説明

高周波通電用導体

【課題】安価、軽量で耐食性及び放熱性に優れ、且つ低ノイズで絶縁破壊が生じにくい高周波通電用導体を提供する。
【解決手段】アルミニウム導体10は、アルミニウム材1の外面に、アルミニウムよりも電気抵抗が高い金属で構成された被膜2を被覆したものである。この被膜2は2層構造を有し、その最外層4は錫メッキ層であり、最外層4とアルミニウム材1との間に配された内層5は、ニッケルメッキ層である。そして、この被膜2(最外層4)の表面粗さRaは、0.5μm超過とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波通電用の導体に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波通電用の導体としては、通常は銅導体が使用され、使用環境によっては、錫メッキなどを施して耐食性を向上させたものが使用される。しかしながら、銅は重いことに加えて、高価且つ価格変動が著しいなどの問題点を有している。そこで、銅の代替材料として、低抵抗で加工し易く且つ安価なアルミニウムが注目されている。
ただし、アルミニウムは銅に比べて耐食性が劣るため(異種金属との接続を有する構造体では電食が起こる)、メッキなどの表面被覆によって耐食性を改善する必要がある。また、アルミニウムは、通電による発熱を逃がす放熱性が銅よりも劣っているため、温度設計の厳しい製品については、銅をアルミニウムで代替することは困難である。
【0003】
さらに、高周波通電においては、表皮効果によって導体の表層に存在するノイズ成分を抑えることが大きな課題であるため、不導体の樹脂で導体を覆うなどの対策が行われる。しかしながら、通電接触部については導体を露出させる必要があるため、そのための特別な工程を設けることにより製造コストが高くなってしまう。
特許文献1,2には、抵抗の高い導体をメッキで被覆することにより、ノイズ抑制を実現する技術が開示されている。しかしながら、耐食性及び放熱性については考慮されていないため、導体として要求される種々の性能を十分に有しているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−126518号公報
【特許文献2】特開2008−159409号公報
【特許文献3】特開2000−207940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、安価、軽量で耐食性及び放熱性に優れ、且つ低ノイズで絶縁破壊が生じにくい高周波通電用導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る高周波通電用導体は、アルミニウム材の外面に、アルミニウムよりも電気抵抗が高い金属で構成された被膜を被覆した高周波通電用導体において、前記被膜の表面粗さRaを0.5μm超過としたことを特徴とする。
このような本発明に係る高周波通電用導体においては、前記アルミニウム材を、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金で構成してもよい。このアルミニウム合金は、国際アルミニウム合金名の1000系合金,2000系合金,3000系合金,4000系合金,5000系合金,6000系合金,7000系合金,又は8000系合金とすることが好ましい。
【0007】
また、本発明に係る高周波通電用導体においては、前記被膜は2層以上の多層構造を有し、その最外層は錫又は錫合金で構成されるとともに、前記最外層と前記アルミニウム材との間に配された内層は、鉄,ニッケル,及びコバルトの少なくとも1種又はその合金で構成されることが好ましい。さらに、本発明に係る高周波通電用導体においては、前記被膜はメッキにより形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る高周波通電用導体によれば、安価、軽量で耐食性及び放熱性に優れ、且つ低ノイズで絶縁破壊が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る高周波通電用導体の一実施形態であるアルミニウム導体の構造を説明する断面図である。
【図2】導体の減衰量特性を示すグラフである。
【図3】無光沢錫メッキによる錫メッキ層の表面状態を示す拡大図である。
【図4】光沢錫メッキによる錫メッキ層の表面状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る高周波通電用導体の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る高周波通電用導体の一実施形態であるアルミニウム導体の構造を説明する断面図である。
本実施形態のアルミニウム導体10は、アルミニウム材1の外面に、アルミニウムよりも電気抵抗が高い金属で構成された被膜2を被覆したものである。この被膜2は2層構造を有し、その最外層4は錫メッキ層であり、最外層4とアルミニウム材1との間に配された内層5は、ニッケルメッキ層である。そして、この被膜2(最外層4)の表面粗さRaは、0.5μm超過とされている。
【0011】
このような本実施形態のアルミニウム導体10は、アルミニウム材1が主体となっているので、導電性が高く、且つ安価で軽量である。また、アルミニウムを高周波通電用導体に使用する際には、高周波通電によるノイズ対策が要求されるが、アルミニウムよりも電気抵抗が高い金属で構成された被膜2が表面に被覆されているので、表皮効果によるノイズが抑制され低ノイズである。図2のグラフからわかるように、本実施形態のアルミニウム導体10は、従来の導体(被膜2を備えていないアルミニウム材)と比べてノイズが低減されている。よって、本実施形態のアルミニウム導体10は、銅導体の代替材として好適である。
【0012】
さらに、高周波通電用導体においては耐食性が課題となるが、被膜2の最外層4が錫で構成されているので、本実施形態のアルミニウム導体10は耐食性が高い。特に、アルミニウムは塩害に弱いので、アルミニウム導体10の最表面を錫メッキ層とすることにより、導電性を維持しつつ塩害に対する強い耐性を付与することができる。
さらに、高周波通電用導体においては放熱性が課題となるが、被膜2の最外層4の表面粗さRaが0.5μm超過とされているので、表面に形成された微細な凹凸の作用により、アルミニウム導体10の放熱性が優れている。すなわち、微細な凹凸が形成されることにより表面積(放熱面積)が増大するので、この増大量に応じてアルミニウム導体10の放熱性が向上する。
【0013】
最外層4の表面粗さRaを0.5μm超過とする方法は特に限定されるものではないが、無光沢錫メッキを施すことにより錫メッキ層を形成する方法が好ましい。錫メッキ層はウィスカが発生しやすく、ウィスカが導体間に接触すると絶縁破壊を引き起こす原因となる。無光沢錫メッキを施して錫メッキ層を形成すると、表面の凹凸が大きい錫メッキ層が形成され、ウィスカの発生原因である錫メッキ層表面での応力集中が緩和される。その結果、錫メッキ層にウィスカが発生することが抑制されるので、絶縁破壊が生じにくく高周波通電用導体の信頼性が高い。
【0014】
無光沢錫メッキによる錫メッキ層の表面を拡大した図を図3に示し、光沢錫メッキによる錫メッキ層の表面を拡大した図を図4に示す。これら両図から、光沢錫メッキによる錫メッキ層の表面にはウィスカが発生しているのに対し、無光沢錫メッキによる錫メッキ層の表面にはウィスカが発生していないことが分かる。
ただし、アルミニウムの表面に直接錫メッキ層を形成することは、困難である場合がある。そこで、導電性を維持するとともに、アルミニウムと錫の両方に対して優れた密着性を有し、アルミニウムの表面に錫メッキ層を形成することを可能とする中間層を、アルミニウム材1と錫メッキ層との間に形成するとよい。前述の内層5がこの中間層に相当し、ニッケルメッキ層は上記のような役割を果たしている。
【0015】
中間層を構成する金属の種類は、アルミニウムよりも電気抵抗が高く且つアルミニウム及び錫に対する密着性等の上記の条件を満足するならば、特に限定されるものではなく、ニッケル以外の金属を使用することも可能であるが、強磁性(ノイズ抑制の観点から、強磁性の金属がより好ましい)で耐食性に優れ、且つ比較的安価であるニッケルが特に好ましい。
【0016】
また、アルミニウム導体10が、ねじ締結部を有する構造体である場合には、ねじ締結による荷重を受けるために、アルミニウム導体10が所定の硬さを有していることが必要となる。そこで、ねじ締結によって潰れない程度の硬さ(Hv200超過が好ましい)を有する中間層を形成すれば、アルミニウム導体10はねじ締結による荷重を受けることができる。中間層をニッケルで構成すれば、上記のような硬さの条件も満足する。
【0017】
なお、被膜2の最外層4は錫メッキ層としたが、アルミニウムよりも電気抵抗が高ければ、他種の金属で構成されている層でもよい。他種の金属としては、例えば錫合金があげられる。さらに、被膜2の内層5はニッケルメッキ層としたが、アルミニウムよりも電気抵抗が高ければ、他種の金属で構成されている層でもよい。他種の金属としては、例えば、鉄,コバルトがあげられる。また、鉄,ニッケル,及びコバルトのうち1種以上を含む合金があげられる。
【0018】
また、被膜2は2層構造に限定されるものではなく、3層以上の多層構造であっても差し支えない。3層以上の多層構造の場合には、その最外層を例えば錫メッキ層とし、最外層とアルミニウム材との間に配された複数の内層を、先に例示した金属(例えばニッケル,コバルトやそれらの合金)で構成された層とすればよい。そして、これら複数の内層は、それぞれ異種の金属で構成されていることが好ましい。
【0019】
さらに、被膜2は、電解メッキ等のメッキ法により形成されたものであることが好ましいが、メッキ法に限定されるものではなく、真空蒸着法,化学蒸着法,スパッタリング,イオンプレーティング等により形成されたものでも差し支えない。
さらに、本実施形態のアルミニウム導体10においては、アルミニウム材1を純アルミニウムで構成してもよいが、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金で構成してもよい。このアルミニウム合金は、国際アルミニウム合金名の1000系合金,2000系合金,3000系合金,4000系合金,5000系合金,6000系合金,7000系合金,又は8000系合金とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0020】
1 アルミニウム材
2 被膜
4 最外層
5 内層
10 アルミニウム導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材の外面に、アルミニウムよりも電気抵抗が高い金属で構成された被膜を被覆した高周波通電用導体において、前記被膜の表面粗さRaを0.5μm超過としたことを特徴とする高周波通電用導体。
【請求項2】
前記アルミニウム材を、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金で構成したことを特徴とする請求項1に記載の高周波通電用導体。
【請求項3】
前記アルミニウム合金を、国際アルミニウム合金名の1000系合金,2000系合金,3000系合金,4000系合金,5000系合金,6000系合金,7000系合金,又は8000系合金としたことを特徴とする請求項2に記載の高周波通電用導体。
【請求項4】
前記被膜は2層以上の多層構造を有し、その最外層は錫又は錫合金で構成されるとともに、前記最外層と前記アルミニウム材との間に配された内層は、鉄,ニッケル,及びコバルトの少なくとも1種又はその合金で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高周波通電用導体。
【請求項5】
前記被膜はメッキにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高周波通電用導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−198519(P2011−198519A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61310(P2010−61310)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】