高感度ガスセンサ及びその製造方法
【課題】数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有するガスセンサ素子、該材料を製造する方法及び該材料からなるガスセンサ素子等を提供する。
【解決手段】層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料、当該ガスセンサ材料の製造方法、及び化学センサ部材。
【効果】ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、該ガスセンサ材料単独で、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することが可能な化学センサ材料を提供することが出来る。
【解決手段】層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料、当該ガスセンサ材料の製造方法、及び化学センサ部材。
【効果】ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、該ガスセンサ材料単独で、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することが可能な化学センサ材料を提供することが出来る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度ガスセンサ素子及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、特定の有機無機ハイブリッド材料を化学センサ素子として用いたことを特徴とするガスセンサであって、抵抗値の変化によりガスを検知する作用を有し、長期安定性に優れ、100℃以下の温度において、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有する電気伝導性有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料、その製造方法、及び、該方法により作製される有機無機ハイブリッドからなる化学センサ部材に関するものである。
【0002】
本発明は、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化した高機能性有機無機ハイブリッド材料を用いたガスセンサの技術分野において、従来の有機無機ハイブリッド材料では、揮発性有機化合物(VOC)の一種であるアルデヒド系のガスに対して選択的に応答するものの、数十ppbの極低濃度では検知することが難しいという問題があることを踏まえてこれを解決するために開発されたものである。
【背景技術】
【0003】
近年、住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装等の利用で生じるVOCによる汚染が原因とされるシックハウス症候群と呼ばれる健康被害が問題視されており、室内のVOC濃度をモニタリングするための化学センサの開発が期待されている。VOCの成分は多岐に渡っているが、それぞれの成分の許容濃度は殆どが数十ppb前後とされ、厚生労働省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会が平成14年に示した、その濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値とした個別濃度指針値のうち、アルデヒド系のガスは、ホルムアルデヒドが0.08ppm(=80ppb)、アセトアルデヒドが0.03ppm(=30ppb)である。
【0004】
このように、VOCが極低濃度であるにも関わらず健康に影響を及ぼすことから、VOCを常時モニタリングするための化学センサとしては、極低濃度のVOCを特定して検出する感度が求められている。また、濃度検出装置をより小型で低価格なものとするには、ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、化学センサ単独で極低濃度のVOCを検出可能とすることが求められている。
【0005】
従来から利用されているVOCガス濃度の測定法のうち、極低濃度のVOCを検出する方法としては、ガスクロマトグラフィーによる分析が挙げられる。ガスクロマトグラフィーによる分析は、ガスを成分による分離とその精密な濃度の測定が可能である反面、分析機器の性質上、瞬時の測定は不可能であることから、VOC濃度の常時モニタリングが可能なデバイスとしては適さないだけでなく、分析機器自体が高価であるため、各家庭やオフィス等に設置するVOCセンサとして普及させることは難しい。また、水素炎イオン化法や光イオン化検出法に基づいた検出器単独による極低濃度のVOC検出が可能なポータブル分析計が開発されているが、検出器の性質上、ガス選択性を求めることが難しい。
【0006】
有機無機ハイブリッド材料による化学センサは、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化することにより、エレクトロデバイス材料への応用に必要な信号変換機能とガス選択性に必要な分子認識機能を、それぞれ層状無機化合物とその層間の有機化合物に分担させることで、高いガス選択性を有した新しい化学センサ材料への応用に有効である。有機無機ハイブリッド材料による化学センサは、既に、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO3)と層間に挿入した有機化合物によるハイブリッド材料は、その層間の有機化合物が異なれば、種々のガスに対する応答特性も異なることが見出されており(特許文献1、非特許文献1)、該材料の薄膜化技術(特許文献2、非特許文献2)、高感度化技術(特許文献3)、バッファー層を塗布したシリコン基板上への薄膜作製技術(特許文献4)によって、6ppmのアルデヒド系ガスを検知することを可能にしただけでなく、50ppm以下の濃度領域では、アルデヒド系ガスのみに対して選択的に応答させることを達成している。
【0007】
酸化モリブデンと有機化合物による有機無機ハイブリッド材料は、アルデヒド系のガスに対する新規化学センサ材料としての応用が期待されている。しかしながら、上記の有機無機ハイブリッド材料は、数ppm以上の濃度のアルデヒド系ガスに応答するものの、健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度の検知は達成されていない。その解決策としては、ガス濃縮素子による増感作用を行う素子との併用が考えられるが、濃度検出装置を、より小型で低価格なものとするには、化学センサ素子単独で極低濃度のVOCを特定して検出することができる有機無機ハイブリッド材料の開発が急務の課題となっている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−321326公報
【特許文献2】特開2005−179115公報
【特許文献3】特開2005−321327公報
【特許文献4】特願2005−142706号
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol.77,1231(2004)
【非特許文献2】Chem.Mater.,Vol.17,349(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する有機無機ハイブリッド材料による、抵抗値の変化によりガスを検知する化学センサを開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うことで、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知が可能なガスセンサ素子とすることが可能となることを見出し、更に研究を重ねて、本発明に至った。
【0010】
本発明は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する導電性の有機無機ハイブリッド材料による化学センサを製造することを可能とする導電性有機無機ハイブリッド材料の製造方法、及び、その製品、特に、ガスセンサ素子、導電性部材、高感度化学センサ部材をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であり、2)無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在せず、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化されている、ことを特徴とするガスセンサ材料。
(2)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(3)層状構造を持つ無機化合物が、酸化モリブデンを主成分とする化合物である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(4)有機導電性高分子が、ポリアニリンを主成分とする分子である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(5)有機導電性高分子が、ポリアニリン誘導体を主成分とする分子である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(6)ベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を主成分とする、前記(5)に記載のガスセンサ材料。
(7)数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料を製造する方法であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入するプロセスにおいて、不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液を用いて当該無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入し、2)それにより、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製し、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化する、ことを特徴とするガスセンサ材料の製造方法。
(8)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜からなる、前記(7)記載のガスセンサ材料の製造方法。
(9)前記(1)から(6)のいずれかに記載のガスセンサ材料をセンサ素子として含み、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有することを特徴とする化学センサ部材。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料であって、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であること、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在しないこと、抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化されていること、を特徴とするものである。本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜であること、を好ましい実施の態様としている。
【0013】
また、本発明は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料を製造する方法であって、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入するプロセスにおいて、不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液を用いて当該無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入すること、それにより、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製すること、抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化すること、を特徴とするものである。
【0014】
本発明は、例えば、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料による配向膜をガスセンサ材料として使用することで、その抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有するガスセンサ材料とした点、に特徴を有するものである。
【0015】
本発明は、有機高分子と無機化合物を、複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うこと、を特徴とするものである。本発明は、有機無機ハイブリッド材料がアルデヒド系のガスに対して抵抗値が上昇する応答を示すのに対し、その真逆の応答となる抵抗値が減少の応答を示すバルク状の導電性有機高分子がハイブリッド配向膜に混入することを防ぐことで、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知が可能なガスセンサ材料とすることが可能となる、という本発明者らが見出した新規知見に基づいて開発されたものである。
【0016】
本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料は、配向膜等の成型体として用いられる。本発明においては、上記無機化合物を膜に成型することで、導電性有機高分子を無機化合物の層間に挿入するプロセスにおいて、無機化合物が基板から脱落しない程の密着性向上に貢献するだけでなく、膜に成型されることでガスセンサ材料としての利用が実現される。本発明では、上記膜の形態、すなわち、上記成型体の形状及び構造は任意に設定することが出来る。
【0017】
上記層状構造を持つ無機化合物としては、酸化モリブデンを主成分とする化合物が使用されるが、これによって、有機無機ハイブリッド材料に信号変換機能を持たせることが可能となる。また、上記有機導電性高分子としては、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体を主成分とする分子が使用されるが、これによって、有機無機ハイブリッド材料が分子認識機能を有するようになる。本発明では、ポリアニリン、又はポリアニリン誘導体、好適には、ベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を主成分とする有機導電性高分子が使用されるが、これらに制限されるものではない。
【0018】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在しない有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料とすることで、抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有するガスセンサ材料の製造方法を構築することが出来る。本発明は、有機高分子を無機化合物の層間に挿入する複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、ろ過等の分離手段により溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うことにより、有機無機ハイブリッド材料による数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するガスセンサ素子の作製が可能となる。
【0019】
本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料による配向膜の製造方法を構築することが出来る。これにより、基板上に配向膜とした有機無機ハイブリッド材料による数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するガスセンサ材料の作製及び高機能化が可能となる。
【0020】
本発明では、上記の有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ素子を構成要素とする化学センサ部材を構築することが出来、センサ材料を電極と接続することで、抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子として機能させることが可能となる。
【0021】
本発明は、上述の通り、例えば、ナノサイズの層状構造を持つ酸化モリブデンの層間にポリアニリン又はベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を挿入するプロセスにおいて、ろ過等の分離手段で不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液から作製することで、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなる、抵抗値の変化によりガスを検知する化学センサとして、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性と機能を有する導電性有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ素子を製造し、提供するものである。
【0022】
次に、導電性有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ素子によるVOC濃度測定の化学センサのメカニズムについて説明すると、次の通りである。有機無機ハイブリッド材料の導電性は、有機化合物と無機化合物の電荷移動により生じる。この有機無機ハイブリッド材料において、VOCガスが有機無機ハイブリッド材料の層間に侵入し、有機化合物と作用することにより電荷移動のバランスが変化することで、有機無機ハイブリッド材料の電気抵抗が変動する。
【0023】
その一方で、導電性有機高分子単独もVOCガスに曝されると電気抵抗の変動が生じるため、層間に挿入されていない導電性有機高分子が導電性有機無機ハイブリッド材料に混入すると、導電性有機無機ハイブリッド材料の電気抵抗の応答が層間に挿入されていない導電性有機高分子の応答に阻害されることになる。すなわち、導電性有機無機ハイブリッド材料による化学センサの感度向上には、層間に挿入されていない導電性有機高分子の混入がない状態が好ましい。
【0024】
本発明における、化学センサとして、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する化学センサ材料は、好適には、酸化モリブデンとポリアニリンによる導電性有機無機ハイブリッド材料で、かつ、無機化合物の層間に挿入されていないポリアニリンが除かれたもの(以下、この物質を(PANI)xMoO3と記載する。)、又は、酸化モリブデンとポリ(o−アニシジン)による導電性有機無機ハイブリッド材料で、かつ、無機化合物の層間に挿入されていないポリ(o−アニシジン)が除かれたもの(以下、この物質を(PoANIS)xMoO3と記載する。)、である。
【0025】
従来の酸化モリブデンを主成分とした有機無機ハイブリッド材料が、数ppm以上の濃度のアルデヒド系ガスに応答するものの、健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度の検知は達成されていないのに対し、本発明では、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた(PANI)xMoO3と(PoANIS)xMoO3は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する化学センサ材料となるに至った。
【0026】
導電性高分子であるポリアニリンとポリ(o−アニシジン)は、極性のアルデヒド系のガスに曝されることで、その抵抗値は減少する。これは、極性のVOC分子が、ポリアニリンに吸着したときにポリアニリンに言わば電子供与した状態になり、キャリアが増加することに起因する。(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3は、層状構造を持つ酸化モリブデンと、層間のポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)との電荷移動が生じており、この電荷移動のバランスの変化が(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3そのものの抵抗値変化に起因する。
【0027】
極性のアルデヒド系のガスに曝されることで、アルデヒド系のガスは、層間のポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)と作用し、電荷移動のバランスが変化することで、(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3は抵抗値が上昇する。酸化モリブデンと有機物によるハイブリッドの多くは、アルデヒド系のガスに曝されることで抵抗値が上昇する。その一方、ポリアニリン、ポリ(o−アニシジン)は、アルデヒド系のガスに対する抵抗値の応答が、(PANI)xMoO3、(PoANIS)xMoO3と真逆である。そのため、(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3の更なる高感度化を実現するには、酸化モリブデンの層間に挿入されないポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)の混入を防ぐことが必要である。
【0028】
本発明では、この知見に基づいて、ポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)を酸化モリブデンの層間に挿入するプロセスにおいて、ろ過で不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液から作製する手法を採用することにより、酸化モリブデンの層間に挿入されないポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)の混入を防ぐことで実現されたものである。
【0029】
酸化モリブデンの層間に挿入されていないポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)が殆ど混入していないポリアニリンと酸化モリブデンのハイブリッドの合成は、2段階の反応により行う。1段階目で、酸化モリブデン層間に水和ナトリウムイオンが挿入された[Na(H2O)2]xMoO3を合成する。窒素ガスでバブリングした蒸留水にモリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物及び次亜硫酸ナトリウムを加え、溶解した後、予め金による櫛形電極を有する基板上に薄膜化した酸化モリブデンを浸漬させ反応させる。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により、[Na(H2O)2]xMoO3を得る。
【0030】
次に、2段階目で、[Na(H2O)2]xMoO3の層間に存在する水和ナトリウムイオン(Na(H2O)2+)とイオン交換することで、ポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)を層間に挿入する。塩酸水溶液にアニリンもしくはo−アニシジンを溶解させてアニリン塩酸塩水溶液又はo−アニシジン塩酸塩水溶液とし、更に、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム溶液を加えてアニリン重合させポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)とする。重合時間は、好ましくは30分程度である。
【0031】
次いで、親水性PTFEメンブレンフィルターで不溶性のポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)を除く。この操作にかける時間は、好ましくは80分程度である。その後、得られたポリアニリン水溶液もしくはポリ(o−アニシジン)水溶液に[Na(H2O)2]xMoO3を浸漬し、水和ナトリウムイオンと溶解しているポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)のイオン交換反応を行う。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により、(PANI)xMoO3もしくは(PoANIS)xMoO3を得る。
【0032】
次に、得られた(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3の化学センサ特性を評価した結果について説明する。櫛形電極を用いて抵抗値をモニタリングし、指定の濃度のVOCガス雰囲気下とすることで変化する電荷移動のバランスで生じる抵抗値変化をセンサとしての応答とした。従来の有機無機ハイブリッド材料は、数ppm以上の濃度のアルデヒド系ガスに応答するものの、何れも健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度の検知は達成されていなかった。しかしながら、本発明による(PANI)xMoO3、(PoANIS)xMoO3による化学センサ素子は、数十ppbの極低濃度のアルデヒド系のガスを検知した。
【0033】
また、従来の数ppm以上のアルデヒドガスに応答するポリアニリンと酸化モリブデンのハイブリッドによる化学センサ素子は、アセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに対して強く応答したが、本発明の(PANI)xMoO3においても、数十ppbの極低濃度領域で同様の傾向にあり、かつ、従来の数ppm以上のアルデヒドガスに応答するポリ(o−アニシジン)と酸化モリブデンのハイブリッドによる化学センサ素子は、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに対して強く応答したが、本発明の(PoANIS)xMoO3においては、数十ppbの極低濃度領域で、本発明の(PANI)xMoO3よりアセトアルデヒドとホルムアルデヒドの応答の差が少ないことから、(PANI)xMoO3より(PoANIS)xMoO3は、アセトアルデヒドに対して強く応答しており、高い選択性も保持されていることが示された。
【0034】
本発明では、上記有機無機ハイブリッド材料による数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するガスセンサ材料は、その抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子として好適に使用される。このガスセンサ材料を適宜の電極と接続することで、抵抗値の変化のモニタリングが可能となり、化学センサ素子として機能させることが可能となる。
【0035】
本発明は、有機高分子と無機化合物を、複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うことで、従来の有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサでは達せされなかった数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有する有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子を作製し、提供することを可能とする。
【0036】
本発明は、例えば、有機高分子としてポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)と、無機化合物として酸化モリブデンを主成分とする導電性有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子に関する新技術を提供するものである。更に、本発明は、ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ単独で数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知を可能とするガスセンサ材料に関する新技術を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明は、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料で、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する新規ガスセンサ材料を提供することを可能とする。
(2)それにより、ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子単独で数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知が可能となる。
(3)本発明により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する、小型で安価な濃度検出装置を提供することが出来る。
(4)本発明の検出装置を利用することにより、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの濃度の常時モニタリングが可能となる。
(5)本発明により、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料の層間有機物によって、数十ppbの濃度の各アルデヒド系のガスに対する応答を制御する技術を提供することが可能である。
(6)本発明により、特にホルムアルデヒドに対しては、厚生労働省が平成14年に示した個別濃度指針値までの濃度の検知を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0039】
(1)シリコン(Si)基板へのランタンアルミネート(LaAlO3)バッファー層の塗布
20mm四方の熱酸化膜付Si基板に、85mmol/LのLaAlO3前駆体溶液を滴下し、500rpmで10秒の条件に続き、3000rpmで30秒の条件でスピンコートした。その後、90℃で約30分間乾燥させ、次いで、1100℃で30分焼成した。以上の工程を経て、熱酸化膜付Si基板に、酸化モリブデンと結晶格子定数の近いLaAlO3バッファー層を塗布した。
【0040】
(2)酸化モリブデン(MoO3)薄膜の作製
MoO3薄膜は、CVD法にて作製した。基板は、LaAlO3バッファー層を塗布したSi基板上に、電極幅20μm、電極間距離20μmを有した10mm四方内の金櫛形電極を蒸着したものを用いた。この基板を、加熱用ヒーターを持つ試料ホルダーに設置した。ソース室から試料室にかけて、酸素ガス50mL/minを流して系内を置換し、試料ホルダーを500℃に、試料室を455℃に、ソース室を40℃に加熱した。
【0041】
温度が安定した後、モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)0.35gを入れた石英ガラスボートを、ソース室に設置し、真空ポンプにより系内を110Paに減圧した。減圧下で、Mo(CO)6が揮発し、MoO3が成長した。15分間成膜を行った後、真空ポンプを止めて、系全体を大気圧に戻し、成膜を終了した。図1に、得られたMoO3薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造のMoO3の(0k0)に帰属しており、MoO3薄膜が基板に対してb軸配向していることを確認した。
【0042】
(3)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜の作製
蒸留水15mLをフラスコ内で攪拌しながら、25分間窒素ガスでバブリングした後、緩衝剤として、モリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物(Na2MoO4・2H2O:6g)を加えて溶解させ、次いで、次亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4:0.4g)を加えた。これを溶解した後、攪拌と窒素ガスのバブリングを止め、MoO3薄膜を20秒間浸漬させた。モリブデンの一部が還元されることで、薄膜が、淡青色から青色へ変化した。
【0043】
その後、薄膜を蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間90℃で乾燥させた。図2に、得られた薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークと緩衝剤のモリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物を除けば、層状構造の[Na(H2O)2]xMoO3の(0k0)に帰属している。層間距離は、MoO3の層間距離6.9Åより2.7Å増加した9.6Åである。この層間距離の増加は、水和ナトリウムイオン(Na(H2O)2)が層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜が生成したことが確認できた。
【0044】
(4)ポリアニリン水溶液の作製
フラスコ内に蒸留水15mLと濃塩酸を1.4mL加えて攪拌し、そのうち、1mLを、別容器に移した。残った15.4mLの塩酸水溶液にアニリン(1.5mL,16.5mmol)を加え、均一溶液となるように攪拌し、窒素ガスでバブリングを行い、アニリン塩酸塩水溶液とした。別容器に移した1mLの塩酸水溶液に、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8:50mg,0.22mmol)を溶解させた。アニリン塩酸塩水溶液への攪拌、窒素ガスによるバブリングを継続し、過硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、窒素ガスでバブリングを行いながら、30分間攪拌した。
【0045】
その後、バブリングと攪拌を止め、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、出来るだけ吸引して、不溶性のポリアニリンを含む溶液が濾液となるように処理を20分行った。その濾液には、強い吸引のために、一部濾紙をすり抜け繊維状に変形した不溶性のポリアニリンが含まれるため、再度、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて、60分吸引濾過を行い、不溶性のポリアニリンを完全に除くことで、ポリアニリン水溶液を得た。
【0046】
(5)(PANI)xMoO3薄膜の作製
得られたポリアニリン水溶液に、上記の[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間、90℃で乾燥させることで、(PANI)xMoO3薄膜を得た。
【0047】
図3に、得られた薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造の(PANI)xMoO3の(0k0)に帰属している。層間距離は、[Na(H2O)2]xMoO3の層間距離9.6Åより3.9Å増加した13.5Åである。この層間距離の増加は、PANIが層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、(PANI)xMoO3薄膜が生成したことが確認できた。
【0048】
(5)電気的特性及びセンサ特性の評価
(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した。対象VOCガスは、ホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドとした。測定は、図4、図5に示すガスライン、バルブ、マスフローコントローラ、試料室で構成される装置で行った。金櫛形電極を試料室内の電気抵抗測定器と接続して、試料室内を30℃に加熱し、温度を安定させた後に測定を行った。
【0049】
始めの測定では、サンプルガスのラインに、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスボンベを接続した。図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で、もう一方で、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスに清浄窒素を混合して、25ppbの濃度となるように流し、流速は合計で200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、図5に示すようなガスの流し方になるように、バルブを切り替えた。このときから、25ppbのホルムアルデヒドガスが200mL/minで試料室に流れるようになった。このガスの流し方で20分間経た。その後、バルブを切り替え、再び、図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で流した。
【0050】
もう一方では、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスと清浄窒素の流量を調節して、400ppbの濃度となるように流し、流速は合計200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、再び、図5に示すようなガスの流し方で400ppbのホルムアルデヒドガスを20分間試料室に導入し、その後、図4に示すようなガスの流し方にして20分経た後、測定を終えた。図6に、25ppb、400ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図6に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが清浄窒素から各濃度のホルムアルデヒドガスに切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0051】
続いての測定では、サンプルガスのラインに、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスボンベを接続した。図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で、もう一方で、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスに清浄窒素を混合して50ppbの濃度となるように流し、流速は合計で200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、図5に示すようなガスの流し方になるようにバルブを切り替えた。このときから、50ppbのホルムアルデヒドガスが200mL/minで試料室に流れるようになった。このガスの流し方で20分間経た。
【0052】
この操作を、ホルムアルデヒドガス75ppb、100ppb、200ppbの濃度に対する測定を行うために繰り返した。最後は、その後、図4に示すようなガスの流し方にして30分経た後、測定を終えた。図7に、50ppb、75ppb、100ppb、200ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図7に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが清浄窒素から各濃度のホルムアルデヒドガスに切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。図6、図7より、(PANI)xMoO3薄膜による化学センサは、25ppbから400ppbまで濃度が増加していくに連れて応答が強くなることが示される。
【0053】
続いての測定では、サンプルガスのラインに、窒素ベースのアセトアルデヒド標準ガスボンベを接続した。図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で、もう一方で、窒素ベースのアセトアルデヒド標準ガスに清浄窒素を混合して25ppbの濃度となるように流し、流速は合計で200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、図5に示すようなガスの流し方になるようにバルブを切り替えた。このときから、25ppbのアセトアルデヒドガスが200mL/minで試料室に流れるようになった。このガスの流し方で20分間経た。
【0054】
この操作をアセトアルデヒドガス50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbの濃度に対する測定を行うために繰り返した。最後は、その後、図4に示すようなガスの流し方にして30分経た後、測定を終えた。図8に、25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのアセトアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図8に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが清浄窒素から各濃度のアセトアルデヒドガスに切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0055】
続いての測定では、サンプルガスのラインも、清浄窒素が流れるように接続して行ったブランク測定である。ホルムアルデヒド又はアセトアルデヒド25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbに対する応答特性の測定と全く同じ測定条件で測定を行った。この測定で得られた応答は、バルブの切り替えによる試料室に異なるガスラインからガスが導入されることによる微少の温度変化や試料室内の圧力変化に起因した、測定装置に依存するものである。アルデヒドガスに対する応答値は、このブランク測定で得られた応答値との差をとることで正確に得られる。図9に、ブランク測定の結果を示す。図9に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0056】
図10は、図6と図7で得られたホルムアルデヒド各濃度の応答値と、図9のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図11は、図8で得られたアセトアルデヒド各濃度の応答値と、図9のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図10、11は、3個のバッチの結果をプロット(○)(□)(◇)したものであり、図6、7、8、9のバッチは(□)に相当する。ホルムアルデヒドは25ppb以上、アセトアルデヒドは75ppb以上という極低濃度のアルデヒドガスに対して、(PANI)xMoO3薄膜による化学センサが感知することが示される。また、3個のバッチとも同様の結果であることから、再現性があることも確認出来た。
【実施例2】
【0057】
本実施例では、MoO3の層間へポリアニリンをインターカレートする操作で、ポリアニリンのインターカレート水溶液に不溶のポリアニリンが分散した状態のまま行う従来の手順で、(PANI)xMoO3薄膜を作製した。実施例1の方法に準じて、Si基板へのLaAlO3バッファー層の塗布、MoO3薄膜の作製、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜の作製を行った。(PANI)xMoO3薄膜の作製は、以下の方法により行った。
【0058】
フラスコ内の蒸留水15mLをアルゴンガスによるバブリングと攪拌を行い、アニリン(1.5mL,16.5mmol)と濃塩酸(1.5mL)を加えて、アニリン塩酸塩とした。次いで、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8:50mg,0.22mmol)を加え、アルゴンガスによるバブリングと攪拌を30分続けた。これにより、アニリン塩酸塩は重合し、水溶液中に溶解しているポリアニリンだけでなく、重合度が高い不溶性のポリアニリンも生成した。得られたポリアニリン分散液に、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間90℃で乾燥させることで、(PANI)xMoO3薄膜を得た。
【0059】
図12は、実施例1で示したセンサ特性の測定装置にて、アセトアルデヒド10ppmと清浄窒素を交互に試料室に導入したときの応答を示す図である。この操作で作製した(PANI)xMoO3薄膜では、図12に示すように、希にアルデヒドガスに曝されると抵抗値が減少するものが見られた。図13は、アルデヒド系のガスに曝されたとき抵抗値が減少した(PANI)xMoO3薄膜の走査型電子顕微鏡写真である。インターカレーションしていないバルク状のポリアニリンが電極を跨ぐように付着している様子が見られた。導電性のポリアニリンのみでは、アルデヒド系のガスに対して抵抗値が減少する応答を示すことから、本実施例の手順で作製した(PANI)xMoO3薄膜のうち、アルデヒド系のガスに曝されたとき抵抗値が減少するのは、(PANI)xMoO3ハイブリッドではなく、(PANI)xMoO3薄膜表面に付着したポリアニリンによるものである。
【0060】
実施例2で示す従来法で作製された(PANI)xMoO3薄膜は、上記のようなアルデヒド系のガスに対して抵抗値が減少する応答ではなく、(PANI)xMoO3ハイブリッド本来の抵抗値が上昇するものでも、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することは出来なかった。本実施例に示す従来法では、MoO3の層間へポリアニリンをインターカレートする操作でMoO3の層間に挿入されていないポリアニリンが電極を跨ぐように付着していなかったとしても、作製手順の都合上、全く付着していない状態にすることは出来ない。本実施例に示す従来法で作製された(PANI)xMoO3薄膜が、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することは出来ないのは、(PANI)xMoO3ハイブリッドの応答が、微少の付着したポリアニリンによる正反対の応答により阻害されるためである。
【実施例3】
【0061】
本実施例では、MoO3の層間へポリ(o−アニシジン)をインターカレートした(PoANIS)xMoO3を作製し、その電気的特性及びセンサ特性の評価を行った。実施例1の方法に準じて、Si基板へのLaAlO3バッファー層の塗布、MoO3薄膜の作製、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜の作製を行った。(PoANIS)xMoO3薄膜の作製は、以下の方法により行った。
【0062】
フラスコ内に蒸留水15mLと濃塩酸を1.4mL加えて攪拌し、そのうち、1mLを、別容器に移した。残った15.4mLの塩酸水溶液にo−アニシジン(1.86mL,16.5mmol)を加え、均一溶液となるように攪拌し、窒素ガスでバブリングを行い、アニリン塩酸塩水溶液とした。別容器に移した1mLの塩酸水溶液に、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8:50mg,0.22mmol)を溶解させた。o−アニシジン塩酸塩水溶液への攪拌、窒素ガスによるバブリングを継続し、過硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、窒素ガスでバブリングを行いながら、30分間攪拌した。
【0063】
その後、バブリングと攪拌を止め、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、出来るだけ吸引して、不溶性のポリ(o−アニシジン)を含む溶液が濾液となるように処理を20分行った。その後、再度、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて60分吸引濾過を行い、不溶性のポリ(o−アニシジン)を完全に除くことで、ポリ(o−アニシジン)水溶液を得た。得られたポリ(o−アニシジン)水溶液に、上記の[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、1時間真空乾燥させることで、(PoANIS)xMoO3薄膜を得た。
【0064】
図14に、ポリ(o−アニシジン)水溶液に浸漬前の[Na(H2O)2]xMoO3薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。図15に、得られた(PoANIS)xMoO3薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造の[Na(H2O)2]xMoO3又は(PoANIS)xMoO3の(0k0)に帰属している。層間距離は、[Na(H2O)2]xMoO3の層間距離9.6Åより4.1Å増加した13.7Åである。この層間距離の増加は、ポリ(o−アニシジン)が層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、(PoANIS)xMoO3薄膜が生成したことが確認出来た。
【0065】
(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのセンサ特性の測定を実施例1で示した装置で行った。測定方法とその条件は、実施例1に準じた。図16、図17は、それぞれ25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのホルムアルデヒド、アセトアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図18に、ブランク測定の結果を示す。図16、17、18に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0066】
図19は、図16で得られたホルムアルデヒド各濃度の応答値と、図18のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図20は、図17で得られたアセトアルデヒド各濃度の応答値と、図18のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図19、20は、4個のバッチの結果をプロット(○)(□)(◇)(△)したものであり、図16、17、18のバッチは(○)に相当する。ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド共に50ppb以上という極低濃度のアルデヒドガスに対して、(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサが感知することが示される。また、4個のバッチとも同様の結果であることから、再現性があることも確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上詳述したように、本発明は、高感度ガスセンサ及びその製造方法に係るものであり、本発明により、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料において、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することを可能とするガスセンサ材料を製造することが可能となる。これにより、本発明では、健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度のアルデヒド系ガスを、本発明の化学センサ単独で検知することが可能となる。本発明は、極低濃度の常時モニタリングが可能になるだけでなく、安価な化学センサを広く普及するための新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1に示すMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1に示す[Na(H2O)2]xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例1に示す電気的特性及びセンサ特性の測定を行う装置の概要図で、清浄窒素を試料室に流す状態を示す図である。
【図5】実施例1に示す電気的特性及びセンサ特性の測定を行う装置の概要図で、一定濃度の測定対象ガスを試料室に流す状態を示す図である。
【図6】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、400ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図7】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサの50ppb、75ppb、100ppb、200ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図8】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図9】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのブランク測定を示す図である。
【図10】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのホルムアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【図11】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのアセトアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【図12】実施例2に示す(PANI)xMoO3薄膜の10ppmのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図13】実施例2に示す(PANI)xMoO3薄膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例3に示す[Na(H2O)2]xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図15】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図16】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図17】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図18】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのブランク測定を示す図である。
【図19】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのホルムアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【図20】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのアセトアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高感度ガスセンサ素子及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、特定の有機無機ハイブリッド材料を化学センサ素子として用いたことを特徴とするガスセンサであって、抵抗値の変化によりガスを検知する作用を有し、長期安定性に優れ、100℃以下の温度において、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有する電気伝導性有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料、その製造方法、及び、該方法により作製される有機無機ハイブリッドからなる化学センサ部材に関するものである。
【0002】
本発明は、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化した高機能性有機無機ハイブリッド材料を用いたガスセンサの技術分野において、従来の有機無機ハイブリッド材料では、揮発性有機化合物(VOC)の一種であるアルデヒド系のガスに対して選択的に応答するものの、数十ppbの極低濃度では検知することが難しいという問題があることを踏まえてこれを解決するために開発されたものである。
【背景技術】
【0003】
近年、住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装等の利用で生じるVOCによる汚染が原因とされるシックハウス症候群と呼ばれる健康被害が問題視されており、室内のVOC濃度をモニタリングするための化学センサの開発が期待されている。VOCの成分は多岐に渡っているが、それぞれの成分の許容濃度は殆どが数十ppb前後とされ、厚生労働省のシックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会が平成14年に示した、その濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値とした個別濃度指針値のうち、アルデヒド系のガスは、ホルムアルデヒドが0.08ppm(=80ppb)、アセトアルデヒドが0.03ppm(=30ppb)である。
【0004】
このように、VOCが極低濃度であるにも関わらず健康に影響を及ぼすことから、VOCを常時モニタリングするための化学センサとしては、極低濃度のVOCを特定して検出する感度が求められている。また、濃度検出装置をより小型で低価格なものとするには、ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、化学センサ単独で極低濃度のVOCを検出可能とすることが求められている。
【0005】
従来から利用されているVOCガス濃度の測定法のうち、極低濃度のVOCを検出する方法としては、ガスクロマトグラフィーによる分析が挙げられる。ガスクロマトグラフィーによる分析は、ガスを成分による分離とその精密な濃度の測定が可能である反面、分析機器の性質上、瞬時の測定は不可能であることから、VOC濃度の常時モニタリングが可能なデバイスとしては適さないだけでなく、分析機器自体が高価であるため、各家庭やオフィス等に設置するVOCセンサとして普及させることは難しい。また、水素炎イオン化法や光イオン化検出法に基づいた検出器単独による極低濃度のVOC検出が可能なポータブル分析計が開発されているが、検出器の性質上、ガス選択性を求めることが難しい。
【0006】
有機無機ハイブリッド材料による化学センサは、有機化合物と無機化合物をナノレベルで複合化することにより、エレクトロデバイス材料への応用に必要な信号変換機能とガス選択性に必要な分子認識機能を、それぞれ層状無機化合物とその層間の有機化合物に分担させることで、高いガス選択性を有した新しい化学センサ材料への応用に有効である。有機無機ハイブリッド材料による化学センサは、既に、層状構造を持つ酸化モリブデン(MoO3)と層間に挿入した有機化合物によるハイブリッド材料は、その層間の有機化合物が異なれば、種々のガスに対する応答特性も異なることが見出されており(特許文献1、非特許文献1)、該材料の薄膜化技術(特許文献2、非特許文献2)、高感度化技術(特許文献3)、バッファー層を塗布したシリコン基板上への薄膜作製技術(特許文献4)によって、6ppmのアルデヒド系ガスを検知することを可能にしただけでなく、50ppm以下の濃度領域では、アルデヒド系ガスのみに対して選択的に応答させることを達成している。
【0007】
酸化モリブデンと有機化合物による有機無機ハイブリッド材料は、アルデヒド系のガスに対する新規化学センサ材料としての応用が期待されている。しかしながら、上記の有機無機ハイブリッド材料は、数ppm以上の濃度のアルデヒド系ガスに応答するものの、健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度の検知は達成されていない。その解決策としては、ガス濃縮素子による増感作用を行う素子との併用が考えられるが、濃度検出装置を、より小型で低価格なものとするには、化学センサ素子単独で極低濃度のVOCを特定して検出することができる有機無機ハイブリッド材料の開発が急務の課題となっている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−321326公報
【特許文献2】特開2005−179115公報
【特許文献3】特開2005−321327公報
【特許文献4】特願2005−142706号
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol.77,1231(2004)
【非特許文献2】Chem.Mater.,Vol.17,349(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する有機無機ハイブリッド材料による、抵抗値の変化によりガスを検知する化学センサを開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うことで、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知が可能なガスセンサ素子とすることが可能となることを見出し、更に研究を重ねて、本発明に至った。
【0010】
本発明は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する導電性の有機無機ハイブリッド材料による化学センサを製造することを可能とする導電性有機無機ハイブリッド材料の製造方法、及び、その製品、特に、ガスセンサ素子、導電性部材、高感度化学センサ部材をそれぞれ提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であり、2)無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在せず、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化されている、ことを特徴とするガスセンサ材料。
(2)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(3)層状構造を持つ無機化合物が、酸化モリブデンを主成分とする化合物である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(4)有機導電性高分子が、ポリアニリンを主成分とする分子である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(5)有機導電性高分子が、ポリアニリン誘導体を主成分とする分子である、前記(1)に記載のガスセンサ材料。
(6)ベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を主成分とする、前記(5)に記載のガスセンサ材料。
(7)数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料を製造する方法であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入するプロセスにおいて、不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液を用いて当該無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入し、2)それにより、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製し、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化する、ことを特徴とするガスセンサ材料の製造方法。
(8)層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜からなる、前記(7)記載のガスセンサ材料の製造方法。
(9)前記(1)から(6)のいずれかに記載のガスセンサ材料をセンサ素子として含み、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有することを特徴とする化学センサ部材。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料であって、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であること、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在しないこと、抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化されていること、を特徴とするものである。本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜であること、を好ましい実施の態様としている。
【0013】
また、本発明は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料を製造する方法であって、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入するプロセスにおいて、不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液を用いて当該無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入すること、それにより、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製すること、抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化すること、を特徴とするものである。
【0014】
本発明は、例えば、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料による配向膜をガスセンサ材料として使用することで、その抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有するガスセンサ材料とした点、に特徴を有するものである。
【0015】
本発明は、有機高分子と無機化合物を、複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うこと、を特徴とするものである。本発明は、有機無機ハイブリッド材料がアルデヒド系のガスに対して抵抗値が上昇する応答を示すのに対し、その真逆の応答となる抵抗値が減少の応答を示すバルク状の導電性有機高分子がハイブリッド配向膜に混入することを防ぐことで、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知が可能なガスセンサ材料とすることが可能となる、という本発明者らが見出した新規知見に基づいて開発されたものである。
【0016】
本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料は、配向膜等の成型体として用いられる。本発明においては、上記無機化合物を膜に成型することで、導電性有機高分子を無機化合物の層間に挿入するプロセスにおいて、無機化合物が基板から脱落しない程の密着性向上に貢献するだけでなく、膜に成型されることでガスセンサ材料としての利用が実現される。本発明では、上記膜の形態、すなわち、上記成型体の形状及び構造は任意に設定することが出来る。
【0017】
上記層状構造を持つ無機化合物としては、酸化モリブデンを主成分とする化合物が使用されるが、これによって、有機無機ハイブリッド材料に信号変換機能を持たせることが可能となる。また、上記有機導電性高分子としては、ポリアニリン又はポリアニリン誘導体を主成分とする分子が使用されるが、これによって、有機無機ハイブリッド材料が分子認識機能を有するようになる。本発明では、ポリアニリン、又はポリアニリン誘導体、好適には、ベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を主成分とする有機導電性高分子が使用されるが、これらに制限されるものではない。
【0018】
また、本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在しない有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料とすることで、抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有するガスセンサ材料の製造方法を構築することが出来る。本発明は、有機高分子を無機化合物の層間に挿入する複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、ろ過等の分離手段により溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うことにより、有機無機ハイブリッド材料による数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するガスセンサ素子の作製が可能となる。
【0019】
本発明では、層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料による配向膜の製造方法を構築することが出来る。これにより、基板上に配向膜とした有機無機ハイブリッド材料による数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するガスセンサ材料の作製及び高機能化が可能となる。
【0020】
本発明では、上記の有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ素子を構成要素とする化学センサ部材を構築することが出来、センサ材料を電極と接続することで、抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子として機能させることが可能となる。
【0021】
本発明は、上述の通り、例えば、ナノサイズの層状構造を持つ酸化モリブデンの層間にポリアニリン又はベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を挿入するプロセスにおいて、ろ過等の分離手段で不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液から作製することで、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなる、抵抗値の変化によりガスを検知する化学センサとして、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性と機能を有する導電性有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ素子を製造し、提供するものである。
【0022】
次に、導電性有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ素子によるVOC濃度測定の化学センサのメカニズムについて説明すると、次の通りである。有機無機ハイブリッド材料の導電性は、有機化合物と無機化合物の電荷移動により生じる。この有機無機ハイブリッド材料において、VOCガスが有機無機ハイブリッド材料の層間に侵入し、有機化合物と作用することにより電荷移動のバランスが変化することで、有機無機ハイブリッド材料の電気抵抗が変動する。
【0023】
その一方で、導電性有機高分子単独もVOCガスに曝されると電気抵抗の変動が生じるため、層間に挿入されていない導電性有機高分子が導電性有機無機ハイブリッド材料に混入すると、導電性有機無機ハイブリッド材料の電気抵抗の応答が層間に挿入されていない導電性有機高分子の応答に阻害されることになる。すなわち、導電性有機無機ハイブリッド材料による化学センサの感度向上には、層間に挿入されていない導電性有機高分子の混入がない状態が好ましい。
【0024】
本発明における、化学センサとして、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する化学センサ材料は、好適には、酸化モリブデンとポリアニリンによる導電性有機無機ハイブリッド材料で、かつ、無機化合物の層間に挿入されていないポリアニリンが除かれたもの(以下、この物質を(PANI)xMoO3と記載する。)、又は、酸化モリブデンとポリ(o−アニシジン)による導電性有機無機ハイブリッド材料で、かつ、無機化合物の層間に挿入されていないポリ(o−アニシジン)が除かれたもの(以下、この物質を(PoANIS)xMoO3と記載する。)、である。
【0025】
従来の酸化モリブデンを主成分とした有機無機ハイブリッド材料が、数ppm以上の濃度のアルデヒド系ガスに応答するものの、健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度の検知は達成されていないのに対し、本発明では、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた(PANI)xMoO3と(PoANIS)xMoO3は、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する化学センサ材料となるに至った。
【0026】
導電性高分子であるポリアニリンとポリ(o−アニシジン)は、極性のアルデヒド系のガスに曝されることで、その抵抗値は減少する。これは、極性のVOC分子が、ポリアニリンに吸着したときにポリアニリンに言わば電子供与した状態になり、キャリアが増加することに起因する。(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3は、層状構造を持つ酸化モリブデンと、層間のポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)との電荷移動が生じており、この電荷移動のバランスの変化が(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3そのものの抵抗値変化に起因する。
【0027】
極性のアルデヒド系のガスに曝されることで、アルデヒド系のガスは、層間のポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)と作用し、電荷移動のバランスが変化することで、(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3は抵抗値が上昇する。酸化モリブデンと有機物によるハイブリッドの多くは、アルデヒド系のガスに曝されることで抵抗値が上昇する。その一方、ポリアニリン、ポリ(o−アニシジン)は、アルデヒド系のガスに対する抵抗値の応答が、(PANI)xMoO3、(PoANIS)xMoO3と真逆である。そのため、(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3の更なる高感度化を実現するには、酸化モリブデンの層間に挿入されないポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)の混入を防ぐことが必要である。
【0028】
本発明では、この知見に基づいて、ポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)を酸化モリブデンの層間に挿入するプロセスにおいて、ろ過で不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液から作製する手法を採用することにより、酸化モリブデンの層間に挿入されないポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)の混入を防ぐことで実現されたものである。
【0029】
酸化モリブデンの層間に挿入されていないポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)が殆ど混入していないポリアニリンと酸化モリブデンのハイブリッドの合成は、2段階の反応により行う。1段階目で、酸化モリブデン層間に水和ナトリウムイオンが挿入された[Na(H2O)2]xMoO3を合成する。窒素ガスでバブリングした蒸留水にモリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物及び次亜硫酸ナトリウムを加え、溶解した後、予め金による櫛形電極を有する基板上に薄膜化した酸化モリブデンを浸漬させ反応させる。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により、[Na(H2O)2]xMoO3を得る。
【0030】
次に、2段階目で、[Na(H2O)2]xMoO3の層間に存在する水和ナトリウムイオン(Na(H2O)2+)とイオン交換することで、ポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)を層間に挿入する。塩酸水溶液にアニリンもしくはo−アニシジンを溶解させてアニリン塩酸塩水溶液又はo−アニシジン塩酸塩水溶液とし、更に、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム溶液を加えてアニリン重合させポリアニリン又はポリ(o−アニシジン)とする。重合時間は、好ましくは30分程度である。
【0031】
次いで、親水性PTFEメンブレンフィルターで不溶性のポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)を除く。この操作にかける時間は、好ましくは80分程度である。その後、得られたポリアニリン水溶液もしくはポリ(o−アニシジン)水溶液に[Na(H2O)2]xMoO3を浸漬し、水和ナトリウムイオンと溶解しているポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)のイオン交換反応を行う。浸漬時間は、好ましくは20〜30秒程度である。洗浄、乾燥により、(PANI)xMoO3もしくは(PoANIS)xMoO3を得る。
【0032】
次に、得られた(PANI)xMoO3又は(PoANIS)xMoO3の化学センサ特性を評価した結果について説明する。櫛形電極を用いて抵抗値をモニタリングし、指定の濃度のVOCガス雰囲気下とすることで変化する電荷移動のバランスで生じる抵抗値変化をセンサとしての応答とした。従来の有機無機ハイブリッド材料は、数ppm以上の濃度のアルデヒド系ガスに応答するものの、何れも健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度の検知は達成されていなかった。しかしながら、本発明による(PANI)xMoO3、(PoANIS)xMoO3による化学センサ素子は、数十ppbの極低濃度のアルデヒド系のガスを検知した。
【0033】
また、従来の数ppm以上のアルデヒドガスに応答するポリアニリンと酸化モリブデンのハイブリッドによる化学センサ素子は、アセトアルデヒドよりホルムアルデヒドに対して強く応答したが、本発明の(PANI)xMoO3においても、数十ppbの極低濃度領域で同様の傾向にあり、かつ、従来の数ppm以上のアルデヒドガスに応答するポリ(o−アニシジン)と酸化モリブデンのハイブリッドによる化学センサ素子は、ホルムアルデヒドよりアセトアルデヒドに対して強く応答したが、本発明の(PoANIS)xMoO3においては、数十ppbの極低濃度領域で、本発明の(PANI)xMoO3よりアセトアルデヒドとホルムアルデヒドの応答の差が少ないことから、(PANI)xMoO3より(PoANIS)xMoO3は、アセトアルデヒドに対して強く応答しており、高い選択性も保持されていることが示された。
【0034】
本発明では、上記有機無機ハイブリッド材料による数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するガスセンサ材料は、その抵抗値の変化をモニタリングすることにより、ガス成分を検出する化学センサ素子として好適に使用される。このガスセンサ材料を適宜の電極と接続することで、抵抗値の変化のモニタリングが可能となり、化学センサ素子として機能させることが可能となる。
【0035】
本発明は、有機高分子と無機化合物を、複合化によって高機能性有機無機ハイブリッド材料とする作製手順において、複合化の前段階で、溶媒に対して不溶成分の有機高分子を除去してから複合化を行うことで、従来の有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサでは達せされなかった数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有する有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子を作製し、提供することを可能とする。
【0036】
本発明は、例えば、有機高分子としてポリアニリンもしくはポリ(o−アニシジン)と、無機化合物として酸化モリブデンを主成分とする導電性有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子に関する新技術を提供するものである。更に、本発明は、ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ単独で数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知を可能とするガスセンサ材料に関する新技術を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明は、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料で、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する新規ガスセンサ材料を提供することを可能とする。
(2)それにより、ガス濃縮素子等の増感作用を行う素子を用いることなく、有機無機ハイブリッド材料からなる化学センサ素子単独で数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの検知が可能となる。
(3)本発明により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する、小型で安価な濃度検出装置を提供することが出来る。
(4)本発明の検出装置を利用することにより、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスの濃度の常時モニタリングが可能となる。
(5)本発明により、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料の層間有機物によって、数十ppbの濃度の各アルデヒド系のガスに対する応答を制御する技術を提供することが可能である。
(6)本発明により、特にホルムアルデヒドに対しては、厚生労働省が平成14年に示した個別濃度指針値までの濃度の検知を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0039】
(1)シリコン(Si)基板へのランタンアルミネート(LaAlO3)バッファー層の塗布
20mm四方の熱酸化膜付Si基板に、85mmol/LのLaAlO3前駆体溶液を滴下し、500rpmで10秒の条件に続き、3000rpmで30秒の条件でスピンコートした。その後、90℃で約30分間乾燥させ、次いで、1100℃で30分焼成した。以上の工程を経て、熱酸化膜付Si基板に、酸化モリブデンと結晶格子定数の近いLaAlO3バッファー層を塗布した。
【0040】
(2)酸化モリブデン(MoO3)薄膜の作製
MoO3薄膜は、CVD法にて作製した。基板は、LaAlO3バッファー層を塗布したSi基板上に、電極幅20μm、電極間距離20μmを有した10mm四方内の金櫛形電極を蒸着したものを用いた。この基板を、加熱用ヒーターを持つ試料ホルダーに設置した。ソース室から試料室にかけて、酸素ガス50mL/minを流して系内を置換し、試料ホルダーを500℃に、試料室を455℃に、ソース室を40℃に加熱した。
【0041】
温度が安定した後、モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)0.35gを入れた石英ガラスボートを、ソース室に設置し、真空ポンプにより系内を110Paに減圧した。減圧下で、Mo(CO)6が揮発し、MoO3が成長した。15分間成膜を行った後、真空ポンプを止めて、系全体を大気圧に戻し、成膜を終了した。図1に、得られたMoO3薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造のMoO3の(0k0)に帰属しており、MoO3薄膜が基板に対してb軸配向していることを確認した。
【0042】
(3)[Na(H2O)2]xMoO3薄膜の作製
蒸留水15mLをフラスコ内で攪拌しながら、25分間窒素ガスでバブリングした後、緩衝剤として、モリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物(Na2MoO4・2H2O:6g)を加えて溶解させ、次いで、次亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4:0.4g)を加えた。これを溶解した後、攪拌と窒素ガスのバブリングを止め、MoO3薄膜を20秒間浸漬させた。モリブデンの一部が還元されることで、薄膜が、淡青色から青色へ変化した。
【0043】
その後、薄膜を蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間90℃で乾燥させた。図2に、得られた薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークと緩衝剤のモリブデン酸(VI)二ナトリウム・二水和物を除けば、層状構造の[Na(H2O)2]xMoO3の(0k0)に帰属している。層間距離は、MoO3の層間距離6.9Åより2.7Å増加した9.6Åである。この層間距離の増加は、水和ナトリウムイオン(Na(H2O)2)が層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜が生成したことが確認できた。
【0044】
(4)ポリアニリン水溶液の作製
フラスコ内に蒸留水15mLと濃塩酸を1.4mL加えて攪拌し、そのうち、1mLを、別容器に移した。残った15.4mLの塩酸水溶液にアニリン(1.5mL,16.5mmol)を加え、均一溶液となるように攪拌し、窒素ガスでバブリングを行い、アニリン塩酸塩水溶液とした。別容器に移した1mLの塩酸水溶液に、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8:50mg,0.22mmol)を溶解させた。アニリン塩酸塩水溶液への攪拌、窒素ガスによるバブリングを継続し、過硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、窒素ガスでバブリングを行いながら、30分間攪拌した。
【0045】
その後、バブリングと攪拌を止め、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、出来るだけ吸引して、不溶性のポリアニリンを含む溶液が濾液となるように処理を20分行った。その濾液には、強い吸引のために、一部濾紙をすり抜け繊維状に変形した不溶性のポリアニリンが含まれるため、再度、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて、60分吸引濾過を行い、不溶性のポリアニリンを完全に除くことで、ポリアニリン水溶液を得た。
【0046】
(5)(PANI)xMoO3薄膜の作製
得られたポリアニリン水溶液に、上記の[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間、90℃で乾燥させることで、(PANI)xMoO3薄膜を得た。
【0047】
図3に、得られた薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造の(PANI)xMoO3の(0k0)に帰属している。層間距離は、[Na(H2O)2]xMoO3の層間距離9.6Åより3.9Å増加した13.5Åである。この層間距離の増加は、PANIが層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、(PANI)xMoO3薄膜が生成したことが確認できた。
【0048】
(5)電気的特性及びセンサ特性の評価
(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのセンサ特性を、電気抵抗値の変化で評価した。対象VOCガスは、ホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドとした。測定は、図4、図5に示すガスライン、バルブ、マスフローコントローラ、試料室で構成される装置で行った。金櫛形電極を試料室内の電気抵抗測定器と接続して、試料室内を30℃に加熱し、温度を安定させた後に測定を行った。
【0049】
始めの測定では、サンプルガスのラインに、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスボンベを接続した。図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で、もう一方で、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスに清浄窒素を混合して、25ppbの濃度となるように流し、流速は合計で200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、図5に示すようなガスの流し方になるように、バルブを切り替えた。このときから、25ppbのホルムアルデヒドガスが200mL/minで試料室に流れるようになった。このガスの流し方で20分間経た。その後、バルブを切り替え、再び、図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で流した。
【0050】
もう一方では、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスと清浄窒素の流量を調節して、400ppbの濃度となるように流し、流速は合計200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、再び、図5に示すようなガスの流し方で400ppbのホルムアルデヒドガスを20分間試料室に導入し、その後、図4に示すようなガスの流し方にして20分経た後、測定を終えた。図6に、25ppb、400ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図6に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが清浄窒素から各濃度のホルムアルデヒドガスに切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0051】
続いての測定では、サンプルガスのラインに、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスボンベを接続した。図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で、もう一方で、窒素ベースのホルムアルデヒド標準ガスに清浄窒素を混合して50ppbの濃度となるように流し、流速は合計で200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、図5に示すようなガスの流し方になるようにバルブを切り替えた。このときから、50ppbのホルムアルデヒドガスが200mL/minで試料室に流れるようになった。このガスの流し方で20分間経た。
【0052】
この操作を、ホルムアルデヒドガス75ppb、100ppb、200ppbの濃度に対する測定を行うために繰り返した。最後は、その後、図4に示すようなガスの流し方にして30分経た後、測定を終えた。図7に、50ppb、75ppb、100ppb、200ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図7に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが清浄窒素から各濃度のホルムアルデヒドガスに切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。図6、図7より、(PANI)xMoO3薄膜による化学センサは、25ppbから400ppbまで濃度が増加していくに連れて応答が強くなることが示される。
【0053】
続いての測定では、サンプルガスのラインに、窒素ベースのアセトアルデヒド標準ガスボンベを接続した。図4に示すように、試料室に清浄窒素を200mL/minの流速で、もう一方で、窒素ベースのアセトアルデヒド標準ガスに清浄窒素を混合して25ppbの濃度となるように流し、流速は合計で200mL/minとなるようにした。このガスは、試料室に流すことなく、そのまま排気した。このガスの流し方で30を経た後、図5に示すようなガスの流し方になるようにバルブを切り替えた。このときから、25ppbのアセトアルデヒドガスが200mL/minで試料室に流れるようになった。このガスの流し方で20分間経た。
【0054】
この操作をアセトアルデヒドガス50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbの濃度に対する測定を行うために繰り返した。最後は、その後、図4に示すようなガスの流し方にして30分経た後、測定を終えた。図8に、25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのアセトアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図8に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが清浄窒素から各濃度のアセトアルデヒドガスに切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0055】
続いての測定では、サンプルガスのラインも、清浄窒素が流れるように接続して行ったブランク測定である。ホルムアルデヒド又はアセトアルデヒド25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbに対する応答特性の測定と全く同じ測定条件で測定を行った。この測定で得られた応答は、バルブの切り替えによる試料室に異なるガスラインからガスが導入されることによる微少の温度変化や試料室内の圧力変化に起因した、測定装置に依存するものである。アルデヒドガスに対する応答値は、このブランク測定で得られた応答値との差をとることで正確に得られる。図9に、ブランク測定の結果を示す。図9に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0056】
図10は、図6と図7で得られたホルムアルデヒド各濃度の応答値と、図9のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図11は、図8で得られたアセトアルデヒド各濃度の応答値と、図9のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図10、11は、3個のバッチの結果をプロット(○)(□)(◇)したものであり、図6、7、8、9のバッチは(□)に相当する。ホルムアルデヒドは25ppb以上、アセトアルデヒドは75ppb以上という極低濃度のアルデヒドガスに対して、(PANI)xMoO3薄膜による化学センサが感知することが示される。また、3個のバッチとも同様の結果であることから、再現性があることも確認出来た。
【実施例2】
【0057】
本実施例では、MoO3の層間へポリアニリンをインターカレートする操作で、ポリアニリンのインターカレート水溶液に不溶のポリアニリンが分散した状態のまま行う従来の手順で、(PANI)xMoO3薄膜を作製した。実施例1の方法に準じて、Si基板へのLaAlO3バッファー層の塗布、MoO3薄膜の作製、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜の作製を行った。(PANI)xMoO3薄膜の作製は、以下の方法により行った。
【0058】
フラスコ内の蒸留水15mLをアルゴンガスによるバブリングと攪拌を行い、アニリン(1.5mL,16.5mmol)と濃塩酸(1.5mL)を加えて、アニリン塩酸塩とした。次いで、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8:50mg,0.22mmol)を加え、アルゴンガスによるバブリングと攪拌を30分続けた。これにより、アニリン塩酸塩は重合し、水溶液中に溶解しているポリアニリンだけでなく、重合度が高い不溶性のポリアニリンも生成した。得られたポリアニリン分散液に、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、空気中にて30分間90℃で乾燥させることで、(PANI)xMoO3薄膜を得た。
【0059】
図12は、実施例1で示したセンサ特性の測定装置にて、アセトアルデヒド10ppmと清浄窒素を交互に試料室に導入したときの応答を示す図である。この操作で作製した(PANI)xMoO3薄膜では、図12に示すように、希にアルデヒドガスに曝されると抵抗値が減少するものが見られた。図13は、アルデヒド系のガスに曝されたとき抵抗値が減少した(PANI)xMoO3薄膜の走査型電子顕微鏡写真である。インターカレーションしていないバルク状のポリアニリンが電極を跨ぐように付着している様子が見られた。導電性のポリアニリンのみでは、アルデヒド系のガスに対して抵抗値が減少する応答を示すことから、本実施例の手順で作製した(PANI)xMoO3薄膜のうち、アルデヒド系のガスに曝されたとき抵抗値が減少するのは、(PANI)xMoO3ハイブリッドではなく、(PANI)xMoO3薄膜表面に付着したポリアニリンによるものである。
【0060】
実施例2で示す従来法で作製された(PANI)xMoO3薄膜は、上記のようなアルデヒド系のガスに対して抵抗値が減少する応答ではなく、(PANI)xMoO3ハイブリッド本来の抵抗値が上昇するものでも、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することは出来なかった。本実施例に示す従来法では、MoO3の層間へポリアニリンをインターカレートする操作でMoO3の層間に挿入されていないポリアニリンが電極を跨ぐように付着していなかったとしても、作製手順の都合上、全く付着していない状態にすることは出来ない。本実施例に示す従来法で作製された(PANI)xMoO3薄膜が、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することは出来ないのは、(PANI)xMoO3ハイブリッドの応答が、微少の付着したポリアニリンによる正反対の応答により阻害されるためである。
【実施例3】
【0061】
本実施例では、MoO3の層間へポリ(o−アニシジン)をインターカレートした(PoANIS)xMoO3を作製し、その電気的特性及びセンサ特性の評価を行った。実施例1の方法に準じて、Si基板へのLaAlO3バッファー層の塗布、MoO3薄膜の作製、[Na(H2O)2]xMoO3薄膜の作製を行った。(PoANIS)xMoO3薄膜の作製は、以下の方法により行った。
【0062】
フラスコ内に蒸留水15mLと濃塩酸を1.4mL加えて攪拌し、そのうち、1mLを、別容器に移した。残った15.4mLの塩酸水溶液にo−アニシジン(1.86mL,16.5mmol)を加え、均一溶液となるように攪拌し、窒素ガスでバブリングを行い、アニリン塩酸塩水溶液とした。別容器に移した1mLの塩酸水溶液に、重合開始剤である過硫酸アンモニウム((NH4)2S2O8:50mg,0.22mmol)を溶解させた。o−アニシジン塩酸塩水溶液への攪拌、窒素ガスによるバブリングを継続し、過硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、窒素ガスでバブリングを行いながら、30分間攪拌した。
【0063】
その後、バブリングと攪拌を止め、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、出来るだけ吸引して、不溶性のポリ(o−アニシジン)を含む溶液が濾液となるように処理を20分行った。その後、再度、孔径0.5μm、直径47mmの親水性PTFEメンブレンフィルターを用いて60分吸引濾過を行い、不溶性のポリ(o−アニシジン)を完全に除くことで、ポリ(o−アニシジン)水溶液を得た。得られたポリ(o−アニシジン)水溶液に、上記の[Na(H2O)2]xMoO3薄膜を30秒浸漬した後、蒸留水で洗浄し、1時間真空乾燥させることで、(PoANIS)xMoO3薄膜を得た。
【0064】
図14に、ポリ(o−アニシジン)水溶液に浸漬前の[Na(H2O)2]xMoO3薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。図15に、得られた(PoANIS)xMoO3薄膜のCuKα線で測定したX線回折パターンを示す。観測される回折ピークは、基板からのピークと金櫛形電極のピークを除けば、層状構造の[Na(H2O)2]xMoO3又は(PoANIS)xMoO3の(0k0)に帰属している。層間距離は、[Na(H2O)2]xMoO3の層間距離9.6Åより4.1Å増加した13.7Åである。この層間距離の増加は、ポリ(o−アニシジン)が層間にインターカレートしたときの増加に相当することから、(PoANIS)xMoO3薄膜が生成したことが確認出来た。
【0065】
(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのセンサ特性の測定を実施例1で示した装置で行った。測定方法とその条件は、実施例1に準じた。図16、図17は、それぞれ25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのホルムアルデヒド、アセトアルデヒドに対するセンサ特性の測定結果を示す。図18に、ブランク測定の結果を示す。図16、17、18に示す百分率の値は、試料室に流れるガスが切り替えられる直前の抵抗値を基準にした抵抗値の変化量である。
【0066】
図19は、図16で得られたホルムアルデヒド各濃度の応答値と、図18のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図20は、図17で得られたアセトアルデヒド各濃度の応答値と、図18のブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。図19、20は、4個のバッチの結果をプロット(○)(□)(◇)(△)したものであり、図16、17、18のバッチは(○)に相当する。ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド共に50ppb以上という極低濃度のアルデヒドガスに対して、(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサが感知することが示される。また、4個のバッチとも同様の結果であることから、再現性があることも確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上詳述したように、本発明は、高感度ガスセンサ及びその製造方法に係るものであり、本発明により、有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料において、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知することを可能とするガスセンサ材料を製造することが可能となる。これにより、本発明では、健康への有害濃度である数十ppbの極低濃度のアルデヒド系ガスを、本発明の化学センサ単独で検知することが可能となる。本発明は、極低濃度の常時モニタリングが可能になるだけでなく、安価な化学センサを広く普及するための新技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1に示すMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例1に示す[Na(H2O)2]xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例1に示す電気的特性及びセンサ特性の測定を行う装置の概要図で、清浄窒素を試料室に流す状態を示す図である。
【図5】実施例1に示す電気的特性及びセンサ特性の測定を行う装置の概要図で、一定濃度の測定対象ガスを試料室に流す状態を示す図である。
【図6】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、400ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図7】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサの50ppb、75ppb、100ppb、200ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図8】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図9】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのブランク測定を示す図である。
【図10】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのホルムアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【図11】実施例1に示す(PANI)xMoO3薄膜による化学センサのアセトアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【図12】実施例2に示す(PANI)xMoO3薄膜の10ppmのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図13】実施例2に示す(PANI)xMoO3薄膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】実施例3に示す[Na(H2O)2]xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図15】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図16】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのホルムアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図17】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサの25ppb、50ppb、75ppb、100ppb、200ppb、400ppbのアセトアルデヒドに対するセンサ特性を示す図である。
【図18】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのブランク測定を示す図である。
【図19】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのホルムアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【図20】実施例3に示す(PoANIS)xMoO3薄膜による化学センサのアセトアルデヒド各濃度の応答値とブランク測定での応答値の差をプロットしたものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であり、2)無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在せず、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化されている、ことを特徴とするガスセンサ材料。
【請求項2】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項3】
層状構造を持つ無機化合物が、酸化モリブデンを主成分とする化合物である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項4】
有機導電性高分子が、ポリアニリンを主成分とする分子である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項5】
有機導電性高分子が、ポリアニリン誘導体を主成分とする分子である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項6】
ベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を主成分とする、請求項5に記載のガスセンサ材料。
【請求項7】
数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料を製造する方法であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入するプロセスにおいて、不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液を用いて当該無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入し、2)それにより、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製し、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化する、ことを特徴とするガスセンサ材料の製造方法。
【請求項8】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜からなる、請求項7記載のガスセンサ材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載のガスセンサ材料をセンサ素子として含み、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有することを特徴とする化学センサ部材。
【請求項1】
数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子が挿入された有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料であり、2)無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれて存在せず、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化されている、ことを特徴とするガスセンサ材料。
【請求項2】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項3】
層状構造を持つ無機化合物が、酸化モリブデンを主成分とする化合物である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項4】
有機導電性高分子が、ポリアニリンを主成分とする分子である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項5】
有機導電性高分子が、ポリアニリン誘導体を主成分とする分子である、請求項1に記載のガスセンサ材料。
【請求項6】
ベンゼン環のオルト位にアルコキシ基を有するポリアニリン誘導体を主成分とする、請求項5に記載のガスセンサ材料。
【請求項7】
数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する高感度ガスセンサ材料を製造する方法であって、1)層状構造を持つ無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入するプロセスにおいて、不溶の導電性有機高分子を除いた水溶液を用いて当該無機化合物の層間に導電性有機高分子を挿入し、2)それにより、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料からなるガスセンサ材料を作製し、3)抵抗値の変化により、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知するまで高感度化する、ことを特徴とするガスセンサ材料の製造方法。
【請求項8】
層状構造を持つ無機化合物の層間に有機導電性高分子が挿入され、かつ、無機化合物の層間に挿入されていない導電性有機高分子が除かれた有機無機ハイブリッド材料の形状が配向膜からなる、請求項7記載のガスセンサ材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載のガスセンサ材料をセンサ素子として含み、数十ppbの濃度のアルデヒド系のガスを検知する特性を有することを特徴とする化学センサ部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図13】
【公開番号】特開2008−128747(P2008−128747A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312309(P2006−312309)
【出願日】平成18年11月18日(2006.11.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「揮発性有機化合物対策用高感度検出器の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月18日(2006.11.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「揮発性有機化合物対策用高感度検出器の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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