説明

高圧放電ランプ、その高圧放電ランプを用いたランプユニット、およびそのランプユニットを用いたプロジェクタ

【課題】高輝度化のために必要な発光管の冷却の強化を要することなく、失透を抑制し、高輝度化を実現する。
【解決手段】高圧放電ランプは、容囲器2が石英ガラスからなり、内部に一対の電極5が設けられて放電空間6が形成されている発光管1を備えている。電極5は、放電空間6においてそれぞれの長手方向の中心軸が略同一軸上に位置するように配置されている。ここで、高圧放電ランプは、一対の電極5の長手方向の中心軸を含む仮想線が略水平となるような状態で点灯される。そして、発光管1を、放電空間6を含みつつ前記仮想線に対して垂直に切った断面において、前記仮想線と交わる鉛直方向における発光管1の内面の間隔をa[mm]、前記鉛直方向に対する垂直方向における発光管1の内面の間隔をb[mm]とした場合、発光管1の内面形状が少なくとも一対の電極5間の領域においてa>bなる関係式を満たす形状をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプ、その高圧放電ランプを用いたランプユニット、およびそのランプユニットを用いたプロジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタの光源には高圧放電ランプが使用されており、近時、その高圧放電ランプとしてメタルハライドランプから高圧水銀ランプへと代わり、より高輝度で、長寿命が実現されている。その結果、プロジェクタは、プレゼンテーションツールや大画面のホームシアターとして不可欠なものとなっている。また、このプロジェクタの発展の歴史において、照度の向上はめざましく、高圧水銀ランプの特性である輝度の向上が果たしてきた役割は大きい。
【0003】
そして、市場からの要請として、この高圧水銀ランプに対してますます高輝度化が期待されている。
【0004】
高輝度を実現するために、発光管内には例えば0.20[mg/mm3]以上の水銀が封入され、高負荷の状態で点灯される(例えば特許文献1等)。したがって、上記したようにより一層の高輝度化の要請に対して、点灯中における発光管内の水銀蒸気圧を上げるべく水銀の封入量をさらに増加させたり、発光管の内容積をさらに小さくしたりすることが試みられている。
【0005】
ところで、この種の高圧水銀ランプを構成する発光管は、その容囲器が石英ガラスからなる。また、点灯中、放電による熱によって、特に発光管の内面のうちの上方に位置する部分が封入物の対流によって他の部分に比べて極めて高温となる。したがって、適切な冷却を施さないとその構成材料である石英ガラスが結晶化して失透と呼ばれる白濁化する現象が起こり、ついには破損に至ることがある。発光管の内面の温度は、発光管内のアークの温度、アークからの距離、ガスの温度と対流などに依存する。アークの温度は、アークを形成する物質や圧力および電流などに依存する。
【0006】
したがって、上記したような高輝度化への施策は、発光管内面の温度を上げることになり、一般的に採用される施策である水銀蒸気圧増加には前記失透を抑制するべく冷却を強化する必要がある。冷却を強化し過ぎると発光管全体の温度が所望とする温度よりも低くなって水銀蒸気圧が下がり、結果的に輝度が下がるか、または水銀の増加による輝度向上の効果が得られないという問題が発生する。そこで、これら相反する要請を両立するために、従来よりも冷却を強化すると同時に厳密なコントロールを要していた。
【0007】
なお、従来の高圧水銀ランプにおいて、発光管の内部には一対の電極がそれぞれの長手方向の中心軸が略同一軸上に位置するように配置され、放電空間が形成されている。ここで、高圧水銀ランプを一対の電極の長手方向の中心軸を含む仮想線が略水平となるような状態においた場合であって、発光管を、放電空間を含みつつ当該仮想線に対して垂直に切った断面において、当該仮想線と交わる鉛直方向における発光管の内面の間隔をa[mm]、当該鉛直方向に対する垂直方向における発光管の内面の間隔をb[mm]とした場合、発光管の内面形状はa=bなる関係式を満たす形状をなしている。図9に図1のA−A線の断面図である図2に準じた発光管23の断面図(横断面図)を示す。図9に示すとおり、その横断面において、発光管23の内周および外周は略円形である。
【0008】
なお、図9において、24は発光管23の発光部を、25は発光管23の放電空間を、26は電極をそれぞれ示す。
【特許文献1】特開平2−148561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高輝度化のために必要な発光管の冷却の強化を要することなく、失透を抑制することができ、もちろん高輝度化を実現することができる高圧放電ランプ、その高圧放電ランプを用いたランプユニット、およびそのランプユニットを用いたプロジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る高圧放電ランプは、容囲器が石英ガラスからなり、内部に一対の電極が設けられて放電空間が形成されている発光管を備え、前記一対の電極は、その内部においてそれぞれの長手方向の中心軸が略同一軸上に位置するように配置され、かつ前記一対の電極の長手方向の中心軸を含む仮想線が略水平となるような状態で点灯される高圧放電ランプであって、前記発光管を、前記放電空間を含みつつ前記仮想線に対して垂直に切った断面において、前記仮想線と交わる鉛直方向における前記発光管の内面の間隔をa[mm]、前記鉛直方向に対する垂直方向における前記発光管の内面の間隔をb[mm]とした場合、前記発光管の内面形状が少なくとも前記一対の電極間の領域においてa>bなる関係式を満たす形状をなしていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る高圧放電ランプは、請求項1に係る高圧放電ランプにおいて、前記発光管の内面形状が少なくとも前記一対の電極間の領域において0.6≦b/a≦0.9なる関係式を満たす形状をなしていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に係るランプユニットは、前記請求項1または請求項2に記載の高圧放電ランプと凹面の反射面を有する反射鏡とを備え、前記反射鏡内に前記高圧放電ランプが組み込まれ、前記高圧放電ランプからの射出光が前記反射面により反射されるように構成されたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の請求項4に係るプロジェクタは、前記請求項3記載のランプユニットを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高輝度化のために必要な発光管の冷却の強化を要することなく、失透を抑制することができ、かつ高輝度化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の最良な実施の形態について、図面を用いてその詳細を説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプの発光管1の構成を示す。
【0017】
この高圧水銀ランプは、後述する一対の電極5の長手方向の中心軸Xを含む仮想線Yが略水平となるような状態で点灯される。つまり、図1の紙面上に示すとおりの状態で点灯され、紙面上の発光管1のトップ側が実際の点灯状態においてもトップ側となる。
【0018】
この発光管1は、その容囲器2の構成材料が石英ガラスからなり、管中央部に発光部3を有し、この発光部3の両側からそれぞれ外方向に延在するように略円柱体形状の封止部4が連接されている。
【0019】
発光部3内には、一対の電極5が設けられて放電空間6が形成されている。一対の電極5は、発光部3内においてそれぞれの一端部側が互いに略対向しており、それぞれの長手方向の中心軸X(発光管1の長手方向の中心軸に略一致)が略同一軸上に位置するように配置されている。電極5間の距離は、0.5[mm]以上2.0[mm]以下の範囲内で例えば1.0[mm]に設定されている。電極5の他端部は、封止部4に封着されたモリブデン製の金属箔7を介して外部リード線8に電気的に接続されている。外部リード線8の一部は、容囲器2の外部に導出しており、口金または電力供給線等(図示せず)に接続される。このように発光管1に対して口金等の付属部品が取り付けられて高圧水銀ランプを構成することになるが、その仕様に応じて口金等の付属部品を取り付けない場合もあり、この場合は発光管1と高圧水銀ランプとが実質的に同一構成となる。
【0020】
電極5は、タングステン製の電極棒5aと、この電極棒5aの一端部に取り付けられたタングステン製の電極コイル5bとからなる。
【0021】
また、この発光部3内には、発光物質である水銀(Hg)と、始動補助用の希ガスとして例えばアルゴンガス(Ar)、クリプトンガス(Kr)、あるいはキセノンガス(Xe)またはそれら2種以上の混合ガスと、ハロゲンサイクル作用のためのヨウ素(I)、塩素(Cl)あるいは臭素(Br)、またはそれらの混合物とがそれぞれ所定量封入されている。一例として、水銀の封入量は0.15[mg/mm3]以上0.40[mg/mm3]の範囲内で例えば0.2[mg/mm3]に、アルゴンガスの封入量(25℃)は0.01[MPa]以上1[MPa]以下の範囲内で例えば0.03[MPa]に、臭素の封入量は1×10-7[μmol/mm3]以上1×10-1[μmol/mm3]以下の範囲内で、好ましくは1×10-6[μmol/mm3]以上1×10-2[μmol/mm3]以下の範囲内で例えば0.5×10-5[μmol/mm3]にそれぞれ設定されている。特に、ハロゲンサイクル作用を十分に発揮させ、発光管1の内面に黒化が発生するのを防止するために、臭素の封入量は1×10-6[μmol/mm3]以上に規定することが好ましい。
【0022】
好適例として、水銀の封入量は後述する理由により0.15[mg/mm3]以上がよく、また臭素の封入量は後述する理由により1×10-6[μmol/mm3]以上がよい。
【0023】
ここで、発光管1を、放電空間6を含みつつ一対の電極5の長手方向の中心軸Xを含む仮想線Yに対して垂直に切った断面、例えばその仮想線Y上における一対の電極5の間の中点M(ここでは、放電空間6の3次元中心と一致する)を通り、かつ仮想線Yに対して垂直に切った断面(図1のA−A線の断面図)を図2に、またその一方の電極5における電極コイル5bの端面のうち、封止部4側の端面を含むように仮想線Yに対して垂直に切った断面(図1のB−B線の断面図)を図3にそれぞれ示す。
【0024】
図2,3に示すように、発光管1を、放電空間6を含みつつ仮想線Yに対して垂直に切った断面において、仮想線Yと交わる鉛直方向における発光管1の内面の間隔をa[mm]、当該鉛直方向(仮想線Yと交わる鉛直方向)に対する垂直方向における発光管1の内面の間隔をb[mm]とした場合、発光管1の内面形状がa>bなる関係式を満たす形状をなしている。
【0025】
一例として、当該断面において、概略の形状として発光管1の内面形状は略楕円形状であり、かつその外形形状が略円形状である。ここで言う「楕円形」および「円形」とは、後述する場合も含めて、数学的に定義される楕円形または円形を必ずしも示すものではなく、あくまでも概略の形状として表現しているにすぎない。また、容囲器2はガラス加工によるものであり、精密加工が困難であり、製造上のばらつきも当然に生じる。図2に示すaは4.6[mm]、bは3.7[mm]である。また、図3に示すaは4.0[mm]、bは3.4[mm]である。ただし、間隔aの延長線上にあり、ガラス肉厚を含めた発光管1の外形形状の最大幅をa0、間隔bの延長線上にあり、ガラス肉厚を含めた発光管1の外形形状の最大幅をb0とした場合、図2に示す例ではa0が10.2[mm]、b0が9.2[mm]、図3に示す例ではa0が9.0[mm]、b0が8.5[mm]である。また、発光管1を仮想線Yに対して垂直に切った断面のうち、中点Mを通る断面の放電空間6の面積が最大となるが、その面積はそれぞれ封止部4側に近づくに従って連続的に小さくなる。すなわち、発光管1を仮想線Yを含む面で切った断面において、発光管1の内面形状が略楕円形状を有している。
【0026】
もっとも、図1〜図3に示す例では、発光管1の内面形状全体に対してa>bなる関係式を満たす形状をなしているが、後述する作用効果を発揮するに当たり、発光管1の内面形状のうち、少なくとも一対の電極5間の領域においてa>bなる関係式を満たす形状をなしていればよい。
【0027】
上記した場合において、特に後述する理由により、間隔aと間隔bとの関係として、発光管1の内面形状が少なくとも一対の電極5間の領域において0.6≦b/a≦0.9なる関係式を満たす形状をなしていることが好ましい。
【0028】
そして、このような高圧水銀ランプは、図4に示すように、反射鏡9内に組み込まれてランプユニット10を構成する。
【0029】
すなわち、図4に示すように、ランプユニット10は、上記した発光管1と、内面が凹面の反射面11を有する基体がガラスからなる反射鏡9とを備えており、この反射鏡9内に発光管1がその長手方向の中心軸Xと反射鏡9の光軸Zとが略一致するように組み込まれ、発光管1からの射出光が反射面11によって反射されるように構成されている。その際、発光管1は、その一方の封止部4が反射鏡9のネック部12内に挿入され、その状態で接着剤13によって固着されている。
【0030】
なお、反射面11は、例えば回転楕円体面や回転放物体面からなり、多層干渉膜等が蒸着されている。
【0031】
ここで、発光管1は、例えば反射鏡9の前面の開口部から送り込まれた冷却風によって、特に導風板等を使って発光部3の上方に位置する部分を選択的に冷却される。
【0032】
以上のように本発明の第1の実施形態である高圧水銀ランプおよびそれを用いたランプユニットにかかる構成によれば、一対の電極5の長手方向の中心軸Xを含む仮想線Yが略水平となるような状態で点灯した場合において、発光管1の内面のうち、非常に高温となる上方に位置する部分は点灯中のアークに対して一定の距離(間隔a方向の距離)を確保しつつも、発光管1内の空間(放電空間6)を間隔a方向に対して間隔b方向を相対的に小さくすることができる。すなわち、点灯中において、発光管1の内面のうち、上方に位置する部分とアークとの間の距離を従来のものと同程度に維持しているために、かかる部分の温度は、前記間隔aを直径に持つ円の断面からなる従来の発光管と同等の温度にすることができると同時に、発光管1の内容積を小さくすることができる。その結果、発光管1への冷却の強化の必要がなく、従来と同等な冷却でも、前記内容積を小さくした効果で得られた蒸気圧上昇に相当する高輝度化、さらには照度の向上を得ることができる。
【0033】
具体例として、上記した本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプ(以下、「本発明品1」という)の内容積は、従来の定格電力200[W]の高圧水銀ランプの内容積に対して0.78倍となり、その結果、本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプの点灯中における水銀蒸気圧は、従来の定格電力200[W]の高圧水銀ランプの点灯中における水銀蒸気圧に対して1.28倍となる。ただし、ここで比較している従来の定格電力200[W]の高圧水銀ランプ(以下、「従来品1」という)は、「a=b」(間隔aについては上記した本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプと同じ値)なる関係式を満たす点を除いては上記した本発明の第1の実施形態である定格電力200[W]の高圧水銀ランプと同じ構成を備えている。
【0034】
以下、その作用効果を確認するための種々の実験を行った。
【0035】
(実験1)
まず、本発明品1について、仮想線Yが略水平となるような状態で定格電力200[W]にて点灯させ、発光管1の外面のうち、最も上方に位置する部分の温度を測定した。また、比較のため、従来品1についても本発明品1と同じ条件にて発光管の外面のうち、最も上方に位置する部分の温度を測定した。ただし、測定に際して、反射鏡の無い発光管単体の状態であり、無風下において放射温度計を用いて測定した。
【0036】
その結果、本発明品1の場合ではその部分の温度が985[℃]であったのに対して、従来品1の場合では990[℃]であった。したがって、本発明品1における点灯中の発光管1の最も上方に位置する部分の温度は、従来品1における点灯中の発光管のその部分の温度と同じ程度であり、従来品1に比して温度上昇していないことが確認された。つまり、本発明品1は、従来品1に比して発光管1の冷却の強化を要することなく、発光管1が失透するのを抑制することが可能であるとわかった。
【0037】
(実験2)
次に、本発明品1を反射鏡9(開口径19[インチ]、f1=7.9[mm]、f2=62.1[mm])に組み込んでランプユニット10を作製した。そして、この作製したランプユニット10を定格電力200[W]にて点灯させ、アパーチャー径8φを通過させた射出光を積分球に集めてその照度[lx]を測定した。また、比較のために、従来品1についても同じ構成のランプユニットを作製し、作製したランプユニットに対して本発明品1と同じ条件にてその照度[lx]を測定した。
【0038】
その結果、本発明品1に係るランプユニット10の照度は、従来品1に係るランプユニットの照度に比して112[%]向上することがわかった。したがって、本発明品1は従来品1に比して十分に高輝度化を実現することが可能であるとわかった。
【0039】
(実験3)
ところで、水銀の封入量が0.15[mg/mm3]未満のとき、発光管1の内面形状がa>bなる関係式を満たす形状をなしている場合であっても、もともとの水銀の封入量が不十分なために上述したものほど高輝度化を十分に発揮することができないおそれがあることがわかった。例えば水銀の封入量を0.15[mg/mm3]、0.14[mg/mm3]とした点を除いて本発明品1と同じ構成を備えている定格電力200[W]の高圧水銀ランプ(以下、順に「本発明品2」、「本発明品3」という)を反射鏡9(開口径19[インチ]、f1=7.9[mm]、f2=62.1[mm])に組み込んでランプユニットを作製した。そして、この作製したランプユニットを定格電力200[W]にて点灯させ、アパーチャー径8φを通過させた射出光を積分球に集めてその照度[lx]を測定した。
【0040】
その結果、本発明品2に係るランプユニット10の照度は従来品1に係るランプユニットの照度に比して112[%]向上していたのに対して、本発明品3に係るランプユニット10の照度は従来品1に係るランプユニットの照度に比して103[%]の向上にとどまることが確認された。したがって、水銀の封入量は0.15[mg/mm3]以上に規定することが好ましい。
【0041】
(実験4)
また、本発明品1に係るランプユニット10、および従来品1に係るランプユニットに対してそれぞれ寿命試験を行った。寿命試験は、仮想線Yが略水平となるような状態で点灯させ、周波数100[Hz]の矩形波電流によって定格電力200[W]で定常点灯させた。ただし、点灯3時間、消灯0.5時間を1サイクルとしてこれを繰り返す点滅サイクルで行った。
【0042】
その結果、本発明品1に係るランプユニット10は、従来品1に係るランプユニットと同じ程度の2000時間以上の寿命が得られることが確認された。
【0043】
(実験5)
ここで、本発明品1において、発光管1の内面形状全体における間隔aと間隔bとの関係として比率b/aを種々変化させて、前記実験1と同じようにして発光管1の外面の温度を測定した。
【0044】
その結果、b/a<0.6なる関係式を満たす場合、発光管1の外面のうち、最も上方に位置する部分の温度は、従来品1における発光管の外面のうちの最も上方に位置する部分の温度に比して10[℃]以上高くなった。しかも、b/a<0.6なる関係式を満たす場合、発光管1の外面のうち、水平方向で最も膨出した部分の温度は、従来品1における発光管の外面のうちの水平方向で最も膨出した部分の温度に比して40[℃]以上高くなった。この場合、経験的に発光管1への冷却を強化する必要がある。したがって、発光管1への冷却の強化を要することなく、発光管1の失透を確実に抑制するためには0.6≦b/aなる関係式を満たすことが好ましいことがわかった。
【0045】
一方、発光管1の内容積を小さくし水銀蒸気圧を上昇させて一層の高輝度化を実現するためには、b/a≦0.9なる関係式を満たすことが好ましいことがわかった。逆に、b/aが0.9を超える場合、前記実験2に準じてそのランプユニット10の照度を測定したところ、従来品1に係るランプユニットの照度に比してその照度の向上が3[%]以下にとどまることがわかった。
【0046】
以上の理由から発光管1の内面形状を0.6≦b/a≦0.9なる関係式を満たす形状をなすようにすることが好ましいことが確認された。もっとも、上記した作用効果を得るに当たり、必ずしも発光管1の内面形状全体を0.6≦b/a≦0.9なる関係式を満たす形状をなすようにする必要はなく、少なくとも一対の電極5間の領域において当該関係式を満たすような形状をなすようにすればよい。
【0047】
(実験6)
また、本発明品1に対して水銀の封入量のみを変更させて前記実験1に準じた実験を行った。具体的には、水銀の封入量のみを0.30[mg/mm3]とした点を除いて本発明品1と同じ構成を備えている定格電力200[W]の高圧水銀ランプ(以下、「本発明品4」という)を作製し、作製したものに対して前記実験1と同じようにして発光管1の外面のうち、最も上方に位置する部分の温度を測定した。また、比較のために、同じく水銀の封入量のみを0.30[mg/mm3]とした点を除いて従来品1と同じ構成を備えている定格電力200[W]の高圧水銀ランプ(以下、「従来品2」という)を作製し、作製したものに対して前記実験1と同じようにして発光管の外面のうち、最も上方に位置する部分の温度を測定した。
【0048】
その結果、本発明品4の場合ではその部分の温度が1018[℃]であったのに対して、従来品2の場合では1025[℃]であった。したがって、本発明品4における点灯中の発光管1の温度は、従来品2における点灯中の発光管の温度と同じ程度であり、従来品2に比して温度上昇していないことが確認された。つまり、本発明品4も本発明品1と同様に、従来品2に比して発光管1の冷却の強化を要することなく、発光管1が失透するのを抑制することが可能であるとわかった。
【0049】
(実験7)
次に、本発明品4を反射鏡9(開口径19[インチ]、f1=7.9[mm]、f2=62.1[mm])に組み込んでランプユニット10を作製した。そして、この作製したランプユニット10を定格電力200[W]にて点灯させ、アパーチャー径8φを通過させた射出光を積分球に集めてその照度[lx]を測定した。また、比較のために、従来品2についても同じ構成のランプユニットを作製し、作製したランプユニットに対して本発明品2と同じ条件にてその照度[lx]を測定した。
【0050】
その結果、本発明品4に係るランプユニット10の照度は、従来品2に係るランプユニットの照度に比して117[%]向上することがわかった。したがって、本発明品4は従来品2に比して十分に高輝度化を実現することが可能であるとわかった。
【0051】
次に、特に発光管1の形状に関する変形例について説明する。
【0052】
(変形例1)
変形例1は、図1のA−A線の断面図である図2に準じた断面を図5に示すように、間隔aを4.6[mm]、間隔bを3.2[mm]、また最大幅a0を10.2[mm]、最大幅b0を7.1[mm]とし、すなわち図2および図3に示した例に対して発光管1の内面形状はそのまま維持し、発光管1の外形形状を変更し、その横断面において発光管1の内および外周が相似的に大きさの異なる略楕円形状をなし、発光部3のガラス肉厚を全周にわたって均一化したことに特徴を有し、その他の構成については本発明品1と同じ構成を備えている(以下、「本発明品5」という)。
【0053】
本発明品5についても前記実験1、前記実験2および前記実験4に準じた実験を行った。その結果、本発明品5における発光管1の外面のうち、最も上方に位置する部分の点灯中の温度は992[℃]であり、従来品1における発光管の外面のうち、最も上方に位置する部分の点灯中の温度(990[℃])と同じ程度であった。また、本発明品5に係るランプユニット10の照度は、従来品1に係るランプユニットの照度に比して115[%]向上することがわかった。もちろん、本発明品5に係るランプユニットの寿命特性も従来品1に係るランプユニットの寿命特性と同じ程度であった。
【0054】
したがって、変形例1においても上記と同様の作用効果を得ることが確認された。
【0055】
(変形例2)
変形例2は、図1のA−A線の断面図である図2に準じた断面を図6に示すように、間隔aを4.5[mm]、間隔bを3.0[mm]、また最大幅a0を10.0[mm]、最大幅b0を7.0[mm]とし、すなわち図2および図3に示した例に対して発光管1の横断面においてその内周および外周にそれぞれ鉛直方向に直線部分を設けたことに特徴を有し、その他の構成については本発明品1と同じ構成を備えている(以下、「本発明品6」という)。
【0056】
本発明品6についても前記実験1、前記実験2および前記実験4に準じた実験を行った。その結果、本発明品6における発光管1の外面のうち、最も上方に位置する部分の点灯中の温度は1000[℃]であり、従来品1における発光管の外面のうち、最も上方に位置する部分の点灯中の温度(990[℃])と同じ程度であった。また、本発明品6に係るランプユニット10の照度は、従来品1に係るランプユニットの照度に比して110[%]向上することがわかった。もちろん、本発明品6に係るランプユニットの寿命特性も従来品1に係るランプユニットの寿命特性と同じ程度であった。
【0057】
したがって、変形例2においても上記と同様の作用効果を得ることが確認された。
【0058】
なお、上記実施形態では、高圧水銀ランプとして定格電力200[W]の高圧水銀ランプを用いた場合について説明したが、これに限らず定格電力が例えば100[W]以上400[W]以下の範囲内の高圧水銀ランプを用いた場合でも上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施の形態であるプロジェクタについて、図7および図8を参照して説明する。
【0060】
図7は、第1の実施形態であるランプユニット10が用いられたプロジェクタの一例として、フロントプロジェクタ14の概略構成を示す。フロントプロジェクタ14は、その前方に設置したスクリーン(図示せず)に向けて画像を投影するタイプのプロジェクタである。
【0061】
なお、図7は、後述する筐体15の天板を取り除いた状態を示している。
【0062】
フロントプロジェクタ14は、筐体15に収納された、光源であるランプユニット10、光学ユニット16、制御ユニット17、投射レンズ18、および電源ユニット19等から構成されている。光学ユニット16は、画像形成ユニットからの出射光を合成する光合成ユニット、入射光を偏光させて画像を形成する画像形成ユニット、およびランプユニット10からの照明光をその画像形成ユニットに照射する照明ユニット(いずれも図示せず)を有している。照明ユニットは、3色のカラーフィルタ等(図示せず)を有し、照明光を3原色に分解して画像形成ユニットに照射する。3原色に分解された光を光合成ユニットで合成することにより、フルカラーの画像を得られる。制御ユニット17は、画像形成ユニット等を駆動制御する。投射レンズ18は、光合成ユニットにより合成された光学像を拡大投射する。電源ユニット19は、商用電源から供給される電力を制御ユニット17やランプユニット10に適した電力に変換してそれぞれ供給する。
【0063】
また、第1の実施形態であるランプユニット10は、図8に示すプロジェクタの一例であるリアプロジェクタ20の光源としても用いることができる。リアプロジェクタ20は、ランプユニット10、光学ユニット、投射レンズ、およびミラー(いずれも図示せず)等が筐体21内に収納された構成を有している。投射レンズから投射されミラーで反射された画像が、透過式スクリーン22の裏側から投影されて画像表示される。
【0064】
以上のような本発明の第2の実施形態であるプロジェクタにかかる構成によれば、上記した本発明の第1の実施形態である高圧水銀ランプ(変形例等を含む)を用いたランプユニット10を採用しているために、発光管1への冷却の強化や厳密な冷却コントロールを要しないので、冷却設計が容易であり、かつ冷却ファンの騒音を軽減することができる。また、発光管1の輝度が高く、かつ失透しにくいために、照度を向上させることができるとともに、長寿命化を図ることができる。
【0065】
なお、上記各実施形態では、光源として高圧水銀ランプを用いた場合について説明したが、高圧水銀ランプ以外にメタルハライドランプを用いた場合でも上記と同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、発光管への冷却の強化や厳密な冷却コントロールを要することなく、失透を抑制し、かつ高輝度を実現することが必要とされる用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態である高圧水銀ランプの発光管の構成を示す正面図
【図2】図1のA−A線の断面図
【図3】図1のB−B線の断面図
【図4】本発明の第1の実施形態である高圧水銀ランプを用いたランプユニットの一部切欠正面図
【図5】同じく高圧水銀ランプの発光管において、変形例1の構成を示す図1のA−A線の断面図
【図6】同じく高圧水銀ランプの発光管において、変形例2の構成を示す図1のA−A線の断面図
【図7】本発明の第2の実施形態であるプロジェクタとして、フロントプロジェクタの構成を示す一部切欠斜視図
【図8】同じくプロジェクタとして、リアプロジェクタの構成を示す斜視図
【図9】従来の高圧水銀ランプの発光管の構成を示す断面図
【符号の説明】
【0068】
1 発光管
2 容囲器
3 発光部
4 封止部
5 電極
5a 電極棒
5b 電極コイル
6 放電空間
7 金属箔
8 外部リード線
9 反射鏡
10 ランプユニット
11 反射面
12 ネック部
13 接着剤
14 フロントプロジェクタ
15,21 筐体
16 光学ユニット
17 制御ユニット
18 投射レンズ
19 電源ユニット
20 リアプロジェクタ
22 透過式スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容囲器が石英ガラスからなり、内部に一対の電極が設けられて放電空間が形成されている発光管を備え、
前記一対の電極は、その内部においてそれぞれの長手方向の中心軸が略同一軸上に位置するように配置され、かつ前記一対の電極の長手方向の中心軸を含む仮想線が略水平となるような状態で点灯される高圧放電ランプであって、
前記発光管を、前記放電空間を含みつつ前記仮想線に対して垂直に切った断面において、前記仮想線と交わる鉛直方向における前記発光管の内面の間隔をa[mm]、前記鉛直方向に対する垂直方向における前記発光管の内面の間隔をb[mm]とした場合、前記発光管の内面形状が少なくとも前記一対の電極間の領域においてa>bなる関係式を満たす形状をなしていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記発光管の内面形状が少なくとも前記一対の電極間の領域において0.6≦b/a≦0.9なる関係式を満たす形状をなしていることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高圧放電ランプと凹面の反射面を有する反射鏡とを備え、前記反射鏡内に前記高圧放電ランプが組み込まれ、前記高圧放電ランプからの射出光が前記反射面により反射されるように構成されたことを特徴とするランプユニット。
【請求項4】
請求項3記載のランプユニットを備えたことを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−277406(P2009−277406A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125554(P2008−125554)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】