説明

高強度ボルト

【課題】引張強さが1200MPa以上の高強度ボルトでありながら延性、遅れ破壊特性に優れ、しかも従来には得られなかった優れた耐衝撃性を有するものを提供する。
【解決手段】引張強度が1.2GPa以上で、ネジ部と首下円筒部を有する高強度ボルトであって、Aoを、ネジ部よりも大径の首下円筒部の有効断面積、Hoを前記Ao測定部分の硬さ、Asをネジ部の有効断面積、Hsをネジ部の硬さとして、K=(Ao×Ho)/(As×Hs)が0.8以上とし、かつ、Ho<Hsであることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強さが1200MPa以上の高強度ボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物の大型化や自動車部品などの軽量化に伴い、これまで以上に高強度でかつ強靭な高強度金属材料が求められている。その中で、鋼板や形鋼の高強度化だけでなく、同時に、それらの鋼材を接合する際に用いられるボルトの高強度化も切望されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
ボルトの素材に要求される機械的特性は、(1)成形・加工が容易であること、(2)耐遅れ破壊性に優れていること、(3)環境などの影響により材質劣化のないこと、(4)耐衝撃性に優れていることなどがあげられる。しかし、これらの特性は強度上昇とトレードオフ関係にある。
【0004】
引張強さが1200MPaを超える鋼材ではとくに遅れ破壊が深刻な問題であり、高力ボルト高強度化の大きな妨げとなっている。遅れ破壊とは、大気腐食によって水素が発生、鋼材中に侵入して鋼材が脆化する結果起こる破壊で、時間遅れ破壊の略称である。室温において鋼中で拡散集積する水素が遅れ破壊の原因である。この遅れ破壊のため、1990年代後半に引張強さが1400MPaの超高力ボルトが開発されるまでの約30年間、土木建築用高力ボルトの高強度化は引張強さが1100MPaまでで頭打ち状態であった(例えば、非特許文献1)。
【0005】
一般的に、ボルトの製造は、鋼材を軟質化処理した後に、ボルト頭部を冷間圧造によりヘッダ成形、ネジ部を冷間転造により成形した後、焼入れ焼戻しによる調質処理を施して製造される。特許文献2では、C、Si、Mn、Cr、Moの添加量と焼戻条件を規定することにより引張強さが1800MPa以上で遅れ破壊に優れた高強度機械構造用鋼を得られることが開示されている。また、この1800MPa級高強度機械構造用鋼を用いた超高力ボルトの製造法および機械的特性が報告されている(非特許文献2)。ところが、このような高強度鋼材では素材の軟質化が難しく冷間圧造による頭部成形が困難であること、JIS規格形状のボルト製品とした場合には遅れ破壊が未だ完全には克服できていないことも指摘されている(非特許文献2)。
【0006】
ボルト調質処理は手間のかかる工程であるため、調質処理工程を省略する製造方法(非調質ボルト)も行われている。微細なパーライト組織を有する鋼材を強伸線加工して得られる線材を素材として、冷間圧造によりボルト形状に成形したものについて、歪時効処理を施すことで、遅れ破壊特性とリラクゼーションが改善されることが開示されている(特許文献3)。特許文献1ではボルト成形後に弾性限界以下の引張応力をボルトに与え、そのもとで熱処理を行うと低温靭性が改善されることも開示されている。しかしこれらはいずれもボルトへの成形が冷間で行われることが前提であるため、ボルト形状およびサイズが制約される。しかも高強度化には炭素量を0.7wt%以上に増加する必要があり、衝撃靭性の大幅な改善が期待できない。wt%は質量%と同意である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−328473号公報
【特許文献2】特許3861137号公報
【特許文献3】特開2001−48618号公報
【特許文献4】PCT/2006/323248号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高力ボルト接合における高強度化技術の最前線、2008年度日本建築学会大会(中国)構造部門(鋼構造)パネルディスカッション資料
【非特許文献2】鋼構造論文集第14巻第54号(2007)、 pp.121-127.
【非特許文献3】Steels: Heat Treatment and Processing Principles, ASM International, (1990), p.14.
【非特許文献4】Science、320、 (2008)、 pp.1057-1060.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的とするところは、引張強さが1200MPa以上の高強度ボルトでありながら延性、遅れ破壊特性に優れ、しかも従来には得られなかった優れた耐衝撃性を有するものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明1の高強度ボルトは、下記(式1)のKが0.8以上とし、かつ、Ho<Hsであることを特徴とする。
(式1)
(Ao×Ho)/(As×Hs)=K
Ao:ネジ部より大径の首下円筒部の有効断面積
Ho:前記Ao測定部分の硬さ
As:ネジ部の有効断面積
Hs:ネジ部の硬さ
【0011】
発明2は、発明1の高強度ボルトにおいて、Cが0.7wt%未満で、含有するとすればSiが3wt%以下、Mnが3wt%以下、Crが3wt%以下、Alが0.5wt%以下、Oが0.3wt%以下、Nが0.3wt%以下、Moが5.0wt%以下、Niが10wt%以下、Cuが2.0wt%以下、Nbが1.0wt%以下で、残部は実質的にFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0012】
発明3は、発明1又は2の高強度ボルトにおいて、粒子分散型繊維状組織を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
既存のボルト製造機を用いた温間成形プロセスで引張強さが1200MPa以上の高強度レベルでありながら延性、遅れ破壊特性、とくに耐衝撃性に優れた性能を発揮させることができ、長年の夢であった高強度ボルトの実用化を実現することができた。
これは、HoをHsより小さくし、前記(式1)のKを上記範囲にすることで、圧造が困難であった高強度ボルトの頭部を既存のボルト製造機を用いた温間成形プロセスでネジ部よりも高温で圧造できるようになった。また、ネジ部に対して、ボルト首下円筒部および頭部の硬さを傾斜的に低くすることで硬さの上昇とはトレードオフの関係にある延性、耐衝撃性、遅れ破壊特性を首下円筒部および頭部で高めることができたことによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ボルトにおける硬さおよび特性の分布を示す模式図。
【図2】は表3のSNo.4の実施例ボルトの引張試験後の破断写真と破断部近傍の拡大写真である。
【図3】は表3のSNo.5の実施例ボルトの引張試験後の破断写真と破断部近傍の拡大写真である。
【図4】は表3のSNo.6の比較例ボルトの引張試験後の破断写真と破断部近傍の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述のように鋼材の硬さ(強度)と遅れ破壊特性、靭性、延性、成形性などの特性はトレードオフの関係にある。つまり、本発明は、硬さ(強度)が低くなるほど遅れ破壊特性、靭性、延性、成形性は向上するとの知見を基に、図1に示すように、その硬さを調整し、頭部では、破壊特性、靭性、延性、成形性を高めることができたものである。
前記(式1)は、ネジ部よりも首下円筒部が軟質な組織となっていることを意味しており、そのKが0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1とするのが望ましい。Kがこの値未満ではボルトがネジ部でなく首下円筒部で破断してしまう。
またKが大きくなりすぎるとボルトの首下円筒部の径が大きくなりすぎてボルトとしての機能が十分に発揮できなくなるので、その上限は自ずと明らかである。ボルトの汎用性を考慮するとJIS規格に準じたボルト形状が好ましく、その場合のK値は1.3以下とするのが好ましい。
【0016】
このような組織は、以下の手順で焼入れ材または調質材を加工することにより得られる。
まずボルトの頭部となる素材の端部を350℃以上Ac1点(オーステナイト相の析出開始温度)+20℃以下の温度域に加熱し、頭部形状に圧造する。ついで頭部の加熱温度よりも低い温度でネジ部を転造する。なお、ネジ転造温度は鋼材の成形性にもよるが室温としても問題ない。
なお、Ac1点は、例えば、表1に示す組成からすれば、従来周知の経験式(非特許文献3)に基づき,A材795℃、B材740℃となる。しかし、高周波加熱装置を用いて素材を急速に加熱した場合などではAc1点は前述の算定Ac1点より高温側にずれる傾向にあることが従来より知られており、このことを考慮した場合は、上記のようにするのが実態に即した温度である。
なお、本発明は、表1に示す組成のものに限らないのであるから、本趣旨に適合する組成のものであれば、上記温度に限るものではないことは明らかであり、また従来周知のAc1実験式より、容易に知り得るものでもある。
【0017】
このような加工によって、本発明の高強度ボルトにし得る鋼材の組成としては、以下のようなものが望ましい。
C量が0.7wt%未満とする場合は、Siが3wt%以下、Mnが3wt%以下、Crが3wt%以下、Alが0.5wt%以下、Oが0.3wt%以下、Nが0.3wt%以下、Moが5.0wt%以下、Niが10wt%以下、Cuが2.0wt%以下、Nbが1.0wt%以下含有するのが好ましい。
【0018】
C:Cは炭化物粒子を形成し、強度増加に最も有効な成分であるが、0.70wt%を超えると靱性劣化を招くことから、含有量を0.70wt%未満とした。強度増加を充分に期待するためには、好ましくは、0.08wt%以上、より好ましくは0.15wt%以上を含有させる。
【0019】
Si:Siは脱酸およびフェライト中に固溶して鋼の強度を高めるとともにセメンタイトを微細に分散させるのに有効な元素である。従って、脱酸材として添加したもので鋼中に残るものも含め、含有量を0.05wt%以上とすることが好ましい。高強度化を図る上で上限は特に制限しないが、鋼材の加工性を考慮すれば、2.5wt%以下とすることが好ましい。
【0020】
Mn:Mnはオーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化に有効であるとともに、焼入れ性ならびにセメンタイト中に固溶してセメンタイトの粗大化を抑制するのに有効な元素である。0.05wt%未満では所望の効果が得られにくいため、0.05wt%以上と定めることが好ましい。より好ましくは0.2wt%以上を含有させる。高強度化を図る上で上限は特に制限しないが、得られる鋼材の靭性を考慮すれば、3.0wt%以下とすることが好ましい。
【0021】
Cr:Crは焼入れ性向上に有効な元素であるとともにセメンタイト中に固溶してセメンタイトの成長を遅滞させる作用が強い元素である。また、比較的多く添加することでセメンタイトよりも熱的に安定な高Cr炭化物を形成したり、耐食性を向上させる、本発明では重要な元素のひとつでもある。従って、少なくとも0.01wt%以上含有させるのが好ましい。好ましくは0.1wt%以上であって、より好ましくは0.8wt%以上を含有させる。
【0022】
Al:Alは脱酸およびNiなどの元素と金属間化合物を形成して鋼の強度を高めるのに有効な元素である。ただし過剰な添加は靱性を低下させるため、0.5wt%以下とした。なお、Alと他の元素の金属間化合物やAlの窒化物や酸化物などを第2相分散粒子として利用しない場合は、0.02wt%以下、さらに限定的には0.01wt%以下とすることが好ましい。
【0023】
O:O(酸素)は酸化物として微細で均一に分散させることができれば、介在物ではなく、粒成長抑制や分散強化粒子として有効に作用する。ただし、過剰に含有させると靱性を低下させるので0.3wt%以下とした。酸化物を第2相分散粒子として利用しない場合は、0.01wt%以下とすることが好ましい。
【0024】
N:N(窒素)は窒化物として微細で均一に分散させることができれば、粒成長抑制粒子や分散強化粒子として有効に作用する。ただし、過剰に含有させると靱性を低下させるので0.3wt%以下とした。窒化物を第2相分散粒子として利用しない場合は、0.01wt%以下とすることが好ましい。
【0025】
Mo:Moは本発明において鋼の高強度化に有効な元素であり、鋼の焼入れ性向上を向上させるだけでなく、セメンタイト中にも少量固溶してセメンタイトを熱的に安定にする。とくにセメンタイトとはまったく別個に基地相中に新しく転位上に合金炭化物を核生成(separate nucleation)することで2次硬化を起こして鋼を強化する。しかも形成された合金炭化物は微細粒化に有効であると共に水素の置換にも有効である。したがって、好ましくは0.1wt%以上、より好ましくは0.5wt%以上を含有させるが、高価な元素であるとともに過剰な添加は粗大な未固溶炭化物または金属間化合物を形成して靱性を劣化させるため、添加量の上限を5wt%に定めた。経済性の観点からは、2wt%以下とすることが好ましい。
【0026】
なお、W、V、Ti、NbならびにTaについてもMoと同様な効果を示し、それぞれ前記上限の添加量を定めた。さらにこれらの元素の複合添加は、分散強化粒子を微細に分散する上で有効である。
【0027】
Ni:Niは焼き入れ性の向上に有効であるとともに、オーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化や靱性の向上、耐食性の向上に有効な元素である。また、適量を含有させればTiやAlと金属間化合物を形成して鋼を析出強化させるのにも有効な元素である。0.01wt%未満では所望の効果が得られないため、0.01wt%以上とするのが好ましい。より好ましくは0.2wt%以上を含有させる。上限については特に制限は無いが、高価な元素であるため、9wt%以下とすることが好ましい。
【0028】
Cu:Cuは熱間脆性を引き起こす有害な元素である反面、適量を添加すれば500℃〜600℃で微細なCu粒子の析出をもたらし、鋼を強化する。多量に添加すると熱間脆性を引き起こすので、フェライト中へのほぼ最大固溶量である2wt%以下とした。
【0029】
なお、微細な金属間化合物の析出による高強度化を意図する場合には、Co:15wt%以下を含有することも有効である。
【0030】
P(燐)およびS(硫黄)については特に規定されないが、PやSは粒界強度を低下させるため極力取り除きたい元素であり、それぞれ0.03wt%以下とすることが好ましい。
なお、上記以外の元素についても、本発明の効果を下げない範囲で各種の元素が含有されることが許容される。
【0031】
粒子分散型繊維状結晶粒組織を有する鋼材を創製すると、既存鋼と比べて、引張強さが1500MPa以上でも延性、遅れ破壊特性、とくに耐衝撃性が著しく改善されることが報告されている(特許文献4、非特許文献4参照)。
本発明においても以下のようにすることで、このような粒子分散型繊維状結晶粒組織を有するボルトを創製することが可能である。
ボルト成形前に調質処理を行い、これを350℃以上、鋼のAc1点の20℃以下の温度範囲で、減面率30%以上の温間加工により長手方向に繊維化させる。その後、頭部を圧造が可能な温間域で成形する。ネジ部は繊維状組織が消失しないように頭部よりも低い温度域でネジ転造により成形する。これによりネジ部の延性、遅れ破壊性、靭性を大幅に高めることが出来た。その結果、高強度でありながらかつ壊れにくい高強度ボルトが実現できた。
【0032】
ここで、温間域として350℃以上Ac1点+20℃以下の温度範囲とする。ただし、頭部ヘッダ加工では高速に塑性変形が加わるため、加工前温度が上記の温度範囲であっても発熱によって、上記温度範囲を超えることがある。しかし、それは瞬間的なことであるため、金属組織を粗大にさせることはない。
【0033】
ボルト成形前の素材の粒子分散型繊維状組織を確実に得るためには、製造条件だけでなく鋼の化学組成にも注意を払うことが必要である。
本発明では、様々な成分を有した鋼を用いて、圧延とボルト製造条件による効果の相違を観察した結果、とくに良好な靭性を得るためには、C量を0.7wt%未満、好ましくは0.6wt%以下、より好ましくは0.5wt%以下とするのが望ましい。また、焼入性や焼戻軟化抵抗を上げて高強度化を図るにはSiが3wt%以下、Mnが3wt%以下、Crが3wt%以下、Alが0.5wt%以下、Oが0.3wt%以下、Nが0.3wt%以下、Moが5.0wt%以下、Niが10wt%以下、Cuが2.0wt%以下、Nbが1.0wt%以下を含有することが好ましい。
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
表1に、ボルト素材に用いた鋼成分を示す。A材は特許文献2に関連した遅れ破壊特性に優れた鋼材成分を有する。B材はJIS−SCM440鋼に相当する。調質処理材については、断面積約2cm2の棒材を用意した。A材、B材は、それぞれ950℃、920℃から焼入処理した後、500℃、400℃で1時間の焼き戻処理を施した。一方、粒子分散型繊維状組織材については、まず断面積が9cm2の角材を用意し、A材、B材をそれぞれ950℃、920℃から焼入れ処理を施してほぼ100体積%に近いマルテンサイト単一組織を得た。なお焼入れ組織における旧オーステナイト粒径は約50μmであった。ついで、A材、B材は500℃、400℃でそれぞれ1時間の焼戻処理を施した後、溝ロール圧延機を用いて断面積2cm2まで減面し棒材とした。表2にA材およびB材の粒子分散型繊維状組織材(それぞれ、AFおよびBF)、A材およびB材の調質材(AQおよびBQ)の機械的特性を示す。とくに素材の金属組織を粒子分散型繊維状組織とすることで引張強さが1500MPa以上でもVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー(JIS Z 2242)が100J以上の十分に高い値を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
ボルトの作製にあたっては、まず、得られた棒材を表3に示す温度に鋼材の端部を加熱し、頭部を成形した。ついで、素材の特性を損なわないように前記焼戻温度にボルトをそれぞれ加熱してねじ部を転造により作製し、JIS−M12のネジ規格のボルトとした。得られたボルト特性を表3に示す。ボルトの硬さは、ボルトを長軸に沿って切断後、切断面をバフ研磨により鏡面仕上げした試料断面について、JIS Z 2244で規定されている試験方法に準じて、ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重1kg、保持時間15sで測定した。ボルト製品の引張特性は、JIS B 1186に準じてくさび(くさび角度4°)を用いた引張試験により評価した。
なお、表3のSNo.1、4、5、7、9から13、16は本発明の実施例であり、その他は比較例である。
破断部位として「ネジ部」と記載しているサンプルはネジ部で破断したサンプルであり、破断部位として「円筒部」と記載しているサンプルは首下円筒部で破断したサンプルを示す。
【0039】
【表3】

【0040】
上記温間加工プロセスにより、冷間鍛造性に問題があったA材でもJIS規格の六角頭部形状のボルトを作製できた。得られたボルトのネジ部はHv420以上の高い硬さを有
するのに対し、首下円筒部はHv280〜400の遅れ破壊しにくい硬さ(引張強さ88
0〜1250MPaに相当)となっている。K値が0.8以上では、JISボルトはネジ部で破断するのに対し、0.8未満では首下円筒部で破断した。首下円筒部破断では、ネジ部破断よりも引張強さが低くなり、ボルトの強度特性を満足しない。すなわち、K値が0.8以上となるように素材を温間成形することで目的とするボルトが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
引張強さが1200MPa以上の高強度ボルトでありながら延性、遅れ破壊特性に優れ、しかも従来には得られなかった優れた耐衝撃性を有するものを提供することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が1.2GPa以上で、ネジ部と首下円筒部を有する高強度ボルトであって、下記(式1)のKが0.8以上とし、かつ、Ho<Hsであることを特徴とする高強度ボルト。
(式1)
(Ao×Ho)/(As×Hs)=K
Ao:ネジ部より大径の首下円筒部の有効断面積
Ho:前記Ao測定部分の硬さ
As:ネジ部の有効断面積
Hs:ネジ部の硬さ
【請求項2】
請求項1に記載の高強度ボルトにおいて、Cが0.7wt%未満、Siが3wt%以下、Mnが3wt%以下、Crが3wt%以下、Alが0.5wt%以下、Oが0.3wt%以下、Nが0.3wt%以下、Moが5.0wt%以下、Niが10wt%以下、Cuが2.0wt%以下、Nbが1.0wt%以下含有し、残部は実質的にFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする高強度ボルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高強度ボルトにおいて、粒子分散型繊維状組織を有することを特徴とする高強度ボルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−58576(P2011−58576A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209581(P2009−209581)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(598106050)扶桑機工株式会社 (7)
【出願人】(509254155)株式会社共和工業所 (1)
【Fターム(参考)】