説明

高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット

【課題】 高抵抗透明導電膜、特に抵抗膜式タッチパネル装置等の画面位置確定のために使用されるシート抵抗500〜2000Ω/□程度の高い表面抵抗率を有する透明導電膜の形成に有用である高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】 酸化インジウムと酸化錫を主成分とする焼結体であって、さらに酸化ケイ素又は酸化チタンの少なくとも一方を含有することを特徴とする高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高抵抗透明導電膜、特に抵抗膜式タッチパネル等に使用され、透明度が高く、比較的高い抵抗を持つ透明導電性膜の成膜原料に適した特性を有する高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲットに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、抵抗膜式タッチパネルの需要が急速に伸びている。この抵抗膜式タッチパネルは2枚の透明導電膜を利用して、双方にある電位差を持たせてバイアスをかけ、スイッチが押された位置を電圧降下によって特定するという構成からなっている。位置の特定を正確に行うためには、電圧降下を精度よく測定できなければならない。そのためには、シート抵抗が500〜2000Ω/□程度の高い表面抵抗率を有する透明導電膜が必要となる。
【0003】酸化錫が10wt.%である酸化インジウムと酸化錫との複合酸化物(ITO)の焼結体は抵抗率が小さいために液晶ディスプレイなどの透明導電膜の成膜原料として広く使用されている。一方、抵抗膜型透明タッチパネル用の透明導電膜としてはシート抵抗が500〜2000Ω/□が必要とされ、これを酸化錫が10wt.%であるITOで実現しようとすると、膜厚が極めて薄くなるために、膜の機械的強度、耐久性、抵抗の均一性が損なわれてしまう。
【0004】このため、抵抗率の高い成膜原料が望まれるが、抵抗率の高すぎる膜で膜厚を厚くした場合、透明度が悪くなり表示品位が低下してしまい、さらに原料の無駄でもある。また、ガラス基板、高分子フィルムなどの基材への付着力はITOと同等のものが望ましい。従って、比較的高い抵抗率(ITOの50〜200倍程度)を有し、さらに基材へ付着力がITOと同等である透明導電性膜の成膜原料が望まれる。通常、抵抗膜型透明タッチパネル用の透明導電膜を形成する場合、スパッタリングを使用して成膜されるが、上記に適するスパッタリングターゲットが得られていないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の問題を解決したもので、高抵抗透明導電膜、特に抵抗膜式タッチパネル装置等の画面位置確定のために使用されるシート抵抗500〜2000Ω/□程度の高い表面抵抗率を有する透明導電膜の形成に有用である高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲットを提供することにある。携帯用端末機などの使用されるタッチパネルを例にあげると、例えばPET基板のような材料に成膜されるが、熱、湿度、アルカリ腐蝕、屈曲やカールなどの機械的変形、ペン衝突摩耗などの種々の環境に耐える必要があるが、本発明の高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲットで成膜した透明導電膜はこのような問題も解決することができる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のターゲット材は、従来から広く用いられている酸化錫重量の割合が酸化インジウムと酸化錫の重量の合計に対して0.02〜0.10である酸化インジウムと酸化錫を主成分とする焼結体であり、これに抵抗を増加させる副成分を添加することにより、上記の問題を解決できるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明は、1.酸化インジウムと酸化錫を主成分とする焼結体であって、さらに酸化ケイ素又は酸化チタンの少なくとも一方を含有することを特徴とする高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット2.酸化錫重量の割合が酸化インジウムと酸化錫の重量の合計に対して0.02〜0.10であることを特徴とする上記1記載の高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット3.酸化ケイ素の含有量が2〜40wt.%、酸化チタンの含有量が1〜5wt%であることを特徴とする上記1又は2に記載の高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲットを提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】ITOの抵抗率は酸化錫濃度を減らすことにより増加させることが出来るが、得ようとする抵抗率のためには酸化錫組成が極めて小さくなるために、再現性の良い成膜原料である焼結体を得ることが困難になる。従って、ITOとしては安定な焼結体が得られる酸化錫重量の割合が酸化インジウムと酸化錫の重量の合計に対して0.02〜0.10であることが望ましい。さらに非導電性物質である酸化珪素を添加することで導電性に寄与する体積を減少させ、膜の抵抗率を添加量により調整することができる。
【0008】その最適な添加量の範囲は、酸化珪素2〜40wt.%である。酸化珪素の添加量が多すぎると抵抗率が上がりすぎるため膜厚を厚くしなければならないので、その添加量には上限がある。最大の添加量は膜厚にも依存するが40wt.%以下であることが望ましい。また、若干の酸化チタンを添加することにより、同様に低効率を上昇させ、さらにガラス基板への接着性を向上させることが出来る。しかし、酸化チタンを5wt.%を超えて添加すると逆に膜の付着強度が低下するため、その添加量には上限がある。このようなターゲットを使用することにより、シート抵抗500Ω/□以上の高抵抗膜を容易に形成することが可能となり、抵抗膜式タッチパネル等に好適な、高い表面抵抗率を有する透明導電膜を得ることができる。
【0009】本発明のターゲットを用いて成膜する際のスパッタリング法は、陰極に設置したターゲットにArイオンなどの正イオンを物理的に衝突させ、その衝突エネルギーでターゲットを構成する材料を放出させて、対面している陽極側の基板にターゲット材料とほぼ同組成の膜を積層することによって行われる薄膜形成方法であり、処理時間や供給電力等を調節することによって、安定した成膜速度で数nmの薄い膜から数十μmの厚い膜まで形成できる。ITOのスパッタリングは、成膜時のプロセスコントロールが比較的容易で、生産性が高いという理由から、工業的にはDCマグネトロンスパッタリング法が広く用いられている。本発明は、このような成膜方法に好適なスパッタリングターゲットを提供することができる。
【0010】
【実施例及び比較例】次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0011】(ターゲットの作製)適量の純水に酸化インジウム粉、酸化錫粉、酸化珪素粉、酸化チタン粉を各々所定の割合で混合しスラリーとした後、湿式媒体ミルで混合粉砕する。粉末の割合を表1に示す。表1において、試料番号1、6、11は、本発明の酸化珪素又は酸化チタンを添加していない酸化インジウム粉、酸化錫粉からなる比較例であり、試料番号2〜5、試料番号7〜10及び試料番号12〜15は酸化珪素を添加した本発明の実施例、試料番号16〜23はさらに酸化チタンを添加した本発明の実施例を示す。
【0012】上記湿式媒体ミルで混合粉砕する際に、スラリーの凝集が生じ、粉砕効率が低下する場合は、分散剤などを加えて粉砕する。粉砕したスラリーはPVA等のバインダーを適量添加した後、噴霧式乾燥装置などで乾燥する。得られた乾燥粉をプレスにより成型し、成型体を酸素雰囲気中で焼結することで焼結体を得る。例えば、上記混合粉末を金型に均一充填し、冷間油圧プレスで80MPaの圧力を加えて成形し、さらに160MPaの圧力で冷間静水圧プレスする。
【0013】この成形体をさらに、純酸素雰囲気中、最高温度1600°Cで焼結する。適切な焼結温度は1400°C以上であるが、組成により変化するので、あらかじめ予備実験で最適な値を知っておく必要がある。得られた焼結体を、平面研削盤でダイヤモンド砥石を用いて研削し、さらに側片を、ダイヤモンドカッターを用いて切断する。このターゲット切断ピースを銅製のバッキングプレートにメタルボンディングし、ターゲット表面を研磨仕上げしてスパッタリングターゲットとする。上記の粉末の混合、成形、焼結、研削によりターゲットにする工程及び条件は、一例でありこれらの条件に制限されない。原料粉末又はターゲットの組成により、その条件を任意に変えることができる。
【0014】
【表1】


【0015】(ターゲット及びターゲットの特性評価)上記に示す作製方法で表1に示す試料番号1〜23のターゲットを作製し、DCマグネトロンスパッタリング法でガラス基板上に200nmの膜を作製した。スパッタリング条件は、次の通りである。得られた膜の特性を測定した。
ターゲットサイズ:127×508×6.35mm基板温度:200°Cスパッタガス:Ar+Oスパッタガス圧:0.5Paスパッタガス流量:300SCCMスパッタガス中の酸素濃度:1vol%漏洩磁束密度:0.1T投入スパッタパワー:1500W
【0016】得られた膜について、シート抵抗及び膜の付着力の評価を行った。シート抵抗は4端子法により測定した。付着力は膜に粘着テープを一定の圧力で貼り付けて直角に引き剥がす試験を数回行い、剥離の程度で次の様に評価した。この結果を同様に表1に示す。表中、◎:全く剥離が見られない、○:若干の剥離が発生することもある、△:必ず剥離が発生、である。また、図1は酸化チタンを添加していない、実施例の試料番号2〜15及び比較例の試料番号1、6、11に関する膜のシート抵抗の、酸化珪素の濃度依存性を示すグラフであり、図2はSnO/(In+SnO)=0.05である膜のシート抵抗の酸化チタン濃度依存性を示す図である。
【0017】表1及び図1よりシート抵抗は酸化珪素の添加量により変化させることが出来ることが容易に理解できる。表1及び図1から、シート抵抗を500〜2000Ω/□程度とするには、SnO/(In+SnO)=0.02の膜では酸化珪素が2〜8wt.%で抵抗膜型透明タッチパネル用の透明導電膜として適していることが分かる。同様に、SnO/(In+SnO)=0.05の膜では酸化珪素が5〜22wt.%で抵抗膜型透明タッチパネル用の透明導電膜として適している。また、SnO/(In+SnO)=0.10の膜では酸化珪素が7〜40wt.%で抵抗膜型透明タッチパネル用の透明導電膜として適している。シート抵抗をさらに増加させる必要がある場合には、酸化珪素の割合を増加させることにより達成できる。
【0018】酸化珪素を添加するとシート抵抗は急速に増加するが、酸化錫の比率を増すことにより、そのシート抵抗の増加を緩和する効果がある。したがって、酸化錫と酸化インジウムの比率、すなわちSnO/(In+SnO)は重要であり、膜の目的に応じて酸化錫の添加量及び酸化珪素の添加量を適宜調節することが必要である。また、図2から明らかなように、酸化チタンを添加しても、酸化珪素に比較して、シート抵抗は殆ど変化しないが、表1の付着強度評価より酸化チタンが2wt.%で最も付着性が良く6wt.%では悪化している。したがって、酸化チタンの量は1〜5wt.%の範囲に制限するのが望ましい。
【0019】
【発明の効果】以上に示すように、本発明は酸化インジウムと酸化錫を主成分とし、さらに酸化ケイ素又は酸化チタンの少なくとも一方を含有するターゲットを使用することにより、透明導電膜としての特性を低減することなく、高抵抗の透明導電膜、特に抵抗膜式タッチパネル用として500〜2000Ω/□程度の高い表面抵抗率を有する透明導電膜形成に有用である高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲットを得ることができるという優れた特性を有している。また、酸化チタンを少量添加することにより、同様に表面低効率を上げ、さらにガラス基板への付着強度を増加させることができるという著しい効果が得られる。さらに、酸化ケイ素又は酸化チタンを添加することにより、熱、湿度、アルカリ腐蝕、屈曲やカールなどの機械的変形、ペン衝突摩耗などの種々の環境に対して、従来のタッチパネル用材と同程度又はさらに向上した耐久性を有するタッチパネル用材料を得ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化チタンを添加していない膜のシート抵抗の酸化珪素濃度依存性を示す図である。
【図2】SnO/(In+SnO)=0.05である膜のシート抵抗の酸化チタン濃度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸化インジウムと酸化錫を主成分とする焼結体であって、さらに酸化ケイ素又は酸化チタンの少なくとも一方を含有することを特徴とする高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット。
【請求項2】 酸化錫重量の割合が酸化インジウムと酸化錫の重量の合計に対して0.02〜0.10であることを特徴とする請求項1記載の高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット。
【請求項3】 酸化ケイ素の含有量が2〜40wt.%、酸化チタンの含有量が1〜5wt%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高抵抗透明導電性膜用スパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−277921(P2003−277921A)
【公開日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−76037(P2002−76037)
【出願日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【出願人】(591007860)株式会社日鉱マテリアルズ (545)
【Fターム(参考)】