説明

高強度マルテンサイト鋼

【課題】自動車用のばねやボルト等として用いても十分な強度を有すると共に、靭性にも優れたマルテンサイト鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の高強度・高靭性マルテンサイト鋼は、0.1質量%以上のCを含み、金属組織の80%以上がマルテンサイトであるマルテンサイト鋼であって、旧オーステナイト結晶粒度番号の平均値が7以上で、且つ最大頻度を有する粒度番号から3.0以上異なった粒度番号の旧オーステナイト粒が占める面積率が10%以下であることに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度・高靭性マルテンサイト鋼及びその製造方法と、上記高強度・高靭性マルテンサイト鋼を用いてなる高強度ばね及び高強度ボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年自動車の燃費改善に向けた使用鋼材の軽量化ニーズが高まっており、ばね用鋼やボルト用鋼などの高強度鋼に対しても、より一層の高強度化が要求されている。
【0003】
上記高強度鋼としてはマルテンサイト鋼が用いられているが、高強度化の弊害として靱性の劣化があり、高強度化の一方で、遅れ破壊感受性や腐食疲労特性の改善が重要な課題として取り上げられ、種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特公昭60−30736号公報では、冷間成形コイルばねの靭性の向上を目的として、高周波加熱焼入れによって微細マルテンサイトを生成させる方法が開示されている。但し、これは通常の高周波加熱処理でオーステナイト粒を微細化し間接的にマルテンサイトを微細化する技術であることから、靭性向上の程度も十分に満足できるものではなく、更なる高靭性化技術の開発が望まれている。
【0005】
また特開平6−116637号公報には、成分組成としてはNiを多量に(8〜11%)含有させると共に、昇温中にせん断型逆変態オーステナイト相を生成させ、転位密度の高い未変態オーステナイトから焼入れることでマルテンサイト鋼の靭性を向上させる方法が開示されている。しかし、Niは積極的に利用するには高価な元素であるという問題点がある。
【0006】
更に、特開平11−229075号公報では、成分組成を限定し、昇温速度及び冷却速度を制限することで高強度鋼の耐遅れ破壊性を高める方法が開示されている。但し、この技術は利用範囲が厚板に限定されていると共に、到達強度が引張強さで最大1551MPaであり、靭性を示す破断応力も945MPaと低く、自動車に使用される高強度鋼としては強度及び靭性が不足している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、自動車用のばねやボルト等として用いても十分な強度を有すると共に、靭性にも優れたマルテンサイト鋼及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明の高強度・高靭性マルテンサイト鋼とは、0.1質量%以上のCを含み、金属組織の80%以上がマルテンサイトであるマルテンサイト鋼であって、旧オーステナイト結晶粒度番号の平均値が7以上で、且つ最大頻度を有する粒度番号から3.0以上異なった粒度番号の旧オーステナイト粒が占める面積率が10%以下であることを要旨とするものである。上記マルテンサイト鋼は、V≦0.2質量%,Nb≦0.2質量%,Ti≦0.2質量%及びHf≦0.2質量%よりなる群から選択される1種以上を含有することが望ましく、またCrを1.0質量%以下及び/又はMoを1.0質量%以下の範囲で含有することが好ましい。更に、水素拡散係数Dは1.0×10-5cm2/s以下であることが推奨される。
【0009】
この様な高強度・高靭性マルテンサイト鋼を製造するにあたっては、500℃以下の温度で少なくとも真ひずみ0.20以上の冷間加工を施す工程、加熱速度50℃/秒以上で、Ac3点+150℃以上1200℃未満に加熱する工程、加熱開始から冷却開始までの総加熱時間(例えば、高周波加熱などにより積極的に加熱を行っている時間)を20秒間以上40秒間未満にし、所定の加熱温度で保持した後、少なくとも臨界冷却速度の1.5倍以上の冷却速度で冷却する焼入れ工程を有する方法を採用することが望ましく、前記焼入れ工程における冷却速度は臨界冷却速度の2.0倍以上とすることが好ましい。
【0010】
本発明に係る高強度・高靭性マルテンサイト鋼は、高強度ばねや高強度ボルトとして好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、自動車用のばね用鋼及びボルト用鋼として十分な強度を有すると共に、靭性にも優れたマルテンサイト鋼及びその製造方法が提供できることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
旧オーステナイト結晶の平均粒度は強度−靭性バランスに大きく影響を及ぼすものであり、平均結晶粒度が大きいほど、すなわち平均結晶粒径が微細であるほど強度一靭性バランスが向上することが知られている。但し、これまで旧オーステナイト結晶粒度が靭性に及ぼす影響は、平均結晶粒度により議論されることが多く、この平均結晶粒度とは、混粒組織や整粒組織に関わらない全体の平均値であった。尚、JIS G 0551には、混粒組織の定義として、「1視野内において、最大ひん度を有する粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号の粒が偏在し、これらの粒が約20%以上の面積を占める状態にあるもの、又は視野間において3以上異なった粒度番号の視野が存在するもの」と規定されている。この混粒組織に関して言えば、隣り合う結晶粒の粒度番号の差が大きい場合には、その界面に極度な応力集中が生じ易く、靭性を劣化させる。特に腐食疲労や遅れ破壊等の粒界割れが問題となる場合には、混粒組織が顕著になるに従って特性が著しく劣化する。即ち、強度−靭性バランスを更に向上させるには、平均結晶粒径を微細化するだけではなく、混粒組織を制御することが非常に重要であるとの知見を得た。具体的には、旧オーステナイト結晶粒度番号の平均値が7以上で、且つ最大頻度を有する粒度番号から3.0以上異なった粒度番号の旧オーステナイト粒が占める面積が10%以下とすることにより、応力集中部の分散および緩和が達成され、これまでにない強度−靭性バランスが得られるのである。
【0013】
尚、平均の旧オーステナイト結晶粒度が強度−靭性バランスに大きく影響を及ぼすことは前述の通りであり、平均結晶粒度が大きいほど、すなわち平均結晶粒径が微細であるほど強度−靭性バランスが向上するので、平均の旧オーステナイト結晶粒度の下限を7とした。また現在の工業技術では、平均の旧オーステナイト平均結晶粒度が12を超える鋼材の製造は設備能力上、困難である。
【0014】
以下に、本発明の他の限定理由について述べる。
【0015】
C≧0.1%
マルテンサイト鋼の強度を確保するためには0.1%以上のCが必要である。鋼材はC含有率の増加に伴い高強度が得られるが、C含有量が多くなるに従い焼割れが生じ易くなるので、工業的には1.2%以下が望ましい。
【0016】
金属組織の80%以上:マルテンサイト
焼入れた場合、焼入れままの組織はマルテンサイト,ベイナイトまたは残留オーステナイト等を含むが、マルテンサイト以外の組織の比率が大きくなれば強度は低下する。高強度ばねや高強度ボルト用鋼として適用する場合、金属組織の少なくとも80%以上がマルテンサイトであれば、要求される強度(例えば、ボルト用鋼では1200N/mm2級の強度)が確保できる。
【0017】
V≦0.2質量%,Nb≦0.2質量%,Ti≦0.2質量%及びHf≦0.2質量%よりなる群から選択される1種以上
V,Nb,Ti及びHfは任意の添加元素であり、微量の添加で析出物を形成して析出強化をもたらす。析出物は水素トラップサイトとしても作用し、さらにDを低下させ、耐遅れ破壊特性を向上させる効果がある。但し、過度に添加すると析出物数が増加し、靭性を損なうため、夫々の元素の上限を0.2質量%とした。
【0018】
Cr:1.0質量%以下及び/又はMo:1.0質量%以下
Cr及び/又はMoも任意の添加元素であり、添加により焼入れ性を向上させ、また炭化物や窒化物を形成し析出強化をもたらす。但し、過度の添加は靭性を低下させるため、夫々上限を1.0質量%とした。
【0019】
なお、その他の元素として、Si,Mn,Ni,Cu,P,S,Al,N,Bなどの元素を要求特性に合わせて適量添加しても何ら差し支えない。例えば、ばね用鋼では耐へたり性の向上を目的としてSiを1質量%以上添加することが一般的である。
【0020】
水素拡散係数D:1.0×10-5cm2/s以下
引張強度1400N/mm2を超える高強度鋼を実用化する上では、粒度の均整化に加えて、水素拡散係数を制御することが重要である。鋼中での水素の拡散が遅いほど、耐応力腐食割れ及び耐遅れ破壊特性に優れる。水素の拡散は、水素トラップサイトの導入により遅延化され、有効なトラップサイトとして炭化物,転位,粒界などが挙げられる。V,Nbなどの添加元素を用いずに水素をトラップするには、転位密度を高めることが非常に有効である。後記臨界冷却速度を調整することにより従来以上に転位密度を高めた組織を得ることができ、その結果Dが1.0×10-5cm2/s以下となって著しい靭性向上効果を得ることができる。
【0021】
次に、製造方法の限定理由について詳細に説明する。
【0022】
500℃以下で少なくとも真ひずみ0.20以上
オーステナイト化処理前、500℃以下で少なくとも真ひずみを0.20以上、望ましくは0.35以上の加工を施す。従来は、線材であれば線径を整える(整寸)目的の低加工度伸線が普通で(わずかに特開平3−6981号公報に「引き抜きしたのち、10secを超えない時間内に所定の焼入れ温度900〜1050℃に急速加熱の上、…」との開示があるのみであり)、積極的に加工を施すものではない。本発明では、オーステナイト化処理前に積極的に強加工を施し、オーステナイト化処理時のオーステナイトの核生成サイトとなる欠陥を組織中に大量に導入しておくことで、オーステナイトの核生成が均一で微細に分散化されるようにするものである。即ち、結晶核が均一微細分散して生成することで、最終的な結晶粒度のばらつき低減を促進する効果がある。加工温度が500℃を超えると回復により組織中の欠陥密度が低下し、オーステナイト化時の核生成サイトが減少して、均一な核生成が得られなくなるため、加工温度の上限は500℃とした。なお、加工方法は圧延,伸線,その他の方法でも構わない。
【0023】
少なくともAc3点+150℃以上、1200℃未満に昇温速度50℃/sec以上で加熱
オーステナイト化時、オーステナイトの核生成を均一微細分散させることを目的として加工により導入した高密度の欠陥を加熱温度まで維持するために、昇温速度は50℃/sec以上であることが必要である。昇温速度が50℃/sec未満では、昇温中に回復が進行し、加熱温度に達する前に欠陥密度が低下して、オーステナイト化時に均一な核生成が得られない。この様に、加熱温度まで高欠陥密度を維持するという意味で、昇温速度は大きい方がよく、100℃/sec以上であれば望ましい。
【0024】
鋼材全体にわたり完全にオーステナイト化させる上で、加熱温度は少なくともAc3点+150℃以上(望ましくはAc3点+200℃以上)であることが必要である。またオーステナイト化時の核生成では、高い加熱温度まで急速に昇温するほど核生成速度が大きくなる。オーステナイト粒径の均整化には、核生成速度をより大きくし、かつ核生成を分散化させることが望ましく、加熱温度を高め急速昇温する方がよい。しかし、過熱すると生成したオーステナイト粒の粗大化が進み、最終的にオーステナイト粒度番号が7未満となるような粗大化が生じ、その結果靭性が低下する。従って、加熱温度の上限は1200℃未満とすることが望ましい。なお、本発明の加熱温度の規定は、オーステナイト単相温度にすることが骨子であり、0.8%以上の過共析組成では、Ac3に変わってAcm温度をもって規定することが望ましく、加熱温度をAcm点+150℃以上、望ましくはAcm点+200℃以上とすればよい。
【0025】
総加熱時間:20秒間以上,40秒間未満
オーステナイト平均粒径が微細なほど靭性は向上するため、オーステナイト平均粒径を粗大化させないように、総加熱時間は、鋼材全体にわたりオーステナイト化が完了する必要最小限にすることが一般的である。但し、鋼材全体にわたりオーステナイト化が完了する程度の総加熱時間では、組織内部の加熱時間にばらつきがあり、整粒化されたオーステナイト結晶粒が得られない。オーステナイト結晶粒度の最頻値から3.0以上異なる結晶粒度を有するオーステナイト結晶粒の面積率を10%以下にするには、総加熱時間を20秒間以上とすることが必要であり、それによりオーステナイト結晶粒度が均整化される。また、40秒間以上になると結晶粒が成長し、平均のオーステナイト結晶粒度番号が7未満となり、靭性が低下するため、保持時間の上限は40sec未満に設定した。
【0026】
臨界冷却速度CRcriの1.5倍以上の冷却速度で冷却
冷却は通常の焼入れと同様に、臨界冷却速度CRcri以上で急冷し、マルテンサイト変態を起こさせればよいが、引張強度1200N/mm2級の強度レベルにおいて期待される靭性を確保するためには、臨界冷却速度CRcriの1.5倍以上の冷却速度で冷却することが必要である。更に、引張強度1400N/mm2級の強度レベルまで高強度化された鋼材において、期待される靭性を確保するためには、水素拡散係数Dを1.0×10-5cm2/s以下にする必要がある。Dを1.0×10-5cm2/s以下にするためには、マルテンサイトの転位密度を確保することが必要であるが、冷却速度がCRcriの2.0倍未満の場合、冷却中に自己焼戻しが生じ、転位密度が減少して、焼戻しで析出する炭化物が微細分散化されず、Dが1.0×10-5cm2/sより大きくなる。冷却速度をCRcriの2.0倍以上にすれば、高転位密度が確保され、Dを1.0×10-5cm2/s以下に制御でき、引張強度1400N/mm2級の高強度鋼においても期待される靭性が得られる。より優れた効果を発揮させるにはCRcriの3.0倍以上が望ましい。ただし、焼割れ防止を考慮すると、CRcriの4.0倍未満が望ましい。
【0027】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の主旨に基づいて設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲内に含まれるものである。
【実施例】
【0028】
表1に鋼材aとして示す組成を有する鋼材を実験的に溶製し、形状加工により、直径18mmの棒材を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、この棒材を室温で伸線して、高周波加熱炉を用いて表2に示す種々の条件で焼入れ処理を行った。
【0031】
【表2】

【0032】
焼入れ処理時、試料表面に熱電対を溶接して表面温度を測定し、測定温度が設定の加熱温度まで昇温されたら、昇温開始からの総加熱時間が15〜45secとなるように加熱温度で保持した後、焼入れを施した。昇温速度および冷却速度は、試料に設置した熱電対による試料表面温度測定結果から算出した。まず、冷却速度を変化させることで臨界冷却速度を求めた後、所望の冷却速度に制御して焼入れを行った。焼入れ後、試料を調整し、エッチング溶液として、ピクラールを用いて、マルテンサイト率および旧オーステナイト粒度の測定を行った。マルテンサイト率は、焼入れまま試料の横断面、D/4位置(厚み方向に表面から1/4の深さの位置)を光学顕微鏡を用いて倍率400倍で4視野観察し、画像解析にて平均値を評価した。旧オーステナイト粒度測定は、焼入れまま試料の横断面のD/4位置を光学顕微鏡により倍率200倍もしくは400倍で観察し、光学顕微鏡写真を用い、100個以上の旧オーステナイト結晶粒面積測定を行った。この時、1視野内で測定する旧オーステナイト結晶粒数は40個以上とし、1視野内の旧オーステナイト結晶粒数が40個に満たない視野を持つ鋼材のみ、倍率を200倍にして観察し測定した。また、測定する結晶粒に隣接する結晶粒のうち必ず一つが測定結晶粒であるようにした。その後、旧オーステナイト結晶粒面積の測定結果を下記の数式(1)を用いて、粒度番号に換算した。平均結晶粒度は測定した全旧オーステナイト結晶粒度の平均値である。また、粒度番号の小数点第二位を四捨五入することで粒度番号を整理し、最大頻度を示す結晶粒度番号を求めた。さらに、最大頻度を示す結晶粒度番号から3.0以上異なる粒度番号を持つ結晶粒について、その面積を合計し、全面積に対する比率を計算した。
【0033】
【数1】

【0034】
焼入れ試料に鉛浴を用いて焼戻し処理を施し、引張強度1100〜1800N/mm2程度に強度調整した後、強度評価特性値として、JIS Z 2241に従い、試験片としてJIS Z 2201における2号試験片を用いて室温引張試験を行い、引張強度を測定した。
【0035】
また、靭性評価特性値として、4点曲げ−陰極チャージ試験における破断寿命を採用した。4点曲げ−陰極チャージ試験の詳細について以下に述べる。先ず、焼戻し後の試料から、放電加工により長さ60mm,幅15mm,厚さ1.5mmの板状試験片を切出し、図1に示す治具にて曲げ応力1400MPaで4点にて拘束した。この試験片を装着した治具を0.5mo1/リットルの硫酸と、0.01mo1/リットルのKSCNの混合液に浸し、陽極に白金電極を用い、陰極電位−700mVを付加することで、試験片に電気化学的に水素を供給した。電位付与後、曲げ応力を与えた試験片が破断するまでの時間を測定した。寿命1000secを超えるものが、実用に適する靭性を有することから、本実験にて寿命1000secを合否判定基準とした。
【0036】
また、焼戻し後試料を用いて水素拡散係数を測定した。水素拡散係数は、「遅れ破壊解明の新展開」[(社)日本鉄鋼協会ほか]に記載されている測定方法を用いて求めた。具体的な測定方法を以下に述べる。まず、試料を0.5mo1/リットルの硫酸と、0.01mo1/リットルのKSCNの混合液中で、電流密度20mA/cm2として陰極チャージして試料に水素を吸収させた。その後、赤外線イメージ炉を組み付けた大気圧イオン化質量分析計(APIMS)を用いて熱分析を行った。赤外線炉を12℃/secで連続昇温し、温度上昇とともに放出される水素ガス量を測定した。低温域で測定される水素ガス放出曲線から、測定結果をフィックの第二法則に対してフィッティングすることによって、鋼中における水素拡散係数を求めた。以上の結果を表3及び図2に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
また、表1に示した種々の組成の鋼材を真ひずみ(ε):0.21,昇温速度:200℃/sec,加熱温度:1070℃,総加熱時間:22sec,冷却速度比(CR/CRcri):2.5の条件で焼入れ処理した。その結果が表4及び図3である。
【0039】
【表4】

【0040】
表4の鋼材a〜g及び図3で示す本発明例は、組成及び製造方法が本発明の条件を満足するものである。組成が本発明規定範囲外の比較例(鋼材h〜n)と比較して、焼入れ焼戻し後の強度−靭性バランスが非常に向上していることが明らかである。
【0041】
本発明に係る方法により製造されたNo.1〜10では、鉛浴による焼戻し後、広い強度レベルにおいて優れた靭性を有している。製造方法が本発明の規定範囲外であるNo.11〜20では、平均結晶粒度N1が7.0未満であったり、最大頻度を示す結晶粒度N2から3.0番以上異なる結晶粒度を有する旧オーステナイト粒の面積率が10%を超えており、靭性の劣化が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】陰極チャージ寿命の測定方法を示す説明図である。
【図2】表3の各種マルテンサイト鋼の引張強度と陰極チャージ寿命の関係を示すグラフである。
【図3】表4の各種マルテンサイト鋼の引張強度と陰極チャージ寿命の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 冶具
2 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1質量%以上のCを含み、金属組織の80%以上がマルテンサイトであるマルテンサイト鋼であって、旧オーステナイト結晶粒度番号の平均値が7以上で、且つ最大頻度を有する粒度番号から3.0以上異なった粒度番号の旧オーステナイト粒が占める面積率が10%以下であることを特徴とする高強度・高靭性マルテンサイト鋼。
【請求項2】
V≦0.2質量%,Nb≦0.2質量%,Ti≦0.2質量%及びHf≦0.2質量%よりなる群から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の高強度・高靭性マルテンサイト鋼。
【請求項3】
Crを1.0質量%以下及び/又はMoを1.0質量%以下の範囲で含有する請求項1または2に記載の高強度・高靭性マルテンサイト鋼。
【請求項4】
水素拡散係数Dが1.0×10-5cm2/s以下である請求項1〜3のいずれかに記載の高強度・高靭性マルテンサイト鋼。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の高強度・高靭性マルテンサイト鋼を製造する方法であって、500℃以下の温度で少なくとも真ひずみ0.20以上の冷間加工を施す工程、昇温速度50℃/秒以上で、Ac3点+150℃以上1200℃未満に加熱する工程、加熱開始から冷却開始までの総加熱時間を20秒間以上40秒間未満にし、加熱温度で保持した後、少なくとも臨界冷却速度の1.5倍以上の冷却速度で冷却する焼入れ工程を有することを特徴とする高強度・高靭性マルテンサイト鋼の製造方法。
【請求項6】
前記焼入れ工程における冷却速度が臨界冷却速度の2.0倍以上である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の高強度・高靭性マルテンサイト鋼からなることを特徴とする高強度ばね。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の高強度・高靭性マルテンサイト鋼からなることを特徴とする高強度ボルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−186795(P2007−186795A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29586(P2007−29586)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【分割の表示】特願2000−98867(P2000−98867)の分割
【原出願日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】