説明

高架橋の目地部補修工法および補修構造

【課題】寒冷豪雪地域を通る新幹線などの高架橋の目地部の水漏れを効果的に補修する。
【解決手段】補修対象の目地部に既設された目地材を取り外してから、 接合部の端面の目地切りを行い、目地部の目地幅を拡げる。拡げた目地幅に対応させて、旧目地材と同様の伸縮部を有する新たな目地補修材30を目地部に接着し、遊間を止水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋目地部の補修工法に係り、特に、豪雪地域を通る新幹線高架橋での目地部補修工法および補修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、鉄道高架橋の横断面を示す。図11において、参照番号10は、橋桁を示す。12は橋脚である。鉄道高架橋の場合、一段高くなった部分が軌道区間13、13である。橋桁10の両側は低くなって通路、あるいは返送水や雨水が流れる側溝15となっている。
【0003】
高速道路、鉄道をはじめとする高架橋では、橋桁10と橋桁10の接合部分には隙間のあいている目地部があり、個々の橋桁10の長さ方向の伸縮はこの目地部で吸収される。
【0004】
そこで、高架橋の橋桁と橋桁の間の目地部の例として、新幹線高架の目地部断面を図12に示す。
図12において、参照番号20が橋桁10の端面を示す。この橋桁10同士の端面間には、遊間の幅aが設定されている。このような目地部の遊間の幅aは、橋桁10が膨張して伸びると狭くなり、逆に、橋桁10が縮むと広くなる。例えば、長さ50mの橋桁では、20〜30mmの伸び縮みがあるとされており、この伸縮量を吸収する範囲で、遊間の幅aが設定されている。
【0005】
このような遊間aの形成された目地部には、目地材として、カバーゴム20が取り付けられており、このカバーゴム20で、雨水等が下に漏れないないように止水を施している。従来、目地材には、合成ゴムを材質として、直射日光、風雨、寒暖の差などの機構条件や、伸縮の繰り返しに十分耐えるものが用いられる。
【0006】
カバーゴム20には、遊間の幅aの変動に追従できるように、横断面形状がU字形の伸縮部21が形成されている。この伸縮部21の両側には固定部22が形成されている。ベースゴム23の穴に固定部22を挿入することで、カバーゴム20を取り付けることができる。カバーゴム20の上には、保護鋼板24が載置されており、この保護鋼板23は、定着用アンカーボルト25によって固定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の高架橋の目地部に施工される目地材は、経年変化によって、ゴム材質が劣化し、カバーゴム20に破れが生じたり、穴があいたりして、傷んでてくる。そこで、高架橋の目地部には、何らかの補修工事が必要となる。
【0008】
ところで、新幹線高架橋の場合、地域によって、補修の目的も異なってくる。
【0009】
例えば、上越新幹線の上毛高原から先の新潟方面、東北新幹線の仙台以北といったように、冬季の積雪量が多い地域では、線路に積もる雪を除雪するために、スプリンクラーが設けられている。スプリンクラーから散水された水と雪が溶けた水は、橋桁の側溝を流して回収され、除雪用水としてスプリンクラーで再利用されるようになっている。
【0010】
寒冷地域では、目地部のカバーゴム20に穴があいていると、そこから水が橋桁の下に漏れてしまい、スプリンクラー用水として再利用のための回収率が低下するばかりでなく、厳寒期であれば、橋桁からしたたる水が凍って大きなつららとなる。このつららが落下すれば、橋桁の下を通る人や車輌にとって非常に危険な事態となる。
【0011】
また、母材コンクリートの表面が調整モルタルで覆われている橋桁では、コンクリートと調整モルタルの界面の隙間に水が流れて、その水が目地部から漏れるという問題がある。
【0012】
そこで、積雪量の多い地域を通る新幹線の高架橋では、目地部の補修が不可欠とされている。しかし、これまでのところ目地部に施される補修工事は、目地部の傷んだカバーゴム20を新しいものに交換する程度であり、有効な補修工法が開発されていないのが現状である。
【0013】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、寒冷豪雪地域を通る新幹線などの高架橋の目地部の水漏れを効果的に補修することができるようにした高架橋の目地部補修工法および目地部補修構造を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、寒冷豪雪地域を通る新幹線などの高架橋の橋桁の伸縮に対する耐久性を補修強化し、目地部での水漏れを効果的に防止し得るようにした高架橋の目地部補修構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するために、本発明は、橋桁と橋桁との接合部に形成される遊間を有する高架橋の目地部において、前記止水する既設目地材の老朽化により水漏れする目地部を補修する工法であって、補修対象の目地部に既設された目地材を取り外す工程と、前記接合部の端面の目地切りを行い、目地部の目地幅を拡げる工程と、拡げた目地幅に対応させて、旧目地材と同様の伸縮部を有する新たな目地補修材を目地部に接着し、前記遊間を止水する工程と、からなることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明は、橋桁と橋桁との接合部に形成される遊間を有する高架橋の目地部において、前記止水する既設目地材の老朽化により水漏れする目地部の補修構造であって、既設の目地材が取り外され、目地幅の拡げられた遊間を有する目地部に、拡げた目地幅に対応した伸縮部を有する新たな目地補修材を目地部に接着したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、目地幅の変動を吸収するときの相対的な伸び縮みが小さくなるように目地補修材を取り付けられので、目地補修材の耐久性を長期間にわたって確保できるようになり、また既設の目地部に較べて止水性能をより高められるので、寒冷豪雪地域を通る新幹線などの高架橋の目地部を止水する補修を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明による高架橋の目地部補修工法の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の高架橋の目地部補修工法が適用される新幹線高架橋の橋桁の端面の左半分を示す。
【0019】
この図1において、参照番号10は橋桁を示す。橋桁10の中央の一段高くなった部分に軌道区間13が平行に延びている。そして橋桁10の両側は低くなって通路、あるいは返送水や雨水が流れる側溝15となっている。側溝15には、ケーブル部16や、除雪用水を送る送水管17が敷設されている。
【0020】
図1に示されるように、橋桁10と橋桁10との接合部の目地部に補修が施される部分は、第1の補修領域18と第2の補修領域19とがある。第1の補修領域18は、側溝15や、軌道区間13の間の低い部分の目地部に相当しており、第2の補修領域19は、橋桁10の側壁および軌道区間13の目地部に相当している。第1の補修領域18では、止水を完全にするために、既設の古い目地材を新しい目地材に交換する補修を行うのに対して、第2の補修領域では、目地材の交換までは行わずに、目地部をシーリングする充填材を詰め替える補修を行う。
【0021】
補修を実施する以前の第1補修領域18の目地部は、前述した図11のような構造になっており、遊間の幅aの形成された目地部を止水するために、目地材として、カバーゴム20が取り付けられている。カバーゴム20は保護鋼板24によって保護されている。
【0022】
以下、第1補修部18における目地部の補修工法について、その工程を順を追いながら図2乃至図8を参照して説明する。
まず、図2、図3に示すように、劣化したカバーゴム20を取り外す。そして、ベースゴム23や隙間に詰めたモルタル材26をカッターで切断し、すべて既設の目地材を取り出す。露出面はきれいにしておく。さらに、補修工事の間、コンクリートの破片等が遊間から下に落下するのを防止するため、目地部の遊間には発砲スチロール27を詰めておく。
【0023】
次に、図4は、目地部端面の目地切りを行い、目地幅を拡げる工程を示す。この工程ではそれまでの目地幅aを目地幅bに拡げる。実施形態では、既設の目地幅aが30mmだとすると、これを50mmまで拡げる。このような目地切りは、動力付きのハンドカッターで両側をそれぞれ切り代10mm程度でコンクリートを切除して行う。目地切りをする深さcは、この場合、80mm程度である。
【0024】
こうして目地幅を拡げた目地部には、図6に示すように、目地補修材30を目地部の溝に装着し、遊間を止水する。この目地補修材30は、図5に示すような形状の細長い目地材であり、伸縮部31と、その両側にある板状の突き合わせ部32、32とが一体になった合成ゴムを材質とする部材である。目地補修材30の伸縮部31は、U字形の横断面形状を持っており、伸縮部31の変形により目地部の遊間幅の変動に追従するようになっている。突き合わせ部32、32は、目地切りした取り付け溝の壁面に接着される帯板状の部材である。
【0025】
そこで、目地切りによって目地幅bに拡げた部分を取り付け溝として、図6に示すように、伸縮部31を上に凸の姿勢にして、目地補修材30を装着する。このとき、突き合わせ部32、32は接着材33で取り付け溝の壁面に接着される。なお、目地補修材30の伸縮部31は、装着したとき圧縮状態にある。
【0026】
続いて、図6に示すように、既設のベースゴム23の替わりに、嵩上げ用のスポンジシート36を接着し、コンクリートの露出面にプライマー37を塗布して、充填材注入の準備作業をする。この場合、プライマーとしては、アクリル樹脂製のプライマーが用いられる。
【0027】
こうした準備作業の後、図8に示すように、スポンジシート36の上に残った空間に充填材38を注入する。この場合、充填材注入部の壁面には、充填材との接着性を高めるため、プライマーを塗布しておく。しかる後、充填材38を目地部の充填材表面が橋桁表面と同じ高さになるまで注入する。充填材38としては、アクリル樹脂が用いられる。
【0028】
最後に、図8に示すように、充填材38の劣化を防止するために、充填材38の表面には、耐候性塗料39の塗布を行う。
【0029】
以上のようにして、橋桁10と橋桁10との接合部に形成される遊間を有する高架橋の目地部を補修することにより、以下のように、目地部からの水漏れを効果的に防止することができる。
【0030】
まず、目地補修材30に機能について説明すると、この目地補修材30は、目地部を止水するシール材であるが、橋桁10の伸縮に伴う目地幅の変動に追従して、伸縮部31が変形しこれを吸収する。この点は、既設のカバーゴム20も同様の機能をもっている。
【0031】
しかし、本実施形態の補修工法では、目地切りを行って、目地幅を拡げているため、目地幅が既設当初のままである場合と較べると、補修前後で同じようなサイズの目地補修材30を利用したとしても、目地補修材30にかかる負荷が小さくなる。
【0032】
例えば、橋桁の伸縮量による目地幅の変動量が20mm、補修前の目地幅が30mm、補修後の目地幅が50mmとする。
もし、補修の前後で目地幅を変えないとすれば、目地幅は10〜30mmの範囲で変動し、目地材は20/30の比率で伸縮する。ところが、補修による目地幅を拡げると、目地幅の変動量それ自体は変わらないから、目地補修材30は、20/50の比率で伸縮する。このことから、目地幅を拡げることによって、目地幅の変動を吸収するときの相対的な伸び縮みが小さくなるので、目地補修材30の耐久性を長期間にわたって確保できるようになる。
さらに、本実施形態の補修工法では、既設の目地材を取り除いた部分に充填材38を充填しており、この充填材38は、目地幅の変動に追従して変形する弾性ロック材として機能することから、目地補修材30と併せて二重の止水構造とすることができるので、既設のカバーゴム20からなる止水構造に較べると、止水性能をより強化することができる。
【0033】
とりわけ、豪雪地域を通る新幹線高架橋の場合のように、スプリンクラーで除雪し、溶けた水を除雪用水としてスプリンクラーで再利用されるようになっている高架橋では、有効な目地補修を施すことが可能となる。
【0034】
なお、豪雪地以外の区間の場合、目地部の補修工法を簡略し、図2から図7までの工程により目地補修材30を取り付けた後、充填材38を注入する工程は省略し、図9のような保護鋼板24で覆うようにしてもよい。
【0035】
次に、図10は、本発明の他の実施形態を示す。
この実施形態では、橋桁10の母材コンクリートの表面は、調整モルタル40で覆われている。このように調整モルタル40でコンクリートを覆った場合、コンクリートと調整モルタル40の間の界面にできる隙間を水が流れるので、この内部流水を止水するため、以下のように補修する。
【0036】
すなわち、参照番号41は、コンクリートと調整モルタルの界面を止水する接着剤等の止水材で、42は、止水材を紫外線等から保護する保護材を示す。
【0037】
この実施形態では、コンクリートを切断して目地幅を拡げた部分は、浅くても十分であり、その替わり、保護材42の間隔は拡げた目地幅の寸法に対応するようになっている。目地幅を拡げた遊間に目地補修材30を装着する点は上述した実施形態と同様であるので、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、説明は省略する。
【0038】
以上の図10の実施形態によれば、橋桁10の表面を流れる除雪用水等を止水できるだけでなく、母材コンクリートと調整モルタル40の界面の隙間を通ってくる内部流水を確実に止水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による高架橋目地部の補修工法が適用される新幹線高架橋の橋脚の端面を示す図。
【図2】補修前の高架橋目地部を示す横断面図。
【図3】本発明の一実施形態による高架橋目地部の補修工法において、要補修の目地部からカバーゴムを取り外した状態を示す断面図。
【図4】本発明の一実施形態による高架橋目地部の補修工法において、要補修の目地部から目地材を取り外し、目地切りする工程を示す断面図。
【図5】本発明の一実施形態による高架橋目地部の補修工法において、要補修の目地部に取り付ける目地補修材を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態による高架橋目地部の補修工法において、要補修の目地部に目地補修材を取り付けた状態を示す断面図。
【図7】本発明の一実施形態による高架橋目地部の補修工法において、要補修の目地部に目地補修材の上にスポンジシートを取り付けた状態を示す断面図。
【図8】本発明の一実施形態による高架橋目地部の補修工法において、目地部の補修が完了した状態を示す断面図。
【図9】本発明の他の実施形態による高架橋目地部の補修工法において、目地部の補修が完了した状態を示す断面図。
【図10】本発明の他の実施形態による高架橋目地部の補修工法において、コンクリート母材の表面が調整モルタルで覆われた部分の目地部の補修が完了した状態を示す断面図。
【図11】鉄道高架橋の横断面図。
【図12】従来の高架橋目地部の構造を示す横断面図。
【符号の説明】
【0040】
10 橋桁
13 軌道区間
15 側溝
16 ケーブル部
17 送水管
20 カバーゴム
23 ベースゴム
27 発泡スチロール
30 目地補修材
31 伸縮部
32 突き合わせ部
36 スポンジシート
38 充填材
40 調整モルタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁と橋桁との接合部に形成される遊間を有する高架橋の目地部において、前記止水する既設目地材の老朽化により水漏れする目地部を補修する工法であって、
補修対象の目地部に既設された目地材を取り外す工程と、
前記接合部の端面の目地切りを行い、目地部の目地幅を拡げる工程と、
拡げた目地幅に対応させて、旧目地材と同様の伸縮部を有する新たな目地補修材を目地部に接着し、前記遊間を止水する工程と、
からなることを特徴とする高架橋の目地部補修工法。
【請求項2】
前記新たな目地補修材を固着した後、さらに、該目地補修材の上に残った空間に樹脂材料の充填材を注入することを特徴とする請求項1に記載の高架橋の目地部補修工法。
【請求項3】
前記高架橋は、積雪地域を通る新幹線高架橋であることを特徴とする請求項1または2に記載の高架橋の目地部補修工法。
【請求項4】
橋桁と橋桁との接合部に形成される遊間を有する高架橋の目地部において、前記止水する既設目地材の老朽化により水漏れする目地部の補修構造であって、
既設の目地材が取り外され、目地幅の拡げられた遊間を有する目地部に、拡げた目地幅に対応した伸縮部を有する新たな目地補修材を目地部に接着したことを特徴とする高架橋の目地部補修構造。
【請求項5】
前記新たな目地材の上に残った空間は樹脂材料の充填材で充填されていることを特徴とする請求項4に記載の高架橋の目地部補修構造。
【請求項6】
前記新たな目地補修材は、断面U字形の伸縮部を有するゴム材質のシール材からなることを特徴とする請求項4または5に記載の高架橋の目地部補修構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−133655(P2008−133655A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320402(P2006−320402)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000230526)日本ヴィクトリック株式会社 (39)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】