説明

高度にフッ素化されたアルコール誘導体と再利用が容易な使用法

【課題】フルオラス合成法において目的化合物の合成終了後、目的物に付加した高度にフッ素化された基を切り離し、これを再生して再利用することが容易な高度にフッ素化された化合物の提供。
【解決手段】下記式
【化28】


(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する、高度にフッ素化されたアシル基を、Rは水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基のいずれかを、mは0〜6の整数を、nは0〜2の整数を、pは0〜6の整数を、qは1〜6の整数を、sは0〜2の整数を表し、Rf、R、p、q、sはその表示各位において同一である必要はない。)
で表される高度にフッ素化されたアルコール誘導体およびこれにリンカーを結合して汎用性を高めたその合成用試剤としての使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高度にフッ素化されたアルコール誘導体に関する。医薬や食品添加物、化粧品、液晶、電子材料、高分子材料モノマー、機能性材料、医療材料などのファインケミカルズの製造には有機合成化学の果たす役割が極めて高い。従来の有機合成の概念を越える技術としてフルオラス合成が提案され、その発展が望まれている。これはパーフルオロカーボンが有機溶媒や水に溶解せず、三者が互いに分液できることに着目し、高度にフッ素化した誘導体のみをパーフルオロカーボン層に抽出させ、化合物の精製を容易にかつ安全に行うという方法である。この手法を用いて種々の化合物を合成するためには、目的の化合物の構造に適した高度にフッ素化された基を導入する必要があるが、本発明の高度にフッ素化されたアルコール誘導体は、この合成用試剤として使用できる。
【背景技術】
【0002】
これまでに種々の高度にフッ素化された合成用試剤が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照。)が、その大部分は、目的物合成後、高度にフッ素化された基を目的化合物から切り離した際に再生が困難あるいは不可能な構造へと変化してしまうために廃棄せざるを得なく、再利用はほとんどされなかった。例えば末端構造がベンジル型のものはパラジウム黒を用いた接触還元によりトルエン型に、またp−アルコキシベンジル型のものはトリフルオロ酢酸やトリフルオロメタンスルホン酸などの酸性条件下における反応により複雑な化合物へと構造が変化してしまう。これらの構造に変化してしまった高度にフッ素化された誘導体は再生再利用が非常に困難であるかもしくは不可能である。
また、結合する化合物に適した、高度にフッ素化された合成用試剤を化合物、反応に合わせて設計する必要があり、種々の反応を行うには何種類もの高度にフッ素化された合成用試剤を用意しなければならない。
【0003】
フルオラス合成法により効率的に種々の化合物を合成するためには、再生再利用ができ、種々の反応に繰り返し使用できる高度にフッ素化された基の開発は、環境面や経済性を考慮するならば必要不可欠である。
【特許文献1】特願2002−063985号
【特許文献2】特願2002−338534号
【特許文献3】特願2003−261523号
【特許文献4】特願2004−131452号
【非特許文献1】Zhiyong Kuo, John Williams, Roger W. Read and Dennis P. Curran著,「Fluorous Boc(FBoc)Carbamates: New Amine Protecting Groups for Use in Fluorous Synthesis」, The Journal of Organic Chemistry誌, 2001年, 第66巻, p.4261−4266.
【非特許文献2】Dennis P. Curran, Rafael Ferritto and Ye Hua著,「Preparation of a Fluorous Benzyl Protecting Group and Its Use in a Fluorous Synthesis Approach to a Disaccharide」, Tetrahedron Letters誌, 1998年, 第39巻, p.4937−4940.
【非特許文献3】Kohtaro Goto, Tsuyoshi Miura, Mamoru Mizuno, Hiromi Takaki, Nobuyuki Imai, Yasuoki Murakami, Toshiyuki Inazu 著,「Rapid Oligosaccharide Synthesis on a Novel Benzyl-Type Fluorous Support」, Synlett誌,2004年,p.2221−2223.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、フルオラス合成法において目的化合物の合成終了後、目的物に付加した高度にフッ素化された基を切り離し、これを再生して再利用することが容易な高度にフッ素化された化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、高度にフッ素化された基を効率良く再生再利用するために、目的化合物との間に切り離しの容易なリンカーを挟むことで従来再利用が困難あるいは不可能であった高度にフッ素化された基の再利用を容易にし、本発明を完成させた。
またリンカーの構造をそれぞれの反応に合わせることにより、本発明の再生再利用が容易な高度にフッ素化されたアルコール誘導体は多種類の反応の合成用試剤となり得る。例えば糖鎖およびペプチド等の合成用試剤として用いることができ、糖鎖およびペプチド、糖ペプチド等の合成が容易になる。
【0006】
すなわち、本発明は、式[I]

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する、高度にフッ素化されたアシル基を、Rは水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基のいずれかを、mは0〜6の整数を、nは0〜2の整数を、pは0〜6の整数を、qは1〜6の整数を、sは0〜2の整数を表し、Rf、R、p、q、sはその表示各位において同一である必要はない。)
で表される高度にフッ素化されたアルコール誘導体と、その合成用試剤としての使用である。
【発明の効果】
【0007】
再生再利用が容易であることから、環境に優しく、経済性に優れたフルオラス合成用試剤を提供できる。またリンカーを挟むことによって種々の反応に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
式[I]において、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する、高度にフッ素化されたアシル基である。パーフルオロアルキル基としては、周知のパーフルオロアルキル基を用いることができる。たとえば、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロテトラデシル基などを挙げることができる。さらに、分岐構造や立体異性体の有無などを問わないことは言うまでもない。フッ素原子の導入率を高めるにはパーフルオロアルキル基は長鎖の方が有効である。しかし、通常取り扱いや入手の容易さを考慮し、炭素数3〜16が、好ましく、さらに炭素数4〜10が好ましい。パーフルオロアルキル基の数は多いほどフッ素含有率が高くなるので合成用試剤としては好ましいが、導入する化合物に合わせて選択すれば良い。一般には1〜12本であり、好ましくは1〜6本であり、例えば、下式[II]または[III]等を挙げることができる。


【0009】
Rは、水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基のいずれかであり、例えばアルキル基としては、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、n‐プロピル基である。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、9‐フルオレニルメチル基、ナフチルメチル等が挙げられる。好ましくは、ベンジル基、フェネチル基である。アリール基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基等が挙げられる。好ましくは、フェニル基、ナフチル基である。炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基としては例えばパーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロテトラデシル基等が挙げられる。好ましくはパーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基である。
【0010】
mは0〜6、nは0〜2、pは0〜6、qは1〜6、sは0〜2の整数であるが、好ましくは、mは0または1、nは0または2、pは1、qは1または2、sは0または1の整数である。
式[I]の化合物としては、例えば、式[IV]、[V](式中、Rfは式[II]または[III]を表す。)等が挙げられる。

【0011】
式[I]で表わされる本発明の化合物は、例えばポリアミノアルコール誘導体のアミノ基と、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する、高度にフッ素化されたカルボン酸のカルボキシル基を反応させることにより合成できる。例えば、高度にフッ素化されたカルボン酸を予め、酸ハロゲン化物、混合酸無水物、対称酸無水物、活性エステルに変換させて反応させる方法や、N,N‐ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの縮合試薬と直接反応させる方法が挙げられる。いずれの誘導体も周知の誘導体を利用できる。具体的には、酸塩化物、酸臭化物、ピバル酸混合酸無水物、ペンタフルオロフェニルエステル、p‐ニトロフェニルエステル、コハク酸イミドエステルなど周知の誘導体を例示できる。
【0012】
縮合試薬としては前述のDCC、PyBOPTM(ベンゾトリアゾール‐1‐イル‐オキシ‐トリス‐ピロリジノ‐ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート)、BOP(ベンゾトリアゾール‐1‐イル‐オキシ‐トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート)、DMTMM(4‐(4,6‐ジメトキシ‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル)‐4‐メチルモルホリンクロリド)等を挙げることができる。
【0013】
原料となるポリアミノアルコールは式[I']で表され、例えば式[VI]、[VII]等が挙げられる。

(式中、Rは水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基のいずれかを、mは0〜6の整数を、nは0〜2の整数を、pは0〜6の整数を、qは1〜6の整数を、sは0〜2の整数を表し、Rf、R、p、q、sはその表示各位において同一である必要はない。)

【0014】
もう1つの原料であるパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する、高度にフッ素化されたカルボン酸としては特に限定はされないが、パーフルオロアルキル基を一つ以上置換基として有するカルボン酸である。例えば式[II]、式[III]等のアシル基を有するカルボン酸等が挙げられる。より簡単な具体例としては下式[[VIII]、[IX]等が挙げられる。


【0015】
反応溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エーテル、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(例えばノベックTMHFE‐7200)、パーフルオロカーボン(例えば、フロリナートTMFC‐72)などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
【0016】
通常これらの縮合工程は、反応を促進させるために塩基の存在下で行われる。塩基としては何ら制限はない。たとえば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N‐ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、DBUなどの有機塩基、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基あるいは、ブチルリチウム、フェニルリチウムなどの有機金属化合物を挙げることができる。
【0017】
用いる両原料、塩基の当量数にも何ら制限はない。いずれか1成分か2成分を過剰に用いることもできる。
反応時間、反応温度にも何ら制限はない。いずれも個々の誘導体によって異なり、また塩基や溶媒によっても異なるが、通常、室温から溶媒の沸点までの範囲で、1時間から7日間の範囲である。
【0018】
以上のようにして得られる本発明化合物である式[I]で示される高度にフッ素化されたアルコール誘導体はそれ自体フルオラス合成用試剤として使用できるが、リンカーを結合しリンカーを介して目的化合物と結合すれば、図1に示すように目的物を合成したのち、リンカー部分で切り出すことができる。その後、高度にフッ素化されたアルコール誘導体とリンカーを切断する手順を経ることにより、リンカーの構造に関わらず高度にフッ素化されたアルコール誘導体を効率よく回収し、再生再利用することができる。リンカーの構造を目的物に合わせて設計すれば、種々の反応に使用することができる。
例えば、カルボキシル基ともう一つの官能基を含有するリンカーと、高度にフッ素化されたアルコール誘導体をエステル結合し、リンカーのもう1つの官能基を使用して合成反応化合物に結合する方法を挙げることができる。
【0019】
リンカーの構造には特に制限は無く、アルコールと結合可能な官能基と、さらに合成反応化合物と結合できる官能基を有していれば良いが、フルオラス合成に必要なフッ素含有率を考慮すると分子量の大きなものは避けたほうが良い。
具体的には式[X]、式[XI]、式[XII]等で示される構造が挙げられる。



リンカーと本発明のアルコール誘導体との結合方法には制限は無く、既知の方法を用いることができる。リンカーとフルオラス合成原料化合物との結合も、合成反応に耐え、合成後の切り出しが容易なものであれば良い。
【0020】
フルオラス合成は各工程において、反応終了後、表面が高度にフッ素化されたシリカゲルを用いる固相抽出法あるいは反応液をパーフルオロカーボン溶媒と有機溶媒または水、または酸性の水溶液、または塩基性の水溶液により分配抽出を行い、目的物をパーフルオロカーボン層に抽出する方法のいずれかを用いるが、パーフルオロカーボンを用いる分配抽出が好ましい。
抽出に用いるパーフルオロカーボンとしては、周知のパーフルオロカーボン溶媒を使用できる。具体的には、パーフルオロヘキンサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、フロリナートTMFC72、フロリナートTMFC77、フロリナートTMFC84、フロリナートTMFC87、パーフルオロメチルヘキサン等を挙げることができる。特にフロリナートTMFC72とパーフルオロメチルヘキサンが好ましい。
【0021】
有機溶媒としては周知の有機溶媒を使用できる。具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、DMF、アセトニトリル、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール等を挙げることができる。特に、メタノール、DMF、トルエン、アセトニトリルが好ましい。
【0022】
本発明化合物が導入された化合物はパーフルオロカーボン層へ抽出されやすくなり、精製操作が容易になる。そのため、天然物およびその誘導体の合成における、脱保護、及び縮合の各反応段階においての精製操作を簡略化することができる。また、目的化合物合成後、本発明化合物はそれぞれ適切な方法で目的化合物から容易に除去できる。例えば、リンカーとして式[X]、式[XI]で示される化合物を用いる場合はトリフルオロ酢酸やトリフルオロメタンスルホン酸などの酸性条件下における反応により、目的化合物をリンカー部位を有する高度にフッ素化された基から切除できる。その後、水酸化ナトリウムやナトリウムメトキシド等の塩基性条件下おける反応によりリンカーからの切り出しを行うことで、式[I](式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する、高度にフッ素化されたアシル基を、Rは水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基のいずれかを、mは0〜6の整数を、nは0〜2の整数を、pは0〜6の整数を、qは1〜6の整数を、sは0〜2の整数を表し、Rf、R、p、q、sはその表示各位において同一である必要はない。)に示す高度にフッ素化されたアルコール誘導体が再生される。再生された本発明化合物もしくはその誘導体はパーフルオロカーボン層へ容易に抽出されるため、回収、再利用ができる循環型のフルオラス合成システムを確立できる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、その要旨を超えない限り、何ら制限を受けるものではない。また、Fmocは9‐フルオレニルメトキシカルボニル基、Glyはグリシン残基、Alaはアラニン残基、Pheはフェニルアラニン残基、Thrはスレオニン残基の略号である。
【0024】
[実施例1]
式[VI]で表されるN‐(2‐アミノエチル)エタノールアミン(127mg,1.22mmol)と式[VIII]で表される高度にフッ素化されたカルボン酸(3.79g,2.44mmol)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(30mL)とジクロロメタン(30mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にN,N‐ジイソプロピルエチルアミン(0.85mL,4.88mmol)とPyBOP(1.52g,2.93mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、メタノール(100mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(100mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮した。粗生成物を全量、フルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(30mL)とメタノール(60mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に触媒量のナトリウムメトキシドを加え、室温で60分攪拌した。イオン交換樹脂(アンバーライトIR‐120H+型)を加えて反応を停止させ、ろ過後、濾液を濃縮し、メタノール(100mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(100mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、式[I](式中、Rfは式[II]、RがH、mが0、nが2、pが1、qが2、sが1を表す)で示される下式の化合物1を3.29g(85%)得た。
MALDI-TOF MASS:Calcd for C82H59F102N6O7 (M+H+):3177.3、Found:3176.4.

【0025】
[実施例2]
式[X]のアミノ基がFmoc基で保護されたカルボン酸誘導体(199mg,0.37mmol)と実施例1で合成した化合物1(390mg,0.12mmol)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(2mL)とジクロロメタン(4mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にN,N‐ジイソプロピルエチルアミン(77μL,0.44mmol)とPyBOP(223mg,0.44mmol)とN,N‐ジメチルアミノピリジン(1.5mg,12μmol)を加え、室温で4時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、メタノール(20mL)と パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮して、アミノ基がFmoc基で保護された下式の化合物2(式中、Rfは式[II]を表す)(462mg)を得た。

【0026】
化合物2(式中、Rfは式[II]を表す)(420mg)をパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(4mL)とN,N‐ジメチルホルムアミド(4mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にピペリジン(0.4mL)を加え、室温で20分間攪拌した。反応液をアセトニトリル(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮し、下式のアミノ化合物3(式中、Rfは式[II]を表す)(390mg)を得た。

【0027】
[実施例3]
Fmoc‐Gly‐OH(162mg,0.54mmol)と実施例1の化合物1(576mg,0.18mmol)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(2.5mL)とジクロロメタン(5mL)とN,N‐ジメチルホルムアミド(2mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にN,N‐ジイソプロピルカルボジイミド(76mg,0.60mmol)とN,N‐ジメチルアミノピリジン(6.6mg,54μmol)を加え、室温で3時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、アセトニトリル(40mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(40mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮して、アミノ基がFmoc基で保護された化合物4(式中、Rfは式[II]を表す)(626mg)を得た。

【0028】
化合物4(式中、Rfは式[II]を表す)(626mg)をパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(6mL)とN,N‐ジメチルホルムアミド(6mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にピペリジン(0.6mL)を加え、室温で60分間攪拌した。反応液をアセトニトリル(40mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(40mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮し、アミノ化合物5(Rfは式[II]を表す)(596mg)を得た。

【0029】
[実施例4]
式[XI]で示されるカルボン酸誘導体(87mg,0.36mmol)をN‐メチルピロリドン(2mL)に溶解させ、2Mに調整したN,N‐ジイソプロピルエチルアミンのN‐メチルピロリドン溶液(0.18mL,0.36mmol)と1Mに調整した塩化ジメチルホスフィノチオイルのN‐メチルピロリドン溶液(0.36mL,0.36mmol)を加え、0℃で30分時間攪拌し、ジメチルチオホスフィン酸混合酸無水物を調製した。さらに化合物5(Rfは式[II]を表す)(596mg)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(3mL)とジクロロメタン(6mL)および2Mに調整したN,N‐ジイソプロピルエチルアミンのN‐メチルピロリドン溶液(0.18mL,0.36mmol)の混合溶媒に溶解させたものに、上記のジメチルチオホスフィン酸混合酸無水物溶液を加え、室温で30分攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、アセトニトリル(40mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(40mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮して、化合物6(式中、Rfは式[II]を表す)(640mg)を得た。

【0030】
[実施例5]
無水グルタル酸(140mg,1.23mmol)と実施例1の化合物1(1.30g,0.41mmol)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(13mL)とジクロロメタン(13mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にトリエチルアミン(0.34mL,2.45mmol)を加え、室温で20時間攪拌した。反応液に蒸留水5mLを加えた後、2N塩酸水溶液(100mL)と フルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)と酢酸エチルの混合溶液(100mL)で分配抽出し、有機層を減圧濃縮して、化合物7(式中、Rfは式[II]を表す)(1.38g)を定量的に得た。
MALDI-TOF MASS:Calcd for C87H64F102N6NaO10 (M+Na+):3113.3、Found:3113.2.

【0031】
[実施例6]
式[VII]で表されるペンタエリスリトールトリアミンの塩酸塩(74.8mg,0.31mmol)と式[IX]で表される高度にフッ素化されたカルボン酸(1.09g,1.01mmol)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(10mL)とメタノール(10mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にN,N‐ジイソプロピルエチルアミン(0.16mL,0.92mmol)と4‐(4,6‐ジメトキシ‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル)‐4‐メチルモルホリンクロリド(301mg,1.05mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、アセトニトリル(100mL)と パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(100mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=6:1)にて精製し、式[I](式中、Rfは式[III]、RがH、mが1、nが0、pが1、qが0、sが0を表す)で示される下式の化合物8を816mg(84%)得た。
1H-NMR (CDCl3-CD3OD): δ 1.82―2.01 (6H, m), 2.06―2.29 (6H, m), 2.46―2.88 (18H, m), 2.91―3.06 (6H, m), 3.10―3.20 (2H, m), 3.43―3.56 (6H, m),3.61―4.08 (6H, m).

【0032】
[実施例7]
実施例2で得られた化合物3(式中、Rfは式[II]を表す)(390mg)に対して、次に示すスケジュールに従い、Fmoc‐Ala‐OH、Fmoc‐Phe‐OH、ナフチル酢酸を順次反応させた。なお、各アミノ酸誘導体はそれぞれ1.5当量使用し、縮合試薬としてPyBOPを1.8当量、塩基としてN,N‐ジイソプロピルエチルアミンを1.8当量使用した。
【0033】
以下にペプチド合成のスケジュールを示す。
縮合反応:アミノ酸と本発明の高度にフッ素化された誘導体をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(2mL)とジクロロメタン(4mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にN,N‐ジイソプロピルエチルアミンとPyBOPを加え、室温で1時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、アセトニトリル(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮する。
脱保護反応:基質をパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(4mL)とN,N‐ジメチルホルムアミド(4mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にピペリジン(0.4mL)を加え、室温で30分間攪拌した。反応液をアセトニトリル(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮する。
得られた、本発明の高度にフッ素化された誘導体に結合した保護ペプチド(429mg)に95%トリフルオロ酢酸水溶液(10mL)を加え、室温で2時間攪拌した。溶液を減圧濃縮し、残渣をアセトニトリル、エーテル、メタノールからなる混合溶媒(50mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(50mL)で分配抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた残渣をN,N‐ジメチルホルムアミドとジエチルエーテルの混合溶媒で再結晶して目的とするジペプチド誘導体9を38mg(8工程、83%)得た。
化合物9;ESI-TOF MASS:Calcd for C40H46NaO11 (M+K+):442.1528、Found:442.1516.

【0034】
一方、パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)層は減圧濃縮後、残渣を全量、フルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(8mL)とメタノール(4mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に触媒量のナトリウムメトキシドを加え、室温で5分攪拌した。イオン交換樹脂(アンバーライトIR‐120H+型)を加えて反応を停止させ、ろ過後、濾液を濃縮し、メタノール(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、式[I](式中、Rfは式[II]、mが0、nが2、pが1、qが2、sが1表す)で示される化合物1を322mg(9工程、90%)回収した。
【0035】
[実施例8]
実施例4で得られた化合物6(式中、Rfは式[II]を表す)(634mg)に対して、次に示すスケジュールに従い、Fmoc‐Ala‐OH、Fmoc‐Thr(tBu)‐OH、ナフチル酢酸を順次反応させた。なお、各アミノ酸誘導体はそれぞれ1.5当量使用し、縮合試薬としてPyBOPを1.8当量、塩基としてN,N‐ジイソプロピルエチルアミンを1.8当量使用した。
【0036】
以下にペプチド合成のスケジュールを示す。
縮合反応:アミノ酸と本発明の高度にフッ素化された誘導体をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(3mL)とジクロロメタン(6mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にN,N‐ジイソプロピルエチルアミンとPyBOPを加え、室温で1時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、アセトニトリル(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮する。
脱保護反応:基質をパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(6mL)とN,N‐ジメチルホルムアミド(6mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にピペリジン(0.4mL)を加え、室温で30分間攪拌した。反応液をアセトニトリル(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮する。
得られた、本発明の高度にフッ素化された誘導体に結合した保護ペプチド(660mg)に95%トリフルオロ酢酸水溶液(14mL)を加え、室温で2時間攪拌した。溶液を減圧濃縮し、残渣をアセトニトリル(50mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(50mL)で分配抽出し、アセトニトリル層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:酢酸=9:1:0.5)にて精製し、目的とするジペプチド誘導体10を56mg(9工程、87%)得た。
化合物10;ESI-TOF MASS:Calcd for C40H46NaO11 (M+Na+):381.1421、Found:384.1379.

【0037】
一方、パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)層は減圧濃縮後、残渣を全量、フルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(6mL)とメタノール(6mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に触媒量のナトリウムメトキシドを加え、室温で10分攪拌した。イオン交換樹脂(アンバーライトIR‐120H+型)を加えて反応を停止させ、ろ過後、濾液を濃縮し、メタノール(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、式[I](式中、Rfは式[II]、mが0、nが2、pが1、qが2、sが1表す)で示される化合物1を515mg(10工程、91%)回収した。
【0038】
[実施例9]
本発明化合物を使用して糖鎖合成を行った。
下式[XIII]の化合物11(212mg,0.39mmol)と実施例5で得られた化合物7(式中、Rfは式[II]を表す)(427mg,0.13mmol)をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(2mL)とジクロロメタン(10mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液にPyBOP(203mg,0.39mmol)とN,N‐ジメチルアミノピリジン(47mg,0.39mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応液を三分の一まで濃縮した後、メタノール(20mL)と パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出し、FC‐72層を減圧濃縮して、式[XIII]の化合物12(式中、Rfは式[II]を表す)(510mg)を得た。

【0039】
化合物12(式中、Rfは式[II]を表す)(510mg)をTHF(7.5mL)に溶解させ、この溶液にフッ化水素ピリジン溶液(0.75mL)を加え、室温で19時間攪拌した。反応液をトルエン(60mL)と飽和炭酸水素ナトリウム溶液(60mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(60mL)で分配抽出した。FC‐72層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧濃縮して、化合物13(式中、Rfは式[II]を表す)を457mg得た。

【0040】
化合物13(式中、Rfは式[II]を表す)(457mg)とフェニル=2,3,4,6‐テトラ‐O‐ベンジル‐1‐チオ‐β‐D‐グルコピラノシド(165mg, 0.26mmolをアルゴン雰囲気下、フルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(2.5mL)とジクロロメタン(5mL)の混合溶媒に溶解させ、モレキュラシーブス4A(1.0g)を加え、室温にて2時間攪拌した。その後N‐ヨードスクシンイミド(117mg, 0.52mmol)、およびトリフルオロメタンスルホン酸(5.0μL, 52μmol)を順次加え、0℃にて1時間攪拌した。固形物を濾別し酢酸エチルで洗浄した。濾液は洗液と合わせて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、溶媒を減圧留去した。残渣にメタノールを加え、パーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出した。FC‐72層を減圧濃縮して、化合物14(式中、Rfは式[II]を表す)513mgを得た。

【0041】
化合物14をフルオロカーボン(ノベックTMHFE‐7200)(10mL)とメタノール(5mL)の混合溶媒に溶解させ、この溶液に触媒量のナトリウムメトキシドを加え、室温で1時間攪拌した。イオン交換樹脂(アンバーライトIR‐120H+型)を加えて反応を停止させ、ろ過後、濾液を濃縮し、メタノール(20mL)とパーフルオロカーボン(フロリナートTMFC‐72)(20mL)で分配抽出しメタノール層を減圧濃縮したのち、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、式[XIV]の化合物15を71mg(4工程、78%)得た。
一方、FC‐72層は減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、式[I](式中、Rfは式[II]、RがH、mが0、nが2、pが1、qが2、sが1を表す)で示される式[XIV]の化合物1を386mg(4工程、93%)回収した。
化合物15;ESI-TOF MASS:Calcd for C40H46NaO11 (M+Na+):725.2932、Found:723.2916.

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明化合物を用いるフルオラス合成が、医薬品や食品添加物、化粧品、液晶、電子材料、高分子モノマー機能性材料、医療材料等のファインケミカルズの製造を容易にすることは確実である。とりわけ本発明化合物を用いるフルオラス合成は、従来は困難であった高度にフッ素化された誘導体の効率的な再生再利用を可能にすることから、フルオラス合成法を効率化させることは確実であり、工業的価値やその波及効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の化合物を利用したフルオラス合成法の概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化されたアシル基を、Rは水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基、炭素数3〜16のパーフルオロアルキル基のいずれかを、mは0〜6の整数を、nは0〜2の整数を、pは0〜6の整数を、qは1〜6の整数を、sは0〜2の整数を表し、Rf、R、p、q、sはその表示各位において同一である必要はない。)
で表される高度にフッ素化されたアルコール誘導体。
【請求項2】
mが0、nが2、pが1、qが2、sが1である請求項1記載の高度にフッ素化されたアルコール誘導体。
【請求項3】
mが1、nが0、pが1、sが0である請求項1記載の高度にフッ素化されたアルコール誘導体。
【請求項4】
Rfが式[II]または[III]で表される請求項2または請求項3記載の高度にフッ素化されたアルコール誘導体。

【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された高度にフッ素化されたアルコール誘導体の合成用試剤としての使用。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された高度にフッ素化されたアルコール誘導体を用いたペプチド、糖鎖または糖ペプチドの製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−306784(P2006−306784A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131806(P2005−131806)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】