説明

高張力シームレス鋼管を製造するための低合金鋼用の合金鋼

本発明は、高張力の溶接可能な熱間圧延シームレス鋼管、特に建設用管材を製造するための低合金鋼用の合金鋼に関する。化学組成(質量%)は:0.15〜0.18%のC;0.20〜0.40%のSi;1.40〜1.60%のMn;最大0.05%のP;最大0.01%のS;>0.50〜0.90%のCr;>0.50〜0.80%のMo;>0.10〜0.15%のV;0.60〜1.00%のW;0.0130〜0.0220%のNであり;残りはAl、Ni、Nb、Tiから選択される1つ以上の元素が場合により添加された、製造関連不純物を含む鉄からなり、ただし関係V/Nが4〜12の値を有し、鋼鉄のNi含有率が0.4%を超えないことを条件とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度シームレス鋼管を製造するための請求項1に記載の低合金鋼用合金鋼に関する。
【0002】
特に本発明は、円形以外の断面を有することも可能であり、例えばクレーン、橋、船、巻き上げ機およびトラックの建造における著しく高い応力を受ける溶接鋼構造物用の建設用管材として使用することが可能である、管材に関する。
【0003】
このような管材は、円形断面に加えて、要件および用途に応じて正方形、長方形または多角形の断面も有し得る。
【背景技術】
【0004】
この種の鋼管のための合金鋼は、例えばDE 199 42 641 A1から公知である。この従来の合金鋼は、少量のクロム、モリブデンおよびバナジウムが添加されていることならびにニッケルを含まないことに加えて、低合金鋼に特有である0.30〜1.00%の範囲のさらなる量のタングステンを有する。
【0005】
そうでなければ絶対に必要なニッケルを排除することおよび/または少なくともニッケル含有率を低濃度に制限することは、特にこの種の鋼からなる管材の熱間ピルガー圧延の間に、粘着性スケールを防止して、表面品質を改善することと、そうでなければ必要とされる高価な、切削による表面仕上げ処理を避けることを意図する。
【0006】
上述の用途のための建設用管材は、−40℃までの低温での強度および延性に関して非常に厳密な要件に従う。
【0007】
必要な特性を達成するために、管は熱間圧延後に焼入れおよび焼戻しする必要がある。
【0008】
DE 199 42 641 A1からFGS 70として公知の鋼は、弾性限界、引張強度、破断点伸びおよび切欠き棒衝撃負荷に必要なすべての最小値を確実に達成する。
【0009】
しかし、上述の用途のための建設用管材の要件は、過去数年にわたって着実に上昇しているため、現在、以下の要件を満足する建設用管材がますます求められている:
弾性限界 960MPa
引張強度 980〜1150MPa
切欠き棒衝撃負荷 −40℃にて27J
確実な一般溶接性
低いまたは制限されたNi含有率
【0010】
上述の用途のための熱間加工シームレス管材で、十分な延性と共に必要とされる強度の向上には、新たな合金概念の開発が必要である。特に、従来の合金概念は、1000MPa付近の弾性限界領域で低温において十分な延性を達成していない。
【0011】
延性の向上も同時にもたらす、強度の向上に関与する機構は、粒度の低下であることが公知である。粒度は、例えばニッケルまたはモリブデンをさらに合金することおよび関連する変態温度の低下によって低下させることができる。
【0012】
しかしこれらの合金概念は、炭素当量を増加させ、したがって溶接性の低下を引き起こす。ニッケルおよびモリブデンも合金コストを著しく上昇させ、同時にニッケルは熱間圧延管材の表面品質もさらに低下させる。
【0013】
しかし、強度を向上させる明らかな可能性として炭素含有率を上昇させることによって、延性の低下および炭素当量の著しい増加が生じる。
【0014】
バナジウムも強度向上のために使用される。この概念は、バナジウムの混合結晶焼入れおよび焼戻し処理中の非常に微細なバナジウムカーバイドの析出に基づいている。
【0015】
しかし、上述の合金概念は必要な特性を達成することができなかった。
【0016】
機械的特性を改善するための粒度の低下は基本的に、熱機械処理によっても実現することができる。
【0017】
しかしシームレス管材の熱間仕上げ中の特定の温度プロファイルによって、変態温度が必要なだけ低下されないため、熱機械処理の従来の概念を適用することができる。
【0018】
現在までに、必要とされる厳密な要件は高合金鋼によってのみ達成可能であり、高合金鋼はその高いコストのために、市場では受入れられていないか、または受入れが非常に限定されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、弾性限界、引張強度、および切欠き棒衝撃負荷に関して上述の最低要件を確実に満足し、加えて良好な一般溶接性を確保して、熱間圧延中に光学的に欠陥のない表面を生成する、高強度溶接可能シームレス鋼管、特に建設用管を製造するための低合金鋼用の低コストの合金鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本目的は、プリアンブルから開始して、請求項1の特性を示す機能と併せて解決される。有利な実施形態は、従属請求項で列挙される。
【0021】
本発明の教示により、高強度で溶接可能な熱間圧延シームレス鋼管、特に建設用管材合金を製造するための低合金鋼用の鋼が提案され、この鋼は以下の化学組成:
0.15〜0.18%のC、
0.20〜0.40%のSi、
1.40〜1.60%のMn、
最大0.05%のP、
最大0.01%のS、
>0.50〜0.90%のCr、
>0.50〜0.80%のMo、
>0.10〜0.15%のV、
0.60〜1.00%のW、
0.0130〜0.0220%のN、
と、溶融関連不純物を含む残部の鉄とを有し、Al、Ni、Nb、およびTiから選択される1つ以上の元素が場合により添加され、ただし比V/Nが4〜12の値を有し、鋼のニッケル含有率が0.40%を超えないという条件である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による合金鋼は、DE 199 42 641 A1に開示されたタングステン合金細粒構造用鋼の開発を超えて改善している。
【0023】
現在までの実験によって、タングステンが溶接性に悪影響を及ぼすことは示されていない。しかし、試験により、タングステンを合金することによる伸び限界の達成可能な最大上昇は、約900MPaまでしか確保されない。単にタングステン含有率を上昇させるだけでは、さらなる上昇は不可能である。したがって0.60〜1.0%の、好ましくは0.7〜0.9%のW含有率が有利であることが判明している。
【0024】
驚くべきことに、本発明の状況で実施された試験によって、従来の合金鋼と比較して合金元素、例えばCrおよびMoをごくわずかに多く添加することによって、ならびにあるV/N比を維持することによって、強度の著しい上昇が達成され、同時に−40℃にて27Jの必要な切欠き棒衝撃負荷になお適合することが示されている。
【0025】
ある「基本強度」を達成するために、Cr、MoおよびWの添加の和は少なくとも1.5重量%であることが観察されている。
【0026】
本発明は、バナジウムおよび窒素を用いた標的マイクロ合金によって、再結晶停止温度を最終圧延温度よりも著しく上昇させる革新的な概念を有する。広範囲に及ぶ熱力学計算に基づいて、VおよびNの含有率の比は、所望の効果を達成するために4〜12でなければならない。
【0027】
一般に、溶解窒素の高い含有率は、延性にとって不利であると見なされる。しかし溶解窒素の濃度は、V/N比を4〜12の範囲で好適に選択することによって最低限に低下させることが可能であり、そして生成された炭窒化バナジウムは、熱機械処理による上述の結晶粒微細化の効果を同時に有する。
【0028】
合金の異常に高い窒素含有率は、炭窒化バナジウムの生成によって無害となり、または結晶粒微細化に使用され、二次冶金の状況におけるコスト集約的な脱気処理に対する要求も有利には不要とする。
【0029】
本発明による合金概念の文脈においておよび要件に応じて、合金によるAl、Ni、NbおよびTiの1つ以上の合金元素の場合による添加が提供される。これらの要件は、例えば圧延される管材の異なる壁厚の結果であり得、該壁厚は10mm未満から80mm超の範囲にあり、特により厚い壁厚では、結晶粒微細化によって必要な特性を達成するために合金によって上述の元素の添加を必要とし得る。
【0030】
合金概念の最適な費用便益関係では、最大0.03%のAl、最大0.40%のNi、最大0.04%のNb、および最大0.04%のTiの含有率が有利であることが判明している。
【0031】
Ni含有率は、このクラスの鋼に使用される連続管圧延工程を用いて十分に良好な品質の表面を製造するために、最大0.40%と非常に低い。
【0032】
シームレス管材の製造に熱間ピルガー圧延工程を使用するとき、十分に良好な品質の表面を達成するためのNi含有率は0.2%に、好ましくは0.15%に、特に最大限で0.10%に制限される。
【0033】
下に挙げる本発明による合金鋼と共に溶融される工程から製造された鋼管は、優れた強度および延性の値を有する。
0.17%のC、
0.32%のSi、
1.54%のMn、
0.013%のP、
0.003%のS、
0.74%のCr、
0.54%のMo、
0.11%のV、
0.75%のW、
0.0142%のN、
0.023%のAl、
0.16%のNi、
0.001%のTi、
0.164%のNi、
およびV/N=8.03。
【0034】
これから以下の表に挙げた値を決定した。値は、4つの引張試験および4つの切欠き棒衝撃曲げ負荷試料から決定した平均値である。試料は、工程によって製造された熱処理管材の長手方向の試料から得た。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度で溶接可能な熱間圧延シームレス鋼管、特に建設用管材を製造するための低合金鋼用の合金鋼であって、以下の化学組成(質量%):
0.15〜0.18%のC、
0.20〜0.40%のSi、
1.40〜1.60%のMn、
最大0.05%のP、
最大0.01%のS、
>0.50〜0.90%のCr、
>0.50〜0.80%のMo、
>0.10〜0.15%のV、
0.60〜1.00%のW、
0.0130〜0.0220%のN、
と、溶融関連不純物を含む残部の鉄とを有し、Al、Ni、Nb、およびTiから選択される1つ以上の元素が場合により添加され、ただし比V/Nが4〜12の値を有し、鋼のニッケル含有率が0.40%を超えないという条件である、合金鋼。
【請求項2】
場合により添加された合金元素が以下の含有率:
最大0.03%のAl、
最大0.40%のNi、
最大0.04%のNb、
最大0.04%のTiを有することを特徴とする、請求項1に記載の合金鋼。
【請求項3】
W含有率が0.7〜0.9%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の合金鋼。
【請求項4】
熱間圧延と続いての焼入れおよび焼戻しによって製造される高強度の溶接可能なシームレス鋼管、特に建設用管材であって、以下の合金組成:
0.15〜0.18%のC、
0.20〜0.40%のSi、
1.40〜1.60%のMn、
最大0.05%のP、
最大0.01%のS、
>0.50〜0.90%のCr、
>0.50〜0.80%のMo、
>0.10〜0.15%のV、
0.60〜1.00%のW、
0.0130〜0.0220%のN、
4≦V/N≦12、
と、溶融関連不純物を含む残部の鉄とを備え、Al、Ni、Nb、およびTiから選択される1つ以上の元素を含み、ただし比V/Nが4〜12の値を有し、鋼のニッケル含有率が0.40%を超えないという条件である鋼を含む、高強度の溶接可能なシームレス鋼管。
【請求項5】
合金鋼に合金される場合により添加された合金元素が以下の含有率:
最大0.03%のAl、
最大0.40%のNi、
最大0.04%のNb、
最大0.04%のTiを有することを特徴とする、請求項4に記載の建設用管材。
【請求項6】
W含有率が0.7〜0.9%であることを特徴とする、請求項4または5に記載の建設用管材。

【公表番号】特表2011−514932(P2011−514932A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547035(P2010−547035)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000088
【国際公開番号】WO2009/103259
【国際公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(507015963)ファウ・ウント・エム・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (15)
【Fターム(参考)】