高機能性タンパク質の迅速、高効率な選択法、それによって得られる高機能性タンパク質、およびその製造方法と利用方法
以下の工程(a)〜(d)により、標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸を選択することにより高機能性タンパク質またはそれをコードする核酸を迅速かつ高効率に選択する方法。
(a)タンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程。
(b)(a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンのついたスペーサーを連結した後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子のライブラリーを構築する工程。
(c)対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程。
(d)対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程。
(a)タンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程。
(b)(a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンのついたスペーサーを連結した後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子のライブラリーを構築する工程。
(c)対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程。
(d)対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性タンパク質の選択法、それによって得られる高機能性タンパク質、およびその製造方法と利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的分子と相互作用するタンパク質の相互作用は、タンパク質の機能に深く関与しており、より優れた機能を有するタンパク質を得る試みがなされている。例えば、タンパク質の一種の抗体分子のもつ、抗原に対する高い特異性と親和性は、幅広い分野での利用価値が高く、抗体を自在にまた効果的に創製できる系の構築研究が盛んに行われている。本来、抗体はB細胞内でドメインシャッフリングと体細胞変異を繰り返し(親和性成熟:affinity maturation)、ある抗原に対してより特異性と親和性が高められたものだけが免疫系で作用することができる。
【0003】
抗体の親和性の研究においては、その均一性の観点からモノクローナル抗体が一般に用いられているが、現在、モノクローナル抗体の調製法は細胞融合法(ハイブリドーマ技術)(非特許文献1)が主流である。しかし、この細胞融合法は非常に手間がかかる上に、高価な試薬を必要とし、また時間がかかる(約1年間)。さらに、動物の免疫操作が必要であるため、自己抗原や毒物に対する抗体を選択することが難しいといった種々の問題を有している。最近、これらの問題を解決する方法としてファージディスプレイ(非特許文献2)やリボソームディスプレイ(非特許文献3)といった進化分子工学的手法(核酸[遺伝情報]とタンパク質[機能情報]を直接対応付ける技術)がモノクローナル抗体の選択に利用されている。すなわち、大きな多様性を有する抗体ライブラリーを構築し、目的とする抗体(対応付け分子)の選択、濃縮を繰り返すことによって、比較的容易に目的抗体を得ることができる。特に、非常に柔軟性の高いペプチドリンカーで片方の鎖のC末端ともう片方のN末端を結合させた一本鎖抗体(非特許文献4)を対象とする方法が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの技術においても、まだいくつかの欠点がある。ファージディスプレイは、現実的なDNAライブラリーの上限は109(抗体の場合)程度で、ライブラリーサイズが小さいこと、生物学的なシステム(大腸菌への感染、増幅など)を利用するために、予期し得ないバイアス(変異等)がかかってしまう。さらに、大腸菌に対して毒性を持つ抗原は使用できない。リボソームディスプレイは無細胞翻訳系を用いた完全なin vitroの実験系であるためこれらのバイアスはかからず、また、ライブラリーの上限は1010-1011が可能とされている。しかし、mRNA-タンパク質-リボソーム三者複合体の形成効率が0.2%と非常に低く(非特許文献3)、in vitro virus(IVV)法(非特許文献5))の数百分の1である。また、その複合体が非常に不安定であるため、バイオパニング操作中により強い選択圧をかけられないという問題がある。ここで、パニングにおける選択圧は抗体濃縮における最も重要な因子であり、強い選択圧かけられないということはより多くの選択サイクルを繰り返す必要性が生じる。また、一種類の抗原に対して、安定性、親和性の異なる多種多様な抗体が得られるため、より高機能なものを得るためには、多くの検体のクローニング、発現、分析を必要とする。このことは、たいへんな重労働であるだけでなく時間もコストもかかる。
【0005】
これまで、タンパク質を試験管内で合成する無細胞翻訳系として、小麦胚芽の系(非特許文献6)及び大腸菌の系(非特許文献7)において、タンパク質の大量発現が研究されてきている。それに伴い、タンパク質の大量発現が可能な安定した翻訳テンプレートの開発として、mRNAの安定性向上と翻訳効率向上のために、一般的には3'UTRが使われるが(非特許文献8)、mRNAの化学構造の置換や修飾などの方法(非特許文献9)を用いる。
【0006】
我々は、1997年に、進化分子工学のスクリーニングツールである"in vitro virus (IVV)"の構築に世界に先駆けて成功した(非特許文献10)。IVV法では、3'末端にピューロマイシンを結合したmRNAを鋳型として無細胞翻訳反応を行うことにより、タンパク質とmRNAとがピューロマイシンを介して共有結合したRNA-タンパク質連結分子(IVV)のライブラリーを構築することができる。この対応づけ分子のライブラリーの中から標的分子に結合するタンパク質をin vitroでスクリーニングした後、逆転写PCRにより遺伝子を増幅し解読することができる。その後我々は、IVV法をプロテオーム解析に応用するための基礎研究を開始し、ヒトやマウス由来のcDNAライブラリーからIVVライブラリーを構築し、その中から、タンパク質や核酸、薬剤などの標的分子と相互作用する未知のタンパク質をin vitroで迅速かつ高感度にスクリーニングする技術を確立してきた。最近、我々は小麦胚芽抽出液の無細胞翻訳系で、IVVとC末端ラベル化タンパク質を高効率に発現できる鋳型DNAの開発に成功した(非特許文献5)。本発明者等は、mRNA(遺伝子型)とタンパク質(表現型)を無細胞翻訳系においてピューロマイシンを介して連結させ、対応付け分子であるIVVを効率よく構築する方法を先に提案している(特許文献1; 特許文献2; 特許文献3; 特許文献4)。
【0007】
さらに我々は、IVV法の構築過程で、低濃度のピューロマイシン誘導体を無細胞翻訳系に投入すると、合成されたタンパク質のC末端に結合することを見出した。この原理を応用して、例えば、蛍光色素をピューロマイシンに連結させた化合物を用いれば、タンパク質のC末端を蛍光色素で標識することが可能となった(非特許文献11; 非特許文献12)。本発明者等は、タンパク質のC末端を無細胞翻訳系において効率よくラベル化する方法先に提案している(特許文献5; 特許文献6; 特許文献7)。
【0008】
タンパク質の詳細な機能や立体構造の解析、抗体の作製のためには大量のタンパク質を必要とする。そのため内在性の目的タンパク質を精製し、必要量得ることは困難であるため、目的タンパク質のcDNAを適した宿主に入れ発現させた組み換えタンパク質を用いることになる。一本鎖抗体を発現させる宿主としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞や動物由来の培養細胞などさまざまなものが考えられる。その中でも大腸菌は、短期間で安価に大量のタンパク質が得られるので便利である。また、組み換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させる系を使うと、大腸菌の系では難しかったタンパク質の発現が可能になる。
【0009】
また、ポストゲノム機能解析研究のために開発されてきたいろいろな解析ツールにも抗体が重要な役割を占めている。その一つとしてタンパク質の検出、定量が挙げられる。そのためには、特異性の高い、高親和性の抗体の利用が不可欠である。抗体を用いたタンパク質の検出方法として、in vitroの方法では、ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、またin vivoの方法では免疫沈降法などがある。このような手法を用いてタンパク質を検出するためには、抗体に予め蛍光を発するタンパク質、例えばGFPを融合させておくか、抗体を酵素タンパク質、例えば西洋ワサビのペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼを融合させて、その酵素活性を指標にする。
【0010】
抗体を用いたタンパク質間相互作用の検出法には、表面プラズモン共鳴法、蛍光共鳴エネルギー移動法、蛍光偏光解消法、エバネッセント場イメージング法、蛍光相関分光法、蛍光イメージング法、固相酵素免疫検定法などがある。とりわけ、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)は、測定に必要な試料量が少なく(およそフェムトリットル)、測定時間が短く(およそ10秒)、HTSのための自動化が容易である(実際にEVOTEC社では1日で10万検体以上のスクリーニングを行うウルトラHTSを目指した装置の開発を行なっている)等の長所があり、検出系として優れている(非特許文献13)。さらに2種類の蛍光色素を用いる蛍光相互相関分光法(Fluorescence Cross-Correlation Spectroscopy:FCCS)では、1種類の蛍光色素を用いるFCSでは困難であった同程度の大きさをもつ分子間の相互作用も検出が可能であり、タンパク質相互作用のHTSへの応用が期待されている。一般に、タンパク質相互作用の検出系では、固相化のためのタグや蛍光色素等のプローブでタンパク質を修飾する必要がある。本発明者等は、ピューロマイシン等の核酸誘導体を用いて無細胞翻訳系中でタンパク質のC末端を修飾する方法を先に提案している(特許文献5、特許文献6、特許文献3)。この方法は、従来の化学修飾法や蛍光タンパク質融合法に比べて、タンパク質の機能を損ないにくい等の利点がある。
【0011】
IVV法は、mRNAを無細胞翻訳系等において発現させる際、リボソーム上で、mRNAとタンパク質がピューロマイシンを介して化学的に結合したmRNA−タンパク質連結分子を構築する方法である(非特許文献10; 非特許文献12; 非特許文献5)。さらに、そのmRNA-タンパク質連結分子を試験管内淘汰法により陶太し、選択された対応付け分子のmRNA部分を逆転写PCRにより増幅することにより取得することができる。
【0012】
市販の各種無細胞翻訳系は還元剤であるDTT(ジチオスレイトール)が添加されているため、抗体を代表とするS-S結合を有するタンパク質の発現には不向きである。特に、小麦胚芽無細胞翻訳系はその発現にDTTが必須であるため、これまで一本鎖抗体のcDNAライブラリーから高い結合活性をもった抗体のスクリーニングと発現例はない。それ故、小麦胚芽無細胞翻訳系でDTT存在下でも、cDNAライブラリーから高い結合活性をもった所望の抗体がスクリーニングできる系の確立が望まれている。
【非特許文献1】Kohler, G. and Milstein, C. (1975) Nature 256, 495
【非特許文献2】Smith, G.P. (1985) Science 228, 1315-1317
【非特許文献3】Hanes, J. and Pluckthun, A. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 4937-4942
【非特許文献4】Huston, J. S., Margolies, M. N., Haber, E. (1996) Adv. Protein Chem., 49, 329
【非特許文献5】Miyamoto-Sato, E., et al., (2003) Nucleic Acids Res., 31, e78
【非特許文献6】Madin K, et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 97, 559-564
【非特許文献7】Shimizu, Y. et al. (2001) Nat. Biotechnol., 19, 751-755
【非特許文献8】Sachs. A.B., et al. (1997) Cell 89, 831-838
【非特許文献9】Ueda. T., et al. (1991) Nucleic Acids Symp Ser. 25, 151-152
【非特許文献10】Nemoto, N., et al., (1997) FEBS Lett., 414, 405-408
【特許文献1】特開平10-816636号公報
【特許文献2】国際公開第WO98/16636号パンフレット
【特許文献3】特開2002-176987号公報
【特許文献4】国際公開第WO02/48347号パンフレット
【非特許文献11】Nemoto, N., et al. (1999) FEBS Lett. 462, 43-46
【非特許文献12】Miyamoto-Sato, E., et al. (2000) Nucleic Acids Res. 28, 1176-1182
【特許文献5】特開平11-322781号公報
【特許文献6】特開2000-139468号公報
【特許文献7】国際公開第WO02/46395号パンフレット
【非特許文献13】金城政孝 (1999) 蛋白質核酸酵素 44:1431-1438
【発明の開示】
【0013】
本発明の課題は、高機能性タンパク質またはそれをコードする核酸を迅速かつ高効率に選択する方法を提供することである。また、本発明の他の課題は、高機能性タンパク質またはそれをコードする核酸、並びに、その製造方法及び利用方法を提供することである。
【0014】
本発明者らは、タンパク質をコードする核酸のライブラリーを、IVV法を用いて作製すると、タンパク質の選択において、従来は、タンパク質の失活により目的のものが得られないと考えられていたような高温での加熱処理により高い淘汰圧をかけることができ、その結果、高機能性タンパク質を迅速かつ高効率に選択することができることを見出した。また、S-S結合を有するタンパク質を、還元剤を必要とする無細胞翻訳系で翻訳しても高機能性タンパク質を選択することが可能であることを見出した。以上の知見に基づき、本発明は完成された。
【0015】
従って、本発明では、以下のものを提供する。
(1)標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸の選択法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする選択法。
(a) タンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程。
(b) (a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンを含むスペーサーを連結した後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子を調製することにより対応付け分子のライブラリーを構築する工程。
(c)対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程。
(d)対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、対応付け分子の核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程。
(2)標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である(1)の選択法。
(3)スペーサーがポリエチレングリコールを含む(1)の選択法。
(4)(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いて、(a)〜(d)の操作を繰り返す工程をさらに含む(1)の選択法。
(5)加熱処理する際の条件が、50-100℃、1-30分の範囲から選択される(1)の選択法。
(6)(d)の工程の前に対応付け分子のRNA部を逆転写によりRNA-DNAハイブリッドにする工程をさらに含む(1)の選択法。
(7)逆転写の前に、逆転写反応を阻害する無細胞翻訳系由来の物質を除去する(6)の選択法。
(8)無細胞翻訳系が、チオール化合物を含む無細胞翻訳系である(1)の選択法。
(9)無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、又は、大腸菌S-30抽出液の無細胞翻訳系である(1)の選択法。
(10)標的分子と相互作用するタンパク質の製造法であって、(1)〜(9)のいずれかの選択法により標的分子と相互作用するタンパク質をコードする核酸を選択する工程、および、選択された核酸を翻訳してタンパク質を製造する工程を含む製造法。
(11)標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である(10)の製造法。
(12)抗原がアンジオテンシンIIである(11)の製造法。
(13)抗原がLewis Xである(11)の製造法。
(14)一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸を、チオール化合物を含む無細胞翻訳系で翻訳することを含む(11)の製造法。
(15)無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、または、大腸菌S-30抽出液である(14)の製造法。
(16)一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸で生細胞を形質転換させ、その生細胞内で一本鎖抗体を発現させることを含む(11)の製造法。
(17)一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸によりコードされる一本鎖抗体と、酵素又は緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)との融合タンパク質として製造することを含む(11)の製造法。
(18)(1)〜(9)のいずれかの選択法により選択された核酸を、C末端ラベル化剤の存在下で無細胞翻訳系で翻訳することによりタンパク質のC末端をラベル化する方法。
(19)アンジオテンシンIIに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103または105に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
(20)(19)の一本鎖抗体をコードする核酸。
(21)Lewis Xに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号107、109、111、113、115または117に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
(22)(21)の一本鎖抗体をコードする核酸。
(23)(11)〜(17)のいずれかの製造法によって得られた抗体を用いてタンパク質を免疫学的に検出する方法。
(24)ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、免疫沈降法である(23)の検出方法。
(25)(11)〜(17)のいずれかの製造法によって得られたタンパク質と、標的分子とを接触させ、タンパク質と標的分子との相互作用を検出することを含む、分子間相互作用を検出する方法。
(26)蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法である(25)の検出方法。
(27)ヒト又はその他の動物由来のDNAライブラリーから(2)の選択法により選択された核酸の配列に基づいて、その核酸にコードされる可変領域をヒトのIgGの可変領域と置換することによって構築されるヒトまたはヒト型抗体。
(28)(27)の抗体を有効成分とする治療剤。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明で使用される一本鎖抗体cDNAライブラリーの構築。
【図2】IVV法によるIVVライブラリーの選択サイクル。
【図3】アンジオテンシンII-ビオチンの化学構造式。
【図4】Lewis X-sp-ビオチンの化学構造式。
【図5】[15]で得られた翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動で対応付け分子を確認したもの。上は電気泳動ゲル(電気泳動写真)。下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのFITCの蛍光をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したもの。MH0:[11]で得られたライブラリー;MI1:[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MI2:MI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MI3:MI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー。
【図6】[15]で得られた翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動で対応付け分子を確認したもの(電気泳動写真)。MH0:[11]で得られたライブラリー;MK1:[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MK2:MK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー。
【図7】[15]で得られた翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動で対応付け分子を確認したもの(電気泳動写真)。MM1:[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MM2:MM1を[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MP1:[11]で得られたライブラリーを[15]において99℃、5分間反応させその後[20][21]においてアンジオテンシンIIを抗原としセレクションを行ったあとに[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させて[22]以降の実験を行い[25]で回収したライブラリー。
【図8】[21]で得られた溶出液を[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付したもの。上は電気泳動ゲル(電気泳動写真)。下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したもの。
【図9】[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液(Elute)を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付したもの(電気泳動写真)。
【図10】[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付したもの。上は電気泳動ゲル(電気泳動写真)。下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したもの。FはFlow、WはWash、Eは溶出液を1倍、E0.1は溶出液を10倍希釈の略。
【図11】[31]で配列分析を行い解析した結果インフレームのものについてアミノ酸配列によるclustalxによる配列アラインメント後TreeViewPPCにより作成した系統樹。線で囲ったAはアンジオテンシンIIのセレクションで収束したもの、線で囲ったBはLewis Xのセレクションで収束したものを示す。ライブラリーの略号の後にクローンの番号を示した。
【図12】図11の線で囲ったAおよびBの拡大図。AはアンジオテンシンIIのセレクションで収束したもの、BはLewis Xのセレクションで収束したもの。
【図13】ウェスタンブロットの結果(電気泳動写真)。右2本は、MI3-55の[37]についてウエスタンブロットしたもの。左3本はウエスタンブロットのコントロール。
【図14】アンジオテンシンIIを抗原としたセレクションで得られた配列を[34]で翻訳を行った後[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【図15】Lewis Xを抗原としたセレクションで得られた配列を[34]で翻訳を行った後[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【図16】MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【図17】MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[40]のELISAで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の、標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸の選択法は、ライブラリーの対応付け分子の核酸部が、標的分子と相互作用するタンパク質をコードすること、対応付け分子のライブラリーを加熱処理することの他は、通常の対応付け分子を用いる核酸の選択法(以下「IVV法」ともいう)に従って行うことができる。
【0018】
「標的分子」とは、選択対象タンパク質と相互作用する分子を意味し、具体的にはタンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられる。タンパク質としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り特に制限はなく、タンパク質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、およびその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖はこれに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくはアミノ酸配列が既知の精製されたタンパク質か、あるいはcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳および精製されたタンパク質を用いることができる。
【0019】
核酸としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はなく、DNAまたはRNAも用いることができる。また、塩基配列または機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する核酸としての機能、および塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。糖鎖としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はなく、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。低分子化合物としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
【0020】
これら標的分子が本発明の選択対象タンパク質と行う「相互作用」又は標的分子間の「相互作用」とは、通常は、二つの分子間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、および静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を包含する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も包含する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に包含される。
【0021】
相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合および解離、タンパク質レセプターとリガンドの間の結合および解離、接着分子と相手方分子の間の結合および解離、酵素と基質の間の結合および解離、核酸とそれに結合するタンパク質の間の結合および解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合と解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合および解離、糖鎖とタンパク質との間の結合および解離、または、低分子化合物とタンパク質との間の結合および解離が挙げられる。
【0022】
IVV法はmRNAがタンパク質合成阻害剤であるピューロマイシンまたはその誘導体を介してタンパク質と共有結合するため、リボソームディスプレイやファージディスプレイよりもはるかに安定性が高い。従って、リボソームディスプレイやファージディスプレイの2つの技術よりもより強い選択圧でのパニングが可能であり、これによって特異性だけでなくより安定な標的分子と相互作用するタンパク質を選択することができ、加えて、高い濃縮効果が得られるためより少ない選択サイクルで希望のタンパク質を得ることができる。またさらに、ほとんど単一にまで濃縮されるため、多くのサンプルを解析する必要がない。これらにともない操作が簡便、大幅な時間の短縮とコストの削減が可能になる。
【0023】
また、ライブラリー内の高機能性抗体(特異性、親和性、安定性等)の存在確立はライブラリーの大きさ(多様性)に依存する。ここで、IVV法の選択可能なライブラリーの上限は、条件が整えば1013以上が可能であり、他のどの方法よりも大きなライブラリーを対象にできる。また、リボソームディスプレイと同様に完全なin vitroの実験系であるため、不必要なバイアスがかからない。また、得られたタンパク質はDTT等の還元剤を含有する無細胞翻訳系で機能性タンパク質として発現できるため、多検体の大量調製が可能であり、それにともないハイスループット化が容易となる。
【0024】
このようにして選択されたタンパク質は、その機能に応じて各種の分野で利用できる。例えば、タンパク質が一本鎖抗体である場合には、このようにして選択された高親和性一本鎖抗体は、細胞外や細胞内でのタンパク質の検出や相互作用検出に利用できる。また、マウス抗体cDNAライブラリーから選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域やCDR領域(complementarity determining region)と入れ換えることによって、キメラ型IgG抗体やヒト型化したマウスIgG抗体を作れる。これらの抗体は、ヒトに投与したときに惹起されるヒト抗マウス抗体の産生が少ないか、ほとんどない。さらに、ヒト抗体cDNAライブラリーから選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域と入れ換えることによって、完全なヒトモノクローナルIgG抗体を作れる。これは、アナフィラキシー症状を引き起こさない抗体医薬として利用することが可能である。
【0025】
本発明の選択対象タンパク質として使用される一本鎖抗体は、VH鎖とVL鎖がリンカーペプチドを介して結合した通常の一本鎖抗体(単鎖Fvフラグメント(scFv)とも呼ばれる)でよい。本発明において用いられる一本鎖抗体をコードするDNAライブラリーとしては、多数の一本鎖抗体をコードするDNAを含むライブラリーであれば特に制限されるものではないが、理論的にはあらゆる抗原に対応しうる、109以上の多種多様な抗体をコードするDNAを含むものを用いることが好ましい。かかる抗体DNAライブラリーとしては、市販のものを含め、通常の試験管内抗体選択系において用いられる高等脊椎動物、好ましくはマウス、ヒト、ニワトリ、ヤギ、ラクダの脾臓およびB細胞由来の天然型抗体DNAライブラリーであればどのようなものでもよい。例えば、マウス天然型抗体cDNAライブラリー(Krebber, A. et al. (1997)) J. Immun. Methods. 201, 35-55: Engberg, J. (1996) Molecular Biotech. 6, 287-310)はマウスの脾臓からmRNAを抽出し、抗体のH鎖及びL鎖の可変領域(VH, VL)をコードする遺伝子断片をRT-PCRによってcDNAとし、それらをPCRによって増幅する。さらに得られた断片からVHのC末端とVLのN末端を(Gly4Ser)4リンカーで繋ぎ合わせるようにDNA断片を合成することでマウス一本鎖抗体cDNAライブラリーが完成となる。ここで、繋ぎ合わせるリンカー配列は比較的自由度の高いものであればどのようなものでもかまわないが、一般的に(Gly4Ser)4配列(配列番号120)を用いることが好ましい。また、繋ぎ合わせの順番はVL-(Gly4Ser)4-VHでもよい。
【0026】
また、あらゆる変異型の抗体DNAライブラリーも有利に用いることができる。例えば、(1)n-CoDeR:抗体cDNAからCDR(H鎖3つ、L鎖3つ)のみをPCRによって取り出し、それらを大腸菌およびファージで発現し易い抗体フレームに組み込んだライブラリー(n-CoDeR:多様性は2×109)(Jirholt, P. et al. (1998) GENE 215, 471-476: Soderlind, E. et al. (2000) Nature Biotechnol 18. 852-856)。(2)抗体の超可変部位(CDR)にランダム配列(NNK, NNB)を導入し、その多様性を増加させたライブラリー(Hayashi, N. et al. (1994) Biotechniqes 17, 310-345)。(3)HuCAL:ヒト抗体は構造的な多様性が7種類のH鎖(subclass: VH1A, VH1B, VH2-6)と7種類のL鎖(subclass:Vκ1-Vκ4, Vλ1-Vλ3)を組み合わせたもの(計49種類)によって約95%以上がカバーされている。これら14種類の抗体のCDR3(H鎖L鎖両方)にランダム配列を導入したライブラリー。(Knappik, A. et al. (2000) J. Mol. Biol. 296, 57-86: Hanes, J et al. (2000) Nature Biotech. 18, 1287-1292)。(4)point mutationとDNA shufflingを組み合わせて、単一の抗体遺伝子にランダムな変異を導入したライブラリー。(Jermutus, L. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 75-80)などが挙げられる。これらのライブラリーは、パニングのスピード、抗体の安定性、発現、機能性等を高めるように設計されており、本発明への適応はより効果的である。
【0027】
以下、本発明の選択法の各工程について説明する。
(a)工程は、標的分子と相互作用するタンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程である。このタンパク質をコードするDNAのライブラリーは、通常の方法に従って調製することができる。
【0028】
(b)工程は、(a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンを含むスペーサーを連結した(以下、ここで調製されるものを「翻訳テンプレート」と称することがある)後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子を調製することにより対応付け分子のライブラリーを構築する工程である。この工程は通常のIVV法におけるものと同様に行うことできる。詳細については後記で説明するが、スペーサーはポリエチレングリコールを含むものであることが好ましい。
【0029】
(c)工程は、対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程である。ここでの加熱処理とは、通常のIVV法における処理では負荷されないような加熱条件に暴露することを意味する。たとえば、対応付け分子を翻訳後そのまま標的分子と結合させる場合には、翻訳の間にはない加熱条件に暴露することであり、対応付け分子のRNA部分を逆転写によりRNA-DNAハイブリッドにしてから標的分子と結合させる場合には、翻訳及び逆転写の間にはない加熱条件に暴露することである。この温度は、翻訳されてから標的分子に結合させるまでの工程に応じて、通常には、50-100℃、1-30分の範囲から選択される。強い選択圧という点では、翻訳だけがある場合並びに翻訳及び逆転写がある場合のいずれでも、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上の温度で加熱処理をする。
【0030】
(d)の工程の前に対応付け分子のRNA部を逆転写によりRNA-DNAハイブリッドにすることが好ましい。これによりRNAの担体および標的分子への非特異的な結合を阻止することができる。また、逆転写を行う場合には、逆転写の前に、逆転写反応を阻害する無細胞翻訳系由来の物質を除去することが好ましい。除去の方法としては、ゲルろ過カラム、スピンカラム、ニッケルカラム等を用いる分画が挙げられる。
【0031】
加熱処理、逆転写、及び、分画の順序は特に限定されないが、通常には、加熱処理、分画、逆転写の順、または、分画、逆転写、加熱処理の順が好ましい。
(d)工程は、対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、対応付け分子の核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程である。この工程は通常のIVV法におけるものと同様に行うことできる。溶出は、通常には遊離の標的分子を含む溶液で溶出することにより行うことができる。
【0032】
本発明の選択法においては、(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いて、(a)〜(d)の操作を繰り返すことが好ましい。繰り返す場合には、(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いるための処理をする。例えば、各サイクルごとに5'UTR配列(増幅プライマー配列-SP6プロモーター配列-Ω29エンハンサー配列)をN末端に付加する。しかしながら、抗体のN末端はそれぞれでその配列が異なるため、N末端に共通配列を導入する必要がある。後記実施例ではT7タグ(MASMTGGQQMG(配列番号118))を用いたが、このタグは一般的に使用されているものであればどのようなものでもかまわない。C末端側にはFLAGタグ(DYKDDDDK(配列番号119))を導入した。一般的にライブラリーを構築する上で、PCRでの増幅、化学合成等によるある程度の好まれない変異(STOPコドン、挿入、欠失)の導入は避けられない。そこで、C末端のタグによってインフレーム(in-frame)のものだけを選び出すことが可能になる。このタグもまた一般的に使用されているものであればどのようなものでもかまわない。
【0033】
本発明の選択法で使用されるIVVライブラリーの一例を、図1を参照して説明する。タンパク質は一本鎖抗体である。マウス脾臓由来抗体(IgG)mRNAのH鎖L鎖それぞれの可変部をRT-PCRで抽出し、H鎖のC末端とL鎖のN末端を(Gly4Ser)4のリンカーでつなげて一本鎖抗体cDNAライブラリーとする。これらを試験管内転写によってmRNAとし、このmRNAの3'末端にピューロマイシンを有するPEGスペーサーを結合させる。これらを無細胞翻訳系で翻訳するとmRNAとその配列に対応する抗体がピューロマイシンを介して共有結合したIVVライブラリーが構築される。このライブラリーは1013以上の多様性を有しており、既知の抗体選択法の中で最も大きなライブラリーである。
【0034】
一本鎖抗体DNAライブラリーを用いた場合の本発明の選択法の工程の概要を図2に示す。このような選択サイクルによって、すなわち、選択、増幅、ライブラリーの再構築、翻訳を繰り返すことで、希望とする抗体を濃縮する。ここで、選択時にある種の選択圧をかけることで、得られる抗体の性質と濃縮効率が決まる。すなわち、不安定な抗体を除去するタンパク質レベルでの選択圧と、非特異的に結合するものを除去するための選択圧である。本発明では、IVV法を採用することにより、従来の方法では目的の抗体が得られないような高い選択圧をかけても目的の抗体が選択されることが判明した。
【0035】
以下、具体的に本発明の翻訳テンプレート、C末端修飾タンパク質、翻訳テンプレートによるC末端ラベル化法および対応付け方法についての実施例を記述するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。
【0036】
選択対象タンパク質のコード部は、5'末端領域、ORF領域、3'末端領域からなり、5'末端にCap構造があってもなくてもよい。また、コード部の3'末端領域は、A配列としてポリAx8配列、あるいはX配列としてXhoI配列や4塩基以上で(C又はG)NN(C又はG)の配列を持つもの、およびA配列とX配列の組み合わせとしてのXA配列がある。A配列、X配列、あるいはXA配列の上流に親和性タグ配列としてFlag-tag配列、からなる構成が考えられる。ここで、親和性タグ配列としてはHA-tagやIgGのプロテインA(zドメイン)などの抗原抗体反応を利用したものやHis-tagなど、タンパク質を検出あるいは精製できるいかなる手段を用いるための配列でもかまわない。ここで、翻訳効率に影響する範囲としては、XA配列の組み合わせが重要であり、X配列のなかで、最初の4塩基が重要であり、(C又はG)NN(C又はG)の配列を持つものが好ましい。また、5'末端領域は、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなり、転写プロモーターはT7/T3あるいはSP6などが利用でき、特に制限はないが、小麦の無細胞翻訳系では、翻訳のエンハンサー配列としてオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列を利用することが好ましく、プロモーターとしては、SP6を用いることが好ましい。翻訳エンハンサーのオメガ配列の一部(O29)は、TMVのオメガ配列(Gallie D.R., Walbot V. (1992) Nucleic Acids Res., 20, 4631-4638)の一部を含んだものである。
【0037】
ポリエチレングリコール(PEG)部(スペーサー)は、CCA領域、PEG領域、ドナー領域からなる。最低限必要な構成は、ドナー領域である。翻訳効率の点では、ドナー領域のみならずPEG部を持つものが好ましく、さらにアミノ酸との結合能力のないピューロマイシンを持つことが好ましい。PEG領域のポリエチレングリコールの分子量の範囲は、400〜30,000で、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜6,000である。また、CCA領域にはピューロマイシン(Puromycin)を含む構成と含まない構成が可能である。
【0038】
対応付け分子の構築に用いる場合には、無細胞翻訳系において、そこで翻訳されたタンパク質のC末端にスペーサーが結合できるようにピューロマイシンを含む構成が用いられる。ピューロマイシンを含むとはその誘導体を含むことも包含する。誘導体の例としては以下のものが挙げられる。3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3'-N-Aminoacylpuromycin aminonucleoside, PANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS-全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3'-Aminoacyladenosine aminonucleoside, AANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS-全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸あるいはアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。CCA領域(CCA)の5'側に1残基以上のDNAおよび/またはRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。配列としては、dC-Puromycin, rC-Puromycinなど、より好ましくはdCdC-Puromycin, rCrC-Puromycin, rCdC-Puromycin, dCrC-Puromycinなどの配列で、アミノアシル-tRNAの3'末端を模倣したCCA配列(Philipps G.R. (1969) Nature 223, 374-377)が適当である。
【0039】
C末端ラベル化の場合など翻訳のみに用いる翻訳テンプレートでは、ピューロマイシンを含まない構成、または、アミノ酸との結合能力のないピューロマイシンを含む構成が好ましい。上記のピューロマイシン誘導体のアミノ基がアミノ酸と結合する能力を欠いたあらゆる物質、およびピューロマイシンを欠いたCCA領域も考えられるが、リボソーム上でタンパク質と結合不能なピューロマイシンを含むことで、より翻訳効率を高められる。その理由は定かではないが、タンパク質と結合不能なピューロマイシンがリボソームを刺激することでターンオーバーが促進される可能性がある。結合不能なピューロマイシンでは、上記のピューロマイシンを適切な方法でアミノ酸と結合不能とする。
【0040】
PEG部は修飾物質を有する構成が可能である。このことによって、翻訳テンプレートを回収、精製による再利用、あるいは固定化などのためのタグとして利用することが出来る。少なくとも1残基のDNAおよび/またはRNAの塩基に修飾物質として、蛍光物質、ビオチン、あるいはHis-tagなど各種分離タグなどを導入したものが可能である。また、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計可能な長さである。これによって新たな効果が生み出された。すなわち、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5'末端領域と3'末端領域をもったコード部を簡単に作成可能となり、このコード部に、3'UTRの代わりとしてPEG部をライゲーションすることで、翻訳効率の高い翻訳テンプレートを得られる。
【0041】
PEG部とコード部のライゲーションは、その方法については、一般的なDNAリガーゼを用いるものや光反応による連結など何でもよく、特に限定されるものではない。RNAリガーゼを用いるライゲーションでは、コード部でライゲーション効率に影響を与える範囲としては3'末端領域のA配列が重要であり、少なくとも2残基以上のdAおよび/またはrAの混合あるいは単一のポリA連続鎖であり、好ましくは、3残基以上、より好ましくは6から8残基以上のポリA連続鎖である。PEG部のドナー領域の5'末端のDNAおよび/またはRNA配列は、ライゲーション効率を左右する。コード部とPEG部を、RNAリガーゼでライゲーションするためには、少なくとも1残基以上を含むことが必要であり、ポリA配列をもつアクセプターに対しては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)あるいは2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。さらに、ライゲーション反応時に、PEG領域と同じ分子量のポリエチレングリコールを添加することが好ましい。
【0042】
次に、選択対象タンパク質のC末端修飾(ラベル化)について述べる。修飾剤の存在下で、選択対象タンパク質の翻訳テンプレートを用いた翻訳によって合成された、修飾剤でC末端修飾された選択対象タンパク質であり、翻訳テンプレートと、修飾剤からなる。ここでの特徴は、特に翻訳テンプレートのコード部の構成にある。以下詳細に記述する。
【0043】
翻訳テンプレートのPEG部は、ピューロマイシンがアミノ酸と連結出来ないことを特徴とする。また、コード部もC末端ラベル化に適した構成としては、3'末端領域が、XA配列であることが重要であり、X配列のなかで、最初の4塩基が重要で、(C又はG)NN(C又はG)の配列を持つものが好ましい。ここでも、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計できる長さである。これによって、5'末端領域と3'末端領域をもったコード部をPCRによって簡単に作成可能となり、このコード部に3'UTRの代わりとしてPEG部をライゲーションすることで、C末端ラベル化に適した翻訳効率の高い翻訳テンプレートを得られる。
【0044】
修飾剤は、タンパク質の翻訳系でのペプチド転移反応、すなわち、リボソーム上でのペプチド転移反応によってタンパク質と結合し得る基(残基を含む)をもつアクセプター部が、ヌクレオチドリンカーを介して修飾部と結合した構成をもつ。この修飾剤の存在下でタンパク質合成を行い、得られるC末端修飾タンパク質を精製し、分子間相互作用の検出系を用いることによって、タンパク質の検出や相互作用の検出が可能となる。修飾部には、PEG部と同様に修飾物質が含まれる。修飾物質として、非放射性修飾物質の具体例としては、蛍光性、非蛍光性修飾物質等が挙げられる。蛍光性物質としては、フルオレセイン系列、ローダミン系列、Cy3、Cy5、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素や、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光性タンパク質がある。また、非蛍光性物質としては、ビオチンのような補酵素、タンパク質、ペプチド、糖類、脂質類、色素、ポリエチレングリコール等、何らかの目印となり得る化合物であればいかなるものでもよい。修飾剤においては、修飾部が蛍光基、タンパク質と結合する基、または、その両方をもつことが好ましい。アクセプター部は、タンパク質の翻訳系で、ペプチド転移反応によってタンパク質と結合し得る基をもち、好ましくはピューロマイシン又はその誘導体の残基をもつ。ピューロマイシンはアミノアシルtRNAと類似した構造をもち、タンパク質合成を阻害する抗生物質として知られているが、低濃度ではタンパク質のC末端に結合することが知られている(Miyamoto-Sato, E. et al. (2000) Nucleic Acids Res. 28: 1176-1182)。用いることができるピューロマイシン誘導体は、ピューロマイシンと類似した構造を有し、タンパク質のC末端に結合することができる物質であればいかなるものでもよい。具体例としては、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド、3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド等が挙げられる。修飾部とアクセプター部との間をつなぐヌクレオチドリンカーとは、具体的には、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドが1個ないし複数個つながった核酸または核酸誘導体であり、特に好ましい例として、シトシン塩基を含むリボヌクレオチド(-rC-)またはデオキシリボヌクレオチド(-dC-)が1個ないし複数個つながった化合物が挙げられる。その他、修飾部とアクセプター部との間に挿入することによって修飾タンパク質の収量を上げることができる物質であればいかなるものでもよい。本発明修飾剤においては、ヌクレオチドリンカーが2'-デオキシシチジル酸、2'-デオキシシチジル-(3',5')-2'-デオキシチジル酸、リボシチジル酸、又は、リボシチジル-(3',5')-リボシチジル酸であることが好ましい。
【0045】
修飾剤は、上記修飾部とアクセプター部とを所望のヌクレオチドリンカーを介して、それ自体既知の化学結合方法によって結合させることにより製造することができる。具体的には、例えば、適当な保護基で保護された上記アクセプター部を固相担体上に結合させ、核酸合成機を用いてヌクレオチドリンカーとしてヌクレオチドホスホアミダイト、およびデオキシヌクレオチドホスホアミダイト、機能性修飾物質として蛍光物質やビオチンなどを結合したホスホアミダイトを順次結合させた後、脱保護を行うことによって作製することができる。上記各部の種類、あるいは結合の種類によっては液相合成法で結合させるかあるいは両者を併用することもできる。また、機能性修飾物質としてニッケル等の金属イオンを用いる場合には、金属イオンが配位しうるニトリロトリ酢酸やイミノジ酢酸等のキレート性の試薬を結合させ、次いで金属イオンを配位させることができる。
【0046】
翻訳テンプレートのPEG部は、ピューロマイシンがアミノ酸と連結できることを特徴とする以外は前記したものとと同様である。また、コード部も前記したものと同様であるが、特に、対応付けに適した構成としては、3'末端領域をA配列にすることが重要であり、トータル蛋白の対応付けの効率が著しく向上してフリータンパク質の量が激減することが確認された。ここでも、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計できる長さである。これによって、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5'末端領域と3'末端領域をもったタンパク質のコード部を簡単に作成可能となり、PEG部をライゲーションすることで、対応付け効率の高い翻訳テンプレートが得られる。また、PEGによってC末端修飾されたタンパク質は、タンパク質の検出や相互作用検出などにおいて、コード部を利用しない場合、たとえば、FCCS測定、蛍光リーダー、プロテインチップなどに応用する場合は、RNase Aなどで意図的に切断することが好ましい。切断することによって、コード部の妨害によるタンパク質間相互作用の検出の困難性が解消出来る。
【0047】
タンパク質cDNAライブラリーからIVVを形成させるには、無細胞翻訳系を用いる。具体的には、ジチオスレイトール(DTT)やβ-メルカプトエタノールのようなチオール化合物を含む、又は含まない小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S-30抽出液を用いる。特に、これまでDTTを含む無細胞翻訳系では、活性のある抗体をタンパク質として発現させることが困難であったが、本発明ではDTT存在下でもIVVを用いることにより、活性のある抗体を選択することが可能であることがわかった。これらの無細胞タンパク質合成系の中に、上記タンパク質の翻訳テンプレートを加え、25〜37℃で1〜数時間保温することによってIVVを形成させる。C末端ラベル化の場合は、同時に1〜100μMの修飾剤を加えると、C末端修飾タンパク質が合成される。合成されたIVVは、そのまま次の、加熱処理工程、又は逆転写の工程に供する。
【0048】
対応付け分子(「IVV」ともいう)を翻訳後直接加熱する場合は、通常には50-100℃で1-30分の範囲から選択される条件で処理する。予めIVVのmRNA部を逆転写酵素によってRNA-DNAハイブリッドにする場合は、無細胞翻訳系に逆転写反応を阻害する物質が含まれているので、除去することが好ましい。除去操作には、ゲルろ過、好ましくはSephadex G200(Amersham Bioscience社製)、又はスピンカラム、好ましくはUltrafree MC, 100,000 NMWL(ミリポア社製)、又は大腸菌の無細胞翻訳系のPURESYSTEM(ポストゲノム研究所社製)の場合は、ニッケル樹脂を用いる。
【0049】
逆転写反応(RT)により、IVVのmRNA部をRNA-DNAハイブリッドにすることにより、mRNA部の担体および抗原への非特異的吸着が阻止できる。逆転写反応は、mRNAを65℃で加熱変性させた後、4℃に冷却してアニールさせ、ReverTra Ace(TOYOBO社製)を加えて、50℃で30分反応させる。逆転写酵素は、逆転写反応を行うものであれば、いかなる酵素、いかなる条件であってもよい。上記の条件に限定されるものではない。mRNA部をRNA-DNAハイブリッドにしたIVVの加熱処理条件も、通常には50-100℃で1-30分の範囲から選択される条件であるが、逆転写の最高温度より高い温度とする。
【0050】
RT-PCRおよびPCRに使用されるDNAポリメラーゼは、PCR反応に用いられるものであれば特に制限されるものではないが、高い増幅効率と、PCRの忠実度(fidelity)が高すぎないものがより好ましい。本発明で使用したKOD Dash(TOYOBO製品)は極めて微量の鋳型DNAからも効率よく増幅が可能であり、また適度な変異が導入されるため、より高機能なものに進化させることができる。
【0051】
標的分子はペプチド(化学合成された、又は天然から単離された、又はタンパク質の部分消化物であってもよい)、タンパク質、核酸(DNA、又はRNA)、糖類、種々の低分子化合物、金属、金属化合物など、あらゆる化合物や物質が該当する。
【0052】
本発明に用いられる標的分子は態様に応じて、樹脂、ビーズ等の固相に結合させるが、固相に結合させる方法としては、修飾物質を介して結合させるものと、それ以外の部分により結合させるものが挙げられる。
【0053】
修飾物質を介して結合させる場合に用いられる修飾物質は、通常には、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(以下、「リガンド」と称することがある。)であり、固相表面には該リガンドと結合する特定のポリペプチド(以下、「アダプタータンパク質」と称することがある)を結合させる。アダプタータンパク質には、結合タンパク質、受容体を構成する受容体タンパク質、抗体なども含まれる。アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、例えば、アビジンおよびストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。
【0054】
これらの中で、アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、アビジンおよびストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチンの組み合わせが最も好ましい。これらの結合タンパク質は、それ自体既知のものであり、該タンパク質をコードするDNAは既にクローニングされている。
【0055】
アダプタータンパク質の固相表面への結合は、それ自体既知の方法を用いることができるが、具体的には、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基もしくはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0056】
修飾物質以外の部分により固相に結合させる場合は、通常タンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物を固相に結合させるのに用いられる既知の方法、具体的には例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基もしくはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0057】
固相担体は、好ましくはアガロースビーズ、磁性体が包埋されたアガロースビーズが好ましい。固相表面と抗原分子との距離は、立体的な観点から30オングストローム以上離れていることが好ましい。
【0058】
高機能性タンパク質を取得する方法として一般的には2つの方法が挙げられる。以下、高親和性抗体を例として説明する。1つは選択実験に使用する抗原濃度を低く設定することで、その濃度の抗体のみを選択する方法である。この方法は回収される抗体の量も当然少なくなるため効率が悪く、それにともなって、設定できる抗原濃度も回収可能な濃度に制限される。2つめはoff-rate selection(Hawkins, R. (1992) J. Mol. Biol. 226, 889-896; Boder, E. (1997) Nat. Biotechnol. 15, 553-557; Jermutus, L. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 75-80)と呼ばれるもので、抗原と抗体の解離速度を利用した方法である。解離定数(Kd)は結合速度定数(on-rate)と解離速度定数(off-rate)の比で表されるが、生体高分子の結合定数はほぼ一定の範囲内(104-106M-1S-1)にあるため実質のKdは解離速度定数によって決まる。従って、解離速度が遅い抗体ほどその親和性は高いため、抗原での溶出時間を長くすればするほど、より親和性の高い抗体を濃縮することができる。しかしながら、この方法は1サイクルの選択実験に有する時間が長いといった問題がある。この問題を解決する方法として、抗原で溶出するのではなく、抗原または抗体を配列特異的にプロテアーゼで消化させることによって溶出する方法がある。このプロテアーゼはTMVプロテアーゼや因子(factor) Xaを代表とする極めて基質特異性の高いものから、トリプシンやプロテイナーゼKといった配列特異性の低いものまでを含むあらゆるプロテアーゼによって制限されない。以上の方法は本発明においても適応可能であり、また組み合わせることで極めて有効な方法となる。
【0059】
本発明の選択法により選択された核酸を用いてタンパク質を製造する方法、すなわち、本発明の選択法により標的分子と相互作用するタンパク質をコードする核酸を選択する工程、および、選択された核酸を翻訳してタンパク質を製造する工程を含む製造法も提供される。
【0060】
核酸を選択する工程は、本発明の選択法に関して説明したとおりである。
核酸を用いたタンパク質の製造は、通常の方法に従って行うことできる。例えば、核酸を無細胞翻訳系で翻訳してもよいし、核酸を導入したプラスミドを用いることなどにより核酸で大腸菌等の生細胞を形質転換して、その生細胞内でタンパク質を発現させてもよい。無細胞翻訳系としては、ジチオスレイトールやβ-メルカプトエタノールのようなチオール化合物を含む無細胞翻訳系、好ましくは、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、または、大腸菌S-30抽出液が挙げられる。
【0061】
タンパク質を発現させる際には、選択された核酸によりコードされるタンパク質と、酵素又は緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)との融合タンパク質として発現させてもよい。
【0062】
本発明の製造法により得られるタンパク質の例としては一本鎖抗体が挙げられる。一本鎖抗体の例としては、抗原がアンジオテンシンIIの場合には、後記実施例に示すMI1-16(61)、MI1-4(63)、MI2-10(65)、MI2-34(67)、MI2-41(69)、MI2-48(71)、MI3-15(73)、MI3-26(75)、MI3-28(77)、MI3-34(79)、MI3-41(81)、MI3-42(83)、MI3-47(85)、MI3-5(87)、MI3-55(89)、MI3-62(91)、MI3-64(93)、MI3-66(95)、MI3-74(97)、MK2-3(99)、MM2-11(101)、MP1-36(103)、MP1-41(105)が挙げられる(括弧内の数字はアミノ酸配列の配列番号を示す)。また、抗原がLewis Xである場合には、後記実施例に示すMI3-8(107)、MK1-15(109)、MK1-17(111)、MK1-24(113)、MK2-8(115)、MK2-19(117)が挙げられる(括弧内の数字はアミノ酸配列の配列番号を示す)。これらの抗体のアミノ酸配列に相同性の高いアミノ酸配列(例えば、90%以上(相同性計算法:GENETYX-MAC Version 7.3 (SOFTWARE DEVELOPMENT CO., LTD)のMaximum matching))または、これらの抗体のアミノ酸配列において1または数個(通常には30個以下)の残基の置換、欠失または挿入を有するアミノ酸を有するものは、同様な結合活性を有するものが多いと予想される。したがって、本発明は、以下の抗体およびこれらをコードする核酸も提供する。
【0063】
アンジオテンシンIIに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103または105に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【0064】
Lewis Xに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号107、109、111、113、115または117に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【0065】
また、本発明の選択法により選択された核酸を、C末端ラベル化剤の存在下で無細胞翻訳系で翻訳することによりタンパク質のC末端をラベル化する方法も提供される。ラベル化は、特開平11-322781、特開2000-139468、WO 02/46395に記載されたようにして行うことができる。無細胞翻訳系としては、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S-30抽出液が挙げられる。
【0066】
生細胞を用いてタンパク質を大量に発現させる具体例としては、大腸菌、枯草菌、好熱菌、酵母等の細菌から、昆虫細胞、哺乳類等の培養細胞、さらに線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス等に至るまでいかなる細胞でもよい。これらの細胞の中に、上記C末端ラベル化あるいは対応付けされた両修飾タンパク質を直接導入することもできるし、あるいは、上記翻訳テンプレートを導入し、C末端ラベル化の場合は、同時に1〜100μMの修飾剤を電気穿孔法、マイクロインジェクション法等により細胞の中に導入し、細胞の至適生育温度で数時間保温することによって修飾タンパク質が合成される。対応付けの場合は、上記翻訳テンプレートを導入し、細胞の至適生育温度で数時間保温することによって対応付け分子が合成される。合成された両修飾タンパク質は、細胞を破砕することによって回収し次の精製プロセスまたは検出プロセスに供することができる。また、そのまま細胞の中で検出プロセスに供することも可能である。翻訳テンプレートは、用いる翻訳系に合わせて適切なものを選択する。
【0067】
大腸菌でタンパク質を大量発現させるには、発現ベクターに目的のcDNAを導入することが必要となる。この時発現ベクターに含まれるもので最も重要なのは、cDNAをRNAに転写させるためのプロモーターで多様なものが用いられている。発現しようとするタンパク質は、宿主である大腸菌に対して毒性をもつ場合もあるため、ほとんどのベクターでは何らかの形で発現を制御するようになっている。この制御は発現タンパク質をコードする遺伝子を組込んだベクターで大腸菌を形質転換してから発現誘導をかけるまでの間、大腸菌の増殖を妨げないためにも重要である。
【0068】
プロモーターのすぐ下流、クローニングサイトのすぐ上流にはリボソーム結合部位、Shine-Dalgarno配列と呼ばれる塩基配列が含まれている。一般には使用するプロモーターの下流域に付随してくるものをそのまま利用することが多い。この部分はmRNAに転写されたあと、開始コドンAUGとともにリボソームRNAに結合する。Shine-Dalgarno配列と開始コドンの間が5〜10塩基の時に最も翻訳効率がよいといわれている。現在では融合タンパク質として発現させることがほとんどであるため、市販のベクターに合わせて最適化されたプロモーターとそのすぐ下流に存在する融合タンパク質の開始コドンをそのまま利用することになる。
【0069】
翻訳の効率化の観点からは、翻訳開始点付近のmRNAの高次構造が重要である。このため目的遺伝子のN末端付近をコードする塩基配列を、アミノ酸の置換なしに極力アデニンやチミンに富んだものに変換することが必要なこともある。さらに、高効率の発現を期待するならば、大腸菌におけるアミノ酸のコドンの使用頻度を考慮し、大腸菌に最適なコドンに置換することも重要である。
【0070】
また、通常大腸菌での発現系は細胞質内で行われるが、細胞質は還元的な環境下にあるため、抗体のようなS-S結合を有するタンパク質は封入体となってしまう。そこで、抗体の場合には、大腸菌発現は酸化的な環境下にあるペリプラズム内で行うのが一般的である。この場合、抗体のN末端にシグナル配列(例えばpel BリーダーやompT)を導入することで達成される。しかしながら、ペリプラズムでの発現系は細胞質に比べてその発現量が極めて低い。ここで、本発明で得られる抗体はDTTが存在する還元的な環境下で選択されたものであるため、大腸菌の細胞質内で発現させた場合においても、水溶性の機能性抗体として発現させることができる。
【0071】
本発明の製造法によって得られた一本鎖抗体は、タンパク質の免疫学的検出に使用できる。免疫学的検出の方法の例としては、ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、免疫沈降法が挙げられる。
【0072】
また、本発明の製造法によって得られた一本鎖抗体と、タンパク質とを接触させ、一本鎖抗体とタンパク質との相互作用を検出することにより、タンパク質相互作用を検出することができる。タンパク質相互作用の検出の方法としては、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、固相酵素免疫検定法が挙げられる。
【0073】
ペプチドやタンパク質を、一本鎖抗体を用いて検出するためには、一本鎖抗体とペプチド、タンパク質を何らかの修飾剤、例えば蛍光色素で修飾したり、酵素や蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質を構築したりして、検出する必要がある。一本鎖抗体とペプチド、タンパク質を蛍光色素で修飾する方法については前記した。融合タンパク質の構築は、GFP又は酵素、好ましくはアルカリ性ホスファターゼや西洋ワサビのペルオキシダーゼを一本鎖抗体のC末端又はN末端に融合させる。このような一本鎖抗体の融合タンパク質を無細胞翻訳系又は大腸菌やバキュロウイルス、動物細胞の系で発現、精製して得る。GFPの場合は蛍光で、アルカリ性ホスファターゼの場合は可視光で、西洋ワサビのペルオキシダーゼの場合は、化学発光をルミノメーターで検出する。また、タンパク質の検出には、一本鎖抗体のタグ(Flag-tag、T7-tag、HA-tag等)の二次抗体と、GFP又はアルカリ性ホスファターゼや西洋ワサビのペルオキシダーゼとの融合タンパク質を用いてもよい。以下に、一本鎖抗体を用いたペプチドやタンパク質の検出方法について述べる。
【0074】
(1)抗体による免疫染色
研究対象となる分子の解析を始める際に、その機能を推測する手段の一つにその分子の局在性の検討が挙げられる。目的分子の発現を検討するためにさまざまな方法が開発されているが、そのいずれもが実験材料の準備や実験系の確立に多くの時間と手間を要する。それらの方法と比較して抗体を用いた組織染色は操作が比較的簡便であり、準備するものは対象分子を認識する抗体のみである。ある分子の解析を始めた時点でその分子を認識する抗体はなんらかの方法で手に入っている場合が多いので、初めての人でもすぐに実験を開始できる。また遺伝子の発現という形ではなく、タンパク質の存在を直接確認できるというのも本方法の優れた点である。しかしながらすべての抗体が組織染色に用いることができるわけではない。その分子が生体内でとる構造を認識できない抗体では良好な結果は望めない。組織染色に適した抗体を準備できるかが勝負の分かれ目になる。
【0075】
基本的な原理はウエスタンブロットと変わらないが、組織染色の場合には組織中にタンパク質をホルムアルデヒドなどで化学的に固定しその局在を検出する。固定された標的タンパク質を一次抗体および二次抗体を用いて検出するわけだが、そのシグナルが微弱で検出が困難である場合には、目的のシグナルのみを特異的に増幅する方法も開発されている。
【0076】
(2)蛍光抗体染色による内在性タンパク質の細胞内局在の観察
機能が不明であるタンパク質を解析するうえで、その分子を特異的に認識する抗体を用いて細胞内における内在性タンパク質の局在を観察することは、非常に有用な情報をもたらしてくれることが多い。GFP融合タンパク質として発現した場合などとは異なり、生細胞のままその分子の動きを観察するというわけにはいかないが、刺激や薬剤の処理に対する応答や細胞運動といったさまざまな状態における目的タンパク質の局在の変化を観察することができる。目的とするタンパク質に対する抗体がない場合でもそのタンパク質にタグをつけた状態で細胞内に一過的に発現させるなどの方法を用いることにより、タグに対する抗体を用いて同様に目的の分子の局在を観察することはできる。しかしながらこの場合に観察されたタグつきタンパク質の局在は、必ずしもそのタンパク質の実際の局在と一致するとは限らず、過剰に発現させたことによる結果であることも少なくない。実験の操作は比較的に容易であるが、抗体や目的タンパク質の局在によっては固定方法の条件検討が必要になる点、そして何よりも注目しているタンパク質に対する特異的な抗体を用意することが重要なポイントである。
【0077】
適切な固定法により細胞を固定した後、界面活性剤などを用いて膜を透過化(permealize; 浸透性を高くする)し、目的の分子に対する特異的な抗体(一次抗体)を用いて処理することにより、細胞内において目的タンパク質−抗体の複合体を形成させる。細胞内には非特異的に結合した抗体が多く残っているのでこれを洗浄して除き、次に一次抗体を認識しさらに蛍光物質で標識してある抗体(二次抗体)を用いて目的タンパク質−一次抗体−二次抗体という複合体を形成させる。一次抗体と同様に非特異的に結合している二次抗体を洗浄して除き、封入し、顕微鏡で観察する。
【0078】
(3)ウエスタンブロット法
ウエスタンブロットとは、電気泳動後のタンパク質を電気的にメンブレンに転写する作業、あるいはそのような作業を含む一連の実験を言う。
【0079】
タンパク質の電気泳動で一般的によく用いられる方法がSDS-PAGEである。試料に、還元剤であるSDSと負の電荷をもつ2-メルカプトエタノールなどを加えて熱処理することにより、タンパク質の高次構造がほぼ完全に破壊される。また、SDSがタンパク質の分子量比(1:1.4)でタンパク質に結合するため、均一な荷電状態となる。これをポリアクリルアミドゲル中で泳動すると、タンパク質の分子量にしたがって分離することができる。
【0080】
SDS-PAGE後、ゲル内に展開したタンパク質を電気泳動的にメンブレンに転写し、試料中の目的タンパク質に対して特異的な抗体とメンブレン上で反応させて、目的のタンパク質を免疫的に検出する。
【0081】
ウエスタンブロットは、ゲル内に展開されたタンパク質バンドをほとんど拡散させることなくメンブレン上に転写できる。また、抗原抗体反応の特異性が高く、感度が高いことも特徴である。したがって、目的のタンパク質に対する抗体が入手できれば、特定のタンパク質を高感度で検出できる、手軽でよい方法と言える。
【0082】
ここでは、SDS-PAGEおよび酵素活性を用いたウエスタンブロットの手法について記述するが、特にこのプロトコルに限定されるわけではない。ウエスタンブロットの操作の流れを以下に示す。(1)SDSなどを含むサンプルバッファーでタンパク質試料を変性させた後、SDS−PAGEによりタンパク質を分子量に従って分離する。(2)泳動後、ゲルをメンブレンと重ねて転写装置にセットし、ゲル内に展開したタンパク質バンドを電気的にメンブレン上に転写(ブロッティング)する。(3)タンパク質への非特異的吸着を防ぐためのブロッキングを行った後、目的タンパク質を特異的に認識する抗体と一次抗体反応させる。(4)一次抗体分子を特異的に認識する二次抗体(発色酵素つき)と二次抗体反応させる。(5)二次抗体につけた発色酵素の酵素活性、例えばペルオキシダーゼ活性やアルカリ性ホスファターセ活性を利用して発色反応させ、目的タンパク質を検出する。
【0083】
(4)免疫沈降法
免疫沈降法(免沈、Immunoprecipitation、IP)とは、特異的な抗原−抗体反応および、一本鎖抗体のC末端部をビオチンで修飾したり、種々のタグ、例えばFlag-tag、T7-tag、HA-tag、His-tagなど(これはアガロースビーズに共有結合しているストレプトアビジンやタグ抗体と結合するので、遠心により簡単に溶液と分けられる)を用いることにより、使用した抗体に対応する抗原タンパク質だけを分離、精製する方法である。ただ現在は、単に抗原タンパク質だけを分離、精製するのみならず、むしろ「洗い」の強度や用いるライセートの界面活性剤を適度に弱めることで、抗体に直接結合する抗原タンパク質と一緒に複合体を作っているタンパク質を検出し、in vivoでのタンパク質−タンパク質相互作用を立証する際に最もよく使われる。そのため、in vitroでの結合しか立証できないプル−ダウンアッセイに比べ、検出できた際の意味合いは大きい。ただ免疫沈降法を行うにあたっては、特異性と親和性が高い抗体が必要である。この点、本発明で選択される高親和性抗体は目的に叶っている。一般に用いる抗体はウエスタンブロットよりも高いタイター(107〜109mol-1)を必要とし、かつ特異性もある程度以上が要求される。
【0084】
また、上述したように洗浄に用いるバッファー、洗浄の回数、可溶化バッファーの組成になどに応じて分離できるタンパク質複合体の様相が変化する。以下にプロトコルを示すが、特に限定されるものでない。(1)ライセートの回収:免疫沈降を行う準備段階としてまず細胞ないし組織からタンパク質溶液を得る必要がある。ここでどのような濃度、組成の溶液を作るかで後の免疫沈降の結果も変わってくる。ライセートにはいろいろなタンパク質が含まれている。(2)抗原−抗体反応:ライセートに目的とするタンパク質を認識する一本鎖抗体を加えることで抗原−抗体反応を起こさせる。(3)ビーズと抗体との結合:このままでは溶液内の抗体を分離できないため、それを可能とするよう、ストレプトアビジンやタグ抗体を共有結合させたアガロースビーズを加える。ストレプトアビジンやタグ抗体は一本鎖抗体のC末端の修飾されたビオチンやタグを特異的に認識して結合するため、この操作によって一本鎖抗体がビーズに結合した形となり、分離ができるようになる。(4)分離、精製:遠心することによりビーズを下に落とし、上清を除くことで分離する。さらに洗浄バッファーを加え、混和することで洗浄し、非特異的に結合しているタンパク質をある程度取り除く。(5)精製したタンパク質複合体の解析:タンパク質複合体に含まれているものをビーズからタンパク質を溶出させ、SDS−PAGEで分離することによって解析する。検出の方法としては、ウエスタンブロッティング(既知の場合で抗体をもっている時)やCBB染色などが用いられる。CBB染色して、未知のバンドが検出できた場合、MSで固定することもできる。
【0085】
本発明により得られる標的分子と相互作用するタンパク質(以下、「機能性タンパク質」ともいう)を用いた分子間相互作用の解析方法においては、通常には、上記で得られた修飾機能性タンパク質と標的分子を、修飾物質の種類や反応系の種類などにより適宜組み合わせて接触せしめ、修飾機能性タンパク質又は標的分子が発する信号において両分子間の相互作用に基づいて発生される上記信号の変化を測定することにより相互作用を解析する。また、相互作用の解析は、例えば、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行われる。また、上記で得られた2組の修飾機能性タンパク質と標的分子を、修飾物質の種類や反応系の種類などにより適宜組み合わせて接触せしめ、修飾機能性タンパク質が発する信号において両抗原分子間の相互作用に基づいて発生される上記信号の変化を測定することにより相互作用を解析する。相互作用の解析は、例えば、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行われる。以下これらの方法の詳細については記述する。標的分子及び相互作用は、上記に説明した通りである。
【0086】
用いられる機能性タンパク質は、態様に応じて修飾物質により修飾して用いることができる。修飾物質は、通常、蛍光性物質などの非放射性修飾物質から選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えばカルボキシル基、水酸基、アミノ基など)を持ち、タンパク質、核酸等の上記一本鎖抗体と連結可能な種々の蛍光色素、例えばフルオレセイン系列、ローダミン系列、Cy3、Cy5、エオシン系列、NBD系列などのいかなるものであってもよい。その他、色素など修飾可能な化合物であれば、その化合物の種類、大きさは問わない。
【0087】
これらの修飾物質は、標的分子と修飾機能性タンパク質との間の相互作用に基づいて発生される信号の変化の測定又は解析方法に適したものが適宜用いられる。
上記修飾物質の機能性タンパク質への結合は、それ自体既知の適当な方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、上に記載したC末端を修飾する方法等を用いることができる。また、修飾機能性タンパク質または本発明に用いられる標的分子は態様に応じて、固相に結合させる場合があるが、固相に結合させる方法としては、修飾物質を介して結合させるものと、それ以外の部分により結合させるものが挙げられる。
【0088】
修飾物質を介して結合させる場合に用いられる修飾物質は、通常には、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(以下、「リガンド」と称することがある。)であり、固相表面には該リガンドと結合する特定のポリペプチド(以下、「アダプタータンパク質」と称することがある)を結合させる。アダプタータンパク質には、結合タンパク質、受容体を構成する受容体タンパク質、抗体なども含まれる。アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、例えば、アビジンおよびストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。
【0089】
これらの中で、アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、アビジンおよびストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチンの組み合わせが最も好ましい。これらの結合タンパク質は、それ自体既知のものであり、該タンパク質をコードするDNAは既にクローニングされている。
【0090】
アダプタータンパク質の固相表面への結合は、それ自体既知の方法を用いることができるが、具体的には、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基あるいはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0091】
修飾物質以外の部分により固相に結合させる場合は、通常タンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物を固相に結合させるのに用いられる既知の方法、具体的には例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基あるいはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0092】
「測定」とは解析のために用いられる信号の変化を収集するための手段であり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。用いられる測定法としては、例えば、蛍光相関分光法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、蛍光イメージングアナライズ法、表面プラズモン共鳴法、固相酵素免疫検定法など、分子間相互作用を検出できるあらゆる系が利用可能である。
【0093】
蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy(FCS): Eigen, M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 5740-5747(1994))は、共焦点レーザー顕微鏡等の下で、粒子の流動速度、あるいは拡散率、容積収縮等を測定する方法であり、本発明においては、修飾機能性タンパク質(C末端修飾機能性タンパク質)と抗原分子間の相互作用により元の修飾分子1分子の並進ブラウン運動の変化を測定することにより、相互作用する分子を測定することができる。具体的には試料粒子が励起光により励起されて、試料液容積の一部において蛍光を放射し、この放射光を測定し光子割合を得る。この値は、特定の時間に観測されている空間容積中に存在する粒子の数と共に変化する。上述した種々のパラメーターは自己相関関数を使用してこの信号の変動から算出され得る。このFCSを行う為の装置もカールツァイス(Zeiss)社等から市販されており、本方法においてもこれらの装置を用いて解析を行うことができる。この方法を用いて機能性タンパク質−標的分子間および標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれも溶液として供することが必要である(液相法)。標的分子は修飾の必要はない。また相互作用を調べようとするC末端修飾機能性タンパク質より非常に分子量の小さい分子は、C末端修飾機能性タンパク質のブラウン運動に影響を及ぼさないため本方法においてはふさわしくない。
【0094】
しかし、2種類の蛍光色素を用いる蛍光相互相関分光法(FCCS)は、1種類の蛍光色素を用いるFCSでは困難であった同じくらいの分子量をもつタンパク質間の相互作用も検出できる。2種類の蛍光色素を用いる他の方法としては蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法が知られているが、FRETが生じるためには2つの蛍光色素が40〜50Å以内に近接する必要があり、タンパク質の大きさや蛍光色素の付いている位置によっては、相互作用していてもFRETが観測されない危険性がある。FCCS法では相互相関の検出は蛍光色素間の距離に依存しないので、そのような問題がない。一方、他の検出系である蛍光偏向解消法と比較すると、FCCS法は必要なサンプル量が少なく、検出時間が短く、HTSのための自動化が容易等の長所がある。さらにFCCS法では蛍光標識された分子の大きさや数というきわめて基本的な情報が得られるので、表面プラズモン共鳴法のように汎用的な用途に利用できる可能性がある。両者の違いは、表面プラズモン共鳴法ではタンパク質が固定化された状態で相互作用を検出するのに対して、FCCS法ではより天然の状態に近い溶液中の相互作用を見ることができる点にある。FCCS法では、タンパク質の固定化が必要ないかわりに、タンパク質を蛍光色素で標識する必要があるが、本発明により、この課題を克服することが可能となった。
【0095】
本方法において2種類の蛍光色素で修飾された2組のタンパク質−標的分子の系において、接触せしめる方法としては、両標的分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であれば如何なるものであってもよいが、好ましくは市販のFCCS用装置の測定用ウェルに通常生化学的に用いられる緩衝液等に適当な濃度でそれぞれ発光波長が重ならない蛍光色素で標識された2種のC末端修飾機能性タンパク質を溶解した溶液を投入し、さらに同緩衝液に適当な濃度で2種の未標識の標的分子を溶解した溶液を投入する方法によって行われる。
【0096】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記FCCS用測定装置の各測定用ウェルにそれぞれ異なる複数のC末端修飾機能性タンパク質を投入し、これにそれぞれの機能性タンパク質に結合し得る標的分子溶液を投入するか、あるいは特定のC末端修飾機能性タンパク質を投入し、各ウェルに互いに異なる複数種の標的分子溶液を投入する方法が用いられる。
【0097】
蛍光イメージングアナライズ法(抗体チップ法)は、固相化された分子に、修飾分子を接触せしめ、両分子の相互作用により、固相化された分子上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光を、市販の蛍光イメージングアナライザーを用いて測定又は解析する方法である。
【0098】
この方法を用いて機能性タンパク質−標的分子間、標的−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれか一方は上記した方法により固相化されていることが必要である。標的分子は固相化して用いる場合には修飾されているものと、されていないもののどちらも利用可能である。また、固相化しないで用いる場合には上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。C末端修飾機能性タンパク質は、修飾部を介して固定化されているものも、修飾部以外の部分、例えばGSTのような融合タンパク質やFlag-tag、His-tag等で固定化されているものも用いることができる。
【0099】
C末端修飾機能性タンパク質、または標的分子を固相化するための基板としては、通常タンパク質や核酸等を固定化するのに用いられるニトロセルロースメンブレンやナイロンメンブレン、あるいはスライドガラスやプラスチック製のマイクロプレート等も用いることができる。
【0100】
本方法において修飾標的分子あるいは機能性タンパク質を固相化分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは修飾標的分子あるいはC末端修飾機能性タンパク質を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これを固相表面に接触させる方法が好ましい。
【0101】
両分子を接触せしめた後、好ましくは過剰に存在する修飾標的分子あるいはC末端修飾機能性タンパク質を同緩衝液等により洗浄する工程を行い、固相上にとどまった標的分子あるいはC末端修飾機能性タンパク質の修飾物質から発せられる蛍光信号、又は固相化されている修飾分子から発せられる蛍光と固相上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光が混ざり合った信号を、市販のイメージングアナライザーを用いて測定あるいは解析することにより、固相化された分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0102】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記固相表面に、複数のC末端修飾機能性タンパク質あるいは修飾又は非修飾標的分子を番地付けして固相化する方法、あるいは1種類のC末端修飾機能性タンパク質または修飾もしくは非修飾標的分子に固相化されていない複数種のC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を接触させる方法等が用いられる。複数種のC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を接触させる場合には、固相にとどまった該分子を緩衝液の濃度の差等により解離させて取得し、これを既知の方法により分析することにより同定できる。
【0103】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法は、2種類の蛍光色素を用いる他の分子間相互作用検出法としてよく知られている。FRETとは、2種類の蛍光色素の一方(エネルギー供与体)の蛍光スペクトルと、もう一方(エネルギー受容体)の吸収スペクトルに重なりがあるとき、2つの蛍光色素間の距離が十分小さいと、供与体からの発光が起こらないうちに、その励起エネルギーが受容体を励起してしまう確率が高くなる現象をいう。したがって、相互作用を検出したい2つのタンパク質を、それぞれ供与体および受容体となる蛍光色素で標識しておき、供与体を励起すれば、2つのタンパク質が相互作用しない場合は、蛍光色素間の距離が大きいためFRETは起こらず、供与体の蛍光スペクトルが観察されるが、2つのタンパク質が相互作用して蛍光色素間の距離が小さくなると、FRETにより受容体の蛍光スペクトルが観察されるので、蛍光スペクトルの波長の違いからタンパク質間相互作用の有無を判別することができる。蛍光色素としては、供与体がフルオレセイン、受容体がローダミンという組み合わせがよく用いられている。また最近では、蛍光緑色タンパク質(GFP)の波長の異なる変異体の組み合わせにより、細胞の中でFRETを観察し相互作用を検出する試みがなされている。この方法の欠点としては、FRETが生じるために2つの蛍光色素が40〜50Å以内に近接する必要があるため、タンパク質の大きさや蛍光色素の付いている位置によっては、相互作用していてもFRETが観測されない危険性があるという点が挙げられる。
【0104】
エバネッセント場分子イメージング法とは、Funatsu, T., et al., Nature, 374, 555-559 (1995)等に記載されている方法で、ガラス等の透明体に固相化した分子に溶液として第2の分子を接触せしめ、これにエバネッセント場が発生する角度でレーザー光等の光源を照射し、発生したエバネッセント光を検出器によって測定又は解析する方法である。これらの操作は、それ自体既知のエバネッセント場蛍光顕微鏡装置を用いて行うことができる。
【0105】
この方法を用いてタンパク質間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれか一方は上記した方法により固相化されていることが必要である。標的分子は固相化する場合は修飾の必要はないが、固相化しないで用いる場合には上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。
【0106】
C末端修飾機能性タンパク質または標的分子を固相化するための基板としては、ガラス等の材質の基板が用いられ、好ましくは石英ガラスが用いられる。また、レーザー光の散乱等を防ぐために表面を超音波洗浄したものが好ましい。
【0107】
本方法において固相化していないC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を固相化分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは固相化していないC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これを固相表面に滴下する方法が好ましい。
【0108】
両分子を接触せしめた後、エバネッセント場照明により励起された蛍光をCCDカメラ等の検出器を用いて測定することにより、固相化された分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0109】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記基板に、複数のC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を番地付けして固相化する方法等が用いられる。
【0110】
蛍光偏光法(Perran, J., et al., J. Phys. Rad., 1, 390-401(1926))は、蛍光偏光で励起された蛍光分子が、励起状態の間、定常状態を保っている場合には同一の偏光平面で蛍光を放射するが、励起された分子が励起状態中に回転ブラウン運動等を行った場合に、放射された蛍光は励起光とは異なった平面になることを利用する方法である。分子の運動はその大きさに影響を受け、蛍光分子が高分子である場合には、励起状態の間の分子の運動はほとんどなく、放射光は偏光を保ったままになっているのに対して、低分子の蛍光分子の場合は、運動速度が速いために放射光の偏光が解消される。そこで、平面偏光で励起された蛍光分子から放射される蛍光の強度を、元の平面とそれに垂直な平面とで測定し、両平面の蛍光強度の割合からこの分子の運動性およびその存在状態に関する情報が得られるものである。この方法によれば、夾雑物があってもこれに影響されることなく、蛍光修飾された分子と相互作用する標的分子の挙動を追跡できる。これは蛍光修飾された分子と標的分子が相互作用するときにのみ、偏光度の変化として測定されるからである。
【0111】
この方法を行うための装置としては例えばBECON(Panyera社製)等が市販されており、本方法もこれらの装置を用いることにより行うことができる。
この方法を用いてタンパク質間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれも溶液として供する必要である。標的分子は修飾の必要はない。また相互作用を調べようとするC末端修飾機能性タンパク質より非常に分子量の小さい分子は、C末端修飾機能性タンパク質のブラウン運動に影響を及ぼさないため本方法においてはふさわしくない。
【0112】
本方法において2組のC末端修飾機能性タンパク質−標的分子を接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であれば如何なるものであってもよいが、好ましくは市販の蛍光偏光解消装置の測定用ウェルに通常生化学的に用いられる緩衝液等に適当な濃度でC末端修飾機能性タンパク質を溶解した溶液を投入し、さらに同緩衝液に適当な濃度で標的分子を溶解した溶液を投入する方法によって行われる。
【0113】
本方法において測定する2つの標的間の相互作用は、最適の組み合わせを検出するためには、相互作用の程度を数値化することが有効である。相互作用の程度を示す指標としては、例えば一定濃度のC末端修飾機能性タンパク質に対して、極大蛍光偏光度を与える最小標的物濃度の値等を用いることができる。
【0114】
表面プラズモン共鳴法とは、金属/液体界面で相互作用する分子によって表面プラズモンが励起され、これを反射光の強度変化で測定する方法である(Cullen, D.C., et al., Biosensors, 3(4), 211-225(1987-88))。この方法を用いてタンパク質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾タンパク質は上記した方法により固相化されていることが必要であるが、標的分子の修飾は必要ない。
【0115】
C末端修飾機能性タンパク質を固相化するための基板としては、ガラスの等の透明基板上に金、銀、白金等の金属薄膜が構成されたものが用いられる。透明基板としては、通常表面プラズモン共鳴装置用に用いられるものであればいかなるものであってもよく、レーザー光に対して透明な材料からなるものとして一般的にはガラス等からなるものであり、その厚さは0.1〜5mm程度のものが用いられる。また金属薄膜の膜厚は100〜2000Å程度が適当である。このような表面プラズモン共鳴装置用固基板として市販されているものも用いることができる。C末端修飾機能性タンパク質の上記基板への固相化は前述した方法により行うことができる。
【0116】
本方法において標的分子をC末端修飾機能性タンパク質へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液に固相化されたC末端修飾機能性タンパク質を接触させる方法を用いることができる。
【0117】
これらの行程は市販の表面プラズモン共鳴装置、例えばBIAcore2000 (Pharmacia Biosensor社製)によってもよい。両分子を接触せしめた後、それ自体既知の表面プラズモン共鳴装置を用いて、それぞれの反射光の相対強度の時間的変化を測定することにより、固相化された修飾抗原分子と一本鎖抗体との相互作用が解析できる。
【0118】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記表面プラズモン共鳴装置に用いられる基板に、複数の標的分子を番地付けして固相化し、1種類の機能性タンパク質を接触させるか、あるいは1種類の固相化されたC末端修飾機能性タンパク質に複数種の標的分子を接触させる方法等が用いられる。
【0119】
固相酵素免疫検定法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA): Crowther, J.R., Methods in Molecular Biology, 42 (1995))は、固相上に固定化した抗原に対し、抗体を含む溶液を接触せしめ、両分子の相互作用(抗原抗体反応)により、固相化された抗原上にとどまった抗体をこれと特異的に結合する修飾分子(IgG等)から発せられる蛍光、あるいは修飾分子を基質とする色素から発せられる信号を、市販の検出器(ELISAリーダー)を用いて測定又は解析する方法である。
【0120】
この方法を用いてタンパク質−抗原分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、抗原となるC末端修飾機能性タンパク質を上記した方法により固相化されていることが必要である。また抗体となる標的分子は上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。
【0121】
抗原となるC末端修飾機能性タンパク質を固相化するための基板としては、通常ELISAに用いられるプラスチック製のマイクロプレート等も用いることができる。
本方法において抗体となる修飾標的分子を固相分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは修飾標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これをマイクロプレートに注入する方法が好ましい。
【0122】
両分子を接触せしめた後、好ましくは過剰に存在する固相化分子に結合していない修飾分子を同緩衝液等により洗浄する工程を行い、固相上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光を、市販のELISAリーダー等を用いて測定あるいは解析することにより、固相化された抗原分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0123】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記マイクロプレートの各穴にそれぞれ異なる複数の修飾標的分子を固相化する方法が用いられる。
相互作用する分子の同定方法としては、上記のそれぞれの方法により測定され、相互作用が認められた標的分子は、該分子の一次構造が未知の場合、それ自体既知の適当な方法により、その一次構造を解析することができる。具体的には、相互作用を認められた標的分子がタンパク質の場合、アミノ酸分析装置等によりアミノ酸配列を解析し、一次構造を特定することができる。また、標的分子が核酸の場合には、塩基配列決定方法により、オートDNAシーケンサーなどを用いれば塩基配列を決定することができる。
【0124】
C末端修飾機能性タンパク質や標的分子の固相化のための装置としては、上記に記載したC末端修飾機能性タンパク質や標的分子の修飾部を介した固相への固定化方法を行うために、既知の適切な手段を組み合わせて装置を構築することもできる。本装置における各手段自体はそれぞれ既知のものであり、これらの手段における、基板の保持、C末端修飾タンパク質溶液の添加、洗浄等の各操作は、それ自体既知の方法により行えばよい。これらの操作を組み合わせ、全自動又は半自動の、C末端修飾タンパク質の固相化のための装置を構築することができる。
【0125】
タンパク質間相互作用測定のための装置としては、上記に記載したタンパク質−標的分子間相互作用測定を行うために、既知の適切な手段を組み合わせて装置を構築することもできる。本装置における各手段自体はそれぞれ既知のものであり、これらの手段における、基板の保持、抗原分子の添加、洗浄、信号検出等の各操作は、それ自体既知の方法により行えばよい。これらの操作を組み合わせ、全自動又は半自動の、タンパク質間相互作用測定のための装置を構築することができる。
【0126】
マウス抗体cDNAライブラリーから本発明の方法によって選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域やCDR領域(complementarity determining region)と入れ換えることによって、キメラ型IgG抗体やヒト型化したマウスIgG抗体を作れる。これらの抗体は、ヒトに投与したときに惹起されるヒト抗マウス抗体の産生が少ないか、ほとんどない。さらに、ヒト抗体cDNAライブラリーから本発明の方法に選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域と入れ換えることによって、完全なヒトモノクローナルIgG抗体を作れる。これは、アナフィラキシー症状を引き起こさない抗体医薬として利用することが可能である。
【0127】
したがって、ヒト又はその他の動物由来のDNAライブラリーから本発明の選択法により選択された核酸の配列に基づいて、その核酸にコードされる可変領域をヒトのIgGの可変領域と置換することによって構築されるヒトまたはヒト型抗体が提供される。また、この抗体を有効成分とする治療剤が提供される。アンジオテンシンIIに対して結合する抗体は、高血圧の治療に中和抗体として使用できると考えられる。すなわち、アンジオテンシンIIの生理作用は血圧上昇作用なので、抗体はアンジオテンシンIIと結合して血圧上昇作用を抑えると考えられる。また、Lewis Xに対して結合する抗体は、癌の治療に使用できると考えられる。細胞が癌化すると細胞表面にLewis Xが発現するようになるので、それを標的として抗体を用いることができる。例えば、癌細胞を殺す抗癌剤やリシンなどの毒素を結合させて、全身または局所的に投与し、抗体がミサイルのように癌細胞を集中的に攻撃し、癌に特異的かつ効果的なミサイル治療を行うことができる。また、ミサイル治療に用いる製剤の一種として、脂質二重膜小胞に薬剤を入れ、その表面に抗体を結合させたイムノリポソーム製剤としてもよい。
【0128】
以下、具体的に本発明の実施例を記述するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。
【実施例1】
【0129】
一本鎖抗体をコードする核酸の選択
(I) ライブラリーの作成
[1]一本鎖抗体cDNAライブラリーの製造には新たに作成したライブラリーを用いた。
【0130】
始めにH鎖DNA溶液の調製を行った。マウス脾臓Poly A+ RNA (5 μg/μl)(DEPC-処理水)(CLONTECH社)をRNase-Free水で100倍に希釈したものを11μl、5×RT緩衝液(TOYOBO) 22μl、10 mM dNTPs(TOYOBO) 11μl、MulgG1/2 forwardプライマー(配列番号48) (1pmol/μl) 27.5μl、MulgG3 forwardプライマー(配列番号47)(1pmol/μl) 27.5μlを混和させ、65℃で9分間反応後、直ちに4℃に冷却し、4℃で2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 5.5μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 5.5μlを加え、50℃で30分間、次いで99℃で5分間反応させcDNA-Hを合成した。
【0131】
[2][1]で合成したcDNA-H溶液 5μl、下記のHBプライマーリストに示した各HBプライマー (1pmol/μl) 2.5μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 2.5μl、MulgG1/2 forwardプライマー(配列番号48)(1pmol/μl) 1.25μl、MulgG3 forwardプライマー(配列番号47)(1pmol/μl) 1.25μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を25μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0132】
【表1】
【0133】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクル行った後72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理を行った。すなわち同量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を加えよく混和させ4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移しもう一度同量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を加えよく混和させ4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移した。得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。すなわち20 mg/mlグリコーゲン溶液(ナカライテスク株式会社)1μl、3 M 酢酸ナトリウム(pH 5.2) 0.1倍量、100%エタノール 3倍量を添加し氷上で15分間放置後、13,200rpm、20分間遠心して上清を除去して、1mlの冷却した70%エタノールにてペレットを洗浄後、再び13,200rpm、2分間遠心して上清を除去した。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(19種)をRNase-free水20μlに溶解した。
【0134】
[3][2]で合成した各DNA溶液(19種) 1μl、HBプライマーリストに示した対応する各HBプライマー (10pmol/μl) 2μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、(2 mM) dNTPs(TOYOBO) 10μl、下記のHFプライマーリストに示したVH forwardプライマーHF1:HF2:HF3:HF4(1:1:1:1)混合液 (10pmol/μl) 2μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0135】
【表2】
【0136】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を20サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(19種)をRNase-free水10μlに溶解した。
【0137】
[4][3]で得られた19種のDNAを2%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。すなわち同量のTE飽和フェノール(8-キノリノール含有)を加えよく混和させ4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移しもう一度同量のTE飽和フェノール(8-キノリノール含有)を加えよく混和し4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移した。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し、続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、各DNA(19種)をRNase-free水10μlに溶解した。各DNA溶液について260nmの吸収を測定しHB1:HB2:HB3:HB4:HB5:HB6:HB7:HB8:HB9:HB10:HB11:HB12:HB13:HB14:HB15:HB16:HB17:HB18:HB19 (8:9:4:4:12:4:1:4:12:4:4:2:2:4:4:8:6:1:1)の比率で混和させ合計0.5pmolのH鎖DNA溶液とした。
【0138】
[5]次にL鎖DNA溶液の調製を行った。マウス脾臓Poly A+ RNA (5 μg/μl)(DEPC-処理水)(CLONTECH社)をRNase-Free水で100倍に希釈したものを10μl、5×RT緩衝液(TOYOBO) 20μl、10 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、MuCK forwardプライマー(配列番号49)(1pmol/μl) 50μlを混和させ、65℃で9分間反応後直ちに4℃に冷却し、4℃で2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 5μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 5μlを加え、50℃で30分間、次いで99℃で5分間反応させcDNA-Lを合成した。
【0139】
[6][5]で合成したcDNA-L溶液5μlに、下記のLBプライマーリストに示した各LBプライマー (1pmol/μl) 2.5μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 2.5μl、MuCK forwardプライマー(配列番号49) (1pmol/μl) 2.5μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを加え、RNase-Free水を添加し全体量を25μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0140】
【表3】
【0141】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、48℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクル行った後72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理を行った。得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(18種)をRNase-free水20μlに溶解した。
【0142】
[7][6]で合成した各DNA溶液(18種) 1μl、LBプライマーリストに示した対応する各LBプライマー(10pmol/μl) 2μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、下記のLFプライマーリストに示したLH forwardプライマー LF1:LF2:LF3:LF4:LFλ(1:1:1:1)混合液(10pmol/μl) 2μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0143】
【表4】
【0144】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、48℃、30秒間、72℃、1分間を20サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(18種)をRNase-free水10μlに溶解した。
【0145】
[8][7]で得られた18種のDNAを2%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え、70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、各DNA(18種)をRNase-free水10μlに溶解した。各DNA溶液について260nmの吸収を測定しLB1:LB2:LB3:LB4:LB5:LB6:LB7:LB8:LB9:LB10:LB11:LB12:LB13:LB14:LB15:LB16:LB17:LBλ(2:4:8:8:8:16:12:4:4:8:16:16:12:4:4:2:2:1)の比率で混和させ合計0.5pmolのL鎖DNA溶液とした。
【0146】
[9]H鎖とL鎖を一本化するためにさらにPCRを行った。[4]で合成したH鎖DNA溶液 0.5pmol、[8]で合成したL鎖DNA溶液0.5pmol、5'UTR(配列番号57)(1pmol/μl) 0.5μl、McD-Linker+(配列番号56)(1pmol/μl) 0.5μl、McD 3'UTR (His Tag) (配列番号55)(1pmol/μl) 0.5μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 5μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 5μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を45.75μlとしてPCR反応させた。
【0147】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、続いて5分間のスロープで58℃とし、58℃、30秒間、72℃、1分間を10サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。
[10]続いて、[9]のPCR反応溶液45.75μlに、McD-F(配列番号52)(1pmol/μl) 2μl、McD-R (His Tag) (配列番号50)(1pmol/μl) 2μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを加えさらにPCR反応させた。
【0148】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を15サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。
[11][10]で得られたDNAを1%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え、70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水10μlに溶解した。
【0149】
(II) ライブラリーの転写
[12][11]で得られたDNAまたは[25]で得られたDNA 1pmol、5×SP6緩衝液 4μl、ATP (100mM) 1μl、CTP (100mM) 1μl、UTP (100mM) 1μl、GTP (10mM) 2μl、キャップアナログ(m7G(5')PPP(5')G) (Invitrogen) (40mM) 2.5μl、エンザイムミックスSP6RNAポリメラーゼ(Promega) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を20μlとし、37℃で2時間30分間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega)5μlを添加しさらに37℃で1時間反応させた。
【0150】
[13][12]で得られたRNAをRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。すなわち転写反応液にRNase-Free水を添加し全体量を100μlとし、RLT緩衝液(Qiagen) 350μl、2-メルカプトエタノール 5μl、100% エタノール 250μlを加え、RNeasyミニスピンカラムに供し、4℃、12,000 rpm、16秒間遠心後排出された溶液を除去し、RPE緩衝液(Qiagen)500μlを同カラムに加え、4℃、12,000 rpm、16秒間遠心後排出された溶液を除去し、さらにRPE緩衝液(Qiagen)500μlを同カラムに加え、4℃、12,000 rpm、2分間遠心後排出された溶液を除去し、同カラムを新しいチューブに差し替え、4℃、12,000 rpm、1分間遠心し、再び同カラムを新しいチューブに差し替え同カラムにRNase-Free水を30.5μl添加し、10分間氷上で放置後、4℃、14000 rpm、1分間遠心しRNA溶液として回収した。
【0151】
PEGスペーサーとのライゲーション
[14][13]で得られたRNA溶液 29.5μl、T4 ligation 10×緩衝液 5μl、0.1 M DTT 1μl、40 mM ATP 0.5μl、100% DMSO 5μl、0.1% BSA 1μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 1μl、ポリエチレングリコール(PEG)を含むスペーサー分子 (特開2002-176987;p(dC)2T(Fl)pPEG(2000)p(dCp)2Puro(記号の意味は特開2002-276987に記載されている通りである)(10 nmol) 1μl、ポリエチレングリコール(PEG)2000 (日本油脂)(30 nmol) 1μl、T4 RNA リガーゼ (Takara)(250 U/μl) 5μlを混和させ、遮光条件下15℃、12-15時間または遮光条件下4℃、約40時間反応させた。得られたスペーサー分子が結合したRNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。
【0152】
(III) 翻訳
[15][14]で得られたスペーサー分子が結合したRNA 2.5 pmol、小麦胚芽抽出液(5mM DTTを含む)(Promega)12.5μl、Amino Acid mixture, Complete (1mM)(Promega) 2μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 2μl、CH3COOK (1M)(Promega) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を25μlとし、遮光条件下25℃で1時間反応させ翻訳を行った。
【0153】
(IV)ライブラリーの逆転写
[16]翻訳溶液の逆転写反応の前処理を行った。RNase-Free水で調製し組成が50 mMリン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液にて膨潤および平衡化させたSephadex G200 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[15]で得られた翻訳溶液 25 μlを供し、2滴ずつチューブに集め5本目から8本目までを回収した。
【0154】
[17]またはUltrafreeMC 100,000NWL(ミリポア)に[15]で得られた翻訳溶液 25 μlを供し4℃、13,200 rpm、20分間遠心し下層の溶液を回収した。
[18][16]または[17]のいずれかの前処理溶液、5×RT緩衝液(TOYOBO) 80μl、(10 mM) dNTPs(TOYOBO) 40μl、McD-R (His Tag) (配列番号50)(10pmol/μl) 20μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を360μlとし、65℃で9分間反応後直ちに4℃に冷却し4℃で2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 20μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 20μlを加えた。50℃で30分間次いで99℃で5分間反応、または、50℃で30分間反応させた。
【0155】
(V) 標的抗原の固定化
[19]樹脂(UltraLink Immobilized Neutr Avidin Plus) (Pierce) 50 μlを1.5 mlチューブに取り、RNase-Free水500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去し再びRNase-Free水500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去した。組成が100 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、pH 7.5、0.1% Tween 20であるELISA緩衝液に溶解した(0.4μM) アンジオテンシンII-ビオチンまたは(0.4μM) Lewis X-sp-ビオチンを、500μl加え25℃にて1時間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。図3にアンジオテンシンII-ビオチンの化学構造式および図4にLewis X-sp-ビオチンの化学構造式をそれぞれ示した。ELISA緩衝液に溶解した5 mMビオチン7μlを加えさらに25℃にて30分間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。ELISA緩衝液500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去し再びELISA緩衝液500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去した。
【0156】
10×マレイン酸緩衝液4 ml (Dig wash and block buffer set)(Roche)とブロッキング10×ブロッキング溶液 4.45ml (Dig wash and block buffer set)(Roche)、およびRNase-Free水36 mlを混和させたブロッキング剤500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去し、再び、同様のブロッキング剤600 μlを加え2 mlチューブに樹脂を移した。
【0157】
(VI) 標的抗原を認識するIVV抗体の選択
[20]ブロッキング剤600 μlにけん濁した樹脂に[18]で得られた逆転写反応したライブラリーの400 μl を加え、4℃にて15分間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した。
【0158】
シリンジ5mL(Terumo)とWizard Minicolumn(Promega)と注射針 18G×1/2"(Terumo)を直列につなぎ、上記のけん濁液1mlを供し注射筒で押し出した。その溶液をFlowとして一部4℃で保存した。PP6T緩衝液に注射針を差し込み注射筒で5 ml吸い上げ、再び押し出した。この操作を6回行った。
【0159】
さらにアンジオテンシンII(最終濃度1 nM)またはLewis X(最終濃度1 nM)を含むPP6T緩衝液にて上記の操作を2回行った。この操作の最後の溶出液をWashとして一部4℃で保存した。アンジオテンシンII(100 mM) 20 μl、Ribonucleic acid-core from torula Yeast RNA Type II-C (5 μg/μl) 2 μl、PP6T緩衝液178 μlまたはLewis X 0.5 mgを93.6 μlをPP6T緩衝液に溶解させたものと、Ribonucleic acid-core from torula Yeast RNA Type II-C (5 μg/μl) 0.95 μlを混和させ約94.6 μlとしテルモシリンジとテルモ注射針をはずしWizard Minicolumnにけん濁させ樹脂を回収した。この樹脂けん濁液を4℃にて1時間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した。
【0160】
[21]Urtra Freeに[20]で得られたけん濁液を供し10,000 rpm、3分間遠心し下層に溶液を回収した。あらかじめRNase-Free水100 μlを加え10,000 rpm、3分間遠心したMicrocon YM-50に、溶出液200 μlまたは94.6 μlを供し12,000 rpm、1.5-2.5分間遠心した。さらにRNase-Free水100 μlを加え12,000 rpm、1.5-2.5分間遠心を数回繰り返し行いアンジオテンシンIIまたはLewis Xを除去した。
【0161】
(VII) PCRによるcDNAライブラリーの回収
[22][21]で得られた溶出溶液1μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、T7-tag-F(配列番号53) (10pmol/μl) 2μl、McD-R his tag(配列番号50) (10pmol/μl) 2μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 1μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0162】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を25-30サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ900-1000bpのバンドを確認した。
【0163】
[23][22]で得られた増幅した遺伝子はWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製した。すなわちPCR反応物を1.5mlチューブに移しDirect purification緩衝液Promega)100 μl、DNA purification resin(Promega)1 mlを加え混和させシリンジ2.5 mL(Terumo)を使ってWizard Minicolumn(Promega)に供した。シリンジで液を押し出して捨て(80%)イソプロパノール2 mlを加え再び液を押し出して捨てた。Wizard Minicolumnを新しい1.5 mlチューブに付け4℃、10,000 rpm、2分間遠心した後、再び新しい1.5 mlチューブをつけ、RNase-Free水60 μlを加え、室温で10 分間放置した。4℃、10,000 rpm、2分間遠心し、Wizard Minicolumnを捨て、下層を回収し、さらに4℃、10,000 rpm、5分間遠心し、生じた沈殿を除き新しい1.5mlチューブに上清を回収した。
【0164】
DNA溶液について260nmの吸収を測定し濃度を見積もった。
(VIII) PCRによるオメガ配列の付加
[24]PCRによるオメガ配列の付加をするために[23]で得られたDNA溶液 0.2 pmol、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、McD 5'UTR (配列番号54)(1pmol/μl) 1μl、McD-F (配列番号52)(10pmol/μl) 2μl、McD-R his tag (配列番号50)(10pmol/μl) 2μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0165】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を7-10サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ約1000bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水10μlに溶解した。
【0166】
[25][24]で得られたDNAを1%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え、70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し、続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水10μlに溶解した。
【0167】
図5には、上記の工程で得られた各翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動に付し対応付け分子を確認した結果を示す。図中、下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのFITCの蛍光をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量した結果を示す。左からNegaは[11]で得られたライブラリーMH0のクローンのひとつであるMH0-15、PosiはライブラリーMI3のクローンのひとつであるMI3-55、MH0は[11]で得られたライブラリー、MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI2はMI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI3はMI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。
【0168】
MH0ではストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものがかなりの割合で含まれていることから対応付けの効率は15%と低いのに対して、MI1では25%、MI2では37%、MI3では41%と対応付けの効率が上昇している。NegaおよびPosiはインフレームのクローンでありこの場合の対応付け効率はそれぞれ34%および40%を示しているがMI2またはMI3においてほぼその対応付け効率と同等の値が得られている。従って蛋白レベルでのセレクションが成功しライブラリーはインフレームの割合が上昇していることを示している。
【0169】
図6は、図5と同様に上記の工程で得られた各翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動に付し対応付け分子を確認した結果を示す。左からMH0は[11]で得られたライブラリー、MK1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK2はMK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。MH0ではストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものがかなりの割合で含まれていることから対応付けの効率は15%と低いのに対して、MK1では41%、MK2では36%と対応付けの効率が上昇している。
【0170】
図7は、図5と同様に上記の工程で得られた各翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動に付し対応付け分子を確認した結果を示す。左からMM1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM2はMM1を[18]において50℃30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MP1は[11]で得られたライブラリーを[15]において99℃、5分間反応させその後[20][21]においてアンジオテンシンIIを抗原としセレクションを行ったあとに[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させて[22]以降の実験を行い[25]で回収したライブラリーを示している。MM1では25%、MM2では33%と対応付けの効率が上昇している。MM1では[18]において50℃、30分間反応させた後99℃、5分間反応させたMI1と比較し同様な値であり、またMM2もMI2と比較し遜色ない対応付け効率を示すことから蛋白レベルでのセレクションは成功していると考えられる。これに対してMP1は8%と対応付けの効率が極端に低く[15]において99℃、5分間反応させることによりRNAまたは対応付け分子に対し何らかの変性が生じた可能性も考えられた。
【0171】
図8は、[21]で得られた溶出液を[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付した結果を示し、下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したものを示している。左からNegaは[11]で得られたライブラリーMH0のクローンのひとつであるMH0-15、PosiはライブラリーMI3のクローンのひとつであるMI3-55、MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI2はMI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI3はMI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。Negaでは回収されるDNAの量は非常に少なくアンジオテンシンIIに親和性のある分子のがほとんど含まれていないことを示し、Posiでは回収されるDNAの量は多くアンジオテンシンIIに親和性のある分子が大多数であることを示している。MI1、MI2ではセレクションで回収されるDNAの量はまだ少なくライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が低いものと考えられる。これに対してMI3では回収されるDNAの量が急激に上昇しライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が急激に上昇しセレクションを繰り返すことによって濃縮が起こったことを示すものと考えられる。
【0172】
図9は、[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液(Elute)を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付した結果である。Eluteに関し、×1は溶出液を1倍希釈、×0.1は溶出液を10倍希釈の略である。MK1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK2はMK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。Flowに示すように十分大過剰量の分子をセレクションに投入しているがWashではほとんどDNAのバンドは見えないことからセレクションにおいてLewis Xに親和性の少ない分子を十分洗い流せていることを示している。またMK1ではセレクションで回収されるDNAの量はまだ少なくライブラリー中に含まれるLewis Xに親和性のある分子の割合が低いものと考えられる。これに対してMK2では回収されるDNAの量が急激に上昇しライブラリー中に含まれるLewis Xに親和性のある分子の割合が急激に上昇しセレクションを繰り返すことによって濃縮が起こったことを示すものと考えられる。
【0173】
図10は、[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付した結果とその電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量した結果を示す。FはFlow、WはWash、Eは溶出液を1倍、E0.1は溶出液を10倍希釈の略である。
【0174】
Flowに示すように十分大過剰量の分子をセレクションに投入しているがWashではほとんどDNAのバンドは見えないことからセレクションにおいてアンジオテンシンIIに親和性の少ない分子を十分洗い流せていることを示している。
【0175】
MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。
【0176】
MI1ではセレクションで回収されるDNAの量はまだ少なくライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が低いものと考えられる。これに対してMM1では回収されるDNAの量が非常に多くライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が多いものと考えられる。すなわちMM1では[18]において50℃、30分間反応させただけなのに対してMI1では[18]において50℃、30分間反応させた後99℃、5分間反応させていることによって99℃に安定性の高い分子だけがセレクションされ不安定なものは除去される傾向にあることを示している。
【実施例2】
【0177】
配列分析
(I) クローニング
[26]ライブラリーからクローンを得るためにTOPOクローニングキット(Invitrogen)を用いた。[11]で得られたDNAまたは[25]で得られたDNA 0.05-1 pmol、taqポリメラーゼ 10×緩衝液(TOYOBO) 2μl、dATP (40 mM) 2μl、taqポリメラーゼ (Taq Pol) (TOYOBO)0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を20μlとして、72℃で15分間、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水4μlに溶解した。
【0178】
[27][26]で得られたDNA 4μl、Topo vector (Invitrogen) 0.5μl、Salt solution(Invitrogen) 1μlを混和させ室温で20分間放置した。大腸菌にトランスフォームするために氷上で溶解したコンピテントセルに上記の混和溶液5.5μlを入れ氷上で30分間放置後43℃、45秒間ヒートショックを行った。セルにSOC(Invitrogen)を250μl入れ37℃、1時間30分振とう培養器で培養させ2枚の寒天プレート(500 ml中にトリプトン 5 g、酵母エキス 2.5 g、NaCl 5 g、寒天7.5 g、アンピシリン 25 mg)(シャーレ9cm)にまいて37℃で一晩培養した。
【0179】
(II) 塩基配列の決定
[28][27]で培養した寒天プレートに生じたコロニーの一部を爪楊枝でつっつきRNase-Free水20 μlにけん濁させ99℃、5分間加熱後急冷し、-20℃でコロニーけん濁液として保存した。
【0180】
[29][28]で得られたコロニーけん濁液 1μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 5μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 5μl、M13FII (配列番号58) (10 pmol/μl) 1μl、M13RII (配列番号59) (10 pmol/μl) 1μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を50μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0181】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を30サイクル行った後72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ900-1000bpのバンドを確認した。増幅した遺伝子はWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製した。
【0182】
[30][29]で得られたDNA 16 ng、M13FII (配列番号58) (1.6 pmol/μl) 2μl、またはM13RII (配列番号59) (1.6 pmol/μl) 2μl、DTCS kit Premix (Beckman coulter) 6μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を10μlとしてそれぞれPCR反応させた。
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、20秒間、58℃、20秒間、60℃、4分間を30サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。
【0183】
[31][30]で得られたPCR反応物を1.5mlチューブに移し、3 M NaOAc 1μl、0.1 M EDTA 1μl、20 mg/mlグリコーゲン溶液(ナカライテスク株式会社)1μlをよく混和させ、冷100%エタノール 60μlを加え、混和させた。4℃、14000 rpm、15分間遠心し上清を除去し70%エタノールにてペレットを洗浄後、再び14000rpm、2分間遠心して上清を除去しすることを2回行った。その後、30-40分間遠心乾燥した後、脱イオン化したホルムアミド(Beckman coulter) 40μlを加えよく混和させた。配列分析はCEQ 2000 DNA Analysis System (Beckman coulter)で行った。
【0184】
【表5】
【0185】
表5においては、左のレーンから、"Name"はセレクションの種類と回数、"In frame"はインフレームの個数、"Mutation"はストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものの個数、"Total"はIn frameとMutationの合計、"In frame (%)"は100×In frame/Total、"C"は図11および図12のAまたはBに収束した配列をもつものの個数、"C(%)"は100×図11および図12のAまたはBに収束した配列をもつものの個数/In frame、"IVV (%)"は、図5、図6および図7より算出された対応付け効率をそれぞれ示している。
【0186】
またMH0は[11]で得られたライブラリー、MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI2はMI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI3はMI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK2はMK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM2はMM1を[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。
【0187】
C(%)で示した100×(図11および図12のAに収束した配列をもつものの個数)/In frameはMI1で33%、MI2で57%、MI3で87%とセレクションに従い上昇しアンジオテンシンIIを抗原としたセレクションではAに示した配列に急激に収束することが示された。C(%)で示した100×(図11および図12のBに収束した配列をもつものの個数)/In frameはMK1で50%、MK2で40%、とセレクションを回すことによって高い値を示しLewis Xを抗原としたセレクションではBに示した配列に収束することが示された。これらに対しC(%)で示した100×(図11および図12のAに収束した配列をもつものの個数)/In frameはMM1で0%、MM2で13%でありセレクションを1回、回しただけではAに示した配列のものはひとつも見られず、セレクションを2回、回すことではじめて1つのクローンがAに示した配列のものが見いだされた。MM1、MM2では[18]において50℃30分間反応させただけなのに対してMI1、MI2、MI3では[18]において50℃、30分間反応させた後99℃、5分間反応させている。従って99℃、5分間反応させることで急激にAに示した配列に収束したのに対し99℃、5分間反応させないMM1、MM2の場合ではAに示した配列を見いだすことはできるものの非常に効率が悪いことがわかった。
【0188】
MP1は[11]で得られたライブラリーを[15]において99℃、5分間反応させその後[20][21]においてアンジオテンシンIIを抗原としセレクションを行ったあとに[18]において50℃30分間、99℃、5分間反応させて[22]以降の実験を行い[25]で回収したライブラリーであるが[31]で配列分析を行い解析した結果インフレームは2個、ストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものは11個、合計は13個、図11および図12のAに収束した配列をもつものは2個であった。MP1の場合インフレームの割合が極端に低くやはり効率が良いとはいえないがAに示した配列を見いだすことができることがわかった。
【0189】
図11および図12は[31]で配列分析を行い解析した結果インフレームのものについてアミノ酸配列によるclustalxによる配列アラインメント後TreeViewPPCにより作成した系統樹を示す。線で囲ったAはアンジオテンシンIIのセレクションで収束したもの、線で囲ったBはLewis Xのセレクションで収束したものを示す。ライブラリーの略号の後にクローンの番号を示した。線で囲ったAはMI3-55と比較し蛋白質レベルでGENETYX-MACで解析した結果90%以上の相同性を示し、線で囲ったBはMK1-17と比較し蛋白質レベルGENETYX-MACで解析した結果90%以上の相同性を示した。
【0190】
配列決定されたクローンの一部(MI1-16、MI1-4、MI2-10、MI2-34、MI2-41、MI2-48、MI3-15、MI3-26、MI3-28、MI3-34、MI3-41、MI3-42、MI3-47、MI3-5、MI3-55、MI3-62、MI3-64、MI3-66、MI3-74、MK2-3、MM2-11、MP1-36、MP1-41)について、塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列を60〜116の偶数の配列番号に示す。アミノ酸配列を61〜117の奇数の配列番号に示す。なお、CDR配列番号は、Martin, A.C.R. Accessing the Kabat Antibody Sequence Database by Computer PROTEINS: Structure, Function and Genetics, 25 (1996), 130-133.に従って以下のように決定した。
【0191】
MI1-16、MI1-4、MI2-10、MI2-34、MI2-41、MI2-48、MI3-15、MI3-26、MI3-28、MI3-34、MI3-41、MI3-42、MI3-47、MI3-5、MI3-55、MI3-62、MI3-64、MI3-66、MI3-74、MK2-3、MM2-11、MP1-36、MP1-41の各CDRは以下のアミノ酸番号である。
【0192】
【表6】
【0193】
MI3-8、MK1-15、MK1-17、MK1-24、MK2-19、MK2-8の各CDRは以下のアミノ酸番号である。
【0194】
【表7】
【実施例3】
【0195】
抗体の調製
[32][28]で得られたコロニーけん濁液 1μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25 mM MgSO4 4μl、McD-F (配列番号52)(10pmol/μl) 3μl、McD-R (His Tag)-stop (配列番号51)(10pmol/μl) 3μl、KOD PLUS ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0196】
PCRは、94℃、5分間反応後、94℃、30秒間、58℃、30秒間、68℃、2分間を25-30サイクル行った後、68℃5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ900-1000bpのバンドを確認した。
【0197】
[33]クローンDNAの転写を行った。[32]で得られたDNA 1pmol、5×SP6緩衝液 4μl、ATP (100mM) 1μl、CTP (100mM) 1μl、UTP (100mM) 1μl、GTP (10mM) 2μl、キャップアナログ(m7G(5')PPP(5')G) (Invitrogen) (40mM) 2.5μl、エンザイムミックスSP6RNA ポリメラーゼ(Promega) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を20μlとし、37℃、2時間30分間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega) 5μlを添加しさらに37℃、1時間反応させた。得られたRNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。
【0198】
[34][33]で得られたRNA 20 pmol、小麦胚芽抽出液(5mM DTTを含む)(Promega)50μl、Amino Acid mixture, Complete (1mM)(Promega) 8μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 8μl、CH3COOK (1M)(Promega) 8μlを混和し、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとし、遮光条件下25℃、1-3時間反応させ翻訳を行った。
【0199】
[35]ミリQ水で調製し組成が50mMリン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液にて膨潤ならびに平衡化させたSephadex G75 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[34]で得られた翻訳溶液 200 μlを供し、4滴ずつチューブに集め3本目から6本目までを回収した。
【0200】
[36]あるいはミリQ水で調製し組成が20 mMリン酸ナトリウム、500 mM NaCl、20 mM イミダゾール pH 7.4であるHis Tag A緩衝液にて膨潤ならびに平衡化させたSephadex G75 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[34]で得られた翻訳溶液 200 μlを供し、4滴ずつチューブに集め3本目から6本目までを回収した。その溶液にHis Tag A緩衝液で平衡化したNi-NTA agarose (Qiagen)樹脂100 μlを加え、25℃、1 時間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。His Tag A緩衝液500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去しする操作を3回繰り返し、樹脂を回収し、組成が20 mMリン酸ナトリウム、500 mM NaCl、475 mMイミダゾール pH 7.4であるHis Tag B緩衝液150 μlを加え25℃、30分間-1時間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。Urtra Freeに樹脂けん濁液を供し10,000 rpm、3 分間遠心し下層に溶液を回収した。
【0201】
[37]PP6T緩衝液で平衡化させたMicro Spin G-25 column(Amersham Biosciences)を4℃、735 g、1分間遠心し、下層に溶出した液を除去し、[36]で得られた溶液50μlをカラムに供した。4℃、735g、2分間遠心し、下層の溶液を回収した。
【0202】
あるいはミリQ水で調製し組成が50mMリン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液にて膨潤ならびに平衡化させたSephadex G75 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[36]で得られた溶液を150 μlを供し、4滴ずつチューブに集め3本目から6本目までを回収した。
【0203】
図13は、MI3-55の[37]についてウエスタンブロットした結果(右2本)を示す。左3本はウエスタンブロットのコントロールである。レーン左からCarboxy-terminal FLAG-BAP fusion protein (Sigma)を100 ng、50 ng、20 ng、Biotynylated SDS-PAGE Standards low range (Bio-rad) 2 μl、MI3-55の[37]において3本目から6本目までを回収した15μl、5μlを15%ポリアクリルアミド電気泳動に付した後PBDF膜に転写し、anti FLAG M2-Mouse(Sigma)を一次抗体、Goat anti-mouse IgG (H+L)-HRP conjugate (Sigma)とAvidin-HRP conjugate (Bio-rad)を二次抗体としECL Western Blotting Detection Reagents (Amersham biosciences)で検出したウエスタンブロット。MI3-55は分子量約31,000ダルトンにバンドを検出し一本鎖抗体の計算値と一致した。
【実施例4】
【0204】
ビアコアによる結合の確認
[38]ビアコアはビアコア3000システムを用いた。センサーチップB1(CM4)にアミンカップリング法で固定化を行った。フローセル1および2を0.2 M N-エチル-N'-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)と50 mM N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む溶液で10分間活性化を行った。次にフローセル2に50μMストレプトアビジン(Sigma) (0.02M リン酸カリウム緩衝液 pH 6.5)を20μl、10 mM 酢酸緩衝液 pH 5.0 980 μlと混合したものを10分間、フローセル1には10 mM 酢酸緩衝液 pH 5.0を10分間流した。続いてフローセル1および2を1Mエタノールアミン pH 8.5で10分間ブロッキングを行った。フローセル2は2024または2305レスポンスユニットがセンサーチップ表面に結合した。さらにフローセル1および2に50 mM NaCl, 1 M NaCl 10 μlを5回流した後、2024レスポンスユニットがセンサーチップ表面に結合したフローセル2にアンジオテンシンII-ビオチン(0.1 μM)を10μl流した。2305レスポンスユニットがセンサーチップ表面に結合したフローセル2にLewis-X-sp-ビオチン(0.1 μM)を3μl流した。最後にフローセル1および2にGlycine 1.5を10μl流した結果、アンジオテンシンII-ビオチンのフローセル2では35.0レスポンスユニットが、Lewis-X-sp-ビオチンのフローセル2では31.6レスポンスユニットがそれぞれセンサーチップ表面に結合した。理論的RmaxはアンジオテンシンII-ビオチンのフローセル2では801とまたはLewis-X-sp-ビオチンのフローセル2では1081と見積もられた。
【0205】
[39]ビアコアの分析は組成が50 mM リン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液を用い流速は20μl/分で行った。[35]または[37]で得られたサンプルをKINJECTでインジェクトした。再生はGlycine 1.5を20μl、50mM NaCl, 1 M NaCl 10 μlで行った。レスポンスカーブはフローセル2からフローセル1を引き算し結合のレスポンスユニットを算出した。
【0206】
図14は、アンジオテンシンIIを抗原としたセレクションで図11および図12のAに示した配列に収束する配列のうちMI3-55、MI3-42、MI3-28、MI3-41、MI3-34、MI3-5、MI3-15、MI3-26を[34]で翻訳を行った後ビアコアで分析し算出したKDを棒グラフで示したものである。0.4-1.5 nMの非常に親和性の高い値を示し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は非常に高親和性であることがわかった。
【0207】
図15は、Lewis Xを抗原としたセレクションで図11および図12のBに示した配列に収束する配列のうちMK1-1、MK1-24、MK2-19、MK1-17を[34]で翻訳を行った後ビアコアで分析し算出したKDを棒グラフで示したものである。20-43 nMの値を示し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は高親和性抗体であることがわかった。
【0208】
図16は、MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[35]の処理を行ったあと[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したものである。右のレーンから1はサンプル原液を0.5は原液の2分の1希釈、0.25は0.5の2分の1希釈、0.125は0.25の2分の1希釈を示す。原液を99℃、5分間処理したものは4℃5分間処理したものに比べて56%のレスポンスになったものの4℃5分間処理したものを0.25に希釈したものと同等のレスポンスを示した。従ってMI3-55は99℃、5分間処理し[35]の処理したものでも約25%の結合活性を有し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は非常に耐熱性であることが示された。
【実施例5】
【0209】
ELISAによる結合の確認
[40]Nuncストレプトアビジンコート96穴マイクロプレートの1穴あたりにアンジオテンシンII-ビオチンまたはLewis-X-sp-ビオチン(100 nM)/ELISA緩衝液200 μlを加え50℃、1時間静かに振とうさせ固定化を行った。プレートの溶液を捨て良く水をきりELISA緩衝液200 μlを加えるプレートを洗う操作を3回行った。ELISA緩衝液200 μlを加え5分間放置した後再びELISA緩衝液200 μlでプレートを洗う操作を3回行った。Blocking one(ナカライテスク株式会社): ミリQ(1:4)で希釈したブロッキング剤を加え4℃で一晩または25℃で1-数時間ブロッキングを行った。次にPBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行い、[35]または[37]で得られたサンプルを100 μlプレートに加えた。このとき拮抗阻害を調べる場合にはアンジオテンシンIIまたはFree Lewis Xを一本鎖抗体サンプルとあらかじめ混和させたものを加えた。25℃で0.5-2時間静かに振とうさせ後PBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行い一次抗体溶液としてanti FLAG M2-Mouse (Sigma): Blocking one(ナカライテスク株式会社):ELISA緩衝液(1:10:190)を100 μl加えた。25℃で0.5-2時間静かに振とうさせ後PBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行い二次抗体溶液としてGoat anti-mouse IgG (H+L)-HRP conjugate (Sigma): Blocker casein in TBS (PIERCE)(1:400)を100 μl加えた。25℃で0.5-2時間静かに振とうさせ後PBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行いTMB Peroxidase EIA substrate kit (Bio rad) (A:B = 9:1) 100 μl加えた。25℃で5-60分間静かに振とうさせ1 N H2SO4を100 μl加え反応を停止した。吸光度はMultiskan JX (大日本製薬株式会社)96穴マイクロプレートリーダーで450 nmと630 nmを測定し450 nmの値から630 nmの値を引き算した。
【0210】
図17は、MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[35]の処理を行ったあと[40]のELISAで分析した結果を棒グラフで示したものである。右のレーンから1はサンプル原液を0.5は原液の2分の1希釈、0.25は0.5の2分の1希釈、0.125は0.25の2分の1希釈、0.0625は0.125の2分の1希釈を示す。原液を99℃、5分間処理したものは4℃、5分間処理したものに比べて21%の値に、0.5希釈を99℃、5分間処理したものは4℃、5分間処理したものに比べて44%の値になったものの、それぞれ4℃、5分間処理したものを0.125に希釈したものと同等の値を示した。従ってMI3-55は99℃、5分間処理し[35]の処理したものでも約12.5%以上の結合活性を有し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は、非常に耐熱性であることが示された。
【産業上の利用の可能性】
【0211】
本発明は、タンパク質の機能的成熟を進化分子工学的手法(IVV法)に適用し、試験管内でのタンパク質選択を安価で迅速に行う技術である。具体的にはタンパク質cDNAライブラリーの構築、対応付け分子(IVV)ライブラリーへの変換、選択、遺伝子の回収、このサイクルを数回繰り返す事によって、所望のタンパク質を得ることができる。さらに、ライブラリーを既知のタンパク質遺伝子に変異(point mutation, DNA shuffling)を加えたものを使用することで、より高機能性、高安定性、高発現のタンパク質を選択することも可能である。
【0212】
本発明によれば、強い選択圧環境下(高温での加熱処理)でタンパク質選択が行われるため、極めて高い濃縮効果を示し、さらに標的分子に対して強い結合力をもつタンパク質を迅速に選択できる。得られたタンパク質は分子生物学的基礎研究における利用は言うまでもなく、診断薬、治療薬への応用など、その応用範囲は極めて広い。特に、以下のような優れた効果を奏し得る。
(1)ライブラリーと抗原を結合させる前に予め加熱処理を行うことで、不安定なタンパク質群を変性させ、安定に立体構造が維持されているものか、迅速に巻き戻る安定性の高いタンパク質群だけを選択できる。
(2)同時に逆転写反応を行う場合には、RNA部分での担体や標的分子への非特異的な結合が抑えられ、飛躍的に濃縮効率が上昇する。
(3)得られたタンパク質は、DTT等の還元剤存在下での無細胞翻訳系や還元的環境の大腸菌の細胞質内での大量発現が可能であり、また還元剤に対しても安定である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性タンパク質の選択法、それによって得られる高機能性タンパク質、およびその製造方法と利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的分子と相互作用するタンパク質の相互作用は、タンパク質の機能に深く関与しており、より優れた機能を有するタンパク質を得る試みがなされている。例えば、タンパク質の一種の抗体分子のもつ、抗原に対する高い特異性と親和性は、幅広い分野での利用価値が高く、抗体を自在にまた効果的に創製できる系の構築研究が盛んに行われている。本来、抗体はB細胞内でドメインシャッフリングと体細胞変異を繰り返し(親和性成熟:affinity maturation)、ある抗原に対してより特異性と親和性が高められたものだけが免疫系で作用することができる。
【0003】
抗体の親和性の研究においては、その均一性の観点からモノクローナル抗体が一般に用いられているが、現在、モノクローナル抗体の調製法は細胞融合法(ハイブリドーマ技術)(非特許文献1)が主流である。しかし、この細胞融合法は非常に手間がかかる上に、高価な試薬を必要とし、また時間がかかる(約1年間)。さらに、動物の免疫操作が必要であるため、自己抗原や毒物に対する抗体を選択することが難しいといった種々の問題を有している。最近、これらの問題を解決する方法としてファージディスプレイ(非特許文献2)やリボソームディスプレイ(非特許文献3)といった進化分子工学的手法(核酸[遺伝情報]とタンパク質[機能情報]を直接対応付ける技術)がモノクローナル抗体の選択に利用されている。すなわち、大きな多様性を有する抗体ライブラリーを構築し、目的とする抗体(対応付け分子)の選択、濃縮を繰り返すことによって、比較的容易に目的抗体を得ることができる。特に、非常に柔軟性の高いペプチドリンカーで片方の鎖のC末端ともう片方のN末端を結合させた一本鎖抗体(非特許文献4)を対象とする方法が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの技術においても、まだいくつかの欠点がある。ファージディスプレイは、現実的なDNAライブラリーの上限は109(抗体の場合)程度で、ライブラリーサイズが小さいこと、生物学的なシステム(大腸菌への感染、増幅など)を利用するために、予期し得ないバイアス(変異等)がかかってしまう。さらに、大腸菌に対して毒性を持つ抗原は使用できない。リボソームディスプレイは無細胞翻訳系を用いた完全なin vitroの実験系であるためこれらのバイアスはかからず、また、ライブラリーの上限は1010-1011が可能とされている。しかし、mRNA-タンパク質-リボソーム三者複合体の形成効率が0.2%と非常に低く(非特許文献3)、in vitro virus(IVV)法(非特許文献5))の数百分の1である。また、その複合体が非常に不安定であるため、バイオパニング操作中により強い選択圧をかけられないという問題がある。ここで、パニングにおける選択圧は抗体濃縮における最も重要な因子であり、強い選択圧かけられないということはより多くの選択サイクルを繰り返す必要性が生じる。また、一種類の抗原に対して、安定性、親和性の異なる多種多様な抗体が得られるため、より高機能なものを得るためには、多くの検体のクローニング、発現、分析を必要とする。このことは、たいへんな重労働であるだけでなく時間もコストもかかる。
【0005】
これまで、タンパク質を試験管内で合成する無細胞翻訳系として、小麦胚芽の系(非特許文献6)及び大腸菌の系(非特許文献7)において、タンパク質の大量発現が研究されてきている。それに伴い、タンパク質の大量発現が可能な安定した翻訳テンプレートの開発として、mRNAの安定性向上と翻訳効率向上のために、一般的には3'UTRが使われるが(非特許文献8)、mRNAの化学構造の置換や修飾などの方法(非特許文献9)を用いる。
【0006】
我々は、1997年に、進化分子工学のスクリーニングツールである"in vitro virus (IVV)"の構築に世界に先駆けて成功した(非特許文献10)。IVV法では、3'末端にピューロマイシンを結合したmRNAを鋳型として無細胞翻訳反応を行うことにより、タンパク質とmRNAとがピューロマイシンを介して共有結合したRNA-タンパク質連結分子(IVV)のライブラリーを構築することができる。この対応づけ分子のライブラリーの中から標的分子に結合するタンパク質をin vitroでスクリーニングした後、逆転写PCRにより遺伝子を増幅し解読することができる。その後我々は、IVV法をプロテオーム解析に応用するための基礎研究を開始し、ヒトやマウス由来のcDNAライブラリーからIVVライブラリーを構築し、その中から、タンパク質や核酸、薬剤などの標的分子と相互作用する未知のタンパク質をin vitroで迅速かつ高感度にスクリーニングする技術を確立してきた。最近、我々は小麦胚芽抽出液の無細胞翻訳系で、IVVとC末端ラベル化タンパク質を高効率に発現できる鋳型DNAの開発に成功した(非特許文献5)。本発明者等は、mRNA(遺伝子型)とタンパク質(表現型)を無細胞翻訳系においてピューロマイシンを介して連結させ、対応付け分子であるIVVを効率よく構築する方法を先に提案している(特許文献1; 特許文献2; 特許文献3; 特許文献4)。
【0007】
さらに我々は、IVV法の構築過程で、低濃度のピューロマイシン誘導体を無細胞翻訳系に投入すると、合成されたタンパク質のC末端に結合することを見出した。この原理を応用して、例えば、蛍光色素をピューロマイシンに連結させた化合物を用いれば、タンパク質のC末端を蛍光色素で標識することが可能となった(非特許文献11; 非特許文献12)。本発明者等は、タンパク質のC末端を無細胞翻訳系において効率よくラベル化する方法先に提案している(特許文献5; 特許文献6; 特許文献7)。
【0008】
タンパク質の詳細な機能や立体構造の解析、抗体の作製のためには大量のタンパク質を必要とする。そのため内在性の目的タンパク質を精製し、必要量得ることは困難であるため、目的タンパク質のcDNAを適した宿主に入れ発現させた組み換えタンパク質を用いることになる。一本鎖抗体を発現させる宿主としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞や動物由来の培養細胞などさまざまなものが考えられる。その中でも大腸菌は、短期間で安価に大量のタンパク質が得られるので便利である。また、組み換えバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させる系を使うと、大腸菌の系では難しかったタンパク質の発現が可能になる。
【0009】
また、ポストゲノム機能解析研究のために開発されてきたいろいろな解析ツールにも抗体が重要な役割を占めている。その一つとしてタンパク質の検出、定量が挙げられる。そのためには、特異性の高い、高親和性の抗体の利用が不可欠である。抗体を用いたタンパク質の検出方法として、in vitroの方法では、ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、またin vivoの方法では免疫沈降法などがある。このような手法を用いてタンパク質を検出するためには、抗体に予め蛍光を発するタンパク質、例えばGFPを融合させておくか、抗体を酵素タンパク質、例えば西洋ワサビのペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼを融合させて、その酵素活性を指標にする。
【0010】
抗体を用いたタンパク質間相互作用の検出法には、表面プラズモン共鳴法、蛍光共鳴エネルギー移動法、蛍光偏光解消法、エバネッセント場イメージング法、蛍光相関分光法、蛍光イメージング法、固相酵素免疫検定法などがある。とりわけ、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)は、測定に必要な試料量が少なく(およそフェムトリットル)、測定時間が短く(およそ10秒)、HTSのための自動化が容易である(実際にEVOTEC社では1日で10万検体以上のスクリーニングを行うウルトラHTSを目指した装置の開発を行なっている)等の長所があり、検出系として優れている(非特許文献13)。さらに2種類の蛍光色素を用いる蛍光相互相関分光法(Fluorescence Cross-Correlation Spectroscopy:FCCS)では、1種類の蛍光色素を用いるFCSでは困難であった同程度の大きさをもつ分子間の相互作用も検出が可能であり、タンパク質相互作用のHTSへの応用が期待されている。一般に、タンパク質相互作用の検出系では、固相化のためのタグや蛍光色素等のプローブでタンパク質を修飾する必要がある。本発明者等は、ピューロマイシン等の核酸誘導体を用いて無細胞翻訳系中でタンパク質のC末端を修飾する方法を先に提案している(特許文献5、特許文献6、特許文献3)。この方法は、従来の化学修飾法や蛍光タンパク質融合法に比べて、タンパク質の機能を損ないにくい等の利点がある。
【0011】
IVV法は、mRNAを無細胞翻訳系等において発現させる際、リボソーム上で、mRNAとタンパク質がピューロマイシンを介して化学的に結合したmRNA−タンパク質連結分子を構築する方法である(非特許文献10; 非特許文献12; 非特許文献5)。さらに、そのmRNA-タンパク質連結分子を試験管内淘汰法により陶太し、選択された対応付け分子のmRNA部分を逆転写PCRにより増幅することにより取得することができる。
【0012】
市販の各種無細胞翻訳系は還元剤であるDTT(ジチオスレイトール)が添加されているため、抗体を代表とするS-S結合を有するタンパク質の発現には不向きである。特に、小麦胚芽無細胞翻訳系はその発現にDTTが必須であるため、これまで一本鎖抗体のcDNAライブラリーから高い結合活性をもった抗体のスクリーニングと発現例はない。それ故、小麦胚芽無細胞翻訳系でDTT存在下でも、cDNAライブラリーから高い結合活性をもった所望の抗体がスクリーニングできる系の確立が望まれている。
【非特許文献1】Kohler, G. and Milstein, C. (1975) Nature 256, 495
【非特許文献2】Smith, G.P. (1985) Science 228, 1315-1317
【非特許文献3】Hanes, J. and Pluckthun, A. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 4937-4942
【非特許文献4】Huston, J. S., Margolies, M. N., Haber, E. (1996) Adv. Protein Chem., 49, 329
【非特許文献5】Miyamoto-Sato, E., et al., (2003) Nucleic Acids Res., 31, e78
【非特許文献6】Madin K, et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 97, 559-564
【非特許文献7】Shimizu, Y. et al. (2001) Nat. Biotechnol., 19, 751-755
【非特許文献8】Sachs. A.B., et al. (1997) Cell 89, 831-838
【非特許文献9】Ueda. T., et al. (1991) Nucleic Acids Symp Ser. 25, 151-152
【非特許文献10】Nemoto, N., et al., (1997) FEBS Lett., 414, 405-408
【特許文献1】特開平10-816636号公報
【特許文献2】国際公開第WO98/16636号パンフレット
【特許文献3】特開2002-176987号公報
【特許文献4】国際公開第WO02/48347号パンフレット
【非特許文献11】Nemoto, N., et al. (1999) FEBS Lett. 462, 43-46
【非特許文献12】Miyamoto-Sato, E., et al. (2000) Nucleic Acids Res. 28, 1176-1182
【特許文献5】特開平11-322781号公報
【特許文献6】特開2000-139468号公報
【特許文献7】国際公開第WO02/46395号パンフレット
【非特許文献13】金城政孝 (1999) 蛋白質核酸酵素 44:1431-1438
【発明の開示】
【0013】
本発明の課題は、高機能性タンパク質またはそれをコードする核酸を迅速かつ高効率に選択する方法を提供することである。また、本発明の他の課題は、高機能性タンパク質またはそれをコードする核酸、並びに、その製造方法及び利用方法を提供することである。
【0014】
本発明者らは、タンパク質をコードする核酸のライブラリーを、IVV法を用いて作製すると、タンパク質の選択において、従来は、タンパク質の失活により目的のものが得られないと考えられていたような高温での加熱処理により高い淘汰圧をかけることができ、その結果、高機能性タンパク質を迅速かつ高効率に選択することができることを見出した。また、S-S結合を有するタンパク質を、還元剤を必要とする無細胞翻訳系で翻訳しても高機能性タンパク質を選択することが可能であることを見出した。以上の知見に基づき、本発明は完成された。
【0015】
従って、本発明では、以下のものを提供する。
(1)標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸の選択法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする選択法。
(a) タンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程。
(b) (a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンを含むスペーサーを連結した後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子を調製することにより対応付け分子のライブラリーを構築する工程。
(c)対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程。
(d)対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、対応付け分子の核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程。
(2)標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である(1)の選択法。
(3)スペーサーがポリエチレングリコールを含む(1)の選択法。
(4)(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いて、(a)〜(d)の操作を繰り返す工程をさらに含む(1)の選択法。
(5)加熱処理する際の条件が、50-100℃、1-30分の範囲から選択される(1)の選択法。
(6)(d)の工程の前に対応付け分子のRNA部を逆転写によりRNA-DNAハイブリッドにする工程をさらに含む(1)の選択法。
(7)逆転写の前に、逆転写反応を阻害する無細胞翻訳系由来の物質を除去する(6)の選択法。
(8)無細胞翻訳系が、チオール化合物を含む無細胞翻訳系である(1)の選択法。
(9)無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、又は、大腸菌S-30抽出液の無細胞翻訳系である(1)の選択法。
(10)標的分子と相互作用するタンパク質の製造法であって、(1)〜(9)のいずれかの選択法により標的分子と相互作用するタンパク質をコードする核酸を選択する工程、および、選択された核酸を翻訳してタンパク質を製造する工程を含む製造法。
(11)標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である(10)の製造法。
(12)抗原がアンジオテンシンIIである(11)の製造法。
(13)抗原がLewis Xである(11)の製造法。
(14)一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸を、チオール化合物を含む無細胞翻訳系で翻訳することを含む(11)の製造法。
(15)無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、または、大腸菌S-30抽出液である(14)の製造法。
(16)一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸で生細胞を形質転換させ、その生細胞内で一本鎖抗体を発現させることを含む(11)の製造法。
(17)一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸によりコードされる一本鎖抗体と、酵素又は緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)との融合タンパク質として製造することを含む(11)の製造法。
(18)(1)〜(9)のいずれかの選択法により選択された核酸を、C末端ラベル化剤の存在下で無細胞翻訳系で翻訳することによりタンパク質のC末端をラベル化する方法。
(19)アンジオテンシンIIに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103または105に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
(20)(19)の一本鎖抗体をコードする核酸。
(21)Lewis Xに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号107、109、111、113、115または117に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
(22)(21)の一本鎖抗体をコードする核酸。
(23)(11)〜(17)のいずれかの製造法によって得られた抗体を用いてタンパク質を免疫学的に検出する方法。
(24)ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、免疫沈降法である(23)の検出方法。
(25)(11)〜(17)のいずれかの製造法によって得られたタンパク質と、標的分子とを接触させ、タンパク質と標的分子との相互作用を検出することを含む、分子間相互作用を検出する方法。
(26)蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法である(25)の検出方法。
(27)ヒト又はその他の動物由来のDNAライブラリーから(2)の選択法により選択された核酸の配列に基づいて、その核酸にコードされる可変領域をヒトのIgGの可変領域と置換することによって構築されるヒトまたはヒト型抗体。
(28)(27)の抗体を有効成分とする治療剤。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明で使用される一本鎖抗体cDNAライブラリーの構築。
【図2】IVV法によるIVVライブラリーの選択サイクル。
【図3】アンジオテンシンII-ビオチンの化学構造式。
【図4】Lewis X-sp-ビオチンの化学構造式。
【図5】[15]で得られた翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動で対応付け分子を確認したもの。上は電気泳動ゲル(電気泳動写真)。下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのFITCの蛍光をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したもの。MH0:[11]で得られたライブラリー;MI1:[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MI2:MI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MI3:MI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー。
【図6】[15]で得られた翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動で対応付け分子を確認したもの(電気泳動写真)。MH0:[11]で得られたライブラリー;MK1:[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MK2:MK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー。
【図7】[15]で得られた翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動で対応付け分子を確認したもの(電気泳動写真)。MM1:[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MM2:MM1を[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー;MP1:[11]で得られたライブラリーを[15]において99℃、5分間反応させその後[20][21]においてアンジオテンシンIIを抗原としセレクションを行ったあとに[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させて[22]以降の実験を行い[25]で回収したライブラリー。
【図8】[21]で得られた溶出液を[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付したもの。上は電気泳動ゲル(電気泳動写真)。下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したもの。
【図9】[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液(Elute)を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付したもの(電気泳動写真)。
【図10】[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付したもの。上は電気泳動ゲル(電気泳動写真)。下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したもの。FはFlow、WはWash、Eは溶出液を1倍、E0.1は溶出液を10倍希釈の略。
【図11】[31]で配列分析を行い解析した結果インフレームのものについてアミノ酸配列によるclustalxによる配列アラインメント後TreeViewPPCにより作成した系統樹。線で囲ったAはアンジオテンシンIIのセレクションで収束したもの、線で囲ったBはLewis Xのセレクションで収束したものを示す。ライブラリーの略号の後にクローンの番号を示した。
【図12】図11の線で囲ったAおよびBの拡大図。AはアンジオテンシンIIのセレクションで収束したもの、BはLewis Xのセレクションで収束したもの。
【図13】ウェスタンブロットの結果(電気泳動写真)。右2本は、MI3-55の[37]についてウエスタンブロットしたもの。左3本はウエスタンブロットのコントロール。
【図14】アンジオテンシンIIを抗原としたセレクションで得られた配列を[34]で翻訳を行った後[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【図15】Lewis Xを抗原としたセレクションで得られた配列を[34]で翻訳を行った後[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【図16】MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【図17】MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[40]のELISAで分析した結果を棒グラフで示したもの。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の、標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸の選択法は、ライブラリーの対応付け分子の核酸部が、標的分子と相互作用するタンパク質をコードすること、対応付け分子のライブラリーを加熱処理することの他は、通常の対応付け分子を用いる核酸の選択法(以下「IVV法」ともいう)に従って行うことができる。
【0018】
「標的分子」とは、選択対象タンパク質と相互作用する分子を意味し、具体的にはタンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられる。タンパク質としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り特に制限はなく、タンパク質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、およびその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖はこれに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくはアミノ酸配列が既知の精製されたタンパク質か、あるいはcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳および精製されたタンパク質を用いることができる。
【0019】
核酸としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はなく、DNAまたはRNAも用いることができる。また、塩基配列または機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する核酸としての機能、および塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。糖鎖としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はなく、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。低分子化合物としては、選択対象タンパク質と相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
【0020】
これら標的分子が本発明の選択対象タンパク質と行う「相互作用」又は標的分子間の「相互作用」とは、通常は、二つの分子間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、および静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を包含する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も包含する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に包含される。
【0021】
相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合および解離、タンパク質レセプターとリガンドの間の結合および解離、接着分子と相手方分子の間の結合および解離、酵素と基質の間の結合および解離、核酸とそれに結合するタンパク質の間の結合および解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合と解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合および解離、糖鎖とタンパク質との間の結合および解離、または、低分子化合物とタンパク質との間の結合および解離が挙げられる。
【0022】
IVV法はmRNAがタンパク質合成阻害剤であるピューロマイシンまたはその誘導体を介してタンパク質と共有結合するため、リボソームディスプレイやファージディスプレイよりもはるかに安定性が高い。従って、リボソームディスプレイやファージディスプレイの2つの技術よりもより強い選択圧でのパニングが可能であり、これによって特異性だけでなくより安定な標的分子と相互作用するタンパク質を選択することができ、加えて、高い濃縮効果が得られるためより少ない選択サイクルで希望のタンパク質を得ることができる。またさらに、ほとんど単一にまで濃縮されるため、多くのサンプルを解析する必要がない。これらにともない操作が簡便、大幅な時間の短縮とコストの削減が可能になる。
【0023】
また、ライブラリー内の高機能性抗体(特異性、親和性、安定性等)の存在確立はライブラリーの大きさ(多様性)に依存する。ここで、IVV法の選択可能なライブラリーの上限は、条件が整えば1013以上が可能であり、他のどの方法よりも大きなライブラリーを対象にできる。また、リボソームディスプレイと同様に完全なin vitroの実験系であるため、不必要なバイアスがかからない。また、得られたタンパク質はDTT等の還元剤を含有する無細胞翻訳系で機能性タンパク質として発現できるため、多検体の大量調製が可能であり、それにともないハイスループット化が容易となる。
【0024】
このようにして選択されたタンパク質は、その機能に応じて各種の分野で利用できる。例えば、タンパク質が一本鎖抗体である場合には、このようにして選択された高親和性一本鎖抗体は、細胞外や細胞内でのタンパク質の検出や相互作用検出に利用できる。また、マウス抗体cDNAライブラリーから選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域やCDR領域(complementarity determining region)と入れ換えることによって、キメラ型IgG抗体やヒト型化したマウスIgG抗体を作れる。これらの抗体は、ヒトに投与したときに惹起されるヒト抗マウス抗体の産生が少ないか、ほとんどない。さらに、ヒト抗体cDNAライブラリーから選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域と入れ換えることによって、完全なヒトモノクローナルIgG抗体を作れる。これは、アナフィラキシー症状を引き起こさない抗体医薬として利用することが可能である。
【0025】
本発明の選択対象タンパク質として使用される一本鎖抗体は、VH鎖とVL鎖がリンカーペプチドを介して結合した通常の一本鎖抗体(単鎖Fvフラグメント(scFv)とも呼ばれる)でよい。本発明において用いられる一本鎖抗体をコードするDNAライブラリーとしては、多数の一本鎖抗体をコードするDNAを含むライブラリーであれば特に制限されるものではないが、理論的にはあらゆる抗原に対応しうる、109以上の多種多様な抗体をコードするDNAを含むものを用いることが好ましい。かかる抗体DNAライブラリーとしては、市販のものを含め、通常の試験管内抗体選択系において用いられる高等脊椎動物、好ましくはマウス、ヒト、ニワトリ、ヤギ、ラクダの脾臓およびB細胞由来の天然型抗体DNAライブラリーであればどのようなものでもよい。例えば、マウス天然型抗体cDNAライブラリー(Krebber, A. et al. (1997)) J. Immun. Methods. 201, 35-55: Engberg, J. (1996) Molecular Biotech. 6, 287-310)はマウスの脾臓からmRNAを抽出し、抗体のH鎖及びL鎖の可変領域(VH, VL)をコードする遺伝子断片をRT-PCRによってcDNAとし、それらをPCRによって増幅する。さらに得られた断片からVHのC末端とVLのN末端を(Gly4Ser)4リンカーで繋ぎ合わせるようにDNA断片を合成することでマウス一本鎖抗体cDNAライブラリーが完成となる。ここで、繋ぎ合わせるリンカー配列は比較的自由度の高いものであればどのようなものでもかまわないが、一般的に(Gly4Ser)4配列(配列番号120)を用いることが好ましい。また、繋ぎ合わせの順番はVL-(Gly4Ser)4-VHでもよい。
【0026】
また、あらゆる変異型の抗体DNAライブラリーも有利に用いることができる。例えば、(1)n-CoDeR:抗体cDNAからCDR(H鎖3つ、L鎖3つ)のみをPCRによって取り出し、それらを大腸菌およびファージで発現し易い抗体フレームに組み込んだライブラリー(n-CoDeR:多様性は2×109)(Jirholt, P. et al. (1998) GENE 215, 471-476: Soderlind, E. et al. (2000) Nature Biotechnol 18. 852-856)。(2)抗体の超可変部位(CDR)にランダム配列(NNK, NNB)を導入し、その多様性を増加させたライブラリー(Hayashi, N. et al. (1994) Biotechniqes 17, 310-345)。(3)HuCAL:ヒト抗体は構造的な多様性が7種類のH鎖(subclass: VH1A, VH1B, VH2-6)と7種類のL鎖(subclass:Vκ1-Vκ4, Vλ1-Vλ3)を組み合わせたもの(計49種類)によって約95%以上がカバーされている。これら14種類の抗体のCDR3(H鎖L鎖両方)にランダム配列を導入したライブラリー。(Knappik, A. et al. (2000) J. Mol. Biol. 296, 57-86: Hanes, J et al. (2000) Nature Biotech. 18, 1287-1292)。(4)point mutationとDNA shufflingを組み合わせて、単一の抗体遺伝子にランダムな変異を導入したライブラリー。(Jermutus, L. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 75-80)などが挙げられる。これらのライブラリーは、パニングのスピード、抗体の安定性、発現、機能性等を高めるように設計されており、本発明への適応はより効果的である。
【0027】
以下、本発明の選択法の各工程について説明する。
(a)工程は、標的分子と相互作用するタンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程である。このタンパク質をコードするDNAのライブラリーは、通常の方法に従って調製することができる。
【0028】
(b)工程は、(a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンを含むスペーサーを連結した(以下、ここで調製されるものを「翻訳テンプレート」と称することがある)後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子を調製することにより対応付け分子のライブラリーを構築する工程である。この工程は通常のIVV法におけるものと同様に行うことできる。詳細については後記で説明するが、スペーサーはポリエチレングリコールを含むものであることが好ましい。
【0029】
(c)工程は、対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程である。ここでの加熱処理とは、通常のIVV法における処理では負荷されないような加熱条件に暴露することを意味する。たとえば、対応付け分子を翻訳後そのまま標的分子と結合させる場合には、翻訳の間にはない加熱条件に暴露することであり、対応付け分子のRNA部分を逆転写によりRNA-DNAハイブリッドにしてから標的分子と結合させる場合には、翻訳及び逆転写の間にはない加熱条件に暴露することである。この温度は、翻訳されてから標的分子に結合させるまでの工程に応じて、通常には、50-100℃、1-30分の範囲から選択される。強い選択圧という点では、翻訳だけがある場合並びに翻訳及び逆転写がある場合のいずれでも、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上の温度で加熱処理をする。
【0030】
(d)の工程の前に対応付け分子のRNA部を逆転写によりRNA-DNAハイブリッドにすることが好ましい。これによりRNAの担体および標的分子への非特異的な結合を阻止することができる。また、逆転写を行う場合には、逆転写の前に、逆転写反応を阻害する無細胞翻訳系由来の物質を除去することが好ましい。除去の方法としては、ゲルろ過カラム、スピンカラム、ニッケルカラム等を用いる分画が挙げられる。
【0031】
加熱処理、逆転写、及び、分画の順序は特に限定されないが、通常には、加熱処理、分画、逆転写の順、または、分画、逆転写、加熱処理の順が好ましい。
(d)工程は、対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、対応付け分子の核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程である。この工程は通常のIVV法におけるものと同様に行うことできる。溶出は、通常には遊離の標的分子を含む溶液で溶出することにより行うことができる。
【0032】
本発明の選択法においては、(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いて、(a)〜(d)の操作を繰り返すことが好ましい。繰り返す場合には、(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いるための処理をする。例えば、各サイクルごとに5'UTR配列(増幅プライマー配列-SP6プロモーター配列-Ω29エンハンサー配列)をN末端に付加する。しかしながら、抗体のN末端はそれぞれでその配列が異なるため、N末端に共通配列を導入する必要がある。後記実施例ではT7タグ(MASMTGGQQMG(配列番号118))を用いたが、このタグは一般的に使用されているものであればどのようなものでもかまわない。C末端側にはFLAGタグ(DYKDDDDK(配列番号119))を導入した。一般的にライブラリーを構築する上で、PCRでの増幅、化学合成等によるある程度の好まれない変異(STOPコドン、挿入、欠失)の導入は避けられない。そこで、C末端のタグによってインフレーム(in-frame)のものだけを選び出すことが可能になる。このタグもまた一般的に使用されているものであればどのようなものでもかまわない。
【0033】
本発明の選択法で使用されるIVVライブラリーの一例を、図1を参照して説明する。タンパク質は一本鎖抗体である。マウス脾臓由来抗体(IgG)mRNAのH鎖L鎖それぞれの可変部をRT-PCRで抽出し、H鎖のC末端とL鎖のN末端を(Gly4Ser)4のリンカーでつなげて一本鎖抗体cDNAライブラリーとする。これらを試験管内転写によってmRNAとし、このmRNAの3'末端にピューロマイシンを有するPEGスペーサーを結合させる。これらを無細胞翻訳系で翻訳するとmRNAとその配列に対応する抗体がピューロマイシンを介して共有結合したIVVライブラリーが構築される。このライブラリーは1013以上の多様性を有しており、既知の抗体選択法の中で最も大きなライブラリーである。
【0034】
一本鎖抗体DNAライブラリーを用いた場合の本発明の選択法の工程の概要を図2に示す。このような選択サイクルによって、すなわち、選択、増幅、ライブラリーの再構築、翻訳を繰り返すことで、希望とする抗体を濃縮する。ここで、選択時にある種の選択圧をかけることで、得られる抗体の性質と濃縮効率が決まる。すなわち、不安定な抗体を除去するタンパク質レベルでの選択圧と、非特異的に結合するものを除去するための選択圧である。本発明では、IVV法を採用することにより、従来の方法では目的の抗体が得られないような高い選択圧をかけても目的の抗体が選択されることが判明した。
【0035】
以下、具体的に本発明の翻訳テンプレート、C末端修飾タンパク質、翻訳テンプレートによるC末端ラベル化法および対応付け方法についての実施例を記述するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。
【0036】
選択対象タンパク質のコード部は、5'末端領域、ORF領域、3'末端領域からなり、5'末端にCap構造があってもなくてもよい。また、コード部の3'末端領域は、A配列としてポリAx8配列、あるいはX配列としてXhoI配列や4塩基以上で(C又はG)NN(C又はG)の配列を持つもの、およびA配列とX配列の組み合わせとしてのXA配列がある。A配列、X配列、あるいはXA配列の上流に親和性タグ配列としてFlag-tag配列、からなる構成が考えられる。ここで、親和性タグ配列としてはHA-tagやIgGのプロテインA(zドメイン)などの抗原抗体反応を利用したものやHis-tagなど、タンパク質を検出あるいは精製できるいかなる手段を用いるための配列でもかまわない。ここで、翻訳効率に影響する範囲としては、XA配列の組み合わせが重要であり、X配列のなかで、最初の4塩基が重要であり、(C又はG)NN(C又はG)の配列を持つものが好ましい。また、5'末端領域は、転写プロモーターと翻訳エンハンサーからなり、転写プロモーターはT7/T3あるいはSP6などが利用でき、特に制限はないが、小麦の無細胞翻訳系では、翻訳のエンハンサー配列としてオメガ配列やオメガ配列の一部を含む配列を利用することが好ましく、プロモーターとしては、SP6を用いることが好ましい。翻訳エンハンサーのオメガ配列の一部(O29)は、TMVのオメガ配列(Gallie D.R., Walbot V. (1992) Nucleic Acids Res., 20, 4631-4638)の一部を含んだものである。
【0037】
ポリエチレングリコール(PEG)部(スペーサー)は、CCA領域、PEG領域、ドナー領域からなる。最低限必要な構成は、ドナー領域である。翻訳効率の点では、ドナー領域のみならずPEG部を持つものが好ましく、さらにアミノ酸との結合能力のないピューロマイシンを持つことが好ましい。PEG領域のポリエチレングリコールの分子量の範囲は、400〜30,000で、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは2,000〜6,000である。また、CCA領域にはピューロマイシン(Puromycin)を含む構成と含まない構成が可能である。
【0038】
対応付け分子の構築に用いる場合には、無細胞翻訳系において、そこで翻訳されたタンパク質のC末端にスペーサーが結合できるようにピューロマイシンを含む構成が用いられる。ピューロマイシンを含むとはその誘導体を含むことも包含する。誘導体の例としては以下のものが挙げられる。3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3'-N-Aminoacylpuromycin aminonucleoside, PANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのPANS-Gly、バリンのPANS-Val、アラニンのPANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するPANS-全アミノ酸が利用できる。また、化学結合として3'-アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合した結果形成されたアミド結合でつながった3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3'-Aminoacyladenosine aminonucleoside, AANS-アミノ酸)、例えばアミノ酸部がグリシンのAANS-Gly、バリンのAANS-Val、アラニンのAANS-Ala、その他、全アミノ酸に対応するAANS-全アミノ酸が利用できる。また、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども利用できる。その他、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドに類似した化学構造骨格を有する物質と、アミノ酸あるいはアミノ酸に類似した化学構造骨格を有する物質を化学的に結合可能な結合様式のものなら全て利用することができる。CCA領域(CCA)の5'側に1残基以上のDNAおよび/またはRNAからなる塩基配列を持つことが好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。配列としては、dC-Puromycin, rC-Puromycinなど、より好ましくはdCdC-Puromycin, rCrC-Puromycin, rCdC-Puromycin, dCrC-Puromycinなどの配列で、アミノアシル-tRNAの3'末端を模倣したCCA配列(Philipps G.R. (1969) Nature 223, 374-377)が適当である。
【0039】
C末端ラベル化の場合など翻訳のみに用いる翻訳テンプレートでは、ピューロマイシンを含まない構成、または、アミノ酸との結合能力のないピューロマイシンを含む構成が好ましい。上記のピューロマイシン誘導体のアミノ基がアミノ酸と結合する能力を欠いたあらゆる物質、およびピューロマイシンを欠いたCCA領域も考えられるが、リボソーム上でタンパク質と結合不能なピューロマイシンを含むことで、より翻訳効率を高められる。その理由は定かではないが、タンパク質と結合不能なピューロマイシンがリボソームを刺激することでターンオーバーが促進される可能性がある。結合不能なピューロマイシンでは、上記のピューロマイシンを適切な方法でアミノ酸と結合不能とする。
【0040】
PEG部は修飾物質を有する構成が可能である。このことによって、翻訳テンプレートを回収、精製による再利用、あるいは固定化などのためのタグとして利用することが出来る。少なくとも1残基のDNAおよび/またはRNAの塩基に修飾物質として、蛍光物質、ビオチン、あるいはHis-tagなど各種分離タグなどを導入したものが可能である。また、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計可能な長さである。これによって新たな効果が生み出された。すなわち、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5'末端領域と3'末端領域をもったコード部を簡単に作成可能となり、このコード部に、3'UTRの代わりとしてPEG部をライゲーションすることで、翻訳効率の高い翻訳テンプレートを得られる。
【0041】
PEG部とコード部のライゲーションは、その方法については、一般的なDNAリガーゼを用いるものや光反応による連結など何でもよく、特に限定されるものではない。RNAリガーゼを用いるライゲーションでは、コード部でライゲーション効率に影響を与える範囲としては3'末端領域のA配列が重要であり、少なくとも2残基以上のdAおよび/またはrAの混合あるいは単一のポリA連続鎖であり、好ましくは、3残基以上、より好ましくは6から8残基以上のポリA連続鎖である。PEG部のドナー領域の5'末端のDNAおよび/またはRNA配列は、ライゲーション効率を左右する。コード部とPEG部を、RNAリガーゼでライゲーションするためには、少なくとも1残基以上を含むことが必要であり、ポリA配列をもつアクセプターに対しては、少なくとも1残基のdC(デオキシシチジル酸)あるいは2残基のdCdC(ジデオキシシチジル酸)が好ましい。塩基の種類としては、C>(U又はT)>G>Aの順で好ましい。さらに、ライゲーション反応時に、PEG領域と同じ分子量のポリエチレングリコールを添加することが好ましい。
【0042】
次に、選択対象タンパク質のC末端修飾(ラベル化)について述べる。修飾剤の存在下で、選択対象タンパク質の翻訳テンプレートを用いた翻訳によって合成された、修飾剤でC末端修飾された選択対象タンパク質であり、翻訳テンプレートと、修飾剤からなる。ここでの特徴は、特に翻訳テンプレートのコード部の構成にある。以下詳細に記述する。
【0043】
翻訳テンプレートのPEG部は、ピューロマイシンがアミノ酸と連結出来ないことを特徴とする。また、コード部もC末端ラベル化に適した構成としては、3'末端領域が、XA配列であることが重要であり、X配列のなかで、最初の4塩基が重要で、(C又はG)NN(C又はG)の配列を持つものが好ましい。ここでも、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計できる長さである。これによって、5'末端領域と3'末端領域をもったコード部をPCRによって簡単に作成可能となり、このコード部に3'UTRの代わりとしてPEG部をライゲーションすることで、C末端ラベル化に適した翻訳効率の高い翻訳テンプレートを得られる。
【0044】
修飾剤は、タンパク質の翻訳系でのペプチド転移反応、すなわち、リボソーム上でのペプチド転移反応によってタンパク質と結合し得る基(残基を含む)をもつアクセプター部が、ヌクレオチドリンカーを介して修飾部と結合した構成をもつ。この修飾剤の存在下でタンパク質合成を行い、得られるC末端修飾タンパク質を精製し、分子間相互作用の検出系を用いることによって、タンパク質の検出や相互作用の検出が可能となる。修飾部には、PEG部と同様に修飾物質が含まれる。修飾物質として、非放射性修飾物質の具体例としては、蛍光性、非蛍光性修飾物質等が挙げられる。蛍光性物質としては、フルオレセイン系列、ローダミン系列、Cy3、Cy5、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素や、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光性タンパク質がある。また、非蛍光性物質としては、ビオチンのような補酵素、タンパク質、ペプチド、糖類、脂質類、色素、ポリエチレングリコール等、何らかの目印となり得る化合物であればいかなるものでもよい。修飾剤においては、修飾部が蛍光基、タンパク質と結合する基、または、その両方をもつことが好ましい。アクセプター部は、タンパク質の翻訳系で、ペプチド転移反応によってタンパク質と結合し得る基をもち、好ましくはピューロマイシン又はその誘導体の残基をもつ。ピューロマイシンはアミノアシルtRNAと類似した構造をもち、タンパク質合成を阻害する抗生物質として知られているが、低濃度ではタンパク質のC末端に結合することが知られている(Miyamoto-Sato, E. et al. (2000) Nucleic Acids Res. 28: 1176-1182)。用いることができるピューロマイシン誘導体は、ピューロマイシンと類似した構造を有し、タンパク質のC末端に結合することができる物質であればいかなるものでもよい。具体例としては、3'-N-アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド、3'-N-アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド等が挙げられる。修飾部とアクセプター部との間をつなぐヌクレオチドリンカーとは、具体的には、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドが1個ないし複数個つながった核酸または核酸誘導体であり、特に好ましい例として、シトシン塩基を含むリボヌクレオチド(-rC-)またはデオキシリボヌクレオチド(-dC-)が1個ないし複数個つながった化合物が挙げられる。その他、修飾部とアクセプター部との間に挿入することによって修飾タンパク質の収量を上げることができる物質であればいかなるものでもよい。本発明修飾剤においては、ヌクレオチドリンカーが2'-デオキシシチジル酸、2'-デオキシシチジル-(3',5')-2'-デオキシチジル酸、リボシチジル酸、又は、リボシチジル-(3',5')-リボシチジル酸であることが好ましい。
【0045】
修飾剤は、上記修飾部とアクセプター部とを所望のヌクレオチドリンカーを介して、それ自体既知の化学結合方法によって結合させることにより製造することができる。具体的には、例えば、適当な保護基で保護された上記アクセプター部を固相担体上に結合させ、核酸合成機を用いてヌクレオチドリンカーとしてヌクレオチドホスホアミダイト、およびデオキシヌクレオチドホスホアミダイト、機能性修飾物質として蛍光物質やビオチンなどを結合したホスホアミダイトを順次結合させた後、脱保護を行うことによって作製することができる。上記各部の種類、あるいは結合の種類によっては液相合成法で結合させるかあるいは両者を併用することもできる。また、機能性修飾物質としてニッケル等の金属イオンを用いる場合には、金属イオンが配位しうるニトリロトリ酢酸やイミノジ酢酸等のキレート性の試薬を結合させ、次いで金属イオンを配位させることができる。
【0046】
翻訳テンプレートのPEG部は、ピューロマイシンがアミノ酸と連結できることを特徴とする以外は前記したものとと同様である。また、コード部も前記したものと同様であるが、特に、対応付けに適した構成としては、3'末端領域をA配列にすることが重要であり、トータル蛋白の対応付けの効率が著しく向上してフリータンパク質の量が激減することが確認された。ここでも、コード部の5'末端領域をSP6+O29とし、3'末端領域を、たとえば、Flag+XhoI+An(n=8)とすることで、各長さは、5'末端領域で約60bp、3'末端領域で約40bpであり、PCRのプライマーにアダプター領域として設計できる長さである。これによって、あらゆるベクターやプラスミドやcDNAライブラリーからPCRによって、5'末端領域と3'末端領域をもったタンパク質のコード部を簡単に作成可能となり、PEG部をライゲーションすることで、対応付け効率の高い翻訳テンプレートが得られる。また、PEGによってC末端修飾されたタンパク質は、タンパク質の検出や相互作用検出などにおいて、コード部を利用しない場合、たとえば、FCCS測定、蛍光リーダー、プロテインチップなどに応用する場合は、RNase Aなどで意図的に切断することが好ましい。切断することによって、コード部の妨害によるタンパク質間相互作用の検出の困難性が解消出来る。
【0047】
タンパク質cDNAライブラリーからIVVを形成させるには、無細胞翻訳系を用いる。具体的には、ジチオスレイトール(DTT)やβ-メルカプトエタノールのようなチオール化合物を含む、又は含まない小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S-30抽出液を用いる。特に、これまでDTTを含む無細胞翻訳系では、活性のある抗体をタンパク質として発現させることが困難であったが、本発明ではDTT存在下でもIVVを用いることにより、活性のある抗体を選択することが可能であることがわかった。これらの無細胞タンパク質合成系の中に、上記タンパク質の翻訳テンプレートを加え、25〜37℃で1〜数時間保温することによってIVVを形成させる。C末端ラベル化の場合は、同時に1〜100μMの修飾剤を加えると、C末端修飾タンパク質が合成される。合成されたIVVは、そのまま次の、加熱処理工程、又は逆転写の工程に供する。
【0048】
対応付け分子(「IVV」ともいう)を翻訳後直接加熱する場合は、通常には50-100℃で1-30分の範囲から選択される条件で処理する。予めIVVのmRNA部を逆転写酵素によってRNA-DNAハイブリッドにする場合は、無細胞翻訳系に逆転写反応を阻害する物質が含まれているので、除去することが好ましい。除去操作には、ゲルろ過、好ましくはSephadex G200(Amersham Bioscience社製)、又はスピンカラム、好ましくはUltrafree MC, 100,000 NMWL(ミリポア社製)、又は大腸菌の無細胞翻訳系のPURESYSTEM(ポストゲノム研究所社製)の場合は、ニッケル樹脂を用いる。
【0049】
逆転写反応(RT)により、IVVのmRNA部をRNA-DNAハイブリッドにすることにより、mRNA部の担体および抗原への非特異的吸着が阻止できる。逆転写反応は、mRNAを65℃で加熱変性させた後、4℃に冷却してアニールさせ、ReverTra Ace(TOYOBO社製)を加えて、50℃で30分反応させる。逆転写酵素は、逆転写反応を行うものであれば、いかなる酵素、いかなる条件であってもよい。上記の条件に限定されるものではない。mRNA部をRNA-DNAハイブリッドにしたIVVの加熱処理条件も、通常には50-100℃で1-30分の範囲から選択される条件であるが、逆転写の最高温度より高い温度とする。
【0050】
RT-PCRおよびPCRに使用されるDNAポリメラーゼは、PCR反応に用いられるものであれば特に制限されるものではないが、高い増幅効率と、PCRの忠実度(fidelity)が高すぎないものがより好ましい。本発明で使用したKOD Dash(TOYOBO製品)は極めて微量の鋳型DNAからも効率よく増幅が可能であり、また適度な変異が導入されるため、より高機能なものに進化させることができる。
【0051】
標的分子はペプチド(化学合成された、又は天然から単離された、又はタンパク質の部分消化物であってもよい)、タンパク質、核酸(DNA、又はRNA)、糖類、種々の低分子化合物、金属、金属化合物など、あらゆる化合物や物質が該当する。
【0052】
本発明に用いられる標的分子は態様に応じて、樹脂、ビーズ等の固相に結合させるが、固相に結合させる方法としては、修飾物質を介して結合させるものと、それ以外の部分により結合させるものが挙げられる。
【0053】
修飾物質を介して結合させる場合に用いられる修飾物質は、通常には、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(以下、「リガンド」と称することがある。)であり、固相表面には該リガンドと結合する特定のポリペプチド(以下、「アダプタータンパク質」と称することがある)を結合させる。アダプタータンパク質には、結合タンパク質、受容体を構成する受容体タンパク質、抗体なども含まれる。アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、例えば、アビジンおよびストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。
【0054】
これらの中で、アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、アビジンおよびストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチンの組み合わせが最も好ましい。これらの結合タンパク質は、それ自体既知のものであり、該タンパク質をコードするDNAは既にクローニングされている。
【0055】
アダプタータンパク質の固相表面への結合は、それ自体既知の方法を用いることができるが、具体的には、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基もしくはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0056】
修飾物質以外の部分により固相に結合させる場合は、通常タンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物を固相に結合させるのに用いられる既知の方法、具体的には例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基もしくはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0057】
固相担体は、好ましくはアガロースビーズ、磁性体が包埋されたアガロースビーズが好ましい。固相表面と抗原分子との距離は、立体的な観点から30オングストローム以上離れていることが好ましい。
【0058】
高機能性タンパク質を取得する方法として一般的には2つの方法が挙げられる。以下、高親和性抗体を例として説明する。1つは選択実験に使用する抗原濃度を低く設定することで、その濃度の抗体のみを選択する方法である。この方法は回収される抗体の量も当然少なくなるため効率が悪く、それにともなって、設定できる抗原濃度も回収可能な濃度に制限される。2つめはoff-rate selection(Hawkins, R. (1992) J. Mol. Biol. 226, 889-896; Boder, E. (1997) Nat. Biotechnol. 15, 553-557; Jermutus, L. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 75-80)と呼ばれるもので、抗原と抗体の解離速度を利用した方法である。解離定数(Kd)は結合速度定数(on-rate)と解離速度定数(off-rate)の比で表されるが、生体高分子の結合定数はほぼ一定の範囲内(104-106M-1S-1)にあるため実質のKdは解離速度定数によって決まる。従って、解離速度が遅い抗体ほどその親和性は高いため、抗原での溶出時間を長くすればするほど、より親和性の高い抗体を濃縮することができる。しかしながら、この方法は1サイクルの選択実験に有する時間が長いといった問題がある。この問題を解決する方法として、抗原で溶出するのではなく、抗原または抗体を配列特異的にプロテアーゼで消化させることによって溶出する方法がある。このプロテアーゼはTMVプロテアーゼや因子(factor) Xaを代表とする極めて基質特異性の高いものから、トリプシンやプロテイナーゼKといった配列特異性の低いものまでを含むあらゆるプロテアーゼによって制限されない。以上の方法は本発明においても適応可能であり、また組み合わせることで極めて有効な方法となる。
【0059】
本発明の選択法により選択された核酸を用いてタンパク質を製造する方法、すなわち、本発明の選択法により標的分子と相互作用するタンパク質をコードする核酸を選択する工程、および、選択された核酸を翻訳してタンパク質を製造する工程を含む製造法も提供される。
【0060】
核酸を選択する工程は、本発明の選択法に関して説明したとおりである。
核酸を用いたタンパク質の製造は、通常の方法に従って行うことできる。例えば、核酸を無細胞翻訳系で翻訳してもよいし、核酸を導入したプラスミドを用いることなどにより核酸で大腸菌等の生細胞を形質転換して、その生細胞内でタンパク質を発現させてもよい。無細胞翻訳系としては、ジチオスレイトールやβ-メルカプトエタノールのようなチオール化合物を含む無細胞翻訳系、好ましくは、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、または、大腸菌S-30抽出液が挙げられる。
【0061】
タンパク質を発現させる際には、選択された核酸によりコードされるタンパク質と、酵素又は緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)との融合タンパク質として発現させてもよい。
【0062】
本発明の製造法により得られるタンパク質の例としては一本鎖抗体が挙げられる。一本鎖抗体の例としては、抗原がアンジオテンシンIIの場合には、後記実施例に示すMI1-16(61)、MI1-4(63)、MI2-10(65)、MI2-34(67)、MI2-41(69)、MI2-48(71)、MI3-15(73)、MI3-26(75)、MI3-28(77)、MI3-34(79)、MI3-41(81)、MI3-42(83)、MI3-47(85)、MI3-5(87)、MI3-55(89)、MI3-62(91)、MI3-64(93)、MI3-66(95)、MI3-74(97)、MK2-3(99)、MM2-11(101)、MP1-36(103)、MP1-41(105)が挙げられる(括弧内の数字はアミノ酸配列の配列番号を示す)。また、抗原がLewis Xである場合には、後記実施例に示すMI3-8(107)、MK1-15(109)、MK1-17(111)、MK1-24(113)、MK2-8(115)、MK2-19(117)が挙げられる(括弧内の数字はアミノ酸配列の配列番号を示す)。これらの抗体のアミノ酸配列に相同性の高いアミノ酸配列(例えば、90%以上(相同性計算法:GENETYX-MAC Version 7.3 (SOFTWARE DEVELOPMENT CO., LTD)のMaximum matching))または、これらの抗体のアミノ酸配列において1または数個(通常には30個以下)の残基の置換、欠失または挿入を有するアミノ酸を有するものは、同様な結合活性を有するものが多いと予想される。したがって、本発明は、以下の抗体およびこれらをコードする核酸も提供する。
【0063】
アンジオテンシンIIに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103または105に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【0064】
Lewis Xに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号107、109、111、113、115または117に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【0065】
また、本発明の選択法により選択された核酸を、C末端ラベル化剤の存在下で無細胞翻訳系で翻訳することによりタンパク質のC末端をラベル化する方法も提供される。ラベル化は、特開平11-322781、特開2000-139468、WO 02/46395に記載されたようにして行うことができる。無細胞翻訳系としては、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、大腸菌S-30抽出液が挙げられる。
【0066】
生細胞を用いてタンパク質を大量に発現させる具体例としては、大腸菌、枯草菌、好熱菌、酵母等の細菌から、昆虫細胞、哺乳類等の培養細胞、さらに線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス等に至るまでいかなる細胞でもよい。これらの細胞の中に、上記C末端ラベル化あるいは対応付けされた両修飾タンパク質を直接導入することもできるし、あるいは、上記翻訳テンプレートを導入し、C末端ラベル化の場合は、同時に1〜100μMの修飾剤を電気穿孔法、マイクロインジェクション法等により細胞の中に導入し、細胞の至適生育温度で数時間保温することによって修飾タンパク質が合成される。対応付けの場合は、上記翻訳テンプレートを導入し、細胞の至適生育温度で数時間保温することによって対応付け分子が合成される。合成された両修飾タンパク質は、細胞を破砕することによって回収し次の精製プロセスまたは検出プロセスに供することができる。また、そのまま細胞の中で検出プロセスに供することも可能である。翻訳テンプレートは、用いる翻訳系に合わせて適切なものを選択する。
【0067】
大腸菌でタンパク質を大量発現させるには、発現ベクターに目的のcDNAを導入することが必要となる。この時発現ベクターに含まれるもので最も重要なのは、cDNAをRNAに転写させるためのプロモーターで多様なものが用いられている。発現しようとするタンパク質は、宿主である大腸菌に対して毒性をもつ場合もあるため、ほとんどのベクターでは何らかの形で発現を制御するようになっている。この制御は発現タンパク質をコードする遺伝子を組込んだベクターで大腸菌を形質転換してから発現誘導をかけるまでの間、大腸菌の増殖を妨げないためにも重要である。
【0068】
プロモーターのすぐ下流、クローニングサイトのすぐ上流にはリボソーム結合部位、Shine-Dalgarno配列と呼ばれる塩基配列が含まれている。一般には使用するプロモーターの下流域に付随してくるものをそのまま利用することが多い。この部分はmRNAに転写されたあと、開始コドンAUGとともにリボソームRNAに結合する。Shine-Dalgarno配列と開始コドンの間が5〜10塩基の時に最も翻訳効率がよいといわれている。現在では融合タンパク質として発現させることがほとんどであるため、市販のベクターに合わせて最適化されたプロモーターとそのすぐ下流に存在する融合タンパク質の開始コドンをそのまま利用することになる。
【0069】
翻訳の効率化の観点からは、翻訳開始点付近のmRNAの高次構造が重要である。このため目的遺伝子のN末端付近をコードする塩基配列を、アミノ酸の置換なしに極力アデニンやチミンに富んだものに変換することが必要なこともある。さらに、高効率の発現を期待するならば、大腸菌におけるアミノ酸のコドンの使用頻度を考慮し、大腸菌に最適なコドンに置換することも重要である。
【0070】
また、通常大腸菌での発現系は細胞質内で行われるが、細胞質は還元的な環境下にあるため、抗体のようなS-S結合を有するタンパク質は封入体となってしまう。そこで、抗体の場合には、大腸菌発現は酸化的な環境下にあるペリプラズム内で行うのが一般的である。この場合、抗体のN末端にシグナル配列(例えばpel BリーダーやompT)を導入することで達成される。しかしながら、ペリプラズムでの発現系は細胞質に比べてその発現量が極めて低い。ここで、本発明で得られる抗体はDTTが存在する還元的な環境下で選択されたものであるため、大腸菌の細胞質内で発現させた場合においても、水溶性の機能性抗体として発現させることができる。
【0071】
本発明の製造法によって得られた一本鎖抗体は、タンパク質の免疫学的検出に使用できる。免疫学的検出の方法の例としては、ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、免疫沈降法が挙げられる。
【0072】
また、本発明の製造法によって得られた一本鎖抗体と、タンパク質とを接触させ、一本鎖抗体とタンパク質との相互作用を検出することにより、タンパク質相互作用を検出することができる。タンパク質相互作用の検出の方法としては、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、固相酵素免疫検定法が挙げられる。
【0073】
ペプチドやタンパク質を、一本鎖抗体を用いて検出するためには、一本鎖抗体とペプチド、タンパク質を何らかの修飾剤、例えば蛍光色素で修飾したり、酵素や蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質を構築したりして、検出する必要がある。一本鎖抗体とペプチド、タンパク質を蛍光色素で修飾する方法については前記した。融合タンパク質の構築は、GFP又は酵素、好ましくはアルカリ性ホスファターゼや西洋ワサビのペルオキシダーゼを一本鎖抗体のC末端又はN末端に融合させる。このような一本鎖抗体の融合タンパク質を無細胞翻訳系又は大腸菌やバキュロウイルス、動物細胞の系で発現、精製して得る。GFPの場合は蛍光で、アルカリ性ホスファターゼの場合は可視光で、西洋ワサビのペルオキシダーゼの場合は、化学発光をルミノメーターで検出する。また、タンパク質の検出には、一本鎖抗体のタグ(Flag-tag、T7-tag、HA-tag等)の二次抗体と、GFP又はアルカリ性ホスファターゼや西洋ワサビのペルオキシダーゼとの融合タンパク質を用いてもよい。以下に、一本鎖抗体を用いたペプチドやタンパク質の検出方法について述べる。
【0074】
(1)抗体による免疫染色
研究対象となる分子の解析を始める際に、その機能を推測する手段の一つにその分子の局在性の検討が挙げられる。目的分子の発現を検討するためにさまざまな方法が開発されているが、そのいずれもが実験材料の準備や実験系の確立に多くの時間と手間を要する。それらの方法と比較して抗体を用いた組織染色は操作が比較的簡便であり、準備するものは対象分子を認識する抗体のみである。ある分子の解析を始めた時点でその分子を認識する抗体はなんらかの方法で手に入っている場合が多いので、初めての人でもすぐに実験を開始できる。また遺伝子の発現という形ではなく、タンパク質の存在を直接確認できるというのも本方法の優れた点である。しかしながらすべての抗体が組織染色に用いることができるわけではない。その分子が生体内でとる構造を認識できない抗体では良好な結果は望めない。組織染色に適した抗体を準備できるかが勝負の分かれ目になる。
【0075】
基本的な原理はウエスタンブロットと変わらないが、組織染色の場合には組織中にタンパク質をホルムアルデヒドなどで化学的に固定しその局在を検出する。固定された標的タンパク質を一次抗体および二次抗体を用いて検出するわけだが、そのシグナルが微弱で検出が困難である場合には、目的のシグナルのみを特異的に増幅する方法も開発されている。
【0076】
(2)蛍光抗体染色による内在性タンパク質の細胞内局在の観察
機能が不明であるタンパク質を解析するうえで、その分子を特異的に認識する抗体を用いて細胞内における内在性タンパク質の局在を観察することは、非常に有用な情報をもたらしてくれることが多い。GFP融合タンパク質として発現した場合などとは異なり、生細胞のままその分子の動きを観察するというわけにはいかないが、刺激や薬剤の処理に対する応答や細胞運動といったさまざまな状態における目的タンパク質の局在の変化を観察することができる。目的とするタンパク質に対する抗体がない場合でもそのタンパク質にタグをつけた状態で細胞内に一過的に発現させるなどの方法を用いることにより、タグに対する抗体を用いて同様に目的の分子の局在を観察することはできる。しかしながらこの場合に観察されたタグつきタンパク質の局在は、必ずしもそのタンパク質の実際の局在と一致するとは限らず、過剰に発現させたことによる結果であることも少なくない。実験の操作は比較的に容易であるが、抗体や目的タンパク質の局在によっては固定方法の条件検討が必要になる点、そして何よりも注目しているタンパク質に対する特異的な抗体を用意することが重要なポイントである。
【0077】
適切な固定法により細胞を固定した後、界面活性剤などを用いて膜を透過化(permealize; 浸透性を高くする)し、目的の分子に対する特異的な抗体(一次抗体)を用いて処理することにより、細胞内において目的タンパク質−抗体の複合体を形成させる。細胞内には非特異的に結合した抗体が多く残っているのでこれを洗浄して除き、次に一次抗体を認識しさらに蛍光物質で標識してある抗体(二次抗体)を用いて目的タンパク質−一次抗体−二次抗体という複合体を形成させる。一次抗体と同様に非特異的に結合している二次抗体を洗浄して除き、封入し、顕微鏡で観察する。
【0078】
(3)ウエスタンブロット法
ウエスタンブロットとは、電気泳動後のタンパク質を電気的にメンブレンに転写する作業、あるいはそのような作業を含む一連の実験を言う。
【0079】
タンパク質の電気泳動で一般的によく用いられる方法がSDS-PAGEである。試料に、還元剤であるSDSと負の電荷をもつ2-メルカプトエタノールなどを加えて熱処理することにより、タンパク質の高次構造がほぼ完全に破壊される。また、SDSがタンパク質の分子量比(1:1.4)でタンパク質に結合するため、均一な荷電状態となる。これをポリアクリルアミドゲル中で泳動すると、タンパク質の分子量にしたがって分離することができる。
【0080】
SDS-PAGE後、ゲル内に展開したタンパク質を電気泳動的にメンブレンに転写し、試料中の目的タンパク質に対して特異的な抗体とメンブレン上で反応させて、目的のタンパク質を免疫的に検出する。
【0081】
ウエスタンブロットは、ゲル内に展開されたタンパク質バンドをほとんど拡散させることなくメンブレン上に転写できる。また、抗原抗体反応の特異性が高く、感度が高いことも特徴である。したがって、目的のタンパク質に対する抗体が入手できれば、特定のタンパク質を高感度で検出できる、手軽でよい方法と言える。
【0082】
ここでは、SDS-PAGEおよび酵素活性を用いたウエスタンブロットの手法について記述するが、特にこのプロトコルに限定されるわけではない。ウエスタンブロットの操作の流れを以下に示す。(1)SDSなどを含むサンプルバッファーでタンパク質試料を変性させた後、SDS−PAGEによりタンパク質を分子量に従って分離する。(2)泳動後、ゲルをメンブレンと重ねて転写装置にセットし、ゲル内に展開したタンパク質バンドを電気的にメンブレン上に転写(ブロッティング)する。(3)タンパク質への非特異的吸着を防ぐためのブロッキングを行った後、目的タンパク質を特異的に認識する抗体と一次抗体反応させる。(4)一次抗体分子を特異的に認識する二次抗体(発色酵素つき)と二次抗体反応させる。(5)二次抗体につけた発色酵素の酵素活性、例えばペルオキシダーゼ活性やアルカリ性ホスファターセ活性を利用して発色反応させ、目的タンパク質を検出する。
【0083】
(4)免疫沈降法
免疫沈降法(免沈、Immunoprecipitation、IP)とは、特異的な抗原−抗体反応および、一本鎖抗体のC末端部をビオチンで修飾したり、種々のタグ、例えばFlag-tag、T7-tag、HA-tag、His-tagなど(これはアガロースビーズに共有結合しているストレプトアビジンやタグ抗体と結合するので、遠心により簡単に溶液と分けられる)を用いることにより、使用した抗体に対応する抗原タンパク質だけを分離、精製する方法である。ただ現在は、単に抗原タンパク質だけを分離、精製するのみならず、むしろ「洗い」の強度や用いるライセートの界面活性剤を適度に弱めることで、抗体に直接結合する抗原タンパク質と一緒に複合体を作っているタンパク質を検出し、in vivoでのタンパク質−タンパク質相互作用を立証する際に最もよく使われる。そのため、in vitroでの結合しか立証できないプル−ダウンアッセイに比べ、検出できた際の意味合いは大きい。ただ免疫沈降法を行うにあたっては、特異性と親和性が高い抗体が必要である。この点、本発明で選択される高親和性抗体は目的に叶っている。一般に用いる抗体はウエスタンブロットよりも高いタイター(107〜109mol-1)を必要とし、かつ特異性もある程度以上が要求される。
【0084】
また、上述したように洗浄に用いるバッファー、洗浄の回数、可溶化バッファーの組成になどに応じて分離できるタンパク質複合体の様相が変化する。以下にプロトコルを示すが、特に限定されるものでない。(1)ライセートの回収:免疫沈降を行う準備段階としてまず細胞ないし組織からタンパク質溶液を得る必要がある。ここでどのような濃度、組成の溶液を作るかで後の免疫沈降の結果も変わってくる。ライセートにはいろいろなタンパク質が含まれている。(2)抗原−抗体反応:ライセートに目的とするタンパク質を認識する一本鎖抗体を加えることで抗原−抗体反応を起こさせる。(3)ビーズと抗体との結合:このままでは溶液内の抗体を分離できないため、それを可能とするよう、ストレプトアビジンやタグ抗体を共有結合させたアガロースビーズを加える。ストレプトアビジンやタグ抗体は一本鎖抗体のC末端の修飾されたビオチンやタグを特異的に認識して結合するため、この操作によって一本鎖抗体がビーズに結合した形となり、分離ができるようになる。(4)分離、精製:遠心することによりビーズを下に落とし、上清を除くことで分離する。さらに洗浄バッファーを加え、混和することで洗浄し、非特異的に結合しているタンパク質をある程度取り除く。(5)精製したタンパク質複合体の解析:タンパク質複合体に含まれているものをビーズからタンパク質を溶出させ、SDS−PAGEで分離することによって解析する。検出の方法としては、ウエスタンブロッティング(既知の場合で抗体をもっている時)やCBB染色などが用いられる。CBB染色して、未知のバンドが検出できた場合、MSで固定することもできる。
【0085】
本発明により得られる標的分子と相互作用するタンパク質(以下、「機能性タンパク質」ともいう)を用いた分子間相互作用の解析方法においては、通常には、上記で得られた修飾機能性タンパク質と標的分子を、修飾物質の種類や反応系の種類などにより適宜組み合わせて接触せしめ、修飾機能性タンパク質又は標的分子が発する信号において両分子間の相互作用に基づいて発生される上記信号の変化を測定することにより相互作用を解析する。また、相互作用の解析は、例えば、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行われる。また、上記で得られた2組の修飾機能性タンパク質と標的分子を、修飾物質の種類や反応系の種類などにより適宜組み合わせて接触せしめ、修飾機能性タンパク質が発する信号において両抗原分子間の相互作用に基づいて発生される上記信号の変化を測定することにより相互作用を解析する。相互作用の解析は、例えば、蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法により行われる。以下これらの方法の詳細については記述する。標的分子及び相互作用は、上記に説明した通りである。
【0086】
用いられる機能性タンパク質は、態様に応じて修飾物質により修飾して用いることができる。修飾物質は、通常、蛍光性物質などの非放射性修飾物質から選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えばカルボキシル基、水酸基、アミノ基など)を持ち、タンパク質、核酸等の上記一本鎖抗体と連結可能な種々の蛍光色素、例えばフルオレセイン系列、ローダミン系列、Cy3、Cy5、エオシン系列、NBD系列などのいかなるものであってもよい。その他、色素など修飾可能な化合物であれば、その化合物の種類、大きさは問わない。
【0087】
これらの修飾物質は、標的分子と修飾機能性タンパク質との間の相互作用に基づいて発生される信号の変化の測定又は解析方法に適したものが適宜用いられる。
上記修飾物質の機能性タンパク質への結合は、それ自体既知の適当な方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、上に記載したC末端を修飾する方法等を用いることができる。また、修飾機能性タンパク質または本発明に用いられる標的分子は態様に応じて、固相に結合させる場合があるが、固相に結合させる方法としては、修飾物質を介して結合させるものと、それ以外の部分により結合させるものが挙げられる。
【0088】
修飾物質を介して結合させる場合に用いられる修飾物質は、通常には、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(以下、「リガンド」と称することがある。)であり、固相表面には該リガンドと結合する特定のポリペプチド(以下、「アダプタータンパク質」と称することがある)を結合させる。アダプタータンパク質には、結合タンパク質、受容体を構成する受容体タンパク質、抗体なども含まれる。アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、例えば、アビジンおよびストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。
【0089】
これらの中で、アダプタータンパク質/リガンドの組み合わせとしては、アビジンおよびストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチンの組み合わせが最も好ましい。これらの結合タンパク質は、それ自体既知のものであり、該タンパク質をコードするDNAは既にクローニングされている。
【0090】
アダプタータンパク質の固相表面への結合は、それ自体既知の方法を用いることができるが、具体的には、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基あるいはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0091】
修飾物質以外の部分により固相に結合させる場合は、通常タンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物を固相に結合させるのに用いられる既知の方法、具体的には例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン-2,4-ジイソシアネート、アミノ基、活性エステルに変換可能なカルボキシル基、又はホスホアミダイドに変換可能な水酸基あるいはアミノ基などを利用する方法を用いることができる。
【0092】
「測定」とは解析のために用いられる信号の変化を収集するための手段であり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。用いられる測定法としては、例えば、蛍光相関分光法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、蛍光イメージングアナライズ法、表面プラズモン共鳴法、固相酵素免疫検定法など、分子間相互作用を検出できるあらゆる系が利用可能である。
【0093】
蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy(FCS): Eigen, M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 5740-5747(1994))は、共焦点レーザー顕微鏡等の下で、粒子の流動速度、あるいは拡散率、容積収縮等を測定する方法であり、本発明においては、修飾機能性タンパク質(C末端修飾機能性タンパク質)と抗原分子間の相互作用により元の修飾分子1分子の並進ブラウン運動の変化を測定することにより、相互作用する分子を測定することができる。具体的には試料粒子が励起光により励起されて、試料液容積の一部において蛍光を放射し、この放射光を測定し光子割合を得る。この値は、特定の時間に観測されている空間容積中に存在する粒子の数と共に変化する。上述した種々のパラメーターは自己相関関数を使用してこの信号の変動から算出され得る。このFCSを行う為の装置もカールツァイス(Zeiss)社等から市販されており、本方法においてもこれらの装置を用いて解析を行うことができる。この方法を用いて機能性タンパク質−標的分子間および標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれも溶液として供することが必要である(液相法)。標的分子は修飾の必要はない。また相互作用を調べようとするC末端修飾機能性タンパク質より非常に分子量の小さい分子は、C末端修飾機能性タンパク質のブラウン運動に影響を及ぼさないため本方法においてはふさわしくない。
【0094】
しかし、2種類の蛍光色素を用いる蛍光相互相関分光法(FCCS)は、1種類の蛍光色素を用いるFCSでは困難であった同じくらいの分子量をもつタンパク質間の相互作用も検出できる。2種類の蛍光色素を用いる他の方法としては蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法が知られているが、FRETが生じるためには2つの蛍光色素が40〜50Å以内に近接する必要があり、タンパク質の大きさや蛍光色素の付いている位置によっては、相互作用していてもFRETが観測されない危険性がある。FCCS法では相互相関の検出は蛍光色素間の距離に依存しないので、そのような問題がない。一方、他の検出系である蛍光偏向解消法と比較すると、FCCS法は必要なサンプル量が少なく、検出時間が短く、HTSのための自動化が容易等の長所がある。さらにFCCS法では蛍光標識された分子の大きさや数というきわめて基本的な情報が得られるので、表面プラズモン共鳴法のように汎用的な用途に利用できる可能性がある。両者の違いは、表面プラズモン共鳴法ではタンパク質が固定化された状態で相互作用を検出するのに対して、FCCS法ではより天然の状態に近い溶液中の相互作用を見ることができる点にある。FCCS法では、タンパク質の固定化が必要ないかわりに、タンパク質を蛍光色素で標識する必要があるが、本発明により、この課題を克服することが可能となった。
【0095】
本方法において2種類の蛍光色素で修飾された2組のタンパク質−標的分子の系において、接触せしめる方法としては、両標的分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であれば如何なるものであってもよいが、好ましくは市販のFCCS用装置の測定用ウェルに通常生化学的に用いられる緩衝液等に適当な濃度でそれぞれ発光波長が重ならない蛍光色素で標識された2種のC末端修飾機能性タンパク質を溶解した溶液を投入し、さらに同緩衝液に適当な濃度で2種の未標識の標的分子を溶解した溶液を投入する方法によって行われる。
【0096】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記FCCS用測定装置の各測定用ウェルにそれぞれ異なる複数のC末端修飾機能性タンパク質を投入し、これにそれぞれの機能性タンパク質に結合し得る標的分子溶液を投入するか、あるいは特定のC末端修飾機能性タンパク質を投入し、各ウェルに互いに異なる複数種の標的分子溶液を投入する方法が用いられる。
【0097】
蛍光イメージングアナライズ法(抗体チップ法)は、固相化された分子に、修飾分子を接触せしめ、両分子の相互作用により、固相化された分子上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光を、市販の蛍光イメージングアナライザーを用いて測定又は解析する方法である。
【0098】
この方法を用いて機能性タンパク質−標的分子間、標的−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれか一方は上記した方法により固相化されていることが必要である。標的分子は固相化して用いる場合には修飾されているものと、されていないもののどちらも利用可能である。また、固相化しないで用いる場合には上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。C末端修飾機能性タンパク質は、修飾部を介して固定化されているものも、修飾部以外の部分、例えばGSTのような融合タンパク質やFlag-tag、His-tag等で固定化されているものも用いることができる。
【0099】
C末端修飾機能性タンパク質、または標的分子を固相化するための基板としては、通常タンパク質や核酸等を固定化するのに用いられるニトロセルロースメンブレンやナイロンメンブレン、あるいはスライドガラスやプラスチック製のマイクロプレート等も用いることができる。
【0100】
本方法において修飾標的分子あるいは機能性タンパク質を固相化分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは修飾標的分子あるいはC末端修飾機能性タンパク質を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これを固相表面に接触させる方法が好ましい。
【0101】
両分子を接触せしめた後、好ましくは過剰に存在する修飾標的分子あるいはC末端修飾機能性タンパク質を同緩衝液等により洗浄する工程を行い、固相上にとどまった標的分子あるいはC末端修飾機能性タンパク質の修飾物質から発せられる蛍光信号、又は固相化されている修飾分子から発せられる蛍光と固相上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光が混ざり合った信号を、市販のイメージングアナライザーを用いて測定あるいは解析することにより、固相化された分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0102】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記固相表面に、複数のC末端修飾機能性タンパク質あるいは修飾又は非修飾標的分子を番地付けして固相化する方法、あるいは1種類のC末端修飾機能性タンパク質または修飾もしくは非修飾標的分子に固相化されていない複数種のC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を接触させる方法等が用いられる。複数種のC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を接触させる場合には、固相にとどまった該分子を緩衝液の濃度の差等により解離させて取得し、これを既知の方法により分析することにより同定できる。
【0103】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)法は、2種類の蛍光色素を用いる他の分子間相互作用検出法としてよく知られている。FRETとは、2種類の蛍光色素の一方(エネルギー供与体)の蛍光スペクトルと、もう一方(エネルギー受容体)の吸収スペクトルに重なりがあるとき、2つの蛍光色素間の距離が十分小さいと、供与体からの発光が起こらないうちに、その励起エネルギーが受容体を励起してしまう確率が高くなる現象をいう。したがって、相互作用を検出したい2つのタンパク質を、それぞれ供与体および受容体となる蛍光色素で標識しておき、供与体を励起すれば、2つのタンパク質が相互作用しない場合は、蛍光色素間の距離が大きいためFRETは起こらず、供与体の蛍光スペクトルが観察されるが、2つのタンパク質が相互作用して蛍光色素間の距離が小さくなると、FRETにより受容体の蛍光スペクトルが観察されるので、蛍光スペクトルの波長の違いからタンパク質間相互作用の有無を判別することができる。蛍光色素としては、供与体がフルオレセイン、受容体がローダミンという組み合わせがよく用いられている。また最近では、蛍光緑色タンパク質(GFP)の波長の異なる変異体の組み合わせにより、細胞の中でFRETを観察し相互作用を検出する試みがなされている。この方法の欠点としては、FRETが生じるために2つの蛍光色素が40〜50Å以内に近接する必要があるため、タンパク質の大きさや蛍光色素の付いている位置によっては、相互作用していてもFRETが観測されない危険性があるという点が挙げられる。
【0104】
エバネッセント場分子イメージング法とは、Funatsu, T., et al., Nature, 374, 555-559 (1995)等に記載されている方法で、ガラス等の透明体に固相化した分子に溶液として第2の分子を接触せしめ、これにエバネッセント場が発生する角度でレーザー光等の光源を照射し、発生したエバネッセント光を検出器によって測定又は解析する方法である。これらの操作は、それ自体既知のエバネッセント場蛍光顕微鏡装置を用いて行うことができる。
【0105】
この方法を用いてタンパク質間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれか一方は上記した方法により固相化されていることが必要である。標的分子は固相化する場合は修飾の必要はないが、固相化しないで用いる場合には上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。
【0106】
C末端修飾機能性タンパク質または標的分子を固相化するための基板としては、ガラス等の材質の基板が用いられ、好ましくは石英ガラスが用いられる。また、レーザー光の散乱等を防ぐために表面を超音波洗浄したものが好ましい。
【0107】
本方法において固相化していないC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を固相化分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは固相化していないC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これを固相表面に滴下する方法が好ましい。
【0108】
両分子を接触せしめた後、エバネッセント場照明により励起された蛍光をCCDカメラ等の検出器を用いて測定することにより、固相化された分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0109】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記基板に、複数のC末端修飾機能性タンパク質または修飾標的分子を番地付けして固相化する方法等が用いられる。
【0110】
蛍光偏光法(Perran, J., et al., J. Phys. Rad., 1, 390-401(1926))は、蛍光偏光で励起された蛍光分子が、励起状態の間、定常状態を保っている場合には同一の偏光平面で蛍光を放射するが、励起された分子が励起状態中に回転ブラウン運動等を行った場合に、放射された蛍光は励起光とは異なった平面になることを利用する方法である。分子の運動はその大きさに影響を受け、蛍光分子が高分子である場合には、励起状態の間の分子の運動はほとんどなく、放射光は偏光を保ったままになっているのに対して、低分子の蛍光分子の場合は、運動速度が速いために放射光の偏光が解消される。そこで、平面偏光で励起された蛍光分子から放射される蛍光の強度を、元の平面とそれに垂直な平面とで測定し、両平面の蛍光強度の割合からこの分子の運動性およびその存在状態に関する情報が得られるものである。この方法によれば、夾雑物があってもこれに影響されることなく、蛍光修飾された分子と相互作用する標的分子の挙動を追跡できる。これは蛍光修飾された分子と標的分子が相互作用するときにのみ、偏光度の変化として測定されるからである。
【0111】
この方法を行うための装置としては例えばBECON(Panyera社製)等が市販されており、本方法もこれらの装置を用いることにより行うことができる。
この方法を用いてタンパク質間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾機能性タンパク質または標的分子のいずれも溶液として供する必要である。標的分子は修飾の必要はない。また相互作用を調べようとするC末端修飾機能性タンパク質より非常に分子量の小さい分子は、C末端修飾機能性タンパク質のブラウン運動に影響を及ぼさないため本方法においてはふさわしくない。
【0112】
本方法において2組のC末端修飾機能性タンパク質−標的分子を接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であれば如何なるものであってもよいが、好ましくは市販の蛍光偏光解消装置の測定用ウェルに通常生化学的に用いられる緩衝液等に適当な濃度でC末端修飾機能性タンパク質を溶解した溶液を投入し、さらに同緩衝液に適当な濃度で標的分子を溶解した溶液を投入する方法によって行われる。
【0113】
本方法において測定する2つの標的間の相互作用は、最適の組み合わせを検出するためには、相互作用の程度を数値化することが有効である。相互作用の程度を示す指標としては、例えば一定濃度のC末端修飾機能性タンパク質に対して、極大蛍光偏光度を与える最小標的物濃度の値等を用いることができる。
【0114】
表面プラズモン共鳴法とは、金属/液体界面で相互作用する分子によって表面プラズモンが励起され、これを反射光の強度変化で測定する方法である(Cullen, D.C., et al., Biosensors, 3(4), 211-225(1987-88))。この方法を用いてタンパク質−標的分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、C末端修飾タンパク質は上記した方法により固相化されていることが必要であるが、標的分子の修飾は必要ない。
【0115】
C末端修飾機能性タンパク質を固相化するための基板としては、ガラスの等の透明基板上に金、銀、白金等の金属薄膜が構成されたものが用いられる。透明基板としては、通常表面プラズモン共鳴装置用に用いられるものであればいかなるものであってもよく、レーザー光に対して透明な材料からなるものとして一般的にはガラス等からなるものであり、その厚さは0.1〜5mm程度のものが用いられる。また金属薄膜の膜厚は100〜2000Å程度が適当である。このような表面プラズモン共鳴装置用固基板として市販されているものも用いることができる。C末端修飾機能性タンパク質の上記基板への固相化は前述した方法により行うことができる。
【0116】
本方法において標的分子をC末端修飾機能性タンパク質へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液に固相化されたC末端修飾機能性タンパク質を接触させる方法を用いることができる。
【0117】
これらの行程は市販の表面プラズモン共鳴装置、例えばBIAcore2000 (Pharmacia Biosensor社製)によってもよい。両分子を接触せしめた後、それ自体既知の表面プラズモン共鳴装置を用いて、それぞれの反射光の相対強度の時間的変化を測定することにより、固相化された修飾抗原分子と一本鎖抗体との相互作用が解析できる。
【0118】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記表面プラズモン共鳴装置に用いられる基板に、複数の標的分子を番地付けして固相化し、1種類の機能性タンパク質を接触させるか、あるいは1種類の固相化されたC末端修飾機能性タンパク質に複数種の標的分子を接触させる方法等が用いられる。
【0119】
固相酵素免疫検定法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA): Crowther, J.R., Methods in Molecular Biology, 42 (1995))は、固相上に固定化した抗原に対し、抗体を含む溶液を接触せしめ、両分子の相互作用(抗原抗体反応)により、固相化された抗原上にとどまった抗体をこれと特異的に結合する修飾分子(IgG等)から発せられる蛍光、あるいは修飾分子を基質とする色素から発せられる信号を、市販の検出器(ELISAリーダー)を用いて測定又は解析する方法である。
【0120】
この方法を用いてタンパク質−抗原分子間相互作用の測定又は解析を行う場合、抗原となるC末端修飾機能性タンパク質を上記した方法により固相化されていることが必要である。また抗体となる標的分子は上記した修飾物質により修飾されていることが必要である。
【0121】
抗原となるC末端修飾機能性タンパク質を固相化するための基板としては、通常ELISAに用いられるプラスチック製のマイクロプレート等も用いることができる。
本方法において抗体となる修飾標的分子を固相分子へ接触せしめる方法としては、両分子が相互作用するに十分な程度に接触する方法であればいかなるものであってもよいが、好ましくは修飾標的分子を生化学的に通常使用される緩衝液に適当な濃度で溶解した溶液を作成し、これをマイクロプレートに注入する方法が好ましい。
【0122】
両分子を接触せしめた後、好ましくは過剰に存在する固相化分子に結合していない修飾分子を同緩衝液等により洗浄する工程を行い、固相上にとどまった修飾分子から発せられる蛍光を、市販のELISAリーダー等を用いて測定あるいは解析することにより、固相化された抗原分子と相互作用する分子を同定することができる。
【0123】
この方法において、同時に多数の解析を行う方法としては、例えば上記マイクロプレートの各穴にそれぞれ異なる複数の修飾標的分子を固相化する方法が用いられる。
相互作用する分子の同定方法としては、上記のそれぞれの方法により測定され、相互作用が認められた標的分子は、該分子の一次構造が未知の場合、それ自体既知の適当な方法により、その一次構造を解析することができる。具体的には、相互作用を認められた標的分子がタンパク質の場合、アミノ酸分析装置等によりアミノ酸配列を解析し、一次構造を特定することができる。また、標的分子が核酸の場合には、塩基配列決定方法により、オートDNAシーケンサーなどを用いれば塩基配列を決定することができる。
【0124】
C末端修飾機能性タンパク質や標的分子の固相化のための装置としては、上記に記載したC末端修飾機能性タンパク質や標的分子の修飾部を介した固相への固定化方法を行うために、既知の適切な手段を組み合わせて装置を構築することもできる。本装置における各手段自体はそれぞれ既知のものであり、これらの手段における、基板の保持、C末端修飾タンパク質溶液の添加、洗浄等の各操作は、それ自体既知の方法により行えばよい。これらの操作を組み合わせ、全自動又は半自動の、C末端修飾タンパク質の固相化のための装置を構築することができる。
【0125】
タンパク質間相互作用測定のための装置としては、上記に記載したタンパク質−標的分子間相互作用測定を行うために、既知の適切な手段を組み合わせて装置を構築することもできる。本装置における各手段自体はそれぞれ既知のものであり、これらの手段における、基板の保持、抗原分子の添加、洗浄、信号検出等の各操作は、それ自体既知の方法により行えばよい。これらの操作を組み合わせ、全自動又は半自動の、タンパク質間相互作用測定のための装置を構築することができる。
【0126】
マウス抗体cDNAライブラリーから本発明の方法によって選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域やCDR領域(complementarity determining region)と入れ換えることによって、キメラ型IgG抗体やヒト型化したマウスIgG抗体を作れる。これらの抗体は、ヒトに投与したときに惹起されるヒト抗マウス抗体の産生が少ないか、ほとんどない。さらに、ヒト抗体cDNAライブラリーから本発明の方法に選択された高親和性一本鎖抗体は、ヒトIgG抗体の可変領域と入れ換えることによって、完全なヒトモノクローナルIgG抗体を作れる。これは、アナフィラキシー症状を引き起こさない抗体医薬として利用することが可能である。
【0127】
したがって、ヒト又はその他の動物由来のDNAライブラリーから本発明の選択法により選択された核酸の配列に基づいて、その核酸にコードされる可変領域をヒトのIgGの可変領域と置換することによって構築されるヒトまたはヒト型抗体が提供される。また、この抗体を有効成分とする治療剤が提供される。アンジオテンシンIIに対して結合する抗体は、高血圧の治療に中和抗体として使用できると考えられる。すなわち、アンジオテンシンIIの生理作用は血圧上昇作用なので、抗体はアンジオテンシンIIと結合して血圧上昇作用を抑えると考えられる。また、Lewis Xに対して結合する抗体は、癌の治療に使用できると考えられる。細胞が癌化すると細胞表面にLewis Xが発現するようになるので、それを標的として抗体を用いることができる。例えば、癌細胞を殺す抗癌剤やリシンなどの毒素を結合させて、全身または局所的に投与し、抗体がミサイルのように癌細胞を集中的に攻撃し、癌に特異的かつ効果的なミサイル治療を行うことができる。また、ミサイル治療に用いる製剤の一種として、脂質二重膜小胞に薬剤を入れ、その表面に抗体を結合させたイムノリポソーム製剤としてもよい。
【0128】
以下、具体的に本発明の実施例を記述するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。
【実施例1】
【0129】
一本鎖抗体をコードする核酸の選択
(I) ライブラリーの作成
[1]一本鎖抗体cDNAライブラリーの製造には新たに作成したライブラリーを用いた。
【0130】
始めにH鎖DNA溶液の調製を行った。マウス脾臓Poly A+ RNA (5 μg/μl)(DEPC-処理水)(CLONTECH社)をRNase-Free水で100倍に希釈したものを11μl、5×RT緩衝液(TOYOBO) 22μl、10 mM dNTPs(TOYOBO) 11μl、MulgG1/2 forwardプライマー(配列番号48) (1pmol/μl) 27.5μl、MulgG3 forwardプライマー(配列番号47)(1pmol/μl) 27.5μlを混和させ、65℃で9分間反応後、直ちに4℃に冷却し、4℃で2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 5.5μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 5.5μlを加え、50℃で30分間、次いで99℃で5分間反応させcDNA-Hを合成した。
【0131】
[2][1]で合成したcDNA-H溶液 5μl、下記のHBプライマーリストに示した各HBプライマー (1pmol/μl) 2.5μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 2.5μl、MulgG1/2 forwardプライマー(配列番号48)(1pmol/μl) 1.25μl、MulgG3 forwardプライマー(配列番号47)(1pmol/μl) 1.25μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を25μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0132】
【表1】
【0133】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクル行った後72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理を行った。すなわち同量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を加えよく混和させ4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移しもう一度同量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を加えよく混和させ4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移した。得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。すなわち20 mg/mlグリコーゲン溶液(ナカライテスク株式会社)1μl、3 M 酢酸ナトリウム(pH 5.2) 0.1倍量、100%エタノール 3倍量を添加し氷上で15分間放置後、13,200rpm、20分間遠心して上清を除去して、1mlの冷却した70%エタノールにてペレットを洗浄後、再び13,200rpm、2分間遠心して上清を除去した。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(19種)をRNase-free水20μlに溶解した。
【0134】
[3][2]で合成した各DNA溶液(19種) 1μl、HBプライマーリストに示した対応する各HBプライマー (10pmol/μl) 2μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、(2 mM) dNTPs(TOYOBO) 10μl、下記のHFプライマーリストに示したVH forwardプライマーHF1:HF2:HF3:HF4(1:1:1:1)混合液 (10pmol/μl) 2μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0135】
【表2】
【0136】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、50℃、30秒間、72℃、1分間を20サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(19種)をRNase-free水10μlに溶解した。
【0137】
[4][3]で得られた19種のDNAを2%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。すなわち同量のTE飽和フェノール(8-キノリノール含有)を加えよく混和させ4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移しもう一度同量のTE飽和フェノール(8-キノリノール含有)を加えよく混和し4℃で13,200rpm、5分間遠心し、水層部のみを新しいチューブに移した。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し、続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、各DNA(19種)をRNase-free水10μlに溶解した。各DNA溶液について260nmの吸収を測定しHB1:HB2:HB3:HB4:HB5:HB6:HB7:HB8:HB9:HB10:HB11:HB12:HB13:HB14:HB15:HB16:HB17:HB18:HB19 (8:9:4:4:12:4:1:4:12:4:4:2:2:4:4:8:6:1:1)の比率で混和させ合計0.5pmolのH鎖DNA溶液とした。
【0138】
[5]次にL鎖DNA溶液の調製を行った。マウス脾臓Poly A+ RNA (5 μg/μl)(DEPC-処理水)(CLONTECH社)をRNase-Free水で100倍に希釈したものを10μl、5×RT緩衝液(TOYOBO) 20μl、10 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、MuCK forwardプライマー(配列番号49)(1pmol/μl) 50μlを混和させ、65℃で9分間反応後直ちに4℃に冷却し、4℃で2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 5μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 5μlを加え、50℃で30分間、次いで99℃で5分間反応させcDNA-Lを合成した。
【0139】
[6][5]で合成したcDNA-L溶液5μlに、下記のLBプライマーリストに示した各LBプライマー (1pmol/μl) 2.5μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 2.5μl、MuCK forwardプライマー(配列番号49) (1pmol/μl) 2.5μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを加え、RNase-Free水を添加し全体量を25μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0140】
【表3】
【0141】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、48℃、30秒間、72℃、1分間を25サイクル行った後72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理を行った。得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(18種)をRNase-free水20μlに溶解した。
【0142】
[7][6]で合成した各DNA溶液(18種) 1μl、LBプライマーリストに示した対応する各LBプライマー(10pmol/μl) 2μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、下記のLFプライマーリストに示したLH forwardプライマー LF1:LF2:LF3:LF4:LFλ(1:1:1:1)混合液(10pmol/μl) 2μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0143】
【表4】
【0144】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、48℃、30秒間、72℃、1分間を20サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は2%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ500-900bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、各DNA(18種)をRNase-free水10μlに溶解した。
【0145】
[8][7]で得られた18種のDNAを2%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え、70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、各DNA(18種)をRNase-free水10μlに溶解した。各DNA溶液について260nmの吸収を測定しLB1:LB2:LB3:LB4:LB5:LB6:LB7:LB8:LB9:LB10:LB11:LB12:LB13:LB14:LB15:LB16:LB17:LBλ(2:4:8:8:8:16:12:4:4:8:16:16:12:4:4:2:2:1)の比率で混和させ合計0.5pmolのL鎖DNA溶液とした。
【0146】
[9]H鎖とL鎖を一本化するためにさらにPCRを行った。[4]で合成したH鎖DNA溶液 0.5pmol、[8]で合成したL鎖DNA溶液0.5pmol、5'UTR(配列番号57)(1pmol/μl) 0.5μl、McD-Linker+(配列番号56)(1pmol/μl) 0.5μl、McD 3'UTR (His Tag) (配列番号55)(1pmol/μl) 0.5μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 5μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 5μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を45.75μlとしてPCR反応させた。
【0147】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、続いて5分間のスロープで58℃とし、58℃、30秒間、72℃、1分間を10サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。
[10]続いて、[9]のPCR反応溶液45.75μlに、McD-F(配列番号52)(1pmol/μl) 2μl、McD-R (His Tag) (配列番号50)(1pmol/μl) 2μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを加えさらにPCR反応させた。
【0148】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を15サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。
[11][10]で得られたDNAを1%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え、70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水10μlに溶解した。
【0149】
(II) ライブラリーの転写
[12][11]で得られたDNAまたは[25]で得られたDNA 1pmol、5×SP6緩衝液 4μl、ATP (100mM) 1μl、CTP (100mM) 1μl、UTP (100mM) 1μl、GTP (10mM) 2μl、キャップアナログ(m7G(5')PPP(5')G) (Invitrogen) (40mM) 2.5μl、エンザイムミックスSP6RNAポリメラーゼ(Promega) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を20μlとし、37℃で2時間30分間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega)5μlを添加しさらに37℃で1時間反応させた。
【0150】
[13][12]で得られたRNAをRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。すなわち転写反応液にRNase-Free水を添加し全体量を100μlとし、RLT緩衝液(Qiagen) 350μl、2-メルカプトエタノール 5μl、100% エタノール 250μlを加え、RNeasyミニスピンカラムに供し、4℃、12,000 rpm、16秒間遠心後排出された溶液を除去し、RPE緩衝液(Qiagen)500μlを同カラムに加え、4℃、12,000 rpm、16秒間遠心後排出された溶液を除去し、さらにRPE緩衝液(Qiagen)500μlを同カラムに加え、4℃、12,000 rpm、2分間遠心後排出された溶液を除去し、同カラムを新しいチューブに差し替え、4℃、12,000 rpm、1分間遠心し、再び同カラムを新しいチューブに差し替え同カラムにRNase-Free水を30.5μl添加し、10分間氷上で放置後、4℃、14000 rpm、1分間遠心しRNA溶液として回収した。
【0151】
PEGスペーサーとのライゲーション
[14][13]で得られたRNA溶液 29.5μl、T4 ligation 10×緩衝液 5μl、0.1 M DTT 1μl、40 mM ATP 0.5μl、100% DMSO 5μl、0.1% BSA 1μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 1μl、ポリエチレングリコール(PEG)を含むスペーサー分子 (特開2002-176987;p(dC)2T(Fl)pPEG(2000)p(dCp)2Puro(記号の意味は特開2002-276987に記載されている通りである)(10 nmol) 1μl、ポリエチレングリコール(PEG)2000 (日本油脂)(30 nmol) 1μl、T4 RNA リガーゼ (Takara)(250 U/μl) 5μlを混和させ、遮光条件下15℃、12-15時間または遮光条件下4℃、約40時間反応させた。得られたスペーサー分子が結合したRNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。
【0152】
(III) 翻訳
[15][14]で得られたスペーサー分子が結合したRNA 2.5 pmol、小麦胚芽抽出液(5mM DTTを含む)(Promega)12.5μl、Amino Acid mixture, Complete (1mM)(Promega) 2μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 2μl、CH3COOK (1M)(Promega) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を25μlとし、遮光条件下25℃で1時間反応させ翻訳を行った。
【0153】
(IV)ライブラリーの逆転写
[16]翻訳溶液の逆転写反応の前処理を行った。RNase-Free水で調製し組成が50 mMリン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液にて膨潤および平衡化させたSephadex G200 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[15]で得られた翻訳溶液 25 μlを供し、2滴ずつチューブに集め5本目から8本目までを回収した。
【0154】
[17]またはUltrafreeMC 100,000NWL(ミリポア)に[15]で得られた翻訳溶液 25 μlを供し4℃、13,200 rpm、20分間遠心し下層の溶液を回収した。
[18][16]または[17]のいずれかの前処理溶液、5×RT緩衝液(TOYOBO) 80μl、(10 mM) dNTPs(TOYOBO) 40μl、McD-R (His Tag) (配列番号50)(10pmol/μl) 20μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を360μlとし、65℃で9分間反応後直ちに4℃に冷却し4℃で2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 20μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 20μlを加えた。50℃で30分間次いで99℃で5分間反応、または、50℃で30分間反応させた。
【0155】
(V) 標的抗原の固定化
[19]樹脂(UltraLink Immobilized Neutr Avidin Plus) (Pierce) 50 μlを1.5 mlチューブに取り、RNase-Free水500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去し再びRNase-Free水500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去した。組成が100 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、pH 7.5、0.1% Tween 20であるELISA緩衝液に溶解した(0.4μM) アンジオテンシンII-ビオチンまたは(0.4μM) Lewis X-sp-ビオチンを、500μl加え25℃にて1時間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。図3にアンジオテンシンII-ビオチンの化学構造式および図4にLewis X-sp-ビオチンの化学構造式をそれぞれ示した。ELISA緩衝液に溶解した5 mMビオチン7μlを加えさらに25℃にて30分間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。ELISA緩衝液500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去し再びELISA緩衝液500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去した。
【0156】
10×マレイン酸緩衝液4 ml (Dig wash and block buffer set)(Roche)とブロッキング10×ブロッキング溶液 4.45ml (Dig wash and block buffer set)(Roche)、およびRNase-Free水36 mlを混和させたブロッキング剤500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去し、再び、同様のブロッキング剤600 μlを加え2 mlチューブに樹脂を移した。
【0157】
(VI) 標的抗原を認識するIVV抗体の選択
[20]ブロッキング剤600 μlにけん濁した樹脂に[18]で得られた逆転写反応したライブラリーの400 μl を加え、4℃にて15分間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した。
【0158】
シリンジ5mL(Terumo)とWizard Minicolumn(Promega)と注射針 18G×1/2"(Terumo)を直列につなぎ、上記のけん濁液1mlを供し注射筒で押し出した。その溶液をFlowとして一部4℃で保存した。PP6T緩衝液に注射針を差し込み注射筒で5 ml吸い上げ、再び押し出した。この操作を6回行った。
【0159】
さらにアンジオテンシンII(最終濃度1 nM)またはLewis X(最終濃度1 nM)を含むPP6T緩衝液にて上記の操作を2回行った。この操作の最後の溶出液をWashとして一部4℃で保存した。アンジオテンシンII(100 mM) 20 μl、Ribonucleic acid-core from torula Yeast RNA Type II-C (5 μg/μl) 2 μl、PP6T緩衝液178 μlまたはLewis X 0.5 mgを93.6 μlをPP6T緩衝液に溶解させたものと、Ribonucleic acid-core from torula Yeast RNA Type II-C (5 μg/μl) 0.95 μlを混和させ約94.6 μlとしテルモシリンジとテルモ注射針をはずしWizard Minicolumnにけん濁させ樹脂を回収した。この樹脂けん濁液を4℃にて1時間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した。
【0160】
[21]Urtra Freeに[20]で得られたけん濁液を供し10,000 rpm、3分間遠心し下層に溶液を回収した。あらかじめRNase-Free水100 μlを加え10,000 rpm、3分間遠心したMicrocon YM-50に、溶出液200 μlまたは94.6 μlを供し12,000 rpm、1.5-2.5分間遠心した。さらにRNase-Free水100 μlを加え12,000 rpm、1.5-2.5分間遠心を数回繰り返し行いアンジオテンシンIIまたはLewis Xを除去した。
【0161】
(VII) PCRによるcDNAライブラリーの回収
[22][21]で得られた溶出溶液1μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、T7-tag-F(配列番号53) (10pmol/μl) 2μl、McD-R his tag(配列番号50) (10pmol/μl) 2μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 1μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0162】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を25-30サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ900-1000bpのバンドを確認した。
【0163】
[23][22]で得られた増幅した遺伝子はWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製した。すなわちPCR反応物を1.5mlチューブに移しDirect purification緩衝液Promega)100 μl、DNA purification resin(Promega)1 mlを加え混和させシリンジ2.5 mL(Terumo)を使ってWizard Minicolumn(Promega)に供した。シリンジで液を押し出して捨て(80%)イソプロパノール2 mlを加え再び液を押し出して捨てた。Wizard Minicolumnを新しい1.5 mlチューブに付け4℃、10,000 rpm、2分間遠心した後、再び新しい1.5 mlチューブをつけ、RNase-Free水60 μlを加え、室温で10 分間放置した。4℃、10,000 rpm、2分間遠心し、Wizard Minicolumnを捨て、下層を回収し、さらに4℃、10,000 rpm、5分間遠心し、生じた沈殿を除き新しい1.5mlチューブに上清を回収した。
【0164】
DNA溶液について260nmの吸収を測定し濃度を見積もった。
(VIII) PCRによるオメガ配列の付加
[24]PCRによるオメガ配列の付加をするために[23]で得られたDNA溶液 0.2 pmol、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、McD 5'UTR (配列番号54)(1pmol/μl) 1μl、McD-F (配列番号52)(10pmol/μl) 2μl、McD-R his tag (配列番号50)(10pmol/μl) 2μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0165】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を7-10サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ約1000bpのバンドを確認し、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水10μlに溶解した。
【0166】
[25][24]で得られたDNAを1%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動に付しそれぞれのバンドを切り出した。チューブに、切り出したアガロースゲルの断片とRNase-free水100μlを加え、70℃で15分間加熱後、TE飽和フェノール処理を行った。得られた水層部をフェノール/クロロホルム処理し、続いて得られた溶液についてエタノール沈殿を行った。得られたペレットは約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水10μlに溶解した。
【0167】
図5には、上記の工程で得られた各翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動に付し対応付け分子を確認した結果を示す。図中、下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのFITCの蛍光をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量した結果を示す。左からNegaは[11]で得られたライブラリーMH0のクローンのひとつであるMH0-15、PosiはライブラリーMI3のクローンのひとつであるMI3-55、MH0は[11]で得られたライブラリー、MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI2はMI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI3はMI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。
【0168】
MH0ではストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものがかなりの割合で含まれていることから対応付けの効率は15%と低いのに対して、MI1では25%、MI2では37%、MI3では41%と対応付けの効率が上昇している。NegaおよびPosiはインフレームのクローンでありこの場合の対応付け効率はそれぞれ34%および40%を示しているがMI2またはMI3においてほぼその対応付け効率と同等の値が得られている。従って蛋白レベルでのセレクションが成功しライブラリーはインフレームの割合が上昇していることを示している。
【0169】
図6は、図5と同様に上記の工程で得られた各翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動に付し対応付け分子を確認した結果を示す。左からMH0は[11]で得られたライブラリー、MK1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK2はMK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。MH0ではストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものがかなりの割合で含まれていることから対応付けの効率は15%と低いのに対して、MK1では41%、MK2では36%と対応付けの効率が上昇している。
【0170】
図7は、図5と同様に上記の工程で得られた各翻訳溶液を8M尿素存在下5%ポリアクリルアミド電気泳動に付し対応付け分子を確認した結果を示す。左からMM1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM2はMM1を[18]において50℃30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MP1は[11]で得られたライブラリーを[15]において99℃、5分間反応させその後[20][21]においてアンジオテンシンIIを抗原としセレクションを行ったあとに[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させて[22]以降の実験を行い[25]で回収したライブラリーを示している。MM1では25%、MM2では33%と対応付けの効率が上昇している。MM1では[18]において50℃、30分間反応させた後99℃、5分間反応させたMI1と比較し同様な値であり、またMM2もMI2と比較し遜色ない対応付け効率を示すことから蛋白レベルでのセレクションは成功していると考えられる。これに対してMP1は8%と対応付けの効率が極端に低く[15]において99℃、5分間反応させることによりRNAまたは対応付け分子に対し何らかの変性が生じた可能性も考えられた。
【0171】
図8は、[21]で得られた溶出液を[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付した結果を示し、下の棒グラフは上の電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量したものを示している。左からNegaは[11]で得られたライブラリーMH0のクローンのひとつであるMH0-15、PosiはライブラリーMI3のクローンのひとつであるMI3-55、MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI2はMI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI3はMI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。Negaでは回収されるDNAの量は非常に少なくアンジオテンシンIIに親和性のある分子のがほとんど含まれていないことを示し、Posiでは回収されるDNAの量は多くアンジオテンシンIIに親和性のある分子が大多数であることを示している。MI1、MI2ではセレクションで回収されるDNAの量はまだ少なくライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が低いものと考えられる。これに対してMI3では回収されるDNAの量が急激に上昇しライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が急激に上昇しセレクションを繰り返すことによって濃縮が起こったことを示すものと考えられる。
【0172】
図9は、[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液(Elute)を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付した結果である。Eluteに関し、×1は溶出液を1倍希釈、×0.1は溶出液を10倍希釈の略である。MK1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK2はMK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。Flowに示すように十分大過剰量の分子をセレクションに投入しているがWashではほとんどDNAのバンドは見えないことからセレクションにおいてLewis Xに親和性の少ない分子を十分洗い流せていることを示している。またMK1ではセレクションで回収されるDNAの量はまだ少なくライブラリー中に含まれるLewis Xに親和性のある分子の割合が低いものと考えられる。これに対してMK2では回収されるDNAの量が急激に上昇しライブラリー中に含まれるLewis Xに親和性のある分子の割合が急激に上昇しセレクションを繰り返すことによって濃縮が起こったことを示すものと考えられる。
【0173】
図10は、[20]で得られたFlowを1000倍希釈したものと[20]で得られたWashおよび[21]で得られた溶出液を1倍と10倍希釈したものを[22]でPCRし1%アガロースゲル電気泳動に付した結果とその電気泳動ゲルのエチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定し定量した結果を示す。FはFlow、WはWash、Eは溶出液を1倍、E0.1は溶出液を10倍希釈の略である。
【0174】
Flowに示すように十分大過剰量の分子をセレクションに投入しているがWashではほとんどDNAのバンドは見えないことからセレクションにおいてアンジオテンシンIIに親和性の少ない分子を十分洗い流せていることを示している。
【0175】
MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。
【0176】
MI1ではセレクションで回収されるDNAの量はまだ少なくライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が低いものと考えられる。これに対してMM1では回収されるDNAの量が非常に多くライブラリー中に含まれるアンジオテンシンIIに親和性のある分子の割合が多いものと考えられる。すなわちMM1では[18]において50℃、30分間反応させただけなのに対してMI1では[18]において50℃、30分間反応させた後99℃、5分間反応させていることによって99℃に安定性の高い分子だけがセレクションされ不安定なものは除去される傾向にあることを示している。
【実施例2】
【0177】
配列分析
(I) クローニング
[26]ライブラリーからクローンを得るためにTOPOクローニングキット(Invitrogen)を用いた。[11]で得られたDNAまたは[25]で得られたDNA 0.05-1 pmol、taqポリメラーゼ 10×緩衝液(TOYOBO) 2μl、dATP (40 mM) 2μl、taqポリメラーゼ (Taq Pol) (TOYOBO)0.5μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を20μlとして、72℃で15分間、フェノール/クロロホルム処理及びエタノール沈殿を行った。その後、約15分間遠心乾燥した後、DNAをRNase-free水4μlに溶解した。
【0178】
[27][26]で得られたDNA 4μl、Topo vector (Invitrogen) 0.5μl、Salt solution(Invitrogen) 1μlを混和させ室温で20分間放置した。大腸菌にトランスフォームするために氷上で溶解したコンピテントセルに上記の混和溶液5.5μlを入れ氷上で30分間放置後43℃、45秒間ヒートショックを行った。セルにSOC(Invitrogen)を250μl入れ37℃、1時間30分振とう培養器で培養させ2枚の寒天プレート(500 ml中にトリプトン 5 g、酵母エキス 2.5 g、NaCl 5 g、寒天7.5 g、アンピシリン 25 mg)(シャーレ9cm)にまいて37℃で一晩培養した。
【0179】
(II) 塩基配列の決定
[28][27]で培養した寒天プレートに生じたコロニーの一部を爪楊枝でつっつきRNase-Free水20 μlにけん濁させ99℃、5分間加熱後急冷し、-20℃でコロニーけん濁液として保存した。
【0180】
[29][28]で得られたコロニーけん濁液 1μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 5μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 5μl、M13FII (配列番号58) (10 pmol/μl) 1μl、M13RII (配列番号59) (10 pmol/μl) 1μl、KOD DASHポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を50μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0181】
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、30秒間、58℃、30秒間、72℃、1分間を30サイクル行った後72℃、5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ900-1000bpのバンドを確認した。増幅した遺伝子はWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製した。
【0182】
[30][29]で得られたDNA 16 ng、M13FII (配列番号58) (1.6 pmol/μl) 2μl、またはM13RII (配列番号59) (1.6 pmol/μl) 2μl、DTCS kit Premix (Beckman coulter) 6μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を10μlとしてそれぞれPCR反応させた。
PCRは、96℃、5分間反応後、96℃、20秒間、58℃、20秒間、60℃、4分間を30サイクル行った後、72℃、5分間反応を行った。
【0183】
[31][30]で得られたPCR反応物を1.5mlチューブに移し、3 M NaOAc 1μl、0.1 M EDTA 1μl、20 mg/mlグリコーゲン溶液(ナカライテスク株式会社)1μlをよく混和させ、冷100%エタノール 60μlを加え、混和させた。4℃、14000 rpm、15分間遠心し上清を除去し70%エタノールにてペレットを洗浄後、再び14000rpm、2分間遠心して上清を除去しすることを2回行った。その後、30-40分間遠心乾燥した後、脱イオン化したホルムアミド(Beckman coulter) 40μlを加えよく混和させた。配列分析はCEQ 2000 DNA Analysis System (Beckman coulter)で行った。
【0184】
【表5】
【0185】
表5においては、左のレーンから、"Name"はセレクションの種類と回数、"In frame"はインフレームの個数、"Mutation"はストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものの個数、"Total"はIn frameとMutationの合計、"In frame (%)"は100×In frame/Total、"C"は図11および図12のAまたはBに収束した配列をもつものの個数、"C(%)"は100×図11および図12のAまたはBに収束した配列をもつものの個数/In frame、"IVV (%)"は、図5、図6および図7より算出された対応付け効率をそれぞれ示している。
【0186】
またMH0は[11]で得られたライブラリー、MI1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI2はMI1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MI3はMI2を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MK2はMK1を[18]において50℃、30分間次いで99℃、5分間反応させLewis Xを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM1は[11]で得られたライブラリーを[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリー、MM2はMM1を[18]において50℃、30分間反応させアンジオテンシンIIを抗原としてセレクションし[25]で回収したライブラリーを示している。
【0187】
C(%)で示した100×(図11および図12のAに収束した配列をもつものの個数)/In frameはMI1で33%、MI2で57%、MI3で87%とセレクションに従い上昇しアンジオテンシンIIを抗原としたセレクションではAに示した配列に急激に収束することが示された。C(%)で示した100×(図11および図12のBに収束した配列をもつものの個数)/In frameはMK1で50%、MK2で40%、とセレクションを回すことによって高い値を示しLewis Xを抗原としたセレクションではBに示した配列に収束することが示された。これらに対しC(%)で示した100×(図11および図12のAに収束した配列をもつものの個数)/In frameはMM1で0%、MM2で13%でありセレクションを1回、回しただけではAに示した配列のものはひとつも見られず、セレクションを2回、回すことではじめて1つのクローンがAに示した配列のものが見いだされた。MM1、MM2では[18]において50℃30分間反応させただけなのに対してMI1、MI2、MI3では[18]において50℃、30分間反応させた後99℃、5分間反応させている。従って99℃、5分間反応させることで急激にAに示した配列に収束したのに対し99℃、5分間反応させないMM1、MM2の場合ではAに示した配列を見いだすことはできるものの非常に効率が悪いことがわかった。
【0188】
MP1は[11]で得られたライブラリーを[15]において99℃、5分間反応させその後[20][21]においてアンジオテンシンIIを抗原としセレクションを行ったあとに[18]において50℃30分間、99℃、5分間反応させて[22]以降の実験を行い[25]で回収したライブラリーであるが[31]で配列分析を行い解析した結果インフレームは2個、ストップコドンまたはミューテーションにより蛋白質に翻訳されないものは11個、合計は13個、図11および図12のAに収束した配列をもつものは2個であった。MP1の場合インフレームの割合が極端に低くやはり効率が良いとはいえないがAに示した配列を見いだすことができることがわかった。
【0189】
図11および図12は[31]で配列分析を行い解析した結果インフレームのものについてアミノ酸配列によるclustalxによる配列アラインメント後TreeViewPPCにより作成した系統樹を示す。線で囲ったAはアンジオテンシンIIのセレクションで収束したもの、線で囲ったBはLewis Xのセレクションで収束したものを示す。ライブラリーの略号の後にクローンの番号を示した。線で囲ったAはMI3-55と比較し蛋白質レベルでGENETYX-MACで解析した結果90%以上の相同性を示し、線で囲ったBはMK1-17と比較し蛋白質レベルGENETYX-MACで解析した結果90%以上の相同性を示した。
【0190】
配列決定されたクローンの一部(MI1-16、MI1-4、MI2-10、MI2-34、MI2-41、MI2-48、MI3-15、MI3-26、MI3-28、MI3-34、MI3-41、MI3-42、MI3-47、MI3-5、MI3-55、MI3-62、MI3-64、MI3-66、MI3-74、MK2-3、MM2-11、MP1-36、MP1-41)について、塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列を60〜116の偶数の配列番号に示す。アミノ酸配列を61〜117の奇数の配列番号に示す。なお、CDR配列番号は、Martin, A.C.R. Accessing the Kabat Antibody Sequence Database by Computer PROTEINS: Structure, Function and Genetics, 25 (1996), 130-133.に従って以下のように決定した。
【0191】
MI1-16、MI1-4、MI2-10、MI2-34、MI2-41、MI2-48、MI3-15、MI3-26、MI3-28、MI3-34、MI3-41、MI3-42、MI3-47、MI3-5、MI3-55、MI3-62、MI3-64、MI3-66、MI3-74、MK2-3、MM2-11、MP1-36、MP1-41の各CDRは以下のアミノ酸番号である。
【0192】
【表6】
【0193】
MI3-8、MK1-15、MK1-17、MK1-24、MK2-19、MK2-8の各CDRは以下のアミノ酸番号である。
【0194】
【表7】
【実施例3】
【0195】
抗体の調製
[32][28]で得られたコロニーけん濁液 1μl、10×PCR緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25 mM MgSO4 4μl、McD-F (配列番号52)(10pmol/μl) 3μl、McD-R (His Tag)-stop (配列番号51)(10pmol/μl) 3μl、KOD PLUS ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとしてそれぞれPCR反応させた。
【0196】
PCRは、94℃、5分間反応後、94℃、30秒間、58℃、30秒間、68℃、2分間を25-30サイクル行った後、68℃5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりそれぞれ900-1000bpのバンドを確認した。
【0197】
[33]クローンDNAの転写を行った。[32]で得られたDNA 1pmol、5×SP6緩衝液 4μl、ATP (100mM) 1μl、CTP (100mM) 1μl、UTP (100mM) 1μl、GTP (10mM) 2μl、キャップアナログ(m7G(5')PPP(5')G) (Invitrogen) (40mM) 2.5μl、エンザイムミックスSP6RNA ポリメラーゼ(Promega) 2μlを混和させ、RNase-Free水を添加し全体量を20μlとし、37℃、2時間30分間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega) 5μlを添加しさらに37℃、1時間反応させた。得られたRNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。
【0198】
[34][33]で得られたRNA 20 pmol、小麦胚芽抽出液(5mM DTTを含む)(Promega)50μl、Amino Acid mixture, Complete (1mM)(Promega) 8μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 8μl、CH3COOK (1M)(Promega) 8μlを混和し、RNase-Free水を添加し全体量を100μlとし、遮光条件下25℃、1-3時間反応させ翻訳を行った。
【0199】
[35]ミリQ水で調製し組成が50mMリン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液にて膨潤ならびに平衡化させたSephadex G75 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[34]で得られた翻訳溶液 200 μlを供し、4滴ずつチューブに集め3本目から6本目までを回収した。
【0200】
[36]あるいはミリQ水で調製し組成が20 mMリン酸ナトリウム、500 mM NaCl、20 mM イミダゾール pH 7.4であるHis Tag A緩衝液にて膨潤ならびに平衡化させたSephadex G75 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[34]で得られた翻訳溶液 200 μlを供し、4滴ずつチューブに集め3本目から6本目までを回収した。その溶液にHis Tag A緩衝液で平衡化したNi-NTA agarose (Qiagen)樹脂100 μlを加え、25℃、1 時間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。His Tag A緩衝液500 μlでけん濁させ、4℃、3,000 rpm、1分間遠心し上清を除去しする操作を3回繰り返し、樹脂を回収し、組成が20 mMリン酸ナトリウム、500 mM NaCl、475 mMイミダゾール pH 7.4であるHis Tag B緩衝液150 μlを加え25℃、30分間-1時間ロータリーミキサー(Nissin)で回転攪拌した。Urtra Freeに樹脂けん濁液を供し10,000 rpm、3 分間遠心し下層に溶液を回収した。
【0201】
[37]PP6T緩衝液で平衡化させたMicro Spin G-25 column(Amersham Biosciences)を4℃、735 g、1分間遠心し、下層に溶出した液を除去し、[36]で得られた溶液50μlをカラムに供した。4℃、735g、2分間遠心し、下層の溶液を回収した。
【0202】
あるいはミリQ水で調製し組成が50mMリン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液にて膨潤ならびに平衡化させたSephadex G75 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものに[36]で得られた溶液を150 μlを供し、4滴ずつチューブに集め3本目から6本目までを回収した。
【0203】
図13は、MI3-55の[37]についてウエスタンブロットした結果(右2本)を示す。左3本はウエスタンブロットのコントロールである。レーン左からCarboxy-terminal FLAG-BAP fusion protein (Sigma)を100 ng、50 ng、20 ng、Biotynylated SDS-PAGE Standards low range (Bio-rad) 2 μl、MI3-55の[37]において3本目から6本目までを回収した15μl、5μlを15%ポリアクリルアミド電気泳動に付した後PBDF膜に転写し、anti FLAG M2-Mouse(Sigma)を一次抗体、Goat anti-mouse IgG (H+L)-HRP conjugate (Sigma)とAvidin-HRP conjugate (Bio-rad)を二次抗体としECL Western Blotting Detection Reagents (Amersham biosciences)で検出したウエスタンブロット。MI3-55は分子量約31,000ダルトンにバンドを検出し一本鎖抗体の計算値と一致した。
【実施例4】
【0204】
ビアコアによる結合の確認
[38]ビアコアはビアコア3000システムを用いた。センサーチップB1(CM4)にアミンカップリング法で固定化を行った。フローセル1および2を0.2 M N-エチル-N'-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)と50 mM N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含む溶液で10分間活性化を行った。次にフローセル2に50μMストレプトアビジン(Sigma) (0.02M リン酸カリウム緩衝液 pH 6.5)を20μl、10 mM 酢酸緩衝液 pH 5.0 980 μlと混合したものを10分間、フローセル1には10 mM 酢酸緩衝液 pH 5.0を10分間流した。続いてフローセル1および2を1Mエタノールアミン pH 8.5で10分間ブロッキングを行った。フローセル2は2024または2305レスポンスユニットがセンサーチップ表面に結合した。さらにフローセル1および2に50 mM NaCl, 1 M NaCl 10 μlを5回流した後、2024レスポンスユニットがセンサーチップ表面に結合したフローセル2にアンジオテンシンII-ビオチン(0.1 μM)を10μl流した。2305レスポンスユニットがセンサーチップ表面に結合したフローセル2にLewis-X-sp-ビオチン(0.1 μM)を3μl流した。最後にフローセル1および2にGlycine 1.5を10μl流した結果、アンジオテンシンII-ビオチンのフローセル2では35.0レスポンスユニットが、Lewis-X-sp-ビオチンのフローセル2では31.6レスポンスユニットがそれぞれセンサーチップ表面に結合した。理論的RmaxはアンジオテンシンII-ビオチンのフローセル2では801とまたはLewis-X-sp-ビオチンのフローセル2では1081と見積もられた。
【0205】
[39]ビアコアの分析は組成が50 mM リン酸カリウム、150 mM NaCl、pH 6.0、0.1% Tween 20であるPP6T緩衝液を用い流速は20μl/分で行った。[35]または[37]で得られたサンプルをKINJECTでインジェクトした。再生はGlycine 1.5を20μl、50mM NaCl, 1 M NaCl 10 μlで行った。レスポンスカーブはフローセル2からフローセル1を引き算し結合のレスポンスユニットを算出した。
【0206】
図14は、アンジオテンシンIIを抗原としたセレクションで図11および図12のAに示した配列に収束する配列のうちMI3-55、MI3-42、MI3-28、MI3-41、MI3-34、MI3-5、MI3-15、MI3-26を[34]で翻訳を行った後ビアコアで分析し算出したKDを棒グラフで示したものである。0.4-1.5 nMの非常に親和性の高い値を示し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は非常に高親和性であることがわかった。
【0207】
図15は、Lewis Xを抗原としたセレクションで図11および図12のBに示した配列に収束する配列のうちMK1-1、MK1-24、MK2-19、MK1-17を[34]で翻訳を行った後ビアコアで分析し算出したKDを棒グラフで示したものである。20-43 nMの値を示し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は高親和性抗体であることがわかった。
【0208】
図16は、MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[35]の処理を行ったあと[39]のビアコアで分析した結果を棒グラフで示したものである。右のレーンから1はサンプル原液を0.5は原液の2分の1希釈、0.25は0.5の2分の1希釈、0.125は0.25の2分の1希釈を示す。原液を99℃、5分間処理したものは4℃5分間処理したものに比べて56%のレスポンスになったものの4℃5分間処理したものを0.25に希釈したものと同等のレスポンスを示した。従ってMI3-55は99℃、5分間処理し[35]の処理したものでも約25%の結合活性を有し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は非常に耐熱性であることが示された。
【実施例5】
【0209】
ELISAによる結合の確認
[40]Nuncストレプトアビジンコート96穴マイクロプレートの1穴あたりにアンジオテンシンII-ビオチンまたはLewis-X-sp-ビオチン(100 nM)/ELISA緩衝液200 μlを加え50℃、1時間静かに振とうさせ固定化を行った。プレートの溶液を捨て良く水をきりELISA緩衝液200 μlを加えるプレートを洗う操作を3回行った。ELISA緩衝液200 μlを加え5分間放置した後再びELISA緩衝液200 μlでプレートを洗う操作を3回行った。Blocking one(ナカライテスク株式会社): ミリQ(1:4)で希釈したブロッキング剤を加え4℃で一晩または25℃で1-数時間ブロッキングを行った。次にPBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行い、[35]または[37]で得られたサンプルを100 μlプレートに加えた。このとき拮抗阻害を調べる場合にはアンジオテンシンIIまたはFree Lewis Xを一本鎖抗体サンプルとあらかじめ混和させたものを加えた。25℃で0.5-2時間静かに振とうさせ後PBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行い一次抗体溶液としてanti FLAG M2-Mouse (Sigma): Blocking one(ナカライテスク株式会社):ELISA緩衝液(1:10:190)を100 μl加えた。25℃で0.5-2時間静かに振とうさせ後PBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行い二次抗体溶液としてGoat anti-mouse IgG (H+L)-HRP conjugate (Sigma): Blocker casein in TBS (PIERCE)(1:400)を100 μl加えた。25℃で0.5-2時間静かに振とうさせ後PBS(ナカライテスク株式会社)200 μlでプレートを洗う操作を4回行いTMB Peroxidase EIA substrate kit (Bio rad) (A:B = 9:1) 100 μl加えた。25℃で5-60分間静かに振とうさせ1 N H2SO4を100 μl加え反応を停止した。吸光度はMultiskan JX (大日本製薬株式会社)96穴マイクロプレートリーダーで450 nmと630 nmを測定し450 nmの値から630 nmの値を引き算した。
【0210】
図17は、MI3-55を[34]で翻訳を行った後4℃または60℃または99℃、5分間処理し[35]の処理を行ったあと[40]のELISAで分析した結果を棒グラフで示したものである。右のレーンから1はサンプル原液を0.5は原液の2分の1希釈、0.25は0.5の2分の1希釈、0.125は0.25の2分の1希釈、0.0625は0.125の2分の1希釈を示す。原液を99℃、5分間処理したものは4℃、5分間処理したものに比べて21%の値に、0.5希釈を99℃、5分間処理したものは4℃、5分間処理したものに比べて44%の値になったものの、それぞれ4℃、5分間処理したものを0.125に希釈したものと同等の値を示した。従ってMI3-55は99℃、5分間処理し[35]の処理したものでも約12.5%以上の結合活性を有し、本発明の方法で選択された一本鎖抗体は、非常に耐熱性であることが示された。
【産業上の利用の可能性】
【0211】
本発明は、タンパク質の機能的成熟を進化分子工学的手法(IVV法)に適用し、試験管内でのタンパク質選択を安価で迅速に行う技術である。具体的にはタンパク質cDNAライブラリーの構築、対応付け分子(IVV)ライブラリーへの変換、選択、遺伝子の回収、このサイクルを数回繰り返す事によって、所望のタンパク質を得ることができる。さらに、ライブラリーを既知のタンパク質遺伝子に変異(point mutation, DNA shuffling)を加えたものを使用することで、より高機能性、高安定性、高発現のタンパク質を選択することも可能である。
【0212】
本発明によれば、強い選択圧環境下(高温での加熱処理)でタンパク質選択が行われるため、極めて高い濃縮効果を示し、さらに標的分子に対して強い結合力をもつタンパク質を迅速に選択できる。得られたタンパク質は分子生物学的基礎研究における利用は言うまでもなく、診断薬、治療薬への応用など、その応用範囲は極めて広い。特に、以下のような優れた効果を奏し得る。
(1)ライブラリーと抗原を結合させる前に予め加熱処理を行うことで、不安定なタンパク質群を変性させ、安定に立体構造が維持されているものか、迅速に巻き戻る安定性の高いタンパク質群だけを選択できる。
(2)同時に逆転写反応を行う場合には、RNA部分での担体や標的分子への非特異的な結合が抑えられ、飛躍的に濃縮効率が上昇する。
(3)得られたタンパク質は、DTT等の還元剤存在下での無細胞翻訳系や還元的環境の大腸菌の細胞質内での大量発現が可能であり、また還元剤に対しても安定である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸の選択法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする選択法。
(a)タンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程。
(b)(a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンを含むスペーサーを連結した後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子のライブラリーを構築する工程。
(c)対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程。
(d)対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程。
【請求項2】
標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である請求項1記載の選択法。
【請求項3】
スペーサーがポリエチレングリコールを含む請求項1記載の選択法。
【請求項4】
(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いて、上記(b)〜(d)の操作を繰り返す工程をさらに含む請求項1記載の選択法。
【請求項5】
加熱処理する際の条件が、50-100℃、1-30分の範囲から選択される請求項1記載の選択法。
【請求項6】
(d)の工程の前に対応付け分子のRNA部を逆転写してRNA-DNAハイブリットとする工程をさらに含む請求項1記載の選択法。
【請求項7】
逆転写の前に、逆転写反応を阻害する無細胞翻訳系由来の物質を除去する請求項5記載の選択法。
【請求項8】
無細胞翻訳系がチオール化合物を含む無細胞翻訳系である請求項1記載の選択法。
【請求項9】
無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、又は、大腸菌S-30抽出液の無細胞翻訳系である請求項1記載の選択法。
【請求項10】
標的分子と相互作用するタンパク質の製造法であって、請求項1〜9のいずれかに記載の選択法により標的分子と相互作用するタンパク質をコードする核酸を選択する工程、および、選択された核酸を翻訳してタンパク質を製造する工程を含む製造法。
【請求項11】
標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である請求項10記載の製造法。
【請求項12】
抗原がアンジオテンシンIIである請求項11記載の製造法。
【請求項13】
抗原がLewis Xである請求項11の製造法。
【請求項14】
一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸を、チオール化合物を含む無細胞翻訳系で翻訳することを含む請求項11記載の製造法。
【請求項15】
無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、または、大腸菌S-30抽出液である請求項14記載の製造法。
【請求項16】
一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸で生細胞を形質転換させ、生細胞内で一本鎖抗体を発現させることを含む請求項11記載の製造法。
【請求項17】
一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸によりコードされる一本鎖抗体と酵素又は緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)との融合タンパク質として製造することを含む請求項11記載の製造法。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれかに記載の選択法により選択された核酸を、C末端ラベル化剤の存在下で無細胞翻訳系で翻訳することによりタンパク質のC末端をラベル化する方法。
【請求項19】
アンジオテンシンIIに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103または105に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【請求項20】
請求項19記載の一本鎖抗体をコードする核酸。
【請求項21】
Lewis Xに対する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号107、109、111、113、115または117に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【請求項22】
請求項21記載の一本鎖抗体をコードする核酸。
【請求項23】
請求項11〜17のいずれかに記載の製造法によって得られた一本鎖抗体を用いてタンパク質を免疫学的に検出する方法。
【請求項24】
ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、免疫沈降法である請求項23に記載の検出方法。
【請求項25】
請求項10〜17のいずれかに記載の製造法によって得られたタンパク質と、標的分子とを接触させ、タンパク質と標的分子との相互作用を検出することを含む、分子間相互作用を検出する方法。
【請求項26】
蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法である請求項25に記載の検出方法。
【請求項27】
ヒト又はその他の動物由来のDNAライブラリーから請求項2の方法によって選択された一本鎖抗体をヒトのIgGの可変領域と置換することによって構築されるヒト型およびヒト抗体。
【請求項28】
請求項27記載の抗体を有効成分とする治療剤。
【請求項1】
標的分子と相互作用するタンパク質またはそれをコードする核酸の選択法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする選択法。
(a)タンパク質をコードするDNAのライブラリーを調製する工程。
(b)(a)で調製されたライブラリーのDNAを転写し、転写されたRNAの3'末端にピューロマイシンを含むスペーサーを連結した後、無細胞翻訳系において遺伝子型と表現型の対応付け分子のライブラリーを構築する工程。
(c)対応付け分子のライブラリーを加熱処理する工程。
(d)対応付け分子を標的分子に対して結合させ、十分洗浄した後、溶出し、核酸部を逆転写-PCRまたはPCRによって増幅させる工程。
【請求項2】
標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である請求項1記載の選択法。
【請求項3】
スペーサーがポリエチレングリコールを含む請求項1記載の選択法。
【請求項4】
(d)で増幅したDNAを(a)のライブラリーとして用いて、上記(b)〜(d)の操作を繰り返す工程をさらに含む請求項1記載の選択法。
【請求項5】
加熱処理する際の条件が、50-100℃、1-30分の範囲から選択される請求項1記載の選択法。
【請求項6】
(d)の工程の前に対応付け分子のRNA部を逆転写してRNA-DNAハイブリットとする工程をさらに含む請求項1記載の選択法。
【請求項7】
逆転写の前に、逆転写反応を阻害する無細胞翻訳系由来の物質を除去する請求項5記載の選択法。
【請求項8】
無細胞翻訳系がチオール化合物を含む無細胞翻訳系である請求項1記載の選択法。
【請求項9】
無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、又は、大腸菌S-30抽出液の無細胞翻訳系である請求項1記載の選択法。
【請求項10】
標的分子と相互作用するタンパク質の製造法であって、請求項1〜9のいずれかに記載の選択法により標的分子と相互作用するタンパク質をコードする核酸を選択する工程、および、選択された核酸を翻訳してタンパク質を製造する工程を含む製造法。
【請求項11】
標的分子が抗原であり、タンパク質が一本鎖抗体である請求項10記載の製造法。
【請求項12】
抗原がアンジオテンシンIIである請求項11記載の製造法。
【請求項13】
抗原がLewis Xである請求項11の製造法。
【請求項14】
一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸を、チオール化合物を含む無細胞翻訳系で翻訳することを含む請求項11記載の製造法。
【請求項15】
無細胞翻訳系が、小麦胚芽抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、または、大腸菌S-30抽出液である請求項14記載の製造法。
【請求項16】
一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸で生細胞を形質転換させ、生細胞内で一本鎖抗体を発現させることを含む請求項11記載の製造法。
【請求項17】
一本鎖抗体を製造する工程が、選択された核酸によりコードされる一本鎖抗体と酵素又は緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)との融合タンパク質として製造することを含む請求項11記載の製造法。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれかに記載の選択法により選択された核酸を、C末端ラベル化剤の存在下で無細胞翻訳系で翻訳することによりタンパク質のC末端をラベル化する方法。
【請求項19】
アンジオテンシンIIに対する結合活性を有する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、95、97、99、101、103または105に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【請求項20】
請求項19記載の一本鎖抗体をコードする核酸。
【請求項21】
Lewis Xに対する一本鎖抗体であって、下記(A)又は(B)に示すアミノ酸配列を有する一本鎖抗体。
(A) 配列番号107、109、111、113、115または117に示すアミノ酸配列。
(B) (A)のアミノ酸配列と相同性が90%以上のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列。
【請求項22】
請求項21記載の一本鎖抗体をコードする核酸。
【請求項23】
請求項11〜17のいずれかに記載の製造法によって得られた一本鎖抗体を用いてタンパク質を免疫学的に検出する方法。
【請求項24】
ウエスタンブロット法、免疫染色法、蛍光抗体染色法、抗体チップ法、免疫沈降法である請求項23に記載の検出方法。
【請求項25】
請求項10〜17のいずれかに記載の製造法によって得られたタンパク質と、標的分子とを接触させ、タンパク質と標的分子との相互作用を検出することを含む、分子間相互作用を検出する方法。
【請求項26】
蛍光相関分光法、蛍光イメージングアナライズ法、蛍光共鳴エネルギー移動法、エバネッセント場分子イメージング法、蛍光偏光解消法、表面プラズモン共鳴法、又は、固相酵素免疫検定法である請求項25に記載の検出方法。
【請求項27】
ヒト又はその他の動物由来のDNAライブラリーから請求項2の方法によって選択された一本鎖抗体をヒトのIgGの可変領域と置換することによって構築されるヒト型およびヒト抗体。
【請求項28】
請求項27記載の抗体を有効成分とする治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【国際公開番号】WO2005/035751
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514660(P2005−514660)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015290
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/015290
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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