説明

高減衰組成物および高減衰部材

【課題】減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が比較的低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形が加えられたあとの弾性率の低下が小さい、つまり大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材と、かかる高減衰部材を形成しうる高減衰組成物とを提供する。
【解決手段】高減衰組成物は、ジエン系ゴム100質量部に、100質量部以上、170質量部以下のシリカ、1質量部以上、3.5質量部未満の硫黄、および前記硫黄量に対して10質量%以上、60質量%以下のスルフェンアミド系加硫促進剤を配合した。さらに硫黄量に対して60質量%以下のチウラム系加硫促進剤、および/またはチアゾール系加硫促進剤を配合してもよい。高減衰部材は、前記高減衰組成物を成形し、加硫して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりするための高減衰部材と、そのもとになる高減衰組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において高減衰部材が用いられる。前記高減衰部材を用いることで、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をすることができる。
前記高減衰部材は、天然ゴム等をベースポリマとして含む高減衰組成物によって形成される。前記高減衰組成物には、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして前記振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰する性能、すなわち減衰性能を高めるために、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、あるいはロジン、石油樹脂等の粘着性付与剤等を配合するのが一般的である(例えば特許文献1〜3等参照)。
【0003】
しかし、これら従来の高減衰組成物では高減衰部材の減衰性能を十分に高めることはできない。高減衰部材の減衰性能を現状よりもさらに高めるためには、無機充填剤や粘着性付与剤等の配合割合をさらに増加させること等が考えられる。
ところが、多量の無機充填剤や粘着性付与剤を配合した高減衰組成物は加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でないという問題がある。
【0004】
特に工場レベルで高減衰部材を量産する場合、前記加工性の低さは高減衰部材の生産性を大きく低下させ、生産に要するエネルギーを増大させ、さらには生産コストを高騰させる原因となるため望ましくない。
そこで、加工性を低下させずに減衰性能を向上するため、特許文献4では、極性側鎖を有するベースポリマに、2以上の極性基を有する減衰性付与剤等を配合することが検討されている。
【0005】
しかし前記極性側鎖を有するもの等の、分子中に極性基を有するベースポリマは、一般にガラス転移温度Tgが室温(3〜35℃)付近に存在することから、前記ベースポリマを含む高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、最も一般的な使用温度域である前記室温付近において、特に剛性等の特性の温度依存性が大きくなる傾向がある。
特許文献5では、極性側鎖を有しないベースポリマに、シリカと、2以上の極性基を有する減衰性付与剤等とを配合することが検討されている。かかる構成によれば、シリカを併用することで良好な減衰性能を維持しながら、ベースポリマとして極性基を有しないものを用いることで、室温付近での特性の温度依存性を小さくすることができる。
【0006】
しかし、現状よりも減衰性能をさらに向上するために減衰性付与剤の配合割合を増加させた場合には、前記減衰性付与剤が高減衰部材の表面にブルームしやすくなるという問題がある。
特許文献6では、減衰性付与剤として特定の軟化点を有するロジン誘導体を用いることで、さらに減衰性能を向上することが検討されている。
【0007】
しかし、現状よりもさらに減衰性能を向上するためにロジン誘導体の配合割合を増加させた場合には、粘着性が高くなりすぎて高減衰組成物の加工性が低下するという問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−2014号公報
【特許文献2】特開2007−63425号公報
【特許文献3】特開平7−41603号公報
【特許文献4】特開2000−44813号公報
【特許文献5】特開2009−138053号公報
【特許文献6】特開2010−189604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1〜6に記載の高減衰組成物によれば、前記のように種々の問題を生じるおそれはあるものの、各成分の配合割合等を適度に調整することで、ある程度の高い減衰性能と良好な加工性とを両立することは可能である。
ところが、前記従来の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、いずれも新製時の剛性が高すぎて、そのままでは高減衰部材として機能させることができないという問題がある。例えば建築物の免震、制震を担う制震用ダンパ等は、地震が発生したその瞬間に高減衰部材として十二分に機能して、地震のエネルギーが建築物に伝わるのを確実に防止できなければ、設置する意味がないため、前記剛性の高さは問題である。
【0010】
そのため通常は、新製した制震用ダンパ等の高減衰部材を、出荷前に強制的に圧縮変形させるなどして変形の履歴を加えて剛性を低下させる作業をした後に出荷するのが一般的である。しかし、かかる作業を必要とする分、高減衰部材の生産性が低下するという問題がある。
特に制震用ダンパ等の大型の高減衰部材に変形の履歴を加えるためには大掛かりな設備が必要であり、作業のために多大のエネルギーを要するため、かかる作業が高減衰部材の生産性に及ぼす影響は大きい。
【0011】
また、前記従来の高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、いずれも大きな変形が加えられたあとの弾性率が低下する、いわゆるマリンス効果(Mullins’ effect)を生じ易く、高減衰部材としての所期の性能を十分に発揮させることができずに、様々な問題を生じる場合がある。
例えば建築物の免震、制震を担う制震用ダンパ等が大変形して弾性率が低下すると、地震のエネルギーが建築物に伝わるのを確実に防止できなくなるおそれがある。そのため、かかる弾性率の低下を織り込んだ上で所期の性能を確保するために、制震用ダンパ等の製品としての設計が複雑になるという問題がある。
【0012】
本発明の目的は、減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形が加えられたあとの弾性率の低下が小さい、つまり大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材と、かかる高減衰部材を形成しうる高減衰組成物とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者の検討によると、分子中に極性基を有しないため減衰性能の温度依存性が小さいジエン系ゴムをベースポリマとして含む高減衰組成物からなる高減衰部材の、新製時の剛性が上昇したり、あるいは大変形が加えられたあとの弾性率が低下したりする原因は、無機充てん剤としてのシリカの配合割合、およびジエン系ゴムと硫黄系加硫剤との架橋反応によって生成するモノ〜ポリサルファイド結合中に占める、モノサルファイド結合の比率に原因がある。
【0014】
すなわち、ジエン系ゴム100質量部あたりのシリカの配合割合を100質量部以上とすると高減衰部材の減衰性能を向上できるものの、前記シリカの配合割合が170質量部を超える場合には、前記減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまって、前記のように高減衰部材の新製時の剛性が上昇したり、大変形後の応力保持性能が低下したりするといった問題を生じる。
【0015】
また、その構造上、動きの自由度の小さいモノサルファイド結合の比率が多い場合も同様の問題を生じる。モノサルファイド結合の比率には、加硫剤としての硫黄の配合割合、および加硫促進剤の種類と配合割合が大きく係わっている。
すなわち、ジエン系ゴム100質量部あたりの硫黄の配合割合が1質量部未満では加硫後の架橋密度が不十分で、大変形後の応力保持性能が大きく低下する。一方、3.5質量部以上では、架橋密度が高くなりすぎて、減衰性能が大幅に低下してしまう。
【0016】
モノサルファイド結合の比率を小さくするためには、加硫促進剤として、スルフェンアミド系加硫促進剤を選択して使用する必要がある。
ただしスルフェンアミド系加硫促進剤の配合割合が硫黄量に対して10質量%未満では、加硫後の架橋密度が不十分で、大変形後の応力保持性能が大きく低下する。一方、60質量%を超える場合には、モノサルファイド結合の比率が大きくなって、減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまう。
【0017】
これに対し、ベースポリマとしてジエン系ゴムを用いるとともに、当該ジエン系ゴムに、シリカ、硫黄、およびスルフェンアミド系加硫促進剤をそれぞれ前記範囲内の配合割合で配合すれば、減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材を形成することが可能となる。
【0018】
したがって本発明は、ジエン系ゴムに、
前記ジエン系ゴム100質量部あたり100質量部以上、170質量部以下のシリカ、
前記ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、3.5質量部未満の硫黄、および
前記硫黄量に対して10質量%以上、60質量%以下のスルフェンアミド系加硫促進剤
を配合したことを特徴とする高減衰組成物である。
【0019】
なお加硫促進剤としては、前記スルフェンアミド系加硫促進剤のみを単独で使用してもよいが、前記スルフェンアミド系加硫促進剤に、さらにチウラム系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤を併用してもよい。
ただしチウラム系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の配合割合は、硫黄量に対して60質量%以下である必要がある。配合割合が60質量%を超える場合には、モノサルファイド結合の比率が大きくなって、減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまう。
【0020】
本発明は、前記本発明の高減衰組成物を成形し、加硫してなることを特徴とする高減衰部材である。
本発明によれば、先に説明したように減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材が得られる。
【0021】
なお本発明の高減衰部材は、前記高減衰組成物を、140℃以上、160℃以下の加硫温度で、かつ同じ加硫温度で加硫試験して求められるT90以上、T100以下の加硫時間で加硫して形成するのが好ましい。
加硫温度が前記範囲未満では十分に架橋反応させることができないため、高減衰部材に変形を加えても十分に元に戻らなくなるおそれがある。すなわち、大変形後の応力保持性能が低下したりするおそれが生じる。
【0022】
また加硫温度が前記範囲を超える場合にはモノサルファイド結合の比率が大きくなって、減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまうおそれがある。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形が加えられたあとの弾性率の低下が小さい、つまり大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材と、かかる高減衰部材を形成しうる高減衰組成物とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する、前記高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
《高減衰組成物》
本発明の高減衰組成物は、ジエン系ゴムに、
前記ジエン系ゴム100質量部あたり100質量部以上、170質量部以下のシリカ、
前記ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、3.5質量部未満の硫黄、および
前記硫黄量に対して10質量%以上、60質量%以下のスルフェンアミド系加硫促進剤
を配合したことを特徴とするものである。
【0026】
〈ジエン系ゴム〉
ベースポリマとしては、前記のように分子中に極性基を有しないため減衰性能の温度依存性が小さいジエン系ゴムが用いられる。前記ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
〈シリカ〉
シリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。またシリカとしては、充填剤として機能して高減衰部材の減衰性能を向上する効果を向上することを考慮すると、BET比表面積が100m/g以上、特に200m/g以上であるものを用いるのが好ましく、400m/g以下、特に250m/g以下であるものを用いるのが好ましい。
【0028】
BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定した値でもって表すこととする。
前記シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)製のNipsil(登録商標)KQ、VN3、AQ、ER等の1種または2種以上が挙げられる。
【0029】
シリカの配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり100質量部以上、170質量部以下に限定される。
配合割合が100質量部未満では、シリカを配合することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られない。また170質量部を超える場合には、前記減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまって、前記のように高減衰部材の新製時の剛性が上昇したり、大変形後の応力保持性能が低下したりするといった問題を生じる。
【0030】
また170質量部を超える場合には、高減衰組成物の加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を、特に工場レベルで大量に生産するのが難しくなる場合もある。
なおシリカの配合割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも110質量部以上、特に120質量部以上であるのが好ましい。また大変形後の応力保持性能の低下をできるだけ小さくすることを考慮すると、前記範囲内でも150質量部以下、特に140質量部以下であるのが好ましい。
【0031】
前記配合割合は、1種類のシリカを単独で配合する場合は、当該1種類のシリカの、ジエン系ゴム100質量部に対する配合割合であり、2種類以上のシリカを併用する場合は、その合計の、ジエン系ゴム100質量部に対する配合割合である。
〈硫黄〉
硫黄としては、ジエン系ゴムの加硫剤として機能しうる種々の形態の硫黄がいずれも使用可能である。特にオイル処理粉末硫黄が、ジエン系ゴム等に対する分散性に優れるため好適に使用される。
【0032】
硫黄の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、3.5質量部未満に限定される。
配合割合が1質量部未満では、加硫後の架橋密度が不十分で、大変形後の応力保持性能が大きく低下する。一方、3.5質量部以上では、架橋密度が高くなりすぎて、減衰性能が大幅に低下してしまう。
【0033】
なお硫黄の配合割合は、大変形後の応力保持性能の低下をできるだけ小さくすることを考慮すると、前記範囲内でも1.2質量部以上、特に1.4質量部以上であるのが好ましい。また高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも3.4質量部以下、中でも3質量部以下、特に1.8質量部以下であるのが好ましい。
また硫黄として前記オイル処理粉末硫黄を使用する場合、前記配合割合は、前記オイル処理粉末硫黄中の有効成分である硫黄自体の配合割合である。
【0034】
〈スルフェンアミド系加硫促進剤〉
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えばN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)等の1種または2種以上が挙げられる。なおカッコ内はJIS K6220−2の略号を示す。特にN−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS、別名NS)が好ましい。
【0035】
スルフェンアミド系加硫促進剤の配合割合は、硫黄量に対して10質量%以上、60質量%以下に限定される。
配合割合が、硫黄量に対して10質量%未満では、加硫後の架橋密度が不十分で、大変形後の応力保持性能が大きく低下する。一方、60質量%を超える場合には、モノサルファイド結合の比率が大きくなって、減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまう。
【0036】
なおスルフェンアミド系加硫促進剤の配合割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも、硫黄量に対して50質量%以下であるのが好ましい。
前記配合割合は、1種類のスルフェンアミド系加硫促進剤を単独で配合する場合は、当該1種類のスルフェンアミド系加硫促進剤の、ジエン系ゴム100質量部に対する配合割合であり、2種類以上のスルフェンアミド系加硫促進剤を併用する場合は、その合計の、ジエン系ゴム100質量部に対する配合割合である。
【0037】
〈チウラム系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤〉
チウラム系加硫促進剤としては、例えばテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)等の1種または2種以上が挙げられる。なおカッコ内はJIS K6220−2の略号を示す。特にテトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD、別名TBT、TBT−N等)が好ましい。
【0038】
またチアゾール系加硫促進剤としては、例えば2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩(NaMBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(ZnMBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩(CMBT)、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の1種または2種以上が挙げられる。なおカッコ内はJIS K6220−2の略号を示す。特にジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS、別名DM、DM−P等)が好ましい。
【0039】
前記2種の加硫促進剤は配合しなくてもよく、配合割合の下限は硫黄量に対して0質量%である。また配合する場合は、その配合割合が、硫黄量に対して60質量%以下に限定される。
配合割合が、硫黄量に対して60質量%を超える場合には、モノサルファイド結合の比率が大きくなって、減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまう。
【0040】
なおチウラム系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤の配合割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも、硫黄量に対して50質量%以下、特に30質量%以下であるのが好ましい。
前記配合割合は、チウラム系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤のうちの1種類のみを単独で配合する場合は、当該1種類の加硫促進剤の、ジエン系ゴム100質量部に対する配合割合であり、2種類以上を併用する場合は、その合計の、ジエン系ゴム100質量部に対する配合割合である。
【0041】
なおチウラム系加硫促進剤および/またはチアゾール系加硫促進剤を配合する場合は、いずれか一方の加硫促進剤の1種のみを配合するのが、高減衰組成物の構成を簡略化する上で好ましい。
〈その他の成分〉
本発明の高減衰組成物には、さらに必要に応じて、シリカ以外の他の充てん剤、シラン化合物、軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤、加硫促進助剤等の各種添加剤を、適宜の割合で配合してもよい。
【0042】
(他の充てん剤)
シリカ以外の他の充てん剤としては、例えば炭酸カルシウム、カーボンブラック等の1種または2種以上が挙げられる。
このうち炭酸カルシウムとしては、その製造方法等によって分類される合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等のうち、充填剤として機能しうる粉末状の炭酸カルシウムがいずれも使用可能である。また炭酸カルシウムとしては、ジエン系ゴム等に対する親和性、分散性等を向上するために表面処理を施したものを用いてもよい。
【0043】
またカーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充填剤として機能しうる種々のカーボンブラックがいずれも使用可能である。
前記カーボンブラックとしては、例えばHAF、FEF、GPF等の1種または2種以上が挙げられる。
【0044】
シリカと併用する他の充填剤としては、前記のうちカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
(シラン化合物)
シラン化合物としては、式(a):
【0045】
【化1】

【0046】
〔式中、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つはアルコキシ基を示す。ただしR、R、R、およびRが同時にアルコキシ基であることはなく、他はアルキル基またはアリール基を示す。〕
で表され、シランカップリング剤やシリル化剤等の、シリカの分散剤として機能しうる種々のシラン化合物が挙げられる。
【0047】
特にヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のアルコキシシランが好ましい。
前記シラン化合物としては、例えば信越化学工業(株)製のKBE−103(フェニルトリエトキシシラン)等が挙げられる。
シラン化合物の配合割合は特に限定されないが、シリカ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、25質量部以下であるのが好ましい。
【0048】
(軟化剤)
軟化剤としては、例えばクマロンインデン樹脂、液状ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
このうちクマロンインデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
【0049】
前記クマロンインデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0050】
クマロンインデン樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
また液状ゴムとしては、室温(3〜35℃)で液状を呈する種々のゴムが挙げられる。前記液状ゴムとしては、例えば液状ポリイソプレンゴム、液状ニトリルゴム(液状NBR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0051】
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。前記液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−50等が挙げられる。
液状ポリイソプレンゴムの配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、80質量部以下であるのが好ましい。
(粘着性付与剤)
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂、ロジン誘導体等の1種または2種以上が挙げられる。
【0052】
このうち石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
前記石油樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
またロジン誘導体としては、例えばロジンと多価アルコール(グリセリン等)とのエステルやロジン変性マレイン酸樹脂等の、構成成分としてロジンを含む樹脂であって、粘着性付与剤として機能して高減衰部材の減衰性能を向上する効果を有する種々の誘導体が挙げられる。
【0053】
前記ロジン誘導体の軟化点は120℃以上であるのが好ましく、180℃以下、特に160℃以下であるのが好ましい。
軟化点が前記範囲未満では、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。一方、前記範囲を超える場合には加工性が低下して、高減衰組成物を調製するために各成分を混練したり、高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、あるいは任意の形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0054】
なお軟化点は、日本工業規格JIS K2207−1996「石油アスファルト」所載の軟化点試験方法(環球法)によって測定した値でもって表すこととする。
前記ロジン誘導体としては、例えば、いずれもハリマ化成(株)製の商品名ハリエスターシリーズのうちMSR−4(軟化点:127℃)、DS−130(軟化点:135℃)、AD−130(軟化点:135℃)、DS−816(軟化点:148℃)、DS−822(軟化点:172℃)、ハリマ化成(株)製の商品名ハリマックシリーズのうち145P(軟化点:138℃)、135GN(軟化点:139℃)、AS−5(軟化点:165℃)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0055】
ロジン誘導体の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、特に10質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
(老化防止剤)
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ビスフェノール系、ポリフェノール系、ヒドロキノン系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0056】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)MB〔2−メルカプトベンズイミダゾール〕等が挙げられる。またキノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン−アミン縮合物〕等が挙げられる。
両老化防止剤の配合割合は特に限定されないが、ベンズイミダゾール系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。またキノン系労防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0057】
(加硫促進助剤)
加硫促進助剤としては例えば亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。通常は両者を加硫促進助剤として併用するのが好ましい。
前記加硫促進助剤の配合割合は、高減衰部材の用途等によって異なる減衰性能やゴム硬さ等の特性に応じて適宜調整すればよい。
【0058】
本発明の高減衰組成物は、前記の各成分を、任意の混練機を用いて混練して調製される。
《高減衰部材》
本発明の高減衰部材は、前記本発明の高減衰組成物を所望の立体形状に成形加工するとともに加硫することで製造される。
【0059】
本発明によれば、先に説明したように減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材が得られる。
特に前記高減衰組成物を、140℃以上、160℃以下の加硫温度で、かつ同じ加硫温度で加硫試験して求められるT90以上、T100以下の加硫時間で加硫して高減衰部材を形成するのが好ましい。
【0060】
加硫温度が前記範囲未満では十分に架橋反応させることができないため、高減衰部材に変形を加えても十分に元に戻らなくなるおそれがある。すなわち減衰性能が低下したり、大変形後の応力保持性能が低下したりするおそれが生じる。
また加硫温度が前記範囲を超える場合にはモノサルファイド結合の比率が大きくなって、減衰性能、新製時の剛性、および大変形後の応力保持性能のバランスが崩れてしまうおそれがある。
【0061】
なお加硫時間T90、T100を、本発明では、日本工業規格JIS K6300−2:2001「未加硫ゴム−物理特性−第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に所載の振動式加硫試験機を用いた、140℃以上、160℃以下の範囲内の、実際の加硫時と同じ加硫温度での加硫試験によって求めた値でもって表すこととする。
本発明の高減衰部材としては、例えばビル等の建築物の基礎に組み込まれる免震用ダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用ダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0062】
本発明の高減衰部材は、前記のように減衰性能の温度依存性が低く、かつ高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れている。
特に制震用ダンパは、振動の減衰性能に優れるため1つの建築物中に組み込む数量を減らすことができるとともに、温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも設置することができる。また、地震により大変形が加えられた跡の弾性率の低下が小さいため、所期の性能を確保するための、製品としての設計を簡略化できる上、その出荷前に変形の履歴を加える作業をすることなしに、地震に即応して、当該地震のエネルギーが建築物に伝わるのを確実に防止することもできる。
【実施例】
【0063】
〈実施例1〉
ジエン系ゴムとしての天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕100質量部に、
* シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipsil(ニップシール)KQ〕100質量部、
* 5%オイル処理粉末硫黄〔鶴見化学工業(株)製〕1.58質量部(有効成分としての硫黄量:1.5質量部)、
* スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS〕0.60質量部、および
* チウラム系加硫促進剤〔テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N〕0.30質量部
と、下記表1に示す各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。なおスルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合は硫黄量の40.0質量%、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合は硫黄量の20.0質量%であった。
【0064】
【表1】

【0065】
表1中の各成分は下記のとおり。
シラン化合物:フェニルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製のKBE−103
液状ポリイソプレンゴム:軟化剤、(株)クラレ製のLIR50
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラック(登録商標)G
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のエスクロン(登録商標)G-90
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
ロジン誘導体:ロジン変性マレイン酸樹脂、軟化点139℃、ハリマ化成(株)製のハリマック135GN
表1中の質量部は、天然ゴム100質量部あたりの質量部である。
【0066】
〈実施例2〜4、比較例1、2〉
天然ゴム100質量部あたりのシリカの配合割合を80質量部(比較例1)、135質量部(実施例2)、150質量部(実施例3)、170質量部(実施例4)、180質量部(比較例2)としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。いずれの実施例、比較例もスルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合は硫黄量の40.0質量%、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合は硫黄量の20.0質量%であった。
【0067】
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
前記各実施例、比較例、従来例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら加硫温度:150℃、加硫時間:T95の条件で円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに、前記円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0068】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0069】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0070】
測定は、温度20℃の環境下、前記操作を3サイクル実施して3回目の値を求める。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lの傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(1):
【0071】
【数1】

【0072】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線L1と、グラフの横軸と、直線L1とヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線L2とで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(2):
【0073】
【数2】

【0074】
により等価減衰定数Heqを求めた。等価減衰定数Heqが大きいほど、試験体3は減衰性能に優れていると判定できる。
そこで比較例1における等価減衰定数Heqを100としたときの、各実施例、比較例の等価減衰定数Heqの相対値を求め、前記相対値が105以上のものを良好、105未満のものを不良と評価した。
【0075】
(初期剛性の評価)
前記変位試験を行なった際の、新製時、すなわち1回目の変位時の最大荷重Nと、3回目の変位時の最大荷重Nとから、式(3):
【0076】
【数3】

【0077】
により初期剛性比を求めた。初期剛性比が小さいほど、試験体3は新製時の剛性が低いと判定できる。
そこで、比較例2における初期剛性比を100としたときの、各実施例、比較例の初期剛性比の相対値を求めて、前記相対値が98以下のものを良好、98を超えるものを不良と評価した。
【0078】
(大変形後の弾性率測定)
最大変位量を、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの300%となるように設定したこと以外は前記と同様にして前記円板1を1回大変形させたのち、前記と同様にして、ずれ量が100%のときの等価せん断弾性率Geq′(N/mm)を求めた。
【0079】
そして前記等価せん断弾性率Geq′(N/mm)と、先に求めた等価せん断弾性率Geq(N/mm)とから、式(4):
【0080】
【数4】

【0081】
により、大変形後の弾性率の保持率(%)を求めた。保持率が大きいほど、試験体3は大変形が加えられたあとの弾性率の低下が小さく、応力保持性能に優れていると判定できる。
そこで、比較例2における保持率を100としたときの、各実施例、比較例の保持率の相対値を求め、前記相対値が102以上のものを良好、102未満のものを不良と評価した。
【0082】
以上の結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表1の実施例1〜4、比較例1、2の結果より、シリカの配合割合は、高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材を得るためには、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり100質量部以上、170質量部以下である必要があることが判った。
【0085】
また実施例1〜4の結果より、前記シリカの配合割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも110質量部以上、特に120質量部以上であるのが好ましいこと、大変形後の応力保持性能の低下をできるだけ小さくすることを考慮すると、前記範囲内でも150質量部以下、特に140質量部以下であるのが好ましいことが判った。
【0086】
〈比較例3〉
天然ゴム100質量部あたりの5%オイル処理粉末硫黄の配合割合を0.84質量部(有効成分としての硫黄量:0.8質量部)、スルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合を0.35質量部、対硫黄量に換算して43.8質量%、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合を0.18質量部、対硫黄量に換算して22.5質量%としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0087】
〈実施例5〉
天然ゴム100質量部あたりの5%オイル処理粉末硫黄の配合割合を1.05質量部(有効成分としての硫黄量:1.0質量部)、スルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合を0.44質量部、対硫黄量に換算して44.0質量%、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合を0.22質量部、対硫黄量に換算して22.0質量%としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0088】
〈実施例6〉
天然ゴム100質量部あたりの5%オイル処理粉末硫黄の配合割合を3.15質量部(有効成分としての硫黄量:3.0質量部)、スルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合を1.33質量部、対硫黄量に換算して44.3質量%、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合を0.66質量部、対硫黄量に換算して22.0質量%としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0089】
〈比較例4〉
天然ゴム100質量部あたりの5%オイル処理粉末硫黄の配合割合を3.68質量部(有効成分としての硫黄量:3.5質量部)、スルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合を1.55質量部、対硫黄量に換算して44.3質量%、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合を0.77質量部、対硫黄量に換算して22.0質量%としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0090】
前記各実施例、比較例で調製した高減衰組成物について、前記減衰特性試験を実施して、その特性を評価した。結果を、実施例2の結果と併せて表3に示す。なお表中、特性欄の数値は、先に説明したように等価減衰定数Heqについては比較例1、初期剛性比、および弾性率の保持率については比較例2を100としたときの相対値である。
【0091】
【表3】

【0092】
表の実施例2、5、6、比較例3、4の結果より、硫黄の配合割合は、高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材を得るためには、ジエン系ゴムとしての天然ゴム100質量部あたり1質量部以上、3.5質量部未満である必要があることが判った。
【0093】
また実施例2、5、6の結果より、前記硫黄の配合割合は、大変形後の応力保持性能の低下をできるだけ小さくすることを考慮すると、前記範囲内でも1.2質量部以上、特に1.4質量部以上であるのが好ましいこと、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも3質量部以下、特に1.8質量部以下であるのが好ましいことが判った。
【0094】
〈実施例7、8、比較例5、6〉
天然ゴム100質量部あたりのスルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合を0.08質量部(比較例5、対硫黄量換算:5.3質量%)、0.15質量部(実施例7、対硫黄量換算:10.0質量%)、0.90質量部(実施例8、対硫黄量換算:60.0質量%)、1.05質量部(比較例6、対硫黄量換算:70.0質量%)としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0095】
前記各実施例、比較例で調製した高減衰組成物について、前記減衰特性試験を実施して、その特性を評価した。結果を、実施例2の結果と併せて表4に示す。なお表中、特性欄の数値は、先に説明したように等価減衰定数Heqについては比較例1、初期剛性比、および弾性率の保持率については比較例2を100としたときの相対値である。
【0096】
【表4】

【0097】
表の実施例2、7、8、比較例5、6の結果より、スルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合は、高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材を得るためには、硫黄量に対して10質量%以上、60質量%以下である必要があることが判った。
【0098】
また実施例2、7、8の結果より、前記スルフェンアミド系加硫促進剤(NS)の配合割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも、硫黄量に対して50質量%以下であるのが好ましいことが判った。
〈実施例9、10、比較例7〉
天然ゴム100質量部あたりのチウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合を0質量部(実施例9、対硫黄量換算:0質量%)、0.90質量部(実施例10、対硫黄量換算:60.0質量%)、1.05質量部(比較例7、対硫黄量換算:70.0質量%)としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0099】
〈実施例11〉
チウラム系加硫促進剤(TBT−N)に代えて、チアゾール系加硫促進剤〔ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業(株)のノクセラーDM〕を使用し、その天然ゴム100質量部あたりの配合割合を0.30質量部(対硫黄量換算:20.0質量%)としたこと以外は実施例2と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0100】
前記各実施例、比較例で調製した高減衰組成物について、前記減衰特性試験を実施して、その特性を評価した。結果を、実施例2の結果と併せて表5に示す。なお表中、特性欄の数値は、いずれも先に説明したように従来例1を100としたときの相対値である。
【0101】
【表5】

【0102】
表の実施例2、9、10、比較例7の結果より、チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合は、高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材を得るためには、硫黄量に対して60質量%以下である必要があること、前記チウラム系加硫促進剤(TBT−N)は配合しなくてもよいことが判った。
【0103】
また実施例2、9、10の結果より、前記チウラム系加硫促進剤(TBT−N)の配合割合は、高減衰部材の減衰性能をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも、硫黄量に対して50質量%以下、特に30質量%以下であるのが好ましいことが判った。
さらに実施例2、11の結果より、前記チウラム系加硫促進剤(TBT−N)に代えて、同量のチアゾール系加硫促進剤(DM)を配合しても同様の効果が得られることが判った。
【0104】
〈実施例12、13〉
円板1を形成する高減衰組成物の加硫条件を、加硫温度:140℃、加硫時間:T95(実施例12)、加硫温度:160℃、加硫時間:T95(実施例13)としたこと以外は実施例2と同様にして試験体3を作製し、減衰特性試験を実施して、その特性を評価した。結果を、実施例2の結果と併せて表6に示す。なお表中、特性欄の数値は、先に説明したように等価減衰定数Heqについては比較例1、初期剛性比、および弾性率の保持率については比較例2を100としたときの相対値である。
【0105】
【表6】

【0106】
表6の実施例2、12、13の結果より、高減衰組成物の加硫時間は、高い減衰性能を有する上、新製時の剛性が低いため出荷前に変形の履歴を加える作業をする必要がなく、しかも大変形後の応力保持性能に優れた高減衰部材を得るために140℃以上、160℃以下であるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0107】
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
直線
Keq 傾き
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムに、
前記ジエン系ゴム100質量部あたり100質量部以上、170質量部以下のシリカ、
前記ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、3.5質量部未満の硫黄、および
前記硫黄量に対して10質量%以上、60質量%以下のスルフェンアミド系加硫促進剤
を配合したことを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
さらに、チウラム系加硫促進剤、およびチアゾール系加硫促進剤のうちの少なくとも一方を、前記硫黄量に対して60質量%以下の割合で配合した請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載の高減衰組成物を成形し、加硫してなることを特徴とする高減衰部材。
【請求項4】
前記高減衰組成物を、140℃以上、160℃以下の加硫温度で、かつ同じ加硫温度で加硫試験して求められるT90以上、T100以下の加硫時間で加硫してなる請求項3に記載の高減衰部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−40282(P2013−40282A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178235(P2011−178235)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】