説明

高清浄度鋼の製造方法

【課題】 溶鋼に残存する有害な非金属介在物が非常に少ない清浄度の高い鋼を必要十分な工程で精度良く製造する方法を提供する。
【解決手段】 精錬終了時に製品で保証したい介在物径に応じてキリング時間を設定し、介在物センサーを用い精錬最終工程の溶鋼中の介在物の粒径最大値を得た後、その粒径最大値が保証したい介在物径以上だった場合に、キリングすることで高清浄度鋼を得る方法において、製品で保証したい介在物の最大径に応じて、取鍋精錬におけるキリング時間を数式(1)内のt秒±10%に確保する高清浄度鋼の製造方法。
t=1.8×106・h/D2 (1)
ただし、t:キリング時間(秒)
h:取鍋内溶鋼深さ(m)
D:製品で保証したい介在物最大径(μm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼を鋳造する場合において、清浄度の高い鋼片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼を製造する際に、非金属介在物は不可避的に発生する。この介在物は通常精錬時に浮上分離するが、精錬終了時に溶鋼内に残存し、その後の鋳込み時に直送流に乗り鋼片に補足されるものもある。
【0003】
それらの非金属介在物は、鋼材が製品になった際に応力が集中し割れの起点となり得るため、極力除去する必要がある。しかし、完全に除去することは不可能であるため、製品内に残留する介在物の最大径をある大きさ以下に保証することが必要である。保証する介在物の最大径は保証したい鋼の量が大きくなればなるほど大きくなる。しかし、この出願において保証したい介在物の最大径のイメージは、50gの鋼をスライム溶解したときに出現する介在物の最大径である。
【0004】
このような介在物を低減して小径化する手段として、精錬時の脱ガス時間を長くして介在物の浮上分離を促す手段(非特許文献1参照)がある。これによると、介在物の浮上分離にはある大きさ以上の径が必要であり、かつ、径が大きければ大きいほどその浮力により分離し易くなる。しかし、従来技術では清浄度を得るために必要以上のキリング時間を設定したり、キリング時間が短く清浄度の高い鋼を得られないことがあった。
【0005】
また、ESZ方式を応用した「介在物粒径分布測定法」が製鋼においても実用化されている(非特許文献2参照)。この方法を用いれば精錬最終工程後の溶鋼中の介在物の粒径分布を迅速に得ることができる。
【0006】
【非特許文献1】ISIJ INTERNATIONAL,Vol.36(1996),Supplement,pp.s89−s92
【非特許文献2】CAMP−ISIJ Vol.14(2001),806
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、溶鋼に残存する有害な非金属介在物が非常に少ない清浄度の高い鋼を必要十分な工程で精度良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、精錬終了時に製品で保証したい介在物径に応じてキリング時間を設定する。さらに、介在物センサーを用い精錬最終工程の溶鋼中の介在物の粒径最大値を得た後、その粒径最大値が保証したい介在物径以上だった場合に、キリングすることで高清浄度鋼を得る方法である。すなわち、請求項1の発明では、製品で保証したい介在物の最大径に応じて、取鍋精錬におけるキリング時間を下記の式(1)内のt秒±10%に確保することを特徴とする高清浄度鋼製造方法である。
【0009】
t=1.8×106・h/D2 (1)
ただし、t:キリング時間(秒)
h:取鍋内溶鋼深さ(m)
D:製品で保証したい介在物最大径(μm)
【0010】
条件設定理由について以下に説明する。精錬時に生成する介在物は溶鋼よりも比重が軽いため浮上しようとする性質がある。ところで、この浮上速度はストークスの法則に支配されており、清浄度を悪化させる介在物の浮上速度を推定することができる。ある浮上時間(すなわち、キリング時間)を規定することで鋼中の有害な大型の非金属介在物を低減することが可能である。
【0011】
さらに、介在物の粒径分布は精錬の諸条件により大きく変動するため、精錬終了時の粒径の最大値を把握できればキリングする必要があるかどうかの判断ができる。
【0012】
従って精錬最終工程の粒径最大値を確認した後、その粒径最大値が保証したい介在物径を超えていた場合のみキリング時間付加することで効率的に清浄鋼を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明における高清浄度鋼製造方法を適用することにより、従来よりも清浄度の高い鋼を精度良く製造することが可能となり、非金属介在物の少ない高清浄度スラブ、高清浄度ブルームまたは高清浄度ビレットの連続鋳造若しくは高清浄度鋼塊のインゴット鋳造に大きく寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を以下の実施例を通じて説明する。
【実施例】
【0015】
JISで規定する表1に示す成分範囲のSUJ鋼と比較鋼を電気炉(a)による溶解に続いて、取鍋精錬炉(b)により取鍋精錬し、RH脱ガス装置(C)により脱ガス処理した後、連続鋳造装置(d)で連続鋳造するか、あるいは、インゴット鋳造設備(e)により鋼塊にする工程を図1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
この図1に示す精錬および鋳造設備からなる製鋼工程において、精錬最終工程である脱ガス工程の終了時に、図2に示すように介在物センサーを用いて介在物の粒径分布を測定した。その粒径分布中の最大径によって、その後のキリング時間tを式(1)から求めて高清浄度鋼を得た。
【0018】
t=1.8×106・h/D2 (1)
ただし、t:キリング時間(秒)
h:取鍋内溶鋼深さ(m)
D:製品で保証したい介在物最大径(μm)
【0019】
表2は、表1に示すSUJ鋼の精錬最終工程であるRH脱ガス後の介在物センサーで測定した精錬終了時最大径(μm)と製品で保証したい介在物最大径(μm)を示したものである。
【0020】
【表2】

【0021】
これらにおいて、実施例1〜3はキリング時間を上記の式(1)の計算値通りに実施したものであり、比較例は実施しなかったものである。
【0022】
実施例1〜3は製品内最大介在物径が保証したい介在物最大径以下の合格の範囲にあるのに対し、比較例1は製品内介在物最大径が54と高く不合格となっているのがわかる。また、比較例2は必要以上に清浄度の高いものが得られた例である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用する製鋼工程図である。
【図2】中空断熱材使用の(タンディッシュの3st直上)の60t注入時のサンプリングによる溶鋼45g中の個数の介在物粒径分布を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 電気炉
2 取鍋
3 タンディッシュ
4 連鋳片
5 インゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品で保証したい介在物の最大径に応じて、取鍋精錬におけるキリング時間を下記の式(1)内のt秒±10%に確保することを特徴とする高清浄度鋼製造方法。
t=1.8×106・h/D2 (1)
ただし、t:キリング時間(秒)
h:取鍋内溶鋼深さ(m)
D:製品で保証したい介在物最大径(μm)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63666(P2008−63666A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263204(P2007−263204)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【分割の表示】特願2003−71040(P2003−71040)の分割
【原出願日】平成15年3月14日(2003.3.14)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】