説明

高周波発振回路

【課題】高価なFETを用いることなく、例えば10GHz以上の高周波数波帯で用いる場合にも使用可能で、広帯域化を図った高周波発振回路を構成する。
【解決手段】デプレッション型のNチャネルFETからなる発振回路用FET Q1のゲートを直列帰還素子である線路SL1を介して接地し、デプレッション型のNチャネルFETからなるバッファアンプ用FET Q2のソースをキャパシタC2を介して高周波的に接地し、バッファアンプ用FET Q2のゲートと発振回路用FET Q1のドレインとを直流的に導通する第1のインピーダンス回路Z1を介して接続し、バッファアンプ用FET Q2のソースと発振回路用FET Q1のドレインとの間に直流的に導通する直流抵抗成分を含む第2のインピーダンス回路Z2を接続し、発振回路用FET Q1のソースと接地との間に直流的に導通する直流抵抗成分を含む第3のインピーダンス回路Z3を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デプレッション型のNチャネルFETからなる発振回路用FETを有する発振回路と、デプレッション型のNチャネルFETからなるバッファアンプ用FETを有するバッファアンプと、共振回路を備えた高周波発振回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、発振回路部およびバッファアンプ部にそれぞれトランジスタを備えた高周波発振回路が特許文献1に開示されている。
【0003】
図1は特許文献1に示されている高周波発振回路の回路図である。
この発振回路は、コルピッツ型の発振回路部と、この発振回路部による発振出力を増幅する増幅回路部とから構成されている。
【0004】
発振回路部は、高周波的にベース接地された発振用トランジスタQ12を中心にコルピッツ発振回路が構成されていて、発振用トランジスタQ12、コンデンサC14、C15、C16、C17、C19、抵抗R11、R12、R13、R17等の回路素子および発振周波数で誘導性になる共振回路RES11から構成されている。
【0005】
発振用トランジスタQ12、コンデンサC15、C16、および共振回路RES11は主に発振に寄与する。発振用トランジスタQ12のベースは、バイパスコンデンサであるコンデンサC17により高周波的にグランドに接続されている。さらに結合コンデンサであるコンデンサC14、C19により、直流成分をカットし交流成分だけを通過するように構成されている。発振用トランジスタQ12の動作電圧等は、抵抗R11、R12、R13、R17によって設定され、駆動電圧は直流駆動電圧源Vccから供給される。
【特許文献1】特開2001−119240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に示した従来の高周波発振回路では、ベース接地されたトランジスタQ12からなる発振回路と、エミッタ接地されたトランジスタQ11からなる増幅回路があり、トランジスタQ12のコレクタ電流経路とトランジスタQ11のコレクタ電流経路が直流的に直列接続されているので、両トランジスタに流れるコレクタ電流の合計を減少させることができる。
【0007】
しかし、この図1に示した従来の高周波発振回路においては、発振回路部のトランジスタQ12およびバッファアンプ部のトランジスタQ11の動作点を決定するために、分圧用の抵抗R12,R13,R17および抵抗R11からなるバイアス回路を設けているが、これらはQ11,Q12に対して駆動電圧を供給するとともにそれらの動作点を設定するためにのみ設けられている。また、発振回路部とバッファアンプ部との間には直流カット用の結合コンデンサC14が必要であった。
【0008】
常に要求される発振回路モジュールの小型化・低コスト化を考慮すると、上記バイアス回路や結合コンデンサを備えた回路構成には改善の余地があった。
【0009】
また、図1に示した従来の高周波発振回路においては、並列帰還型であるため10GHz以上の高周波数波帯では素子サイズが小さくなるに伴ってレイアウト設計が困難になるという問題があった。10GHz帯を超える周波数帯で発振・増幅させるためには、従来は特殊な製造プロセスによる微細配線構造のFETが用いられているが、この構造のFETは高価であり、全体にコスト高な回路になってしまう。
【0010】
そこで、この発明の目的は、バイアス回路を簡素化し、必要な部品点数を削減して小型化・低コスト化を図った高周波発振回路を提供することにある。また、それとともに汎用なプロセスを用いた安価な、例えば5GHz帯で使用されているFETを用いて10GHz以上の高周波帯にも使用可能で、広帯域化を図った高周波発振回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解消するために、この発明の高周波発振回路は次のように構成する。
(1)デプレッション型のNチャネルFETからなる発振回路用FETを有する発振回路と、デプレッション型のNチャネルFETからなるバッファアンプ用FETを有するバッファアンプと、共振回路を備えた高周波発振回路であって、
前記発振回路用FET(Q1)のゲートを、直列帰還素子(SL1)を介して接地し、前記発振回路用FET(Q1)のソースに前記共振回路を接続し、
前記バッファアンプ用FET(Q2)のドレインを電源に接続し、前記バッファアンプ用FET(Q2)にキャパシタを介して発振信号の出力端子を接続し、前記バッファアンプ用FET(Q2)のソースを直流的に遮断するとともに高周波的に接地し、前記バッファアンプ用FET(Q2)のゲートと前記発振回路用FET(Q1)のドレインとを直流的に導通する第1のインピーダンス回路(Z1)を介して接続するとともに、前記バッファアンプ用FET(Q2)のソースと前記発振回路用FET(Q1)のドレインとの間に直流的に導通する直流抵抗成分を有する第2のインピーダンス回路(Z2)を接続し、前記発振回路用FET(Q1)のソースと接地との間に直流的に導通する直流抵抗成分を有する第3のインピーダンス回路(Z3)を配置したことを特徴とする。
【0012】
この構成により、第1・第2・第3のインピーダンス回路が駆動電圧の供給とバイアス回路を兼ねることになり、前記バッファアンプ用FET(Q2)のゲート電位は、第2のインピーダンス回路が有する直流抵抗成分と、第3のインピーダンス回路が有する直流抵抗成分との比によって決まるため、バイアス回路用の分圧抵抗が不要となる。また、発振回路用FET(Q1)とバッファアンプ用FET(Q2)のゲート間に直流カット用の結合キャパシタを設ける必要もなくなる。その結果、部品点数の削減にともなって回路構成を簡略化でき、小型化・低コスト化が図れる。さらに、発振回路用FET(Q1)及びバッファアンプ用FET(Q2)が共に自己バイアス回路となっているため、発振の安定度が増す。
【0013】
また、バッファアンプ用FET(Q2)のゲートにバイアス電圧を供給するための配線が不要になること、およびバッファアンプ用FET(Q2)のゲートと発振回路用FET(Q1)のドレインとの間に直流カット用の結合キャパシタが不要になることに伴い、バッファアンプ用FET(Q2)のゲート部の配線パターンが極めて単純化される、そのため、全体の占有面積が縮小化され、このことも小型化・低コスト化に寄与する。
【0014】
また、発振回路用FET(Q1)のゲートに直列帰還素子(SL1)を設ける構成であるので、回路を複雑化させることなく、高周波(例えば10GHzを超える周波数帯域)での反射利得が容易に得られ、安価なプロセスを用いて高周波発振回路を実現できる。また、高周波帯における負性抵抗(反射利得)の設計が容易となる。
【0015】
さらに、駆動電圧の印加経路が一経路であるので、一定の電源電圧印加時に全体に低消費電流化できる。また、バッファアンプを発振回路の後段に配置しているので、負荷変動を回避できる。
【0016】
(2)前記第2のインピーダンス回路は、発振周波数でインピーダンスがほぼ最大となるものとする。
これにより、発振回路用FET(Q1)のドレイン端から第2のインピーダンス回路(Z2)を見込むインピーダンスが高くなるので、発振回路用FET(Q1)とバッファアンプ用FET(Q2)との間の高周波伝送部に影響を及ぼさない。
【0017】
(3)前記第1のインピーダンス回路は、その電気長を発振周波数の1/2波長未満とする。
これにより、バッファアンプ用FET(Q2)のゲートと発振回路用FET(Q1)のドレインの間の電気長に応じて利得が生じる周波数が発振周波数より低い周波数帯域内で存在しなくなるので、発振周波数より低い周波数帯域内で不要利得の出現が無く、使用できる周波数帯域が広くなる。
【0018】
(4)発振回路用FET(Q1)およびバッファアンプ用FET(Q2)による発振回路の増幅回路部分は集積回路で構成してもよい。
このことにより、バッファアンプ用FET(Q2)のゲートに対するバイアス電圧を供給するための端子が不要となるので、端子数が少ない分さらに小型化・低コスト化できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、回路構成が簡素化され部品点数が削減されて小型化・低コスト化が図れる。
さらに、発振回路及びバッファアンプが自己バイアス回路を有する回路構成となるので、発振安定度が増す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
《第1の実施形態》
図2はこの発明の第1の実施形態に係る高周波発振回路の回路図である。この高周波発振回路104は、共振回路10および増幅回路11で構成している。
【0021】
増幅回路11は、発振回路用FET Q1およびバッファアンプ用FET Q2を備えている。発振回路用FET Q1のソースには共振回路10を接続している。発振回路用FET Q1のゲートと接地との間には、直列帰還素子である線路SL1を接続している。また、Q1のソースは、インダクタL3および抵抗R3の直列回路からなる第3のインピーダンス回路Z3を介して直流的に接地している。バッファアンプ用FET Q2のドレインはインダクタL1を介して電源端子Vdに接続している。この電源端子VdはバイパスキャパシタC4を介して高周波的に接地している。
【0022】
バッファアンプ用FET Q2のソースはキャパシタC2を介して高周波的に接地している。さらに、Q2のソースと発振回路用FET Q1のドレインとの間に、インダクタL2および抵抗R2の直列回路である第2のインピーダンス回路Z2を接続している。
【0023】
バッファアンプ用FET Q2のゲートと発振回路用FET Q1のドレインとは直流的に導通する線路SL2からなる第1のインピーダンス回路Z1を介して接続している。この第1のインピーダンス回路Z1の電気長は発振周波数の1/2波長未満としている。
【0024】
上記2つのFET Q1,Q2はデプレッション型のNチャネルFETであり、電源端子Vdには正の電源電圧Vddが印加される。
【0025】
この高周波発振回路104の出力信号はバッファアンプ用FET Q2のドレインからキャパシタC3を介して取り出すように構成している。図中、抵抗の記号で示す負荷回路12は発振信号の供給を受ける回路である。
発振回路用FET Q1の高周波信号はQ1のドレインからバッファアンプ用FET Q2のゲートへ第1のインピーダンス回路Z1を介して供給される。
【0026】
図2において、電源端子Vdからの直流電流の経路(直流電圧印加の経路)は、図中矢印で示すように、Vd→L1→Q2→Z2→Q1→Z3の経路である。ここで発振回路用FET Q1およびバッファアンプ用FET Q2はいずれもデプレッション型のNチャネルFETであり、ゲートバイアス電圧が0Vでも導通する。すなわち、インピーダンス回路Z1,Z2,Z3は駆動電圧およびバイアス電圧印加用の直流電流経路を成す。
【0027】
ここで、上記直流電流の経路に流れる電流をIとし、Q1,Q2のゲート電圧0V時のドレイン−ソース間電圧をそれぞれVds1,Vds2とし、インダクタL1での直流電圧降下を0Vとし、電源端子Vdに印加される電源電圧をVddで表すと、Q2のゲート電位Vg2は次の関係で定まる。
【0028】
I={Vdd−(Vds1+Vds2)}/(Z2+Z3)
Vg2=Z3・I+Vds1
上記Q2のゲート電位Vg2はQ1のドレイン電圧でもある。
【0029】
このようにして、第1・第2・第3のインピーダンス回路Z1,Z2,Z3が駆動電圧の供給とバイアス回路を兼ねることになり、外部からゲートバイアス電圧を印加することなく発振回路用FET Q1およびバッファアンプ用FET Q2を動作させることができる。
【0030】
これにより、Q2のゲート部配線、ゲートバイアス電圧を発生するための分圧抵抗、およびDCカットキャパシタを省略することができ、回路構成を簡略化できる。さらに、自己バイアス回路により発振安定度を高めることができる。
【0031】
なお、このように、電源端子からの直流電流は2つのFET Q1,Q2を直列に通過するので、すなわち駆動電圧およびバイアス電圧の印加経路が一経路であるので、全体に低消費電流化できる。また、バッファアンプを発振回路の後段に設置しているので、負荷変動を抑えることができる。
【0032】
発振回路用FET Q1のゲートには直列帰還素子である線路SL1を接続して、Q1のゲートから見込むインピーダンスを誘導性にしている。このことにより増幅回路部を見込む反射利得を得ている。
【0033】
Q1とQ2との間の第1のインピーダンス回路Z1(接続線路SL2)および第2のインピーダンス回路Z2は、発振回路用FET Q1の出力整合素子としての設計パラメータとして用いることができる。すなわち、Q1のドレインからQ2側を見たインピーダンスを、例えば出力パワーが最大またはCN比が最大となるように最適化することができる。
【0034】
ここで、第1のインピーダンス回路Z1の電気長は1/2波長未満としているので、その範囲内で発振回路用FET Q1のドレインからバッファアンプ用FET Q2側を見た反射位相を任意の位相角に設定でき、設計自由度が高くなる。そのため、出力パワーが最大またはCN比が最大となるように最適化できる。
【0035】
また、第2のインピーダンス回路Z2については、発振周波数でそのインピーダンスが最大となるようなものとする。すなわち、インダクタL2は分布定数回路として見た場合にインダクタンス成分とキャパシタンス成分を備えているが、その自己共振周波数が発振周波数または略発振周波数となるようにインダクタL2を設定する。
【0036】
なお、Q2のソースを高周波的に接地するキャパシタC2は、発振周波数においてインピーダンスが最低となるよう定める。すなわち、キャパシタC2は分布定数回路として見た場合にインダクタンス成分とキャパシタンス成分を備えているが、その自己共振周波数が発振周波数または略発振周波数となるようにキャパシタC2を設定する。
【0037】
このようにして、ゲートに直列帰還素子SL1を設けた発振回路用FET Q1と、ソースを接地したバッファアンプ用FET Q2と、を備えて増幅回路11を構成する。この構成によれば、発振回路用FET Q1のゲートに直列帰還素子を設ける構成であるので、回路を複雑化させることなく、高周波での反射利得が容易に得られ、安価なプロセスを用いて高周波発振回路を実現できる。また、ゲート部に直列帰還素子を設けた構成であるので高周波帯における負性抵抗(反射利得)の設計が容易となる。
【0038】
上記増幅回路11はGaAsのMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuits)で構成する。このMMICの受動素子は、スパイラルインダクタ、ミアンダインダクタ、MIMキャパシタ等として構成する。
【0039】
このMMICの回路基板への接続には半田バンプを用いることが望ましい。セルフアライメントにより、位置精度の高い実装ができることと、接続のための線路が低インダクタンスであるため、実装部・引き回しに起因する寄生成分の影響を小さくすることができ、広帯域化が図れるからである。また、実装部のばらつきの影響を受けないため、特性ばらつきを低減できるとともに小型にレイアウトすることができる。また、10GHz以上において、増幅回路11のQ1,Q2をディスクリートFETで構成したとすると、FET間の実装(ワイヤ、バンプなど)による接続のための電気長が1/2波長以上になってしまうが、これをMMICで構成することにより電気長を1/2波長未満に構成できる。
【0040】
次に、図2に示した高周波発振回路の特長をより明確にするために、駆動電圧の印加経路が一経路であり、この駆動電圧の印加経路とは別にバイアス回路を構成した例を図6に示す。この図6の例では、抵抗R4,R5によってバイアス電圧生成用の抵抗分圧回路を構成し、その分圧電圧を抵抗R1および線路SL2を介してバッファアンプ用FET Q2のゲートに印加するように構成している。その他の構成は図2と同様である。
【0041】
また、線路SL2と発振回路用FET Q1のドレインとの間に直流カットキャパシタC1を接続している。
【0042】
ゲートバイアス端子Vgには、電源電圧Vddが抵抗R4,R5からなるバイアス回路で分圧されたゲートバイアス電圧が印加される。このQ2に対するゲートバイアス電圧がQ1のドレインおよびQ2のソースに印加されないように、上記直流カットキャパシタC1が必要である。
【0043】
このように、駆動電圧の印加経路とは別にバイアス回路を構成すると、バイアス電圧を生成するための抵抗分圧回路およびバイアス電圧印加用端子が必要であるばかりか、直流カット用のキャパシタも必要になり、発振回路モジュールの小型化・低コスト化が困難である。これに対して図2に示したように、駆動電圧およびバイアス電圧の印加経路が一経路である場合、部品点数の削減にともなって回路構成を簡略化でき、小型化・低コスト化が図れる。
【0044】
また、上記直流カット用の結合キャパシタが不要になることに伴い、バッファアンプ用FET Q2のゲート部の配線パターンが極めて単純化される、そのため、全体の占有面積が縮小化され、さらに小型化・低コスト化できる。
【0045】
図3は図2に示した共振回路10の回路図である。この例では、線路SL3の所定点と接地との間に共振器REを設け、線路SL3の先端を抵抗Rtで終端している。
【0046】
このように線路の所定位置に共振器を結合させた線路SL3を、図2に示した増幅回路11の発振回路用FET Q1のソースに接続することによって、共振回路10から発振回路用FET Q1のソースを見た時の抵抗が負性抵抗素子として作用し、共振回路10と発振回路用FET Q1による回路とが帯域反射型(反作用型)発振器として作用する。
【0047】
なお、終端抵抗Rtは線路SL3の終端部と接地との間に接続しているので、電源端子Vdからの直流電流の経路(直流電圧印加の経路)は、図中矢印で示すように、Vd→L1→Q2→Z2→Q1→Z3の経路に流れるだけでなく、Q1→SL3→Rtの経路にも流れる。そのため、この例では前記Q2のゲート電位Vg2は終端抵抗Rtの影響を受ける。
【0048】
この共振回路10内の共振器REの具体的な構成および共振回路10のその他の構成については、別の実施形態で示す。
【0049】
図4は、上記共振回路10から増幅回路11側を見た反射利得(負性抵抗)の周波数特性を示す図である。
【0050】
この高周波発振回路104の発振周波数は共振回路10の共振周波数で定まるが、共振回路10から増幅回路11側を見た反射利得の周波数特性が重要である。図4(A)はバッファアンプ用FET Q2のゲートと発振回路用FET Q1のドレインとの間の電気長を発振周波数で1/18波長、すなわち1/2波長未満(電気角180°未満)とした場合、図4(B)はそれを(1/2+1/18)波長、すなわち1/2波長以上(電気角180°以上)にした場合の例である。
【0051】
図4(B)に示すように、Q2のゲートとQ1のドレインとの間の電気長を発振周波数の1/2波長以上とした場合に、発振周波数(この例では24GHz)より低域側に不要な利得SGが出現する。これは、使用周波数帯域内においてバッファアンプ用FET Q2のゲートと発振回路用FET Q1のドレインとの間の線路長(電気長)に応じて位相が回転し、それに応じて共振する周波数が現れるためである。
【0052】
このような不要利得SGが出現すると、それに隣接して利得が大きく落ち込む帯域が生じて、例えば24GHzを中心とする使用可能な周波数帯域が狭くなる。
【0053】
これに対して、上記電気長を1/2波長未満とすれば、図4(A)のように、この例では24GHzを中心として広い周波数帯域で使用可能な高周波発振回路が得られる。
【0054】
このように、不要利得が出現すると、発振周波数を中心とする所定帯域で所望の高利得が得られる周波数帯域幅が狭くなる。
【0055】
バッファアンプ用FET Q2のゲートと発振回路用FET Q1のドレインとの間の電気長を発振周波数で1/2波長未満とした場合、少なくとも発振周波数より低域側に不要利得が生じることはないので、増幅回路11は発振周波数を中心として広い周波数帯域で高利得特性が得られる。
【0056】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では図5を参照して各種共振回路の具体的な構成例を示す。図3に既に共振回路の例を示したが、それを具体的に表したものである。
図5(A)の例は、線路SL3の一端(図に示す右端)を各実施形態で示した増幅回路11に接続し、他端を抵抗Rtで終端したものである。そして、この線路SL3の所定位置に円柱形状の誘電体共振器RE1を配置して両者を結合させている。この共振器RE1の結合点で、線路SL3を伝搬する信号のうち共振周波数付近の周波数をもつ信号のみ選択的に反射する。
【0057】
図5(B)の例では、図3や図5(A)に示した例とは異なり、線路SL3の端部を、抵抗Rtを介して直流的に接地するのではなく、端部にオープンスタブST2を設けている。このスタブST2は1/4波長のオープンスタブであり、抵抗Rtとの接続点は等価的に短絡となる。この構成によれば、増幅回路11の電源からの直流電流が線路SL3および終端抵抗を介して接地に流れないので、図2に示したQ2のゲート電位Vg2は終端抵抗Rtの影響を受けない。そのため、増幅回路11の駆動電圧およびバイアス電圧の設計を共振回路10とは独立して行うことができる。また、増幅回路11の直流電流経路とは独立して共振回路10を設計できる。
【0058】
図5(C)の例では、線路SL3の一端(図に示す右端)を各実施形態で示した増幅回路11に接続し、他端を抵抗RtおよびオープンスタブST2で終端するとともに、線路SL3の所定位置に1/4波長のオープンスタブST1を形成している。これにより、オープンスタブST1の付け根部分が等価的に短絡点となり、線路SL3を伝搬する信号が反射する。
【0059】
図5(D)の例では、線路SL3の一端(図に示す右端)を各実施形態で示した増幅回路11に接続し、他端を抵抗RtおよびオープンスタブST2で終端するとともに、線路SL3の所定位置に略1/2波長の長さの線路SL4を介してマイクロストリップライン共振器RE2を接続している。この共振器RE2の接続は、共振器の中央からオフセットさせて接続させる。この共振器RE2は両端開放の1/2波長共振器として作用する。この線路SL4の結合点で、線路SL3を伝搬する信号が反射する。
【0060】
図5(E)の例では、線路SL3の一端(図に示す右端)を各実施形態で示した増幅回路11に接続し、他端を抵抗RtおよびオープンスタブST2で終端するとともに、線路SL3の所定位置に略1/2波長線路の共振器RE3を磁界(誘導)結合させている。この共振器RE3の結合点で、線路SL3を伝搬する信号のうち共振周波数付近の周波数をもつ信号のみ選択的に反射する。
【0061】
図5(F)の例では、線路SL3の一端(図に示す右端)を各実施形態で示した増幅回路11に接続し、他端を抵抗RtおよびオープンスタブST2で終端するとともに、線路SL3の所定位置に略1/2波長線路の共振器RE3を電界(容量)結合させている。この共振器RE3の結合点で、線路SL3を伝搬する信号のうち共振周波数付近の周波数をもつ信号のみ選択的に反射する。
【0062】
なお、図5(A)(B)(E)(F)では各共振器を線路SLと同一平面に配置した例を示したが、共振器と線路SL3とは別の層に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】特許文献1に示されている高周波発振回路の回路図である。
【図2】第1の実施形態に係る高周波発振回路の回路図である。
【図3】同高周波発振回路の共振回路の構成を示す図である。
【図4】同高周波発振回路のバッファアンプ用FET Q2のゲートと発振回路用FET Q1のドレインと間の電気長による特性変化の例を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る高周波発振回路で用いる共振回路の具体的な構成例を示す図である。
【図6】比較例としての高周波発振回路の回路図である。
【符号の説明】
【0064】
Q1−発振回路用FET
Q2−バッファアンプ用FET
SL1−線路(直列帰還素子)
SL2−線路
10−共振回路
11−増幅回路
12−負荷回路
104−高周波発振回路
RE−共振器
L1,L2,L3−インダクタ
C1−直流カットキャパシタ
C2,C3−キャパシタ
Vg−ゲートバイアス端子
Vd−電源端子
Vdd−電源電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デプレッション型のNチャネルFETからなる発振回路用FETを有する発振回路と、デプレッション型のNチャネルFETからなるバッファアンプ用FETを有するバッファアンプと、共振回路を備えた高周波発振回路であって、
前記発振回路用FETのゲートを、直列帰還素子を介して接地し、前記発振回路用FETのソースに前記共振回路を接続し、
前記バッファアンプ用FETのドレインを電源に接続し、前記バッファアンプ用FETにキャパシタを介して発振信号の出力端子を接続し、前記バッファアンプ用FETのソースを直流的に遮断するとともに高周波的に接地し、前記バッファアンプ用FETのゲートと前記発振回路用FETのドレインとを直流的に導通する第1のインピーダンス回路を介して接続するとともに、前記バッファアンプ用FETのソースと前記発振回路用FETのドレインとの間に直流的に導通する直流抵抗成分を含む第2のインピーダンス回路を接続し、前記発振回路用FETのソースと接地との間に直流的に導通する直流抵抗成分を含む第3のインピーダンス回路を配置した高周波発振回路。
【請求項2】
前記第2のインピーダンス回路は、発振周波数でインピーダンスがほぼ最大となるものである請求項1に記載の高周波発振回路。
【請求項3】
前記第1のインピーダンス回路は、その電気長を発振周波数の1/2波長未満とした請求項1または2に記載の高周波発振回路。
【請求項4】
前記発振回路用FETおよび前記バッファアンプ用FETによる増幅回路部分を集積回路で構成した請求項1〜3のいずれかに記載の高周波発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−135611(P2009−135611A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307983(P2007−307983)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】