説明

高圧蒸発による高速コーティングのための方法及び装置

【課題】
本発明は、高い層厚の均一性及び原料歩留まりにおいて非常に高い堆積速度を持つ真空コーティング方法、並びに斯かるコーティングを実現する装置に関するものである。
【解決手段】
古典的な真空蒸着を縮退させる、一方における層厚の均一性と他方における原料歩留まり及びコーティング速度との間の既存の矛盾を克服するために、基板は、蒸発源により供給される実質的に閉じられたコーティングチェンバの境界を形成する。このコーティングチェンバの壁及びコーティングされるべきでない全ての表面は、蒸気が凝縮することができずに上記コーティングチェンバに散乱して戻されるように、或る温度に維持されるか又は非粘着性コーティングを備える。これにより、上記コーティングチェンバ内には非常に高い蒸気圧が生成され、その結果、基板上での非常に高い凝縮速度及び層厚の均一性が得られる。該基板は、蒸気が凝縮し得る唯一の表面となるので、失われる材料の量は非常に少なく、歩留まりは極めて高くなる。蒸発源のパルス的動作の使用により、短いサイクルのコーティングを実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の連続的又はパルス的高速コーティングのための方法を有し、例示的に該方法に適した装置を説明する。該方法は、高い層厚の均一性及び原料歩留まりを可能にすることにより非常に高い堆積速度を可能にする一種の真空コーティングである。
【背景技術】
【0002】
多くのコーティング材料は、これらを酸素及び水等の大気の構成物質と反応させる高い化学反応性を有するので、これらコーティング材料は少なくとも部分的な酸化を回避するために適切な高真空条件下でのみ堆積することができる。これらの材料は、一般的に、周期律表の最初の3つの主要な族の元素を有し、これらのうちのアルミニウム及びマグネシウムは特に高い技術的関連性を有するが、亜属の多くの遷移金属又は希土類は、原子形態の場合に非常に高い還元電位を有すると共に酸素に対して非常に高い化学親和力を有する。単純な元素以外に、更に、酸素、水蒸気又は他の酸素含有剤と接触すると化学的に反応し、変化され得る多数の無機及び有機化合物が存在する。
【0003】
この高い反応性に基づいて、コーティングのための噴霧熱分解、化学気相堆積法(CVD)又はゾルゲル法等の多くの既知の高速コーティング方法は、除外される。少なくとも多くの金属に対してスパッタリング技術(カソード・スパッタリング)は利用可能であるが、これら技術は高度に反応性のプロセスガス・プラズマを使用し、その場合、微量の酸素でさえコーティング材料と反応する。このような理由により、スパッタリングは(10−5Pa未満の)低残留ガス圧を用いてのみ実行することができ、非常に綺麗なプロセスガスが使用されねばならない。更に、プラズマにより、コーティングされるべき表面の直前の基板への高い熱の蓄積が存在し、これは多くの場合において望ましくない。スパッタリングを用いては、100nm/sより速い極めて高速の領域には金属に対してさえ接近不可能である。
【0004】
従って、多くの場合における優れた代替案は、高真空における高速蒸着である。これによれば、コーティング材料は、気相に遷移(移行)するようにエネルギの供給により加熱される。従来技術によれば、この加熱は、例えば加熱された容器との熱接触、直接的な電流の流れ、放射、誘導又は電子ビーム若しくはアークにより実現することができる。蒸気は(10−3Pa未満の)高真空中を弾道的に分散する。何故なら、大きな自由行程により残留ガスとの僅かな衝突しか存在しないからである。
【0005】
真空蒸着を使用することにより、基板における非常に高い堆積速度を達成することができ、蒸発源までの距離が適切であるならば、大きな面積でさえ均一にコーティングすることができる。蒸気の弾道的な伝搬の下では、基板上での実効コーティング速度Rは、蒸発源までの距離の平方に逆比例する。即ち、R〜d−2である。従って、基板上での速度分布及び層厚分布は幾何学的規則性にのみ従い、通常は、cosnφの法則により既述される。低速で、平らな基板及び蒸発源表面の場合、n=4である。高速の下では、既にクヌーセン流れの影響の下にあり、従って、上半分の空間に向けられる速度分布により且つ蒸気分子の自身の間における衝突によりジェット効果が生じ、その場合、該ジェット効果は蒸気分布をn>4が観測され得るように更に収束させる。
【0006】
使用可能な角度領域は、許容可能な偏差内の層厚の均一性に対する要件及び角度分布により定められる。これから、基板の寸法と共に、蒸発源と基板との間に維持されるべき最小の距離が得られる。許容可能な角度領域内に蒸発されない如何なる材料も失われ、歩留まりを低減させ、望ましくない汚染をもたらす。従って、均一さのための要件は、高い堆積速度及び原料歩留まりに対する要件と相反する。本発明は、この矛盾を、最初は当該基板の表面に向けられていなかった蒸発されたコーティング材料をコーティング領域に散乱して戻すことにより克服するもので、従って損失率を低く維持することができる。基板の前の空間は、平均自由行程がコーティングチェンバの幾何学的寸法よりも明らかに小さく、強い散乱の結果として蒸気内の方向分布の均一化が生じるような高い蒸気圧が生成され得るようなものとする。高速コーティングのためには、典型的には10Paより高い蒸気圧、従ってミリメートルのオーダの平均自由行程が望ましい。これは、特定の量の材料のパルス的蒸発により、少なくとも短い期間では達成することができる。
【0007】
ドイツ国特許出願公開第DE1621271号は、真空中で蒸発された金属の凝縮を用いた、物体の表面金属コーティングのための方法に関するものである。特に、該発明はコーティング材料の蒸気を生成する方法に関するもので、該蒸気は当該コーティング材料に含まれる粒子を含まない。
【0008】
米国特許第4,022,928号は、ペルフルオロポリエーテル化合物による表面のコーティングを開示している。これによれば、真空内での表面上への材料の蒸気流の堆積は禁止されている。上記ペルフルオロポリエーテルの保護層は、真空中又は大気条件下で蒸着、噴霧又はスピニングにより塗布することができるか、又は例えば印刷処理を用いることにより流動性の又は揺変性のペーストを用いて塗布することができる。
【0009】
J. Vac. Sci.
Technol. A5(4),1987年7月/8月の第2239〜2245頁におけるS. Schiller, G. Beister, U. Heisig及びH.
Forsterによる文献「高速気相堆積及びコーティング処理のための大システム」には、高速電子ビーム蒸着及び高速スパッタリングに関する研究が提示されている。
【0010】
ヨーロッパ特許出願公開第EP0795890号は、基板の反応性コーティングのためのスパッタリング装置を開示しており、該装置においてスパッタリング電極に供給される電力は2つの値の間で変化する。両電力値は、反応性ガスの一定の流れの下でスパッタリング電極の目標が第1の電力値に対しては金属モード内にある一方、第2の電力値に対しては酸化物モード内にあるように選択される。
【0011】
ドイツ国特許出願公開第DE10153760号は、真空コーティングを用いて、UV吸収性透明摩耗層を形成する方法に関するもので、高耐摩耗性を持つ層を形成する少なくとも1つの無機化合物と、高UV吸収性を持つ層を形成する1つの無機化合物とが基板上に同時に又は直に連続して堆積され、該堆積は、その都度、基板上への反応性又は部分的に反応性のプラズマに基づく高速蒸着により達成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の高真空蒸着においては、10−2Paより低い分子流の範囲が使用されている。即ち、蒸気分子の平均自由行程fは大きいか又は貯留器(リザーバ)又は真空チェンバの各々の幾何学的寸法Lに匹敵する。この範囲では、蒸気は弾道的に広がり、蒸気分布は幾何学的規則性にのみ従う。約1Paまで延びる上の圧力範囲では、クヌーセン流れが生じ、平均自由行程fは0.01Lから0.1Lに到達する。これは遷移範囲であり、散乱作用が既に蒸気の力学に影響を与える。10〜100nm/sより高い凝縮速度による高速コーティングの範囲においては、古典的な物理的コーティングの範囲を離れて、1Paより高い流れの範囲に到達し、そこでは、蒸気は流れる流体のように振る舞い、巨視的な物理状態変数を用いて既述することができる。これによる分類は、"Woods Handbuch Vakuumtechnik",
Karl Josten (ed.)第9改訂版 ISBN-1o3-8348-0133-Xに従う。
【0013】
従って、高速コーティングの基本的な技術的課題は、高真空環境内で粘性流を形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、この課題は、コーティングが高真空チェンバ内の一種の圧力チェンバ内で行われることにより解決される。この圧力チェンバ内の容積がコーティング空間を画定する。
【0015】
高真空内での高速コーティングのための当該装置は、少なくとも1つの蒸発源によりコーティング材料の蒸気が供給される実質的に閉じられたコーティング空間を有する。該コーティング空間は、コーティングされるべき基板により、少なくとも一方の側において限定されている。該コーティング空間内に可能な限り高い、好ましくは10Paより高い蒸気圧を生成するために、この空間からの材料の損失は可能な限り低く維持されなければならない。従って、“実質的に閉じられた”なる用語は、この前後関係においては、当該コーティング空間における蒸気が逃れ得る全ての開口の総断面が、上記基板のコーティング表面の10%未満であることを意味する。更に、コーティングされるべきでない全ての表面は、当該蒸気が斯かる表面上では凝縮し得ることがなく、前記コーティング空間内へと散乱して戻されるように設けられなければならない。
【0016】
このアセンブリが、図1に概略図示されている。コーティングチェンバ(コーティング室)内に、又は該コーティングチェンバの表面に取り付けられて、コーティング材料を固体又は液体状態から蒸気(気相)状態に遷移させる蒸気発生器が存在する。蒸発のためのオプションは、例えば放射、電流、アーク、電子ビーム又は交番電磁界による加熱のように、従来技術から知られている。当該蒸気を散乱して戻すと共に該蒸気の凝縮は回避されるべき上記コーティングチェンバの壁及び全ての取付体(mounts)は、非粘着性コーティングを備えるか又は適切な温度を有する。後者の場合、当該表面は、上記コーティング材料の蒸気圧が該コーティングチェンバのものより大きくなるような温度に維持される。このことは、当該コーティング材料が低い温度において既に高い蒸気圧を有する場合にのみ可能であるように思われる。該加熱された壁は、当該閉じられたアセンブリにより基板の前に熱い半空間を形成し、該熱い半空間の放射は上記基板に対する付加的な加熱に貢献する。従って、各々の場合に対して、この加熱的貢献が許容可能であるか、又は当該基板の能動的冷却を用いて放散されるべきかを決定しなければならない。
【0017】
この問題の一層都合良く良好な解決策は、低い温度でさえも当該コーティング材料の凝縮及び付着を防止するような非粘着性コーティングである。このような非粘着性コーティングは、例えば、米国特許第4,022,928号により知られている。この場合、長鎖状ペルフルオロポリエーテル(PFPE)が、処理された表面上での種々の金属の凝縮を防止している。斯かる非粘着性物質による当該コーティングの汚染を回避するために、室温において10−5Pa未満の蒸気圧を有するペルフルオロポリエーテルから形成された非粘着性コーティングを使用することが推奨される。好ましくは、該蒸気圧は10−8Pa未満とすべきである。蒸気圧は温度と共に上昇するので、好ましい一実施例においては、斯かる非粘着性物質によりコーティングされた全ての表面は能動的に冷却される。
【0018】
この構成において、コーティング材料は、上記壁の汚染を伴わずに、所望のように実質的に基板の表面においてのみ凝縮し、該表面が当該コーティングチェンバにおける唯一の材料吸い込み部となる。これにより、非常に高い原料歩留まり及び周囲の部分の低汚染を保証することができる。材料の損失は、基板の表面に対する、寄生的なコーティングされる部分及び開口の面積比に対応する。
【0019】
当該コーティングチェンバにおける動的蒸気圧勾配は、各ガス流に関して、材料の流入(蒸発源)及び流出(基板上での凝縮)を介して古典的に計算することができる。該コーティングチェンバにおける圧力の上限は、蒸発源温度における蒸気圧により与えられる。これは、如何なる問題も伴わずに、10〜100Paの範囲内であり得る。基板上での凝縮の速度は、当然、該基板の温度にも依存する。典型的には、基板は蒸発器の蒸発源より大幅に冷たい。凝縮の速度は、温度差に伴い指数関数的に増加するので、基板は非常に効果的な材料吸い込み部を表し、基本的に当該コーティングチェンバから材料をスポンジのように吸い取る。これにより、10nm/sより高い非常に高い凝縮速度に到達することが可能であり、100nm/sより高い極めて高い速度及び数秒の範囲内の極めて短い処理時間を、各々、達成することができる。
【0020】
この処理の管理において、コーティングされた基板は、短い時間サイクルで新しいものに交換されねばならない。当該基板はコーティングチェンバを閉じるので、当該コーティングチェンバが連続運転で使用される場合、交換の間に蒸気状コーティング材料が失われる。交換の時間がコーティング期間と比較して短い(10%未満)場合、上記損失は許容可能なものであろう。短いサイクルの(短周期)運転が望ましい場合は、蒸発源をパルスモードで動作させることが推奨される。蒸気のパルス的放出により、少なくとも短い期間の間は10Paより高い蒸気圧レベルを維持することが可能である。この圧力レベルは、周囲の真空のものより数桁の大きさ高く、基板上への100nm/sより高い極めて高い蒸気凝縮速度を可能にする。
【0021】
数秒内に、好ましくは10秒未満内に、当該コーティングに必要とされる全量の材料が蒸発される。当該蒸発器の熱的不活動により与えられる時定数を可能な限り小さく維持するために、好ましくは、必要とされるコーティング材料のみが加熱されるようにする。この目的のためには、アーク放電、電磁高周波若しくはレーザパルス又は変調された電子ビームが特に好適である。この場合、コーティング材料は連続的に調整されねばならない。材料源が連続運転エフュージョンセル(effusion cell)からなる場合、クロック的な動作を実現するために、このエフュージョンセルをカバーを用いて周期的に開放及び閉塞することができる。しかしながら、この場合においても、斯かるカバーのコーティングを回避するために前記コーティングチェンバの壁に対するのと同様の対策(加熱、非粘着性カバー)がなされなければならない。
【0022】
本方法が実際の高真空コーティングを表しているとしても(当該システムにおける残留ガス圧は10−3Pa未満である故に)、コーティングフェーズの間において前記コーティングチェンバは相対的に濃い蒸気雲により満たされる。蒸気分子の互いの間での及び前記壁との頻繁な衝突により、蒸発源からの放出時における元の方向情報は非常に急速に失われ、その結果、当該蒸気内に、むしろ等方性の方向分布が生じる。これに対応して、基板の表面にわたる層厚の変化は一層小さくなる。
【0023】
しかしながら、蒸気を指向させるため及び/又は基板を保護するため及び/又は基板上の層厚を均一化させるために、コーティングチェンバ内のスクリーン又はブラインドを予見することもできる。例えば、スクリーンを使用することにより、材料が蒸発源から直の視線上で基板に到達することを防止することができる(図2参照)。もし高速蒸発の間に、しぶき又は大きな粒子が放出された場合、このスクリーンは、これらの粒子による基板の望ましくない汚染を防止することもでき、又は蒸発源からの熱放射を遮蔽するために使用することもできる。勿論、これらのスクリーン又はブラインドの全てに対して、コーティングされるべきでない全ての他の表面に対するのと同様の対策がなされなければならない。これらは十分に高い温度に維持されねばならないか、又は、これらは非粘着性コーティングにより完全に覆われ、能動的に冷却されねばならないかの、何れかである。
【0024】
後に、本発明の好ましい実施例を、添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、高圧蒸発のための装置の概略図である。
【図2】図2は、蒸発源から基板への直接的視線を遮るブラインドを備えた高圧蒸発器を示す。
【図3】図3は、組込型エフュージョンセルを備えた高圧蒸発器を示す。
【図4】図4は、高圧蒸発器内に蒸発源として電極材料送りを備えたアーク蒸発器を示す。
【図5】図5は、材料送りを備えるレーザ又は電子ビーム加熱蒸発源を用いた高圧蒸発装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、高圧蒸発器の幾つかの好ましい実施例を、より詳細に説明する。
【0027】
図1は、当該高圧蒸発器の概略図を示す。コーティングチェンバ1は、壁2により、及び少なくとも1つの側においてはコーティングされるべき基板4により画定されている。この装置自体は高真空チェンバの内部に配置することができる一方、該高真空チェンバは適切なポンプを使用することにより10−3Pa未満の適切なバックグラウンド圧力に設定することができ、かくして、コーティングが開始する前には、当該チェンバ内には微量の酸素又は水蒸気しか存在しない。当該コーティングチェンバ内に又は該コーティングチェンバに接続されて、少なくとも1つの蒸発源3が存在し、該蒸発源はコーティング材料を気相に遷移させる。コーティングされるべきでない全ての表面は、非常に低い蒸気粘着係数を有さねばならない。
【0028】
中程度の温度で既に高い蒸気圧を発生するコーティング材料の場合、凝縮は、これら表面の温度を、これら表面における蒸気圧が当該コーティングチェンバ内よりも大きくなるように調整することにより防止することができる。
【0029】
一つの実際的な例において、導電性接触層として、マグネシウムを半導体基板上に金属として堆積しなければならない。この目的のために、コーティングチェンバの壁2は加熱エレメント5を用いて550℃より高い温度に維持される一方、処理の間における基板の温度は250℃を越えないようにする。これにより、マグネシウム蒸気は当該基板の表面上に略完全に堆積する。上記壁はコーティングされることはない。加熱された壁上で崩壊(熱分解)しない限り、例えば多くの有機物質に対しても、非常に類似した手順が可能である。
【0030】
しかしながら、アルミニウム、クロム、銅又は貴金属等の技術的に関心のある金属の殆どは、1000℃より高い温度においてのみ10Paより高い蒸気圧を有する。このような場合、前記壁の加熱は可能ではない。従って、非粘着性コーティングを用いて粘着係数を低減させることが推奨される。好適なコーティングは、好ましくは、長鎖状PFPE化合物(例えば、フォンブリン:Fomblin)から形成される。該PFPE化合物の蒸気圧を低く保つと共に、前記蒸発源からの熱放射を放散させるために、これに接続されたコーティングされた部分は好ましくは能動的に冷却される。壁5の温度を調整するために、例えば導水管等の冷却エレメントを冷却エレメントとして使用することができる。この場合、壁2の材料は、良好な熱伝導体であるような物質から形成されるべきである。このましいものは、アルミニウム、銅及びこれら金属の合金等の、80W/(m*K)より大きな熱伝導係数λを持つ材料である。
【0031】
基板上の層厚の分布を均一化するために、コーティングチェンバ内にブラインド又はスクリーン6を取り付けることが望ましい。これが図2に例示的に示されており、該例においてはスクリーンが蒸発源から基板への直接的視線を覆い隠している。このように、コーティング材料は、散乱を介して間接的経路上でのみ基板に到達することができる。このようなブラインドは、基板の汚染又は蒸発源による加熱への寄与も防止することができる。ブラインドは、任意の幾何学的形態に、例えば穿孔された金属プレートとして形成することができる。これらブラインドはコーティングされるべきではないので、これらブラインドは、前記チェンバ壁と同様に、処理の管理に依存して、加熱が施され、又は非粘着性コーティング及び冷却が施される(図示略)。
【0032】
コーティングチェンバの開口は、コーティング材料に関して基板と競合し、これは歩留まりを低下させる。従って、蒸発源は、好ましくは、当該コーティングチェンバ内に配置されるか、又は該コーティングチェンバに直接取り付けられる。長時間の稼働を保証するために、これらの蒸発器は、大きな材料体積を有さねばならないか、又は外部から充填されねばならない。以下に、幾つかの好ましい実施例を例示として説明する。
【0033】
図3は、限られた材料体積を持つ通常の加熱エフュージョンセル7を示し、該エフュージョンセルは当該コーティングチェンバに直接取り付けられている。該セルは高い温度に維持され、材料を高い蒸気圧で放出する。パルス的動作を実現するために、該ホットエフュージョンセル7はカバー8により開放及び閉塞することができる。上記カバーのコーティングを防止するために、該カバーは、前記チェンバ壁若しくはスクリーンと同様に高い温度に維持されねばならないか、又は非粘着性コーティングを備えなければならない。
【0034】
コーティングチェンバ内で金属を蒸発させるために、電極を調整することが可能なアーク蒸発器9を使用することもできる。これが、例えば図4に示されている。コーティング材料は当該コーティングチェンバ内に該チェンバの壁のソケットを介して、2つのワイヤ又は棒体10の形態で挿入され、これらワイヤ又は棒体は小さなスロットを除き互いに隣接して配置される。高電圧又は高電圧パルスを各々印加することにより、火花(スパーク)が形成され、端点において電極材料が蒸発し、これにより導電ガスチャンネルを形成する。これは、上記電極間の高い電流の流れを可能にし、アークが当該電極材料の滑らかな蒸発を可能にする。電極10は、所望の量の材料が蒸発されるまで追跡され、当該アークは例えば当該電流の流れを遮断するか又は電極間の距離を増加させることによりオフされる。この構成においては、電極の形のコーティング材料を除き、当該コーティングチェンバ内には蒸発源のそれ以上の部品は存在しない。上記材料は、電極の先端において選択的に加熱され、非常に効率的に蒸発される。
【0035】
他の例示的構成が、図5に示されている。この場合、コーティング材料11は、当該コーティングチェンバの壁のソケットを介して供給される。詰め替え可能な材料供給体の加熱及び蒸発のために、電力が調整された高エネルギレーザ又は電子ビーム12が使用され、該レーザ又は電子ビームは、当該コーティングチェンバの外部で生成されて、該チェンバの壁における可能な限り小さな開口を介して上記コーティング材料に向けられる。また、この構成においては、上記ビームの電力を変調することにより、パルスモードも可能である。
【本発明の他の実施例】
【0036】
1.高真空内での高速コーティングのための装置であって、少なくとも1つの蒸発源を用いてコーティング材料の蒸気が供給される実質的に閉じられたコーティングチェンバを有する装置において、
a.前記コーティングチェンバは少なくとも1つの側が基板により画定され、
b.前記コーティングチェンバの全ての開口の合計断面が前記基板のコーティング表面の10%未満に対応し、
c.コーティングされるべきでない全ての表面は、これら表面上では蒸気が凝縮し得ないように設けられ、
d.前記基板上への凝縮の実効速度が10nm/sより大きい、
ことを特徴とする装置。
2.実施例1による装置において、蒸気の凝縮が防止されるべき全ての表面が、適切な温度に維持されるか、又は非粘着性コーティングを備えることを特徴とする装置。
3.実施例1又は実施例2による装置において、非粘着性コーティングが、室温において10−5Pa未満の蒸気圧を持つペルフルオロポリエーテルからなることを特徴とする装置。
4.実施例1ないし3の何れかによる装置において、非粘着性コーティングが設けられる前記表面が能動的に冷却されることを特徴とする装置。
5.実施例1ないし4の何れかによる装置において、前記コーティングチェンバ内の蒸気圧がコーティングフェーズの間において少なくとも10Paに達することを特徴とする装置。
6.実施例1ないし5の何れかによる装置において、前記コーティングチェンバ内に、金属蒸気を指向させるため、及び/又は前記基板を保護するため、及び/又は前記基板上の層厚を均一化するためにブラインド又はスクリーンが設けられることを特徴とする装置。
7.実施例1ないし6の何れかによる装置において、短いサイクルの動作が可能となるように、数秒内に、好ましくは10秒未満内に当該コーティングに必要な量の材料が蒸発されるよう前記蒸発源がパルスモードで動作されることを特徴とする装置。
8.実施例1ないし7の何れかによる装置において、前記蒸発源が、カバーを用いて開放及び閉塞され得るホット・エフュージョン・セルからなることを特徴とする装置。
9.実施例1ないし7の何れかによる装置において、前記蒸発源が追跡可能な電極を持つアーク蒸発器からなることを特徴とする装置。
10.実施例1ないし7の何れかによる装置において、前記蒸発源が、電力が制御されたレーザ又は電子ビームを用いて蒸発される詰め替え可能な材料供給体を有することを特徴とする装置。
11.高真空における金属の高速コーティングのための方法において、
a.前記コーティングが、少なくとも1つの蒸発源により供給される実質的に閉じられたコーティングチェンバ内で行われ、
b.前記コーティングチェンバは少なくとも1つの側が基板により画定され、
c.蒸気状コーティング材料が前記コーティングチェンバの壁により散乱して戻され、
d.前記コーティングチェンバ内で、10Paより大きな蒸気圧が生成され、
e.前記材料の蒸気が、前記壁を汚染することなく、実質的に前記基板上で凝縮する、
ことを特徴とする方法。
【符号の説明】
【0037】
1 コーティングチェンバ
2 チェンバ壁
3 蒸発源
4 基板
5 冷却又は加熱エレメント
6 ブラインド、スクリーン
7 エフュージョンセル
8 エフュージョンセルのカバー
9 アーク
10 追跡可能な金属電極
11 追跡可能な蒸発材料
12 レーザ又は電子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高真空における金属の高速コーティングのための装置であって、
a.前記高真空内のコーティングチェンバであって、前記高真空に対して少なくとも1つの開口を有するコーティングチェンバと、
b.前記コーティングチェンバ内に金属蒸気粒子を放出するように配置された少なくとも1つの蒸発源と、
を有し、
c.前記コーティングチェンバが少なくとも1つの側において基板により画定されている、
装置において、
d.コーティングされるべきでない全ての表面が、非粘着性コーティングを備え、
e.前記蒸発源のスイッチオン後、前記コーティングチェンバ内に、高真空制約から開始して前記蒸発源から前記基板への前記金属蒸気粒子の粘性流が生成されるように、前記高真空に対する前記コーティングチェンバの全ての開口の合計断面が構成される、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記非粘着性コーティングが、室温において10−5Pa未満の蒸気圧を持つペルフルオロポリエーテルからなることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の装置において、前記非粘着性コーティングを備える前記表面が能動的に冷却されることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の装置において、前記コーティングチェンバ内の金属蒸気圧がコーティングフェーズの間において少なくとも10Paに達することを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の装置において、前記コーティングチェンバ内に、前記金属蒸気を指向させるため、及び/又は前記基板を保護するため、及び/又は前記基板上の層厚を均一化するためにブラインド又はスクリーンが設けられることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の装置において、短いサイクルの動作が可能となるように、数秒内に、好ましくは10秒未満内に当該コーティングに必要な量の材料が蒸発されるよう前記蒸発源がパルスモードで動作されることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の装置において、前記蒸発源が、カバーを用いて開放及び閉塞され得るホット・エフュージョン・セルからなることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の装置において、前記蒸発源が追跡可能な電極を持つアーク蒸発器からなることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の装置において、前記蒸発源が、電力が制御されたレーザ又は電子ビームを用いて蒸発される詰め替え可能な材料供給体を有することを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れか一項に記載の装置を用いて高真空内で金属を高速コーティングする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−525495(P2012−525495A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507714(P2012−507714)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055633
【国際公開番号】WO2010/133426
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(503377939)テバ ドュンシッヒトテヒニク ゲーエムベーハー (3)
【住所又は居所原語表記】Rote−Kreuz−Str.8, 85737 Ismaning, Germany
【Fターム(参考)】