のシミュレータ(たとえば、Sonnet Software,Inc.のSonnet、またはZeland SoftwareのIE3D)を用いて決定することができる。このために、出力構造について周波数応答が計算され、所望の周波数で共振が起こるまで導電トラックの長さが調整される。
【0014】
多くの平面構造について、インダクタンスLとキャパシタンスCとが、それらを仮定する区域AおよびAに、よい近似で比例する。共振周波数は、LとCとの積によって規定される。合計区域の最小化は次式で示される。
tot=A+A
補助条件を用いると、
・A=一定
したがって、次式になる。
「A=A」のとき Atot=最小
隣接している導電トラックからの必要な分離は、区域計算によく含めることができる。この条件は本発明による構造を用いて自動的に満たされる。
【0015】
製造プロセス次第では、各電極層は互いに完全な位置合わせはされず、導電トラックの分布容量と分布インダクタンスとにばらつきを生じる。この影響は、両側の導電トラックのうちの1つを、距離kだけ広げることによって相殺することができる(図9b)。最大位置オフセットνに電極層間に位置する誘電体層の厚さdの半分を加えたものに等しい補償値kは、製造ばらつきに対して適当な補償値になることが分かっている(図10)。次いで、各共振器は導電トラックの幅のばらつきにそれほど敏感ではない。導電トラックの幅が増大する場合、キャパシタンスも増大するが、インダクタンスを減少させることによって部分的にこの影響を補償する。導電トラックの幅とアース表面からの分離との比が高くなるほど、共振周波数の変化は少なくなる。
【0016】
製造次第では、分離を小さく選ぶ場合、2つの共振器間の磁気結合が非常に不確実になることがある。または、所望の結合強度を達成するのに十分なほど、分離を小さく作ることはできない。したがって、本発明のさらなる実施形態によれば、2つの導電トラック間の誘導性結合は、それらをリンクするブリッジによって改善されることになる(図12a)。代替として、2つの導電トラックは、2つの電極層間の接続になることもある共通の導電性構成要素によって結合することができる(図12b)。
【0017】
基板は、低温コファイヤー・セラミック(LTCC:low temperature co−fired ceramics)または高温コファイヤー・セラミック(HTCC:high temperature co−fired ceramics)のセラミック積層板、有機積層板、半導体基板、または薄膜技術に基づく基板であることが好ましい。
【0018】
前述の共振器を使用することで、フィルタを構成することができ、それによって導電トラック構造に接続された導電トラックを介して直接に、導電トラック構造に平行な導電トラックを介して誘導性で、かつ/またはコンデンサを介して容量性で、信号の入力および出力、ならびにそれら信号間での共振器の結合が生じる。結合コンデンサも、隣接している導電トラックを介して基板に集積化することができる。
【0019】
同時に容量性と誘導性とで結合することにより、伝送関数にゼロ・ポイントが生じる。それは、特定の周波数で信号が伝送されないことを意味する。この現象は、たとえば各ラインが正確にλ/4の長さである場合のくし形フィルタで知られている。
【0020】
このように、さらにより好都合な区域利用率を達成するために、共振周波数をさらに低減するための典型的な共振器導体の場合と同様に、終端コンデンサまたは結合コンデンサを使用することができる。多層構造の利点は、実質的にこの点にある。
【0021】
本発明を用いて、信号の入力が対称に行われ、出力が非対称に行われる、少なくとも1つの共振器を有するバランまたは平衡トランスを構築することができる。等しい電圧レベルを達成するためには、対称な接続を、場合によっては完全に対称な位置から置き換えなければならないこともある。結合のインピーダンスがそれぞれの導電トラック構造上の位置によって決定されるという点で、アダプタ回路網の設計も可能である。
【0022】
フィルタが平衡トランスおよび/またはアダプタ回路網として同時に使用される場合、省スペースは特に重要である。平衡トランスは、共振器への対称な信号供給によって形成される。次いで、アダプタ回路網は、共振器への入力と出力との適当な結合強度を介して達成される。通例、信号供給と結合には、どんな追加スペースもほとんど取られない(図6および7)。
【0023】
本発明により、共振器と結合とについてより大きい設計自由度が可能になり、高周波構成部品の機能を用途または仕様に個別に合わせることができるようになる。同時に、回路は非常にコンパクトで、製造許容度の影響を受けないように設計することができ、損失レベルが低い。
【0024】
本発明のこれらおよび他の態様は明白であり、以下に記載の各実施形態を参照しながら、非制限的な例として明らかにされるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1に示した共振器は、互いに対向する2つの導電トラック・セクション10、12を含む。それらがオーバーラップする領域において、実際の設計では薄い誘電体層が配置されるが、これは図1には示されていない。比誘電率が大きくなるほど、共振器を小さく作ることができる。したがって、比誘電率εは5よりも大きいことが好ましい。実際の実施形態でも、比誘電率がε>17の材料または比誘電率がε>70の材料でさえ含まれる。誘電体層の厚さdは、導電トラック構成要素10または12の幅bの半分よりも小さい。導電トラック構成要素12の始点16は接地に接続され、導電トラック構成要素10の終点18もアースに接続されている。
【0026】
図2には、本発明のさらなる実施形態による共振器が示してある。ここで、導電トラック構造20、22はらせん状に設計され、その始点24と終点26とは結合構成要素28を介して互いにリンクし、その結果、それらは同じ浮遊電位にある。
【0027】
図1による実施形態と図2による実施形態とを用いて、4分の1波長よりも大幅に小さく、インダクタンスとキャパシタンスとが中で空間的に分離されていない共振器を多層基板で実現することができる。
【0028】
図3aおよび図3bには、図1または図2による共振器のための多層構造の例が示してある。この場合も、各誘電体層は個々の各層間で省略されている。同様のまたは別の共振器タイプを層状構造で組み合わせることができる。
【0029】
図4には、図1による2つの共振器40、42から作られた帯域通過フィルタが示してある。共振器40、42は、それらの電気的に遠い終点を用いてアース44に取り付けられている。結合コンデンサ46は、フィルタの共振周波数をさらに低減し、平行に走る導電トラック構成要素41を介する誘導性結合とともに、伝送関数に追加のゼロ・ポイントをもたらす。信号の入力または出力は、接続構成要素48、50を介して生じ、直接導電トラック構造に接続される。図4にも、層状構造の一実施例が示してある。フィルタの誘電体層52は25μmの厚さがあり、比誘電率εが18の材料を含む。フィルタを囲む誘電体層54は各々厚さが100μmであり、比誘電率が7.5の材料を含む。接地表面56は、完全な対称構造である。
【0030】
図5には、図4のフィルタの伝送特性S21が示してある。阻止帯は2GHzより下にあり、5GHz領域で良好な伝送特性が達成される。実際には、フィルタの寸法は、ほぼ1×1mmである。
【0031】
図6には、図1による共振器から作られた平衡トランスが示してある。差分信号の入力は、導電トラック構造60のコネクタ64または導電トラック構造62のコネクタ66によって対称に生じる。出力は、導電トラック構造60上のコネクタ68を介して非対称に生じる。導電トラック構造60または62の終点72と74とは、アース70に接続されている。基板の層順序は図4の通りである。分かりやすくするために、図面は垂直方向に延ばしてある。
【0032】
フィルタが平衡トランスおよびアダプタ回路網として同時に使用される場合、特に省スペースになる。図7には、図2に示した原理によって設計された2つの共振器80と82とを有する、組み合わされたフィルタ回路網と平衡回路網とアダプタ回路網との一実施例が示してある。第1の共振器80との結合は、コネクタ84、86を介して対称になる。出力は、接続構成要素88を介して非対称に生じる。対称な接続構成要素84、86と非対称な接続構成要素88とのインピーダンスは、各共振器80または82上のタップの位置を適切に選択することによって改善することができる。図8に示したスペクトラムよりも大きい阻止帯減衰またはより急峻なカーブ(flank)が望まれる場合、さらなる共振器を接続することができる。図12aとともにより詳細に記述されているように、共振器80、82の結合は、接続ブリッジ90を介して付随的に増幅される。
【0033】
製造次第では、導電トラック構造の金属層は、上下の位置合わせが完全になされないため、各導電トラックの分布容量と分布インダクタンスとのばらつきが予想される。図9aには、2つの導電トラックが厚さdの誘電体層の上下にオフセットνをもつように構成される、補償されていない構造が示してある。共振周波数におけるこの望ましくないオフセットνの影響は、図9bに示すように、幅2kの導電トラックを用いて補償することができ、kは最大位置オフセットνに誘電体層の層厚dの半分を加えたものにほぼ等しくなるように選ばれる。図10には、図4に示したd=25μmの層シーケンスについての、2つのb=450μm幅の導電トラックを有する構成での位置オフセットの影響が示してある。破線の曲線は、図9aによるk=0μmの補償されていない構造に対する結果であり、実線の曲線は、図9bによるk=50μmの補償された構造に対する結果である。
【0034】
多層のコイルに似た導電トラックについては、図9bによる補償と比較してより省スペースの方式で設計することができるため、図11による構成には利点がある。重要なことが低い周波数での正確なインダクタンスだけである場合、kに対する前述の近似を使用することができる。共振周波数の正確な調整に対しては、最大の層オフセットνのサイズでの補償値kが適している。アース表面を各導電トラックに近づける場合、補償値をνよりも小さくなるように選ぶことさえできる。図11において、製造ばらつきのために、より低い2つの導電トラックがνの値だけ右側にオフセットされる。補償するために、上層において、隣接する導電トラックがkの量だけさらに離される。図11の左側の導電トラック対において、分布容量と分布インダクタンスとが低減されるが、逆の条件が右側の導電トラック対に適用され、その結果共振周波数は全体として一定のままである。提案された共振器も、各導電トラックの幅のばらつきにそれほど敏感ではない。導電トラック幅が増大する場合、キャパシタンスも増大するが、インダクタンスを減少させることによって部分的にこの影響を補償する。導電トラックの幅とアース表面から離れる距離との比が高いほど、共振周波数の変化は少なくなる。
【0035】
図12aおよび図12bには、各導電トラック構造間の結合をどのように強化することができるかについての簡略な手段が示してある。図12aのブリッジ90と図12bの共通の導電トラック構成要素92とは、導電トラック構成要素93と94との間または95と96との間の増幅された磁気結合のように振る舞う。回路の残りの部分を大きく変更する必要なしに、ブリッジの位置を変えることによって、結合強度の調整を簡単に行うことができる。したがって、同一の結合が与えられている場合、図12aまたは図12bによる各導体はより大きく分離し、またはより短くなることがある。分離が小さい場合、従来技術によって、結合は製造時の精度に非常に強く依存するが、ブリッジの位置を非常に正確に指定することができる。コイル以上のものとは考えられない、より長い導電トラック構造の場合も、ブリッジ90または共通の導電トラック構成要素92が脚部に近い場合、磁気結合が増大させられる。これは、特に、広帯域の用途または薄型基板上の用途にとって意味がある。
【0036】
図13に示した帯域通過フィルタは、図11に従ってオフセットに対して補償されその終点でアース115に接続されている、図2による2つの共振器110、112によって形成される。導電トラック構成要素114は、平行に配置された導電トラック113の間の磁気結合を増幅する。さらに、コンデンサ118は各共振器を結合する。信号供給ライン122、124の各共振器への結合は、容量性で116によって、かつ直接行われる。導体構造120はアースにリンクした終点コンデンサを形成し、このコンデンサが共振周波数を下げる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】短絡されたコンデンサと同様の、共振導電トラック構成の第1の実施形態を示す図である。
【図2】開放コイルとの類似性をもつ共振導電トラック構成のさらなる実施形態を示す図である。
【図3a】第1と第2との実施形態での多層構成の例を示す図である。
【図3b】第1と第2との実施形態での多層構成の例を示す図である。
【図4】多層基板での層状構造の例とともに、図1での実施形態による2つの共振器を有する帯域通過フィルタの例を示す図である。
【図5】図4のフィルタの計算された周波数応答を示す図である。
【図6】図1による共振器を有する平衡トランスまたはバランを示す図である。
【図7】図1による2つの共振器を有する、組み合わされたフィルタ回路網と平衡回路網とアダプタ回路網との一実施形態を示す図である。
【図8】図7による回路網の計算された周波数応答を示す図である。
【図9a】幅がbでその補償値がkである導電トラックについての層オフセットνを示す概略図である。
【図9b】幅がbでその補償値がkである導電トラックについての層オフセットνを示す概略図である。
【図10】図9aによる補償されていない構造(k=0μm)と、図9bによる補償された構造(k=0μm)とについての位相周波数特性を表す図である。
【図11】コイルに似た構造についての層オフセットνに対する補償値kを説明するために断面図で示した概略図である。
【図12a】本発明の一実施形態での誘導性結合の例を示す図である。
【図12b】本発明の一実施形態での誘導性結合の例を示す図である。
【図13】図2の実施形態による2つの共振器を有する集積化された帯域通過フィルタと図12aによる結合との一実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と、それらの間の、導電トラック構造を有する電極層とで構成された基板を含み、その基板内に少なくとも1つの容量性素子と少なくとも1つの誘導性素子とが形成されている高周波構成部品であって、対向した導電トラック構造の少なくとも1つの構成が提供され、これらが容量性および誘導性の素子を同時に実現し、少なくとも2つの対向する導電トラック構造間のコモン・モード・インピーダンスとプッシュプル・インピーダンスとが少なくとも2倍異なるように調整される、高周波構成部品。
【請求項2】
前記導電トラック構造が、少なくとも1つの位置で導体によってまたは固定された電位で互いにリンクされることを特徴とする、請求項1に記載の高周波構成部品。
【請求項3】
少なくとも2つの対向する導電トラック構造間の前記コモン・モード・インピーダンスと前記プッシュプル・インピーダンスとが、少なくとも10倍異なるように調整されることを特徴とする、請求項1に記載の高周波構成部品。
【請求項4】
前記対向した導電トラック構造間に構成された前記誘電体層の厚さdが、前記導電トラックの幅bよりも小さく、好ましくは前記導電トラックの幅bの半分よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の高周波構成部品。
【請求項5】
前記対向した導電トラック構造間に構成された前記誘電体層の厚さdが、前記導電トラックの幅bの5分の1よりも小さく、好ましくは前記導電トラックの幅bの20分の1よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の高周波構成部品。
【請求項6】
前記対向した導電トラック構造間の前記誘電体層が、周りを取り囲む誘電体層に比べて増大した比誘電率を有することを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項7】
前記対向した導電トラック構造間の前記誘電体層が、5よりも大きい、好ましくは10よりも大きい、さらに好ましくは17よりも大きい比誘電率を有することを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項8】
前記対向した導電トラック構造間の前記誘電体層が、70よりも大きい比誘電率を有することを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項9】
前記対向した導電トラック間の前記層が、バリウム希土類チタニウム灰チタン石、チタン酸バリウム・ストロンチウム、ビスマス黄緑石構造、タンタル酸化物、マグネシウム・アルミニウム・カルシウム珪酸塩、(カルシウム、ストロンチウム)ジルコン酸塩および/またはマグネシウム・チタン酸塩を有し、ホウ素または鉛珪酸塩ガラスとも組み合わされる材料を含むことを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項10】
前記基板が、低温コファイヤー・セラミック(LTCC)材料または高温コファイヤー・セラミック(HTCC)材料としてのセラミック積層板、有機積層板、半導体基板または薄膜技術に基づく基板であることを特徴とする、請求項1から9の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項11】
動作周波数が400MHzを越えることを特徴とする、請求項1から10の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項12】
前記導体の構造のうちの1つの前記導電トラックの幅が2k増大され、kは前記導電トラック構造の期待される層オフセットνと前記導電トラック構造間に位置する前記誘電体層の厚さdの半分との合計の少なくとも70%であることを特徴とする、請求項1から11の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項13】
一方の電極層での前記導電トラックが同じ向きに走るセクションを有し、対向する電極層に対するこれらのセクションの分離が2k増大され、kは前記電極層の期待される層オフセットνと前記電極層間に位置する前記誘電体層の厚さdの半分との合計の少なくとも50%であることを特徴とする、請求項1から11の一項に記載の高周波構成部品。
【請求項14】
2つの導電トラックが、それらをリンクするブリッジまたは共通の導電部材によって結合されることを特徴とする、請求項1に記載の高周波構成部品。
【請求項15】
前記ブリッジまたは前記導電構成要素が、2つの電極層間の接続であることを特徴とする、請求項14に記載の高周波構成部品。
【請求項16】
対向した導電トラックの少なくとも1つの構成において、導電トラックの1つの始点が前記対向した導電トラックの1つの終点と同じ電位に置かれ、または導体を介してその終点に接続されることを特徴とする、請求項1から15の一項に記載の高周波構成部品における共振器。
【請求項17】
前記接続する導体が、対向した導体の構造の導電トラックのオーバーラップしていない拡張として、および/または少なくとも1つの絶縁層を介した少なくとも1つの貫通として設計されることを特徴とする、請求項16に記載の高周波構成部品における共振器。
【請求項18】
対向した導電トラックの少なくとも1つの構成において、導電トラックの1つの始点と前記対向した導電トラックの1つの終点が、固定された電位、特にアースに接続されることを特徴とする、請求項1から17の一項に記載の高周波構成部品における共振器。
【請求項19】
前記導電トラックのうちの1つの1つの自由終点が、固定された電位、特にアースに置かれることを特徴とする、請求項16または17に記載の共振器。
【請求項20】
少なくとも1つの自由終点が、導電トラックを用いて拡張され、かつ/またはコンデンサを用いてアースに接続されることを特徴とする、請求項16から19の一項に記載の共振器。
【請求項21】
前記対向した導電トラック構造の少なくとも1つの側で、アース表面が提供されることを特徴とする、請求項16から20の一項に記載の共振器。
【請求項22】
前記対向した導電トラック構造が、磁気材料によって囲まれることを特徴とする、請求項16から21の一項に記載の共振器。
【請求項23】
請求項16から22の一項に記載の少なくとも1つの共振器を有し、これにより、信号の入力および出力と信号間の前記共振器の結合が、導電トラック構造に接続された導電トラックを介して直接に、所々平行に走る導電トラックを介して誘導性で、かつ/またはコンデンサを介して容量性で行われる、フィルタ。
【請求項24】
請求項16から22の一項に記載の少なくとも2つの共振器を有し、これにより、2つの共振器間の少なくとも1つの結合が、アースに接続された共通の導電トラック構成要素を介して生成される、フィルタ。
【請求項25】
請求項16から22の一項に記載の少なくとも1つの共振器を有し、これにより、信号の入力が対称で行われ、出力が非対称で行われる、平衡トランス(バラン)。
【請求項26】
請求項16から22の一項に記載の少なくとも1つの共振器を有し、これにより、前記結合のインピーダンスが、前記それぞれの導電トラック構造上のそれらの結合の位置によって決定される、アダプタ回路網。
【請求項27】
フィルタ、平衡トランス、および/またはアダプタ回路網の機能を実行する、請求項16から22の一項に記載の少なくとも1つの共振器を有する回路網。
【請求項28】
請求項1から27に記載の前記構成部品のうちの少なくとも1つを有する高周波モジュール。
【請求項29】
送信および受信のモジュールの機能を実行する、請求項28に記載の高周波モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−500465(P2007−500465A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521714(P2006−521714)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【国際出願番号】PCT/IB2004/051228
【国際公開番号】WO2005/011046
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】