説明

高周波熱処理設備における品質保証システム

【課題】 熱処理された製品の1個ごとに加工状態と、さらに場合によっては硬化層深さがわかることによる品質保証の信頼性の向上や、不良品発生時の不良品の選別,特定を容易に行うことができる高周波熱処理設備における品質保証システムを提供する。
【解決手段】 高周波熱処理設備1において、個々の製品Wの熱処理時における高周波熱処理設備1での加工状態を監視する監視装置3を設ける。さらに個々の製品Wの熱処理により形成された硬化層Waの深さを非破壊で検査する硬化層検査装置2を設けても良い。監視装置3で監視した加工状態の情報や硬化層検査装置2により検査された硬化層深さの情報を個々の製品Wの識別番号と対応させて記録する記録装置4を設ける。前記識別番号のマークMを対応する製品Wに付けるマーキング装置5を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受部品、等速ジョイント部品、各種の軸、エンジン部品等となる金属製製品を高周波熱処理する高周波熱処理設備において、熱処理品質を管理する品質保証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波熱処理では、焼入れあるいは焼戻し加工を誘導加熱にて行っている。熱処理の品質検査では、表面の硬さ、有効硬化層の深さを確認する必要があるが、硬度計で測る必要があり、検査した製品は使用できなくなる。したがって、品質検査は抜き取りで行い、生産中は加工状態を計測してその値に図3のように上下限値を設けて監視し、上下限値内の物を良品としている。
【0003】
また、有効硬化層の検査には渦流式の非破壊検査があり、図4(A)のようにプローブ51で製品Wを図っているが、製品Wの一部分を測ることしか出来ず、同図(B)のように検査位置が何箇所もある場合の製品Wには、適用が難しい。
【0004】
なお、熱処理中の状態を監視するものとしては、特許文献1,2等に開示されたものがある。
【特許文献1】特開2001−226712号公報
【特許文献2】特開2001−294937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高周波熱処理の製品の品質検査は通常抜き取りで行っているため、不良品を混入して出荷する恐れがある。また、図5に示すように、抜き取り品質検査で一度不良品が発生した場合に、どこから不良品が発生したかが不明であり、同ロット内での選別が難しく、すべて廃棄する必要がある。さらに、不良の内容は分かっても、不良の原因(設備、加工状態の変化)を特定することは難しい。
【0006】
この発明の目的は、熱処理された製品の1個ごとに加工状態や硬化層深さがわかることによる品質保証の信頼性の向上や、不良品発生時の不良品の選別,特定を容易に行うことができる高周波熱処理設備における品質保証システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の高周波熱処理設備における品質保証システムは、金属製の製品(W)に対し、高周波電源(6)に接続された加熱コイル(7)で誘導加熱し、冷却装置(8)で冷却して熱処理を行う高周波熱処理設備(1)において、
個々の製品(W)の熱処理時における高周波熱処理設備(1)での加工状態を監視する監視装置(3)と、前記監視装置(3)で監視した加工状態の情報を個々の製品(W)の識別番号と対応させて記録する記録装置(4)と、前記識別番号のマーク(M)を対応する製品(W)に付けるマーキング装置(5)とを備えたものである。
【0008】
もう一つの手段として、この発明の高周波熱処理設備における品質保証システムは、金属製の製品(W)に対し、高周波電源(6)に接続された加熱コイル(7)で誘導加熱し、冷却装置(8)で冷却して熱処理を行う高周波熱処理設備(1)において、
個々の製品(W)の前記熱処理により形成された硬化層(Wa)の深さを非破壊で検査する硬化層検査装置(2)と、個々の製品(W)の熱処理時における高周波熱処理設備(1)での加工状態を監視する監視装置(3)と、前記硬化層検査装置(2)により検査された硬化層深さの情報および前記監視装置(3)で監視した加工状態の情報を個々の製品(W)の識別番号と対応させて記録する記録装置(4)と、前記識別番号のマーク(M)を対応する製品(W)に付けるマーキング装置(5)とを備えたものであってもよい。
【0009】
これらの構成により、マーキング装置で製品(W)に付された識別番号と記録装置(4)の記録内容とを照合することで、製品(W)の加工状態や硬化層(Wa)の深さを知ることができる。この場合に、製品(W)の1個ごとに加工状態や硬化層深さの情報が記録されるため、品質の信頼度が向上する。また、製品(W)の1個ごとに製品(W)と加工記録が対応しているため、不良発生時の不良品の選別、不良原因の特定が可能となる。
【0010】
前記硬化層検査装置(2)は、硬化層(Wa)の深さを非破壊で検査できるものであれば良く、例えば渦電流式の硬化層検査装置が採用できる。その他に、超音波式の硬化層検査装置を用いても良い。
【発明の効果】
【0011】
この発明の高周波熱処理設備における品質保証システムは、高周波熱処理設備において、個々の製品の熱処理時における高周波熱処理設備での加工状態を監視する監視装置と、前記監視装置で監視した加工状態の情報を個々の製品の識別番号と対応させて記録する記録装置と、前記識別番号のマークを対応する製品に付けるマーキング装置とを備えたものであるため、熱処理された製品の1個ごとの加工状態がわかり、不良品発生時の不良品の選別,特定を容易に行うことができる。また、製品の熱処理品質の信頼度が向上する。
【0012】
もう一つの手段として、この発明の高周波熱処理設備における品質保証システムは、高周波熱処理設備において、個々の製品の熱処理により形成された硬化層の深さを非破壊で検査する硬化層検査装置と、個々の製品の熱処理時における高周波熱処理設備での加工状態を監視する監視装置と、前記硬化層検査装置により検査された硬化層深さの情報および前記監視装置で監視した加工状態の情報を個々の製品の識別番号と対応させて記録する記録装置と、前記識別番号のマークを対応する製品に付けるマーキング装置とを備えたものであるため、熱処理された製品の1個ごとの加工状態と硬化層深さがわかり、不良品発生時の不良品の選別,特定を容易に行うことができる。また、製品の熱処理品質の信頼度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この高周波熱処理設備における品質保証システムは、製品Wを熱処理する高周波熱処理設備1において、監視装置3、記録装置4、およびマーキング装置5、さらに場合によっては硬化層検査装置2を設けたものである。
【0014】
高周波熱処理設備1は、金属製の製品Wに対し、高周波電源6に接続された加熱コイル7で誘導加熱し、冷却装置8で冷却する焼入れを含む熱処理を行う設備であり、例えば焼入れの後に焼き戻しを行うものであっても、また焼入れのみを行うものであっても良い。加熱コイル7から、冷却装置8を経由し、その後に製品Wを搬送する搬送装置12により、硬化層検査装置2、およびマーキング装置5を経由する熱処理ラインが構成される。搬送装置12は、複数のコンベヤ等やローディング装置等で構成される。硬化層検査装置2、およびマーキング装置5の順番は上記に限らない。または、硬化層検査装置2は無くても良い。
製品Wは、誘導加熱により熱処理が可能なものであれば良いが、例えば、軸受軌道輪等の軸受部品、等速ジョイントの継手部材等の等速ジョイント部品、コンロッドその他各種の軸、エンジン部品等の機械部品である。
【0015】
加熱コイル7に対して製品Wは、例えば支持台等の支持手段10で支持される。この例では、支持手段10は、加熱コイル7内で製品Wを載せてモータ11により回転させるものとされている。製品Wは、加熱コイル7で複数同時に加熱を行うものであっても、また1個ずつ加熱を行うものであっても良い。加熱コイル7は、製品Wに対して相対的に製品軸方向等に移動させながら誘導加熱を行うものであっても良い。
【0016】
冷却装置8は、熱処理の完了した製品Wを、焼入れのために冷却する装置であり、例えば冷却液等の冷媒を製品Wに向けて吐出するノズル8aと、このノズル8aに冷媒を供給する冷媒供給源8bとでなる。冷却装置8は、製品Wを冷却液槽等につけて冷却するものであっても良い。
【0017】
生産管理装置20は、高周波熱処理設備1の全体を管理する手段であり、個々の製品Wが高周波熱処理設備1中の何処にあるかを認識する製品位置認識手段21を有している。製品位置認識手段21は、換言すれば、高周波熱処理設備1中にある各製品Wを識別可能に認識する手段であり、個々の製品Wの識別番号と対応して各製品Wの位置を認識する。

【0018】
監視装置3は、個々の製品Wの熱処理時における高周波熱処理設備1での加工状態を監視する装置である。監視装置3による加工状態の監視項目は、製品Wの種類や熱処理方法等に応じて適宜設定する。加工状態の監視項目は、例えば次に挙げるものとされる。
・高周波電源6の加熱コイル7への供給電力、周波数。
・加熱中の製品Wの加熱コイル7に対する位置や回転数。
・冷却装置8における焼入冷却水の流量、温度。
これらの項目の監視は、高周波電源6や冷却装置8に設けた検出器類の出力を監視することで行う。
【0019】
硬化層検査装置2は、個々の製品Wの熱処理により形成された硬化層Waの深さを非破壊で測定する装置であり、例えば渦電流式の硬化層検査装置が用いられる。硬化層検査装置2は超音波式の硬化層検査装置であっても良い。この実施形態の硬化層検査装置2は、上記渦電流式のものであって、製品Wに近接させるプローブ2aと、プローブ2aの検出信号を処理して硬化層深さの値を得るデータ処理部2bとでなる。
硬化層検査装置2は、製品Wの硬化層Waにおける代表部分となる一部の深さを測定するものとされる。測定箇所は、1箇所であっても複数箇所であっても良く、また測定箇所が複数箇所の場合、複数のプローブ2aを用いて測定するものとしても、また1個のプローブ2aで位置を変えて測定するものであっても良い。
【0020】
記録装置4は、監視装置3で監視した前記加熱コイル7への供給電力等の加工状態の情報、さらに場合によっては硬化層検査装置2により検査された硬化層深さの情報を、個々の製品Wの識別番号と対応させて記録する装置である。個々の製品Wの識別番号は、生産管理装置20の製品位置認識手段21から得る。記録装置4は、加工状態の情報の他に、高周波熱処理設備1の各部の設定情報、例えば高周波電源6の加熱コイル7への供給電力や周波数の設定情報を、製品Wの識別番号と共に記録しても良い。設定情報は、生産管理装置20で管理され、記録装置4へ転送される。
記録装置4は、いわばデータベースであり、上記識別番号、加工状態、硬化層深さ等の情報を記憶する記憶部4aと、記憶部4aに対する入出力の処理を行うデータベースマネジメントシステムである記憶情報管理部4bとを有する。
記録装置4は、生産管理装置20と同じコンピュータに設けられたものであっても、また別のコンピュータに設けられてネットワークで接続されたものであっても良い。
【0021】
マーキング装置5は、記録装置4で記録する識別番号となるマークMを、対応する製品Wに付ける手段であり、例えばマークMを刻印するものとされる。マーキング装置5は、識別番号を製品Wに付すことができるものであれば良く、刻印の他の種々の方法で識別番号を施すものが採用できる。マーキング装置5は、例えばバーコード等のコードや、ICタグ等で識別番号を製品に付すものであっても良い。マーキング装置5において、個々の製品Wに付すべき識別番号は、例えば生産管理装置20から得るが、この他に記録装置4から得るものとしても良い。
【0022】
上記構成の作用を説明する。製品Wは、熱処理として、高周波電源6で励磁した加熱コイル7により誘導加熱され、冷却装置8で冷却することで焼入れ処理される。
この熱処理において、上記高周波電源6の加熱コイル7への供給電力や周波数等の状態である加工状態は、監視装置3で監視され、その監視した値が個々の製品Wの熱処理毎に記録装置4に記録される。製品Wには記録と対応した識別番号が付けられ、記録装置4では識別番号と対応して上記加工情報を記録する。
さらに、熱処理された各製品Wは、渦電流式等の硬化層検査装置2により非破壊で代表部分の深さが測定されても良い。測定された硬化層深さは、判定手段(図示せず)により必要な範囲の深さ(すなわち設定された深さの範囲)となっていることが確認され、かつ記録装置4に、上記識別情報に対応して加工情報と共に記録される。
【0023】
図2(A)はこの実施形態における製品Wの熱処理の管理の概念を示し、同図(B)は従来の管理の概念を示す。
同図からわかるように、この実施形態の品質保証システムによると、製品Wの1個毎に製品識別情報と共に、加工情報さらに場合によっては硬化層深さが記録される。そのため、品質の信頼度が向上する。また、製品Wの1ごとに製品と加工記録が対応しているため、不良発生時の不良品の選別、不良原因の特定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態に係る高周波熱処理設備における品質保証システムの概念構成を示す説明図である。
【図2】(A)は同実施形態の品質保証システムによる管理状態を示す説明図、(B)は従来の管理状態を示す説明図である。
【図3】従来の管理による製品生産と加工条件との関係を示す説明図である。
【図4】渦電流式硬化層検査装置による各測定例の説明図である。
【図5】従来の管理による製品生産と品質の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1…高周波熱処理設備
2…硬化層検査装置
3…監視装置
4…記録装置
5…マーキング装置
6…高周波電源
7…加熱コイル
8…冷却装置
M…マーク
W…製品
Wa…硬化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の製品に対し、高周波電源に接続された加熱コイルで製品を誘導加熱し、冷却装置で冷却して熱処理を行う高周波熱処理設備において、
個々の製品の熱処理時における高周波熱処理設備での加工状態を監視する監視装置、および前記監視装置で監視した加工状態の情報を個々の製品の識別番号と対応させて記録する記録装置を備えた高周波熱処理設備における品質保証システム。
【請求項2】
金属製の製品に対し、高周波電源に接続された加熱コイルで製品を誘導加熱し、冷却装置で冷却して熱処理を行う高周波熱処理設備において、
個々の製品の前記熱処理により形成された硬化層の深さを非破壊で検査する硬化層検査装置と、個々の製品の熱処理時における高周波熱処理設備での加工状態を監視する監視装置と、前記硬化層検査装置により検査された硬化層深さの情報および前記監視装置で監視した加工状態の情報を個々の製品の識別番号と対応させて記録する記録装置と、前記識別番号のマークを対応する製品に付けるマーキング装置とを備えた高周波熱処理設備における品質保証システム。
【請求項3】
請求項2において、前記硬化層検査装置が渦電流式硬化層検査装置である高周波熱処理設備における品質保証システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−262450(P2007−262450A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86053(P2006−86053)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】