説明

高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器

【課題】回転部分に冷却した超電導体を配置し、回転損失に対する冷却能力を向上させた信頼性の高い高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器を提供する。
【解決手段】高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、寒剤を蓄積する真空断熱容器Aを備え、回転軸の一部として前記真空断熱容器Aそのものが回転する軸を構成する構造部材とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導磁石の強磁界を利用した磁気軸受などに用いる高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から超電導磁石の強磁界を利用した磁気軸受が開発されている。一例として、下記非特許文献1に開示されているような液体窒素で冷却した超電導バルク体と永久磁石を組み合わせたものがある。これは電力貯蔵用フライホイール用の磁気軸受の一部に超電導バルク体と永久磁石で構成された磁気軸受を用いたもので、回転体の冷却が困難なことから回転体側には永久磁石を、固定側には液体窒素で冷却した超電導バルク体を配置している。
【0003】
一方、下記非特許文献2に開示されているような液体ヘリウムで冷却した超電導コイルと鉄の吸引力でフライホイールのスラスト荷重を支持する磁気軸受もあるが、これも冷却部分は固定側になっている。
【0004】
このような従来技術の中で、下記特許文献1のような超電導バルク体と超電導コイルの組み合わせで強力な浮上力を得る方法も開示されている。この方法では伝導により回転体である超電導バルク体を冷却している。
【特許文献1】特開2003−219581号公報
【非特許文献1】腰塚直己 「高温超電導軸受を用いたフライホイール」,電気評論, 2006.12,pp.32〜35
【非特許文献2】内山順仁 「超電導フライホイールシステムの開発」,電気評論, 2006.12,pp.36〜39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている伝導による冷却の場合、回転軸が偏心したときにバルク体で発生するジュール熱による回転損失に冷却が追いつかない恐れがあり、更なる改善が必要である。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、回転部分に冷却した超電導体を配置し、回転損失に対する冷却能力を向上させた信頼性の高い高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、寒剤を蓄積する真空断熱容器を備え、回転軸の一部として前記真空断熱容器そのものが回転する軸を構成する構造部材としたことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記回転軸に相当する強度を有する軸の内部を中グリし、真空断熱容器外槽および回転軸の強度部材とし、前記真空断熱容器外槽の中に前記寒剤の入る真空断熱容器内槽を入れ、前記真空断熱容器外槽と前記真空断熱容器内槽の間の空隙を真空にして、断熱材を配置することにより真空断熱槽を構成することを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔2〕記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、蓋部によって前記寒剤を入れる真空断熱容器内槽が密閉され、前記蓋部に付いている寒剤供給・回収ポートから前記寒剤を供給した後に前記寒剤供給・回収ポートにつなげた真空排気装置から前記真空断熱容器内槽の内部を減圧することにより、前記寒剤の温度を下げて使用することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔2〕記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記回転軸の強度は軸に相当する前記真空断熱容器外槽が担い、前記真空断熱容器外槽底面から第3の荷重支持材、前記真空断熱容器内槽底蓋部、第2の荷重支持材、高温超電導バルク体、第1の荷重支持材、蓋部と連続に配置することで前記高温超電導バルク体が発生する軸方向荷重を前記君空断熱容器外槽に伝達し、この荷重伝達経路に前記真空断熱容器内槽壁面を入れないことを特徴とする。
【0011】
〔5〕上記〔2〕記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記回転軸の強度は軸に相当する前記真空断熱容器外槽が担い、高温超電導バルク体、荷重支持材、蓋部と連続に配置することで前記高温超電導バルク体が発生する軸方向荷重を前記君空断熱容器外槽に伝達し、この荷重伝達経路に前記真空断熱容器内槽壁面を入れないことを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔4〕又は〔5〕記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記高温超電導バルク体をリング状にして、このリング状の高温超電導バルク体の中央部を寒剤流路とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転部分に冷却した超電導体を配置し、回転損失に対する冷却能力を向上させた信頼性の高い高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器は、寒剤を蓄積する真空断熱容器を備え、回転軸の一部として前記真空断熱容器そのものが回転する軸を構成する構造部材とした。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器を用いた電力貯蔵用フライホイール蓄電装置の模式図、図2は本発明の第1実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器の断面図、図3はその回転体用真空断熱容器の寒剤供給側の側面図である。
【0017】
図1において、1は電動・発電機(M/G)、2はカップリング、3は第1の回転軸、4は第1のラジアルころがり軸受ユニット、5はフライホイール、6は真空断熱容器、6Aはその真空断熱容器6内に設けられるリング状の高温超電導バルク体、6Bは真空断熱容器6の蓋部、7は異極励磁した一対の超電導コイル7Aと7Bを有する超電導コイル、8は第2の回転軸、9は第2のラジアルころがり軸受ユニット、10はバックアップスラスト軸受ユニット、11は門型架台、12は地面である。
【0018】
第1の回転軸3と第2の回転軸8からなる回転軸を地面12に対して垂直に配置し、超電導バルク体6Aと異極励磁した一対の超電導コイル7Aと7Bを有する超電導コイル7とを組み合わせた磁気軸受を回転軸の中央に配置して、その超電導コイル7の両端にラジアル方向荷重を支持する第1のラジアルころがり軸受ユニット4と第2のラジアルころがり軸受ユニット9とを配置する。
【0019】
超電導コイル7は、異極励磁した一対の超電導コイル7Aと7Bを上下方向に直列配置する。これにより、異極励磁した1対の超電導コイル7Aと7Bの中央部分の磁場勾配が大きくなる。
【0020】
本発明の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器は、上記した真空断熱容器6及びその真空断熱容器6内に設けられるリング状の高温超電導バルク体6Aの構造を特徴とするものである。
【0021】
本発明の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器について、図2及び図3を参照しながら、説明する。
【0022】
これらの図において、Aは真空断熱容器、Bはその真空断熱容器の上部に配置される蓋部である。この真空断熱容器Aは、真空断熱容器外槽21、その真空断熱容器外槽21の下部のスプライン加工部22、真空断熱容器内槽23を備えており、その内部に配置される荷重支持材は、上部から第1の荷重支持材24、第2の荷重支持材25、第3の荷重支持材26であり、さらに第2の荷重支持材25に固定される高温超電導バルク体ホルダ27、その高温超電導バルク体ホルダ27内に配置されるリング状の高温超電導バルク体28、真空断熱容器内槽23と荷重支持材24,25,26との間及び荷重支持材に開けられた穴とリング状の高温超電導バルク体28の中央部に形成される寒剤流路29、真空断熱容器外槽21と真空断熱容器内槽23との間に形成される真空断熱槽30、真空断熱容器外槽21に形成される真空排気ポート31、寒剤供給・回収ポート32、真空断熱容器Aのデュワーフランジ33とを備えている。
【0023】
また、上部に配置される蓋部Bは、軸フランジ34を有しており、この軸フランジ34は、第1の荷重支持材24と接続されている。
【0024】
更に、真空断熱容器Aのデュワーフランジ33の端面と軸フランジ34の端面との間にはOリング35が配置され、真空断熱容器Aのデュワーフランジ33と軸フランジ34の端面は締結装置(ボルトとナット)36により締結されて、真空断熱容器Aに蓋部Bが固定されるように構成されている。
【0025】
本発明では、例えば、図1に示すように、この回転体用真空断熱容器を、回転体の回転軸に組み込むことができる。
【0026】
図2及び図3に示すように、回転軸に相当する強度を有する軸の内部を中グリし、真空遮断容器Aの外壁および回転軸の強度部材として機能する真空断熱容器外槽21を設ける。その真空断熱容器外槽21の中に寒剤の入る容器である真空断熱容器内槽23を設ける。この真空断熱容器内槽23にはリング状の高温超電導バルク体28を入れる。この真空断熱容器内槽23は磁界中で回転させることを考慮して高抵抗の非金属材料とする。真空断熱容器外槽21と真空断熱容器内槽23の間には空隙を有しており、ここを真空空間にして、断熱材を配置することにより真空断熱槽30を構成する。上部には真空断熱容器Aの蓋部Bを取り付ける。真空断熱容器内槽23を蓋部Bによって密閉することで液化ガスなどの寒剤を封入後に減圧して、さらに冷却温度を下げることができる。なお、温度の保持は真空断熱容器A内の荷重支持材および寒剤の熱容量によって行われる。上部の蓋部Bには回転軸に取り付けるための軸フランジ34を、真空断熱容器外槽21の下部には回転軸に取り付けるためのスプライン加工部22などの動力伝達機構を取り付ける。
【0027】
回転軸の強度は軸に相当する真空断熱容器外槽21が担い、真空断熱容器外槽21底面から第1の荷重支持材24,第2の荷重支持材25,第3の荷重支持材26と連続して配置して、高温超電導バルク体28が発生する軸方向荷重を真空断熱容器外槽21に伝達する。
【0028】
また、回転体用真空断熱容器において、蓋部Bによって寒剤を入れる真空断熱容器内槽23が密閉され、蓋部Bに付いている寒剤供給・回収ポート32から寒剤を供給した後にその寒剤供給・回収ポート32につなげた真空排気装置から真空断熱容器内槽23の内部を減圧することにより、寒剤の沸点を下げて、大気圧における寒剤の気化温度より低い温度で使用することができる。
【0029】
なお、この荷重伝達経路には真空断熱容器内槽23の壁面が入らないように構成したので、真空断熱容器内槽23を軽量化することができ、真空断熱容器内槽23は寒剤の容器としての機能のみを持たせればよい。
【0030】
また、高温超電導バルク体はリング状にして、このリング状の高温超電導バルク体28の中央部を寒剤流路とする。
【0031】
図4は本発明の第2実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器の断面図である。
【0032】
この第2実施例は、上記した第1実施例における荷重支持材を簡素化した構造としたものである。つまり、第1実施例における第1〜第3の荷重支持材24,25,26に代えて、荷重支持材41のみで荷重伝達経路を構成するようにしている。
【0033】
すなわち、この実施例では、回転軸の強度は軸に相当する真空断熱容器外槽21が担い、高温超電導バルク体28、荷重支持材41、蓋部Bと連続して配置し、軸方向の荷重伝達経路を構成し、この荷重伝達経路には真空断熱容器内槽23の壁面を入れないようにしている。
【0034】
これにより、高温超電導バルク体28が発生する浮上力を、荷重支持材41から蓋部B、蓋部Bのデュワーフランジ33から真空断熱容器外槽21へ伝える。
【0035】
上記したように、磁気軸受において高温超電導バルク体が浮上力のみを発揮する場合は、第3の荷重支持材、第2の荷重支持材を取り外すことができる。この場合は荷重伝達経路がより明確になり、内槽壁面には上下方向荷重が全く付与されない。
【0036】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器は、回転部分に冷却した超電導体を配置し、回転損失に対する冷却能力を向上させた信頼性の高い回転体用真空断熱容器として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器を用いた電力貯蔵用フライホイール蓄電装置の模式図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器の断面図である。
【図3】本発明の実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器の寒剤供給側の側面図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電動・発電機(M/G)
2 カップリング
3 第1の回転軸
4 第1のラジアルころがり軸受ユニット
5 フライホイール
6,A 真空断熱容器
6A,28 リング状の高温超電導バルク体
6B,B 蓋部
7 超電導コイル
7A,7B 異極励磁した一対の超電導コイル
8 第2の回転軸
9 第2のラジアルころがり軸受ユニット
10 バックアップスラスト軸受ユニット
11 門型架台
12 地面
21 真空断熱容器外槽
22 スプライン加工部
23 真空断熱容器内槽
24 第1の荷重支持材
25 第2の荷重支持材
26 第3の荷重支持材
27 高温超電導バルク体ホルダ
29 寒剤流路
30 真空断熱槽
31 真空排気ポート
32 寒剤供給・回収ポート
33 デュワーフランジ
34 軸フランジ
35 Oリング
36 締結装置(ボルトとナット)
41 荷重支持材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒剤を蓄積する真空断熱容器を備え、回転軸の一部として前記真空断熱容器そのものが回転する軸を構成する構造部材としたことを特徴とする高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器。
【請求項2】
請求項1記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記回転軸に相当する強度を有する軸の内部を中グリし、真空断熱容器外槽および回転軸の強度部材とし、前記真空断熱容器外槽の中に前記寒剤の入る真空断熱容器内槽を入れ、前記真空断熱容器外槽と前記真空断熱容器内槽の間の空隙を真空にして、断熱材を配置することにより真空断熱槽を構成することを特徴とする高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器。
【請求項3】
請求項2記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、蓋部によって前記寒剤を入れる真空断熱容器内槽が密閉され、前記蓋部に付いている寒剤供給・回収ポートから前記寒剤を供給した後に前記寒剤供給・回収ポートにつなげた真空排気装置から前記真空断熱容器内槽の内部を減圧することにより、前記寒剤の温度を下げて使用することを特徴とする高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器。
【請求項4】
請求項2記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記回転軸の強度は軸に相当する前記真空断熱容器外槽が担い、前記真空断熱容器外槽底面から第3の荷重支持材、前記真空断熱容器内槽底蓋部、第2の荷重支持材、高温超電導バルク体、第1の荷重支持材、蓋部と連続に配置することで、前記高温超電導バルク体が発生する軸方向荷重を前記真空断熱容器外槽に伝達し、この荷重伝達経路に前記真空断熱容器内槽壁面を入れないことを特徴とする高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器。
【請求項5】
請求項2記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記回転軸の強度は軸に相当する前記真空断熱容器外槽が担い、高温超電導バルク体、荷重支持材、蓋部と連続に配置することで、前記高温超電導バルク体が発生する軸方向荷重を前記真空断熱容器外槽に伝達し、この荷重伝達経路に前記真空断熱容器内槽壁面を入れないことを特徴とする高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器。
【請求項6】
請求項4又は5記載の高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器において、前記高温超電導バルク体をリング状にして、該リング状の高温超電導バルク体の中央部を寒剤流路とすることを特徴とする高温超電導バルク体を利用した磁気浮上用途の回転体用真空断熱容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−235355(P2008−235355A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69148(P2007−69148)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】