説明

高周波用低温焼成磁器組成物、その製造方法及び電子部品

低温焼成磁器組成物は1000℃以下で焼成可能であり、低い比誘電率(16GHz以上において9以下)と高いQf値(10,000以上)を有する。組成物はAg、AuまたはCuなどの配線材料と同時焼成できる。セラミック組成物は(質量で)CaOとMgOとSiO2とを合計量で60質量%を超え98.6質量%以下、Bi23を1質量%以上35質量%未満及びLi2Oを0.4質量%以上6質量%未満含み、(CaO+MgO)とSiO2の含有比が1:1以上1:2.5未満(モル比)含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率で低誘電損失の高周波用低温焼成磁器組成物、これを用いた電子部品及び低温焼成磁器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化時代を迎え、半導体素子には、高速化、高集積化及び実装の高密度化が求められている。半導体素子における高速化を進めるためには、配線長の短縮等に加え、回路上の信号伝播速度の高速化が不可欠であるが、信号伝播速度は基板材料の比誘電率の平方根に反比例するため、より低い誘電率の基板材料が必要である。また、高集積化や実装の高密度化のためには抵抗率の低い配線材料(Ag、Au、Cu等)の使用が求められるが、これらの金属は融点が低いため、配線パターンの印刷後に基板を焼成する多層配線基板等では、低温焼成可能な基板材料を用いる必要がある。このため、電子機器用基板材料として従来広く用いられてきたアルミナ基板(誘電率:9〜9.5、焼成温度:1500℃前後)は高周波回路基板には適さず、これに代わる、より低い誘電率を有し低温焼成可能な材料が必要とされている。また、マイクロ波、ミリ波帯域での低損失化も要求されている。
【0003】
そこで、最近では、高速化に対応し得る低誘電率基板材料として、ガラスと無機質フィラーとからなるガラスセラミック材料が検討されている。この種のガラスセラミック材料は、誘電率が3〜7程度と低いことから高周波用絶縁基板として適しており、また、800〜1000℃の温度で焼成することができるため、導体抵抗の低いAg、Au、Cu等と同時焼成できるという特長がある。
【0004】
例えば、特開2000-188017号公報(特許文献1)(米国特許第6232251号)には、ディオプサイド(CaMgSi26)型結晶相を析出可能なガラス相と、フィラーとしてMg及び/またはZnとTiとを含有する酸化物を含む1000℃以下で焼成可能な高周波用磁器組成物が開示されている。また、特開2001-240470号公報(特許文献2)には、SiO2、Al23、MO(Mはアルカリ土類金属元素)及びPbを含む結晶化ガラス成分と、Al23、SiO2、MgTiO3、(Mg,Zn)TiO3、TiO2、SrTiO3、MgAl24、ZnAl24、コージェライト、ムライト、エンスタタイト、ウイレマイト、CaAl2Si28、SrAl2Si28、(Sr,Ca)Al2Si28、フォルステライトの群から選ばれる少なくとも1種のフィラーとからなる高周波用配線基板が開示されている。
また、ホウ素を焼成助剤に用いた低温焼成磁器組成物も提案されている(特開2002-037661号公報(特許文献3)、特開2002-173367号公報(特許文献4)等参照)。
【0005】
しかしながら、これらのガラスセラミックス材料は、誘電率は低くても、信号周波数10GHz以上の高周波帯域における誘電損失(tanδ)が概ね2×10-3以上と高く、すなわち、Qf値で5×103〜8×103程度であり、高周波用基板材料として実用化し得るに十分な特性を有していない。例えば、特開2002-037661号公報(特許文献3)ではQf値は高々0.5×103程度、特開2002-173367号公報(特許文献4)で5×103程度である。なお、ここでQf値とは測定周波数(f/GHz)とQ(≒1/tanδ)の積である。
【0006】
また、特開2001-278657号公報(特許文献5)には、ディオプサイド結晶(CaMgSi26)を主結晶として含有する低温焼成磁器組成物であって、その誘電率εが7以下、かつ、そのQf値が10000GHz以上であることを特徴とする低温焼成磁器組成物が記載されている。しかし、特開2001-278657号公報(特許文献5)の組成物では、1100℃以上での仮焼処理が不可欠であり、製造時のエネルギーコスト及び環境負荷が大きい。
【0007】
【特許文献1】特開2000−188017号公報
【特許文献2】特開2001−240470号公報
【特許文献3】特開2002−037661号公報
【特許文献4】特開2002−173367号公報
【特許文献5】特開2001−278657号公報
【0008】
従って、本発明は、Ag、Au、Cu等の低抵抗金属と同時焼成が可能であり、かつ製造時のエネルギーコスト及び環境負荷が低く、しかも低誘電率及び高周波領域で低誘電損失を実現する低温焼成磁器組成物、及び低温焼成磁器の製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0009】
本発明者らは、上記問題点を解決するべく検討した結果、Ca、Mg、Siの酸化物にBi23とLi2Oを添加した組成物は、850〜1000℃程度の温度で焼成可能であり、かかる組成物を焼成して得られる低温焼成磁器は、高温での仮焼処理を経なくても、低い比誘電率と低い誘電損失を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の低温焼成磁器組成物及び低温焼成磁器の製造方法を提供する。
(1) CaOとMgOとSiO2とを合計量で60質量%を超え98.6質量%以下(但し、CaOとMgOのいずれか一方は含有しなくてもよい)、Bi23を1質量%以上35質量%未満及びLi2Oを0.4質量%以上6質量%未満含み、(CaO+MgO)とSiO2のモル比比が1:1以上1:2.5未満の範囲である低温焼成磁器組成物。
(2) CaOとMgOとSiO2の少なくとも一部をCa及び/またはMgとSiとの複合酸化物として含有する上記1記載の低温焼成磁器組成物。
(3) Ca及び/またはMgとSiを含む前記複合酸化物が、ディオプサイト(CaO・MgO・2SiO2)系結晶相、エンスタタイト(MgO・SiO2)系結晶相及び/またはウォラストナイト(CaO・SiO2)系結晶相を含む上記2記載の低温焼成磁器組成物。
(4) 16GHz以上での誘電率が9.0以下、Qf値が10,000以上である上記1乃至3のいずれかに記載の低温焼成磁器組成物。
(5) 上記1〜4のいずれかに記載の低温焼成磁器組成物上に配線パターンを有する電子部品。
(6) 配線パターンがAg、Au及びCuから選択される少なくとも1種の金属を含む導体ペーストの焼成により形成される上記5に記載の電子部品。
(7) CaOとMgOとSiO2(但し、CaOとMgOのいずれか一方は含有しなくてもよい)を60質量%を超え98.6質量%以下、Bi23を1質量%以上35質量%未満及びLi2Oを0.4質量%以上6質量%未満含む原料粉を(CaO+MgO)とSiO2のモル比が1:1以上1:2.5未満となるように混合し850℃以下で仮焼した後、所定形状に成形し、850℃〜1000℃で焼成する低温焼成磁器組成物の製造方法。
(8) 原料粉末が粒径2.0μm以下の微粉末である上記7に記載の方法。
【0011】
(A)磁器組成物
本発明の低温焼成磁器組成物は、CaOとMgOとSiO2とを合計量で60質量%を超え98.6質量%以下(但し、CaOとMgOのいずれか一方は含有しなくてもよい)、Bi23を1質量%以上35質量%未満及びLi2Oを0.4質量%以上6質量%未満含み、(CaO+MgO)とSiO2のモル比が1:1以上1:2.5未満の範囲であり、好ましくは、CaO、MgOとSiO2の少なくとも一部をCaO及び/またはMgとSiとの複合酸化物として含有する低温焼成磁器組成物である。
【0012】
すなわち、典型的には組成式:
a(xCaO・(1−x)MgO・ySiO2)・bBi23・cLi2
(式中、a、b、cは質量%であって
a+b+c=100、
60<a≦98.6、
1≦b<35、
0.4≦c<6
を満たし、x、yはモル比であって、
0≦x≦1、
x:yは1:1以上1:2.5未満である。)で表わされる低温焼成磁器組成物で表わされる磁器組成物である。
【0013】
Ca、Mg、Siを含有する複合酸化物に対してBi23とLi2Oとを含有させることにより、加熱時、Bi23−SiO2系液相とLi2O−SiO2系液相とが形成され、この液相反応を介して850〜1000℃程度の温度で焼成できる。
【0014】
本発明の低温焼成磁器組成物におけるCaOとMgOとSiO2の合計量は、60質量%を超え98.6質量%以下である。CaOとMgOとSiO2の含有量が過少であると、これらを含む結晶相を主相とすることによる高Qfという特徴が損なわれる。過剰だと低温焼結性が喪失する。好ましい含有量は他の成分の量や所望の特性(例えば、誘電率、Qf、強度、焼成温度、嵩密度等のいずれを重視するか)によるが、通常は75質量%以上98質量%以下、より好ましくは80質量%以上96質量%以下、さらに好ましくは85質量%以上95質量%以下である。CaOとMgOの量比は任意でありいずれか一方は含有しなくてもよいが、(CaO+MgO)とSiO2のモル比は1:1以上1:2.5未満の範囲である。
【0015】
また、Bi23の合計量は1質量%以上35質量%未満、Li2Oの合計量は0.4質量%以上6質量%未満である。Bi23は好ましくは1.5〜25質量%、より好ましくは3〜15質量%である。Li2Oは好ましくは0.4〜5質量、より好ましくは0.5〜3質量の範囲である。
Bi23の含有量が過少であると低温焼結性が実現できない。また、過剰だと嵩密度(実測値を完全に緻密な材料についての計算値で割って得た相対値)が4g/cm3以上となる上、さらに2Bi23・3SiO2が主相となるため誘電率が高くなり望ましくない。Li2Oの含有量が過少であると低温焼結性が実現できない。また、過剰だと16GHzの高周波領域における誘電損失が1.0×10-3以上と高く、高Qf値を実現できない。
【0016】
Ca、MgとSiの複合酸化物は、CaO、MgOとSiO2の量比が上記範囲を満たすものであればよいが、(CaO,MgO)・nSiO2と表わしたときに1≦n≦2を満足する複合酸化物を主成分とすることが好ましい。n=2の複合酸化物結晶(CaO・MgO・2SiO2)はディオプサイド(Diopside)として知られ、n=1の複合酸化物結晶(CaO・SiO2)、(MgO・SiO2)はそれぞれウォラストナイト(Wollastonite)、エンスタタイト(Enstatite)として知られる。
【0017】
従って、本発明の低温焼成磁器は、好ましくは、ディオプサイド系結晶相、エンスタタイト系結晶相及び/またはウォラストナイト系結晶相を主体とし、さらにBi23−SiO2系結晶相及びLi2O−SiO2系結晶相から主として構成されるものである。ここで、「ディオプサイド系結晶相」とはディオプサイド及びこれに類する結晶相であり、磁器組成物の成分から構成される同型の結晶相を含んでもよい。ウォラストナイト系結晶相、エンスタタイト系結晶相、Bi23−SiO2系結晶相及びLi2O−SiO2系結晶相についても同様である。
目標とする物性値を実現するものであれば各相の具体的な含有比は限定されないが、通常は、ディオプサイド系結晶相、エンスタタイト系結晶相及び/またはウォラストナイト系結晶相を磁器の全体積の60%以上含み、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上を含む。
なお、発明の効果を損なわない限りにおいて、SiO2系結晶相等や非晶質等を含んでも良い。
本発明の低温焼成磁器は、Qf値が10,000以上であり、850℃〜1000℃の温度範囲での焼成によって相対密度95%以上まで緻密化されたものである。
【0018】
(B)低温焼成磁器の製造方法
本発明の低温焼成磁器は、(CaO+MgO)とSiO2とを1:1以上1:2.5未満のモル比で含有するCaO、MgOとSiO2の混合物及び/または複合酸化物(但し、CaOとMgOのいずれか一方は含有しなくてもよい)60質量%を超え98.6質量%以下と、Bi23 1質量%以上35質量%未満及びLi2O 0.4質量%以上6質量%未満を含む原料粉を混合し850℃以下、好ましくは750〜850℃で仮焼した後、適宜粉砕して、所定形状に成形し、850℃〜1000℃で焼成することにより製造できる。
出発原料として用いるCaO、MgOとSiO2は、各元素単体の酸化物粉末のほかに、Mg2SiO4等の複合酸化物や焼結過程で酸化物を形成し得る炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩等の形態で添加できる。
【0019】
上記の主成分原料に対して、焼結助剤としてBi23粉末、Li2O粉末を上記の割合、好ましくは上記の好適範囲内となるように添加混合する。Bi23とLi2Oも、各金属の酸化物粉末のほかに、焼結過程で酸化物を形成し得る炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩等の形態で添加できる。
CaO、MgO、SiO2、Bi23、Li2O等の原料粉末は分散性を高め、望ましい誘電率や低誘電損失を得るために2.0μm以下、特に1.0μm以下の微粉末とすることが望ましい。
【0020】
上記の割合で添加混合した混合粉末に適宜バインダーを添加した後、例えば、金型プレス、押し出し成形、ドクターブレード法、圧延法等により任意の形状に成形後、酸化雰囲気中または、N2、Ar等の非酸化性雰囲気中において850℃〜1000℃、特に850℃〜950℃の温度で1〜3時間焼成することにより相対密度95%以上に緻密化することができる。この時の焼成温度が850℃より低いと、磁器が十分に緻密化せず、1000℃を越えると緻密化は可能であるが、Ag、Au、Cu等の低融点な導体を配線材料として用いることが難しくなる。
【0021】
本発明の方法によれば、Ca、Mg及びSiの複合酸化物である固相とBi23−SiO2系液相及びLi2O−SiO2系液相とのより活性な固液反応が生じる結果、少ない焼結助剤量で磁器を緻密化することができる。そのために、誘電損失を増大させる要因となる粒界の非晶質相の量を最小限に抑えることができる。このように本発明の製造方法によれば、磁器中に、少なくともCa、MgとSiを含むディオプサイド系結晶相、エンスタタイト系結晶相及び/またはウォラストナイト系結晶相、Bi23−SiO2系結晶相及びLi2O−SiO2系結晶相を析出させることにより、16GHz程度でも比誘電率を9以下に制御できるとともに、低誘電損失、従って高Qf値の高周波用磁器を得ることができる。また、(CaO+MgO):SiO2の量比を調整することにより誘電率の調整が容易である。例えば、(CaO+MgO):SiO2のモル比が1:1.75〜1:2.5の範囲では比誘電率を7以下とすることが可能であり、一方、(CaO+MgO):SiO2のモル比を1:1〜1:1.75の範囲とすれば、比誘電率を7〜9の範囲とすることが可能である。
【0022】
(C)磁器組成物の用途
本発明における磁器組成物は、850〜1000℃で焼成可能であることから、特にAg、Au、Cuなどを配線する配線基板の絶縁基板として用いることができる。かかる磁器組成物を用いて配線基板を作製する場合には、例えば、上記のようにして調合した混合粉末を公知のテープ成形法、例えばドクターブレード法、押し出し成形等に従い、絶縁層形成用のグリーンシートを作製した後、そのシートの表面に配線回路層用として、Ag、Au及びCuのうちの少なくとも1種の金属、特に、Ag粉末を含む導体ペーストを用いて、グリーンシート表面にスクリーン印刷法等によって配線パターンを回路パターン状に印刷し、場合によってはシートにスルーホールやビアホール形成後、上記導体ペーストを充填する。その後、複数のグリーンシートを積層圧着した後、上述した条件で焼成することにより、配線層と絶縁層とを同時に焼成することができる。従って、これらの回路を含む電子部品も本発明の範囲に含まれる。なお、焼成条件下に使用できる限りにおいて、前記以外の材料からなる配線パターン(例えば、高融点材料からなる抵抗が含まれるが、これに限定されない)を含んでもよい。また、電子部品はこれらの配線パターンのみからなるものでもよいし、さらに個別の素子が実装されるものでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0024】
実施例1〜41
平均粒径が1μm以下のCaO、MgO(Mg2SiO4)、SiO2、Bi23、Li2CO3を酸化物換算の含有比が表1〜2の割合となるように混合した。この混合物を800℃にて5時間仮焼し、適宜粉砕して有機バインダー、可塑剤、トルエンを添加し、ドクターブレード法により厚さ150μmのグリーンシートを作成した。そして、このグリーンシートを5枚積層し、70℃の温度で150kg/cm2の圧力を加えて熱圧着した。得られた積層体を大気中で、500℃で加熱して有機成分を分解及び/または揮発させて除去した後、大気中で表1の条件下に焼成して多層基板用磁器を得た。
【0025】
得られた焼結体について誘電率、誘電損失を以下の方法で評価した。測定はJIS R1627「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電率特性の試験方法」に準じて行った。すなわち、上記の多層基板用磁器を直径1〜5mm、厚み2〜3mmの試料の円盤状に切り出し、円盤状試料の両端面を2枚の平行導体板で短絡して誘電体共振器を構成し、この誘電体共振器のTE011モードの共振特性と無負荷Qを16〜20GHzでネットワークアナライザー(ヒューレット・パッカード社製8722C)を用いて測定し、誘電率と誘電損失(tanδ)を算定し、測定周波数とQ(=1/tanδ)からQf値を計算した。結果を表1〜2に併せて示す。
また、各試料についてX線回折測定を行い、標準試料のX線回折ピークとの比較によって磁器の構成相を同定したところ、ディオプサイド結晶相(CaO・MgO・2SiO2)、ウォラストナイト(CaO・SiO2)結晶相及び/またはエンスタタイト結晶相(Mg・SiO4)、Bi23−SiO2系結晶相(典型的には、ユーリタイト(2Bi23・3SiO4))、Li2O−SiO2系結晶相の各相の存在が確認された。
【0026】
以上の結果から明らかなように、CaO、MgO、SiO2、Bi23及びLi2Oを本発明の範囲で含み、結晶相として、ディオプサイド結晶相、ウォラストナイト結晶相及び/またはエンスタタイト系結晶相、Bi23−SiO2系結晶相、Li2O−SiO2系結晶相が主として析出した本発明の磁器は、いずれも誘電率が9以下、Qf値が10,000以上の優れた値を示す。
【0027】
比較例1〜6
平均粒径が1μm以下のCaO、MgO、MgO、SiO2、Bi23、Li2CO3を各酸化物換算の組成が表2の割合となるように混合し、実施例1〜41と同様にして、表1〜2の条件下に焼成して多層基板用磁器を得た。実施例と同様に測定した誘電率等の結果も表1〜2に示す。
Bi23、Li2Oを添加していない試料では低温焼成が不可能であり(比較例1)、Bi23量が1質量%未満である試料(比較例2)及びLi2O量が0.4質量%未満である試料(比較例4)では本発明の焼結温度範囲では焼結しない。Biの含有量が増すと嵩密度が増加する傾向があり、Bi23量が35質量%(比較例5)では嵩密度がほぼ4.0に達した。一方、Li2O量が6質量%に達すると(比較例3)誘電損失が大きくQf値が10,000未満に低下した。また、(CaO+MgO):SiO2比が1:2.5を超える試料(比較例6)ではQf値が10,000未満に低下する。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
比較例7
Biに代えBを用いた他は実施例28と同様の条件で調製した組成物をほぼ同じ温度(921℃)で焼成した。これは、特開2001-278657号公報の組成物に相当する。但し、特開2001-278657号では主成分(CaO、MgOおよびSiO2)のみを1100℃で仮焼した後にB23を添加して本焼成を行なっているのに対し、この比較例では仮焼段階でB23を添加し、仮焼温度も800℃である。結果は、16.7GHzでのQ値が523であり、Qf値(8749)は10,000未満であった。具体的な組成及び結果を表3に示す(実施例28は表2中に示したものと同一である)。
【0031】
上記の通り、特開2001-278657号公報では、ディオプサイド結晶を形成するために添加成分(B23等)を加える前に1100℃以上での仮焼を行なっているが、比較例7の結果からわかるように、このような仮焼を事前に行なわず、ディオプサイド結晶構成成分(Ca、Mg、Siの各酸化物)にB23等を添加して全成分を一括して仮焼、次いで(粉砕、成形後に)焼成を行なうとQf値が大きく低下する。一方、添加成分としてBi23等を用いる本発明では、全成分を一括して仮焼、次いで(粉砕、成形後に)焼成を行なっているにも拘わらず高いQf値が得られる。
【0032】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0033】
以上詳述した通り、本発明の低温焼成磁器組成物は、液相形成成分としてBiとLiの酸化物を用いた結果、ディオプサイト系結晶相、エンスタタイト系結晶相及び/またはウォラストナイト系結晶相を主相とする磁器組成物において低温焼結性を実現した。また、Bi23は多量に導入しても誘電損失を低下させないことが判明し、これにより高Qf値を実現できる。従って、本発明によれば、16GHz以上の高周波域で利用できる誘電率(9以下)、高Qf(10,000以上)の低損失LTCC(低温焼成多層基板)材料として最適であり、各種のマイクロ波用回路素子等において利用できる。しかも、すべての成分を850℃〜1000℃で焼成するだけで製造できるため、Cu、Au、Ag等による配線を同時焼成により形成することができるとともに、製造に要するエネルギーコストや環境負荷が小さい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOとMgOとSiO2とを合計量で60質量%を超え98.6質量%以下(但し、CaOとMgOのいずれか一方は含有しなくてもよい。)、Bi23を1質量%以上35質量%未満及びLi2Oを0.4質量%以上6質量%未満含み、(CaO+MgO)とSiO2のモル比が1:1以上1:2.5未満の範囲である低温焼成磁器組成物。
【請求項2】
CaOとMgOとSiO2の少なくとも一部をCa及び/またはMgとSiとの複合酸化物として含有する請求項1記載の低温焼成磁器組成物。
【請求項3】
Ca及び/またはMgとSiを含む前記複合酸化物が、ディオプサイト(CaO・MgO・2SiO2)系結晶相、エンスタタイト(MgO・SiO2)系結晶相及び/またはウォラストナイト(CaO・SiO2)系結晶相を含む請求項2記載の低温焼成磁器組成物。
【請求項4】
16GHz以上での誘電率が9.0以下、Qf値が10,000以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の低温焼成磁器組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の低温焼成磁器組成物上に配線パターンを有する電子部品。
【請求項6】
配線パターンがAg、Au及びCuから選択される少なくとも1種の金属を含む導体ペーストの焼成により形成される請求項5に記載の電子部品。
【請求項7】
CaOとMgOとSiO2(但し、CaOとMgOのいずれか一方は含有しなくてもよい。)を60質量%を超え98.6質量%以下、Bi23を1質量%以上35質量%未満及びLi2Oを0.4質量%以上6質量%未満含む原料粉を(CaO+MgO)とSiO2のモル比が1:1以上1:2.5未満となるように混合し850℃以下で仮焼した後、所定形状に成形し、850℃〜1000℃で焼成する低温焼成磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
原料粉末が粒径2.0μm以下の微粉末である請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2006−523602(P2006−523602A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507716(P2006−507716)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005296
【国際公開番号】WO2004/092093
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【Fターム(参考)】