説明

高強度かつエキスパンド成形性に優れた3ピース缶用鋼板および製造方法

【課題】薄手化、高強度化によって、伸びが低下した鋼板であっても、その成形性を最大限引き出すことにより、従来よりも優れたエキスパンド成形性を発揮する鋼板及び製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.018〜0.030%、Si:0.02%以下、Mn:0.15〜0.25%、P :0.010%以下、S :0.010%以下、Al:0.070〜0.100%、N :0.004%以下を含有し、Sol.Al/(N−0.0005)≧20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、ロックウェル硬さ(HR30T)が52〜70の鋼板であって、鋼板面上の圧延方向に平行な方向をL方向、それに垂直な方向をC方向とした場合、L方向及びC方向のいずれか一方、もしくは双方のr値が1.0以上であり、このr値が1.0以上の方向を拡缶方向としてエキスパンド成形を加えた場合に、割れの発生がなく、優れたエキスパンド成形性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度な鋼板であっても、エキスパンド成形性に優れた3ピース缶用鋼板および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料缶、食品缶などに使用される容器用金属板は、缶胴、缶蓋、缶底から形成されるいわゆる3ピース缶の胴材として使用され、鋼板表面に樹脂皮膜を形成したフィルムラミネート鋼板が主に使用される。この缶胴に用いられる鋼板は、缶胴の円周方向が鋼板のL方向もしくはC方向と一致する方向(L方向とは鋼板の圧延方向を、C方向とは圧延方向と直角な鋼板の幅方向を指す)から切り出され、円筒状に成形した後、溶接あるいははんだ付け等の方法で接合される。更にその後、異匠性を持たせる等の理由で、缶胴の円周方向にエキスパンド成形を加える場合もある。
【0003】
異匠性を持たせる目的でエキスパンド成形を加える場合、より形状が複雑になることが考えられ、高い拡缶率((円周方向の伸び/成形前の円周長さ)×100(%))に対しても割れの発生なく成形可能なエキスパンド成形性に優れた鋼板が求められる。
【0004】
一般にエキスパンド成形を加えた場合、鋼板の全伸びに対して、割れが発生せずにエキスパンド成形可能な、限界の拡缶率の値は相対的に小さくなる。この理由は、エキスパンド成形時に溶接部やフィルムラミネート部に比べ相対的に強度が低い溶接近傍の部分(最終的に割れが発生する部分)で歪の集中が発生してしまうこと、及び成形中エキスパンド工具との摩擦により、缶の高さ方向の材料の流入が抑制され、単純な引張り試験のように摩擦が無い場合に比べ、板厚方向の歪が増加する、つまり板厚減少率が高くなるためである。従って、工具やフィルムを見直すことで摩擦係数を下げる対策も考えられるが、新たな投資が必要となり、コスト増を招く問題がある。また、単純に成形性に優れた、伸びの大きい鋼板を用いた場合、一般的に強度は低下するため、缶強度が保てなくなる可能性がある。このように、缶強度は維持しつつ、複雑かつ高い拡缶率でエキスパンド成形を行うことは困難であった。
【0005】
溶接近傍での割れに対して、特許文献1では、成分、焼鈍条件を規定し、溶接部近傍での溶接による材質変化を抑制し、歪の集中を回避する技術が開示されている。また、特許文献2には、鋼板を軟質化し、素材の成形性を上げることで複雑な成形を可能とした、成形性に優れた3ピース缶に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平2−118028号公報
【特許文献2】特許第3695048号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には以下の問題点がある。特許文献1は、フランジ成形に関する技術であり、エキスパンド成形に対しても有効であるかは検証されていない。また、ラミネートフィルムの存在により顕著となる溶接部近傍での歪の集中を回避する方法については何ら開示されていない。
【0007】
特許文献2に開示されている鋼板は軟質であるため、更なるゲージダウンの要求があった場合に、必要な缶強度を確保することが困難となり、コストダウンに寄与することができない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、薄手化、高強度化によって、伸びが低下した鋼板であっても、エキスパンド成形時にその成形性を最大限引き出すことにより、従来よりも優れたエキスパンド成形性を発揮する鋼板および製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、成分含有量、熱延条件、一次冷延条件、連続焼鈍条件、二次冷延条件について総合的に検討し、高強度かつ高r値の鋼板を得ることによって本発明を知見したものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)質量%で、C:0.018〜0.030%、Si:0.02%以下、Mn:0.15〜0.25%、P :0.010%以下、S :0.010%以下、Al:0.070〜0.100%、N :0.004%以下を含有し、Sol.Al/(N−0.0005)≧20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、ロックウェル硬さ(HR30T)が52〜70の鋼板であって、鋼板面上の圧延方向に平行な方向をL方向、それに垂直な方向をC方向とした場合、L方向およびC方向のいずれか一方、もしくは双方のr値が1.0以上であり、このr値が1.0以上である方向を拡缶方向としてエキスパンド成形を加えた場合に、割れの発生がなく、優れたエキスパンド成形性を示すことを特徴とする、高強度かつエキスパンド成形性に優れた3ピース缶用鋼板。
(2)質量%で、C:0.018〜0.030%、Si:0.02%以下、Mn:0.15〜0.25%、P :0.010%以下、S :0.010%以下、Al:0.070〜0.100%、N :0.004%以下を含有し、Sol.Al/(N−0.0005)≧20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる連続鋳造鋼片(以下、スラブと略記)を、加熱温度:1050〜1180℃で加熱し、Ar3点以上の圧延温度で仕上げ圧延した後、650〜770℃の範囲で捲取り、酸洗後、一次冷延率を80〜95%とした冷間圧延を施し、640〜740℃の温度範囲で連続焼鈍を行い、1.7〜7.0%の二次冷延を行うことを特徴とする、高強度かつエキスパンド成形性に優れた3ピース缶用鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
一般に高強度化に伴って、鋼板の伸びは低下するため、高強度の鋼板を用いた場合、エキスパンド成形性の低下は避けられなかった。しかし、本発明による鋼板を用いることで、同一強度、同一伸びの鋼板であっても、従来よりも高いエキスパンド成形性を実現することができ、高強度でエキスパンド成形性に優れるといった、相反する特性を同時に満足することができ、缶の薄手化などに寄与することができる。特に、拡缶率[={(成形後の缶周長−成形前缶周長)/成形前缶周長}×100%]が3%を超える場合に本発明の効果を享受することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、エキスパンド成形性と材質特性との関係を検討するうち、全伸びが同じ鋼板であっても、r値の増加に伴って、エキスパンド成形時の限界拡缶率が大幅に向上することを知見したものである。従来行われていた、軟質化を図り、鋼板の全伸びを向上させることでエキスパンド成形性を向上させる方法では、鋼板が軟質になって強度が低下するため、必要な缶強度が保てなくなるといった問題があったが、本発明ではこれを克服し、r値を向上させることで、エキスパンド成形性と必要缶強度を両立することができる。
【0012】
図1にr値と限界拡缶率の関係(全伸びは一定)を、図2に全伸びと限界拡缶率の関係(r値は一定)を示す。これらの図から、全伸びの向上による限界拡缶率の向上代に比べ、r値向上による限界拡缶率の向上代がはるかに大きいことが判る。高r値化により、エキスパンド成形性が向上する理由は明らかではないが、エキスパンド成形特有の成形方法と、r値の変化による鋼板の伸び特性の変化に関係があると考えられる。
【0013】
つまり、図3に示すように、エキスパンド成形では、円周方向に分割された工具が用いられ、これら工具が缶の半径方向に移動することによって、拡缶成形がなされる。この時、主に成形を受ける(伸びる)のは、各工具と工具の間の鋼板であり、この各工具間では標点間距離の短い引張り成形を行っているのと同義と考えることができる。通常引張り試験を行うと、試験片の平行部は最初は均一に伸びる(いわゆる均一伸び)が、ある部分でネッキングが始まる。一旦ネッキングが始まると、そのネッキングした部分が主に伸びるため、それ以外の部位はそれ以降ほとんど変形しない。そのため、破断するまでの伸びを試験片の長手方向で比較すると、分布が生じており、破断位置に近い部位ほど多く伸びている。即ち、伸びを測定する標点間の距離を小さくするほど、破断伸び(材料が破断したときの特定の標点間の伸び)が大きくなっている。この破断伸びと標点間距離の関係について、本発明者らが数値成形シミュレーションと多くの実験により、様々なr値の材料について鋭意研究した結果、標点間の距離が短い場合の破断伸び(即ち破断部に近い部分の破断伸び)は、r値が向上するほど大きくなること、更にr値が1.0以上になるとその向上代が非常に大きくなることを見出した。このことを図4に示す。以上の理由から、高r値化によって、エキスパンド成形性が向上するものと考えられる。
【0014】
ロックウェル硬さ(HR30T):52〜70
本発明は従来の軟質な缶からのゲージダウンを狙いとした高強度な鋼板を得る事を目的としているため、ロックウェル硬さは52以上とする。一方、硬度が70を超えると、鋼板の全伸び、r値が共に低下し、エキスパンド成形性が大幅に悪化するため、上限は70とする。
【0015】
高r値の鋼板を得るための、製造上のポイントとしては、鋼成分、熱延条件、冷延条件、連続焼鈍条件、2次冷延条件を最適化し、高r値化に有効な結晶方位を得ること、及び粒成長を促進することであり、特に、高r値化の阻害要因である、固溶NをAlNとして析出させ、無害化することが重要となる。以下に製造上のポイントについて述べる。
【0016】
C:0.018〜0.030%
Cはエキスパンド成形性に大きな影響を与える元素で、その量が少ないほど連続焼鈍時の粒成長が促進して高r値が得やすくなる。一方、エキスパンド缶において溶接軟化に起因した応力集中による破壊を回避するにはC量の下限を限定する必要がある。C量が0.018%未満では溶接部に焼入れ組織がなくなり著しい溶接部軟化が生じる。また鋼組織を均一かつ細粒にし難くなって高強度化に不向きであり、かつ固溶Cが特異的に多くなる。この固溶Cはエキスパンド加工後の缶にストレッチャーストレイン模様の欠陥を生じる。これらの害を回避するには下限を0.018%としなければならない。望ましくは、0.020%である。C量が0.030%を越えると焼鈍時の粒成長が抑制されて高r値とならずエキスパンド成形性が低下するのでC上限を0.030%とする。
【0017】
Si:0.020%以下
Siは食缶として耐食性を劣化させる元素で、過剰に含有させることで介在物を形成しフランジ加工性を劣化させるため上限を0.02%に限定する。なお特に優れた耐食性を必要とする場合には上限を0.01%未満とすることが望ましく、本発明の容器用鋼板には不要な元素であることから下限を定めない。
【0018】
Mn:0.15〜0.25%
Mnもエキスパンド成形性に大きく影響を与える元素であり0.25%を超えると焼鈍時の粒成長が抑制されて高r値が得られない。加えて鋼板表層にMn酸化物が濃化して、耐食性が劣化するので、Mn上限は0.25%とする。一方、Mnは熱延鋼板のS起因の耳割れを防止するために添加される。Sを固定し耳割れを防止するにはMn/Sの比が8以上必要なのでMn下限は0.15%とする。
【0019】
P :0.010%以下
Pは過度に含有すると結晶粒界に偏析しフランジ加工割れの原因になるほか、食缶としての耐食性も劣化させる元素である。従って実用上支障のない上限を0.010%とするが、本発明において不要な元素であることから下限を定めない。
【0020】
S :0.010%以下
Sは連続鋳造時にMnSとなって粒界に析出しスラブ割れを起こし、また熱間圧延時には地鉄と結合して低融点化合物のFeSを作り、熱間圧延温度で融解して鋼板に割れを起こすなど美麗な鋼板を製造する上で極めて有害である。さらにMnを含む鋼板において含有量に応じて大きなMnS析出物を生成する。このMnSは圧延により圧延方向に長く伸びる性質を有しており、大きい析出物ほど鋼中に広く分散して鋼板の伸びを減少してエキスパンド加工性を劣化させる。従ってエキスパンド加工性を良好に保ち、特に缶胴フランジ部の加工を割れなく容易に進めるにはSは微量であっても存在しないことが望ましく下限は不要である、容器となった後においてもSが極微量であれば耐食性向上に望ましく、Sの上限を0.010%とし、0.009%以下であることが好ましい。
【0021】
Al:0.070〜0.100%
Alは本発明の重要な化学成分であって、エキスパンド成型性に大きな影響を与える元素である。熱延での低温加熱、高温巻取りによってNをAlNとして十分に析出させ、連続焼鈍時の高温焼鈍によって高r値に寄与する結晶方位を持つ結晶粒の成長を助ける役割を果たす。この効果を得るには、Alを0.070%以上添加する必要がある。Al量が0.070%未満になるとNをAlNとして十分に析出させることができなくなり、高r値が得られないため、Al量の下限を0.070%とする。一方、Al含有量が0.100%を超えると、連続鋳造時にAlNとなって粒界に析出しスラブ割れを起こし、また熱延捲取りや焼鈍加熱時にAlNの析出サイズが大きくなりフランジ加工の割れ原因となる。高r値を確保するにはAl量の上限を0.100%に抑える必要がある。
【0022】
N :0.004%以下、Sol.Al/(N−0.0005)≧20
NはAlと結合させ、AlNとして析出させることによって無害化させる必要のある元素であり、多量に添加すると固溶Nが残存し、高r値が得られない。従ってNの上限は0.004%とするが、本発明において不要な元素であることから下限を定めない。また本発明の効果はAl量とN量の関係をSol.Al/(N−0.0005)≧20に特定することによって安定して得られる。この条件は本発明にとって必須であり、20未満では鋼板中に固溶Nが過剰になり、r値の劣化およびストレッチャーストレインの発生があり本発明の効果が失われる。
【0023】
その他の化学成分
本発明の高強度薄鋼板の成分としては質量%でC :0.018〜0.030%、Si:0.02%以下、Mn:0.15〜0.25%、P :0.010%以下、S :0.010%以下、Al:0.070〜0.100%、N :0.004%以下を含有することが必要であるが、公知の容器用薄鋼板中に一般的に存在する成分元素を含有してもよい。例えばCr:0.10%以下、Cu:0.20%以下、Ni:0.15%以下、Mo:0.05%以下、B:0.0020%以下、Ti、Nb、Zr、Vなどの1種または2種以上を0.3%以下、あるいはCa:0.01%以下などの成分元素を目的に応じて含有させることができる。
【0024】
製造条件について
本発明の成分を有するスラブを圧延、熱処理する製造工程は通常の薄板製造プロセスのままで好適である。
【0025】
熱延加熱温度:1050〜1180℃
加熱温度が1050℃を下回ると、圧延時の変形抵抗が増大するため、下限は1050℃とする。一方、加熱温度が1180℃を超えると、連続鋳造時に析出した、AlNが再溶解してしまい、最終的に高r値が得られなくなる。従って、上限は1180℃とする。
【0026】
捲取り温度:650〜770℃
巻取り温度を650℃以上とするのは捲取り後の自己焼鈍によりAlNを十分に析出させるためであり、これによって高いr値の鋼板を得ることができる。一方、770℃以下としたのは、これ以上の温度では酸洗での脱スケール性にとって好ましくないスケールが生成するためである。よって、AlNの十分な析出および脱スケール性に配慮した望ましい捲取り温度範囲は650〜770℃である。
【0027】
酸洗
上記の捲取り温度により製造されれば酸洗条件に格別の規制はなく、通常条件としての塩酸または硫酸による酸洗が可能である。
【0028】
一次冷延率:80〜95%
連続焼鈍前に施される冷間圧延を一次冷延として、その一次冷延率の範囲を80〜95%とする。連続焼鈍後に高r値を得るには、再結晶を促進することが重要であり、そのためには冷延率を高くし、鋼板中に歪みを多量に導入する必要がある。冷延率が80%を下回ると、連続焼鈍後に、高r値を得るために必要な再結晶組織が得られないので下限を80%とする。望ましくは85%である。一方、タンデム式冷間圧延機には冷延率適用に限界があり、一般に95%を超えると鋼板が破断しやすくなり生産性を害するようになるので上限を95%とする。
【0029】
連続焼鈍温度:640〜740℃
連続焼鈍を行う際の焼鈍温度は740℃超では、ヒートバックルが発生する可能性が高くなり、安定した通板が困難になるため、上限は740℃とする。一方、640℃未満では十分に粒成長せず高r値が得られないことから連続焼鈍温度は640〜740℃とする。
【0030】
二次冷延:圧下率1.7〜7.0%
連続焼鈍後の二次冷延も本発明の重要な製造因子であり、加工硬化によって鋼板を強化し、必要な硬度を確保することができる。通常二次冷延を行うロール径は600mm前後であるが、本発明では350〜500mmの小径ロールを用いて冷延を行う必要がある。通常のロールに比べ、小径ロールを用いた場合、鋼板内にせん断歪がより多く緻密に導入される。これによって鋼板内の歪の均一性が増し、鋼板の硬度のむらを低く抑えることができる。結果として、通常の二次冷延に比べ同じ硬度を得るために必要な圧下率を低く抑えることができ、二次冷延率の増加に伴って低下する、r値の低下代を低く抑えることができる。しかし、二次冷延率が1.7%を下回ると、ストレッチャーストレインが発生するので、下限は1.7%とする。一方、二次冷延率が7.0%を超えると材質が硬く脆くなりエキスパンド成形時に割れが発生しやすくなる。また冷延組織が生成することによりr値の劣化が進むので上限を7.0%とする。望ましくは4.0%である。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示す。表1に示す成分のスラブを、表2に示す熱延条件で、熱間圧延を行い熱延板とした後、酸洗を行い、表2に示す条件で一次冷延、連続焼鈍を行い、ロール径470mmのロールを用いて二次冷延をし、板厚0.19mmの冷延鋼板とした後、表面処理を施した。このようにして得た鋼板の硬度(HR30T)を測定すると共に、L方向及びC方向のr値を測定した。また、この鋼板にフィルムをラミネートし、L方向及びC方向が拡缶方向となるように、ブランクを切り出し、スードロニック溶接を行うことによって、3ピース缶の胴部分を作成した。この胴部分の内径は52.6mm、高さは108mmである。エキスパンド成形は、およそ3%以上拡缶されるのが一般的であり、十数%以上の拡缶を行う場合もある。本研究では、より高い拡缶が可能な鋼板を対象としているため、エキスパンド成形性の良否は、エキスパンド試験機を用いて、12%拡缶した時の、割れの発生有無で判定した。拡缶率は{(成形後の缶周長−成形前缶周長)/成形前缶周長}×100%で定義した。また、エキスパンド成形後、ストレッチャーストレインの発生有無も調査し、発生無きものを合格としている。これら結果を表3に示す。
【0032】
表3において、鋼板No.1〜10は本発明例であり、成分及び製造条件を適正な範囲とすることで、高強度かつ、エキスパンド成形性に優れた鋼板が得られている。鋼板No.11は、成分が本発明範囲外であり、Cが低いため、r値は高く、エキスパンド時に割れは発生しないが、強度が不足している。鋼板No.12〜15は成分が本発明範囲外であり、かつ鋼板No.12、13は、Sol.Al/(N−0.0005)の値が20以下であり、r値が低くエキスパンド成形時に割れが発生する。またそれに加え、鋼板No.13は、二次冷延率が低いため、ストレッチャーストレインが発生した。鋼板No.16は、熱延加熱温度が高く、本発明範囲外であるため、加熱中にAlNが再溶解してしまい、高いr値が得られず、エキスパンド成形時に割れが発生する。鋼板No.17は、熱延巻取り温度が低く本発明範囲外であるため、巻取り後にAlNの析出が十分起こらず、高いr値が得られない。そのため、エキスパンド成形時に割れが発生する。鋼板No.18は、一次冷延率が低く、本発明範囲外であるため、連続焼鈍時に十分に再結晶が起こらず、高いr値が得られないため、エキスパンド成形時に割れが発生する。鋼板No.19は、連続焼鈍温度が低く、本発明範囲外であるため、連続焼鈍時に十分な粒成長が起きず、高いr値が得られないため、エキスパンド成形時に割れが発生する。鋼板No.20は、二次冷延率が高く、本発明範囲外であるため、高いr値が得られず、エキスパンド成形時に割れが発生する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】r値と限界拡缶率の関係(全伸びは一定)を示す図である。
【図2】全伸びと限界拡缶率の関係(r値は一定)を示す図である。
【図3】エキスパンド成形の断面模式図である。
【図4】評点間距離と破断伸びの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.018〜0.030%、
Si:0.02%以下、
Mn:0.15〜0.25%、
P :0.010%以下、
S :0.010%以下、
Al:0.070〜0.100%、
N :0.004%以下を含有し、Sol.Al/(N−0.0005)≧20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、ロックウェル硬さ(HR30T)が52〜70の鋼板であって、鋼板面上の圧延方向に平行な方向をL方向、それに垂直な方向をC方向とした場合、L方向およびC方向のいずれか一方、もしくは双方のr値が1.0以上であり、このr値が1.0以上である方向を拡缶方向としてエキスパンド成形を加えた場合に、割れの発生がなく、優れたエキスパンド成形性を示すことを特徴とする、高強度かつエキスパンド成形性に優れた3ピース缶用鋼板。
【請求項2】
質量%で、
C:0.018〜0.030%、
Si:0.02%以下、
Mn:0.15〜0.25%、
P :0.010%以下、
S :0.010%以下、
Al:0.070〜0.100%、
N :0.004%以下を含有し、Sol.Al/(N−0.0005)≧20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなる連続鋳造鋼片(以下、スラブと略記)を、加熱温度:1050〜1180℃で加熱し、Ar3点以上の圧延温度で仕上げ圧延した後、650〜770℃の範囲で捲取り、酸洗後、一次冷延率を80〜95%とした冷間圧延を施し、640〜740℃の温度範囲で連続焼鈍を行い、1.7〜7.0%の二次冷延を行うことを特徴とする、高強度かつエキスパンド成形性に優れた3ピース缶用鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−132984(P2009−132984A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311847(P2007−311847)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】