説明

高密度焦点式超音波治療のための微粒子増強剤およびその使用

本発明は、HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギーの沈着を増大させることができる、高密度焦点式超音波(HIFU)治療に対する微粒子増強剤について開示する。前記増強剤は、膜形成物質により被包されたコア物質を含んでなる不連続相および水性媒質を含んでなる連続相を含む。前記不連続相は前記連続相中に均一に分散し、前記不連続相の粒子サイズは0.1〜8μmの範囲であり;前記増強剤中の膜形成物質の量は0.1〜100g/Lであり;前記コア物質は、38〜100℃において液体-気体相転移を起こさない液体を含んでなり、前記増強剤中のコア物質の量は5〜200g/Lである。本発明のHIFU治療に対する微粒子増強剤は、標的部位の超音波環境を有意に変化させることができ、HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギー沈着を増大させることができる。最終的に、腫瘍細胞を切除するための臨床的なHIFU治療の性能を著しく改善することができる。従って、本発明は、HIFU治療時のHIFU治療に対する微粒子増強剤の使用について開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、医薬および内科療法の分野、具体的には超音波治療の分野、さらに具体的には、HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギー沈着を増大させることができるHIFU治療に対する微粒子増強剤、およびその使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
腫瘍および他の疾患を治療するための新規の技術としての高密度焦点式超音波(HIFU)は、臨床での適用において既に認識されている。HIFUは、焦点を合わせた超音波を使用して、持続的、高密度の超音波エネルギーを焦点に提供することにより、即時の熱的効果(65〜100℃)、キャビテーション効果、機械的効果、および音化学効果を生じ、焦点において凝固性のネクローシスを選択的に引き起こし、腫瘍の増殖、浸潤、および転移を妨げる。
【0003】
体内の超音波伝達において伝達距離が増大した場合、超音波エネルギーが指数関数的に減弱することが示された(Baoqin Liu et al., Chinese Journal of Ultrasound in Medicine, 2002, 18(8):565-568)。加えて、軟部組織中の超音波伝達におけるエネルギーは、組織吸収、散乱、屈折、回折等により減弱し、これらの中でも組織吸収および散乱は、エネルギー損失に対する主要な原因である(Ruo Feng and Zhibiao Wang as editors in chief, Practical Ultrasound Therapeutics, Science and Technology Reference Publisher of China, Beijing, 2002.14)。それ故、HIFU治療が深在性且つ大きな腫瘍に対して使用される場合、標的に伝達される超音波エネルギーは相対的に低くなるであろう。それ故、超音波エネルギーの減弱により、治療効率が低下し、治療時間は延長されるであろう。
【0004】
もちろん、治療効率を改善するために、治療的な変換器の伝達力を増大させることは可能であるが、高密度の超音波環境において、超音波伝達の経路上の正常な組織が焼ける可能性がある。
【0005】
加えて、現在では、超音波伝達の経路が肋骨により遮断された肝臓腫瘍に対してHIFU技術が臨床的に適用される場合、標的部位におけるエネルギー沈着を増大させ、治療時間を短縮し、治療効率を増大させるために、肋骨は通常除去される。それ故、HIFU治療の非侵襲性が保証され得ず、患者および医師にとって望ましくない。
【0006】
上記問題は、不都合にも、臨床での実施に対する技術としてのHIFU治療の使用に限定される。それ故、標的部位におけるエネルギー沈着を増大させること、超音波経路における周囲の正常な組織を損傷することなく深在性の腫瘍を効率的に治療すること、および肋骨を除去することなく肋骨により遮断された肝臓腫瘍を治療することに関する技術的な問題を早急に解決する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの目的は、HIFU治療に対する微粒子増強剤であって、HIFU治療時に、標的組織において超音波エネルギーの沈着を増強することができる薬剤を提供することである。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、本発明のHIFU治療に対する微粒子増強剤を用いて、HIFU治療時に、標的部位における超音波エネルギーの沈着を増強するための方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、HIFU治療の有効性を増強するために、HIFU治療に対する微粒子増強剤の使用を提供することである。
【0010】
上述した目的を達成するために、1つの実施形態において、本発明はHIFU治療に対する微粒子増強剤を提供する。本発明の増強剤は、生物体に投与した後に、HIFUで治療されるべき標的部位において超音波エネルギーの吸収を増強することができる物質、すなわち、HIFU治療時において、標的組織(腫瘍および非腫瘍組織)の破壊を引き起こすのに必要な組織の単位体積当りの超音波エネルギーを減少させるために使用することができる物質である。本発明において、HIFU治療に対する増強剤として使用される物質のタイプは、その物質が脂質エマルジョンであり、標的組織の超音波環境を変化させることができ、標的組織における治療的な超音波エネルギーの吸収および沈着を促進する限り、特に限定されない。
【0011】
ここで用いられる場合、「破壊」という用語は、腫瘍または正常組織の生理的な状態における実質的な変化を意味し、一般的に、腫瘍または正常組織の凝固性ネクローシスを意味する。エネルギー効率因子(EEF)は、標的組織の破壊を引き起こすのに必要な、組織の単位体積当りの超音波エネルギーを定量するために用いることができる。EEFは、式ηPt/V(単位:J/mm3)により表され、腫瘍または正常組織の破壊を引き起こすために必要な、組織の単位体積当りの超音波エネルギーを示し、ここでのηはHIFU変換器の焦点係数を意味し、変換器の超音波エネルギーの焦点を合わせる能力を示し、ここではη=0.7であり;Pは、HIFUソースの全超音波力(単位:W)を意味し;tは、HIFU治療の全時間(単位:s)を意味し;Vは、HIFU誘発性の破壊の体積(単位:mm3)を意味する。投与後に標的組織のEEFを大いに減少させる物質は、本発明によるHIFU治療に対する増強剤として使用することがより適している。
【0012】
HIFU治療に対する増強剤は、投与後に、標的組織のEEFを大いに減少させる。結果として、増強剤の投与前に測定した標的組織のEEF(すなわちEEF(ベース))と、増強剤の投与後に測定した標的組織のEEF(すなわちEEF(測定値))の間の比は、1より大きく、好ましくは2より大きく、より好ましくは4より大きい。前記比の上限は特になく、より高い比が好ましい。
【0013】
特異的に、本発明のHIFU治療に対する増強剤は、膜形成物質により被包されたコアを含んでなる不連続相および水性媒質を含んでなる連続相を含む。前記不連続相は連続相中に均一に分散され、不連続相の粒子サイズは、0.1〜8μm、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは2.5〜5μmの範囲であり;前記増強剤中の膜形成物質の量は、0.1〜100g/L、好ましくは5〜50g/L 、より好ましくは5〜20g/Lであり;コアは、38〜100℃で液体-気体相転移を起こさない液体を含んでなり、増強剤中のコア物質の量は、5〜200g/L、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜80g/Lである。
【0014】
本発明の上記実施形態において、前記膜形成物質には以下が含まれる:3-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルグリセロールナトリウム塩、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸ナトリウム、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリンおよび水素化ホスファチジルセリン、コレステロール、および糖脂質のような脂質;例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン、およびそれらの分解産物を含む糖質;アルブミン、グロブリン、フィブリノゲン、フィブリン、ヘモグロビン、および植物性タンパク質の分解産物等のようなタンパク質。
【0015】
本発明の上述した実施形態において、前記コア物質には、水、飽和脂肪酸、大豆油およびピーナッツ油のような不飽和脂肪酸、ならびにヨード化油が含まれる。前記コア物質は、好ましくは、大豆油およびヨード化油から選択される。
【0016】
本発明によるHIFU治療に対する微粒子増強剤の膜形成物質は、好ましくは脂質のような生体適合性且つ分解可能な医療材料であり、それ故増強剤は静脈内に投与することが可能であり、血液循環を円滑に介して運搬され、その後、細網内皮細胞で満たされた人体の組織により迅速に貪食される。それ故、多くの増強剤は、一定時間人体の組織に沈着することができ、標的組織の超音波環境を著しく変化させる。それ故、組織の超音波吸収能は大いに増強され、HIFU治療時における標的組織の超音波エネルギー沈着を増大させることができ、最終的に、腫瘍細胞を切除するための臨床的なHIFU治療の性能を大いに改善することができる。
【0017】
本発明の上記実施形態において、前記水性媒質は、蒸留水、生理食塩水、またはグルコース溶液である。グルコース溶液の濃度は50%(w/v)まで可能である。しかしながら、グルコース溶液は、糖尿病患者のHIFU治療に対する微粒子増強剤の水性媒質としては用いることができない。
【0018】
コア物質として油を用いる場合、前記増強剤は乳化剤を含んでよい。前記乳化剤は、典型的には、エチレングリコールモノ-C16〜18-脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノ-C16〜18-脂肪酸エステル、ジエチレングリコールジ-C16〜18-脂肪酸エステル、トリエチレングリコールモノ-C16〜18-脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル(スパンタイプ(Span type))乳化剤、ポリソルベート(ツイーンタイプ)乳化剤、ポリエチレングリコールモノラウレートに基づく乳化剤、ポリオキシエチレンラウレートに基づく乳化剤、3-sn-ホスファチジルコリン(レシチン)、コール酸等からなる群より選択される。増強剤中の乳化剤の量は、5〜150g/Lである。加えて、前記増強剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシエチルセルロースナトリウム、カルボキシエチルセルロースカリウム、カルボキシプロピルセルロースナトリウム、カルボキシプロピルセルロースカリウム、グリセリン等の安定化剤も含まれてよい。増強剤中に含まれるCMC-Naの量は、0.01〜10g/L、好ましくは0.05〜0.6g/L、より好ましくは0.1〜0.3g/Lである。増強剤中に含まれるグリセリンの量は5〜100g/Lである。
【0019】
より好ましい実施形態において、増強剤の安定性を高めるために、前記増強剤はpH 7.0〜9.0、好ましくは7.5〜8.5に調節される。無機もしくは有機酸または塩基が、増強剤のpHを調節するために使用されてよい。
【0020】
加えて、特定の腫瘍組織または焦点を標的とする本発明によるHIFU治療に対する微粒子増強剤を作るために、腫瘍特異的な抗体のような前記腫瘍組織または焦点に対して特異的な親和性を有する物質を増強剤に加えてよい。
【0021】
もう1つの実施形態において、本発明は、HIFUに対する微粒子増強剤を調製するための方法を提供する。前記方法は以下を含んでなる:(1)膜形成物質およびコア物質を計量および混合し、0.1〜100g/Lの膜形成物質および5〜200g/Lのコア物質で油相を形成することと;(2)ステップ(1)で調製した油相に、予め決められた体積まで水性媒質を加え、混合物を撹拌することにより粗いエマルジョンを形成することと;(3)ステップ(2)で調製した粗いエマルジョンを、300W〜500Wの力で30秒〜3分間超音波処理することにより乳化すること。
【0022】
本発明のHIFU治療に対する微粒子増強剤の調製方法において、膜形成物質およびコア物質は加熱により全て溶解し、ステップ(1)の油相を形成することが好ましい。膜形成物質およびコア物質が全て溶解する前に、安定化剤を混合物に加えることがより好ましい。ステップ(2)の水性媒質は、乳化剤を含んでよい。
【0023】
本発明は、HIFU治療時に標的部位におけるエネルギー沈着を増加させる方法に向けられており、前記方法は、HIFU治療を適用する0〜24時間前に、本発明の微粒子増強剤の有効量を静脈内に持続的に投与することおよび急速IV注入することまたは大量瞬時投与することを含んでなる。上述した有効量は、腫瘍の型、患者の体重、腫瘍の部位、腫瘍の容積等により変化する。しかしながら、医師または薬剤師は、異なる患者に対して適切な用量を容易に決定することができる。例えば、前記用量は、0.01〜5ml/kg、好ましくは0.01〜2.5ml/kgの範囲から選択することができる。
【発明の詳細な説明】
【0024】
実施例1
以下の物質を混合した:注射のための4gのヨード化油(Shanghai Chemical Reagent Companyから購入)、注射のための0.6gの卵黄レシチン、(Shanghai Chemical Reagent Companyから購入)、および注射のための1.25gのグリセリン(Shanghai Chemical Reagent Companyから購入)。この混合物を70℃に加熱した後、溶解し、油相を形成した。1%(w/v) F-68乳化剤(シグマ社(Sigma Company)から購入)を含有する蒸留水を、17.5mlの最終体積まで油相に加えた。混合物を撹拌し、粗いエマルジョンを得た。試験管に入れた粗いエマルジョンを、350Wの力で2分間超音波処理することにより乳化した。結果として得られる均一に乳化したヨード化油を、100℃で30分間、蒸気流により滅菌した。最終生成物のpHは7.5〜8.5であり、ヨウ素含量は0.13g/mlであり、粒子サイズは1μm未満であり、浸透圧は350mosm/kg H2Oであった。
【0025】
実施例2〜4
実施例2〜4は、注射のためのヨード化油の代わりにコア物質として注射のための大豆油を用いたこと、および注射のための卵黄レシチンの代わりに膜形成物質としてレシチンを用いたことを除いて、実施例1に記載したものと同じ方法および手法により調製した。本発明のHIFU治療に対する微粒子増強剤は、下記表1において示した処方により得られた。前記増強剤は、静脈注射により動物およびヒトに投与することが可能な白いエマルジョンの液体として得られた。生成物のパラメータは、表1に示す。
【表1】

【0026】
HIFU腫瘍治療装置の使用と組み合わせた本発明のHIFU治療に対する増強剤の効果を示すために、動物試験を以下に示す。
【0027】
動物試験1:実施例3で調製したHIFU治療に対する微粒子増強剤とHIFU治療システムモデルJC(HIFU Therapeutic System Model-JC)との併用
性別を限定しない、Laboratory Animals Center of Chongqing University of Medical Sciences により提供された50のニュージーランドシロウサギ(約3月齢)を、A群およびB群に均等に分けた。A群およびB群のウサギは、それぞれ2.22±0.21kgおよび2.24±0.19kg (P>0.05)であった。
【0028】
ニュージーランドシロウサギは、筋肉内注射により麻酔され、Chongqing Haifu (HIFU) Technology Co. Ltd.により製造された高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデル-JC(High-intensity Focused Ultrasound Tumor Therapeutic System Model-JC)の処理台に固定され、その後、このシステムで処理された。高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデル-JCは、調節発電機、B-モード超音波モニタリングシステム、治療変換器、機械的運動調節システム、処理台、および超音波結合装置から構成される。前記システムの治療変換器は、1MHzの振動数で作用し、直径150mm、焦点距離150mmであり、気体の量が3ppm以下である標準的な循環脱気水を使用し、2.3×2.4×26mmの焦点領域を作ることができ、平均超音波強度を5500W/cm2にすることができる。
【0029】
ウサギの肝臓を、HIFU治療システムのB-モードスキャナーにより予め走査した。2.0cmの照射深さで、少なくとも2cmの間隔を有する2つの切片を測定した。A群の各ウサギについて、ウサギの肝臓の左側(左/中葉)は対照葉として考え(生理食塩水を投与する)、ウサギの肝臓の右側(右葉)は実験葉として考えた(実施例3で調製したHIFU治療に対する増強剤を投与し、増強剤側とも呼ばれる)。対照葉および実験葉はB群において逆に位置する。HIFU治療の照射深さ(すなわち皮膚表面から焦点までの距離)も2.0cmであった。肝臓切片が選択された後、生理食塩水がウサギの耳の辺縁静脈を通して50〜60滴/分で輸送された。20分後、ウサギの肝臓の左側(A群)またはウサギの肝臓の右側(B群)を単一パルスの照射または複数パルスの照射下でHIFUに曝し(ライン長:1cm、走査スピード:3mm/s)、標的部位におけるほとんどない変化および暴露時間を記録した。その後、HIFU治療システムの焦点を逆側に移した。生理食塩水の代わりに、実施例3で調製したHIFUに対する増強剤を静脈投与し、注入速度および時間を肝臓の対照葉と同様にした。その後、ウサギの肝臓の右側(A群)またはウサギの肝臓の左側(B群)をHIFUに曝した。同じウサギの肝臓の両側に対して使用された処理モードは同じであった。
【0030】
ウサギは、HIFU処理の24時間後に屠殺され、解剖された。ウサギの肝臓の破壊の凝固性ネクローシス領域の大きさ(長さ、幅、および厚さ)を測定した。凝固性ネクローシスの容積は、式V=4/3π×1/2 長さ×1/2 幅×1/2 厚さにより計算した。EEFは、式EEF=ηPt/V(J/mm3)により計算した。EEFは、A群とB群の間、または群の中で比較した。投与後に標的組織のEEFを大いに減少させる物質は、本発明によるHIFU治療に対する増強剤として使用するのにより適している。その結果を表2に示す。
【表2】

【0031】
表2の結果は、生理食塩水を投与されたA群とB群のウサギの間には注目すべき違いがなく;実施例3で調製したHIFU治療に対する微粒子増強剤を投与されたA群とB群のウサギの間にも注目すべき違いはないことを示す。しかしながら、対照葉の実験結果を実験葉の実験結果と比較した場合、A群またはB群における対照葉と実験葉の間には著しい違いがあった。A群およびB群の結果を合わせると、実験葉のEEFが大いに減少していることが分かる。実際、生理食塩水を投与された対照葉のEEFは、実験葉のEEFの約2.22倍であった。
【0032】
動物試験2:実施例1で調製した乳化したヨード化油とHIFU治療システムモデル-JCとの併用
Laboratory Animals Center of Chongqing University of Medical Sciencesにより提供されたそれぞれ約2kgの重さの30のニュージーランドシロウサギを、実験群および対照群にランダムに各群15ずつ分けた。2つの照射点をそれぞれのウサギに導入した。対照群のウサギには、生理食塩水(用量:2.5ml/kg)を、ウサギの耳の辺縁静脈を介した急速注入により投与した。実験群のウサギには、実施例1で調製した乳化したヨード化油(用量:2.5ml/kg)を、ウサギの耳の辺縁静脈を介した急速注入により投与した後、乳化したヨード化油を体全体に行き渡らせるために、1mlの生理食塩水を流した。1時間後、実験群および対照群のシロウサギの肝臓に単一パルス照射で照射するために、Chongqing Haifu (HIFU) Technology Co. Ltd.により製造された高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデル-JCを用いた。照射の力は220Wであり;振動数は1.0MHzであり;照射深さは20mmであり;凝固性ネクローシスが起こった時に照射を止めた。測定データは、独立および対の標本試験を用いたウィンドウズ(登録商標)のための統計ソフトウェアSPSS 10.0により、平均値±SDとして表した。一覧のデータは、カイ2乗(χ2)検定を用いて決定した。対照群のEEFと実験群のEEFの比較は表3に示した。
【表3】

【0033】
Nは、照射点の数を示す。
*対照群と比較した場合、P<0.001。
【0034】
表3の結果は、実施例1で調製した乳化したヨード化油により、HIFU治療を用いて肝臓組織の破壊を引き起こすためのEEFのレベルを大いに減少させることができたことを示す。
【0035】
動物試験3:実施例3で調製した増強剤のインビトロ試験
Laboratory Animals Center of Chongqing University of Medical Sciencesにより提供された、性別を限定しないニュージーランドシロウサギ(約3月齢)を、実験群(実施例3で調製したHIFUに対する増強剤を投与した)および対照群(生理食塩水を投与した)にランダムに分けた。2つの群のウサギは、それぞれ2.40±0.45kg および2.32±0.08kg (P>0.5)であった。これらのウサギは、実験前の24時間絶食させた。Chongqing Haifu (HIFU) Technology Co. Ltd.により製造されたHIFU婦人科治療装置CZF-1を、ウサギの肝臓の照射のために使用した。HIFU婦人科治療装置CFZ-1は、電源、アプリケーター、中国特許第01144259.X号に記載されているような循環水から構成される。この試験におけるパラメータは、以下のように設定した:力:4.05W;振動数:11MHz;パルス:1000Hz。
【0036】
シロウサギを筋肉内注射により麻酔した後、実施例3で調製したHIFU治療に対する増強剤を、実験群のウサギの耳の辺縁静脈を介して50〜60滴/分で20分間送達し、生理食塩水を対照群に50〜60滴/分で20分間送達した。
【0037】
注入後1時間、ウサギは作業台に仰臥位にさせ、絶食させた。各ウサギに対して、開腹術を中央部において4〜5cmの切開で行い、腹腔のウサギの肝臓を露出し、腹腔壁を層ごとに開いた後にわずかに引き出した。各肝葉において、1または2の照射点をそれぞれ3s、6s、および9sの照射時間で導入した。実験は、照射点が導入された後、上述したパラメータで行った。破壊が生じた後、ウサギの肝臓を腹腔に戻し、腹腔壁を層ごとに縫合した。
【0038】
次の日、ウサギを過剰量の麻酔で致死させた。肝臓を取り出し、写真を撮った。破壊の大きさを測定し、EEFを計算した。全てのデータは、ウィンドウズ(登録商標)のための統計ソフトウェアSPSS 10.0および独立標本試験により、平均値±SDとして表した。P値が0.05未満である場合、統計は有意であった。この試験において、各照射時間3s、6s、および9sに対する21の照射点、全体で63(21×3)の照射点が対照群において得られ;各照射時間3s、6s、および9sに対する30の照射点、全体で90(30×3)の照射点が実験群において得られた。EEFは上述した式を用いて計算され、結果は表4に示す。
【表4】

【0039】
表4における結果は、対照群における各照射時間3s、6s、および9sに対するEEFが、実験群における各照射時間3s、6s、および9sに対するEEFのそれぞれ2.34、1.30、および1.26倍であることを示す。実際、対照群(3s、6s、および9s)におけるEEFの平均値は、実験群(3s、6s、および9s)におけるEEFの平均値の1.59倍である。対照群と実験群との間のEEFの違いが統計的に有意でない9sの照射時間において得られたデータを考慮しない場合、対照群(3s、および6s)におけるEEFの平均値は、実験群(3s、および6s)におけるEEFの平均値の1.78倍である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のHIFU治療に対する微粒子増強剤は、標的部位の超音波環境を大いに変化させることができ、HIFU治療時に標的組織(腫瘍/非腫瘍組織)の破壊を引き起こすのに必要な、組織の単位容積当りの超音波エネルギーを減少させることができる。従って、深在性且つ大きいサイズの腫瘍を、ある一定の超音波力の下で、超音波経路上の正常組織を損傷することなく、HIFU治療を用いてより効果的に治療することが可能である。肋骨を除去することなく、肋骨により遮断されている肝臓腫瘍を有する患者を治療するために、本発明のHIFU治療に対する増強剤を使用することが可能である。
【0041】
本発明は好ましい実施形態に関して記載されているが、上述した実施形態により本発明の範囲が限定されるものではない。本発明に対する種々の適用可能な修飾および変形は、当業者にとって自明であると解されるべきである。特許請求の範囲は、本発明の範囲を網羅するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度焦点式超音波(HIFU)治療に対する増強剤であって、前記増強剤は、膜形成物質により被包されたコア物質で構成される不連続相および水性媒質を含んでなる連続相を含み、前記不連続相は連続相中に均一に分散し、不連続相の粒子サイズは0.1〜8μmであり;前記増強剤中の膜形成物質の量は0.1〜100g/Lであり;前記コア物質は、38〜100℃で液体-気体相転移が起こらない液体を含んでなり、前記増強剤中のコア物質の量は5〜200g/Lである増強剤。
【請求項2】
前記不連続相が0.5〜5μmの範囲の粒子サイズを有する、請求項1に記載の増強剤。
【請求項3】
前記不連続相が2.5〜5μmの範囲の粒子サイズを有する、請求項2に記載の増強剤。
【請求項4】
前記膜形成物質が、リン脂質、コレステロール、および糖脂質からなる群より選択される1以上の物質である、請求項1に記載の増強剤。
【請求項5】
前記膜形成物質が、3-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルグリセロールナトリウム塩、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸ナトリウム、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、および水素化ホスファチジルセリンからなる群より選択されるリン脂質を含んでなる、請求項4に記載の増強剤。
【請求項6】
前記増強剤中の膜形成物質の量が5〜50g/Lである、請求項1に記載の増強剤。
【請求項7】
前記増強剤中の膜形成物質の量が5〜20g/Lである、請求項6に記載の増強剤。
【請求項8】
前記コア物質が、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、およびヨード化油からなる群より選択される、請求項1に記載の増強剤。
【請求項9】
前記コア物質が大豆油を含んでなる、請求項8に記載の増強剤。
【請求項10】
前記コア物質がヨード化油を含んでなる、請求項8に記載の増強剤。
【請求項11】
前記増強剤が5〜150g/Lの量の乳化剤を含有し、前記乳化剤は、エチレングリコールモノ-C16〜18-脂肪酸エステル、ジエチレングリコールモノ-C16〜18-脂肪酸エステル、ジエチレングリコールジ-C16〜18-脂肪酸エステル、トリエチレングリコールモノ-C16〜18-脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、3-sn-ホスファチジルコリン、およびコール酸からなる群より選択される、請求項9に記載の増強剤。
【請求項12】
前記水性媒質が、蒸留水、生理食塩水、またはグルコース溶液を含んでなる、請求項1に記載の増強剤。
【請求項13】
前記増強剤中のコア物質の量が10〜100g/Lである、請求項1に記載の増強剤。
【請求項14】
前記増強剤中のコア物質の量が20〜80g/Lである、請求項13に記載の増強剤。
【請求項15】
前記増強剤はカルボキシメチルセルロースナトリウムを含んでなる安定化剤を含有し;増強剤中のカルボキシメチルセルロースナトリウムの量が0.01〜10g/Lである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の増強剤。
【請求項16】
前記増強剤はグリセリンを含んでなる安定化剤を含有し;増強剤中のグリセリンの量が5〜100g/Lである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の増強剤。
【請求項17】
HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギーの沈着を増大させる方法であって、患者の標的部位に対してHIFU治療を適用する0〜24時間前に、請求項1〜16のいずれか1項に記載の増強剤の有効量を継続的に静脈に投与することおよび急速IV注入することまたは大量瞬時投与することを含んでなる方法。
【請求項18】
HIFU治療に対する増強剤を調製するために使用される、脂質エマルジョンの使用。
【請求項19】
前記脂質エマルジョンが脂肪エマルジョンである、請求項18に記載の脂質エマルジョンの使用。
【請求項20】
前記脂質エマルジョンが乳化されたヨード化油である、請求項18に記載の脂質エマルジョンの使用。

【公表番号】特表2008−526787(P2008−526787A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549783(P2007−549783)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【国際出願番号】PCT/CN2005/001392
【国際公開番号】WO2006/072201
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507232087)チョンチン・ハイフ(エイチアイエフユー)・テクノロジー・カンパニー・リミテッド (11)
【Fターム(参考)】