説明

高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー

【課題】高温かつ強い酸化雰囲気下の過酷な環境においても充分な耐久性を有する安定化フッ素化スルホン酸ポリマーを提供する。
【解決手段】特定の構造のフッ素化スルホン酸ポリマーであって、200℃で、80℃水飽和空気と16時間に渡り接触し続けた後、該ポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬したときのフッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.004質量%以下である高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と耐酸化性に優れた高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーに関する。詳しくは、固体高分子型燃料電池用の高分子固体電解質として好適に用いることのできる高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質として固体高分子隔膜を用いた燃料電池が、小型軽量化が可能であり、かつ、比較的低温でも高い出力密度が得られることから注目され、開発が加速されている。
このような目的に用いられる固体高分子材料には、優れたプロトン伝導度、適度な保水性、水素ガス、酸素ガス等に対するガスバリア性等が要求される。このような要件を満たす材料として、スルホン酸基、ホスホン酸基等を有する高分子が種々検討され、多くの材料が提案されてきている(例えば、非特許文献1参照)。
しかし、実際の燃料電池運転条件下では、電極において高い酸化力を有する活性酸素種が発生し、特に、長期にわたり燃料電池を安定に運転させるためには、このような過酷な酸化雰囲気下での耐久性が要求される。現在までに提案されている多くの炭化水素系材料は、燃料電池の運転の初期特性に関しては優れた特性を示すものも報告されているが、耐酸化性に問題がある。
【0003】
このため、現在、実用化に向けた検討としては、下記一般式(2)
【0004】
【化1】

(式中、kおよびlは、k/lが3〜10となるような数値であり、p=0,1、q=2である。)
で表されるパーフルオロスルホン酸ポリマーが主に採用されている。
このポリマーは、下記一般式(3)
【0005】
【化2】

(式中、p、qは一般式(2)と同じ。)
で表されるパーフルオロビニルエーテルモノマーと、テトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体を製膜した後、加水分解反応を施すことによって得られる。
【0006】
ところが最近、このようなパーフルオロスルホン酸ポリマー膜でさえ、燃料電池のような過酷な運転条件下では次第に分解し、運転中の排水中にフッ化物イオンを溶出していることがわかり、解決策が求められている。実際の燃料電池内で、このような分解がどのような機構で起こるかは未だ明らかではないが、運転中には過酸化水素が生成しており、これから生成するヒドロキシラジカルやヒドロパーオキシラジカルにより、パーフルオロポリマーの不安定部位から分解することが提案されている(非特許文献2)。非特許文献2ではまたNafion(デュポン社登録商標)ポリマー(一般式(2)で表されるポリマー)において、フッ素ガスによるポリマーの前処理を行い、不安定部位を削減しておくことで過酸化物安定性試験(フェントン試験)に対する耐性が向上することが報告されている。同様に、特許文献1には、一般式(2)においてp=1,q=2のポリマーについてフッ素ガス処理を行い、フェントン試験耐性が向上することが記載されている。
【0007】
フェントン試験とは、モデル的に酸化分解を加速する試験方法として知られている試験方法であり、過酸化水素と2価の鉄イオンを含む水溶液に燃料電池膜を浸漬することにより、酸化分解を加速的に引き起こす方法である。
このように、従来は、燃料電池材料に求められる特性としてフェントン試験に代表される耐酸化性に注目されてきた。しかしながら、実際の電池内では、水素の燃焼による発熱等の理由で局部的に温度が上昇するので、燃料電池用の電解質ポリマー材料としては、耐酸化性とともに耐熱性を併せ持つ材料、さらには、高温での耐酸化性を示す材料が必要である。しかしながら、強い酸化雰囲気や高温といった、複合的な環境においても充分な耐久性を有するポリマーについてはこれまで報告されていなかった。
【0008】
尚、特許文献2には、一般式(2)においてm=3、n=0のポリマーが燃料電池用膜として、特許文献3には触媒バインダーとして用いることが記載されているが、これらの文献では、このポリマーの化学的安定性や、さらなる安定化処理については何の説明もされていない。
また、特許文献4には一般式(2)においてm=4、n=0のポリマーが食塩電解用イオン交換膜材料として、特許文献5には燃料電池膜として記載されているが、これらの文献では、このポリマーの化学的安定性や、さらなる安定化処理については何の説明もされていない。
【非特許文献1】O. Savadogo, Journal of New Materials for Electrochemical Systems I, 47-66(1998)
【非特許文献2】D. E. Curtin et al. J. Power Sources, 131, 41-48(2004)
【特許文献1】国際出願公開公報WO2004/102714号明細書
【特許文献2】特開2000−268834号公報
【特許文献3】特開平6−333574号公報
【特許文献4】特開昭58−93728号公報
【特許文献5】国際出願公開公報WO2004/062019号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高温かつ強い酸化雰囲気下の過酷な環境においても充分な耐久性を有する安定化フッ素化スルホン酸ポリマーを提供することを目的とするものである。さらに詳しくは、固体高分子型燃料電池用の膜および/または触媒バインダーとして用いたときに優れた耐久性を有する高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、課題である分解反応性とポリマー構造との関係について鋭意研究を重ねた結果、特定の条件を満たす高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] イオン交換容量が600〜1300g/当量の範囲のフッ素化スルホン酸ポリマーであって、
1)該ポリマーを200℃で、80℃水飽和空気と16時間に渡り接触する条件での熱酸化処理を施した後、
2)該ポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬する条件でのフェントン試験に供した場合に、
フッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.004質量%以下であることを特徴とした高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー。
[2] フッ素化スルホン酸ポリマーが下記一般式(1)
【0011】
【化3】

(式中、kおよびlは、k/lがそれぞれのモノマー単位のモル比を表し、イオン交換容量が600〜1300g/当量の範囲となるように定められる数値であり、mは3〜8の整数である。)
で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーであることを特徴とした[1]に記載の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー。
[3] 上記一般式(1)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬する条件でのフェントン試験に供した場合に、フッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.002質量%以下である高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー。
[4] [1]〜[3]のいずれか1項に記載の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーを含んでなる膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーは、高温かつ強い酸化雰囲気下の過酷な環境においても充分な耐久性を有するため、固体高分子型燃料電池用の膜および/または触媒バインダーとして用いた場合に、運転中の分解が極めて少ないことから、燃料電池用材料として長期間安定して用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
一般に固体高分子型燃料電池用の膜の耐久性の評価は、実際の電池条件で何千時間もの長期間の試験を繰り返すことは現実的ではないので、種種の加速試験が行われている。その1つがフェントン試験であり、強い酸化雰囲気を再現し、そこでの耐久性を評価するものである。それでも分解の程度は小さいので、通常は分解で生成するフッ化物イオンをモニターすることで評価される。フェントン試験では、ヒドロキシラジカルや、ヒドロパーオキシラジカルに晒されたときの耐性が評価される。
一方、実際の電池運転中は、他のメカニズムによる分解も観測され、フェントン試験だけでは膜の耐久性を評価したことにはならない。例えば、クロスオーバーした水素がカソードで燃焼することで発生する熱により、別のメカニズムによるポリマー分解が進行することが推定される。本発明者らは、高温での酸化分解が、フェントン試験とは異なるメカニズムで進行していると推定しており、別途、以下に示す熱酸化試験により評価を行っている。
【0014】
本発明における熱酸化試験とは、次のようなものである。まず、ポリマーサンプルを好ましくは膜厚50μm程度の膜状形態とし、約0.1g(3cm×3cm程度)に切り出し、内径5mm長さ5cmのSUS製またはPTFE製試料管に入れ、両端にそれぞれPTFEの配管を接続する。試料管全体を200℃のオーブンに入れ、入口側の配管を通じて、配管の途中で80℃に加温した水のバブラーを通すことで加湿した空気(80℃水飽和空気)を20ml/分で流す。出口側の配管は、8mlの希NaOH水溶液(6×10−3N)に導入し、分解物を1時間ずつ捕集し、この捕集液中のフッ化物イオンをイオンクロマトで定量する。尚、この際、ポリマー中の不純物等の影響で、分解試験初期に比較的高濃度のフッ化物イオンが捕集されることがあるが、その場合には、1時間あたりの捕集量が安定してからの捕集量を求めればよい。
【0015】
従来用いられている、一般式(2)においてq=2である膜の場合は、公知のようにフッ素処理を行って安定化してさえも、本熱酸化試験では分解量がかなり大きいことが確認されているが、本発明者らはある特定の構造のポリマー膜が、本熱酸化試験において特異的に耐性を示すことを見出し、すでに特許出願している。しかしながら、この熱酸化試験とフェントン試験とは、分解のメカニズムが異なるため、該特定の構造のポリマーにしても、必ずしもフェントン試験に対する耐性が充分なものではなかった。
本発明者らは、フェントン試験と熱酸化試験の両者に耐性があることはもちろん、それらを組み合わせた試験においても充分な耐性を有するポリマー膜について鋭意検討し、本発明を成すに至った。すなわち、本発明のポリマーは、フェントン試験と熱酸化試験の両者に耐性があるだけでなく、熱酸化試験を行った後にフェントン試験を行った場合に、特に充分な耐性を示すことが特長であり、そのようなポリマーはこれまで報告されているものでは見当たらない。
【0016】
すなわち、本発明のポリマーは、上記熱酸化試験を16時間にわたって行った後でさえ、フェントン試験においても充分な耐性を示すポリマーである。例えば上記熱酸化試験後の本発明のポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬したときであれば、フッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.004質量%以下のものである。好ましくは0.003質量%以下であり、さらに好ましくは0.002質量%以下である。また、本発明のポリマーにおいては、フッ化物イオンの生成量の下限値は0.00001質量%である。尚、試験に供するポリマーは通常は膜状物であり、膜厚50μm±10μm程度であることが好ましい。また使用するポリマーの量は、基本的には0.1gであり、±20mg程度の違いは測定に影響はないが、試験前に乾燥(110℃、2時間真空乾燥)し、精秤しておくことが必要である。尚、上記熱酸化試験後のポリマーは、フェントン試験前には充分に水洗後、乾燥しておく必要がある。
【0017】
本発明のポリマーは、燃料電池用の固体電解質として用いることが目的なので、イオン交換容量は高いほうがイオン伝導度が高いので好ましい。具体的には1300g/当量以下であり、好ましくは1100g/当量以下であり、より好ましくは1000g/当量以下であり、より好ましくは950g/当量以下であり、特に好ましくは900g/当量以下である。一方、イオン交換容量が高すぎると機械的強度が低下したり、水への溶解が問題になるのでイオン交換容量の上限は600g/当量であり、好ましくは640g/当量以上であり、さらに好ましくは680g/当量以上である。
本発明のポリマーとしては、例えば下記一般式(1)
【0018】
【化4】

で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーであって、不安定部位の極めて少ない高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーが例示される。具体的には上記一般式(1)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーであって、フェントン試験において充分な耐性を示すものである。例えば一般式(1)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬したときであれば、フッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.002質量%以下のものである。好ましくは0.0015質量%以下であり、さらに好ましくは0.001質量%以下であり、特に好ましくは0.0005質量%以下である。一方、該ポリマーにおいて、下限値は0.00001質量%である。この場合のサンプル形状、質量、乾燥条件等の要件は、先の説明と同様である。
【0019】
尚、フェントン試験条件は、過酸化水素濃度、2価の鉄イオン濃度、温度、時間の組み合わせとして種々の条件が提案されており、本発明のポリマーは、どの条件に対しても、優れた耐性を示すが、ここでは上記条件を採用した。
また、本発明のポリマーは、通常は上記熱酸化試験そのものにおいても耐性に優れたものであって、上記試験におけるフッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して、好ましくは1時間あたり0.02質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下であり、さらに好ましくは0.005質量%以下である。
尚、一般式(1)において、kおよびlは、k/lがそれぞれのモノマー単位のモル比を表し、イオン交換容量が600〜1300g/当量の範囲となるように定められる数値である。またmは3〜8の整数であるが、耐熱性が高いのでmは4〜8が好ましく、Tgが高いので4〜6がさらに好ましく、4が最も好ましい。
本発明のポリマーの主鎖末端はどんな構造でもよいが、好ましくは−CF基である。また、カルボキシル基が少ないものである。
【0020】
一般式(1)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーにおいて、含水状態での機械的強度が優れるので、該ポリマー中の−SOH基を−SOFとした形態のときの、270℃におけるメルトフローレートが100g/10分以下であることが好ましい。より好ましくは60g/10分であり、より好ましくは40g/10分であり、より好ましくは20g/10分であり、特に好ましくは10g/10分以下である。ここでメルトフローレートは、荷重2.16kg、オリフィス径2.09mmの条件で測定した値である。
また、一般式(1)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーの水和積(特許文献5で定義されている)は、イオン伝導度と湿潤時の機械的強度のバランスから、22000未満が好ましく、21000以下がより好ましく、20000以下がさらに好ましく、19000以下がさらに好ましく、18000以下が特に好ましい。水和積の下限は2000以上が好ましく、より好ましくは3500以上であり、特に好ましくは5000以上である。また、水和積とイオン交換容量との積で表すと、上限は23×10が好ましく、22×10がより好ましく、21×10がより好ましく、20×10が特に好ましい。また下限は2×10が好ましく、3×10がより好ましく、4×10がより好ましく、5×10が特に好ましい。
【0021】
次に、本発明の安定化フッ素化スルホン酸ポリマーの製造方法の一例について説明する。本発明のポリマーは、例えば下記一般式(4)
【0022】
【化5】

(式中、k、l、mは一般式(1)と同じである。)
で表されるフッ素化ポリマーの状態で少なくとも1回、フッ素化処理を行い、次いで該ポリマー中の−SOF基を−SOH基に変換することにより製造される。すなわち、一般的なフッ素化スルホン酸ポリマーの製造方法において、スルホン酸誘導体基が−SOF基である状態で、フッ素化処理を行うものである。フッ素化処理は1回以上行えばよいが、2回以上繰り返し行ってもよく、例えば熱水処理等の操作をはさんで繰り返してもよい。これは、フッ素化処理は不安定部位を安定部位に変換するための操作であるが、1回のフッ素化処理で完全に変換しきれないような準不安定部位が存在する場合には、該準不安定部位を不安定部位に変換してから、改めてフッ素化処理を行うものである。尚、不安定部位とは、具体的にはカルボキシル基や−CFH基等が例示され、安定部位とは−CF基等が例示され、準不安定部位とは−COF基やエステル基等が例示される。
【0023】
フッ素化処理は、基本的には特許文献1、米国特許第4626587号明細書、米国特許第4743658号明細書等に示されているような公知の方法でよい。通常はフッ素ガスが用いられるが、SF等のガスを用いてもよい。フッ素ガスを用いる場合、通常は窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈したガスが用いられる。希釈ガスの場合、フッ素ガス濃度は1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。またフッ素ガス濃度は反応とともに、段階的、あるいは連続的に引き上げてもよい。
フッ素化処理は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。フッ素化処理の温度は、室温〜250℃、好ましくは50〜200℃の範囲で行われる。また、フッ素化処理は、パーフルオロカーボン等の不活性媒体中で行ってもよい。
【0024】
フッ素化処理に用いられる一般式(4)で表されるポリマーの形状は、粉末、フレーク状、ペレット、膜状いずれの形状でもよいが、均一にフッ素化処理するためには大きなブロック状の形状は避けたほうがよい。
本発明のポリマーは、燃料電池用の膜やバインダーポリマーとして用いた場合に耐久性に優れるため、長期間、好適に使用することができる。
まず、本発明のポリマーを膜として用いる場合、その膜厚は5〜200μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、20〜100μmが最も好ましい。本発明のポリマーを膜として用いる場合、例えば一般式(4)で表されるポリマーをフッ素化処理後、プレス成膜、押し出し成膜等の方法で成膜してから、ケン化等の方法でスルホン酸基に変換して使用される。また、スルホン酸基に変換後のポリマーを溶液や分散液とし、キャスト法により成膜してもよい。本発明のポリマーは単独で膜として用いることができるが、膜の補強や特性調整のため、他の材料と複合させてもよい。例えば補強の目的ではPTFE等のフッ素系樹脂等の有機フィラー、シリカやアルミナ等の粉末状やウイスカー状等の各種の無機フイラーを混合することができる。あるいはPTFE等のフッ素系樹脂や各種の芳香族系や非芳香族系のエンジニアリング樹脂の織布、不織布、繊維等を芯材として用いることもできるし、PTFE等のフッ素系樹脂や炭化水素系樹脂の多孔膜に該フッ素化スルホン酸ポリマーを含浸したものを膜としてもよい。一方、耐久性や膨潤性を調整する目的で、ポリイミド、ポリフェニレンエーテルやポリフェニレンスルフィドのような芳香族基含有ポリマーやポリベンズイミダゾールで代表される各種の塩基性基含有ポリマー等の他のポリマーを混合してもよい。
【0025】
いずれにしても、他の材料を複合する場合、高いプロトン伝導度を保持するためには該フッ素化スルホン酸ポリマーの比率は60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
また、本発明のポリマーを溶液や分散液としたものは、触媒バインダーとして用いることもできる。該溶液や分散液の溶媒としては、水、エタノールやプロパノール等のアルコール類等が、単独または混合溶媒として用いられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
[実施例1]
1)ポリマー合成
ステンレス製1Lオートクレーブに、478gのCF=CFOCFCFCFCFSOFと503gのHFC43−10meeを入れた。容器内を充分に窒素置換した後、さらにテトラフルオロエチレン(TFE)で置換した。ここで重合開始剤として(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液1.9gを入れ、TFEで0.35MPaに加圧した。35℃で攪拌しながら適宜TFEを追加圧入した。途中で(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.95gを追加注入した。4時間後、放圧し、水を注入して終夜攪拌した後、常圧〜減圧で溶媒および大部分の残モノマーを除去した。残った固形物をHFC43−10meeで5回洗浄、110℃で真空乾燥して54.9gの白色フレーク状固体(ポリマーA)を得た。
【0027】
この固体のIRスペクトルを測定したところ、SOF基に由来するピークが観察され、SOF基が含まれていることが確認できた。また、19F−NMRスペクトルを測定した結果、CF=CFOCFCFCFCFSOFモノマー単位とTFEモノマー単位を含む共重合体であることが確認された。
ポリマーAのメルトフローレート(MFR)は、温度270℃、荷重2.16kg、オリフィス径2.09mmの条件下で測定し、2.9であった。
ポリマーAを270℃にてプレスし、厚さ50μmのフィルムを得た。このフィルムを、KOH/ジメチルスルホキシド/水(30:15:55/質量比)中、90℃で1時間浸漬してケン化反応を行った。次いで水洗後、4N硫酸中、90℃で1時間浸漬し、水洗、乾燥してスルホン酸型の膜を得た。この膜について滴定でイオン交換容量(EW)を測定したところ831g/当量であった。
【0028】
2)フッ素化処理
上記ポリマーAのフレーク5gをハステロイC製50mLオートクレーブに入れ、窒素パージしてから真空脱気し、次いで180℃に昇温した。ここに窒素で20モル%に希釈したフッ素ガスをゲージ圧0.25MPaまで導入し、4時間保持した。
オートクレーブ内のガスを排気し、窒素置換を繰り返した後開放し、フッ素化処理されたポリマー(ポリマーB)を得た。
3)加速劣化試験
ポリマーBを270℃にてプレスし、厚さ50μmのフィルムを得た。このフィルムを上記1)に記載と同条件でスルホン酸型に変換した膜を製造した。この膜の水和積は18000、水和積とイオン交換容量の積は15×10であった。
【0029】
(熱酸化試験)
このスルホン酸型の膜を3cm×3cm(約0.1g)に切り出し、110℃で2時間真空乾燥後、精秤し、内径5mm長さ5cmのSUS製試料管に入れ、入口側にSUS配管を、出口側にPTFEの配管をそれぞれ接続した。試料管全体を200℃のオーブンに入れ、SUS配管を通じて空気を20ml/分で流した。この際、配管の途中で80℃に加温した水のバブラーを通すことで空気を加湿した。出口側のPTFE配管は、8mlの希NaOH水溶液(6×10−3N)に導入し、分解物を1時間ずつ、16時間に渡り捕集を続けた。
各1時間毎の捕集液について、イオンクロマトを測定したところフッ化物イオン濃度は、4時間目以降はほぼ一定していた。4時間目以降の1時間当たりのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー質量に対して0.0031質量%であった。
【0030】
(フェントン試験)
2価の鉄イオンの初期濃度が2ppm且つ過酸化水素の初期濃度が1質量%である過酸化水素水溶液20mLに上記熱酸化試験後の膜(水洗、乾燥、精秤したもの)を浸漬して80℃にて2時間保持した後、試料ポリマーを取り除き、液量を測定したあと適宜、イオンクロマト用蒸留水で希釈し、イオンクロマト法でフッ化物イオンF?量を測定した。測定装置は日本国東ソー社製のIC−2001、陰イオン分析用カラムとして、東ソー社製のTSKgel SuperIC?Anionを使用した。
その結果、溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.00085質量%であった。
尚、上記熱酸化試験を行わずにフェントン試験を行った場合に溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.00018質量%であった。
【0031】
[比較例1]
実施例1のポリマーAを、フッ素化処理を行わずにスルホン酸型に変換した膜について、実施例1と同様に熱酸化試験を行った。その結果、フッ化物イオン濃度は、4時間目以降はほぼ一定しており、4時間目以降の1時間当たりのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー質量に対して0.0045質量%であった。
次いで熱酸化試験後の膜について、実施例1と同様にフェントン試験を行った。その結果、溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.0065質量%であった。尚、上記熱酸化試験を行わずにフェントン試験を行った場合に溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.0031質量%であった。
【0032】
[比較例2]
1)ポリマー合成
ステンレス製200mLオートクレーブに、66.9gのCF=CFOCFCFSOFと40gのHFC43−10meeを入れた。さらに重合開始剤として(CFCFCFCOO)の5%HFC43−10mee溶液0.85gを入れ、容器内を充分に窒素置換した後、テトラフルオロエチレン(TFE)を導入し、容器の内圧を0.3MPaに加圧した。25℃で攪拌しながら適宜TFEを追加圧入した。4.5時間後、放圧し、水を注入して終夜攪拌した後、常圧〜減圧で溶媒および大部分の残モノマーを除去した。残った固形物をHFC43−10meeで洗浄し、110℃で真空乾燥して13.7gの白色フレーク状固体(ポリマーC)を得た。
【0033】
この固体のIRスペクトルを測定したところ、SOF基に由来するピークが観察され、SOF基が含まれていることが確認できた。また、19F−NMRスペクトルを測定した結果、CF=CFOCFCFSOFモノマー単位とTFEモノマー単位を含む共重合体であることが確認された。
ポリマーCのメルトフローレート(MFR)は、温度270℃、荷重2.16kg、オリフィス径2.09mmの条件下で測定し、12.3であった。
ポリマーCを270℃にてプレスし、厚さ50μmのフィルムを得た。このフィルムを、KOH/ジメチルスルホキシド/水(30:15:55/質量比)中、90℃で1時間浸漬してケン化反応を行った。次いで水洗後、4N硫酸中、90℃で1時間浸漬し、水洗、乾燥してスルホン酸型の膜を得た。この膜について滴定でEWを測定したところ723g/当量であった。
【0034】
(フッ素化処理)
ポリマーCのフレーク5gについて、実施例1と同様にフッ素化処理を行った。得られたポリマーをポリマーDとした。
(熱酸化試験およびフェントン試験)
上記ポリマーDをスルホン酸型に変換した膜について、実施例1と同様に熱酸化試験を行った。その結果、フッ化物イオン濃度は、4時間目以降はほぼ一定しており、4時間目以降の1時間当たりのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー質量に対して0.035質量%であった。
次いで熱酸化試験後の膜について、実施例1と同様にフェントン試験を行った。その結果、溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.0078質量%であった。尚、上記熱酸化試験を行わずにフェントン試験を行った場合に溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.00025質量%であった。
[比較例3]
溶液重合で製造した、下記式(5)
【0035】
【化6】

で表される、EW950g/当量、MFR10のポリマーフレーク20gについて、実施例1と同様にフッ素化処理を行った。得られたポリマーをポリマーEとした。
上記ポリマーEをスルホン酸型に変換した膜について、実施例1と同様に熱酸化試験を行った。その結果、フッ化物イオン濃度は、4時間目以降はほぼ一定しており、4時間目以降の1時間当たりのフッ化物イオンの生成量は、元のポリマー質量に対して0.042質量%であった。
【0036】
次いで熱酸化試験後の膜について、実施例1と同様にフェントン試験を行った。その結果、溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.0088質量%であった。尚、上記熱酸化試験を行わずにフェントン試験を行った場合に溶出したフッ化物イオン量は、試料ポリマー質量に対して0.00030質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーは、固体高分子型燃料電池運転時と同様の高温かつ強い酸化雰囲気下の過酷な環境においても充分な耐久性を有する。したがって、本発明の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーを固体高分子型燃料電池用の膜および/または触媒バインダーとして用いた場合に、運転中の分解が極めて少ないことから、燃料電池用材料として長期間安定して用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換容量が600〜1300g/当量の範囲のフッ素化スルホン酸ポリマーであって、
1)該ポリマーを200℃で、80℃水飽和空気と16時間に渡り接触する条件での熱酸化処理を施した後、
2)該ポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬する条件でのフェントン試験に供した場合に、
フッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.004質量%以下であることを特徴とした高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー。
【請求項2】
フッ素化スルホン酸ポリマーが下記一般式(1)
【化1】

(式中、kおよびlは、k/lがそれぞれのモノマー単位のモル比を表し、イオン交換容量が600〜1300g/当量の範囲となるように定められる数値であり、mは3〜8の整数である。)
で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーであることを特徴とした請求項1に記載の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー。
【請求項3】
上記一般式(1)で表されるフッ素化スルホン酸ポリマーであって、該ポリマー0.1gを過酸化水素1質量%、2価の鉄イオン2ppmを含む20mlの水中で80℃、2時間浸漬する条件でのフェントン試験に供した場合に、フッ化物イオンの生成量が、元のポリマー質量に対して0.002質量%以下である高安定性フッ素化スルホン酸ポリマー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高安定性フッ素化スルホン酸ポリマーを含んでなる膜。

【公開番号】特開2006−241250(P2006−241250A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56475(P2005−56475)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】