説明

高強度高加工性缶用鋼板およびその製造方法

【課題】加工性に優れた高強度缶用鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.020%以上0.040%未満、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超え0.0170%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる。N total−(N as AlN)(N totalとは、Nの総量であり、前記N as AlNとは、AlNとして存在するN量である)が0.0120%以上0.0160%以下であり、圧延方向の全伸びが5%以上10%未満であり、圧延方向断面において、結晶粒の展伸度が2.00以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れた高強度缶用鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料缶や食缶に用いられる鋼板のうち、蓋や底、3ピース缶の胴、絞り缶などには、DR(Double Reduced)材と呼ばれる鋼板が用いられる場合がある。DR材とは、焼鈍の後に再度冷間圧延を行う鋼板であり、圧延率の小さい調質圧延のみを行うSR(Single Reduced)材に比べて板厚を薄くすることが容易である。そして、薄い鋼板を用いることにより製缶コストを低減することが可能となる。
【0003】
DR材を製造するDR法は焼鈍後に再度冷間圧延を施すことで加工硬化が生じるため、薄く硬い鋼板を製造することができる。しかし、その反面、DR法により製造されたDR材は延性に乏しいため、SR材に比べて加工性が劣る。
【0004】
3ピースで構成される食缶や飲料缶の胴材は、筒状に成形された後、蓋や底を巻き締めるために両端にフランジ加工が施される。フランジ加工は缶周方向への伸び変形が主体となるため、缶胴端部には良好な延性が要求される。
【0005】
また、食缶、飲料缶のいずれにおいても、蓋にスコア(溝)とタブ(引き金)を有し、器具を用いずに開缶が可能なEOE(Easy Open End)が用いられることがある。EOEでは張出し加工によりリベットが成形され、かしめることによりタブが取り付けられる。そのため、EOE用の鋼板にも良好な加工性が要求される。
【0006】
一方で、製缶素材としての鋼板は板厚に応じた強度(引張強度)が必要とされ、DR材の場合は薄くすることによる経済効果を確保するために、SR材以上の引張強度が必要とされる。
【0007】
しかし、従来用いられてきたDR材では、上記のような加工性(延性)と強度を両立することは困難であり、そのため、食缶や飲料缶の胴材およびEOEには主にSR材が用いられてきた。しかし、現在、コスト低減の観点から板厚を薄くするために、食缶や飲料缶の胴材およびEOEに対してDR材の適用を拡大する要求が高まっている。
【0008】
上記を受けて、特許文献1には、0.0005〜0.0150%のCを含み、熱間圧延工程での各温度範囲における圧延率を規定した、強度と加工性に優れる缶用鋼板の製造方法が開示されている。
【0009】
特許文献2には、B/N:0.3〜1.5なる関係を満足する量のB、Nを含み、r値が0.8以下である、加工性に優れる異型缶用鋼板が開示されている。
【0010】
特許文献3には、0.0002〜0.01%のBを含み、r値が1.0以下である、成形性に優れる変形3ピース缶用鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10-88233号公報
【特許文献2】特開2008-163390号公報
【特許文献3】特開平10-245655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来技術は、いずれも問題点を抱えている。
【0013】
特許文献1に記載の製造方法では、C量が少なすぎるため、二次冷間圧延率を調整しても強度と加工性を高いレベルで両立することはできない。
【0014】
特許文献2に記載の鋼はN、Bとも多量に含むため、熱延巻取り後にBNが多量に析出し、製缶時のフランジ加工性に悪影響を及ぼす。
【0015】
特許文献3に記載の鋼は、C、Nともに少量であるため、加工性は良好であるが、二次冷間圧延を施しても強度が不足する。
【0016】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、3ピース缶胴やEOEなどの材料として好適である加工性に優れた高強度缶用鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0018】
加工性と引張強度を両立するためには、多量のNを添加することで強度を確保し、二次冷間圧延率を適切な範囲に制御することで加工性を確保することが有効である。また、延性の異方性を抑えることにより、EOEの加工性が向上することも見出した。
【0019】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.020%以上0.040%未満、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超え0.0170%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、N total−(N as AlN)が0.0120%以上0.0160%以下であり、圧延方向の全伸びが5%以上10%未満であり、圧延方向断面において、結晶粒の展伸度が2.00以下であることを特徴とする高強度高加工性缶用鋼板。
ただし、前記N totalとは、Nの総量であり、前記N as AlNとは、AlNとして存在するN量である。
[2]質量%で、C:0.020%以上0.040%未満、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超え0.0170%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼を連続鋳造によりスラブとし、熱間圧延を行った後、630℃未満の温度で巻き取り、次いで、91.5%以上の圧延率で一次冷間圧延を行い、引き続き、焼鈍を行い、次いで、10〜20%の圧延率で二次冷間圧延を行うことを特徴とする高強度高加工性缶用鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。また、高強度缶用鋼板とは、圧延方向の引張強度が520MPa以上の缶用鋼板である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、圧延方向の引張強度520MPa以上と高強度で、かつ圧延方向の全伸びが5%以上10%未満であり、圧延方向断面において結晶粒の展伸度が2.00以下である加工性に優れた缶用鋼板を得ることができる。その結果、板厚の薄いDR材による製缶が可能となり、缶用鋼板の大幅な薄肉化が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の缶用鋼板は、圧延方向の引張強度が520MPa以上であり、圧延方向の全伸びが5%以上10%未満であり、圧延方向断面において結晶粒の展伸度が2.00以下である加工性に優れた高強度缶用鋼板である。そして、このような鋼板は、多量のNを含有した鋼に対して、二次冷間圧延率を適切な範囲とすることにより製造される。具体的には、熱間圧延を行った後、630℃未満の温度で巻き取り、次いで、91.5%以上の圧延率で一次冷間圧延を行い、引き続き、焼鈍を行い、次いで、10〜20%の圧延率で二次冷間圧延を行うことで製造可能となる。これらは、本発明の最も重要な要件である。
【0022】
本発明の缶用鋼板の成分組成について説明する。
C: 0.020%以上0.040%未満
C量が0.040%以上となると、3ピース缶胴溶接部の硬化が過大となるため、フランジ加工時に溶接部近傍の応力集中を招き、フランジ割れにつながる。このため、C量は0.040%未満とする。一方、C量が0.020%未満となると強度確保に必要な固溶C量が得られなくなり、強度不足となる。従って、C量は0.020%以上0.040%未満とする。好ましくは0.025%超え0.040%未満である。
【0023】
Si: 0.003%以上0.100%以下
Si量が0.100%を超えると、表面処理性の低下、耐食性の劣化等の問題を引き起こすので、上限は0.100%とする。一方、0.003%未満とするには精錬コストが過大となるため、下限は0.003%とする。
【0024】
Mn: 0.10%以上0.60%以下
Mnは結晶粒を微細化する作用を有し、望ましい材質を確保する上で必要な元素である。この効果を発揮するためには少なくとも0.10%以上の添加が必要である。一方、Mnを多量に添加し過ぎると耐食性が劣化するので、上限は0.60%とする。
【0025】
P:0.001%以上0.100%以下
Pは、鋼を硬質化させ、加工性を劣化させると同時に、耐食性をも劣化させる元素である。そのため、上限は0.100%とする。一方、Pを0.001%未満とするには脱Pコストが過大となる。よって、下限は0.001%とする。
【0026】
S: 0.001%以上0.020%以下
Sは、鋼中で介在物として存在し、延性の低下、耐食性の劣化をもたらす元素である。そのため、上限は0.020%とする。一方、Sを0.001%未満とするには脱Sコストが過大となる。よって、下限は0.001%とする。
【0027】
Al: 0.005%以上0.100%以下
Alは、製鋼時の脱酸材として必要な元素である。添加量が少ないと、脱酸が不十分となり、介在物が増加し、加工性が劣化する。一方、含有量が0.100%を超えると、アルミナクラスターなどに起因する表面欠陥の発生頻度が増加する。よって、Al量は0.005%以上0.100%以下とする。
【0028】
N:0.0130%超え0.0170%以下
本発明の鋼板はNを多量に含むことにより強度を確保する。Nが0.0130%以下であると後述するN total−(N as AlN)の十分な量が得られず、強度が不足する。一方、Nが0.0170%を超えると延性が低下し、十分な加工性が発揮されない。したがって、N量は0.0130%超え0.0170%以下とする。
【0029】
N total−(N as AlN):0.0120%以上0.0160%以下
強度に寄与するNは主に固溶状態のNであり、本発明の鋼板において強度を確保するためにはある程度の固溶N量が必要となる。本発明の鋼板組成では、鋼中でNが形成する化合物として主にAlNが考えられ、Nの総量(N total)からAlNとして存在するN量(N as AlN)を差し引いた値N total−(N as AlN)を固溶N量とみなすことができる。この量が0.0120%未満であると強度不足となる。一方、上記N量範囲(0.0130%超え0.0170%以下)の下でN total−(N as AlN)量が多くなれば、AlN量が少なくなる。鋼中に析出するAlNは溶接熱影響部(HAZ)の結晶粒成長を抑制し、軟化を防ぐ作用がある。N total−(N as AlN)量が0.0160%を超えるとHAZ軟化防止に十分な量のAlN量が得られなくなる。したがって、N total−(N as AlN)量は0.0120%以上0.0160%以下とする。なお、AlNとして存在するN量は、例えば、10%のBr−メタノール溶液を用いてAlNの溶解抽出を行い、吸光光度法によりAlNとして存在するNの定量分析を行うことで確認できる。
残部はFeおよび不可避的不純物とするが、公知の溶接缶用鋼板中に一般的に含有される成分元素を含有していても良い。例えば、Cr:0.10%以下、Cu:0.20%以下、Ni:0.15%以下、Mo:0.05%以下、Ti:0.3%以下、Nb:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ca:0.01%以下等の成分元素を目的に応じて含有させることができる。
【0030】
次に、本発明の缶用鋼板の全伸びについて説明する。
圧延方向の全伸びは5%以上10%未満とする。圧延方向の全伸びが5%未満であるとフランジ加工や張出し加工の際に割れを生じる。また、DR材において圧延方向の全伸びが10%以上であると、圧延直角方向の伸びとの差が大きくなり、張出し加工において不均一な歪みを生じて外観不良を引き起こす。なお、圧延方向の全伸びは「JIS Z 2241」に示される金属材料引張試験方法により測定することができる。
【0031】
次に、本発明の缶用鋼板の結晶粒について説明する。
圧延方向断面における結晶粒の展伸度は2.00以下とする。展伸度とは、JIS G 0202に示されるように、加工によってフェライト結晶粒が展伸された度合いを表す値である。圧延方向断面における結晶粒の展伸度が2.00を超えると、延性の異方性が大きくなり、EOEなどの成形時にひずみを生じ、割れにつながる。二次冷間圧延の圧延率とともに展伸度は増加するが、二次冷間圧延率を20%以下とした時に、展伸度を2.00以下に抑えるためには、AlNとして存在するNの含有量が0.0050%以下にする必要がある。すなわち、AlNは粒界移動に対するピン止め粒子として働くため、Nの含有量にして0.0050%超えのAlNが存在すると一次冷間圧延によって扁平した結晶粒の形状が焼鈍後も残存し、展伸度が大きくなる。AlNは連続焼鈍工程においてはほとんど析出が起こらないため、熱間圧延後の巻取り時に析出する量がほぼ最終製品まで持ちこされると考えられる。
【0032】
なお、圧延方向断面における結晶粒の展伸度は文献「JIS G 0551」に示される結晶粒度の顕微鏡試験方法により測定することができる。なお、本発明の鋼組成・製造方法によれば、形成するセメンタイト・パーライトはフェライト粒に比べて非常に小さいので、結晶粒展伸度の測定はフェライト結晶粒のみを対象として行う。
【0033】
次に、本発明の高強度高加工性缶用鋼板の製造方法について説明する。
本発明の缶用鋼板は、上記組成からなる鋼を連続鋳造によりスラブとし、熱間圧延を行った後、630℃未満の温度で巻取り、次いで、91.5%以上の圧延率で一次冷間圧延を行い、引き続き、焼鈍を行い、次いで、10〜20%の圧延率で二次冷間圧延を行うことで製造される。
【0034】
転炉等を用いた通常公知の溶製方法により溶製することができる。また、連続鋳造法等の通常用いられる鋳造方法で圧延素材とする。この時、熱間圧延前のスラブ再加熱温度は特に限定するものではないが、1200〜1300℃が好ましい。スラブ再加熱温度が高すぎると製品表面の欠陥や、エネルギーコストが上昇するなどの問題が発生する場合がある。一方、低すぎると、最終仕上圧延温度の確保が難しくなる場合がある。
【0035】
熱間圧延により、熱延板とする。圧延開始時には、圧延素材が、1100℃以上になるのが好ましい。また、熱間仕上圧延温度は、熱延鋼板の結晶粒粗大化防止や析出物分布の均一性の観点から、Ar3変態点以上が好ましい。
【0036】
巻取り温度:630℃未満
熱間圧延後の巻取り温度は630℃未満とすることが好ましい。巻取り温度が630℃以上であると、巻取り後に析出するAlN量が過大となり、強度を確保するために十分な量のN total−(N as AlN)量が得られなくなる。
【0037】
次に、必要に応じて、酸洗を行うことができる。酸洗は、表層スケールが除去できればよく、特に条件は規定しない。
【0038】
一次冷間圧延率:91.5%以上
前述したように、SR法に比べてDR法は板厚を薄くすることが容易であり、強度に優れた鋼板を製造することが可能であるため、本発明においてもDR法を採用することが好ましい。一次冷間圧延率が小さい場合、極薄の鋼板を製造するためには熱間圧延の仕上げ厚を薄くするか、二次冷間圧延率を大きくすることが必要となる。熱間圧延の仕上げ厚が薄くなると所定の仕上げ圧延温度を確保することが困難となり、二次冷間圧延率を大きくすることは後述の理由から好ましくない。一次冷間圧延率が91.5%以上であれば熱間圧延の仕上げ厚を薄くしたり、二次冷間圧延率を大きくする必要は無く、極薄の鋼板を製造することが可能である。したがって、一次冷間圧延率は91.5%以上とするのが好ましい。さらに好ましくは、92%以上95%以下である。
【0039】
一次冷間圧延後の焼鈍は、バッチ焼鈍あるいは連続焼鈍のいずれでも行うことができる。均熱温度は再結晶温度以上800℃以下とすることが好ましい。
【0040】
二次冷間圧延率:10〜20%
二次冷間圧延を行う場合、二次冷間圧延率が20%を超えると、二次冷間圧延による加工硬化が過大となり、5%以上の全伸び(破断伸び)が得られなくなる。また、二次冷間圧延率が10%未満であるとDR法を採用する利点が得られない。また、全伸びが10%以上となり、張出し加工に不均一が生じる。したがって、二次冷間圧延率は10〜20%とするのが好ましい。さらに好ましくは10〜15%である。
二次冷間圧延以降は、めっき等の工程を常法通り行い、缶用鋼板として仕上げることができる。
【実施例】
【0041】
表1に示す成分組成を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を実機転炉で溶製し、連続鋳造法により鋼スラブを得た。得られた鋼スラブを1250℃で再加熱した後、熱間圧延を行って表2に示す厚さまで圧延し、表2に示す巻取り温度で巻取った。熱間圧延の仕上げ圧延温度は880℃とし、熱間圧延後には酸洗を施している。次いで、表2に示す圧延率で一次冷間圧延を行い、均熱温度700℃にて連続焼鈍し、引き続き、表2に示す圧延率で二次冷間圧延を施した。
以上により得られた鋼板にSnめっきを両面に連続的に施して、片面Sn付着量2.8g/m2のぶりきを得た。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
以上により得られためっき鋼板(ぶりき)に対して、210℃、15分の塗装焼付け相当の熱処理を行った後、引張試験を行った。引張試験は、JIS5号サイズの引張試験片を用いて、JIS Z 2241に準じて、圧延方向の引張強度(破断強度)および圧延方向の全伸び(破断伸び)を測定した。
【0045】
また、塗装焼付け相当の熱処理を施した鋼板を用いてシーム溶接によって外径52.8mmの缶胴成形を行い、端部を外径50.4mmまでネックイン加工した後に外径55.4mmまでフランジ加工を行ってフランジ割れ発生の有無を評価した。缶胴成形は190g飲料缶サイズとし、鋼板圧延方向に沿って溶接を行った。ネックイン加工はダイネック方式により、フランジ加工はスピンフランジ方式により行った。フランジ加工部で割れが発生した場合を×、割れが発生しない場合を○と評価した。
【0046】
また、同様に塗装焼付け相当の熱処理を施した鋼板を用いてEOEタブ取り付け用リベットを成形し、リベット加工性を評価した。リベット成形は3段階のプレス加工により行い、張出し加工の後に縮径(絞り)加工を行って直径4.0mm、高さ2.5mmの円柱形リベットを成形した。リベット表面で皺や割れが発生した場合を×、皺や割れが発生しない場合を○と評価した。
【0047】
また、めっき鋼板のサンプルを採取し、圧延方向断面における結晶粒の展伸度を測定した。圧延方向断面における結晶粒の展伸度は、鋼板の垂直断面を研磨しナイタルエッチングにより粒界を現出させた上で、文献「JIS G 0551」に記載の直線試験線による切断法により測定した。
【0048】
以上により得られた結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より、本発明例であるNo.1〜6は強度に優れており、極薄の缶用鋼板として必要な引張強度520MPa以上を達成している。また、加工性にも優れており、缶胴のフランジ加工、EOEのリベット加工ともに問題なく成形が可能である。
【0051】
一方、比較例のNo.7はC含有量が少なすぎるため、引張強度が不足している。
比較例のNo.8はC含有量が多すぎるため、溶接部の硬化が過大となり、フランジ割れが発生している。
比較例のNo.9はN含有量が少なすぎるため、N total−(N as AlN)量が少なくなり、引張強度が不足している。
比較例のNo.10は、N含有量が多すぎるため、二次冷間圧延により延性が損なわれ、破断伸びが不足しており、また加工性も劣っている。
比較例のNo.11は、巻取り温度が高すぎるため、N total−(N as AlN)量が少なくなり、引張強度が不足している。また、展伸度が大きいため、リベット加工性が不良である。
比較例のNo.12は二次冷間圧延率が小さすぎるため、圧延方向の全伸びが過大となり、リベット加工性が不良となっている。
比較例のNo.13は、二次冷間圧延率が大きすぎるため、加工硬化が過大となり、破断伸びが不足しており、また加工性も劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の缶用鋼板は、520MPa以上の圧延方向引張強度、5%以上の全伸び(破断伸び)を有し、薄い板厚にて得ることが可能である。そのため、3ピース缶胴等を低コストにて製造するための材料として最適であり、EOEの材料としても好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.020%以上0.040%未満、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超え0.0170%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、
N total−(N as AlN)が0.0120%以上0.0160%以下であり、圧延方向の全伸びが5%以上10%未満であり、圧延方向断面において、結晶粒の展伸度が2.00以下であることを特徴とする高強度高加工性缶用鋼板。
ただし、前記N totalとは、Nの総量であり、前記N as AlNとは、AlNとして存在するN量である。
【請求項2】
質量%で、C:0.020%以上0.040%未満、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超え0.0170%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼を連続鋳造によりスラブとし、熱間圧延を行った後、630℃未満の温度で巻き取り、次いで、91.5%以上の圧延率で一次冷間圧延を行い、引き続き、焼鈍を行い、次いで、10〜20%の圧延率で二次冷間圧延を行うことを特徴とする高強度高加工性缶用鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−72129(P2013−72129A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213635(P2011−213635)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】