説明

高活性型リゾホスファチジン酸およびそれを用いたスクリーニング方法

[要約]
[課題]高活性型LPAおよびそれを用いたスクリーニング方法を提供する。
[解決手段]一般式(I)、(II)または(III)
[化1]


[式中、記号の意味は明細書中に記載。]で示される化合物を用いることを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング方法。本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグは、ヒトやその他の哺乳動物に対して、高活性型LPAとLPA受容体の結合をモジュレートするので、LPAが関与する疾患、例えば、泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患または消化器系疾患等の予防および/または治療剤として用いることができる。
[選択図] なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な物質である高活性型リゾホスファチジン酸(以下、高活性型LPAと略記する場合がある。)、およびそれを用いることを特徴とする、リゾホスファチジン酸(以下、LPAと略記する場合がある。)が関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質メディエーターの一つであるLPAは、スフィンゴシン−1−リン酸とともに、リゾリン脂質と総称されている。LPAは、EDG(Endothelial differentiation gene)−2、4、7と称されるGPCR(G蛋白質共役型の7回膜貫通領域を分子内に持つ受容体)のリガンドであり、これらの受容体に結合することで、種々の細胞機能や生体機能等の調節、および各種疾患(例えば、泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患および消化器系疾患等)の発症、進展等に関与することが知られている。
【0003】
LPAとその受容体の結合をモジュレートする化合物は、これらの疾患の予防および/または治療薬となる可能性があるため、それらを得るために種々のスクリーニング方法が開発されている(例えば、国際公開第99/24569号パンフレット(特許文献1)、国際公開第96/39436号パンフレット(特許文献2)参照)。
【0004】
通常、GPCRリガンドとして機能する脂質メディエーターは、例えば、PAF(血小板活性化因子)やロイコトリエンの様に、健常な生体の血中では検出されないか、または検出されても微量である。一方、LPAは、哺乳動物の血清中に1mLあたり数μgという極めて高濃度での存在が確認されている。このようにリガンドが過剰な状態では、LPA受容体は常時活性化状態にあることが予想される。しかしながら、化学的に合成したLPA受容体のアゴニストを生体に投与すると、かかる受容体は、一般的なリガンド−受容体の反応と同様に活性化作用を示す。従って、LPA受容体は、そのリガンドであるLPAが過剰に存在するのにも関わらず、通常、不活化状態にあり、例えば、種々の疾患時等のようにLPA受容体が活性化する場合、LPA受容体の活性化を担うリガンドは、LPA以外の別のリガンドであることが予測された。
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/24569号パンフレット
【特許文献2】国際公開第96/39436号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、生体内においてLPA受容体の活性化を担う、LPA以外の新規リガンドを見出し、かかるリガンドとLPA受容体を用いてそれらの結合をモジュレートする物質の高感度スクリーニング系を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、驚くべきことに、LPAは生体内で酸化等の修飾を受けることにより、より高活性で、新規なリガンドとしてLPA受容体に結合して機能するという事実を見出し、この知見に基づいてさらに検討を加えることにより本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]標識されていてもよい高活性型LPAを用いることを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング方法;
[2]高活性型LPAが、以下の一般式(I)、(II)または(III)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物である前記[1]記載の方法;
[3]Rの主鎖の炭素数が、6乃至26である前記[2]記載の方法;
[4]Rが、以下のQ群から選択される1種以上の部分構造を有する脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基であって、Q群が、
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、矢印は結合部位を表し、Gは、
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、矢印は結合部位を表す。)または水素原子を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]からなる群である前記[2]記載の方法;
[5]Rが、
【0015】
【化4】

【0016】
[式中、矢印は結合部位を表し、Yはカルボニル基またはメチレン基を表し、pおよびqはそれぞれ独立して0または1乃至7の整数を表し、EおよびEはそれぞれ独立して、C1−4アルキレン基、C2−4アルケニレン基または結合手を表し、Aは、結合手、
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、矢印は結合部位を表し、Gは前記[4]の記載と同じ意味を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表し、nは1乃至6の整数を表し、nが2以上の場合、複数のE、EおよびAはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。但し、R中、少なくとも1つのAは、
【0019】
【化6】

【0020】
(式中、矢印は結合部位を表し、Gは前記[4]の記載と同じ意味を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表すものとする。]である前記[4]記載の方法;
[6]Rが、
【0021】
【化7】

【0022】
[式中、矢印は結合部位を表し、Yはカルボニル基またはメチレン基を表し、p1およびq1はそれぞれ独立して1乃至7の整数を表し、Tは、
【0023】
【化8】

【0024】
(式中、矢印は結合部位を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表し、rは1乃至5の整数を表し、rが2以上の場合、複数のTはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。但し、R中、少なくとも1つのTは、
【0025】
【化9】

【0026】
(式中、矢印は結合部位を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表すものとする。]である前記[5]記載の方法;
[7]Rが、1個のヒドロペルオキシ基で置換され、2乃至3個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である前記[6]記載の方法;
[8]Rが、
【0027】
【化10】

【0028】
[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である前記[7]記載の方法;
[9]Rが、1乃至3個のエポキシ基で置換され、0または1乃至2個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である前記[6]記載の方法;
[10]Rが、
【0029】
【化11】

【0030】
[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である前記[9]記載の方法;
[11]LPAが関与する疾患が、泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患または消化器系疾患である前記[1]記載の方法;
[12]泌尿器系疾患が、排尿障害である前記[11]記載の方法;
[13]標識されていてもよい高活性型LPAを用いることを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング用キット;
[14]前記[1]記載の方法および/または前記[13]記載のキットを用いて得られた化合物、その塩、その溶媒和物またはそれらのプロドラッグを含有してなる泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患または消化器系疾患の予防および/または治療剤;
[15]排尿障害の予防および/または治療剤である前記[14]記載の剤;
[16]前記[1]記載の方法および/または前記[13]記載のキットを用いて得られた化合物、その塩、その溶媒和物またはそれらのプロドラッグと、α1拮抗薬、抗コリン薬、5α−リダクターゼ阻害薬および抗アンドロゲン薬から選択される1種以上とを組み合わせてなる排尿障害の予防および/または治療剤;
[17](1)標識されていてもよい高活性型LPAと、(2)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを用いることを特徴とする前記[1]記載の方法;
[18]LPA受容体が、EDG−2、EDG−4、EDG−7またはGPR23である前記[17]記載の方法;
[19](1)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞とを接触させた場合と、(2)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞および(c)試験化合物とを接触させた場合における該細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇活性を測定し、比較することを特徴とする、前記[17]記載の方法;
[20](1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、前記[17]記載の方法;
[21](1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該細胞に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、前記[17]記載の方法;
[22](1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞の膜画分とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞の膜画分および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該細胞の膜画分に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、前記[17]記載の方法;
[23]高活性型LPAに対する抗体;
[24]LPA受容体のシグナル伝達を不活性化する中和抗体である前記[23]記載の抗体;
[25]前記[23]記載の抗体を含有してなるLPAが関与する疾患の診断薬;
[26]前記[17]記載のスクリーニング方法を用いて化合物を選別する工程を含むことを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質の製造方法;
[27]化学的または酵素的に合成した、一般式(I)、(II)または(III)
【0031】
【化12】

【0032】
[式中、Rは、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物;
[28]Rが、1個のヒドロペルオキシ基で置換され、2乃至3個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である前記[27]記載の化合物;
[29]Rが、
【0033】
【化13】

【0034】
[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である前記[28]記載の化合物;
[30]Rが、1乃至3個のエポキシ基で置換され、0または1乃至2個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である前記[27]記載の化合物;
[31]Rが、
【0035】
【化14】

【0036】
[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である前記[30]記載の化合物;
[32]前記[1]記載の方法および/または前記[13]記載のキットを用いて得られた化合物、その塩、その溶媒和物またはそれらのプロドラッグ;
[33]一般式(I)、(II)または(III)
【0037】
【化15】

【0038】
[式中、Rは、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物を含有してなる細胞培養用組成物;
[34]細胞分化制御剤である前記[29]記載の組成物;および
[35]一般式(I)、(II)または(III)
【0039】
【化16】

【0040】
[式中、Rは、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物の化学的または酵素的製造方法;
等に関する。
【0041】
本発明において、LPAとは、前記の一般式(I)、(II)または(III)において、Rが「無置換の脂肪族炭化水素基」もしくは「無置換の脂肪族炭化水素カルボニル基」であるものを意味し、天然に存在するもの、天然に存在しないもののいずれであってもよい。ここで、「無置換の脂肪族炭化水素基」とは、炭素原子および水素原子のみによって構成される直鎖状の基であればよく、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が含まれる。また、該「無置換の脂肪族炭化水素基」は、脂環式炭化水素基様構造をその基中に含んでいてもよい。「脂環式炭化水素基様構造」とは、例えば、低級シクロアルカン、低級シクロアルケン等の脂環式炭化水素から、任意の二個の水素原子を除いてできる二価の基を意味する。「低級シクロアルカン」としては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素数3乃至8のシクロアルカン等が挙げられる。「低級シクロアルケン」としては、例えば、シクロプロペン、1−シクロペンテン、2−シクロペンテン、3−シクロペンテン、1−シクロヘキセン、2−シクロヘキセン、3−シクロヘキセン、3−シクロヘプテン等の炭素数3乃至8のシクロアルケン等が挙げられる。脂環式炭化水素基様構造を基中に含む脂肪族炭化水素基としては、例えば、7−(2−ヘキシルシクロプロピル)ヘプチル基等が挙げられる。「アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘニコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル基等の直鎖状のC1−30アルキル基等が挙げられる。「アルケニル基」としては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、イコセニル、ヘニコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル、ヘキサコセニル、ヘプタコセニル、オクタコセニル、ノナコセニル、トリアコンテニル基等の直鎖状のC2−30アルケニル基等が挙げられる。「アルキニル基」としては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル、テトラデシニル、ペンタデシニル、ヘキサデシニル、ヘプタデシニル、オクタデシニル、ノナデシニル、イコシニル、ヘニコシニル、ドコシニル、トリコシニル、テトラコシニル、ペンタコシニル、ヘキサコシニル、ヘプタコシニル、オクタコシニル、ノナコシニル、トリアコンチニル基等の直鎖状のC2−30アルキニル基等が挙げられる。
【0042】
本発明において、「無置換の脂肪族炭化水素カルボニル基」とは、前記の「無置換の脂肪族炭化水素基」にカルボニル基が結合した一価の基を意味する。
【0043】
本発明において、LPAは、Rを構成する炭素鎖の炭素数と、R中の二重結合の数とを用いて、例えば、Rを構成する炭素鎖の炭素数が18個で、R中の二重結合の数が1個であれば、18:1−LPAというように表記することもある。
【0044】
本発明において、好ましいLPAとしては、天然に存在するものが挙げられる。
【0045】
また、本発明において、好ましいLPAとしては、前記の表記法に倣って、例えば、16:1−LPA、18:1−LPA、18:2−LPA、18:3−LPA、20:1−LPA、20:2−LPA、20:3−LPA、20:4−LPA、20:5−LPA、22:1−LPA、22:2−LPA、22:3−LPA、22:4−LPA、22:5−LPA、22:6−LPA等が挙げられる。
【0046】
本発明において、より好ましいLPAとしては、哺乳動物、特にヒトの生体内に存在するLPAが好ましく、例えば、22:6−LPA、20:5−LPA、20:4−LPA、18:1−LPA、18:2−LPA、18:3−LPA、16:1−LPA等が挙げられる。より具体的には、例えば、Rとして、cis−Δ−オクタデセノイル、cis,cis−Δ,Δ12−オクタデカジエノイル、全cis−Δ,Δ12,Δ15−オクタデカトリエノイル、全cis−Δ,Δ,Δ11,Δ14−エイコサテトラエノイル、n−ドデカノイル、n−テトラデカノイル、n−ヘキサデカノイル、n−オクタデカノイル、trans−Δ−オクタデセノイル、cis−Δ−ヘキサデセノイル、cis−Δ−オクタデセノイル、(9Z)−9−オクタデセン−1−イル、(9Z,12Z)−9,12−オクタデカジエン−1−イル、(9Z,12Z,15Z)−9,12,15−オクタデカトリエン−1−イル、(5Z,8Z,11Z,14Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン−1−イル、n−ドデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシル、n−オクタデシル、(9E)−9−オクタデセン−1−イル、(9Z)−9−ヘキサデン−1−イル、(6Z)−3−オクタデセン−1−イル基等を有する一般式(I)、(II)または(III)の化合物等が挙げられる。
【0047】
本発明において、高活性型LPAとは、前記LPAとは異なる構造を有し、LPA受容体に結合する物質であり、かつLPAに比較して実質的に同等以上の活性を示すものであればよく、その構造は限定されない。ここで、「LPAに比較して実質的に同等以上の活性を示すもの」としては、例えば、(1)受容体結合活性、または(2)シグナル情報伝達作用等が、LPA受容体の公知のリガンドであるLPAと比較して、例えば、約1倍乃至約10倍、好ましくは約1倍乃至約100倍、より好ましくは約1倍乃至約1000倍である物質を意味する。本発明において、高活性型LPAは、全ての活性測定系でLPAを上回る活性を示す必要はなく、LPAの活性を検出できる試験系の少なくとも一つの系でLPAを上回る活性を示すものであればよい。受容体結合活性やシグナル情報伝達作用等の活性の測定は、公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、後述するスクリーニング方法や実施例に記載の方法等に従って測定することができる。
【0048】
本発明において、好ましい高活性型LPAとしては、例えば、前記の一般式(I)、(II)または(III)において、Rが酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基であるもの等が挙げられる。ここで、脂肪族炭化水素基としては、例えば、前記「無置換の脂肪族炭化水素基」として例示したもの等が挙げられる。脂肪族炭化水素カルボニル基とは、例えば、前記「無置換の脂肪族炭化水素カルボニル基」と同様の意味を表す。「酸化」とは、その対象となる分子(ここでは、脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を意味する。)に対し、酸素原子が少なくとも1原子導入されることを意味し、その他の原子の増減は特に限定されない。具体的には、脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基が、水酸基(−OH)、オキソ基(=O)、ヒドロペルオキシ基(−OOH)、エポキシ基(鎖にある2個の炭素原子と結合する酸素原子(−O−))、エピジオキシ基(鎖にある2個の炭素原子と結合する酸素原子(−O−O−))、ホルミル基(−CHO)等の酸素原子含有基を有するに至ることを意味するが、この「酸化」に伴って、脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基の炭素鎖が切断されても構わない。「ニトロ化」は、ニトロ基(−NO)が付加することを意味する。「ニトロソ化」は、ニトロソ基(−NO)が付加することを意味する。「ニトロヒドリル化」は、ニトロ基と水酸基が同一炭素原子に付加することを意味する。「アミノ化」は、「アミノ酸付加」を意味し、「アミノ酸付加」とは、任意のアミノ酸が付加することを意味する。付加するアミノ酸は特に限定されず、また、ペプチドであってもよい。好ましくは、生体内に通常に存在するアミノ酸(例えば、α−アミノ酸等)や、そのペプチド等が挙げられる。ペプチドを構成するアミノ酸の個数は特に限定されない。好ましくは、2個乃至10個、より好ましくは2個乃至5個、特に好ましくは、2個(すなわち、ジペプチド)乃至3個(すなわち、トリペプチド)等が挙げられる。「アミノ化」する好適なアミノ酸としては、例えば、システイン、セリン、グルタチオン、グリシルシステイン、5−グルタミルシステイン等が挙げられる。前記の「酸化」と同様、これら「ニトロ化」、「ニトロソ化」、「ニトロヒドリル化」、「アミノ化」に伴って、脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基の炭素鎖が切断されても構わない。
【0049】
すなわち、本発明において、好ましい高活性型LPAとしては、例えば、前記の一般式(I)、(II)または(III)において、Rが、
【0050】
【化17】

【0051】
[式中、*は不斉炭素を表し、その炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとし、他の全ての記号は前記と同じ意味を表す。]
から選択される1種以上の部分構造を有する脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基であるもの等が挙げられる。
【0052】
尚、本明細書中、前記のように不斉炭素を記号「*」を用いて表記することがあるが、該記号を付せずとも当業者によって不斉炭素が存在すると判断できる場合、該不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。
【0053】
本発明において、より好ましい高活性型LPAとしては、例えば、前記の一般式(I)、(II)または(III)において、R
【0054】
【化18】

【0055】
[式中、全ての記号は前記と同じ意味を表す。]
であるもの等が挙げられる。このうち、特に、
【0056】
【化19】

【0057】
[式中、全ての記号は前記と同じ意味を表す。]
で表わされるものが好ましく、とりわけ、Tとして
【0058】
【化20】

【0059】
[式中、全ての記号は前記と同じ意味を表す。]
で表わされる構造を少なくとも一つは有するものが好適である。
【0060】
また、本発明においては、前記の好ましいLPAが酸化されたものも好ましい。例えば、22:6−LPA、20:4−LPA、18:1−LPA、18:2−LPA、18:3−LPA、16:1−LPA等が酸化されたものが好ましく、例えば、20:4−LPA、18:1−LPA、18:2−LPA、18:3−LPA等が酸化されたものがより好ましい。
【0061】
これらのうち、特にRの炭素数が18であるものにおいては、Rが−C1831または−C1829で示される脂肪族炭化水素カルボニル基であるもの、特に、Rが1個のヒドロペルオキシ基で置換され、2乃至3個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基であるものが好ましく、具体的には、Rが、
【0062】
【化21】

【0063】
[式中、すべての記号は前記と同じ意味を表す。]である一般式(I)、(II)または(III)の化合物が好ましい。
【0064】
また同様に、Rが−C1831、−C1831、−C1829、−C1829、または−C1829で示される脂肪族炭化水素カルボニル基であるもの、特にRが1乃至3個のエポキシ基で置換され、0または1乃至2個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基であるものが好ましく、具体的には、Rが、
【0065】
【化22】

【0066】
[式中、すべての記号は前記と同じ意味を表す。]である一般式(I)、(II)または(III)の化合物も好ましい。
【0067】
本発明において、C1−4アルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン基およびそれらの異性体基等が挙げられる。
【0068】
本発明において、C2−4アルケニレン基としては、例えば、エテニレン、プロペニレン、ブテニレン基およびそれらの異性体基等が挙げられる。
【0069】
本発明において、好ましい高活性型LPAは、Rの炭素鎖の長さで規定することもできる。具体的には、高活性型LPAとして、Rの主鎖の炭素数が6個乃至26個であるもの等も好ましい。ここで、主鎖の炭素数としては、脂肪族炭化水素カルボニル基におけるカルボニル炭素も含まれる。すなわち、Rとして、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された、C6−26アルキル基、C6−26アルケニル基、C6−26アルキニル基、C6−25アルキルカルボニル基、C6−25アルケニルカルボニル基、C6−25アルキニルカルボニル基等が好ましい。特に酸化されたこれらの基が好ましい。Rにおいて、より好ましくは、例えば、主鎖の炭素数が10個乃至20個であるもの等であり、特に好ましくは、主鎖の炭素数が16個乃至20個であるもの等である。
【0070】
本発明において、前記の高活性型LPAは、以下の方法によって得ることができる。例えば、(1)化学的に合成する;(2)生体サンプルから精製する;(3)酵素的に合成する;等の何れかの方法によって得ることができる。
【0071】
化学的に合成する場合は、公知の方法、例えば、コンプリヘンシヴ・オーガニック・トランスフォーメーションズ:ア・ガイド・トゥー・ファンクショナル・グループ・プレパレーションズ,セカンド・エディション(リチャードC.ラロック,ジョンワイリーアンドサンズInc,1999)[Comprehensive Organic Transformations : A Guide to Functional Group Preparations, 2nd Edition (Richard C. Larock, John Wiley & Sons Inc, 1999)]に記載された方法等)を適宜改良し、組み合わせて用いることによって製造するか、または前記LPAを酸化させることによって得ることができる。LPAを酸化させる場合は、酸化剤を用いてもよいし、酸素と反応させてもよい。LPAを酸化剤で処理する場合は、LPAを含有する任意の溶媒(例えば、水や有機溶媒(例えば、クロロホルム、メタノール、アセトニトリル等)等)に、適当な酸化剤(例えば、メタクロロ過安息香酸等)を添加し、処理することによって得ることができる。LPAと酸素を反応させるには、酸素ガスと接触させてもよいし、空気酸化させてもよい。また、任意の溶媒中の溶存酸素と反応させてもよい。例えば、適当な容器(例えば、ナスフラスコ等のある程度の表面積を確保できるガラス容器等)にLPAを吸着させて適当な温度(例えば、室温等)で乾燥空気気流下で保存するか、またはLPAを含有する任意の溶媒(例えば、水や有機溶媒(例えば、クロロホルム、メタノール、アセトニトリル等)等)を、任意の期間(例えば、24時間乃至数日間)、任意の温度(好ましくは、室温等)でインキュベーションすることによって得ることができる。
【0072】
生体サンプルからの精製は、公知の方法、例えば、ゲル濾過等の方法によって得られたフラクションをシリカゲルカラムクロマトグラフィーもしくは逆相カラムクロマトグラフィー等の精製法に付すことによって行うことができる。また、これらの方法によって、目的とする高活性型LPAが混合物として得られた場合には、公知の精製法によって単離することができる。例えば、シリカゲル(例えば、Merck7734等)を担体とし、適当な溶媒、例えば、クロロホルム、メタノールおよび水からなる混合溶媒等を用いてシリカゲルクロマトグラフィーを行うことにより単離することができる。生体サンプルとしては、例えば、血液等を好適に用いることができる。
【0073】
酵素的に合成する場合は、例えば、ミエロペルオキシダーゼ、酸化酵素、12/15−リポキシゲナーゼ、P450代謝酵素等を用いることができる。
【0074】
これらの製造工程において、原料として用いるLPAは、例えば、後記の参考例に記載するように、リゾホスファチジルコリンを酵素、例えば、ホスホリパーゼD等を用いて酵素的に処理することによって、またはさらに前記の公知の精製方法に付すことによって得ることができる。
【0075】
本発明において、LPA受容体蛋白質としては、前記LPAとの結合能を有し、かつ、かかる受容体蛋白質を発現する細胞の細胞内にシグナルを伝達しうる受容体蛋白質であれば、特に制限なく用いることができる。このような受容体蛋白質としては、例えば、公知のLPA受容体蛋白質であるEDG−2、EDG−4、EDG−7およびGPR23等が好適に用いられるが、これらの蛋白質と実質的に同質の活性を有するか、またはこれらの蛋白質のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質等も用いることができる。尚、EDG−2、EDG−4、EDG−7はそれぞれ、LPA1、LPA2、LPA3と称されることもある。ここで、「実質的に同質の活性を有する蛋白質」としては、例えば、性質的に同質のリガンド結合活性、シグナル情報伝達作用等を有する蛋白質等が挙げられる。従って、実質的に同質の活性を有する蛋白質としては、リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用等の活性が、前記の公知の受容体蛋白質、すなわち、EDG−2、EDG−4、EDG−7およびGPR23等の活性と同等(例えば、約0.01倍乃至約100倍、好ましくは約0.5倍乃至約20倍、より好ましくは約0.5倍乃至約2倍)である蛋白質が好ましいが、これらの活性の程度や蛋白質の分子量等の量的要素は異なっていてもよい。リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用等の活性の測定は、公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、後述するスクリーニング方法に従って測定することができる。「実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質」としては、例えば、前記の公知の受容体蛋白質、すなわち、EDG−2、EDG−4、EDG−7およびGPR23等の蛋白質のアミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、なかでも好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する蛋白質等が挙げられる。
【0076】
本発明において、前記のLPA受容体蛋白質は、その由来に限定されない。例えば、ヒトや哺乳動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル等)のあらゆる細胞(例えば、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例えば、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球等)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれらの細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞等)や血球系の細胞、またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例えば、嗅球、扁頭核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、視床下核、大脳皮質、延髄、小脳、後頭葉、前頭葉、側頭葉、被殻、尾状核、脳染、黒質等)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例えば、大腸、小腸等)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、末梢血球、前立腺、睾丸、精巣、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋等に由来する蛋白質であってもよく、また合成蛋白質であってもよい。
【0077】
また、本発明におけるLPA受容体蛋白質は、前記のLPA受容体蛋白質の他、それらのアミノ酸配列に対し、幾つかのアミノ酸が付加、欠失および/または置換等の修飾が起こったアミノ酸配列を含有する受容体蛋白質等であってもよい。また、本発明におけるLPA受容体蛋白質は、所望によって、分子内の任意の官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基等)が、受容体としての機能を失わない程度に、任意の置換基によって置換されていてもよく、また、糖鎖が結合していてもよい。
【0078】
本発明において、前記受容体蛋白質の部分ペプチド(以下、部分ペプチドと略記する場合がある。)としては、前記の受容体蛋白質の部分ペプチド、またはその部分ペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドであれば何れのものであってもよいが、好適には、前記の受容体蛋白質分子のうち、細胞膜の外に露出している部位であって、実質的に同質のリガンド結合活性を有するもの等が用いられる。前記の公知の受容体蛋白質、すなわち、EDG−2、EDG−4、EDG−7およびGPR23等の部分ペプチドとしては、例えば、疎水性プロット解析において細胞外領域(親水性(Hydrophilic)部位)であると分析された部分を含むペプチド等が挙げられる。また、疎水性(Hydrophobic)部位を一部に含むペプチドも同様に用いることができる。個々のドメインを個別に含むペプチドも用いることができるが、複数のドメインを同時に含む部分のペプチドであってもよい。本発明において用いられる部分ペプチドのアミノ酸の数は、前記した受容体蛋白質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上であることが好ましい。ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、前記の受容体蛋白質の部分ペプチドのアミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、なかでも好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を意味する。また、「実質的に同質のリガンド結合活性」とは、性質的に同質のリガンド結合活性を意味し、前記の受容体蛋白質のリガンド結合活性と同様に測定することができる。
【0079】
また、本発明における部分ペプチドは、前記の部分ペプチドの他、それらのアミノ酸配列に対し、幾つかのアミノ酸が付加、欠失および/または置換等の修飾が起こったアミノ酸配列を含有する部分ペプチド等であってもよい。また、本発明における部分ペプチドは、所望によって、分子内の任意の官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、チオール基等)が、リガンド結合活性を失わない程度に、任意の置換基によって置換されていてもよく、また、糖鎖が結合していてもよい。
【0080】
本発明において、前記受容体蛋白質またはその部分ペプチドの塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩等が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩等が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)との塩等が用いられる。
【0081】
本発明において、前記のLPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩は、公知の方法によって得ることができる。本発明におけるLPA受容体蛋白質またはその塩は、前記したヒトや哺乳動物の細胞または組織から公知の受容体蛋白質の精製方法によって製造することができる。また、かかる受容体蛋白質をコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造することができる。さらに、公知の蛋白質合成法またはこれに準じて製造することもできる。LPA受容体蛋白質を得る方法は、例えば、国際公開第97/00952号パンフレット、国際公開第96/39436号パンフレット、特開平10−210993号公報、特開平11−18788号公報、国際公開第99/29887号パンフレット、国際公開第99/24569号パンフレット等に詳細に記述されている。ヒトや哺乳動物の組織または細胞から製造する場合、ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸等で抽出を行ない、得られた抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。本発明における部分ペプチドまたはその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいは本発明の蛋白質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法等を用いることができる。
【0082】
本発明において、高活性型LPAの標識に用いる標識物質としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質等を用いることができる。放射性同位元素としては、例えば、125I、131I、H、14C、32P等が用いられる。酵素としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等が用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等が用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等が用いられる。
【0083】
本発明の高活性型LPAは、安全で低毒性であるので、スクリーニングツールとして用いることができる。
【0084】
本発明のスクリーニング方法は、(1)標識されていてもよい高活性型LPAと、(2)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを用いることを特徴とする。これらの物質を用いて、特定の機能を有する物質、例えば、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質を見出す場合、それは全て本発明に包含される。本発明のスクリーニング方法は、例えば、(1)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを接触させた場合と、(2)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩、および(c)試験化合物とを接触させた場合との比較を行うことによって行われる。ここで、本発明のスクリーニング方法に用いるLPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩は、リガンド結合活性を損なっていなければどのような状態のものであってもよい。例えば、単離された状態であってもよいし、細胞に発現した状態のものであってもよい。また、かかる細胞から調製した膜画分の状態であってもよいし、さらには生体(例えば、哺乳動物等)であってもよい。本発明のスクリーニング方法において、LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩と、リガンドである高活性型LPAの結合を測定する方法は、かかるLPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩の状態に応じて適宜変更することができる。例えば、単離された状態や、膜画分の状態、または細胞に発現した状態であれば、結合アッセイを用いることができる。また、細胞に発現した状態であれば、細胞に起こる現象(例えば、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)やカルシウムイオン濃度の増減、特定の蛋白質もしくはそれをコードするmRNAの増減、あるいは細胞外への特定の蛋白質の分泌等)を指標にすることができる。哺乳動物(例えば、マウス、ラット、イヌ等)を用いるのであれば、かかる生体に起こる現象を指標にすることができる。また、所望によって、生体から摘出した特定の組織を用いて評価を行うこともできる。例えば、気管やその他の平滑筋もしくは腸管等を用いたマグヌス試験等であってもよい。
【0085】
本発明において、好ましいスクリーニング方法としては、例えば、以下の[I]乃至[IV]の方法等が挙げられる。[I](1)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞とを接触させた場合と、(2)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞、および(c)試験化合物とを接触させた場合における該細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇活性を測定し比較することを特徴とするスクリーニング方法。[II](1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩、および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩に対する結合量を測定し比較することを特徴とするスクリーニング方法。[III](1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞、および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該細胞に対する結合量を測定し比較することを特徴とするスクリーニング方法。[IV](1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞の膜画分とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞の膜画分、および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該細胞の膜画分に対する結合量を測定し比較することを特徴とするスクリーニング方法。結合量の測定、すなわち結合アッセイや細胞内カルシウムイオン濃度の上昇活性の測定は公知の方法または市販の測定用キットを用いて測定することができる。
【0086】
前記のスクリーニング方法において、LPA受容体蛋白質を含有する細胞を用い、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇活性の測定を指標とする場合、まず、LPA受容体蛋白質を含有する細胞をマルチウェルプレート等に培養し、所望によって新鮮な培地あるいは細胞に毒性を示さない適当なバッファーに交換した後に、試験化合物および/または本発明の高活性型LPA等を添加して一定時間インキュベートした後、細胞を抽出して、カルシウムイオン濃度を定量する方法等が好適に用いられる。
【0087】
前記のスクリーニング方法において、LPA受容体蛋白質を含有する細胞もしくはその膜画分を用いる場合、該細胞をグルタルアルデヒド、ホルマリン等で固定化して用いてもよい。固定化の方法は公知の方法に従って行なうことができる。LPA受容体蛋白質を含有する細胞としては、該LPA受容体蛋白質を発現した宿主細胞等が好適に用いられる。ここで、宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等が好ましい。また、LPA受容体蛋白質の発現量がスクリーニング系に適用可能な量であれば、正常細胞を用いることも可能である。細胞膜画分としては、細胞を破砕した後、公知の方法によって得られる細胞膜が多く含まれる画分のことをいう。細胞の破砕方法としては、Potter−Elvehjem型ホモジナイザーで細胞を押し潰す方法、ワーリングブレンダーやポリトロン(キネマティカ(Kinematica)社製)による破砕、超音波による破砕、フレンチプレス等で加圧しながら細胞を細いノズルから噴出させることによる破砕等が挙げられる。細胞膜の分画には、分画遠心分離法や密度勾配遠心分離法等の遠心力による分画法が好ましく用いられる。例えば、細胞破砕液を低速(例えば、約500rpm乃至約3000rpm等)で短時間(例えば、約1分乃至約10分等)遠心し、上清をさらに高速(例えば、約15000rpm乃至約30000rpm等)で通常約30分乃至約2時間遠心し、得られる沈澱を膜画分とする。該膜画分中には、発現したLPA受容体蛋白質と細胞由来のリン脂質や膜蛋白質等の膜成分が多く含まれる。該LPA受容体蛋白質を含有する細胞や膜画分中のLPA受容体蛋白質の量は、1細胞当たり10乃至10分子であることが好ましく、10乃至10分子であることが好適である。なお、発現量が多いほど膜画分当たりのリガンド(すなわち、LPAもしくは高活性型LPA)結合活性(比活性)が高くなり、高感度なスクリーニング系の構築が可能になるばかりでなく、同一ロットで大量の試料を測定することが可能となる。
【0088】
本発明のスクリーニング方法において得られた、LPA受容体への結合活性を示す化合物には、LPA受容体のアゴニストおよびアンタゴニストが含まれる。LPA受容体への結合活性を示す化合物群から、LPA受容体のアゴニストまたはアンタゴニストを選別するためには、例えば、(1)化合物単独でのシグナル情報伝達作用の有無を確認する;(2)化合物存在下、LPAもしくは高活性型LPAを添加した場合のシグナル情報伝達作用の有無を確認する;等の試験を行えばよい。シグナル情報伝達作用の有無は、例えば、前記のように、細胞に起こる現象や組織・生体に起こる現象等を指標にすることで確認することができる。
【0089】
本発明において、標識されていてもよい高活性型LPAを用いることを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング用キットは、(a)標識されていてもよい高活性型LPA、および(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞またはその膜画分を中心に構成されるものである。本発明のスクリーニング用キットの例としては、例えば、次のものが挙げられる。
1.スクリーニング用試薬
(a)測定用緩衝液および洗浄用緩衝液:Hanks’ Balanced Salt Solution(ギブコ(Gibco)社製)に、0.05%のウシ血清アルブミン(シグマ(Sigma)社製)等を加えたもの。孔径0.45μmのフィルターで濾過滅菌し、4℃で保存するか、あるいは用時調製してもよい。;(b)LPA受容体蛋白質標品:LPA受容体蛋白質を発現させたチャイニーズハムスターオーバリー(Chinese Hamster Ovary、CHO)細胞を、12穴プレートに5×10個/ウェルで継代し、37℃、5%CO、95%airで2日間培養したもの。;(c)標識された高活性型LPA:市販の〔H〕、〔125I〕、〔14C〕、〔35S〕等で標識した高活性型LPAを含有する溶液。4℃あるいは−20℃にて保存し、用時に測定用緩衝液にて1μMに希釈する。;(d)高活性型LPA標準液:高活性型LPAを0.1%ウシ血清アルブミン(シグマ(Sigma)社製)を含むPBSで1mMとなるように溶解し、−20℃で保存する。
2.測定法
(a)12穴組織培養用プレートにて培養したLPA受容体蛋白質発現チャイニーズハムスターオーバリー(Chinese Hamster Ovary、CHO)細胞を、測定用緩衝液1mLで2回洗浄した後、490μLの測定用緩衝液を各ウェルに加える。;(b)10−3乃至10−10Mの試験化合物溶液を5μL加えた後、標識された高活性型LPAを5μL加え、室温にて1時間反応させる。非特異的結合量を知るためには試験化合物の代わりに10−3Mの高活性型LPAを5μL加えておく。;(c)反応液を除去し、1mLの洗浄用緩衝液で3回洗浄する。細胞に結合した標識された高活性型LPAを0.2N NaOH−1%SDSで溶解し、4mLの液体シンチレーターA(和光純薬製)と混合する。(d)液体シンチレーションカウンター(ベックマン(Beckman)社製)を用いて放射活性を測定し、Percent Maximum Binding(PMB)を式{PMB=[(B−NSB)/(B0−NSB)]×100}で求める。ここで、PMBはPercent Maximum Bindingを表し、Bは検体を加えた時の値を表し、NSBはNon−specific Binding(非特異的結合量)を表し、B0は最大結合量を表す。
【0090】
本発明において、高活性型LPAに対する抗体は、高活性型LPAを認識し得る抗体であればよく、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の何れであってもよい。本発明の高活性型LPAに対する抗体は、(1)本発明の高活性型LPA、(2)高活性型LPAとキャリアー蛋白質との複合体、あるいは(3)アミノ基やカルボキシル基を高活性型LPA側鎖に有する誘導体とキャリアー蛋白質との複合体等を抗原として用いて、公知の抗体もしくは抗血清の製造法に従って製造することができる。具体的な方法について、以下に一例を示す。
【0091】
〔モノクローナル抗体の作製〕
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
本発明の高活性型LPAは、単独で、または担体や希釈剤とともに哺乳動物に対して投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2乃至6週毎に1回ずつ、計2乃至10回程度行なわれる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等が挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。また、投与部位は特に限定されず、抗体産生が可能な部位であればよい。モノクローナル抗体産生細胞の作製は、抗原を免疫された温血動物、例えば、マウスから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2乃至5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、前記の標識された高活性型LPAと抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識物質の活性を測定することにより行なうことができる。骨髄腫細胞との融合操作は公知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256巻、495頁(1975年)〕に従って行うことができる。融合を促進するために、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルス等、好ましくは、PEG等が用いられる。ここで、骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0等が挙げられるが、P3U1が好ましい。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1乃至20:1程度であり、PEG(好ましくは、PEG1000乃至PEG6000)が10乃至80%程度の濃度で添加され、約20乃至40℃、好ましくは約30乃至37℃で約1乃至10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0092】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば、抗原、すなわち高活性型LPAを直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例えば、マイクロプレート等)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素等で標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素等で標識したレセプター蛋白質を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法等が挙げられる。モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地等で行なうことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いてもよい。例えば、1乃至20%、好ましくは10乃至20%の牛胎児血清を含むRPMI−1640培地、1乃至10%の牛胎児血清を含むGIT培地(和光純薬製)またはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬製)等を用いることができる。培養温度は、通常20乃至40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日乃至3週間、好ましくは1週間乃至2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行なうことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、前記の抗血清中の抗体価の測定と同様に行うことができる。
【0093】
(b)モノクローナル抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。このような精製法としては、例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例えば、DEAE等)による吸脱着法、超遠心法、ゲル濾過法、抗原結合固相、またはプロテインAあるいはプロテインG等の活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法等が挙げられる。
【0094】
〔ポリクローナル抗体の作製〕
ポリクローナル抗体は、公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原である高活性型LPAとキャリアー蛋白質との複合体を作成し、前記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行ない、かかる免疫動物から本発明の高活性型LPAに対する抗体を含有するものを採取して、抗体の分離精製を行なうことによって製造することができる。哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアー蛋白質との複合体において、キャリアー蛋白質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良く作成できるものであれば、どの様なものをどの様な比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等を、重量比でハプテン1に対し、約0.1乃至約20、好ましくは約1乃至約5の割合でカップルさせる方法が用いられる。また、ハプテンとキャリアーのカップリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が好適に用いられる。縮合生成物は、単独で、または担体や希釈剤とともに哺乳動物に対して投与される。また、投与部位は特に限定されず、抗体産生が可能な部位であればよい。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2乃至6週毎に1回ずつ、計2乃至10回程度行なわれる。ポリクローナル抗体は、前記の免疫された哺乳動物の血液、腹水等、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、前記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定することができる。ポリクローナル抗体の分離精製は、前記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0095】
本発明において、高活性型LPAに対する抗体は、高活性型LPAを特異的に認識することができるので、被験液中の高活性型LPAの定量、特にサンドイッチ免疫測定法による定量等に使用することができる。本発明の高活性型LPAに対する抗体は、例えば、疾患の診断等に用いることできる。例えば、ある疾患の患者から採取した生体サンプル(好ましくは、病変部位組織や血液等)における高活性型LPAの量を測定し、正常組織や健常人サンプルにおける高活性型LPAの量と比較することで、かかる疾患がLPAが関与する疾患であるか否かを判定することができる。疾患が、LPAが関与する疾患であった場合は、例えば、以下に示す中和抗体や、本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られたLPAが関与する疾患の治療物質を投与することで、効果的に疾患を治療することができる。また、健常人から採取した生体サンプルであっても、高活性型LPAの量が、通常健常人で得られる値に比べて多いものであれば、本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られたLPAが関与する疾患の予防物質を投与することで、LPAが関与する疾患の発症を効果的に予防することができる。
【0096】
本発明において、高活性型LPAに対する中和抗体とは、高活性型LPAがLPA受容体蛋白質に対して結合することを阻害し、かつLPA受容体蛋白質からのシグナル伝達機能を不活性化する抗体を意味する。従って、本発明の高活性型LPAに対する抗体が中和抗体である場合は、前記の目的以外に、高活性型LPAおよび/またはLPA受容体の関与するシグナル伝達、例えば、LPA受容体蛋白質を介する細胞刺激活性(例えば、アラキドン酸遊離、アセチルコリン遊離、細胞内カルシウムイオン濃度上昇、細胞内サイクリックAMP(cAMP)生成、細胞内サイクリックGMP(cGMP)生成、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位変動、細胞内蛋白質のリン酸化、c−fosの活性化、pHの低下等を促進する活性または抑制する活性等)を不活性化することもできる。
【0097】
本発明において、高活性型LPAは、前記のスクリーニング方法や前記の抗体作成等に用いることができる他、一般的に用いられる細胞培養用基礎培地に混合して細胞培養用組成物として用いることができる。高活性型LPAを含有する細胞培養用組成物は、細胞分化制御剤としての作用を有しているため、例えば、未分化な細胞を特定の機能を有する細胞に分化させたり(分化誘導作用)、あるいは未分化な細胞が自律的もしくは他律的に分化する現象を抑制したり(分化抑制作用)することができる。ここで、未分化な細胞とは、前記のLPA受容体蛋白質を発現する細胞であって、特定の刺激によって増殖可能であり、かつ特定の刺激によって特定の機能を有する細胞に分化可能な細胞を意味し、その由来によって限定されるものではない。細胞の由来は、動物、特に哺乳動物であるものが好ましく、とりわけ、ヒトであることが好ましい。例えば、胚性幹細胞、外胚葉幹細胞、中胚葉幹細胞、内胚葉幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、肝幹細胞、筋幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、網膜幹細胞、毛包幹細胞、骨前駆細胞、脂肪前駆細胞、軟骨細胞、毛母細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞等の細胞や、これらの細胞の分化系譜内の細胞等といった細胞が好ましく用いられる。
【0098】
高活性型LPAとの混合に用いられる細胞培養用基礎培地は特に限定されず、例えば、ダルベッコの改変イーグル培地、ウィリアムズE培地、ハムのF−10培地、F−12培地、RPMI−1640培地、MCDB153培地、199培地等の従来より細胞培養用基礎培地として知られている培地を使用することができる。また、細胞培養用基礎培地には、所望によって抗生物質や抗黴物質を添加することもできる。またさらに、細胞培養用基礎培地には、さらに所望によって、血清(例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ウマ血清(Horse Serum)等)、インシュリン、EGF、FGF2、bFGF、インターロイキン(IL)、幹細胞増殖因子(SCF)、エリスロポイエチン(EPO)、インターフェロン(IFN)、トロンボポイエチン(TPO)、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子(CSF)、デキサメタゾン、β−リン酸グリセロール、アスコルビン酸、TGF−β、1−メチル−3−イソブチルキサンチン(1−methyl−3−isobutylxanthine)、インドメタシン等の、それ自体分化誘導活性を有するような添加物も適宜加えることができる。
【0099】
高活性型LPAを含有する細胞培養用組成物を用いて細胞培養を行なう場合は、高活性型LPAの濃度、作用させる時間、細胞密度、その他の培養条件(例えば、カルチャーディッシュのコーティングの有無等)等は、培養する細胞の種類に応じて適宜変更すればよい。高活性型LPAを含有する細胞培養用組成物によって培養した細胞が分化したか否かの判別の方法は公知の方法で行なうことができる。例えば、培養した細胞がそれぞれの分化段階に応じて特徴的に発現する蛋白質やmRNA等を指標に用いて検出することが好ましい。
【0100】
高活性型LPAを含有する細胞培養用組成物を用いて培養した細胞は、種々の用途に用いることができる。例えば、生体から採取した未分化細胞を、高活性型LPAを含有する細胞培養用組成物を用いて培養し分化させることで、細胞移植用の細胞を調製することができる。
【0101】
[異性体]
本発明においては、特に指示しない限り異性体はこれを全て包含する。例えば、アルキル基、アルコキシ基およびアルキレン基等には直鎖のものおよび分枝鎖のものが含まれる。さらに、二重結合、環、縮合環における異性体(E、Z、シス、トランス体)、不斉炭素の存在等による異性体(R、S体、α、β体、エナンチオマー、ジアステレオマー)、旋光性を有する光学活性体(D、L、d、l体)、クロマトグラフ分離による極性体(高極性体、低極性体)、平衡化合物、これらの任意の割合の混合物、ラセミ混合物は、全て本発明に含まれる。また、本発明においては、互変異性による異性体をも全て包含する。
【0102】
本発明においては、前記したように、不斉中心となる炭素原子を、*を付すことによって表示する場合がある。*を付した炭素原子は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよい。また、記号「*」を付せずとも当業者によって不斉炭素が存在すると判断できる場合、該不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。
【0103】
本発明においては、結合部位を矢印で表記する場合がある。2以上の矢印を有する構造は、それらの矢印が結合可能な位置に結合していればよく、その方向は限定されない。
【0104】
本発明においては、特に断わらない限り、当業者にとって明らかなように記号
【0105】
【化23】

【0106】
は紙面の向こう側(すなわちα配置)に結合していることを表し、
【0107】
【化24】

【0108】
は紙面の手前側(すなわちβ配置)に結合していることを表し、
【0109】
【化25】

【0110】
はα配置、β配置またはそれらの任意の比率の混合物であることを表し、
【0111】
【化26】

【0112】
は、α配置とβ配置の任意の比率の混合物であることを表す。
【0113】
[塩および溶媒和物]
本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物(以下、本発明によって導かれる化合物と略記する場合がある。)は、塩を形成していてもよく、またN−オキシド体や四級アンモニウム塩であってもよい。さらにこれらの化合物は、溶媒和物であってもよい。本発明によって導かれる化合物の塩としては薬理学的に許容されるもの全てが含まれる。薬理学的に許容される塩は毒性のない、水溶性のものが好ましい。適当な塩として、例えば、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩(例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等)、有機アミン(例えば、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)の塩、酸付加物塩[例えば、無機酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)、有機酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩等)等]等が挙げられる。本発明によって導かれる化合物のN−オキシド体とは、本発明によって導かれる化合物の窒素原子が、酸化されたものを表す。また、本発明によって導かれる化合物のN−オキシド体は、さらに前記の塩を形成していてもよい。本発明によって導かれる化合物の四級アンモニウム塩とは、本発明によって導かれる化合物の窒素原子が、R基(R基は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい環状基を表す。)によって四級化されたものを表す。本発明によって導かれる化合物の四級アンモニウム塩は、さらに前記の塩、前記のN−オキシド体を形成していてもよい。本発明によって導かれる化合物、その塩、そのN−オキシド体、その四級アンモニウム塩の適当な溶媒和物としては、例えば、水、アルコール系溶媒(エタノール等)等の溶媒和物等が挙げられる。溶媒和物は非毒性かつ水溶性であることが好ましい。本発明によって導かれる化合物は、公知の方法で前記の塩、前記のN−オキシド体、前記の四級アンモニウム塩、前記の溶媒和物に変換することができる。
【0114】
本発明の高活性型LPAは、塩を形成していてもよく、また溶媒和物であってもよい。これらの塩や溶媒和物としては、前記の本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物の塩や溶媒和物と同様のものが好ましく用いられる。
【0115】
[プロドラッグ]
本発明において、本発明によって導かれる化合物のプロドラッグは、生体内において酵素や胃酸等による反応により本発明によって導かれる化合物に変換する化合物をいう。本発明によって導かれる化合物のプロドラッグとしては、例えば、本発明によって導かれる化合物がアミノ基を有する場合、該アミノ基がアシル化、アルキル化、リン酸化された化合物(例えば、本発明によって導かれる化合物のアミノ基がエイコサノイル化、アラニル化、ペンチルアミノカルボニル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メトキシカルボニル化、テトラヒドロフラニル化、ピロリジルメチル化、ピバロイルオキシメチル化、アセトキシメチル化、tert−ブチル化された化合物等);本発明によって導かれる化合物が水酸基を有する場合、該水酸基がアシル化、アルキル化、リン酸化、ホウ酸化された化合物(例えば、本発明によって導かれる化合物の水酸基がアセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、サクシニル化、フマリル化、アラニル化、ジメチルアミノメチルカルボニル化された化合物等);本発明によって導かれる化合物がカルボキシ基を有する場合、該カルボキシ基がエステル化、アミド化された化合物(例えば、本発明によって導かれる化合物のカルボキシ基がエチルエステル化、フェニルエステル化、カルボキシメチルエステル化、ジメチルアミノメチルエステル化、ピバロイルオキシメチルエステル化、エトキシカルボニルオキシエチルエステル化、フタリジルエステル化、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル化、シクロヘキシルオキシカルボニルエチルエステル化、メチルアミド化された化合物等);等が挙げられる。これらの化合物は自体公知の方法によって製造することができる。また、本発明によって導かれる化合物のプロドラッグは水和物および非水和物のいずれであってもよい。また、本発明によって導かれる化合物のプロドラッグは、廣川書店1990年刊「医薬品の開発」第7巻「分子設計」163乃至198頁に記載されているような、生理的条件で本発明によって導かれる化合物に変化するものであってもよい。さらに、本発明によって導かれる化合物は同位元素(例えばH、14C、35S、125I等)等で標識されていてもよい。
【0116】
[医薬品への適用]
本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグは、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト動物、例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等)に対して、高活性型LPAとLPA受容体の結合をモジュレートするので、LPAが関与する疾患、例えば、泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患または消化器系疾患等の予防および/または治療剤として用いることができる。
【0117】
本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグは、特に泌尿器系疾患の予防および/または治療に有用である。LPA受容体アゴニストは尿道を収縮させるので尿失禁(例えば、尿道機能の衰えからくる腹圧性尿失禁、痴呆性尿失禁、反射性尿失禁、溢流性尿失禁、切迫性尿失禁、全尿失禁、機能性尿失禁、溢流性尿失禁等)の予防および/または治療に有用であり、LPA受容体アンタゴニストは尿道を弛緩させるので尿道および前立腺の収縮を抑制し、排尿困難(例えば、排尿開始遅延、排尿時間延長、尿線細小、間欠排尿、二段排尿等)、尿閉、頻尿、夜間頻尿等の蓄尿障害に、さらにはコレラなどの感染症の症状からくる排尿痛等の予防および/または治療に有用であり、また、尿道や前立腺を弛緩させるので前立腺肥大症の予防および/または治療に有用である。
【0118】
「LPAが関与する疾患」とは、前記に列挙した疾患に限定されず、該疾患の形成、増悪および/または継続にLPAが関与することが知られている疾患、およびLPAの関与が今後見出される疾患を全て包含する。
【0119】
また、本発明の高活性型LPAに対する抗体、特に中和抗体は、前記の診断剤としての用途のほかに、高活性型LPAおよび/またはLPA受容体の関与するシグナル伝達、例えば、LPA受容体蛋白質を介する細胞刺激活性(例えば、アラキドン酸遊離、アセチルコリン遊離、細胞内カルシウムイオン濃度上昇、細胞内サイクリックAMP(cAMP)生成、細胞内サイクリックGMP(cGMP)生成、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位変動、細胞内蛋白質のリン酸化、c−fosの活性化、pHの低下等を促進する活性または抑制する活性等)を不活性化することもできるので、ヒト化抗体とすることで、本発明のスクリーニング方法もしくはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと同様に、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト動物、例えば、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス等)に対して、LPAが関与する前記の疾患の予防および/または治療剤として用いることができる。本発明の高活性型LPAに対する抗体を医薬として用いるには、一般的な抗体医薬の処方に準じて行えばよい。
【0120】
本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを前記の目的で用いるには、通常、医薬組成物として、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。
【0121】
投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、成人一人あたり、1回につき、1mgから1000mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、1mgから100mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。
【0122】
もちろん前記したように、投与量は、種々の条件によって変動するので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0123】
本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを投与する際には、医薬製剤の製造法で一般的に用いられている自体公知の手段に従って、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグをそのまま、あるいは薬理学的に許容される担体と混合して、例えば、内服用固形剤(例えば、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤等)、内服用液剤、外用液剤、注射剤、坐剤、徐放剤等の医薬製剤とすることで、経口的または非経口的(例えば、局所、直腸、静脈投与等)に安全に投与することができる。かかる製剤中の本発明によって導かれる化合物の含有量は、製剤全体の約0.01重量%乃至約100重量%、好ましくは、約0.1重量%乃至約50重量%、さらに好ましくは、約0.5重量%乃至約20重量%である。
【0124】
これらの医薬製剤の製造に用いられる本発明によって導かれる化合物は、実質的に純粋で単一な物質であるものに限定されず、不純物(例えば、製造工程に由来する副生成物、溶媒、原料等、または分解物等)を、医薬品原薬として許容される範囲であれば含有していてもよい。
【0125】
これらの医薬製剤の製造に用いられる薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質等が挙げられ、例えば、固形剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤および崩壊剤、あるいは液剤における溶剤、溶解補助剤、乳化または懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤および無痛化剤等が挙げられる。さらに必要に応じ、通常の保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0126】
経口投与のための内服用固形剤としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が挙げられる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。かかる内服用固形剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質はそのままか、または賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン、コーンスターチ、軽質無水ケイ酸等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、崩壊剤(例えば、繊維素グリコール酸カルシウム、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L−ヒドロキシプロピルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(例えば、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルを用いてもよい。
【0127】
経口投与のための内服用液剤としては、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等が挙げられる。かかる液剤においては、ひとつまたはそれ以上の活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(例えば、精製水、エタノールまたはそれらの混液等)を用いて溶解、懸濁または乳化される。該液剤はさらに、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
【0128】
非経口投与のための注射剤は、全ての注射剤を含み、点滴剤をも包含する。例えば、筋肉への注射剤、皮下への注射剤、皮内への注射剤、動脈内への注射剤、静脈内への注射剤、腹腔内への注射剤、脊髄腔への注射剤、静脈内への点滴剤等が挙げられる。また、非経口投与のための注射剤は、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、ひとつまたはそれ以上の活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、マクロゴール、植物油(例えば、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせ等が用いられる。該注射剤はさらに、安定化剤(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、L−アラニン、アスコルビン酸、アルブミン、イノシトール、グルコン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等)、乳化または懸濁化剤(例えば、界面活性剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等)、親水性高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等)、無痛化剤(例えば、ベンジルアルコール等)、等張化剤(例えば、ブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等)、緩衝剤(例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等)、保存剤(例えば、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等)、抗酸化剤(例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロール等)等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造、調製される。また、無菌の固形剤、例えば、凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌化または無菌の注射用蒸留水または他の溶剤に溶解して使用することもできる。凍結乾燥は、自体公知の方法によって行うことができる。一般的には、−25℃以下の温度で凍結後、乾燥庫内真空度を約13.3Pa以下に保ちながら、棚温を25℃乃至40℃に到達するまで昇温させつつ乾燥する方法が好ましい。
【0129】
非経口投与のためのその他の製剤としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外用液剤、軟膏剤、塗布剤、吸入剤、スプレー剤、坐剤および膣内投与のためのペッサリー等が挙げられる。スプレー剤は、一般的に用いられる希釈剤以外に亜硫酸水素ナトリウムのような安定化剤と等張性を与えるような緩衝剤、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムあるいはクエン酸のような等張剤を含有していてもよい。スプレー剤の製造方法は、例えば米国特許第2,868,691号および同第3,095,355号に詳しく記載されている。
【0130】
本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグは、(1)該化合物の予防および/または治療効果の補完および/または増強、(2)該化合物の動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)該化合物の副作用の低減等の目的のために、他の薬物と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。また、併用する他の薬物(以下、併用薬物と略記する場合がある。)の、(1)予防および/または治療効果の補完および/または増強、(2)動態・吸収改善、投与量の低減、および/または(3)副作用の低減のために本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
【0131】
本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤として投与する形態をとってもよい。この別々の製剤として投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを先に投与し、併用薬物を後に投与してもよいし、併用薬物を先に投与し、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを後に投与してもかまわず、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物の併用剤により、予防および/または治療効果を奏する疾患は特に限定されず、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグの予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であるか、または併用薬物の予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であればよい。本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物の併用剤における本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物の重量比は特に限定されない。また、併用薬物は、低分子化合物に限定されず、高分子のタンパク、ポリペプチド、ポリヌクレオチド(DNA、RNA、遺伝子)、アンチセンス、デコイ、抗体、またはワクチン等であってもよい。併用薬物の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物の配合比は、投与対象の年齢および体重、投与方法、投与時間、対象疾患、症状、組み合わせなどにより適宜選択することができる。例えば、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグ1重量部に対し、併用薬物を0.01重量部乃至100重量部用いればよい。併用薬物は、以下に示す同種群および異種群から任意に1種以上を任意の割合で、適宜組み合わせて投与してもよい。
【0132】
本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグの予防および/または治療効果を補完および/または増強する併用薬物には、前記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグには、前記したようにLPA受容体アゴニストやLPA受容体アンタゴニストが含まれるが、これらと併用し得る併用薬物としては、例えば以下に示すもの等が挙げられる。
【0133】
LPA受容体アゴニストの泌尿器系疾患に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、他の泌尿器疾患治療薬、例えば、α1アゴニスト、β2アゴニスト、抗コリン薬等が挙げられる。α1アゴニストとしては、例えば、塩酸ミドドリン等が挙げられる。β2アゴニストとしては、例えば、塩酸クレンブテロール等が挙げられる。抗コリン薬としては、例えば、塩酸オキシブチニン、塩化ベタネコール、塩酸プロピベリン、臭化プロパンテリン、臭化メチルベナクチジウム、臭化ブチルスコポラミン、酒石酸トルテロジン、塩化トロスピウム、Z−338、UK−112166−04、KRP−197、ダリフェナシン、YM−905等が挙げられる。
【0134】
LPA受容体アンタゴニストの泌尿器系疾患に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、他の泌尿器疾患治療薬、例えば、α1アンタゴニスト、抗コリン薬、5α−リダクターゼ阻害薬、および/または抗アンドロゲン薬等が挙げられる。α1アンタゴニストとしては、例えば、塩酸テラゾシン、塩酸ブナゾシン、ウラピジル、塩酸タムスロシン、メシル酸ドキサゾシン、塩酸プラゾシン、インドラミン、ナフトピジル、塩酸アルフゾシン、AIO−8507L、シロドシン等が挙げられる。抗コリン薬としては、例えば、塩酸オキシブチニン、塩化ベタネコール、塩酸プロピベリン、臭化プロパンテリン、臭化メチルベナクチジウム、臭化ブチルスコポラミン、酒石酸トルテロジン、塩化トロスピウム、Z−338、UK−112166−04、KRP−197、ダリフェナシン、YM−905等が挙げられる。ただし、抗コリン薬は前立腺肥大を伴わない場合にのみ用いられる。主として前立腺肥大を伴わない場合の頻尿、尿失禁の治療に用いられる。5α−リダクターゼ阻害薬としては、例えば、フィナステリド、GI−998745等が挙げられる。抗アンドロゲン薬としては、例えば、オキセンドロン、酢酸オサテロン、ビカルタミド等が挙げられる。
【0135】
本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを組み合わせることにより、(1)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグまたは併用薬物を単独で投与する場合に比べて、その投与量を軽減することができる、(2)患者の症状(軽症、重症など)に応じて、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物を選択することができる、(3)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと作用機序が異なる併用薬物を選択することにより、長期間安全に使用できるので治療期間を長く設定することもできる、(4)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと作用機序が異なる併用薬物を選択することにより、治療効果の持続を図ることができる、(5)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを併用することにより、相乗効果が得られる、等の優れた効果を得ることができる。
【0136】
以下、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物を併用して使用することを「本発明の併用剤」と称する。本発明の併用剤の使用に際しては、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物の投与時期は限定されず、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグまたはその医薬組成物と併用薬物またはその医薬組成物とを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。併用薬物の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与ルート、疾患、組み合わせ等により適宜選択することができる。本発明の併用剤の投与形態は、特に限定されず、生体内で、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグ;併用薬物の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。
【0137】
本発明の併用剤を投与する際には、医薬製剤の製造法で一般的に用いられている自体公知の手段に従って、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグおよび/または併用薬物をそのまま、あるいは薬理学的に許容される担体と混合して、例えば、内服用固形剤(例えば、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤等)、内服用液剤、外用液剤、注射剤、坐剤、徐放剤等の医薬製剤とすることで、経口的または非経口的(例えば、局所、直腸、静脈投与等)に安全に投与することができる。
【0138】
これらの医薬製剤の製造に用いられる薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質等が挙げられ、例えば、固形剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤および崩壊剤、あるいは液剤における溶剤、溶解補助剤、乳化または懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤および無痛化剤等が挙げられる。さらに必要に応じ、通常の保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0139】
賦形剤としては、例えば、ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン、コーンスターチ、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、繊維素グリコール酸カルシウム、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L−ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。溶剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、マクロゴール、植物油(例えば、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせ等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、L−アラニン、アスコルビン酸、アルブミン、イノシトール、グルコン酸ナトリウム、チオグリコール酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート80(登録商標)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。乳化または懸濁化剤としては、例えば、界面活性剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等)、親水性高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等)が挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。保存剤としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロール等が挙げられる。
【0140】
本発明の併用剤における本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグの配合比は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約0.01重量%乃至約100重量%、好ましくは、約0.1重量%乃至約50重量%、さらに好ましくは、約0.5重量%乃至約20重量%である。本発明の併用剤における併用薬物の配合比は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約0.01重量%乃至約100重量%、好ましくは、約0.1重量%乃至約50重量%、さらに好ましくは、約0.5重量%乃至約20重量%である。本発明の併用剤における担体等の添加剤の含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して約1重量%乃至約99.99重量%、好ましくは、約10重量%乃至約90重量%程度である。また、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグと併用薬物をそれぞれ別々に製剤化する場合も同様の含有量で構わない。
【0141】
これらの製剤は常法(例えば日本薬局方記載の方法など)に従って調製される。例えば、錠剤は、医薬品をそのまま、または賦形剤、結合剤、崩壊剤もしくはその他の適当な添加剤を加えて均等に混和したものを適当な方法で顆粒とし、滑沢剤等を加えて圧縮成型するか、医薬品をそのまま、または賦形剤、結合剤、崩壊剤もしくはその他の適当な添加剤を加えて均等に混和したものを直接圧縮成型して製造するか、または予め製造した顆粒にそのまま、もしくは適当な添加剤を加えて均等に混合した後、圧縮成型することで製造することができる。かかる錠剤は、必要に応じて着色剤、矯味剤等を加えることもできる。また、適当なコーティング剤で剤皮を施すこともできる。注射剤は、医薬品の一定量を、水性溶剤の場合は、注射用水、生理食塩水、リンゲル液等、非水性溶剤の場合は、通常植物油等に溶解、懸濁もしくは乳化して一定量とするか、または医薬品の一定量を、注射用容器に密封して製造することができる。経口投与用の製剤に用いられる担体としては、例えば、デンプン、マンニット、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の製剤分野において常用されている物質が用いられる。注射用の製剤に用いられる担体としては、例えば、蒸留水、生理食塩水、グルコース溶液、輸液剤等が用いられる。その他、製剤一般に用いられる添加剤を適宜添加することもできる。
【0142】
本発明の併用剤の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常、本発明によって導かれる化合物および併用薬物として、それぞれ成人一人あたり、1回につき、0.1mgから1000mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または成人一人あたり、1回につき、0.1mgから100mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与(好ましくは、静脈内投与)されるか、または1日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。
【0143】
もちろん前記したように、投与量は、種々の条件によって変動するので、前記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。併用薬物は、副作用が問題とならない範囲で、かつ本発明の目的が達成できる限り、どのような量を設定することも可能である。併用薬物としての一日投与量は、症状の程度、投与対象の年齢、性別、体重、感受性差、投与の時期、間隔、医薬製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類などによって異なり、特に限定されない。
【0144】
本発明の併用剤を投与するに際しては、同時期に投与してもよいが、併用薬物を先に投与した後、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを投与してもよいし、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを先に投与し、その後で併用薬物を投与してもよい。時間差をおいて投与する場合、時間差は投与する有効成分、剤形、投与方法により異なるが、例えば、併用薬物を先に投与する場合、併用薬物を投与した後1分乃至3日以内、好ましくは10分乃至1日以内、より好ましくは15分乃至1時間以内に本発明によって導かれる化合物を投与する方法等が挙げられる。本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを先に投与する場合、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを投与した後、1分乃至1日以内、好ましくは10分乃至6時間以内、より好ましくは15分乃至1時間以内に併用薬物を投与する方法等が挙げられる。
[薬理活性]
本発明のスクリーニング方法として、例えば、以下に示す方法が挙げられる。以下に示すスクリーニング方法によりLPA受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストを見出すことができる。以下に例示する方法はLPA受容体としてEDG−2を用いたものであるが、他のLPA受容体も同様に用いてもよい。
[EDG−2アゴニスト活性およびアンタゴニスト活性の評価]
EDG−2に対する作用は、例えば、以下に示す実験により評価できる。
【0145】
ヒトEDG−2遺伝子を過剰発現させたチャイニーズハムスターオーバリー(Chinese Hamster Ovary、CHO)細胞を用いて該受容体のアゴニストおよびアンタゴニストの活性の評価が可能である。
【0146】
EDG−2発現細胞は、10%FBS(ウシ胎児血清)、ペニシリン/ストレプトマイシン、ブラスチサイジン(5μg/mL)含有Ham’sF12培地(ギブコ(Gibco)社製)を用いて培養する。まず、Fura2−AM(ドージンドー(Dojindo)社製)を細胞内へ取り込ませるため、細胞をFura2−AM溶液[10%FBS、HEPES緩衝液(20mM、pH7.4)、プロベネシド(2.5mM、Sigma社製、No.P−8761)含有Ham’sF12培地](5μM)で、37℃で60分間インキュベーションし、HEPES緩衝液(20mM、pH7.4)およびプロベネシド(2.5mM)を含むHanks液で1回洗浄し、同Hanks液に浸す。引き続き、以下の(i)または(ii)の方法に従って評価を行うことが可能である。
(i)アンタゴニスト活性の評価
蛍光ドラッグスクリーニングシステム(浜松ホトニクス社製)にプレートをセットし、30秒間無刺激で測定し、被験化合物の溶液を加える。5分後に高活性型LPA(終濃度:100nM)を加え、添加前後の細胞内カルシウムイオン濃度を3秒間隔で測定する(励起波長340nmおよび380nm、蛍光波長500nm)。化合物はDMSOに溶解し、終濃度が1nM乃至10μMになるように添加する。EDG−2拮抗活性は、化合物を含まないDMSOを添加したウェルでの高活性型LPAによるピーク値をコントロール値(A)とし、化合物で処理した細胞での高活性型LPA添加前の値から添加後の値の差(B)とを比較し、式{抑制率(%)=((A−B)/A)×100}を用いて抑制率(%)を算出することができる。尚、IC50値は、抑制率50%を示す被験化合物の濃度として算出できる。
(ii)アゴニスト活性の測定
前記の蛍光ドラッグスクリーニングシステムにプレートをセットし、30秒間無刺激で測定し、被験化合物の溶液を添加する。評価化合物は、DMSO等に溶解し、終濃度が0.1nM乃至10μMの範囲でDMSO溶液が最終的に1/1000濃度になるように添加する。添加前後の細胞内Ca2+濃度(Fura2−Ca2+蛍光)を3秒間隔で測定する(励起波長340nmおよび380nm、蛍光波長500nm)。
【0147】
アゴニスト活性は被験化合物の代わりにDMSOを添加したウェルでのLPA(例えば、18:3−LPA等)や高活性型LPA刺激でのピーク値をコントロール値(A)とし、被験化合物の添加前の値から添加後の蛍光比の上昇値(B)とを比較し、細胞内Ca2+濃度上昇率を、式{上昇率(%)=(B/A)×100}を用いて算出することができる。被験化合物の各濃度での上昇率を求めEC50値を算出する。
【発明の効果】
【0148】
本発明によって、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質を効率的に得ることができる。本発明のスクリーニング方法は、LPAをリガンドとして用いた従来の方法とは異なり、各種疾患の原因物質となる高活性型LPAをリガンドに用いているため、より疾患時の生体環境を反映したスクリーニング方法である。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】1−リノレノイル(18:3)−LPAおよびそれを酸化することで得られた高活性型LPAの質量分析スペクトルデータを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0150】
以下に、参考例および実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0151】
LPAが酸化を受けることにより、高活性型LPAとして機能することは、例えば、以下の実験によって証明された。
【0152】
全体の操作は、基本的な生物学的手法に基づき、常法となっている方法を活用した。また、本発明の測定方法は、以下のように、本発明によって導かれる化合物、その塩、その溶媒和物、またはそれらのプロドラッグを評価するために、測定精度の向上および/または測定感度の改良を加えたものである。以下に詳細な実験方法を示した。
【0153】
参考例1
(2S)−2−ヒドロキシ−3−(ホスホノオキシ)プロピル (9Z,12Z,15Z)−9,12,15−オクタデカトリエノアート(以下、1−リノレノイル(18:3)−LPAと略記する。)
【0154】
【化27】

【0155】
の調製
(i)ホスホリパーゼA(PLA)による18:3−ホスファチジルコリン(PC)からの18:3−リゾホスファチジルコリン(LPC)の調製
18:3−PC(Avanti, 850395C)を、ジエチルエーテルおよびメタノールの混合溶媒(ジエチルエーテル:メタノール=85:15)で50mg/mLに再溶解し、スターラーで激しく攪拌しつつ、PLA(Sigma, P-9279)(400U/mL in 10mM Tris−HCl(pH7.4))を、18:3−PC 1mgあたり0.48UのPLAの割合で加えた(final 2.4U PLA/mg 18:3−PC)。反応溶液の溶媒をエバポレータで完全に除き、残渣をクロロホルムに溶解し、遠沈管に分注して遠心(1200rpm、3min、室温)し、上清を回収した後、溶媒をエバポレータで完全に除いた。残渣をメタノールに溶解し、その20倍量のジエチルエーテルを加えて室温で攪拌し、遠心(同)により18:3−LPCを沈殿させた。
【0156】
(ii)ホスホリパーゼD(PLD)による18:3−LPCからの18:3−リゾホスファチジン酸(LPA)の調製
18:3−LPC(0.60g)を反応溶媒(40mL、5mM フッ化ナトリウム、200mM Tris−HCl(pH7.4))に溶解させた。スターラーで激しく攪拌しながら、PLD(1000U/mL)(Sigma, P-8023)を終濃度333U/mLとなるように反応溶液に加えた。室温で終夜反応させ、LPCの完全な分解をTLCで確認した。反応溶液を6N塩酸にてpH2乃至3付近に調整した後、クロロホルムで数回抽出し、各有機層を28%アンモニア水にて中和した。TLCで水層にLPAの残存がないことを確認し、有機層をあわせて減圧下濃縮した。濃縮したLPAをクロロホルムおよびメタノールの混合溶媒(クロロホルム:メタノール=70:30)に溶解し、シリカゲルカラム(ワコーゲルC−200)にかけて部分精製を行なった。その後、逆相カラム(C18)を用いたHPLC法により以下の物性値を有する表題の1−リノレノイル(18:3)−LPAを得た。
<TLCデータ>
TLC:Rf 0.54(クロロホルム:メタノール:水=65:35:5);
<NMRデータ>
NMR(DMSO-d6):δ 0.91(t, J=7.5Hz, 3H, C1), 1.28(m, 8H, C12, C13, C14, C15), 1.50(m, 2H, C16), 2.03(m, 4H, C2, C11), 2.27(t, J=7.5Hz, 2H, C17), 2.76(t, J=6.0Hz, 4H, C5, C8), 3.67(m, 3H, C20, C21), 3.92(m, 2H, C19), 5.31(m, 6H, C3, C4, C6, C7, C9, C10)。
【0157】
実施例1
1−リノレノイル(18:3)−LPAを用いた高活性型LPAの調製
参考例1で得られた1−リノレノイル(18:3)−LPA(1.0mg)を含むアセトニトリルとメタノールの混合溶媒(アセトニトリル:メタノール=1:2)(0.9mL)に、メタクロロ過安息香酸(4.2mg)を含むアセトニトリルとメタノールの混合溶媒(アセトニトリル:メタノール=1:2)(0.1mL)を加えて撹拌し、室温で16時間静置し、濃縮した。得られた残渣をクロロホルムとメタノールの混合溶媒(クロロホルム:メタノール=9.7:1)(1.6mL)に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Sep−Pak Vac Silica 6cc(500mg)、クロロホルム:メタノール=1:0乃至0:1)にて精製し、以下の物性値を有する高活性型LPAを得た。
<マススペクトルデータ>
−18:5−LPA HRMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H32O10P 475.1733, found 475.1756;O−18:4−LPA HRMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H34O10P 477.1890, found 477.1911;O−18:3−LPA HRMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H36O10P 479.2046, found 479.2033;O−18:3−LPA HRMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H36O11P 495.1995, found 495.1996;O−18:2−LPA HRMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H38O11P 497.2152, found 497.2148。
【0158】
実施例1−1
1−リノレオイル(18:2)−LPAを用いた高活性型LPAの調製
1−リノレノイル(18:3)−LPAの代わりにD(+)−sn−1−O−リノレオイル−グリセリル−3−ホスフェート・ナトリウム塩(echeon, L-0182)を用いて実施例1と同様の操作を行い、以下の物性値を有する高活性型LPA((2S)−2−ヒドロキシ−3−[8−{(2R、3S)−3−[((2R、3S)−3−ペンチル−2−オキシラニル)メチル]−2−オキシラニル}オクタノイルオキシ]プロピルリン酸
【0159】
【化28】

【0160】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−[8−{(2S、3R)−3−[((2S、3R)−3−ペンチル−2−オキシラニル)メチル]−2−オキシラニル}オクタノイルオキシ]プロピルリン酸
【0161】
【化29】

【0162】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−[8−{(2R、3S)−3−[((2S、3R)−3−ペンチル−2−オキシラニル)メチル]−2−オキシラニル}オクタノイルオキシ]プロピルリン酸
【0163】
【化30】

【0164】
、および/または(2S)−2−ヒドロキシ−3−[8−{(2S、3R)−3−[((2R、3S)−3−ペンチル−2−オキシラニル)メチル]−2−オキシラニル}オクタノイルオキシ]プロピルリン酸
【0165】
【化31】

【0166】
)を得た。
<マススペクトルデータ>
HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H38O9P 465.2254, found 465.2288;HRMSMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]--C3H7O5P 311.2368, [M-H]--C3H7O5P-H2O 293.2284, [M-H]--C18H30O3 171.0207, [M-H]--C18H30O3-H2O 153.0045;
<NMRデータ>
NMR(deuterium oxide):δ 0.8(t, J=7.2Hz, 3H), 1.2-1.6(m, 20H), 1.6(dt, J=15.0, 7.5Hz, 0.5H), 1.8(t, J=6.4Hz, 1H), 2.0(td, J=14.9, 5.0Hz, 0.5H), 2.3(t, J=7.5Hz, 1H), 3.1-3.2(m, 2H), 3.2-3.3(m, 2H), 3.7-3.9(m, 2H), 4.0(m, 1H), 4.1(dd, J=11.5, 6.6Hz, 1H), 4.1(dd, J=11.5, 3.7Hz, 1H)。
【0167】
実施例1−2
1−アラキドノイル(20:4)−LPAを用いた高活性型LPAの調製
1−リノレノイル(18:3)−LPAの代わりにD(+)−sn−1−O−アラキドノイル−グリセリル−3−ホスフェート・ナトリウム塩(echeon, L-0204)を用いて実施例1と同様の操作を行い、以下の物性値を有する高活性型LPAを得た。
<マススペクトルデータ>
−20:4−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H38O8P 473.2304, found 473.2289;O−20:4−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H38O9P 489.2253, found 489.2218;O−20:6−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H34O10P 501.1890, found 501.1871;O−20:5−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H36O10P 503.2046, found 503.2010;O−20:4−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H38O10P 505.2203, found 505.2168;O−20:5−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H36O11P 519.1995, found 519.1980;O−20:4−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H38O11P 521.2152, found 521.2133;O−20:5−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H36O12P 535.1944, found 535.1973;O−20:4−LPA HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C23H38O12P 537.2101, found 537.2099。
【0168】
実施例2
質量分析による比較
実施例1で得られた高活性型LPAが、参考例1で得られた1−リノレノイル(18:3)−LPAとは異なるものであることを質量分析により確認した。以下に測定条件および方法を示す。
<材料>
シリカゲルカラム:Develosil60−5(2.0mm×150mm)(Nomura Chemical Co.,LTD.)
プレカラム:1.5mm×10mmガードカラム(Nomura Chemical Co.,LTD.)
<調製試薬>
HPLC用溶出バッファー
(1)バッファーA:
0.1%ギ酸アンモニウム(pH6.4)/アセトニトリル−メタノール混合溶媒(アセトニトリル:メタノール=2:1)
(2)バッファーB:
0.1%ギ酸アンモニウム(pH6.4)/メタノール−水混合溶媒(メタノール:水=2:1)
<使用機器>
(1)HPLC(Waters, Alliance2795)
(2)Q−TOF質量分析装置(Micromass, Q-TOF Ultima API)
<方法>
(1)LC/ESI−TOF−MSによる1−リノレノイル(18:3)−LPAの検出
前記機種を用いて,以下のHPLCおよび質量分析装置の設定にて測定を行った。
ESI−MS Negative Ion Mode
[Sourse]
Capillary:2.9;Cone:40;RF Lens1:50.0;Sourse Temp(℃):100;Desolvation Temp(℃):200;Cone Gas Flow(L/Hr):50;Desolvation Gas Flow(L/Hr):800
[MS]
LM Resolution:10.0;HM Resolution:10.0;Collision Energy:5.0
[MS2]
TOF(kV):9.10;MCP:2000
[LC]
HPLC Gradient:括弧[]内はバッファーAとバッファーBの比率(%)を示す。
0min[100:0];5min[100:0];20min[70:30];30min[70:30];35min[100:0]
Flow Rate:0.2mL/min
Injection Vol.:30μL(100μg/mL 1−リノレノイル(18:3)−LPA)
(2)LC/ESI−TOF−MSによる高活性型LPAの検出
実施例1で得られた高活性型LPA(2μL)をアセトニトリルとメタノールの混合溶媒(アセトニトリル:メタノール=1:2)にて500倍希釈し、前記機種を用いて、以下の質量分析装置の設定にてダイレクトインジェクションにて測定を行った。
ESI−MS Negative Ion Mode
[Sourse]
Capillary:2.9;Cone:40;RF Lens1:50.0;Sourse Temp(℃):100;Desolvation Temp(℃):200;Cone Gas Flow(L/Hr):50;Desolvation Gas Flow(L/Hr):800
[MS]
LM Resolution:15.0;HM Resolution:15.0;Collision Energy:5.0
[MS2]
TOF(kV):9.10;MCP:2000
<結果>
参考例1で得られた1−リノレノイル(18:3)−LPAと実施例1で得られた高活性型LPAは、質量分析で異なるスペクトルチャート(図1)を示した。
【0169】
実施例3
薬理活性の確認およびLPAとの活性比較
(1)[Ca2+]iアッセイ系による評価
ヒトEDG−2遺伝子を過剰発現させたチャイニーズハムスターオーバリー(Chinese Hamster Ovary、CHO)細胞を用いて該受容体のアゴニスト活性の評価を行なった。EDG−2発現細胞は、10%FBS(ウシ胎児血清)、ペニシリン/ストレプトマイシン、ブラスチサイジン(5μg/mL)含有Ham’sF12培地(Gibco BRL)を用いて培養した。まず、Fura2−AM(Dojindo)を細胞内へ取り込ませるため、細胞をFura2−AM溶液[10%FBS、HEPES緩衝液(20mM、pH7.4)、プロベネシド(2.5mM)(Sigma, P-8761)含有Ham’sF12培地](5μM)で、37℃で60分間インキュベーションし、HEPES緩衝液(20mM、pH7.4)およびプロベネシド(2.5mM)を含むHanks液で1回洗浄し、同Hanks液に浸した。蛍光ドラッグスクリーニングシステム(浜松ホトニクス社製)にプレートをセットし、30秒間無刺激で測定し、実施例1で得られた高活性型LPAを含む溶液を添加した。LPAは生理食塩水に溶解し、終濃度が0.1nM乃至10μMの範囲で添加した。添加前後の細胞内Ca2+濃度(Fura2−Ca2+蛍光)を3秒間隔で測定した(励起波長340nmおよび380nm、蛍光波長500nm)。
<結果>
実施例1で得られた高活性型LPAは、EDG−2発現細胞における細胞内カルシウムイオン濃度の上昇作用を有することが判った。
(2)ラット摘出尿道を用いた収縮測定系による評価
雌性または雄性CD(SD)IGSラット(日本チャールスリバー、使用時8乃至9週齢)を頭部打撲法および頸動静脈切断により放血致死させた後、恥骨下の尿道を注意深く摘出し、速やかにKrebs−Henseleit液(112mM NaCl、5.9mM KCl、2.0mM CaCl、1.2mM MgCl、1.2mM NaHPO、25.0mM NaHCO、11.5mM Glucose)に浸した。摘出した標本から尿道部分を切り取り、切開し平板状にしたあと、輪走筋と平行に切断し、幅2乃至3mm、長さ3乃至4mmの短冊標本を一匹当たり2乃至3個作製した。
【0170】
作製した標本をKrebs−Henseleit液(37±1℃、混合ガス[95%O+5%CO]を通気)を充たしたマグヌス管内(容量:10mL)に懸垂した。約0.5gの張力負荷を与え60分間安定させたあと、Force displacement transducer(日本光電、FDピックアップTB−611T)からひずみ圧アンプ(日本光電、AP−621G)を介してレコーダー(GRAPHTEC CORP.、リニアコーダWR3320)上に収縮運動を記録した。
【0171】
コントロールの収縮反応は、高濃度KCl液(Krebs−HenseleitのNaClを全てKClに置換したもの)で刺激することにより得た。実施例1、実施例1−1または実施例1−2で得られた高活性型LPAを含む溶液を添加し、尿道収縮の用量依存性を測定した。
<結果>
実施例1、実施例1−1および実施例1−2で得られた高活性型LPAは、用量依存的にラット摘出尿道を収縮させることが判った。
(3)ウレタン麻酔下ラット尿道内圧上昇測定系
雄性CD(SD)IGSラット(日本チャールスリバー、使用時8乃至9週齢)をウレタン(1.2g/kg)の皮下投与により麻酔した。頸部正中切開後、薬液投与用の頚静脈カテーテル、血圧測定用の動脈カテーテルを挿入した。次に下腹部正中切開し、恥骨下で尿道を結紮した。尿道カテーテルを膀胱頂部を切開して尿道内へ挿入し、膀胱頸部で結紮固定した。尿道カテーテルの他端を圧トランスデューサーに接続して尿道内圧を測定した。尿道内圧を20mmHg付近に合わせて静止させ、安定するまで静置した(約20分)。その後、実施例1、実施例1−1または実施例1−2で得られた高活性型LPAまたはそれらを製造する原料として用いたLPAを静脈内投与し、尿道内圧上昇作用を評価した。
<結果>
ウレタン麻酔下ラット尿道内圧上昇測定系を用いて、LPAと高活性型LPAとの活性を比較した結果、高活性型LPAはLPAに比べて強い尿道内圧の上昇活性を示した。例えば、参考例1で得られた1−リノレノイル(18:3)−LPAと、実施例1で得られた高活性型LPAとを比較した結果、0.3mg/kg、i.v.の投与量において、高活性型LPAは、1−リノレノイル(18:3)−LPAに比して、少なくとも1.5乃至2倍の尿道内圧の上昇を認めた。また同様に1−リノレオイル(18:2)−LPAと、実施例1−1で得られた高活性型LPAとを比較した結果、0.3mg/kg、i.v.の投与量においては、1−リノレオイル(18:2)−LPAが0.6mmHgの尿道内圧の上昇を示したのに対し、実施例1−1で得られた高活性型LPAは5.4mmHgの尿道内圧の上昇を示した。さらに1.0mg/kg、i.v.の投与量においては、1−リノレオイル(18:2)−LPAが0.8mmHgの尿道内圧の上昇を示したのに対し、実施例1−1で得られた高活性型LPAは8.5mmHgの尿道内圧の上昇を示した。
【0172】
実施例4
(2S)−2−ヒドロキシ−3−[(9Z)−9−オクタデセノイルオキシ]プロピルリン酸・二ナトリウム塩(以下、オレオイル(18:1)−LPAと略記する。)
【0173】
【化32】

【0174】
を用いた高活性型LPAの調製
オレオイル(18:1)−LPA(Sigma, L-7260)(12.2mg)を含むアセトニトリルとメタノールの混合溶媒(アセトニトリル:メタノール=1:2)(9.36mL)に、メタクロロ過安息香酸(31.3mg)を含むアセトニトリルとメタノールの混合溶媒(アセトニトリル:メタノール=1:2)(1.16mL)を加えて撹拌し、室温で38時間静置し、濃縮した。得られた残渣をクロロホルム(0.6mL)に溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Sep−Pak Vac Silica 6cc(500mg)、クロロホルム:メタノール=1:0乃至0:1)にて精製し、以下の物性値を有する高活性型LPA((2S)−2−ヒドロキシ−3−[8−(3−オクチル−2−オキシラニル)オクタノイルオキシ]プロピルリン酸・二ナトリウム塩
【0175】
【化33】

【0176】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(10−ヒドロキシ−8−オクタデセノイルオキシ)プロピルリン酸・二ナトリウム塩
【0177】
【化34】

【0178】
、および/または(2S)−2−ヒドロキシ−3−(9−ヒドロキシ−10−オクタデセノイルオキシ)プロピルリン酸・二ナトリウム塩
【0179】
【化35】

【0180】
)(11.3mg)を得た。
<マススペクトルデータ>
HRMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H40O8P 451.2461, found 451.2398;
HRMSMS(Q-TOF-ESI Neg.)(m/z):[M-H]--C3H7O5P 297.2430, [M-H]--C3H7O5P-H2O 279.2334, [M-H]--C18H32O2 171.0090, [M-H]--C18H32O2-H2O 152.9979。
【0181】
実施例5
1−リノレオイル(18:2)−LPAを用いた高活性型LPAの調製
D(+)−sn−1−O−リノレオイル−グリセリル−3−ホスフェート・ナトリウム塩(echeon, L-0182)(2.0mg)を含むギ酸アンモニウム水溶液(1.8mL、10mM、pH9.0)に、Soybean lipoxygenase(50000U/mL)を含むギ酸アンモニウム水溶液(1.0mL、10mM、pH9.0)を加えて撹拌し、室温にて6時間静置することにより、以下の物性値を有する高活性型LPA((2S)−2−ヒドロキシ−3−(9−ヒドロペルオキシ−10,12−オクタデカジエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0182】
【化36】

【0183】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(10−ヒドロペルオキシ−8,12−オクタデカジエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0184】
【化37】

【0185】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(12−ヒドロペルオキシ−9,13−オクタデカジエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0186】
【化38】

【0187】
、および/または(2S)−2−ヒドロキシ−3−(13−ヒドロペルオキシ−9,11−オクタデカジエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0188】
【化39】

【0189】
)を得た。
<マススペクトルデータ>
HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H38O9P 465.2254, found 465.2253;
HRMSMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]--C3H7O5P-H2O 293.2256, [M-H]--C18H30O3 171.0233, [M-H]--C18H30O3-H2O 153.0066。
【0190】
実施例5−1
1−リノレノイル(18:3)−LPAを用いた高活性型LPAの調製
D(+)−sn−1−O−リノレオイル−グリセリル−3−ホスフェート・ナトリウム塩の代わりにD(+)−sn−1−O−リノレノイル−グリセリル−3−ホスフェート・ナトリウム塩(echeon, L-0183)を用いて実施例5と同様の操作を行い、以下の物性値を有する高活性型LPA((2S)−2−ヒドロキシ−3−(9−ヒドロペルオキシ−10,12,15−オクタデカトリエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0191】
【化40】

【0192】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(10−ヒドロペルオキシ−8,12,15−オクタデカトリエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0193】
【化41】

【0194】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(12−ヒドロペルオキシ−9,13,15−オクタデカトリエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0195】
【化42】

【0196】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(13−ヒドロペルオキシ−9,11,15−オクタデカトリエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0197】
【化43】

【0198】
、(2S)−2−ヒドロキシ−3−(15−ヒドロペルオキシ−9,12,16−オクタデカトリエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0199】
【化44】

【0200】
、および/または(2S)−2−ヒドロキシ−3−(16−ヒドロペルオキシ−9,12,14−オクタデカトリエノイルオキシ)プロピルリン酸
【0201】
【化45】

【0202】
)を得た。
<マススペクトルデータ>
HRMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]- calcd for C21H36O9P 463.2097, found 463.2090;HRMSMS(Q-Tof-ESI Neg.)(m/z):[M-H]--C3H7O5P-H2O 291.2151, [M-H]--C18H30O3 171.0269, [M-H]--C18H30O3-H2O 153.0096。
【0203】
実施例6
正常動物の血漿中における高活性型LPAの検出
(i)採血
正常ラット(Crj:CD(SD)IGS(雄性、日本チャールス・リバーより購入)使用時10週齢)を24時間以上絶食した後に、保定器を使用して頚部静脈からヘパリン加採血を行なった。
(ii)血漿の調製
20mg/mLの2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエンを含有するエタノール溶液と、2mg/mLのアスコルビン酸を含有する生理食塩水溶液とを50μLずつ加えたガラス試験管に、採取した血液または生理食塩水を1.0mL加え、5秒間攪拌ののち直ちにメタノール(2.5mL)および酢酸(60μL)を加え、室温で2分間攪拌した。さらに、クロロホルム(1.25mL)を加え、室温で1分間攪拌し、10分間静置した。またさらに、クロロホルム(1.25mL)を加え、室温で30秒間撹拌し、飽和食塩水(1.25mL)を加え、1分間撹拌した後に、4℃で10分間遠心分離した。クロロホルム層を分取した後、水層にクロロホルム(1.25mL)を加え、1分間撹拌した後に、4℃で10分間遠心分離した。得られたクロロホルム層を先に分取したクロロホルム層とあわせ、窒素気流下、室温で80分間乾燥した。乾燥後、窒素雰囲気下にて100mMのリン酸二水素ナトリウムを含有する70%メタノール水溶液(200μL)に溶解し、5分間遠心分離後、上清を分析容器にとり、分析用サンプルとした。
(iii)質量分析装置による測定
分析用サンプルを質量分析により測定した。以下に測定条件および方法を示す。
<材料>
シリカゲルカラム:Atlantis dC18、3μm(2.1mm×50mm)(Waters Co.,LTD)
プレカラム:Atlantis dC18、3μm(2.1mm×10mm)(Waters Co.,LTD)
<調製試薬>
HPLC用溶出バッファー
(1)バッファーA:
10mM ギ酸アンモニウム(pH6.4)水溶液
(2)バッファーB:
10mM ギ酸アンモニウム(pH6.4)メタノール溶液
<使用機器>
(1)HPLC(Hewlett Packard, HP1100)
(2)タンデム質量分析装置(Micromass, Quattro micro API)
<方法>
前記機種を用いて、以下のHPLCおよび質量分析装置の設定にて測定を行った。
ESI−MS Negative Ion Mode
[Sourse]
Polarity:ES−;Capillary(kV):2.5;Extractor(V):2;RF Lens(V):0;Sourse Temp(℃):120;Desolvation Temp(℃):350;Cone Gas Flow(L/Hr):59;Desolvation Gas Flow(L/Hr):610
[MS]
LM1 Resolution:15;HM1 Resolution:15;Ion Energy1:0.5;Entrance:−3;Exit:1;LM2 Resolution:15;HM2 Resolution:15;Ion Energy2:3;Multiplier(V):650;Syringe Pump Flow(μL/min):10;Gas Cell Pirani Pressure(mbar):2.86E−03
[MSMS]
Cycle time(secs):1.760;Inter Channel delay(secs):0.02;Retention window(mins):0.000 to 35.000;Ionization mode:ES−;Data type:MRM data
【0204】
【表1】

【0205】

[LC]
HPLC Gradient:括弧[]内はバッファーAとバッファーBの比率(%)を示す。
0〜1min[70:30];15min[0:100];30min[0:100];30.1min[70:30];35min[70:30]
Flow Rate:0.2mL/min
Injection Vol.:20μL
Column Temp(℃):25
<結果>
測定値をMassLynx解析ソフト(Waters)を用い、イオン化シグナルのクロマトチャートのピーク面積(Area Abs)を計算した。以下の表に結果を示す。
【0206】
【表2】

【0207】
酸化体は本分析条件にて特異的にかつ非酸化体と分離され、タンデムマススペクトル装置にて検出された。例えば、20:4−LPAに酸素1原子がついたもの(m/z:473.23)は、blankでは検出限界以下(BQL)であったが、正常ラットの血漿中では、113のピーク面積を示した。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明は、以下に示すように医療分野への適用が可能である。
【0209】
本発明によって、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質を効率的に得ることができる。本発明のスクリーニング方法は、LPAを用いた従来の方法とは異なり、各種疾患の原因物質となる高活性型LPAをリガンドに用いているので、より生体環境を反映したスクリーニング方法である。本発明のスクリーニング方法によって得られた物質は、医薬品として適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識されていてもよい高活性型LPAを用いることを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
高活性型LPAが、以下の一般式(I)、(II)または(III)
【化1】

[式中、Rは、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物である請求の範囲1記載の方法。
【請求項3】
の主鎖の炭素数が、6乃至26である請求の範囲2記載の方法。
【請求項4】
が、以下のQ群から選択される1種以上の部分構造を有する脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基であって、Q群が、
【化2】

[式中、矢印は結合部位を表し、Gは、
【化3】

(式中、矢印は結合部位を表す。)または水素原子を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]からなる群である請求の範囲2記載の方法。
【請求項5】
が、
【化4】

[式中、矢印は結合部位を表し、Yはカルボニル基またはメチレン基を表し、pおよびqはそれぞれ独立して0または1乃至7の整数を表し、EおよびEはそれぞれ独立して、C1−4アルキレン基、C2−4アルケニレン基または結合手を表し、Aは、結合手、
【化5】

(式中、矢印は結合部位を表し、Gは請求の範囲4の記載と同じ意味を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表し、nは1乃至6の整数を表し、nが2以上の場合、複数のE、EおよびAはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。但し、R中、少なくとも1つのAは、
【化6】

(式中、矢印は結合部位を表し、Gは請求の範囲4の記載と同じ意味を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表すものとする。]である請求の範囲4記載の方法。
【請求項6】
が、
【化7】

[式中、矢印は結合部位を表し、Yはカルボニル基またはメチレン基を表し、p1およびq1はそれぞれ独立して1乃至7の整数を表し、Tは、
【化8】

(式中、矢印は結合部位を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表し、rは1乃至5の整数を表し、rが2以上の場合、複数のTはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。但し、R中、少なくとも1つのTは、
【化9】

(式中、矢印は結合部位を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。)を表すものとする。]である請求の範囲5記載の方法。
【請求項7】
が、1個のヒドロペルオキシ基で置換され、2乃至3個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である請求の範囲6記載の方法。
【請求項8】
が、
【化10】

[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である請求の範囲7記載の方法。
【請求項9】
が、1乃至3個のエポキシ基で置換され、0または1乃至2個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である請求の範囲6記載の方法。
【請求項10】
が、
【化11】

[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である請求の範囲9記載の方法。
【請求項11】
LPAが関与する疾患が、泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患または消化器系疾患である請求の範囲1記載の方法。
【請求項12】
泌尿器系疾患が、排尿障害である請求の範囲11記載の方法。
【請求項13】
標識されていてもよい高活性型LPAを用いることを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質のスクリーニング用キット。
【請求項14】
請求の範囲1記載の方法および/または請求の範囲13記載のキットを用いて得られた化合物、その塩、その溶媒和物またはそれらのプロドラッグを含有してなる泌尿器系疾患、中枢性疾患、炎症性疾患、循環器疾患、癌、糖尿病、免疫系疾患または消化器系疾患の予防および/または治療剤。
【請求項15】
排尿障害の予防および/または治療剤である請求の範囲14記載の剤。
【請求項16】
請求の範囲1記載の方法および/または請求の範囲13記載のキットを用いて得られた化合物、その塩、その溶媒和物またはそれらのプロドラッグと、α1拮抗薬、抗コリン薬、5α−リダクターゼ阻害薬および抗アンドロゲン薬から選択される1種以上とを組み合わせてなる排尿障害の予防および/または治療剤。
【請求項17】
(1)標識されていてもよい高活性型LPAと、(2)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを用いることを特徴とする請求の範囲1記載の方法。
【請求項18】
LPA受容体が、EDG−2、EDG−4、EDG−7またはGPR23である請求の範囲17記載の方法。
【請求項19】
(1)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞とを接触させた場合と、(2)(a)標識されていてもよい高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞および(c)試験化合物とを接触させた場合における該細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇活性を測定し、比較することを特徴とする、請求の範囲17記載の方法。
【請求項20】
(1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該LPA受容体蛋白質、その部分ペプチドまたはその塩に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、請求の範囲17記載の方法。
【請求項21】
(1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該細胞に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、請求の範囲17記載の方法。
【請求項22】
(1)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞の膜画分とを接触させた場合と、(2)(a)標識された高活性型LPAと、(b)LPA受容体蛋白質を含有する細胞の膜画分および(c)試験化合物とを接触させた場合における、標識された高活性型LPAの該細胞の膜画分に対する結合量を測定し、比較することを特徴とする、請求の範囲17記載の方法。
【請求項23】
高活性型LPAに対する抗体。
【請求項24】
LPA受容体のシグナル伝達を不活性化する中和抗体である請求の範囲23記載の抗体。
【請求項25】
請求の範囲23記載の抗体を含有してなるLPAが関与する疾患の診断薬。
【請求項26】
請求の範囲17記載のスクリーニング方法を用いて化合物を選別する工程を含むことを特徴とする、LPAが関与する疾患の予防および/または治療物質の製造方法。
【請求項27】
化学的または酵素的に合成した、一般式(I)、(II)または(III)
【化12】

[式中、Rは、酸化、ニトロ化、ニトロソ化、ニトロヒドリル化および/またはアミノ化された脂肪族炭化水素基もしくは脂肪族炭化水素カルボニル基を表す。ただし、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]で示される化合物、その塩またはそれらの溶媒和物。
【請求項28】
が、1個のヒドロペルオキシ基で置換され、2乃至3個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である請求の範囲27記載の化合物。
【請求項29】
が、
【化13】

[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である請求の範囲28記載の化合物。
【請求項30】
が、1乃至3個のエポキシ基で置換され、0または1乃至2個の二重結合を有する炭素数18個の脂肪族炭化水素カルボニル基である請求の範囲27記載の化合物。
【請求項31】
が、
【化14】

[式中、不斉炭素は、R配置、S配置であるか、またはそれらが任意の比率で混合していてもよいものとする。]である請求の範囲30記載の化合物。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/064332
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516609(P2005−516609)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019241
【国際出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】