説明

高架橋樹脂添加グリース組成物

【課題】この高架橋樹脂添加グリース組成物は,グリースに高架橋樹脂ビーズを添加することによって,亜鉛メッキされた部材に対して摺動馴染み性を持たせることができる。
【解決手段】 この高架橋樹脂添加グリース組成物は,基油,増ちょう剤,及び添加剤から成るグリースに対して,少なくとも高架橋樹脂ビーズを添加し,更に増粘剤を添加することが好ましい。この高架橋樹脂添加グリース組成物は,基油は,特に,合成炭化水素油が好ましい。高架橋樹脂ビーズは,特に,架橋アクリル単分散粒子,架橋ポリスチレン単分散粒子,及びこれらの混合物から選択されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,自動車部品,各種機器等の部品における噛み合い部,ロック部,係止部等の摺動部に適用して馴染み性を促進することができる高架橋樹脂添加グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,亜鉛メッキが施された鋼板等の金属板に対する摺動特性を向上させた摺動部材が知られている。例えば,このような摺動部材として知られている複層摺動部材は,鋼板,亜鉛メッキ鋼板,ニッケルメッキ鋼板等の金属裏金と該金属裏金の表面に形成されたフッ素樹脂から成る接合層と該接合層に一体に被着形成された四フッ化エチレン樹脂を含有した芳香族ポリアミド樹脂ペーパから成る摺動層とから成り,該摺動層には複数個の凹部が形成されていると共に該凹部には潤滑油剤が充填されているものである(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
また,低速度で高面圧条件,中速度ないし高速度で低面圧条件の下で使用されても優れた摺動特性を発揮させる含油複層摺動部材が知られている。該含油複層摺動部材は,鋼板,亜鉛メッキ鋼板,ニッケルメッキ鋼板等の金属裏金と該金属裏金の表面に形成されたフッ素樹脂から成る接合層と該接合層に一体に被着形成された四フッ化エチレン樹脂を含有した芳香族ポリアミド樹脂ペーパから成る摺動層とからなり,該摺動層には常温で液状ないしペースト状を呈するか,又は加温時液状を呈する潤滑油剤が含浸されているものである(例えば,特許文献2参照)。
【0004】
また,架橋樹脂組成物と潤滑油又は潤滑油を基油とするグリースとから成る混合物を用いて,これを架橋樹脂組成物の融解温度以上に加熱し,次いで冷却固化して得られた潤滑性組成物が知られている。該架橋樹脂組成物は,ポリプロピレン,ポリエチレン及びエチレン・プロピレン・非共役ジェン三元共重合体を混合して架橋したものである(例えば,特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−192961号公報
【特許文献2】特開平11−315294号公報
【特許文献3】特開平8−27475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,亜鉛メッキが施された鋼板等の金属製部材の噛み合い部,ロック部,係止部等の摺動部に対して潤滑を行うにあたり,グリースに各種の添加剤を配合して亜鉛メッキに対する潤滑性を試験したところ,例えば,極圧添加剤については亜鉛に対して反応性が悪く,潤滑性の向上については,ほとんど効果が発揮されず,また,摺動部材に施された亜鉛メッキそのものが圧力や摺動により亜鉛メッキを施した基材である鉄材から亜鉛メッキが剥がされて,剥げ落ちた破片が異物としてグリース中に混入してしまうという問題が発生していた。また,通常添加される添加剤をグリースに配合し,そのグリースを亜鉛メッキされた摺動部材に塗布して状態を検討したが,安定した潤滑性能を発揮することが困難な状況であった。
【0006】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,亜鉛メッキした鉄部材等の摺動部品に対して使用するグリースに馴染み促進剤として高架橋樹脂ビーズを添加し,高架橋樹脂ビーズを添加したグリースを摺動部を持つ摺動部材に塗布し,該摺動部材の部品を繰り返し摺動させても部品の摺動部に対して使用初期から安定した潤滑性能を長期間にわたって発揮させることができる高架橋樹脂添加グリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は,基油,増ちょう剤,及び添加剤から成るグリースに少なくとも高架橋樹脂ビーズを添加して,亜鉛メッキされた金属材から成る摺動部材に対して摺動馴染み性を持たせたことを特徴とする高架橋樹脂添加グリース組成物に関する。
【0008】
また,この高架橋樹脂添加グリース組成物において,前記基油は,合成炭化水素油である。
【0009】
また,この高架橋樹脂添加グリース組成物は,前記添加剤として少なくとも増粘剤が含まれている。また,前記増粘剤は,特に,炭化水素重合物系から選択される少なくとも1種であることが好ましい。更に,前記炭化水素重合物系増粘剤は変性αオレフィン重合物又はエチレン・αオレフィンコオリゴマーであることが好ましい。
【0010】
また,この高架橋樹脂添加グリース組成物において,前記増ちょう剤は,リチウム石けん,リチウム複合石けん,アルミニウム複合石けん,カルシウム石けん,ナトリウム石けん,ウレアから選ばれる少なくとも1種である。
【0011】
また,この高架橋樹脂添加グリース組成物において,前記高架橋樹脂ビーズは,前記グリースに対して0.5〜3wt%配合されているものである。特に,前記高架橋樹脂ビーズは,架橋アクリル単分散粒子,及び架橋ポリスチレン単分散粒子から選択される少なくとも1種であることが好ましい。更に,前記架橋アクリル単分散粒子の平均粒子径は1〜20μmであり,前記架橋ポリスチレン単分散粒子の平均粒子径は1〜5μmであることが好ましい。
【0012】
また,この高架橋樹脂添加グリース組成物は,前記添加剤として,酸化防止剤,極圧添加剤,固体潤滑剤,油性剤から選択される少なくとも1種が添加されている。
【0013】
また,前記摺動部材は,前記亜鉛メッキされた鉄製部材である。具体的には,前記摺動部材は,ドアロック機構,ウインドレギュレータ,シートレール等の自動車部品,及び各種機器における噛み合い部,ロック部,係止部等の摺動部を備えた部材である。
【発明の効果】
【0014】
この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物は,上記のように構成されているので,グリースに添加した高架橋樹脂ビーズが一種の摩擦材として機能し,高架橋樹脂ビーズが摺動部材に施した亜鉛メッキを,強制的に細かい粒子状に研磨させて初期馴染みさせることになり,亜鉛メッキを施した摺動部材の部品の摺動面を安定した平滑化した潤滑面へ予め変化させることになり,初期から長期間にわたって安定した潤滑性能を発揮させると共に,摩擦係数も初期から安定した性能を確保することができる。また,この高架橋樹脂添加グリース組成物は,特に,ドアロック機構,ウインドレギュレータ,シートレール等の自動車部品,各種装置における歯先部,噛み合い部,ロック部,係止部等の動き部分を構成する摺動部に適用して好ましく,摺動部の騒音発生防止効果,作動性能をスムーズに発揮でき,極圧性,潤滑性を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物は,例えば,ドアロック機構,ウインドレギュレータ,シートレール等の自動車部品,各種機器等の部品における噛み合い部,ロック部,係止部,歯先部等の摺動部に塗布して,部品間での馴染み性を良好にして好ましいものである。
【0016】
以下,図面を参照して,この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物の実施例を説明する。この高架橋樹脂添加グリース組成物は,主として,基油,増ちょう剤,及び添加剤から成るグリースに,亜鉛メッキされた鉄製等の金属材の摺動部材に対して摺動馴染み性を持たせるため,少なくとも高架橋樹脂ビーズが添加されていることを特徴とするものである。この高架橋樹脂添加グリース組成物では,基油としては,合成油や鉱油のうちでも,特に,合成炭化水素油を用いることが好ましい。また,この高架橋樹脂添加グリース組成物は,添加剤として,増粘剤が少なくとも添加されていることによって,摺動部からグリースが除去されず,摺動面に付着して初期から長期にわたって馴染み性を大幅に向上させることができる。増粘剤は,概して,高分子ポリマー単体又はそれを油に溶解したものであり,炭化水素重合物系,石油樹脂系,スチレン系,ポリメタクリレート系から選択される少なくとも1種を用いることができるが,増粘剤のなかでも,特に,炭化水素重合物系として変性αオレフィン重合物,エチレン・αオレフィンコオリゴマーを用いることが,摺動部においてグリースを長期にわたって留まらせて馴染み性を大幅に向上させることができ,好ましいものである。
【0017】
また,この高架橋樹脂添加グリース組成物に添加されている増ちょう剤としては,リチウム石けん,リチウム複合石けん,アルミニウム複合石けん,カルシウム石けん,ナトリウム石けん,ウレアから選ばれる少なくとも1種を使用することができるが,特に,この高架橋樹脂添加グリース組成物では,増ちょう剤としてリチウム石けん及び/又はリチウム複合石けんが添加されたリチウム系グリースを使用することが好ましいものである。
【0018】
特に,この高架橋樹脂添加グリース組成物において,高架橋樹脂ビーズは,架橋アクリル単分散粒子,架橋ポリスチレン単分散粒子,及びこれらの混合物から選択されるものが使用されていることを特徴とする。更に,高架橋樹脂ビーズを構成する前記架橋アクリル単分散粒子の平均粒子径は,1〜20μm,特に,1.5μm前後であることが好ましい。また,架橋ポリスチレン単分散粒子の平均粒子径は,1〜5μm,特に,1.3μm前後であることが好ましい。また,高架橋樹脂ビーズは,グリースに対して0.4〜6wt%,特に,0.5〜3wt%程度配合されていることが好ましいものである。
【0019】
この高架橋樹脂添加グリース組成物では,架橋アクリル単分散粒子は,粒子径の揃った単分散の機能を利用したものであり,1〜20μmの領域で粒子径をコントロールできるが,ここでは,粒子径1.5μm前後を使用することが馴染み促進剤として好ましいので,実施例ではそのサイズを使用した。
【0020】
この高架橋樹脂添加グリース組成物では,添加剤としては,増粘剤の他に,使用目的に応じて酸化防止剤,極圧添加剤,固体潤滑剤,油性剤から選ばれる少なくとも1種を混合することができるものである。
【0021】
この高架橋樹脂添加グリース組成物について,例えば,実施例1及び実施例2として,表1に示すような組成からそれぞれ構成し,これらの実施例1,2について,往復摺動試験と摩耗痕観察を行った。その結果は,図1〜図5及び表2に示されている。
【0022】
【表1】

実施例1は,表1に示すように,基油としての合成炭化水素油:44.55wt%,増ちょう剤としてのリチウム石けん:7.95wt%,馴染み促進剤の機能を持つ高架橋樹脂ビーズとしての架橋アクリル単分散粒子:0.75wt%と架橋ポリスチレン単分散粒子:0.75wt%,添加剤のうちエチレン系増粘剤A,Bとしてエチレン・αオレフィンコオリゴマー:27.00wt%,炭化水素重合物系増粘剤として変性αオレフィン重合物:4.50wt%,並びにその他の添加剤として,フェノール系の酸化防止剤:0.50wt%,極圧添加剤としてアルキル鎖1級と2級:8.00wt%,カルシウムステアレート系固体潤滑剤:1.50wt%,リチウムステアレート系固体潤滑剤:1.50wt%,及びアルキルナフタレン系油性剤:3.00wt%である。
【0023】
また,実施例2は,表1に示すように,基油としての合成炭化水素油:44.05wt%,増ちょう剤としてのリチウム石けん:7.95wt%,馴染み促進剤の機能を持つ高架橋樹脂ビーズとして架橋アクリル単分散粒子:0.50wt%と架橋ポリスチレン単分散粒子:0.50wt%,添加剤のうち増粘剤A,Bとしてエチレン・αオレフィンコオリゴマー:28.00wt%,増粘剤Cとして炭化水素重合物:4.50wt%,並びにその他の添加剤として,フェノール系の酸化防止剤:0.50wt%,極圧添加剤としてアルキル鎖1級と2級:8.00wt%,カルシウムステアレート系固体潤滑剤:1.50wt%,リチウムステアレート系固体潤滑剤:1.50wt%,及びアルキルナフタレン系油性剤:3.00wt%である。なお,フェノール系の酸化防止剤の化学名は,ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチル−エーテル)−4−ヒドロキシ−C7−C9側鎖アルキルエステルである。
【0024】
また,この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物との比較のため,高架橋樹脂ビーズを含んでいない組成から構成されている比較例を作製した。比較例の組成は表1に示されている。比較例について,往復摺動試験と摩耗痕観察を行った。その結果は,図1〜図5及び表2に示されている。
【0025】
【表2】

表2において,レーザー顕微鏡による摺動面の摩耗痕を観察した結果を示す。表2において,◎は摺動面において凹凸が無く摩擦係数が良好な状態を示す。○は摺動面において◎に比較して若干凹凸があって摩擦係数にやや不安定さがあるが,高架橋樹脂ビーズの添加効果が発揮されている状態を示す。△は摺動面において少々凹凸があって摩擦係数にやや不安定さがあるが,初期馴染み性を若干向上させる状態を示す。また,×は摺動面において多くの凹凸が存在し,摩擦係数に不安定な状態を示す。
【0026】
この高架橋樹脂添加グリース組成物は,次の工程により製造することができる。基油に増ちょう剤を混合し,攪拌しながら210℃まで加熱し,増ちょう剤の石けんを溶解させた後,これを攪拌しながら冷却する。冷却後に,各種の添加剤を混合し,3段ロールミルを使用してミーリング処理を行って高架橋樹脂添加グリース組成物を得た。
【0027】
次に,この高架橋樹脂添加グリース組成物について,実施例1,実施例2,高架橋樹脂ビーズを添加していない試料(比較例),その他に,基油を変えた試料,増ちょう剤を変えた試料,グリースへの高架橋樹脂ビーズの添加量を変えた試料,グリースに種類の異なった高架橋樹脂ビーズを添加した試料について作製し,往復摺動試験機による各試料の摺動回数に対する静摩擦係数(μ)と動摩擦係数(μ)とを試験し,これらの試料についてレーザー顕微鏡で摩耗痕観察を行った。その結果を図1〜図5及び表2に示す。
【0028】
図1の(A)と(B)には,高架橋樹脂ビーズの添加効果による馴染み性の試験結果のグラフが示されている。図1の(A)には,摺動回数に対する静摩擦係数(μ)が示されており,図1の(B)には,摺動回数に対する動摩擦係数(μ)が示されている。
図1において,実線は,実施例1及び実施例2のように,グリースに高架橋樹脂ビーズを添加した試料a,及び点線は比較例のように,グリースに高架橋樹脂ビーズを添加していない試料bである。
図1のグラフから分かるように,高架橋樹脂ビーズを添加した試料aは,静摩擦係数(μ)及び動摩擦係数(μ)の両者とも,摺動部について初期から長期にわたって馴染み性が安定していることが分かる。これに対して,高架橋樹脂ビーズを配合しなかったグリース,即ち,表1に示す組成を有している試料b即ち比較例は,静摩擦係数(μ)は摺動回数を重ねるに従って不安定になって大幅に上昇しており,また,動摩擦係数(μ)は約3000回以下では低く安定しているが,それ以上になると上昇する傾向がある。従って,高架橋樹脂ビーズを添加することによって,摺動部に対するグリースの馴染み性が初期から長期にわたって向上することが分かる。
また,試料a,bについて,レーザー顕微鏡による摩耗痕観察では,実施例1,2の試料aでは摺動面が平滑な潤滑面が形成され,その評価は◎であるが,比較例の試料bでは摺動面が凹凸が多く存在する潤滑面になり,その評価は×になった。即ち,往復摺動試験と摩擦痕を観察したところ,試料bは,マイクロスコープでは,綺麗に馴染んでいるように見えるが,レーザー顕微鏡で観察すると,表面が起伏の激しい状態であって摺動面が荒れていることが分かった。
【0029】
次に,図2の(A)と(B)には,基油の相違による馴染み性の試験結果のグラフが示されている。図2の(A)には,合成炭化水素油(PAO)グリースの試料cと鉱油グリースの試料dとについて,摺動回数に対する静摩擦係数(μ)が示されており,図2の(B)には,それらの摺動回数に対する動摩擦係数(μ)が示されている。
図2において,実線は,実施例1及び実施例2のように,リチウム石けんを添加した合成炭化水素油(PAO)グリースである試料c,及び点線は,リチウム石けんを添加した鉱油グリース即ち試料dである。
図2のグラフから分かるように,PAOグリースの試料cは,静摩擦係数(μ)及び動摩擦係数(μ)の両者とも,摺動部に対する馴染み性が初期から長期にわたって安定していることが分かる。これに対して,鉱油グリースの試料dは,静摩擦係数(μ)は摺動回数が10回以下では高く初期馴染み性が不十分であるが,摺動回数が多くなるに従って低く安定してくるが,概して試料cより低くなることはなく,また,動摩擦係数(μ)は摺動回数が10回以下では若干高いが,摺動回数が増加するに従って,試料cと同様に安定する傾向がある。従って,基油として,合成炭化水素油グリースが最も好ましいが,鉱油でもグリースの馴染み性が初期を除いて向上するので,鉱油グリースを使用する場合には,初期馴染み性をクリアするまで摺動回数を行う等の処理をする方が好ましい。
また,試料c,dについて,レーザー顕微鏡による摩耗痕観察では,表2に示すように,試料cでは摺動面が平滑な潤滑面が形成されており,評価は◎であり,また,試料dでは摺動面が少々凹凸があって摩擦係数にやや不安定さがあり,評価は△であったが,初期馴染み性を若干有している状態を示しているといえる。
【0030】
図3の(A)と(B)には,増ちょう剤が相違するグリースの馴染み性の試験結果,及び高架橋樹脂ビーズを添加及び無添加によるグリースの馴染み性の試験結果のグラフが示されている。図3の(A)には,摺動回数に対する静摩擦係数(μ)が示されており,図3の(B)には,摺動回数に対する動摩擦係数(μ)が示されている。
図3において,幅の短い点線は高架橋樹脂ビーズを添加していないリチウム石けんグリースの試料e,実線は高架橋樹脂ビーズを添加したリチウム石けんグリースの試料f,一点鎖線は高架橋樹脂ビーズを添加したアルミニウム複合石けんの試料g,及び幅の長い点線は高架橋樹脂ビーズを添加したウレアグリースの試料hである。
図3のグラフから分かるように,高架橋樹脂ビーズを添加していないリチウム石けんグリースの試料eは,静摩擦係数(μ)は摺動回数を重ねるに従って不安定になって大幅に上昇しており,動摩擦係数(μ)は最初は若干高いが,低く安定している。また,高架橋樹脂ビーズを添加したリチウム石けんのグリースの試料fは,静摩擦係数(μ)及び動摩擦係数(μ)の両者とも,馴染み性が初期から長期にわたって安定していることが分かる。高架橋樹脂ビーズを添加したアルミニウム複合石けんの試料gは,静摩擦係数(μ)及び動摩擦係数(μ)の両者とも,馴染み性が初期から長期にわたって安定していることが分かる。更に,高架橋樹脂ビーズを添加したウレアグリースの試料hは,静摩擦係数(μ)及び動摩擦係数(μ)の両者とも,馴染み性が初期から長期にわたって安定していることが分かる。
上記のことより,摺動部に対するグリースの馴染み性の性能は,グリースに配合する増ちょう剤の相違によって殆ど相違はなく,高架橋樹脂ビーズを添加するか否かによって相違することが分かる。
また,試料e,f,g,及びhについて,レーザー顕微鏡による摩耗痕観察では,表2に示すように,試料f,g,及びhでは,摺動面が平滑な潤滑面が形成されており,初期馴染み性が大幅に向上しており,それらの評価は◎である。また,試料eでは摺動面が凹凸が多く存在する潤滑面になっており,評価が×であり,摺動部に対する馴染み性を期待できないことが分かった。即ち,往復摺動試験と摩擦痕を観察したところ,試料eはマイクロスコープでは,綺麗に馴染んでいるように見えるが,レーザー顕微鏡で観察すると,表面が起伏の激しい状態であって面が荒れていることが分かった。
【0031】
図4の(A)と(B)には,高架橋樹脂ビーズの配合量の違うグリースの馴染み性の試験結果,及び高架橋樹脂ビーズを添加及び無添加によるグリースの馴染み性の試験結果のグラフが示されている。図4の(A)には,摺動回数に対する静摩擦係数(μ)が示されており,図4の(B)には,摺動回数に対する動摩擦係数(μ)が示されている。
図4において,太い点線は高架橋樹脂ビーズを添加していないグリースの試料i,細い点線は高架橋樹脂ビーズが0.5質量%添加したグリースの試料j,二点鎖線は高架橋樹脂ビーズが1.0質量%添加したグリースの試料k,太い実線は高架橋樹脂ビーズが1.5質量%添加したグリースの試料m,及び細い実線は高架橋樹脂ビーズが3.0質量%添加したグリースの試料nである。
図4のグラフから分かるように,高架橋樹脂ビーズを添加していないグリースの試料iは,静摩擦係数(μ)は摺動回数を重ねるに従って不安定になって大幅に上昇しており,動摩擦係数(μ)は最初は若干高いが,低く安定している。高架橋樹脂ビーズが0.5質量%添加した試料jは,静摩擦係数(μ)が摺動回数が1000回以上では若干不安定になるものの,静摩擦係数(μ)と動摩擦係数(μ)はほぼ安定しており,初期馴染み性が向上している。また,高架橋樹脂ビーズの添加量が順次増加する試料k,試料m,及び試料nは,静摩擦係数(μ)と動摩擦係数(μ)は安定しており,馴染み性が初期から長期にわたって向上している。従って,グリースには,高架橋樹脂ビーズを0.5質量%でも添加すれば,摺動部に対する馴染み性が初期から長期にわたって向上することが分かる。 また,試料i,j,k,m及びnについて,レーザー顕微鏡による摩耗痕観察では,表2に示すように,試料iは摺動面において凹凸があって摩擦係数についても不安定さがあり,摺動部に対する馴染み性が期待できず,評価は×であった。また,試料jは摺動面において若干凹凸があって摩擦係数にやや不安定さがあるものの,高架橋樹脂ビーズの添加効果が発揮されている状態を示し,評価は○であった。また,試料k,m及びnでは,摺動面が平滑な潤滑面が形成されており,馴染み性が初期から長期にわたって大幅に向上しており,評価は◎であった。
【0032】
図5の(A)と(B)には,異なった高架橋樹脂ビーズによる馴染み性の試験結果のグラフが示されている。図5(A)には,摺動回数に対する静摩擦係数(μ)が示されており,図5の(B)には,摺動回数に対する動摩擦係数(μ)が示されている。
図5において,細い点線は高架橋樹脂ビーズとして架橋ポリスチレン単分散粒子を100%添加したグリースの試料p,細い実線は高架橋樹脂ビーズとして架橋アクリル単分散粒子を100%添加したグリースの試料q,太い点線は架橋ポリスチレン単分散粒子を25%と架橋アクリル単分散粒子を75%とを添加したグリースの試料r,太い実線は架橋ポリスチレン単分散粒子を50%と架橋アクリル単分散粒子を50%とを添加したグリースの試料s,及び二点鎖線は架橋ポリスチレン単分散粒子を75%と架橋アクリル単分散粒子を25%とを添加したグリースの試料tである。
図5のグラフ及び表2から分かるように,架橋ポリスチレン単分散粒子と架橋アクリル単分散粒子とを同量添加したグリースの試料sが最も馴染み性が初期から長期にわたって大幅に向上しており,評価は◎であった。また,架橋ポリスチレン単分散粒子と架橋アクリル単分散粒子との添加量が異なっている試料p,q,r,及びtについては,馴染み性については殆ど差異がなく,架橋ポリスチレン単分散粒子と架橋アクリル単分散粒子との配合量を異ならせても,十分に馴染み性が初期から長期にわたって向上しており,それらの評価は○であった。
従って,この高架橋樹脂添加グリース組成物では,高架橋樹脂ビーズとしては,架橋ポリスチレン単分散粒子及び/又は架橋アクリル単分散粒子を添加していれば,摺動部に対する馴染み性を向上させることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物は,特に,ドアロック機構,ウインドレギュレータ,シートレール等の自動車部品,各種機器等の摺動面,噛み合い部,歯先部,ロック部,係止部等の相対摺動部材間の摺動部に使用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物について,高架橋樹脂ビーズの添加効果による初期馴染み性の試験結果を示すグラフである。
【図2】この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物について,基油として合成炭化水素油(PAO)が好ましいことを示す試験結果を示すグラフである。
【図3】この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物について,増ちょう剤の相違するグリース,高架橋樹脂ビーズを添加,及び無添加のグリースについての試験結果を示すグラフである。
【図4】この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物について,高架橋樹脂ビーズの配合量の相違するグリース,高架橋樹脂ビーズを添加,及び無添加のグリースについての初期馴染み性の試験結果を示すグラフである。
【図5】この発明による高架橋樹脂添加グリース組成物について,異なった高架橋樹脂ビーズによる初期馴染み性の試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油,増ちょう剤,及び添加剤から成るグリースに少なくとも高架橋樹脂ビーズを添加して,亜鉛メッキされた金属材から成る摺動部材に対して摺動馴染み性を持たせたことを特徴とする高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項2】
前記基油は,合成炭化水素油であることを特徴とする請求項1に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項3】
前記添加剤として,少なくとも増粘剤が含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項4】
前記増粘剤は,炭化水素重合物系から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項5】
前記炭化水素重合物系増粘剤は,変性αオレフィン重合物,又はエチレン・αオレフィンコオリゴマーであることを特徴とする請求項4に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項6】
前記増ちょう剤は,リチウム石けん,リチウム複合石けん,アルミニウム複合石けん,カルシウム石けん,ナトリウム石けん,ウレアから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項7】
前記高架橋樹脂ビーズは,前記グリースに対して0.5〜3wt%配合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項8】
前記高架橋樹脂ビーズは,架橋アクリル単分散粒子,及び架橋ポリスチレン単分散粒子から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項9】
前記架橋アクリル単分散粒子の平均粒子径は1〜20μmであり,前記架橋ポリスチレン単分散粒子の平均粒子径は1〜5μmであることを特徴とする請求項8に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項10】
前記添加剤として,酸化防止剤,極圧添加剤,固体潤滑剤,油性剤から選択される少なくとも1種が添加されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項11】
前記摺動部材は,前記亜鉛メッキされた鉄製部材であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。
【請求項12】
前記摺動部材は,ドアロック機構,ウインドレギュレータ,シートレール等の自動車部品,及び各種機器における噛み合い部,ロック部,係止部等の摺動部を備えた部材であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の高架橋樹脂添加グリース組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−38047(P2008−38047A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215459(P2006−215459)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(390022275)株式会社日本礦油 (25)
【Fターム(参考)】